レッドラント、その後
崎田航輝
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シナリオID:2179
オープニング
「ヒゼンベルク・メルべ伯爵より、領地へ招待したい、という申し出がありました」
ギルドの一室にて、招集された冒険者達に職員の青年が依頼書を見せていた。
依頼の形ではあるが、『食事会に招きたい』という話なのだという。
「様々な事があって、一息ついて……一応の落ち着きを取り戻したので皆さんへの慰労も兼ねて、という事みたいですよ」
様々な事、というのは他でもない。
メドゥの指先による王国領地レッドラント転覆・支配計画――そしてそこに関わる世界各地で起きた事件の事だ。
メドゥの指先の一派“賢人会”による謀略。
それが冒険者によって解決されて暫く。レッドラントは徐々にだが平和な空気を取り戻しつつあるという。
「今はまだ、信用の回復の為各地を奔走したりもしているようですが……」
貢献してくれた冒険者達へ、現状の報告も兼ねての招待という形らしい。
「それも伯爵一人から、という訳ではありません」
冒険者と関わってきた各地の代表――エルムポートの商館長モクトル・モハや、ドワーフ王国の鍛冶師ダックルらも依頼者として名を連ねている。
事態収拾後、彼らも話し合いを持ち……総意として、改めて冒険者へ感謝を述べたいという事になったようだ。
「各代表者は皆、食事会に集まります」
簡潔に言えば、皆が冒険者の顔を見たいという事。赴いて食事を楽しめば、喜んで貰えるだろう。
それだけではなく、と職員の青年は続ける。
「モクトル氏やダックル氏など、各代表は自身の街や鉱山なども訪れてほしい、と言っているようですよ」
事件が終わり、今、そこがどんな時間を送っているのか。
それを冒険者にその目で見てほしいという気持ちがあるのだろう。
「食事会の後、赴いても良いようでしたら……馬車も出されるという事なので、それぞれ各地に同行していってはいかがでしょうか」
尚、ゴールディのマフィア、ジーモン・グレンダは依頼に名を連ねているものの「自分は食事会には出ない」と言ったという。
「それでも、「ドネルズには気が向いたら寄ってくれ、酒くらいは出す」という事でした」
「長らく続いた事件ですから、それぞれの方に思う所があるのでしょう」
彼らは平和を手に入れた事を喜びながら……同時にこれからの事を考えてもいる。
時には、未来への足取りに迷っている部分もあるだろう。
「皆さんの立場から、何か助言できる事があれば……きっとそれも喜んでも貰えると思います」
何はなくとも、ヒゼンベルク達の思いとしては――こちらを歓待したいというのが一番であろう。
「レッドラントでの食事会。もしよろしければ、招待を受けてみてくださいね」
ギルドの一室にて、招集された冒険者達に職員の青年が依頼書を見せていた。
依頼の形ではあるが、『食事会に招きたい』という話なのだという。
「様々な事があって、一息ついて……一応の落ち着きを取り戻したので皆さんへの慰労も兼ねて、という事みたいですよ」
様々な事、というのは他でもない。
メドゥの指先による王国領地レッドラント転覆・支配計画――そしてそこに関わる世界各地で起きた事件の事だ。
メドゥの指先の一派“賢人会”による謀略。
それが冒険者によって解決されて暫く。レッドラントは徐々にだが平和な空気を取り戻しつつあるという。
「今はまだ、信用の回復の為各地を奔走したりもしているようですが……」
貢献してくれた冒険者達へ、現状の報告も兼ねての招待という形らしい。
「それも伯爵一人から、という訳ではありません」
冒険者と関わってきた各地の代表――エルムポートの商館長モクトル・モハや、ドワーフ王国の鍛冶師ダックルらも依頼者として名を連ねている。
事態収拾後、彼らも話し合いを持ち……総意として、改めて冒険者へ感謝を述べたいという事になったようだ。
「各代表者は皆、食事会に集まります」
簡潔に言えば、皆が冒険者の顔を見たいという事。赴いて食事を楽しめば、喜んで貰えるだろう。
それだけではなく、と職員の青年は続ける。
「モクトル氏やダックル氏など、各代表は自身の街や鉱山なども訪れてほしい、と言っているようですよ」
事件が終わり、今、そこがどんな時間を送っているのか。
それを冒険者にその目で見てほしいという気持ちがあるのだろう。
「食事会の後、赴いても良いようでしたら……馬車も出されるという事なので、それぞれ各地に同行していってはいかがでしょうか」
尚、ゴールディのマフィア、ジーモン・グレンダは依頼に名を連ねているものの「自分は食事会には出ない」と言ったという。
「それでも、「ドネルズには気が向いたら寄ってくれ、酒くらいは出す」という事でした」
「長らく続いた事件ですから、それぞれの方に思う所があるのでしょう」
彼らは平和を手に入れた事を喜びながら……同時にこれからの事を考えてもいる。
時には、未来への足取りに迷っている部分もあるだろう。
「皆さんの立場から、何か助言できる事があれば……きっとそれも喜んでも貰えると思います」
何はなくとも、ヒゼンベルク達の思いとしては――こちらを歓待したいというのが一番であろう。
「レッドラントでの食事会。もしよろしければ、招待を受けてみてくださいね」
解説
●概要
レッドラントでの食事会に参加します。
その後、【求和】で携わった各地へも招待されます。こちらは参加自由です。
●食事会について
場所は新造の伯爵邸で、事後処理中の元メルべ邸の近くです。
参加者はヒゼンベルク、モクトル、ハンツ、ダックルに冒険者を加えた面々です。
基本的には食事をするだけです。
各人、質問には快く応えてくれますので聞きたい事があれば尋ねてみると良いでしょう。
食事はレッドラントの自然を活かした料理が供されます。
時勢上豪勢とまではいきませんが、山菜中心のマリネ、肉と魚のスープ、川魚のムニエル、果実のデザートなど見た目に美しいものが出されます。
食事後は宿泊し、各地へ解散となります。
ヒゼンベルクと共にレッドラントを回っても構いません。
レッドラントは土地自体は被害が少なく、人々の営みは元通りに近いです。ただ、長らく続いた不穏な空気から、不安を抱く人々も少なくないようです。
●招待される各地方
食事会後に各地に招待されます。参加は自由です。
・小領地コネット
ハンツ男爵が案内します。
バルバロイに悩まされず済むようになり、平和に満ちています。
また、レッドラントから出向する形で碧闘剣士団が過ごしています。
剣士団はレッドラントの管理下ですが、現在は小領地への挨拶回りと、兵士への訓練などを行っているようです。
・同盟の街エルムポート
モクトル・モハが案内します。
街を挙げての歓待がなされます。新鮮な食材の料理や、踊りなどの出し物によるお祭りのような盛り上がりになるでしょう。
街は健全な取引によって、景気が上向きになっています。
安全なオークションも開催されているので、美術品などを楽しんでも良いでしょう。
・ネルコット鉱山区
鍛冶師ダックルが案内します。
武器製造・輸出組織の残党はドワーフ王国によって解体されました。
ソルスは王国からの処分待ちという身分ですが、一番下の見習いとしてダックルの工房に身を寄せています。
大きな歓待はありませんが、ダックルの工房を中心に自由に過ごせます。
・ゴールディの街ドネルズ
訪れると、ジーモンファミリーから酒を中心に歓待を受ける事になるでしょう。
ドネルズはウォーグスを失って勢い自体は下向きですが、ジーモンがその手腕で街を保っているという状況です。
ウォーグスの墓碑も街の一画にあります。
マスターより
完結した連作【求和】に関するシナリオとなります。
レッドラントにて食事会に招待されました。
ヒゼンベルクを中心にした面々が、改めてお礼を言いたい、という理由での申し出なので、特にこなすべき仕事はありません。
食事とお礼を受けつつ、聞きたい事などがあれば尋ねてみても良いでしょう。
食事会の後は、各代表に同行してそれぞれの街などへ行く事が出来ます。
こちらの方は興味があれば参加してみると良いでしょう。
複数の場所に行っても問題ありません。
皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。
リプレイ
●食事会
「ご招待頂き、ありがとうございます」
レッドラント、伯爵邸。
