【学祭】政治討論部と来年度に向けて

紀藤トキ

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シナリオID:2477

オープニング

 政治討論部の設立経緯を考えれば、生徒会選挙に際する公約の相談、意見表明などを今年も行う事になろう。現在すでに手を挙げている者も、これから手を挙げる者も、いまだ立候補を検討している者もいる筈だ。そして候補者の意見を聞きたいという一般生徒もいよう。昨年から派閥色は薄れつつあるが、それでも異なる派閥の者が意見を言い合う場所というのはそれほど多くはない。

「とすると、久しぶりにティーサロンを開催する事になりますね」
「お茶菓子の用意はする」
「では、私は放課後の教室利用の申請に行ってきます」

 タイコモとカナンが手配に動き、シオンは場所の確保に向かっている。随分手慣れた腹心たちの様子に、トマス・ダンテは重なった歳月を思った。学園に入学して、最後の二年弱のことだが随分と濃い時間だったと思う。

「……顧問や部員の協力もあり、後援の貴族家も複数ある。という事はこの部活は継続するのだろうな」
「そうでしょうねえ。卒業する自分達を除いて、部員が足りなくならなければ、ですが」
「とすると、次期部長を決めねばならないのでは?」

 トマスはそれも今回の議題に入れておこうと思う。別に今回で決める必要はないのだが、希望者がいるかいないかを聞いておく必要はあるだろう。生徒会選挙と文化祭、体育祭を終えれば冬も近い。うかうかしていては、すぐに卒業の時期になってしまう。

「そういえば、あの二人は卒業できそうなのか?」
「……させてみせますよ」

 気になって聞いてみれば、タイコモが遠い目をした。シオンとカナンの脳筋コンビは興味のある科目は問題ないのだが、礼法や舞踊あたりが壊滅的だった。戦史に興味があるおかげで、紋章学あたりはなんとか及第点らしい。

「まあ、最悪でも一年位は大目に見てやろう。この二年は、部活の関係でも色々苦労を掛けたからな」
「トマス様がそうやって甘やかすから良くないんですよ……」

 そういうトマスは卒業後も学園に残る事になっている。トマスの父はまだ若く、あと十年は椅子を空ける気は無い。仕事を手伝いつつ仕事のやり方を学ぶのが正道ではあるが、今は時代の激変期だ。ダンテ家として、嫡男は王家のパンクリアース学園の改革に協力すべく、教員として活動するべしという事になったらしい。担当科目は王国の法と歴史であり、副顧問のテオドールと半分くらい分野が被るので、付き合いは続きそうだ。なお、シオンとカナンは引き続き護衛、タイコモは助手兼秘書兼事務職員的な立ち位置で学園に勤めることになる。彼らにとっては単なる巻き添えであった。

「せめて、簡単な数字の処理位はできるようになって貰わないと、体が持ちませんね……」

 肩書を見るだけで過労死しそうなタイコモは、それもあってシオンとカナンの教育に熱が入っているらしい。

「父は、祖父や領地の事を片付けるまで戻って来るなと言っていたが」
「……本音は嫁を見つけてくるまで帰って来るな、じゃないですかね」
「そうなのか? まだ結婚を焦るような年でもあるまいに」
「結婚はともかく、卒業を控えて婚約者もいない次期当主なんてなかなかいませんよ」

 まあ、どうしようもなくなれば法衣貴族の中で適当に見合いなどするだろう、とトマス。代々、司法分野の官僚として王家に仕えて来たダンテ家は、職務に縁故による忖度を入れないという意味で徹底している。結婚も政略である王国貴族において、婚家に便宜を図らないと家訓で述べているダンテ家はあまり良い条件ではないのだ。まあ、それでも当人にやる気があれば出会いの一つや二つはある筈だが、ある筈で六年が無為に過ぎた。

