【学祭】憩いの森でお茶会を

コースケ

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シナリオID:2480

オープニング

●女心と秋の空
「ずっと前から好きだったんだ。今度の学園祭、一緒に回ってくれないか?」

 パンクリアース学園内に作られた憩いの森。その中心のスペースで、一組の男女が向かい合っていた。
 一人はクロード・レイルという名の少年で、特殊作物研究部(通称:特作研)という部活の部長である。
 もう一人はリエル・サンウッドという名の少女で、ガーデニング愛好会(通称:庭愛会)の会長である。
 特作研と庭愛会は農場の使用について対立することも多く、この二人は顔を会わせればいがみ合っていたのだが、様々な事件を経て互いの気持ちに向き合い、こうしてクロードからリエルへ想いを伝えるに至ったのだが……

「うん。ありがとう。やっと言ってくれたね」
「じゃあ……?」

 顔を赤くしていたクロードがパッと顔を輝かせる。

「でも、この告白はちょっとやだな」
「え……? あ……?」

 OKして貰えると思っていたクロードは、思わぬリエルの言葉に言葉が出ない。

「この告白って勢いでしょ? 女の子としては、ちゃんと雰囲気(ムード)とか考えて欲しいかな」
「ち、ちょっと待って!」

 周りから焚き付けられた勢いの告白であることは図星なのだが、ここで退く訳にはいかない理由がある。
 来年の春には学園を卒業するクロードにとって、残りの学園生活を彼女と過ごして、忘れられない想い出を作っておきたいという気持ちは本物だった。

「分かった! 今度! え、ええと……学園祭の時にもう一回ちゃんと誘う! その時に答えを聞かせてくれ!!」


●その夜
「……それで結局、返事をせずに帰ってきた訳ですの?」

 学園寮の自室に戻るなりベッドに倒れ込み、あうあうと呻きながら悶えるリエルを見下ろし、同室で友人のマルグリット・シークは特大のため息をついた。

「そんな後悔するくらいなら、OKすれば良かったのではなくて?」
「……だって! 作業の後でこんな格好(作業着姿)だったし、クロードだって泥だらけで、そんなシチュエーションの告白イヤだったんだもん」
「気持ちは分からなくも無いですけど、ずっと待ってたのですからいい加減素直になれば良いのに……」

 妹のように可愛がっていたリエルが離れていくようで、少々寂しく思うこともあったマルグリットだったが、このままクロードの卒業まで進展しない様なことがあればリエルは後悔する事になるだろう。

「ところで。学園祭では一緒にガーデンパーティーをするのではなくて? 顔を合わせれますの?」
「……っ!? どうしよう」

 すがるように見上げてくるリエルに、マルグリットはまた大きなため息をつくのだった。


●同時刻
「どうしよう……」

 クロードも男子寮の自室で同じことに気付き青ざめていた。

「そんな事言った後じゃ気まずいか……」

 同室のフィリップ・バンクも頭を抱えていた。進展しない二人の関係に痺れを切らしてクロードを焚き付けた側でもあるので、責任を感じていたのだ。

「分かったよ。リエルちゃんと君が極力顔を合わせないよう僕が間に立つから。その代わり、本番ではしっかり決めなよ?」
「すまん! 今度何か奢るから」
「気にしなくていよ。けど、学園祭には学園外からも人が来るし、君達がそんなんじゃ喫茶店が盛況だったときに人が足りないかもね」

