雨のなか飴つくろ!

鍵島

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シナリオID:2227

オープニング

 とある曇天の日。
 同盟都市、リブラネスタ。昼も過ぎていない、冒険者街のとある飲食店の店先は。
 いつもは人が多く行き交っているのだが、今日は閑古鳥があちらこちらで鳴いている。
 朝からやけに暗いうえ、肌を撫でる風が冷たくて、肌寒さを覚えるのは必至だ。
 冒険者達の姿もまばらなこの日に、暇そうな顔をして店先を掃いている店員、リリィベルがいた。
「そうだ! 雨のなか飴つくろ!」 
「なんて?」
 店先へ果物の入った箱を運んでいた若い店員、ライネスが素っ頓狂な声で応える。
「この間、どういうわけだか、貴族の人が来たじゃない」
「あ~……そうだったなぁ」
 ぱら、ぱら。しと、しと。
 二人の頭に、小さな雨粒が落っこちている。
「父さん(店主)のご飯を気に入って、名産? らしい飴細工の材料いっぱいくれたけどさ~」
「……これじゃなぁ」
 雨の到来に、急ぎ足で走り抜ける冒険者達の背中を眺める。
 本業でもある飲食店は勿論のこと。今暫く、ジュースバーのお客さんも見込めそうにない。
 がっくりと肩を落とす二人。しかも、長雨の気配に気付けず、たくさんの果物を仕入れたばかり。
「ってわけで!」
「……雨のなか飴つくろう、か。ま、材料傷めたら勿体ないしな」
「そうそう~! お店を知ってもらえれば、今後食べに来てくれる! かも!」
「店の宣伝費込みのお小遣い付き、とか」
「よ~し! そうと決まったら、さっそくギルドにお願いしにいこ~!」
 雨は少しだけ粒を大きくして、冒険者街へと降り注ぎ始めている。
 そんな中、元気に駆けだす二つの影がありましたとさ。

解説

同盟都市、リブラネスタのとあるお店で。 一緒に飴をつくりませんかというお誘いが、あなたの耳に届けられました。 材料や道具はお店が用意しているので、お気軽にご参加ください。 作った飴は持ち帰れますし、ちょっとしたお小遣いもついてきます。 帰る頃には、ふしぎと雨は止んでいそうです。大きな飴細工は頑張って持ち帰りましょう。 ビギナーからプロまで楽しめるよう、以下の作る内容で時間を三つに分けての開催です。 選択肢に合わせてタグを用意しました。宜しければお使いください。 【べ】 簡単なべっ甲飴を作れます。お料理初心者向け。 熱した材料をお皿や型に落とすだけで作れるので、小さな冒険者も安心です。 基本のまん丸、簡単な動物の形、などなど作れます。 リリィベルが一緒にいます。不安な方はお呼びください。 【果】 熱した材料に果物をくぐらせて、フルーツ飴を作れます。お料理中級者向け。 串に食べやすい大きさの果物を刺したり、大きな果実は切ったりします。 出回っている果物は一通りあります。持ち込み可です。 ライネスが一緒にいます。不安な方はお呼びください。 【細】 色付け済の飴を、手袋装着の上こねこねして飴細工を作れます。お料理上級者向け。 飴細工は用意されていますが、熱い温度で成形する必要があります。 色は虹の七色があり、果物や植物由来の成分で着色しているので安心して食べられます。 リリィベルとライネスが一緒にいます。困った方はお呼びください。 ご一緒に参加する場合、わかりやすい表記をお願い致します。(名前で呼び合う/同行タグ使用など) リリィベルとライネスは、ご指定頂かない限り絡みに参りません。(困っていたら助けにいきます) 登場NPC ・リリィベル  黒猫のハーフビースト。17歳。人懐っこく、間延びした口調で話す。  お料理中級者。飴細工の出来はあまりよくないです。 ・ライネス  茶狐のハーフビースト。20歳。意外に饒舌。ちょっと砕けた口調で話す。  お料理上級者。飴細工の出来はけっこう凄いです。(絵は下手です) 冒険者の皆さんが、雨の日も楽しく過ごせますように。

マスターより

鍵島と申します。 雨のなか飴を作りましょう。 冒険者の皆さんが遊びにきてくれる事を、心よりお待ちしております。

リプレイ



 本日の冒険者街の天気は、あいにくの雨。
 ひんやりとした空気を纏った風が、リブラネスタの街を通り過ぎていて。
 こんな天気だ、あまり外を歩く人も多くはない。はずなのが、今日は違っていた。
 しとしと、ぱらぱら。降り注ぐ雨粒が、とある飲食店の店先を叩いて――カランと、扉についたベルが鳴らされる。
「いらっしゃいませ~! あっ、あなたも飴を作りに、ですね?」
「お待ちしていましたよ。さぁさ、雨を落として。入った入った」
 黒猫と茶狐が、扉を潜ってやってきたあなたを歓迎した。
 雨がしとしと降るなか、はてさて。どんな飴をつくろうか。

