【樹謂】反撃の一手

革酎

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シナリオID:2260

オープニング

●その氏族の名は、アルダーヴァー
 フィルエス大森林にて世界樹の東側を守護するエルフ大氏族メイルアイレ(聖鳥)とその分流氏族は、帝国過激派の攻勢を浴び、青色吐息の状態に追い込まれている。
 シルトラース帝国の元宮廷女官長にして帝国過激派重鎮のひとりザフィーア・ハイセンは、優秀な死霊術師としての技量を発揮し、フィルエス大森林内で虐殺した多くのエルフの死体を用いて巨大なアンデッド軍団を作り上げた。
 エルヴンゾンビ連隊とザフィーアが名付けたこの大部隊は、点在するメイルアイレの分流氏族の集落を次々と攻め落とし、今や世界樹の根元近くにまで迫ろうとしている。
 この進軍経路を見るに、ザフィーア率いる帝国過激派の目的は、どうやら世界樹そのものにある様だ。だが、その目的は分からない。一体何を企んで世界樹への進軍を続けているのかは、未だに謎であった。
 されど、攻めてくる以上は敵だ。撃破しなければならない。
 メイルアイレ分流氏族のひとつプザスは過日の戦闘でザフィーアのアンデッド部隊を辛うじて退けたものの、集落自体は最早激しい防戦には耐えられないとして、集落民全員で集落地を放棄し、同じくメイルアイレ分流氏族のひとつであるアルダーヴァー集落と合流した。
 アルダーヴァー氏族はメイルアイレ分流氏族の中でも特に戦闘力が高いことで知られており、本流たるメイルアイレ大氏族の民の一部は、アルダーヴァーに一目置いているともいわれている。
 プザス集落の長ロズウッドは、アルダーヴァー集落の長ランフェラーと知己であり、且つランフェラー自身が面倒見の良い性格ということもあって、プザス集落民の受け入れを打診したところ、ランフェラーはふたつ返事で応諾してくれた。
 かくしてプザスの民は、広大な集落敷地を持つアルダーヴァーに仮住まいを得る運びとなった。

 プザスの集落民全員が移動を終えてアルダーヴァー内の仮設住宅群に腰を落ち着けた頃、ロズウッドはランフェラーの自宅を訪ねた。
 ランフェラーは200歳近い年齢ながら、今尚若々しさを保つ妖艶な美女である。ロズウッドは蜂蜜酒のもてなしを受けながらも、メイルアイレを襲った敵が帝国過激派であることを静かに語った。
「奴らは、我らの同胞をアンデッドに仕立て上げて、現地調達の戦力として日々膨張している。あの勢いを止めるのは中々、至難の業だぞ」
 大きな木製ジョッキで二杯目の蜂蜜酒を空けたところで、ロズウッドは神妙な面持ちでその様に語った。
 ランフェラーも戦闘に長けた氏族のトップだけあって、情報には敏い。既にザフィーア・ハイセン率いる死者の軍団の規模や戦力に関する分析は、ある程度まで進めているのだという。
「大森林内の魔獣なんかもアンデッド化してるって話じゃないか。相当な数に膨れ上がってるだろうね」
「だが、このままでは世界樹への到達も時間の問題だ。メイルアイレ以外の大氏族ですら手を焼いている。ここは何とか我々で対処するしかないだろう」
 渋面を浮かべるロズウッドに対し、ランフェラーはしばし腕を組んで考え込む。
 それからややあって、ランフェラーの口から疑問の言葉が発せられた。
「でもさ、そんだけ大量のアンデッドを、ひとりで制御出来るもんなのかい? あたしが思うに、中継役のゾンビを使って動いてんじゃないか、って読んでるんだけどね」
 つまり死霊術師がひとりであの大量の死者を動かしているのではなく、小隊長役のゾンビが100か200程の数で点在し、その個体を中継して全軍に指示を出しているのでは、というのがランフェラーの読みであった。
 であれば、その中継役個体を斃すことで、ザフィーアの操る死者の軍団はただの烏合の衆と化すだろう。
 問題は、どうやってその中継役個体を特定し、それぞれ撃破してゆくか、だ。
「やっぱり、冒険者の手を借りなきゃいけないだろうね。中継役個体が居るなら、そいつを起点にして集団毎で動いてる筈だ。その大枠の動きをまず見極め、その次に中継役がどいつなのかを分析する力量が要る」
 そこまでのことが出来るのは、矢張り冒険者以外に居ないというのがランフェラーの結論であった。
 ならばということで、再び冒険者を雇う運びとなった。今回はプザスとアルダーヴァーの連名による依頼という形で、冒険者ギルドに要請を掛ける形になるだろう。