 そういう事情もあり、フィリップはマルグリットとも相談し、念のため応援を呼ぶ算段を立てるのだった。

解説

ガーデニング愛好会と特殊作物研究部が、文化祭の出しものとして共同でガーデン喫茶を開くことになりましたが、事情により会長と部長の動きが鈍いため、キッチンスタッフ、ホールスタッフなど広く手伝いを募集しています。 もしくは、お客としてガーデン喫茶を楽しんで下さい。 ガーデニング愛好会員、もしくは特殊作物研究部員の称号を持つ方でもお客としての利用も可能です。何らかの事情により手伝えなかった、行間で手伝っていて休憩時に訪れた等、理由は何でも構いません。 ●ガーデン喫茶 ガーデニング愛好会が管理する憩いの森を利用し、ガーデンパーティー風の喫茶店を開いたもの。 緑の中で小鳥の囀りを聞きながらお茶を楽しむことが出来ます。 憩いの森は中央に流れる小川を挟んで西に針葉樹、東は広葉樹中心に植えられており、木製の遊歩道とベンチやテーブルが各所に設置されています。 中央の中州にある席は予約必須の人気スポット(フレーバー的なものなのでプレイングに書いていただければ利用出来ます) 飾り付けなど、プレイングで提案頂けるなら追加されます。 ●メニュー(予定) パンプキンパイ パンプキンケーキ ハーブティー各種 その他、プレイングで提案頂ければ料理がメニューに追加されます。収穫したカボチャと薄荷(ハッカ)が大量にあるため、それを使用した料理など提案頂ければ喜ばれます。 食材や道具に関しては一般的な物なら自由に使用して貰って構いません。 また、酒類の提供は不可とします(提供時に飛んでしまう程度の量を調理時に使用するのは可) ●人物 リエル……ガーデニング愛好会長。意地を張りつつも告白は嬉しい様子。 クロード……特殊作物研究部長。今度こそ告白を決めて学園祭を二人で回りたい。 マルグリット……いい加減やきもきするのはこれ迄にして欲しい。 フィリップ……クロードの相談に乗りつつ、あまり指示を出すのも駄目かなと思っている。 ●その他 今回喫茶店のスタッフとして参加した方に限り、プレイングで希望する旨を記入して頂ければ『ガーデニング愛好会』もしくは『特殊作物研究部』への入部を受け付けます(称号として付与されます) (フレーバー的なものであり、今後のシナリオ参加を強制したり、特に利点があるものではありません) 聴講生である冒険者も入部は可能なので、興味がありましたら如何でしょうか?

マスターより

お世話になっております。コースケです。 【学祭】連動にお邪魔して、学園祭で喫茶店を運営したり、お茶会を楽しむイベントシナリオをリリースさせて頂きます。 オープニングはめんどくさい二人の事で占められていますが、特に触れない限りは表に出ないので、純粋に喫茶店を楽しみたい方などおられましたらぜひ参加して頂けたらと思います。 冒険者は聴講生としてパンクリアース学園に自由に出入りできるので、学園についてよく分からないという方でも、興味がありましたら気兼ねなく参加して頂けたら。 憩いの森ついては『学園に憩いの森を』『憩いの森の保全を』に、リエルやクロード達については前述のシナリオに加えて『お医者様でもシグモルの湯でも』に書いてありますが、読まなくても問題ありません。 何か分からない事がありましたら、その辺をぶらぶら歩いている何でも屋のオッターが回答します。 以上、よろしければご参加お待ちしております。

リプレイ

●学園祭に向けて
 学園祭を前に、ガーデニング愛好会(以下:庭愛会)と特殊作物研究部(以下:特作研)、そして呼びかけに集まった有志のメンバーによる、提供する料理の試作が行われていた。

「大量の薄荷(ハッカ)に南瓜……これは出来る限り消化しなければなるまいな。薄荷は薄荷油に、簡単なものでも涼拌薄荷(りょうばんはっか)に使えよう」
「リョウバンハッカ?」

 薬草に詳しいナタリア・フィッツジェラルドが発した聞き慣れない言葉に、マルグリット・シークが聞き返すと、ナタリアはボウルで薄荷に塩・油(オイル)・酢(ビネガー)を和えて実際に作って見せる。

「試食してみると良い」
「では失礼して……」

 口に入れると新鮮な薄荷の香りが広がる。塩・油・酢との相性も良く、これならいくらでも食べれそうだった。

「美味しい……。これは肉料理に合いそうですわね」
「それなら肉料理も用意した方がいいかもな。あと、限定メニューならパンプキンシチューを作ってポットパイとかもいいだろうし、食事になるようなキッシュなんかもいいと思う」
「そうだな。薄荷の消費にも繋がるなら、喫茶以外の食事メニューも考えても良いだろう」
「コーディアルにしてドレッシングにするのもアリか」

 甘さを抑えたパンプキンパイを試作していたカイン・ステラがアイデアを出し、ナタリアも同意を示す。
 マルグリットも「そうですわね……」とメモにメニューの追加を書き込んだ。


