【天陽道】隻眼の老探偵 ~解決編~

革酎

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シナリオID:2540

オープニング

●真相へ
 王都グランスパーダ内の法衣貴族邸宅街で、殺人事件が起きた。
 殺されたのはラドル・トヴェンタス伯爵の次男ウェイン。彼はトヴェンタス邸の離れで、天陽道が放った式鬼によって殺害されたと見られる。
 捜査に当たったのは王国騎士団近衛隊のジュール・J・ヴェルジー。近衛隊でも凄腕の術師として一目置かれる老練なる人物である。
 ジュールはこの殺人事件に於いて天陽道は直接の下手人ではあるが、真犯人ではないと直感した。彼は数名の冒険者を雇い、共に事件捜査へと当たる。
 そして現場検証と証言収集の結果、ジュールはある人物が犯人だと目星をつけたが、しかし決定的な証拠が無い為、まずは泳がせることにした。
 今回の事件、襲撃は一度だけでは済まないと踏んでいたからだ。
 第二の襲撃が生じたところで下手人を捕らえ、依頼主を白状させることが出来れば、そこで漸く事件は収束を見ることが出来るだろう。
 尤も、襲撃に現れる式鬼を見事撃退出来れば、の話ではあるが。

 一度目の捜査と事情聴取を終えたジュールは、再びトヴェンタス邸を訪れていた。
 この邸のどこかに、女性衛士のひとりで平民出身の授恵者クリメル・アウドが身を潜めている筈だ、というのである。
 応対に当たった長男のタイリース・トヴェンタスは、そんなまさかと驚きの色を見せた。
「故ウェイン殿とクリメル衛士が離れ以外で足を運んでいた場所が、他にありませんかな?」
「……そういえば」
 以前ウェインが剣術の稽古場として使用していた古倉庫がある。離れに稽古場を移してからは誰も寄り付かなくなったらしいが、建屋自体は今も残っている。
「成程、そこか」
 ジュールは再び、冒険者達を雇い入れることにした。
 今度こそ、間違い無く下手人と真犯人を捕らえる為に。

●第二の襲撃
 闇の中に三つの人影が浮かんでいる。
 ひとりは天陽道内でも御館様に次ぐ実力者といわれる蘆屋 外伴(あしや げはん)。
 もうひとりは天陽道に所属する唱紋士で、式鬼使いの比企 丈貫(ひき たけつら)。
 そして最後のひとりは、黒いローブを纏い、フードを目深に被っている為、その表情を窺い知ることは出来ない。この人物こそが、式鬼による標的抹殺を依頼した人物だった。
「情報はもう少し正確にお伝え頂かねば、こちらとしても対処が出来申さぬ。で、今度こそは間違い無く、標的を捉えておられましょうや?」
 幾分呆れた様子で問いかける蘆屋に、フードの人物は多少腹立たしい表情を見せていたものの、静かに頷き返した。
 ならば、と比企は一礼し、闇の中へと消える。落ち着いた調子ではあったが、今度こそ間違い無く標的を抹殺してみせるという意気込みが滲んで見えた。
「ところで、近衛隊のジュール・J・ヴェルジーなる人物が、動いておられるそうですな」
 蘆屋に問われ、フードの人物はびくっと肩を震わせた。しかし蘆屋は相手を責める風でも無く、寧ろ楽しげに頬を緩めてかぶりを振った。
「我が唱紋士共もしばらく腕が鈍っておりましてな。近衛隊ならば相手にとって不足無し。我らの技術を全力でぶつけることが出来申そう」
 これは面白いことになってきた――蘆屋は依頼主たるフードの人物の意向などまるでお構いなしといった様子で、悦に入りながら闇の中へと消えていった。

