【追憶】呪いの言葉
影絵 企鵝
コメント 25
シナリオID:2630
オープニング
王都、ヘーゼル伯邸の執務室。フリードリヒ・ホーエンバッハは父のヘーゼル伯ゲオルクとデスク越しに向かい合っていた。お互いに表情は深刻そのものである。
「まさか、エレアノールが敵の手に落ちるとは」
ヘーゼル伯は眉を顰めて紅茶を啜った。報告書を読み込む眼は忙しなく動いている。
「洗脳によるものと思われますが、諸侯はこれを好機と見なすでしょう」
「マイセン伯にグランツ伯に……奴らは我々の失策を今か今かと待っていたからな」
三家に分割されたとはいえ、旧アドラーベルク家の勢力は彼らの連携によって未だ維持されている。広大な農地と北部の要衝を押さえ、侯爵時代と何ら変わらぬ兵力を維持する彼らを今度こそ失脚させようと企む勢力は少なくなかった。
「いずれにせよ、時が経つほど彼女の立場は悪くなるばかりです。ミネルヴァも彼女のために動いてくれてはいますが、このまま手をこまねいているわけにはいかない」
「彼女を殺せと言われてからでは間に合わないからな。ゴルティエの動向も注目しなければならないが……我々はこちらに注力させてもらおう」
ヘーゼル伯は気だるげに報告書を息子へ突き出すと、おもむろに立ち上がった。
「さて、私は一旦領地に戻る。ここでの対応は任せてもいいか」
「しかと。父上もどうかお気をつけて」
「お前とは潜り抜けてきた場数が違うよ。お前が成果を持ち帰るまで何とかしておくさ」
不敵な笑みを見せたヘーゼル伯に、フリッツは深々と頭を下げる。
「頼みます」
●流浪する心
――エレアノール・シュヴァリエは充足感に満ちた日々を過ごしていた。誰よりも自分のことを認めてくれる相手と惹かれあい、時に競い合い時に睦び合うことが、彼女にとって何よりも幸せな事だった。
なのに、“その日”に全てが砕け散ってしまった。
「ティロール子爵として、君の父に婚約の撤回を申し入れた」
マティアスの口からその言葉が飛び出した時、エルは血の気がさっと引くのを感じた。唇を震わせながら、彼女は霞む視界の中にようやく彼の沈痛な顔を捉えた。
「何故だ」
「君が僻地の領主の妻として埋もれていい人間じゃないからだ」
彼はそっと顔を背け、窓の外を見上げる。
「君には鷲の翼がある。その翼を腐らせるのは王国にとって余りに痛い損失だ。君はもっと華々しい名誉に浴する資格があり、またそうでなくてはならない」
「何が名誉だ。私は君と人生を共に歩む以外にもう何も望んでいない」
エルはマティアスの肩を掴んで無理矢理己へ振り返らせると、眼にいっぱい涙を溜めて彼を睨む。うらぶれた顔の彼は、目を合わせぬまま呻いた。
「わかってくれ。俺は君の足枷になりたくない。君には自由に羽搏いてほしいんだ」
「何が自由だ!」
咄嗟にエルは右手を振り上げる。しかし、その振り上げた手はどこにも届く事は無く、ただ彼女はその場に崩れ落ちたのだった――
壁に身を預けるエルに、グノーシスはずっと杖を掲げていた。虚ろな目をした彼女は、時折うわごとを呟くばかりである。
「随分と深く呪われているんだね、君も」
イザーク・デュヴァルはそんなグノーシスとエルの様子を眺め、ふと溜め息を吐く。
「グノーシス。お前は一体何を目的にしているんだ。あらゆる人物を適当に焚き付けてほったらかしにして、それで最後に何が達成されるというんだ」
「私自身は何も目的にしていないよ。私はただの代弁者さ」
グノーシスはイザークに流し目を送って応えた。杖が離れ、エルはその場にどっと倒れる。
「私はずっと死者の言葉を聞いてきた。それがずっと私の、ミレナリアの使命だったからね」
のっそりとイザークの傍に腰を下ろすと、杖でのんびり己の肩を叩きながら星空を見上げる。
「誰もが世界を呪うんだ。こんな世界だから自分は死ぬことになったんだと。この世界こそが罪なんだと。死んでもこの世界を呪わなければならないなんて、悲しいことだよ」
「それは……」
イザークは怪訝な顔をしたが、すぐに鼻で笑って顔を背けた。
「いや、どうでもいいことだな。所詮俺も同じ穴の貉だ」
二人が黙り込んだ頃、一人の青年――マークスが駆け込んできた。
「グノーシス様。出立の用意が整いました」
「何よりだ。……王都も随分と情勢が怪しくなってきた。都合は良いが、我々まで巻き込まれては元も子もないよ」
グノーシスは笑みを浮かべると、杖を突いてすくと立ち上がる。
「脇目も振らずに進むんだ。きっと冒険者が何人か邪魔しに来るけど、彼や彼女がきっと塞き止めてくれるからね」
彼の言葉に合わせ、胡乱な目に深紅の光を宿らせエルが立ち上がる。無言で立ち尽くす彼女を見遣り、イザークは溜め息を吐いた。
「俺は望むままに戦わせてもらうだけだ」
●“可能性”はいずこ
時は十一月の半ば。ゴルティエ伯の行方が杳として知れぬ中、フリードリヒの依頼に応じた冒険者達は、夜道を王都南東へ目指してひた走っていた。スラムの住人から、大量の荷物を馬車に積み込んだ奇妙な集団がぞろぞろと街道伝いに王都を離れる姿を見たという話を聞いたのである。
けれど、それはもちろん私達も承知の上さ。でもここでみんなの夢を終わりにしてしまうわけにいかないんだ。だから、邪魔はさせないよ。
しかし、王都を離れて間もなく、冒険者の目の前に光の弾が雨霰と降り注いだ。咄嗟に足を止めると、さらに鍔無しの剣を振り上げたイザークがそこへめがけて一直線に空から突っ込んでくる。飛び退いて躱すと、街道の石畳が割れて砕け散った。
「お前達には悪いが……」
イザークは賢者の石を深紅に輝かせ、剣の切っ先を向ける。
「俺の復讐に少し付き合ってもらうぞ」
舞い上がる土埃が晴れると、そこには杖を構えた魔弾の射手と、それから四つの腕を持つ大柄な異形が並んで立っていた。金の仮面で顔を覆い、深紅のローブに身を包んだ異形は、杖を掲げて君達を威嚇する。
その背後から姿を見せたエレアノールは、杖を担いだまま君達を見据えた。