「‎南瓜といえば私的にはプリンとタルト。実は南瓜のお菓子は大好きなんです。南瓜プリンでしたら良いレシピを存じておりますわ」
「わーい♪ 一緒にお仕事! ネネのお菓子楽しみにしてる!」

 パンクリアース学園の生徒であり、同じ寮の部屋に住むネーヴェ・グラヌローザとエルシー・サリバンは、お揃いのエプロンをきゅっと締めて仲良く厨房に立っていた。

「美味しそう! 私も楽しみにさせて貰いますね?」

 庭愛会会長のリエル・サンウッドもネーヴェのレシピに期待を寄せ、二人の期待に応えるべくネーヴェは蒸した南瓜を裏漉しし、牛乳、生クリームと合わせて容器に入れ、水を張ったバットに乗せてオーブンで蒸し焼きにする。
 オーブンから出したら荒熱を取り、カラメルをかける。

「ネネ~試食して♪」

 完成した南瓜プリンを手にしたところ、エルシーが笑顔で口元に匙を突き出して来た。

「あら、まぁ……」

 ネーヴェはそれを恥ずかしげに頬張ると、柔らかな生地とクリームの甘みに混じった薄荷の爽やかな香りがスッと鼻に抜ける。

「薄荷クリームのロールケーキ、どうかな?」
「……ふふ、美味しい。ねぇエル、私のも試食お願い出来ますか?」

 笑い返しながら、ネーヴェも南瓜プリンをひと掬いし、エルシーの口に運んでやる。

「んふー! 美味しい!」

 笑みを交わし、他の品も試食し合う。二人の提案により、甘味(スイーツ)のバリエーションは大きく増えることとなった。


「ハーブティーはよく花鳥園でも扱っていますので、私はお茶の扱いをメインにやりましょうか」

 ガーデニング愛好会員であり、ベールコートで花鳥園も経営しているコルネリウス・アーラは、慣れた様子で各種ハーブティーの袋を確認していた。

「それは頼もしいね。そうだ。メニューにパンプキンクッキーを加えられないだろうか? 持ち帰り用も用意すれば宣伝になるし」
「パンプキンクッキーはなるほど名案だね。贈り物にも向く。例えばそう、気まずくなった誰かに謝るキッカケ作りとか」
「なるほど。テイクアウトが出来るよう、容器も用意しないとですね」

 こちらもガーデニング愛好会員であるジュスト・ヴェルジーの提案に、同じくガーデニング愛好会員のローザリカ・L・ディオールが賛同し、リエル(その誰か)もふむふむと頷いている。
 そしてローザリカがあえて口にした台詞を聞かせたかった相手(クロード)は気付いていない様だった。というより、ひたすら南瓜を割って種を取り、蒸し上げる作業に集中している。

(リエル嬢を意識しないようにしてるのかな)
(全く、素直になれば良いと思うんだがな)
(恋の行方はひっそり見守りましょう)
(相手にも気持ちがあるから……お互い1歩近付けると良いね)
(……)

「……?」

 目配せし合う協力者達に怪訝な顔をするリエルだったが、彼女もクロードの方を見ていない事をコルネリウスは察していた。


●学園祭が始まる
「見て見て、ナキルくん、文化祭は大盛況だねっ?」

 柔らかい桜色の髪を揺らし、エフィルミアが隣の少年に笑いかける。学園内には学園生の保護者や、他所からの見学者の姿も見える。相棒の大福を連れたサイラスなどの様に聴講生の姿も多い様だった。
 彼女はパンクリアース学園の現生徒会長であるため、学園祭が賑わっているのは嬉しいものだろう。

「ドワーフ王国の王様も来てるって話だしな。テーマは『各国文化の理解』だし、去年と比べるといろいろ変わったよなあ」

 エフィルミアの隣を歩くナキルは、これまでを思い出し感慨深げに呟く。
 冒険者の学園受け入れや学園長の交代など、多くの改革の結果、自分達はここに居るわけだが、それ以外にも多くの変化があり、最も大きな変化は隣のエフィルミアとの関係だろう。

「それで、何処に連れていってくれるの?」
「先輩のところで喫茶店やってるっていうから、席を予約してるんだ」
「なるほど。それじゃナキル君にエスコートされちゃおうかな?」