●ザフィーアと、そのお供達
 フィルエス大森林とシルトラース帝国境に程近い、どこか。
 過去に財を成した何者かの邸宅であろうか。大きな石造りの建物が、鬱蒼と生い茂る樹々の中で、ぽつんと浮かぶ様に鎮座している。
 その邸宅内の広い一室で、征竜の具足を身に付けた壮年の偉丈夫が黙然と木椅子に身を預けている。
 シルトラース帝国皇帝ヨゼフ・バルダスであった。
 その視線の先では、ザフィーア・ハイセンが低く頭を垂れて恭順の姿勢を示している。ザフィーアは自らが率いるエルヴンゾンビ連隊の進軍状況について定期報告を淹れる為に、皇帝ヨゼフのもとに足を運んでいた。
「……以上が、本日のご報告内容でございます、陛下」
「うむ、よく分かった……引き続き世界樹を目指し、駒を進めよ」
 そこで謁見は終了となった。
 ザフィーアは臣下の礼を取ったまま後方へと退き、タイミング良く開け放たれた扉の向こうへ、じりじりと両膝をついたまま退いた。
 そうして廊下に出たところで、ザフィーアは漸く人心地ついた気分だった。
「はぁ~……今日はあのふたりの失態についてもご説明しなければならなかったから、久々に緊張してしまいましたわぁ~」
 などとぶつくさいいながら、絶妙なボディラインがくっきりと浮き出るタイトなドレスの裾を軽く叩いて埃を落としていると、妙な視線が突き刺さってくる感覚がある。
 見ると、待合用の小スペースに設置された木製ベンチにメドゥの指先幹部『青の中指』ジルベルと、同じくメドゥの指先所属の死霊術師アリバ・ジャハール・カサドの姿があった。
 ザフィーアは豊満な胸元を僅かに反り返らせ、あなた方のことは宜しく申し伝えておきましたよと、妙に恩着せがましい態度で笑みを浮かべた。
 ジルベルなどは、もうこの女には何をいっても無駄だ、全部本人の都合の良い様に解釈されると、すっかり諦めた様子である。
「そいつぁ宜しゅうござんしたな……ところでよぉ、冒険者ギルドが皇帝陛下の所在を確認しようってな動きを取ってるぜ。依頼人はどうやら、レイウェスト殿下だってな噂だがね」
「あら、そうでございますの。いずれ殿下も、陛下の御心を御理解なさる日が来るでしょうから、それまでは御自由になさいまし、というのが陛下の御意思に御座いますわよ」
 ザフィーアは帝国皇子レイウェスト・バルダスの動向など知ったことかと、鼻で笑った。
「さ、おいでなさいまし。メイルアイレ最後の分流氏族を叩きのめしに参りますわよ」
 ジルベルとアリバは、露骨に嫌そうな顔で見合わせた。ふたりは結局のところ、ザフィーアの作戦が失敗した際の尻拭い係、スケープゴート要員として駆り出されるに過ぎない。
 正直、馬鹿馬鹿しくもあったが、皇帝ヨゼフのメドゥへの覚えを良くしておくには、こういう下回りの雑事も引き受けなければならないのが、辛いところであった。

