【信焉】信仰の躯

崎田航輝

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シナリオID:3062

オープニング

「神徒エルトルの身柄はこちらに留めてあるよ」
 ソーレアル信仰区。
 蒼鷲神殿を望む宿舎にて、神徒ファビアンは冒険者達へ報告をしていた。
 前回、冒険者達がナダキアへ潜入し、エルトルを捕縛してから後――近隣の信仰区の協力も得て、ファビアン達はエルトルを拘束しているという。
「エルトルは現状、大人しくしている」
 少なくとも、もう神官グレオサを拠り所には出来ないと判ったからか……尋問にも従順に答えていると言った。
「ナダキアは、区としては大きな動きはない」
 けれど、とファビアンは続ける。
「グレオサが動こうとしている」
 彼をこれ以上自由にさせてはならない、と。
 ファビアンは告げる。
「今回で決着をつけたい。グレオサを、打倒しに向かってほしいんだ」

●正義
「前回までにこちらが予想していた通り……グレオサはエルトルを失って混乱したらしい」
 ファビアンはそう言って現状の説明を続ける。
「エルトルが居なければ、聖白神座会を思い通りに動かす事も出来ないんだろう。今の段階で既に、僕らでも動向を探れる状態にはなっているよ」
 神徒を使えなければ、新たな“反信仰者”も増やせない。
 グレオサはエルトルを失う事で……排他姿勢の維持も、それ以外の凶行も出来なくなったろう。
「今はまだ、グレオサの支配が及んでいるが……長くは続かないはずだ」
 向こうの神徒達も、そのうち異変には気づくだろうし――そうなればグレオサが疑われるのも時間の問題だ。
 少なくともグレオサはもう、区を巻き込むレベルの大きな動きは取れないだろう。
「だが……グレオサ自身は諦めるつもりはないらしい」
 それが先に言った不審な動きだという。

「グレオサは大勢の集団を連れて、山岳に出入りしているみたいなんだ」
 集団とは、神殿の神官や神徒ではない。
「ナダキアの人間ですらない……賊のような者達だよ」
 向こうも警戒をしていて、探り切れてはいないが……グレオサは山岳の北部に別の拠点を構え、守りを固めるつもりらしい。
「ナダキアを、捨てるつもりかも知れない」
 グレオサとて、理由もなくエルトルがいなくなったとは考えまい。
 自分が追い詰められていると気づいて――捕まる前に安全な環境に籠もる目論見だろう。
「或いは、どこか他所へ行く準備なのかも知れない。賊の集団も、集める算段を前もって整えていたとも考えられる」
 グレオサは信仰に根ざした共同体の中で、法に則って凶行をしていた。
 ここではない場所でまた“やり直せる”……そんな思考を持っているのかも知れない。
「そう考えられる根拠もある」
 それはエルトルへの尋問で明らかになった、グレオサの動機についての話だ。
「グレオサは――自身の行いを信仰のための正義だと思っているらしい」

 エルトルはグレオサについて、「彼の過去について聞いた事がある」と話したという。
「曰く、グレオサは過去、賊に襲われた事があるらしい」
 ナダキアで起きた事件よりも、昔の事だ。
「他所の地での、小さな規模の出来事だったようだ。だがそこで、グレオサは自身の師とも言える人間を失った」
 師がグレオサを守っての事だったという。
 その後グレオサは、長く放浪したが――
「ある時、野盗から数人の家族を守った。野盗は信仰者を食い物にする連中だったらしい。グレオサはその野盗を、皆殺しにした」
 その事で、グレオサは家族やその地の神徒、神官から大いに感謝をされたようだ。
「……『それが目覚めだった、と言われた』と、エルトルは言っていた。エルトルは、グレオサが何を考えているのか理解は出来なかったようだが――」
 情報を繋ぎ合わせれば想像は出来る、とファビアンは言う。
「グレオサは復讐をしているんだと思う。特定の誰かじゃなく……信仰に仇なす存在全てに。だから人を“敬虔な者”と“それ以外”に分けているんだ」
 生きとし生けるものの信仰心を試し。
 そこから零れた人間を、根絶する為に。
「グレオサはしきりに『信仰のもとの正義』を語っていたという。自身の行いを、役目だと信じ込んでいるんだろう」
 ファビアンは声音に力を込める。
「そんなものが、本当の正義であるはずがない」
 だからファビアンは冒険者達に眼差しを送る。
「グレオサを打倒する」
 人が自由な心の有り様でいられる世であるように、と。
「これで終わりにしよう。最後に……力を貸してくれないか」