解説

状況:  PCの皆様はリーンエス王国王都グランスパーダの冒険者ギルドで、王国騎士団近衛隊ジュール・J・ヴェルジーからの依頼を受けて、法衣貴族伯爵次男ウェイン・トヴェンタス殺害事件の捜査に再度加わったところからスタートして頂きます。  今回はいよいよ下手人との対決です。  ジュールの指示で、被害者のウェインが以前剣術の稽古場に使用していた邸敷地内の古倉庫を、まず捜索することになります。  そこでどの様な事態、結果を迎えようとも、敵は必ず襲ってきます。  現れるのは間違い無く式鬼ですので、皆さんで撃退して下さい。同時に、この戦闘の際に必ず何らかの証拠が残されますので、それを見落とさぬよう細心の注意を払って臨んで下さい。 敵:  天陽道の唱紋士が操る式鬼が登場します。  蘆屋外伴が現れるかどうかは、状況次第です。 天陽道:  本連作に登場する天陽道は、シャルガネのシノビから離反した呪術師集団です。  呪術とはいっても実際に呪いをかける訳ではなく、普通の授恵者と変わらない攻撃・バフ・デバフ付与魔法を呪術と称して使用しているだけです。  天陽道の呪術は天言殺呪と呼ばれており、概ね超強力型魔弾と標的を選り分ける選択性能のあるメテオライトを複合させた一撃必殺の遠隔魔法攻撃と思って頂ければ間違いありません。  所属する下位の術師や戦士は全て唱紋士と呼ばれ、天言殺呪(天陽道独自の攻撃魔術)、桐蓬忍道(天陽道独自のシノビの体術)、覇残抵儀(天陽道独自の殺人格闘術)、式鬼術(鬼と呼ばれる魔獣を使役する術)といった技を一種類だけ駆使しますが、最近になって反魂法師という名称の死霊術師をも唱紋士として迎え入れた様です。  尚、首領クラスの鬼一劉厳、並びに蘆屋外伴の両名は上記の技をほぼ全て習得している超人級のボス敵で、そう簡単に斃せる相手ではありません。 NPC:  王国騎士団近衛隊のジュール・J・ヴェルジー、及びトヴェンタス邸のひとびとが主なNPCとして登場するします。

マスターより

 皆様、こんにちは。  個人連作【天陽道】の推理シナリオ、解決編をお届けします。  今回もEXCのジュール・J・ヴェルジーさんをお借りしてのシナリオとなります。王国騎士団近衛隊の凄腕魔術師と共に、今回の事件の決着へと導いていきましょう。  そして今回は天陽道の唱紋士も現れます。  真相を解明し、真犯人を捕まえ、そして非道なる暗殺者にも鉄槌を加えてやりましょう。  それでは、ご縁があればご参加のご検討宜しくお願い致します。