 悪戯っぽく笑うエフィルミア(恋人)に任せとけと胸を張り、ナキルはその手を取って歩き出した。


「ここがパンクリアース学園か……」
「めずらしいものばかりですね……」

 レピド・クロサイトとミゼリア・L(レーテラ)・ステュクスは、学園祭でお茶とお菓子を楽しめると聞き、ここを訪れていた。
 ホムンクルスとなる以前の記憶が薄い二人にとって、初めて訪れる学園は珍しいものだらけだった。

「あのかたも来れればよかったのですけど……」
「ああ。残念だ」

 直前で同行出来なくなった友人を思い、二人は屋台や展示が行われている学園を眺める。
 寡黙な者同士静かに見て回るのも悪くはないが、来る予定だった者が来れなくなるのは寂しいものだ。それに、賑やかな彼が居たらこの場を盛り上げてくれただろう。

(とはいえ、それで盛り上がらないと彼も気にするだろうしな……)

 レピドはそう考え、何か気分を変えるものが無いか辺りを見回したところ、甘く焼けたパイ生地の香りが鼻を擽る。見ると屋台でお茶とお菓子を提供しているようだった。

「あそこで何か食べようか」
「はい。良いにおいです……」

 盛夏を過ぎたとはいえまだ陽射しも強く、学園内を歩き回って喉も乾いていたので休憩するのに丁度良いだろう。そう考えレピドとミゼリアは屋台へ向かって行くのだった。


「おー! あそこに喫茶店があるねぇ~。少し休もぉ~♪」

 学園内を散策していた御邑(ミムラ) 都(ミヤコ)は、妹の御邑(ミムラ) 奈月(ナツキ)の様子を見て提案する。

「うん、あり……がと……お姉ちゃん……」
「ちょっと月ちゃんには人が多かったねぇ?」

 人混みに消耗している妹を気遣って入ったのは、森を利用した喫茶店だった。それなりの広さもあり、テーブルも離れているため、周囲の人に気を払ってしまい落ち着かない奈月もゆっくり出来るだろう。

「それに喉も渇いたしぃ~。お茶するには良い頃合いじゃないかなぁ~?」
「そ、だね……。人だけじゃ……なく、少し、陽射し、も辛いかも……」

 意見も一致し、姉妹は手を繋いで喫茶店へ歩き出した。


●木漏れ日の席で
「メニューのここからここまで。あ、飲み物は何かお勧めの貰える?」

 サイラスはメニューの甘味の項を中心に手当たり次第に頼むと、どっしりと椅子に座り、巨漢のサイラスが体重をかけても軋まない椅子が誰の手によるものか思いながら、料理を待つ。
 暫くして、サイラスの前には大量の料理が運ばれてくる。
 南瓜の甘味だけでもプリンにケーキ、パイとタルト、クッキーが並び、薄荷のロールケーキやゼリーはスッキリして甘いものの口直しにも良さそうだ。

(凝ったのが出てきたなー。味はどんなもんかね……うむ)

 まずは南瓜のプリンを口にする。しっかりとした南瓜の甘味を感じつつもなめらかな舌触りに頷いた。
 かかっているカラメルの香ばしさと甘苦さのバランスも良い。
 サイラスは薄荷茶で口直しをすると、南瓜のケーキと薄荷のゼリーを交互に口に運び、味の変化も楽しむ。

(邪魔されず一人で飯食うには丁度いいなー)

 学園祭の喧騒も何処か遠く、周りに他の客も居ないため、一人で料理に向き合うには最適の場所だろう。
 続いて運ばれてきた南瓜のシチューやポットパイ、キッシュも黙々と口に運び、そう時間を置かず間食していた。

「あ。これとこれ追加で貰える? あとお茶のお代わりも」

 食器を下げに来た給仕に気に入った品を追加で頼み、薄荷茶を飲むとサイラスはひと息付いた。

(今日は今のところ何もないけど、因縁とか付けられんようにせんとね)

 去年は改革や選挙で差別問題などが起きたとも聞く上に、ヒューマン至上主義国家であるリーンエス王国の学園で、リザードマンである自分が手放しで歓迎されるとはサイラスは考えない。