●信仰者
 グレオサは悪夢を見て目を覚ました。
 いつも見ているものと、同じ夢だ。
 いや、これは夢ではなく現実にあった事。師が血に塗れて死にゆく、その景色だ。
「……愚かな」
 グレオサは声に憎しみを込める。

 グレオサは親のない孤児だった。
 師はそんな自分を拾い、信仰というものを教えてくれた恩人だった。
 目標であり、親であり、兄弟であり、親友。自分という存在を作ってくれた無二の存在だ。
 だが師は殺されてしまった。
 そうなった理由が判らなくて、あの頃のグレオサは絶望の中で長く彷徨ったものだった。
『君の信仰を、守ってくれ』
 死に際に言った師の言葉の意味を、ただ自問しながら。

 けれどその答えは、あっけなく訪れた。
 野盗に襲われていた家族を助けた事。
 それ自体は、半ば無意識だった。賊という仇敵を、ただ殺したいという思いもあったろう。
 だがその結果は――人々からの厚い感謝だった。
 家族は信仰者で、野盗は力ない信仰者を食い物にする連中だった。信仰を守った人間として、グレオサは崇められたのだ。
 ――これが信仰を守るという事か。
 グレオサはその時、自身の役目を理解した。
 信仰に仇なす存在を、徹底的に排除し始めたのはそれからだ。
 役目に終わりは来ない。
 本当に敬虔な人間ならば、どれだけ唆されようとも罪に走る事は無い。だが現実には、軽い罪程度にならば手を伸ばす人間は後を絶たなかった。
 誘惑されれば教義を裏切る。
 信仰に不要な疑念を持つ。
 そんな人間はもう信仰者ではなく――あの賊の卵だ。
 故に断罪を続けねばならない。微かにでも反信仰者になる萌芽が見えたなら、それが形を取る前に。
「……今のナダキアでは、動くには不都合だな。邪魔者の正体も判らない」
 だが、別の信仰区にたどり着けばまたやり直せるだろう。
 だからグレオサは悪夢を払うように、首を振った。

解説

■目的  グレオサを打倒、捕縛する。 ■現場  ナダキア及び、北の山。  戦場となる候補は「ナダキア区内」「北側の山中」「山中及び神殿」の三つ。  グレオサはナダキアと山の神殿を行き来しているようであり、どこかのタイミングで奇襲をかける作戦となる。  奇襲のタイミングは任意。 ■各戦場について 1.ナダキア区内  グレオサが区内にいる時に奇襲を仕掛ける場合。  時刻は日中。  グレオサは既に区内でも自由な行動が取りにくくなっている為、隙を突ける可能性が高い。  ただ、区内にもグレオサの有する賊が潜んでおり、山からも敵の増援が来ると思われる。  また、戦闘によって区や市民に被害が出る場合がある。 2.北側の山中  グレオサがナダキアから出た直後に奇襲をかける場合。  時刻は夕刻。  山から見下ろす形で、グレオサに戦闘をしかける。  地理的に有利となるが、グレオサと同行する賊とは別に、神殿側で待機している賊もやってきて挟撃を受ける可能性が高い。 3.山中及び神殿  グレオサが神殿へと移動を終えてから戦いを挑む場合。  時刻は夜半。  神殿は山を北へ登った先にある小さな祠。こちらは南側からそこを目指す形。  多くの賊が山中、及び神殿周囲を警戒している状態となる。こちらは山の下側から攻める事になる為、地理的に不利となる。 ■敵 ・『賊』×60  グレオサに雇われた、または脅されて戦力になった賊。  弓や剣など、強力な武器をバランスよく持つ。  ナダキア内で戦う場合(日中)、3分の1が区内に潜む。  残る人数も北側からやってくるが、タイムラグがある。  北側の山中で戦う場合(夕刻)、3分の1が南側でグレオサと同行する。  残る人数は北からなだれ込むように攻めてくる。  神殿を目指す場合(夜半)、10人ほどが神殿の傍に、残る人数が山で巡回体制をとる。 ・『グレオサ』×1  高レベルのキャスター。  メテオライトや魔弾に準じた能力を中心に、魔法を行使する。

