【北乱】天秤嫌いの王

おおくまねこ

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シナリオID:2917

オープニング

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「久しいな、レンダー・リンドブルム市長」
「……貴様か。執務室におおっぴらに面会に来られても困るが、せめてアポイントぐらいは取ってから来てくれんか?」

 夜中に音もなく自宅に来訪した男の姿に、レンダー・リンドブルムは顔をしかめた。この常にローブを纏った陰気な男は、リンドブルムが懇意にしている組織の使いである。無礼者だからといって、邪見にするわけにはいかない。

「突然何の用だ。まあおおよそ察しはついているが。エスト・ポーラとリブラネスタの諍(いさか)いの件だろう?」
「話が早くて助かるな。貴様、なかなか派手にやっているらしいじゃないか。我が主が心配していたぞ。『悪目立ちし過ぎだ。あれでは、よくない連中を呼び寄せてしまう』とな」

 ローブの男は嘆息した。リンドブルムはエスト・ポーラ市長ローヴィスの言説に賛同し、露骨なリブラネスタ市長のネガティブキャンペーンを行っている。それが目に余ると忠告する為、彼の主は彼を寄越したのだ。

「なんだ、そんなことか。今回の騒ぎはあの女狐を追い落とす千載一遇のチャンスだからな。エスト・ポーラに呼応し、ローヴィス市長の主張を言い広めて何が悪い。この騒ぎも、貴様らの御大層な計画の一部なんだろう?」

 リンドブルムは憮然と言った。リンドブルムの一族が代々治めるこのレグルは、リブラネスタと同じ湾岸都市だ。何かと目障りなリブラネスタに代わり、都市同盟の頂点に立つことは一族の悲願であった。

「この騒ぎは、『右の人差し指』の仕切りだ。我が主は関与していない。私は忠告しに来ただけだ。我が主の慈悲を安く見ないでもらおう」
「わかったよ。奴が懸念しているのは、リブラネスタの冒険者共だろう? 連中がこの街に近づいてきたところで、私はボロなど出さんよ。仮に賊がこの城に忍び込んできたとしても、捕えれば、ただの賊。より立場が悪くなるのはリブラネスタの方だ」
「いいだろう。下手に刺客を送ったりすれば、敵に塩を送るだけだからな。あと念のため言っておくが、もし貴様が我が主の情報を漏らせば……」
「わかっている。竜の逆鱗に触れるほど、私は向こう見ずではない」

 リンドブルムがそう答えると、ローブの男は影もなくその場から消えていた。

「フン。せわしない男だ。この街は私がルールだ。やりようはいくらでもある」

●
「ルーキー世代の冒険者の皆様、初めまして。私はギルド職員のヤマダと申します。今回は皆様に、依頼があり、この店にやってきた次第です。内容は、湾岸都市レグルの市長の身辺調査……。依頼人の名前は故あって明かせませんが、『憂国(ゆうこく)の士(し)』とでも言っておきましょう」

 ヤマダはにこやかに冒険者達に告げた。ギルド本部の事務職員であるヤマダが、ルーキー世代の冒険者達の前に姿を見せるのは今回が初めてだ。噂では、報酬の払い渋りを行った依頼人からの依頼料の取り立てや、ギルド内の犯罪者の追跡など、後ろ暗い仕事を斡旋を得意とする『冒険者ギルドの死神』なのだという。

「早速ですが、本題に入りましょう。今回の依頼はレグル市長、レンダー・リンドブルム氏の身辺調査です。期間は一週間。その間に、彼のアキレス腱となるスキャンダルを掴んでほしい、というのが依頼人のオーダーです」

