【青玉】辺獄の魔物退治
コースケ
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シナリオID:2789
オープニング
「おっしゃることは分かりました。ですが、ダンジョンで引き受けることは出来ません」
ここは迷宮都市エドゥノーグにある探索支援ギルド。その受付で、何でも屋のオッターは申し出を断られていた。
オッターは師匠の命令で、サピラと名付けられたアーマーハウンドの特異個体の引き受け先を探しており、エドゥノーグのダンジョンをその候補として訪れていたのだ。
「いやでも、場所が無い訳じゃ無いだろう?」
食い下がるオッターに、受付はため息を付くとその理由を解説する。
「いいですか。まず、浅層にはエドゥノーグの市民も食材の採取などで入りますし、迷宮鼠と呼ばれる住人も居ます。彼等の多くは非授恵者であり、ダンジョンでの生活から魔獣の恐ろしさを良く知っています。いくら危険がないと言われても、肉食の大型魔獣との共生は承知しないでしょうし、まずギルド長も許可を出しません」
「あー……、じゃあ住民の居ない上層なら行けるんじゃ無いか?」
なお食い下がるが、受付の態度は変わらなかった。
「放逐するなら許可も下りるでしょうけれど、ダンジョンのモンスターと間違われて狩られる可能性がありますよ? それに、ダンジョンが変容して形を変えた場合、ダンジョン産でないその魔獣が生きていける保証は出来ません。他を探す方が良いと思います」
●シグモル火山帯
「……どこも駄目だった」
オッターはとぼとぼと道を歩いていた。学術都市ヴァルクリエにも行って同様の交渉を行ったのだが、それも上手くいかなかったのだ。
学術都市の学者は、特異固体化の原因を調べるためにも解剖を行う事が引き受ける条件と言って譲らず、それを師匠が承知する訳が無いため断って来たのだ。
「サピラ移送の許可を取りに行った中では、帝国のヴィントダンジョンなら頼めばサピラを置かせてくれそうではあったんだけど……」
そちらも迷宮都市のダンジョンと同じく、変容に巻き込まれる可能性があり、海水に満たされた枝場の多いヴィントダンジョンでは、泳げないサピラが溺死する可能性がある。
「その辺の問題を何とかしないと、師匠にどやされるのが目に見えるよな。いっそ人の居ない荒野に……」
「誰にどやされるって?」
オッターが顔を上げると、エルフの魔獣使い、ディアナ・ローロシェーナスが立っていた。何処に行っていたのか、服のあちこちは埃で汚れ、顔には煤の様なものまで付いていた。
「んぎゃっ!? し、師匠?」
まさかの本人登場に飛び上がるオッターだったが、師匠は面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「ふん、その様子だと上手く行かなかったみたいだね。まあ、人の国なんてそんなもんだろうさ」
「……面目ねぇ」
項垂れるオッターを一瞥し、ディアナは踵を返して歩き出す。
「行くよ」
「行くって何処に……?」
オッターの問いに、ディアナは振り返って答えた。
「交渉をしにさ」
●神徒
「サピラを島から出す許可を欲しいとおっしゃるのですか?」
自分を訪ねて来たディアナの言葉に、老年の神徒、マグダリアは青い瞳を向ける。
「私は只の教育係です。その様な権限はありません」
「けど、教え子に顔は利くだろう?」
「!?」
ディアナの言葉に、同席した神徒は顔色を変える。マグダリアはそういった特別扱いを良しとする性格ではない。実際、マグダリアの瞳に険が宿っていた。
「私は忙しいのです。その様な話は他の者に当たって下さいますよう」
「教育係のあんたがここにいるってことは、神徒は随分人手不足みたいだね。大方、辺獄から溢れた魔物の対応で手が足りていないんだろう?」
ディアナの指摘に、席を立とうとしていたマグダリアは探るような視線を向ける。
「サピラならそれを解決出来る。それに、私なら辺獄から出た魔獣の居場所もある程度検討は付くよ」
「……サピラを魔物の排除に使うのですか? その結果、サピラが新たな脅威にならない保証は?」