マスターより

連作の第四話になります。 黒幕であるグレオサの打倒を目指します。 今回は戦場や奇襲タイミングを選ぶ事が出来ます。 選択肢にある以外にも、良い策があれば実行してみても構いません。 ただ、グレオサは異常を察知したら一人でも逃げる場合があります。予想外の事が起きる可能性も加味して考えると良いでしょう。 また、敵の多くは普通の賊ですが、強力な武器を持っているので攻撃力は侮れません。 地理や数の面で不利になる場合もあるので、消耗に気をつけて戦うと良さそうです。 今回はファビアン達も同行しますが、シナリオ内の戦闘には参加しない形となります。 解説に記載した以外にも敵の賊は居て、そちらの相手をしてくれるという状況です(判定などに影響はありません)。 今回の成功をもって【信焉】は完結となります。 皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。

リプレイ

●闇へ
 夜半の山岳。
 その急峻な傾斜を、冒険者達は上り始めていた。
「やっと元凶を倒すところまで来たわね」
 シンディー・ホシカは仰ぎながら、声に思いを込める。
 ナダキア北部。打倒するべき相手は、この先にいる。
「神官グレオサ――」
 ロゼットはその名を呟いた。
(他人事じゃないのよね)
 信仰のもとの正義。
 その言葉に、省みる。自身もまた、敵を倒す事で正義の味方になった気でいはしないかと。
 今一度、携えた盾の内面を見つめた。
「私たち信仰に生きる者の役割は、別のことだと思うわ」
「罪なき人々を傷付けているのであれば、止めないと――ですよね」
 ゲルダ・クラインが言えば、シンディーも「ええ」と応えて。
「理不尽なやり方で犯罪者として拘束されている人達が、今も居る。彼らを解き放つためにも……ここで決着をつけましょう!」

 夜の山は道筋も無い。
 ただ、そこに無数の気配がある事は早々に感じられた。
「賊か」
 ハヤト=ガラン=ヴォルファングが呟くと、カイン・ステラも頷く。
「相手にとってのホームだ。数でも先方有利だろうな」
「多勢相手の拠点攻略ってわけだ。傭兵らしい仕事が回って来たもんだぜ」
 そう言うハヤトにとっては、慣れた事。
 相手に利があるから、突き崩せない訳ではないのだから。
「行くぜ」
 視覚を活かして斥候に出ると――カインもまた大鼬のファを走らせる。ハヤトとは別方向に進行させ、補間し合うように暗がりを窺った。
 すると判るのは、賊が間隔をおいて巡回をしている事だ
 その間隔は狭いが……足場の悪い場所では、比較的人数も少ない。
 見張りの交代時に、更に人数が減ると――
「離れた方は見とく」
 カインの言葉に頷くハヤトが、先行。
 斜面を駆け、速度のまま地を蹴って跳躍。岩壁を蹴り上がり……横に張り出した別の岩を足がかりにその上へ。
「よっ、と」
 宙でくるりと回り、上部の山道へ着く。
 後は安全を確認してこちらに合図を出した。
「では、私達も参りましょうか」
 そう告げるのはラモンだ。
 音を阻む結界を広げており、岩場に触れる位置で皆を包むと――
「じゃ、俺が」
 と、海神 江流が岩を登る。
 張り出した岩まで辿り着くと、横の木にロープを結んで垂らした。
「ありがとう」
 応えたルーンス・ラグネルが、それを頼りに登り始めると……皆も続いて上部へ。これを繰り返して高度を上げていく。
 ただ、登る程に巡回の間隔も狭まる。
 ハヤトは木立から一度降り立って――
「この先は、何人かは片付けないと進めないな」
「岩場を登るにしても、山道を進むにしても、ですね」
 と、ラモンがエーテルの波を走らせて現状を勘案すると……江流は皆を見回した。
「岩を伝えば足場は悪いけど数は少ない。山道は逆。どうする?」
「今は見つからない事が優先かな」
 ルーンスがそう結論を出す。
 重きを置くのは単純な安全性ではなく、グレオサの動きだ。
「自分が正しいと思ってる輩は、自分の正しさを証明する為に屈辱の撤退だの、転進だの言い出すことはありえるからね」
 知られないならその方がいいよ、と。
 その言葉には皆も同意。
 決まれば、まずハヤトが前進。
 樹上へと跳び、最前の見張りの背後に着地すると……そのまま気づかれぬ内に口を押さえ、刀で一突き。音を出さずに崩折れさせる。
 近場の岩場にいた別の賊には、江流が下方の岩を伝い、死角から肉迫。
「――」
 賊ははっとするが、遅い。振るった江流の一閃がその意識を奪い去った。
 進路上の先にいた三人目は、ルーンスが魔矢を放って打倒済み。その先へ皆で進むと……ハヤトがそれを見つけた。
「神殿か」

