【夏果】Summer resort
東山秋治
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シナリオID:2333
オープニング
「ちょっと待ってください。なんで私なんですか?」
ここはエドゥノーグの冒険者ギルド。
依頼書の受領手続きをしていたルイウェン・ヴェーリンは、上司をジト目で見上げていた。
言外に「まさかまた出張ですか?」というニュアンスを滲ませつつ。
「いやなに、ルイウェン君授恵者だろ? 冒険者達の引率には何かと都合がいいと思ってね」
……引率? 想定外の言葉に、ルイウェンの眉間の皺が増える。
「話が見えないんですが……。引率とおっしゃいましたけど、どこにですか? そもそも、彼等は子供ではないですよ」
「都市群の商人ギルドが仕切りをしている避暑地を知ってるかい?」
「ドワーフ王国との境にある港町でしたね。確か、今年は例年に比べて夏物フルーツの流通が増えてると聞いていますが」
「そうそう、そこ。今年の本格開放前に、冒険者達に利用してもらってはどうだろうという話が出たらしくてね。うちに依頼の打診が来たんだよ」
そういうことか。
「冒険者を呼び水にして、利用客を増やそうという魂胆が見え隠れしてますね……」
「冒険者が出入りしているとなれば安全と言えるからねぇ。そのぐらいの打算はあるだろうね。それとは別にルイウェン君、最近働きっぱなしでしょ? 休暇代わりに……」
「行きます」
即答である。
それから数日もせず、冒険者ギルドに普通の依頼書よりも大きな記事が掲示された。見出しには大きく
~旅行参加者募集のお知らせ~
と、書かれていた。
ここはエドゥノーグの冒険者ギルド。
依頼書の受領手続きをしていたルイウェン・ヴェーリンは、上司をジト目で見上げていた。
言外に「まさかまた出張ですか?」というニュアンスを滲ませつつ。
「いやなに、ルイウェン君授恵者だろ? 冒険者達の引率には何かと都合がいいと思ってね」
……引率? 想定外の言葉に、ルイウェンの眉間の皺が増える。
「話が見えないんですが……。引率とおっしゃいましたけど、どこにですか? そもそも、彼等は子供ではないですよ」
「都市群の商人ギルドが仕切りをしている避暑地を知ってるかい?」
「ドワーフ王国との境にある港町でしたね。確か、今年は例年に比べて夏物フルーツの流通が増えてると聞いていますが」
「そうそう、そこ。今年の本格開放前に、冒険者達に利用してもらってはどうだろうという話が出たらしくてね。うちに依頼の打診が来たんだよ」
そういうことか。
「冒険者を呼び水にして、利用客を増やそうという魂胆が見え隠れしてますね……」
「冒険者が出入りしているとなれば安全と言えるからねぇ。そのぐらいの打算はあるだろうね。それとは別にルイウェン君、最近働きっぱなしでしょ? 休暇代わりに……」
「行きます」
即答である。
それから数日もせず、冒険者ギルドに普通の依頼書よりも大きな記事が掲示された。見出しには大きく
~旅行参加者募集のお知らせ~
と、書かれていた。
解説
辺境都市群南東岸。ドワーフ王国との境に近い港街が舞台のバカンスシナリオとなります。
ドワーフ王国との交易がある他、エラトゥーン都市同盟やリーンエス王国との海洋交易の中継点であることから、それなりに賑わいのある街です。
飲食、宿泊施設はいうに及ばず、富裕層の避暑に使用されることから娯楽施設もそれなりに揃っています。
※飲食系は夏物フルーツに力が入っております。
港町の北側にある浜辺が、海水浴や日光浴のためのビーチとして開放されています。
その場で調理して食べる目的なら漁(釣りや素潜り)をしても、地元の人に咎められることはありません。
商売についてはビーチ付近でのみ許可されています。街中での商売はNG。
用意されている宿は中の上まで。それ以上は差額自腹で宿泊可能。
また、今回に限り、キャンプ希望者は野営装備一式のレンタルが出来るようになっています。
※全般においてパカ倫が適用されます。
※宿泊の差額自腹はあくまで演出上であり、実際に所持金が引かれることはありません。RPのフックとしてお使いください。
マスターより
ご無沙汰しております。帰ってきた東山秋治です。
東山のイベントシナリオお約束のパターンで、フリーアタックとなっておりますので、皆様思い思いのバカンスをお楽しみいただければと思います。
ルイウェンについては、呼び出されればホイホイ登場いたします。
※執筆に若干お時間を頂きます。ご了承ください。