応接室に通された一行の前に、ヒゼンベルクが姿を見せると――レティシア・レインフィールは一礼して述べていた。
ヒゼンベルクも礼をもって応える。
「遠い所をありがとう。皆に再会出来て嬉しい」
「こちらこそ、久しぶりに会えて嬉しいです」
にこっと笑みを返したのはララベル・サン・ディーベルだ。
それは決して世辞ではない。
ここに来るまでの間も、この地に平穏が戻りつつあるのが感じられたし……あの後の事を、伯爵達本人から聞きたい思いもあったから。
ヒゼンベルクも思いは同じだろう、「早速食事にしよう」と皆を案内し始めた。
「今日は僕達の我儘だから。是非気を使わず、寛いでもらえると嬉しい」
そんな彼の言葉に、ナタリア・フィッツジェラルドは「ありがとうございます」と丁寧に返答をして――ふと窓に目をやっていた。
実際、外は穏やかな空気になりつつある。
それでも遠くない距離には旧メルべ邸宅の敷地もあり、事後処理が全て済んだわけではない事も見て取れる。
そういう面では言葉通り……伯爵達自身の為の催しでもあるだろう。
(……信用の回復に向けた動きの為の英気を養う。事態収束の為に費やした労力を癒す。食事会は双方の意味合いがあるからな――)
冒険者達への労いも兼ねながら、一つの景気づけでもあるのだ。
それはレティシアにも感じられる事だった。
(信用や平和を新たに取り戻すのは、相応に時間が必要でございますからね……)
伯爵達も先の事を考えている。
何かこちらの助言を求めている部分もあるのだろう。
それでもこれは、平和の入り口に立ったからこそ実現出来た事。
その実感もいだきながら――皆は食堂へ入っていった。
「ありがとう」
席に案内されると、ヨル・スレイマンは言葉を返しつつ座る。
邸宅は派手では無いが、貴族の邸宅らしい品はあった。ヨルも一応コートと呼べる衣装には身を包んできており……そのシックな装いが場の雰囲気に華を添えている。
「このような場を設けて頂き感謝いたします」
ロゼットが述べると、伯爵も頷いて改めて挨拶を述べた。
モクトルやダックル、ハンツもまた皆と挨拶を交わし――前菜が運ばれてきて食事開始。ララベルは頷いて「それじゃあ、頂きます」とナイフとフォークを手に取った。
(ええと……)
この時の為に作法は学んできてはいる。
ヒゼンベルクは気にはしなさそうだけれど……一応、マナーは意識して食べ始めた。
前菜は典型的なマリネだが――それを一口食べたハヤト=ガラン=ヴォルファングは「おっ」と笑顔を見せる。
「美味いな!」
「本当だね」
ヴィナスも頷いていた。
山菜を中心に鱒の切り身とも和えてあり……どちらも程よい歯ごたえ。調味料由来ではない甘味もあって、酸味一辺倒ではない豊かな味わいだ。
海神・江流も成程、とその美味を確かめてから尋ねる。
「これは、領地でとれたものを?」
「うん。今日の料理は、全て領内の食材を使っているよ」
ヒゼンベルクが答えると、カイン・ステラも味わいながら得心の思いだ。
(食材がよくて、且つそれを殺さないように作られてるな)
山菜は食感が消えない程度に漬けてあるし、鱒もビネガーで風味が薄まっていない。オリーブオイルも香り高く……全体的に素材が尊重されている。
シンプルだが、学ぶべき事のある一品に感じられた。
そんなふうにカインが心にメモをしている――そんな様子にも視線を巡らすのがオゴスだ。
こちらは王国の食事作法に自信がなく、少々皆の出方を窺っていた形。ただ、モクトルの席が近かったので……そちらを参考に自分も食べ始めた。
「確かに、旨いですね」
味わってみると、素直に美味を感じる。
慣れてくれば、食べながら楽器も慣らしたくなってくるけれど。
(……それはゴールディ特有の風習でしたね)
この席には馴染まないだろうから、ここでは控える事にするのだった。
前菜も終わり、程よく皆が食事を楽しんでいる所で――ヒゼンベルクが改めて現状の報告を述べていた。
「メドゥの指先の計画は都市同盟、ドワーフ王国、ゴールディにも跨って行われていた」
彼らの資金、武器、戦力調達の経路に至るまで、その全てを打破し解決できたのは他でもない冒険者達のおかげだ、と。
功績を称えるとモクトルもまた口を開く。
「私達の街の商業も、皆さんに守って頂けました」
「うちも同じだ。治安の悪い廃坑が封鎖されて、鉱山区全体でも感謝してる」
そう告げるのはダックル。
語られる各地の話に――キオルティスは改めてその繋がりを理解している。
「“商人”は同盟やゴールディで戦力と資金を集めていたんだね」
「ええ」
モクトルは頷いた。
「ターブに傀儡の組織“商会”を置き、同盟付近で資金稼ぎをさせながら……全体に武器を行き渡らせる流通網の役も担っていたようです」
「同盟と王国南西で活動しながら、必要なものはレッドラントに送っていた、と――」
キオルティスは王国周りの初めて聞き及んだ話も含め、興味深い面持ちで呟く。
ハヤトは軽く腕を組んでいた。
「思い返してみっと、“賢人”共の企みで壮大な計画になってたのが良くわかるな……」
「依頼を請けた時は、こんな大規模な陰謀に繋がっているとは思いもしませんでした」
オゴスの零した声も素直な思いだ。
「そうだね」
言葉を添えるヨルも同じ心持ち。
(広い視野で見れていたわけではないけど、事が大きく動いていたんだな……)
それでも、冒険者達の一つ一つの働きが確かに正義を為し、平和を手繰り寄せた。
ヒゼンベルクも実感と共に言う。
「レッドラントが奪われなかったのも、皆のおかげだ」
「私達だけではありません」
ナタリアはそう言葉を返す。
「私達が動けた事は……伯爵のお力があってこそですから」
「それに、男爵がブレなかったから至れた結果でもありますよ」
そう声を挟んだのはカインだ。
だから、と男爵にも視線を向けつつ続けて。
「その信念に報いてほしいです。剣士団の今後にも繋がると思います」
「私は、それほどの事は――」
と、ハンツは遠慮がちだったが……ヒゼンベルクは「勿論」と頷いた。
「男爵は大きな力になってくれた。伯爵として出来る限りの事をしたいと思っているよ」
食事は続く。
スープは肉と魚の旨味が溶け込んでいて、滋味も感じる優しい一皿だ。
「こちらも美味しいね」
キオルティスが微笑むと、皆も同意に頷いて味を楽しんだ。
そんな中、話は今後の事へ。
各地の治安が概ね元通りになっていると聞くと――江流はダックルへ視線を向けた。
「工房の方はどうですか?」
「変わらずさ。ま、面倒な弟子が一人出戻ったが」
笑みと共にダックルが言うのは他でもない、ソルスの事だ。
江流は頷いてから問う。
「ソルスは“鞘”に収まりそうですか?」
「……そうだな。時間は掛かる。だが自分を打ち直すくらいの分別は、ついていくさ。そのきっかけをあんた達がくれたからな」
「そうですか」
更生も期待できるならと、江流は現場で関わったギルドの冒険者として減刑を上申したいとも告げた。
ダックルは素直に「助かる」と言った。
「ああいうやつは、現場で成長していくのが一番だからな」
レッドラントとしては、ソルスの件は既に解決済み。後はドワーフ王国で話を、という事になってゆくだろう。
レティシアはヒゼンベルクへ声を向ける。
「ラルフ様と……それに、クロックワード様の事も、お伺いしても?」
「ああ」
ヒゼンベルクは頷いた。
「“賢人会”の三人はレッドラントで収容中だ」
処分は懲役。長く出てこられないだろうという。
「クロックワードは、実質的な刑罰は無しという事になった」
各地で処分すべき者への対応は済んでおり、王国内でも既にメルべ家の立場が弱くなっている事情もある。
それ以上は、あくまで「領内の話」という事になったようだ。
「ただ、本人は家に戻るのを良しとしていない。多分、暫くは家を出て……各地で奉仕活動と遊学をする事になりそうだ」
「そうですか――」
せめて自身に出来る事をと考えた末なのだろう。レティシアは少しだけ目を閉じて、クロックワードの心を慮っていた。
「今後同じ過ちを繰り返さぬ為……伯爵家と寄り子の家で定期的に、信用の出来る家臣の交換をされるのもよろしいかもしれません」
相互監視があれば不穏の芽を早期に摘む事も可能だから、と。
そうレティシアが述べた言葉に、ヒゼンベルクは力強く頷く。
「是非その通りにしたい。助言をありがとう」
「また何か困った事があれば、ブレイブファング傭兵団に依頼してくれて構わねぇぜ♪」
ハヤトが「なっ!」と見回すと、団員のカインとヴィナスも一応は頷いて見せるのだった。
そのうちに食事は魚のムニエルに移る。
「こちらも凄く美味しいです」