 神殿は岩壁に掘られた祠だった。
 カインは矢筒を出しながら、入口付近の様子を窺う。
「賊が十人か」
「グレオサ様はあの奥ですね」
 ラモンが探知して告げる。面前の十人は避けられぬという事だ。
 そこで一歩前に出たのがゲルダだった。
「ここは、わたしが」
「俺も出るぜ」
 ハヤトも告げると、シンディーは頷きながら――魔甲の装着具合を確認して拳を握りしめる。
「グレオサとは一気に決着をつけたいけど。戦いが長引いて巡回が駆けつけるようなら、そっちの対処に回るから」
「ありがとうございます。こちらも、皆様の背中をお守りしますから」
 ゲルダが力強く返せば、ロゼットも前を向いて。
「行きましょう」
 言葉と同時――閃光塗弾を投擲する。
 閃く光に、祠を守る賊達が目を押さえてよろめくと……皆で一斉に走り出す。

●決着
 真っ先に賊の只中へ到達したのは、ハヤトだった。
 相手の目が眩んでいる内に……まずは跳躍。双刀を闇空へ掲げながら、頭上より一息の内に迫りゆく。
 狙いは――弓を持った賊。
「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様がお出ましだぁ!!」
 そのまま反抗もさせず連撃。斬閃で膚を裂き、蹴りで骨を砕き、早々に一人を地へ沈めた。
 残る九人は、ようやく奇襲に勘づくが――その頃にはゲルダが眼前。
「お相手は、こちらです……!」
 飛び込みながら、ゲルダが翳すのは小柄に有り余るほどの槍。
 けれどそれを感じさせぬ程に、大ぶりに振り上げると――柄にも刃先にも眩い輝きを纏わせて一撃。光の塊を叩きつけるように、眩い衝撃で敵を巻き込んだ。
 その威力に賊らがよろける間に、ゲルダは仲間へ目を向けて。
「皆様は中へ!」
 頷く皆が祠へ走る。
 その奥に目指す人影を見つけると――江流はまず、相手の退路を確かめた。
(目に見える抜け道はなし、か)
 ただ、祠は大きな岩壁を背にしている。一見逃げにくいが……一度離れれば、追手の視界を分断して下山出来るだろう。
 故に――
(すべきは、手助けする人間の排除か)
 そして祠の前の賊が、おそらくその役を担うだろうと判断すると――優先順位をそちらへ。 最も祠に近い賊へ剣撃を見舞い、その一人を気絶させた。
「ここでもう少し相手しておくよ」
 言葉に、残る面々が頷いてグレオサ目指す。
 走る一行を阻む賊も出るが――
「邪魔っ!」
 そこへ手を伸ばすのがシンディー。
 刹那、エーテルが青々と輝き、海嘯(かいしょう)の如き音を立てる。
 その煌めきは波打ち、轟いて。強烈な水流となって面前の賊を地へ転がせた。
 この隙に皆は祠の奥へ。
 残る賊も振り向くが――立ちはだかるのがゲルダだ。
「この先にはいかせません」
 真っ直ぐな瞳。
 凛とした立ち姿。
 敵の殺意にも怯まずに、見せるのは、壁としてこの場を死守する意志。
「進みたいのであれば、まずはわたしを倒してからでお願いしますね」
 ――小娘ひとりぐらい、容易いはずでしょう?
 槍に光を携え、広げるのは殺界。
 挑戦に乗るよう、賊が攻撃を仕掛けるが――ゲルダは我が身と盾で耐え抜いて。光の弧を描く斬撃を返し、彼らを斬り伏せていく。

