【泥乱】子守唄に論議はいらない
菊華 伴
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シナリオID:3034
オープニング
●占い師は憂う
「……だから、はやく巫女を追い出せばって言ってるのに」
夜明け前。小柄なリザードマンの男性が、奇怪な文字の刻まれた石を並べながら呟く。彼はイライラした様子で頭を掻くと、深くため息を吐いた。
(ギシュムの若者たちの一部は大酋長様に反抗的だが、……あの巫女に利用されてる可能性もあるんだよなぁ。しかし……)
彼は、頭痛をおぼえながらも近くの棚から巻物を出す。それは、彼の『竜への転生』についての研究資料であった。
彼は若い頃から『竜への転生』について研究を積みかさねていた。そして、一時期はラスリャマスに師事を願った事があるぐらいだ。
そして、彼の事績を研究することで、とある事に行きついてしまった。
――かの男は同胞を犠牲にする悪手を使ってしまったが、他の生物のエーテルを取り込むのはアプローチ的によいのでは?
命を奪うまでしなくても、量が沢山必要でも、他の生き物のエーテルを取り込む方法は、アリだと考えた。しかし、里の仲間の事を考え「まだ口にするのはやめておこう」と決めていた。
それなのに、似たようなことをギシュム族の若者たちが口にしているのを噂に聞いた。占い師としての勘だろうか? とてつもなく嫌な予感がする。
「……窘めに、いくとしようかねぇ」
占い師――ルゥエンはゆっくりと立ち上がった。
●これじゃ子ども達も眠れない
「慰霊祭の準備、を……手伝ってもらえませんか?」
ユアン・イェーガーは集まった冒険者たちにそう言って頭を下げた。
イェーガー氏族は元々鎮魂の為に動く氏族でもある。故に、他の里で行われる慰霊祭の手伝いに多くの大人が駆り出されているそうだ。
慰霊祭とは、かつてラスリャマスの策略により生まれ出る前に輪廻に戻ってしまった卵の子や幼い子供達を慰めるものである。
「この慰霊祭、は、里の大人たちの、心の傷を、癒すための物……でもある、と私は考えます。ですから……」
とユアンがいつもより真面目な顔で頼む。
既にルゥエンが現地に入っており、その里の者と慰霊祭の準備に取り掛かっているという。冒険者達はユアンと共にそこへ急いだ。
だが、そこでみたのは……、氏族の若者たちと言い争うルゥエンの姿だった。
「何故だ、ルゥエン殿。貴殿は我々と同じような考えを持つと言っているではないか」
「しかし、今それを言うべきではない。ただでさえ不安定な時期だからね。それに、私はラスリャマスのように実行しようとは思わん。誤解を招きかねないからこそ、避けたいのだ。それに、別の方法もあるかもしれない!」
不思議に思っていると、若者たちの中にいたローブ姿の女性が冒険者たちに歩み寄る。
「皆さん、転生に興味はありませんか?」
「え? 転生、ですか?」
ユアンはその言葉にきょとん、とする。リザードマンの死生観で育ったユアンも転生については興味がある。だが、そこで急にでるとは思わなかったらしい。
ローブ姿の女性はにっこり頷いた。
「えぇ。……イネス様曰く『早く竜に至れ』と征竜様がおっしゃっているようなのです」
「……申し訳ありません。私はまだ修行の途中ですから……」
ユアンが首を振ると、「そうですか」と残念そうに女性は言う。だが、その目は「所詮他種族よね」という蔑みが透けて見える気がした。
ユアンはその女性に一礼し、若者たちとルゥエンの間に入る。が、その時刃物のような物が抜き身で隠されているように見えた。
冒険者達は、場合によっては介入しようと様子を伺っていたが、天幕から年老いたリザードマンがゆっくり歩み寄り「慰霊祭の準備を進めて欲しい」と若者たちに言う。
ローブの女性はため息を1つ吐くと小さく肩を竦めた。
「そうですわね。今は慰霊祭の準備を行いましょう。あの子たちの為に」
「ええ。そう、ですね。……あの子たちの為に」
ローブの女性と、ユアンは頷き合う。女性は「気が変わりましたら、私、ロータスにお声掛けください」と言い一礼し若者たちと共に立ち去った。
●張り詰めた空気の中
「どうしたものでしょうね」
「ちらりと抜き身のナイフが見えたが……」
ユアンが珍しく不機嫌な顔でそう言っていると、ルゥエンが渋い顔で言った。
つまりは、ユアンが間に入らなければ刺された可能性があるという事だ。冒険者たちは顔を見合わせる。
少し離れた場所では、ロータスと名乗った女性が作業をしているが……ふと、手を止める。
「イネス様、わたくし、貴女様の為に、『竜』に至って見せますからしばしお待ちくださいませね……」
彼女は祈るように手を組み呟く。周りの若者たちも皆同じように祈る。その様子を見、ルゥエン達は不安を覚えていた。
一方若者たちとローブの女性に混じった何者かは、静かに舌打ちした。
(ちょーっと退屈だったし、混乱招くにはいいかなーって混じったけど難しいね)
その人物はナイフを鞘に納め……静かにタイミングを計ることにした。
ともかく、慰霊祭の準備は行われる。
冒険者たちは、何事もなく準備を終わらせようと頷き合った。
「……だから、はやく巫女を追い出せばって言ってるのに」
夜明け前。小柄なリザードマンの男性が、奇怪な文字の刻まれた石を並べながら呟く。彼はイライラした様子で頭を掻くと、深くため息を吐いた。
(ギシュムの若者たちの一部は大酋長様に反抗的だが、……あの巫女に利用されてる可能性もあるんだよなぁ。しかし……)
彼は、頭痛をおぼえながらも近くの棚から巻物を出す。それは、彼の『竜への転生』についての研究資料であった。
彼は若い頃から『竜への転生』について研究を積みかさねていた。そして、一時期はラスリャマスに師事を願った事があるぐらいだ。
そして、彼の事績を研究することで、とある事に行きついてしまった。
――かの男は同胞を犠牲にする悪手を使ってしまったが、他の生物のエーテルを取り込むのはアプローチ的によいのでは?
