【怨都】狼と吸血鬼の狩り

馬車猪

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シナリオID:2572

オープニング

●
 狼は弱者だ。
 強さでは魔獣に劣り、武装した人間の集団からは逃げるのが精一杯。
 訓練された猟犬にも狩られてしまう、基本的には害獣にしかなれない存在だ。
 しかし例外が存在する。
 たとえば冒険者の相棒(ペット)。
 主(強者)の半分の攻撃力と3倍の移動速度を兼ね備えたそれは、戦闘でも偵察でも凄まじい能力を発揮する。
 それだけでも十分に強力なのに真の恐ろしさは別にある。
「報告しろ! 何が起こっている!」
 かつて帝国軍に属していた(本人の意識では己こそが真の帝国軍の)過激派が冷静さを失っている。
 合流予定の場所に何も存在しない。
 メドゥの指先が秘密裏に輸送してくるはずの物資も、王国から落ち延びてきた吸血鬼も何もない。
 あの日滅んだ村の跡に、乾いた風が吹いて過激派の心と体を冷やす。
 わん、と鳴き声がした。
 奇妙なほどに愛想のよい犬が、緊張感の欠片もない馬鹿面で尻尾を振っている。人間に飯を強請っているようにしか思えない。
「馬鹿犬が」
 苛立ちが理性と慎重さを薄れさせる。
 過激派は乱暴な足取りで犬に近づき蹴るか何かしようとして、近づいているのにまだ剣の間合に入っていないことに気付く。
(犬が大きい? まさかっ)
 それは犬ではない。
 非常に体格の良い狼だ。
 悪戯がばれた顔で尻尾を見せて走り去る。
 途中で立ち止まり、ちらっちらっと振り返る様は控えめに表現しても非常に腹立たしい。
「弓を持って来い! おい、無視をするなっ!」
 振り返ると、1人あたり数頭で押し倒された部下達(非授恵者)の絶望顔がある。
「獣ごときがっ」
 過激派は激怒する。
 狼程度に負けた部下も腹立たしいし、狼程度に翻弄されたことが許せない。
 このまま戦えば部下が大勢死ぬのを承知の上で授恵者としての力を全開にして小癪な狼を殺そうとする。
「本当に隙だらけね」
 聞き慣れぬ声に血臭じみた濃厚な殺意。
 いつの間にかそこにいた(ホライゾナルジャンプで移動してきた)桃髪の授恵者が、細剣を過激派の喉に押し当て冷たく微笑む。
「抵抗する?」
 震える過激派の手から、剣が地面へ転がり落ちた。

●
「これも越境攻撃になるのかしら」
 代官(セニャ)は上着を羽織ったまま肩をすくめる。
 ここは帝国西部。
 南部と比べると復興が進んでいない地域だ。
「別に答えなくていいいわよ? 情報を引き出す手段は色々あるし」
 猿ぐつわをした過激派に笑顔(冷たい目)を向ける。
 すると、狼(群れの長)が今度は演技でない愛想の良さで代官(セニャ)の足にまとわりつこうとする。
「もう子犬じゃないのだから落ち着きなさい」
 苦笑し、よくやったと頷いて(優しい目で)褒める。
 高々と上がった尻尾がさらに高速になって風きり音が聞こえた気がした。
「セニアーラ様、報告です。吸血鬼と思われる集団を北西で発見しました。陽光を避けて休んでいるのかもしれません」
 部下(シューター)が、狼(ペット)経由で狼の群れから情報を受けとり報告してくる。
 最大で1キロメートル先まで維持可能な情報共有とペット(群の長)への入れ知恵は、狼を獣ではなく狩る側の存在へ押し上げている。
 セニャの奇襲も、その前の狼群複数による奇襲も、全てエーテルリンクが大前提の戦術なのだ。
「ご苦労様。そちらの群れにも褒美をあげて」
 馬鹿面の狼は、自分の直接の主(リンク相手)に誘導されて犬用保存食にかぶりついてる。
 野生で過ごしていたら一生に数度も食えない御馳走を毎日食べられるので、人間に群れごと飼われる境遇に不満はない。
「これ以上仕掛けると過激派や吸血鬼の幹部に気付かれるかもしれないから……。そうね」
 セニャ(主の主)は白い歯を見せて獰猛に笑う。
「冒険者を呼ぶわ。吸血鬼に怯えて逃げ帰るのは癪だもの」
 高まる殺意と共にエーテルが舞う。
 並の魔獣など歯牙にもかけないボス(主の主)の姿を見て、大柄な狼達が機嫌良く尻尾を振った。