リプレイ

●真相
 リーンエス王国王都グランスパーダの法衣貴族邸宅街。
 ウェイン・トヴェンタス伯爵子息殺害事件の真相を解明すべく、王国騎士団近衛隊の凄腕魔術師ジュール・J・ヴェルジーはトヴェンタス邸敷地内にある古倉庫へと足を運んだ。
 ジュールが雇った冒険者数名も同行している。この古倉庫に再び敵が現れると踏んだジュールは、真相解明と同時に、敵の襲撃に対しても決着をつけようと考え、人数を呼び集めた格好だ。
「意外と大きいし、頑丈そうな倉庫だな」
 サイラスが正面入り口前で石造りの頑強な構造を見上げ、のどかな声を漏らした。
 観音開きの巨大な鉄扉が目の前に広がる。大きな家具や馬車の如き乗り物を仕舞い込むには、十分なサイズが確保出来ているといって良い。
 その脇には木製扉の小さな通用口もあり、ひとが出入りするだけなら、こちらを通る方が便利だろう。
「中は当然、照明の類も無さそうですね」
 ジュールに呼び掛けながら、ヴァン・ローラントがランタンに灯を入れた。同じくサイラスもランタンを用意していたが、サイラス自身は倉庫内には入らず、この正面入り口前で警戒に当たるとの由。
「ジュスト、どう思う? 僕は、クリメル衛士は犯人ではないと思ってるんだけど」
 ローザリカ・L・ディオールはジュスト・ヴェルジーに、低い声音で問いかけた。ローザリカもジュストも、ジュールという存在自体から感じるプレッシャーに辟易しつつも、今回の事件の解決には全力を注ぐつもりでこの場に立っている。
 厳格な祖父から認められたいという思いも無くはなかったが、ジュストとしては自身の心の平穏を少しでも早く取り戻したいという自己救済願望の方が強かったことは否めない。
 一方のローザリカもジュールには少しだけ苦手意識があった。ジュール本人は別段ローザリカを責める様な言動や態度は見せていないが、ローザリカ自身に思うところがあった為、何とかこの事件を上手く解決することで認めて貰いたいという願望が彼女の心の内に宿る様になっていた。
「なぁジュール卿、ひとつ良いかな」
 倉庫周辺を隈なく捜索していたナハシュが、幾つかの真新しい足跡を確認した上でジュールに呼び掛けた。
「ずばり、犯人はエリス・トヴェンタスなんじゃねぇの? いや、まぁ誰でも良いんだけどな」
「参考までに訊いておこう。何故、そう思った?」
 意外なことにジュールは否定もせず、逆に食いついてきた。ナハシュは想定外の問い返しに、何ともいえぬ表情で曖昧にかぶりを振る。これといった決定的な論拠がある訳では無かった。ただナハシュの直感が、そう告げていたのである。
 だがジュールの隻眼には、何やら確信めいた色が見え隠れしている。
「その……エリス・トヴェンタス様という方は確か、故ウェイン様の腹違いの妹君ということでしたが……その方と、成否に関わらず襲撃はもう一度あるとお考えになられたことには、関係があるのでしょうか?」
 ナハシュと同じく古倉庫周辺の気配を探っていたティナが、幾分の興味を引かれた様子でジュールに問いかけた。
 ジュールはティナに一瞥を与えてから、前回の捜索にヒントがあるとナハシュに語った。
 反応したのは、ヴァンだった。
「狙いは矢張り、クリメルですか。初回の離れでの襲撃ではクリメル不在だった為、ウェインが巻き込まれて殺されたと見るのが正しいと?」
「実情は恐らく、そんなところだろう」
 ジュールとナハシュ、ヴァン達の会話を受けて、ジュストとローザリカは互いに顔を見合わせた。第一回の捜索で、真犯人に辿り着く材料は既に提示されていたということか。
 だが、それが何であるのかがジュストにもローザリカにも分からない。辛うじてナハシュだけが、自身で意識していない記憶の中で本質に辿り着いている。
 ここでジュールは離れに残されていた式符を取り出した。
「これの存在を知っている者は?」
「確か、俺達冒険者を含めた捜査関係者のみ……」
 ナハシュが答えたところで、ヴァンは喉の奥で小さく唸った。漸く、思い出した。
「捜査関係者しか知らない筈の、酒浸しの式符。しかしエリス嬢は、その存在を知っていた。何故か?」
 ジュールの指摘を受けて、ヴァンは己の記憶を掘り起こした。邸宅本館でエリスと初めて会った際、彼女はヴァンに、次の様に語っていた。
「ウェイン兄様があの時間に離れに行くことを知っていたし、例の式符とかいうのを持ち込めるチャンスは幾らでもあった筈よ。きっと兄様が将来王国騎士になって独立して、私と結婚することに腹を立てたんだわ」
 エリスは確かに、式符について言及していた。捜査関係者以外でその存在を知る者は、ただひとりに限られる――即ち、離れに式符を仕掛けた張本人。
 ヴァンはやっと、合点がいった。
 エリスが愛する兄ウェインを横取りしようとしたクリメルを暗殺する為に、天陽道を雇った。そう考えれば全てに辻褄が合う。
 後は決定的な証拠を入手し、それを突き付けるだけで良い。
 その時、サイラスが背後を振り返った。
「どうやら、おいでなすった様だ」
 中庭の一角に、巨人と見紛う程の巨躯が佇んでいた。
 式鬼だった。

