桜の街と鮮やかな春

崎田航輝

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シナリオID:2919

オープニング

 雪と寒さが遠のいて、芽吹きの季節が訪れる。
 爛漫な色が花開く頃、中でも一際旺盛を誇るのは――桜。その名を冠した桜の街も、花の香りと色彩に彩られ……鮮やかな春本番を迎えようとしていた。

 瓦屋根に灯籠。
 柳に鹿威しの音色。
 風流な眺めの中を、着物を召した人々が歩むそこは――倭桜(わおう)ノ街。
 日々穏やかな空気の流れるそこは、この時期、一層華やいだ雰囲気となっていた。
 何故ならば――
「やっぱり、桜は綺麗だね」
 地元の人々でさえ、はっとするように足を止めて仰ぐ。
 そこには桜の木が立っており……清廉な桜色の花が満開となっていたのだ。
 街に広く連なる桜は、桜広場で並木の様相を呈しており――花見客が行き交う事で早くも賑わいだしている。
 花見とくれば、屋台を引いて商売する者や、料理を振る舞う人々もやってきて、広く宴を楽しむ雰囲気。
 街もこの春をお祭りで迎えようと、全体で盛り上がっていた。
「今年も一層、楽しくなりそうだ」
 そう言って道々を眺めるのは町長。
 例年までの盛り上がりに加え、今年は櫓を組んでの踊りを催す予定。
 巡る四季に思いを馳せ、新たな桜と出会える喜びを、今まで以上に人々に楽しんでもらうつもりだった。
 故にこそ。
「彼らがいなくては始まらないな」
 この街の賑わいに最も欠かせない人達。
 そう、冒険者を招待する為に……町長は早速歩み出してゆく。

 そして新しい桜の季節に、冒険者達は街へ招かれた。
 満開の花は春風に吹かれて、楽しげにそよいでいる。
 そんな景色の中で、冒険者達は――

解説

●概要  シャルガネにある「倭桜ノ街」へ観光に招かれました。  街の中にて過ごしてゆく事が出来ます。 ●倭桜ノ街について  東方文化の色濃い街並みが特徴的。  桜が満開で、広場を中心に盛り上がっています。  長らく平和を保っていて穏やかな空気です。  夜は灯籠、提灯に照らされます。 ●行える事  自由に散策する事が出来ます。  以下、立ち寄れる場所やイベントなどの例を示します。 1.桜広場  遊歩道に桜並木が連なり、花見客で賑わっています。  蕎麦や寿司、たい焼きやたこ焼き、苺飴などの屋台もあります。  住民が料理を振る舞う場もあり、筍ご飯やお吸い物などが作られています。料理に参加も出来ます。  静かな東屋などもあります。 2.桜舞い  広場にて夜、踊りが行われます。  開けた一角に櫓が組まれ、提灯で明るくなった中、大勢で緩やかに櫓の周りを巡るような踊りです。  太鼓でリズムを取る他、楽師が琴や三味線を奏でています。  踊りを楽しむ他、演奏に加わって興を添えても喜ばれるでしょう。 3.桜占い  目を閉じて手で器を作り、桜吹雪から花びらを掬う「桜占い」が流行中です。  掬えた数が一枚だと未知の出来事、二枚だと良縁、三枚だと仕事の良運、四枚だと不運、それ以上だと良悪の入り混じった兆候とされているようです。  枚数に自身で意味を見出す事も普通に行われます。 4.食事処  山菜の煮物や天ぷらが楽しめる定食(弁当)や、鰆や鯛が味わえる定食(弁当)が人気です。  清酒や桜のワインなどもあります。 5.甘味処  桜餅や餡子やみたらしの団子、桜の粉末を使ったわらび餅などが人気です。  他、桜クリームのケーキやムース、ソルベなど、独自の発展を遂げた甘味も楽しめます。  また、商店街では東方由来の文化から着想を得たという「あんぱんの日」の催しが行われ、普通のあんぱんや、白餡に桜餡、クリーム入りなども売り出されます。商店の一角に調理場が併設され、独自のあんぱんを作る事も出来るようになっています。 6.神社  甘茶が無料で振る舞われます。静かに咲く桜も楽しめるでしょう。  お参りやおみくじ、流鏑馬体験なども出来ます。 7.翠の園  春の花が咲く穏やかな景観が楽しめます。  猫や兎などの動物の姿も見えます。 8.川釣り  川の下流にて釣りをする催しが開かれています。  ニジマスやイワナなどを釣り、料理をしたり持ち帰ったり出来ます。  墨やベニバナの塗料で魚拓もとれます。

