【学祭】卓上遊戯と異文化理解
空色みなも
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シナリオID:2406
オープニング
●
「部長、学園祭です!」
「ええ、分かっているから、そう身を乗り出さないでもいいわよ。少し、落ち着いて」
狼耳の後輩女子、ホロウ・ミラーの顔が近い――。
パンクリアース学園の卓上遊戯部現女子部長、ジュエリア・シャイニーは押され気味に体をのけぞらせた。
「冒険者の人から去年の出し物を聞いてたし、楽しみにしてたんです!」
ホロウは今年の春に卓上遊戯部に入部した新一年生だ。
入部の際に決め手となったのは、勧誘を手伝っていた冒険者から聞いた、学園祭の出し物の話であった。
昨年、行われた学園祭で、卓上遊戯部は卓上遊戯カフェを開いた実績があるのだ。
大がかりなお祭り騒ぎを好むホロウにとって、学園祭は千載一遇のチャンスと言えた。
「もちろん、卓上遊戯部は今年も学園祭に参加するつもりだけど――今年のテーマは『各国文化の理解』か」
二人のやり取りを聞いていた、副部長男子のハンデルス・トレイダーが首をひねる。
「テーマはあくまで推奨、無理に沿わなくてもよろしいのでしょう? 卓上遊戯カフェを開くだけでも構わないのではなくて?」
金髪巻き毛の女子――カーリィ・ブロンドが横から口を挟んだ。
カーリィはジュエリアと同じ六年生だが、色々あって卓上遊戯部に入部したのは今年度のことである。
「そうなのだけれど――せっかくお題があるなら、あたしたちなりの答えを用意したくもなるわよね」
ジュエリアはそう言って、新一年生のうち、ホロウとエルン・フェランドの顔を順に見る。
ホロウは狼耳を生やしていることから分かる通り、ハーフビーストだ。
「そうですね。僕のようなエルフでも、より学園に受け入れられるようになって欲しいと思います」
エルンも今年度より入部の一年生男子で、その耳を見れば長く尖っている。
「なら、ボクたち卓上遊戯部らしい方法で各国文化を紹介する――そうすればいいのではないでしょうか」
ここでその同輩、一年生男子であるクロネ・クラゲンが口を開いた。
現在、卓上遊戯部はこの六人で活動しているのだ。
「と、いうと――」
「卓上遊戯を使って各国文化を皆さんに広めるんです」
ジュエリアに問われ、クロネが自らの案を述べる。
「例えばフィルエス大森林なら、森などをテーマにした遊戯をブースでまとめるとか。ドワーフ王国なら鉱山などをテーマにした遊戯にすれば――」
「面白そうですわね!」
クロネが並べたアイデアに、カーリィが食いついた。
「いいじゃない。でも実際にやるとなると運営に人数もいるし、具体的に何を用意するかも考えないと――」
ジュエリアが現実的な問題点を指摘すると、部員一同、しばし腕を組んで悩み始めてしまった。
なんといっても、部員六人だけでは人手も知恵も足りないのだ。
そんな状態で、しばらくの時間が経過し――。
「冒険者――!」
部員たちは顔を見合わせ、一つの単語を口にしたのだった。
●
そして、学園祭本番。
学園内はどこか浮かれた空気に満ちていて。
生徒たちの騒めきで、大いに賑わっていた。
「今年の出し物も、色々あるみたいですね。どれも楽しそうです!」
様々な出展が並んでいるのを見物していた女子生徒、ルウ・エリオ。
「あ、卓上遊戯部の――」
きょろきょろと辺りを見回していたルウの目に、卓上遊戯部の出展が留まる。
「ちょっと、覗いてみようかな?」
楽し気な気配に惹かれるように、ルウはふらりと部屋に立ち入った――。
「部長、学園祭です!」
「ええ、分かっているから、そう身を乗り出さないでもいいわよ。少し、落ち着いて」
狼耳の後輩女子、ホロウ・ミラーの顔が近い――。
パンクリアース学園の卓上遊戯部現女子部長、ジュエリア・シャイニーは押され気味に体をのけぞらせた。
「冒険者の人から去年の出し物を聞いてたし、楽しみにしてたんです!」
ホロウは今年の春に卓上遊戯部に入部した新一年生だ。
入部の際に決め手となったのは、勧誘を手伝っていた冒険者から聞いた、学園祭の出し物の話であった。