●飴細工づくり!
 虹の七色に色付けされた飴細工、触れる程度に冷やしたそれを扱うのは、菓子職人なれどなかなか至難の業である。
 けれども、冒険者には多様な技術に秀でた者が数多く存在している。
 サイラスもまたそのひとり。
 熱した鉄を打つ鍛冶から、食材の扱いに長けた調理から、細やかな細工も行う彫金加工から。
 斯様な物作りの類では、並大抵の一般人とて侮れない力量を持っている。
 赤く色づけされた飴細工を選ぶと、サイラスは手始めに剣を作る事とした。
「装飾に凝ったミニチュアとか。やってみようか」
 飴細工の成形は、熱いうちに全て行わなければならない。冷め固まってはやり直しを強いられる。
 作りながら頭の中で完成品を予想、完成までは時間との勝負と言えよう。
 剣を凡その形に整えたら、熱したペティナイフで細部を丁寧に切り落とす。
 柄には別の色味を用いた飴細工を使用したい。よく空気を含ませ、素早く固形状態にすることで、光を綺麗に反射する飴細工が出来上がる。艶が損なわれないよう、一気に、でも。丁寧に。
(何か話すより。政治や正義を議論するより。淡々と物を作る方が楽しいし、熱中できる)
 根は職人気質なのだろうか。続いて盾も作り出さんとしているサイラスの作品を、皆の様子を見て回っていたライネスが、すげぇ。などと拙い言葉を漏らして眺めていた。

 さて。隣のテーブルでは。
 ベルク・オスマットも、赤い飴細工を手に取らんとしていた。
「ふむ。飴細工、か……殿下は赤い瞳、ならば赤で飴細工の彫像を作るか」
 じっと見据える赤色。ベルクが心に想起するのは、深紅の瞳を持つ殿下。その人だけだ。
 物や花をモチーフに作る冒険者が多いなか、人をモデルに作っている者は、恐らく彼女だけだろう。
 露出する左目と揃いの赤。濃い色ながら、美しい紅の飴細工。
 真摯に取り組むベルクは、料理の知識と手細工に長けている。拵えられる人物の彫像は、きっと美しく輝く。
 大きさは扱い易いだろう三十センチほどに抑え、細工を精密にすべく心がけよう。
 壊れづらく、それでいて繊細な飴の彫像。
「……ん。もう少し、こっちを削るか」
 どこまでも殿下を第一に考えるベルクだ。少々時間は掛かるだろうが、素晴らしい出来栄えの彫像が、その手によって生み出される事となる。
 作業の邪魔にならないべくして、その様子を観察していたリリィベルが。
 愛、ただ真っすぐな愛なのね……! など、ひとりそわそわしていたのは内緒の話。

 そうして此処にも。器用に飴細工を作り出す手の持ち主がいる。
 サシャ・テーリングだ。細工と聞いて、サシャは心を弾ませながら参加していた。
「花を作りましょうか。雨にふさわしく、紫陽花を」
 思い描くは多様な色味に花弁を彩る紫陽花たち。
 淡い桃色に、明るい桃色、水色に青色。此処からは手早く作ろう。
 小さな雫型に丸めたら、丸い側に鋏で十字の切込みを。4枚の花弁状に開けば、まるで花が咲いたよう。
 幾つも作ったそれらを、未だ熱を持って柔らかい飴の土台に隙間なく差して半球状に。
 単色だけの物も良いけれど、左右へグラデーションのように作ってみるのもきっと綺麗だ。
 葉の形に成形した飴を下側に貼れば、彩り良い、紫陽花の花が作業台に咲き誇る。
「わぁ、すごい、すご~い!」
 仕上げに水滴(雨粒)を模した透明な飴を数粒……と、作っていたサシャに、リリィベルが顔を輝かせて話しかけた。
 夢中で作っていた彼女の手がはたと止まり、ぱちぱちと瞬きをして覗き込むリリィベルを見上げる。
「季節のお花になぞらえた、あなたの飴細工! とってもすてき!」
「そうだな。その小さな飴は、花や葉の先端にでも?」
 もう一人。ライネスも感心した風にサシャへと話しかける。
「ありがとうございます。えぇ、雨のなかの紫陽花を、イメージして」
 窓を叩く雨粒にも負けない賑やかな二人に、彼女はゆったりと微笑みを浮かべた。
 そうだ。褒めてくれたリリィベルに、同じ飴細工を作って、渡してみようか。
 美しく冷え固まった紫陽花の飴細工。それを見つめるサシャの心は、じんわりと暖かさを持っていた。

