【極草】あの頂の先へ
真柄 葉
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シナリオID:2330
オープニング
岩と砂と雪しかない無機質な世界を、北へ向け一歩一歩進んでいく。
「……ここを登ればつくのね」
巨獣オルトロスに跨るエルフの少女『ビ=ネク』は、山肌に刻まれた頼りない『道』の先を見上げた。
「つくのは竜の里じゃないけどね」
答えたのは、オルトロス『エイヲ』に並び歩く巨人族の少年『ケイル』。
先日調査に出た冒険者達がある程度均してくれたとはいえ、そこはただの山肌でしかない。
「落ちたら助からないから、気をつけてね」
「それはこちらの台詞よ」
共に巨体を有する(ビ=ネクは相棒のエイヲだが)身である。一度滑落すれば、救出は絶望的なほどに、この道は険しい。
「馬車も気をつけて登ってね」
ケイルは後ろに続く馬車をひいていた冒険者に声をかける。
力強いビヒモーが引くとはいえ、馬車にとってこの道は過酷すぎる。『井戸』に置いてくるという選択肢もあったが、ここから竜の里まで、まだかなりの距離がある。食料などの必要物資を運搬する為に、馬車の助けは必要不可欠だった。
「……ここは雪が少ないからまだマシね」
「そうだね。この先の尾根は雪が積もってるっていうし、ちょっと考えないといけないかもしれないね」
冒険者達から聞いた話を思い出しながら、ケイルは再び前を向く。
峠の頂上まではまだ遠い――――。
●
峠の頂上はとても見晴らしがよかった。
北を向けば山々の尾根が連なり、左右を見渡せば厳しい極北の大地が一望できる。
岩と砂と雪の無機質な大地も、こうやって高所から見下ろせば美しいと思えるから不思議だ。
だけど、絶景を楽しむためにわざわざこんな極地まで足を運んだわけではない。
ビ=ネクは再び北へ目を向ける。
長く雪の堆積した尾根の先に、『巣』と呼ばれる場所が見えた。
「……あれを越えれば」
ここから見上げれば、まるで火山のように山の頂上が切り取られて見える。ケイルの話ではその『内側』も火口のように窪地となっているらしい。
「エルフの人、どうしたの?」
じっと北を見つめていたビ=ネクに、洞窟から顔を出したケイルが問いかける。
ケイルは先に洞窟に入り、冒険者達と野営の準備をしていた。
「中は暖かいから休むといいよ。明日からはもっと大変な旅になるから」
「……そうね。そうさせてもらうわ」
ビ=ネクはケイルに応えると、隣で蹲っていた『エイヲ』の首元を撫でて立ち上がるように促す。
「……少し雲が出てきたわね」
ふと視線を上げれば、うっすらと雲が空を覆い始めていた。
「おっ、ほんとだ。これくらいなら雪は降らないと思うけど」
「雪が降ったらどうなるの」
「うーん、雪の量とか風にもよるけど、ちょっと大変になるかも」
「……そう、急ぐ必要があるのね」
「そうだね。だけど、今は休もうよ。体力を回復させるのも大切な事だと思うよ」
「ええ、そうね……」
最後にもう一度空を見上げたビ=ネクは、ケイルに誘われるままに洞窟の中へと入った。
竜の里を目指す一行は、いよいよ未踏の地に足を踏み入れていく――――。
解説
マスターより
リプレイ
いつ降り出すかもわからない雪を警戒しつつ、トーラは雪積もる尾根を慎重に進んでいた。
「この辺りから雪庇が分厚くなっていますね」
トーラは双波を放ちながら雪の下の地面を確認する。もし間違って雪庇を踏もうものなら、どこまで続くかもわからない急な斜面を転がり落ちることになる。
「ごくり……」
トーラは斜面をちらりと覗き見、すぐに視線を戻した。
「そろそろ、『雪玉』の出たポイントだよ」
と、トーラと共に偵察に出たララベル・サン・ディーベルが前方を指さす。
峠から既にかなりの距離を進んだ。視界は開けている為、後ろを振り向けば仲間達の姿を確認する事も出来た。
「――皆への合図、完了。それじゃ」
「はい」
ララベルの合図にこくりと頷いたトーラが【生活魔法】で松明に火をつけた。
二人は灰色の世界で、煌々と燃え上がる松明の炎を前に突き出しつつ、尾根を進んでいく。
「……反応しない?」
「もう範囲内ですか?」
「うん、そのはずだけど……あっ!」
トーラに答えたララベルが左前方を指さした。
そこには雪の表面からポコポコと湧き出る『雪玉』の姿がある。
「どんどん増えて……って、多くないですか!?」
「うん! 松明を投げよう!」
『雪玉』は無限とも思える程に増え続ける。
二人は頷き合うと、手に持った松明を『雪玉』に向けおもいっきり放り投げると、一気に後退する。