昨年、行われた学園祭で、卓上遊戯部は卓上遊戯カフェを開いた実績があるのだ。
大がかりなお祭り騒ぎを好むホロウにとって、学園祭は千載一遇のチャンスと言えた。
「もちろん、卓上遊戯部は今年も学園祭に参加するつもりだけど――今年のテーマは『各国文化の理解』か」
二人のやり取りを聞いていた、副部長男子のハンデルス・トレイダーが首をひねる。
「テーマはあくまで推奨、無理に沿わなくてもよろしいのでしょう? 卓上遊戯カフェを開くだけでも構わないのではなくて?」
金髪巻き毛の女子――カーリィ・ブロンドが横から口を挟んだ。
カーリィはジュエリアと同じ六年生だが、色々あって卓上遊戯部に入部したのは今年度のことである。
「そうなのだけれど――せっかくお題があるなら、あたしたちなりの答えを用意したくもなるわよね」
ジュエリアはそう言って、新一年生のうち、ホロウとエルン・フェランドの顔を順に見る。
ホロウは狼耳を生やしていることから分かる通り、ハーフビーストだ。
「そうですね。僕のようなエルフでも、より学園に受け入れられるようになって欲しいと思います」
エルンも今年度より入部の一年生男子で、その耳を見れば長く尖っている。
「なら、ボクたち卓上遊戯部らしい方法で各国文化を紹介する――そうすればいいのではないでしょうか」
ここでその同輩、一年生男子であるクロネ・クラゲンが口を開いた。
現在、卓上遊戯部はこの六人で活動しているのだ。
「と、いうと――」
「卓上遊戯を使って各国文化を皆さんに広めるんです」
ジュエリアに問われ、クロネが自らの案を述べる。
「例えばフィルエス大森林なら、森などをテーマにした遊戯をブースでまとめるとか。ドワーフ王国なら鉱山などをテーマにした遊戯にすれば――」
「面白そうですわね!」
クロネが並べたアイデアに、カーリィが食いついた。
「いいじゃない。でも実際にやるとなると運営に人数もいるし、具体的に何を用意するかも考えないと――」
ジュエリアが現実的な問題点を指摘すると、部員一同、しばし腕を組んで悩み始めてしまった。
なんといっても、部員六人だけでは人手も知恵も足りないのだ。
そんな状態で、しばらくの時間が経過し――。
「冒険者――!」
部員たちは顔を見合わせ、一つの単語を口にしたのだった。
●
そして、学園祭本番。
学園内はどこか浮かれた空気に満ちていて。
生徒たちの騒めきで、大いに賑わっていた。
「今年の出し物も、色々あるみたいですね。どれも楽しそうです!」
様々な出展が並んでいるのを見物していた女子生徒、ルウ・エリオ。
「あ、卓上遊戯部の――」
きょろきょろと辺りを見回していたルウの目に、卓上遊戯部の出展が留まる。
「ちょっと、覗いてみようかな?」
楽し気な気配に惹かれるように、ルウはふらりと部屋に立ち入った――。
解説
●目的
パンクリアース学園の学園祭で、卓上遊戯部の出展を盛り上げる。
●状況
パンクリアース学園で学園祭が開かれることとなり、卓上遊戯部も出し物を行うことになりました。
学園祭の今年のテーマは『各国文化の理解』であるため、卓上遊戯部は各国家や各種族が持っている文化を題材にした卓上遊戯を出展することを考えています。
国家または種族ごとに、様々なブースを設けることを計画したいと考えている卓上遊戯部の面々ですが、いかんせん部員の構成上、有識者もブース運営の人手も足りない状況です。
●できること
・出展
『各国家や各種族が持っている文化』を題材にした卓上遊戯を提案、および準備し、学園祭本番で運営することができます。
学園祭の目標として差別意識の緩和などが求められるため、広く知らしめたい文化を題材に選ぶことが望ましいです。
・訪問
学園祭本番で運営されている卓上遊戯のブースへ遊びに行くことができます。
依頼参加者による運営が行われていない国家、種族についてのブースの場合、卓上遊戯部の部員が対応します。
なお学園内の出し物ですので、実際の金銭をやりとりする賭け事は遠慮するように通達が出ています。
また、プレイングで実在のゲーム名を記入した場合、リプレイでは何らかのマスタリングを加えた形で扱いますので、悪しからずご了承ください。