 やっぱり後ろ暗い依頼だった。探偵っぽい仕事だから、依頼を出すこと自体に違法性はないのだろうが……。

「リンドブルム氏について少し説明いたしますと、彼は先祖代々レグルの街を治める老領主であり、レグルという都市国家の王とも呼べる存在です。授恵者でもあり、若い頃は多くの海賊と海の魔獣を討ち取り、名を馳せたとか。そして、彼は同じ湾岸都市であるこのリブラネスタを強烈にライバル視しており、先日のエスト・ポーラ市長の主張に賛同し、我らがリブラネスタ市長の醜聞をあることないこと言いふらしております。それを止める為、彼との交渉の材料が欲しい、というのが依頼主の要望なのです」

 それは果たして交渉なのか。脅迫の間違いでは……。冒険者達は訝しんだ。

「こほん。調査対象である市長本人がリブラネスタを敵視している以上、我々冒険者に対して好意的な反応は望めないでしょう。また、彼が王であるがゆえに、『街の全てが敵』と言っても過言ではない状況です。調査はできる限り、秘密裡に行うことをお勧めいたします。屋敷に忍び込む、などの方法は露見すれば極めてハイリスクですので、あまりお勧めはできませんね。確実にリンドブルム氏が重大な犯罪行為を行っているという証拠が取れれば、事後承諾的に許されるかもしれませんが……」

 街の全てが敵だと思え。ヤマダはそう忠告した。

「相手が強力な権力者とはいえ、彼はどちらかといえば、暴君タイプです。街は決して一枚岩ではない。彼の為政に不満を持つものは必ずいるでしょう。そういった方とコンタクトを取れれば、活路が開けるかもしれませんね」
 ヤマダは冒険者達に一つ解決策になるかもしれないヒントを送る。そして最後に、ヤマダは最前列でぎゅっとペンを握っている異形の少女へと問いかけた。

「私にはあまり貴方向けの仕事とは思えませんが……それでも行くのですか、ジャンヌ」
「はい。わたしは、このリブラネスタが、好きです。黙って、みていることは、できません」
 最初のホムンクルス、ジャンヌ・アンはこくりと頷いた。

解説

舞台:エラトゥーン都市同盟の湾岸都市、レグル 依頼内容:レグル市長、レンダー・リンドブルムの素行調査を行い、スキャンダルを掴む。 ●湾岸都市レグル リブラネスタの南方に位置する湾岸都市国家。市長は世襲制で、リンドブルム家が代々治めている。また、造船技術が高く、自前の海軍を持っている。 市長は善政を敷いているとは言い難いため、市長に不満を持つものは多い。しかし、司法の全てはリンドブルムが握っている為、おおっぴらに不満を口にすると投獄される(都市国家なので自前の立派な牢獄があります)。 ●登場NPC 『海賊狩りの王』のリンドブルム 54歳 クラス:??? エラトゥーン都市同盟の一都市、レグルの市長にして、評議会銀の派閥『リンドブルム派』の長。眼光鋭い老人。 今回の『龍逓架』の一件ではエスト・ポーラの市長ローヴィス・クレイヴラーに呼応し、リブラネスタ市長の醜聞を吹聴している。 若かりし日は海賊・魔獣狩りで名を馳せ、リーンエス王国騎士の隊長格に匹敵する実力者だったらしい。 城に住んでおり、警備はかなり厳重。 ジャンヌ・アン キャスター 帝国過激派・アルルカンによって製造された最初のホムンクルス。リブラネスタに住んでおり、故郷を守ろうと張り切っている。今回の依頼に同行する(立場はPCと同様、普通に依頼を受けた冒険者)。 目に賢者の石が入っており、見た目が異形のため、いやでも目立つ。 ※まっとうなホムンクルスは皆冒険者であることは、世界情勢に詳しい者なら知っています。

マスターより

こんにちは。おおくまねこです。今回は【北乱】連動の一シナリオとなります。ジャンヌもいます。ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。

リプレイ

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 冒険者達はレグルへの潜入調査に際し、打ち合わせを始めた。