●漆黒の下手人
 現れた式鬼は、全身が黒っぽい色に覆われていた。黒鬼と呼んで差し支えないだろう。
「見たことが無いタイプだ」
 ジュストは素早く光の壁を形成しつつ、近くに式鬼使いの唱紋士が居ないかと左右に視線を走らせた。
「愉快犯……対策を打ち破って被害者が怯えるのを見たい、ということですか」
 ティナが祭刀を携えて、ローザリカと共に前へと出る。同時に黒鬼も動いた。今までに出会って来た式鬼と比べると、動きが速い。同時に、重量感は今ひとつ感じられない。機動性を重んじたタイプか。
 ならばナハシュが機動戦で応じるのが適切だと見抜いたジュスト。ローザリカとティナに後衛を守る配置を指示しながら、自身は緑色の蝶を召喚して黒鬼へと叩きつける。
 黒鬼は獰猛に吠えながらジュストの攻撃を回避した。が、その回避先でヴァンが待ってましたとばかりに重力波を伴う鏃を叩き込む。黒鬼の機動性はその瞬間、極度に鈍った。
 ここですかさず、ティナが敵の懐に飛び込んだ。
「こんな魔術もあるのですね。自身が傷つくことなく、相手を襲えるとは……何とも卑怯な手口です」
 凄まじいまでの威力を伴った一撃が、黒鬼の脇腹へと突き刺さった。
 更にそこで、サイラスが魔竜の息吹を叩き込んだ。黒鬼は獰猛に吠えながら慌てて間合いを取るが、その後方にはナハシュが陰に潜む形で陣取っていた。鮮やかな程に黒鬼の背後へと迫り、素早い一撃を加えて再び陰の中へと姿を消す。
 黒鬼は何が起きたのか理解出来ない様子で、苛立ちの咆哮を放った。
「この式鬼は真正面からの戦闘には向いていない様だ……暗殺に特化したタイプか」
「だったら、この人数でも何とかなるって訳だね」
 ジュストの分析を受けて、ローザリカが前に出た。黒鬼は体躯こそは大きいものの、物理的な接近戦には不向きらしい。
 実際ティナとローザリカに間合いを詰められ、更には背後からナハシュの奇襲を受け、もうそれだけで追い詰められている悲壮感が漂い始めていた。
「この手の術者って、何げに本人の戦闘力にも自信があるのに、回りくどく術に頼りますよね」
 自身の戦闘経験からくるのか、或いは一般論からその様に分析したのか――ティナは幾分呆れた様子ながらも黒鬼の懐へ的確に打撃を叩き込んでゆく。そのティナの猛攻に気を取られた黒鬼に、逆側からローザリカも容赦無い一撃を喰らわせた。
 このまま力押しで一気に押し切れば、斃せる。
 ジュストはサイラスとタイミングを合わせて精霊の礫を撃ち込んだ。
 黒鬼は、動きが鈍り始めている。蓄積された打撃が、足の筋肉にも及んでいる様だ。
 ここまでの間、ジュールは後方で腕を組んだまま微動だにしていない。その強大な魔力と、一瞬で放たれる必殺の一撃を駆使すれば、もっと早くに決着がついていたかも知れない。
 だが敢えてそうしないのは、敵がこの黒鬼一体とは限らないからだ。敵が複数居た場合に備え、自らを予備戦力として敢えて戦線には加わっていないのである。
 恐らくジュストが同じ立場なら、ジュールと同様の戦術を取っていただろう。つまりこの戦闘に於いては、祖父と孫は意見が一致していたという訳だ。
 真犯人を割り出す捜索術や推理力では祖父には到底及ばないものの、敵を前にした戦術家としてのジュストの力量は、ジュールの目から見ても決して劣ってはいない。
 それはジュールがこの戦闘で一切手を出してこないことからも、よく分かる。
 手厳しい表現で何かとジュストの胃をきりきりと痛めつけることの多い凄腕の老魔術師も、認めるところはしっかり認めているのだ。
「おっと、どうやら敵はこの一体だけじゃなさそうだなぁ」
 不意にサイラスが、恐るべきひと言を放った。
 式鬼は他にも居そうだというのである。
 ならば、この黒鬼にこれ以上の手間をかける訳にはいかない。冒険者達は一気に勝負へと出た。
 まずサイラスがワイバーンの如き紅い竜の姿の幻影を召喚し、上空から急降下させて黒鬼の頭上を襲った。黒鬼は回避も叶わず、その直撃を浴びて弾き飛ばされた。
 そこへ間髪入れず、ヴァンが再び重力波を帯びた鏃で膝を破壊した。黒鬼は苦痛と怒りが入り混じった獰猛な雄叫びをあげるも、この劣勢では哀れみさえ感じさせる。
 だが、ここが勝負どころだ。ティナとローザリカ、ナハシュがジュストの指示を受けてタイミングを合わせ、それぞれの得物を振るって黒鬼の懐へと殺到した。
 最早、黒鬼には回避する余裕も体力も、残されていなかった。