●登場NPC
状況に応じ、以下のようなNPCが登場する可能性があります。
▽ジュエリア・シャイニー
学園の新六年生女子で、卓上遊戯部の部長となった。
実家は貴族派の貴族。
▽ハンデルス・トレイダー
学園の新四年生男子で、卓上遊戯部の副部長となった。
実家は平民だが、貴族の推薦を得て学園に入学した経緯を持つ。
▽カーリィ・ブロンド
ジュエリアの同級生で、実家は貴族派の貴族。
春から卓上遊戯部に入部した。
▽クロネ・クラゲン
ヒューマン男子、卓上遊戯部の新一年生。
実家は王党派貴族。
▽エルン・フェランド
エルフ男子、卓上遊戯部の新一年生。
▽ホロウ・ミラー
狼耳のハーフビースト女子、卓上遊戯部の新一年生。
▽ルウ・エリオ
パンクリアース学園の生徒。
卓上遊戯部の部員ではなく、今回のお客さん枠。
▽パンクリアース学園の一般生徒たち
お客さんとして必要に応じて登場する可能性あり。
マスターより
お世話になっております、空色みなもです。
パンクリアース学園の生徒たちに、各国文化に対して親しみを持つきっかけを作りましょう。
スケジュールの都合上、念のため相談日数と執筆期間を調整させて頂いております。
ご確認のうえ、ご参加いただければ幸いです。
関連NPCにルウ・エリオが紐づけられています。
相談掲示板では基本的に出発48時間前までに行われた質問に回答します。
文化的な皆さんのプレイングをお待ちしております。
リプレイ
●
卓上遊戯部が出展したブースは、早くも多くの客で賑わいを見せていた。
「こんな感じでいいのか? まー、カードはゴールディらしいイベントを揃えといたぜ!」
そう言って胸を張るナハシュは、自身もゴブリンとして学園の多文化クラスに属していることもあってか、なかなかに気合が入っている。
「ええ、とても雰囲気があっていいと思いますよ。ほら、さっそくお客さんが」
ハンデルス・トレイダーが視線を向けた先にいたのは、やはり学園生であるルウ・エリオだった。
「こちら、寄せて貰ってもいいですか?」
「もちろんだ」
テーブルに並ぶコインやカードをしげしげと眺めながら尋ねたルウに、ナハシュも快く答えを返す。
ナハシュの用意した遊戯は、名付けて『ゴールディのお使い』。
手持ちのコインでアップルパイをお買い物するゲームだ。
購入できるアップルパイはランク分けされており、値段がコイン7枚、5枚、3枚と異なっている。
「最初の持ち金は全員コイン10枚、そしてデッキから引いたカードのイベントによってコインは増減する」
ナハシュが指差した先には、カードのデッキが二山あった。
「こっちがシルバードデッキ。引ける枚数が少なめの5枚な分、コインの増減幅は大きい。そっちは引ける枚数が7枚と多い分、コイン増減幅は小さいスラムデッキだな。ゲームの最初に、どちらを使うか選んでくれ」
ナハシュの説明を聞いたルウが選んだのはシルバードデッキ。
そこで、ナハシュはスラムデッキを使うことにした。
「お店に着くまでに残っているコインで、ランクの高いパイを数揃えられた人の勝ち、ですね。やってみます!」
ルウが勢い込んで引いたカードには、ギャンブルに参加する、というイベントが書かれていた。
コイントスで表を連続させた回数によってコインの増減が決まるという、なんとも『らしい』イベントだ。
「な、なんだか緊張しますね、これ」
緊張した面持ちでルウの弾いたコインが、くるくると宙を舞った。
●
「テーマは異文化交流、ですか。その中で遊戯に落とし込みやすいものといえば……」
考えた末、ルアンナ・ミュラーが提案したのは。
リザードマンが行う風習『マナズィール』を題材にした双六式の遊戯であった。
マナズィールと言えば、ベテランと若者のリザードマン二人で赴く、武者修行の旅である。
そこでこの遊戯では、プレイヤーは二人一組でベテラン役と若者役を作り、ペアごとに得点を競争することになる。
「面白そうなものがあるじゃないか。混ぜてもらってもいいよな?」
「ぜひ!」
空き時間のできたナハシュがふらりと現れて、ルアンナの遊戯に参加することになった。