解説

状況:  今回は、依頼が二種類ございます。  ひとつ目はメイルアイレの分流氏族アルダーヴァーとプザスからの連名の依頼で、ザフィーア・ハイセン率いるエルヴンゾンビ連隊への反撃任務です。  冒険者ギルド経由で依頼を受け、アルダーヴァー集落に集まったところからスタートして頂きます。  依頼内容はOP本文にもあります通り、中継役個体の特定と撃破です。全てを斃すことは難しいかも知れませんが、半数以上を斃すことが出来ればエルヴンゾンビ連隊は制御不能に陥り、ザフィーアに一矢報いることが出来るでしょう。  そしてふたつ目はシルトラース帝国皇子レイウェスト・バルダスからの依頼で、皇帝ヨゼフ・バルダスの所在の有無を確認することです。  こちらもアルダーヴァー集落長ランフェラーに委託という形で采配が任されており、ランフェラーからの代理依頼として、同じ出発地点からフィルエス大森林東方を目指し、帝国過激派の拠点のひとつを探すという任務になります。  メインとなる依頼はひとつ目のエルヴンゾンビ連隊への反撃で、ふたつ目はプラスアルファ任務であり、達成出来ればボーナス上乗せという体となります。  エルヴンゾンビ連隊は既に世界樹まで数日という距離にまで迫っています。ここで中継役個体をどの程度撃破出来るかで、後々の戦闘に大きな影響を与えることになるでしょう。 敵:  既に四桁に上ろうかという数のエルヴンゾンビの大群と、魔獣その他のアンデッドの大集団です。  しかし斃すべき相手は中継個体であり、他のゾンビは斃す必要はありません。  ザフィーア・ハイセン、ジルベル、アリバ・ジャハール・カサドと直接交戦する可能性もあります。 NPC:  プザス集落長ロズウッド、アルダーヴァー集落長ランフェラーが依頼人として登場します。  皇帝ヨゼフ・バルダスと直接顔を合わせることはまず無いと思いますが、運悪く遭遇してしまったら確実に叩きのめされます。十分ご注意下さい。

マスターより

 皆様、こんにちは。  連動【樹謂】でのシナリオをご提供致します。  今回はふたつの依頼が混在します。基本はひとつ目のエルヴンゾンビ連隊への反撃が達成されれば成功となりますが、ふたつ目の依頼で皇帝ヨゼフ・バルダスの所在が確認出来れば大成功といったところでしょうか。  必ずしも両方達成することまでは望まれておりませんが、少なくともエルヴンゾンビ連隊への痛撃が達成出来なければ、失敗となります。  それでは、ご縁が御座いましたら参加のご検討を頂けますと幸いです。