 器用な冒険者がたくさんいる中で、純粋に飴作りを楽しみに店の戸を叩く冒険者もいる。
 言葉遊びを含んだ二人の募集に、うきうきと心を躍らせて参加していたのはルルト・アーキスだ。
「これ、ボクにもできるかなっ?!」
 手のひらサイズをした桃色の飴細工は、ちょこんと座り込む猫の形をしていた。
 見本用として見せていたライネスが、ルルトの声に口角を上げて頷いてみせる。
「もちろん。ちょちょっと練習を重ねりゃ、きっとできますぜ。作り方、見ます?」
「うんっ!」
 元気なルルトに乞われたライネスは、机の端に猫の飴細工を置いて、手袋を着ける。
 薄緑色の熱い飴細工を手に、四つ足で歩く動物の胴体を作り上げた。器用に頭部も成形し、猫の物より長く耳を作ったら。
「狐さんの完成です、っと。ね」
「すごい! あっという間に動物になった!」
「ね~! すご~い!」
 いつの間にやらリリィベルも傍にきて、ルルトと共に感嘆の声を上げていた。
 思いのほか、参加者達の多くが料理や細工の心得があるもので。自由な彼女に肩を竦めるライネスだが、尊敬のまなざしを向けるルルトの手前だ。喉を鳴らすのみに留めて。
 早速と、ルルトも手袋を着けて飴細工作りへ勤しみ始める……のだが。
「あ、あれれ。固くなっちゃった……」
 時間を掛けて成形してみたら、冷え固まる前に間に合わず。歪んだ飴細工に眉を下げ。
「あうぅ……今度はぐにゃってなったぁ……」
 ならば慌てて成形してみたら、今度は冷え固まるまで間に合わず。やはり歪んだ飴細工に肩を落とし。
「ま。材料はいくらでもありますんで、失敗を重ねながらでも。あなたの満足のいくもの、作ってくださいね」
「……うん!」
 初めての飴細工作り。悪戦苦闘するルルトを励ますライネスは、やわらかな微笑みを浮かべていた。

●彩りの花飴
 飴細工を行うテーブルの一画。
 より賑やかなその場所では、ギーゼラとカイン・ステラ、海神・江流が飴細工に奮闘していた。
 もとい。ギーゼラは、二人の飴細工作りを眺めている。此度は食べる専門で参加したようだ。
「ほう、江流さんは紫百合の飴細工ですか!」
 顎に手を宛がい、作業する二人の手元を覗き込むギーゼラ。
「あぁ。カイン君に誘って貰えたし。折角だからね、作るならそれと決めていたんだ」
 江流は事前に花言葉辞典で、百合の花の造形も復習した上での参加だ。
 薄紫色の飴細工を扱い、早速と花弁を形作る江流だが。中々どうして難儀なものだ。
 全体のバランスは良いのだが……花弁の先が、少し。へたりとしてしまっている。
「飴細工は難しいので、手先が器用な江流さんでも、最高の物を作るには練習が必要ですからねぇ?」
「……そうだね」
「ならばまかせてください! 練習分は僕が残さず平らげてみせましょう!」
「……頼みましたよ」
「一番出来がいい物は、想い人に渡さなければなりませんからねぇ!」
「……さすがに、グランスパーダまで持って帰ろうとしても崩れちまうだろうけどなぁ」
「ははは。絡まれてるなぁ」
 得意げに自らの胸をとんと叩くギーゼラに、カインが喉を鳴らして笑っている。
 カインもまた飴細工を作るべくして共に参加した。江流に渡す用に、ビスカリアを模した飴細工を作るつもりだ。
 その花に込められた言葉は、望みを達成する情熱。江流を応援するに相応しい意味を持っている。
 後で舐めるものだから、小ぶりにして複数作ろう。
(江流の百合姫様(美しき想い人)の色は……紫か)
「江流の。想いの根源が、失われないよう」
 穏やかな顔でビスカリアを作るカイン。ふと手元から視線を上げると、江流から幾つか失敗した飴細工を貰い受けるギーゼラが目に映る。
「む、む。この飴細工、美味しいですねぇ。強すぎない程よい甘みを舌に感じますが、もしかして江流さんの想いが詰まっているおかげでこんなにも美味しいので――」
「あ~っと。ギーゼラちゃんには、りんご飴を作ってやろう」
「りんご飴! それも美味しく頂きましょう! りんごと飴の組み合わせを考えた人は、天才ですよねぇ!」
 ひたすらににやにやしているギーゼラ、茶々を入れられながらも上手い事あしらっている江流。
 ギーゼラ本人のために作った物で腹を一杯にしてやりたいという江流の暖かな心も勿論あるが、一見して、あしらっている風に見えてしまう。
 何とも軽妙なやり取り。笑ってなるものか。ん"ん"ッと笑気を誤魔化し、カインがギーゼラに手招きをする。
 手早くビスカリアを作り終えたカインは、新たに別の色味の花を作り出そうと考えていた。
「ギーゼラ。好きな花って、あるか?」
「僕の好きな花、うーん。ツツジですかねぇ。昔庭にたくさん咲いてたので」
「へぇ。……そうだ。目の色と同じ、緑色のツツジを作ろう」
「僕の瞳と? カインさんはロマンチストですねぇ!」
 濃淡を分けて作れるか、と。問えば、店員(ライネス)が二つ返事で可能ですぜと答えてくれる。
 手順を軽く聞いたなら、後はカインの手によって思いのままに。淡い緑に、濃い緑の飴細工がその手に収まる。
「ありえねぇもん作るなとは言われてねぇしな。……これに言葉をつけるなら……」
 ギーゼラが江流より貰い受けたりんご飴を咀嚼する傍ら、濃淡が異なる飴細工を器用だと言って感心している。
「ありえねぇことは、その内あり得る。辺りで」
「フフフフフ。夢があって、いいですねぇ!」
 カインの作ったツツジの飴細工が、片っ端からギーゼラの口へ運ばれていくその横で。
 試行錯誤を繰り返し、何個目だったか。江流の手によって出来上がったのは、美しき紫百合の飴細工。
 江流の心が想い映すは、紫百合のご令嬢。儚き微笑みで、本心を隠す。あの娘の気持ちを想像して。
 願わくば、その本心が。誰でもない、自分に向いているならば、と。
「……形にできたかな」
 美しく咲いた飴細工の紫百合は、凛としてその顔を江流に向けていた。