 祠の奥部。
 グレオサは一人、佇んでいた。
 その姿に、まずロゼットが口を開く。
「神官長グレオサ、神徒の一員として貴方を捕縛するわ!」
「……捕縛?」
 グレオサの視線に、ルーンスも頷く。
「火神様の名の下に。悪逆非道の反信仰者、賊として、ね」
「信仰を盾にした愚行も、ここまでですよ」
 ラモンも声を継ぐと――グレオサは一度だけ笑う。
「私を反信仰と罵るか」
 そしてすぐ後に、怒りを浮かべた。
「濫(みだ)りに神の威光を笠に着る事こそ、反信仰だ」
 同時、戦いの体勢を取る。
 威容は強大だった。
 が、ルーンスにとってはこれも策の内。こちらに強い敵意を向けたなら――
(すぐには逃亡を企てないはずだ)
 ルーンスはそのままエーテルの波動を解放。仲間に光を宿し――こちらの態勢も万全とする。
 ラモンも即時に行動。暗針を奔らせ、虚空に光の紋様を描くと……それを印としてグレオサの体に刻みこんだ。
 グレオサの魔力の集中が乱れると、その隙に弓弦に矢を番えるのがカイン。狙いすました一矢を撃ち当てて――エーテルで体を蝕み始めていく。
「このまま行けるか」
「ええ!」
 答えるシンディーも杖を翳す。
 同時、冴え冴えとした光が矢となり、飛翔。グレオサの足を穿って自由を奪っていた。
「……そうか、エルトルを排除したのもお前達か」
 グレオサは呻きながらも、光弾の雨を降らす。
 が、ラモンが紙一重で回避すると、ロゼットも自身を光に包んで防御していた。
 負傷は残るが……ロゼットが自身を癒やすと、ルーンスも治癒の光球を注いでいる。
「大丈夫?」
「ええ。ありがとう」
 ロゼットが応えると、ルーンスは頷いて攻撃態勢。グレオサへ魔矢を撃ち込んだ。
 歯噛むグレオサも反撃を狙うが……ラモンが速い。暗針に不可視の煌めきを纏わせて一閃、肩口を抉り裂く。
「おのれ――」
 グレオサは壁伝いに横合いを取ろうとする。
 が、鈍った足で満足に動けない。だけでなく……合流した江流が立ちふさがっていた。
「そこまでだよ」
 江流は距離を詰め斬撃。正面から刃を奔らせ、深々と腹部を切り裂いた。

「……神に背き、悪行に堕する者は絶えない」
 グレオサは後退しながら呟く。
 広がる血溜まりに、自身の不利を悟ったのだろう。声は訴えるかのようだった。
「私は、それを正している。お前達には判らぬか――自身が従うべき信仰があるという事が」
「信仰、ね。……でもそれって、人でも場所でも、変わるものの筈だよ」
 そう返したのは、江流だった。
「シャルガネ――っていうか、俺の家の場合、一番身近な神様ってのは自分の祖先の事だ」
 言って目を閉じる。
「俺にとっての信仰ってのは、ただ、自分の起源に当たる先達に恥じない生き方出来てるかって程度の話でね」
 だから、と祠を見回した。
「こんな神殿こさえて崇め奉られても、迷惑そうだなって思っちまうんだよな。そんな俺は――断罪されるべき立場なんでしょうか。ね?」
「……異国の信仰か」
 グレオサは言いながら、しかし杖を下げない。
「そこに、異を唱えるつもりはない。だが、信ずるものがあるのならば判るはずだ――それを踏み躙られる屈辱が」
 言って皆をねめつけた。
「信仰は魂だ。それに仇なす存在が眼前に現れたらどうする。黙って、足蹴にされるか」
「……。グレオサ」
 そっと口を開いたのは、ロゼットだ。
「私は、貴方の行いを全て否定する気はないわ。持てる力を使わなければならない時は、確かにあった事でしょう」
 けど、と。
 返すのは澄んだ視線。
「私たちの役割は、人を守り、癒し、救うことのはずよ」
「その通りです」
 ラモンも言葉を継ぐ。
「貴方の行いが“信仰のための正義”ならば――その『正義』によって傷付く人たちは罪人なのでしょうか?」
「……奴らは、神を信じない。ならば、神を信じる私に正義があるのは明らかだろう」
 その言葉に、しかしラモンは頷かなかった。
「神を信じる者は正しい? そうかもしれません。私を神は信じています。ですが――神を信じないものは悪? いいえ、私には罪なき人々にしか見えません」
 ならば、と続けて。
「神を信じないことそのものは、悪ではない。では、悪とは何であるのか」
 「少なくとも」とラモンは一歩近づく。
「人々を謂れのない罪で傷付けてきた貴方を正義とは思えません」
「――」
「それは復讐に他なりません。私も復讐という行為そのものを否定するつもりはありませんが――それはどう転がっても『正義』にはなりえませんよ」
「……黙れ――!」
 グレオサは言葉を返せず、最後には力に訴えようとする。
 が、ルーンスが魔力の矢でその足を貫く。
 よろめくグレオサは、祠の出口に目を向けるが――カインも射撃。もう片足を穿った。
「逃げられるとか思わねぇ方がいいと思うが」
「……」
 戦う力ももう無いだろう。グレオサは膝をつき、二の句が継げない。
 カインは祠にある祭壇を見やり、呟いた。
「自分の信仰を自分で穢してどうすんだ、馬鹿」
「……そうよ。悪への怒りや人からの崇拝に酔って、見失ってはいけない」
 ロゼットの言葉に、グレオサは声を震わす。
「私は、間違っていたのか」
「――あなたにとっての信仰がどういうものかはわからないけれど」
 シンディーが静かに返す。
「この結果がそれを示しているわ。だから……自分がどこで間違えたのか、しっかりと考えなさい」
「……私を、殺さぬのか」
「それが目的じゃないもの」
 それに、とシンディーは続ける。
「人間は誰だって何かの間違いや失敗をするのよ。でも全てを終わらせてしまったら、それまででしょ」
 その言葉にロゼットも頷き、グレオサを見据える。
「ゆっくり、自分と向き合いなさい」
 それが今、やるべき事であるはずだからと。