「どうにもこの騒動、トントン拍子にリブラネスタが追い込まれているのが気持ち悪い。そこに便乗して余計黒幕側の都合よく状況を回していく輩はこう……少し大人しくしてもらわないとね」
 ルチル・プルメリア・グレイハーツは頭蓋骨(ヘルメット)の奥で目を細めた。

「スキャンダルと言われると、粗探しのようで気が進まないけど、ここは『交渉の材料が欲しい』という依頼人の言葉を信じておきましょう」
 ロゼットは嘆息した。
(それにジャンヌ、彼女(ジャンヌ・アン)にも一度会ってみたいと思っていたから)
 ロゼットはすみっこにちょこんと座っている最初のホムンクルス・ジャンヌの方に目をやった。

「不穏の種を蒔き、世間に混乱を招く……メドゥの指先の者達のやり口に似ていますが、その関与の可能性も考慮しつつ調査をしてみましょう」
 リコリス・アデュラリアは無表情(いつも通り)で言った。
「件の市長がテロ組織と関わりがあったのなら最も分かりやすい不祥事なのですが」
「メドゥの指先か……奴らは大陸中に根を張っている。非合法なことにも手を染めてるなら、十分可能性はあるね」
 リコリスの言葉にルチルは頷いた。

「旅の踊り子として、レグルに入り込んで情報収集をするわよ!」
 シンディー・ホシカは潜入調査と聞いて張り切っていた。ツインテールに変えた髪型に、大胆な踊り子衣装。踊り子の「ツバキ」として、わざと「いかがわしい依頼」を受けていたような頃の経験を活かすための衣装である。
「スキャンダルといえば、金・女・賄賂や汚職っていうのが定番よね」
 シンディーはウインクした。

「わたしは、駆け出しの、吟遊詩人、やってみます」
 エルはリュートを示しながら言った。
(レグル、と、リブラネスタ。都市同盟、の、主導権争い、が、混乱、を、大きく、する?)
 エルは依頼の内容と昨今のリブラネスタとエスト・ポーラの争いの関係を頭の中で整理していた。
(暴君、の、世襲領主、を、脅せるネタ、って、何? 市民、や、海軍、が、離反、する、ような……吸血鬼とかメドゥとか、人身売買利益誘導、それとも……?)

「調査、初めてですが、がんばります!」
「私はロゼットよ。ジャンヌ、良かったら一緒に行動しない?」
 ロゼットははりきっているジャンヌへと話しかけてみた。
「ロゼット、さん。はじめ、まして!」
 ロゼットが話しかけると、ジャンヌはたどたどしくも元気よく返事をした。
「はい、喜んで!」
「私はシグモル火山の人間なの。貴方のことは聞いているわ」
 ロゼットは微笑み、ジャンヌと握手を交わした。
「私は商人としてレグルに潜入するわ。あなたは私のお手伝いさんとして一緒に来てくれない?」
「はい、わかりました!」
 ロゼットの申し出に、ジャンヌは二つ返事で了承した。

「ありがとう、ジャンヌ。あと貴方の右目はとても目立つから、これで隠すといいわ」
 ロゼットはジャンヌに眼帯を渡した。ジャンヌは小柄なので、これを付けていれば負傷した子供に見えなくはないだろう。
「自分から喋るよりも大人しい子供として相手の油断を誘うように動く方が上手くいくでしょう」
 様子を見ていたリコリスもジャンヌに助言を送った。すると、ルチルがロゼットも声をかけた。
「ロゼット、ジャンヌ。その話、アタイも一枚噛ませてくれないか。行商人として潜入しようかと思っていたところさ」

「全員、方針は決まりましたね。情報交換をする場所も決めて置きましょう」
「宿は別々に、しますか?」
「その方がいいでしょうね。ロゼット・ジャンヌ・ルチルの三人と芸人組の私達(シンディー・エル)は極力接触を避けましょう」
 エルが問うと、シンディーは頷いた。結局、情報交換に際しては、ルチルとエルの栗鼠の偵察を入れた上で、毎回別の宿を偽名で取って会合することとなった。