リプレイ
●休暇の始まり
「……ふぅ」
冒険者達に必要な手配や手続きを済ませたルイウェン・ヴェーリンは、割り当てられた部屋で街から港に繋がる景色を眺めながら一息ついていた。
ふと下を見ると、セロンガード・シュタインドルフが出かけていくのが見えた。直後、それを追いかけるようなタイミングでティトが宿を出ていく。その後ろ姿を見送ると、再び港の方を見やる。
「他の皆さんも、羽を伸ばしていただけていればいいんですが」
そう呟いて、傍のロッキングチェアに腰かけて本をめくる。
●たべある記~明日以降のために~
港に隣接する市場はこの街一番の賑わいを見せる場所だ。
主に交易品が扱われている区画ではエラトゥーン都市同盟やリーンエス王国から運ばれた食材、雑貨は言うに及ばず、ドワーフ王国産の工芸品や武具まで至る所で取引が行われている。
そんな中、観光や避暑客向けに食事・食材や土産物を取り扱う商店が多い区画をトゥーリは歩いていた。
手には、先程露店で買ったスイカ。一口大に切ったものが串に刺してあり、食べやすい。
市場の入り口で売っていたものがやけに美味しく見えて、思わず買ってしまったのだ。
夏の日差しの中、果肉に詰まった甘い水分が喉に気持ちいい。
「へー……いろんな果物あるんだなぁ……」
足を止めたのは山盛りの果物店と狭しと山盛りに並べられた露店の前。
視線の先にはカラフルな夏物のフルーツ。内陸、それも穀倉地帯出身の彼女にとっては目新しいものがたくさんあるようだ。
目移りしていると、店番をしているおばちゃんが声をかけてくる。
「気に入ったものはあるかい?」
「へ? あ、えっと、綺麗な果物たくさんあるなぁと思って」
「うちの店のは見た目だけじゃないよ。味も一級品さ」
そう言うと、太陽のような赤い果実を手に取ると、ナイフでするすると皮を剥いて一口大に切れ目を入れる。
そしてその一つに串を刺すと、「サービスだよ。食べてごらん」とトゥーリに差し出してくる。
受け取り、口に入れると……とても、甘い。程よい弾力と酸味がアクセントになったそれが喉を通る頃には思わず笑顔がこぼれていた。
「……ぁ……」
その時、トゥーリに電撃走る。
市場に来たのは、次は恋人と一緒もいいかなというリサーチのため。
とはいえ、彼も忙しい人。彼が興味を示してくれそうなものがあれば……との思いもあった。
そんな折に出会ったのが種々の夏の果物たち。農産物なら彼も興味を示してくれるかもしれない。
そう考えながら、心のメモ帳に候補の一つとして書き留める。おばちゃんにお礼と共に果物を2・3個包んでもらい、次の露店を目指して雑踏の中を歩きだす。
トゥーリのリサーチを兼ねた”たべある記”は始まったばかりである。
●サイラス流休暇の過ごし方
冒険者のために用意された宿。
その一室でゴロゴロダラッとしていたサイラス。
彼の言を借りるならば、『休暇は何も邪魔されない状態でするに限る』とのこと。
主義に沿って休暇を満喫すべく、足置きとセットになったクッションの利いたデッキチェアでくつろいでいた。傍らのサイドテーブルには酒と肴、種々の果物。
そして、それらの中心に置かれた【溢れ出るチョコの泉】が存在感を放つ。
「タダでさえやること多いんだ。こうい時ぐらいは何もせずに過ごしてもバチは当たらんだろ」
時折外から聞こえてくる楽しげな声に応えるような独り言。
「ドワーフ連中に絡まれても面倒だしなー」
鍛治ギルド関係で顔見知りと会わんとも限らんし。などと考えつつ、傍らの干し肉を噛み千切って味わい、酒で流し込む。
そんなサイラスの傍らで主同様ゴロゴロしているのは、首の辺りの黒い斑模様が特徴的な白狼。
ゆったりと尻尾を振りながら顔を上げて主の顔をじっと見る。
「ほれ」
サイドテーブルの皿から蒸し鶏を一切れ摘まんで口に放り込んでやると、満足げにもぐもぐやって再び丸くなる。
そんな大福から視線を窓の外に向け、酒を一口喉に流し込むと最近のドタバタが脳裏に浮かんでくる。
最初に浮かんだのは王国西部、シラー砂漠での一仕事。
…………
……
そしてそれから帝国へ……。
「……思えばかなり無茶な移動してね?」
東奔西走とはよく言ったもの。しかし、ビッグオウムの存在がそれを可能にしています。
依頼に思いを馳せることしばし。ふと視線を動かすと、傍らの大福が大欠伸。
昼寝も悪くない。せっかくの休暇、時間は贅沢に使わなければ。
後々、食事を要求する大福に起こされるまで、しばしの休息にサイラスは目を閉じる。
●うみキャン!