(また何か面倒が起こるだろうし、巻き込まれんよう用心しとこう)

 そんなことを考えながら、サイラスは追加の料理を待つのだった。


 中州のテーブルでは、ナキルとエフィルミアがお茶を楽しんでいた。
 陽射しはあるが、小川の上を吹き抜ける風が通るため心地よい。

「割と悪くねェ出来だと思うぜ?」
「ナキルくんの作ったクッキー美味しい! また腕を上げたね?」

 ナキルが調理実習で習ったという手作りクッキーを口にしし、エフィルミアが感嘆の声を上げる。
 さっくりとした食感の生地が口の中でほろりと崩れると共にバターが香り、続いて生地の甘さが口に広がる。

「学園に入ってからお勉強も料理も礼儀も……色々頑張ってて凄いなぁ」
「へへ、惚れ直したか?」
「……ばか」

 甘い空気を漂わせながらそっぽ向くエフィルミアだったが、すぐに向き直って水筒を差し出した。

「そんな頑張ってるナキルくんのために! 私は新作を用意したよ!」

 中身は知る人ぞ知るエフィルミアの薬草汁(とても不味い液体)だが、飲む機会の多いナキルは耐性(ペインキル)を獲得していた。それでも多少は覚悟を決めて薬草汁を口にする。

「……なんかまた味変わったか? ……薬草の種類が変わった?」

 伊達に何度も口にしていない。今日のエグ味はいつもの倍程だろうか。
 その言葉にエフィルミアは、ぱぁっと明るく笑うと、上機嫌で解説を始める。

「分かる? 旬の薬草を使ってるから、季節ごとに味の違いが出るんだよね!」
「季節物カ……」

 コレで季節の変わり目を感じるとはなぁ。等と遠い目をしつつ、彼女の喜ぶ顔につられつい笑ってしまう。

「生徒会選挙の前に気合入れて貰おうと思って、いつもの倍煮詰めて凝縮もしてみたの!」
「……ま、いいか」

 (味はともかく)エフィルミアなりの生徒会選挙に立候補したナキルへの激励なのだろう。
 その心遣いは純粋に嬉しいし、エフィルミアにとって「世界一カッコイイ男」であろうとするナキルとしては、生徒会選挙に対する意気込みが増すというものである。

「頑張ってよね、新副会長さん?」
「おう、見ててくれよな?」


 来客のピークも過ぎた頃、エルシーとネーヴェは空いた席でお茶会を開いていた。
 慌ただしく動いていた先程までと違い、緑に包まれた席で甘いものを食べ、リラックス効果のあるラベンダーティーでひと息付けば思わずほうと息が漏れる。
 けれども、意識に隙間が出来れば浮かび上がってくるものもある。作業に追われていた先程は意識せずに済んでいたが、目をそらすものがなくなれば、それを意識しないでいることは出来なかった。

「恋愛って、なかなか思うように行きませんわよね……」

 ぽつりと口にしたネーヴェの呟きに、エルシーは胸の奥がきゅうと握りしめられる思いだった。
 幸せな恋をしていたはずなのに思い悩む親友に、エルシーはその肩を抱きしめる。

「……そこは理想と、現実と……、何より、互いの気持ちを尊重して、折り合いがつけられたら……と」

 ネーヴェはエルシーの腕に手をあてると、ぽつり、ぽつりと言葉を続ける。エルシーは親友の吐露を邪魔しないよう、抱き締める腕にぎゅっと想いを込めた。


「今の気持ちは……昨日より幸せに成る為に必要だったんだよ」

 互いに少し落ち着いてから、エルシーはネーヴェへ言葉を贈る。それは新たな一歩を踏み出して欲しいという想いからのものだった。
 ネーヴェはエルシーに向かい、赤く腫らした目を細め微笑む。

「私も、気持ちを新たに、また一から頑張りたいですわ」
「ネネ……!」

 エルシーは今度は正面からネーヴェを抱き締める。彼女の寂しさを、半分引き受けることが出来るように。

「せめて頑張るネネと一緒に居させて……」
「……ありがとう、エル」


「おー、木陰は気持ちいいねぇ~?」
「うん、それに騒がしくない……から、落ち着ける、ね……」

 都と奈月は木陰の席に座りひと息ついていた。
 植えられた木々で他の席と仕切られている形になっているため、都の考えた通り奈月もホッとしている。何処からか小鳥の声も聞こえて来る。