一口食べて、ララベルはにこっと笑顔。
香辛料の香る表面はかりっとしており、中はふんわりしている。
(やっぱりこういうのは、バターを惜しみなく使ってこそだな)
カインはそんな実感と共に美味を楽しみつつ……レモンの風味との相性も感じて、新たな知見を得るのだった。
デザートも果実の新鮮さが感じられて……皆それぞれ最後まで堪能する。
ヒゼンベルクは再び皆を見回した。
「今日はありがとう。貴重な意見も聞く事が出来た」
「こちらこそ、楽しい食事をありがとうございました」
ロゼットもそう告げて――最後に激励の言葉を贈る。
「領民の安心させるため、どうか尽力してください」
ヒゼンベルクはそれにしかと頷いて、食事会を終えた。
食事後、皆は居間や寝室に解散していく。
と、その途中でヴィナスはモクトルを見つけて話しかけた。
「商人、あの後も光ってました?」
同情はしていないけれど、地味に気になっていたところだ。
モクトルは苦笑して頷く。
「暫くはあのままで、本人は参っていたようですよ。その分、大いに反省はしているようでしたが」
「そうでしたか」
何となくその様子を想像して――「まあ反省しているのならいいか」と、そんな思いと共にヴィナスは寝室へ戻っていくのだった。
翌日、朝食をとった皆は……邸宅入口で馬車を前にしていた。
それぞれの地へ帰る代表者達に同道するのだ。
ナタリアは恭しく一礼する。
「ご招待、ありがとうございました。とても素敵な食事でした」
「こちらこそ、感謝を」
ヒゼンベルクもまた皆へ深く頭を下げる。
「有意義な時間を送る事ができた」
また機会があれば、と。
告げられた言葉にレティシアも「勿論でございます」と礼を返した。
「此度は冒険者としてお手伝いをさせて頂きましたが。これもご縁でございましょうから――王国の為、今後は当家とも交流が出来ましたら嬉しく存じます」
「こちらからも是非、宜しくお願いする」
ヒゼンベルクが頷くと、皆は馬車に乗って別れてゆく。
その中で、ロゼットはレッドラントへ残った。
「では行こうか」
ヒゼンベルクの言葉にロゼットは頷く。
●今といつかの為に
ロゼットの目的地は、監獄だ。
高い塀に囲われたそこは重罪人を収監する場。その奥深く、厳重な警備の一角に――“武人”と“賢人”は居た。
ヒゼンベルクと共に、ロゼットは檻の傍の一室で……彼らと面会を始めている。
“賢人”は興味深げだ。
「自分を捕らえた人間と再会するとは不思議なものですね」
「――で、何の用だ」
救いの手でも差し伸べに来たか、と。
“武人”は不機嫌そうにロゼットへ言った。
ロゼットはそれには肯定を返さない。
「私には、王国の法で裁かれる貴方達には何もしてあげられない」
「はっ、だったら――」
「けれど悪人は何も残さず、語らずに消えれば良いなんて思わない」
それは偽りのない言葉。
「貴方達のような人を、道を踏み外す前に救う。それが私の責務よ。だから――知っておきたいの。何が、貴方達をそうさせたのかを」
再び日を浴びる時、もう過たぬように、と。
「……もの好きなもんだ」
“武人”は呟きながら……それでも語った。
貧しい領地で、少ない席である『兵士』の座に就く事が出来なかった事。
糧が尽き、兄弟や友人の死を目にした事。
そして生きる為に、嘗て憧れた兵士達を陥れる事で……いとも簡単に食べ物も、金銭も、地位も手に入れてしまった事。
「貴方はそれをずっと後悔しているのね。そして……それを今も止められないでいる」
「……。そうかもな」
武を以て何かを成す人間を、自分の下に置く事で……“要領よく生きる正義”を大義名分にしていられた。
“賢人”の故郷の話も聞き、“武人”は肩を竦める。
「同じようなもんさ。俺達みたいな奴らは、こういうふうにしか生きられねえ」
「――そうは思わないわ」
ロゼットは真っ直ぐに返す。
「人は変われるものよ。自分の事を自覚したのなら……きっと」
「……」
時間になると「また来るわ」とロゼットは席を立つ。
「……ちっ。だから聖職者は苦手だぜ」
“武人”は言いながら首を振る。
ただ、その表情は僅かに先刻とは変わったようにも見えて……ロゼットは檻に戻ってゆくそんな彼らを、見つめていた。
●剣の先
小領地コネット。
その兵舎の一角、男爵に案内された先で――レティシアは碧闘剣士団の姿を見つけた。
活発な剣戟の音が響くのは、団員が領の兵士と訓練を行っているからだ。
こちらに気づくと団員は頭を下げる。
「その節は、多くの迷惑を――」
「いいえ」
レティシアは首を振る。
彼らも使命だった。そして今は、味方同士。
盟友ともなれる筈だから、と。
「こちらに駐屯されていると窺ってご挨拶を。是非、皆様の持てる経験と力を、お役立て下さい」
その激励に、剣士達は静かな感嘆を浮かべて……力強く頷いた。
「自分達の振るうべき剣を、見定めて行きます」
その機会をくれた貴方達へ深い感謝をもって、と。
彼らの返した言葉に、レティシアも頷く。きっと彼らはその剣のように……真っ直ぐに進んで行けるだろう、と。
そうしてレティシアは訓練を見学。
彼らが真摯に振るう剣を、暫し眺めていた。
●道
地下を進むと、金槌の音が響いてくる。
ダックルに同行した面々は、ネルコット鉱山区へと入っていた。
一帯は活気に溢れ、以前よりも溌剌とした空気が増しているようでもある。
「組織は潰れたんだったな。治安も良くなったんだろ?」
ハヤトの問にダックルは頷く。
「国が動いてくれてな。それも含めて、あんた達のおかげさ」
皆の仕事の質も向上しているという。
それはダックルの工房も同じで……皆で足を踏み入れると、窯の熱量と共に金属の打ち合う音が聞こえてきた。
そしてその中に――資材を運ぶ若者の姿がいる。
カインは軽く挨拶をする。
「よう」
「……君達は」
はっとする彼は――ソルスだ。
皆はソルスを座らせ、話を聞く事にした。
「たっぷり叱られたかい?」
カインの言葉にダックルを見たソルスは……頷いた。
「……うん」
ただ、頭ごなしに行く末を決められてはいないという。誤りは正されながら……その先をどうするかはソルス自身に委ねられている、と。
「そうか」
江流はその瞳を見て理解する。
ソルスの眼差しは確かに未来に向いていた。それでいてまだ、完全には踏み出しきれていないのだろう。
それを悪い事だとは思わない。
自身で歩み出そうとしている事だけは、判ったから。
カインはコーディアルを取り出すとお湯で割り、ソルスに振る舞った。
「ほら」
「……ああ」
それを飲む様子を見つつ――カインはソルスの似顔絵を描き始めた。
「幾つなん」
「……今年で、二十」
「十分大人じゃねぇか。少なくとも俺より上だ」
「それにしちゃ精神年齢が低すぎる」とか、「ガキに説教させんな」と言いながらも……カインはさらさらと仕上げる。
「やるよ」
「これは……」
「この前のお前と今のお前の顔」
絵にされてみれば、ソルスでも違いを理解出来たろう。
今の顔は昔よりも、迷い自体はあるように見える。けれど、それは前に進もうとしているから表れた色だった。
ソルスは絵を見ながらぽつりと言った。
「……まだ、やるべき事が判らないんだ」
少年時代、鋭い武器を作る事だけが“価値”だと言いつけられてきた。自由になった今、それを拭いきれないでいるのだと。
「だったら、武器以外を作ってみるのはどうだい」
と、江流はそう言葉をかける。
「武器以外?」
「金属を打って、木を削って。それで作れるのは剣だけじゃないだろ」
地上の方向、そしてそのずっと先の世界を見渡すように視線を巡らせて。
「戦いの道具ばかりが鍛冶じゃない。今のロスガリアは動乱の世だ。例えば、それに巻き込まれた人の生活を助ける――義手や義足なんてのはどうだ」
「……四肢の代替か」
「そうだ。見た目も機能も求められる、半端な才能じゃやり遂げられない仕事だ」
その言葉に、ソルスは自身の拳を握りしめている。
出来ない、とは言わないだろうと江流には判った。
「あんたが誰かから奪っちまった何かを、それで少しでも取り返してやれないかね」
「……」
ソルスは決断に迷っている。
ただ、そこにある意義は判っているようだった。
単に作る物を変えるだけじゃない。それは贖罪になるのだから。
「迷うだけ迷えばいいさ。ただ今のお前の足元には、道は確かにある」
覚えとけ、と。
カインは立ち上がった。
もう一度だけ見たソルスの表情は、少し前よりもまた変わっていて……大丈夫だろうとそう思えたから。
「やり直していけそうだな」