「よし、こんなモンだろ」
設営したテントを前にナハシュは満足げに頷く。
せっかく海辺でキャンプが出来るのだ。やらない選択肢は無い。野営装備一式を借り受けた後、一番乗りで
周りを見れば、冒険者と思しき者が数人、互いに邪魔にならないよう距離を取りつつ同じようにテントの設営をしている姿。その距離の取り方を見れば、彼等もそれなりにキャンプ慣れしていると見える。
であれば、互いに不要な干渉はしないのが作法というもの。
撒き餌の革袋と銛を手に、ナハシュは海へと入っていく。撒き餌をして待つことしばし……。
――一閃。
銛の一突きが見事に魚を捉える。
「岸に近くても大物取れるんだな。っと!」
腰網に魚を入れた直後、更にきらめいた銛の先には2匹目の魚が。これも腰網に入れると、更に沖へと足を進めていき……潜水を開始。
砂で濁った層を抜けると、澄んだ青の世界が広がる。着底すると、そのまま海底を歩き始める。岩に貼り付いた貝を銛で器用に剥がし獲り、底の砂を掘ってスープに使えそうな小ぶりな貝を採取。
夕食には十分な程度に魚介を確保すると、予てから考えていた実験を開始。革袋から撒き餌を掴んで周囲に散らすように放る。すると、その臭いに釣られた魚が徐々に集まり始める。
それに合わせてナハシュの体が伏せている砂地に溶け込むよう姿が消えていく。幸い、寄ってきた魚たちは彼に気づいていない。一際大きな魚に狙いを定め、銛が突き出される。
…………
……
日が落ち、ナハシュのキャンプから魚の焼けるいい匂いが立ち込める。
実験で獲った魚は大きすぎたため、輪切りにして貝と一緒に網焼きに。他の魚は豪快に串焼きでいただく。
「やっぱ、獲れたてを焼いて食うのは最高だな!」
食欲をそそる香りに手が止まることは無く、思いの外早く平らげてしまった。キャンプのテンション恐るべしといったところだろうか。
食後、一息ついて空を見上げる。満天の星空に渚の音のBGMが心地よい。時折パチンと爆ぜる焚火の音がいいアクセントだ。
昼間は海を堪能した。今夜は、この空と音、そして夜の静寂を堪能するとしよう。
●お嬢さんと黒服
海岸を眺める二つの人影。街から離れた方には、キャンプのためかいくつかテントが張られているのが見える。
「漁、出来るみたいですけど。いいんですか、しなくて? 海エルフとして」
傍らのネーヴェ・グラヌローザにそう尋ねるのはキーゼ。彼はぱっと見いつもの格好だが……?
「今日は海エルフはお休みです。折角のバカンスデートですもの」
恋人の問いに笑顔で答えるネーヴェ。こちらは麦わら帽子に白いワンピース、アクセントの青いリボンが映える。涼しげな夏のお嬢さんといった装い。
それよりも、と続けると舞扇を広げ。
「マント、暑くありませんか?」
と言ってキーゼを扇ぐ。恋人の気遣いにキーゼは目を細め。
「大丈夫ですよ。今日は……」
夏仕様です。と外套を少し捲って見せると……タンクトップ型のシャツ。確かに夏仕様である。
「ともあれ、ネーヴェが漁をしないのなら、ゆっくり散策するとしましょう」
波打ち際に近い場所をゆっくりと歩き、荷揚げの威勢のいい声が飛び交う港を抜けていく。
「潮風に乗って色んな香りが致しますね。甘いこの匂いは……パイナップルでしょうか」
交易の中継地でもあるこの街は、普段から様々な香りが行き交う。今の時期なら南方産のフルーツが全盛だ。市場には食欲をそそりそうな香りが充満している。
カットフルーツの串などを買い食いしつつ、二人はゆったりとした足取りで市場を見て回っていく。
「酸味も強くないですし、何より甘くて美味しいのでつい食べ過ぎてしまいそうですわね……」
幸せそうな困り顔で呟くネーヴェ。
「大丈夫ですよ。私たちは普段それ以上に動き回っていますから。なにより……」
せっかくの休暇です。楽しみましょうとキーゼ。
「流石港街。鮮度もいいためか、普段見ない魚介も多いですね」
内陸でも水が豊富なアキュアリスタとも種類が違い、辺境都市群では殆ど見ない魚も多く並べられている。
「宿のお食事に出るといいですわね。見たことのない魚ですと、味も気になります」
そうですねぇ、と目を細めて同意するキーゼ。
その後、獲れたての魚介の網焼きに舌鼓を打ち、ちょっとした広場でベンチに座って休憩中。キーゼがあるものを見つけた。
