【鬼哭】緑のマフィア【再起】
馬車猪
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シナリオID:2679
オープニング
難民キャンプで寒さに震えていた少年が帝国の代官見習いになった。
御伽噺めいた立身出世だ。
が、出世した後の苦労は巨大で地位も不安定だ。
最も利益を受けるのは、出世前に投資をしていた人間かもしれない。
「リットの兄貴ー」
品のない声と足音が近づいて来る。
リットは解読済み報告書から顔を上げ、ノックもなしにドアを開いた新入りをじろりと見た。
「ご、ごぶりんの旦那が来たぜ!」
背丈も筋肉の厚みもリット以上なのに緊張を隠せない。
あの日から戦い続けてきたリットは、無才を補うだけの力量を手に入れている。
「話がすむまで黙ってろ。……仕事が終わった後は俺と一緒に復習だ覚悟しとけ」
小声で新入りに囁いてから、リットは席から立って笑顔を浮かべる。
「今日は何の用だよ」
言葉は荒いが雰囲気は柔らかい。
地位もコネも実力もなかった頃からの付き合いだ。
かつては一方的に少量の金と食を提供されるだけだったが最近では持ちつ持たれつの関係で、これからも協力関係は続くはずだった。
「約束通りゴブリンの村を作ってもらう」
ゴブリンが挨拶もなく断言する。
「そりゃ構わねーけど」
リットは緑の瞳をぱちぱちさせる。
目の前のゴブリンは最初に会った頃と変わらずダークスーツ姿で、しかし今は先日までは確かにあった余裕と穏やかさが消えている。
(まるでスラムにいたマフィアみてーだな)
リットは腹を立てない。
スラム育ちなので雑な扱いには慣れているし、何より相手への強い信頼が「そういう気分の日もあるんだろ」と思わせる。
信頼する相手の洗脳が解けたという異常事態に気付くのは、リットの頭では不可能であった。
●
「食料庫がやられましたっ」
「賭けに負けて全部とられた馬鹿が増えまくってますっ」
会合の数日後、丘の砦は混乱状態に陥っていた。
「落ち着け」
リットは動揺を表に出さない。
ねーちゃんもにーちゃんも窮地では常に冷静に振る舞っていたことを脳裏と目に焼き付けているからだ。
リットの落ち着きが全体に伝播し、1分もかからず丘の砦は静けさを取り戻した。
「全員いるか?」
「はいっ」
「順番に報告しろ。人死に、食料、怪我人の順だ」
「うっす」
古参の仲間が一歩前に出る。
「骨が折れた奴はいるけど死人はいねーっす。んで村の食料庫が東と西の両方でやられました」
「分かった。次は?」
リットは剣を鞘から引き抜き駆け出したくなる気持ちを我慢し頼りになる年上を演じる。
「ゴブリンの……ああいやここにいるゴブリンじゃないゴブリンの動きがすげー怪しいんだ」
まだ幼さが残る少年が手を挙げ発言する。
「新しく来たゴブリンの連中、酒と賭け事で他の村から金を巻き上げてやがる」
明らかになっている悪事だけでもこれだ。
「食料庫を襲ったのもたぶん……いや証拠はねえんだけど」
冒険者や専門の役人のような観察眼はなくても、スラムや難民キャンプで生き延びた感覚は馬鹿にはできない。
少なくともリットよりは見る目がある。
「分かった」
重々しく頷くと皆の間に安堵の気配が漂う。
リット自身は表情の維持と考えをまとめるので精一杯だ。
「連絡用に3人連れて見回りに出る。残りはここの守りを固めろ。1番でけぇ食料庫だけは死守しろ」
リットの言葉に真剣な頷きが返ってくる。
「冒険者ギルドへの依頼は休憩所に寄ったビッグオウムへ頼め。ゴブリンが揉め事起こしてるからって御者に絡むな。喧嘩するかどうか決めるのはレ……皇子様だ。俺達の中でも暴れない限り関係無し。いいな?」
誰も異論は唱えず、リットの部下であるゴブリン達は軽く頭を下げ感謝を伝えていた。
●
「先祖返りしてゴブゴブ言ってる奴は餌を持たせて小屋へ押し込めろ。代官や冒険者が来たら食料庫荒らしとして突き出せ」
かつて別のマフィアに属していたゴブリンが矢継ぎ早に指示を出す。
ここは本国からはるか遠くにあり、本国からの指示は遅くなりがちだ。