「私が保証する」
即答するディアナに、マグダリアはしばし考え口を開く。
「良いでしょう。ただし条件を付けます。サピラを島から出すのは一時的なものとすること。そして、サピラが我々の脅威となる場合、貴女が責任を持って対処すること。その後のサピラを島から出す許可については、討伐の結果を見て神徒全体で決めさせて貰いましょう」
頷くディアナに、マグダリアは気になったことを問う。
「そこまでして、一体何処へ連れて行くつもりなのですか?」
「実は行き先を探してる最中なのさ。……ところで、辺獄の入口に門番は要らないかい?」
「貴女という人は……」
眉間に手を当て、マグダリアはため息をくとディアナを見つめる。
「その場合、最悪シグモルに骨を埋める事になりますよ?」
●辺獄入口
『グルル……』
ディアナに連れられ、青玉の猟犬が辺りを見渡す。10mを越す身体に青い鉱質を纏った魔獣に、集められた冒険者達は息を呑む。
「あれが暴れたら俺達が止めなきゃならないんだよな?」
「御せる事を示して移動の許可を貰うらしいが、行き先も決まっていないのに良くやるもんだな」
そう囁く声を聞き、依頼を受けていたリザードマンの戦士は感想を口にする。
「あれだけの巨体の魔獣、ディズルに来て雲霞鳥を捕食してくれるなら助かるのだが……」
あるいは、修行の相手として戦士の氏族にも歓迎されるかもしれない。
「ほう。ありゃそんなに良いもんかね?」
隣に座っていた隻眼のドワーフはそれを聞き、濁った左目を猟犬へ向ける。その瞳が熱を帯びようとしていた。
解説
マスターより
リプレイ
「初めまして冒険者の皆様、この度は討伐に参加頂きありがとうございます。そして、サピラへの対処が必要な場合はよろしくお願い致します」
神徒を代表しマグダリアが礼を述べ、冒険者達は思い思いに返事を返す。その中にはマグダリアの教え子であり、現在は冒険者として活動するロゼットもいた。
「はい。先生。よろしくお願いします。皆の案内は任せて頂けたら」
「はい。ロゼット様。では、お任せいたします」
ロゼットの言葉に、マグダリアはその申し出を了承した。自分への呼び方が丁寧なのは、自分を他の冒険者と同列として特別扱いしない為だろう。
厳格なマグダリアらしい対応だと思いつつも、この厳しい恩師に認められたようで口元が緩みそうになるのを堪えて、ロゼットは気を引き締める。
(今日は先生に注意されないよう、依頼に集中しないと……!)
「君がサピラくんか。話には聞いていたけど大きいねえ……!」
「改めて見ると、ほんっとにデカいなあ。そんじゃ、今回はよろしくな」
エルフの治癒術士、アラン・スミシーと、ハーフリングの盗賊、Octavia・Aureus《オーレウス》はサピラを見上げつつ声をかけていた。実際に目にすれば、その巨体の威圧感は圧倒的である。
とは言え、冒険者達の多くはサピラを恐れず、他にも接触を試みる者は多かった。
「ふわふわもふもふ……仲良くなれれば抱き着いたり背に乗せたりしてもらえぬだろうか」
「……サピラさん、はじめまして。エル、です。どうぞ、よろしく。ええと、動物のおやつ、食べ、ます?」
ハーフビーストの盗賊、ベルク・オスマットはサピラの毛並みと大きさに目を輝かせ、ヒューマンの射手、エルはサピラが好みそうな骨付き肉を差し出す。
『ガル……』
サピラは授恵者へ警戒する素振りを見せつつ、敵意がないことは分かるのか、戸惑った様子で傍らのAlexandra・Hexe・Claudiaを見た。
「大丈夫です。彼等はあなたを害するつもりはありません」
『グル……』
冒険者達の中で元も交流の深いAlexandraが手を触れ、動物交感で意思を伝えると、サピラは不安を滲ませつつも理解の意思を返し、おやつを咥えると噛み砕いて飲み込む。
「クラウディア以外の者でも、サピラが人に信を寄せる事が出来れば良いのだが」
「そうだね。私達以外の授恵者でも大丈夫とサピラが学び、それを神徒も認めれば、ここでやっていける様になるだろう」