「何にしようかなぁ~? お、このパンプキンシチューのポットパイ数量限定だって!」
「えと。私は……どれにしよう……かな……」

 奈月はジャスミンティーと迷っていたが、好みのカモミールティーを注文する。

「あ……えと……パンプキンケーキ……も一緒に……」
「月ちゃんがカモミールなら、僕は、このジャスミンにしよう~♪ あ! それからねぇ~……パンプキンパイもお願いしまぁーす」

 メニュー見て悩む奈月をのんびり見守りっていた都は、奈月の注文に続いて自分の分を注文するとニコニコして料理が来るのを待つ。

「えへへぇ~♪ 美味しそうだから、楽しみだよねぇー。月ちゃん」
「うん、楽しみだね……お姉ちゃん」

 程なくして注文が届く。奈月が心配していた様な時間差も無く、お茶もぬるくなっていないところを見ると同時に提供出来るよう配慮してくれたようだ。
 笑顔で顔を見合わせると、二人は一緒に料理に手を伸ばす。

「いただき……ます……」

 奈月のパンプキンケーキはしっとりとした生地にカボチャの甘みが優しい味わいだった。

「こっちのパイは甘さ控えめだねぇ~。でも、スパイスとハーブの香りがして美味しいよ~? はい、あ~ん?」
「ここ……で……?」

 そう言って都はフォークに刺したパイを奈月の口元に差し出してくる。恥ずかしくて断ろうとした奈月だったが、ここは人目が遮られた憩いの森の中である事を思い出し、ぱくり、と口にする。

「美味しい……」
「でしょ~? んー、こっちも美味しいねぇ~」

 都も奈月からケーキを食べさせて貰って満足げに笑う。
 そんな二人の声に誘われてか、小鳥が二羽降りてくる。人に慣れているのか、逃げる様子もなくテーブルの周りを跳ね回り、餌を探して落ち葉をつついたりしている。

『チチッ』
「おー…。可愛い鳥さんが……♪」
「餌付け……とか……されてる……のかな……?」

 二人はハーブティーも飲みながら、小鳥たちとお茶会を楽しむのだった。


「凄い庭だな……」
「大きいですね……」

 レピドとミゼリアは案内された席から憩いの森を眺めていた。
 名前から小さな庭を想像していたのだが、中心を小川が流れていたりと想像よりずっと大きい。

「これが貴族の学園なんだな」
「すごいですね。でも、良いところです……」

 二人の席は針葉樹に囲まれており、深呼吸すると心を落ち着かせる作用がある香りが胸に広がる。
 また、この森はフィルエス大森林の一部を参考に造られているため、ホムンクルスとなる前のミゼリアの記憶、特に嗅覚に紐付く記憶を刺激していたのかも知れない。
 そうしている内に、注文が運ばれて来る。レピドは甘さ控えめのパンプキンパイとクッキーに薄荷茶(ミントティー)、ミゼリアはどちらにしようか迷った結果、甘いパンプキンパイとケーキを両方頼み、飲み物はお勧めされたバタフライピーにしていた。

「頂こうか……、美味いな」
「はい。甘くて、やさしい味です……」

 加工してもこれだけ味が濃いのは、良い南瓜を使っているからだろう。加えてそれを調理する者の腕も良いようだ。
 二人は無表情だったが、どことなく満足した様子で料理を楽しむ。

「そう言えば、レモンをしぼると良いとききました……」

 勧めてくれた店員の声を思い出し、ミゼリアがレモンの果汁をバタフライピーのグラスに垂らすと、青かったお茶が赤みがかった紫へ変色する。

「凄いな……」
「ふしぎです……」

 味も酸味が加わり、また違ったものとして楽しむことも出来そうだ。

「良ければこっちのも食うか?」

 無表情だが幸せそうなミゼリアへ、レピドはクッキーの皿を差し出してやる。

「良いんですか……?」

 最初は気兼ねするも、頷くレピドへ礼を言ってミゼリアはバターの香りがする南瓜のクッキーへ手を伸ばす。

「美味しい、です……。あ、マトンさん……!」
「間に合ったのか。何よりだな」

 ミゼリアは一口噛った所で遠くの友人に気付き、喜色の混じった声を上げる。
 レピドが振り替えると、ハリネズミのハーフビーストを素体にしたホムンクルスが、手を振りながら歩いて来るのが見えた。