ルアンナとナハシュがそのままペアを組み、対戦相手としてハンデルスとルウのペア、クロネ・クラゲンとホロウ・ミラーのペアが参加することに。
さて、二人一組で息の合った旅をする、というのがこの遊戯のテーマである。
そこで盤上のコマを進める手段として、ダイスを振るのではなく、ちょっと変わった方式が採用された。
1から4の数が書かれた3枚ずつのカード――計12枚の山から毎手番、各自2枚ずつを手札にし。
相談することなく、1枚を場に出すのだ。
ペアごとに、場に出した数の合計だけ、マスを進むことができる。
ただし、同じ数をバッティングして出してしまったペアは、1マスしか進めない――たくさん進める大きい数を選ぶほど、相棒もそれを選んでしまう可能性は高いことがジレンマの源になっている。
「私が出したのが4で……」
「俺が3だ。よし、うまく7マス進めたな」
今のところ、ルアンナとナハシュのペアは順調にコマを進めているようだ。
止まったマスのイベントにより魂を磨く戦いを行い、遊戯に勝利するために必要なポイントを得る。
早く『あがり』を迎えるほど大きなボーナスポイントがあるが、あえてゆっくり進んで各地でポイントを稼ぐこともできる構造だ。
「よーし、これならこのまま一番を目指しちゃいましょう!」
ルアンナの手により、二人のリザードマンを模したコマが盤上の湿原を進んだ。
●
「ドワーフ……鉱山……えっと、ね、宝石を採掘するゲームは、どう、かな……?」
採掘をテーマにした遊戯を部員たちに提案していたサラは、ドワーフの少女であった。
「ほうせき……」
そうして設置されたドワーフ王国ブースを訪れたのが、ミゼリア・L・ステュクス。
見れば、ミゼリアの頭には小さな赤い宝石が光っている。
ぱっと見では髪飾りのようであるが、この宝石はミゼリアに埋め込まれた賢者の石――彼女がホムンクルスであることの証である。
「……このゲームに興味ある、の?」
サラがおずおずと尋ねると、ミゼリアは小さく首を縦に振る。
肯定の意を示しているらしい。
「じゃあ遊び方、説明、するね」
「おねがいします」
サラがインストラクションを行う間も、ミゼリアは表情に乏しいままであった。
しかしサラが手許に持つカードからじっと目を離さないあたり、遊戯に強い興味を抱いているようだ。
「一通り説明、したから……遊んでみる?」
説明用に配っていたカードをサラは集め、山札を作っていく。
少し人数が欲しかったので、クロネとホロウにも声をかけ、遊戯に混ざって貰った。
「あ、ほうせき」
山札からカードをめくったミゼリアが、早速、美しい宝石を掘り当てる。
こうしてカードを手に取ることで山札を徐々に減らしていくのは、まさに採掘をしているかのような感覚だ。
「あー! 落盤!」
一方、ホロウは事故に遭うカードを引いてしまっていた。
こうして事故や魔獣に遭遇すると、担当するドワーフの体力が減ってしまうのだ。
体力がなくなれば、手に入れた宝石も失ってゲームオーバーとなる。
そのため、どこで採掘を終えて引き返すかも大切な判断となっている。
「それ、おさけ……?」
「うん、お酒を引くと、体力が回復するの。ドワーフ……だから」
ミゼリアが遊戯中に口にした疑問にも、サラは丁寧に答えていく。
「うーん、体力が危ないですね。ここらでボクは引き上げます」
ここでクロネが採掘からの撤退を選んだ。
「誰か撤退するごとに……進む階層が、深くなってくの」
サラがテーブル中央に置く山札を、カード裏面のデザインが異なる別の山に入れ替える。
これは階層が進んだことを表すらしい。
下の階層に行けば行くほど、宝石がたくさん採れる。
その代わり、より重大な事故や強力な魔獣に遭遇する確率も増加し、体力を失う危険も大きいという。
「どこまでもぐれるでしょう……」
相変わらず表情は変わらないものの、ミゼリアの様子は遊戯にのめり込んでいる者のそれであった。
●
「あ……」
サラとの遊戯を終えたミゼリアの目にふと留まったのは。
「この遊戯が気になりますか?」
エルン・フェランドが広げていた、フィルエス大森林をテーマにした遊戯のブースであった。
「はい、なんとなく……」
遊戯盤の世界に広がる、フィルエス大森林を模した森を見つめるミゼリア。