●標的
「おいまだかよ」
「うるせぇっ、犬を補給しねぇと戦力足りねぇの分かってるだろうが」
 セニャ達に気付かれたことに気づかず、吸血鬼のキャリア的な意味で若い吸血鬼達が怒鳴り合っている。
 昼の強い日差しを避け、徘徊する強力なクリーパーを避け、慣れない地形に苦労しながらだと合流予定から数日遅れるのはよくあることだ。
 略奪品(血が付いたままの金貨)も多く運んでいるので遅れは普段より酷いが。
「面倒くせぇな。俺みたいに身体強化特化が最強だぜ」
「言ってろ」
 既に数人吸い殺した吸血鬼達は、狼に監視されていることに気付いていない。
 この土地を我が物顔に駆け回る馬型クリーパーにも気付いていないが、気付いていないのはセニャも狼達も同じだ。
 困難を真に解決できるのは、冒険者だけである。

解説

●目的  吸血鬼の撃破 ●戦場  帝国西部にある廃村とその周囲である直径10キロメートル。だいたい荒野  一見平地に見えますが凸凹が多い地形で、土地勘のない吸血鬼や知性の低いクリーパーは敵対者を見失い易いです  時刻は日没直前。天気は晴れ ●敵 ・吸血鬼  筋肉ムキムキで元野良着がはちきれそうになった個体が2体(物理攻撃と生命がかなり強力。攻撃手段は殴る蹴るのみ。移動3。抵抗はやや強。他は平凡)  野良犬数体を使役する、魔法行使用の杖を持った痩身個体が1体(使役する動物を大幅に強化する特殊能力持ち。移動3。本体は中堅授恵者程度の戦力で使役動物の上限はその8割、使役動物の移動は5)  村から北西に1キロメートルの位置にいて、多少迷いながら村へ移動中です ・外見が金属的な馬型クリーパー  物理防御と移動が非常に高い小型クリーパー  小柄な馬のような体格で、荒野における保護色っぽい色の金属的な何かでできています  村から南に3キロメートルの位置にいて、かなり迷走しながら北東へ移動中です ●冒険者の初期位置  各人が、村から最大500メートルの範囲で位置を選択可能  全員別々の位置でも全員同じ位置でもOK ●友軍 ・狼  逃げ足が最大の長所  群れは2つあり合計40頭前後。群れの長はどちらもエーテルリンク中  群れの長は冒険者の指示に従おうとはします。群れとしての移動速度は4  群れの長を除けば普通の大型犬程度の戦闘力しかなく知性は犬としては低め。群れを分割するとさらに頭が悪くなります  1つめの群れは廃村に、もう1つの群れは吸血鬼から500メートルの位置にいます  戦闘に巻き込まれるとあっさり死ぬので注意してあげてください ・シューター  2人。セニャの部下です  戦闘力は中堅冒険者程度。基本的にセニャに同行しつつエーテルリンクした狼に指示を出したり情報をやりとりしたりします  セニャから離れようとはしませんが、狼の群れの長に冒険者の指示を伝えてくれます ・セニャ  過激派の監視と周囲への警戒を行っています ●他 ・廃村  無人でした。建物の損傷は軽微  セニャ達が捕らえた帝国軍過激派が数人、簀巻きにされて転がっています  こっそり復興させて西部で復興事業のを進めるときの拠点にしたいな、とセニャが思っている場所です ・過激派  冒険者が介入しない場合、帝国軍内にいる『過激派絶対許さない派』(仮称)に引き渡されて、闇から闇へ葬られます