「君達の相手をしたくはないが……どうしてもここを通るつもりなら仕方がない。このエレアノール・シュヴァリエが、全霊を以て君達の道に立ち塞がる」
彼女は杖を構える。杖に埋め込まれた石が輝き、彼女の顔を虚ろに照らした。
「……全ての貴族の専横を排除し、ただ王のみが統べる国とするために」
放たれる気迫を前に、銘々武器を構える君達。すると、異形の影から白髪の狼が姿を現した。彼は翼を持つ蛇を象る杖を担ぐと、ちらりを牙を見せて笑う。
「この世界には、幸せの量が少なすぎる。誰も自分の分け前だけでは満足できなくて、隙あらばと掠め取った人間は富み栄え、それを善しとしない人間は衰え弱っていく」
彼は滔々と語ると、杖を静かに振るう。周囲のエーテルが震え、草木が揺れる。
「何が世界をそんな風にしているのかな。君達は何だと思う」
分厚いローブを揺らし、グノーシスは杖を地面に突き立てた。異形が吼え、エーテルが急速に異形の下へ集まっていく。
「みんなその何かを壊そうとしているんだ。邪魔はさせないよ」
解説
マスターより
リプレイ
風が吹き荒れ、慄く草原。その中で真っ先に動き出したのはレピド・クロサイト。短剣の背を暗器で激しく擦ると、飛び散った火花が一つの煌々と輝く二つ目の月となって空に舞い上がる。その光を浴びながら、レピドは黒い外套を靡かせ白い狼へと躍りかかる。
「生憎人生経験は短いが、それでも呪いから生まれる物が良き物とは思えない」
四つ腕の巨大な異形――アンゲロスが首を傾げ、素早くレピドの正面へと割って入る。一対の手でレピドの突き出した短剣の刃を受け止め、じりじりと詰め寄ってきた。レピドはその身を大きく捻り、無理矢理その手を外して間合いを取り直す。
「……邪魔させてもらう」
「幾らでも邪魔すればいい。でももうこの呪詛のうねりは止められないよ」
グノーシスが杖を軽く揺らすと、異形は杖を槍のように構え、レピド目掛けて素早く突き出す。レピドは咄嗟に飛び退き、さらにコルネリウス・アーラがその正面へと割って入った。盾を構えて深く屈み込み、盾の反りで下から上へと杖の石突を逸らす。
「もう既に世界を変えられたつもりでいるのですか? ……笑止千万!」
コルネは剣を振りかざし、毅然と叫ぶ。その叫びに込められたエーテルが弾け、その波動に当てられたアンゲロスは唸りながら彼女をじっと見下ろす。
「こんな下らないやり方で世界なんて一つも変わりません。私が変えさせません!」
「立派な事を言ってくれるじゃないか」
アンゲロスとコルネが睨み合う横から、杖を水平に構えたエレアノール・シュヴァリエがじっと狙いを定める。
「だがこの世界は誰も愛さない。どころか、君のような子から真っ先にすり減らしていく」
「エルさん!」
名前を呼びかけても、エルは無慈悲に杖の先へエーテルを収束する。だが、その魔弾が放たれるよりも先に、赤く揺らめく糸が彼女の両腕に絡みついた。エルは咄嗟に身を捩り、糸の放たれた方角へ魔弾を放つが、その一発は狙いを大きく外れて飛んでいく。
「やめなさいよ。こんな事をしてももっと憂鬱になるだけでしょう?」
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは冷然と言い放つ。エルは唇を噛んだ。
「だが誰かがやらなければ、この王国は変わらない。何百年という時が押し固めてきた堤を突き崩す一撃が無ければ、この国はずっと泥濘に足を取られたままだ」
エルは杖を構え、じっとアウレーリアに対峙する。その赤黒く濁った瞳を見つめ、アウレーリアはぽつりと溜め息を零した。
「結局あなたは鳥籠に閉じ込められたままなのね。……以前の私と同じだわ」
アウレーリアもエルへ応じるように杖を振り、その先を彼女へ向ける。
「仕方ない。その籠、私がこじ開けてあげる」
一方、ルアンナ・ミュラーはイザークと激しく火花を散らしていた。闇夜に紛れるエーテルの波動をルアンナが放つと、イザークはそれに構わず正面から突っ込んでくる。大上段から振り下ろされる一撃を杖で受け止め、ルアンナは叫ぶ。
「私はエレアノールさんを取り戻しに来たんです! 邪魔しないで!」
「あの女がどうなろうが、俺の知った事じゃない」
イザークは飛び退いて間合いを取り直すと、剣を諸手で握って深く構える。
「だが、あの女のためにお前達が必死にならざるを得ないなら……」
彼の背後に光の柱が飛び出す。イザークは力任せに跳ぶと、柱を蹴ってさらに高く舞い上がった。四方に輝く光を浴びて、彼の剣は歪に輝いた。
「あの女はお前達に渡さない!」
ルアンナに突撃するイザーク。ルアンナは咄嗟に杖を向けて眩い光を炸裂させた。イザークは咄嗟に目を庇い、剣を振らないままルアンナに体当たりする。ルアンナはそれを飛び退き躱し、険しい顔で叫んだ。
「あなたのわがままには付き合ってられません! 全力でぶっ飛ばします!」
「やれるものならな!」
イザークは身を低く伏せると、ルアンナへ鋭く肉薄して今度こそ一閃を浴びせようとする。ルアンナは杖を構えるのが遅れたが、彼の刃が届くよりも先に、ミゼリア・L・ステュクスが素早く飛び込んだ。手枷を振るって強引に刃を受け止め、そのまま当て身でイザークを突き飛ばす。
「……させません。わたしが、まもりますから……」
ミゼリアは諸手で剣を振り上げると、その刃にエーテルを纏わせ一度、二度と振り回す。夜風を切り裂くうねりは咆哮のように轟き、イザークを静かに威圧する。
「たおすなら、さきにわたしから……です」
「何でもいい。俺はこの怨讐の念をこの世界に叩きつけるだけだ!」
牙を剥いたイザークは、剣を大上段に振り被り、ミゼリアの脳天目掛けて叩きつける。ミゼリアは剣を掲げて受け止めたが、イザークは獣のように沈み込み、ミゼリアの足を掬いあげる。
「あ……」
避けきれない。悟ったミゼリアはその身に黒いエーテルを外套のように纏い、彼の一撃を受け止めようとする。しかし、彼女の背後から飛んだ弩の一発がイザークの一撃を僅かに逸らした。
「そう逸るのはよしたまえよ」
モネタ・シャローニャが光の柱の陰で弩を構え、片目にイザークの姿を捉え続けていた。