「……『雪玉』が消えていきますね」
「うん、火には反応しないみたいだね」
十分に安全な距離を取った二人が、改めて『雪玉』発生地点を見る。
放り投げた松明はまだ燃え続けていた。
「となると……エーテルに反応している可能性が高いですか」
「うん、今度はスキルを使いながら近づいてみよう」
●
トーラ達が『雪玉』の性質と尾根の安全を調べている様子を、仲間達は峠の頂上から見つめていた。
「炎、光、熱……この辺りでの誘因は難しそうですね」
雪に中で燃える松明を、その優れた視覚で見つめていたアクティオン。
「ああ、後は匂いや生体反応、エーテルに反応するかだが……」
再び尾根を進み始めた二人を見つめ、ルチル・プルメリア・グレイハーツが呟いた。
「あ、また現れた! 今度はさっきより多い。やっぱりエーテルなんじゃないかな」
そして、ハーヴィが慌てて下がる斥候の二人を追う『雪玉』の群れを指さす。
二人もまたアクティオン同様優れた視覚で、斥候の二人の行動を見つめていた。
「行動範囲はそれほど広くなさそうですね」
「ああ、移動速度も遅い。あと感知範囲だね。感知範囲外に出ると追跡を諦めるから、ああも簡単に振り切れるんだろう」
「それじゃ、ダッシュして一気に抜ければ越えられそう?」
「それには反対です」
と、三人の話をじっと聞いていたリディリディ・トゥラ・イェレミースが声を上げた。
「道のりは長いです。私達だけで越えるのならそれでもかまいませんが、物資はどうするんですか。補給場所なんてないですよね?」
リディリディは三人に問いかけると、後ろを振り向いた。
リディリディ達の後ろには、資材や食料を満載したビヒモーのひく馬車がある。
「イェレミースさんは馬車の事を言っているんですね」
「そうです。道はまだまだ続くのに、この子と馬車を置いていくのは……死にに行くようなものじゃないでしょうか」
「確かに地図には『巣』を越えた後、また尾根が続き、峠のような急な坂道が待っているとありますね」
ヴィルヘルミナの問いかけに、こくりと頷くリディリディ。
「ごめん、僕もそういうつもりで言ったんじゃないんだ。僕だって危険は重々承知しているつもりだし、ビヒモーをこんな所に置いて行っちゃうのは心配だから、連れて行きたいって思ってるよ」
リディリディの琴線に触れてしまったかと、ハーヴィは頭を下げた。
「……いえ、別にあなたが悪いとかそういうんじゃないんです。ただ、この道を踏破するには馬車の力が必要だと思ったから、ああ言ったんです。誤解させてしまったのならすみません……わたしは、必ずこの道を抜けないといけないんで」
顔を上げたハーヴィにふるふると頭を振ったリディリディは、尾根の先にある『巣』をじっと見つめる。
「馬車をどうするかも含めて、二人の帰還待ちだ。まぁ、アタイも道中の事を考えると物資を輸送する手段が必要だとは思っている。馬車は引いていくことになるだろうね」
そんな二人の肩に手を置きながら、ルチルは洞窟の前でのんびりと欠伸をしているビヒモーを見た。
「しかし、道中が不明な以上、途中で馬車の破棄を決断する可能性もお忘れなく。あくまで踏破の助けとするための馬車であって、馬車を持っていくための踏破ではありませんから」
意見を同じくする仲間達に向け、アクティオンは釘をさす。目的を違えるなと。
「当然だ。アタイ達の目的は――」
「竜の里『ドラグエンダ』、です」
ルチルの言葉を継ぐ様にリディリディがはっきりとそう言った。
●
「ランタンには反応なし、食べ物には反応したけど、これは匂いに反応というよりエーテルに反応したのかな」
再び『雪玉』エリアから距離を取ったララベルは、敵の反応を改めて分析する。
松明同様、腰に下げたランタンを掲げてみたが、まるで反応はない。一方、『胚』の干し肉を投げ入れてみると、『雪玉』は反応し群がった。しかし、それも数秒。すぐにエーテルを吸い尽くしたのか、再び雪にとけて消えてしまった。
「もっと大量の食糧を投げれば効果があるかもしれませんが、そこまで余裕があるわけでもありませんし、食料で釣るのはちょっと難しいかもしれません」
「だね。となると、やっぱりスキルだけど……」
トーラとララベルは再び『雪玉』発生地点へ視線を移す。
色々と調べて『雪玉』はエーテルに反応している事で間違いはなさそうだ。現にララベルたちが放った双波に反応した『雪玉』たちは、マークのついた『雪玉』に引き寄せられた。しかし――。
「『雪玉』の移動速度がネックになるなんて……」
トーラが困ったように呟く。
『雪玉』の移動速度が遅すぎる為に、スキルが放つエーテルでの誘因がそれほど効果を発揮しないのだ。