マスターより

 ここに別の敵がいるかもしれないと思って調べたらいた! が可能です  帝国のすみっこで復興を行う連作とも少し関係があります

リプレイ

●
「君の選択もまた一つの道。王国も不安定なものだからね」
 シルヴィア・A・カペルが穏やかに微笑む。
 戦装束を身につけていても優雅さに陰りはなく、彼女だけが荒野と廃村からくっきり浮かび上がっているように見えた。
「それを差し引いても学友だった子は大事にしたい。ああ、これは本心だから安心して欲しい」
 薄い茶碗(カップ)を受け皿(ソーサー)に戻すときも微かな音すら立てない。
「どなたのことを言われているのかは分かりませんが」
 代官(セニャ)は貴族令嬢未満、富裕な平民以上の服装と髪型にしている。
 もちろんシルヴィアは誤魔化されない。
 顔も声も何より気配が本人そのもの(セニアーラ・リーラント)だ。
「昨今侯爵家の不祥事が多くて嘆かわしい。しっかりとした侯爵家もいるのだとここで明言しておきたいからね」
 お前も王国貴族の系譜に属するのだから為すべき事を為せと言外に命じてくる侯爵令嬢(シルヴィア)に、伯爵令嬢(セニアーラ)は頷くことしかできなかった。
 令嬢達のやりとりを見てもエルは淡々としている。
「復興事業の、拠点候補。……ということは、交易路の、目的地候補。ビヒモーさんたちの、お仕事、増える、かな? まだ、先、だけど」
 じーっと、領地経営だけでなく運送業経営にも詳しそうな代官(セニャ)に視線を向けた。
「私の言うことを聞こうとしないヒビモーのことね。確実に増えるけど危険よ」
 魔獣にとっては食い出がある肉であり、賊にとっては自走する財産であり、クリーパーにとっては多少頑丈なだけの障害物だ。
 エルはこくりとうなずき、主(エル)と違って夜目の利かない狼(ペット)を置いて吸血鬼迎撃に出撃した。
「いつもこういう生活なのかな」
 シルヴィアは、マジカルポケットを使い場を維持するメイド(シューター)を見た。
「身の回りの世話は部下に任せないと時間と体力が足りませんから」
 セニャは椅子から立ち上がる。
 狼(エルのペット)が主人がいる方向を心配そうに見ていることから対吸血鬼戦闘が始まったことを知り、狼(エルのペット)が気持ちが張り詰めていることに気付く。
「これは奇襲かな。意図して仕掛けてかなりの強敵だ」
 シルヴィアも立ち上がる。
 数秒遅れて、メイド(シューター)がペットから連絡を受け取り焦りを隠せなくなる。
 村の周囲に広く散らばり警戒していた狼から群長(ペット)経由でクリーパーの発見情報が届いたのだ。
「速度は敵が優位。前衛は任せたよ」
 シルヴィアが召喚した風のエーテルがリラの形をとる。
 それを奏でた旋律は風となり授恵者と狼の力を引き上げ、しかし普通の狼では強化されても力不足。主な目的は授恵者の強化なので問題はないが。
 最後の残照を浴びて金属塊じみたクリーパーが突っ込んで来る。
 見事な走りは無駄に大きな音は立てず力を速度に変える。軽装で高速(移動5)なセニャでも逃げ切れないほど速い。
「賊は一時放棄。身の安全を第一に……って」
 部下(メイド)への命令を言い終えるより早く馬が接触。
 特化した回避がさらに強化されたセニャは余裕を以て躱すがカウンターで叩き込んだ細剣に手応えはほとんどない。
「訂正。冒険者に守ってもらいなさい」
 十数メートル行き過ぎた馬型が大きな弧を描いてセニャへ再突撃。
 今度も躱したが最初ほどの余裕はない。
「大きさ通りの力はあるようだが」
 これが効かなければ撤退も選択肢に入れるつもりでシルヴィアが招霊呪怨縛を使う。
 人型の薄ぼんやりとした光が高速で戦う人と馬の間に割り込んで馬へと当たり、バフ(風神の譚詩曲)の直後に使ったときとは違い今度は効いた。
「相手が群れなら仲間に合流しないよう伝えるべきかもしれないね」
 霞状のエーテルを攻撃ではなくデバフ(命中低下)狙いで馬型へ撃ち込んでいく。
 セニャは避け損ねて衝撃の受け流しにもほぼ失敗。手首から胸にかけて内側から嫌な音がした。
「援護します!」
 本人としては目立たぬようにしていた、実際は体格も筋肉の分厚さも金髪の輝きもどれも目立つダニエル・ヘリントンが地面の凹みを跳び越えセニャの援護に向かう。
 援護といっても実質は治療だ。
 距離30メートルで使ったヒールは高度なスキルのような派手さはなく、しかし怪我人(セニャ)の体に与えた効果は絶大だった。
(すごいわ)
 セニャはダニエルの癒やしの力(治療強化3が3つ)に驚愕する。
 馬を躱すのに意識のほとんどを裂いていても記憶に残るほどの驚きだ。
(時間を稼げるか?)
 シルヴィアは攻撃に本腰を入れる。
 放った光弾は見た目よりは脆い金属肌を貫きはするが敵(馬型)の戦闘力は最初と変わらず、それどころか前衛(セニャ)の動きに慣れていっている。
 ダニエルは勇気も体力もあり、しかも忍耐も兼ね備える。
 この3人の中でもは最も前衛に向いているセニャに前衛を任せたまま自身は後ろに留まり、敵(馬型)が村へ向かう進路(凸凹がない場所)に陣取り時間を稼ぐ。
 馬型がセニャに苛立ち、それ以上に中距離から的確に責めてくるシルヴィアに憎悪を向けて、人の気配がある廃村へ大きく回り込もうと別方向へと駆け出す。倒すのに時間のかかりそうなダニエルは避けてだ。
「進路に歪みが……ねえな」
 一直線に、村から離れる方向に足音が去って行くことに気付きダニエルは困惑する。
「助かったわね」
 セニャは疲れた顔を隠せず、その場にうずくまるのを耐えるので精一杯だった。