命を奪うまでしなくても、量が沢山必要でも、他の生き物のエーテルを取り込む方法は、アリだと考えた。しかし、里の仲間の事を考え「まだ口にするのはやめておこう」と決めていた。
それなのに、似たようなことをギシュム族の若者たちが口にしているのを噂に聞いた。占い師としての勘だろうか? とてつもなく嫌な予感がする。
「……窘めに、いくとしようかねぇ」
占い師――ルゥエンはゆっくりと立ち上がった。
●これじゃ子ども達も眠れない
「慰霊祭の準備、を……手伝ってもらえませんか?」
ユアン・イェーガーは集まった冒険者たちにそう言って頭を下げた。
イェーガー氏族は元々鎮魂の為に動く氏族でもある。故に、他の里で行われる慰霊祭の手伝いに多くの大人が駆り出されているそうだ。
慰霊祭とは、かつてラスリャマスの策略により生まれ出る前に輪廻に戻ってしまった卵の子や幼い子供達を慰めるものである。
「この慰霊祭、は、里の大人たちの、心の傷を、癒すための物……でもある、と私は考えます。ですから……」
とユアンがいつもより真面目な顔で頼む。
既にルゥエンが現地に入っており、その里の者と慰霊祭の準備に取り掛かっているという。冒険者達はユアンと共にそこへ急いだ。
だが、そこでみたのは……、氏族の若者たちと言い争うルゥエンの姿だった。
「何故だ、ルゥエン殿。貴殿は我々と同じような考えを持つと言っているではないか」
「しかし、今それを言うべきではない。ただでさえ不安定な時期だからね。それに、私はラスリャマスのように実行しようとは思わん。誤解を招きかねないからこそ、避けたいのだ。それに、別の方法もあるかもしれない!」
不思議に思っていると、若者たちの中にいたローブ姿の女性が冒険者たちに歩み寄る。
「皆さん、転生に興味はありませんか?」
「え? 転生、ですか?」
ユアンはその言葉にきょとん、とする。リザードマンの死生観で育ったユアンも転生については興味がある。だが、そこで急にでるとは思わなかったらしい。
ローブ姿の女性はにっこり頷いた。
「えぇ。……イネス様曰く『早く竜に至れ』と征竜様がおっしゃっているようなのです」
「……申し訳ありません。私はまだ修行の途中ですから……」
ユアンが首を振ると、「そうですか」と残念そうに女性は言う。だが、その目は「所詮他種族よね」という蔑みが透けて見える気がした。
ユアンはその女性に一礼し、若者たちとルゥエンの間に入る。が、その時刃物のような物が抜き身で隠されているように見えた。
冒険者達は、場合によっては介入しようと様子を伺っていたが、天幕から年老いたリザードマンがゆっくり歩み寄り「慰霊祭の準備を進めて欲しい」と若者たちに言う。
ローブの女性はため息を1つ吐くと小さく肩を竦めた。
「そうですわね。今は慰霊祭の準備を行いましょう。あの子たちの為に」
「ええ。そう、ですね。……あの子たちの為に」
ローブの女性と、ユアンは頷き合う。女性は「気が変わりましたら、私、ロータスにお声掛けください」と言い一礼し若者たちと共に立ち去った。
●張り詰めた空気の中
「どうしたものでしょうね」
「ちらりと抜き身のナイフが見えたが……」
ユアンが珍しく不機嫌な顔でそう言っていると、ルゥエンが渋い顔で言った。
つまりは、ユアンが間に入らなければ刺された可能性があるという事だ。冒険者たちは顔を見合わせる。
少し離れた場所では、ロータスと名乗った女性が作業をしているが……ふと、手を止める。
「イネス様、わたくし、貴女様の為に、『竜』に至って見せますからしばしお待ちくださいませね……」
彼女は祈るように手を組み呟く。周りの若者たちも皆同じように祈る。その様子を見、ルゥエン達は不安を覚えていた。
一方若者たちとローブの女性に混じった何者かは、静かに舌打ちした。
(ちょーっと退屈だったし、混乱招くにはいいかなーって混じったけど難しいね)
その人物はナイフを鞘に納め……静かにタイミングを計ることにした。
ともかく、慰霊祭の準備は行われる。
冒険者たちは、何事もなく準備を終わらせようと頷き合った。
解説
今回は、ラスリャマスの計略により亡くなった子供達を慰める慰霊祭の準備をします。
……しかし、なんだかなかなか進まない予感が。冒険者の皆さん、手を貸してください……。
>今回の目的
慰霊祭の準備を滞りなく終わらせることです。
イネスの考えに心酔した若者たち(以後、『イネス派』と明記)は自分たちの考えを他の参列者や準備に携わる者に『イネスが征竜から受け取ったメッセージ』を広めようとして手を止めがちです。うまく手伝わせて慰霊祭をはじめましょう。
また、若者たちの中にルゥエンを刺そうとした者がいます。
もしかしたら、準備中に再び狙うかもしれません。
その他、慰霊祭本番のお手伝いも歓迎します。
(リプレイ描写は、準備段階を中心に行いますが、慰霊祭も描写しますので余裕がありましたら慰霊祭への参加も可能です)
PL情報
このままでは開始までの時間が大幅に遅れそうですので、あの手この手で準備を進めましょう!