「おや、かき氷がありますね。いかがです?」
「あら、珍しいですわね。でも、一人で食べるには少し量が多そうですし、一緒に頂きませんか?」
「ええ、そうしましょう。買ってくるので待っていてください」
そうしてキーゼが買ってきたかき氷は……二人で、というのも納得のボリュームだった。
「シロップの甘さと氷の冷たさが気持ちいですわ……」
目を細め、甘さと冷たさを堪能するネーヴェ。
「そういえば、一部のベリーも夏の果物でしたね。酸味がいいアクセントです」
かき氷にはフルーツも添えられており、スイカ、マンゴー、パイナップルなど定番に加えてベリーのフルーツも添えられていたのだ。
「フルーツはお土産に考えておくのも悪くなさそうです。帰りは荷物が少し増えそうですかね」
その後、腹ごなしに再び海岸まで散策。夕方になると、キャンプ組の焚火がチラホラと見え始めていた。
宿に向かう二人だが、キーゼが入っていくのはこの街の宿でもグレードが高いクラス。提供されていた宿と違うことにネーヴェは驚き。
「まぁ、余分にお金が掛かりますけれど、宜しいんですの?」
カウンターで手続きをするキーゼに尋ねると……。
「視点の違いですよ。差額を払わなければならない、ではなく、払うだけで泊まれる。というわけですから」
折角ならこういったところで貴女と楽しみたいですからね、と笑顔。
「なるほど……そういう考え方も出来ますね。どんなお部屋でしょう、楽しみですわ」
通された部屋は貴族の屋敷もかくやという豪華さで。当然、食事もその日に入った最上級の食材を使ったものが振舞われた。
「たまの休暇です。こういうのも悪くないかと思いまして」
日が暮れても賑わいの変わらない街を見下ろす窓際の椅子に座り、サービスの果実酒を楽しむ。
「はい、ありがとうございます。おかげで、とても楽しめていますわ」
笑顔を交わす二人。外の賑わいと共に、夜が更けていく。
●優しい味
この街でも最高級クラスの宿。それも、テラスで部屋が繋がる隣り合った二部屋。
ジュスト・ヴェルジーとローザリカ・L・ディオールが避暑のために指定したのはそんな宿だった。
「差額自腹に抵抗はなかったし、どうせならね」
「まったくだね。折角の機会なんだから、何かを惜しむ必要はないよ」
それぞれの部屋に荷物を置くと、示し合わせたようにテラスに出る二人。
街のどの建物よりも高いフロアにある部屋だけあって、街も海岸も一望できる。
「海風も気持ちいいし、何よりこの景観が素敵だよ」
嬉しそうに笑顔を向けてくるローザリカを見て、彼女の安全と快適さを重視して選んだのは間違いではなかったと確信して微笑むジュスト。
「なら選んだ甲斐があったよ。それで、これからどうしようか」
「そうだね。観光も悪くないけど……いっそ、滞在期間はゆったり過ごすのはどうだろう。贅沢に時間を使おうじゃないか」
そう言うとローザリカは、手始めにここで、と並べて置かれたデッキチェアを軽く叩いて見せる。
彼等のこの避暑地での過ごし方は決まったようだ。
楽な服に着替えた二人はテラスのデッキチェアでゆったりとした時間を過ごしていた。
「サービスとはいえ、果物が多いね。ベリー以外もたくさんだ。この時期の地元ではベリー類が主だから、食べるなら少し珍しいものを、だね」
傍らのテーブルに置かれた果物を見て満足げに笑むジュスト。
「でも、食べるのはもう少しこの空気や眺めを堪能してからにしよう」
そして、二人の間に穏やかな時間が流れる。
ふとローザリカがジュストを見ると、微睡むように小さな寝息を立てている。
ジュストからすれば、久方ぶりの落ち着いた眠り。寝れない日が続いていたが、ローザリカの傍なら不思議と眠れる。二人の関係を考えればむべなるかなというところだが、恐らくそれだけではないだろう。
却ってローザリカはというと……。
ジュストを見る瞳には、心配の色が浮かんでいた。彼が気取られぬように振る舞ってはいるから、これは自分の勘。だから、彼が起きているときにこんな視線を向けることは無い。
それでも、今この時ぐらいはと、心配の中に慈しみも混じった目で寝息を立てる彼を見守る。
半刻も過ぎただろうか。身じろぎしたジュストが目を覚ました……?
