湖水浴は魔獣駆除の後で

おおくまねこ

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シナリオID:3026

オープニング

●
「よし、ゴールだ。今回もボクの勝ちだね」
「くっ……あそこで山賊のカードを温存しておけばよかった。やるな、ベリアル」
「ふはは、ボクの豪運を甘くみたな。……おっと。もうこんな時間か。やはりボードゲームは良い。時間を経つのも忘れる」

 ゲームを制した美術商ベリアルは上機嫌で帰り支度をした。今日は旧知の領主と商談をしたあと、久々にボードゲームを楽しんでいたのだ。

「またいつでも遊びに来てくれよ。……あ、そうそう。君のアイデアはさっそく試してみるよ。『例の件』は冒険者ギルドに依頼を出してみる」
「ああ。帝国崩壊以降のルーキー世代はなかなかの連中だ。ボクも以前、連中を甘く見て痛い目にあった。だが、腕は確かだからね、利用できる分には利用してやるといい」
「うん、わかった。私は別にやましいこともないし、君の提案してくれた条件なら格安で障害を排除してくれるだろう」
「うん。それがいい。ところで、依頼を出すなら、ボクも見学して構わないか?」
 ベリアルがそう切り出すと、画商はきょとんとしたが、すぐ頷いた。

「? ああ。構わないよ。君なら魔獣に襲われても平気だろうし」
「ありがとう。じゃあ、日程が決まったらまた知らせてくれ」

 ベリアルはニッコリ笑い、友人に別れを告げた。
「これはボクにとっても願ってもないチャンスだ。ボクも水着を用意しておこうかな」

●避暑地での依頼
「新しい依頼です。エラトゥーン都市同盟の避暑地の一つである、『カルプス湖畔』にアライグマ型の魔獣が繁殖してしまい、地元の領主様が困っているそうです。魔獣退治の依頼ですね。報酬の金額はちょっと相場より控え目ですが、魔獣退治後は湖のほとりのペンションでタダで観光させて下さるそうです。カルプス湖畔はセレブ向けの高級リゾート地です。これはなかなかのおススメ案件ですよ!」

 ギルド嬢は興奮気味に、依頼書をカウンターの上に置いた。興味を持った冒険者達はこぞって依頼書を回し読みする。ターゲットのアライグマ型の魔獣『サベージラスカル』は、とても獰猛で縄張りに近づいてくる者には容赦なく攻撃をしかけてくる。しかし、戦闘力はコボルト以下なので、授恵者ならば駆け出しでも無双できるような相手だ。ただ、数が多いので、今回は大量の冒険者を呼び寄せての駆除作戦を実行することにしたようだ。

「まあ、サベージラスカルくらいなら皆さんなら楽勝でしょう。これはもう、観光が本番といっていいかもです! カルプス湖畔はきれいな湖があります。6月ならもう泳ぐこともできますよ! 水着の準備もしっかりしておいてくださいね!」

解説

目標:アライグマ魔獣を駆除した後、湖畔でリゾートを楽しむ。 舞台:エラトゥーン都市同盟、湖がきれいな観光地、カルプス湖畔 状況:都市同盟の避暑地、カルパス湖畔の土地の持ち主は本格的な観光シーズン到来の前に、繁殖してしまったアライグマ魔獣を駆除したいと考え、冒険者達に広く募集をかけました。魔獣は数が多いものの、たいして強くはないので、冒険者にとっては楽勝な相手です。さっさと片付けて、高級リゾートでのひとときを楽しみましょう! ※今回は魔獣駆除のシナリオとなっていますが、敵が弱いので戦闘判定は免除いたします。駆除のプレイングを書いていただいてもOKですが、遊んでる場面のみの方と判定上の優劣はございません。 ●避暑地「カルパス湖畔」について 都市同盟の高原地帯にある避暑地。夏には多くの観光客が訪れるが、今はまだ一般開放していないため、閑散としている。きれいな湖があり、泳げたりスワンボートで逢瀬を楽しめたりする。 また、アユなどの淡水魚が釣れる。バーベキューセット(食材は有料)や双眼鏡、各種カードゲーム・ボードゲームの貸し出し有り。 ●登場NPC 魔獣サベージラスカル アライグマ型の魔獣。戦闘力はコボルト以下なので、授恵者ならば駆け出しでも無双できるような相手。数は多いので、駆除は十人がかりで丸一日かかる。なお、肉は美味い。 ベリアル 依頼人の友人である美術商。避暑地で観光を楽しんでいる。冒険者の仕事は手伝わないが、ゲームの挑戦には快く応じる。ちなみに麻のシャツにトランクスの海パンというとてもラフな格好をしている。 ティカ 冒険者ギルド所属の狩人。普段は帝国にいるが、リゾートを楽しみにきた。おいしい料理を与えるとなつく。森出身のエルフなのでテーブルゲームは未経験。水着はビキニ。