故に現地幹部はある程度独自の判断を許されるようになる。帝国の支配層にコネを持つような人材は得にだ。
「賭で負けて不満を言っている奴には飯を食わせてごまかせ。食料はケチるな。持ち出せる分以外は全部使え」
本国からの信頼を最悪の形で裏切っているのに罪悪感がない。
(あのガキと組んで上を狙うのは絶対に楽しいだろうが、舐められて大人しくするようなら最初からマフィアになんてならねぇんだよ)
人類全体が不利な情勢で牙を剥く意味を分かった上で止まらない。
己の意思でマフィアになったのだ。負けて死ぬのも食い物にされるのも納得できる。
それでも、洗脳されたことを忘れてブラックデスとして生きる事だけは耐えられない。
「まだ生きるつもりがある奴は俺について来い。冒険者を甘く見るな。奴等は拷問なしでも直接情報を抜いてくるぞ」
これまでの実績が本物であることを証明するように、小規模な組織なら立ち上げられる金と食料とかき集め行方をくらます準備を進める。
「ここを切り抜ければ俺達がグリーンナイフだ。気張れよ」
部下達は盛り上がるが幹部は醒めている。
(グリーンナイフか。後先考えない馬鹿には似合いの名前だな)
既存の組織に合流する予定はない。
反ブラックデスのマフィアとして、太く短く生き抜くつもりであった。
●
「報酬が少ないんですよ」
受付嬢のテンションが低い。
「捜査とか調査とか問題解決とか、戦闘依頼と比べてどっちが上ってことはないはずなんですが」
彼女が取り出したのは帝国南部の依頼だ。
新人の代官見習いの担当地域であり、人も少なく現時点ではクリーパーや魔獣がいない場所だ。
統治難易度が低めのはずなのに、問題は多数発生していた。
「問題がたくさんなのに報酬はこれだけなんです」
受付嬢は演技でなくため息を吐く。
「1番大変なのはゴブリンさんの問題です。全員を他の土地に移動させたら帝国軍が監視とかしてくれるらしいですけど……」
復興に必要な人手が減ってしまうし、ゴブリンとそれ以外の人類の間に禍根を残しかねない。
「えーと、他にも」
受付嬢が別の書類を引っ張り出す。
部外秘、持ち出し厳禁という注意書が大量にある気がするのは気のせいだろうか。
「代官見習いさんの上司さんがブラックデスと繋がりがあるらしいです。依頼の成否には関係ないですけど、そのあたりで問題が起きないよう気を付けてもいいかもです」
結構深刻な依頼のはずなのに、受付嬢はとても気楽に説明する。
「ほんとーに問題山積なんで少しでも改善できれば成功です。探偵でも役人でもなんでも好きなことをしちゃってください!」
自由度が、とても高い依頼であった。
解説
マスターより
リプレイ
●
「リット坊が約束を果たした途端にその面子を潰してくるか……随分と舐め腐ってくれてるなそのゴブリンは」
ベルク・オスマットの気配は冷え切っている。
「とは言え現状では推測にしかならん、とりあえずはそいつが今どこにいるかだな」
今のリットは代官見習いであり、代官仕事中のリットそれに面と向かって逆らうのは帝国の面子への挑戦に等しい。
特にリットは皇子に抜擢された身の上なので事態は深刻だ。
「どうしたリット坊。まさか手心を加えろというのではあるまいな」
ベルクにじろりと見られたリットは、緊張で汗を浮かべはしても目は逸らさない。
「白いリザードマンのおっちゃんのこと思い出してさ。なんかこういうの、ヤだよな」
「……こんな展開が好きなのは余程の特殊性癖だろうよ」
ベルクはリットにだけ聞こえる小声で、長が気弱な顔を見せるなと伝え激励を込めて背中を叩いた。
「そーいえばもう1人いたねーちゃんは?」
直前までのシリアス展開は消え、明らかに浮ついた態度でリットがきょろきょろする。
高貴なうまれを感じさせる年上女性も好みなのだ。
丁寧に手入れされた長髪のシンディー・ホシカはまさに好みのど真ん中だ。
「はーい代官見習い様。住民慰撫も『ツバキ』にお任せってね」
砦に入ったときとは打って変わってシンディーの髪型は活動的なツインテールに変わっている。
化粧も仕草も品性ではなく色っぽさを強調するものに変わり、窓から入る陽光を浴びても夜に咲く華を思わせる艶やかさだ。
「えっ、9人目の冒険者?」