●
「そこの方、ちょっといいですか」
「ああん?」
 港の酒場にて。リコリスは酒場で飲んだくれていたハーフビーストの船乗りに話しかけた。白熊のような容姿の男だ。

「私は街の研究をしている者です。静かに飲みたいので煩そうな海軍の人間が居ない酒場が知りたいのですが」
「ああ……。あんたモテそうだもんなあ。そういうことなら、なるべく街の北の方の酒場を当たってみな。港に近いところは海軍の詰め所もあるから」
「ありがとうございます。このことはどうか内密に」
「いいよ。それくれるのか? あんがと」

 リコリスは情報料兼口止め料として宝石を渡し、港の酒場を後にした。そして、船乗りに聞いた通り、港の酒場を探した。リコリスが船乗りに海軍関係者のいなさそうな酒場を聞いた理由は、明らかによそ者である自分が「海軍関係者が集まる酒場はどこですか」と聞いたら、不審がられると考えたからだ。真の目的は質問とは逆で、海軍関係者が集まる酒場を探すことだったのだ。

「あなたたちは海軍の方ですか?」
(この酒場は個室もあるようですね。密談にも使えそうです)
 リコリスはさっそく、海兵から話を聞くことにした。

「市長は昔は強かったらしいが、ほんとかねえ?」
「ああ、噂じゃ、剣の一振りで帆船を真っ二つにぶった切ったそうだ。水の上も歩けたから、たった一人で海賊の船を飛び移って次から次へと沈めたそうな。百人規模の大海賊団でもまるで歯が立たなかったらしい」
「ハハハ、さすがに冗談だろ! 五十年近く昔の話だし、盛ってるだけだって!」
 船乗り達は爆笑した。

(今の話……。授恵者なら決して不可能ではありませんが……)
 リコリスは目を細めた。市長は高齢の老人(そしてヒューマン)だそうだから、現在でもそれほどの戦闘力を発揮するとは思えないが、一応心に留めおくことにした。

●
 エルは市長本人や使用人が立ち寄りそうな酒場を探すことにした。この街の領主の居城は街のどこにいても一目でわかる。港が一望できる崖の上に立っているのだ。そして、街の作りは港がある南側が特に栄えており、北に行くほど寂れているようだ。

(なら、わたしが探すのは……)
 エルは領主の城に一番近い酒場を探した。

「流しの演奏、うまくいく、かな……」
 エルはリュートを手に、見るからに高級そうな酒場の前に立っていた。この店ならば、おそらく市長や高級官僚も出入りしているだろう。問題はこのクラスの店で流しの吟遊詩人が受け入れられるかどうかだが……。

(つまみだされたら、どうしよう……)
「すみません……一曲、演奏させて、ほしい、のですが」
 入店したエルはおっかなびっくり店長に話しかけてみた。
「すみませんが、うちは専属の音楽家がおりますので……」
「そうですか……」
 エルは目立つことを避け、黙ってその場を後にした。

●
 レグルを訪れた初日。冒険者達はそれぞれ宿を取った後、集まって捜査の方針を再確認した。
「街の兵隊が集まる場所ってどこだろ? 誰か知らない?」
 シンディーが問うと、リコリスが挙手した。
「それでしたら、港を探すとよいでしょう。海兵の詰め所も近いそうですから」
「分かった、ありがと。市長の女関係とかも探ってみるわ」
 リコリスが聞いてきた情報を共有すると、エルも挙手した。
「シンディーさん。高級酒場は、一見さん、お断り、みたいです」
「そうなのね。高級官僚との接触は諦めて、兵隊さんにターゲットを絞って接触してみるわ」

●
「雇ってくれ、だと?」
 シンディーはリコリスから聞いた通り、港の酒場を訪れていた。中枢に近い上級職員の類はこなさそうだが、海兵が来るとウワサの酒場だ。
「戦争の話でピリピリしてるからこそ、あたしのような女のダンスは受けると思うけど?」
としばらく雇ってくれないかと店主に持ちかける。