●
「西部ですしね、他にも敵はいるかも知れないけれどまずは確実にいると分かっている敵を狩りに行く」
 アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは一切迷わず吸血鬼のもとへ向かう。
 迷わないのはここで仕留めるということであり、情報を活かすということでもある。
「御苦労」
 アウレーリアが言葉でねぎらうと、馬鹿面の狼が調子に乗って(機嫌良く尻尾を振りながら)脚を踏み外す。
 専門の兵士でも難しい前回り受け身とそれまでの態度の差が、授恵者に使われるペットというより見世物用の狼を連想させた。
「互いに居場所を知らない状態で探り合うには嫌な土地」
 今の彼女には暗視能力があるので狼(ペット)とは違い凹みを見逃さない。
「でも一方的に『視えて』いるなら……視界の悪さはそのまま助けだ」
 狼(ペット)ではない狼が唸る(警告する)時間も惜しんでその場から跳び下がる。
 しかし敵(血色の悪い犬)の方が倍は速くそして力強い。
 数秒もかからず追いつき突き飛ばし、しかしその瞬間馬鹿(ペット)の頭突きが頭部にめり込んだ。強くはあるのだ。
 完全に陽光が消えた空にエルの矢が弧を描く。
 狼は巻き込まずに敵にだけあたる。
 竜鉄製の鏃が着弾時に淡く光り、魔法攻撃として吸血鬼のしもべの腹を食い破る。
(飼い主(シューター)じゃなく、狼(ペット)が後ろにいたのは……)
 ペットは強化されるが五感が人間の水準まで落ちるのだ。
 しかも、授恵者のスキルである暗視も位置感覚もそれ以外のスキルも反映されない。
 エルは念入りに止めを刺してから、別の獲物を探す。
 暗視能力があるからこそ、酷く凸凹で逃げる方が有利な地形であることが分かる。
 フリーダ=ブロムヴィストはランタンを腰に下げて目立っている。
 敵に気付かれてから明るくして、自らのを囮にする戦術だ。
「良いですね。引っかからないのは頭が良い証拠です」
 フリーダには暗視能力も特別に強化された五感(超聴覚や超嗅覚)もないが、ランタンの灯りがあればほぼ問題なく戦える。
「エーテルリンクを利用した偵察戦術ですかね」
 殺気を叩きつける。
 凹みに潜んでいた(フリーダの目からは見えていた)野犬が抵抗を試みても無駄だ。
「中々良いアイデアですね」
 必要以上の痛みは与えず一太刀で命を奪う。
「今日は『現代の戦は情報を制する者が戦域を制する。はっきりわかんだね』ですか」
 啓示(いつもの)が届いたが情報が普段より曖昧に感じる。冒険者(フリーダ)にとっては遠い世界の概念だからかもしれない。
「おいっ、犬がヤられたのを隠したのかっ」
「違う! 相手が速」
 吸血鬼4人を無数の炎が取り囲む。
 炎には強い濃淡があり、瞬く間に檻を組み上げ吸血鬼の動きを制限する。
「壊せ……るけど壊しづれぇっ」
 吸血鬼3体には致命的な妨害だ。しかもオブジェクトなので抵抗を試みることすらできない。
(範囲攻撃を考慮していないか。体の能力はともかく頭は素人)
 アウレーリアは足止めの直後に巨大な炎弾を放つ。
 魔力を練りに練った(攻撃集中した上での)一撃は通常の魔法よりも強力だ。
 彼女の通常の魔法は飛び抜けて強力なので、格だけは結構な高さの吸血鬼の防御も自動回復能力も貫くだけの威力があった。
「いけー! がんばれー!」
 夜目が利く吸血鬼には、本当に小さな体で応援しているアルマ・ヴァレンタインが見えている。
 その応援にエーテルが載っていて、冒険者全員に強烈なバフがかかった(の体から山吹色の光が噴き上がった)ことを理解できる知恵も知識もこの吸血鬼にはない。
 援護(バフ)という意味ではミア=リゼルも凄まじい。
 本来は1度に1人に対してしか使えない輝刃を秘技(コモンブラッド)で以て複数人施し、アルマのウェイブ・オブ・インフィニティロアと競うのではなく補うあう形で攻撃力を高める。
「吸血鬼共! 貴様等を全滅させるぜ!」
 アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは重ねがけされたバフで漆黒の巨大刃が輝いている。
(吸血鬼から見て右側のがアルベルトさんの足止め狙いー。もう1人は後衛っぽい吸血鬼の護衛っぽい? まあどっちも動けてないけど!)
 アルマはテレパスで情報を送っている。
(活躍したらセニャさんに伝えるからー)
(それはどうも!)
 アルベルトはテレパスで送信はせず攻撃に集中する。
 スキルも戦術もない吸血鬼2人を躱して痩身(獣使い)に接敵。
 ただ速く重く正確に、基本に忠実な果ての近くにある一撃をまぐれではなく通常の技(スキル)として繰り出した。
「へぁっ?」
 吸血鬼の間抜けな声が聞こえ、消える。
 絵物語とは異なり剣での戦いは地味な削りあいのはずなのに、防ごうとした片腕を切り飛して喉から胸にかけて特別頑丈か高位の吸血鬼以外は回復不能な傷を刻み込む。
 口を3度開閉させた後、白目を剥いた痩身吸血鬼が後ろ向きに倒れて後頭部が砕ける音がした。
「……どうだ吸血鬼ども!」
 自身も強くなった自覚はあるが、仲間の援護も予想以上に強く巧みになったことを自覚し驚くアルベルトであった。
「見た目はともかく決して弱くはないのですが」
 恐るべき頑丈さで知られたフリーダではあるが特定の状況にのみ特化するような不調法はしない。
 冷静に距離をとり、物理防御と比べれば控えめな、しかし通常の基準では飛び抜けた威力の斬撃を衝撃波として送り込み敵前衛(ムキムキ吸血鬼)を削る。
 その少し前方では、敵の反撃は受けるがフリーダの攻撃をさらに上回る一撃をアルベルトが連打しもう1体を戦闘不能直前に追い込んでいる。
「何を狙っていたかは……想像がつきますが」
 日の光の下ではミルクティー色の柔らかな髪が印象的な、物憂げで華奢な佇まいを持つミア。
 微かな星明かりを頼りに吸血鬼の五感で観ると、夜空に浮かぶ満月を思わせる冷たいエーテルが人の形をとっている。
「村には絶対近づけさせません」
 いずれ民が帰ってくる場所だ。
 白い花があしらわれた弓にエーテルを通して矢として発射。
 花片のように舞い散る飛沫を残し、強力な打撃(魔法攻撃)が戦闘不能直前の鬼から戦闘力も意識も奪い取る。
 ミアの攻撃は終わらない。
 静かに位置を変えて敵が逃亡するなら射撃に向いている位置へ移動。
 新しく矢を生み出して万一逃亡しても確実に殺せる状況をつくる。
(犬……吸血鬼の部下? はこれで最後)
 エルは気配と音を消して生き残りのほぼ野犬を仕留め終わる。
 人血の気配を漂わせた犬達が、矢で大地に縫い止められたまま痙攣を続けていた。
 なお、狼(ペット)から現状と救援要請が連続で届いてはいるが、馬鹿な敵(吸血鬼)でも追撃を受けながら後退するのは危険だし何より向こうで1番苦労しているセニャが大丈夫と主張しているらしいので任せる方針だ。
「終わりにしよう」
 炎の檻が、消えない。
 実際には消えた直後にアウレーリアが再設置したので残り25秒はこのままだ。
 アウレーリアの魔弾が的確かつ容赦なく吸血鬼の五体に穴を開けていく。
 他の面面も攻撃の手を緩めず、唯一反撃を受けているアルベルトもアルマがあっさり癒やしてしまったので隙はどこにもない。
 吸血鬼(数人吸い殺した男)の命乞いに耳を貸す者は、ここには1人も存在しなかった。