金足りるかなと真剣に悩み出したリットの前で女性が楽しげに笑う。
「今の私はシンディーじゃなくて、元犯罪者の間にも入っていける踊り子の『ツバキ』。相手は元犯罪者やそれ以下の人間たちだったら、ね?」
ツバキの微笑みを見たリットの部下達が顔を赤くする。
「すっげーなー。期待してるぜねーちゃん!」
なお、リットは素直にツバキの力量に感嘆していた。
●
亜人っぽい言動をするゴブリンと腹に一物持つゴブリンしかいない村に、シルク・メイプルリーフが屋台を担いで現れた。
(そういえばゴブリンさんのことはよく知りませんね。どうすればお話を聞いてもらえるでしょうか)
リット商会と墨で書かれた大型容器をそっと降ろし、両手に持ち直した屋台を平坦な地面に設置する。
屋台に組み込まれた壺の中の木炭に火をつけ魚の干物を炙り塩とナッツ類も用意する。
肴の準備が整った後は大型容器から酒瓶を取り出し並べていき、1本の封を片手の指だけで砕く。
癖のある強い酒精がふわりと広がる。
ゴブゴブした感じのゴブリンがふらふらと寄ってくるが騒ぎはしない。亜人故に強者の気配を敏感に感じている。
(ゴブーナさんに倣えば強くて食事をくれる存在になれば良いでしょうか。そういえばセニャさんのやり方も細部は違いますがそんな感じですね)
ゴブゴブ言わない方のゴブリンも、酒と肴の香りとシルクの色香には耐えられず屋台の前に並べられた小さな席に腰を下ろしていた。
(良い感じに統治できていた様ですが、ここに来てトラブル続出とは。只事では無さそうですね)
フリーダ=ブロムヴィストはいつもの白金装備を置いてきた。
この土地でも何度も活躍したので白金装備で正体を知られてしまうからだ。
借りた剣と革鎧は使い込まれてはいるが良く手入れされていて、強者の気配を持つフリーダが持つと早熟の熟練傭兵に見える。
「なんですかい?」
「挨拶です」
フリーダは賭場の用心棒に安酒の大瓶を手渡す。
その重さに用心棒がよろめき、フリーダの平静なままの瞳を見て体を震わせる。
(なにもんだよ)
冒険者かもと思いはしたが確信には得られず、フリーダを最後の賭場に招き入れてしまった。
(やれる事は色々ありますが、よく見極めないとガ=バが出ます、ですか)
最初はわざと勝たせてもらい、次に不自然にならない程度にわざと負けていく。
1時間以上居座れば隠したものを見つけるのは容易だ。
フリーダの素の能力と看破技術が組み合わさると超人的能力になる。
(私1人で集められる証拠ではトカゲの尻尾で終わりかねませんね)
負け分を取り返そうとする傭兵の演技をしつつ、時を待っていた。
夕日の中でツバキが踊る。
肌を見せる衣装は肉体の美しい躍動を強く印象付ける。
その踊りには華と艶がある。
指先の動き1つに至るまで男の劣情を誘い、じっと見つめられた男はまだゴブゴブになっていないのに酔っ払ったように思考力を低下させる。
その誘いの本気の割合がどうなのか、シンディー自身も分からないかもしれない。
「ねえ、私の踊りはどうだった?」
これまでの村と同じように愛想をふりまき、これまでの村と同じように一定の距離以上は詰めさせない。
「報酬は領主様からもらってるから、大丈夫よ。 また来るつもりだから、その話はまた、ね」
去って行くツバキを見送る者は多く、自然と警備と警戒が薄れていた。
「おっと」
フリーダが高速で手を伸ばして袖に仕込まれたカードと胴元の腕を握りしめる。
456がどうという啓示を受信したような気もするので、零れたサイコロにも仕掛けがあったのかもしれない。
フリーダはここは行動した方が己と発信者のためになると無意識に判断し演技の仕方を変える。
「降りられない勝負でのイカサマ、払い戻しはどうなるのでしょうか」
フリーダは「アレを寄越せば事を荒立てずに去ってやる」と賭場の隅に詰まれた木箱を目線で示す。
ゴブリンの顔に迷いと計算と微かな恐怖が浮かび、数分後にしぶしぶうなずき夜逃げ用物資の一部を払い戻しした。
●
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクはフリーダの持ち帰った箱を開けて渋い表情になる。
