【謀都】葬り去った過去が扉を叩く日

紀藤トキ

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シナリオID:2404

オープニング

 王家からの情報は冒険者ギルドだけではなく、メアリーの判断で『怪しくない』と判断された者へも回されている。その中には、裁判に関わる法衣貴族であるダンテ家も含まれていた。機密書簡に目を通したダジル・ダンテはそれを火にくべ、燃え落ちるのを眺めつつ思考にふける。紙が灰の山に変わるのを見届けた後で、書庫へと足を延ばした。

「……マテウス子爵令嬢アリシア行方不明事件。容疑者とされた学園送迎の御者クラウスと、その御者が借金をしていた男コナーが共に変死し、犯人は分からなかった……か」

 令嬢は数年後、メドゥの指先が地方の村で起こした村民毒殺事件において、その一味として逮捕された。令嬢が重大事件に関わったなどと知られたくはないマテウス家は彼女を認知しなかったが、貴族令嬢として取り調べを行い、処刑したのがダジルである。彼女は既に薬物でおかしくなっており、井戸に毒を投げた自覚も無く、取り調べの意味はさほど無かったが。もしも、初動で止めている事が出来たなら、令嬢はテロリストに取り込まれる事無く家に帰る事ができたのだろうか。

「……御者の事故死の報告者と、借金をしていた男の報告者は同じだったな。レスコット男爵の三男ユベール。令嬢アリシアの同級生で、捜査に熱心だったゆえに、報告に幾度も名が出るのは不自然でないと思ったが……」

 お互い婚約者が別にいる身だが、学園では恋仲だったとの噂もある。だからこそ執念深く事件を追っていたのだと、そう思っていた。しかし、王家からの情報によれば彼の身辺にメドゥの指先の接触が危惧されているらしい。

「あの事件から、連中の手先であったのか? あるいは、令嬢失踪事件の捜査中に取り込まれたのか。今は、西門の警備を担当しているのか」

 現在の同僚の誰も、ユベール・レスコットを疑ってはいない。擬態としては見事な物だ。王家がこのような形で情報を伝えて来たのだから、おそらく彼は黒なのだろう。だが、ダジルの立場としては状況証拠だけで捕縛する前例は出来ることならば作りたくはない。

「冒険者ギルド。使えるものだろうかな。試してみるのも、良いか」

 自分の嫡男が、冒険者達と親しく交流しているのは知っている。中には貴族家の子女も多く、人脈としては有意だろうと黙認してきた。最近では、先代当主のエリオット・ダンテが長年抱えて来た旧リヴァマス伯爵領の問題を、息子と共に解決しようとしているとも聞く。個人としては多少面白くはないが、老人同士が納得するのであれば好きにすれば良い。どのように纏めて来るのか、手並みを見ようと思っていたのだが、試す機会は多くて困る事は無いだろう。

「よし。ユベール・レスコットの調査を依頼しよう。私や法務のものが行けば警戒するだろうが、冒険者風情と侮る性格のようだ。利用せぬ手はあるまい」

 ユベールは貴族派貴族らしい教育を受けており、平民というだけで侮るタイプらしい。貴族子弟が混ざっていると知られなければ、冒険者へのガードは甘い筈だ。まさか、10年前の事件について鋭く突かれるとは思っていまい。初手で動揺を誘い、罪を自白させれば話は早かろう。少しの調査と、話術。あとは小芝居ができれば簡単な仕事だ。ゴールが与えられている状況なのだから、その程度の芸はできてもらわねば使えまい。

「……戦力や生まれ以外にも、トマスが重用するに足る人脈であれば良いがな」

 ダジルは冒険者ギルドへ、表向きは別件が理由であるようにユベールの調査を依頼した。

●
 依頼を引き受けた面々は、ギルドの別室で改めて説明を受け、ギルド職員から掲示されていなかった詳しい情報を聞く。

「……というわけで、表向きは西門の警備状況の視察。武具とかの横流しとかそういうのの確認だね。冒険者に頼んだのは手が足りないからってことになっている」

 ユベールの担当の時刻に怪しい馬車が通った事があるのだが、そこは当日の書類でも後日報告でも、その他複数のルートでフォローされていた。横流しなどのありきたりな汚職の兆候はない。おそらく、その方向でちょっとやそっと揺さぶっても何も出てこない筈だ。だからこそ安心してふんぞり返っているだろう所に10年前の事件についての疑義を突きつけ、別件で逮捕してしまおうというのが主目的になる。