マスターより

こんにちは。おおくまねこです。今年も水着回やります! 今回は一応仕事だけどほぼ遊びの依頼となります。水着になったり、虫取り少年になったり。ゲーマーになったりして、リゾートを楽しみましょう! ※スケジュールの都合により、リプレイ執筆帰期間は長めにとっております。

リプレイ

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「サベージラスカル……アライグマの魔獣ですか……」
(アライグマは外見に似合わず気性が荒い上に雑食で餌を取るのが上手いので、他の生物を餌にしたり餌を奪って追い出したりするので問題だそうですね)
 トーラは以前どこかで聞いたアライグマの生態について振り返る。見た目は可愛らしいが、案外凶暴な害獣らしい。魔獣ならなおさら危険だろう。
「しっかり駆除しましょう!」
 トーラははりきり、茂みの中へと分け入っていった。

「とう! えい!」
 トーラは愛用の短剣を振るい、群れをなして襲い掛かってくるサベージラスカルを次々と仕留めていく。サベージラスカルの動きは猫のように素早く、人間の運動能力では魔獣達の動きを捉えるのは難しいのだが、それはあくまで常人の話。熟練の冒険者であるトーラにはサベージラスカルの動きは止まって見えた。

「あまり強くない魔獣でよかったです」
 トーラは倒した魔獣達を背負いカゴに詰め込み、湖のほとりに帰ってきた。

「お疲れ様なのだ。死体は不要なら私が預かるのだ。余った肉で燻製肉も作るつもりなのだ」
「じゃあせっかくなのでお願いします!」
「お昼にまた声をかけるのだ。それまでは遊んでいるといいだろう」
「ありがとうございます! じゃあちょっと遊んできますね!」
 倒したアライグマをストレガ・L・リベルガストラに引き渡し、トーラは湖へと突っ走っていった。

●
「駆除が終わればリゾートですね! 少しでもセレブな空気を感じて身に付けて、いざという時に失態を見せないようにしないとです!」
 服についた返り血を洗い流したトーラは水着に着替えていた。高級リゾート地である湖を前に、こぶしをギュッと握り締めるトーラ。彼女の水着はタンクトップタイプのビキニにパレオを巻いて足を出さない様にしたもので、涼し気な雰囲気が少女らしい魅力を引き立てている。靴は水着に合わせ、サンダルを履いていた。
「ええと、セレブって何をするんでしょう?」
 トーラはとりあえず、パラソルの下のチェアに横になって、トロピカルドリンクを片手に優雅(?)に過ごしてみた。

「……他にすることが思い付きませんね」
 すぐ飽きたトーラは他の方のセレブな様子を観察することにした。セレブっぽい人というと、貴族の家系のシルヴィア・A・カペルや、お金持ちだというベリアルあたりだろうか。

「あ、ちょうど二人一緒にいますね。何をしているんでしょう?」
 トーラがそちらを見てみると、二人は何やら薔薇の絵柄が書かれたカードを机に並べ、たならぬ気迫を漂わせていた。
「なるほど、セレブは湖のほとりでカードゲームをするのですね!」
 トーラは感心した。

「イズルさんもセレブっぽいですよね。あの人はどこに……あ、いました」
 トーラがイズル・M・ヴォルゴールを探すと、彼はなぜか湖に足を突っ込みながら、魚釣りをしていた。
「なるほど、湖で足を冷やしながら魚釣りをするのがセレブスタイルなのですね!」
 こうして、また一つトーラは賢くなった(?)のだった。

