【天陽道】利用されたのは何か
革酎
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シナリオID:2579
オープニング
リーンエス王国王都グランスパーダの郊外、豊かな緑に覆われた小さな湖のほとりに、エーティス健緑園と呼ばれる保養施設がある。
数年前に王党派貴族グレコ・エーティス侯爵が自身の財力を活用し、王家の許可を得て建てさせた隠居貴族専用の豪勢な建物だ。
その敷地の地下には発掘及び探索が完了した古代の頑丈な遺跡が眠っているらしいが、魔術的或いは考古学的な価値はほとんど無く、王家としても特に保存の必要は無いとして、エーティス侯爵に保養施設建設の許可を出した。
地下に頑丈な古代遺跡があるということは、それだけで基礎がしっかりしているともいえる為、エーティス侯爵は建設費用を大幅に縮小することが出来たらしい。
利用客は主に王党派貴族の老齢隠居者で、自身の子や孫に家督を譲って悠々自適な生活を送っている者が、風光明媚なこの土地に健康回復や病気療養等の為に訪れることが多いとの由。
現在は八名の老齢隠居者が滞在中で、彼らに応対する為のスタッフも総勢六名が常駐していた。
その他、各利用者が自家から連れてきた家士や従者、侍女などを含めると、結構な人数に膨れ上がる。それでも全員分の個室が用意され、食糧や酒も十分に行き渡る程の備蓄がある。保養施設としてはまず完璧な運用体制が整っているといって良い。
ところが、このエーティス健緑園で事件が起きた。
八人の利用者、即ち滞在中だった老齢隠居者達が全員、何の前触れも無くそれぞれの個室で死亡したというのである。
何かの流行り病か、或いは誰かの手による殺人事件か。
王国騎士団近衛隊のジュール・J・ヴェルジーは事件の一報を聞くや、即座にエーティス健緑園での捜査着手を決定した。
本来なら近衛隊が手掛ける様な案件ではない。にも関わらず、ジュールが態々捜査に名乗りを上げたのは何故か。
(恐らく、天陽道が絡んでいる……)
直感、ではない。
最初に寄せられた初動捜査の資料内に、明らかに天陽道の手によるものと思われる痕跡が見受けられたからである。
(今回の敵は天言殺呪使いか)
ジュールはグランスパーダ冒険者ギルド支部にひとを走らせ、助っ人となる冒険者募集の告知を打たせた。同時に自身は馬を駆り、先行してエーティス健緑園へと向かった。
●見えない動機
夕刻になってエーティス健緑園に到着したジュールは、広々としたロビーで責任者のチャンドラー・ビドスという貧相な中年男の応対を受けた。黒い髪と黒い瞳が印象的で、リーンエス王国一般の人種とは少し異なる様にも思える人物だった。
そのチャンドラーの案内で地下にある臨時の遺体保管所へと向かい、そこで八人分の遺体を検死した。
いずれも額に、何かで突き刺した様な傷跡が残っている。ジュールはその傷跡の内側まで、じっくりと調べ上げた。
(矢張り、間違いない。天言殺呪だ)
傷の内側には、螺旋状の溝が僅かに残されている。これは天言殺呪特有の傷跡で、通常の魔弾系攻撃魔術では決して残らない様な独特の痕跡だった。
だが同時に、ジュールは違和感を覚えた。
天言殺呪の発動には、標的が見えていることが絶対条件だ。八人はいずれも個室内で遺体が発見されている。ということは、暗殺者たる唱紋士は八人の個室内にまで侵入したということか。
スタッフや利用者の従者達に発見されることなく、八人もの相手を一度に抹殺可能なのだろうか。
(第一、動機が不明だ。隠居した元当主を殺したところで、一体何の価値がある?)