ハヤトが言うと、江流も頷く。
「良いものがこの工房から生まれる。そんな気がするよ」
その道を示す事は、出来た。
だから一行はダックルの見送りに軽く手を振り、歩き始めてゆく。
●宴
ヨルとオゴスはドネルズを訪れていた。
道中の案内こそなかったが……こちらの来訪はすぐに伝わったのだろう。間もなくジーモンファミリーが姿を見せた。
「本当に来てくれるとはな。あんた達も暇じゃねぇだろうに」
手を上げて言ったジーモンに、オゴスも頷きを返す。
「ご無沙汰してます。顔も見せて貰いに、と思いまして」
オゴスの言葉は嘘ではない。
事件からジーモンの負担は大きく増したはずだ。その疲れが溜まっていないかと、オゴスには心配する心があった。
「あれからどうですか」
「ま、色々大変さ」
歩きながらジーモンは語る。
ウォーグスがいなくなった事で下手に暴れる者もいる。そういった輩に対処するのにも、日々追われていると。
「それでも最低限、やってるさ」
言って宿の建物を差す。
「俺が持ってる所だ。宴会はすぐに出来るが、どうする?」
「そうだね……。ちょっと寄りたい所があるんだけど」
と、言ったのはヨル。
頷くジーモンに、場所を訪ねるそこは――ウォーグスの墓地だ。
街の一角に立てられたそこは、決して目立たない。
墓碑自体も無骨で派手ではない。ただ、ゴールディの中にあってそれは、確かに立派なものに見えた。
「ちゃんとお墓を作って貰えるんだから、良かったね」
貴重な事だ、と。
ヨルは酒と花を供えながら墓石に言葉をかける。
広くはないが手入れはされていて……小さい草花がさらさらと風に揺れていた。
その様は優しく穏やかだ。
ウォーグスの辿った歩みとは、好対照な程に。
「君も多分間違えてしまったんだろう。あるよね。人生は間違いだらけだよ」
正せず、取り返せず終わる間違いもある。
そして今はドネルズも下向きになった。
けれど、とヨルは言葉を続ける。
「これからジーモン君がきっと良い街にしてくれるだろう?」
不和があった。争いがあった。
それでも、嘗てジーモン達が見た夢はまだ続いているのだと。
「俺は結構楽しみにしてるんだ」
君も見守ってみるといい、というように。
「俺もまた来るよ」
後は踵を返し、墓地を後にする。
その時吹き抜けた風が、少しだけ爽やかに感じられた。
宿の宴会場に入ると、ジーモンは早々に酒を並べ始めた。
「高い酒はこういう時の為にあるからな」
言って並べるのはウィスキーに、ブランデー。艶やかな瓶のそれは、一目で高級酒だと判るものばかりだ。
「好きなら、安酒もあるぜ。何でも来いだ」
そうして供されたそれらを、オゴスはヨルと共に飲み始めた。
深い琥珀色が美しいウィスキーは、香り高くも濃密な風味。
「こいつは美味いですね」
「ああ、上物だね」
二人は言いながら、つまみも頂く。
ジーモンが料理人を呼んで、豪快に肉を焼かせていたのだ。他にも山ほど用意された食べ物を肴に、皆で種々の酒を楽しんだ。
(しかし……)
アップル・ブランデーの芳醇さも味わいつつ、オゴスは酔い始めを自覚する。
良い酒はすいすいと体に入ってしまう分、注意が必要だ。というのも……オゴスは笑い上戸で、それが自分では少々恥ずかしいのだ。
とはいえこんな席だ。
遠慮するのも違うからと、杯を傾けて。
「ジーモンさん。色々あって、無理してませんか」
「俺か? 大丈夫さ。こういう結末にはなったが……あんた達のおかげで街もファミリーも無事。やるべき事もある。十分さ」
そう言葉が返るから、オゴスも酔いと共に上機嫌になって――その手に握ったマラカスを振り始める。
厄除けの風習は、ゴールディならためらう必要もない。
「賑やかになってきたな」
ジーモンは言うと部下も参加させ、自身もタンバリンを鳴らした。
オゴスはそれが楽しくて、更に音を重ねる。
「これからのドネルズの発展を願って――」
そうしてまた酒を一口。
「もう酔っても構わない気分になりました! ガハハッ!!」
最後には豪快な笑いと共に、宴を楽しんだ。
宴会は夜を越え、明るくなるまで続いた。
そこへ、若い衆に案内されて――ハヤトもやってきた。
「お、だいぶ進んでるな」
「遅かったじゃねぇか」
ジーモンが言うと、ハヤトは他所にも寄ってきた、と言いつつ……自身も酒を楽しむ。
それからジーモンに発破をかけた。
「これからもやる事は色々あるんだろ。頑張れよ?」
「ああ」
「お疲れ様、ジーモン君」
と、ヨルはそう声をかける。
いっぱいお世話になったから、と。
その言葉にジーモンも頷いて、こっちこそと礼を言った。
「あんた達に出会えた事が、宝さ」
そうしてまた宴は続いてゆく。
●その先へ
エルムポートを訪れた面々は……祭りの賑わいを目にしていた。
「すごいね……!」
馬車を降りたララベルはわくわくと見回す。
広場に食材が運ばれ、華やかな衣装の踊り子の姿が見える。冒険者が来たと判ると、凱旋を祝うように金管の音も響いていた。
ナタリアも興味深げだ。
「何やら、面白そうじゃないか」
「皆さんへのささやかなお礼です。食事に音楽に踊り――是非楽しんでいって下さい」
モクトルが言うと、キオルティスも頷いて歩み始める。
エルムポートは一貫して商業の活発な街ではあった。ただ事件が起きている間は、商人達も気が気でなかったはずだろう。
今はその翳りが綺麗になくなったようだ。
「皆、生き生きとしているね」
「商業が守られた事で街全体が活発なんです」
「景気も上向きに?」
ヴィナスの言葉にもモクトルは肯定を返す。
「一時的な反動、とは商人達も理解していますが……皆商機は逃さずやっていますよ」
「成程」
ヴィナスは頷いて歩みつつ、商人目線で店々を見ていった。
特産に輸入品、日用品、並ぶ品は多様だ。そして皆賑わいに乗じつつも、商売には地に足をつけて取り組んでいるように見えた。
(いい街だね)
未来のアーダベルト商会にとって友好的な取引先が多いのは望ましい。それがこのような商人達なら……ヴィナスには尚更歓迎の心持ちだった。
広場が賑わいの中心だ。
料理人が肉を焼き、魚を捌き、彩り豊かな野菜を並べる。
供される品々は、全て無料なのだと言った。
「豪気な事だな」
ナタリアが勧められるままに魚のフライやサラダを受け取っていると……モクトルは頷く。
「広場の外では普通に商売もしていますから、気に入った食材や店があればそちらでも」
これもまた商機の一つ、という訳だった。
「どれも美味しそう……!」
ララベルも目移りしつつ、ステーキや生ハムなどを受け取ってほくほく。遠くに海も見える卓で食事を始めた。
「ん、美味しい!」
「ああ。本当だ」
ナタリアも魚を食べて頷く。
衣はさくっとしていて、中から溢れる脂は甘い。揚げられていても新鮮だと判る程だ。
野菜もまた、ソースを絡めてもしゃきしゃきと歯ごたえが良い。
「このソースも美味だな――」
「平野部の果実を使ったものです。今、街では色々な果実のソースが流行っているんですよ」
「確かに……」
ナタリアは視線を巡らせて、各料理に色鮮やかなソースが使われているのを発見した。
この祭りで一層、その流行の加速や宣伝にも繋がる。そんな狙いもあるのだろう。
無論、ただ味わうだけでも楽しいものだ。
戦いから離れて気分転換をすれば、また仕事に向かう新たなモチベーションになる。だからナタリアは心から美味を味わった。
と、舞台で踊りが始まっている。
マーチングドラムのリズムに弦や金管も加わって、演奏会としても本格的になっていた。
果実のデザートを味わっていたキオルティスは――無論興味を惹かれて。
「舞台に参加してもいいかな」
「演奏をしてくださるのですか?」
モクトルの問に、キオルティスが頷くと……勿論モクトルも演者も大歓迎だから。キオルティスは早速竪琴を手に舞台に上がった。
『――』
明朗な音楽に合わせて、キオルティスが奏でるのもまた陽気な旋律。
弾むようなアルペジオに、明るいグリッサンド。弦楽奏者達もそれに鼓舞されたように、朗らかな和音を刻んで応えた。
(勿論、踊りも、ね)
キオルティスはその足に鈴を付けている。
それを鳴らしながら皆と共にステップを踏むことで……りん、りん、しゃん、しゃんと澄んだリズムが生まれていた。
「これはお見事ですね!」
「素敵だよ!」
モクトルやララベルが拍手を送ると、キオルティスは更に応えて旋律を紡いでゆく。
その曲には自身が関わった件で感じた事や、この二日間への思いも込めていた。
過去を拭い切れない場所や人がある。
けれど前を向いて進み始めている人もまた沢山いる。