●
「まぁ、可愛らしい……ですが増え過ぎてしまったものは仕方御座いませんね。せめて苦しまず逝けるよう一撃で仕留めましょう」
「アライグマ魔獣……危険なのはわかるが……くっ、もふもふしている」
 ネーヴェ・グラヌローザは心を鬼にし、魔法攻撃でアライグマを射殺した。アルフィー・リッパーはネーヴェに返り血が飛ばないように、がんばってガードした。もちろん、ネーヴェが怪我がしないように、率先して前に出ている。

「今度は狩られないところに生まれてこいよ……」
 魔獣の亡骸に手を合わせた後、アルフィーは背負ったカゴにぽんぽんと倒したアライグマを収納していく。
「アルフィーさん、お気遣いありがとうございます。疲れてきたらカゴ、私も交代しますね」

●
「ネーヴェあれ乗りたい! あの奥の島まで行こう!」
 おいしいお昼ごはんを食べた後、スワンボートを見つけたアルフィーは目をキラキラさせていた。湖にぷかぷかと浮かぶ、白鳥の形をした足漕ぎボート。造形美を追求したような優雅なフォルムに、アルフィーは見惚れていた。
「ふふっ、でしたら参りましょうか。白鳥の形のボートなんですのね。初めて乗りますわ」
 ネーヴェはくすりと笑い、アルフィーと共にスワンボートに近づいて行った。
「ネーヴェ。乗る時揺れるぞ。転ばないように気を付けろ」
「ありがとうございます、アルフィーさん」
 先にボートに乗ったアルフィーの差し出す手を取り、ネーヴェはスワンボートに乗り込んだ。

(単純な好奇心で乗ったけど2人の息を合わせないといけないから難しいな。それになんかこう、思ったよりもネーヴェと近いような……)
 アルフィーがチラリと横に視線を流すと、ネーヴェの透き通るように白いうなじが目に入った。ネーヴェは微笑みを浮かべ、前を見てペダルを漕いでいる。
 トクン、トクン。
 アルフィーは自覚した途端にドキドキしてしまい、この心臓の音が聞こえないようにと願いながらも、ネーヴェとリズムを合わせてペダルを漕ぐ。

「少し漕ぐのにコツが要りますけど、声を掛け合いながら漕ぐのは楽しいですわね」
「そ、そうだな!」
「……どうかなさいました? 顔が赤いような……お疲れでしょうか」
 ネーヴェがアルフィーの額に触れた。その時、ドクン、とアルフィーの心臓が大きく跳ねる。
「大丈夫だ。……ふわりと撫でる風が気持ちいいな」
「ええ、そうですわね」
 ネーヴェは頷くと、暫し自然の音に耳を傾けた。波の音や、風の音、そして、小鳥のさえずりが聞こえる。狩りの喧騒はこの湖の上までは届かなかった。
(穏やかな時間、心地良さを感じるのは自然の中にいるだけでなく、彼が隣にいるからかも)
 ネーヴェとアルフィーは、湖の上で二人の時間を楽しんだのだった。

●
「雑食故癖は食べたものによるが、洗熊は美味いのだ」
 ストレガはエプロンを腰に巻き、アライグマの調理にはりきっていた。湖のほとりに自分のコーナーを作ったストレガはアライグマ魔獣の死体を湖で洗い、助手に志願したティカと共に、皆が倒した洗熊を只管(ひたすら)解体していく。
(肉体と魂の供養の為是を放置する訳にはいかないのだ。湖の一部が赤に染まってでも私はやり遂げるのだ)
 血抜き・皮剥ぎ、内臓・骨抜き、肉の切り出し。ストレガは淀みない手つきでアライグマを捌いていく。小一時間もすると、ほとりにはストレガが干した大量のアライグマの毛皮が並んでいた。
「皮は売物にできるのだ」
 さらに骨は屑野菜と一緒に煮こむ。後で骨は砕いて肥料にするのだ。そして切り分けた肉と内臓を下処理し、醤油と蜂蜜を使用したタレを使い、バーベキュー用の鉄板を借りて甘辛く焼いてみた。