また、若者たちの中に、『メドゥの指先』の構成員になっているリザードマンが混じっています。隙を狙ってルゥエンを刺殺し、混乱をまき散らそうと考えています。
NPC
ユアン・イェーガー
慰霊祭用の祭壇に花を飾っていますが、『イネス派』の若者がしつこく考えを言ってくるので無視を決め込んでいます。ニコニコしてますが内心では怒り心頭。敵なら矢を乱射したい気分……。
ロータス
年齢は、イネスと変わらないぐらい。ローブを纏った女性。イネスに心酔しているギシュム族の若者の一人。慰霊祭でイネスの考えを広め、『竜になろうとする』人を増やそうとしています。また、彼女も幼い頃から竜になる方法を研究しています。
『イネス派』の若者たち
ロータスを含め7~8人ほどいます。彼らは作業しつつイネスの言葉を広めようとしますが熱心さのあまり手を止めがちです。場合によっては他の作業をする人の邪魔をするかも?
ルゥエン
イェーガー族の占い師。転生について研究をしており、『転生の為他の生き物のエーテルを取り込む方法』が理論上可能なのでは? という意見を持ちます。しかし里への混乱と誤解を招かない為に現段階では明かさないつもりだったようです。
それでは、よろしくお願いします。
マスターより
どうも、菊華です。
今回は、慰霊祭準備を進める為に頑張ってもらいます。
皆で慰霊祭を成功させましょう!
ユアン「でなければ、あの子達が眠れません……!!」(珍しく怒りをほんのりあらわにして)
リプレイ
●慰霊祭を始める為に
「おいおい、何で準備の邪魔になるよーなことしてる奴等が混じってんだよ」
「……? じゅんびの、じゃまを……しに来たのでしょうか?」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングの言葉に、ミゼリア・L・ステュクスもこくり、と頷く。
「……この調子ですと、いつまで経っても慰霊祭が始められ無さそうですね」
コルネリウス・アーラは、『イネス派』の様子を見、ため息を吐く。いや、彼女だけではない。
「なんか、こう……怪しい宗教に引っかかりそうな純朴さですね」
ヴィルヘルミナの脳裏には口八丁で騙されてしまった知人が浮かんでしまっている。
「何故、準備を、優先しないんでしょうか? 一応成人している身なのでしょう?」
憤懣やるかたない様子のユアンの言葉ももっともだ。
それに気になった事もある。
「そういえば……、刃物のようなものを、みた、と……ききました」
ミゼリアの言葉に、ユアンがこくりと頷く。小柄な男性、ルゥエンは頭を掻きながら「そいつぁ、困りましたねぇ」と苦笑いをする。
「準備中に襲われる可能性はあるな……」
ハヤトの言葉に、一同は口には出さない物の警戒することを共有し合った。
各々が準備を手伝おうと動き出す前、コルネリウスはなんとなく気に掛けるミゼリアに声をかける。
「「今回は、よろしくお願いしますね」
「! はい、こちら、こそ……」
憧れであるコルネリウスにそう言われ、ミゼリアは(顔には出さないが)嬉しいのだろう。心なしか雰囲気がちょっと柔らかくなったような気がする。
だがすぐに引き締める。ルゥエンはそんな様子を穏やかに見守っていたが、ミゼリアが歩み寄ってきたのを見、頷いた。
「今回は、ごえい、に、つきます……。よろしく、おねがい、します……」
「こちらこそ」
ルゥエンはミゼリアに対し静かに頭を下げた。
●手伝いを滞りなく
「すみません。確認よろしいでしょうか?」
ヴィルヘルミナはまず、責任者等に声をかけ準備で遅れている物を確認することにした。そして、優先順位を考えると手伝いに来ている面々も集め作業を割り振っていく
「では、献花台設置と会場の清掃をこっちの皆さんで。祭壇のお花に関してはユアンさんを中心にお願いします。それからお年寄りの方用の椅子は……」
〈カリスマ〉を活かした上で声をかければ、うまく動いてくれる。だが、『イネス派』の面々は途中で手を止め、他の者に声をかけてはイネスの考えを広めようとしていた。
その様子はヴィルヘミナ達も見ている。彼らは頷き合うとぱっ、と行動を開始した。ヴィルヘルミナも、それとなく『イネス派』の者に声をかけてみる事にした。
(熱心なのは良いですが、先に済ます事済ませてからではよいのでは?)
