【帝国】裏切りの意味

革酎

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シナリオID:2160

オープニング

●ふたつの依頼
 シルトラース帝国東部鎮守都市エスタル。
 その南部市街に位置する冒険者ギルド支部に、恰幅の良い初老の男性が現れた。
 彼の名はドウェイン・ゴート。
 ここエスタルでは数代続く富商ゴート商会の会頭であり、エスタル南部に於いては生き残り市民のひとりとして、積極的に町の復興に関わってきた人物である。
 ゴート会頭は受付カウンターでにっこり微笑む受付嬢リーミルに、新たに見つかった北部市街の生き残り市民の為の、支援物資輸送の護衛任務を依頼したいと申し出た。
 北部市街に棲息していた魔獣やクリーパーはあらかた討伐されたとはいえ、崩壊したエスタル全体を見れば、まだまだ多くの地点で敵性生物が徘徊している。それらが、支援物資輸送団の移動経路上に現れないとも限らないのだ。
「承知致しました! では護衛の為の冒険者募集告知票を早速、お作りしますね!」
 そういってカウンター裏の作業場に足を向けようとしたリーミルを、ゴート会頭は慌てて呼び止めた。
「いや、実はもうひとつ、お願いがあるんですが」
 ゴート会頭は更にもう一件、冒険者募集案件を頼みたいといい出した。どの様な内容かと小首を傾げて待つリーミルだったが、ゴート会頭は周囲に探る様な視線を送ってから、懐から一枚の紙片を取り出した。
 そこには、草人狩り殲滅依頼、と記されていた。
 リーミルは思わず、息を呑んだ。
 だが、ここでゴート会頭は裏の文面も読んでくれ、という意味のジェスチャーを示した。どういうことかと眉をひそめながら、その紙片の裏側に記された文字を読んだリーミル。
 二重の驚きがリーミルの面に張り付いていた。
「そういうことだから、宜しく」
 リーミルは緊張した面持ちで、受付カウンター前から去ってゆくゴート会頭の背中を見送った。

●思いがけぬ再会
 翌日、エスタル冒険者ギルド支部にクライス・アクバーが現れた。
 クライスは依頼票が貼り出されている掲示板にさっと目を通し、その中から一枚を手に取った。それは前日、ゴート会頭がリーミルに依頼票作成を申し入れた、北部市街への支援物資輸送団護衛任務だった。
 しばらく依頼票の主要事項を眺めていたクライスだったが、やがて受付カウンターへと足先を向けた。
 その時、背後から彼を呼び止める声が響いた。
「あれ……もしかして、クライス先生?」
 振り向くとそこに、滝の様に流れる金髪が美しい長身の美女が佇んでいた。
「セレフィーナ……無事だったのか」
「えぇ、先生も……まさかエスタルに居たなんて、思いもしなかったわ」
 セレフィーナと呼ばれた女性は、小走りでクライスに駆け寄り、ふと左右を見廻す。奥様とお嬢さんはと訊くセレフィーナに、クライスは一瞬の間を置いて、静かに答えた。
「ふたりは居ない。もう、居ないんだ」
「そう……だったんですか……先生、その……お悔やみ申し上げます」
 クライスの声音から全てを察したセレフィーナ。僅かに瞼を伏せ、哀悼の意を示した。が、クライスはすぐにかぶりを振り、ここではこれ以上しんみりした空気は無用だと低く呟いた。
「先生、今は何を?」
 問いかけるセレフィーナに、クライスは正直に答えた。帝国崩壊前までは帝国魔導院エスタル支部の長を務めていたこと、そして現在は冒険者として活動していることを。
「そうだったんだ……帝都の魔導院から突然居なくなったから、てっきり外地へ行ったんだとばかり思ってたけど、そうじゃなかったのね」
「急な任命だったからな。お前や他の教え子に、連絡する暇も無かった」
 答えてから、クライスはセレフィーナの衣装に着目した。真紅を基調とした軍服姿だが、帝国軍の制服という訳でもない。今は何をしているのかとクライスが問うと、セレフィーナは幾分照れた様子で頭を掻いた。
「あたしね、ロモズ歩兵団ってところで活動してるの。もう昔とは、全然違うのよ」
 更に曰く、セレフィーナは冒険者としてもそこそこ経験を積んでいると胸を張った。そしてこれまで、様々な戦場を経験した、とも。
 ここでセレフィーナは、クライスが手にしている依頼票に目ざとく気づくと、北部市街への支援物資輸送の護衛任務に協力する、といい出した。というのも、セレフィーナ自身、過日北部市街での調査任務に当たっていた為、決して無関係ではないのだという。
 この時クライスは一瞬微妙な表情を浮かべたが、すぐに気を取り直し、ならば一緒に、と肩を並べて受付カウンターへと向かった。
 受付帳簿に、それぞれ冒険者ギルド登録名を書き込む。クライスが書き込んだ次の行には、セレフィーナ・リーヴァー・シュランドル(ロモズ歩兵団長)と記された。