●
「謎生物(UMA)さんはー?」
「撃退したというか勝手に迷子になったというか」
 アルマを出迎えたセニャは椅子に座ったまま動けない。
「うーん?」
(聞こえてるー?)
 本人(アルマ)としては滑らかにテレパスに切り替えたつもりだ。が、受信側の反応が鈍い。疲労は深刻なようだ。
「内緒……んんっ」
(内緒話かしら)
(ジョセフさんのお話聞きたくないかなーって。部下さんたち経由で知ってるかもだけど、立場てきに聞かれるとマズイかもだしねー)
 力の抜けていたはずの体がアンデッドじみた動きで立ち上がり、白い手袋に包まれた手のひらがアルマの肩を押さえる。
「どーどー。逃げないからー」
 アルマは長い付き合いの少女を宥めつつ、ジョセフが関わった学園鶏肉料理バトルやリーラント領の最近の出来事を教えていた。
 フリーダはいざというときセニャの護衛ができる距離で廃村の調査を行っている。
(村単独でみれば利用価値がありそうです)
 啓示未満のイメージが微かに届いている。
(皇帝や指先の動きによっては地域全体がどうなるか分かりませんね。成功すれば利益も大きいのでしょうが)
 用水路を見つけたのでセニャの部下を介して狼達に見に行ってもらう。
(大当たりですか。配当が大きいと負けたときに大変なことになるのですが……)
 疲れても強気なセニャを見ると、大きく駆けて派手に転けそうな気がなんとなくした気がした。