「……まあ、良い。あと何年学園に残る事になるかは分からんが、残る間は私も顧問を務めるつもりだ。もうしばらく、この部活とは付き合う事になりそうだな」

解説

今回の政治討論部のお題は、生徒会選挙と次期部長です。 ですが普通にお茶して駄弁るだけの会なので、質疑応答も可能です。 王国とか帝国とか同盟とかややこしい辺りの、今更聞けない疑問を聞く機会にもどうぞ。 ●学園生徒会選挙 1)所信の表明。立候補者が自分の意見を述べたり質問に応じたりします。 2)意見の言及。立候補はしないけれど意見がある場合など。 3)疑問の提起。生徒会選挙そのものや公約などについての質問を行えます。 質問は、回答しそうなPCがいればそちらに。いない場合はNPCが返答します。 ●次期部長立候補 やりたい人がいれば……。 希望者が複数いた場合に関しては、今回で決定せず次回に持ち越します。 最終的にはトマスが決めますが、何をしたいのかとか語るのも良いですね。 部長にならなくても、この部活でどのような事をしたいか表明しておくと将来拾うかもしれません。 ●その他質疑 世界情勢についてなど、疑問点を聞くと分かる人が回答します。 難しい話は、歴史が専門の副顧問かトマス辺りが応じると思います。 ●ダンテ家とリヴァマス家の領地問題 そのうち続編はリリースしますが、先に聞きたい事とか言いたい事とかあれば。 跡継ぎのない伯爵家とか、領地無くても王国的にはボーナスステージすぎますね。 リヴァマス爺ちゃんは魔法使いの塔に引っ込んでますが、学園宛に取り次ぎ依頼が殺到してそう。 ●トマス・ダンテ周辺NPC タイコモ・チー 酷い名前だがトマスの懐刀で同学年同い年。子爵子息。ヒーラー。学業実技とも良い。 シオン、カナン トマスの子飼いで同学年同い年。孤児院出。ウォーリア、シーフ。実技優秀。シオンは討論部副部長。 サラ・ドルトン(15) 男爵令嬢。己を磨く系意識高め女子。テオドールと婚約中 テオドール・ディンドルフ(テオ)(28) 討論部副顧問。筋金入りのハフビ大好きなくせに貴族の子。五男。学園派にも公平に当たる。サラと婚約中

マスターより

トマス君は学園系のシナリオに絡むために作ったキャラなので、教員になって貰います。 マスターの都合で人生計画を振り回されるのはNPCの定め……。 ダンテ研究室は、多分過去の判例とか歴史とか調べる事になると思いますが、あまり深く考えてません。 卒業を控えた皆様は来年の抱負とかを語ったりするのも良いかもですね。 いや、別に卒業控えてなくても語ってもいいんですけれど。 皆様ののんびりまったりなプレイングをお待ちしております。 ※注意書き 政治討論部の入部希望者はプレイングでその旨をお書き下されば、称号を付与いたします。 入部は聴講生でも、初参加の方でも大丈夫です。 ●政治討論部って何するとこ? 名前は政治討論ですが政治に限らず、いろいろ質問したり回答したり意見を募ったりできるような場所です。 今回もそんな感じですが、基本的に部室で喋ってるだけみたいなシナリオが多いです。 関連NPCにトマス(部長)やリヴァマス(顧問)が良くついてきます。 もっと詳しくという方は少し前のシナリオ「政治討論部の新年へ向けて」に質疑がありますので宜しければご確認くださいませ。

リプレイ

●
 のんびりお茶会でも、などと部長は気楽な事を言っていたが、今日の政治討論部の話題は間近に迫った生徒会選挙一色である。

「去年は立候補者が少なかったのに、今年は既にこんなに立候補がいて嬉しい……!」

 昨年は大本命と見られたアルベイルを退け、現生徒会長となったエフィルミアは今回はのんびりしているようだ。自分が出た時に比べても賑やかな様子から、学園の変化を感じられると喜んでいる。確かに、昨年以前であれば非貴族、非ヒューマンの立候補など考えられもしなかった。

「今日のティーサロン参加者には現役生徒会役員の方も今年の候補者の方もたくさんいらっしゃるでございますね」

 ハリーヌ・ヨツユビが背伸びして見回せば、生徒会長候補の三名こそ不在だが、多くの立候補者が部室に足を運んでいた。

「そう言えば、トマス君に少し相談があったんだけど……」
「ワタクシもトマス様に、お伺いしたい事がございまして。ああ、でもエフィルミア様のお話の後で結構でございます」

 と、遠慮するハリーヌだがトマスの側が引き留める。

「エフィルミア嬢とナキルは恋仲と聞いた。立ち合いが無く語らうのは望ましくなかろう」

 まあ、実際にナキルが聞いたなら『俺はミアも先輩も信用してるから、気にしないぜ』と言いそうではある。が、そう言う意味の心配はせずとも、相談されなかった事はひっそり気に病むかもしれない。