●何に対する裏切りか
 数日後、北部市街。
 ゴート会頭率いる支援物資輸送団は無事に、北部市街へと辿り着いた。護衛を請け負っているクライスやセレフィーナ、そして他複数名の冒険者達は、その日は石造りの公会堂で夜を過ごすこととなった。
 だがここで、事件が起きた。
 ゴート会頭が何者かに、殺害されたのである。
 冒険者達と輸送団の面々は、ゴート会頭が宿舎として使用していた古びた民家の二階に集まり、ゴート会頭の斬殺死体を声も無く凝視した。
 それからややあって、ひとりの冒険者が口を開いた。
「一体、何があったんだ?」
 クライスやセレフィーナと同じく護衛任務を引き受けた中年冒険者トバイアス・パーカーである。彼はエスタル出身で、ゴート会頭とも顔馴染みだったという話であった。
 悔しそうな表情で拳を握り締めるトバイアス。そのトバイアスを他所に、別の冒険者がゴート会頭の遺体が放置されているベッドの脇にしゃがみ込んだ。
「何か、声明文みたいなのが落ちてるぜ」
 その冒険者クーガー・エルドスは、血まみれの紙片をその場の一同の前で掲げてみせた。そこには、
『裏切者には死を』
 という一文が記されていた。
 すると、輸送団のひとりであるゴート商会の副会頭ヴァレン・アーグという中年男性が、激しい怒りを見せて大声で喚いた。
「ゴート会頭が、一体何をしたというんですか! 今まで南部市街の復興にも尽力され、大勢の生き残り市民の為に頑張ってこられたお方が、何故、何故……」
 最後の方は涙声に変わり、それ以上の言葉を紡ぐことが出来ない様子だった。
 そんな中で、クライスは苦虫を噛み潰した様な表情で、ゴート会頭の遺体をじっと凝視している。実のところクライスもセレフィーナも、そしてこの場に居る全ての冒険者達も、ゴート会頭が護衛任務とは別に、もうひとつの依頼をリーミルに申し入れていた事実を知っていた。
 冒険者ギルドは内々に、草人狩りへの支援を決定している。その一方で表面上では、生き残り市民の要請を受けて、彼らの敵である草人狩り討伐依頼も受け付けるということにしていた。
 だが、ここでゴート会頭が何者かに殺害されたという事実は、色々と面倒な事態が噴出してくるであろうことが容易に推測出来た。
 尤も、今ここで為すべきは犯人の特定であろう。
 誰がゴート会頭を殺したのか――クライスも、そしてセレフィーナことリーヴァー・シュランドルも、難しい局面に立たされていた。

解説

状況:  PCの皆様はゴート会頭の依頼を受けて北部市街まで支援物資輸送団を護衛し、その翌日になって依頼主たるゴート会頭の遺体を発見した、というところからスタートして頂きます。  一体誰が、何の目的でゴート会頭を殺害したのか。その謎を解き明かして下さい。  尚、今回はOP中にはほとんど推理材料がございませんので、プレイングだけでなく、PCの皆様のスキルも事件解決の判定基準として採用します。事件を紐解くアイデアが思い浮かばなくとも、スキルと能力値で真相を見抜くことが出来るかも知れません。 敵:  犯人が特定出来れば、その場で敵と化します。今のところ誰が犯人であるのかは分かりませんので、その具体的な戦闘力も一切不明です。 NPC:  OP本文に登場したNPCは全て登場すると思って下さい。  その他、北部市街の生き残り市民や支援物資輸送団に参加していたゴート商会の職員といったモブNPCが登場する可能性もあります。

マスターより

 皆様、こんにちは。  連動『帝国奪還連動 叢とみる夢』でのシナリオをご提供致します。  今回は推理シナリオといって良いのかどうかも分かりませんが、予想外の事実が裏に隠れています。  尚、ひとつヒントを出しておきますと、犯人は既にOP本文中に登場しています。この中から探りを入れる相手を絞り込み、捜査を進めて行けば良いかも知れません。