「これはよい香りだ。ストレガ殿、今日も見事なシェフっぷりよな」
 寄ってきたのは狩りから戻ってきたベルク・オスマットだった。
「お疲れ様なのだ。ベルク殿も食べるであるか?」
「ぜひ」
「やあ、食べるだけならボクも手伝ってあげるよ」
 その時、ほとりで遊んでいたベリアルも寄ってきた。
「うむ、見ての通りとても一人では食べきれない量なのだ。そうしてもらえるとアライグマも浮かばれるのだ」
「では、いただこう」
 ベリアルは食通オーラを醸し出しながら、ストレガの焼いた肉を食べ始めた。
「むむっ! これはうまい! シンプルな調理でこれほど肉の味を引き出すとは! 君はさては宮廷料理人か何かだな!」
「私は学者なのだ。食の探究もまた、叡智への探究の一つである。食は万世共通の幸福なれば」
 
 その後余った肉は燻製にし、希望する冒険者達やティカ(帝国へのお土産らしい)、ベリアルが持ち帰った。

●
「サベージラスカルは旨いらしいぞ、楽しみだなショウガ」
「にゃー!」
 レピド・クロサイトはペットのショウガを連れ、ウキウキした様子で狩りに出向いた。実用一辺倒で買った艶やかな水着と簡素なシャツも持ってきたので、準備は万端だ。気分は完全にレジャーであった。

「きゃー! 可愛い猫ちゃん!」
「まあ、ショウガさんも連れてきたのですか?」
「もふもふ発見……!」
 レピドがショウガを肩に乗せて集合場所で待機していると、エルフのティカと猫友のネーヴェ、そしてモフモフ有識者のアルフィーが寄ってきた。

「名前はショウガという。種類はキジトラだ」
「この猫ちゃんも狩りに連れて行くんですか? サベージラスカルに襲われちゃいますよ」
 ティカの言葉にレピドはハッとした。相手は雑食性の凶暴な魔獣だ。猫は捕食対象かもしれない。
「……そういえばそうだな。弱い魔獣だと聞いていたが、さすがにショウガよりは強いだろう。困ったな……」
 レピドはきょろきょろと、ショウガを預かってくれそうな人を探した。とはいえ、周りは皆冒険者。一緒に狩りに出る者が大半だ。
「あ、じゃあ私が預かっておきますよ。私はストレガさんのお料理の試食をする使命がありますので」
「そうなのか。では頼む」
 こうして、ショウガはティカに預けられた。

●
「戻ったぞ、ショウガ。ティカもありがとう」
「にゃあ」
 狩りを終え、レピドは大量の魔獣を抱えて戻って来た。手早くアライグマを解体し、調理台の上に並べる。
「味付け有と猫用に味付け無を用意して……と、後は肉を焼くだけだな。BBQはいい、鍋に入れないから爆発しない」
 鍋を爆発させる悪癖を持つ男は、串に刺した肉を焚火で炙りながら述懐した。

●
「ベリアル。アンタも来ていたのか。これは……どういうルールなんだ?」
 ほとりで暇そうにしていたベリアルを発見したレピドは、彼に話しかけてみた。
(カードゲームは酒場でやっている者を見たことがあるが、こういう場所でもやるんだな)
「おや、君はドゥジンシの……。興味があるかね。これは学園生が開発したゲームで、『デュエルクリーパーズ』というゲームだ。二人のプレイヤーは召喚士となり、クリーパーや魔獣を召喚してお互いのライフポイントを削り合うんだ」
「なるほど、クリーパーの勉強にいいかもしれない。ルールを教えてくれないか」
「いいだろう」
 ベリアルは我が意を得たり、とばかりにニヤリと笑った。

●
「ここ最近はメドゥ共の暗躍で疲れたから、のんびりさせてもらうとするか」
 ベルクは食事を終えた後、水着に着替え、湖の上でぷかぷかと浮かんでいた。彼女の水着は黒地の褌と晒しを水着とするシャルガネの古式スタイルである。
「ふう……癒される……」
 瞳を閉じ、しばし水面(みなも)に揺られるベルク。適度な冷たさの湖の水が実に心地よい。海とは違い塩気もないので、べとべとになる心配もないだろう。