リプレイ

●試行錯誤
 フィルエス大森林内。
 メイルアイレの分流氏族アルダーヴァーの集落から、東へ徒歩数時間の距離――そこに、不気味に蠢く屍の群れが巨大な塊となって西進を続ける姿があった。
 その圧倒的な軍勢を、ロイ・アウレアは小高い岩場の上からそっと眺めている。
 アルダーヴァーの長ランフェラーからの依頼を受けて屍の群れ、通称『エルヴンゾンビ連隊』の中継役個体を探し出して撃破するという任務に就いていたロイはこれまでのところ、数度に亘ってジャマーを仕掛け、命令念波が阻害されて進路を外れたゾンビ共を次々と北、或いは南の窪地や谷間等へと誘い出し、群れの規模を少しずつ削り続けていた。
 その岩場の裏手に、黒汗馬に跨ったアルマ・ヴァレンタインがそっと馬体を寄せてきた。柔らかな土や落ち葉で覆われた地面を選んでゆっくり歩かせれば蹄音が響くことも無く、ゾンビの感覚に捕捉されずに動き回ることが出来る。
 アルマは片手で手綱を握り、もう片方の手でランフェラーから借りた周辺地図を覗き込みながら、声量を落としてロイに呼びかけた。
「どう? 中継役、見つかった?」
「そうだな……何となく、目星は付いてきた」
 岩場の裏手へと軽やかに降り立ったロイは、アルマが差し出した地図に幾つかの印を書き込む。これまでにロイが群れからはぐれさせたゾンビ共の、大体の数と位置を示す情報だ。
 と、そこへルアンナ・ミュラーが何ともいえぬ面持ちで別の地点から引き返してきた。
「少し、見立てが違った様です」
 ロイとアルマに出迎えられ、ルアンナはやれやれとかぶりを振った。ルアンナは中継役個体が、ゾンビの群れの後方に位置していると踏んで攻撃を仕掛け続けてきたのだが、群れの統率が崩れることは無かった。
 攻撃直後、すぐに姿をくらまして観察を続けたルアンナは、群れの後方の個体が斃されても、ゾンビ共が尚も整然と西を目指して進行を続ける姿に、中継役が群れの最後尾に居るという推測を捨てざるを得なかった。
 ロイとアルマはそれぞれ後方以外の外側を攻めた。が、いずれの側面のゾンビが姿を消しても、矢張り群れは崩れない。となると、中継役は群れの外縁部には居ないと結論付けることが出来る。
 そして、ルアンナに次いで引き返してきたキオルティスの報告で、中継役の居場所はほぼ決定づけられた。
「ゾンビ共は大体、二個小隊規模で固まっている。その真ん中に居る奴を斃してからジャマーを仕掛けたら、その集団は完全に動きがバラバラになったよ」
 その端正な面を隠す様に、ぼろぼろの衣服と、乾いた屍の皮を体のあちこちに張り付けているキオルティス。徹底した隠密行動でゾンビの群れの内側に紛れ込み、ど真ん中に位置していた個体を他のゾンビに悟られること無く一瞬、且つ一撃で仕留めて素早く離脱した。
 すると、群れ全体の動きがぴたりと止まった、というのである。
 そこへキオルティスの支援に入っていたナタリア・フィッツジェラルドが群れの中央に駆け込んでジャマーを仕掛けたところ、たちどころにゾンビ共は糸が切れた凧の如く、好き勝手な方向に彷徨い始めたらしい。
「俺は別の群れへと向かう。ベルクさんとアルシエラさんに、中継役の探り出し方を伝えてこないとね」
 それだけいい残して、キオルティスは再び岩場の裏手から駆け出していった。
 その後ろ姿を目で追いながら、ルアンナとアルマは成程、と頷き合う。
「よくよく考えればジャマーも自身を中心として発動される円状効果な訳で、前方への扇状という範囲形状ではありません……逆もまた然り、という訳ですか」
「理論さえ分かってしまえば、難しい話じゃなかったね」
 しかしまだもう一点だけ、疑問が残る。
 帝国過激派の宮廷女官長にして凄腕の死霊術師たるザフィーア・ハイセンは、フィルエス東端部から世界樹に至る長大な距離を、どうやってカバーしているのか。
 実のところ、この点に関してはキオルティスが中継役個体の見分け方を伝えに行ったアルシエラ・ライゼルとベルク・オスマットが、既に見破っていた。

●エルヴンゾンビ連隊の実情
 キオルティスが合流したアルシエラとベルクは早速エルヴンゾンビ連隊への痛撃、即ち中継役個体への徹底した集中攻撃へと打って出ようとしたが、その前に、ふたりはある事実をキオルティスに告げた。
「これは、シュタインドルフ殿の観察結果から導き出したのだが……」
 そう前置きしてから、ベルクはエルヴンゾンビ連隊の全体への命令伝達手段についての、ひとつの考察を口にした。
 即ち、中継役個体同士がぎりぎりの命令念波中継距離を維持して、最後方から発せられる命令をバケツリレーの様に前へ前へと伝えていっているのではないか、と。
 実際、セロンガード・シュタインドルフが自らの足で調べたところによると、エルヴンゾンビ連隊全体の陣形は東西に細長い。そして各群れの間には微妙な距離が空いているのだが、その距離は全くの均一だったというのである。