リプレイ

●容疑者を絞り込め
 まだ朝の冷たい空気が残るエスタル北部市街。
 その一角に建つ、とある古びた民家の二階の一室に、数名の冒険者達が集まっている。殺害されたゴート商会の会頭ドウェイン・ゴートの遺体やその周辺を、隈なく捜索する為である。
 一体誰が、何の目的でゴート会頭を亡き者にしたのか――冒険者達の間には、何ともいえぬ緊張感が漂っていた。
 そんな中、ベッド上に横たわる遺体を軽く検視したナタリア・フィッツジェラルドが、渋い表情を浮かべて腕を組む。
「抵抗する間も無く、一撃だった様だな」
「来客があった……恐らくはその客が犯人、ってとこかしらね」
 ナタリアの傍らでサイドテーブルを調べていたアウレーリア・フォン・ネーベルベルクが、卓上に残されたふたつのカップをじっと凝視している。両方とも、中身は空だ。
「けど、凶器は見つからず、ですか」
 アウレーリアに呼応する様に、部屋の反対側でアリッグ・レイダーがゆっくりと立ち上がった。
 赤黒く変色した血飛沫が目の前の壁一面に見られるものの、ゴート会頭の命を奪った得物はどこにも見当たらない。恐らく犯人が持ち去ったか、或いは常に身に着けている武器の類かと思われる。
 そして隣の狭い小部屋ではリディリディ・トゥラ・イェレミースとリーヴァー・シュランドルの両名が、ゴート商会の副会頭ヴァレン・アーグとエスタル出身の中年冒険者トバイアス・パーカーに対し、近頃のゴート会頭にいつもと違った点は無かったかと問いかけていた。
 アーグ副会頭もトバイアスも、殊更におかしな点は無かったと首を傾げる。今回の北部市街への支援物資輸送に際しても、ゴート会頭はいつも通りに張り切って準備を進めていたとの由。
 ふたりに対する聴取の間、アリッグは捜索の名目でこの小部屋にも出入りし、狭い場所を調べる体でわざとアーグ副会頭とトバイアスの肩や腕に軽く触れてみたが、これといって怪しげな反応は得られなかった。
 唯一の違いとしては、ゴート会頭が草人狩り関連の依頼を冒険者ギルドに持ちかけていた事実をアーグ副会頭は知らなかったとかぶりを振る一方、トバイアスは知っていたと渋い表情で頷き返した点であった。
 その時、別室からクライス・アクバーが姿を見せ、リーヴァーを手招きしてみせた。リーヴァーは失礼すると断った上で、クライスの居る室へと足を向ける。リディリディもつい興味本位で、クライスが籠もっている部屋にリーヴァーと並んで足を踏み入れた。
 同室にはクライスの他に、ヴァン・ローラントの姿もあった。ふたりは同じく護衛に雇われていた冒険者クーガー・エルドスから事情を聞いた後、これまでに得られた情報を整理してから、リーヴァーにもある程度共有しておこうという結論になっていた。
「ゴート会頭の遺体から得られた最後の感情が驚きだったという点から、アーグ副会頭が一番怪しいとも思ったのですが」
 ヴァンの意見に、クラウスは違うだろうなとかぶりを振った。リーヴァーもクライス同様、アーグ副会頭犯人説には疑問を呈した。
「技量的な面で、彼にはまず無理ね」
 リーヴァーはロモズ歩兵団長としての観察眼を発揮して、アーグ副会頭の所作から、彼の身体能力を細かく分析していた。結果、アーグ副会頭ではゴート会頭を一撃で仕留めることは不可能だと判断したらしい。
「セレフィーナがそういうのなら、間違い無いだろうな」
 クライスも、リーヴァーの観察眼を全面的に信頼している模様だ。
 と、ここでヴァンが、リディリディの美貌に幾分驚きの色が浮かんでいることに気付いた。ヴァンの視線を追ったリーヴァーも、思い出した様に苦笑を浮かべる。
「リディちゃん、そんな驚かないでよ……これが本来のあたしなのよね。先生の前だとつい、昔の自分っていうか、素のままのセレフィーナ・リーヴァー・シュランドルに戻っちゃうのよ」
 頭を掻きながら、ぺろっと舌を出すリーヴァー。対するリディリディは、はぁそうなんですかと、今尚驚きの色が面に張り付いたままである。
「まぁそれは良いとして……矢張りゴート会頭が殺されたのは、草人絡み、ということでしょうか」
 リディリディの掲げた疑問に、それは間違い無いだろうと頷くクライス。
 となると、現在エスタル南部市街の冒険者ギルドに走っているもうひとりの仲間の調査結果次第で、局面は大きく動き出すに違いない。