「状況として使えそうなのは、まずアリシア嬢とユベール卿の交友関係。御者の第一発見者がユベールで、死因が剣だという事。ユベール卿は剣を使うそうだからね。御者が借金していたという男は捕縛された時には軽傷だったそうだが、ユベールが護送する間に悪化して変死。これも怪しいな」

 過去の事件とのつながりから、現在の個人情報等が雑多に並べられていく。ユベール・レスコットは授恵者でこそ無いが、王国騎士位を持っており、剣士としても優秀であるらしい。レスコット男爵家からは学園卒業の後に独立しており、現在30歳で未婚。女遊びもあり、私生活は収入の割に派手だそうだ。

「この書類によれば、『事件が起きてから動く騎士団ではなく事件を未然に防ぐ警備の仕事がしたい』などと言い、騎士団に所属しなかったらしいがな。王国騎士の資格があっても王国騎士団の中では下っ端だが、警備隊なら最初から上役につけるのが良いと、言っていたという話もある」

 後者の情報は、時々酒場でいっしょになる警備隊のおっさんから俺が聞いただけだがな、と職員が言うあたり、ユベールはそこそこ人の口に上るような人物らしい。情報を集めるのは比較的容易だろう。

「まあ、依頼としてはコイツを揺さぶって追い込めって言う事だが、こいつの有罪は確定してるらしい。罪を先に吐いてから捕まるか、捕まってから吐かされるか……で、依頼主は形だけでも先にしときたいって事だな」

 要するに結果は変わらないし、気楽に引き受けて構わない仕事だな、と職員はお気楽さの欠片も無い表情で宣った。

解説

推理シナリオの様に見える気もしますが、でっちあげて相手を追い込めばよい口プロレス依頼です。 難易度を見て頂ければお分かりかと思いますが、何となく理屈が通ってれば成功しますので、『犯人をクレバーに追い詰める頭の良いうちの子たち』を楽しんでください。 出てくるNPCの名前が多いので、下記に整理しておきます。 ダジル・ダンテ トマス・ダンテの父。40代後半の法衣貴族。おもに王領での犯罪や貴族の犯罪を裁くのが職務である。顔は怖い。 ユベール・レスコット(30) 今回の犯人。口ひげがダンディな剣士で西門の警備隊所属。女癖悪し。貴族派レスコット男爵の三男で学園卒業後に家を出ている。 アリシア・マテウス(享年22) ユベールの元同級生で、学園在学中に通学中の馬車の中から失踪した。王党派マテウス子爵家令嬢。ユベールと仲を噂されていた。 数年後、王国の片田舎で村民の毒殺事件を起こしたメドゥの指先の実行犯の一人として捕縛された。 貴族令嬢として扱ったダジルの計らいで、苦しまずにすむよう毒杯を与えられている。 クラウス(享年44) マテウス男爵家に雇われていた御者。賭博で借金を作って首が回らなくなっていた。何故かスラム街で死体として見つかった。 コナー(享年36) クラウスに金を貸していた男。クラウス殺害容疑で逮捕された際に抵抗し、その傷がもとで護送中に死んだらしい。

マスターより

紀藤です。 昔の刑事ドラマは色々あって追い込まれた犯人が最後の5分で全部吐くものでしたね……。 適当に圧を掛けたり、役割を分担したり、カツ丼食うか的な小芝居をして追い込みましょう。 書かれていない事や人、証言などを捏造しても構いません。 例:報告書によれば御者の傷口は胸を一突きだったようですね。ところで貴方は刺突技がお得意だとか? いろいろ捏造して良いですが、ユベール以外の真犯人を生むのはややこしいのでNGとします。 また。R指定になりそうな事を捏造していた場合は子供でも安心なくらいにマイルドにします。 捏造されたプレイングの間で明らかに矛盾がある場合はどちらか一方しか採用しません。 どちらのプレイングを採用するかは描写バランスなどを鑑みて判断します。 皆様の名探偵(風)や敏腕刑事(風)などのプレイングをお待ちしております。