それを見てAlexandraの友人であり、サピラと接する機会も多かったナタリア・フィッツジェラルドも内心を口にし、傍らのディアナも同意する。
神徒から危険視されぬ為にも、サピラと人が友好的な関係を持てる事を示す必要があると考えているからだ。
エルがサピラに話しかけ、ベルクがサピラに抱きつくのを眺めているAlexandraの元へ、Octaviaがやって来る。
「サンドラはそろそろ名前でその子呼んであげたら? 彼が名乗ったとて理解るでなし、呼び名から始まる絆もあるっしょ」
「……そう、ですね」
人が勝手に名付けただけで相応しくないと思い、Alexandraは『サピラ』の名を呼ばなかったのだが、この奔放な友人の勧めるように名を呼ぶべきだろうか……。
そんな事を考えていると、サピラにおやつを与えていたアランが満足した様子で出発を告げた。
「おーよしよし……それじゃあ、みんな頑張っていこう!」
●魔獣の巣窟
「この一帯を縄張りとして制する。脅威は実力で排除しましょう。行けますか?」
『オンッ!』
神徒へ示す為とディアナに薦められ、サピラの背に乗ったAlexandraが指針として一帯の魔物の制圧を伝えると、喜びの感情と共にサピラが駆け出す。
鋭い爪で大地を掴み、その巨体を宙に踊らせて火山帯を進む姿は、隔離されていた島から出たためか生き生きとしている。
「くっ……!」
「サピラ、もっとゆっくり。振り落とす気かい?」
揺れる背中にしがみつくAlexandraを見かね、大型の猫型魔獣に掴まったディアナが隣に並び、サピラに速度を落とさせると共に、魔獣を冒険者達の方向へ誘導するべく追い立てる。
『ガウッ!』
ディアナの指示に、背中を極力揺らさないようサピラが大地を駆ける。それにより余裕が出来たAlexandraは、蒼玉鋼の霊刀を掲げ、サピラと力を合わせ魔法を放った!
「これならいけそうですね。見せてあげましょう!」
『アオォーーン!』
サピラが吠えると、その周囲に無数の鋭利な石片が浮かび、Alexandraの魔法も加わって石片が赤熱する。そして次の瞬間に眼前の岩場へ殺到し、そこに隠れていた蜥蜴型の魔獣達を巻き込んで炸裂した!
多くはその一撃で倒れたが、魔法の範囲外にいて難を逃れた蜥蜴魔獣が飛び出し、サピラから逃れる為に走り出す。
「次はあっちだ!」
「行きましょう」
『ガウッ!』
ディアナの指示に従い、Alexandraとサピラは一帯を駆け魔獣を追い立てる。10mを越すサピラの巨躯は、この役目に適任だった。
その様子を神徒達も観察していた。
「おお、あれが……あんな魔物が人里を襲えばひとたまりも無かろう」
「しかし、冒険者の言うことを良く聞いている。このままここに置けば、魔獣やクリーパーの駆逐を任せられるのではないか?」
「冒険者が居なくなっても大人しくしているのだろうか……?」
神徒達はサピラの力を恐れつつも有用性を認めつつあった。
「…………」
その中でただ一人、マグダリアだけは難しい表情でディアナを見つめていた。
やがて誘導された魔獣達は、冒険者が待ち受ける地点へ誘導されて行く。
「来たね。支援するからおじさんの周りに集まって!」
「半分はこちらで引き受けよう」
迎え撃つべく待機していたアランとナタリアから解放されたエーテルの波動が、冒険者達を包みその能力を大きく引き上げる。
「感謝します! いざ、参りましょう!」
リザードマンの戦士を先頭に、蒼白と黄金の光を纏った戦士達が壁になった。アランとナタリアの支援を受けた戦士達は魔獣の突進を受け止め、傷を負いながらも余裕を持って魔獣の正面突破を阻止していた。
「ならば次は我の番だ!」
ベルクは暗爪刀「狐爪」と暗刺刀「狐牙」を手に、最も巨大な蜥蜴魔獣の前に躍り出ると孤爪で切り裂き、孤牙を突き立てるとそれを捻って傷を広げ、魔獣の血の糸を引きながら後ろへ跳ぶ!
『シャァー!』
「貴様の餌になってやる程我が身は安く無い」
反撃に蜥蜴魔獣が噛み付いて来るが、ベルクは軽く躱す。そのベルクと入れ替わるようにして前に出たエルナ・クルプファルツが、竜爪の籠手にエーテルを込め突きを入れた!