「お目覚めかな? 仮とはいえ婚約者を放っておいて昼寝なんて、どういうつもりだい?」
言葉こそきつめだが、詰問の色は無く、むしろからかうような口調でローザリカが声をかける。
「ん……」
彼女の言葉に答えたのか、ジュストは頭を掻く。
「まあ、いいよ。その代わり……!?」
ローザリカは笑いながら、彼女の側にあったオレンジ色の果実を手に取り、その手をジュストの方に伸ばす。
――「食べさせて」――そう言うはずだった。しかし、それは遮るように伸ばされたジュストの手がローザリカの腕を掴んだことで叶わなかった。
突然のことに狼狽えるローザリカ。しかし、彼女はこの後さらに狼狽えることとなる。
「食べさせて?」
「は……? え? ちょっ……!?」
突然のお強請りに言葉が出ない。正確には、思考は回っていた。「そんな気の抜けた顔は初めて見る」とか「その仕草はずるい」とか。よもやの行動に対して思考に言葉が追いつかなくなっていた。
そこでようやくジュストの様子に気づく。……まだ寝ぼけているようだ。
――「……食べたらそのまま寝てしまえ」
そう言いたくなるのをぐっと抑えて。
――今日ぐらいは。そう、今日……こんな時ぐらいは
身を起こすと、腕を掴むジュストの手をそっと解き、両手を添えて戻してやる。
そのままビワの皮を剥いて身を割ると、ジュストの口元に。
――請われるままに果物を口元へそっと運んでやってもいい。
ジュストが静かに味わい、飲み込むのを確認すると、残った身は自分の口に運ぶ。
優しい甘さと微かな酸味が心地よい。
普段と立場が逆なことが新鮮で。ゆったり流れる時間は、その後ジュストがきちんと目を覚ますまで続いた。
「……ふぅ」
冒険者達に必要な手配や手続きを済ませたルイウェン・ヴェーリンは、割り当てられた部屋で街から港に繋がる景色を眺めながら一息ついていた。
ふと下を見ると、セロンガード・シュタインドルフが出かけていくのが見えた。直後、それを追いかけるようなタイミングでティトが宿を出ていく。その後ろ姿を見送ると、再び港の方を見やる。
「他の皆さんも、羽を伸ばしていただけていればいいんですが」
そう呟いて、傍のロッキングチェアに腰かけて本をめくる。
●たべある記~明日以降のために~
港に隣接する市場はこの街一番の賑わいを見せる場所だ。
主に交易品が扱われている区画ではエラトゥーン都市同盟やリーンエス王国から運ばれた食材、雑貨は言うに及ばず、ドワーフ王国産の工芸品や武具まで至る所で取引が行われている。
そんな中、観光や避暑客向けに食事・食材や土産物を取り扱う商店が多い区画をトゥーリは歩いていた。
手には、先程露店で買ったスイカ。一口大に切ったものが串に刺してあり、食べやすい。
市場の入り口で売っていたものがやけに美味しく見えて、思わず買ってしまったのだ。
夏の日差しの中、果肉に詰まった甘い水分が喉に気持ちいい。
「へー……いろんな果物あるんだなぁ……」
足を止めたのは山盛りの果物店と狭しと山盛りに並べられた露店の前。
視線の先にはカラフルな夏物のフルーツ。内陸、それも穀倉地帯出身の彼女にとっては目新しいものがたくさんあるようだ。
目移りしていると、店番をしているおばちゃんが声をかけてくる。
「気に入ったものはあるかい?」
「へ? あ、えっと、綺麗な果物たくさんあるなぁと思って」
「うちの店のは見た目だけじゃないよ。味も一級品さ」
そう言うと、太陽のような赤い果実を手に取ると、ナイフでするすると皮を剥いて一口大に切れ目を入れる。
そしてその一つに串を刺すと、「サービスだよ。食べてごらん」とトゥーリに差し出してくる。
受け取り、口に入れると……とても、甘い。程よい弾力と酸味がアクセントになったそれが喉を通る頃には思わず笑顔がこぼれていた。
「……ぁ……」
その時、トゥーリに電撃走る。
市場に来たのは、次は恋人と一緒もいいかなというリサーチのため。
とはいえ、彼も忙しい人。彼が興味を示してくれそうなものがあれば……との思いもあった。
そんな折に出会ったのが種々の夏の果物たち。農産物なら彼も興味を示してくれるかもしれない。
そう考えながら、心のメモ帳に候補の一つとして書き留める。おばちゃんにお礼と共に果物を2・3個包んでもらい、次の露店を目指して雑踏の中を歩きだす。