なぜかは分からない。
その胸の奥底で、何か懐かしいような感覚が芽生えていた。
●
「部長就任おめでとう。前に君とこうして『ROSE&SEED』を遊んでから、もう一年ほど経つんだね」
「ありがとうございます。月並みな言い方かもしれませんが……時が経つのは早いものです」
シルヴィア・A・カペルはジュエリア・シャイニーと向かい合って座しており。
それぞれの手には五枚ずつのカードが広げられていた。
「王国の遊戯の一つも紹介したいと思ってね」
「文化に親しんで頂くという意味では、多文化クラスの方々に王国文化を伝えるのも大切ですからね」
シルヴィアの手が一枚の手札に伸びる。
ジュエリアも一枚の手札を引き抜き、二人はそれをテーブル上に伏せた。
「広く知らしめたい文化……身分については現実問題あるけれど、それはどの国も多かれ少なかれ同じ」
シルヴィアの言葉を、ジュエリアは静かに聞いている。
「大事なのは姫、つまり王国を……故郷を守るという意思」
そこでシルヴィアは言葉を区切り、伏せられたカードを表にした。
まさしく、カードに描かれていたのは美しい姫であった。
「其々の心に宿る大切なもの、即ち信念が違う。自分に理解できない物事もその人にとっては生きる指針だという事もある。学園生活や異文化交流で大切なのは、それを忘れない事」
シルヴィアの視線の先――ジュエリアが公開したカードも、やはり姫であった。
この勝負、引き分けである。
「私はもう卒業だけど、学園生が蒔いた種が育っていくよう願うよ」
シルヴィアは穏やかな笑みを浮かべて、ジュエリアを見る。
目の合ったジュエリアは、やはり静かに微笑んでいた。
卓上遊戯部の部長となったジュエリアも、今年で六年生。
自らの蒔いた種が将来、花開くことを願う気持ちは同じはずだ。
カードの中から二人を見守る姫たちの手には、薔薇の種が握られていて。
それはまるで、未知の可能性を秘めた学園生たちを象徴するかのようであった――。
●
「よっ、久し振りだな」
「ヴァンさん! いらしてくださったのですね」
ヴァンゲルス・ロッドが見慣れた少女の姿を認め、軽く手を挙げる。
するとその金髪巻き毛の少女――カーリィ・ブロンドは、小走りで寄ってきた。
「お前さんたちが学園祭に出展するって聞いてな。客寄せにビラも配っといたぜ」
「まあ、それは助かりますわ」
ということは、来訪する生徒たちが手にしているチラシはヴァンゲルスが配ったというものだろう。
カーリィも出展の盛り上がりを気に掛けるあたり、すっかり部員としての立場が板についたようだ。
「しかし、カーリィの嬢ちゃんは来年で卒業なのか。卒業後はどうするんだ? ああいや、ちっとばかし気になってな」
「……わたくしの卒業後、ですか。わたくしにはお父様の意向がありますから」
ふと思いついた体でヴァンゲルスが尋ねると、カーリィは何やら浮かぬ顔。
父親から何か望まぬ進路でも提示されているのだろうか。
「でも……ジュエリアさんが家からの圧力に負けじと頑張っていた姿を、わたくしは見ていましたわ」
「そうか。お前さんも自分の望みが叶うといいな」
カーリィが顔を上げ、表情をやわらげたのを見て、ヴァンゲルスも不敵に笑ってみせた。
「お前さんが卒業しちまったら、もう顔を合わせることもなくなるのかねぇ……こう言っちゃなんだが、正直なところ名残惜しくはあるな。だがまぁ、平民とお貴族様じゃ住む世界が違いすぎるか」
ヴァンゲルスのこの言葉にはカーリィの笑みも少し寂しそうなものになったが。
「ま、卒業するまではまた、こんな風に関わらせてくれ」
「ええ、よろしくってよ」
ヴァンゲルスが引き続き卓上遊戯部を訪れる意思を示すと、カーリィは再び顔を明るくした。
「じゃ、俺は参加者兼、調整役として入らせて貰うぜ」
「よろしくお願いしますわ」
ヴァンゲルスはカーリィのもとを離れ、卓に着く。
トラブルが起こる前にさりげなく参加者の間に入って緩衝材になったり、遊戯の題材になっている文化の補足を行ったりして、遊戯の盛り上げ要員となるヴァンゲルス。
その姿を遠くから見つめるカーリィは、満面に喜色を湛えていた。
●