「近づくと、こっちに寄ってくるし、連続でスキルを放ち続けるって手もあるけど……」
「流石に持ちませんよ。『巣』の向こうにもまだ道は続いているはずですし」
「だよね……」
二人は再び雪にとけていく『雪玉』たちを見つめながら思案する――。
●
ここまで出番がなかった。
それは何故かというと、極北を甘く見ていないからに他ならない。
「もこもこのゴブリン……まさにモフリンですわね」
笑うでもなく小さく口元を槌り上げたバンビ。
彼女はこれから先に待ち受ける、とてもとても困難な道に対応する為、ここまでしてきた以上の準備を、一人洞窟内でおこなっていた。
身体は換毛したからといって、それだけで寒さに耐えられるほど極北は甘くない。バンビは自慢の黒を捨て置き、この地へと持ち込んだ灰色ローブを見つめる。
苦渋も苦渋の決断だが仕方がない。いつもの暗黒頭巾は白の大地では目立ちすぎるし、逆に白では擬態が過ぎる。折衷案の灰ローブを纏いながらバンビは溜息をついた。
落胆にくれるバンビを苦しめる問題がもう一つある。
それは『靴』。
そもそも、どこへ行くのにも裸足である彼女が靴を履くのだ。極北行がどれほど過酷かが分かろうというもの。……え? わからない?
「……そんなはずはありませんわ」
と、バンビは頭を振ると灰ローブのフードを目深にかぶる。そして、いざ洞窟の出口へ足を向け――――。
「むむ? なんですの、どうかしましたの」
ようと思ったら、洞窟の入口からわらわらと仲間達が引き上げてくるではないか。
バンビは思わず可愛らしく首をかしげてしまった。
「オレの準備は万端ですわ。わざわざ出迎えに来ずとも――――」
「いえ、今日は中止です」
「……は?」
答えたリディリディに、バンビは思わずドスを利かせてしまう。
「このまま行くこともできますが……あいにくの曇天です。天気が崩れる事を考えれば、暫く待つのが得策です」
そんな事もお構いなく、リディリディはバンビに中止の理由を説明した。
リディリディの言うように、今日の天気は曇り。雲は重く黒く、今にも雪が降りそうだ。更には、尾根に吹く強風もある。下手をすれば吹雪く可能性もあった。
「……そうなればホワイトアウト。谷底に真っ逆さまです」
説明を終えたリディリディに、後ろに続く仲間達もうんうんと頷いている。
準備万端、心づもりも万端、全て万端でさぁ出発だと意気込んだバンビのやる気を犠牲に、一行は安全地帯である洞窟で天候の回復を待つ選択をしたのだった。
そして、洞窟内でタイミングを計ること3日。
「あ、晴れたよっ!」
洞窟を出て空を見上げたハーヴィが中の仲間達を起こしに行く。
こうして、天候の回復を待って、いよいよ尾根へのアタックが始まった。
●
「僕達の足跡を踏んで歩く様にして!」
先行するララベルとトーラに続き、馬車を中心とした一行は尾根を進む。
隊の先頭に立つのはヴィルヘルミナ。ビヒモーの足が雪にとられないよう、差し員の注意を払いながら手綱を引く。
そして、アクティオン、ルチルのシューター二人が中段に構え、馬車の後ろを、リディリディ、ハーヴィ、バンビのキャスター3人が固める。
しんがりを担うのはビ=ネクとケイルの二人。高い視線を活かし、隊と周囲を俯瞰しつつ、一行に続いた。
「そろそろです。皆さん、準備をお願いします」
トーラが前方を注視しながら、仲間に手で合図を送る。
そして、前方の雪だまりに【双波】を放った。
「……実際に見ると、なんともほのぼのする光景だ」
トーラのエーテルに反応し、ポコポコと雪面に湧き出てくる『雪玉』を【天眼】で俯瞰したルチルが呟く。
「遠くからだとあんまりわからなかったけど……間近で見ると、けっこう迫力あるね、これ」
見る間に増えてくる『雪玉』に、ハーヴィは腰に下げていたロープを取り出した。
「それは……洞窟で作っていたものですか」
それを見たリディリディは3日を過ごした洞窟での事を思い出す。
天候回復を待つ間、ハーヴィは何やらせっせと内職に励んでいた。
「それで、何をするんですか……?」
「うん、エーテルに反応するなら、釣れるかなって」
「釣る……?」
首をかしげるリディリディに頷いたハーヴィは、ロープの先を編み込み網状に加工したそれを、雪庇の向こう側へ向けて投げた。
すると、雪庇の下側にもポコポコと『雪玉』が現れ始め、ハーヴィの読み通り、エーテルの通ったロープに群がり始める。
「今だっ!」
ある程度『雪玉』が食いついたのを確認したハーヴィは、ロープを引き一気に釣り上げた。
ロープと共に上空に舞い上がる『雪玉』たちは――――。
――ビュー!!