「ボクもいる事、忘れないでくれ」
グレイブ・ヤードは祭祀刀を抜き放ち、昏い草原の中を駆け抜ける。グノーシスは金の双眸でそれを追い、杖を振るって光の竜巻を立ち昇らせる。グレイブは咄嗟に飛び退き、刀を脇に構えて狼を睨む。
「この世に幸福の量が少なすぎると来ましたか」
「そうだよ。私はずっとこの世界を旅してきた。どこでも景色は同じさ。恵まれなかった者は死んでからもこの世界を呪い続けているんだ。耳を澄ませてご覧」
「生憎、私に異形術の心得はありませんので。そんな声はさっぱりと聞こえません」
グレイブは草を蹴って飛び出す。光の柱を回り込むように進むと、アンゲロスがすかさず回り込んできた。
「ですが少なくとも、隣の芝が青くとも、それは己の不幸の証明にはなり得ませんよ」
突き出された杖を半身になって躱し、そのまま腕目掛けて刀を振り下ろす。その身体に触れるか触れないかのうち、見えない壁のようなものにその一撃を阻まれる。異形は一瞬身じろぎするが、やがてその腕を大きく振るってグレイブを跳ね除けようとする。
飛び退いたグレイブは、刃を構え直してグノーシスに尋ねる。
「報われないのは誰のせいでしょうね」
「足るを知れば皆おのずから幸せになれるということかな。確かに私もそう思うよ。でもそのささやかな幸いすら奪い取ろうとする者がたくさんいるじゃないか」
グノーシスは杖で石畳を鳴らすと、目を細めてレティシア・レインフィールに振り返る。
「さあ、君はどう思う?」
「私は……」
レティシアは押し黙る。脳裏に過ぎるのは、二十年という長くも短い幾年月。母を奪われてからずっと、自分のものと呼べるものをずっと奪われてきたような気がする。このまま時が過ぎれば、自分の心さえも自由でなくなるのかもしれない。しかし。
「今ある意志が未だ私のものである限り、貴方の望む答えはありません」
彼女は杖を突き立て、月光のように輝くエーテルの波動を解き放つ。
「ずっと報われないままなんて苦しいと、先日仰いましたね。……私はそれで構わないのです。私も奪う側ですから。多くのものを傷つけ奪った私への罰であり、報いならば、甘んじて受け入れます」
「……君は受け容れるんだね。今を」
グノーシスは首を傾げる。彼の佇まいはあくまで泰然としていたが、そばに立っていた異形は唸りを上げ、威嚇するように杖を地面に叩きつける。
「君には幸せになってもらいたいんだけど、仕方がない」
彼の言葉に応じるように、エルは冒険者達の目の前へ躍り出る。アンゲロスが周囲へ解き放ったエーテルが、彼女の展開した魔法陣の中へ吸い寄せられていく。
「“死を想え”」
漆黒の魔弾が光を引き裂き乱れ飛んだ。
●燃えよ獅子心
魔弾が駆け抜ける。レティシアは咄嗟に身を固めたが、その一撃が彼女を捉える事は無かった。コルネが咄嗟に正面へ割り込み、身を挺して彼女を庇っていたのである。
「……大丈夫ですか、レティシアさん」
「私はなんとか。コルネリウス様こそ」
魔弾を受けた盾は表面が焦げ付き、左肩から先も痺れて感覚が鈍っている。それでもコルネは気丈に首を振った。
「これくらい、何でもありません」
「どうか無理はなさらず」
レティシアは治癒の光をコルネに当てると、そのままエルを真っ直ぐに見据える。彼女は虚ろな表情のまま杖を構えている。レティシアも杖を掲げ、静かにエルへ尋ねた。
「貴方の望みは、本当に貴族の腐敗を除き去る事なのですか?」
エルは眉根を寄せ、口を堅く結ぶ。その姿を見てレティシアは確信した。彼女を本当に苦しめているのは、共に歩む誓いを破られた悲嘆、彼に突き放されるままになった自身への失望なのだと。
「……力になり、護りたいと、そう伝えた相手に突き放された時のお気持ちは、私にも理解できます」
黒い傭兵から譲り受けた手巾を握りしめ、レティシアはエルへと訴える。
「ですからもう一度、子爵様とお話を致しましょう。私も皆様もきっとお力になります。ですからどうか、本当の願いを思い出してくださいませ!」
声を張り上げるレティシアに、エルの顔が僅かに歪んだ。
「……本当の願い?」
「そうです!」
エルが魔弾を撃とうとした隙を突いて、コルネは一直線に飛び出した。杖の先を剣で逸らし、盾を押し付けるように肉薄する。エルの焦点が合わない瞳を、コルネはじっと見つめた。
「生まれや種族で立場が決まり、貴族には貴族のしがらみがある……それを突き崩せば、今の苦しみから逃れる人はいるかもしれません。……でも、それがエルさんのやり方ですか?」
問いかけられたエルの顔が僅かに歪む。コルネはエルをもう一歩押し込む。
「私だってこの国を変えたいと願っています。ひとを傷つける必要がない、誰もが自分の道を選べる世界をこの目で見たい。だから、そのために私が出来る事をしています」
“妹”と一緒にからから笑うエルの横顔を思い浮かべ、コルネはエルに尋ねる。
「……エルさんが冒険者になったのも、同じじゃないんですか?」
エルは唇を噛み、身を翻してコルネを振り払う。眼に涙を溜めて、彼女は叫ぶ。
「崇高だな! 立派だよ! でもこの国の腐り切った奴らが君のような存在を決して認めない! ……だから、だから私は……!」
「エレアノール」
苦悶の言葉を遮り、レピドも言葉を投げかける。
「どうしてずっと独りでいようとするんだ。優秀な弟子がいるんだろう。彼女と一緒に手を尽くす道は無いのか」
「……あの子に手を汚せなんて言えるものか」
うらぶれた顔で呻き、エルはレピドに狙いを定める。しかし、アウレーリアが光の鎖を放ち、彼女の腕を絡めて狙いを逸らした。きっとして振り返った彼女に、アウレーリアは淡々と語り掛ける。
「誰も生まれを選べない。貴女も私も、家が潰えてさえ、貴族を辞める事は出来ない。けれど、何の為に、どうやって生きるかは選べるでしょう。……選ばなくてはいけないの。その力があるのだから」
エルは唇を震わせ、言葉にならない呻きを上げる。葛藤のうちにもがき、彼女は息を詰まらせその場に倒れ込んだ。