この八人を殺すことで、誰が得をするのか。
或いは、ただの愉快犯が下手人なのだろうか。
ジュールはスタッフや各利用者達お付きの従者達に、片っ端から聞き取り調査を行った。だがここで更に、おかしな事態に出くわした。
スタッフ達が死亡した八人に余り詳しくないのは致し方無いところだが、お付きの従者達も自分達の主人のことをほとんど理解していない素振りを見せていたのである。上っ面では従者なのだから御主人様のことはよく分かっていると主張していたが、少しばかり突っ込んだ質問をぶつけると、たちどころに口ごもってしまう連中ばかりだった。
もっと端的にいえば、このお付きの従者達の態度はどこか、この保養施設のスタッフの言動や立ち居振る舞いに通じるところがある様にも思われた。
(これはいよいよもって奇怪な話になってきたな……)
最早、何を信用して良いのか分からない。
ジュールは今回の八人同時殺人事件が予想以上に厄介な真相を孕んでいると予感した。
●違和感の連鎖
聞き込みからは然程の収穫が無いと考えたジュールは、被害者達が使っていた個室を調べることにした。
最初に遺体が発見された個室は、調度品や屋内設備の豪華さを除けば、特に変わったところの無い貴族利用者用の寝室兼書斎といった雰囲気の室内だった。
天言殺呪を操る唱紋士が押し入ってきた為か、入り口付近は多少荒らされているものの、室内自体は綺麗に片付けられている。
だが、逆に小綺麗過ぎるのが却って奇妙だった。
例え短期間の滞在であっても、多少の生活痕や使用感はあって然るべきだろう。そしてもっといえば、殺害時に生じる筈の血飛沫がどこにも見当たらない。
これは一体どういうことなのか。
ジュールは他の部屋も調べてみたが、どの部屋も同じ様な状況だった。
(何かを偽装していると見て間違い無いだろうが……何を隠そうとしている? 或いは、何を見せつけようとしている?)
ここでジュールは、ある疑問に行き着いた。
八人は本当に、ここで殺されたのか?
否、それ以前に、彼らはこの保養施設を客として利用していたのか?
様々な疑問を抱えたまま玄関ホールに引き返すと、チャンドラーが幾分不安げな様子で揉み手しながら問いかけてきた。
「それで、あのう……当施設は今後どの様にしていけば宜しいのでしょう?」
「それを決めるのは私ではなく、エーティス侯爵殿だ。しかし八人もの利用者が殺害されたのだから、普通に考えれば従来通りに営業継続という訳にはいかんだろうな」
チャンドラーに答えてから、ジュールはふと別のことが気になった。
この責任者、これ程の非常事態にも関わらず随分と落ち着いている――過去にも似た様な経験があるのだろうか?
或いは、もっと別の場面で経験を積んでいるのだろうか。
いずれにしても、腑に落ちない点が多過ぎる。もしくは、何かを見落としているかも知れない。
ジュールは、冒険者達の到着を待つことにした。
解説
マスターより
リプレイ
リーンエス王国王都グランスパーダから馬車を使えば、然程の時間を要することも無くエーティス健緑園に到着することが出来る。
豊かな緑と青々と広がる小さな湖が目に優しく、いかにも風光明媚な保養所といって良い。
しかし現在、このエーティス健緑園は営業継続の危機に立たされている。
利用者八名がひと晩にして殺害され、王国騎士団近衛隊ジュール・J・ヴェルジーが捜査への着手を余儀無くされたからだ。
その理由は、被害者がいずれも天陽道の天言殺呪による犠牲となったことにある。
王国騎士団内では唯一といって良い天陽道対策担当のジュールに出番が回ってきたことは、必然だった。
だがジュールが捜査を進めれば進める程、余りにもおかしな点が多過ぎることが分かってきた。
犯人が誰なのかということもあるが、何よりその動機が不明だった。それらの謎を探るべく呼び集められた五人の冒険者達は、早速にそれぞれの着眼点で捜査を進めた。
健緑園のスタッフや、犠牲者達のお付きの従者達は捜査には協力的で、嫌な顔ひとつ見せずに冒険者達からの聞き取り調査にも応じてくれた。