リプレイ

 依頼人、ダジル・ダンテの顔は強面である。正直な所、今回の犯人であるユベール・レスコットよりも悪そうだった。

(貴族らしい貴族といえばそのようですね。汚職といえばなにも彼らダンテ家に限った話ではありません……)
「え、えっと……? ダジルっておじさんが犯人なの? あ、その人は依頼人だったっけ」

 依頼主との顔合わせが一応あったのだが、別れてすぐにセロンガード・シュタインドルフは汚職を犯していそうなどと考え始め、ツィーラ・イェレミースは混乱している。短時間で新しく聞かされた名前が、ダジルも含めれば片手の指に余る。閉鎖的村社会出身のエルフにとっては多すぎたようだ。

(……あまりにも酷い事件です。そして、それを為したのが同じ貴族とは)

 レティシア・レインフィールは最終的に犠牲となった人の数を思い、憤りを胸に秘めていた。彼女の信ずる貴族の在り様はノブレスオブリージュの一言で表せる。帝国民のセロンガードの思い浮かべるシニカルな貴族像とは違っているが、それもまた王国貴族の持つ側面ではあった。

「啓示でも『刑事ドラマの終盤みたいな感じになります』との事ですし、どう転んでも検挙はできそうな感じですね」

 掲示の意味は良く分からないが、フリーダ=ブロムヴィストは神が後押ししてくれていると感じている。依頼人も、検挙自体は約束されたような状況だと言っていたので、状況証拠を集めれば十分だろう。というわけで、冒険者達は手分けして調査に向かった。

「うーん、つまりユベールを問い詰めれば良いんだよね。まかせてよ、これでも演技は上手いんだから」

 前言撤回。ツィーラは調査に行くことはせず、提供された情報から縁起の方向を練っているようだった。安楽椅子探偵と言う奴であろう。

●
 ユベールが良く利用しているという店は、依頼人からの情報の中にあった。

(レスコット卿は女遊びがお好きらしいし、色々と過ぎたお喋りをしているかもしれない……)

 明るいうちに夜の街を訪れたジュスト・ヴェルジーは、慣れた様子でチップを店の主に握らせる。ユベールが入れあげている女を聞いて、呼び出してもらう事とした。

「あら、坊や。旦那の弟分か何か?」
「まあ、そういう所かな。たまには遊んで来いって言われたんだけど、どうしてよいか分からなくって」

 などと装ってみれば、勝手に王国騎士の下っ端だと勘違いしてくれた。適度なスキンシップと酒を交えつつ、女の巧みな話術に乗って楽しく時間を過ごしていく。

(なるほど、これはレスコット卿が入れあげる訳だ……。俺も二年前なら通ったかもな)

 やはりユベールは良く通っているようで、給与では明らかに足りない。彼の昔の女の話を聞いたことがあるかと問えば、酒場女は初めて嫌そうな顔を見せた。

「昔、一途な女の子に遊びで手を出して、付きまとわれて困ったみたいな話をしてたわね。武勇伝のつもりなのかもしれないけれど、女の子には優しい方がもてるわよ」
「あ、うん。覚えておくよ」

 ローザリカ・L・ディオールの前で武勇伝を語るような真似はしていない筈だが、忠告を胸にジュストは店を後にする。

(やはりその女の子というのがアリシア嬢か……。利用するだけの関係だったという事だね)

 「また来るの?」と問われ、正直にもう来ないと告げたのは、彼なりの楽しい時間への礼だったかもしれない。同じころ、ゲルダ・クラインとコルネリウス・アーラは、ダンテ家の書庫で過去の事件記録を閲覧していた。

「その後の村民毒殺事件の毒は、当時学生のユベール様なら入手は可能そうです」

 サウゼル原産の植物性の毒物であり入手は困難だが、学園の敷地内で研究用に栽培されているものらしい。実際、当時の調べで学園から盗難された報告があった事も、ゲルダは突き止めた。