「この蜥蜴さんには早く倒れて貰いましょう!」
華奢な腕から放たれた突きだったが、見かけから想像できないほど重く鋭い。爪に貫かれた魔獣は痛みに身をよじる。
その一撃を脅威と見たためか、狼型魔獣二頭がエルナに飛び掛かった! しかし、エルナは一頭の体当たりを躱し、もう一頭の牙を籠手で弾くと、反撃の籠手に巨大な光塊を纏わせ振り下ろした!
「纏めて攻撃しちゃいますよ!」
その一撃に押し潰された蜥蜴魔獣と二頭の狼魔獣が倒れ、周囲の魔獣も傷を負わせる。
今回はあえて相棒を連れず、至近距離を自身の距離とした孤高の零距離殺撃者は、この後も多くの魔獣を倒してゆく。
「俺らも負けてられねぇぞ! 気合い入れろ!!」
「「応!!」」
ベルクとエルナの活躍に、他の冒険者達も魔獣へ向かって行く。その士気は高く、魔獣を圧倒する勢いで乱戦が始まった。
「回復するわ! 不調に対する備えもあるから、何かあったらすぐに言って頂戴!」
「怪我はぼく達が癒すから、そのまま討伐をよろしくね!」
冒険者達が受けた傷は、ロゼットとアランが放った温かい光に触れると瞬く間に塞がってゆく。
「ならば私は攻撃に回ろう」
負傷への対応は十分と判断したナタリアは、悪精の掌と名付けた籠手を掲げると無数の光球を飛ばし、ヤスデや蠍型の魔獣を撃ち抜いてゆく。
「崖に逃げたのがいるぞ! 誰か追えないか!?」
「まっかせて―!」
「援護、します……!」
サピラと冒険者に挟まれた魔獣が急な岩場を登るのに気付いた誰かが叫び、それに反応したOctaviaが壁歩きで岩の斜面を駆け、蜘蛛型魔獣の脚を竜爪の短剣で断つ!
そこへエルの竜骨の魔弓から放たれた矢が飛来すると、蜘蛛の外殻を紙のように貫き、更に込められたエーテルが動きを鈍らせた。
「今だ! 射てーっ!」
そこへ射手や術士の攻撃が飛び、隻眼のドワーフが斜面を駆け、赤黒く輝く斧槍を振り下ろす! 斧槍の刃は鈍い音を立てて蜘蛛型魔獣の頭部を断ち、頭を失った蜘蛛はそのまま転がり落ちて行った。
「ヒュー! ヤるねぇ!?」
「……フン」
それを目の当たりにしたOctaviaの言葉に無愛想に鼻を鳴らすと、ドワーフは崖を滑り降り次の獲物へ向かって行く。
「愛想無いのー!」
Octaviaも負けじと斜面を駆け降り、戦列に加わるのだった。
●小休止
魔獣を討伐した一行は、雨が降りだしたこともあり、岩陰や馬車の幌で休息をとっていた。
「この位なら長くは降らないと思うわ。良い機会だし、少し休みましょう」
ロゼットが雲の厚さを見て天気を予報する。多くの者は雨具となるマントなどを羽織ってはいるが、濡れて身体を冷やさないに越したとこはない事からの判断だった。
「…………」
雨の中、サピラが倒れた魔獣に齧りついている。それを無言で見つめるディアナの顔は、どこか物憂げだった。
「あの……、少し、よろしい、でしょう、か……?」
「……なんだい?」
エルが声をかけると、ディアナはどこかばつが悪そうな顔で振り返るが、自分の相棒である狼を見てディアナの表情が和らぐのを見て、エルは自分の考えを述べる。
「ええと、サピラさん、の、行き先を、探している、そうです、けど、帝国の、復興地、最前線辺りは、どう、でしょう?」
そこなら魔獣やクリーパーも多く、サピラも歓迎されるだろうとの考えも伝え、エルは言葉を続ける。