「……生徒会の話、なんですけど。んー、どうしようかな」
「生徒会の話! 聞かせて頂けるのであれば、お伺いしたい所でございます。ワタクシ、口と針は堅いハリネズミでございますよ」

 というのもこのハリーヌ、生徒会選挙に出ようか迷っているのだ。今年の当事者の意見もだが、現在の役員の生の意見も聞いておきたいと、熱意に溢れている。そうと聞いたエフィルミアが、その意気や良しと許容の方向へ傾いた。最近おとなしいがこのエルフ、速き事に価値を見出すタイプである。ハフビで最初の立候補希望と聞けば、経験談を聞かせる位は吝かでもない。

「元々生徒会長をやるのは1年だけって決めてたんです。変革の為には、1人が続けない方が良いと思いますし」

 自分なりに一生懸命励んだが、至らない所もあったと思う。他の役員の支えがあって何とか乗り切れたとエフィルミアは語り、ハリーヌはふんふんと鼻を動かして聞いている。

「……だから、今度は私も生徒会長を支えられるような立場になれたらなって思ってます」
「なるほど。確かに人の上に立つのは激務だ。だが、そう心配する事はあるまい」

 彼女は報告ではなく相談と言った。であるならば、自分の決断に何か不安があったのだろう。会長職を引けば、去年に自分を選んだ皆の想いを繋げなくならないかと言う心配であるなら、杞憂とトマスは考える。今年も多くの意見を持つ者が立った。その中には彼女の意を継ぐもいるかもしれない。

「ワタクシのような者が役員に立候補しますと、やはり貴族の皆様はご不快に感じられるでございましょうか」
「不愉快に思う貴族がいる、というのは否めまいな。しかし、禁じる法はない」

 気がかりを口にしたハリーヌへ、トマスは頷く。立候補しても当選は難しいかもしれないが、ハリーヌ自身もそれは理解していた。

「ワタクシは将来成功するために、ただ学園に紛れ込んだハーフビーストで終われないのでございます。少しでも実績を残したい、当選しないまでもワタクシという存在を皆様に認知していただきたいのでございます」
「ふむ。立候補はどの席なのか?」
「縁の下の力持ち……庶務か会計の立候補を考えているでございます」

 であるならば、勝ってもさしたる問題はないとトマスは言う。もともと今期はエルフの会長に貴族子女の副会長が付いた。現在の立候補者がそのまま増えないのであれば、今期は誰が勝ってもヒューマンで貴族子女の会長になるだろう。下のポストに異種族が就くことが問題視される事はあるまい。エフィルミアらの切り開いた道に感謝しつつ、利用すればよいとトマスは言う。

「無論、個人レベルでの嫌がらせ程度はありうるがな」
「それは生徒会役員に成っても成らなくても避けえないものでございましょう」

 世代の違う顧問らにも話を聞いてくるとハリーヌは言い、ちょこちょこと立ち去った。

●
「そういえば、学園の大図書館。あそこは生徒が無料で閲覧できるけれど、卒業生や一般人には開かれているのかい?」
「学園への入場を許可された者であれば、閲覧は出来る。紹介者は在校生であっても問題は無いはずだ」
「その紹介が要るという点が卒業生の足を遠くしてはいないだろうか。卒業生向けのラウンジや、オープンキャンパス等があっても良いと思うのだけど」

 続いてトマスを捕まえたシルヴィア・A・カペルはそう言うのだが、彼にはその言葉がピンとこなかったようだ。しかし、パンクリアース学園にそう言った卒業生向けの施設や行事が必要かと言われれば首を傾げる。

「現在の卒業生は皆、貴族社会の住人だ。卒業後の交流の為には社交界があるのに、わざわざ学園を使う理由は無いだろう。それに、危険な発想でもある」
「危険、とは一体どういうことだろう」
「社交を戦場としている貴族にして見れば、カペルの令嬢が自分の縄張りを邪魔しに来た、と取るだろう」