●フルーツ飴づくり!
 店内に用意されているのは、たくさんの色とりどりな果物たち。
 確かな目利きの才を持つライネスによって選ばれた果物は、ジュースに最適な熟している果実から、確かな品質ながらまだ少し寝かせた方が美味しいものまで、様々ある。
 つまりは。
 店内に揃えられた果物たちは、求める人によって異なるニーズにも十分応えられるのである!

「持ち帰れるときいて」
 ストレガ・L・リベルガストラは、事前に確りと飴作りの何たるかを把握しこの場に臨んできた。
 飴作りは煮る時間が大事だ。準備は入念に、作業は手早く行うのである。 
「私は蜜柑にするのだ」
 果物の中から、ストレガが手にした蜜柑。初夏に出回るその蜜柑は、果実内部の小袋にやや苦味があるため、果肉だけを食べるのが一般的だ。
 だが、それも甘い飴に絡めれば。
 甘さの中に苦味、そして蜜柑の果肉本来の甘酸っぱくも爽やかな味を引き立ててくれるだろう。
「では始めよう」
 予め切った蜜柑は、水気を拭きとっておく。
 雨が降っており、湿気が強いので確りと拭き取るのがよいだろう。
 絡めるための飴作り。砂糖と水を鍋で煮るのだが、水は少な目で良い。火にかけたら混ぜない事だ。
「混ぜると温度が下がって固まらないのだ」
 焦げ付くかもしれない不安のまま今暫く待つ。
 そうして狐色になったら、飴を果物につけるのだが。この工程を手早く行わなければ、綺麗なフルーツ飴にはならない。
 潜らせたそれを、後は油紙の上で自然に冷まして、できあがり。
「……と。あとはこのまま包んだり、瓶詰にするといいのだ。置く時は暗所に、消費は早めに」
「おぉ~~!」
 丁寧且つ解り易い。ストレガの申し分ない解説を、最前席で見ていたリリィベルが、ぱちぱちと拍手をする。
「わかりやす~い!」
「そうか。わからない者には指導も行うのだ」
「え~! わたしが指導してもらいた~い!」
「いいぞ」
「やった~!」
 的確な飴作りを見ていたライネスが、ストレガにリリィベルの相手をしてやってくれないかと打診した事実は、さておいて。
 この度参加してくれたスィーリーンへライネスが向き直る。
「ストレガ様……とても。テキパキとしていました。私、お料理は得意ではありませんけど、フルーツ飴に挑戦します」
「もちろん。得手不得手問わず、何事にも挑戦。大事です」
「それに……」
「?」
 スィーリーンの視線の先に、キラキラと輝くは、飴をまとわせた果物。
「飴をまとわせた果物なんて、絶対美味しいじゃないですか!」
「あはは。そりゃ、もちろん。美味いこと間違いなしです」
「はい……! ライネス様、どうかよろしくご指導お願いいたします」
 畏まってぺこりと頭を下げるスィーリーンに、此方こそ。ライネスもまたつられて頭を軽く下げる。
 さて、料理が得意ではないという彼女のため。ライネスは、それぞれ果物ごとに種類分けして用意されたかごを掌で指し示す。
「どの果物が合うでしょうか?」
「そうですねぇ。飴に絡めるなら、酸味のある果物も美味いですよ」
「酸味のある食べ物……ですか?」
「えぇ。例えば、キウイなんて如何でしょう」
 そうしてライネスが手にしたのは、果肉が緑色をしたキウイ。
 掌にすっぽり収まる物もあるが、その横に。親指より少し大きい程度のサイズをした物もある。
 まぁ、と物珍し気にするスィーリーンに、ライネスは満足そうに笑う。
「良いですね。可愛い形に切ったら、見栄えもしそうですけど……」
「どれ、ちょっと待ってくださいよ」
 そうして、ライネスは手早くキウイを飾り切りにしてくれた。蓮の花のような造形をしている。
 この形。普遍的サイズのキウイでは串に刺すのは向かないが、小さなキウイなら、口にそのまま転がせる飴となれるだろう。
「どうです?」
「!」
 きらきらと。スィーリーンの瞳が、飴細工のように輝いて。
「装飾品作りの腕は、役立つでしょうか……?」
 恐る恐ると訊ねる彼女に、ライネスは間髪入れずに頷いてみせよう。
 スィーリーンの手元には、きっとたくさんの蓮の花の飴が咲いてくれるだろうこと。