マスターより

シャルガネの一地区で観光を楽しむシナリオとなります。 今回は花見で賑わう中を散策します。 行わなければならない事などはありません。時間帯、訪れる場所も自由です。 街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。 適宜過ごしたい場所を訪れてみると良いでしょう。 同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名(人数なども併記して下されば確実です)などを記載して頂けると助かります。 皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。

リプレイ

●二人並んで
「あっ、ナハティガル様。桜ですよ」
 街に足を踏み入れたゲルダ・クラインは、共に歩む隣の――ナハティガル=ラーへ笑みを向けていた。
 目に映るそのナハティガルの姿は、春らしい着流し。
 異国風の情緒を携えながら、この街にも溶け込む見目で粋と上品さを兼ねた装いだ。
「ああ」
 頷くナハティガルもゲルダへ視線を返す。
 ゲルダの服装は、こちらもまた袴姿。足元はブーツで、ナハティガルの召し物と印象を合わせた形だった。
 そんな姿を見やりつつ、ナハティガルはまた桜に目を戻す。
 ゲルダもその清廉な花を仰いだ。
「とっても綺麗ですね」
「……そうだな」
 ナハティガルは答えながら、ふと思う。
 この街に訪れるのも何度目だろうか、と。
(今年もこうして桜が見られるとはな)
 流転する自身の運命に、儚い自然の御業。その中で得られた機会を、幸運と言う以外には表現が出来ない。
 そして……傍らの少女の事をまた心に上らせる。
 依頼を除いても、他者――特定の誰かと時を共有する事に違和感を覚えなくなりつつある。
 それは自覚出来る明確な変化で。
(一、二年前の自分が今の俺の姿を見たのなら……果たして何と言うのだろうか?)
 それこそ想像が及ばず。
 そんなナハティガルの横顔を、ゲルダは見ていた。
 何か考えを巡らせているのは判る。それも、きっと悪い事ではないのだろう、と。
 静かな表情からそれが想像出来る気がして……ゲルダは笑みを零す。
 こうして彼の隣を歩く機会が増えた事。
 それを、とても幸せだなと噛み締めながら。

 並木を歩んでゆくと、風に撫でられた花弁がはらはらと降ってくる。
 宙を踊るようなその動きに、暫し見とれながら――ゲルダは思い立ったように隣を見た。
「桜占い、やってみますか?」
「先程言っていたものか」
 町人から教えてもらったというその話を、聞き及んでいたナハティガルは……仄かにわくわくとした様子のゲルダを見て頷く。
 するとゲルダは微笑んでから目を瞑り、手で器の形を作った。
「えへへ、……なんだかドキドキしますね」
 そんな姿を見ながら、ナハティガルも挑戦をしてみる事にするけれど――
「しかし――何故、掬えた花弁の数で未来が分かるんだ?」
 占いの原理が大雑把且つ謎すぎて、疑問を差し挟まずにはいられない心持ち。
 ゲルダは「それは、判りませんけれど」と言いながら。
「この街で親しまれてきたのなら、結構当たるのかも?」
 その声音は明るいものだ。
 当たるも八卦、当たらぬも八卦――これからの出来事は誰にも分からない。
 けれど、こんなふうに占いの結果に一喜一憂する事は、つまりは幸せな未来を望んでいるという事。
 ゲルダはその思いを自覚して、祈りを込めた。
 ――ナハティガル様にとって未来が希望に包まれていますように。
 そうして目を開くと……淡い色の花が一枚。
 ただ、それを目にするかどうかという所で、二枚目が降ってきて。
「良き縁か、未知の事……もしかしたら、その両方かも知れません」
 良い行く末がある。そんなふうに桜に伝えられた気がして、ゲルダは花のような笑みをみせる。
 その瞳が、表情が、何とも楽しげで。
「……」
 ナハティガルはそれを目にしていると、小さな疑問が気にならなくなってくる。
 だけじゃなく。今まで『欠落』していた部分に温かな何かが流れ込んで来る――そんな気がして。自分も手のひらで作っていた器を見下ろす。
「同じだ」
 そこには一枚と、遅れて二枚目の花弁。
 それに喜ぶゲルダに、ナハティガルも表情を仄かにだけ柔らかくしたように。また共に並び、花に満ちた道を歩いてゆく。