また、一部の冒険者は健緑園内に保管されている諸々の資料を片っ端から読み漁ったり、或いは地下に埋まっているとされる堅牢な古代遺跡についても調べて廻った。
そうして、初日の捜査はおよそ半日にも亘り、それぞれが新たな発見を得るに至っている。
ジュールは彼らを健緑園受付ロビーへと呼び集め、各自のこの日の捜査結果を発表させることにした。
応接用のテーブルを囲む様に並べられたソファーに、ジュールと五人の冒険者達がそれぞれの席を与えられて座っている。
そんな中で最初に手を挙げて発表したのは、ロゼットだった。
「天陽道の名を見て思わず引き受けちゃったけど……想像以上に難しい事件ね」
半ば愚痴に近しい台詞を零しながら、ロゼットは手にした資料をぱらぱらと繰った。
ロゼットはまず、事件現場となったエーティス健緑園そのものについて調べてみた。健緑園を構成する建屋や敷地、地下に眠っている古代遺跡の素性、或いは大幅に縮小されたという建設費用等について基本的なところをまず押さえた。
結果として健緑園自体には然程におかしな点は無く、唯一気になったのが地下の遺跡だった。
「魔導学術的、或いは考古学的な価値が無いのは事実みたい。だけど、本当にそれだけかどうかは、ちょっと怪しいのよね」
というのも、遺跡の調査記録は魔術的見地と歴史学的な見地でしか語られておらず、それ以外に関しては全く不問とされているのである。
「大体、個室まで忍び込めるなら短剣一本でも事足りる筈……何故、天言殺呪なのかが不明なのよね」
「それは俺も考えた。殺し方そのものに妙な矛盾を感じる」
ヴァン・ローラントがロゼットの疑問に賛同の意を示した。犠牲者の自室に血痕が認められなかったことからも、殺害場所は別にあるのではと考えていたヴァンだが、今はロゼットの発表順である為、一旦はそこで言葉を切った。
ロゼットはヴァンに頷き返してから更に言葉を続ける。
「やっぱり全員が揃ってる時に襲われたと見る方が、天言殺呪という殺害方法に最も合うんだけど……」
問題は、殺害場所だ。
ひと目に付かないこと、防音が期待出来ること、八人が同じ場所に揃うことなどを考えると、矢張り地下遺跡が気になるのだという。
そこで次に調べるべきは、健緑園の地下と古代遺跡の接点だ。どこかに古代遺跡に足を踏み入れることが可能な通路や階段があるのではというのが、ロゼットの見解だった。
「では次は、俺の番だ」
ヴァンがロゼットに続いて立ち上がり、入所していた利用客達の記録について調べた結果を報告した。
●怪しいスタッフ達
ヴァンは健緑園のスタッフに対する聞き取り調査も併せて実施していた。
過去の利用客達はその素性に間違いは無く、特に不審な点は見られなかった。しかし今回殺された八人は、それまでの利用客とは明らかに異質だった。
この八人はいずれも地元で寝たきりの筈だった、というのである。動かすことも困難な筈なのに、態々入所させたのは何故か。
「どうやら、この健緑園の方から強引に働きかけて入所にこぎつけたらしい」
更にヴァンはパートナーの栗鼠を敷地内に放って、スタッフや従者達の会話を盗み聞きしようと試みたが、彼らは驚く程にお互い不干渉で、私語は全く聞かれなかったのだという。
だが訓練された一般人というよりも、何かに怯えて喋ることを憚っているという雰囲気がひしひしと伝わってきた。それはスタッフ、従者双方に共通していた。
そこでヴァンは利用客のみならず、スタッフと従者についても資料上で照会をかけたところ、全員がここ二週間以内に、ほぼ同時に雇われていたことが判明した。
「矢張りそうだったか」
次の発表順を待っていたシルヴィア・A・カペルが、やれやれとかぶりを振った。
ヴァンが、スタッフと従者が全員グルかも知れないと締めくくったところで、入れ替わる様に立ち上がったシルヴィア。
「王家のお膝元で悪事とは大した度胸だけど、灯台下暗しともいうしね」
小さく肩を竦めてメモ帳を広げる。そこには健緑園の責任者チャンドラー・ビドスへの聞き取り調査結果が記されていた。
シルヴィアが最初に注目したのは、健緑園を開設した王党派貴族グレコ・エーティス侯爵が、経営状態に関してはほとんど関与しておらず、チャンドラーに全てを任せっきりにしていたことだった。