卓上遊戯部が学園祭に用意したこの催しは、大盛況のうちに幕を閉じた。
この催しを通じてまた、人々の心に各国文化への親しみが根付かんことを――。
卓上遊戯部が出展したブースは、早くも多くの客で賑わいを見せていた。
「こんな感じでいいのか? まー、カードはゴールディらしいイベントを揃えといたぜ!」
そう言って胸を張るナハシュは、自身もゴブリンとして学園の多文化クラスに属していることもあってか、なかなかに気合が入っている。
「ええ、とても雰囲気があっていいと思いますよ。ほら、さっそくお客さんが」
ハンデルス・トレイダーが視線を向けた先にいたのは、やはり学園生であるルウ・エリオだった。
「こちら、寄せて貰ってもいいですか?」
「もちろんだ」
テーブルに並ぶコインやカードをしげしげと眺めながら尋ねたルウに、ナハシュも快く答えを返す。
ナハシュの用意した遊戯は、名付けて『ゴールディのお使い』。
手持ちのコインでアップルパイをお買い物するゲームだ。
購入できるアップルパイはランク分けされており、値段がコイン7枚、5枚、3枚と異なっている。
「最初の持ち金は全員コイン10枚、そしてデッキから引いたカードのイベントによってコインは増減する」
ナハシュが指差した先には、カードのデッキが二山あった。
「こっちがシルバードデッキ。引ける枚数が少なめの5枚な分、コインの増減幅は大きい。そっちは引ける枚数が7枚と多い分、コイン増減幅は小さいスラムデッキだな。ゲームの最初に、どちらを使うか選んでくれ」
ナハシュの説明を聞いたルウが選んだのはシルバードデッキ。
そこで、ナハシュはスラムデッキを使うことにした。
「お店に着くまでに残っているコインで、ランクの高いパイを数揃えられた人の勝ち、ですね。やってみます!」
ルウが勢い込んで引いたカードには、ギャンブルに参加する、というイベントが書かれていた。
コイントスで表を連続させた回数によってコインの増減が決まるという、なんとも『らしい』イベントだ。
「な、なんだか緊張しますね、これ」
緊張した面持ちでルウの弾いたコインが、くるくると宙を舞った。
●
「テーマは異文化交流、ですか。その中で遊戯に落とし込みやすいものといえば……」
考えた末、ルアンナ・ミュラーが提案したのは。
リザードマンが行う風習『マナズィール』を題材にした双六式の遊戯であった。
マナズィールと言えば、ベテランと若者のリザードマン二人で赴く、武者修行の旅である。
そこでこの遊戯では、プレイヤーは二人一組でベテラン役と若者役を作り、ペアごとに得点を競争することになる。
「面白そうなものがあるじゃないか。混ぜてもらってもいいよな?」
「ぜひ!」
空き時間のできたナハシュがふらりと現れて、ルアンナの遊戯に参加することになった。
ルアンナとナハシュがそのままペアを組み、対戦相手としてハンデルスとルウのペア、クロネ・クラゲンとホロウ・ミラーのペアが参加することに。
さて、二人一組で息の合った旅をする、というのがこの遊戯のテーマである。
そこで盤上のコマを進める手段として、ダイスを振るのではなく、ちょっと変わった方式が採用された。
1から4の数が書かれた3枚ずつのカード――計12枚の山から毎手番、各自2枚ずつを手札にし。
相談することなく、1枚を場に出すのだ。
ペアごとに、場に出した数の合計だけ、マスを進むことができる。
ただし、同じ数をバッティングして出してしまったペアは、1マスしか進めない――たくさん進める大きい数を選ぶほど、相棒もそれを選んでしまう可能性は高いことがジレンマの源になっている。
「私が出したのが4で……」
「俺が3だ。よし、うまく7マス進めたな」
今のところ、ルアンナとナハシュのペアは順調にコマを進めているようだ。
止まったマスのイベントにより魂を磨く戦いを行い、遊戯に勝利するために必要なポイントを得る。
早く『あがり』を迎えるほど大きなボーナスポイントがあるが、あえてゆっくり進んで各地でポイントを稼ぐこともできる構造だ。
「よーし、これならこのまま一番を目指しちゃいましょう!」
ルアンナの手により、二人のリザードマンを模したコマが盤上の湿原を進んだ。