そう思ってしまうヴィルヘルミナ。彼女が見ているのも知らず、その『イネス派』の若者は熱心に何かを進めているようだった。
ヴィルヘルミナはそっと相手の方を叩く。
「? 何でしょう?」
「印象悪化は後々に響きますし、順序はきちんとした方が良いように思います。せめて慰霊祭の後とかにしては?」
ほら、あまりしつこいと鬱陶しいとか傍迷惑とか思われるかもしれませんから、とそれとなく言うヴィルヘルミナ。彼女に注意された若者は何か言いたいのを堪え作業に戻る。ヴィルヘルミナの言っていることに間違いはない、と考えたのだろう。彼女は自分も作業を行いつつ、『イネス派』の若者たちの動きに注意することにした。
一方、おかしな動きをする者がいないかも確認する。ルゥエンの傍には手伝いとしてミゼリアがついている。とはいえ、警戒するに越したことは無い。
(刃物を持った人物……。どこにいるのでしょうか)
ヴィルヘルミナは、作業を続けながらも時折周囲を見渡すのだった。
一方、祭壇。
ユアンは、『イネス派』に話しかけられ苛立ちを隠しながら笑顔で作業をする。そこで間に入ったのがコルネリウスだった。
「あら、手がお留守になっていますよ」
と、道具を手渡して作業を割り振る。別の相手には、飾りが足りないから、と花を取りに行かせ、その隙にユアンへ話しかけようとした者がいれば間に入る。
「よかったら、あっちの飾りを手伝ってください。2人でやった方が早く終わりますし」
「あ、あぁ……」
コルネリウスに頼まれ、仕方なくその『イネス派』は彼女に従う。その間にユアンには外の空気を吸って来てもらう事に。目配せすれば「ありがとう、ございますっ」とユアンは一礼し、会場の外に出る。その姿を確認し、コルネリウスは作業に戻った。
コルネリウスは、台に登った『イネス派』の若者へ花を渡し飾り付けてもらう。彼は作業をしながらも、小声で問いかけた。
「貴方は、他の種族の方だから、イネス様の願いというか、頼みの重要性が分からないじゃないか?」
「そうですね。それ故にわからない事も多くありますね」
コルネリウスは1つ頷き、言葉を続ける。
「理念も求めるものも皆さんとは異なるでしょう。長命種にとって転生の話はとても遠いものですけれど、みなさんが大切にしているものがあることはちゃんと解っていますよ」
彼女の言葉に、青年は表情を軟化させる。重要な点は判ってくれている、と感じたのだろう。コルネリウスが「今は、心を癒やして、亡くなられた方々を悼む時間が必要ですから」と言えばそれ以降、勧誘的な事を言わなくなった。
(彼のように、すぐ理解してくれるとよいのですが)
コルネリウスは終わっていない作業がないか見渡す。すると、花を運んでいた者がよろよろと会場に入ってくるのが見えた。
「少しずつで大丈夫ですのに……」
彼女は手の空いたものに声をかけ、共に花を受け取りに行った。
その頃、ハヤトは会場へと敷物を運ぶ面々の中にいた。その中には、先ほどまでリザードマン達にイネスの言葉をきかせようとしていた『イネス派』の者達の姿もあった。
ハヤトは邪魔にしかなっていない面々を集め、睨みをきかせた。
「同胞の魂を気遣うことも出来ねぇ連中が『竜に至る道』を語るなんざちゃんちゃらおかしいだろーがよっ。邪魔すんなら出ていけ。そうじゃないなら、さっさと手伝え」
ハヤトに叱られた面々は顔を見合わせる。彼らの目的は慰霊祭に来る者たちにイネスの言葉を聞かせることである。彼らはしぶしぶハヤト達と共に手伝いを続けることにした。
「こういった準備も、犠牲者の鎮魂の為になるんだと思うぜ。だから、邪魔しないで欲しいんだ」
今度は諭すように言うハヤト。だが、彼は彼らの中に刃物持ちがいないか、目を光らせる。
会場に着くと、きびきびと指揮し、会場をかるく掃いた上で敷物を敷く。天幕のたるみなども確認していきながらも〈天眼〉を使って警戒を怠らなかった。
亡くなった子供達の人数などを記録した物を準備するルゥエン。その傍らで、ミゼリアは助手を務めながらも準備する人間の中に刃物持ちがいないか注意深く見守る。
時折手伝いに来た人が書類を取りに来たり、まとめ役が式についての打ち合わせにきたりするが、傍らのミゼリアは手伝いながら警戒を続ける。
(奇襲も……、あるかも、しれません)
様々なパターンが考えられる、と気が抜けないようだ。
その一方、ホムンクルスとしてはルゥエンの研究も気になるようで、それとなく声をかける。
「『転生の為に他の生き物のエーテルを取り込む方法』について?」
彼女が頷くとルゥエンは少し考える。
「まぁ、ざっくりとだけど……」
とルゥエンなりにかみ砕いて説明してくれてはいるのだが、ちょっと難しい。ミゼリアはメモを取ろうとしたのだが……そこへ現れたのが、フードをつけたロータスだ。
「ルゥエン殿、お茶をお持ちしましたわ」
「……そこに置いといてくれ。後で頂く」
ロータスの言葉にルゥエンは振り向くことなく、そっけなく言った。ミゼリアは、ロータスが持ってきたお茶に何も入っていないか、それが気になった。
「なぜ、そんなにまで語らないのですか?」
ロータスは、不思議そうにルゥエンへ問うが、間にそれとなく入ったミゼリアが僅かに目を細める。
「……いまは、じゅんび中です。ここでおしゃべりしている、ひまは、ないはず……です」
「でも、息が詰まってしまいますわ。少しぐらいお茶を飲む時間があってもいいのではなくて?」
ロータスは微笑みながら言うも、眼差しには軽蔑が混じっているようにミゼリアには思えた。
ルゥエンはミゼリアを呼ぶと、共に儀式に必要な書物やらお香などを棚から取り出す。
「ロータスさん……でしたっけ? これ、運ぶの……手伝って、ください」