「資金、に、ついては、ディアナさんが、冒険者になって、サピラさん、と、魔獣や、クリーパー退治の、依頼を、受ける、のはどう、でしょう、か……?」
「あー……。行き先はともかく、サピラと依頼を受けるのは難しい」
「……?」
首をかしげるエルに、ディアナは理由を説明する。
「魔獣は多くの者にとって脅威なんだよ。特にサピラはあの巨体だ。隠すことも難しい上に一般人へ与える恐怖も大きく、連れ回すには何らかの保証が必要になる」
現に今サピラがここにいるのも、神徒と冒険者、ディアナといういざという時に対処出来る人員を用意し、ようやく許可が降りている状態なのだ。
「それに、私もそういった事は苦手でね。何度も依頼を受けて資金を集めるくらいなら、邪竜の巣からお宝を持ち出す方がマシさ」
「そこ、まで?」
「サピラの事を考えてくれたのにすまないね。他に手がなけりゃそれもやむ無しだけど」
そう言ってディアナは空を見上げる。雨は止みつつあり、雲の合間から光が差し込み始めていた。
「そろそろ次に行こうか?」
●這者の岩場
冒険者達は幾つかのグループに分かれ、クリーパーの居るという岩場を進んで行く。
「地形の調査と索敵は完遂せねばな」
「神徒さんによると、クリーパーさんは岩にそっくりなそうですので、見落とさない様にしないとですね!」
ベルクとエルナは仲間からやや先行して物陰に身を隠し、エーテルの波動で地形の把握と索敵を行っていた。
やがて二人は赤茶けた岩場の亀裂に複数の反応を感知する。波動が捉えた反応は動く様子がないが、狭い範囲に二十を越える反応がある事から、二人で進むのは危険と判断する。
「仲間を呼ぶ。合流してから殲滅しよう」
「小型さんは体当たりしてくるだけですけど、中型さんは岩を飛ばして来るらしいですものね」
二人は岩陰に隠れ、他の者の到着を待つのだった。
『ガウッ!』
サピラの放った石片が、岩のような姿のクリーパーを貫き横転させる。クリーパーは節の様な脚を蠢かせるが、そこへAlexandraとナタリアの放った魔法が炸裂し、砕けたクリーパーは崩壊してゆく。
「彼は体躯の都合、正面以外からの干渉に比較的弱い。死角狙いで群がるものは片端から叩き潰しにかかるとしましょう」
「なるほど。デカワンコなだけあって、死角となる障害物の多いここは鬼門という訳だな」
サピラも嗅覚等の感覚は鋭いが、風向きや周囲の喧騒によっては不意を打たれることもあるだろう。Alexandraは油断無く周囲を警戒し、ナタリアもそれに倣った。
「数が多いから気を付けて! 中型は遠距離攻撃もして来るから、互いに死角を補い合いましょう!」
ロゼットは他の冒険者達と協力して戦闘を行っていた。負傷者を癒しつつ、その合間に輝くダマスカス鋼の祭棍でクリーパーを砕き、エーテルの矢を放って味方を援護する。
その戦いの中心で隻眼のドワーフの殺気が一帯に広がり、数秒後に振るわれた斧槍が複数のクリーパーを紙の様に抵抗無く切り裂いた!
(殺界? それにしても凄い威力ね……)
本物の岩で無いとはいえ、クリーパーの外皮は岩並であり、中型はそれ以上の強度を持っている。それをああも簡単に切り裂くとは相当の実力があるか……
(それともあの武器が特別なのかしら?)