●兄弟の春
「ここも綺麗に咲いているね」
「本当だね」
 仰ぐヴィナスの言葉に、ルーンス・ラグネルは頷いて……その美しい色彩を瞳に映していた。
 二人が歩み入ったのは神社の一角。
 広場では爛漫に花開く桜も、ここでは静けさの中で優しい風に揺れていて――長閑で優しい風情を味わえる。
 そんな穏やかなひとときを、ゆるりと過ごすつもりで。二人は甘酒を手に、境内に設えられている椅子に座っていた。
 まだ肌寒さも残る時節、甘酒は温かさと共に滋味を感じさせてくれる。
 景色と共にその楽しみも得ながら……ヴィナスはふと口を開いた。
「残り3年だね、ヴィンス」
「うん。3年だね、ルースにいさま」
 応えるルーンスもその名で言うのは、それが本来の名で継ぐ家の話だからだ。
「考えてみると、意外に遠くない話だ」
 ヴィナスはそんな言葉を零す。
 商会の事についてはずっと考えて、動いてきたけれど。
 その成果や思いの変化が手伝ってか……最近になって一層、それが“展望”というよりも現実味を帯びた“予定”だと感じられてきた。
 ルーンスも頷く。
「その時が楽しみだね」
「ああ。とはいえ――」
 と、ヴィナスは勘案を言葉にした。
「情勢的に、アレらを野放しにしておかない方がいいかもね」
「それは僕も思ってた」
 応えるルーンスも同じ気持ち。
 それも商人の気質が手伝っているのだろうか。二人は共に、ただ楽観的では居ない。
「世界情勢は待ってくれないからね。頭が悪く鈍い上、良かれと思ってしたことが全て悪手になる……そんな才能を持つ分、変なのが寄ってきやすいし」
「代行を立てるなりしてでも、病気療養で早めに会頭を退いてもらった方が良いだろうね」
 ヴィナスが言えば、ルーンスも「それが良いかも」と同意した。
(何も知らない人が見たら……「親になんて口を」って言うのかもね)
 自分達が交わす言葉に、ルーンスはそう考える時もある。
 けれどルーンスは――自分達が今歩んでいる場所こそが活路であり、自分達に必要な道だと知っていた。
(都合のいいことしか認識しないし知ろうとしない無知は、罪でしかない)
 自分達は長い間、それを目の当たりにして実感してきた。
 だから思いは変わらない。
(僕達は――商会と全従業員とその家族を守る)
 そして経済の循環で客を作る理念を選ぶ。それこそ、“商人”としてなすべき事でもあるのだから。
 ルーンスは脳裏に思い当たる顔を浮かべた。
「代行候補はラグネルさんだろうね。僕の未来の義祖母で、にいさまの祖母だもの」
「そうだね」
 頷くヴィナスもそのつもり。協力の確約を得ているし、適任だろう、と。
「そうと決まったら、今後も早く動く事にしようか」
 そんなヴィナスの表情に、ルーンスは少し眩しいものを感じる。
「にいさま、吹っ切れた顔をしてる」
「吹っ切れた顔、か」
 それはあるな、と。
 ヴィナスは自覚と共に答えた。
「依頼を通じて商人に復帰すると決められたのも、あると思うけど……。ヴィンスの報告書がでかかった」
 それは間違いなく、契機であったろう。
「アレとは違い、血の繋がりがない分あの人には連れ子再婚への同情があったし、仕方ないと思ってた。消し飛んだからね」
 そういう意味では去年の今頃よりすっきりしてる、と。
 ヴィナスは言葉通りの声音で言った。
 それを聞いて、ルーンスは頷き一つ。
「成程」
 自分がそこに携わる事が出来たなら、嬉しい。そして、待ち受ける未来にも強い期待があるから。
「僕も去年の今頃以上に日々が楽しいよ」
 そう笑みを向けると、ヴィナスもまた笑顔を返す。
 桜が散って、また次の桜が咲く頃にはどうなっているだろう。
 それを楽しみにしながら……今この時間をもゆっくり味わうように。二人は緩やかな春の景色を心に留めてゆく。