 その頃、素晴らしい程の健脚を発揮してエスタル南部市街の冒険者ギルドに朝一で引き返してきていたサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは、受付嬢のリーミルを呼び出してゴート会頭が殺害された旨を告げ、彼からの依頼内容の確認や、関連する書類一式の閲覧を申し入れていた。
「目を離している隙の殺人事件……これは名探偵サフィラの出番だねっ!」
 北部市街を飛び出す前に笑顔で嘯いていたサフィラだったが、実際にリーミルから諸々の資料を受け取ると、その瞳には次第に鋭い眼光が煌めき始めた。
 既にサフィラは、クライスからゴート会頭が草人狩り討伐依頼も併せて持ち込んでいる事実を聞いて知っている。リーミルもサフィラがエスタル出身者ではないことを承知していたから、求めに応じてすんなりと関連書類一式を提示してくれた。
「およ? 裏側に何か書いてある……?」
 サフィラの反応を受けて、リーミルは是非、裏に記された内容を読んで欲しいと小声で囁いた。
 果たして、サフィラはこの時点で事の真相の半分以上を理解したことになる。更にサフィラは、アリッグから預かってきた例の犯行声明文を取り出した。
 実はこの筆跡に見覚えがあるとリディリディが重大なヒントを口にした為、冒険者ギルドの依頼受付台帳の記名欄と照合してきて欲しい、と頼まれたのである。
 リディリディの記憶力は的を射ていた。全く同じ筆跡で記された冒険者の名が、そこにあった。
「成程……謎は解けた!」
 サフィラは再び、北部市街へと駆けた。

●ゴート会頭の思惑
 草人狩り協力者としてクライスに認識されているナタリアとヴァンは、最初からゴート会頭殺害容疑者から外されている。
 そしてリーヴァーと、彼女の部下であるアウレーリア、リディリディも同様に容疑者から除外されていた。アリッグはロモズ歩兵団関係者ではないが、リディリディと共に捜査に当たっているという立場から矢張り同じく容疑者候補から外して貰える運びとなった。
 クライスはこれらの面々を件の民家一階のリビングに呼び集め、ある驚きの事実を開陳した。
「ゴート会頭は俺の協力者……つまり彼も、草人狩りの一員だったのだ」
 矢張りそういうことだったのか――リディリディとヴァンは目線で頷き合った。その一方でナタリアとアウレーリアが、何の目的でゴート会頭が草人狩り殲滅依頼などを持ち込んだのかと訊いた。
「親草人派の冒険者を炙り出す為だ」
 曰く、北部市街の生き残り市民は草人に対して警戒心を抱いており、北部市街では草人は単なる徘徊者に過ぎない。そこにクライスが自ら囮となって草人を狩るという行動を示せば、親草人派の冒険者を誘い出すことが出来ると踏んだのだ。
「だが、甘かった。親草人派の犯人はゴート会頭の思惑を見抜き、彼を裏切者として殺害した。俺の見立ての甘さが彼を死なせてしまった」
 では何故、クライスはこの事実を伏せていたのか。
 その理由は至極単純で、誰が親草人派の冒険者であるのか、未だに不明だからだ。リーヴァーですら、今この瞬間までゴート会頭とクライスの思惑を知らされていなかったのは、情報が漏れて敵にこちらの作戦を知られることを恐れたが故の措置だったらしい。
 だがその警戒心が、今回は却って仇となった。敵は思った以上に利口か、或いはゴート会頭から簡単に情報を聞き出すことが出来る立場だったのかも知れない。
 ナタリアはゴート会頭が、もしかすると何らかの理由で自殺を図ったのではとさえ考えていたが、流石にその線は無かったかと内心で苦笑を浮かべた。
 ここでアウレーリアが、ゴート会頭は授恵者だったのかと訊いた。これに対しクライスはかぶりを振った。
 つまり親草人派が授恵者ならば、ゴート会頭を抹殺することには然程の困難が伴わない筈だ。
「冒険者としての技能を使った形跡は無かったわ。ここから公会堂まで少し距離があるから、この民家に入ることさえ出来れば、私達に気付かれずにゴート会頭を暗殺することが出来たって訳ね」
 アウレーリアの中で、犯人像が具体的に描かれ始めていた。
 この民家の二階ならば、他の冒険者に気付かれる恐れも無く事を運ぶことが出来る。少々派手な音が漏れようがお構い無しだったのだろう。
「サイドテーブルの位置とカップに付着した血痕から見て、ゴート会頭はベッドに腰かけた状態で斬られたと見て良さそうだ」
 ナタリアの分析に、誰も異論を挟まない。ゴート会頭も、自身を訪れた客が親草人派とは思っても見なかったのではないか。
「死亡推定時刻は恐らく昨晩遅く。丁度私達も、そろそろ寝支度を始めた頃だったな」
 思い出しながらナタリアは、そのタイミングでアーグ副会頭が夜食を取りに公会堂へ足を運んできていたことに気付いた。その時間帯はゴート会頭が単独で民家の二階に居たことになる。
 暗殺には絶好のタイミングだったろう。
「犯人はトバイアスかクーガーのいずれか……という訳ですね」
 ヴァンは天井を仰ぎ見た。
 今、このふたりは民家二階でゴート会頭の遺体をシーツにくるみ、搬送の準備を進めている。クライスが、敢えてお互いを一対一で監視出来る状態に持っていったのだ。
 そして残りの面々は同じ建物の一階に陣取り、トバイアスとクーガーの逃走を阻んでいる。後はサフィラの帰還を待つだけであった。
「アーグ副会頭と入れ替わる様に公会堂を出ていったのは……」
 アウレーリアも必死に記憶の糸を手繰っている。まさかゴート会頭が殺害されるとは思っても見なかった為、余りはっきりとは覚えていなかったのだが、しかし確かに、アーグ副会頭が公会堂に姿を見せるとほぼ同時に、外へ出ていった冒険者が居た。
 それがトバイアスとクーガーのいずれだったのか――やっと、思い出した。後は、サフィラの調査内容と自身の記憶を突き合せれば全てがはっきりするだろう。
 そのサフィラが、驚異的な足の速さを発揮して南部市街から引き返してきたのは、もう間も無く昼時を迎えようかという頃合いであった。
「サフィラ隊長、分かったか?」
 出迎えたリーヴァーが落ち着いた口調で訊いた。サフィラは、大きく頷き返した。
「犯人は、トバイアスだよ」
 答えながら、サフィラは懐から例の犯行声明を取り出した。依頼台帳に記された名前と、筆跡が見事に一致したのだという。更にトバイアスは今回の護衛を受けるに際し、自身は草人狩りだと申し出てリーミルからゴート会頭の依頼文書を借りて、その裏面を読んだ形跡があったこともサフィラは突き止めていた。
 あの文書の裏側に記されていたのは、クライスが冒険者達に語った作戦だったのだ。これで最早、疑いの余地は無い。
 丁度そこへ、作業を終えたトバイアスとクーガーが一階へと下りてきた。
 と同時に、冒険者達は一斉に得物を抜いて臨戦態勢に入った。