「他の連中もあらかた戻って来たか。みんな遊んでおるのか?」
 ベルクはチラリと、陸の方に目をやった。
「おや、あれは白鳥を模したボートか? まさか、あの巨体で白鳥に擬態しているつもりなのか? 乗っている者も丸見えではないか! あれでは側面から攻撃されれば容易く沈むであろう。とうてい猟にも偵察に役立つとは思えぬ造詣だが……」

 ベルクはほとりから発進したスワンボートを凝視した。中にはネーヴェとアルフィーが乗っており、二人は微笑みを浮かべ、話をしながら湖の中心へと向かっていた。
「なるほど、逢瀬用のボートか。平和でよろしい。おや? 岸から何やら叫び声が聞こえるな……」
 ベルクがやかましい方を見ると、レピドとベリアルが向かい合い、カードゲームをしていた。

「ボクのターンだ! 黒竜のドラゴンブレスでレピドのモンスターに直接攻撃を仕掛ける!」
「やるな、ベリアル! 俺は手札より、『魔獣化』を発動! キジトラマンを巨大化させてパワーアップだ!」

「あやつらがやっておるのは王国の遊戯か? 札を出すのにいちいちあんな風に叫ぶ必要があるのか?」
 のちにベルクがレピドに確認したところ、「相手が叫んでいたのでそういうマナーなのだと思った」と供述していた。

●
「ママお腹空いた」
「ママお腹空いた」
 魔獣退治が終わった後、ヴィナスとルーンス・ラグネルは声を揃え、カイン・ステラに間延びした声で食事を要求した。すると、カインはため息を吐いた。
「ママじゃねえ」
「これは形式美だよ」
 ルーンスは微笑んだ。母性溢れるカイン(注:男性)は、冒険者仲間の間ではしばしばお母さんと呼ばれているのだ。

「お前らも料理作れるんだから作れよ」
「じゃあ俺はスープ作ろう」
(元々作るつもりだったのは言わないでおこう)
「では僕は付け合わせのパンを担当しよう」
 ヴィナスとルーンスはぴしっと返事をし、すぐに調理の準備にとりかかった。ヴィナスとルーンスは持ち込んでいた箱から調理道具一式を取り出し、調理台の上に並べる。
「用意がいいな」
 お母さん……じゃなかった、カインも『買物籠』(マジカルポケット)から料理道具が入ったバックパックを出し、調理を開始した。

「アライグマの肉は……牛肉に似た感じだし、アヒージョにするか」
 エプロンを装着したカインは解体したサベージ・ラスカルの肉をしっかり血抜きした後、角切りにした。さらにその後、マッシュルームやにんにく、鷹の爪などを油で炒め、各種調味料で下味つけた魔獣のサイコロステーキを油の中で転がし、サベージ・ラスカルのステーキアヒージョの完成だ。

「飲み物はアップルミントのコーディアルでいいか?」
「うん」
「うん」
(後で食事って思ってたから、家で準備はしてきてたんだよね。後は焼くだけ)
 ルーンスは用意していたパン生地を鍋に入れ、蓋をして焼いた。

「輸送箱(マジカルポケット)って屋外料理の親友だよねー」
「食材の傷みとか考えなくていい収納箱(マジカルポケット)は実にいい。容量問題があるから商用には無理でも、個人レベルなら輸送の活用もできるし」
「僕はビーズとかの割れ物輸送にも活用してるんだけどね、にいさまが言うように容量問題があるからガッツリは難しいよね」
 買物籠、収納箱、輸送箱。この三人はニックネームで呼んでいるが、全てマジカルポケットのことである。中に放り込んでおけば食材の鮮度も保たれるうえ、重さも無視できるマジカルポケットを食材の輸送に使用する冒険者は少なくない。

●
「「「いただきます」」」
 三人は仲良く食事を始めた。メニューは魔獣のステーキのアヒージョとスープ、そしてパンである。自分達で作った料理をむしゃむしゃ食べ、三人は団らんの時を迎えた。