●春の甘味を
「ん、美味い」
 桜の望める甘味処にて。
 カイン・ステラは散策の始めに、立ち寄ったそこで桜のソルベを味わっていた。
 昼時には暖かな陽気が訪れる季節でもあって……そのひんやり感が何とも心地よく、清涼感を運んでくれる。
 透き通った桜色と仄かに漂う花の香りも快く。暫し景色と共に春らしい時間を過ごして一息をつく。
「さて、と」
 それから商店街を歩み始めたカインは――その一角に賑わいを見つけた。
「お、あそこか」
 甘い匂いに、あたたかに昇る湯気。
 催されているのは――
「あんぱんの日かぁ、面白そうだな」
 見ると、既に種々のあんぱんが売り出されていて……色も形も豊富だ。
 それらを眺めつつ、カインは調理場へ参加。オリジナルのアンパンを作ってみる事にした。
「素材は色々あるな」
 その中で選んだのは抹茶。
 生地に適量を混ぜてこね、一旦置きながら……並行して餡子も用意し始める。
 餡子も多様な種類があるけれど――
「折角の、桜の季節だしな」
 水に浸された白インゲンが使えるという事で、それを煮ると――塩抜きした桜を刻んで混ぜ、優しい色合いと香りの桜餡を完成させた。
 生地の塩梅が良さそうと判断できれば、桜の花の形に成形して……中央に桜の塩漬けを乗せて窯で焼き始める。
 中には勿論、桜餡を入れてあるけれど――餡だけでなく、白玉団子を入れたものも別に作ってあった。
 焼き上がった後、ノーマルの方を一つだけ試食すると。
「よし。良く出来たな」
 抹茶の淡い渋みと芳香に、桜餡の穏やかな甘味が相性抜群。桜の塩漬けもアクセントになっていて風味が豊かな逸品に仕上がっていた。
 それが確認できると、ヴィナスとルーンスの分を確保して――残る全部は差し入れ用にした。
 持っていく先は――大福の居るやおよろず亭だ。
「あんぱんの日らしいんで、作ったんだけど。ご家族で食べてみて」
「わぁ、すごいのだ! ありがとうなのだ~!」
 出迎えた大福は、お礼を述べると……自身も昼時にと用意していたチマキを振る舞って。カインも共に、暫し賑やかな時間を過ごすのだった。

●いつまでも
 アステルとキオルティスは、商店街へと足を伸ばしている所。
「東方の甘味って、どんなのかな~?」
 と、わくわくとした笑みを見せるアステルは、詳しくないだけに楽しみも一入。
 キオルティスはそんな横顔に微笑みながら、早速甘味処を見つけて。
「それじゃ、入ってゆっくり選ぼうか」
「うん!」
 という事で、二人は暖簾をくぐって席につき、お品書きを広げると――善哉に金鍔、黒蜜と、書かれた品は多種多様で。
「う~ん、どれにしようかなぁ……」
 目移りしてしまうアステルは、キオルティスの方を覗き込む。
「ルティスお兄ちゃん、お薦めとかある?」
「なら、桜餅はどうかな」
 と、キオルティスはお品書きの一頁に描かれたそれを示した。
「東方の地方で二つ程違いがあるらしくてね。実際に食べてみても面白いかもしれないね」
「そうなんだ……!」
 アステルが興味を示していると、キオルティスは「他には」とわらび餅を指す。
「きなこをたっぷりまぶすんだよ。これも他の地方では味わえないかもね」
「これも美味しそう!」
 どっちも食べたい、とアステルが期待を浮かべると……キオルティスは頷いて。
「じゃあ、わらび餅と桜餅を頂こうか。飲み物はお抹茶で」
「抹茶?」
 アステルがきょとんとしていると、程なく桜餅やわらび餅と共に抹茶の器も置かれた。
 アステルは「わぁ」と見つめる。
「綺麗な色……!」
「甘味とよく合うんだよ。早速食べよう」
 という事で、まずは桜餅から。
 焼いた生地で餡を巻いたものと、蒸した生地で餡を包んだもの、二つが揃っていて……前者はなめらかな舌触り、後者はもちもち食感が美味だ。
 わらび餅は、きなこが何とも芳ばしく。
「美味しい!」
「ん、そうだね」
 アステルに微笑みつつ、キオルティスはそれらの甘みと、抹茶の渋みの相性も楽しむけれど……隣を見ると、同じく抹茶を飲んだアステルが少々静止中。
「アステル大丈夫?」
「え? う、うん……ちょっ、ちょっと苦いね」
「ふふ、お抹茶は早かった、かな?」
 苦笑しつつ、それでも甘いものと共に食べていけば慣れるからと言うと……アステルも頷いて、餅と共に飲み進める。
「確かに美味しいかも……まろやかな、不思議な味」
「これも東方ならではの楽しみだね」
 そんなふうに、桜を眺めつつ――二人は甘き時間を長閑に過ごしていく。