そんな未来への希望とエネルギーを、キオルティスは多くの人達から受け取った気がした。
『――』
だからキオルティスは前向きなメロディを奏でてゆく。
この地でこんな風に楽しく過ごせる事。その実感を今、肌で確かめられている事……それを素直に嬉しく思ったから。
最高潮まで見事な手捌きで奏でてみせると……拍手喝采だ。
「素晴らしかったよ」
ナタリアもそう賛辞を送るから、キオルティスは皆にも向けて「ありがとう」と言葉を返していた。
昼下がりになっても空気は明るい。
そんな中、ララベルは街の一角でオークションに寄った。
「ここも人気だね……!」
多様な品が出るという事で、住民や商人も参加していて盛況だ。
彼らの白熱した入札合戦を、ララベルは眺めつつ――
「あっ、綺麗なアクセサリー」
次の出品に興味を抱く。
それは複数のブローチからなるセットだ。
赤や緑に橙と、違った色味を持ちながらデザインは一揃い。派手さはないが、可愛らしくも美しい品だった。
著名な美術品という訳ではなく、注目度は低かったが――
(かわいいし、気に入ってくれそう)
ララベルは恋人達の顔を心に浮かべて……思い切って入札する事に。
「え、えっと。こうかな?」
札を上げて、値段を提示。
すると住人からも二、三入札があったが――後にも品が控えているという事で値段は上がらない。
(それじゃあ思い切って……)
ララベルはそこから値を上げて更に入札。
最後には競合する相手も出ず――
「わっ。僕? 本当?」
拍手と共にララベルが購入決定。精緻な細工の箱に入ったブローチをゲットして……いいお土産が出来たと満足の心持ちだった。
夕刻、ヴィナスは一人で歩んでいた。
目的は広場の陰にいるモクトルだ。
丁度周囲に人がいないと見ると……そこへ一人で話しかける。
「改めて、ご挨拶を」
言ってから小声を使って。
「アーダベルト商会次期会頭の兄ルースと申します」
「アーダベルト……」
モクトルははっとする。
同盟で活動する商会だ、モクトルも当然知ってはいる。
「……ヴィナスさん、というのは仮の名でしたか」
「『商人』確保に免じて現会頭には俺の存在はご内密に」
ヴィナスの言葉に、モクトルは様々な事を察するように……今はただ頷いていた。
その後は、ヴィナスも声を戻して明るく伝える。
「数年後に商会を継ぐ弟の、良き取引相手でいてほしいと願う位、あなたは気概のある商人だと思ってますよ」
「そう言って頂けるとありがたいです」
商売を知る者の言葉ゆえ、モクトルも素直な喜びを見せた。
ヴィナスは頷くと最後に一礼する。
今暫くはこの身ですけれど、と。
「また立場を変えてお会いしましょう」
日が変わっても、街の賑わいは暫く続いた。
そんな中に……各地を巡ったハヤトもやってきた。
「祭りとは聞いてたが――まだまだ盛り上がってるな!」
「ええ。食事もありますよ」
モクトルに勧められると、ハヤトは肉を齧りつつ……今後についても話した。
「近隣の防備もしっかりな。護衛が要るなら、うちの傭兵団に依頼してくれてもいいぜ?」
「是非、検討させて頂きます」
モクトルの返答に満足しつつ、ハヤトは視線を巡らせる。
「明るいもんだな」
ここだけでなく、各地で人々は未来を向いていた。
自分達の手で取り戻した平和。
それを今一度実感しつつ、ハヤトは街を眺め、そしてまた歩き出す。
「ご招待頂き、ありがとうございます」
レッドラント、伯爵邸。
応接室に通された一行の前に、ヒゼンベルクが姿を見せると――レティシア・レインフィールは一礼して述べていた。
ヒゼンベルクも礼をもって応える。
「遠い所をありがとう。皆に再会出来て嬉しい」
「こちらこそ、久しぶりに会えて嬉しいです」
にこっと笑みを返したのはララベル・サン・ディーベルだ。
それは決して世辞ではない。
ここに来るまでの間も、この地に平穏が戻りつつあるのが感じられたし……あの後の事を、伯爵達本人から聞きたい思いもあったから。
ヒゼンベルクも思いは同じだろう、「早速食事にしよう」と皆を案内し始めた。
「今日は僕達の我儘だから。是非気を使わず、寛いでもらえると嬉しい」
そんな彼の言葉に、ナタリア・フィッツジェラルドは「ありがとうございます」と丁寧に返答をして――ふと窓に目をやっていた。
実際、外は穏やかな空気になりつつある。
それでも遠くない距離には旧メルべ邸宅の敷地もあり、事後処理が全て済んだわけではない事も見て取れる。
そういう面では言葉通り……伯爵達自身の為の催しでもあるだろう。
(……信用の回復に向けた動きの為の英気を養う。事態収束の為に費やした労力を癒す。食事会は双方の意味合いがあるからな――)
冒険者達への労いも兼ねながら、一つの景気づけでもあるのだ。
それはレティシアにも感じられる事だった。
(信用や平和を新たに取り戻すのは、相応に時間が必要でございますからね……)
伯爵達も先の事を考えている。
何かこちらの助言を求めている部分もあるのだろう。
それでもこれは、平和の入り口に立ったからこそ実現出来た事。
その実感もいだきながら――皆は食堂へ入っていった。
「ありがとう」
席に案内されると、ヨル・スレイマンは言葉を返しつつ座る。
邸宅は派手では無いが、貴族の邸宅らしい品はあった。ヨルも一応コートと呼べる衣装には身を包んできており……そのシックな装いが場の雰囲気に華を添えている。
「このような場を設けて頂き感謝いたします」
ロゼットが述べると、伯爵も頷いて改めて挨拶を述べた。
モクトルやダックル、ハンツもまた皆と挨拶を交わし――前菜が運ばれてきて食事開始。ララベルは頷いて「それじゃあ、頂きます」とナイフとフォークを手に取った。
(ええと……)
この時の為に作法は学んできてはいる。
ヒゼンベルクは気にはしなさそうだけれど……一応、マナーは意識して食べ始めた。
前菜は典型的なマリネだが――それを一口食べたハヤト=ガラン=ヴォルファングは「おっ」と笑顔を見せる。
「美味いな!」
「本当だね」
ヴィナスも頷いていた。
山菜を中心に鱒の切り身とも和えてあり……どちらも程よい歯ごたえ。調味料由来ではない甘味もあって、酸味一辺倒ではない豊かな味わいだ。
海神・江流も成程、とその美味を確かめてから尋ねる。
「これは、領地でとれたものを?」
「うん。今日の料理は、全て領内の食材を使っているよ」
ヒゼンベルクが答えると、カイン・ステラも味わいながら得心の思いだ。
(食材がよくて、且つそれを殺さないように作られてるな)
山菜は食感が消えない程度に漬けてあるし、鱒もビネガーで風味が薄まっていない。オリーブオイルも香り高く……全体的に素材が尊重されている。
シンプルだが、学ぶべき事のある一品に感じられた。
そんなふうにカインが心にメモをしている――そんな様子にも視線を巡らすのがオゴスだ。
こちらは王国の食事作法に自信がなく、少々皆の出方を窺っていた形。ただ、モクトルの席が近かったので……そちらを参考に自分も食べ始めた。
「確かに、旨いですね」
味わってみると、素直に美味を感じる。
慣れてくれば、食べながら楽器も慣らしたくなってくるけれど。
(……それはゴールディ特有の風習でしたね)
この席には馴染まないだろうから、ここでは控える事にするのだった。
前菜も終わり、程よく皆が食事を楽しんでいる所で――ヒゼンベルクが改めて現状の報告を述べていた。
「メドゥの指先の計画は都市同盟、ドワーフ王国、ゴールディにも跨って行われていた」
彼らの資金、武器、戦力調達の経路に至るまで、その全てを打破し解決できたのは他でもない冒険者達のおかげだ、と。
功績を称えるとモクトルもまた口を開く。
「私達の街の商業も、皆さんに守って頂けました」
「うちも同じだ。治安の悪い廃坑が封鎖されて、鉱山区全体でも感謝してる」
そう告げるのはダックル。
語られる各地の話に――キオルティスは改めてその繋がりを理解している。
「“商人”は同盟やゴールディで戦力と資金を集めていたんだね」
「ええ」
モクトルは頷いた。
「ターブに傀儡の組織“商会”を置き、同盟付近で資金稼ぎをさせながら……全体に武器を行き渡らせる流通網の役も担っていたようです」
「同盟と王国南西で活動しながら、必要なものはレッドラントに送っていた、と――」
キオルティスは王国周りの初めて聞き及んだ話も含め、興味深い面持ちで呟く。
ハヤトは軽く腕を組んでいた。
「思い返してみっと、“賢人”共の企みで壮大な計画になってたのが良くわかるな……」