「ふむ……まあ、ルックスは並以上だし、腕前を見てからだな」
「ありがとう!」
(高級酒場はよそ者は警戒されるみたいだしね)
 エルから聞いた件もあり、シンディーは目立ちすぎないように注意を払っている。

「あたしはツバキ。よろしくね!」
 無事採用されたシンディーは努めて明るくふるまい、酔って口が軽くなった海兵から話を聞いてみた。荒くれものの船乗りたちはヒューマンだけでなく、いろんな種族が混ざっていた。

(帝国みたいに実力主義なのかしら。けっこう強そうな海兵達ね……)

「素敵な筋肉ね。さては、海兵さん?」
「素敵な尻尾ね。あたし、鱗フェチなの。触っていい?」
(目で分かったぜ。こいつ俺に惚れてる)
(ははは、愛(う)い奴め……)
 シンディーの思わせぶりな態度により、酔っ払いたちは見事に勘違いをした。

(計画通りね)
 うまいこと男たちをだまくらかしたシンディーはほくそ笑んだ。気を許されたと判断したタイミングで本題を振ってみる。

「ここの市長さん、色々と強引な人って聞いてるわよ。そういう人の下で働くの、大変よね? 嫌なこともあるんじゃないの?」
「ああ、リンドブルムはひどいやつだ。ちょっとでも逆らえば懲罰房行きさ。給料も安いしよ。海賊を捕まえても俺達に回ってくる褒章は雀の涙なんだぜ」
「なるほど。ピンハネとかするなら、愛人みたいな女の人を囲ってたりしてそうよね」
「ああ、そういう噂もあるな。まあ、市長は昔から独身だから、城に女が出入りしてたところで特に問題はないしな」
「へえ……」

●
 エルは一日目とは別の店を選び、流しの吟遊詩人として下町の酒場に潜り込むことに成功していた。あまりに演奏が上手過ぎると目立ってしまうため、技量はあえて駆け出しっぽい感じにセーブしている。

「市長さんは、人気者ですか?」
「まさか。税金も高いし、悪口も兵隊に聞かれたら下手すりゃ刑務所行きだ。殺したい奴も多いだろうよ」
 エルと飲むことになったかつて城をクビになった庭師の男は、グビッと酒を喉に流し込んだ。

「大変、なんですね」
「おう。俺がクビになったのも、気が短すぎるって難癖をつけられたからさ。気が短いのは一体どっちなんだって話だよ」

 エルはコクコクと頷き、男の話を聞いていた……。

●
「さて、この街の市長をよく思ってなさそうな連中を探そうか」
 行商人として街を訪れたルチルは、既存の商売や需要を探る風を装いつつ、街を見回っていた。幸い、港町だけあってか雑多な種族の人々が出入りしており、異種族というだけでは警戒はされなさそうだ。

(あの男……カタギじゃなさそうだね)
 「酒場で気さくな女商人」を演じたルチルは酒をおごり、市長への不満を持つものを探して回った。そして数日後。ルチルは興味深い人物を見つけた。酒場でちびちびと酒を飲みながら、ルチルと同じように周囲を監視している男だった。

「ラト、あの男を監視しろ」
 ルチルは栗鼠にそう命じ、いったん店を後にした。

●
 ロゼットとジャンヌは商人になりきり、港の市場を訪れていた。三日連続で通っているので、そろそろ漁師達にも顔が売れてきた頃だ。

「商売の下見です。良い港なら海運に利用しようと思いまして」
「よろしく、お願い、します」
 ジャンヌは眼帯で目を隠し、下働きの少女になりきっていた。一応それっぽく見せる為、ロゼットの荷物と、大きなバックパックを背負っている。中にはジャンヌがため込んでいた、おやつのチョコレートがぎっしり詰まっている。
(ジャンヌ……病気にならなければいいけど……)
 そのあまりの量にロゼットはちょっとジャンヌの健康状態を心配してしまった。閑話休題。

