【北乱】冒険者漂流記

おおくまねこ

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シナリオID:2896

オープニング

●凶事
 その日、冒険者達はリブラネスタ近海を航海する帆船に乗っていた。船の所有者であるホープレス商会の会長から護衛の依頼を受けた為だ。エスト・ポーラからリブラネスタまで航海するだけの短い旅だが、会長はとあるウワサを警戒し、冒険者達を雇ったのだという。

「船長、航海は順調かい?」
「ええ、会長。天候もよいですし、予定通り明日には港に着きますよ」
 レオナルド・ホープレスが尋ねると船長は朗らかに言った。

「そうか。それはよかった。ところで、そろそろ、あの海域を通るんじゃないかね?」
「ああ、そういや、この辺りですね。エスト・ポーラの民間船がリブラネスタ海軍に沈められたとかいう……安心してください、今日は近くに他の船はいませんよ」
「うむ、ならいいのだが……」
 
 それからしばらくし、噂の海域を航行していた時のこと。順調だった航海は突然、思わぬ展開をたどることとなる。 
 ゴン。衝突音と共に、冒険者達は一瞬船が大きく揺れるのを感じた。

「岩礁に引っ掛けたか? 誰か、ちょっと倉庫を見てきてくれないか」
 船長は冒険者達に声をかけた。
 ザパッ。その時、船の外で波が大きく跳ねる音がした。船の前方に現れたのは、人間の胴ほどもある、巨大な触手だった……。

「うおおおおおお!? な、なんだァーー!?」
「なんだこいつは!? 会長! 危ない!」
 船長はとっさにレオナルドの前へと飛び出した。その瞬間、触腕が鞭のように鋭く唸り、船長もろとも会長を吹き飛ばした!
「がはっ……!」
「船長ぉー! 会長ッ!」
 すんでのところで船長と会長は冒険者に掴まれ、海中への落下を免れた。だが……。
 メキメキメキメキ……!
 今度は凄まじい音と共に海中から黒い水柱が噴き出し、船のメインマストが真っ二つにへし折られた。
「やばい! 今ので船底に穴を開けられたぞ! この船はもうダメだ……!」
 船員が大声で叫んだ。

 ――とにかく、今は安全確保を!
 冒険者達は船員達をかばいながら怪物に攻撃を仕掛けた。手痛い反撃を受けた触手はビクンビクン、と痙攣し、海中に逃げていった。
「あそこに島がある! なんとかあの島まで船を保たせるぞ……! あんた達も手伝ってくれ!」
 冒険者達は船員達の指示に従い、無我夢中でオールを漕いだ。
 ……。
 なんとか浜辺にたどり着いた冒険者達が見たものは、木々が鬱蒼と生い茂るジャングルのような未開の島だった。
「ここは、無人島か……? 我々は助かるのか……? 船長! 答えてくれ! 船長!」
「会長! 落ち着いてください! 船長は重傷です! 折れた骨が内臓に突き刺さってるかも……!」
 冒険者達は無事にこの島から脱出することができるのだろうか?

解説

● 目標:救助が来るまで生き延びる。 舞台:都市同盟近海・名も無き無人島 天候:基本は晴れだが、雨の日もある。気候は温暖 状況: 冒険者達は商船の護衛としてエスト・ポーラからリブラネスタへと向かう船に乗っていましたが、途中で正体不明の怪物に襲われ、船が破壊されてしまいました。壊れつつある船でなんとか怪物から逃げ切った冒険者達は無人島に漂着します。 冒険者達の使命は救助が来るまでの間、依頼人を死なせず、自分たちも生き延びることです。 ●登場NPC レオナルド・ホープレス 依頼人。都市同盟在住の織物を扱っている商人。予想外な事態には弱く、「もうだめだ、おしまいだあ……」状態。サバイバル能力は皆無。 船員たち 非授恵者 ホープレス商会所有の船の船長と、クルー5名。船長のみウォーリアだが重傷を負った状態で意識不明。放置すると出血多量で遠からず死ぬ。 魔獣・クリーパー 多数 植物型・昆虫型・魚介類型の強力なクリーパーや魔獣が多数生息している。有毒種もいるため、むやみに食べるのは危険。 『島の主』 一体 ブルーメタリックの甲殻を持つ巨大なヤドカリのクリーパー。全長12メートル。元々は中型クリーパーだったが、永くマテリアル界にいたため大型化した。両腕のハサミからエーテルの弾丸を機関銃のように乱射したり、エーテルを腕に収束させて高出力で発射したりできる。 ハサミと背中の「宿」部分が特に硬いが、宿を破壊することができれば、脆い背中が露出する。 ●島と船について 草木が鬱蒼を茂る無人島。地図はないため、地形は不明。普通の動物のほとんどは生存競争に敗れて滅び去った模様。 なお、島の近海にも水棲クリーパーや魔獣が多数生息しており、一番近い港までもかなり距離があるため、自力脱出は非常に困難。 なお、航行不能状態の帆商船は浜辺にある。 ※ロスガリア大陸の船のレベルは大航海時代以前のものです。 ●救援について 難破から数日後に捜索隊の船が派遣される。工夫次第では発見が早まる可能性がある。 ●食料について 今回の依頼に持ち込める食料は「装備しているアイテムのみ」。「たまたまマジカルポケットに干し肉が満載されていた!」などは不可。船に多少の備蓄はあるが、均等割りすると二日目になくなってしまう(シナリオ参加人数により備蓄の量自体が変動するため、リミットは固定)