●
「ゴルティエ侯爵について知っていることを全て話してもらおうか」
「お」
「答えるがの遅い!」
 アルベルトは全力で理不尽(拷問大好き)サディストの演技をしている。
 しているうちに『ひょっとしてセニャには素でこういう要素があるのかも』と感じてしまったのは気のせいと思いたい。
(実際に拷問しないなら効果は限定的ね。経験者を片っ端から消すと復興拡大につれ人材難も拡大するから部隊長(敗軍の将)の始末で終わりにできれば良いのだけど)
 アウレーリア自身難しいと思っている。
 ミアの気配は元のままだが、命のやりとりという危機感がない捕虜(過激派)には普通の範疇の令嬢に見えている。
「それで、あちらの簀巻きにされてる方々が帝国軍過激派さんたち……。セニャさんたちはこの人たちを使いたいんですね?」
「可能ならね」
(婚約者(アルベルトさん)が『過激派絶対許さない派』ですから……)
 セニャ(王国貴族令嬢)が代官をできる理由の1つなので完全に無視は不可能だ。
「もし彼らにお手伝いいただくことになっても、恐怖と暴力による用役は短期的にとどめるべきかと思います」
 捕虜に聞こえないよう小声で意見を述べると、セニャは疲れを完璧に隠して(冒険者には分かる)考え込む。
(『英雄』にもそれ以外にもなれる機会のある土地か)
 ダニエルは気持ちも筋肉も引き締め、捕虜を連れて仲間と共に帰路につく。
 無人の荒野は、人もそれ以外の気配も全く感じられなかった。

マスターコメント

 お疲れ様でした。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準8 / 4〜8人

2022年10月31日 19時25分14秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ミア=リゼル

    コソコソッ おひさしぶりです…ヒーラーのミア=リゼルです。よろしくおねがいしますね。 今日22日ですので、そろそろ話し合っておく方が良いかな…と。 解説を見る限り、エーテルリンク前提の奇襲ということですから、こちらのスキルで邪魔してしまわないように注意しつつ、地形を生かして戦う感じ…でしょうか? 個人行動は他のヒーラーさんと役割を分担しつつ…と考えています。GS以外のバフを配りつつ、構成が盾ヒラのため、後衛の護衛か前衛のサポートか。もししてほしい動きがあれば調整しますので、遠慮なくお声がけください。