「エーティス侯爵はカネは出すけど口は出さないというタイプの御仁らしくて、営業開始後の健緑園に関しては偶に経営状況や財務状態を聞きに来る程度で、ほとんどタッチしていなかったみたいだね」
だからスタッフが入れ替わってもエーティス侯爵が知る由も無く、全ては健緑園内部で閉じられた話に終わっていたらしい。
彼らを雇ったのは勿論、チャンドラーだった。
シルヴィアが、将来的に祖母もこの施設を利用したがっていたと話を振ると、チャンドラーは通り一遍の営業的な対応を見せたものの、それ以上の反応は無かった。更にスタッフ六人のアリバイや勤務状況について訊いてみても、差し障りの無い回答しか得られていない。
つまりチャンドラー自身から直接何かを聞き出すのは、ほぼ不可能ということだ。
「彼の髪や瞳の色も気になったから、生まれはどこかと訊いてみたけど、王国内という話だったよ」
だがシルヴィアが見たところ、チャンドラーはシャルガネ居住区出身だ。かつて同地に滞在していたことがあるシルヴィアは、そう確信している。
「後は単なる推測だけど、遺体を個室に戻したのは殺害場所を隠す為だろうね。地下なら気付かれにくいし、近くに湖があるから現場の血痕を洗い流すのも容易い。私の今後の予定は湖と周辺に隠し通路が無いかの確認になるね」
その捜索はロゼットと協力しながら進めてゆくことになるだろう。
●犯人像
最後に順番が廻ってきたのはジュスト・ヴェルジーとローザリカ・L・ディオールのペアだった。
「通報者はチャンドラー氏。発見時の状況は彼の言葉を信用するなら、八人共、自室で倒れていたということだったけど、どこまで信用して良いものか」
「っていうのも、僕が各個室を回ったところ、血の臭いは全く感じられなかったんだ。それに生活臭もね」
ジュストの言葉を引き継ぐ格好で、ローザリカが超嗅覚による調査結果を付け加えた。
人間誰しも、それぞれの部屋から違ったにおいが漂うものだ。それが何ひとつ、感じられなかった。もうこの時点で何もかもがおかしい。
更にローザリカは室内に家紋の様な物が残されていないかを確認した。それらは普通に飾られていた。
遺体が安置されている地下にも赴いて、色々と調べてみたが、遺体や健緑園の地下室には他に何も見出すことは出来なかったとの由。
「でも逆に、こうも思ったんだ……もしかしたら犯人は、この事件が明るみに出ることを望んでいたんじゃないか、ってね」
「それは俺も、同意見だ」
ローザリカの言葉を受けて、ジュストは犯人の目的を推測した。
即ち、態と目を引く事件を起こすことで健緑園の営業を停止させ、その間に犯人が本来の目的を達成しようと考えたのではないか、と。
「そのカギは恐らく地下の古代遺跡……世間一般的には無価値と思われる物が、犯人にとってはとんでもない価値のあるものだとしたら?」
いいながら、ローザリカは床を指差した。
そして、地下の古代遺跡を欲している犯人とは即ち――。
「俺の推測では、犯人はチャンドラー氏だ。あの落ち着きぶりは、他のスタッフや従者とは明らかに異なる。寧ろスタッフ達にチャンドラー氏のことを訊き出そうとしたら、皆が判で押した様に画一的な応答しか返さなかった。あの反応から見ても、彼らはチャンドラー氏を恐れている」
そこでジュストは一旦言葉を区切って、ジュールを見た。
ジュールは目線だけで、見事だ、と頷き返してきた。
ロゼットとシルヴィアは湖と地下遺跡を次なる調査対象としているが、ジュストとローザリカが押さえるべきポイントはひとつ。チャンドラーの今後の動きに他ならない。
「悪いが、君の栗鼠をチャンドラー氏に張り付けてくれないか? 彼の追跡が、この事件の解決に繋がる」
「勿論、すぐにでも走らせるよ」
ジュストからの要請を受けて、ヴァンはソファーに腰をおろしたままじっと瞼を閉じた。相棒の栗鼠をスタッフの部屋の外の窓際から、チャンドラーの個室外側へと走らせているのだろう。