ミゼリアは慰霊祭で使うお香や楽譜をロータスに差し出す。彼女は何か言いたげだったが、ルゥエンの視線を感じ「わかりましたわ」とミゼリアからそれを受け取った。
「今回は、代表者が子供達へかける言葉を纏めている。病気などで参加できない人からの言葉もあるから、それを運ぶのも手伝って欲しい」
「わかりました」
ルゥエンの指示に従うミゼリア。彼女は刃物を持った相手が再び来ないか気になりながらも、ロータスを伴い会場へと荷物を運んで行った。
●刃物の行方
少しだけ、時間を遡る。
(冒険者か……。さっきの刃物を見られているならば、まずいな)
メドゥの指先に所属するリザードマンの若者は、誰に指令されたわけでもなく、里に混乱を起こしたいがために『イネス派』という若者たちの中に忍び込み、混じる事で面白そうな事を知った。慰霊祭を手伝う者の中に、ラスリャマスの事績を研究した者がいるという。彼の研究を欲しがる存在もおり、タイミングが良ければ『イネス派』のだれかに罪を擦り付けられると考えたし、冒険者が危険視して殺したことにしてもいい、とも考えた。だが……。
刃物持ちは、衣服にそれを隠し準備を進める。ハヤトが敷物を取りに何人か連れて行くのを見た。彼は、一番強そうなゴブリンの若者が離れた事に安堵しそれとなくヴィルヘルミナの指示に従い、コルネリウス達と共に祭壇の準備に入る。隙をついて、現れたルゥエンを刺すつもりだ。
しかし、ヴィルヘルミナとコルネリウスもまた歴戦の冒険者である。彼女たちの采配により、隙なく作業を頼まれる。
ひと段落する頃にはハヤトも戻ってきており、掃除を行う。なにか事を起こせば、刈り取られるのは自分の方だ。そう悟った刃物持ちは、もう一人……ミゼリアの姿がない事に気付いた。
「黒髪の子はどうした? ルゥエン殿の手伝いか?」
問われたヴィルヘルミナは困ったように微笑む。
「たしかルゥエン殿と一緒に書類の準備をしていたかと思いますが、場所は判りません。それにしても、どうしてその子について聞くんです?」
「いや、そろそろ休憩を入れても大丈夫じゃないか? まとめ役の人にも確認しようと思って」
刃物持ちはそれとなく違和感のないように言うが、その後ろからコルネリウスがまとめ役やユアンと共にお茶を持って現れる。
「どうにか巻き返せたみたいですし、お茶にしましょう!」
「ルゥエン達もそろそろ来るんじゃね?」
「ルゥエン殿たちには、ロータス殿が持っていきました」
ハヤトの言葉に反応したのは、まとめ役の老人だった。刃物持ちは舌打ちしたい気持ちを抑え、一先ず「なら、安心しました」と笑っておいた。
(ちょっと、きな臭い気がしますね)
休憩の呼びかけをしようとした人物を見、コルネリウスの表情が僅かに曇る。
(この違和感はどこからくるのかしら?)
コルネリウスは一先ず他の冒険者達と情報を共有することにした。
そうしている間に、ルゥエンとミゼリア、ロータスが姿を現した。
刃物持ちは、手を拱いた。
ルゥエンの傍にはミゼリアがいる。そして、さりげなくだがどの冒険者達もルゥエンを気にかけているのである。
(隙が無い)
ルゥエンが一人になったところや、大人数に囲まれたところで刺そうと考えたが、そうはならなかった。
「どうしましたか? 顔色が優れませんが?」
ヴィルヘルミナに問われ刃物持ちは「なんでもありません」と首を振った。
彼は、仕方なく今はやめておこう、と考え直した。
●どうにかこうにか……。
休憩後、まとめ役の老人が準備の終了を告げる。
『イネス派』を名乗る若者たちは彼から厳しい言葉をもらったようだが、冒険者達にやり込められたのもあり少しは聞いているようだった。
やがて、慰霊祭の参加者たちがやってきて、香がたかれる中静かに天幕へと入り祈りを捧げていく。
老人に代わりルゥエンが言葉を読み解く。
厳かな空気の中、コルネリウスもまた花と共に祈りを捧げ、ヴィルヘルミナとミゼリアもさりげなく『イネス派』や件の刃物を持った物を警戒する。
(あいつら、ここでの勧誘も諦めたみたいだぜ)
(なら、よいのですが)
ハヤトは『イネス派』の動き等を〈天眼〉を使い念のため確認。彼らもまた静かに祈りを捧げていたことに、ユアンは安堵する。だが、ハヤトは慰霊祭が終わるまでは警戒を緩めないつもりだ。
そして、慰霊祭は恙なく幕を閉じた。
●一閃
慰霊祭は終わり、参列者は三々五々帰宅していく。
そして、まとめ役の話によるとあと2,3日は自由に祈れるよう会場をそのままにしておくそうで片付けはまた後日になるという。
冒険者達は『イネス』派を自称する者達をけん制し、その上で襲撃させないことで無事に慰霊祭を終えることが出来た。
それでも嫌な予感が拭えないハヤトの〈天眼〉が不審な動きを捉える。
「ミゼリアッ!」
「ここに」
ハヤトの叫びよりも早く、ミゼリアはルゥエンを凶刃から庇っていた。帰宅しようと天幕を出た所でリザードマンの若者がナイフを手に襲い掛かるが、彼の傍にいたミゼリアが落ち着いてその一撃を弾いていた。
距離を詰めたハヤトが蹴りと二刀を見舞い、若者はそれをかわし切れず地面に倒れこむ。その間にユアンとヴィルヘルミナがルゥエンを安全な場所へ避難させ、コルネリウスが退路を断てば、ハヤトとミゼリアにより襲撃者は御用となっていた。
「こいつはどーすんだ?」
ハヤトが縄で縛られた襲撃者を見せ、ルゥエンは頭をかく。
「尋問して、追放が妥当かなぁ。実際に死人はまだ出ていないわけだから」
最終的に判断するのは里長だろうが、と付け加え、彼は疲れを顔に出さず襲撃者へと歩み寄る。ミゼリアとユアンを従えたまま、彼は小声で襲撃者に何か問うが、黙秘される。一先ず、襲撃者は里の責任者に預ける事にし、冒険者達はルゥエンを念のため家まで送る事にした。
今回は全て終わった。だが、冒険者たちの胸に不安がよぎる。それは雲霞鳥のうわさが慰霊祭に聞こえたからだろうか?