「理性が緩んでも頭の回る誰かさんの存在を予測はしていたけど」
アウレーリアでもこうする、という物ばかりが詰め込まれている。
無論、彼女なら同じ時間で丁寧かつ量も増えるだろうが基本は同じだ。
「計画立案できる人間が最低1人は必要」
無名の個人にできる仕事ではない。
「犯人はリットの友人で確定か。そうなると既に逃げているはずだから」
報告書になる前の情報を再検討する。
「時間との勝負ね」
領内の村に行くだけなら過剰な旅支度をして、アウレーリアは数人の冒険者と共に砦から出発した。
「よし、これから粗悪酒と粗悪甘味の貯蔵庫を摘発する! 訓練でやった事ができれば失敗する事は無い! 行くぞ!」
戦闘用装備のアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトを先頭に、リットと仲間達がゴブリン村に突入する。
リットは重圧から解放された顔で活き活きしている。
「今日はシルクのねーちゃんとアルマがいる! 死なない程度にぶん殴れ!」
行動が亜人同然のゴブリンが相手でも、難民キャンプ住民から代官見習いとその部下に成り上がった若者は恐れもしないし容赦もしない。
アルベルトの指揮もあって、マフィアの戦闘部隊じみた手際で村の外周から制圧していく。
「閉じこもりやがった!」
「退けっ」
アルベルトの声が届くより速く殺気の余波を感じて賭場からリット達が離れる。
(敵というには弱いが)
授恵者や特異個体と戦う機会はないと判断して奥の手を使う。
斬撃が、固い木材も補強に使った鉄板もまとめて切断しただけでなく扉周辺を残骸に変えた。
「ここにブラックデスのゴブリンがいるはずだがどこにいる? ちょっと我に教えてもらえんかね?」
最初に突入するのはベルクだ。
質と量の暴力を背景にすると、もともと強い威圧感が授恵者でも心が折れかねない圧迫に変わる。
「何のことだ? 俺、は普通の」
理性を保っているゴブリンも恐怖で体が震えている。
「まずはおぬしからじゃ。ちょっと来てもらうぞ」
近くの小屋を借り上げて一対一の圧迫面接を行う。
物理的な暴力を使わない圧迫面接で心に消えない深手を負わせたような気もするが、今は本当に時間がないのでやむをえない損害だ。
「まったく、問題になってる粗悪な酒や甘味も賭博だって件の幹部ゴブリンがいれば手早く片付く話だというにどこに行きおったのやら」
証言以外にも、残った人と物の傾向から黒幕の意図を予測できる。
(これで逃亡先を3つほどに絞れるか)
開けた小屋のドアを強くノックし合図を送った。
暴力に新たな暴力が加わる。
村の一角が物理的に抉れ、心が亜人ゴブリンだけでなく理性があるはずのゴブリンも震えて声も出せずに涙を流す。
それを為したアウレーリアはリットに視線を送る。
すげー、と間抜け顔で感嘆して気付かなかったのでこめかみをぐりぐりして行動を促した。
「俺の言うことに従えば命は助けてやる。聞き分けが良ければちょっとなら酒や煙草もやるぜ」
台本も小道具も全てアウレーリア頼りだからこそ迫力と説得力が及第点に達した。
(誰が従ってメリットのある支配者なのか新顔にも教え込むまないとね)
情報収集に安定統治に向けた代官職の権威付け措置を兼ねさせるのは、アウレーリアの統治の力量の証明になっていたかもしれない。
●
「適量じゃない薬は毒だよー」
普段は穏やかなアルマ・ヴァレンタインも医療の分野では厳しい。
栄養の取り過ぎではない理由で健康に害がある甘味をリット達から取り上げ火にくべる。
「そんなー」
甘い香りにリットが切ない顔をしてもアルマは揺らがない。
本物を与えてもリットが良さをいまいち理解できなかったのはちょっとショックだったが。
「はい次のひとー」
アルマはゴブゴブ言っているゴブリンも分け隔てなく診ている。
(これはー……最近流行りのアレだねー)
専門家であると同時に非常に優れたヒーラーであるアルマでも解決できない。
解決できないことが、とんでもないものの関与を示唆する証拠のようなものだ。
「あっしも……」
どーぞどーぞ。
アルマはエンパシーで感じ取った内容をリットの部下には伝えない。