 そのセロンガードは現在、東西に延び切ったエルヴンゾンビ連隊を辿る格好で、独り東へと走り続けていた。水の流れと同じ様に上流、即ちゾンビ共の歩みの逆方向を目指せばシルトラース帝国皇帝ヨゼフ・バルダスの居場所に辿り着けるのではと考えた訳だ。
 途中、メドゥの指先幹部『青の中指』ジルベルと、死霊術師アリバ・ジャハール・カサドの姿を捕捉したが、今回セロンガードは徹底して隠密を心掛けた。敢えてこの両者に仕掛けることなく、逆に自らの気配を限りなく無に近づけ、ひたすら皇帝ヨゼフ捜索だけに注力した。
(元帝国軍諜報兵がかつての主君たる皇帝陛下の捜索に血眼になるなど、これ以上の皮肉はありませんね)
 内心で苦笑を禁じ得ないセロンガード。
 だが今の皇帝はお世辞にも、帝国民の為になる行動を取っているとは思えない。既に帝国自体の崩壊から一年以上が経過し、今更帝国軍兵としての忠誠心を自らに押し付けるのも、おかしな話であろう。
(ま……兎に角、皇帝陛下の居場所を探り出すことに集中しましょう。他のことは、その後です)
 セロンガードはほとんど一瞬で思考を切り替えた。この辺り、諜報機関『見えざる見張り番』で培った心理操作が大いに役立っている。これもまた皮肉な現実のひとつと、いえなくもなかったが。

 再び、エルヴンゾンビ連隊最前線。
 ナタリアは既にひとつの集団を事実上瓦解させていたが、しかしまだひとつの群れを空中分解させただけである。残りは後、どのくらいの群れが残っているのか皆目見当もつかない。
(それにしても、案外雑な運用だな……)
 かつては雲の上の存在ともいえた宮廷女官長ザフィーアに対し、ナタリアは同じ帝国民として密かに畏敬の念を抱いていたりもしたが、今はどちらかというと、呆れているといった方が正しい。
 エルヴンゾンビ連隊の運用については相当にきめ細かく手当てを施していると勝手に想像していたナタリア。だがその実情は極めて杜撰で、ザフィーアはどうやら手当たり次第にエルフや魔獣の死体をゾンビ化しているだけで、その後のケアや運用調整などは全くしていない様子が窺えたのである。
(まぁ……これだけの兵力数が居れば、細かな運用は気にしなくても良い、というのもあるだろうが)
 第一ゾンビは衣食住を必要とせず、ただ命令を与えるだけで動いてくれる。そういう意味では、最初のアンデッド製造儀式にさえしっかり力を注げば、後は命令念波の付与経路を確実に維持すれば良いだけの話である。細かな運用は、不要といえば不要であった。
 と、そこへキオルティス、ベルク、アルシエラの三人が駆け寄ってきた。
「さぁってと……そろそろメドゥの指を骨折させるべしだね。こう、思い切ってグキっと」
 愛用の白鞭を腰から引き抜きつつ、相棒の大鼬に閃光塗弾をひとつ咥えさせた。
 当初アルシエラは狙撃対象、即ち中継役個体に対してはこの大鼬に探して貰う腹だった。
 が、キオルティスとベルクがエルヴンゾンビ連隊の群れから群れへと素早く走り回り、次々と中継役個体に閃光塗弾で印付けしてゆくという段取りを決めたことで、狙撃対象への目印確保の目処は立っていた。
 アルシエラが中継役個体を片っ端から仕留めていき、その後にナタリアが範囲攻撃魔術とジャマーを駆使してゾンビの群れを瓦解させてゆけば、エルヴンゾンビ連隊の最前線はほぼ機能しなくなる。
「では少しばかり、罵声のひとつでも浴びせてやろうか」
 何故かやる気満々のベルク。中継役個体を通じてザフィーアにヒステリックおばさん云々の悪口を伝えられないかと、変なところで気合が入っていた。
「それは多分、無理じゃないかなあ」
 呆れるアルシエラ。
 事実、この後の戦闘でベルクが中継役個体に浴びせたヒステリックおばさん口撃は意味を為さなかった。が、ベルク個人としては効果があろうがなかろうが、別に構わない。
 思わぬ形で、ストレス発散が出来た。それだけでも、ベルクにとっては大きな収穫だった。