マスターより

こんにちは。おおくまねこです。今回は新規のマスター間連動企画、【北乱】連動の一シナリオとなります。今回は少々趣向を変えまして、突発的に発生した災害への対処……というか無人島サバイバルです。 ・衣食住の確保 ・瀕死の船長 ・依頼人のメンタル ・島に潜む脅威 など、課題はたくさんあります。ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。

リプレイ

●
 無人島に漂着した冒険者達はすぐさま浜辺に船長を寝かせ、重傷を負っている彼の救命処置を始めた。

「オレはヒーラーだ! 船長をここに寝かせてくれ! 急いで応急処置をする! 船の中に治療に使えそうなものがあったらありったけ持ってきてくれ!」

 リヴァーオブヴァイタルで船長に活力を注ぎ込みながら、ギャメルが叫ぶ。体力こそ持ち直したものの、傷は完全には塞がっていない。ギャメルは船内から持ち出してもらった聴診器なども使い、冷静に、船長の様子を観察した。

「意識は混濁してる……傷口は血でぐちゃぐちゃだな……」
「私がピュアウォーターを出せます」
「ギャメルさん、スライム石鹸持ってるけど、使える!?」
「助かる! ヴィルヘルミナ、水で傷口の洗浄をしたい。袋に貯めといてくれ! トゥーリはナイフを石鹸できれいに洗っといてくれ!」
 ギャメルの言葉に二人は頷いた。

「とりあえず船長を休ませられる場所の用意が急務か」
 ベルク・オスマットは浜辺に寝かされている船長の生命維持の為、破壊された船から板を何枚か引っぺがした。カンカンとシーフツールを使い、簡易ベッドを組み立て始める。
「布は……帆が使えそうだな。いや、確か依頼主(レオナルド)は織物商だったか。積み荷の中にもっといい布があるはずだ!」

●
 ギャメル、トゥーリ、ヴィルヘルミナが船長の治療に専念している間、他の冒険者達も機敏に状況を確認して動いていた。

(海で最も強い魔獣であるクラーケンに当たるとは運が悪いが、島に到着できたのは良かった)
 ストレガ・L・リベルガストラはふと、海での出来事を思い出していた。冒険者達が撃退したのは海底から生えていた触手一本のみで、その姿の全貌を見たわけではない。だが、船を触手一本で沈めてしまうほどのパワーを持つ存在となるとおのずと種類はかなり限られるだろう。
「さあ、ほかにも怪我をしたものがいれば私がヒールをするのだ。まずは服を乾かすのだ。……よかった火打ち箱は無事なのだ」

 ストレガは浜辺に落ちていた木の枝と火打石を使い、焚き火をおこした。濡れたまま動き回っていれば、体調を崩す可能性が低くないからだ。

 クルルルルルルル!
 その時、甲高い鳴き声と共に、森の奥から人間ほどの大きさもあるクモ型の魔獣が姿を現した。数は三体。怪物達は招かれざれる来訪者達に明確な敵意を露わにしている。

「やれやれ、こんなサバイバルは久々だな」
「魔獣だと!? ええい、厄介な! もしや、この島は怪物の巣窟か?! ギャメル殿らには近づけさせんぞ!」
「ああ、こいつらを浜から引き離すぞ! ギャメル達の邪魔させるわけにはいかねえ!」
 ベルクとハヤト=ガラン=ヴォルファングは弾かれたように飛び出し、蜘蛛魔獣に襲い掛かった。

「船員達はすぐに避難するのだ! ギャメル殿らには近づかせん!」
 ストレガが雷蛇大禍(エルヴォルテクス)を放つと、荒れ狂う雷のヘビたちが蜘蛛達に絡みつき、身動きを封じた。