●わいわい、がやがや、どたばた! 飴づくり!
「初めまして! エフィルミアですっ。飴作り、一緒に楽しみましょうね!」
 明るく、朗らかな挨拶をペルゼィックへ行ったのは、名乗りの通り、エフィルミア。
 イズル・M・ヴォルゴール、ヘレン・ワーグナーと知り合いである彼女は、唯一ペルゼィックと初対面だ。
「……あぁ」
 浮かない顔で返すペルゼィックが、イズルの肩を軽く引いて、エフィルミアとヘレンから少しだけ距離を置く。
「なんか増えてんぞ」
 女子の数が。
「大勢で遊ぶのもたまには良いだろ?」
 イズルが小声で返す。
「お友達すんなら俺を巻き込むんじゃねぇ……!」
 ちょこっとキレているが、まだ小声。
「あ、失礼のないようにな。彼女(エフィルミア)は王国の学園の生徒会長なんだから」
「げっ」
 ペルゼィックの反応に、イズルはもう一度だけ。失礼のないように、と念を押す。
 二人の視線の先には、眠たそうな眼差しを苺へ向けているヘレンと、一緒に作れる事を楽しみにしてきたエフィルミアがいて。
 不自然に離れていたイズルとペルゼィックに、エフィルミアが不思議そうな顔をし始めている。
「さ。飴作りを始めよう」
「おぅ……」
「ん……」
「がんばりますっ!」
 イズルの声に、三者三様、返事を伴い飴作りが開始された。
 まずヘレンとエフィルミアが手にしたのは苺。目も覚めるような、鮮やかな赤色が眩しい。
 ヘタをとり、熱した飴へ、そっと苺をつける。
 ヘレンはやや覚束ない手つきに見えるが、その実、中々どうして器用に飴作りを行っている。
 飴が程よく苺に纏った絶妙なタイミングで持ち上げ、そっと油紙の上に乗せる。
 まるで窓を叩いている雨粒の雫のよう。綺麗な形状の苺飴が出来上がっていく。
「肉の解体に比べれば……なんてことない……」
「肉だぁ? へぇ。今度腕前見せろよ」
「うん……」
 ペルゼィックが片手間に芸術品(苺薔薇飴)を作りがてら、唯一興味を持ったようにヘレンへと話しかける。
 飴が冷めるまで手持無沙汰なヘレンが、何気なくペルゼィックの手元を見る。
「……ぺル君。それ、……なに?」
「あ? 飴だ」
「あめ……?」
 苺って、あんな形に切れるんだぁ……。
 そもそも、飴って、あんな薄く果物につけれるんだぁ……。
「……………」
 そんな芸術品を作り上げているペルゼィックだが。
(なんで、果物刺さった串持ってんだ……付き合いだからか……しょうがないのか……?)
 彼なりに、自問自答を行いながらの制作だったようで。
 その心中は、もしかして。此処にいる参加者の誰よりも、複雑な思いでいたのかもしれない。
「きゃー!!?」
 静かに飴作りを行うヘレンとペルゼィックと相対するかのように、エフィルミアから悲鳴が上がる。
 なんだなんだとイズルがその手元を見てみれば、何がどうしてそうなったのか。
 さっとつければ終わり、の。苺飴にムラが存在し、表面がぼこぼこしていた。
 そもそも飴が中途半端に剥げていたり。ころんと転がっている飴の中には、鋭利な刃物が如く尖っている苺飴もあったり。
 なんで?
「お店で売ってるのはあんなに綺麗に飴がついてるのにー!」
 それは、そういうものなので。
「こんなに果物の飴って難しいの!?」
 それは、どうでしょうか。
「イズルくんは……普段から酒場で料理作ってるだけあって上手い……!」
「ありがとう、ございます」
 そう返すイズルが作っていたのは葡萄飴。
 少し趣向を凝らし、煮詰める飴に蒸留酒を加えたり、リキュールに10分ほど浸けた果物も使ってみたり。
 可愛らしい葡萄飴がイズルに手によって作られている横で、エフィルミアが謎の物体を作っているふしぎ。
「ヘレンちゃんも、結構器用だね!?」
「……うん」
「ペルゼィックさんも、私より上手……というより、芸術品……!」
「あぁ?」
「ぐぅ、悔しい……!」
 彼女の前にゴロンゴロンしているのは、エフィルミア特製苺飴(仮)。
 悔しさを露わに、そしてその悔しさをばねにして。エフィルミアは次の苺飴(犠牲飴)を作らんと、苺を飴に浸ける。
 そう。ちょっと、悔しさ成分が強かったかもしれない。
 勢いよく苺を持ち上げたばっかりに、液体状の(クソ熱い)飴がその手に掛かってしまった。
「ぴぎゃー! あっつーい!!」
 ひぃと飛び上がるエフィルミア。
 学園の生徒会長だろうと何だろうと、熱した飴には耐えられない。
「あっぶねぇな!?」
 放り出された苺飴は、鍋ごとペルゼィックが取り落とす事無く掴んで事なきを得た。
 何したらこうなるんだ!? などと、大声が聞こえてくる。もうやめたげて。
「まぁまぁ……落ち着いて」
 涙を目に浮かべるエフィルミアの背中を、よしよしと撫でて宥めるヘレン。
 目を閉じていたり、手が時々止まっているのは気にせずに。
「大丈夫、ヒールで治します。怪我があったら、婚約者様に申し訳ないので」
 飴作りを一時中断し、イズルが迅速な動きでエフィルミアの火傷を対処する。
 イズルは改めて今回の飴作りを行う面子を見渡した。
 はちゃめちゃにキレてる幼馴染のペルゼィックと。
 手を動かしながらも、覚醒と睡眠の狭間に漂うヘレン。
「うっうっ。でも、でも。がんばります……!」
 この後も飴作りを頑張る(やらかしそうな)様子のテンション高いエフィルミア。
 ……地獄絵図かな?
 心の中でそっと呟くイズルだが、その顔は楽しそうに笑みを浮かべていたのだった。