その一方でジュールはロゼットとシルヴィアの席へと歩を寄せて、今後の捜索予定について小声で話し合っている。敢えて声を潜めたのは、どこでチャンドラーが網を張っているか分からないからというのもあるが、ヴァンが栗鼠の視覚と聴覚を通してチャンドラーの近くに踏み込もうとしているのを邪魔したくなかったというのもあるだろう。
いずれにせよ、捜索の方向性は一本に絞られた。
最後に残る問題点は、チャンドラー自身の戦闘力だ。天言殺呪を用いたのがチャンドラーだとしたら、即ち彼は天陽道傘下の唱紋士ということに他ならない。
最後の詰めは、慎重を期すべきであろう。
その時、ヴァンが瞼を開いた。チャンドラーの現在地を正確に把握した様だ。
「まだこちらの動きには、気づいていない。先手を打つなら、今だ」
いいながら、ヴァンはソファーから腰を上げた。同時に他の面々も立ち上がる。敵が油断している今こそが、好機だった。
●動機
エーティス健緑園の地下室には、殺された八人の遺体が今も尚、安置されている。
その地下室の南側の壁は、見た目には分からないが取り外し可能な薄い板が張り付けられていた。深夜、誰にも見られていないことを確認してから、チャンドラーはこれを外し、地下へと続く階段に足を踏み入れた。
そしてひんやりと冷たい空気が漂う漆黒の空間へと降り立つ。手にしたランタンだけが、周辺を淡く照らし出していた。
健緑園の基礎部分に該当する、頑丈な古代遺跡内だった。
そこからチャンドラーが向かったのは、この古代遺跡の中でも最も湖方面に近しい区画だった。だだっ広い空間は、一見すると何も無い様に見える。
だがここで、チャンドラーは愕然とした表情を浮かべた。その区画の壁の一部が、崩れている。その奥に隠れていた大量の土砂の中には、ちらほらと白い物が見えていた。
人骨だった。それも、相当な数の。
「狙いは、それだったか」
不意に、闇の中から声が響いた。チャンドラーが慌ててランタンを向けると、ローザリカが静かに佇んでいるのが見えた。
否、ローザリカだけではない。ジュストとジュールの姿もある。
更に反対側にも気配が生じた。シルヴィア、ロゼット、ヴァンの三人がいつの間にか包囲陣形を組んでいた。流石にこれでは、逃げようが無い。
「狙いは、この遺跡の壁の奥に埋められていた、大量の白骨遺体だったのね」
ロゼットは崩れた壁の一部へと歩を寄せた。そこに見えている白骨遺体はごく一部だけであり、実際にはもっと多くの人骨が遺跡の周囲を覆う様に埋められていると見て良い。
この古代遺跡は、神代より少しばかり後世に造られた巨大な墳墓だった。その周囲には、この墳墓に祀られた古代の王に奴隷として仕えていた者達の遺体が埋められていた。
リーンエス王国が成立する、遥か以前の話である。まだこの地が不毛な大地だった当時の話だろう。
「確かに魔術的、考古学的な価値は何ひとつ見いだせなかった遺跡だが、天陽道の狙いはこの大量の白骨だったという訳だな」
ジュールの鋭い声に、チャンドラーは奥歯を噛み鳴らして表情を険しくする。
一方、シルヴィアは八人の犠牲者が殺害された場所も特定した、と静かに告げた。湖から引いた水で洗い流したらしいが、僅かな血痕が残されている箇所があった様だ。
結局のところ犯人、即ちチャンドラーの狙いはジュストが推測した通りだった。
殺人事件という不祥事が起きた健緑園は、事実上の営業停止へと追い込まれる。そうなればひとの出入りも無くなり、チャンドラーはこの古代遺跡から大量の白骨遺体を運び出すことが出来る様になるだろう。
では、この白骨遺体を何に使うつもりだったのか。
「天陽道には反魂法師という唱紋士が居る。彼らが作るアンデッドは今のところ屍餓鬼しか見たことが無いが、他にも作ることが出来るアンデッドが存在するとしたら? 例えば、白骨を素体に使用したアンデッド」
ジュストの指摘に、チャンドラーはじっと押し黙ったままだ。しかしその沈黙こそが、ジュストの推測が正しいことを雄弁に物語っている。
「チャンドラー・ビドス。貴様を捕縛する」
ジュールの渋みのある声が響いたかと思うと、別の闇の中から数名の王国騎士が姿を見せた。
結局、エーティス健緑園は営業停止となった。