反対の斜面から吹き上げてくる強風に煽られ、彼方へと吹き飛んでいった。
「よしっ、うまくいった!」
「これは……なるほど、風が弱点ですか」
「うんっ! 斜面の左側にしかいないって言ってたから、何か理由があると思ってたんだ。で、左右で何が違うのかと考えて、風だなって。だから、この釣りロープを作って――」
「折角の釣果に水を差して申し訳ありませんが、おかわりが来ましたわ」
と、ハーヴィが喜んだのも束の間、バンビは左側の斜面を指さし、告げる。
そこには、前方の群れ同様、斜面に湧き出た『雪玉』たちがどんどんと数を増していた。
「くっ! もう一度!」
ハーヴィは風に流されるロープを巻き取ると、再び斜面へ投げ入れる。
「……追いつきませんね」
しかし、ハーヴィが釣り上げ風に流す『雪玉』よりも、湧き出てくる数の方が圧倒的に多い。
「排除するよ!」
隊を俯瞰し全体を見渡すルチルから指示が出た。
冒険者達、そしてビ=ネクとケイルも武器を取り、無数に湧き出る『雪玉』の排除を始める。
●
「ふっ……!」
ヴィルヘルミナの一閃が衝撃波となり、ころころと転がりくる『雪玉』を弾き飛ばした。
「出現位置が左側に固定されているので対処はしやすいですが、やはり数が多い」
しかし、弾き飛ばした隙から、穴を埋めるように新たな『雪玉』が転がり出てくる。
「私達のエーテルにひかれているんでしょう。とはいえ、この数に対処するのに通常の攻撃では厳しいですが……」
一方、『雪玉』がエーテルに反応していると確信したアクティオンは、あえてエーテルの通わない矢を撃ち続けるが、効果範囲の狭さから、解決策とするのは心許なかった。
「捜波で剥がすのにも限界があるね……まったく厄介な敵だ」
そして、ルチルはあえて攻撃せずに、探索スキルで『雪玉』の誘導を狙っていた。
しかし、先日の斥候二人が確かめた通り、『雪玉』の移動速度がネックとなり、誘因出来る数が限定されてしまっていた。
馬車の後方でも、斜面左側に向け、数々の攻撃が繰り返されている。
巨大な火球が斜面上で破裂すると、破壊のエーテルをまき散らした。
魔法によりごっそりとえぐり取られた雪面を、リディリディがじっと見つめる。
「……また集まってきますね」
まるで抉られた傷跡を埋めるようだと、リディリディは思った。
『雪玉』はエーテルの残滓に釣られる様に、抉られた場所へ集まり、再びそこを雪面としてしまう。
「もしかして、この雪に見えてるのって、全部『雪玉』だったりして……!」
リディリディが穿った雪面より少しだけ近い場所へ、ハーヴィの放った光弾の雨が降りそそぐ。
光弾は雪に擬態したままの『雪玉』ごと貫き、斜面に無数の穴を穿った。
「……やっぱり駄目そうですわね」
再び復元していく雪面を見つめ、バンビが呟きながら、別の地点へ向け嵐を生んだ。
しかし、結果は前者二人と同じ、一時的に散らしはしたものの、効果的とは言い難かった――。
●
「これでどうだ!」
先行するララベルは馬車から十分に距離を取った位置で、【闘気槌】を見舞う。
斜面を転がり上がってくる『雪玉』たちは、その攻撃に吹き飛ばされた。
「今だよ! 馬車を進めて!」
進路上に『雪玉』が現れるのを阻止したララベルは、すぐに後続に声をかける。
「ダメです! まだ来ます!」
しかし、共に先行するトーラが手をクロスさせ馬車を止めた。
「くっ、もう一度だ……!」
「落ち付いてください! スキルは確かに効果がありますけど、逆に『雪玉』を引き付ける呼び水にもなるんですから!」
トーラは再び攻撃態勢に入ろうとしたララベルの手を引いた。
「ならどうするの! このまま歩いて進んだって僕達のエーテルに反応して寄ってくるんだよ!」
「わかっています! でも、やたら滅多にスキルを放っても息切れするのはこちらです!」
「くっ……!」
ララベルもそれをわかっているからトーラに反論できず悔しそうに押し黙る。
「この右側から吹き上げてくる風を、左側に吹き下ろせでもしたら、纏めて一気に吹き飛ばせるのに……」
「流石に風の向きを変えるのは難……今なんて言いました?」
「え? 風を吹き下ろせたらって言ったけど」
「その次です!」
「纏めて一気に吹き飛ばす?」
「そう、それです!」
何の事かと首をかしげるララベルを置いて、トーラは【双波】を放ち、雪の下の地形を確認する。
「あった。ここが雪庇と地面の境目です!」
「境目?」
「とにかく、雪庇を対象に、もう一度闘気槌をうってください!」
トーラは叫びながら、左側へせり出した雪庇の一点を指さした。
「なんだかよくわからないけど……!」