亜人と区別がつかなかったと知らせることが精神的トドメになりかねない。
(この人は2割くらい変わっちゃてるかもー)
アルマは穏やかな表情と雰囲気を意識して保つ。
「冒険者とか色んなひとが今調べてるから成果を待っててねー」
アルマの言葉に救われたような顔になり、ゴブリンは何度も頭を下げて同僚達と合流する。
「いざというときは運んであげてー」
「了解です。……騒ぎが起こる前に解決して欲しいですね」
帝国軍の士官が小声で返事をして、部下を指揮してゴブゴブ言っているゴブリンを殺さずしかし厳しく拘束して運んでいった。
「そう言えば、村の、女性比率は極端に低い、ということは0ではない。どんな人たち?」
エルの左右には特に体格の良いビヒモーが控えている。
「授恵者の資質も頭の良さも持たない、普通の人たちです」
リットの副官は嘲りも怒りもせず疲れたように息を吐く。
「そう……」
察したエルも少し暗くなる。
秩序が崩れるほど腕力がものをいう。特殊な条件がない場合は腕力が苦手なのはほぼ女性であり、秩序が崩れた場所では食い物にされる側だ。
「信用、できそう? 女性の仕事が増えれば、女性比率も増える、かも? 講義が必要なら……」
「なんとか言い聞かせてみます。私も、このままで良いとは思ってませんから」
リットが第1で行動する彼女も、別に彼女達が難い訳ではないのだ。
「じゃ」
「俺か? 生徒が増えても構わないが」
視線を向けられたアルベルトが、少し途惑ってからうなずいた。
翌日。
「みんな良く頑張ったな。講義は終わるが解散する前に隣の生徒と質問しあって知識が身に付いているかどうか確認しろ。家畜を育てる事が軌道に乗れば食糧不足は解決するはずだ。上手くいけば羊のミルクから上質の酒だって作ることもな」
非番のリットの仲間と疲れが目立つ女性達への早朝からの講義を終え、アルベルトは疲れを感じさせない態度で今から非番の者達の所へ行く。
「連携の復習だ。村の治安を守る為に武術も必要だが組織的な行動も必須だ。昨日も経験したから分かるだろう? 2列横隊、急げ!」
義弟とその部下だからこそ、アルベルトは厳しくしている。
「大事なこと、いっぱい。その前提が、お金」
エルは独特な口調で喝破する。
代官見習いという地位と大柄ビヒモーの群れの組み合わせはリット商会に有利な立場を与えるがそのままでは発展しない。
「酒、煙草、甘味とか、し好品、なるべく安くてかさばらないもの、本業と並行して」
上や商人組織に怒られない範囲で儲けられるよう知識を提供する。
(宝石を仕入れの足しに。商会への投資に……)
できれば良かったのだが依頼人に商売に大きな影響を与えほど投資するのはギルドやその他に睨まれかねない。なおその場合睨まれるのはリットである。
「ビヒモーさんたちも、協力よろしくお願いします」
全員に分けると少量ずつになるが動物のおやつはおいしい。
大柄な群れは士気高く複数の班に分かれて出発の準備をする。
「ウィル、も、お願い、ね」
狼が立ち上がる。
リットやエルだけでは護衛のリーダーが足りず、狼も少数の班を率いて誘導と護衛をすることになっていた。
「まだ良く言って自警団か」
アルベルトはリットのその仲間達を見送る。
努力と成長は認めるが、代官と部下とはとてもいえず、せいぜい自警団だ。
いつかは「リット遊撃隊」と名乗らせたいと、後方師匠面で腕組みしていた。
●
ヴァイセントラフ砦を行き交う馬車の中にゴブリンが御者を務める荷馬車が混じっている。
荷が重そうなこと以外に特徴はなく、検問を担当した兵士は何も異常を見つけられず通して、その荷馬車をすごい勢いで追う授恵者達に驚愕した。
「ここま」
どむ、と拳が人体にめり込む音とは思えないほど迫力有る音が響く。
ベルクがぽいと御者を放り出すと、帝国の防諜部門の人間達が拘束と自決防止の処置をする。
「帝国に喧嘩売らんならブラックデスからの離反でもなんでも好きにすればいいがな」
非常に急いで来たので乱れた息がなかなか戻らない。
(代官側の監督のもと裏を統制する道もあったが……いや今でも有り得るか)
ベルクが表情が微かに歪む。