 裂帛の斬打が、三人の賊を打倒する。
 祠の前。
 グレオサの助太刀を目論む賊に……ゲルダは立ちふさがり、何人も通さずに戦っていた。
 無論、ゲルダだけでなく――
「甘いぜ!」
 ゲルダに意識を取られていた賊の一人へ、迫るのがハヤト。
 はっとして振り返るその賊に……容赦せず二閃。血潮を散らし、よろけたところへ蹴りを打って岩へ叩きつけていた。
 残る賊は二人。
 遮二無二に攻めてくるが――ゲルダは傷ついた体でも退かず。
「負けません!」
 剣を盾で受け、槍撃。相手を気絶させる。
 同時、ハヤトも賊の剣を軽々と躱し……反撃。零距離からの刺突で打ち倒した。
 下方でも、巡回中の賊が動き始めていたが――
「あれは……」
「仲間か」
 二人は気づく。
 ロゼットの案で、使者を送ってあった神徒――聖白神座会の姿。こちらの事情を解し、戦いに加わってくれたのだ。
 それを見て、二人も加勢。一人残らず賊を捕らえるのだった。

 戦いの後、皆はファビアン達と合流。
 ルーンスはそこへ、猿轡を噛ませたグレオサを連れてきた。
 一応、逃げる素振りが無い事を確認して引き渡す。
「仮に逃げても駄目だけど。逃げたら、行商人の耳に入れて広めるつもりだったから」
 人の噂の力を知らぬ訳ではないだろう。視線を返したグレオサは……目で“そうだろうな”と語っているようにも見えた。
 その顔に、ルーンスは言葉を続ける。
「信仰を守りたいという欲に憑かれてしまったこと、火神様に謝った方がいいよ」
「……」
「正しいことの方が人は容赦なくなれる――その方向を間違ったんだろうから」
 ルーンスにはそれが理解出来ぬ訳じゃない。
「正しいことは気持ちいいからね。でも……だったらその正しさこそ、間違わないようにしないと」
 自分も最近正しい事をして気持ちよくなったからね、と。
 言った言葉に、グレオサは大きな反応を見せなかったけれど――最後には、小さく頷いて連れられていった。
「神、か」
 カインは呟き、他でもない火神の姿を想起する。
(俺が作った揚げアイスとかアイス最中とか苺アイスとか……アイスばっか食ってたな)
 思い返したのは、そんな事。
「アイスのレシピ、寄贈するか」
 こうして平和の道筋もたったのだから、と。
 カインは歩み出す。見れば山の彼方で、夜明けが近づいていた。

マスターコメント

お疲れ様でした。 神官グレオサを打倒し、ナダキアの平和を取り戻す事が出来ました。 ナダキアや周辺にも被害はなく、これまでの事情も神徒に共有されています。問題なくナダキアの再建もされていくでしょう。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2023年07月09日 23時41分01秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. シンディー・ホシカ