ララベルはそれ以上聞かず全身にエーテルを巡らせると、トーラの指さす地点へ【闘気槌】を叩きこむ。
すぐ近くでは、トーラも同じく『境目』に向けて【闘気槌】を打ち込んだ。
――ゴ……ゴゴ……。
「な、なんか地鳴りが……」
「ララベルさん、下がりましょう!」
トーラに言われはっと顔を上げたララベルがすぐにその場を飛び退くと、地鳴りは更に広がっていく――。
「そういうことか」
そして、二人の行動を俯瞰していたルチルもその真意を悟る。
「ならば、逃げられる前に一網打尽にしてやろう。アクティオン、こちらも『境目』を示すんだ」
ルチルは前方の二人を指さしアクティオンに声をかけた。
「境目……なるほど、承知しました」
ルチルに言われ、一瞬前方の二人に視線をやったアクティオンはすぐに理解すると、双波を放つ。
そして、『境目』を見つけたアクティオンは、そこへ向け連続で矢を放った。
「『点』を結んでください。そこが『境目』です」
雪庇に穿たれた矢を『点』と呼称し、アクティオンは仲間達に指示を出す。
「その前に、これだ」
それと同時に、ルチルは攻撃態勢に入る仲間達へロープを放って投げる。
「万が一の備えだ。落ちるんじゃないよ!」
仲間達はルチルのロープを掴むと、一斉にアクティオンのつけた目印に向けスキルを放った――。
●
「もうすぐ『巣』ですか」
ヴィルヘルミナが『巣』を見上げる。
『雪崩』を利用し、『雪玉』たちを一気に押し流した一行は、『巣』を目指し進んでいた。
障害物の無いこの尾根からは手も届きそうに見えるが、実際まだ少し距離はある。
「ここからならいけるだろう」
そう言って、ルチルは相棒ラトの分身を作り出した。
「僕達がいった方が早いんじゃ?」
「いや、『巣』の情報はほぼ0だと言っていいからね。まずはこの子で偵察させるよ」
先行役であったララベルが問いかけるも、ルチルは首を振り分身を放った。
「この調子なら馬車を置いて行かなくて済みそうだね」
ハーヴィは雪庇の崩れた尾根を慎重に進む馬車を見る。
ビヒモーは切り立った足場の上を、臆することなく進んでいた。
「はい、この子を置いて行かずに済んでよかったです……」
それも、リディリディの【動物交感】によるケアが大きいだろう。
彼女は事あるごとにビヒモーに話しかけ、その感情を読み取ると、不安を取り除いていた。
「とはいえ、まだ道半ばです。ここから先何があるかわかりませんので、警戒は続けましょう」
と、アクティオンが双波を使い辺りの警戒を始めた。
「『巣』の底に征竜が眠る……」
突然呟いたヴィルヘルミナに、仲間達がざわついた。
「えっ、征竜が居るんですか……?」
「いえ、そういう訳ではありません。ただ『巣』と名前がついているので、何かいるのかなと。そして、あの大きさであれば征竜の可能性もあるかと思っただけです。まぁ、征竜を見た事ないので、大きさは想像ですが」
思わず聞き返したトーラに、ヴィルヘルミナは首を振る。
「征竜は竜の里に居る。それは間違ありませんが、征竜が一匹だけとは限りませんわ」
そんな二人にバンビが声をかけた。
「ええっ!? 征竜さまって沢山いるんですかっ!?」
「……なるほど、その可能性もありますか」
バンビの呟きに、驚くトーラ。そして、ヴィルヘルミナは深く考え込んだ。
「とはいえ、居るのなら征竜よりクリーパーの類かと思いますわ。こんなくそ寒くて寂しい所に頭のいい征竜がいるとは思えませんし」
そう言ってバンビは『巣』を見上げた。
「まぁ、何がいるにせよ警戒するに越した事はありませね。征竜であれ大型クリーパーであれ、居れば撤退する羽目になるでしょうし」
「やっぱり、こっそりは通れませんかね……?」
「通れないでしょうね。それほど極北が甘いとは思いません」
「ですよねぇ……」
きっぱりと言い切ったヴィルヘルミナに、トーラががくりと肩を落とすのと時を同じくして、ラトの分身が戻ってきた。
●
「大穴? おかしいなー、そんな話聞いてないけど」
ルチルが語った状況にケイルが首をかしげる。
それもそのはず、分身を介し見た『巣』の状況は、地図に記されたものとは少し違っていた。
「少なくともすり鉢状ではなかったね。底でも抜けたか?」
「うーん、どうなんだろう。それで中には何かいたの?」
「いや、何もいない。ただただ深い闇が続いていた」
ルチルは戻ってきた分身にお疲れさまと声をかけ、消滅させる。
「脅威がないのはいい事なんじゃないのかな。まぁその大穴の底に何かがいる可能性もなくはないけど」