●接客とその裏側
「お待ちしておりました、お嬢様」

 ローザリカはメイド服姿で接客を担当していた。
 今日の彼女は普段の口調と態度を抑え、静かな憩いの森の雰囲気に合わせ嫋(たお)やかな所作での接客に徹する。
 それがガーデン喫茶という商品の価値を高めると考えての行動であり、ローザリカが多くの商会を抱えるディオール伯爵家の令嬢であることを考えれば、当然の行動とも言えるだろう。

「それでは、どのような席を用意致しましょう?」

 対するジュストも執事服を身に付け、物腰柔らかく立場や種族に関わらず丁寧な接客を行っていた。
 兄の代わりに出席した社交の場で身に付けた技術(スキル)を活かしつつ、時折現れる厄介な客のあしらいも担当する。
 この二人が表に出ているお陰で喫茶店は繁盛し、大きな問題もなく運営を続けていくことが出来ていた。

 些細な問題として、ローザリカとジュストがお互いに異性が近付くのを牽制する動きをする事があったが、どちらも周りの客に悟られる様なボロは出していない。


「事情を知っていると露骨なのだが、他の客の迷惑にはなっていないなら問題はあるまい」

 仕事に余裕が出来たため、客として席に座っていたナタリアが薄荷茶でひと息付きながらそれを眺めている。
 その視線の先では、ローザリカに食器の片付けを押し付けられたジュストが、なぜ彼女が割り込んで来たのかが分からず首を捻っていた。

「私たちもああいう風に見えていたんでしょうか……」

 ナタリアの横ではリエルが頬を押さえている。

「うむ。当人同士では冷静に見れないことでも、こうして客観的に他人の行動を見れば分かることもあろう」
「うう……」
「そう落ち込むな。学生の内にしか出来ないこともある。特に貴族は学園(ここ)を卒業すれば制限も増えよう。今の内に出来ることをやっておくのだな」

 机に突っ伏すリエルに、ナタリアはそう声をかけて席を立った。


 厨房代わりの屋台では、カインとコルネリウスが中心となって働いていた。
 ケーキなどは前日に作っているので提供は早いのだが、涼拌薄荷やポットパイ等は提供する直前に作る必要があるため、それらのメニューが多ければそれだけ忙しくなる。

「上がったぜ。熱いから気を付けて持っていってくれ」

 カインは窯から出したポットパイをジュストに渡し、下げてきた食器を受けとる。孤児院で他の子供の面倒を見ていたというだけあって、大量の料理の調理や食器を洗う様子は手慣れたものだ。


「それでしたら、リラックス効果のあるカモミールなど如何でしょう? ラベンダーもリラックスや安眠を誘う効果がありますよ」
「そうなんですか? じゃあ、カモミールにしようかな」

 コルネリウスはお茶の担当として相談も受け付けていた。客の希望や好みを聞き、時には悩みに合わせて効能を説明したり、相手に合わせハーブティーをブレンドし提供する。
 客を観察し、疲れている相手にはリラックス出来るものを勧めるなどした結果、喫茶だけでなく茶葉を買って行く客も多く、そのお供にクッキーや薄荷飴なども人気だった。

「すみません、今日は友達も連れてきたんですけど、またお勧めを聞いて良いですか?」

 学園祭の初日にローズヒップティーを勧められ、甘味にも目を輝かせていた生徒がリピーターとして来店したのを見て、コルネリウスは「もちろんです」と笑顔で応え、カインも嬉しげに頷いた。


「よっ、そっちの進捗はどうだい?」
「はい。実はこの前告白したんですけど……」

 友人のカインお勧めの甘さ控えめパンプキンパイとミント茶のセットを食べながら、海神(ウミガミ)・江流(エル)はクロードの報告を聞いていた。

「成る程。前に進んでるみたいだね。ちなみに俺の方は死刑宣告まで受けたところかな」
「ええっ!?」

 自分の報告を吹っ飛ばす爆弾発言にクロードは愕然とする。
 江流が“紫の君”と呼ばれる侯爵令嬢と親交があり、それに見合う男になろうとしていたのは互いの状況を伝え合っていたため知っていたが、そういう方向に話が進んでいたとはクロードにとって予想外だった。