「にいさまも料理上手だし、僕も冒険者生活で腕を上げたけど、カインの料理には叶う気がしないよ」
「そうだね。カインの料理は母の味だよ」
「カインは母より母らしいよ!」
 二人が口をそろえてカインの料理をほめると、
「褒められてる気がしねぇ」
 とカインは複雑そうな表情だ。
(けど、産んだから母親になれる訳じゃねぇのは孤児院生活で知ってるし、きっとそういう親なんだろうな)
 口にはしなかったが、カインは二人を見てそんな風に思った。

(本気で怒らないのは、俺達の母親が母親になれなかった女性だと推測しているのだろう。カインはお人好しだ)
(最早実母(アレ)には僕も製造元以上の感情がないけど、口で色々言っても言わせてくれるカインには感謝してるよ)

「「ありがとう、カインお母さん」」
 こうして、カインとヴィナス、ルーンスのトリオは楽しくバーベキューの時間を過ごした。

●
「やあ、久しぶりだね。ベリアル。私はシルヴィア・A・カペル。といっても以前はダンジョン攻略中だったから、ゆっくり話す機会はなかったが」
 狩りを終えた後、私服に着替えたシルヴィアは湖のそばでレピドと遊んでいたベリアルに話しかけた。

「こんにちは。そういう君は、以前生徒会長(パーシア)君の護衛だった冒険者の一人かな」
「その通りだ、ベリアル。私もゲームは好きでね。私と勝負してくれないかな」
 シルヴィアは微笑み、懐から白薔薇の花が描かれたカードケースを取り出した。シルヴィアはカードケースの中身を取り出し、机の上に並べた。薔薇の花と人間が描かれた、数枚の絵違いのカードだ。

「ほう。ボクの知らないゲームだな。どうやら人間の女性と花の成長が題材のゲームのようだが?」
「これはカペル領で流行っているゲームなんだ。ルールを説明しよう」

●ROSE&SEEDのルール
・カードはお互いに同時に出す。それぞれ自身の手札から一枚を選び卓上に提示。勝敗は薔薇の絵の成長の大きさで決まり、「薔薇と騎士」が最強のカードだが、最弱のカードである『種と姫』と『薔薇と騎士』の勝負の時のみ、例外的に『種と姫』が勝利する。
・一度に出せるカードは一枚のみで交換は出来ない。また、一度使った札は使えない。
・三回勝負で先に二勝した者が勝利。

●
「なるほど、理解したよ。読み合いのゲームというわけだね」
「理解が早いね。さすが、ゲーム慣れしている」
 シルヴィアはカードの表面を向けたまま、自分とベリアルにカードを均等に配った。このゲームには「引き運」はない。最初にお互いに全てのカードを手札に配られるので、純粋にカードを出す順番と組み合わせだけで勝敗が決まるゲームである。

「どうせなら、賭けをしないか。私が勝ったらカペルの領都に美術商がより来やすくする為にはどうすれば良いか意見を聞きたい」
「ふむ。名うての美術商であるボクの意見を拝聴したいというのならそのぐらいは構わないが。ボクが勝った場合は?」
「その時は、所持金の範囲で君の商品を一つ買うよ。君の審美眼も知りたいしね」
「いいだろう。さっそく始めようじゃないか」

●
 第一戦はベリアルが『薔薇と騎士』の次に強力なカードを切り、シルヴィアに勝利した。
「まずは一勝だね」
「ああ、だが勝負はまだこれからだ」
(強気の攻めだな……次も強めのカードで来るかもしれない)

 第二戦。ベリアルは『薔薇と騎士』のカードを出した。シルヴィアが出したのは、『種と姫』のカードだ。
「グッド。このままストレート勝ちしてしまうかと思ったよ」
「ふふ、早ければ次で決まるかもしれないね」

 第三戦。両者は同じカードを出し、結果はドローとなった。
 第四戦。
(ベリアルはまだ『種と姫』を使っていない。『薔薇と騎士』を使うべきか……)
 シルヴィアは熟考の末、カードを出した。シルヴィアが出したのは、『薔薇と騎士』のカードだった。ベリアルが出していたのは、『種と姫』だ。