「馬鹿で鈍感な男だと思うわ。怒るのも当然。でもそれは、誰より自分の為に取っておくべきものではなくて?」
息も絶え絶え、起き上がる事もままならない。それでも彼女の瞳は強固に呪われていた。アウレーリアは彼女を鎖で引き起こすと、その眼を覗き込んで尋ねる。
「やらされでなく、唆されでなく。世界でなく、私達でなく。唯一貴女の意志で、彼にぶつける為の大事な怒りでしょう。その怒りを下らない復讐のために使うのが、本当に貴女の望み? 貴女の自由?」
エルははっとした。眼を見開き、じっとアウレーリアを見つめる。そんな彼女に、アウレーリアはそっと手を差し伸べた。
「帰っていらっしゃい、エル。ミーナが貴女をずっと待っているわ」
エルは跪いたまま静かに目を閉じた。荒い息が少しずつ収まり、眉間の皺も薄れていく。
「彼にぶつける為の……ね。中々憎いことを言うじゃない」
見開かれたエルの瞳は、空のような碧色を取り戻していた。
「そうね。腐り切った屑共にぶつけるなんて勿体ない。この心は、あいつの為のものだから」
エルはどこからともなくつば広の三角帽子を取り出すと、目深に被って狼を睨む。
「好き放題してくれたわね。絶対に許さないんだから」
彼女は杖を突いて立ち上がる。瞳に生気を取り戻した彼女は、夜闇の中に光を浴びて凛と輝いていた。イザークとひたすらに仕合を続けていたルアンナは、それを見て喝采を上げる。
「帰ってきた……! エルさんが!」
ルアンナの士気はいやが上にも高まり、イザークが叩きつけてきたエーテル纏いの刃をエーテルバリアを展開して防ぎ止める。そのまま彼女は杖の先から光球を放ち、イザークの肩口に炸裂させた。
「さあ、覚悟してください! こうなったら万に一つも私達の負けはありません!」
「……消耗したキャスターが今更一人増えたところで何になる?」
イザークが吐き捨てると、エルはご機嫌斜めに睨み返す。
「舐めるんじゃないわよ」
エルは杖の頭を握り直すと、自分の胸元を力任せに衝く。血のように紅い光が放たれ、杖に埋め込まれた紅玉へと吸い込まれていく。輝く杖の柄を握った彼女は、アンゲロスの仮面へと狙いを定める。
「私はエレアノール・シュヴァリエ! 獅子の心を以て戦う女よ!」
放たれた魔弾は深紅に輝き、薔薇の花びらのような光の痕を残してアンゲロスの黄金の仮面に突き刺さる。強烈な一撃を受けた屍は、呻きながら大きく仰け反った。
「まだまだ私も戦えるわ。みんなよろしく!」
エルは草原を軽やかに駆け回り、異形の目を引き付ける。黄金の仮面を撃たれた異形は唸りながら彼女を追いかけた。レピドは光の柱に身を預け、吼える敵を目で追いかける。
(胴体や手足に攻撃してもさして反応しなかったが……仮面を撃たれるとあの反応か)
異形を護る強固な障壁の仕掛けは、黄金の仮面の中にある。そう確信したレピドは、足音を忍ばせ走り出した。エルに夢中な異形は、光と闇の狭間に融けるレピドの姿に気付かない。
「こっちだ!」
背後を取ったレピドが叫ぶ。異形が咄嗟に振り向いた刹那、レピドは軽やかに跳び上がり、二振りの暗器を逆手に構える。突き出された杖を掻い潜り、その腕を踏みつけにして肩口に飛び乗る。仮面に針を突き立て、短剣で切りつける。終いには仮面と肉の狭間に針を突き刺し、そのまま異形の首根っこにしがみついた。
「この仮面だ! 狙ってくれ!」
「はい!」
コルネは剣を振り抜くと、その柄元から切っ先まで光るエーテルを纏わせ、正面切ってアンゲロスへと突撃する。
「お誂え向きの一撃、ぶつけてやります!」
頭上のレピドを振り落とそうと必死の異形は、コルネの突進に対応しきれない。彼女は突進の加速を乗せて跳び上がり、光る剣を力任せに仮面へ叩きつけた。衝撃と共に流れ込んだ破鎧砕のエーテルが、仮面と顔の肉の狭間に流れ込む。黄金と肉の癒着が緩み、レピドはそのまま仮面を引き剥がした。
どす黒い血飛沫が飛ぶ。痛々しい腐肉が露になった異形は、大きく仰け反り硬直した。その姿を見上げ、グノーシスはぽつりと溜め息を吐く。
「やれやれ。大した力だね」
グノーシスが杖を振るうと、異形は弾かれたように前傾姿勢へ戻り、口蓋を大きく開いて吼え、再びエーテルを吸い寄せようとする。そこへ素早く踏み込んだグレイブが、異形の脇腹に光を纏った刀を突き立てる。その刃に溢れるのは肉体を毒の如く蝕むエーテル。エーテルを体内に掻き集めていた異形は、グレイブの流し込んだ毒さえも加速度的に吸収してしまう。喉元を一対の腕で押さえてもがいたそれは、そのままその場に膝をつく。
「外の守りが固ければ内側から突き崩す。それが常道というものです。……今の手応えを見るに、最早その必要も無さそうですがね」
瞼の剥がれた眼窩に嵌る目玉がぎょろりと動き、グレイブを見据える。僅かにずれた仮面をそっと直したグレイブは、刀を月へ向かって掲げ、周囲に漂うエーテルをその身に集めていく。
「ここはあの方々を犠牲に生き永らえている世界。ともすれば呪いたくもなるでしょうね」
利き腕にエーテルを集めたグレイブは、そのまま目にも止まらぬ速さで異形目掛けて踏み込み、脳天に鋭く振り下ろした。仮面を剥がされ無防備になっていた異形の頭は熟れすぎた果実のようにぐしゃりと潰れ、そのままその場に倒れ込む。
「さりとて同情は致しません」
頭を潰された異形はぴくりとも動かなくなる。それを見降ろしたグノーシスは、髭を揺らして小さく溜め息を吐く。
「やれやれ。やられてしまったようだね」
彼が呟くか呟かないかの内に、全身に生傷を作ったイザークが彼の傍まで後退りしてくる。顔を歪ませたイザークは、その場によろめき膝をついた。
「最早勢いも止まらない、か」
グノーシスは首を傾げる。コルネは盾を掲げ、そんな彼の正面へじりじりと迫っていく。
「この世界は、確かに幸せが少なすぎます。……でも、その呪いに従ってこの世界を破壊して、その先に本当に『幸福』があると信じているのですか?」
彼女の問いかけを聞いた瞬間、グノーシスの眉間が僅かに歪む。しかしすぐに彼は穏やかな表情に戻り、銀色の杖を握りしめる。