「小さいとはいえエーテルの塊である分身が近づいて反応がなかったのですから、現状いない可能性の方が高いかもしれませんね」
『巣』を見上げるハーヴィに、アクティオンは答えた。
「地図を修正しておきますか?」
「あ、うん。お願いできるかな」
ケイルに言われヴィルヘルミナは頷くと、早速地図に新たな情報を書き込む――。
●
「ほんとに大穴だったよ」
「吸い込まれそうでちょっと怖かったです」
斜面を滑り降りてきたトーラとララベルの報告に、一行は『巣』を見上げる。
一行は尾根を渡りきり、『巣』の袂へと辿り着いていた。
「敵性存在はいないんですね?」
「捜波を放ってみたけど、何もいないね。ただ、あの穴、探波の範囲よりももっと深そうだから、奥の方はわからない」
「松明を放り込んでも見ましたけど、底につく前に見えなくなりました……」
ヴィルヘルミナの問いに、二人が答えた。
「相当に深いようですね。一体、誰があけたのか」
「こ、怖いこと言わないでよ!」
そんな三人の会話を聞きながら呟いたアクティオンに、ハーヴィは思わず身構えた。
「敵がいないのならいいじゃないですか……早くこんな所通り過ぎてしまいましょう」
「賛成ですわ。体を休めるにしたって、もう少しましな場所があるでしょう」
リディリディの提案にバンビが頷く。
「二人はそのまま『巣』の淵で警戒してくれるかい。アタイも空から異変がないか視ておく」
ルチルに言われ二人は再び岩だらけの坂道を駆けあがっていった。
●
『巣』を越えた一行は、下りの尾根へと入る。
登りと同様、雪庇に包まれた尾根は危険であり、無数の『雪玉』に道を阻まれるが、冒険者達は先ほどの尾根同様、『雪崩』を引き起こし一掃すると、慎重に尾根を渡り切った。
「うん、後はこの坂を下るだけだね」
峠へと無事にたどり着いた一行が一息ついていると、ケイルが地図を見ながら下りの坂道を指さす。
一行はその声に応え腰を上げると、最後の難所へ足を踏み出した。
こうして、長く険しかった極北行は、ついに終わりの時を迎えようとしている――――。
マスターコメント
ミドルシナリオ難しい 報酬:多い8 / 6〜8人
2022年07月15日 22時55分54秒 公開
参加者
ヴィルヘルミナ
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
- イェレミース トゥラ リディリディ
ララベル・サン・ディーベル
バンビ
トーラ
アクティオン
ハーヴィ
相談掲示板
シューターのアクティオンです、引き続きよろしく。 さて、『巣』から先は未知ですが、まずは尾根ですか。 クリーパーは単体は弱い方ですが、場所柄こちらはそう動き回れないのも辛いところ……逆に言えば、クリーパーの方も落とせれば倒せないまでもそうそう復帰はしてこれない、でしょうか。 >馬車 時間をかけることによる状況変化の可能性も考えれば、馬車なしでの踏破の方が良さそう、と個人的には思いますが、さて。
シーフのトーラです。 よろしくお願いします! 馬車を守って範囲攻撃とかで道を開いて行くか、クリーパーの足が遅い事を考えて馬車なしで迅速に進むかという所でしょうか? わたしもクリーパーが多い様なので馬車を置いていくのが良いかなと思うんですけど、此方に反応する手段が分かれば誘導して馬車を先に進める事が出来ないかとも思うんですよね……。 エーテルか、熱に反応するなら生活魔法で火を出して誘導できないかなとか。
ヴィルヘルミナです、今回もよろしくお願いします。 ルートは峠越えになりましたね。強力なクリーパーはいませんが、環境が大敵な感じでしょうか。 雲行きが少し怪しいみたいですし、足場も悪いので。 個人的に馬車は通れるのかという疑念を前回抱いていましたが、一応通る事は出来るみたいですね。 既に洞窟の所まで進んでいるので、この先馬車をどうするかで動き方が随分変わりそうです。 連れていくべきか置いていくべきか。 竜の里まで持っていけば、帰りは氷湖経由でも馬車引いて帰れるかな?とは思いますが。 その必要があるかはまた別として。 『巣』の情報がないので色々な事態は想定しておきたいですね。 新手のクリーパーがいる可能性も捨てきれませんし。
キャスターのハーヴィだよ。今回もどうぞよろしくね。 馬車を持って行くか置いて行くか、それが問題だね……。 今回もキャスターは3人だから、範囲攻撃は十分に出来るかなって。 個人的には遭難が怖いから、安全性を取って馬車同伴で行く方に一票投じたいかな。 クリーパーが多いからこそ、その討伐に手間取る可能性もあるかなって思ったり。 まぁでも、そうなると馬車を守らないとだから、悩ましいところだけど……。