「まいどありー」
「く、このゲームで私が負けるとは……やるじゃないか、ベリアル」
「君にお勧めの商品は花瓶かな? 領主様にもよろしく言っておいてくれ」

 シルヴィアはベリアルに予算ギリギリの値段で花瓶を買わされた。だが、その審美眼は確かなもので、花瓶は薔薇を生けるにはちょうどよい品物だった。

●
「妹(いもうと)、どっちが多く獲物を狩れるか競争しようぜ」
 ペルゼィックはヘレン・ワーグナーにアライグマ魔獣(サベージ・ラスカル)の狩猟競争を持ちかけた。
「おー……負けたら罰ゲームしよ」
 ヘレンはコクリと頷く。こうして、二人はスコアを競うことになった。

「行ってらっしゃい。俺はバーベキューの準備しとくから」
 イズル・M・ヴォルゴールは二人の荷物を預かり、バーベキューの準備をすることにした。今回の魔獣は大して強くはないらしいので、二人だけでも問題ないだろう。他の冒険者もいっぱいいるし。

「おう。準備よろしくな、イル。じゃあ行ってくるわ」
「イズル、おいしいごはんよろしく」
 二人は武器を持ち、森の中へと出かけて行った。

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「ふっ!」
 ヘレンが大太刀を振るうたび、エーテルの刃が乱れ飛ぶ。衝撃刃は数メートル先の魔獣を切り裂き、衝撃波は魔獣の群れをなぎ倒し、エーテルを込めた大太刀での薙ぎ払いは、周りの樹木ごと魔獣を真っ二つにした。小さな台風の如き勢いでヘレンが暴れると、魔獣がことごとく殲滅されていく。

「あ。ここにもいた」
 群れからはぐれた個体を見つけたヘレンは大太刀で魔獣の下半身を狙った。あえてトドメは刺さず、助けに来る仲間を狙う作戦だ。しかし、ヘレンの破砕脚は威力が大きすぎて、魔獣は一撃で真っ二つになってしまった。
「おおっと。次は尻尾でも狙おうかな。そりゃ勝負なんだしガチでやらなきゃ……」

 一方、魔獣の巣を発見したペルゼィックは茂みに身を隠したまま、杖を魔獣の群れへと向けた。不意打ちで放たれた冷気の嵐は魔獣達の全身を氷結させ、心臓を凍り付かせた。さらに、ペルゼィックは光の雨を何度も降らせ、魔獣達を根こそぎ仕留めていく。
「この巣穴は、死体を置いとくのに使えそうだな」
 攻撃魔法で無理やり巣穴を大きくしたペルゼィックは、倒した魔獣を保管する貯蔵庫として活用した。
「一応フタしとくか」
 ペルゼィックはアイアンウォールで蓋をし、次の獲物を探しにいった。

●
「ジークとヘレン、どっちが勝つかな?」
 イズル・M・ヴォルゴールは黙々とバーベキューの準備をしていた。生活魔法で火を起こし、ケトルでお湯を沸かしつつ、とりあえず芋を焼く。
「焼けるまでの間は釣りでもするか」
 イズルは焚火のすぐ近くで釣り竿を取り出した。切り株の椅子に腰かけ、脚だけ湖に入れ、静かにその辺で捕まえた虫を付けた釣り糸を垂らす。びかびかと発光するイズルの足は、魚を引き寄せる撒き餌だ。
「平和だな……お、引いてる」
 イズルが針を引き上げると、20数センチの大きさの鮎がかかっていた。
「鮎か……釣りたてを塩焼きにするとおいしいんだよな! ジークとヘレンの分も釣れたらいいな」

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「お、6匹目だ。ここ、穴場なのか? さて、こいつも塩焼きに……ん?」
「にゃあ」
 イズルが釣り上げた鮎を串に突き刺そうとすると、いつの間にか猫が一匹イズルの近くに来ていた。猫はイズルが釣り上げた魚……ではなく、香ばしい香りを放つ焼き魚の方を凝視している。

「キジトラ? 誰かのペットかな? いっぱい連れてるし、一匹あげる」
 イズルは冷ましていた鮎の塩焼きを一匹、キジトラへと放った。するとキジトラは「にゃあ」と鳴き、塩焼きを咥えてどこかに去っていった。

「おーい! 戻ったぞ!」
「なんかいい匂いがする! 焼き魚?」
「お。戻ってきたか。二人ともお疲れ。で、どっちが勝ったんだ?」
「途中から数えるのめんどくさくなっちゃった。数えてー」