「私はただ、この世界に留まる声を聞くだけだよ」
グノーシスが杖を掲げると、その身体がいきなり融け、獣の頭骨を被った異形が姿を現した。それは鋭い光の刃を周囲へ次々に飛ばし、冒険者達に突き立てていく。突然の出来事に、彼らは身を守る事もままならない。ミゼリアは呆然と刃の突き刺さった胸元を見る。痛みはない。血も出ない。
「いったい……どうなって……」
重い眠気が襲いかかり、ミゼリアはその場に崩れ落ちた。レピドはそれを横目に、何とか眠気に耐えようとする。
「幻覚だ! グノーシスが逃げるぞ!」
叫びながら、目の前に浮かぶ獣の異形へと飛び掛かる。目が覚めているうちに焼き付けたマーキングの残滓が微かに残っていた。
しかし、暗器を異形へ突き立てようとしたまさにその時、足元から巻き起こった光の嵐が彼の身体を絡め取る。
「悪いけれど、これ以上付き合うつもりはないんだ」
「……一体何だ。何なんだ、これは……」
いよいよ眠気に勝てなくなり、レピドもばたりと倒れ込む。異形は爛々と輝く眼光を蠢かせ、地に臥せたグレイブをじっと見下ろす。
「まだ起きているつもりかな」
「……簡単に逃げられると思われては困りますので」
薄れゆく五感を掻き集め、グレイブは天から見下ろす視点をどうにか保っていた。異形はローブを揺らすと、かたかたと骨を鳴らす。
「なら伝言だけ残しておくよ。私達はこれから千年続く国を造る。あらゆる国からの逃げ延びたいと思う者があるならば歓迎する。……そう言っていたと伝えてくれ」
「お断りします」
グレイブはにべも無く言い放つ。
「残念」
不満げなグノーシスの声を聞きながら、グレイブは静かに目を閉じた。
平原に倒れる冒険者達。その姿を見渡し、グノーシスは側に倒れ込むイザークをゆっくりと助け起こした。夢見心地の目を開き、イザークは彼を見上げる。
「さあ、君はどうする?」
「放っておいてくれ。これ以上生きても苦しいだけだ」
「……それが君の選択なんだね」
グノーシスは杖を掲げると、エーテルの奔流をイザークへと浴びせる。
「餞を贈るよ。……後悔の無いようにね」
狼が立ち去った頃、ようやく冒険者達は目を醒ました。ミゼリアが霞む目を擦ると、地面に剣を突き立てたイザークが腕組みをして平原の只中に立っていた。あらゆる生傷は既に癒え、彼は神妙な顔で冒険者達に対峙する。
「ミゼリアと言ったか。レピドと言ったか」
ホムンクルスを見渡し、彼は押し殺した声で尋ねる。
「何故お前達は、この世界で生き続けるんだ?」
●世界の涯
イザークは剣を構え直すと、そのまま飛び出す。ミゼリアはその正面に踏み込むと、大剣を盾のように構えてその一撃を受け止めた。
「イザークさんは、死んだあともつなぎとめる、この世界がにくい……ですよね」
その身を翻し、剣の腹で刃を滑らせ、返しの一撃をイザークへ浴びせる。肩の肉が抉れ、血が噴き出す。
「わたしは、今……こうしていきていることに……ふまんはありませんが……」
構わずイザークは突っ込んできた。肩の傷が、まるで時を逆回しにしたように塞がる。荒々しい滅多打ちを繰り出してきたイザークを、彼女は正面で塞き止め続ける。
「もし、イザークさんがそうではないなら……」
最後の一撃に合わせ、ミゼリアは力強く一歩を踏み込む。重心が崩れたところに、ルアンナの放った爆炎が炸裂した。
「ここで、おわりにしてあげたい……です」
焼き焦がされた肉が再び蘇る。イザークは吼え、剣を担いで身を沈めると、ミゼリアの脇を抜けて背後のルアンナへ迫ろうとする。しかし、暗器を胸元に構えたレピドが素早くイザークに突っ込んだ。イザークが身を守るよりも早く、レピドはその脇腹に針を突き立て、イザークのしかめ面を見上げる。
「イザーク、お前も今の神が偽りだと、真の神とやらを求めてるのか?」
「真の神? ……下らん!」
レピドを突き飛ばし、イザークは叫ぶ。
「俺は神を気取って俺達をただほったらかす奴らを貶めたいだけだ! 世界を壊して!」
脇腹の傷もすぐに塞がる。歯を食いしばって気を吐く彼を見て、エルはそっとレピドに耳打ちした。
「……彼はどうやら洗脳されているわけじゃなさそうよ」
「そうか。……あの狼、手あたり次第に洗脳してるわけじゃないみたいだな」
「何が洗脳だ! 俺はもう何の支配も受けない。俺は俺自身の意志で、この憎しみを叩きつける!」
イザークは唸ると、剣を天へ掲げて跳び上がる。エーテルを全身に纏って突撃しようとするが、どこからともなく集まってきた霊魂がその身体を縛り付けようとする。
「八つ当たりは終わりにしませんか。見苦しいだけですよ」
「黙れ!」
霊魂が彼に纏わりつくより先に、イザークは強引に冒険者達の中へと突っ込んだ。彗星の一撃が炸裂し、冒険者達は草原の中に弾き飛ばされる。
「……悪あがきが過ぎるわよ」
よろめきながら立ち上がったアウレーリアは、一発の魔弾を撃ち込みその胸を撃ち抜く。胸が抉れて肉が剥き出しになったが、その致命傷さえもすぐに塞がる。コルネは盾を構えたまま、思わず己の目を疑う。
「一体何がどうなっているんですか。傷つけても傷つけても、あっという間に……」
「グノーシス様の術でしょう。……どのような原理か不明ですが……」
レティシアは皆に治癒の光を当てながら、イザークの様子を窺う。彼は剣を握りしめ、眼を剥いて唸る。
「俺は、この刃を、……俺は……」
ミゼリアが大剣を構え、正面切って飛び出す。イザークは迎え撃とうとしたが、ふと彼は呆然と立ち尽くした。
「……どうして。なぜおれはここにいる?」
剣が地面に落ちる。ミゼリアの振り下ろした一撃を、彼は無抵抗のまま受け容れた。どす黒い血が溢れ出し、彼はそのまま倒れ込む。その傷は一切塞がる事なく、草原はみるみる血に染まっていった。
「イザーク」
彼の最期を悟ったレピドは、武器を納めて彼に駆け寄る。抱き起こしてやると、その眼に埋まる賢者の石に、深い亀裂が入っていた。
「ごめん、メリヤ。痛かっただろ。苦しかっただろ……何もしてやれなくて、ごめん……」
茫然と空を見上げるイザークがうわごとの様に呟く。