    依頼は成立ね。 この依頼に参加する人数にもよるけれど、 関係ない人も巻き込む危険のある 1.ナダキア区内 は避けたいかなと思ってるわ。

  2. ロゼット

    ヒーラーのロゼットよ。最後の大仕事ね。 戦場(タイミング)が1、2、3から選べるわ。 まずはどのタイミングを基本にするか決めたいわね。 私も、区と住人を巻き込んでしまう「1」は、 そのままでは選びにくいと思ってしまうわ。 「2」は短期決戦でグレオサを抑えないと挟撃が大変で。 「3」は賊の巡回を隠れて抜けて、神殿を叩く奇襲かな? >提案 案として、「3」を選んでグレオサの居なくなったナダキアで、 聖白神座会に真相を明かして協力を求められないかな、と。 同行してくれるファビアン、区の代表ニザーブ首長と一緒に。 どこまで協力してくれるかは交渉次第だけど、例えば山の麓で 松明を盛大に付けてもらって、巡回する賊の目を引いてもらうの。 私たちはその隙に山中を隠れて進んで、グレオサのいる神殿を叩く。 賊60人全部と戦う覚悟をするよりは、マシじゃないかしら。 今のところ、思い浮かぶ案はこんな感じね。

  3. シンディー・ホシカ

    【3】に関してなんだけど、ここの最大のリスクって 「ナタギアを離れる準備もしてるらしいグレオサに、夜闇に乗じて逃亡される」 ってことなんじゃないかって。 だから大々的にやったり、人数動員で時間をかけると、かえって見切りを付けて逃亡を早く決断されるかも。 私は強いて言うなら【2】ね。 あらかじめ挟撃されるのを織り込んで、足止め役が援軍を阻止して挟撃を防ぐ。その間にグレオサを倒す。 自分が言い出したことだし、【2】で行くなら足止め役を買って出るつもりはあるわよ。

  4. ロゼット

    参加者がもう少し増えてくれると、 ありがたいのだけど厳しいかしら。 【1】については、あらかじめグレオサを狙う人と、 区内に現れる賊を倒す人を分けておく、という手はあるわね。 山から現れる増援に対しては、それこそタイムラグのうちに 聖白神座会の協力を取り付けて、加勢を頼んでも良いのだし。 【2】は敵全てと、ほぼ同時に戦う展開になるから、 どうしても人数の少なさが不安になるわ。 グレオサの逃亡というリスクなら、【2】だって賊に 囲まれているうちに、逃げられるリスクはあるのだし。 【3】は賊との戦闘を回避、隠れてやり過ごす手が使えるから、 戦闘を少なくして、神殿の10人とグレオサだけを狙える点が、 今の参加者の人数なら、良いんじゃないかと思ったのだけど。 聖白神座会の手を借りた陽動とかは反対なら外しても良いわ。 とりあえず、どの戦場(タイミング)でもグレオサを狙おうかと。 ヒーラーは多いし回復は外して、戦闘重視にしようかと思うわ。

  5. シンディー・ホシカ

    そうね、今の人数だと【2】は厳しいのは認めるわ。 スキルを活用して巡回をやり過ごした上で、賊10人とグレオサだけを狙える【3】が妥当かもしれないわね。 聖白神座会の陽動は、彼らがそれを準備して実行するのを待つ時間とか、それを見たグレオサが見切りを付けて逃亡の決断を早く下す危険とか考えると、外した方がいいかもと思うわ。

  6. ラモン

    失礼、顔出しが遅れました。 改めまして、ラモンと申します。今回もよろしくお願いしますね。 >人数について 人数が厳しければ、(同背後PCを)ひとりお誘いできるかもしれません。 私より高レベルのウォーリアですので、【3】で賊の目を引く陽動などで立ち回れるかと (他に参加したい方がいらっしゃるかもしれないので、参加の場合は前日で考えています) >方針 【3】で協力者を募って賊の目を引き、残りで神殿を襲撃――という方針がよさそうだと感じました。 地形的には不利ですが、賊の目を引く案が上手く運べば覆せるかと。 >陽動について 仰る通り、タイミングについては合わせる必要がありそうですね。 後は――先行して神殿に潜入してグレオサが逃げないように足止めをする、といったことも可能かもしれません。 >個人行動 隠密が性に合っておりますので、神殿を襲撃しグレオサ様の確保側にまわりますね。 戦闘ではBS付与中心の動きになるかと思いますが、場合によっては先行しての足止め役でも――いえ、戦闘はあまり得意ではないので、その場合は私がやられる前に助けてくださいね。