「もうだめだ、おしまいだあ……!」
「レオナルドさん、落ち込むのは後です! 避難しますよ!」
 レイヤ・ダライ=カホールは放心状態の依頼人の手を引き、船員達の後を追った。
「会長。我々が守りますのでご安心を。今は逃げてください」
 ヴィルヘルミナは刀を抜き、船員達の殿(しんがり)についた。

●
 冒険者達はクモを誘導し、ギャメル達から引きはがした。ギャメルはその間も、堂々とした態度で、的確に船長の治療を行った。最後には蒸留酒(アルコール)で塞いだ傷口を消毒し、救命処置は完了だ。

「よし、なんとか骨は取り除いた。骨折までは直せないが、傷口をとりあえずヒールで塞ぐぜ」

(ふう……なんとか一命はとりとめたようだな。こっちの寿命が縮むかと思ったぜ)
だが、内心は冷汗だ。依頼人や船員を不安にさせないよう、精一杯の虚勢を張っていただけだ。

「ギャメルさん、お疲れ様」
「ああ、トゥーリも助手、ありがと。10分ぐらい休もう……」
 ギャメルが適当な岩に腰を下ろすと、緊張の糸が切れたのか、どっと汗が噴き出してきた。

(ヒール頼みだと、魔法で傷を塞ぐだけじゃ不充分なケガへの対応がお粗末だぜ。病気にも対応できねぇ。もっと医療や薬の知識を深めてぇな……)
 ギャメルの中に、密かな新しい目標が生まれた。

●
 そのころ、クモ魔獣達を仕留めたストレガは、解体作業をしていた。

「ストレガ……もしかして、それ食う気か?」
 真顔のハヤトが問うと、ストレガは頷いた。
「うむ、この島でまともな食料が手に入るかわからん。魚が主食にはなるであろうが、最悪、食えるものは虫でもクリーパーでもなんでも食うしかないのだ」

「仕方ないな。はあ、帝国東部鎮守都市(エスタル)の人々の気持ちが理解できる日が来ようとは。我は平気だが、船員やあのメンタル弱そうな依頼人は果たして大丈夫であろうか……精神崩壊など起こさねばよいのだが……」
 ベルクは溜息を吐く。

「過酷な状況なのだ。我々冒険者は慣れているが、船員達の遭難のストレスは計り知れぬ。彼らの精神状態には気をつかってあげるのだ……と、これは食えないのだ。毒があるのだ」
 見るからに毒々しい内臓を見て、ストレガは顔をしかめた。
 
●
 ハヤト、ベルク、ストレガが哨戒を兼ねた島の探索に出ている間、船員達の世話の為、ギャメル、トゥーリ、レイヤ、ヴィルヘルミナは浜辺に残り、とりあえず生活環境を整えようとしていた。

(まずは安全を確保しないとね……あの人、心配するだろうな……早く帰りたい)
 謎の怪物の襲撃による船の中破からの、無人島漂着。島についた途端に瀕死の船長の救命行為。ようやく落ち着いたと思ったら、トゥーリの脳裏に、丘に置いてきた恋人の顔が浮かんできた。まさかの遭難である。自分を乗せた船が行方不明になったと聞いたら、さぞかし心配するだろう。船が到着しないことに気づけば、リブラネスタが捜索隊を派遣してくれるだろうが、発見されるまではどのぐらいかかるだろうか? あの、船を襲った怪物のことも気にかかる。

「大変な目に遭いました……あれ絶対クラーケンですよ……! 初めて見た…!」
 船を沈めてしまった巨大な烏賊(イカ)の触手を思い出し、レイヤが興奮気味に叫んだ。あれは昔、父から聞かされたことのある『帰らずの海域に出没するという巨大な船舶殺し』に違いない。

「うむ」
(もしあの怪物があの海域を通る船をかたっぱしから沈めているなら、捜索隊が来るのは時間がかかるかもしれないのだ。だが、生きていればなんとかはなるのだ。思考を放棄してはならない。何、200年以上前の先達に比べたらこの程度)
 ストレガはレイヤに頷きながら、これからのことに思考を巡らせていた。

「……民間船が海軍に沈められたっていう噂、あの怪物の仕業かもです。これは絶対に生きて帰らねばなりませんね、会長! 対立が深まれば商売もしにくくなります!」
 絶望的状況から目をそらさせるため、レイヤはあえて商売の話をした。
「ああ、そういえば……リブラネスタはやはり濡れ衣だったのか……なるほど……確かに、あいつのせいで対立が起こっている可能性もあるな」
 レイヤの真摯な態度に心を動かされたのか、会長は少し気持ちが上向いたようだ。