 その後キオルティスとアステルは、神社へ。
 真っ直ぐに伸びる参道に、朱の鳥居。
 その先に広がる趣深い境内の中に、壮麗に咲き誇る桜の並木を――アステルは見惚れるように仰いでいた。
「綺麗……幻想の世界の中みたいだね」
「そういえば、アステルは桜の実物を見るのは初めてだったかな?」
 キオルティスも見上げながら、そう隣を見やる。
「春だけに花開く、儚い命――どう思う?」
 それを寂しいと見るのか。
 それとも美しいと見るのか、と。
 アステルはうーん、と考えながらも……その顔には優しい笑みを湛えていた。
「儚さも感じるけど……それよりも何か嬉しい、暖かな気持ちになる感じ」
 花開くのは春だけだけれど。同時にそれは、春には必ず咲いて迎えてくれるという事――或いはそんな感覚も得たからだろうか。
「ルティスお兄ちゃんは、どう?」
「俺? 俺は――」
 キオルティスは微笑みを返した。
「小気味良く散って行く桜に嫉妬を覚えるよ。誰の心にも残って、自身は散るなんてズルいにも程が有る」
 だから自分もそうあれば、と。
 零す呟きに、アステルは首を振った。
「ルティスお兄ちゃんは散ったりしないよ」
「アステル……」
「何時でも咲き誇る花。我儘だけど、そう在って欲しいな――」
 なんて、と。 
 笑みを向けるから、アステルの瞳にキオルティスも頷いて……また桜をちらりと見る。
「で、アステル。こうして桜も見られたし……花より団子にならずにすんだね!」
「――あっ、団子!」
 と、アステルはあっと気づいてキオルティスの手を取る。
「まだ花見団子は食べてなかった! ルティスお兄ちゃん、もう一回甘味処へレッツゴーだよ!」
 そうしてそのまま、笑顔で引っ張っていくから。キオルティスも「分かったよ」と笑みながら後に続いて……兄妹の春はまだ続いていく。