●隠された一面を知り
 事態を悟ったトバイアスは素早く得物を抜き、クーガーを突き飛ばして裏口へ走ろうとした。が、それよりも早く廊下へと駆けていたナタリアが、光輝く柱を召喚していた。
 残る逃げ道は表へ出る玄関だけだが、その方面には全身に淡い蒼光を纏わせた冒険者達が、ずらりと並んでいる。
「もう観念したらどうです? この人数、流石に無理でしょう」
 前衛に立つクライスやリーヴァー、サフィラといった面々のすぐ後ろから、アリッグが降伏勧告を投げかけてきた。流石にこの狭い場所でリディリディやアウレーリアの魔力を全力解放する訳にはいかなかったが、それ以外の面々で十分、トバイアスを押さえ切ることが出来るだろう。
 トバイアスの判断は、早かった。彼もそこそこ年齢と経験を重ねた冒険者だ。彼我の戦力差を比較して戦いになるかどうかを考えるのに、然程の時間を要さなかった様だ。
 もう一度、アリッグが呼びかけた。するとトバイアスは、愛用の剣を床に放り出して両手を挙げた。
 そこへ素早くナタリアとアウレーリアが駆け寄り、縄で両手首と両足首を縛り上げて木椅子に座らせる。
 がっくりと項垂れるトバイアスを横目に、ヴァンはクライスに問いかけた。
「授恵者は洗脳にかかりにくい、ということではなかったのですか?」
「厳密には、洗脳の影響を脱し易い、だな。しかし中には洗脳の影響を受けたまま、草人狩りを斃す為に敢えて親草人派の思惑を隠す者も居る。このトバイアスの様にな」
 授恵者でありながら親草人派として行動する者は、草人の事実を知っても尚、草人は愛すべき隣人たるべしという強い洗脳の支配下にあるのだという。
 今までは、彼ら親草人派の繋がりが余りよく見えていなかったらしいが、今回トバイアスを捕えたことで、具体的な名前が次から次へと芋づる式に明るみに出ることだろう。

 その後、捕縛されたトバイアスはアーグ副会頭率いるゴート商会の支援物資輸送団やクーガーらによって、南部市街へと連行されていった。
 そして冒険者ギルドは今回の一件を、エスタル在住の冒険者全員に対して極秘通知することで、親草人派の冒険者は今後簡単に炙り出されることになるだろうと暗黙の内に示した。
 これはある種のハッタリに近いのだが、クライスが親草人派冒険者の尻尾を掴んだという噂を冒険者達の間に流すことで、親草人派は以後、容易に動きが取れなくなるであろうと期待しての措置だった。