●飴づくりと、雨宿り
 人もまばらな冒険者街、雨脚はまだ弱まりそうにない。
 雨避けの外套を着こむキーゼと、彼に傘を傾けて歩くネーヴェ・グラヌローザが賑やかな店の前に立ち止まる。
「何か、やっていますね」
「雨のなか飴を、なんて。可愛らしい言葉遊びですわね」
「言葉の掛け合わせ、ですか。なるほど。今だからこその楽しみ方、という感じですね」
 店の軒先に設えられた看板には、共に飴作りを募る文言が書かれていて。
 くすりと笑うネーヴェに一瞥を向け。雨宿りがてら、この店の謳い文句に誘われよう。
 看板には フルーツ飴つくれます! そんな文字もある。
「果物お好きですよね。たんと種類もありそうですよ」
 軒先で外套を払って水を落とすキーゼと、傘をそっと閉じるネーヴェ。その姿を認めた店員(リリィベル)が気を使って、彼らの雨具を預かり、二人を店内へ誘導した。
 どうぞと示された先には、見目彩り豊かなたくさんの果物。特有の香りが、ふわりと鼻をくすぐる。
「フルーツ飴と言えば、やはり定番は林檎でしょうか。ですが、今の季節でしたら。チェリーなども、宜しいかもしれませんね」
「飴の甘さがどのぐらいか、にもよってきますが……味の変化を楽しむなら、少々酸いものを選んでもいいかもしれませんね」
 ネーヴェが手にとったのは、小ぶりな赤い林檎に、ふっくらと大きな実のチェリー。
 林檎は太い串に刺して、チェリーはへたを生かしてそのまま。
 料理慣れしている、とはお世辞にも言えないらしいキーゼ。失敗したらそれはそれ、と割り切って。
 やや酸味の強い蜜柑を選ぶ。皮を剥き、薄皮を残して食べやすい大きさに手で分ける。
 あとはそれぞれ飴に浸して……。程なく出来上がったフルーツ飴は、華やかな見目で美味しそうだ。
「どうぞ。キーゼさん」
 チェリーのへたを摘まんだネーヴェが、口元へと差し出した。
 緩やかに瞳を瞬かせるキーゼは、遠慮せずに飴を食んだ。――彼女の、白く綺麗な、指ごと。
「……っ!」
「ひと際甘くて美味しいですよ。ネーヴェ」
「へたごと、食べる人がありますかっ」
 ぱっと手を離したネーヴェは、愉し気に口角を緩めるキーゼのフードを掴んで引き下ろす。
 耳まで赤く紅潮させる彼女の姿は、きっとどんな存在より、甘く華やかであるだろう。