「まさか、コナーさんもその毒で? 剣に塗って斬りつけていたとすれば、混ざった井戸水を飲んだ時よりも早く症状が出ます。ちょうど、移送中に亡くなる位ですね……」

 コルネリウスが手にした当時の調査報告は詳細で、同一犯の仕業であるという視点があれば点と点が容易に繋がっていく。逆に言えば当時のユベールは疑われないほどの演技力を見せていたようだ。そしてレティシアは、学園へと足を運んでいた。

「当時を知る方は、教職員で幾人か在席されているようですね……。噂に詳しそうな方、となると……」

 政治討論部副顧問が条件に当てはまる。十年前の学園の事を問われた彼は怪訝に思ったかもしれないが、理由は聞かずに覚えている事を教えてくれた。他にも心当たりの人物に尋ねて、証言に矛盾が無いかも確認する。派閥の違う両家で恋仲にという事はありえなくはないが、本当に本気であれば秘める恋の筈。恋仲と噂されるほどに目撃されている事がおかしいと、レティシアは感じていた。

「やはり恋仲、というよりはユベール様の遊び、のようですね……。なるほど、これは本来の婚約も破談になる筈です」

 当時、婚約者がいた筈のユベールだが、同時に複数の相手と付き合っていた。貴族同士の婚姻ならば愛人を抱えてもおかしくはないが、限度というものがあるだろう。アリシアは最後は自分が選ばれると盲目的に信じていたようだ。あるいは、既に薬物の影響下にあったのか。

「なるほど……そう言う事でしたら、後は私の方でも動いて見ましょう」

 途中の情報共有で、女性陣から毒や薬物の話を聞いたセロンガードは、独自に追加調査を開始した。ユベールは毒の材料を入手できたかもしれないが、精製する技術は無かったはず。違法な取引で技術を買ったなら、その取引の情報が残っている筈だ。そしてそれは、適切な方法で得ようとすれば得ることができる物でもある。

(……予算がついているのは有り難い所です。厄介な場所に潜入して、足でも付いたら面倒ですからね……)

 スラム街の怪しい組織は金を見せれば情報を寄こした。なるほど、ユベールは確かに黒のようだ。

●
 仲間が調査に向かっている時間、フリーダは正式な査察より一足早くユベールの元を訪れていた。相手が女にだらしないという情報から、ハニートラップを仕掛けようというのだ。

「責任者であるユベール様との連絡を担当します。個人的にも、ユベール様には興味がありますので……」
「ほほう? 個人的に。なるほど」

 素朴なフリーダがチラリと見せる色気にユベールは目じりを下げる。まずは普段の仕事の様子と、職場を見せて欲しいと依頼すると二つ返事で了承した。

「綺麗な娘さんを連れて、ずるいっすよ隊長」
「悔しければ励むのだな。心がけ次第では、私が上に行く時に後任に推薦してあげよう」

 軽口を叩いてはいるが、職場関係は良好のようでパッと見てわかるような汚職の兆候はない。王国騎士の資格を持ちながら警備の仕事についたのはなぜか、問えば部下の方が『隊長の立派な志』を語って来る。あるいは、彼らにとっては普通に良い上司なのかもしれなかった。

「後は、もう少しゆっくりお話を伺いたいですね」

 などと腕に絡んで見せれば、隊長の私室へ通された。まだ昼なので、などと意外な真面目さを見せる相手にお色気を動員して酒を勧める。ならば君も、と言われてお互いに酌をしながら話を深めた。

「……いけませんね、眠く、なってきたような」
「ほう、休んでいくと良……ん?」

 何か盛られた、と気づいたフリーダが相手の目を捕えて催眠を仕掛ける。結果、相打ちとなり、部下が呆れた様子で起こしに来たのは、他の面々が査察に現れた夕刻であった。恥ずかし気に身だしなみを整え、疑われぬように「また後で」などとユベールに囁いて味方に合流。情報を交換する。

「なるほど、女癖が悪い男というのは居るものだな。仕事にかこつけてフリーダ君に迫ったのか。そういう男は始末に負えないな」

 ローザリカは自分が言われているかのように身を小さくする婚約者をじとりと睨む。言い訳など聞く耳もたぬとけんもほろろな彼女は、貴族とバレぬよう普段より装いを抑えているようだ。