  2. ダニエル・ヘリントン

    ヒーラーのダニエル・ヘリントンです。 よろしくお願いします。 今回僕は、皆さんの回復役に専念しようと思います。 奇襲をされる場合、その邪魔にならないよう気を付けたいと思います。

  3. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    『過激派絶対許さない派』(仮称)のウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 俺は、セニャとテレパスで情報を共有しつつ吸血鬼への奇襲を狙うつもりだぜ。

  4. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー 吸血鬼対応で筋肉ムキムキさんを光縛封に閉じ込めるとか 人手が足りてそうなら金属馬さんのほうにいってみようかなあと

  5. セニャ・リーラント

    シーフのセニャよ。よろしくね。 質問があれば答えるけど、私が知っている内容は依頼票(オープニング)に書かれているから答えられる内容は少ないと思うわ。

  6. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    キャスター、アウレーリアです。宜しく。 敵吸血鬼の移動力が低いので、グラビティフィールドで固めて魔法で叩きます。 魔術師型の使役動物を抑えていただける方がいらっしゃるとありがたいわ。 日没前なので、暗視を用意しておこうと思っています。 馬型クリーパーの方は手が回れば、という感じですが。 こちらは目的外みたいですし、最悪取り逃がしても失敗にはならないのかしら……? 相手するならきちんと足止め迎撃が必要そうなので、場合によっては此方に回っても良いです。

  7. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 OP文を見る限りでは我々が位置情報を知っているのは吸血鬼だけっぽいですね。 馬型を直接狙うのであれば馬型を見つける為の何らかの理由付けが必要になるかもしれません。 例えば…村側にいる狼を警戒の為に周囲探索してもらってその過程で見つけるとかでしょうか。 あるいは吸血鬼側の狼を交戦時に移動してもらう際についでに索敵してもらうとか? 無論直接探しに行くのも良いかとは思いますが…… とりあえずどちらに行くかは人数と編成を見て考えようと思います。 どちらにせよ前衛として行動する事は間違いないです。

  8. エル

    エル、です。…シューター、です。 どうぞ、よろしく。 とりあえず、吸血鬼、に、行こうかと、思い、ます。 野良犬、なんとかしたい、です、けど。弓矢で、奇襲する、くらいしか…。 >馬型を見つける わたしのウィル(ペットの狼)、に、周囲の警戒、しておいて、もらいましょう、か?

  9. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。今回はよろしく頼むよ。 セニアーラは廃村を復興拠点にしたいらしいね。馬型クリーパーは遅かれ早かれ撃破する事になるだろうし、可能なら今回撃破してしまっても良いかもしれない。 エルの狼が索敵してくれるなら、私はエルに情報を教えてもらった上で馬型クリーパーの対応に向かおうと思う。魔法攻撃スキルと、足止め用に招霊呪怨縛を持って行く予定。汎用スキルは暗視と天眼かな。

  10. エル

    >馬型の情報 はい、わかりました。 (途中まで?)ウィルに、シルヴィアさんたちを、迎えに行ってもらうように、して、み、ます。 ええと、皆さん、出発地点は、どこに、されます、か? 一緒でも別々でも、いいみたい、です、けど。

  11. シルヴィア・A・カペル

    取り急ぎ……! エルとウィルは協力してくれてありがとう。当日はよろしくね。 出発地点については悩んでいて……馬型は南に3キロメートルの位置にいるとのことだから、私は村から南に500メートルの位置にしようかなと考えている。ただ、エルとウィルとすぐ連絡を取れる位置が良いから、もし希望があれば合わせるよ。

  12. ミア=リゼル

    あっわっ すみませんそそろそろ出発と思って今覗いたら応援が…! ありがとうございます、確認が遅れてすみません! 暗視、私も忘れずに持っていきますね。

  13. エル

    >出発地点 最初の時点、で、吸血鬼の動向を知っていたら、わたしも、南に500メートルでもいい、んです、けど。 そうでなければ、村からの出発かな、と思って、ます。

  14. シルヴィア・A・カペル

    >出発地点 了解だ。私も村からの出発にしよう。 エルとウィルからの情報をすぐに受け取れるようにするね。 現地ではよろしく頼むよ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0