トゥーリのリサーチを兼ねた”たべある記”は始まったばかりである。
●サイラス流休暇の過ごし方
冒険者のために用意された宿。
その一室でゴロゴロダラッとしていたサイラス。
彼の言を借りるならば、『休暇は何も邪魔されない状態でするに限る』とのこと。
主義に沿って休暇を満喫すべく、足置きとセットになったクッションの利いたデッキチェアでくつろいでいた。傍らのサイドテーブルには酒と肴、種々の果物。
そして、それらの中心に置かれた【溢れ出るチョコの泉】が存在感を放つ。
「タダでさえやること多いんだ。こうい時ぐらいは何もせずに過ごしてもバチは当たらんだろ」
時折外から聞こえてくる楽しげな声に応えるような独り言。
「ドワーフ連中に絡まれても面倒だしなー」
鍛治ギルド関係で顔見知りと会わんとも限らんし。などと考えつつ、傍らの干し肉を噛み千切って味わい、酒で流し込む。
そんなサイラスの傍らで主同様ゴロゴロしているのは、首の辺りの黒い斑模様が特徴的な白狼。
ゆったりと尻尾を振りながら顔を上げて主の顔をじっと見る。
「ほれ」
サイドテーブルの皿から蒸し鶏を一切れ摘まんで口に放り込んでやると、満足げにもぐもぐやって再び丸くなる。
そんな大福から視線を窓の外に向け、酒を一口喉に流し込むと最近のドタバタが脳裏に浮かんでくる。
最初に浮かんだのは王国西部、シラー砂漠での一仕事。
…………
……
そしてそれから帝国へ……。
「……思えばかなり無茶な移動してね?」
東奔西走とはよく言ったもの。しかし、ビッグオウムの存在がそれを可能にしています。
依頼に思いを馳せることしばし。ふと視線を動かすと、傍らの大福が大欠伸。
昼寝も悪くない。せっかくの休暇、時間は贅沢に使わなければ。
後々、食事を要求する大福に起こされるまで、しばしの休息にサイラスは目を閉じる。
●うみキャン!
「よし、こんなモンだろ」
設営したテントを前にナハシュは満足げに頷く。
せっかく海辺でキャンプが出来るのだ。やらない選択肢は無い。野営装備一式を借り受けた後、一番乗りで
周りを見れば、冒険者と思しき者が数人、互いに邪魔にならないよう距離を取りつつ同じようにテントの設営をしている姿。その距離の取り方を見れば、彼等もそれなりにキャンプ慣れしていると見える。
であれば、互いに不要な干渉はしないのが作法というもの。
撒き餌の革袋と銛を手に、ナハシュは海へと入っていく。撒き餌をして待つことしばし……。
――一閃。
銛の一突きが見事に魚を捉える。
「岸に近くても大物取れるんだな。っと!」
腰網に魚を入れた直後、更にきらめいた銛の先には2匹目の魚が。これも腰網に入れると、更に沖へと足を進めていき……潜水を開始。
砂で濁った層を抜けると、澄んだ青の世界が広がる。着底すると、そのまま海底を歩き始める。岩に貼り付いた貝を銛で器用に剥がし獲り、底の砂を掘ってスープに使えそうな小ぶりな貝を採取。
夕食には十分な程度に魚介を確保すると、予てから考えていた実験を開始。革袋から撒き餌を掴んで周囲に散らすように放る。すると、その臭いに釣られた魚が徐々に集まり始める。
それに合わせてナハシュの体が伏せている砂地に溶け込むよう姿が消えていく。幸い、寄ってきた魚たちは彼に気づいていない。一際大きな魚に狙いを定め、銛が突き出される。
…………
……
日が落ち、ナハシュのキャンプから魚の焼けるいい匂いが立ち込める。
実験で獲った魚は大きすぎたため、輪切りにして貝と一緒に網焼きに。他の魚は豪快に串焼きでいただく。
「やっぱ、獲れたてを焼いて食うのは最高だな!」
食欲をそそる香りに手が止まることは無く、思いの外早く平らげてしまった。キャンプのテンション恐るべしといったところだろうか。
食後、一息ついて空を見上げる。満天の星空に渚の音のBGMが心地よい。時折パチンと爆ぜる焚火の音がいいアクセントだ。
昼間は海を堪能した。今夜は、この空と音、そして夜の静寂を堪能するとしよう。
●お嬢さんと黒服
海岸を眺める二つの人影。街から離れた方には、キャンプのためかいくつかテントが張られているのが見える。
「漁、出来るみたいですけど。いいんですか、しなくて? 海エルフとして」
傍らのネーヴェ・グラヌローザにそう尋ねるのはキーゼ。彼はぱっと見いつもの格好だが……?