情報屋のルチルだ。 引き続き、よろしく頼むよ。 雪玉クリーパーの性質上、取り囲まて足止めを食らう方が問題になりそだね。 取り囲まれないように進みたいなら馬車を置いて行軍するのがベター。 洞窟に馬車を留めれば知らない内にロストしたって事にはなるまい。 反面、馬車を持っていかないと遭難した時のリスクが大きすぎるか。 竜の里に辿り着けばそこで補給はできそうだが…。 とはいえ横風が強い環境で馬車を使うと、そちらのフォローにも手間が割かれる。 個人的には、頂から馬車を使わず進んで行く方に一票だね。
馬車 現状だとやや置いていく方が優勢のようにも見えますが、顔を出していない方も考えるとまだ決定は難しいところ、ですか。 ここは全体のスピードにも関わるので結論を出してから挑みたいところですが。 >クリーパー 前回、こちらの何に反応して動き出したかははっきり分からないのが難しいところです。 動き出す直前にこちらが何かアクションしたわけでもないので、今出ている熱源などはありそうですが。 数が多いので範囲攻撃で何とかしたくはありますが、あまり派手にやりすぎると道にも何らかの影響が出るかもしれませんし、そこも注意でしょう。 前回、風を避けていたことを考えると、意外と強風とかでも吹き飛ばせたり……?
No.7
すみません。 遅れてしまいました。 キャスターのリディリディです。 よろしくお願いします。 クリーパーは魔法でどうにかなる程度の「非常に数が多く」なのかはわかりませんね。 クリーパーが第一陣、第二陣・・・、として来るかもしれませんし、警戒が必要だと思っています。 馬車については・・・。 なんらかのアクシデントで行軍が遅くなることは十分に考えられます。 クリーパーに手間取っている間に天候が変わるなどもありえそうですし。 私は馬車と共に進んでいく方が良いと考えています。
馬車はそうだね、置いてく方が今のところ優勢に見える。 アクティオンさんの言う通り、ここは結論出しといた方が良いかなって思うけど、出発日を考えると待つのは明日の夜くらいまでが限度かな? >クリーパー 僕は対象識別のあるメテオライトで叩くつもりだから、道への影響はそんなに出ない筈……? キャスター以外が範囲攻撃をする場合は、攻撃手段は選んだ方が良いかもだね。 雪庇を無くせば強風は吹き付けるだろうけど、雪庇を何とかしようとすると雪崩を引き起こす可能性があるから、そっちの方が怖いかも。魔法で風は起こせない筈だし……。 熱源はあり得るかもね。焚き火でも起こしてみるとか?
とと、ごめんねリディリディさん。発言被っちゃった。 んん、そうなると馬車を持って行くか置いて行くかは現状、半々くらい、かな? 馬車を持って行くメリットは、不測の事態に備えられること。デメリットは敵に囲まれて行軍が遅れる可能性が高いこと、かな。持ってかない場合はその逆だね。 むむむ、悩ましいな……。
少し止まっている感じですか、この時期だと仕方ありせんが。 私は馬車を持っていく方にしておきます。 時間制限のデメリットは思いのほか重そうな感じがしますので、速度より安定を取ろうかと。 まだ意見を出していない方もいるので、どちらにするかはもう少し待った方が良いでしょうか? そもそろ方向性は決めておきたい所ですが。
>馬車 持っていく:ヴィルヘルミナ君、イェレミース君、ハーヴィ君 置いていく:グレイハーツ君、トーラ君、アクティオン ……綺麗に分かれてますね。 個人的には現時点で決めておきたかった感はありますが。ここから待ってどっちかに決まるとも限りませんし。 自分達の目的は踏破、と考えると安全性から「持っていく」に変えますか。 馬車を守る手間は増えますが、いずれにせよ自分達の身を守るためにクリーパー対策は必要なわけですし。 ただ、ないとは思いますが大型クリーパーの出現や、「馬車を守ろうとすると完全に足が止まる・進めなくなる」状況では放棄……ということも考えることになるかな、と。 踏破の為に馬車を持っていくのであって、馬車を持っていくことが目的ではないわけですし。 >クリーパー >>熱源 焚火では動かせませんし、まず反応を試すなら松明などでしょうかね。火をつけてどこかに放り投げるなどしてみて、それで反応があるなら焚火で引き付けておきその隙に、とか。 馬車を持っていく方向なら振り切るのは難しいので、範囲攻撃で削り切れない場合はどうしたものか…… それこそ、馬車から餌になりそうなものを撒いて食いつくか試す、とか?