「メリヤ?」
「どうしてだ。どうしてこの世界は、メリヤをあんなに……」
不意にイザークは眼を剥くと、血まみれの手でレピドの胸倉に掴みかかる。
「……教えてくれ。どうしてメリヤはおれの餌にされなきゃならなかったんだ?」
「イザーク、お前は……」
何があった。そう問いかける前に、彼の賢者の石が砕け散る。
「憎いよ、おれは、おれが……」
今際の言葉を零し、イザークは崩れ落ちた。レピドは彼を抱えたまま、空に浮かぶ月を仰ぐ。二度目の死を迎えたイザークを慰めるでもなく、嘲るでもなく、ただ月は亡骸を見下ろしていた。
●幽霊を狩る者
グノーシス達が王都を離れて丸一日が経った。冒険者達はエルに呼ばれ、ヘーゼル邸へと集う。執務室で待ち構えていた彼女が早速彼らを出迎えた。
「エルさん、大丈夫ですか?」
コルネはエルの顔色を窺いながら尋ねる。昨日は相当無茶をしていたのか、彼女の顔は色白を通り越して真っ青だ。しかし、彼女は晴れやかな笑みを浮かべていた。
「ええ。みんなには随分と迷惑をかけてしまったわね」
「身体の調子はともかく、心の方はもう問題なさそうね」
アウレーリアがやれやれと肩を竦めると、エルは小さく頷き、彼女達の顔を見渡す。
「貴方達のお陰よ。貴方達の言葉を聞いて、がんと頭が揺れたの。私の望みなんて結局とてもちっぽけで、私が肚を括れば何とでもなるような事だった。そんな事で何年も悩んで、挙句利用されるなんて、私も随分と腑抜けていたみたい」
「ま、終わりよければ総てよし、じゃないかしら」
「ありがとう。そういうことにさせてもらうわ」
相好を崩したアウレーリアに、エルも小さく歯を見せる。
「とりあえず、無事で何よりです。それで、目覚めたばかりのところで申し訳ないのですが、貴方に何点かお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
二人のやり取りが終わるのを待って、グレイブが素早く切り出す。エルが彼の事を見遣ると、ルアンナが早速エルのデスクに押し寄せた。
「ええ、そうです。エルさん、彼らの組織について何かわかる事はありませんか? 一体何を目的にしているのか、とか……メドゥの指先の動きも活発な今、余計な脅威は可能な限り素早く除くべきですし……」
「うーん。そうね……」
眼を輝かせるルアンナに、エルは一瞬バツが悪そうな顔をする。ルアンナが首を傾げると、エルはそそくさと窓辺へ近寄り、慎重に外を窺う。それからデスクに戻ってきた彼女は、声のトーンを落としてこっそり答える。
「ルアンナさん。ここだけの話だけれど、洗脳される前からされてた時のことまで、今のとこ全然思い出せないの」
「思い出せない?」
ルアンナは思わず素っ頓狂な声を上げる。
「洗脳されてた時のこと、なら何となくわかりますけど……される前も覚えてないんですか?」
「ええ。調査の途中までの記憶はあるんだけれど、それからがさっぱり。感覚としては、お酒飲んで記憶を失くした時に近いんだけど……」
エルが悩ましげにこめかみをつついていると、レティシアがおずおずと手を挙げ尋ねる。
「あの……お酒に酔うと記憶を失くしてしまうのですか?」
「はい?」
エルは目を瞬かせる。レティシアの世間ずれしていない目を見ているうち、青い頬に一瞬赤みが差し、彼女は慌てて咳払いする。
「貴方の人生にだって、一度や二度そんなことがあるわよ。……もう、とにかく! でもお酒と決定的に違うのは、やらかす時より前のことまで憶えてないって事よ。多分これは、あいつにかけられた魔術の影響だと思う」
「なるほど。魔術の影響で一時的に健忘状態に陥っていると。……ならば、その影響が薄れる可能性もあるし、場合によっては解呪できる可能性もある、と?」
グレイブが腕組みをすると、エルはこくりと頷いた。
「ええ。そうすれば色々思い出せるんじゃないかしら。その時にはちゃんと皆にも情報共有するつもりよ」
「お願いします、エレアノール様。グノーシス様をこのまま野放しにするのは決して良いことではない気がするのです。胸騒ぎがして……」
レティシアは胸元を押さえた。彼は何かとレティシアに対して妙な執着を見せる。彼は『幸せになってもらいたいから』と嘯くが、そればかりとはとても思えない。俯く彼女を横目に、モネタはエルに目配せした。
「それで、特に新しい情報が無いのなら、どうしてボク達の事を集めたんだい? 何かお願いがあるんじゃなかったのかな」
「そう、その通り。……今のうちから洗脳されてた時のことは何となく覚えているという形で通すつもりだから、みんなにも話を合わせてほしくて」
「どうしてですか?」
コルネが目を丸くすると、エルはふてぶてしく笑う。
「ミーナの作戦よ。……私の立場を守るため、ってね」
執務室を後に、ミゼリアとレピドは共にバルコニーから空を見上げていた。イザークの今際をふと思い出し、レピドはぽつりと呟く。
「イザークはあれでよかったんだろうか」
ミゼリアは表情を変えぬままレピドの視線を追いかける。一羽の鳶が飛んでいた。
「あのとき、にげようとおもえば、にげられた……はずです。なのに、あのひとは、そうしなかった……なら、あのひとも、おわりにしたかった……とおもいます」
「……そうかもな。だがそれは、そうする以外に思いつかなかっただけのような気もする」
「いきようって、おもいつかなかった……?」
ミゼリアが呟くと、レピドは眉を寄せる。
「世界を『統べる』神を欲する……それは自由を失う事を意味するはずだ」
レピドはこめかみを押しながら唸った。冒険者としての道を選んだ自分と、死を選んだイザーク。自分の意志に従ったといえば、どちらも自由。だが、その自由は果たして等価なのか。
「グノーシスに従う者にとって、『自由』こそが呪いの言葉なのか? それとも……もっと別の思いが働いているのか……」
「……むずかしい、はなしですね……」
レピドの思案は終わらない。ただ確かなのは、正体不明の思惑が王都を飛び出し、確かな形を以て動き始めたということだけだった。