慰霊祭の準備は無事に終わり、ルゥエンも守れた。そして襲撃者も捉えられた。文句なしの結果だろう。
しかし、この集落に何かが起こりそうな予感が、冒険者達の胸に過っていたのだった。
(終)
「おいおい、何で準備の邪魔になるよーなことしてる奴等が混じってんだよ」
「……? じゅんびの、じゃまを……しに来たのでしょうか?」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングの言葉に、ミゼリア・L・ステュクスもこくり、と頷く。
「……この調子ですと、いつまで経っても慰霊祭が始められ無さそうですね」
コルネリウス・アーラは、『イネス派』の様子を見、ため息を吐く。いや、彼女だけではない。
「なんか、こう……怪しい宗教に引っかかりそうな純朴さですね」
ヴィルヘルミナの脳裏には口八丁で騙されてしまった知人が浮かんでしまっている。
「何故、準備を、優先しないんでしょうか? 一応成人している身なのでしょう?」
憤懣やるかたない様子のユアンの言葉ももっともだ。
それに気になった事もある。
「そういえば……、刃物のようなものを、みた、と……ききました」
ミゼリアの言葉に、ユアンがこくりと頷く。小柄な男性、ルゥエンは頭を掻きながら「そいつぁ、困りましたねぇ」と苦笑いをする。
「準備中に襲われる可能性はあるな……」
ハヤトの言葉に、一同は口には出さない物の警戒することを共有し合った。
各々が準備を手伝おうと動き出す前、コルネリウスはなんとなく気に掛けるミゼリアに声をかける。
「「今回は、よろしくお願いしますね」
「! はい、こちら、こそ……」
憧れであるコルネリウスにそう言われ、ミゼリアは(顔には出さないが)嬉しいのだろう。心なしか雰囲気がちょっと柔らかくなったような気がする。
だがすぐに引き締める。ルゥエンはそんな様子を穏やかに見守っていたが、ミゼリアが歩み寄ってきたのを見、頷いた。
「今回は、ごえい、に、つきます……。よろしく、おねがい、します……」
「こちらこそ」
ルゥエンはミゼリアに対し静かに頭を下げた。
●手伝いを滞りなく
「すみません。確認よろしいでしょうか?」
ヴィルヘルミナはまず、責任者等に声をかけ準備で遅れている物を確認することにした。そして、優先順位を考えると手伝いに来ている面々も集め作業を割り振っていく
「では、献花台設置と会場の清掃をこっちの皆さんで。祭壇のお花に関してはユアンさんを中心にお願いします。それからお年寄りの方用の椅子は……」
〈カリスマ〉を活かした上で声をかければ、うまく動いてくれる。だが、『イネス派』の面々は途中で手を止め、他の者に声をかけてはイネスの考えを広めようとしていた。
その様子はヴィルヘミナ達も見ている。彼らは頷き合うとぱっ、と行動を開始した。ヴィルヘルミナも、それとなく『イネス派』の者に声をかけてみる事にした。
(熱心なのは良いですが、先に済ます事済ませてからではよいのでは?)
そう思ってしまうヴィルヘルミナ。彼女が見ているのも知らず、その『イネス派』の若者は熱心に何かを進めているようだった。
ヴィルヘルミナはそっと相手の方を叩く。
「? 何でしょう?」
「印象悪化は後々に響きますし、順序はきちんとした方が良いように思います。せめて慰霊祭の後とかにしては?」
ほら、あまりしつこいと鬱陶しいとか傍迷惑とか思われるかもしれませんから、とそれとなく言うヴィルヘルミナ。彼女に注意された若者は何か言いたいのを堪え作業に戻る。ヴィルヘルミナの言っていることに間違いはない、と考えたのだろう。彼女は自分も作業を行いつつ、『イネス派』の若者たちの動きに注意することにした。
一方、おかしな動きをする者がいないかも確認する。ルゥエンの傍には手伝いとしてミゼリアがついている。とはいえ、警戒するに越したことは無い。
(刃物を持った人物……。どこにいるのでしょうか)
ヴィルヘルミナは、作業を続けながらも時折周囲を見渡すのだった。
一方、祭壇。
ユアンは、『イネス派』に話しかけられ苛立ちを隠しながら笑顔で作業をする。そこで間に入ったのがコルネリウスだった。
「あら、手がお留守になっていますよ」
と、道具を手渡して作業を割り振る。別の相手には、飾りが足りないから、と花を取りに行かせ、その隙にユアンへ話しかけようとした者がいれば間に入る。
「よかったら、あっちの飾りを手伝ってください。2人でやった方が早く終わりますし」
「あ、あぁ……」
コルネリウスに頼まれ、仕方なくその『イネス派』は彼女に従う。その間にユアンには外の空気を吸って来てもらう事に。目配せすれば「ありがとう、ございますっ」とユアンは一礼し、会場の外に出る。その姿を確認し、コルネリウスは作業に戻った。
コルネリウスは、台に登った『イネス派』の若者へ花を渡し飾り付けてもらう。彼は作業をしながらも、小声で問いかけた。
「貴方は、他の種族の方だから、イネス様の願いというか、頼みの重要性が分からないじゃないか?」
「そうですね。それ故にわからない事も多くありますね」
コルネリウスは1つ頷き、言葉を続ける。
「理念も求めるものも皆さんとは異なるでしょう。長命種にとって転生の話はとても遠いものですけれど、みなさんが大切にしているものがあることはちゃんと解っていますよ」
彼女の言葉に、青年は表情を軟化させる。重要な点は判ってくれている、と感じたのだろう。コルネリウスが「今は、心を癒やして、亡くなられた方々を悼む時間が必要ですから」と言えばそれ以降、勧誘的な事を言わなくなった。
(彼のように、すぐ理解してくれるとよいのですが)
コルネリウスは終わっていない作業がないか見渡す。すると、花を運んでいた者がよろよろと会場に入ってくるのが見えた。