●
「会長さん、急いで拠点を整備しましょう」
「私も賛成です。乗組員を含めた全員の安全を担保できる居住区の確保が先決かと。海岸沿いは海からの照り返しが強く体力消耗が大きく、退路も陸側に限られるため、可能な限り早く移動するべきです」
 トゥーリとヴィルヘルミナの言葉に、皆が賛成した。

 船長の手当が終わった後、冒険者達は少し島を探索し、拠点づくりに適した位置まで移動した。船の漂着地点からはさほど離れていない、船の残骸を見下ろせる高台だ。

「この硬さの岩盤なら、多少削っても崩れはしないでしょう」
 ヴィルヘルミナは刀を抜くと、岩盤に何度も叩きつけた。シャルガネの刀匠が見たらガチギレしそうな乱暴な刀の使い方だが、ヴィルヘルミナは地形破壊の極意(ハンマーブレイク)のスキルの習得者。彼女にとっては、刀は建築用ハンマーでもあるのだ。刀は刃毀れ一つせず、代わりに岩が砂場のようにえぐれていく。

「洞窟があればいいなと思っていたのだが……ドワーフは自力で作るのか……」
 ヴィルヘルミナの脳筋っぷりに、ベルクは唖然(あぜん)とした。
「ワタシも手伝う!」
 トゥーリは持参した穴掘り紋具とシーブズツールのハンマーを使い、ヴィルヘルミナを手伝った。二人は小一時間ほどで、横穴式住居を建設してしまった。

「とりあえずこんなところですね。あとは皆で補強しましょう。鳴子や落とし穴も作りたいので、手伝ってください。会長さん、船の残骸や物資を使いたいのですが、構いませんか?」
「ああ、構わない。もう使わないかもしれないし……」
「会長さん! またすぐ商売できますよ! その為にありがたく使わせてもらいますね!」
 会長から船の荷物の使用許可を得たトゥーリは、みんなと協力して船の荷物を持ち出した。

 その後、トゥーリとレイヤは依頼人や船員(船長は除く)にも作業を割り当てた。「暇」による不安増大を避けるためだ。人間、暇になると余計なことをあれこれ考えてしまうものである。トゥーリは入口周囲の樹木を伐採し、広く見通しを確保した。さらに鳴子や落とし穴、堀を設置して外敵や水の侵入を防止する。さらにレイヤと、哨戒から戻ってきたハヤトとベルクにより、外敵除(よ)けの柵や野生の動物捕獲用のトラップや檻も製作された。飲み水の問題に関しては、ギャメルが生活魔法で火を好きなだけ起こせるので、船に積んであった蒸留水生成用の器具でなんとかすることになった。

●
 ハヤト、ベルク、ストレガの三人は島の探索の担当となった。食べられるものを探しつつ、クリーパーなどの脅威があれば、排除したり、仲間に知らせたりする役割だ。

「今度はミミズか……毒があるかもしれぬが、とりあえず調べるのだ」
 ストレガは哨戒中に倒した巨大ミミズの解体作業を始めた。

「野犬でもいれば毒見に使えるかもと思ったが、普通の動物はおらんようだな……」
 ベルクはまた溜息をついた。ストレガはミミズの肉を一齧りし、指で「OK」サインを作った。

「うむ、今度は毒はなさそうなのだ。煮込めば食べられる。味付けの方は海水でなんとかしてみよう。海で魚も釣れるだろうが、食べ物の種類が多いに越したことはないのだ」
「あ、それなら俺がいいもん持ってるぜ。見よ! 調味料だ!」

 ハヤトが荷物の中から取り出したのは、ハーブ塩と醤油、そしてたっぷりのハチミツが入った小瓶だった。

「おお、いいものを持っておるな、ハヤト殿。それだけあれば料理の種類はかなり幅が出せるのだ」
「おう! これがあるだけでメシの楽しみも段違いだろ? 頼むぜ、ストレガ」
「任されたのだ」

 ハヤトはストレガが料理の達人であることを知っていたので、安心して彼女に命綱(ちょうみりょう)を託した。

「香草(ハーブ)も確保しておきたいのだ。毒が無ければサラダを作れる」
 ストレガはその辺に生えている植物を注意深く観察し、サンプルとして採取した。
「樹液も採取しておこう。水分は生命線だ」
 ベルクは猫よろしく、爪でガリガリと樹木の表面を削り始めた。