●
 イズルの厳正なカウントの結果、勝者はペルゼィックとなった。ペルゼィックは装備していたスキルの使用回数が多く、広範囲攻撃を何度も実行できたのが勝利の決め手となったようだ。また、罰ゲームにより、ヘレンは今度ペルゼィック指定のコスプレを披露することになった。

「じゃあジークにはこれあげる」
「お、サンキュ」
 ペルゼィックはイズルから渡された30センチほどの鮎を受け取り、両手に抱えた。

「あー返り血やばいわ。とりあえず水浴びしたい」
 ヘレンは着替えるのがめんどうなので、全部脱いでしまって、そのまま湖にダイブしようか、とか考えた。すぐ水に潜ればたぶん大丈夫だろう。淑女にあるまじき発想だが、幸いにも今回依頼を受けた冒険者13名の内、男性はたった7名……って全然ダメじゃねえか!

「すぐ水に入ればいいよね」
 ヘレンは上着に手をかけた。彼女が上着を脱ぎ棄てると、たちまち、雪のように白い肌が露わに……ならなかった。
「ちょ、ダメ!」
 ヘレンが脱衣する前に、彼女の凶行に気付いたイズルは、慌てて自分の上着を上半身被せた。
「……あー、水着そういえば持ってた」
 水着を用意していたことを思い出し、凶行を思いとどまるヘレン。ヘレンは着替え用のスペースに行き、水着に着替えて水浴びをしたのだった。

●
「じゃあ解体しよー。ペル君が『氷嵐』で仕留めたやつは形も崩れてないから解体しやすいね」
 ヘレンは獲ってきたアライグマを地面に転がすと、ナイフで切れ目を入れ、つるん、と器用に毛皮を剥いだ。

「ほお。うまいもんだな」
「でしょ。ペル君もやってみて」
「おう」
 ペルゼィックは、手早く魔獣を解体していった。牙や毛皮も丁寧に剥がし、袋に入れて回収する。
「やるね、ペル君。持って帰るの?」
「おう。魔獣の素材は値段つくだろうしな」

「よし、食べよう」
 料理が得意なペルゼィックが中心となり、三人はバーベキューを始めた。塩と油を使った原始的な調理法だが、肉が新鮮なので十分おいしかった。イズルが持参した玉ねぎやキャベツなどの野菜も、肉との相性は悪くなかった。
「さて、ここでチーズの登場だ」
 ペルゼィックは魔獣のハンバーグにチーズソースをかけた。とろけるチーズと肉の相性は抜群で、一口食べたイズルとヘレンはニッコリ微笑んだ。
「任せろ」
 ペルゼィックはドヤ顔だ。
「凄く美味しい。帰ったら煮込みもやろう」
 イズルはマジカルポケットに余った肉を収納しながら微笑んだ。

●
「足を餌にしたらいっぱい釣れた? ハハハ、なんだそりゃ!」
 思いのほかたくさんの魚を釣ったイズルの釣果の秘訣を聞いたペルゼィックは爆笑した。
「笑うなら、塩焼きもうあげないぞ」
「すまんすまん。俺も食いたいからくれ」
 ペルゼィックが詫びを入れると、イズルはムスッとしながら鮎の塩焼きをペルゼィックに手渡した。

「うん、このお芋と鮎の塩焼きもおいしい」
 ヘレンはもぐもぐと鮎の塩焼きと焼き芋をほおばる。
「旦那さんにするならイズルみたいな人だよねー、家事とか全部やってくれそー」
「へ、ヘレン!?」
「お。プロポーズか?」
 ヘレンの爆弾発言に赤くなるイズル。そしてペルゼィックは、ここぞとばかりにイズルをからかったのだった。
 こうして、冒険者達は避暑地で楽しいひと時を過ごした……。

マスターコメント

楽しい初夏のひとときを過ごすことができたようですね。お疲れ様でした!
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:少ない13 / 4〜25人

2023年06月29日 15時39分41秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ティカ

    ティカです。皆さん、いよいよ明日出発ですね。忘れ物のないように注意してくださいね!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0