「少しずつで大丈夫ですのに……」
彼女は手の空いたものに声をかけ、共に花を受け取りに行った。
その頃、ハヤトは会場へと敷物を運ぶ面々の中にいた。その中には、先ほどまでリザードマン達にイネスの言葉をきかせようとしていた『イネス派』の者達の姿もあった。
ハヤトは邪魔にしかなっていない面々を集め、睨みをきかせた。
「同胞の魂を気遣うことも出来ねぇ連中が『竜に至る道』を語るなんざちゃんちゃらおかしいだろーがよっ。邪魔すんなら出ていけ。そうじゃないなら、さっさと手伝え」
ハヤトに叱られた面々は顔を見合わせる。彼らの目的は慰霊祭に来る者たちにイネスの言葉を聞かせることである。彼らはしぶしぶハヤト達と共に手伝いを続けることにした。
「こういった準備も、犠牲者の鎮魂の為になるんだと思うぜ。だから、邪魔しないで欲しいんだ」
今度は諭すように言うハヤト。だが、彼は彼らの中に刃物持ちがいないか、目を光らせる。
会場に着くと、きびきびと指揮し、会場をかるく掃いた上で敷物を敷く。天幕のたるみなども確認していきながらも〈天眼〉を使って警戒を怠らなかった。
亡くなった子供達の人数などを記録した物を準備するルゥエン。その傍らで、ミゼリアは助手を務めながらも準備する人間の中に刃物持ちがいないか注意深く見守る。
時折手伝いに来た人が書類を取りに来たり、まとめ役が式についての打ち合わせにきたりするが、傍らのミゼリアは手伝いながら警戒を続ける。
(奇襲も……、あるかも、しれません)
様々なパターンが考えられる、と気が抜けないようだ。
その一方、ホムンクルスとしてはルゥエンの研究も気になるようで、それとなく声をかける。
「『転生の為に他の生き物のエーテルを取り込む方法』について?」
彼女が頷くとルゥエンは少し考える。
「まぁ、ざっくりとだけど……」
とルゥエンなりにかみ砕いて説明してくれてはいるのだが、ちょっと難しい。ミゼリアはメモを取ろうとしたのだが……そこへ現れたのが、フードをつけたロータスだ。
「ルゥエン殿、お茶をお持ちしましたわ」
「……そこに置いといてくれ。後で頂く」
ロータスの言葉にルゥエンは振り向くことなく、そっけなく言った。ミゼリアは、ロータスが持ってきたお茶に何も入っていないか、それが気になった。
「なぜ、そんなにまで語らないのですか?」
ロータスは、不思議そうにルゥエンへ問うが、間にそれとなく入ったミゼリアが僅かに目を細める。
「……いまは、じゅんび中です。ここでおしゃべりしている、ひまは、ないはず……です」
「でも、息が詰まってしまいますわ。少しぐらいお茶を飲む時間があってもいいのではなくて?」
ロータスは微笑みながら言うも、眼差しには軽蔑が混じっているようにミゼリアには思えた。
ルゥエンはミゼリアを呼ぶと、共に儀式に必要な書物やらお香などを棚から取り出す。
「ロータスさん……でしたっけ? これ、運ぶの……手伝って、ください」
ミゼリアは慰霊祭で使うお香や楽譜をロータスに差し出す。彼女は何か言いたげだったが、ルゥエンの視線を感じ「わかりましたわ」とミゼリアからそれを受け取った。
「今回は、代表者が子供達へかける言葉を纏めている。病気などで参加できない人からの言葉もあるから、それを運ぶのも手伝って欲しい」
「わかりました」
ルゥエンの指示に従うミゼリア。彼女は刃物を持った相手が再び来ないか気になりながらも、ロータスを伴い会場へと荷物を運んで行った。
●刃物の行方
少しだけ、時間を遡る。
(冒険者か……。さっきの刃物を見られているならば、まずいな)
メドゥの指先に所属するリザードマンの若者は、誰に指令されたわけでもなく、里に混乱を起こしたいがために『イネス派』という若者たちの中に忍び込み、混じる事で面白そうな事を知った。慰霊祭を手伝う者の中に、ラスリャマスの事績を研究した者がいるという。彼の研究を欲しがる存在もおり、タイミングが良ければ『イネス派』のだれかに罪を擦り付けられると考えたし、冒険者が危険視して殺したことにしてもいい、とも考えた。だが……。
刃物持ちは、衣服にそれを隠し準備を進める。ハヤトが敷物を取りに何人か連れて行くのを見た。彼は、一番強そうなゴブリンの若者が離れた事に安堵しそれとなくヴィルヘルミナの指示に従い、コルネリウス達と共に祭壇の準備に入る。隙をついて、現れたルゥエンを刺すつもりだ。
しかし、ヴィルヘルミナとコルネリウスもまた歴戦の冒険者である。彼女たちの采配により、隙なく作業を頼まれる。
ひと段落する頃にはハヤトも戻ってきており、掃除を行う。なにか事を起こせば、刈り取られるのは自分の方だ。そう悟った刃物持ちは、もう一人……ミゼリアの姿がない事に気付いた。
「黒髪の子はどうした? ルゥエン殿の手伝いか?」
問われたヴィルヘルミナは困ったように微笑む。
「たしかルゥエン殿と一緒に書類の準備をしていたかと思いますが、場所は判りません。それにしても、どうしてその子について聞くんです?」
「いや、そろそろ休憩を入れても大丈夫じゃないか? まとめ役の人にも確認しようと思って」
刃物持ちはそれとなく違和感のないように言うが、その後ろからコルネリウスがまとめ役やユアンと共にお茶を持って現れる。
「どうにか巻き返せたみたいですし、お茶にしましょう!」
「ルゥエン達もそろそろ来るんじゃね?」
「ルゥエン殿たちには、ロータス殿が持っていきました」
ハヤトの言葉に反応したのは、まとめ役の老人だった。刃物持ちは舌打ちしたい気持ちを抑え、一先ず「なら、安心しました」と笑っておいた。
(ちょっと、きな臭い気がしますね)
休憩の呼びかけをしようとした人物を見、コルネリウスの表情が僅かに曇る。
(この違和感はどこからくるのかしら?)