 シルヴィアの意見をそのまま採用すれば、学生ではない大人向けの新しい社交の場を作るという事になる。誰を招待するしない、席次はどうするなどの細かな差配で格付けや上下関係を決め、それを力の源泉としている人々からは敵対行為と見なされる可能性が高い。カペルは方面を限れば有力な侯爵家ではあるが、そのような横紙破りをすれば手痛いしっぺ返しを受けるだろう。

「もう一つの、オープンキャンパスと言う発想は、市民向けに学園を紹介するという意味では考慮の余地はあるだろうが、卒業生向けにわざわざ限って行う必要性は私には判らないな」

 現代の地球にはホームカミングデーが存在するが、パンクリアース学園は入学者を他所の学校と取り合っている訳ではない。卒業生の愛校心を刺激してその子を入学させるという発想自体が無かった。大概の貴族にとっての学園への寄付は政治の一環であり、そこにも愛校心はさして影響はない。

「改革によって何かが変わる可能性はある。が、最初の市民卒業生は順当に行っても六年も先だ。今は彼らがどのような進路を選ぶのかもわからない。想像するしかできない未来の話だ」
「やはり、そうなるかな……」

 シルヴィアの脳裏に描いた像は、現在のパンクリアース学園やリーンエス王国から離れすぎた物だとトマスは答える。生徒会役員でいる間に提案の権利を行使しようとも考えたシルヴィアだったが、提案されても学園にとって必要でないと判断されれば通りはしない。彼女自身、政治的には荒唐無稽な事を言っていると自分で判断がつくからこそ、まずはトマス個人の意見を聞いたのだろう。

●
「私はまだ出来ることもあると思うので、続投で立候補する事に決めました。今年こそは学内誌を発行したいのです」
「そうか。今年も君に票を投じるかはまだ分からないが、健闘を祈っている」

 昨年、貴族でありながら彼女に票を投じたらしいトマスへ、コルネリウス・アーラが律儀に挨拶を述べる。トマスの側はトマスの側で、別に言わなくても良い事までわざわざ口にしていた。

「次期部長には立候補しませんけれど。この部活のような垣根の低い環境で、互いの理解が深められる場が増えると良いと思っています」

 とコルネリウスが言い、政治討論部の部長についてはそういえば希望が無かったな、とトマスは考え込む。

「成り立ちからすれば、中立の人が望ましいのだろうけれど。他に希望者がいなければ立候補しようと思う」
「派閥の事を持ち込まなければ、誰がなろうと問題は無いのだが……、ふむ」
(そっか……この部も代替わりを考えないといけない時期になったのね)

 ジュスト・ヴェルジーがそう手を挙げ、返すトマスの言葉を耳にしてルベア・ベルニは時の流れを実感した。彼女自身は、部長へも生徒会へも自分が手を挙げるつもりはないようだ。

(他薦されても私には無理って言うかな……)

 選ばれる側に立つつもりはないが、選ぶ側としては個々の候補を慎重に見定めるつもりだ。

「君は確か、生徒会へも立候補していた筈だ。政治討論部の部長は急ぐものでもないので、そちらの結果が出てから考え直しても一向に構わない」

 まだ来年の3月までは自分も学生だから、とトマスは言う。

(トマス様は同じ学年かと思っていましたけど、――今年、卒業?)

 内心でゲルダ・クラインは首を傾げていたが、そう言う事もあるかもしれないと呑み込んでいた。遅い方(留年組)は目立ってしまうが、早く卒業していく者はしばしばいる。

「兄に代わり、継嗣となった以上は家の意向を無視する事は出来なくてね……」
「王党派であれば、王の意向に沿う事で発言力を増そうというのは正道だ。胸を張って立つと良い」

 ジュストとしては、貴族である自分が生徒会にいる事で出来る事の幅は広がるという点も、考慮にあるらしい。もっとも、生徒会長の有力候補は大貴族の係累ゆえ、どちらかになるのなら文句をつける貴族子弟はあまりいなかろう。新たな候補者が票を攫う可能性はまだあるし、票の行方次第ではウィリアム像が立つ可能性も皆無ではないのだが。

「話は変わるのだけど、王国北部は現在国内からの支援ではなく主に都市同盟からの輸入でもっているような状況なのかい?」
「いや。帝国側の飢饉と王国の飢饉はどちらも深刻ではあるが、程度が異なるな」