●
 その頃、拠点に残ったレイヤ、ギャメル、トゥーリ、ヴィルヘルミナは船員達と協力し、洞窟を補強したり、入り口に外敵用の罠を仕掛けたり、海の魚を釣ったりしていた。

(この状況だと仕方ないけど……毎日お魚はできれば勘弁してほしいなあ……)
 魚があまり好きではないトゥーリは、密かに食生活に不安を抱いていた。

「ところで甘味はいかがですか、『パウンドケーキ』があります」
 作業が一段落した頃、レイヤは満を持して、縦長のケーキをカバンから取り出した。ドライフルーツやナッツ類をふんだんに使用したパウンドケーキだ。

「おお、蜜花とも相性よさそうだな。でもさすがにもったいないか?」
 小瓶に入ったハチミツを取り出しながら、ギャメルが呟いた。

「おお! まさかこんなところでケーキが食べられるなんて!」
 レイヤは暴動が起こらないよう、丁寧にケーキを均等に切り分けた。一同はケーキを大事に食べ、今日一日の疲れを癒した。

「わたしの信じる神の教えに『週に一度は甘味を頂くように』というのがありまして。たまの甘味は心をほぐし、余裕を保つのに重要であると。みんなで一緒に食べれば心もやわらかく保てます」
「ありがたい教えだね……帰依(きえ)してしまいそう」
 至福の表情でパウンドケーキをほおばりながら、トゥーリは呟いた。

●
「とりあえず、生活基盤は整ってきましたが……いつまでもここにいるわけにはいきません。早く救助が来てくれるといいのですが」
 ヴィルヘルミナは拠点の高台から、漂着した浜辺に降りると、乾燥させた植物に火を点け、狼煙を上げた。
「いずれ、リブラネスタから捜索隊が出るはず……毎日決まった時間に狼煙を上げましょうか」

●
 冒険者達はローテーションを組み、夜の見張りについた。厳正なくじ引きにより、初日の番はレイヤとヴィルヘルミナとなった。

「それにしても……鳥の声が少なすぎる。やなかんじです」
 星空を見上げながらレイヤが言うと、刀を研いでいた手を止め、ヴィルヘルミナが頷いた。
「不思議な島です。どうやらこの島には、普通の動植物はいないようですね。ここは地図のない無人島だそうですが、何か、人類の上陸を阻むものでもいるのかもしれませんね」

●
「ハヤト殿!」
 ベルクは声を殺し、緊迫した声音でハヤトに呼び掛けた。
「やっぱ気づくよな……ばかでけえヤドカリだなぁ、オイ」
「うむ、急いでストレガ殿に知らせよう」

 切り立った崖の上から、極めて危険な怪物を発見したベルクとハヤトは、すぐに近くで植物を採取していたストレガに知らせにいった。ストレガはベルクにおんぶされ(ハヤトもおんぶ役に志願したが、却下された)、崖の上から全長12メートルはあろうかという、巨大ヤドカリを観測した。

「あれがクリーパーだとすれば、相当強力な個体なのだ。二人にはあえて説明するまでもないだろうが、クリーパーの強さはサイズに比例する。年経た個体ほど大きくなり、力を増していくのだ」
「どうする? 仕掛けるか?」
「うむ。ここから拠点まではかなり距離がある。敵の手の内だけでも暴いておこう」

●
「そんなに大きいんですか?」
 三人の報告を聞いたレイヤがわくわくした顔で問うと、ストレガは頷いた。
「甲殻類型の大型クリーパーなのだ。とりあえず『島の主(ぬし)』と呼んでおこう。あんなのに拠点を襲撃されたら、非授恵者はまず助からないのだ。早急に対処が必要なのだ」

 三人は小手調べだけで終わらせて帰還していた。巨大ヤドカリは見た目通りの硬さだった上、非常に厄介な特殊能力も持っていた。長期戦になれば戦いの騒音で他の怪物まで寄ってくる恐れもあり、三人だけで討伐するのは不可能だと判断したのだ。

「分かりました。総力で排除しましょう。この刀に斬れぬものなどありません」
 ヴェルヘルミナは立ち上がった。
「この島の主……! 恐ろしい存在ですが、少しわくわくしてしまいますね。ちょっと退治に行ってきます」

 レイヤが船員達に声をかけると、療養中の船長を含め、船員達は頷いた。だが、案の定、豆腐メンタルの会長だけは冒険者達に「嫌だ、行かないでくれ」と懇願した。医師としてずっと拠点にいたギャメルの衣の袖まで掴んで、駄々をこねたのだ。