ドワーフの手にした斧槍の輝きは禍々しく、最後に残った中型クリーパーへ叩き付けるように振り下ろされたそれは岩のような外皮を断ち割り、動かなくなったクリーパーは崩壊してゆく。
『グルル……』
「どうしたのですか?」
戦闘が終わっても警戒を解かないサピラに、Alexandraが触れて落ち着かせようとするが、返ってきたのは畏怖にも似た感情だった。
「あの男を警戒しているのか?」
サピラの視線の先には、斧槍を手にしたドワーフの背中があった。
「ベルクさん、から、知らせが、来ました。この先、に、沢山居る、そうです」
テレパスで連絡を受けたエルが周りに伝え、一行は合流するべく先へ進む。
やがて岩陰で待機しているエルナとベルクと合流し、地形と敵の位置を共有する。
「相手の姿は見えていないそうだけど、クリーパーで間違いないのかな?」
「おそらく、間違い、無い、と思い、ます。微かに、ですが、重いもの、を、引き摺る、音が、します」
「そもそもここは火山帯にしても他の生物の気配がない。クリーパー以外にあるまい」
アランの確認に、耳をすませていたエルが答える。加えてベルクの言う様に、エーテルを求めて生物を襲うクリーパーは、他の生物と共存することはまずあり得ないため、長く居れば居るほどその場所は生命の無い荒地となってゆく。
「なるほど。なら岩みたいな外見のクリーパーだろうね。調べた限りだと外皮が固いらしいけど、魔法は有効らしいから出来るなら魔法で攻撃すればいいと思う」
アランが予め調べて来ていた情報を伝え、それに頷いた一同は武器を構えると戦闘に備える。
「それじゃ行っくよー!」
Octaviaが壁歩きで岩壁を駆け上がって中を確認すると、岩のような外見のクリーパーが反応する。
「おっとお?」
飛来した岩をのけ反って躱したOctaviaが追撃を避けるために後退すると、それを追って小型のクリーパーが続々と亀裂から這い出てくる。
「分かっては居たが数が多いな」
「範囲攻撃はあと一回しか使えないですね」
撃って出るか悩むベルクとエルナを制し、エルが弓を構える。
「こちら、は、まだ、余裕が、あります。巻き込まれ、ない、よう、待っていて、下さい」
放たれた矢はOctaviaの脇を掠め、それを追う小型のクリーパー達を巻き込んで炸裂する! 魔弓から放たれた矢は固い外皮をものともせず裂傷を与え、続く第二、第三射で11体の小型を倒し、第四射で後続の小型と中型にダメージを与える。
「後は任せよ!」
先手必勝とばかりにベルクが駆け、ベルクの暗爪刀が中型に傷を負わせつつ身体を蝕むエーテルを流し込み徐々に生命力を奪ってゆく。
「あたしだって負けないよ!」
「最後の大技決めちゃいますっ!」
Octaviaもベルクを負うように走って中型に切り付け、エルナの籠手が光塊を纏って振り下ろされると小型は砕け散り、残る中型にも確実にダメージを与えている。
「残りは中型が三体だ。気を抜かずしっかりやろう!」
中型の反撃を避ける三人に、回復の必要が無いと見たアランは、付き出した竜石の祭刀から衝撃波を飛ばしながら声をかける。
エル以外はスキルの回数が残り少なかったのもあり、多少手間取りはしたが、エルの攪乱射撃の効果で動きの鈍ったクリーパーの攻撃は中々当たらず、運悪く傷を受けてもアランが傷を癒すため、余裕を持って戦闘を行っていた。
「あなたで最後です!」
やがてエルナの一撃を受けた中型クリーパーが倒れ、砕けた破片から崩壊してゆく。
「ふう。皆無事かい?」
「ああ。この辺りに居るクリーパーは今ので最後だな」
「奥にも、居ない、よう、です」
ベルクとエルが周囲の反応を探り、一帯のクリーパーの討伐が完了したことを確認する。
「日も暮れるし、そろそろ戻ろっか?」
Octaviaの提案に従い、一行は岩場を後にするのだった。
●青玉の処遇
「冒険者の皆様、この度はありがとうございます。クリーパーと魔獣は数を減らし、民への危険は大きく減じました。神徒を代表して御礼申し上げます」
マグダリアの宣言で討伐は終了となり、冒険者達は解散してゆく。
「先生!」
「何でしょう」
そんな中、ロゼットは去ろうとするマグダリアへ声をかけた。サピラの処遇について伝えたいことがあるというと、マグダリアは話を聞くために足を止めた。
「ディアナさんは骨を埋める覚悟、誠意を見せました。リスクは無論ありますが……誠意をもって、助けを求めにきた者にシグモルがどう応えるかは検討の余地がある、と思います」