「依頼を請けた時は、こんな大規模な陰謀に繋がっているとは思いもしませんでした」
オゴスの零した声も素直な思いだ。
「そうだね」
言葉を添えるヨルも同じ心持ち。
(広い視野で見れていたわけではないけど、事が大きく動いていたんだな……)
それでも、冒険者達の一つ一つの働きが確かに正義を為し、平和を手繰り寄せた。
ヒゼンベルクも実感と共に言う。
「レッドラントが奪われなかったのも、皆のおかげだ」
「私達だけではありません」
ナタリアはそう言葉を返す。
「私達が動けた事は……伯爵のお力があってこそですから」
「それに、男爵がブレなかったから至れた結果でもありますよ」
そう声を挟んだのはカインだ。
だから、と男爵にも視線を向けつつ続けて。
「その信念に報いてほしいです。剣士団の今後にも繋がると思います」
「私は、それほどの事は――」
と、ハンツは遠慮がちだったが……ヒゼンベルクは「勿論」と頷いた。
「男爵は大きな力になってくれた。伯爵として出来る限りの事をしたいと思っているよ」
食事は続く。
スープは肉と魚の旨味が溶け込んでいて、滋味も感じる優しい一皿だ。
「こちらも美味しいね」
キオルティスが微笑むと、皆も同意に頷いて味を楽しんだ。
そんな中、話は今後の事へ。
各地の治安が概ね元通りになっていると聞くと――江流はダックルへ視線を向けた。
「工房の方はどうですか?」
「変わらずさ。ま、面倒な弟子が一人出戻ったが」
笑みと共にダックルが言うのは他でもない、ソルスの事だ。
江流は頷いてから問う。
「ソルスは“鞘”に収まりそうですか?」
「……そうだな。時間は掛かる。だが自分を打ち直すくらいの分別は、ついていくさ。そのきっかけをあんた達がくれたからな」
「そうですか」
更生も期待できるならと、江流は現場で関わったギルドの冒険者として減刑を上申したいとも告げた。
ダックルは素直に「助かる」と言った。
「ああいうやつは、現場で成長していくのが一番だからな」
レッドラントとしては、ソルスの件は既に解決済み。後はドワーフ王国で話を、という事になってゆくだろう。
レティシアはヒゼンベルクへ声を向ける。
「ラルフ様と……それに、クロックワード様の事も、お伺いしても?」
「ああ」
ヒゼンベルクは頷いた。
「“賢人会”の三人はレッドラントで収容中だ」
処分は懲役。長く出てこられないだろうという。
「クロックワードは、実質的な刑罰は無しという事になった」
各地で処分すべき者への対応は済んでおり、王国内でも既にメルべ家の立場が弱くなっている事情もある。
それ以上は、あくまで「領内の話」という事になったようだ。
「ただ、本人は家に戻るのを良しとしていない。多分、暫くは家を出て……各地で奉仕活動と遊学をする事になりそうだ」
「そうですか――」
せめて自身に出来る事をと考えた末なのだろう。レティシアは少しだけ目を閉じて、クロックワードの心を慮っていた。
「今後同じ過ちを繰り返さぬ為……伯爵家と寄り子の家で定期的に、信用の出来る家臣の交換をされるのもよろしいかもしれません」
相互監視があれば不穏の芽を早期に摘む事も可能だから、と。
そうレティシアが述べた言葉に、ヒゼンベルクは力強く頷く。
「是非その通りにしたい。助言をありがとう」
「また何か困った事があれば、ブレイブファング傭兵団に依頼してくれて構わねぇぜ♪」
ハヤトが「なっ!」と見回すと、団員のカインとヴィナスも一応は頷いて見せるのだった。
そのうちに食事は魚のムニエルに移る。
「こちらも凄く美味しいです」
一口食べて、ララベルはにこっと笑顔。
香辛料の香る表面はかりっとしており、中はふんわりしている。
(やっぱりこういうのは、バターを惜しみなく使ってこそだな)
カインはそんな実感と共に美味を楽しみつつ……レモンの風味との相性も感じて、新たな知見を得るのだった。
デザートも果実の新鮮さが感じられて……皆それぞれ最後まで堪能する。
ヒゼンベルクは再び皆を見回した。
「今日はありがとう。貴重な意見も聞く事が出来た」
「こちらこそ、楽しい食事をありがとうございました」
ロゼットもそう告げて――最後に激励の言葉を贈る。
「領民の安心させるため、どうか尽力してください」
ヒゼンベルクはそれにしかと頷いて、食事会を終えた。
食事後、皆は居間や寝室に解散していく。
と、その途中でヴィナスはモクトルを見つけて話しかけた。
「商人、あの後も光ってました?」
同情はしていないけれど、地味に気になっていたところだ。
モクトルは苦笑して頷く。
「暫くはあのままで、本人は参っていたようですよ。その分、大いに反省はしているようでしたが」
「そうでしたか」
何となくその様子を想像して――「まあ反省しているのならいいか」と、そんな思いと共にヴィナスは寝室へ戻っていくのだった。
翌日、朝食をとった皆は……邸宅入口で馬車を前にしていた。
それぞれの地へ帰る代表者達に同道するのだ。
ナタリアは恭しく一礼する。
「ご招待、ありがとうございました。とても素敵な食事でした」
「こちらこそ、感謝を」
ヒゼンベルクもまた皆へ深く頭を下げる。
「有意義な時間を送る事ができた」
また機会があれば、と。
告げられた言葉にレティシアも「勿論でございます」と礼を返した。
「此度は冒険者としてお手伝いをさせて頂きましたが。これもご縁でございましょうから――王国の為、今後は当家とも交流が出来ましたら嬉しく存じます」
「こちらからも是非、宜しくお願いする」
ヒゼンベルクが頷くと、皆は馬車に乗って別れてゆく。
その中で、ロゼットはレッドラントへ残った。
「では行こうか」
ヒゼンベルクの言葉にロゼットは頷く。
●今といつかの為に
ロゼットの目的地は、監獄だ。
高い塀に囲われたそこは重罪人を収監する場。その奥深く、厳重な警備の一角に――“武人”と“賢人”は居た。
ヒゼンベルクと共に、ロゼットは檻の傍の一室で……彼らと面会を始めている。
“賢人”は興味深げだ。
「自分を捕らえた人間と再会するとは不思議なものですね」
「――で、何の用だ」
救いの手でも差し伸べに来たか、と。
“武人”は不機嫌そうにロゼットへ言った。
ロゼットはそれには肯定を返さない。
「私には、王国の法で裁かれる貴方達には何もしてあげられない」
「はっ、だったら――」
「けれど悪人は何も残さず、語らずに消えれば良いなんて思わない」
それは偽りのない言葉。
「貴方達のような人を、道を踏み外す前に救う。それが私の責務よ。だから――知っておきたいの。何が、貴方達をそうさせたのかを」
再び日を浴びる時、もう過たぬように、と。
「……もの好きなもんだ」
“武人”は呟きながら……それでも語った。
貧しい領地で、少ない席である『兵士』の座に就く事が出来なかった事。
糧が尽き、兄弟や友人の死を目にした事。
そして生きる為に、嘗て憧れた兵士達を陥れる事で……いとも簡単に食べ物も、金銭も、地位も手に入れてしまった事。
「貴方はそれをずっと後悔しているのね。そして……それを今も止められないでいる」
「……。そうかもな」
武を以て何かを成す人間を、自分の下に置く事で……“要領よく生きる正義”を大義名分にしていられた。
“賢人”の故郷の話も聞き、“武人”は肩を竦める。
「同じようなもんさ。俺達みたいな奴らは、こういうふうにしか生きられねえ」
「――そうは思わないわ」
ロゼットは真っ直ぐに返す。
「人は変われるものよ。自分の事を自覚したのなら……きっと」
「……」
時間になると「また来るわ」とロゼットは席を立つ。
「……ちっ。だから聖職者は苦手だぜ」
“武人”は言いながら首を振る。
ただ、その表情は僅かに先刻とは変わったようにも見えて……ロゼットは檻に戻ってゆくそんな彼らを、見つめていた。
●剣の先
小領地コネット。
その兵舎の一角、男爵に案内された先で――レティシアは碧闘剣士団の姿を見つけた。
活発な剣戟の音が響くのは、団員が領の兵士と訓練を行っているからだ。
こちらに気づくと団員は頭を下げる。
「その節は、多くの迷惑を――」
「いいえ」
レティシアは首を振る。
彼らも使命だった。そして今は、味方同士。
盟友ともなれる筈だから、と。
「こちらに駐屯されていると窺ってご挨拶を。是非、皆様の持てる経験と力を、お役立て下さい」
その激励に、剣士達は静かな感嘆を浮かべて……力強く頷いた。
「自分達の振るうべき剣を、見定めて行きます」
その機会をくれた貴方達へ深い感謝をもって、と。
彼らの返した言葉に、レティシアも頷く。きっと彼らはその剣のように……真っ直ぐに進んで行けるだろう、と。