「人手不足で査察を冒険者に委ねると聞いた時はげんなりした物だが。こういう事なら歓迎だ」
「お疲れの所、応対頂き感謝いたします。王都の守りは皆様のお陰ですね」

 やはり平民の振りをしたレティシアも、ここぞとばかりにユベールらを持ち上げる。フリーダが事前調査の報告を装って囁くと、ローザリカは不審な様子などないというように頷き、話を引き取った。

「卿の下でなら守りは万全ですね。……ですが、剣士としても名高くいらっしゃる卿ですもの、お目通り願う女性もたくさんいらっしゃるのでは?」
「おっと、仕事と遊びは切り分けておりますぞ。それはあくまで業務時間の外、とご理解頂きたい」
「まあ、御謙遜なさって。フリーダ様の香りがしますわよ。短い間に随分、仲良くなったようですけれど?」
「ええ、ユベール様はお話も面白いので、つい弾んでしまいました」

 余所行きのヒューマン美女たちにヨイショされて鼻の下が伸びているユベールを、ジュストは哀れみの籠った視線で見ていた。犯罪は同情の余地がないが、この面子にこれから詰められると思うと哀れも感じる。典型的な王国貴族というのは本当のようで、普通なら目を引くだろうコルネリウスやツィーラ、愛らしさが査察の面々の中では浮いているゲルダらの存在に触れる様子はなかった。

「ところで、そちらのマントから香っているのはローズ。フリーダ様の香水ではありませんね。価格も張るもの、もしや高級なお店の方では?」
「困りましたな。業務以外の査察とは……」
「いえ、頻繁に遊び歩いていると、幾つかのお店で伺っております。時に、その費用はいずこから?」

 ローザリカがジュストから聞いた店名を挙げると、ユベールの表情がこわばった。彼女が詰めるのはこの辺までで、とどめは他に譲るつもりである。

「あたしは警備の視察に来たんだけど、警備ってそんなにお金が稼げるんだっけ?」

 警備のお給料がどれくらいか、調べるのも調査の仕事のうちだよ、とツィーラがユベールの顔を無邪気そうに見上げた。

●
 ツィーラは次なる爆弾をぶちこむ。

「そういえば、アリシアって知ってる? そう、ユベールさんと一緒の学園に通ってた子」
「何と……? い、いや、懐かしい名前を聞きましたな。ハハ、貴女のような長命種の方の知人がいたとは、初耳ですが」
「行方不明になってたよね? 子爵の令嬢だったから、あたしでも知ってるくらいだったよ」

 ツィーラは、学園で聞いた噂だとして事件当時の事を語る。遊ぶ金の出所を追及されるよりはマシと思ったのか、ツィーラの話に合わせつつ、ユベールは余裕を見せた。

「なるほど、今ではそういう話になっているのですか。おそらく、君が聞いた『仲の良い男の子』というのは私でしょうが……」

 彼女が考えたストーリーは間違っているとユベールは言う。その現場に、自分は居る事が出来なかったのだと。強固なアリバイがあるらしい。

「でも、攫った御者と、もう一人いた連れが、男の子とグルだったかもしれないよね? アリシアの家からお礼にお金も貰えたかもだし、アリシアの気も惹ける」
「それは少々、荒唐無稽ですな。いやはや、十年も経つと話も膨らむものだ。実の所、私はアリシアに付きまとわれて困っていたのですよ。彼女の気を惹きたいとは、思わなかったな」
「確かに、学園で聞いた話ではアリシア様は本気なのに、ユベール様は幾人かいる遊び相手の一人といったようでしたね」
「……なぜ、そこまでその件を? まさか、調査の本命は」

 レティシアが学園で得た情報を話すと、ユベールの表情がこわばった。そこへ、後ろ手に組んだコルネリウスとゲルダ(身長差コンビ)がコツコツと足音を立てて踏み込む。

「コナーさんは捕縛時に軽傷でしたが、護送の短時間で亡くなられた。そうですね」
「あ、ああ」
「その症状は、ある毒物で説明がつきます。そして、あの時の状況下で、男に毒を盛ることができたのは。――ユベール様、取り押さえたというあなただけなんです
「い、いやいや。話が飛び過ぎではないかね。そもそも、毒など私は――」
「ユベール・レスコット。名前は名乗っていなかったようですが、剣の柄の紋章を隠し忘れたようですね。スラム街の店の老婆は、よく覚えていましたよ」