 ロゼットはジャンヌを連れ、港にいた漁師や商人に聞き込みをした。
「リブラネスタとの船の行き来は盛んなのでしょうか」
「まあ普通だな。市長と子飼いの海軍はリブラネスタ嫌いだけど、街の人達は特になんともって感じだよ」

「市長は『海賊狩りの王』と聞きました。海賊はこの街には寄り付かないでしょう?」
「ああ。俺が生まれてから、この街が海賊に襲われたことはない。逆に、海軍が積極的に海賊を追いかけ回してるよ」
(好戦的な軍隊なのね……エスト・ポーラに付かれると厄介だわ)

「良い話をありがとう。良かったら酒代の足しにしてください」
 ロゼットは謝礼として、小粒の宝石を渡した。

●
「ん?」
 その日、ロゼットは奇妙なものを見た。港からやってきた一人の商人が、入場記録を付けられることなく、顔パスで入場していったのだ。
「ジャンヌ、今の見た?」
「はい、素通り、してました」
「すみません、今の人記録なしで街に入ってませんでした?」
 ひそひそ声で入場記録官に尋ねるロゼット。
「ああ、常連は顔パスで通してるんだよ」
(この街の入場記録は完璧なものではないってこと……?)

●
「どうやらこの街、入場記録が適当みたいなの。犯罪者が潜りこむのは難しくなさそうよ」
 ロゼットはため息をついた。
「そうか。アタイもレジスタンスの連中から興味深い話を聞き出せたよ。入場記録がザルなら、信憑性は高くなったね」
 ルチルはレジスタンスに正体を明かし、聞き出した話を冒険者達に話し始めた。

「『死霊術師ラムダ』って聞いたことあるかい?」
 死霊術師ラムダ。王国で夜な夜なデスゲームをしていたゴルティエ侯爵夫人と『赤の中指』の仲介をしていたとされる男だ。無論、本人もメドゥの指先の構成員である。

「やはりメドゥの指先が関与していましたか」
 リコリスが頷いた。
「ああ。そいつが時折城を出入りしているらしい」
「メドゥの指先か、奴隷商人か……捕まえれば、ゆるぎない、証拠になりますか?」
「ええ、言い訳のできない証拠になりますね」
 エルの言葉に、リコリスは頷いた。

 その後、冒険者達は街の地理に明るいレジスタンスの協力も得て、犯罪者のたまり場に案内してもらった。さすがに大立ち回りをやらかすわけにはいかないので、栗鼠が慎重に偵察を行い、最終的に奴隷商人のアジトを特定することに成功した……。

●
 ――レグルの市長リンドブルムは人身売買を黙認している可能性がある。街に入った者の記録の中にいくつか不自然な空白がある上、実際に街の中に奴隷商人のアジトも発見された。また、税金の着服とメドゥの指先と癒着も疑われる。
 冒険者達からの報告書と物証を受け取ったヤマダは満足そうに頷いた。

「スキャンダルというか……重大な犯罪行為ですね。よくぞ見つけてくれました。これなら、交渉のカードどころか、都市同盟から正式な調査隊を送り込むこともできるでしょう」

 エラトゥーン都市同盟は所属都市それぞれが自治権を持つ独立した都市国家の集合体だが、自治権にも限界はある。大陸全土で犯罪行為とされている犯罪行為――人類の虐殺(ジェノサイド)や人身売買、テロリストとの協力などに関与している疑いがある場合(もちろん、それなりの根拠が必要だが)は外部の調査が入るのだ。

「調査の結果、レグルが都市同盟から離脱することになるのか、市長の首を挿げ替えることになるのかはわかりませんが、いずれにせよ、依頼人の目的は達成されるはずです。ともかく皆さん、ご苦労様でした」