 ゴート商会の支援物資輸送団が去った後も尚、クライスはしばらく北部市街に残ることになった。この地である程度、草人を間引いてから南部市街へ戻るのだという。
「あ、だったらあたしも残るわ」
 リーヴァーが随分軽い調子でクライスに付き合うと申し出た際、リディリディは兎も角として、サフィラ、アウレーリア、ナタリアの三人は驚いた様子で顔を見合わせた。
 ロモズ歩兵団でいつも見せている軍閥貴族としての凛とした言動とは明らかにかけ離れているリーヴァーの今の姿が、まるで信じられなかった。
「リヴァ団長……何か、その、性格変わってない……?」
 恐る恐るサフィラが訊くと、リーヴァーは、あぁそうかと頭を掻いた。
「説明したの、リディちゃんだけだったわね」
「セレフィーナ……お前も随分、面倒臭い話を背負ってるみたいだな」
 小さく肩を竦めるクライス。
 この後、セレフィーナことリーヴァーが、クライスの前に居ると昔の自分に戻ってしまう旨をサフィラ、アウレーリア、ナタリアに説明するのに、いささかの時間を要した。

マスターコメント

 皆様、お見事でございました。  革酎的にはOP本文で余りヒントを出したつもりは無かったのですが、しっかり見るべきところを見ておられましたね。  今回の結果、エスタル内で活動していた親草人派の冒険者はすっかり身動きが出来なくなり、草人狩りはより行動し易くなりました。  お手柄でした。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:多い6 / 4〜6人

2022年05月20日 02時22分54秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ヴァン・ローラント

    探偵をやっているヴァンだ、物凄い競争率だったな…。 ゴート会頭が裏切り者か、まあ事件の動機は草人狩り関連だろう。 会頭が草人殲滅依頼を出したのが事件の引き金なら、犯人は会頭と近しい人物になる。でもそれだと裏切りの意味が分からないな。 会頭は最初、草人保護派だった→途中で草人の正体に気付き覚醒、草人狩りに協力する→草人保護派の犯人が会頭を許せず殺害 …みたいな流れも考えてみたが、そもそも洗脳にかかった人が途中で覚醒出来るのかとか、授恵者になれば洗脳にかからなくて済むのかとかまだ分からない事だらけだ。 それと会頭が依頼書の裏に書いたっていう文言、俺達は内容をまだ知らないって認識で良いんだよな。何を書いたのか知りたいが、この場所を離れる訳にはいかないよな…。

  2. アリッグ・レイダー

    ヒーラーのアリッグ・レイダーと申します。 皆様よろしくお願いします! ちょっと追加で修正を……。 今回の事件、ゴート会頭がもう一つの依頼として出した 草人狩り殲滅依頼が深く係わっているのは間違いなさそうですね。 そこから、犯人とどう結びつくのか少しずつ考えていけば、 少しは犯人に目星をつけられるのかな? >裏切者の意味 これは、ヴァンさんの言うような草人保護派が書いても 草人狩り側が書いても意味が通じる気がします。 ゴート会頭の意図はどうあれ、「草人狩り討伐依頼」を出している以上は、 草人狩り側が裏切られたと思ってもおかしくないですし、 逆に保護派の方は、その依頼の裏側を知ってたとか、色々可能性が考えられるかなと。 >裏の文面 少なくとも僕達の中では、リーミルさんに詳しく話を聞いてるとかではない限り、 知らない情報と考えていいんじゃないかなと思います。 犯人はそれを知ってて、犯行に及んだとも考えられますけど。 個人的にはこの裏の文面が引き金になってそうな気もするのですが、 内容がわからないと、ここから導き出すのは無理ですね……。 >個人 犯人の目星をつけるのは相談を兼ねて考えるとして、 僕はスキルとして、エンパシーと残留思念感応をもっていこうと思います。 他のLvありスキルは他の方が得意そうですので、 僕はこの辺りで捜査もしてみようかなと。