あとで意見が出るかもしれませんし、とりあえず考えたことをつらつらと。 ルートは尾根⇒『巣』⇒尾根⇒峠⇒下山後に竜の里になっているので、 少なくとも『巣』の後にもう一度『雪玉』の群れがいるとも考えられますね。 『巣』はどうなっているかわからないので、とりあえず『雪玉』の対応ですか。 馬車を置いていくなら、適当に処理しつつ時に駆け抜けて逃げる形になりそうかなと。一般人でも走って逃げられる速度のようですしね。 いちいち相手してたら、おそらく時間が足りなくなるというのもあります。 馬車を引いていくなら、安全確保の為に必然的に鈍い足取りになりますね。 『雪玉』も蹴散らして進む形になるので、範囲攻撃はなるべく多い方が良さそうです。 間を取って『巣』で置いていくという方法もあるとは思います。 ここで一夜明かすみたいな感じになるならですが。 >クリーパー 熱原以外だと音とか匂いですか。エーテルの感知だったら誤魔化し効きませんが。 感知方法が不明瞭なので色々試すのも手ですね。
あ。すみません。 馬車を置いていくかは悩んでました。 ちょっと考えたんですけど、雪玉クリーパーの誘導が出来るか試して、出来るようなら馬車を持っていく、出来ないなら置いていく。……というのはどうでしょうか? 誘導はわたしが松明と生活魔法でやってみますので。
全員分の意見が出揃わないのは…まあ仕方がない。 他に配慮して細かい打ち合わせができなくなるのも、本末転倒だからね。 一応、馬車を持っていく方向で考えを進めて行こうと考えているよ。 >『雪玉』対策 キャスターでなくとも識別範囲の持ち込みはできるが、過信は禁物と思っているよ。 エーテルを感知しているとあるので、単純な五感に訴える囮では効果がないかもしれん。 シーフの機動力を利用してスキルを使って囮になり引っ張る…なんてのも考えたりはしたが。 トーラが提案してくれるなら、先にうまく釣れるか試してみてもいいかもしれん。 人数に反応するか、動き回る対象に反応するかの違いが見れたら大分状況は変わってくるね。 アクティオンの言葉通り、重そうなイメージはないな……横風も使いようによっては味方に付ける事もできるか。
ごめん、言葉が足りてなかったから再発言。 >馬車 持って行く方向で行くんだね、了解。 その前提で動きを決めてくよ。 もし上手く『雪玉』を誘導出来なかったら、最初の段階で、またはヴィルヘルミナさんの言うように途中『巣』で置いてくのも手だとは思う。 >『雪玉』対策 あ、そっか、雪庇の無いところに引き寄せることが出来れば、雪崩を気にする必要は無いね。 上手く釣り出せたなら風で飛ばすことも出来そう。火以外にも何か釣る手段があると良いかも……うーん。 軽そうなイメージは確かにあるから、母蜘蛛糸のロープで網でも作って釣ってみる? トリモチの要領で。 とりま範囲攻撃と、トーラさんの釣りが成功した時用に焚き火の準備はしとくね。
それでは、誘導を担当させて貰いますね。 うまく行けば馬車を引いていくということで!
母蜘蛛糸のロープを使ったトラップ作戦もいいと思うな。 自力で破れるほどの力がなければ、上手くやって雪玉第二波の障害物に使う事もできそうだ。 こちらでも持ち込んでおく事にしよう。 >懸念 ふと前回の報告書を見返して気づいたのだが、攻撃された後の雪玉の群れが反応したのがスキル(エーテルの使用)に反応したのなら攻撃すればするほど雪玉を呼び寄せる事になりそうだね。 雪玉の出現に上限があるなら兎も角、そうでなければスキルを使った攻撃危うい面があるかもしれん。 ただ、逃げに徹すれば誘導は可能という考えは変わらないのでトーラによる囮作戦はそのまま続行の方針でいる。 危険を避けるようにバックアップはしっかりやっておくさ。
私は範囲攻撃を中心にスキルをセットしていきます。 雪玉の誘導が上手くいかなかった場合は処理する必要がありますし。
解説見直したら『巣』のあとが竜の里になっていますね。 前回の解説は『巣』のあとに尾根⇒峠とあったのでその認識で進めていました 今更なので、前回の想定でプレを書いておきます