「なにも、全員総出で行く必要はないだろう!?」
 ギャメルは会長を見上げ、優しく諭す。
「会長さん。オレも本当は臆病だ。あんたが怯える気持ちもわかるんだ。でも、行かせてくれよ。大型クリーパーがここを襲ってきたらみんな殺されちまう。それは嫌だろ?」
「それは、そうだが……」
「会長さん。すぐに戻ってきますから、辛抱してください。アナタがそんな顔をしていたら、船員さん達も困ってしまいますよ」
 トゥーリも困ったような顔で会長の目をじっと見た。すると、会長は観念したのか、「すぐに戻ってきてくれたまえよ」と言い、袖から手を離した。

●
「この匂いだ、間違いないぜ」
 クンクンと鼻を鳴らし、ハヤトが冒険者達に合図を送った。匂いと足跡を追い、島の主を補足した冒険者達は敵に気取られぬよう、慎重に陣形を整えている。

「よし、やるぞ」
 ベルクは、島の主の背中目掛け、崖から一気に飛び降りた。暗殺のエーテルを帯びた鉤爪は島の主の貝殻に食い込み、小さな亀裂を入れた。
「シャアアアアア!」
 敵襲に気付いた島の主は両腕を振り上げて暴れた。ベルクは島の主の背から飛び降り、地面に華麗に着地した。
(そういえば、こんなでかい貝殻をどこから持ってきたのだ? まあ、クリーパーだから深く考えても無意味か)

「いくぜ!」
 ベルクの攻撃とほぼ同時に、ハヤトは側面の死角から巨大ヤドカリへと突進した。
 ゴロゴロゴロゴロ!
 雷鳴と共に銀色の閃光が弾け、ヤドカリの脚の関節から無数の火花が散った。

「シャアアアアア!」
 二人に向け、島の主は左右のハサミを振り上げた。その直後、島の主のハサミが開き、内側からまばゆい輝きが漏れた。
 ドドドドドドドド!
 次の瞬間、二人に向けてエーテルの光弾が雨あられと撃ち込まれた。斜線上にあった大木が穴だらけになってベキベキと後ろに倒れていったが、シーフの二人は弾道を見切り、光弾の隙間を無傷で通り抜けていた。

「出たな……! キャスターのメテオライトに匹敵するエーテル弾の砲撃! 足絡之呪(おまえのあしはうごかない)」
 ストレガが放った青藍の錨が島の主の脚に突き刺さり、鎖で大地へと縛りつけた。島の主は暴れまわったが、エーテルの鎖の呪縛は強固に島の主の脚を拘束している。

「これが……島の主!」
 トゥーリは槍の間合いのギリギリまで島の主に近づき、光を帯びた穂先で一突きした。甲殻に小さな穴が空き、毒のエーテルがクリーパーへと浸透していく。
(ヒーラーは二人しかいない。近づき過ぎないようにしなきゃ)

「とんでもない化け物だな……怪我人は俺が治すから安心してくれ」
 後方に控えていたギャメルは祭刀を一閃し、エーテルの斬撃を島の主へと浴びせた。だが甲殻が硬く、手ごたえは浅かった。

「島の主ですか……この島が未踏の地だったのはあるいはこの怪物のせいでは?」
 ヴィルヘルミナはトゥーリを背後に庇いつつ、刀を一閃した。空気を切り裂いて飛んだ斬撃は硬い甲殻を切り裂き、黒い血が胴から噴き出した。

「大きい……! 山のようですね!」
 レイヤは短杖を島の主へと向けた。すると、霞の中から雀ほどの大きさの光の鳥の群れが飛び出し、島の主の足元を啄(ついばみ)み始めた。これはディズル大湿地帯に古くから伝わる災厄、雲霞鳥(うんかちょう)を模した魔法だ。

●
「せやあああっ!」
「うらぁあああああ!」
 ベルクとハヤトの左右からの連撃が島の主の背で交差する。絶え間なく重ねられた攻撃により、ついに島の主の『宿』が砕かれ、脆い背中が覗いた!