そうしてレティシアは訓練を見学。
彼らが真摯に振るう剣を、暫し眺めていた。
●道
地下を進むと、金槌の音が響いてくる。
ダックルに同行した面々は、ネルコット鉱山区へと入っていた。
一帯は活気に溢れ、以前よりも溌剌とした空気が増しているようでもある。
「組織は潰れたんだったな。治安も良くなったんだろ?」
ハヤトの問にダックルは頷く。
「国が動いてくれてな。それも含めて、あんた達のおかげさ」
皆の仕事の質も向上しているという。
それはダックルの工房も同じで……皆で足を踏み入れると、窯の熱量と共に金属の打ち合う音が聞こえてきた。
そしてその中に――資材を運ぶ若者の姿がいる。
カインは軽く挨拶をする。
「よう」
「……君達は」
はっとする彼は――ソルスだ。
皆はソルスを座らせ、話を聞く事にした。
「たっぷり叱られたかい?」
カインの言葉にダックルを見たソルスは……頷いた。
「……うん」
ただ、頭ごなしに行く末を決められてはいないという。誤りは正されながら……その先をどうするかはソルス自身に委ねられている、と。
「そうか」
江流はその瞳を見て理解する。
ソルスの眼差しは確かに未来に向いていた。それでいてまだ、完全には踏み出しきれていないのだろう。
それを悪い事だとは思わない。
自身で歩み出そうとしている事だけは、判ったから。
カインはコーディアルを取り出すとお湯で割り、ソルスに振る舞った。
「ほら」
「……ああ」
それを飲む様子を見つつ――カインはソルスの似顔絵を描き始めた。
「幾つなん」
「……今年で、二十」
「十分大人じゃねぇか。少なくとも俺より上だ」
「それにしちゃ精神年齢が低すぎる」とか、「ガキに説教させんな」と言いながらも……カインはさらさらと仕上げる。
「やるよ」
「これは……」
「この前のお前と今のお前の顔」
絵にされてみれば、ソルスでも違いを理解出来たろう。
今の顔は昔よりも、迷い自体はあるように見える。けれど、それは前に進もうとしているから表れた色だった。
ソルスは絵を見ながらぽつりと言った。
「……まだ、やるべき事が判らないんだ」
少年時代、鋭い武器を作る事だけが“価値”だと言いつけられてきた。自由になった今、それを拭いきれないでいるのだと。
「だったら、武器以外を作ってみるのはどうだい」
と、江流はそう言葉をかける。
「武器以外?」
「金属を打って、木を削って。それで作れるのは剣だけじゃないだろ」
地上の方向、そしてそのずっと先の世界を見渡すように視線を巡らせて。
「戦いの道具ばかりが鍛冶じゃない。今のロスガリアは動乱の世だ。例えば、それに巻き込まれた人の生活を助ける――義手や義足なんてのはどうだ」
「……四肢の代替か」
「そうだ。見た目も機能も求められる、半端な才能じゃやり遂げられない仕事だ」
その言葉に、ソルスは自身の拳を握りしめている。
出来ない、とは言わないだろうと江流には判った。
「あんたが誰かから奪っちまった何かを、それで少しでも取り返してやれないかね」
「……」
ソルスは決断に迷っている。
ただ、そこにある意義は判っているようだった。
単に作る物を変えるだけじゃない。それは贖罪になるのだから。
「迷うだけ迷えばいいさ。ただ今のお前の足元には、道は確かにある」
覚えとけ、と。
カインは立ち上がった。
もう一度だけ見たソルスの表情は、少し前よりもまた変わっていて……大丈夫だろうとそう思えたから。
「やり直していけそうだな」
ハヤトが言うと、江流も頷く。
「良いものがこの工房から生まれる。そんな気がするよ」
その道を示す事は、出来た。
だから一行はダックルの見送りに軽く手を振り、歩き始めてゆく。
●宴
ヨルとオゴスはドネルズを訪れていた。
道中の案内こそなかったが……こちらの来訪はすぐに伝わったのだろう。間もなくジーモンファミリーが姿を見せた。
「本当に来てくれるとはな。あんた達も暇じゃねぇだろうに」
手を上げて言ったジーモンに、オゴスも頷きを返す。
「ご無沙汰してます。顔も見せて貰いに、と思いまして」
オゴスの言葉は嘘ではない。
事件からジーモンの負担は大きく増したはずだ。その疲れが溜まっていないかと、オゴスには心配する心があった。
「あれからどうですか」
「ま、色々大変さ」
歩きながらジーモンは語る。
ウォーグスがいなくなった事で下手に暴れる者もいる。そういった輩に対処するのにも、日々追われていると。
「それでも最低限、やってるさ」
言って宿の建物を差す。
「俺が持ってる所だ。宴会はすぐに出来るが、どうする?」
「そうだね……。ちょっと寄りたい所があるんだけど」
と、言ったのはヨル。
頷くジーモンに、場所を訪ねるそこは――ウォーグスの墓地だ。
街の一角に立てられたそこは、決して目立たない。
墓碑自体も無骨で派手ではない。ただ、ゴールディの中にあってそれは、確かに立派なものに見えた。
「ちゃんとお墓を作って貰えるんだから、良かったね」
貴重な事だ、と。
ヨルは酒と花を供えながら墓石に言葉をかける。
広くはないが手入れはされていて……小さい草花がさらさらと風に揺れていた。
その様は優しく穏やかだ。
ウォーグスの辿った歩みとは、好対照な程に。
「君も多分間違えてしまったんだろう。あるよね。人生は間違いだらけだよ」
正せず、取り返せず終わる間違いもある。
そして今はドネルズも下向きになった。
けれど、とヨルは言葉を続ける。
「これからジーモン君がきっと良い街にしてくれるだろう?」
不和があった。争いがあった。
それでも、嘗てジーモン達が見た夢はまだ続いているのだと。
「俺は結構楽しみにしてるんだ」
君も見守ってみるといい、というように。
「俺もまた来るよ」
後は踵を返し、墓地を後にする。
その時吹き抜けた風が、少しだけ爽やかに感じられた。
宿の宴会場に入ると、ジーモンは早々に酒を並べ始めた。
「高い酒はこういう時の為にあるからな」
言って並べるのはウィスキーに、ブランデー。艶やかな瓶のそれは、一目で高級酒だと判るものばかりだ。
「好きなら、安酒もあるぜ。何でも来いだ」
そうして供されたそれらを、オゴスはヨルと共に飲み始めた。
深い琥珀色が美しいウィスキーは、香り高くも濃密な風味。
「こいつは美味いですね」
「ああ、上物だね」
二人は言いながら、つまみも頂く。
ジーモンが料理人を呼んで、豪快に肉を焼かせていたのだ。他にも山ほど用意された食べ物を肴に、皆で種々の酒を楽しんだ。
(しかし……)
アップル・ブランデーの芳醇さも味わいつつ、オゴスは酔い始めを自覚する。
良い酒はすいすいと体に入ってしまう分、注意が必要だ。というのも……オゴスは笑い上戸で、それが自分では少々恥ずかしいのだ。
とはいえこんな席だ。
遠慮するのも違うからと、杯を傾けて。
「ジーモンさん。色々あって、無理してませんか」
「俺か? 大丈夫さ。こういう結末にはなったが……あんた達のおかげで街もファミリーも無事。やるべき事もある。十分さ」
そう言葉が返るから、オゴスも酔いと共に上機嫌になって――その手に握ったマラカスを振り始める。
厄除けの風習は、ゴールディならためらう必要もない。
「賑やかになってきたな」
ジーモンは言うと部下も参加させ、自身もタンバリンを鳴らした。
オゴスはそれが楽しくて、更に音を重ねる。
「これからのドネルズの発展を願って――」
そうしてまた酒を一口。
「もう酔っても構わない気分になりました! ガハハッ!!」
最後には豪快な笑いと共に、宴を楽しんだ。
宴会は夜を越え、明るくなるまで続いた。
そこへ、若い衆に案内されて――ハヤトもやってきた。
「お、だいぶ進んでるな」
「遅かったじゃねぇか」
ジーモンが言うと、ハヤトは他所にも寄ってきた、と言いつつ……自身も酒を楽しむ。
それからジーモンに発破をかけた。
「これからもやる事は色々あるんだろ。頑張れよ?」
「ああ」
「お疲れ様、ジーモン君」
と、ヨルはそう声をかける。
いっぱいお世話になったから、と。
その言葉にジーモンも頷いて、こっちこそと礼を言った。
「あんた達に出会えた事が、宝さ」
そうしてまた宴は続いてゆく。
●その先へ
エルムポートを訪れた面々は……祭りの賑わいを目にしていた。
「すごいね……!」
馬車を降りたララベルはわくわくと見回す。
広場に食材が運ばれ、華やかな衣装の踊り子の姿が見える。冒険者が来たと判ると、凱旋を祝うように金管の音も響いていた。
ナタリアも興味深げだ。
「何やら、面白そうじゃないか」