コルネリウスは一先ず他の冒険者達と情報を共有することにした。
そうしている間に、ルゥエンとミゼリア、ロータスが姿を現した。
刃物持ちは、手を拱いた。
ルゥエンの傍にはミゼリアがいる。そして、さりげなくだがどの冒険者達もルゥエンを気にかけているのである。
(隙が無い)
ルゥエンが一人になったところや、大人数に囲まれたところで刺そうと考えたが、そうはならなかった。
「どうしましたか? 顔色が優れませんが?」
ヴィルヘルミナに問われ刃物持ちは「なんでもありません」と首を振った。
彼は、仕方なく今はやめておこう、と考え直した。
●どうにかこうにか……。
休憩後、まとめ役の老人が準備の終了を告げる。
『イネス派』を名乗る若者たちは彼から厳しい言葉をもらったようだが、冒険者達にやり込められたのもあり少しは聞いているようだった。
やがて、慰霊祭の参加者たちがやってきて、香がたかれる中静かに天幕へと入り祈りを捧げていく。
老人に代わりルゥエンが言葉を読み解く。
厳かな空気の中、コルネリウスもまた花と共に祈りを捧げ、ヴィルヘルミナとミゼリアもさりげなく『イネス派』や件の刃物を持った物を警戒する。
(あいつら、ここでの勧誘も諦めたみたいだぜ)
(なら、よいのですが)
ハヤトは『イネス派』の動き等を〈天眼〉を使い念のため確認。彼らもまた静かに祈りを捧げていたことに、ユアンは安堵する。だが、ハヤトは慰霊祭が終わるまでは警戒を緩めないつもりだ。
そして、慰霊祭は恙なく幕を閉じた。
●一閃
慰霊祭は終わり、参列者は三々五々帰宅していく。
そして、まとめ役の話によるとあと2,3日は自由に祈れるよう会場をそのままにしておくそうで片付けはまた後日になるという。
冒険者達は『イネス』派を自称する者達をけん制し、その上で襲撃させないことで無事に慰霊祭を終えることが出来た。
それでも嫌な予感が拭えないハヤトの〈天眼〉が不審な動きを捉える。
「ミゼリアッ!」
「ここに」
ハヤトの叫びよりも早く、ミゼリアはルゥエンを凶刃から庇っていた。帰宅しようと天幕を出た所でリザードマンの若者がナイフを手に襲い掛かるが、彼の傍にいたミゼリアが落ち着いてその一撃を弾いていた。
距離を詰めたハヤトが蹴りと二刀を見舞い、若者はそれをかわし切れず地面に倒れこむ。その間にユアンとヴィルヘルミナがルゥエンを安全な場所へ避難させ、コルネリウスが退路を断てば、ハヤトとミゼリアにより襲撃者は御用となっていた。
「こいつはどーすんだ?」
ハヤトが縄で縛られた襲撃者を見せ、ルゥエンは頭をかく。
「尋問して、追放が妥当かなぁ。実際に死人はまだ出ていないわけだから」
最終的に判断するのは里長だろうが、と付け加え、彼は疲れを顔に出さず襲撃者へと歩み寄る。ミゼリアとユアンを従えたまま、彼は小声で襲撃者に何か問うが、黙秘される。一先ず、襲撃者は里の責任者に預ける事にし、冒険者達はルゥエンを念のため家まで送る事にした。
今回は全て終わった。だが、冒険者たちの胸に不安がよぎる。それは雲霞鳥のうわさが慰霊祭に聞こえたからだろうか?
慰霊祭の準備は無事に終わり、ルゥエンも守れた。そして襲撃者も捉えられた。文句なしの結果だろう。
しかし、この集落に何かが起こりそうな予感が、冒険者達の胸に過っていたのだった。
(終)
マスターコメント
おつかれさまです。
今回は、このようになりました。手厚いカバーのお陰で大成功です。
対襲撃者についてもお見事でした。
また縁がありましたら宜しくお願いします。
ショートシナリオ難しい 報酬:標準4 / 4〜6人
2023年07月03日 02時18分59秒 公開
大成功
相談掲示板
…ウォーリアの、ミゼリア…です。 ひとまず…ルゥエンさんが、また、おそわれるかもしれない…と聞きました、ので、 護衛といいますか…そんな感じで動けたらな…と。 なにか、ご指示があれば、そのようにしますので…お気軽に、お申しつけ…ください。
ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いしますね。 取り急ぎ、ユアンさんが大分お怒りのようですし、イネス派の方々の相手を引き受けつつ、彼女のフォローが出来たら良いなと思っています。
ヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いします。 護衛の方はいるようですし、こちらは慰霊祭の準備に集中しましょうか。 ちょっかいかけてくる方々は適当にいなしておきます。
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 何だか慰霊祭の準備を手伝いに来てんだか邪魔しに来てんだかわからねぇ連中が混じってるらしーな。 刃物をチラつかせてた輩までいたとなると穏やかじゃねぇな… 俺は準備を手伝いつつ怪しい動きをしてる奴がいれば宗波でマークして人混みに紛れて逃げられたりしねーよーに対策しとくつもりだ!
お集まりいただき、誠にありがとうございます。 ……本当に、ほ・ん・と・う・に! 困った方々、ですね(ため息) 報告書(プレイング等)の提出は6月 16日23:00までにお願いします、ね? 特に装備やスキルの報告(セット)忘れにご注意を。