●ちいさなこいびとたち
 さくらんぼ飴を作ろうと臨むのは、エル=バ=ノイアンとシルヴィア・A・カペル。
 こんもりと積まれたさくらんぼ達は、へたが繋がった状態でいる。
 幾らでも作っていいですよ、と告げる店員(ライネス)の声に甘えて、ふつふつと煮立っている飴のなかへ。
 ぽとり。また、ぽとり。
 ふた粒ずつ、決して離れない様にと願いを込めてか、定かではないけれど。
 油紙の上にちょこんと載せられていくさくらんぼ飴の光沢が輝いて、彼らのまなこに映る。
 ノイアンとシルヴィアが、さくらんぼ飴を作るのは、今回が初めてではなかった。
 去年の今頃も、こうしてふたり、肩を並べて作ったものだ。
 まだ恋仲ではなかったなぁ、と。懐かしく思うのは、シルヴィアは心の内で呟いた。

 慣れた手つきで飴を作るノイアンだが、最初から上手だったわけではない。
 (凝り性なところはあったが、野営や駐屯で気力を挫かないための物で……)
 それと心に独白を落とした彼は、けれど。言葉を紡ぎ直すべくか、ちらとシルヴィアを見遣る。
 誰かに喜んでもらうために、いろんな料理を作れるようになろうと思ったのは。
 シルヴィアや、仲間たちのためで。
 もし、シルヴィアが、ノイアンと同じように考えていてくれるなら。
 シルヴィアが、料理を練習している理由は――

 まだ少し、料理に不慣れを感じているシルヴィアも、その腕は上達してきている。
 上達の秘訣は、なんだろう。
 彼の隣で、一緒に料理をするのが楽しいからか。
 穏やかに言葉を交わしたり、真剣な横顔をそっと見つめたり。
 料理を作っていく彼の指先は、美しい魔法を扱っているようにも見えて。
 (そういえば、私が料理をしようと思ったのは、いつかノイアンに手料理を食べて貰いたい、と。思ったからだった)
 なぜそう思ったか。当時は 何となく と思っていたけれど。今なら、わかる――

「シルヴィアが料理を練習している理由……」
「!」
 不意に口を開いたノイアンの問いに、シルヴィアが解り易く動揺を示した。
 何か、何かないか。ああ、そうだ。
 シルヴィアは、綺麗に冷え固まったさくらんぼ飴を彼の口に押し付ける。ふた粒のうちの片割れを。
「私も結構、上達しただろう?」
「……うん、うまい」
 もう一つは。
 試食と称して、シルヴィアの口のなかに収まっていた。