●白銀虎、一抜け
 どれ程に数が多くとも、弱点さえ分かってしまえば恐るるに足らず。
 ルアンナが氷の矢と光弾の雨を駆使して中継役個体を確実に仕留め、メイルアイレに近い側の群れに痛撃を加えてゆくと、司令塔を失って瓦解し始めたゾンビ共に対してロイとアルマが北や南の窪地、谷間などへと誘導してゆく。
 この流れる様な連携で、ゾンビ共は烏合の衆どころか、本当にただの彷徨う屍でしかなくなった。こうなればもう、仕留めるのは簡単だ。
 アルダーヴァーの民を率いたランフェラー、或いはプザスの民を率いたロズウッドといった面々が統率の失われた憐れな屍共を次々に葬ってゆく。
 反撃の一手どころか、完全に形成が逆転した格好だ。
「この辺はもう、アルダーヴァーとプザスの皆さんに任せても大丈夫でしょうね」
 ほっとひと息入れたルアンナ。ところがその直後、端正な面が緊張に引き締まる。
 少し離れた位置に白銀虎の半獣人がいささか手持無沙汰気味に、ぶらぶらと歩いているのが見えたからだ。
「久しぶりだな。誰かにやられたんじゃないかと……いや、そう思っているのはお互い様か」
 懐かしそうにロイが笑う。ジルベルとはかつて、ヤコブカフェで店員と客という妙な立場で顔を合わせた仲だった。
 そこへルアンナが間髪入れずにノコギリ鉈で接近戦を仕掛けるが、ひと当て入れようにも、ジルベルの脅威的な回避力の前では刃が虚しく空を切るばかりである。
 だがそれ以上にジルベルは、物凄くやる気が無さそうであった。
「良いよなぁ、お前さんら。元気でやる気があってよぉ。何だか眩しくてしょうがねぇぜ」
「何か、つまらなそうな顔してるねー……よかったら、話聞くよ? 聞くだけだけど」
 後退するルアンナと入れ替わる様に、アルマがそっと前へ出た。
 いやぁ、済まねぇなぁとジルベルは頭を掻く。
「うちの今の雇い主がさぁ、また酷ぇんだよ。モラハラ、パワハラ、責任転嫁のトリプルパンチでさぁ」
 失敗すればジルベルやアリバの責任、手柄は全部独り占め。それがザフィーアのスタイルらしい。
 そりゃ確かに酷いと、アルマばかりかロイですら気の毒に思う始末だった。
「じゃあさ、もうやめたら? 過激派とつるむの」
「やっぱ、それが一番だよなぁ……よし、決めた。俺ぁ降りる」
 仰天のひと言を放つや、ジルベルはすたすたとアルマの元へと歩を寄せてきて、彼女が背中に丸めて差していた周辺地図を抜き取って開いた。
「エルヴンゾンビ連隊だけどな、今こういう配置になってんだ」
 いいながらジルベルはロイとアルマ、ルアンナの前で死者の軍団の正確な位置と今後の移動ルートを次々と書き込んでゆく。
「中継役の見抜き方はもう分かってるみてぇだし、後はもう、好きにやんな」
「ねぇ。ついでに皇帝の居場所は教えてくんないの?」
 もうひと押しとばかりにアルマが訊いたが、流石にあの化け物にゃあ恨まれたくはねぇとジルベルは苦笑し、そのまま立ち去っていった。
「敵でさえなければ、案外気の好い奴なんだけどな」
 小さく肩を竦めるロイ。
 これまでも、利害が一致すれば何かと手を貸してくれた青の中指。何故未だにメドゥの指先に居座っているのかが寧ろ、不思議な程であった。