 そこに住まう人々が普通に生きていけないレベルに酷いのが帝国の飢饉。王国北部は、場所により差はあるにせよ、まだ自分達が食べていく分位は取れている。しかし、余剰はなくなっており、穀類加工や交易で成り立っていた地域産業に打撃を受けていた。

●
 本日この場にいる立候補者は五名。それぞれの立場でそれぞれの想いを語るべく、教卓の前につく。王党派から副会長に立候補したジュストと、無派閥からのナキルがまず所信を述べた。

「公約の学生議会は貴族としては危うい提案だという自覚はあるんだけど……。改革が真に学びたい者達の為であるなら、学園、ひいては王国が変わっていく為には、やってみる必要があると思ってね」
「ふむ。議会と言う意思決定制度は、王国では馴染みが無いがね。同盟の歴史を学べばその長所と課題が判るかもしれないよ」

 王国の歴史が専門の副顧問、テオドールが述べた様に、そもそも議会とは何かから考える必要があるだろう。議員の立場はどうやって選べば良いのかから難題だ。同盟であれば都市の長……、それを学園に当てはめればクラスや学年、部活動といった集団の長を選出するべきなのだろうか。

「まだそこは考え中かな。この部活も含め、王国だけでなく他国や地域の政治や歴史を学ぶ機会を増やしたい。議会とはどういったものかを知り、その利点と欠点も考えて学園へ提起していくつもりだよ」

 なかなかどうして、やる気のある役員たちは一朝一夕で成らぬ公約を掲げるものだ。以前までの談合で決まっていた生徒会と異なり、公約の中には実現できないものとてあるだろう。それも学生たちが示した一つの意志として、学園の歴史に刻まれていくはずだ。いつかの未来に、先輩たちのそうした事績を学ぶ者が出て来ても面白いかもしれないとトマスは思う。

「学園で共に学んで研鑽できれば良いと思う。この大陸で最高の環境と呼べる場所にしたい」

 一方、ナキルの公約は何かを行うというよりは、あくまでも信念の表明である。目指す『最高の環境』というのも、具体像は無い。つい最近まで読み書きもおぼつかなかった彼は、学んだ事で生き方が変わった。自分が幸運にも得られた世界の広がりを、さらに多くの人たちが得られるように機会を広げたいと彼は願う。今は無学でも、学ぶことを望む人々への助けとなりたい。言いたい事は、そう言う事なのかもしれない。

「……なるほど。学園は優秀な一般人へ門戸を開くことを決めたが、逆に言えば優秀でないがやる気のある者は見ていないからな」

 授恵者であるがゆえに無理と無茶を踏み越えたナキルのような高速学習は、一般人には無理だろう。が、1年、2年と時間を掛ければ同じくらいの向上を見込める子供だっているかもしれない。それを拾い上げるのは、今の学園には手に余る事だろうが。

「その為に何をするかは、皆で考えようぜ。頭が良いヤツがせっかく多いんだしな」

 ナキルはてらいなく他者の助けをあてにしていると口にした。もちろん、ジュストの公約とて彼一人で完結するものでもあるまい。二人とも、むしろ当選してからが忙しくなるだろう。

「私は、前期に公約した学内誌を今期こそ形にしたいのです」

 無派閥、書記として立候補したコルネリウスの公約も、考えれば越えるべきハードルは多い。書写が殆どのリーンエス王国においては、何冊作るかと言う物がコストと時間にそのままのしかかる。予算を考えれば、全ての学生に無料配布といえばチラシのようなものになるだろう。置く場所を限った場合には、その搾り加減によってできる物の規模感が変わる。内容についてもどのようなものを望むのかで実現できる形は変わってくるだろう。『春の学園スポット』のような時事を中心に作る場合、手元に届くのは秋と言うようなケースもありうる。通年で有効な学園紹介のような物であればその問題は無くなるが、彼女の望む学内誌からは離れてしまうだろう。

「決めるべき事はまだ多いが、予算と形を決めてしまいすれば後はそれに合わせて作るだけ、とも言えるか」
「いえ。それからが本番だと思っています」

 どちらがより大変かは定かならないが、確かに書物は中身も大事だ。幸い、学内には文芸を旨とする部活もあるようだし、協力を得られれば良いかもしれない。

「あ、次は私ですか。フィルエスから出て少し経ちますが、こんなに短い間に自分の価値観が変わるということに驚いています」

 貴族派から出た、と言っても貴族派に共感しているという意味だろう。会計に手を挙げたリディリディ・トゥラ・イェレミースはナキル同様、何かを為すという公約ではなく、どのような学園にしたいという信念が先に立つ。