「そうですね。彼女は魔獣が居ても問題の無い居場所を提示し、我々に利まで示しました。神徒として断る理由はほぼ無いと言えるでしょう」
「何か問題があるのでしょうか?」
肯定的な言葉を口にしながらも、マグダリアの言葉に含みを感じ、ロゼットは問いを口にする。マグダリアはサピラと島へ向かうディアナの背中に目をやると、息を吐いて教え子に内心を吐露する。
「これは個人的な感傷なのですが、我々に都合が良すぎるのです。シグモルの民とすれば利は多い。ですが、サピラが辺獄の番人となれば、ディアナはサピラが居る限りここを離れなくなる。彼女が望んだ事とはいえ、一人に負担を負わせるのは本意ではありません」
「……あ」
「それでも、私の感情で申し出を断る訳にもいかない。せめて、神徒でサピラを御せる様になれば良いのですが……」
ロゼットとマグダリアがディアナを見送るのと同じ頃、別の場所からディアナとサピラを見る眼があった。
「あれを手に入れるには相応の用意が必要か。あのエルフが使えるか……?」
その背中を見る赤い隻眼は、狂気を含んだ熱を帯びていた。
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:多い8 / 4〜25人
2023年03月01日 15時37分04秒 公開
相談掲示板
≪PL操作 ~…、…― (ディアナの伝手で久々に出歩くこととなった、件の魔獣。 …今のところはどうも落ち着きがない印象を与えそう。 時折見回す際の視点は、授恵者に向いていることも多いようだ)
―大丈夫、私がついてるよ。 (かの魔獣に諸手を差し出しつ) …ん、こほん。 キャスター、クラウディアです。今依頼でもよろしくお願いします。 ―はい。要綱のとおり、大部隊による魔獣・クリーパー殲滅戦です。 今回はこちらの魔獣と協同での依頼となりますが…大筋は説明がありましたので、そちらを参照していただければと。 ただ、なるべく留意してほしい点もありますので、そちらの話を。 ●魔獣の足元に長居するのは避けてほしい →見ての通り大型の魔獣です。間違えて人を踏んだ となれば目も当てられない事態となりましょう。 彼自身も'気にする'性質のようでして、戦闘中に足元に人がいる となれば身動きがとれない可能性も… 連携面で接触を要するなどもあると思いますから、なるべくで構いません。 あとは…そうですね。 将来的に彼が別の場所へ移住するケースも考慮して、今のうちにある程度人に馴れてくれたらな と個人的な感情がありまして。 時間があれば、声かけであったりをお願いできると。 …あ、その。スキンシップだといってお酒や発酵食品を振る舞うのは控えていただけると…何が起こるかわからないので、はい。
ヒーラーのロゼットよ。シグモル火山からの依頼と聞いて。 とりあえず、辺獄の魔獣やクリーパーの討伐を目的に参加したわ。 魔獣サピラの扱いについては、戦闘中の指示はディアナや縁のある 冒険者の人にお願いしようかなと。足元に立つなも了解よ。 >サピラの食料 基本、雑食(何でも食べる)だったかしら…。
≫サピラの食料(※回答でないことに留意) ―む、そうですね…情報ではそのように。 それと…以前にかの魔獣と交流する折、釣りで魚を手に入れて与えることも試した覚えがあります。 そのときは…ええと、どうなったんだっけ。 特に問題なく食べてた、ような…? …もしかして、穀物や野菜も食べたりするのでしょうか?
>魔獣討伐 擬態や隠密を見破るために索敵系の技能、 敵の能力も多彩となるとBSを使ってくるかもしれないわね。 後は雨天に備えて、合羽の代わりにマントを用意して良いかも。 >サピラの食料 遭遇時は鉱石まで口にしていたわね。 肉食以外でも食糧が可能なら、危険の度合いも少し変わるかなと。 >サピラの行き先 私はあまりこだわらないけど、ディアナという監視者も付くなら シグモル火山、辺獄の番犬という居場所も提案はできそうね。 この討伐で納得させるだけの実績を出せれば、でしょうけど…。
ヒーラーのアラン・スミシーだ!どうぞよろしく! 後方からのBS解除やヒーリング周りは任せておくれ~、 こうして欲しいということがあれば従うよ!
エル、です。…シューター、です。 どうぞ、よろしく。 魔獣やクリーパー退治、の、お手伝い、を。 >サピラ 留意点、には、従うように、し、ます。 …ええと、動物のおやつ、あげてもいい、です?