マスターコメント

レグルの市長の弱点の物的証拠を見つけ、ついでに手指幹部につながる情報も発見でき、市長側にも調査を気取られなかったため、結果は大成功とさせていただきます。お疲れ様でした。「北乱」後編では『海賊狩りの王』リンドブルム市長との直接対決となるシナリオをリリース予定です。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:多い5 / 4〜6人

2023年04月24日 10時05分55秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. シンディー・ホシカ

    これは依頼成立は難しいかもしれないわね。 スキャンダルというなら、金・女・ギャンブル・汚職といったのが思い浮かぶけど、どうなのかしらね。

  2. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    まだ揃ってはいないが一応挨拶を。 情報屋のルチルだ。よろしく。 オーダーの要点は「冒険者であると気づかれない事」と「リンドブルムの反対派から協力を募りスキャンダルを見つける事」の2点。 確実に脅す材料がない限り直接城へ潜入するのは下策。栗鼠を使った盗聴、盗撮も少々厳しいが危険な橋を渡らない程度に試してみるか。 大っぴらに不満は言えないからこそ、反対的な思想を持つ市民が集まる「溜まり場」なんかもありそうだね。そこや都市の暗部に焦点を当てて協力者になりそうな人間を探して行こう。 敵が多い人間だからこそ、敢えて反感を持つ人間を罠にかけて釣り上げようとする手合なんかもいると考えられる。見分け、信用を得るために『洞察』『交渉』辺りをセットしていこうと思う。 >身分の偽装 必然的にレグル市内では余所者となるから、「冒険者」と疑われずに行動するための肩書は必要だろうな。 特にジャンヌ・アンは両目がホムンクルスの特徴である「賢者の石」となっている。 顔が見られれば一発で普通の子供ではないと気づかれる。しかし顔が隠れる服装で小さな子供が歩いているのも中々目立つ。 正直留守番してもらった方がいいくらいに思えるが…適性の有無で弾いてしまうのも問題が出るだろう。 親子連れかなんかでフォローできる誤魔化し方を用意しておくのが適当かね。

  3. ロゼット

    参加させてもらったわ。ロゼットよ。あと1名ね。 参加しやすいように、行動例でも考えてみましょうか。 >不満を持つ人がいそうな場所 1.酒場で聞き込み 人間、不満や愚痴を吐くのは酒場というのが定番ね。 酔って口が滑りやすくなるのも都合が良いわ。 そういう人を、ちょっとおだてたり、一杯おごって警戒心を 解いたりしていれば、何か話が聞けるかもしれない。 2.スラムで聞き込み 善政を敷いているとは言い難いなら、弱い立場の人間は 困窮していそう。市長の圧政で立場を失って、スラムに 転がり込んでいる、そんな人もいるかもしれない。 >スキャンダルになりそうな話題 ・お金 汚職、賄賂に献金とか。ギャンブルでの失敗なんかもここね。 市の税金を私的に使い込み、なんて話があるかもしれないわ。 ・女性 市長の家族までは分からないけど、愛人ぐらいは居そうね。 痴情のもつれ、隠し子とか、表には出したくない話で。 ・過去の名声 「らしい」と書かれていたから。本当はどうだったのかなって。 当時の話を知っていそうな、年齢層にあたれば何か聞けるかも。

  4. ロゼット

    >自分の予定 聖職者の肩書でも動けなくはないのだけど、 今回は商人のフリをして、経済面の話を聞いてみようかと。 リブラネスタを敵視しているなら、商売にも口をはさんで、 厳しくやっているんじゃないかなって。 >ジャンヌ・アン 久しぶりに見たけど、彼女の外見は。 ・右目が賢者の石 ・ハーフリング という感じね。右目に眼帯をしてもらえればマシだと思うわ。 とはいえ単独で動くには少し不安があるし、扱いに困るなら、 私の方で商人の、お手伝いさんの立場で、組んでみましょうか。 彼女、シグモル火山でのホムンクルス事件で生まれた子だから、 私としても多少なり、支援してあげたい気はあるの。

  5. エル

    エル、です。どうぞ、よろしく。 これで、成立、です、ね。 ロゼットさんの行動例、分かりやすくて、助かり、ます。 ありがとう、ございます。 ええと、演奏スキル、が、ある、ので…。 酒場とか、で、噂話、を、拾おうかと、思い、ます。 …あの、武装とか、は、外して、いった方が、いい、でしょうか…?