おわり
マスターコメント
ロングシナリオ難しい 報酬:標準8 / 6〜8人
2022年12月20日 11時00分27秒 公開
相談掲示板
ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 すみません、まだ以前のリプレイなど読み込み中なので取り急ぎとなりますが。 >方針 …エルさんの救助まで視野に入れたいところですが、メインの目標であるマギカとイザークの撃破は確実に行わなければいけませんし、それぞれ対応する方が必要なのでまずは分担を決めたいですね。 イザークを優先して叩くことが優先になるかと思いますが、グノーシスが障害物を放り込んでくるのも対処が必要かと思いますし、エルさんの抑えとマギカの対応などがざっくりとした分担かなと。 >エルさん 戦闘不能も洗脳解除もどちらもかなり難しいとは思いますが、エルさんの抑えは必要となりますし、戦いながら呼びかけなどを行い洗脳解除を目指す方針が良いでしょうか。
レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 ……正直、状況が難しすぎて頭から煙が出そうだぞ……(ぼそ 個人的にはイザークにも洗脳が行われているのかどうかも少し気になっている。 今回それを確かめるような猶予があるかは怪しい所だが…… >分担 個人心情的にはイザークに当たりたいが、ウォーリア相手だとシーフは不利らしいのが悩み所。 もう少し考えさせてくれ。 >エル 以前の報告書を見る限り、呼び掛け内容によっては結構反応があるみたいだな。 戦いながらの呼び掛けは有効かと思う。
ヒーラー、グレイブ・ヤードです。 >洗脳 状態異常であれば解除の可能性はありますけども・・・おそらく厳しそうですかね? ダメもとで全解除の聖別を準備しておきましょうか >役割 現状は通常通りの回復と支援を考えてはいますが、 敵の担当を考えるのであれば、それなりに自由は聞かせられます
キャスター、アウレーリアです。宜しく。 >方針 前回、エルに掛けた言葉が多少効いたようですので、呼び掛けを続けてみたいところです。 戦闘の相性的には、対イザークで優位に立てる可能性が高い。攻撃先は此方になりましょうか。 或いは最大火力にものを言わせて、アンゲロス対応に回る手もあります。 >背後関係 登場人物の人間関係とお家事情が複雑ですので、情報を以下簡単にまとめました。 過去連作未参加の方など、理解の助けになれば幸いです。 ------ ◆旧アドラーベルク侯爵家 三家に分割され現存しない。ヘーゼル伯継承問題を内紛に発展させた咎で解体。 ①マイセン伯爵家 初出につき詳細不明。 ②グランツ伯爵家 ティロール子爵の寄り親。所領獲得の経緯で関係悪し。 ・グランツ"金満"伯:フィーギル家困窮の元凶 ③ヘーゼル伯爵ホーエンバッハ家 ・ゲオルク:ヘーゼル伯、フリッツの父 ・フリードリヒ(フリッツ):エルのはとこ、ミーナの婚約者 ◆シュヴァリエ子爵シュヴァリエ家 恐らくホーエンバッハ家の分家。 ・エレアノール(エル):元王国騎士、フリッツのはとこ、ミーナの師匠 ◆ティロール子爵フィーギル家 グランツ伯爵の寄り子。王命でグランツ伯直轄領を受けた元騎士家門。 ・マティアス:エルの元婚約者、ミーナの兄 ・ミネルヴァ(ミーナ):フリッツの婚約者、エルの弟子
シューターのモネタだ。宜しく。 立ち回りは中衛、前衛アタッカーにもなれる、というあたりだ。 アウレーリアはまとめ有難う。 >どう立ち回るか 心理としてはアンゲロス=マギカかグノーシスをどつきたいな。アンデッドは好きじゃない、という理由もあるが。色々とめんどくさいからな。
ごきげんよう。 ヒーラーのレティシア・レインフィールと申します。 皆様、よろしくお願い致します。 >方針 私もエレアノール様の事は気掛かりではございますがコルネリウス様の仰る通り 先ずメイン目標であるお二方の撃破が優先度が高くなりますので 各分担を行ってから彼女の救助を詰められる形となりますでしょうか。 エレアノール様は「一定のダメージを受けた時点で撤退を選ぶ」とあり グノーシス様は「戦況不利になると撤退するが、その際にマギカはほぼすべての力を失う」事から 後者は恐らくイザーク様を撃破し、エレアノール様の洗脳解除か撤退前後 戦況不利とご判断される可能性がございますね。 そしてアウレーリア様、此度の背後関係についての情報纏め、誠に感謝致します。 >分担・役割 私もグレイブ様と同じく回復と支援が主となりますので 作戦と方針次第で、どの程度攻撃に振るか決定させて頂く形になりますかと存じます。
>幻惑対策 とりあえず前回のあれに関しまして、考え付く対策としては 「我々の眼以外の眼があれば」或いは「風景に邪魔をされない五感」であれば見破るきっかけにはできそうかと思っています。 前者はエーテルリンクや天眼等による視界、後者はサーマルアイや超嗅覚、超聴覚の類ですね。 戦闘はともかく、次につながる情報になりえるかと。 >アンゲロス=マギカ グノーシスに常に随伴する、という関係上引きはがす必要はありますよね。 ダメージはともかく何らかで強制移動とかさせられませんかね。 でなければ有効打は難しいでしょうし ところで天地のエーテル吸収ってどういうシステムなんでしょうね? それを中断や妨害できればただのアンデッドになるのでしょうけど
キャスターのルアンナです、よろしくお願いします。 アンゲロスはとにかくカチカチの盾、イザークが攻撃一辺倒の矛みたいな感じですね。 イザークの障壁は攻略法があるみたいですけど、能力下げのBSって効くんでしょうか? >エレアノールの洗脳 根っこにあるのは「マティアスさんと結ばれなかった事」なんですよね。でもマティアスさんは今も独身ですし今からでも、とは思うんですけど…。
>幻惑 我々以外の目、ならエーテルリンク鼬は出せるな。 その場合は中衛アタッカーになるけれど、まあ、問題はないよな?