 コルネリウスとゲルダの確信を持った口調に、冷や汗を流しながら半歩下がる。そこへセロンガードが更なる証拠をぶつけた。

「アリシアさんと懇意にされていたのですよね? 大切な人を壊されて、死に追いやる結果を作ったひとたちを、許す事など出来ないと思います。ですが、もしもそれを為したのが貴方なら、御自身の口から話しては頂けませんか。その理由も」
「まさか。隊長……?」

 窮地に陥ったところへ、コルネリウスが情状酌量の余地があるような言い分で、手を差し伸べる。ユベールは慌ただしく瞬きしつつも、部下の不審な目を回避できるように見えた細い道へ踏み出してしまった。

「そ、そう……。そうなんだ。確かに、あの男を手に掛けたのは私だ。アリシアを攫い、その後何をしたのか、語る男を許せなかったのだ。仕方がなかっ……」
「ですが、十年前。村民毒殺事件の毒も、アリシア様の薬物も。ユベール様が手配したものですよね」

 情感豊かにアリシアへの思いを騙りそうだったユベールの言葉を、ゲルダが躊躇なくぶった切る。セロンガードが「その入手経路も思い出したいですか?」と言うと、ユベールはまたも言葉に詰まった。しんと静まった室内で、部下たちの視線が彼を刺す。

「最後には疎んじたとはいえ、始まりは相手を思う気持ちも少しはあったのかもしれない。アリシア嬢が悲惨な目にあったと聞いて、憤った故の仲間割れとしても不思議とは思いません。ならばせめて、彼女が毒杯を仰いだ時点で貴方も罪を贖うべきだった」

 ジュストが横顔に婚約者の視線を感じつつも、淡々とそう語る。

「心の隙間に乗じるのはメドゥの指先の常套手段です。お二人の間のすれ違いを利用されたとしても、不思議はないでしょう」
「……メドゥの指先……。隊長はそんな奴らに」

 レティシアの言葉に、部下達の上司を信じたいという最後の思いも揺らぎ、ひび割れた。世界の敵であるメドゥの指先の名は、末端とはいえ治安維持に関わる彼らにとって忌避すべきものだ。最後に、ゲルダが一歩前へ出る。

「騎士の位を持っている方の剣が、誰かを貶めるために使われたこと――本当に、残念です」
「く、まさか。今頃になって刺しに来るとはな。アリシアめ。あいつは本当に、しつこい女だったよ」

 がくりと膝をついたユベールへ部下の一人が近づくと、彼は抵抗せずに剣を手放した。

 某月某日、夕刻。十年前の事件の犯人が逮捕される。後日、ダンテ伯爵から事の次第を聞いたレスコット男爵とマテウス子爵は、揃って自分達には関係ない話だと切り捨てたらしい。

マスターコメント

結果としては、このような感じになりました。 こんなシナリオなのに(こんなシナリオだからか?)字数との戦いが結構きつく、登場シーンのバランスなども踏まえて書いたシーンを二つ消し飛ばしています。 ユベール君も当初に想像していたハイパー屑男ほどに悪い奴じゃなくなったので多少は可哀想な余韻が生えたので、良かったですね。 この依頼のMVPってどうやって選べばいいんだ? と少し悩みましたが、火〇ス的お約束の締めを用意してくださった方へ。 お約束で固める物語にはそういう役割を買って出る人も必要だと思うのです。 この度はご参加ありがとうございました!
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:標準8 / 4〜8人

2022年08月28日 15時26分42秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 とりあえず色々でっち上げてボロを出してもらう感じで良さそうですね。 御者の死因と剣の関係とかで「証拠があなたの家から出てきましたよ」的な感じで揺さぶってみるとか、 あるいは最近の金銭事情について突っ込んでみても面白いかもしれません。 女癖の悪さからハニートラップを仕込むのも楽しそうではあります。

  2. ジュスト・V・ケレス

    キャスターのジュストだ、よろしくね。 女癖が悪いみたいだし、揺さぶりのネタになるような話をレスコット卿に関係ある女性達から集めてこようかな。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0