●
「ドワーフ……鉱山……えっと、ね、宝石を採掘するゲームは、どう、かな……?」
採掘をテーマにした遊戯を部員たちに提案していたサラは、ドワーフの少女であった。
「ほうせき……」
そうして設置されたドワーフ王国ブースを訪れたのが、ミゼリア・L・ステュクス。
見れば、ミゼリアの頭には小さな赤い宝石が光っている。
ぱっと見では髪飾りのようであるが、この宝石はミゼリアに埋め込まれた賢者の石――彼女がホムンクルスであることの証である。
「……このゲームに興味ある、の?」
サラがおずおずと尋ねると、ミゼリアは小さく首を縦に振る。
肯定の意を示しているらしい。
「じゃあ遊び方、説明、するね」
「おねがいします」
サラがインストラクションを行う間も、ミゼリアは表情に乏しいままであった。
しかしサラが手許に持つカードからじっと目を離さないあたり、遊戯に強い興味を抱いているようだ。
「一通り説明、したから……遊んでみる?」
説明用に配っていたカードをサラは集め、山札を作っていく。
少し人数が欲しかったので、クロネとホロウにも声をかけ、遊戯に混ざって貰った。
「あ、ほうせき」
山札からカードをめくったミゼリアが、早速、美しい宝石を掘り当てる。
こうしてカードを手に取ることで山札を徐々に減らしていくのは、まさに採掘をしているかのような感覚だ。
「あー! 落盤!」
一方、ホロウは事故に遭うカードを引いてしまっていた。
こうして事故や魔獣に遭遇すると、担当するドワーフの体力が減ってしまうのだ。
体力がなくなれば、手に入れた宝石も失ってゲームオーバーとなる。
そのため、どこで採掘を終えて引き返すかも大切な判断となっている。
「それ、おさけ……?」
「うん、お酒を引くと、体力が回復するの。ドワーフ……だから」
ミゼリアが遊戯中に口にした疑問にも、サラは丁寧に答えていく。
「うーん、体力が危ないですね。ここらでボクは引き上げます」
ここでクロネが採掘からの撤退を選んだ。
「誰か撤退するごとに……進む階層が、深くなってくの」
サラがテーブル中央に置く山札を、カード裏面のデザインが異なる別の山に入れ替える。
これは階層が進んだことを表すらしい。
下の階層に行けば行くほど、宝石がたくさん採れる。
その代わり、より重大な事故や強力な魔獣に遭遇する確率も増加し、体力を失う危険も大きいという。
「どこまでもぐれるでしょう……」
相変わらず表情は変わらないものの、ミゼリアの様子は遊戯にのめり込んでいる者のそれであった。
●
「あ……」
サラとの遊戯を終えたミゼリアの目にふと留まったのは。
「この遊戯が気になりますか?」
エルン・フェランドが広げていた、フィルエス大森林をテーマにした遊戯のブースであった。
「はい、なんとなく……」
遊戯盤の世界に広がる、フィルエス大森林を模した森を見つめるミゼリア。
なぜかは分からない。
その胸の奥底で、何か懐かしいような感覚が芽生えていた。
●
「部長就任おめでとう。前に君とこうして『ROSE&SEED』を遊んでから、もう一年ほど経つんだね」
「ありがとうございます。月並みな言い方かもしれませんが……時が経つのは早いものです」
シルヴィア・A・カペルはジュエリア・シャイニーと向かい合って座しており。
それぞれの手には五枚ずつのカードが広げられていた。
「王国の遊戯の一つも紹介したいと思ってね」
「文化に親しんで頂くという意味では、多文化クラスの方々に王国文化を伝えるのも大切ですからね」
シルヴィアの手が一枚の手札に伸びる。
ジュエリアも一枚の手札を引き抜き、二人はそれをテーブル上に伏せた。
「広く知らしめたい文化……身分については現実問題あるけれど、それはどの国も多かれ少なかれ同じ」
シルヴィアの言葉を、ジュエリアは静かに聞いている。
「大事なのは姫、つまり王国を……故郷を守るという意思」
そこでシルヴィアは言葉を区切り、伏せられたカードを表にした。
まさしく、カードに描かれていたのは美しい姫であった。
「其々の心に宿る大切なもの、即ち信念が違う。自分に理解できない物事もその人にとっては生きる指針だという事もある。学園生活や異文化交流で大切なのは、それを忘れない事」