●解決
 やがて黒鬼は、全身から血を噴き出しながらその場に昏倒した。
 しかし一同はすぐさま、倉庫の屋根上に視線を走らせる。奇襲を警戒していたサイラスが、敵がそこに居ることを早い段階で見抜いていたからだ。
 倉庫の頑丈な屋根上には、三つの影があった。
 ジュストも見覚えのある天陽師、蘆屋 外伴(あしや げはん)。
 その右側にはこれまた過去に戦闘経験のある式鬼使いの唱紋士、比企 丈貫(ひき たけつら)。
 だが三つ目の影は、初めて見る巨影だった。牛の頭を持つ巨躯――これも式鬼だろうか。
「牛頭(ごず)の実地訓練……には、ちと手強過ぎるか。せめて馬頭(めず)もおれば良い勝負になったかも知れぬが……ま、御館様に所望して、再戦の機を貰おうかのぅ」
 蘆屋外伴は小さく肩を竦め、傍らの比企に頷きかけた。比企は黒鬼を斃されたことに幾分悔しそうな表情を浮かべていたものの、渋い表情で頭を垂れる。
 直後、冒険者達の前に業火の帳が吹き荒れた。と思った直後には炎は収まり、屋根の上の三つの影は忽然と姿を消していた。
「成程……あれが天陽道か。中々、厄介な連中だ。あんな連中を相手にしていたのか」
 ジュールは、ジュストとローザリカに感心した様な視線を向けた。
 その傍らでティナは幾分、残念そうな面持ちだった。式鬼使いが現れたのなら是非一度、手合わせを願いたかったのだが、どうやら次回へと持ち越しになった様だ。
 尤も、牛の頭を持つ式鬼は、先程斃した黒鬼とは明らかに別格であることが、その雰囲気や佇まいからも明らかだった。更に同様の式鬼が他にも存在するということらしいから、強敵との戦いはこれからも続きそうな予感はあった。
 一方でサイラスが、黒鬼の死骸に触れようとしていたが、ジュールが駄目だと制した。
「その死骸は天陽道対策の研究の為に、近衛隊が回収する。勝手に触れることはまかりならん」
「あ、そう。そりゃ残念」
 雇い主に釘を刺された以上、サイラスとしても引き下がらざるを得ない。
 その後、冒険者達は薄暗い古倉庫内を捜索し、傷だらけで気絶していた女性を発見した。クリメル・アウドだった。
 同時にローザリカが鋭い嗅覚を活かし、酒浸しの式符を発見した。その式符の傍らには、女性用の衣服のものと思しき破れた布地が錆びた釘にぶら下がっていた。恐らく、ここに式符を仕掛けた犯人が、慌てて逃走しようとして誤って引っ掛けてしまったのだろう。
 この布地の持ち主こそが、今回の一連の事件の黒幕、即ち真犯人だ。
「矢張り、エリス・トヴェンタス嬢が……」
 布地を手に取りながら、ヴァンがジュールに問いかけた。
 隻眼の老魔術師は何とも答えず、ローザリカとティナにクリメルの応急手当だけを指示していた。
「動機は、やっぱり愛する兄を奪おうとした憎い相手を殺したい……ってなところか」
 ナハシュは何ともいえぬ渋い表情。結果として最も愛しい男性を失う破目に陥った。因果な話である。

 その日のうちに、ジュールは王国騎士団の第二隊から警備班を引き連れてトヴェンタス邸へと舞い戻り、エリス・トヴェンタスの身柄を押さえた。
 ヴァンが予測した通り、エリスの衣服の中から、現場に残されていた布地に合致するものが発見された。本人は現場で破れていたことに気付いていなかったらしく、破れた箇所も見事に一致したのだという。
 エリスは獰猛な勢いで反発したが、ジュールは眉ひとつ動かさず、冷静に彼女を連行させた。
 トヴェンタス家のひとびとは憔悴し切っていたが、ジュールによるエリス捕縛に抵抗する訳でもなく、その顛末の一部始終を黙って見届けるしか無かった。

 トヴェンタス邸を出て、冒険者ギルドへと戻ろうとしていた一行だが、その際、ジュールはジュストだけを呼び止めた。
 ローザリカが、ジュストが精神的に追い詰められるのではないかと変なところで心配し、一緒になって足を止める。当のジュストは緊張で全身ががちがちに凝り固まっていた。
 そんなふたりの葛藤を知ってか知らずか、ジュールはいつもの強面ながら、しかし声音は穏やかだった。
「魔術師には二種類ある、と私は考えている。戦略家と戦術家だ」
 戦略とは文字通り、戦を略する――つまり戦わずして勝つことを主体とする。
 逆に戦術は、敵を前にして初めてその真価を発揮する。即ち、戦いを否定する戦略とは異なり、戦いそのものに意味を見出すのが戦術だ。
「ジュスト、お前は戦術家だな。しかし、それは決して悪い訳ではない。戦略家になるか戦術家になるかは、ひとそれぞれだ。向き不向きというものがあるからな」
 ジュール自身は戦略家でもあり、戦術家でもある。だがそれは相応の経験と知識と技量があって、初めて成立するものだ。普通はいずれか一方だけに落ち着くものであろう。
「で、お前はどちらを目指す?」
 ジュストは、即答出来ない。そんな孫の迷いを見透かしたかの様に、ジュールはローザリカに穏やかな視線を向けた。
「相変わらずこんな調子だが……我が不肖の孫を、これからも宜しく頼むよ」
 それだけいい残して、隻眼の老探偵は踵を返した。