「というのは、以前は自分だけがお肉を食べていればそれで幸せだったのですが、今でも幸せですが、 幾人もでお肉を食べるとなんともっと美味しいのです」

 語りが上手とは言えないが、真面目そうな様子に茶々を入れるような者はこの場におらず、むしろ生の感想を聞く事で彼女の人となりを解釈しているようだ。

「まあ、ひゃっぽ譲……、譲りたくありませんが、仮に譲ったとしてお肉でなくとも構いません。 皆で食べるというのは美味しいものです。ですから、皆が皆、美味しいお肉が食べられるような予算を組みたいと思います」

 言い切った、といい笑顔のリディリディだが、彼女の意図の翻訳と、実現の為の交渉などはきっと回りの手が必要だろう。

「毎日学食で肉のメニューを大盛りにするのか、季節ごとに肉食べ放題パーティをするのか、でもだいぶ違ってくると思うが」
「あ、後ろ側です。その、皆で一緒に、美味しいお肉を食べれるのが良い、と思うので……」

 なるほど、とトマスは考える。そう言うイベントを実行するのが目的ならば、どういう段取りを踏めばよいのか予想できる。今年の会計の方針を踏襲しても良い。

(食べる事に限りませんけれど、それは少し照れますからやめておきましょう)

 しかし、リディリディが望んでいるのは、口にしている内容よりもう少し広い幅のようだ。トマスにはそこまでは分からなかったが、それを察してくれる友人もいることだろう。

「僕は、成果発表の場など部活動主体のイベントを提案できるようにしたい。学園側にはその為の予算を打診するつもりだよ」

 同じく会計、無派閥から出たローザリカ・L・ディオールは公約が具体的な側だった。

「まあ、今もできなくはないから、活発化が正しいのかな。部活動からイベントを起こす過程では、学園との折衝も必要であるし、イベントその物の成否も、個人としての活動も外から成果が見て分かりやすい。貴族の紐付きで無い学生たちの中から、才能とやる気のある者を見出す為にも有効だと思うのだがどうだろうか」

 用意するのは予算枠だけで、実際にイベントを実施する部活動側が予算を勝ち取る事から実行するところまでを担当する、と言うのはやる気のある部活や生徒に対しては朗報となろう。拾い上げられるべき価値のある者には手を伸べる、というのはディオールがそういう家であるから、と言う所もあるのかもしれない。

「その制度が実施されたとして、学生側の空気感が判らないが、理想としてはかなりわかりやすいな」

 大枠については、シンプルであるがゆえにわかりやすい。ただ、貴族と言う支配者側と平民と言う被支配者側が併存する場である事を考えるなら、入学前から就職先が決まっている頑張る必要のない学生と、貴族の後ろ盾もなく就職の当てもない学生の、イベントに対する意識の差を埋める方策はいるかもしれない。また、やりたい事はあるが貴族に目を付けられたくはない学生などのイレギュラーをどう保護するか、といったこまごまとしたケアを考える必要はありそうだ。

●
 彼らの個々の公約や所信に対して、意見がある者はいない。と言うより初めて聞く事もあるので、部員の多くは聞いて解釈する事に専念している。だが、公約ではない仕組みについての疑問は、抱いている者がいたようだ。

「無派閥で立候補した人は、どの派閥とも違う考え方なのか、近いものはあるけど理由があってのことなのかしら」

 ルベアはそこが気になっている。出自からすればローザリカは貴族として立ち位置を決めるべきかもしれないが、あえての無派閥。エルフのリディリディが貴族派を名乗って受け付けられている時点で、学園内では文字通り、出自は意味が無いものとなりつつあるのかもしれない。もっとも、将来はそうなるにせよ現在は、派閥と言う物がまだ存在感をもっているのも事実だ。