「皆さんへのささやかなお礼です。食事に音楽に踊り――是非楽しんでいって下さい」
モクトルが言うと、キオルティスも頷いて歩み始める。
エルムポートは一貫して商業の活発な街ではあった。ただ事件が起きている間は、商人達も気が気でなかったはずだろう。
今はその翳りが綺麗になくなったようだ。
「皆、生き生きとしているね」
「商業が守られた事で街全体が活発なんです」
「景気も上向きに?」
ヴィナスの言葉にもモクトルは肯定を返す。
「一時的な反動、とは商人達も理解していますが……皆商機は逃さずやっていますよ」
「成程」
ヴィナスは頷いて歩みつつ、商人目線で店々を見ていった。
特産に輸入品、日用品、並ぶ品は多様だ。そして皆賑わいに乗じつつも、商売には地に足をつけて取り組んでいるように見えた。
(いい街だね)
未来のアーダベルト商会にとって友好的な取引先が多いのは望ましい。それがこのような商人達なら……ヴィナスには尚更歓迎の心持ちだった。
広場が賑わいの中心だ。
料理人が肉を焼き、魚を捌き、彩り豊かな野菜を並べる。
供される品々は、全て無料なのだと言った。
「豪気な事だな」
ナタリアが勧められるままに魚のフライやサラダを受け取っていると……モクトルは頷く。
「広場の外では普通に商売もしていますから、気に入った食材や店があればそちらでも」
これもまた商機の一つ、という訳だった。
「どれも美味しそう……!」
ララベルも目移りしつつ、ステーキや生ハムなどを受け取ってほくほく。遠くに海も見える卓で食事を始めた。
「ん、美味しい!」
「ああ。本当だ」
ナタリアも魚を食べて頷く。
衣はさくっとしていて、中から溢れる脂は甘い。揚げられていても新鮮だと判る程だ。
野菜もまた、ソースを絡めてもしゃきしゃきと歯ごたえが良い。
「このソースも美味だな――」
「平野部の果実を使ったものです。今、街では色々な果実のソースが流行っているんですよ」
「確かに……」
ナタリアは視線を巡らせて、各料理に色鮮やかなソースが使われているのを発見した。
この祭りで一層、その流行の加速や宣伝にも繋がる。そんな狙いもあるのだろう。
無論、ただ味わうだけでも楽しいものだ。
戦いから離れて気分転換をすれば、また仕事に向かう新たなモチベーションになる。だからナタリアは心から美味を味わった。
と、舞台で踊りが始まっている。
マーチングドラムのリズムに弦や金管も加わって、演奏会としても本格的になっていた。
果実のデザートを味わっていたキオルティスは――無論興味を惹かれて。
「舞台に参加してもいいかな」
「演奏をしてくださるのですか?」
モクトルの問に、キオルティスが頷くと……勿論モクトルも演者も大歓迎だから。キオルティスは早速竪琴を手に舞台に上がった。
『――』
明朗な音楽に合わせて、キオルティスが奏でるのもまた陽気な旋律。
弾むようなアルペジオに、明るいグリッサンド。弦楽奏者達もそれに鼓舞されたように、朗らかな和音を刻んで応えた。
(勿論、踊りも、ね)
キオルティスはその足に鈴を付けている。
それを鳴らしながら皆と共にステップを踏むことで……りん、りん、しゃん、しゃんと澄んだリズムが生まれていた。
「これはお見事ですね!」
「素敵だよ!」
モクトルやララベルが拍手を送ると、キオルティスは更に応えて旋律を紡いでゆく。
その曲には自身が関わった件で感じた事や、この二日間への思いも込めていた。
過去を拭い切れない場所や人がある。
けれど前を向いて進み始めている人もまた沢山いる。
そんな未来への希望とエネルギーを、キオルティスは多くの人達から受け取った気がした。
『――』
だからキオルティスは前向きなメロディを奏でてゆく。
この地でこんな風に楽しく過ごせる事。その実感を今、肌で確かめられている事……それを素直に嬉しく思ったから。
最高潮まで見事な手捌きで奏でてみせると……拍手喝采だ。
「素晴らしかったよ」
ナタリアもそう賛辞を送るから、キオルティスは皆にも向けて「ありがとう」と言葉を返していた。
昼下がりになっても空気は明るい。
そんな中、ララベルは街の一角でオークションに寄った。
「ここも人気だね……!」
多様な品が出るという事で、住民や商人も参加していて盛況だ。
彼らの白熱した入札合戦を、ララベルは眺めつつ――
「あっ、綺麗なアクセサリー」
次の出品に興味を抱く。
それは複数のブローチからなるセットだ。
赤や緑に橙と、違った色味を持ちながらデザインは一揃い。派手さはないが、可愛らしくも美しい品だった。
著名な美術品という訳ではなく、注目度は低かったが――
(かわいいし、気に入ってくれそう)
ララベルは恋人達の顔を心に浮かべて……思い切って入札する事に。
「え、えっと。こうかな?」
札を上げて、値段を提示。
すると住人からも二、三入札があったが――後にも品が控えているという事で値段は上がらない。
(それじゃあ思い切って……)
ララベルはそこから値を上げて更に入札。
最後には競合する相手も出ず――
「わっ。僕? 本当?」
拍手と共にララベルが購入決定。精緻な細工の箱に入ったブローチをゲットして……いいお土産が出来たと満足の心持ちだった。
夕刻、ヴィナスは一人で歩んでいた。
目的は広場の陰にいるモクトルだ。
丁度周囲に人がいないと見ると……そこへ一人で話しかける。
「改めて、ご挨拶を」
言ってから小声を使って。
「アーダベルト商会次期会頭の兄ルースと申します」
「アーダベルト……」
モクトルははっとする。
同盟で活動する商会だ、モクトルも当然知ってはいる。
「……ヴィナスさん、というのは仮の名でしたか」
「『商人』確保に免じて現会頭には俺の存在はご内密に」
ヴィナスの言葉に、モクトルは様々な事を察するように……今はただ頷いていた。
その後は、ヴィナスも声を戻して明るく伝える。
「数年後に商会を継ぐ弟の、良き取引相手でいてほしいと願う位、あなたは気概のある商人だと思ってますよ」
「そう言って頂けるとありがたいです」
商売を知る者の言葉ゆえ、モクトルも素直な喜びを見せた。
ヴィナスは頷くと最後に一礼する。
今暫くはこの身ですけれど、と。
「また立場を変えてお会いしましょう」
日が変わっても、街の賑わいは暫く続いた。
そんな中に……各地を巡ったハヤトもやってきた。
「祭りとは聞いてたが――まだまだ盛り上がってるな!」
「ええ。食事もありますよ」
モクトルに勧められると、ハヤトは肉を齧りつつ……今後についても話した。
「近隣の防備もしっかりな。護衛が要るなら、うちの傭兵団に依頼してくれてもいいぜ?」
「是非、検討させて頂きます」
モクトルの返答に満足しつつ、ハヤトは視線を巡らせる。
「明るいもんだな」
ここだけでなく、各地で人々は未来を向いていた。
自分達の手で取り戻した平和。
それを今一度実感しつつ、ハヤトは街を眺め、そしてまた歩き出す。
マスターコメント
お疲れ様でした。
食事会は盛り上がり、ヒゼンベルクとしても喜ばしい日になりました。
各地の代表もまた各々の街で現状を確認してもらった事で、満足のゆく結果となった事でしょう。
イベントシナリオ易しい 報酬:多い11 / 4〜25人
2022年05月26日 17時06分53秒 公開
大成功
相談掲示板
ロゼットよ。【求和】完結おめでとう。完走お疲れさま。 見返したけど去年の10月から続いて、全部で20話あるわ。 マスターさんも大変だったろうな、と。お礼を言いたいわね。 最後は戦闘で締めちゃったから、エピローグ的な、 ちょっと話せる場があればなって思ってたのよね。 苦労もあったけど、良い時間を過ごせたわ。
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 ヒゼンベルク家の依頼に関わってばかりの身だったが、本件には半年以上も関わり続けていたのだな…… 食事会の後は何処で楽しむかとなると、エルムポートになりそうか。
>食事会の後 私は…レッドラントに残留かな。碧闘剣士団のいるコネットも 気になるけど、こっちが主だったし。どこで何しようかしら。
カイン・ステラ、よろしく。 食事会の後はダックルんとこかな。 ソルス気になるし。
海神江流だよ。よろしくね。 俺もネルコット鉱山区のダックルの工房へ行こうかな。 ソルスの様子をダックルに聞いておきたいところ。
オゴスと申します。よろしくお願いいたします。 【求和】関連の依頼でご尽力なされた皆様、お疲れ様です。 食事会の後、俺はドネルズに行きます。ゴールディ風に賑やかにやりますか。