「シャアアアアア!!」
 生命の危機を感じたのか、一際高い声を上げた島の主は両腕のハサミを正面に構えた。

「やべえ!」
 直感で島の主の狙いに気づいたハヤトは全力で回避行動を取った。直後、ハサミから放たれた、『貫通衝撃射』に似た極太の光の矢が、冒険者達に襲い掛かった。ハヤトの後ろにいたのは、ストレガとレイヤだ。

「がはっ……!」
 光の奔流に飲まれたストレガは吹き飛ばされ、ばたりと倒れた。
「ストレガーーッ!」
 思わずハヤトが叫ぶ。
「私は無事です……! ストレガさんを!」
 レイヤの方はとっさにエーテルバリアを張って光矢の威力を殺し、致命的なダメージは回避していた。

「すぐに治療を!」
「大丈夫だ、息はある!」
「リヴァーオブヴァイタルをかけるよ!」
「頼む、トゥーリ! オレはもう船長の治療に使っちまった!」
 トゥーリは活力を注ぎ込む為、ストレガへと駆け寄った。ギャメルも大急ぎでヒールをかけ、ストレガの傷を癒す。

「奴の注意を引きます!」
 ヴィルヘルミナは島の主に突進すると、横一文字に脚を切り裂いた。ハヤトの関節攻撃で既に弱っていた脚はバキンとねじ切れ、島の主はすさまじい音を立て、前のめりに転倒した。

「今です! このまま畳みかけます!」
 ヒーラー二人以外の五人の冒険者から、露出した背中に集中攻撃を受けた島の主は、そのまま起き上がることなく、断末魔の叫び声をあげたのだった。

●
「すまぬ。心配をかけたのだ」
 トゥーリとギャメルの集中治療を受けたストレガは立ち上がった。ダメージを受けてから数秒で回復されたため、後遺症も特にない様子だ。

「無事で何よりだぜ。あんたがいなくなると、みんな悲しむ」
「ストレガさんはサバイバル料理界の救世主ですし……」
 ギャメルとレイヤの言葉に、冒険者達はうんうんと頷いた。

「よし、これでしばらくは食料には困らんだろ。なにせ、このサイズだからな」
「どちらかというと、拠点まで運ぶのが大変ですね。担いでいける重さではありませんし」
「そうだな。ここで解体して天日干しにでもしとくか……」
 倒した獲物の威容を眺めながら、ハヤトとヴィルヘルミナが言った。
 
 それからさらに数日後……。
「あっ船です! 船団が近づいてきます!」
「やったー! ようやく帰れるんですね!」
 
 島へと近づいてくるリブラネスタ海軍旗を掲げた船団の到着に、冒険者達……否、島にいる全員が歓喜した。

「狼煙が上がっていて助かりました。皆さん、よくぞご無事で……!」
「ああ、助かった……!」
 捜索部隊の隊長と熱い抱擁を交わす会長。感動的な光景に、トゥーリとレイヤもつい涙腺が緩んでしまった。

「冒険者諸君。君達にもこのレオナルド、心から礼を言う。誰一人欠けずに島を生きて出られたのは、君達のお陰だ」
 冒険者達に向き直った会長は、深くお辞儀をした。

「ところで、何があったんです? あの日、嵐などはなかったはずですが……」
 捜索隊長が問うと、ギャメルが口を開いた。
「ああ、実はバカでかいイカの怪物に襲われて、船が壊されちまったんだ」
「そうですか……やはり、あの海域には何かいるのですね」

 ギャメルの言葉に、捜索隊長は複雑な表情を浮かべた。こうして、次なる戦いの予感を感じさせつつも、冒険者達の無人島サバイバル生活は無事に終わりを告げたのだった。

マスターコメント

全員生還、おめでとうございます。果たして船を破壊した怪物の正体とは? そして、エスト・ポーラの船団を沈めたのもあの怪物なのでしょうか? 革酎MS率いる【北乱】連作の次の展開にご期待ください!
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ難しい 報酬:多い7 / 6〜10人

2023年04月18日 10時33分21秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ギャメル

    ヒーラーのギャメルだぜ! みんな、よろしく! 船長が命の危機だぜ。他に希望者がいなけりゃ、オレが治療や衛生管理の対応にあたろうと思う。どうかな? 持ち込む道具や汎用スキルの相談もしていけたら、ムダなく役割分担ができそうだな!

  2. レイヤ・ダライ=カホール

    強敵でしたね、アレ絶対クラーケンですよ!初めて見た…!( さて、ひとまずはみんな無人島にたどり着けましたね。 …船長も何とか助かるといいんですけど。 とりあえず水と、安全な寝床がほしいですね。 商船を直したりばらしたりして寝床に使えないでしょうか…?