●知られざる思惑
 ジルベルが抜けた後、アリバも早々に離脱した。
 アルシエラが必殺の一撃をアリバに浴びせかけたところ、アリバは今日はもう勘弁して下さいと、這う這うの体で逃げ出していったのである。士気も何も、あったものではない。
「何だか、呆気無かったね」
 悔い改めよ、と呼びかけたアルシエラに対し、アリバは改めるのでサヨウナラと応じる始末。
 本当に、どうなっているのやら。
 エルヴンゾンビ連隊は、半数近くが中継役個体を失って瓦解したが、途中から動きが変わった。ザフィーアが状況を察知し、これ以上の被害を出してはならぬと、残ったゾンビ共を撤収させたらしい。
 その後を追っていたセロンガードとアルシエラの大鼬が、遂に皇帝ヨゼフの居場所を突き止めた。
 森の中に忽然と姿を現した豪奢な邸宅が、物々しい程の厳重な警備に守られている。この邸宅こそが皇帝ヨゼフが足を留めているフィルエス大森林内での後方基地なのだろう。
 ザフィーアも恐らくは、ここに居る筈だ。
 そこまで分かれば、もうこれ以上の追跡は不要である。セロンガードは件の邸宅の位置を地図に書き込んでから、仲間達の元へと引き返した。
「流石冒険者……大したもんだね」
 セロンガードを出迎えたランフェラーは、ここまでの完璧な仕事ぶりに感嘆していた。ロズウッドも、見事な調査結果だと素直に驚いている。
「問題は、この後だな。手駒を半分近く失ったハイセン卿がどう出るか……」
 ナタリアの渋い表情に、ランフェラーもロズウッドも揃って腕を組んだ。
 これまでのところ、アルダーヴァーとプザスの民にはハイアルブからのお告げは届いていない。今後の対応については独力で何とかしろ、という訳だ。
「皇帝は矢張り、世界樹を目指しているのかな」
 つい先程合流を果たしたキオルティスが、セロンガードが差し出した地図を覗き込みながら低く呟く。
 帝国過激派のこれまでの行動を見れば、自ずとその結論に行きつくといって良い。だが、その目的が分からない。
「いずれにせよ、しばらくはゾンビを使っての力押しは控えるでしょうね。戦域を離脱するなら、今のうちではないでしょうか」
 セロンガードの意見も尤もだ。
 ランフェラーはロズウッドと手短かに言葉を交わし、アルダーヴァーとプザスの民を世界樹西側の安全地帯まで退避させることを決定した。
 ジルベルとアリバが去った今、ザフィーアは責任転嫁相手を失った。次は死に物狂いで攻めてくるだろう。

マスターコメント

 皆様、お疲れ様でございました。  ザフィーアのもとからメドゥのふたりが離脱し、エルヴンゾンビ連隊も半数近くが瓦解したことで、今回はアルダーヴァーとプザス側の完全勝利といって良いでしょう。  MVPは中継役個体の配置を的確に見抜いたキオルティスさんと、皇帝ヨゼフの捜索に見事な諜報力を発揮したセロンガードさんのおふたりです。  ザフィーア姉さんの次なるヒステリックぶりにご期待下さい。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準8 / 4〜8人

2022年06月26日 00時00分08秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナです、よろしくお願いします。 私はゾンビ連隊への攻撃に回ろうと思いますが、1000体とは…どれだけ死体をかき集めたんでしょう。 中継しているゾンビがいるとのことですが、先鋒の隊からは離れた位置にいそうですね。 あまり攻撃に加わらずに指揮に専念しているような動きをしているのではないでしょうか。

  2. アルシエラ・ライゼル

    シューターのアルシエラ、よろしくね。 私は洞察を使って指揮官ゾンビを見定めつつ狙い撃ちしてくつもり。 偵察するには隠蔽が足りないしね…。

  3. ナタリア・フィッツジェラルド

    ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 中継役のゾンビが居るそうだが、指揮の中継にしても範囲に関しては自ずと限界がある。 なので取り巻き(?)とされるザコどもの動きに注目と行くべきか。 指揮官の影響が薄いと動きは緩慢といえるのだろうが、中継役の範囲の恩恵を受けられるのなら明らかに動きが違う事だろう。 なので敵軍の動向こそ、頭を抑える手がかりといえようか。 持って行く特性は、1つはコモンブラッド+輝刃3である事は固まっているな。