  7. ロゼット

    【2】なら挟撃の備えに3:3の6人くらいは欲しいかなと。 だから今の人数ぐらいなら、【3】で賊の巡回をやり過ごして、 神殿にいる10人とグレオサを奇襲で叩くのが、私も良いかなって。 >協力者を募って賊の目を引く これについては、シンディーの言うように効果がありすぎて グレオサ逃亡を早めるリスクを考えて取り下げさせてもらうわ。 代わりに、グレオサを捕縛した後で、山に残った賊の掃討とかには 聖白神座会の協力を求めても良いと思うから、その辺の根回しは プレイングでかけてみようかと思うわ。 >ラモン 同背後PCの件はありがとう。 4人で成立する以上、ちゃんとやれば勝算はあると思うから、 前日に参加してもらうかはラモンにお任せするわ。 個人的には、陽動より本命の奇襲に加わって欲しい感じだけど。

  8. ルーンス・ラグネル

    顔出し遅くなってごめんね。 ヒーラーのルーンス・ラグネルだよ。 >人数 一応友達に助っ人できないか聞いてみてるよー 現在の人数だとちょっときつそうだしね。 少々立て込んでるので、取り急ぎ挨拶まで。

  9. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファング推参!! ってなわけで人手がいりそうってことで助っ人に来たぜ! 方針として【3】で夜に奇襲って感じで行くのか? もう1人増えそーなら【2】で総力戦ってのもいけそーな感じもするが… グレオサって野郎の逃亡対策には捜波系のスキルでマークしときゃ追跡は出来ると思うからモンチョか俺で準備してくか? モンチョがグレオサ確保中心に動くならマークすんのはそっちに任せた方がいいかとも思うけどよ。 あとは戦闘になれば俺は派手に暴れて敵の攻撃を引き付けて回るつもりだぜ。 賊共の装備はなかなかの物を扱ってそーだが、当たらなければどうということはないしな♪

  10. シンディー・ホシカ

    出発は明日だし、【3】で確定で私はOKよ。 戦いが夜半、目的地まで山を登るのと巡回を回避ということで、 暗視とバランス感覚は持っていくわ。 予想外に戦いが長引いて巡回が戻ってくるような事態になったら、私がそっちを受け持つつもり。 そこまでくれば、キャスターとして派手な範囲攻撃を使っても大丈夫でしょう?

  11. ロゼット

    ハヤト、ゲルダは加勢ありがとう。 【3】で確定で私も異論ないわ。 ・夜間 ・山に巡回する賊をやり過ごす ・頂上の神殿にいる賊10人とグレオサを打倒 基本はこれで。神殿への攻め込みは奇襲で一気にね。 私は書いた通り、グレオサの打倒をメインにしておくわ。

  12. 海神 江流

    間際の参加でごめんね。 シーフの海神江流です。 人手が必要と聞いて手伝いに来たよ。 【3】で夜間に山上って神殿の 暗視は持っていくとして、アクロバティックアーツがあれば登山中に戦闘となっても有利にやれそうかな?と思ったけれど、道中はなるべくパスして、って算段ならホライゾナルで突破できるようにしといた方が逃走対策にもなるかな? ちょっと様子を見て考えるね。

  13. ゲルダ・クライン

    ウォーリアのゲルダです。よろしくお願いしますね! 【3】で夜間に奇襲、ですね。がんばります! 暗視とバランス感覚で、現状は神殿近くにいる賊対応を考えています。 賊は抑えておきますので、グレオサ……様?のご対応については、お任せしますね。

  14. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    江流とゲルダもよろしくな!! 【3】で確定ってことなんで山中は斥候として巡回の奴らを見つけては迂回もしくは奇襲で排除して極力戦闘を避けて神殿に辿り着けるように露払いすんな!

  15. カイン・ステラ

    当日朝だが、手伝いに来たぜ。 カイン・ステラ、シューターだ。よろしく。 【3】は確定なんで、暗視は確実に持っていく。 あと、ハヤトの斥候と連携する形で動物出す。 潜入に向いた栗鼠にするか、機動力に長ける大鼬にするか少し悩むが、基本大鼬かな…。 戦闘は援護中心でBSばらまくのを優先するつもり。

  16. ルーンス・ラグネル

    【3】で了解だよ。 暗視は持っていくとして、もうひとつは超聴覚で戦闘中も残りの敵が接近してこないか警戒しておくね。 あとは援護や回復中心になるのかな。 念の為捕縛用のロープや猿轡用のバンダナを持っていくよ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0