●あなたは私を喜ばせる
 冒険者街。とある飲食店の店先で立ち止まる二人の頬を、ひやりとした風が撫でていく。
「……あのジュース屋の二人が何かやっているのか?」
 だわにとって見覚えのある店先は、いつかの晴れた日、風変わりなジュースバーを開いていた場所だった。
「飴、づくり! わぁ、楽しそうだ、ね!」
 隣に居並び、店先に出されていた看板をサラが読み上げた。
 雨の匂いに混じって鼻をつっつくのは、飴の甘いあまい匂い。
 耳に聞こえるのは、楽しそうに飴作りを行う冒険者達の声。
「飴? ふむ……」
 今にもだわの外套の裾を引いて、お店へと飛び込みたそうにするサラに、視線を向けてみる。
「……フルーツ飴を作ってみるか?」
「うん! だわおにいちゃん、一緒に、作ろ」
 扉を潜った二人を店員(ライネス)が迎え、材料選びから飴の作り方まで、簡単な説明を施してくれた。
 こちらからどうぞと示されるのは、かごに積まれている果物。その中から、だわは林檎を選んだ。
 手に取ると掌より少し小ぶりながら、色つやが良く重みもしっかりある。良い林檎だ。
 これにするかとサラへ向き直れば、既に彼女は苺とパインを選び終えていた。
「怪我しないようにな」
 器用にパインの皮をむいて、苺と同等の大きさに切り分けるサラ。
 小ぶりな林檎を、六等分程の食べやすい大きさに切り分けるだわ。
「大丈夫だ、よ。お料理、毎日、がんばってるもん。まかせ、て?」
 どちらがより料理慣れしているだろう。目に見えて判りそうなのだが。
 態々手を止め、手元を覗いて心配してくれるだわの声が、サラにはこそばゆくて。あたたかい。
「ん、しょ……」
 それぞれ串に刺した果物を熱した飴にくぐらせて、程よく冷ませば、フルーツ飴の完成だ。
 お互い顔を見合わせると、そっと自作の飴にかじりつく。
「……わぁ、おいしい! だわおにいちゃん、一緒に作って食べると、おいしい、ね!」
「ん。……美味い」
 こくりと浅く頷くだわに対し、まるで花でも咲かせたように笑みを浮かべるサラ。
 そんなに美味しそうに食べて貰えるなら、飴も幸せだろう。
「……お前も食べるか?」
 差し出されるのは、だわが作った林檎飴。
「……あ、うん……食べ、る」
「……!」
 手ずから食べさせてくれるのかと、あまい飴にくるまれた林檎にも似て、サラは頬を赤らめる。
 そうして直接齧り取り、彼女は嬉しそうにはにかんで見せる。
「えへへ、おいしい、ね」
「……そうか、良かった」
「その、……だわおにいちゃんも、どうぞ」
 林檎の失せた串から視線を擡げれば、サラの苺とパインの飴が、だわへと差し出されていた。
 一瞬の逡巡を経て、彼は手で串を受け取り口へと運んだ。
 甘く優しい苺は春を思い出させ、爽やかなパインは夏を予感させる。
「……ん。美味いな」
 これから、共に過ごせる季節を先取りしたような。
 そんな気分に、だわの声色が和らいで、サラはその顔にたんと喜色をのせてくれた。

●あめあがり!
 冒険者達が飴を作り終えた頃、ふしぎと冒険者街には、暮れかけの夕日が差し込んでいた。
 店先に植えられた花々に付着する雨粒が、陽の光に反射する姿は飴を纏っているように輝いている。
「遊びにきてくれてありがとうございました~!」
「本業は飯屋なので。次はご飯でも、食べにきてくださいね」
 各々作り終えた飴を持ち帰る冒険者達を見送るリリィベルとライネス。

 店員にとっても、この日は楽しい一日だった。
 リリィベルの手には、紫陽花を模して作ってくれたサシャの飴細工が抱えられて。
 ライネスの手には、ジュース代の前払いとしてペルゼィックの作った苺薔薇飴が抱えられて。

 帰り際には、初めて飴細工に挑戦してくれたルルトが自信作を見せてくれた。
 ペットにしているタマさんと、シロを模した飴細工だ。
「みてみて、上手にできたよ。教えてくれて、ありがと!」
 靴下を履いた猫とイイズナの飴細工は、精巧さには欠けていても、特徴を捉えていて、何より。
 ルルトから、確かなペットへの愛情を十分に感じられる出来だった。

「みんな、楽しそうだったね!」
「何よりだよなぁ」
 リリィベルが嬉しそうに笑いかけると、ライネスはくすぐったそうに口角を上げる。
 冒険者達を見送った二人が、飲食店へと振り返る。
 夕日に照らされるその看板には、こんな文字が書かれてあった。

 カフェ&レストラン、トルペ・ブルーメ

「ねぇねぇ~ライネス! 次はどんな冒険者さんと逢えるかな!」
「さてなぁ、リリィベル。次は飯を食いに来てくれって頼んでみるか?」
「いーねぇ!」

 あめ、のち、晴れた冒険者街。賑やかな二人の声が、虹のかかる夕空に響いた。

マスターコメント

冒険者の皆さま、この度は飴作りに遊びへいらしてくださりありがとうございました。 飴作りを行う皆さまのご様子を、リリィベルとライネスも楽しくなったことでしょう。 楽しさが弾みまして、時折、飴のようにちょこちょこっと絡ませていただきました。 改めまして「トルペ・ブルーメ」をどうぞご贔屓に。 また皆様と会えますことを、お待ちしております。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準19 / 4〜25人

2022年06月11日 11時06分16秒 公開

成功

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0