●あたたかな春を
 優しい色の勿忘草に、鮮やかな躑躅(つつじ)、清廉な花水木。
 春の花が咲き誇る翠の園へ、アルフィー・リッパーとネーヴェ・グラヌローザは共に歩んで来ていた。
「とても美しい道でございますね」
「ああ」
 そっと視線を巡らすネーヴェに頷いて、アルフィーも花々を見やる。
 春の花は爛漫で、それでいてあたたかで。どれも目を引く魅力があるけれど……アルフィーが「やっぱり」と惹かれて仰ぐのは。
「桜の花はいいな」
 そこにあるのは穏やかにそよぐ桜色。
 春風に乗って、はらはらと花弁が舞い降りるだけじゃなく――共に香りも漂って。
「いろんな花があるけど一番好きな花なんだ」
 どこか懐かしい想いを抱かせてくれるから、と。
 呟くアルフィーの言葉が、ネーヴェも「判る気がいたしますわ」と言葉を返す。
「とても綺麗で、けれど穏やかで――」
 時に凄絶なほどの美しさを感じさせるのに、心に寄り添うような親しみやすさもあって。それは桜に特有なものの一つなのかも知れないと、そんなふうにも思えた。
 そうして眺めを暫し味わいながら――桜並木沿いの原っぱでネーヴェは声音を華やがせる。
「この辺でお昼に致しませんか?」
「そうだな!」
 と、アルフィーも賛成。ネーヴェが敷物を敷いて座ると……自身もそこに腰を下ろした。
 その声音にも期待が浮かんでいるのには、理由があって。
「今日はネーヴェの弁当を堪能できるんだろ?」
「ええ、作って参りましたわ」
 お口に合うと宜しいのですけれど、と。
 微笑むネーヴェは、ランチバスケットから取り出した手製のお弁当を広げて差し出してみせた。
 おぉ、と目を輝かすアルフィーは……並ぶおかずの一つを見て、尻尾と耳をぴーんとさせる。
「一口ハンバーグだ!」
「ふふ、以前お好きだと仰っていたので」
 ネーヴェの言葉にも喜びを見せ、アルフィーは早速それを口に運び――
「美味い!」
「本当ですか? 良かったです」
 ネーヴェが優しく笑むと、アルフィーはミニサンドイッチに、厚めのハムが入ったエッグベネディクトも食べては幸せそうに笑みを見せた。
「これも美味い! ネーヴェはやっぱり料理上手だな」
「ありがとうございます。お弁当に合うお茶も淹れて参りましたの。ご一緒にどうぞ」
 と、ネーヴェはお茶も差し出してあげるから……アルフィーはそれも飲んで、「うん!」と頷く。
「このお茶も美味しい」
「おかわりもありますからね」
 言いつつネーヴェも、少しずつお弁当をつまみながらひとときを過ごしていく。
 そうしてお腹がいっぱいになったら、春の風に涼みつつ。陽気を感じながら、また二人で景色を眺めて楽しみ始めた。
 さらさらと桜が揺れ、快い音色を奏でる。
 ばかりでなく……アルフィーはごろりと寝転がって、頭上にあった景色を全部視界に収めてみせた。
「横になると桜と青空が凄い綺麗だぞ」
 澄明な空の色に、清らかな桜の彩。
 その二つが今だけのコントラストを作っていて、見れば見るほど魅力的で。
 同時に、アルフィーは満腹感から段々と眠気に誘われて……瞼が重くなってくる。
 そんな様子にネーヴェは微笑んで。
「私も眠くなって参りましたわ」
 と、共に草原に寝転がり、自分も春色の景色を仰いだ。
 ゆっくりと流れる長閑な時間。
 その中で、胸中に満ちる暖かな想いを感じながら――ネーヴェは目を閉じる。
 アルフィーはそんな横顔を見て、瞳を穏やかに細めつつ……ネーヴェが風邪を引かぬようにと、そっと上着をかけてあげた。
 撫ぜるような風に、春が薫る。
 二人を優しく見下ろす空は、いつまでも澄み渡っていた。

●ただいまとおかえり
 はらはらと桜の花弁が舞う。
 慣れ親しんだものながら、久方ぶりの懐かしさを覚える色彩。そんな故郷の景色へ――大福はぱたぱたと走ってきていた。
「粽! 桜なのだ!」
 共に駆ける狼――粽も鳴き声で喜びを表す。
 ふたりはちょっとだけ長いお仕事から、帰ってきた所。
「ヒラヒラ桜色なのだ!」
 青空に映える優しい彩、香り。町の人々も声をかけてくれるから――
「なんだか、あったかいのだ」
 嬉しさに少しだけ涙が滲む、そんな目元を拭いながら……大福はやおよろず亭へ。
「おっ母~! ただいまなのだ~!」
「まあ、おかえり!」
 すると母と共に、家族も出迎えてくれるから――まずは皆に買ってきたお土産を渡して、少しばかり水入らずの時間を過ごした。
 それから「ちょっと出てくるのだ!」と町長への挨拶へ。
「帰ってきましたなのだ~! 久しぶりなのだ!」
「大福さん、おかえりなさい!」
 皆待っていましたよ、と町長も笑顔を見せるので……大福は暫し近況について歓談しつつ。
 その後店に戻ると、早速店番のお手伝いを始める。
「いらっしゃいませなのだ~!」
 するとそんな姿に一層繁盛。カインも来てくれたので、歓迎もしながら――日が落ちるまで元気に働いた。
 そうして夜が訪れ、広場の櫓に提灯が灯ると――
「粽! 行こうなのだ!」
 鳴いて応えた粽と共に、桜広場へ。
 美しく咲き誇る並木の間を進んでいくと……そこにはもう沢山の人々。皆が桜舞いを心待ちにしていたのだ。
 太鼓の音頭が始まると――
「一緒に踊るのだ~!」
 大福は粽と共に、拍に乗って舞いを始めた。
 脚を踏み出し、腕先を右に左に流し。小気味よい踊りは何とも楽しくて。
「あっ、粽、クルクル凄いのだ!」
 見れば粽がリズムと共に軽やかに回っているから……大福も「負けないのだ~!」と一緒にクルクル。
「ひぃ目が回るのだ~!」
 そんな様子に粽も楽しげだから、大福もまた共に笑って。
 沢山踊った後は、母お手製のお弁当と花見セットで休憩。美味を味わいながら……最後は鼓で演奏に飛び入り参加。
「ぽぽん! ぽーん!」
 太鼓や笛と明るい調和を生み出して、皆と笑顔を交わして。
 来年も再来年もその先も、と。
「倭桜ノ街の景色も平和も、大福達が守っていくのだ~!」
 思いと共に過ごす故郷の時間。そこに無二の安らぎと楽しさを感じながら……大福は音色を奏でていた。