  6. シンディー・ホシカ

    依頼が成立したわね。 良かった。 私はお得意の「踊り子として酒場で情報収集ね」 市の職員が行くような酒場に踊り子として入り込み、寄ってる相手に情報収集って線で行くわ。 商人から賄賂を受け取って特定の商人に便宜を図っているとか、公金を愛人に貢いでいるとか。 そういう「弱点」になりそうなことがないか、探るつもりよ。

  7. ロゼット

    >武器は外す? 武器=冒険者、ではないから必須ではないけど、 調査の際は隠すか、置いていっても良いでしょうね。 もちろん治安の悪いスラムを歩きまわるとかで、 自衛用にというのは別だけど。

  8. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    おっと、成立したようだね。 良かったよかった。 (PL:イラストで覚えていたからジャンヌは両目とも異形と思ってました…!すみません) >身分の偽装 商人(ロゼット)のお手伝いさんという線でいいと思うね。 それとロゼットが良ければだが、情報共有しやすいように「ロゼットの商会の人間」として振る舞ってもいいかい? 市場調査という名目でスラムの方まで近づく機会も得られるだろうさ。 >情報共有 何処に敵対的な人の目があるかわからない。 他人同士が何度も同じ場所に集まっていると怪しまれるだろうし、こちらも考えておいた方がいいと思うね。 スキルならテレパスやペットを伝令役に使う手法が思いつく。 まあ、テレパスは装備枠を食うし2人以上が活性化してないと意味がないから持って行くかは要相談だね。 で、エルとシンディーは吟遊詩人や旅芸人のような存在に扮して溶け込む感じかね? 酒場にいる芸人に話しかけるたり、チップと一緒に何かを受け渡しても妙には見えないだろう。

  9. ロゼット

    私は港の方で、船乗りや海運業者から話を聞いてみるわ。 景気の話をするついでに、商売に市長が口を挟んでいないか。 色んな場所で聞き込みする方が裏付けが取りやすくなるでしょうし。 >ルチル >「ロゼットの商会の人間」 私は構わないわ。利用できるなら使ってちょうだい。 なら、異論がなければジャンヌを同行者に誘ってみるわ。 >情報共有 調査自体に汎用技能は使いたいし、テレパスは難しいかな。 現地の宿を取って報告会か、酒場で客を装うなりで、かしらね。

  10. エル

    >吟遊詩人 歌、は、得意じゃない、です、けど…。 市上層部、に、売り込みたい、駆け出し吟遊詩人、みたいな、感じ、で。 使用人さんたち、が、来るような、酒場、に、行、ってみよう、か、と、思い、ます。 >武器は外す? そう、です、ね。 置いて、いく、のが、いい、かも。

  11. シンディー・ホシカ

    >情報共有 現地の宿での報告会が無難だと思うわ。 それぞれの情報を持ち寄れば、見えてくる物もあると思うし。

  12. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    アタイは少し触れたが、スラムや不満を持ってる連中の溜まり場とかに出向いて協力ができそうな住民を探すよ。 >ロゼット ありがとう。 ちゃんと足は引っ張らないように上手くやるさね。 >情報共有 では、そんな感じでよろしく頼む。

  13. ロゼット

    明日が出発ね。プレイングの提出忘れだけは気をつけて。 >情報共有 了解、なら宿をとって報告会としましょうか。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0