「今年は王党派と貴族派の現筆頭生徒の立候補がなされましたから、そこへ注目が集まっている事でしょう。それ以外、と言う方々が無派閥なのでしょうか……?」

 レティシア・レインフィールはそう分析する。しかし、アルベイルもオルファレナも、どちらも家格的には在学中に敗北したという傷を負いたくないだろう。過去であれば当人どころか親の談合で、立候補の前に話がついていた筈だ。特に、去年は立候補を見送ったオルファレナの心変わりについては、裏に何か事情があるのだろうと考えてはいる。同じ事は、ゲルダも念頭に置いていた。

「オルファレナ様が王党派として生徒会長に立候補したことで、もう一度『学園派』という派閥の存在意義を考えるべきではないかな、と思うんです」

 友人が属していなければ、あまり関わりたくない程度に『学園派』は苦手だった。王党派も、貴族派も、『学園派』を都合の良いように言い換えて利用している。ゲルダからは、『生贄の羊』以外の何物にも見えなかった。

「今の学園は過渡期ですから、無所属を含めた様々な派閥の役員在籍が理想化とは思います。私も在学中であれば、責任をもって学園派として立候補出来たのですけれど……」

 レティシアはそう柳眉を下げるが、現状の所は『学園派』を名乗る立候補者はいない。

「昨年時点では、『貴族派』や『王党派』に対する第三派の名乗りは必要だっただろう。候補者の身の安全の為にも、集団である事は一定の利があった」
「それはそう、かもしれません。ですが、そのせいで『学園派』が何を目指していたのかが判らなくなっている、気がします」

 トマスの言は理解しつつも、ゲルダは首を振る。『差別をなくすための派閥』『種族に寄らず平等な機会を』といった話を聞くたびに、彼女は違和感を覚えていた。

「――元は『この学園を政争の舞台にしない』というものだったはず、なのに」
「その意味では、もう役割を終えたと言って良いのかもしれない。昨年の学園内の動乱を経て、過激な貴族子弟からの嫌がらせはずいぶん減った筈だ」
「……『学園派』はもう不要なのでしょうか? ……いえ、私が異論を言うべきではない、ですね」

 ゲルダの嘆きを聞き、実際に候補者が名乗らぬ現状に照らして、トマスはそう呟く。レティシアは反論を口に仕掛けたが、自分は在校生ではないと思い直した。今の学生がどう判断するかによって、あったものが無くなってしまうのは仕方がない事なのかもしれない。もっとも、今から新たな学園派の名を継ぐ者が出馬する可能性もゼロではないのだが。

「派閥と言えば、今回の選挙では王党派のスタンスがイマイチ分かり難いのよね」

 ルベアはそう指摘する。彼らは王命に従うと言うが、平民や異種族に対する態度が貴族派に比べてどれだけ違うものか。それが判らない限り、平民でハーフビーストの身としてはどちらも同じ貴族と言うくくりでしか見れなくなってしまう。それでは良くないと、ルベアは思っていた。

「だから私は、特定の派閥を支持するつもりはないわ。ちゃんと個々の候補者の意見を聴いて……、そう考えられるだけの知見はこの部を見てて得てきたつもり。未だに部員になってないのに何を、って感じかもしれないけどね」
「いや、その一助になったのであればこの部活動を続けてきた意義があると言う物だ。初代部長として、喜ばしく思う」

 ルベアの言葉を聞いたトマスは珍しく微笑を浮かべて頷いた。王国内の事情など知らなかった他国出身や、苦手だと思い敬遠していた異種族の生徒たちが、自分の目で王国を見て考える様になってくれる事は、一人の国民として嬉しい。

「そういえば、トマス様は卒業後、学園の教師になられるとか」
「ああ、そう言う事になりそうだ」

 レティシアにそう問われ、似合わないだろうがとトマスは苦笑する。子供に勉強を教える事を好んでいるので、少し羨ましいと言われれば、そういうものだろうかと首を傾げた。

「既に婚約し、婚姻を控えておりますので、私が学園の教師となるのは難しいのです」
「なるほど、そう言う事か。おめでとう、お幸せに、で良いのかな」
「……ありがとうございます」

 静かに目を伏せて一礼してから、レティシアは話題を変える。トマスの担当する教科が法学史の類と聞き、過去の判例や罪人のその後のことなどを訪ねても良いかと伺いを立てた。