「今日は海エルフはお休みです。折角のバカンスデートですもの」
恋人の問いに笑顔で答えるネーヴェ。こちらは麦わら帽子に白いワンピース、アクセントの青いリボンが映える。涼しげな夏のお嬢さんといった装い。
それよりも、と続けると舞扇を広げ。
「マント、暑くありませんか?」
と言ってキーゼを扇ぐ。恋人の気遣いにキーゼは目を細め。
「大丈夫ですよ。今日は……」
夏仕様です。と外套を少し捲って見せると……タンクトップ型のシャツ。確かに夏仕様である。
「ともあれ、ネーヴェが漁をしないのなら、ゆっくり散策するとしましょう」
波打ち際に近い場所をゆっくりと歩き、荷揚げの威勢のいい声が飛び交う港を抜けていく。
「潮風に乗って色んな香りが致しますね。甘いこの匂いは……パイナップルでしょうか」
交易の中継地でもあるこの街は、普段から様々な香りが行き交う。今の時期なら南方産のフルーツが全盛だ。市場には食欲をそそりそうな香りが充満している。
カットフルーツの串などを買い食いしつつ、二人はゆったりとした足取りで市場を見て回っていく。
「酸味も強くないですし、何より甘くて美味しいのでつい食べ過ぎてしまいそうですわね……」
幸せそうな困り顔で呟くネーヴェ。
「大丈夫ですよ。私たちは普段それ以上に動き回っていますから。なにより……」
せっかくの休暇です。楽しみましょうとキーゼ。
「流石港街。鮮度もいいためか、普段見ない魚介も多いですね」
内陸でも水が豊富なアキュアリスタとも種類が違い、辺境都市群では殆ど見ない魚も多く並べられている。
「宿のお食事に出るといいですわね。見たことのない魚ですと、味も気になります」
そうですねぇ、と目を細めて同意するキーゼ。
その後、獲れたての魚介の網焼きに舌鼓を打ち、ちょっとした広場でベンチに座って休憩中。キーゼがあるものを見つけた。
「おや、かき氷がありますね。いかがです?」
「あら、珍しいですわね。でも、一人で食べるには少し量が多そうですし、一緒に頂きませんか?」
「ええ、そうしましょう。買ってくるので待っていてください」
そうしてキーゼが買ってきたかき氷は……二人で、というのも納得のボリュームだった。
「シロップの甘さと氷の冷たさが気持ちいですわ……」
目を細め、甘さと冷たさを堪能するネーヴェ。
「そういえば、一部のベリーも夏の果物でしたね。酸味がいいアクセントです」
かき氷にはフルーツも添えられており、スイカ、マンゴー、パイナップルなど定番に加えてベリーのフルーツも添えられていたのだ。
「フルーツはお土産に考えておくのも悪くなさそうです。帰りは荷物が少し増えそうですかね」
その後、腹ごなしに再び海岸まで散策。夕方になると、キャンプ組の焚火がチラホラと見え始めていた。
宿に向かう二人だが、キーゼが入っていくのはこの街の宿でもグレードが高いクラス。提供されていた宿と違うことにネーヴェは驚き。
「まぁ、余分にお金が掛かりますけれど、宜しいんですの?」
カウンターで手続きをするキーゼに尋ねると……。
「視点の違いですよ。差額を払わなければならない、ではなく、払うだけで泊まれる。というわけですから」
折角ならこういったところで貴女と楽しみたいですからね、と笑顔。
「なるほど……そういう考え方も出来ますね。どんなお部屋でしょう、楽しみですわ」
通された部屋は貴族の屋敷もかくやという豪華さで。当然、食事もその日に入った最上級の食材を使ったものが振舞われた。
「たまの休暇です。こういうのも悪くないかと思いまして」
日が暮れても賑わいの変わらない街を見下ろす窓際の椅子に座り、サービスの果実酒を楽しむ。
「はい、ありがとうございます。おかげで、とても楽しめていますわ」
笑顔を交わす二人。外の賑わいと共に、夜が更けていく。
●優しい味
この街でも最高級クラスの宿。それも、テラスで部屋が繋がる隣り合った二部屋。
ジュスト・ヴェルジーとローザリカ・L・ディオールが避暑のために指定したのはそんな宿だった。
「差額自腹に抵抗はなかったし、どうせならね」
「まったくだね。折角の機会なんだから、何かを惜しむ必要はないよ」