マスターコメント

 皆様お疲れ様でございました。  下手人たる式鬼は無事に討伐完了し、真犯人も捕まえることが出来ました。  今後ジュールさんと天陽道の戦いは王都から別の場所へと移っていきますが、もしまた機会があれば、お付き合い頂けますと幸いです。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2022年10月23日 09時18分30秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ジュスト・V・ケレス

    キャスターのジュストだ、よろしく。 今回は戦闘は確定。 あとは戦闘で何らかの証拠が入手できることが示唆されているね。 >戦闘 天陽道の式鬼とは交戦経験があるけど、今迄交戦した物とはまた性質が違うかもしれないんだよね……。 前交戦したタイプは物攻も物防も高かったし、動きも機敏だった。 多分術者によって式鬼の性能も大分幅はあると思う。 防御や攻撃力は俺の魔法である程度下げることも可能だし、魔法攻撃が有効ならそちらの方に重きを置いても良い。 ただどちらにせよひ弱な後衛は優先して狙われる可能性はあるから可能な限り距離をとるなり、前衛がカバー可能な範囲で立ち回る予定だよ。

  2. No.2

    サイラスだ、よろしくなー とりあえず看破とか仕込んで捜索するかなと 戦闘に関してはカバリングと後方から術かなと?物理弓でもいいが、前と性能が違うとかあるなら個体差の調査方法にもなるんでないかなと。

  3. ローザリカ・D・ケレス

    ヒーラーのローザリカ、引き続きよろしく頼もう。 >捜索 前回残されていた符は酒臭かったようだし、同じ手を使うかはともかく超嗅覚は持っていこうかな。 身を潜めているというクリメル衛士を探すのにも、食料の匂いを辿るとか何か出来るかもしれないし。 >戦闘 手ごわそうだし、初手はインフィニティロアで皆に支援が出来ればと考えている。 立ち位置的には前衛として動きたいかな。

  4. ナハシュ

    シーフのナハシュだ。今回はよろしく。 捜索は双波やなんかはとりあえず持って行くつもりでいる。 あと倉庫内は灯りがあんのかね。暗視は持って行くか? >戦闘 これに関しては基本前衛になるな。基本3連撃での回避型で動くつもりでいるぜ。 もしくは5人で十分撃退可能かどうかにもよるが、ハイディングやスカウトの心得、双波等で戦闘よりも証拠探しの方に重点を置いてもいいと思ってる。 この辺については式鬼とやったことねえから感覚が解らねえんだよな!どちらの方がよさそうかヤッたやつの意見が欲しい。

  5. ヴァン・ローラント

    シューターのヴァンだ、前回に引き続きよろしく。 俺はあまり戦闘向きじゃないからな…、グラビティボルトとかでひたすら式鬼の邪魔してると思う。 捜査スキルは何持ってくかはまだ考え中だ。

  6. ジュスト・V・ケレス

    倉庫内の明るさは不明だけど暗視や明かりは一応用意しておいた方が良さそうだね。 あと「この戦闘の際に必ず何らかの証拠が残されます」との事だから、調査は戦闘中・後の方が得られるものが多そうというか、交戦するからこそ解るものもあるんじゃないかなって。式鬼の個体差とかも討伐に役に立つ情報だし。 式鬼が一体とも限らないし、全員戦闘の備えはしつつ、攻撃に比重を置くか観察や戦闘前・戦闘後調査に比重を置くかは各自の自由に任せたいとは思うけど…… 一応俺は看破、もう1つは感覚系のスキルで戦闘中に情報収集に努めようと思う。 倒さなければ見つからない証拠もあるだろうし、ローラント殿が妨害主体で動くなら俺は火力の方に寄せておくね。 俺自身は戦闘を厚めにしておくので、調査に重きを置く人は証拠集めをよろしくお願いしたい。

  7. ナハシュ

    なるほどな、割とわからねえことの方が多いのか。 ならまあ調査や観察の方に重点を置いておくかな。鬼が複数体出てきたり、他状況によって前衛に加わる感じで。暗視も一応持って行っておくわ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0