絶望的な人材不足という現実を前にすれば、人材の再利用が許可される可能性もある。
「ゴールディに責任を追及する代わりに債務と賠償の棒引きの方向で交渉できるかしら」
遅れてやって来たアウレーリアが文官に提案する。
今回の主犯はゴールディの一員としてリットに近付いてリットと取り引きを継続していた。
だから請求できる。完全に無視するのはゴールディの不利益に繋がる。
どんな結果が出るか、現時点ではまだ分からない。
「じゃあね代官様♪」
化粧と服装をもとに戻したシンディーがリットに見送られている。
踊り子と同一人物であることに、リットは頭では理解できても納得できていないようだった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:少ない8 / 4〜8人
2022年12月24日 19時39分32秒 公開
相談掲示板
ウォーリアのアルベルトだ。 よろしくな。 俺の背後もインフルエンザから少し回復してきたぜ。 今回は、リットとその仲間たちに牧畜の知識を教えたり戦闘の訓練をしようと思っているぜ。 戦闘の訓練の後は、実践訓練を兼ねてリットとその仲間たちを率いて粗悪酒及び粗悪甘味の貯蔵庫の摘発をするぜ。
シンディー・ホシカよ。 よろしく。 仕方ないとは言え、賭博や粗悪な酒や甘味に飛びつくのは、娯楽が少ないからと思うのよ。 踊り子として東西南北の村を回って、舞を披露。 健全な(?)娯楽を提供することで、問題のあることに流れることを食い止めるのを試みるわ。 村々を回ることで、何か情報を得たり、どんな不安や不満を抱いているかを把握して報告もしたいわね。
No.3
シスターシルクです リットくん立派になって…… 出来れば怪しいブラックデス幹部格を捕捉してリット君に貢献したいところですが情報収集はいかにしましょうかね
シーフのベルクだ。 リット坊、落第点…と言いたいところだが現状の対応を見るに赤点ギリギリ、っといったところか。 今の状況ならゴブリンの新規村設置は少々慎重になるべきだったが、今のリット坊達に他所の情勢に気を配って情報を集めろは酷だからな。 ともあれブラックデス幹部格はぜひとも捕縛したいところだ。 実に気骨がある、わざわざ既知領域から離れずともここで新組織を旗揚げすればいい。 賭博のレートの監視や酒や甘味の統制は必要だろうが、幹部格ならそういったノウハウにも通じているだろう。 そういえば帝国に新聞とかはあるのだろうか? もしあるならリット坊に定期輸送のついでに毎回新聞を入手させて最低限の世情を把握させるべきだと思うのだが。
ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー アルベルトさんは回復おめでとー 成り上がりモノに困難は付きモノだけど、どこから手を付けたものかー… ひとまず医療・薬学で部下のゴブリンさんの対応でもしようかなと
代官見習いやってるリットですたすけて……。 報告は届いてるし現場に何度も行ったけど状況がよくわかんねーの。 やべーってことだけかわかるやべー状況なの。 質問があれば俺が分かる範囲で……そんな範囲があるかどうかわからねーけど答えるぜ。
No.8
やべーってことだけはわかる なるほど直感を信じましょう。 現場に行って違和感を辿るのもいいかもしれません。 新しく出来たゴブリン村に行って見ようと思います。
キャスター、アウレーリアです。宜しく。 生活苦や統治への反発みたいな、明確な理由のない騒擾は厄介だわ。 力で制圧するのは難しくないと思うけど、情報不足だから色々取り零しそうで嫌ね。 一度、状況調査でゴブリンの中へ潜り込むのが先かしら……。 ゴブリンの行動抑止と幹部の捕捉を目標に動いてみましょう。 彼らを今後も使うのか、ここで切るか、判断材料は集めておかないといけませんしね。
エル、です。…シューター、です。 どうぞ、よろしく。 粗悪酒、とか、禁止するだけでは止まらない、と思う、ので。 運送業のついでに(?)、何か、調達、できたらいい、です、けど…。 他は、お勉強の続き、しようか、と。