「調べてすぐにわかる程度の事であれば」
「ありがとうございます」

 今度の礼の方が幾分、力がこもっているように感じたのは気のせいではあるまい。

「お茶を入れ替えますね。失礼いたします」
「お菓子をどうぞでございます」
「……入学して、ここがお肉食べ放題会場ではないことに気付きましたが、実はお菓子食べ放題会場だったのでしょうか」

 カナンやシオンがお茶のお代わりを注ぎに回る中、ハリーヌがちょこちょこと差し入れている。甘いものより肉が欲しいと顔に出つつ、リディリディは一つ受け取って周囲の会話に耳を傾けた。夕刻まではまだ、しばらく時間がありそうだ。

「今年の生徒会選挙は、今も続々と立候補者が増え、去年以上に乱戦模様じゃのう。しかし、どのような形であれ、どのような公約であれ、学園の今に興味を持ってくれる若者がこれだけおるというのは長年住処にしてきた我輩としては嬉しいものじゃよ」

 リヴァマス老が感慨深げに頷いている。異種族や平民の血が貴族に入る事への忌避感などの意識は、やはり一朝一夕では変わるまいが、そうではない部分では。隣人や友人として過ごす事への垣根は、この一年の冒険者達聴講生のお陰でだいぶ下がったのではないか。思春期の貴族子女たちにとって、異種族や平民が見た事も無い誰かではなく、見た事がある存在に変わった事だけでも、影響は大きいのだろう。

「私の弟はまだ海の者とも山の者ともつきませんし、そこまで言うなら異種族や平民を養子に取られては?」
「ほほう。当人が望むのなら、それも良いかのう? ……いや、本人だけならともかく、子孫が不幸になりそうな気もするのは考えものじゃな……。しかし嫡子として跡を継がねば関係ないかのう」

 トマスが冗談を口にすると、リヴァマスからは爆弾が返ってきた。冗談だと思いたいが、この老人の来歴を考えるに、王国の貴族感など知った事かと考えている可能性も捨てきれない。

「……御老?」
「家の名前がつくだけでも王国内で働くつもりなら箔付くらいにはなるじゃろうし、今の我輩、兄のお陰で陛下に無理を言える立場じゃから、相当に無茶な養子縁組でも通せるのでは……? むむ……?」
「……御老、それはこの部活の外では口に出されないようにくれぐれもお願いしたい。誰に聞かれて何が起きるか想像もできない」

 この老人はフリーダムすぎる(世の中の空気を読まなすぎる)としても、候補者の掲げた公約の中には同程度に時間のかかりそうな理想もある。一朝一夕では、変化は出ないかもしれないが、次の世代、その次の世代位になればもしかしたら芽吹くであろう種が、この瞬間に幾つも誕生している事は間違いなさそうだ。これからの政治討論部が自由な発言をやり取りできる場所として、王国の遠い未来の役に立てば言う事は無いとトマスは考えつつ……、でも自由にも限度があるだろうとも思うのであった。

マスターコメント

お疲れ様でした。 蓋を開けたらとてもまじめな部活動になりました。 聞かれた事や聞かれていない事にトマスが答えたり答えなかったりして字数を喰ったので、参加人数の割には字数も膨れています。 NPCが喋っても許されるのが(書き手に取っての)イベシナの良い所ですね。 トマスって今年6年じゃなかったっけかな……。最初の登場時4年だった気がするんだけど、そう言えば何か弄ったっけ……。 まあ、飛び級して出ていく奴はたまにいるだろうし、学生PCの皆さんに迷惑は掛かって無いだろうから良し! 特に立候補した方々は、普段以上に一点集中なプレイングを頂いたので、公約や意見について読み込んで解釈して色々書きました。 時期的にまだ話題が出ていなかったのもあってか、他のPCからの意見はあまりなかった分、トマスばかり喋ってます。 あと、トマスが思いつきそうな解決すべき何かについて入れてもいますが、必ずしもそれをすべきと言う訳ではありません。 自分ならこうするとか、こういう所をはっきりしてくれれば応援したいな、などのトマス個人の感想であるため、あくまでそういうアプローチもあるよ、程度とお考え下さい。 ご参加ありがとうございました。
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:標準11 / 10〜25人

2022年09月22日 18時42分21秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ナキル

    ナキルだ、よろしくな。 オレは部長は引き継ぐ予定はないぜーっと

  2. エフィルミア

    エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 今回も皆でわいわい討論楽しみましょー!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0