お家事情についての相関をありがとうございます。 少々難しかったので助かりました。 >方針 グノーシスの撤退については私もレティシアさんと同じような認識です。 イザーク撃破→エルさんの説得または撤退→グノーシスが撤退したら、そのままマギカを撃破する流れになるのかと。 >アンゲロス=マギカ 具体的なサイズ感が不明なのですが、一般的な人間より大柄程度であれば吹き飛ばしは可能かもしれませんね。 杖を所持していますから、エーテル吸収については杖破壊や身体に吸収するための部位などをがあるならそれらを狙えば無効化も可能かもしれないと思いました。 >エルさん 「自由」の定義がマティアスさんと相違してしまった、というのはある気がします。マティアスさんも相変わらずではありますが…。 此方はどういった言葉が刺さるか難しい部分もありますので、説得される方は各々思うようにアプローチを掛けてみるのが良いかと思います。
アウレーリアは家の纏め助かる、感謝する。 >アンゲロス=マギカ 「金の仮面」が何らかのトリガーになってたりしないだろうか……? それか「吼える」ことで吸収が始まるようだから何らかの手段で吼えることを妨害する……? 引き離すのはイザークの彗星にマギカを巻き込めないだろうか。
ウォーリアの、ミゼリア……です。よろしく、おねがいします……ね。 ええと……何となく浮かんだのは、物理防御特化にして、イザークさんの、抑えに回ろうかなと、思いましたが……敵は他にもいますし、魔法防御にも振っておいたほうが、手堅い……でしょうか……。 >流れ >>イザーク撃破→エルさんの説得または撤退→グノーシスが撤退したら、そのままマギカを撃破 ……この順序で、わたしも同感……です。
失礼する。 事情があって割愛していたのだが、諸兄らの認識に齟齬があっては申し訳ないのでこの場でこちらから連絡させていただく。 私からエレアノールと婚約者の関係の経緯について伝えられるのは以下の通りだ。 ・3年前に子爵位を継いで間もないマティアス殿から婚約の解消の申し入れ ・シュヴァリエ子爵はヘーゼル伯の意向もありこれを拒否、ただし結婚の時期は見直すことになる ・エレアノールは騎士を辞めて実家に戻る。その後程なくして冒険者となり、各地を飛び回るようになった ・現在も結婚はしていないが、婚約が取り消されたわけでもなく、完全に宙に浮いた状態。ミーナが少しずつ話を進めようとしている 以上となる。本当は前もって伝えられれば良かったのだが…… 他にも確認事項があったら伝えてほしい。
フリッツさん、補足ありがとうございます。 では、私からひとつ質問よろしいでしょうか。 Q.1 アンゲロス=マギカの大きさについて。 四つの腕を持つ大柄な異形でありアンデット、との事ですが大柄な一般男性程度か、中型クリーパー相当(2m以上)のサイズかはお尋ねしてもよろしいですか? 大きさにより対処法が変わる場合がありますので、確認ができれば幸いです。
A1 中型クリーパー相当になるな。相対すれば多少見上げるような体勢になるだろう。
結構大きいのですね・・・これは強制移動も難しくなるでしょうか? >意識を向ける相手 アンゲロスを主体に考えてみようと思います。 防御力は物理魔法どちらも、と考えるべきなのでしょうねぇ
フリッツさん、回答ありがとうございます!お手数お掛けしました。 >アンゲロス=マギカ 腕も複数ありますし、2m超えとなりますと重さもそれなりになってきますから、念のためドラゴンチャリオッツでの吹き飛ばしよりはシーザーロアで引き付けをした方がよさそうですね。 ミゼリアさんがイザークへ回るのでしたら、私はひとまずマギカの対応を希望しておきます。 「金の仮面」狙いや吠える事を阻止するなども有効かもしれませんね。様子をみながら対処法を特定し試していくのがよいかもしれません。
>流れ エルを洗脳解除か積極的に叩いて撤退or戦闘不能、イザークは倒してグノーシスを撤退に追い込み、アンゲロスは無力化まで抑えるだけ、という感じですか。 私は束縛や行動不能系のBSスキルがありますので、説得しながらエルに当ててみましょうか。 ダメージスキルはイザークに振り分けて、解除と撃破を同時に進められたら、などと。 ……何だか地雷を踏むと、獅子奮迅からの踊る魔術師2発目で掃討されそうな気がして。 予防措置をとっておきたい気持ちがあります。
フリードリヒ様、補足やご回答を感謝致します。 >戦闘 『踊る魔術師』は基本的には全員効果範囲に入られるとして 予め『彗星』と『アーケインテンペスト』の併用での分断を行う事により 範囲回復での立て直しを妨害される可能性がございますね……。 『光縛封』は魔法攻撃での破壊は可能ではございますけれど その分、手を取られる事によって思わぬ状況変化の可能性もございますので 破壊時には慎重なご判断が求められるかもしれません。 >アンゲロス=マギカ 「金の仮面」狙いや吼える事への妨害を行う事に異論はございません。 >個人 グレイブ様がアンゲロス=マギカ対応主体となられるのでしたら 私は他対応の皆様への回復を優先させて頂きますね。 『ウェイブ・オブ・インフィニティロア』は初手からの使用を想定しておりますが 他のタイミングの方がよろしければ変更は可能でございます。 もう一つの特性スキルについては範囲回復の『ハイパーヒーリングオーラ』か 分断対策として『サイドヒール改』の内のどちらかを検討しております。
フリードリヒさん、補足ありがとうございます。エレアノールさん……。 >個人行動 イザークへの集中放火で考えています。 アンゲロスの方は上手い方法が思いつかなかったもので…。
フリードリヒ氏は補足に感謝を。 そして以下は取り急ぎ >個人行動 言い出しっぺでもあるし、マギカの仮面や喉笛(咆哮妨害)を狙ってみようかと思う。 体長結構デカイんだな……
>戦闘 分断される懸念というのも、確かにありますね それも含めてアンゲロス=マギカは足止めしやすいようシーザーロアは予定通り持つ予定ですが、分断の可能性を視野に入れると『彗星』の巻き込みを狙うのも少々難しいかもしれませんね。 『光縛封』も含め妨害も視野に入れながら、なるべく対処ができるよう動き方を少々考えてみます。
……では、物理防御と魔法防御を、そろえておくようなイメージで……こちらも、シーザーロアで、イザークさんを、ひきつけて、盾役に専念します……ね。 イザークさん、範囲攻撃が複数あるようなので……彗星で吹き飛ばされるのも、利用しつつ……なるべく、まわりに他の仲間がいないような状態で、ひきつけておけるように……して、みます。 攻撃は、あまり得意ではないので……ルアンナさんが、イザークさんに、集中砲火してくださるなら……心強い、です。
そういえば戦闘は夜なんだな。光源としてエンライトを持ち込むか。 それと誰が誰に当たる予定か纏めてみる。抜けや間違いがあったらすまない(以下敬称略) ・対イザーク ミゼリア、ルアンナ ・対マギカ コルネリウス、グレイブ、レピド ・対エル アウレーリア ・他 レティシア(マギカ対応以外の回復)、モネタ(中衛アタッカー)
さて、あと12時間も切りましたし エンライト(光源)などの準備もしました。 少しばかり気持ちで負けないための文字数も増やしてみましたが あとはどう判断されるかですねぇ。