  4. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ、よろしく頼む。 ゾンビの中継ぎがピラミッド式なのか箒式なのかが気になるところだ。 箒式だとちまちまと指揮官型を潰さねばならないが、ピラミッド式なら上位の個体を見極める術を確保できれば崩しやすくなる。

  5. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー 拠点探しや人探しは不向きだしゾンビ対応のほうにまわるねー さすがに1000体の団体様に一度に来られると大変だし 現地に詳しい依頼主さんに頭を押さえたら後続が渋滞するような イイ感じに狭まった地形がないか確認して (なければ土木・建築と戦術眼あたりで急増とかー…) うまい具合に引き込めないかなーって 渋滞回避に向こうから分離する動きをみせたり テレパスだと距離が短いかもだけどペットさん経由で連携して 側面とかからちょっかいかけてそれに反応してくれれば 起点になってる中継役ゾンビさんを見つけやすくなるかもー? な感じでぼんやり考えてるよー

  6. セロンガード・シュタインドルフ

    シューターのセロンガードです。 よろしくお願いします。 中継役のゾンビですが、本当に連隊としての組織化が成されているのでしたら、最も指揮し易く、かつ、中継役同士で連絡を取り易い場所に位置すると思うので、ゾンビ達の行進体系にも依存する所ではありますが、基本的には各集団の中央か、その集団を容易に見通せる最後尾に居ると思われますが、最前衛の集団のみ例外で、中継役はやや前のめり気味の位置で指揮していると推測致します。 今のところ私は2つ目の依頼へ行こうと思っています。

  7. キオルティス

    シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。 今回は宜しくね。 >中継役 セロンガードさんの意見を拝聴して思ったんだけど、中継役同士の 連絡手段って何だろう…。連隊なら連絡は必須だろうだもんね。 会話出来る距離に居るのか、それともテレパスみたいな手段なのか、 シューターみたいに動物や類似した存在を使っての疑似通話なのか。 あと、ゾンビを操る手段はやっぱりジャマーやアンチ・サイで 何とかなるものなのかな…。 中継役を倒すのは勿論だけど、それをスムーズに行ったり、中継役の 選別が比較的容易になるようにする為に分かれば良いかな…って。 >行先 俺は1つ目でも2つ目でもどちらでも構わないよ。 1つ目なら現段階だと斥候兼中継役を探したり、連絡係になったり。 2つ目なら探索スキル系フル稼働って感じかな。

  8. ロイ・アウレア

    シューターのロイ・アウレアです。宜しく。 ゾンビ対応で考えてます。 オレも地形利用や、現地情報を基に、大隊から引離す(分断かる)ように攻撃を仕掛ければ 指揮官単位で小分けになると思うので 俯瞰できる位置に居る個体や積極的に攻撃に加わらないのを優先的に倒すね。 皇帝の所在については何か思いついたら…程度でいます。

  9. アルマ・ヴァレンタイン

    もうすぐ出発になったねー 今のところは先頭を狭い道に引き込んでから 短時間だけど光縛封で通せんぼしてる間に 分断とか中継役狙いとか思い思いに仕掛けてもらうのどうかなー? っていう提案する感じでプレ出してるよー あとボクは枠がないんだけど今回のエルヴンゾンビ連隊って ある程度は自律で動くおデブおじさんの吸血屍と違ってふつーのゾンビさんぽいし ジャマーとか効きそうな気もするー…?

  10. ロイ・アウレア

    今のところ持ちます宣言が無いので、オレがジャマーを準備させて貰うね。 リスで高所(樹上とか)からゾンビの動きを見る事と 中継役の特徴を自分なりに想像して選別が出来たらと思ってます。 勝手ながらゾンビに向う人達と連携希望 合わせられる人はヨロシク&オレも合わさせて貰うね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0