しかし、後日グランスパーダの冒険者ギルドに呼び出された五人の冒険者達は、天陽道の思惑は阻止され、彼らが新たなアンデッドの素体を得ることが無かった旨を、ジュールの口から直接告げられた。
ところが事態は、思わぬ方向に発展しようとしていた。
天陽道が王国内での主な活動場所をグランスパーダから、王国西部へと移そうとしているらしい。
今回の一件で、グランスパーダでの活動が難しいと判断したのかも知れない。
が、どうやら別の要因もある様だ。
それが何であるのかは、ジュールにもまだ分からないという。
「王国西部、か……」
シルヴィアはふと、先日騒乱が落ち着いたばかりの砂漠の景色を思い浮かべた。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜5人
2022年11月07日 01時44分07秒 公開
相談掲示板
キャスターのジュストだ。 推理は得意ではないけれど、天陽道が関わってる事件なら放ってはおけないからね……可能な範囲で尽力したいと思う、よろしくね。 俺は手始めにどこを調査しようか考えたんだけど、とりあえず死亡した八人の身元確認かな、と。 隠居貴族達ということだけど、利用者として登録されている名前と遺体の特徴が一致するか、とか、実際にある家と人間なのか、とか。 どういう人達なのかっていうのが解らないと動機も見えてこない気がして。 資料検索と政治知識あたりが使えないかなと思ってる。
ヒーラーのロゼットよ。よろしくね。 天陽道の名前を見て参加したけど、私も推理はあんまり…なのよね。 私は、うーん…地下にあるらしい古代の遺跡を調べてみようかな。 施設には地下室もあるようだし、遺跡に入れないかなって。 殺害現場に疑いがあるみたいだけど、遺跡が殺害現場?とか。 凶器の天言殺呪は、複数を一発で仕留める、範囲型魔弾みたいな 魔術だったから、個別に殺害されたよりは、全員が揃ってる時に 襲われたという方が、イメージには合う気がして。 で、人目につかず、全員が集まる、こっそり何かする(動機?)には 地下の遺跡なんかは条件が良いんじゃないかなって、そんな想像ね。
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 犯人と動機の調査とは興味深い。天陽道についても気になるし……推理は得意ではないけれど、出来る限りを尽くそう。 >個人行動予定 やけに落ち着いているチャンドラーのことが気になっている。私は彼に隠居貴族達についてと過去のお客さんについて尋ねてみるよ。念の為事件当日のスタッフ六人の動きも確認したい。 エーティス侯爵とチャンドラーについても詳しく調べてみたいな。スキルは話術と、政治知識又は洞察にする予定だ。
探偵をやっているヴァンだ、よろしく頼む。 仮に殺害された8人がこの施設の使用者でなく全く別の所から来た連中だった場合、スタッフや従者が皆グルか天陽道側から強く口止めさせている、もしくは記憶を曇らせる魔術か何かを使われたって可能性があるな。そんな魔術があるのかどうかも分からないが。 「元々いた利用者はどこに消えたのか」という疑問も残るし、遺体の身元とスタッフ周りをまず調べてみようと思う。
ヒーラーのローザリカ、よろしく頼もう。 まったく、わからないことばかりで嫌になるな…… 推理が出来るかはともかく、材料を集められるよう尽力しよう。 隠居者とはいえ貴族、家紋の入った持ち物もありそうなものだし 紋章知識も捜査に使えるだろうか…… ばらけたスキルを持っていた方が調べられることが多いだろうしひとつはそれで。 具体的な調査個所ともう一つのスキルは少し考える。 ひとまずその表明とあいさつまで。
天言殺呪、シャルガネ独自の魔術が使われていることから、 黒髪黒目で異国人風のチャンドラーは実行犯の可能性あり、かな? ただ天陽道、組織所属の場合は殺害の依頼人が別にいそうだけど。 スタッフや従者が協力者かは分からないけど、直接に接触するなら、 露骨に疑うような質問は、相手が逃げる可能性もあるかも。 人物への調査は足りそうだし、私は現場の保養施設を調べにいくわ。 技能はあまり有用なのが無いのだけど、看破と資料検索ぐらいで。