  3. トゥーリ

    トゥーリだよ、よろしくね! あと4人……動ける授恵者の人が他に船に乗っててもらえると助かるけど…… やるべきことって以下みたいな感じかな? ・衣食住の基本的な環境を整える  サバイバル知識、土木、木工などクラフト系スキル ・瀕死の船長を治療する  医療スキル、ヒーラースキルなど ・パニック状態のNPCへのケア  交渉や話術、演説やエンタメ系の技能など  調理とかもあるといいかも ・クリーパーを倒し、安全を確保する 上の3つを手分けしている間に誰かが索敵、発見したクリーパーに対して全員で討伐に向かうみたいな流れかなあ……クリーパーはさすがに単独行動で討伐するのは難しいよね。 治療はギャメルさんにお任せしていいんじゃないかな! ワタシもヒーラーだけど医療スキルは高くないし、こういうのは希望者がやるのが一番だからね。

  4. ヴィルヘルミナ

    見たら成立してましたね。 ヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いします。 とりあえず、船長は先に救命しておいた方が良さそうですね。特に急を要しそうですし。 あとは水源やら食料の確保とか。 救援は狼煙とかあげれば、捜索側も発見しやすくはなるのでしょうが、クリーパーや魔獣も寄ってきそうですね。 >汎用スキル 自身が所持しているものだと 土木・建築:住の確保 地質学:島の探索時に ピュアウォーター:最低限の水の確保 この辺りから二つでしょうか。 料理も考えましたが、得意な方がいらっしゃいますので、お任せしようかと

  5. ストレガ・L・リベルガストラ

    ストレガなのだ。よろしくなのだ。 安全確保と食料確保兼ねて魔獣狩りしようと思うのだ。 毒見の為超味覚持っていくのだ。

  6. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ、よろしく頼む。 船長のためにも安全かつ清潔な場所の確保は急務だな。 土木系か狩り系を持っていって食料調達するか。。

  7. ギャメル

    ありがと! それじゃまずは船長の治療にあたらせてもらう。 船長の状態が落ち着いた後は、オレも戦闘や他の作業に参加できるぜ。 ヴィルヘルミナの狼煙のアイディア良いな! たしかにリスクもあるけど、救助を早めるっつーメリットが大きいってオレは思ったぜ。 敵を引き寄せるリスクを減らすとしたら、もうちょい地味に、海側から見やすい場所に石や木の枝を文字になるよう設置したりとかかなぁ? 汎用スキルは「医療・薬学」と「生活魔法」をセットしてる! 火種が確保できると便利かなって。 道具は、高カロリーで栄養豊富なハチミツの「艶香の蜜花」と アルコール度数が高くて消毒効果が期待できそうな「蒸留酒」と 色々入っててお得な「シーフズツール」を用意してるぜ。

  8. レイヤ・ダライ=カホール

    (…あ、名乗ってなかった。) キャスターのレイヤですよろしくお願いしますね! わたしも狼煙、良いと思います。 煙なら水平線の向こうでも見えるかもですし! それじゃあわたしは「サバイバル知識」と、それから「暗視」を持って行こうかと思います! クリーパーとかたくさんいるみたいですし、夜中の見張りは必要だと思って。 あと「パウンドケーキ」。これは必須です。 たまの甘味は心をほぐす、余裕を保つのに重要だとわたしの信じる教えにもあります。

  9. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、ギリギリの参加だがよろしくな!! 俺はベースキャンプにする場所の安全確保を優先に哨戒と敵発見時は可能ならそのまま撃退しつつ食糧確保に動く予定だ。 海の幸にゃ困らねぇだろーから、ハーブ塩と醤油を持ってって食事を味わえる様に準備してくぜ! それとギャメルも持ってくみてーだが俺も蜂蜜も持ってっとくな。 あとは《超嗅覚》での索敵と《サバイバル知識》で生存確立を上げに行くぜ!!

  10. ヴィルヘルミナ

    明日の朝には出発ですね。忘れないようお気をつけて。 スキルに関しては私は土木とピュアウォーターにしておきます。 狼煙の火は火打石で何とかしようかと。 あとは道具に適当に何か入れておきます。

  11. ギャメル

    いよいよ出発かー! オレの個人行動は瀕死の船長の治療がメイン。依頼人のメンタルにもちょこっと対応。 衣食住の確保や島に潜む脅威との戦闘は、船長の治療が済んだ後に仲間を手伝う感じ。 >夜の見張り レイヤ、ありがとう! 安心できるぜ。 見張りのない時はゆっくり休んでくれー! >蜂蜜 うん! 一人で持っていける量は少しだろうから、食品系のかぶりは問題ねぇと思うぜ!

  12. レイヤ・ダライ=カホール

    (「あ!?プレイング送るの忘れてた」の顔)

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0