シルヴィアの視線の先――ジュエリアが公開したカードも、やはり姫であった。
この勝負、引き分けである。
「私はもう卒業だけど、学園生が蒔いた種が育っていくよう願うよ」
シルヴィアは穏やかな笑みを浮かべて、ジュエリアを見る。
目の合ったジュエリアは、やはり静かに微笑んでいた。
卓上遊戯部の部長となったジュエリアも、今年で六年生。
自らの蒔いた種が将来、花開くことを願う気持ちは同じはずだ。
カードの中から二人を見守る姫たちの手には、薔薇の種が握られていて。
それはまるで、未知の可能性を秘めた学園生たちを象徴するかのようであった――。
●
「よっ、久し振りだな」
「ヴァンさん! いらしてくださったのですね」
ヴァンゲルス・ロッドが見慣れた少女の姿を認め、軽く手を挙げる。
するとその金髪巻き毛の少女――カーリィ・ブロンドは、小走りで寄ってきた。
「お前さんたちが学園祭に出展するって聞いてな。客寄せにビラも配っといたぜ」
「まあ、それは助かりますわ」
ということは、来訪する生徒たちが手にしているチラシはヴァンゲルスが配ったというものだろう。
カーリィも出展の盛り上がりを気に掛けるあたり、すっかり部員としての立場が板についたようだ。
「しかし、カーリィの嬢ちゃんは来年で卒業なのか。卒業後はどうするんだ? ああいや、ちっとばかし気になってな」
「……わたくしの卒業後、ですか。わたくしにはお父様の意向がありますから」
ふと思いついた体でヴァンゲルスが尋ねると、カーリィは何やら浮かぬ顔。
父親から何か望まぬ進路でも提示されているのだろうか。
「でも……ジュエリアさんが家からの圧力に負けじと頑張っていた姿を、わたくしは見ていましたわ」
「そうか。お前さんも自分の望みが叶うといいな」
カーリィが顔を上げ、表情をやわらげたのを見て、ヴァンゲルスも不敵に笑ってみせた。
「お前さんが卒業しちまったら、もう顔を合わせることもなくなるのかねぇ……こう言っちゃなんだが、正直なところ名残惜しくはあるな。だがまぁ、平民とお貴族様じゃ住む世界が違いすぎるか」
ヴァンゲルスのこの言葉にはカーリィの笑みも少し寂しそうなものになったが。
「ま、卒業するまではまた、こんな風に関わらせてくれ」
「ええ、よろしくってよ」
ヴァンゲルスが引き続き卓上遊戯部を訪れる意思を示すと、カーリィは再び顔を明るくした。
「じゃ、俺は参加者兼、調整役として入らせて貰うぜ」
「よろしくお願いしますわ」
ヴァンゲルスはカーリィのもとを離れ、卓に着く。
トラブルが起こる前にさりげなく参加者の間に入って緩衝材になったり、遊戯の題材になっている文化の補足を行ったりして、遊戯の盛り上げ要員となるヴァンゲルス。
その姿を遠くから見つめるカーリィは、満面に喜色を湛えていた。
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卓上遊戯部が学園祭に用意したこの催しは、大盛況のうちに幕を閉じた。
この催しを通じてまた、人々の心に各国文化への親しみが根付かんことを――。
マスターコメント
お疲れ様でした。空色みなもです。
このたびは当シナリオにご参加頂き、誠にありがとうございました。
みなさんの提案してくださった遊戯、どれも実際に遊んでみたくなりますね。
各国モチーフ遊戯の小道具がテーブルに広がる光景を見てみたいものです。
また、遊戯の参加者となってくださった方々も、会の盛り上がりのためには欠かせませんでした。
また皆さんにシナリオ参加して頂けるのを心よりお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
イベントシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜25人
2022年09月30日 14時29分43秒 公開
大成功
相談掲示板
ルアンナです、学園祭たのしみですねっ♪ 私は出展で、リザードマンの文化「マナズィール」を題材にした人生ゲーム?のようなすごろくをやってみようと思ってます。