  3. ナタリア・フィッツジェラルド

    ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ、宜しく。 草人狩り側が裏切られたとしても、その制裁の為に会長が殺されたと仮定して。 実行犯と戦闘になる事を考えると、そいつを倒すという事は、私達は草人保護派の片棒を担がされる事になる。 あとは洗脳どうこうに関しても、草人を殺めた上で事実を説明したとしても人々は頑なに現実を認めず、市民にとって草人狩りは親愛なる隣人の敵という認識を曲げないともなると。 それ程までに強力な神通力めいたものでの洗脳、なのだろうな。 そもそも、草人を親愛なる隣人と認識する程に洗脳したのは、誰の手によるものなのかも分かってはいないんだ。 ともあれ、どっちの意味であろうとも私は私の仕事をするだけだ。 私は検死も兼ねて医療薬学Lv5を、もう1つは情報収集の為に話術Lv5を持って行こう。 こういう局面では洞察の方が活きる事もあるかもしれない。手持ちのOrbと相談すれば、Lv3までの強化は可能だ。

  4. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃ!シーフのサフィラだよっ! みんなよろしくね! んー、シンプルに考えたら草人狩りの人にやられたっぽく見えるけどリーミルに『草人狩り掃討』を依頼した事を知ってるのはリーミルを含めたギルド職員と会頭位だよねぇ… ナタリんの言うようにわざわざ『知名度のある会頭を目立つように殺害する』って事自体が草人狩り側にメリットがないし、あたし達が草人狩り取り押さえることで保護派が勢いづくもんねぇ あと気になるのはヴァンやアリッグの言うように『裏の文章』だよねー こっちに関しては早急にリーミルの所に行って確保した方が良さげだけど、まだ『あたし達の知らない情報』だから草人狩り掃討依頼の受付をしたリーミルに話を聞くのがいいかもね!

  5. No.6

    その・・・、リディリディです。 キャスターをやっています。よ、よろしくお願いします。 北部市街への依頼の完了直後なので、それが原因ということもなくはないですが、動機という面では薄そうです・・・。 となると、皆さんが仰るように草人関連でしょうね・・・。 えーっと、スキルですが私は看破Lv.5と記憶力Lv.5を準備していきますね。 裏の文章も勿論気になりますが・・・。 私はゴート会頭のお知り合いであるパーカーさんとアーグさんにお話を聞いてみたいと思っています。

  6. アリッグ・レイダー

    現場検証をするなら、 『裏切者には死を』の紙から情報を得られないか、 斬殺されたという点から、凶器を見つけることができないか、 遺体が血まみれであるため、返り血を浴びてる可能性が高いため、 返り血を浴びた服などがないか……等々探る事ができそうですね。 僕は残留思念感応を使いながら現場検証をしつつ、 エンパシーによる感情読み取りで犯人を探ろうと思いますが……。 >リディリディさん リディリディさんに余裕があれば、看破Lv.5をお持ちなので 共に現場検証をさせていただければと思いますが、いかがでしょう? 僕が探すより、凶器や何かの証拠を見つけやすいかなと思うので。 勿論他にやる事があって余裕がなければ、そちらを優先してください。 >裏切者の意味 ナタリアさんとサフィラさんの話を聞くと、 やはり保護派のしわざと考えた方がしっくりくるかな? >裏の文面 リーミルさんに事実確認するのが一番ですが……。 これは出来るか否かで言うとできないんじゃないかなと思います。 1つは僕たちが裏の文面の情報をまだ知らなく、かつリーミルさんが知っている事も知らない事。 そして距離的に確認しに迎える方法がなさそうなためです。 この裏の文面を知っていそうな人物の一人として、副会頭のアーグさんがいます。 必ず知っているとは限りませんが、知っていたら何らかのアクションはするんじゃないかな……? リディリディさんがお話を聞いてくれるなら、僕もエンパシーで内面の感情探ってみようかな? 体に触れる時は、落ち着かせるように手を置くとかで自然体で触りますね(

  7. アリッグ・レイダー

    すみません、連投です……。 >スキル 敬称略ですが、今の所推理で皆さんが使うスキルに関してはこんなところですかね。 ナタリア:医療薬学Lv5、話術Lv5 リディリディ:看破Lv5、記憶力Lv5 アリッグ:残留思念感応、エンパシー

  8. ヴァン・ローラント

    >持っていくスキル 看破の方はカンストしてる人がいるみたいだし、俺は洞察と残留思念感応で行くか。 >犯行の痕跡 方法が斬殺だから、返り血は浴びてるだろうな。 その証拠品を犯人はどうしたか…、隠すなり燃やすなりしても痕跡は残りそうだ。辺りを探してみるか。

  9. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    >裏の文書 なら、あたしがひとっ走りいって確認してくるよっ! リーミルにコンタクトを取る理由としては「ゴート会長は他に何か言ってなかったか?」とか実際に渡された護衛依頼と草人狩り掃討依頼の書類から何か情報が獲られないか見せて欲しいって感じで確認しようかなっ >スキル 看破と話術持っていこっかな!