≪PL操作 !―…。 (そっと頭をおろせば、クラウディアの手もとに収まるよう。 気を許しているのか、目を細めている)
シーフのベルクだ、よろしく頼む。 擬態型がいるようなので斥候をやろうと思う。 サピラ……でかいな。 人慣れしたら乗せてはくれんだろうか。。。(気のせいか目が輝いている)
よしよし… ≫実動にあたって 私がちょうど彼との縁に恵まれてますし、コミュニケーションに関してはこちらで。 今回はある種慣れない環境下ですから、指示よりは心身のケアを優先することとなりそうですが… 彼自身が鋭敏な五感の持ち主であるようで、索敵に関してもある程度は手伝ってくれると思います。(既出の関連依頼より) 多数を相手にどう動くかはまだ未知数なので…あるいは打ち漏らしを潰すことも必要になるやも ですね。 ≫サピラの食糧 いま報告書を見直していたのですが、ナタリアさんの実地調査で滞在地の島に自生する植物も捕食の対象となっていたようです。 これだけで「なんでも食べる証左」とはなりませんが…こうしてみると、試してみる価値はありそうですね。 ―あ、動物のおやつですか?もちろん。 むろん彼への危害とならない範囲でですが…食べものに限らず、いろいろとお試しいただいてもかまいませんよ。 私も彼のことをもっと識りたいところですし、参考にさせていただければと。
―ふむ。今のうちに質問をば。 Q,シグモル火山帯の天候と、その変化に伴う影響について。 具体的にどのような影響が見込まれるのか…例えば大雨の影響で地面の泥濘が足取りを重くする とか…? 今回は現地に詳しい神徒の方も数名いますし、このあたりの知見は可能な限り聞かせてほしいです。
質問だね。 雨の影響については、ひとつは雨に濡れての体温低下だね。 シグモルは温暖な地域だけど、この時期だし、ロゼットが言うように雨具代わりのマントなんかはあった方が良いだろう。 もうひとつは雨による状況の変化。 視界は悪くなるし、臭いや足跡などの痕跡も追い難くなる。 クリーパーや魔獣も雨によって行動が変化するかもしれない。 泥寧は水捌けのよい火山灰だろうからそこまでの心配は無いだろう。 こんなところかな。
ーと、なると… 場合によっては場所を確保するという選択もありそうですね。 私たちは確かに道具である程度のケアは出来ますが、彼向けのものが用意出来るわけでもなし。 雨量にもよりますが、今回は特にタイムアタックをしろなどといった注文はありませんからね。
遅くなった。 ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 前回の調査で植物も食する事は判明したのだが。 それも単に食に拘りが無い程の雑食性にして大食漢なのか、餓え故に切羽詰まったが故の必然なのか…… あと、結果は分からなかったがクラウディアが前回釣りも試した事を考えると魚食性でもあったりするのかな? 人に慣れさせるための餌付けにあたって、迷宮お肉セットを逃したのが悔やまれるな…… 雨風への備えとなれば私はゲルを持っているのだが、それさえも良くて犬小屋的なものでサピラのサイズを考えれば窮屈なものかもしれないし、そもそも入りきらないかもしれない…… この辺りも、何でも試してみなければ分からない事か。
雨、が、酷くなったら休憩、です、ね? 一応、連絡用、に、テレパス、持って行、って、み、ます。 戦闘、は、わたし、は、遠距離攻撃、して、ます。 あと、捜波で索敵、とか。 モブ冒険者さんたち、には、何かお願い、とか、し、ます、か? クラス、や、レベル、も、色々みたい、です、けど。
―、…? (ふたたび周りの視線を気にし始めたようす)
んー…彼の食性については一旦置きましょうか。 どのみち試そうにも別の機会が必要ですから。 雨宿りじたいは、行先の地形によっては手ぶらでも何とかなるやもしれませんから… どちらかといえば、制圧に殲滅にと滞りなく行うための準備が大事と考えます。 他の参加者への要請は…そうですね。 索敵手段の充実化と、一部は情報集積・整理および共有にまわってもらう などでしょうか。 索敵は超感覚系スキル、捜波のほか、エーテルリンクや壁歩きによる別視点確保も有用でしょう。 小隊単位のうち、得意な分野をひとつかふたつずつ…とできれば死角潰しにもよさそうです。 情報の取扱いは、特に新参の方が弱点を積極的に刺せるようにしたいところが大きい。 それでなくとも現地の敵は種類が多く、私達もピンポイントで刺すのは難しいですから…対応策を明示してくれる役は大事かなと。