●桜色の道を
 枝垂れ柳と桜を窓から望める、静かな食事処。
 シルヴィア・A・カペルはその一角の席でお酒を楽しんでいた。
 今日は一人で来たから、恋人へのお土産を探しながらのんびりと過ごそうと思っての事。
 早速料理と共に味わっているのは、桜のワイン。色味は淡めの紅色で……揺らせば花のような香りだ。
 味も勿論――
「美味しいね」
 恋人はお酒に弱いけれど、シルヴィアはこうして嗜むし、好きだったりする。他でもない、カペルがワインを名産にしてもいるから。
 そのシルヴィアをしても、この地独自の味は興味深くて。
「清酒もいただこうかな」
 と、同じ年代だという「透桜(とうおう)」という銘柄を飲んでみる。
 名の通り、それは辛口にも甘口にもよらない、透明感のある味わいで。
(これも美味だな――)
 聞けばその仕入れ先だという、小さな酒店が近いという事で……食事を終えたシルヴィアはそちらに向かってみた。
 傍に蔵を持つそこは、店自体は小さくも並ぶ銘柄は多様。応対した杜氏が「是非試飲を」とも勧めてくれる。
「何か、お探しのものが?」
「清酒と……あとは桜の季節に限らず飲めるお酒も」
 リキュールなどがあればというと、丁度そちらも幾つかあるという事で見せてもらう事に。
 すると――
「これは綺麗だね」
 目に留めたのは、桜の花が浮かぶリキュール。それ自体にも花弁のエキスが使われており、鮮やかな桜色が印象的だ。
 リキュールならストレートでも、炭酸水で割っても楽しめる。試すと美味でもあったので、まずはそれを買う事に決めた。
 更に清酒も探し――風味豊かな「四季咲(しきさい)」、幻想的な香りの「月仙(がっせん)」、軽やかな喉越しの「風垂(ふうすい)」をそれぞれ購入する。
 お酒が揃うと、商店街を歩んでおみやげ探しも平行して。
「長持ちするお菓子が良いな……」
 そんな思いで探していると――
「おや、これは」
 興味を惹かれたのは可愛らしい瓶。
 見てみると、桜の金平糖が詰められた逸品で……持ち運びもしやすそうだった。
「良さそうだ」
 これを渡す、その時が楽しみなる気持ちで――綺麗に包んでもらう。
 買い物を終えると、いつしか日が傾いていて。
「美しいな」
 見やれば夕桜から宵桜へと、見える色彩が鮮やかに移ろう。シルヴィアはそれを眺めながら……またゆるりと春風の中を歩んでいった。

マスターコメント

お疲れ様でした。 各所を訪れ、また催しに参加する事で街としても盛り上がる形となりました。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準11 / 4〜25人

2023年04月25日 11時27分33秒 公開

大成功

相談掲示板

投稿はありません

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0