  10. ヴァン・ローラント

    >裏の文書 確かめに行ってくれるのか? それが事件の鍵になっている可能性が高いから中身を知ることが出来るのは助かる、ありがとう。 >事件の現場について 公会堂の2階で会頭は斬殺された。その事を俺達は朝まで誰も気付かなかった。 寝込みを襲われたとはいえ呻き声くらいはと思ったんだが、喉を一撃でやられたのか? どこをやられたのかもOPには明記されていないから、そこは検死で明らかになるか。

  11. No.12

    >レイダーさん あ、現場検証ですね・・・。 その・・・、わかりました。 他の殺人現場にも何度か行ったことがありますし、発見できればと思います。 いえあの・・・、私が見てもお役に立てない可能性の方が大きいのですが。 >会頭の斬殺 たしかにそれは気になりますね・・・。 護衛任務が終わっているとはいえ、冒険者全員が気づかなかったとは犯人が手練れだったのかもしれません。

  12. アリッグ・レイダー

    >リディリディさん ありがとうございます! 僕もまだまだ頼りないと思いますし、 そこは皆でフォローするということでいいと思いますよ! 僕も精一杯お手伝いさせていただきます。 >会頭の斬殺 ヴァンさんの言うように、誰も気付かなかったのはちょっと不思議ですね。 寝込みを襲った暗殺、急所への一撃で即死、 エリアサイレンスで物音を消した……などがあり得そうですかね? 個人的には斬殺ってほどになるくらいなら、 エリアサイレンスで音を消したのが一番しっくりきますが……。 >裏の文書 なるほど、書類確認の体で向かうということですか。 距離の問題は、裁量によりそうですが向かうのでしたら サフィラさんにはレゾナンス・オブ・ヴァローをかけておきましょうか。 あくまで気持ち的なものですけど、移動が楽になるかもしれませんし。

  13. ヴァン・ローラント

    エリアサイレンス、そんなスキルもあったな。これを使って物音を消したってのはかなり濃厚な線だと思う。 OPとか他の依頼の報告書を読み返してて思ったんだが、ゴート会頭は南の人なんだな。 南部の住人は洗脳がバリバリに掛かってて、北部の住人はそうでもないっていう認識で正しいなら、やはり草人を狩る勢力に力を貸したって点で恨まれたんだろうな。

  14. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    すっかり顔出しが遅くなってごめんなさいね。アウレーリアです、宜しく。 ここまでの話で、草人派・草人狩り派の対立絡みだろうという見解には賛成です。 そのどちらと言われると、確証はありませんね。草人狩り派によるものだとすれば厄介です。 草人派であってくれた方が状況としては紐解きやすくなりますが……。 私はこの事件が授恵者によるものか、が手掛かりになりそうだと考えています。 とりあえず、現場でスキルが使われた痕跡がないか調べてみましょう。 看破か……それとも魔法知識に何か引っかかったりするかしら? スキル構成をどうするかはまだ考え中です、或いは思いつき次第で全然違う事をするかも。

  15. アリッグ・レイダー

    あ、ちょっと情報の齟齬を見つけたのでそこだけ……。 OPで『ゴート会頭が宿舎として使用していた古びた民家の二階』とあるので 殺害現場は民家の2階みたいですね。 僕達が宿舎としてたのは公会堂ですが、 ゴート会頭は、そもそも場所が違うので混同に注意ですね。 ていうか僕は危なく混同するところでした( まあ、それでも物音を立てずに殺害した可能性があるので、 スキル使用の可能性を視野に入れておくことに越したことはないかな。

  16. ナタリア・フィッツジェラルド

    間が空いてしまった…… 犯人が授恵者であると仮定するならエリアサイレンスによる無音化も無論、徹底した隠密技能どうこうだとシーフの可能性が濃厚ではあるのだろうが。 実は犯人は、OP内で既に出ていると最大のヒントが出されているにせよ、具体的にどういうクラスなのかまでは分からないだろうな。 それはそれとして、シーフと仮定すればハイディングという隠密にうってつけのスキルがある訳だが。 隠密状態だったとしても、発せられる音に関してまでは特殊な装備を使うとかでもない限り、どうしても発せられてしまうものだったかな?

  17. No.18

    エリアサイレンスですか・・・。 私はそれについては難しいかなと思っています。 というのは、その技能は『このスキルは戦闘中に使用できず、戦闘行動(メインアクション・サブアクション)使用時に解除される』ようですから。 ゴート会頭と私たちは寝泊まりしていた場所が違うのですね。 す、すみません。護衛していたということもあって、私は勘違いしていました・・・。 その場所が離れているのならば、物音に気付かなくても不自然はなさそうです。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0