それぞれの部屋に荷物を置くと、示し合わせたようにテラスに出る二人。
街のどの建物よりも高いフロアにある部屋だけあって、街も海岸も一望できる。
「海風も気持ちいいし、何よりこの景観が素敵だよ」
嬉しそうに笑顔を向けてくるローザリカを見て、彼女の安全と快適さを重視して選んだのは間違いではなかったと確信して微笑むジュスト。
「なら選んだ甲斐があったよ。それで、これからどうしようか」
「そうだね。観光も悪くないけど……いっそ、滞在期間はゆったり過ごすのはどうだろう。贅沢に時間を使おうじゃないか」
そう言うとローザリカは、手始めにここで、と並べて置かれたデッキチェアを軽く叩いて見せる。
彼等のこの避暑地での過ごし方は決まったようだ。
楽な服に着替えた二人はテラスのデッキチェアでゆったりとした時間を過ごしていた。
「サービスとはいえ、果物が多いね。ベリー以外もたくさんだ。この時期の地元ではベリー類が主だから、食べるなら少し珍しいものを、だね」
傍らのテーブルに置かれた果物を見て満足げに笑むジュスト。
「でも、食べるのはもう少しこの空気や眺めを堪能してからにしよう」
そして、二人の間に穏やかな時間が流れる。
ふとローザリカがジュストを見ると、微睡むように小さな寝息を立てている。
ジュストからすれば、久方ぶりの落ち着いた眠り。寝れない日が続いていたが、ローザリカの傍なら不思議と眠れる。二人の関係を考えればむべなるかなというところだが、恐らくそれだけではないだろう。
却ってローザリカはというと……。
ジュストを見る瞳には、心配の色が浮かんでいた。彼が気取られぬように振る舞ってはいるから、これは自分の勘。だから、彼が起きているときにこんな視線を向けることは無い。
それでも、今この時ぐらいはと、心配の中に慈しみも混じった目で寝息を立てる彼を見守る。
半刻も過ぎただろうか。身じろぎしたジュストが目を覚ました……?
「お目覚めかな? 仮とはいえ婚約者を放っておいて昼寝なんて、どういうつもりだい?」
言葉こそきつめだが、詰問の色は無く、むしろからかうような口調でローザリカが声をかける。
「ん……」
彼女の言葉に答えたのか、ジュストは頭を掻く。
「まあ、いいよ。その代わり……!?」
ローザリカは笑いながら、彼女の側にあったオレンジ色の果実を手に取り、その手をジュストの方に伸ばす。
――「食べさせて」――そう言うはずだった。しかし、それは遮るように伸ばされたジュストの手がローザリカの腕を掴んだことで叶わなかった。
突然のことに狼狽えるローザリカ。しかし、彼女はこの後さらに狼狽えることとなる。
「食べさせて?」
「は……? え? ちょっ……!?」
突然のお強請りに言葉が出ない。正確には、思考は回っていた。「そんな気の抜けた顔は初めて見る」とか「その仕草はずるい」とか。よもやの行動に対して思考に言葉が追いつかなくなっていた。
そこでようやくジュストの様子に気づく。……まだ寝ぼけているようだ。
――「……食べたらそのまま寝てしまえ」
そう言いたくなるのをぐっと抑えて。
――今日ぐらいは。そう、今日……こんな時ぐらいは
身を起こすと、腕を掴むジュストの手をそっと解き、両手を添えて戻してやる。
そのままビワの皮を剥いて身を割ると、ジュストの口元に。
――請われるままに果物を口元へそっと運んでやってもいい。
ジュストが静かに味わい、飲み込むのを確認すると、残った身は自分の口に運ぶ。
優しい甘さと微かな酸味が心地よい。
普段と立場が逆なことが新鮮で。ゆったり流れる時間は、その後ジュストがきちんと目を覚ますまで続いた。
マスターコメント
ご参加ありがとうございました。
ブランク明け一発目。久しぶりのお届けとなりましたが、楽しんでいただければ幸いです。
視点の違いには「お気づきになりましたか」と某軍師の思いでした。
イベントシナリオ易しい 報酬:無し9 / 4〜25人
2022年07月25日 22時35分48秒 公開
大成功
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