「全力は尽くしたつもりだけれど、起死回生よりは自分の首が飛ぶ確率の方が高そうだ。元々味方の少ない身だからね。事情をいくらか知ってくれてる君にそっちはうまくやりなよ。って伝えたくてね」
「そんな……」

 それ以上言葉が出ないクロードに江流は泰然と笑い、溢れたパイの欠片を払うと席を立つ。

「貴族の価値観だと、こういう話はやり直しは効かないんだろうから、後悔のないように。学園祭、二人で回れるといいね」

 最後にそう告げると、江流はクロードに手を振って憩いの森を後にした。

「海上さん……」

 その背を見つめ、クロードはぎゅっと拳を握りしめた。


●返事とその先
「私もずっと好きでした。これからよろしくね?」

 夕陽の憩いの森で、クロードとリエルが向かい合っていた。
 今度こそ上手くいったと、長年二人を見守って来たフィリップとマルグリットをはじめ幾人かの見物人(ギャラリー)が、それぞれ物陰で感慨に浸ったりもしている。

「それでこれからの事なんだが……」
「学園祭? 明日一緒に回る?」
「レイル男爵家(ウチ)に嫁入りし(き)て欲しい」
「「「……え? えええー??」」」

 突然の求婚(プロポーズ)に、リエルだけでなく、外野も隠れていることを忘れて声を上げる。

「ち、ちょっと待ってよ。流石に急すぎだし、それに家の事とかも……」
「嫌か? そうじゃなかったら結婚して欲しい。そして今ここで返事して欲しい。時間が無いんだ」

 動揺するリエルだったが、強引に返事を迫るクロードに押され、顔を赤くしてこくりと頷く。

「おいおい。急に男らしくなっちゃってどうしたんだよ? ともあれおめでとう!」
「こんな急にリエルの婚約が決まるなんて、寂しいですけど祝福しないといけませんわね」
「マルグリット? み、みんな見てたの!?」

 祝福しようと友人たちが駆け寄り、リエルがあわあわと動揺するがクロードは全く動じずリエルの手を掴む。

「悪いが後にしてくれ! 時間が無いんだ!!」

 そう叫び、クロードはリエルの手を引いて取り走り出した。


「江流さーーん!!」

 学園を出ようとした所を呼び止められ、江流が振り替えると、息を切らしたクロードがリエルの手を引いて走って来る。

「どうしたんだい? その様子だと上手くいった? ……のかな?」

 怪訝に思いながら足を止め、目の前で息を整える二人に問う。

「ハア、ハア……、はい。俺……達、婚約、しました」
「おお、やったじゃないか。おめでとう」
「だから、江流さんもまだ行けます! 諦めないで下さい!!」

 思わぬ展開に、江流の目が大きく開く。

「こんな激励受けるとはなあ……」

 その口には困ったような、けれども嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

マスターコメント

お待たせしました。 調理や接客、喫茶店への来客など、楽しんでいる様子が伝わるよう書かせて頂きました。 実際にこんな喫茶店があったら行ってみたいですね。執筆捗らないかな……。 パンクリアース学園は婚約者が居ない生徒が自分で相手を探す場でもあり、過去に起きたロマンスの話もあるようですが、今回のプロポーズもそういったもののひとつに数えられるかな……?(リエルが怒って解消しなければ) ただ、実際に婚約が成立するかは実家に報告等様々な手順を得なければいけないため現状は確定ではありません。結果はいずれ別のシナリオで……。 リプレイ、楽しんでいただければ幸いです。 ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:少ない16 / 4〜25人

2022年09月30日 11時57分49秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ナキル

    っと、忘れてた。 ナキルだ、よろしくなー こっちだとミアと一緒にのんびりしてるかな?

  2. カイン・ステラ

    カイン・ステラ、よろしく。 なんか作ってる。

  3. エフィルミア

    エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 ナキルくんとのいちゃいちゃを見せつけて リエルさんとクロードさんに「早くああなりたーい!」って思わせちゃおうと思います!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0