【帝国】エフィミア、エスタルで肉を獲る
紀藤トキ
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シナリオID:2101
オープニング
帝国東部辺境都市『エスタル』の健在が判明し、現地の情報と共に支援に必要性も周知された。今は季節が春へと向かう時期ゆえ、緊急性は少ない。本格的な復興援助は同盟や王国と言った大国に任せるにせよ、距離的には近い辺境都市群からも当座の人的支援を送る事となった。
「最近シノビが働きすぎだから、探索者ギルドも仕事しろ――って言われてもねえ」
辺境都市群の武力担当組織、というと言い過ぎだがシャルガネのシノビと共にヴィントの探索者ギルドも国外に知れた集団ではある。サウゼルやドワーフ王国などへ直接出兵していたシノビ集団に少しは休みをやりたいという声があったかどうかはさておき、今回は探索者ギルドの迷宮探索者達に白羽の矢が立ったようだ。
「……エスタルの地下って、下水網が入り組んでるのよね? ヴィントのように迷宮化されてても困るし、一度見に行くのに異存はないわ。さっさと行って、さっさと帰りましょう」
「いってらっしゃい」
「行ってくるわね。貴女も修行、頑張るのよ。それから、あいつが仕掛けてくるとは思えないけど、もし見かけたらすぐ逃げなさい」
身元を引き受けているホムンクルスのマリアに留守中の指示を出し、エフィミアは冒険者ギルドのビッグオウムへと向かう。面倒くさそうにしてはいるが、市街地に自然のダンジョンが出現でもすれば大変だ。事は早急に進められた。
●
「ダンジョン化の兆候はないわね。っていうか、エーテル異常も見られない。ホントに幽界樹って生えてたのかしら? いや、生えてたからこそ周りのエーテルを枯らしてこうなったのかな?」
到着後、周囲を確認したエフィミアはそう結論付けた。市内にはまだ多数のクリーパーがいるそうだが、その割に(蹂躙された他の都市ほど)活発に見えないのもそのせいだろうか。早々に一仕事終えてしまったエフィミアは、多少手持無沙汰になってしまった。エスタルの復興を主導している冒険者ギルドと彼女の属する探索者ギルドは別組織なので、あまり勝手に動き回るのもよろしくない。
「んー……。あ、依頼とかやっても良いかもしれないわね? 冒険者として!」
しばし考えてから、エフィミアはエスタルの冒険者ギルドへと足を運ぶ。廃墟と化したエスタルの南の端にしがみつくようにある人間のコミュニティの中心的な存在だ。とはいえ、多少大きめの廃屋を何とか整備して使っている状況なので、普通の都市のギルド支部程しっかりしていない。壁に整理されない依頼書が張られていたり、職員が口頭でその辺の冒険者を直接狩り集めていたりと、活気は随分ある。エフィミア同様、急いで駆け付けた冒険者達がとるものもとりあえず依頼をこなしているのだろう。
「これとか良いかも。ブラッドホーン狩りか……。迷宮に出る奴と同じかしらね」
彼女が手に取ったのは、エスタルの東に住み着いたらしい魔獣ブラッドホーンの退治。野生のブラッドホーンは分かりやすく言えば、全高5m程の狂牛である。どれほど狂っているかと言えば、動く物を見ればとりあえず突進して踏みにじる。巨体に似合わず角を器用に縦横に振り回し、敵の血で赤く染めるがゆえにブラッドホーン。しかし、群れを為している場合はそこまで狂暴ではない魔獣だともいい、あるいは春になってフラれた牡牛が死に急いでブラッドホーンとなるという説もある。他種族からすればだいぶ迷惑な話だった。血塗れになろうと草食点は変わらないらしく、仕留めれば肉は臭みが少なく上物だ。早急に退治して欲しいというのは、東側の街道筋の安全を確保する為とともに、食料の確保と言う意味合いも強かろう。
「とっとと仕留めて、焼き肉パーティね……。腕が鳴るわ」
だが、エフィミアは知らなかった。野生のブラッドホーンは狂えるリア充粉砕機ではあるが、年経た雌の気配には近づかない習性がある。エフィミアの気配はブラッドホーンを委縮させ、下手すると戦うことなく追い払ってしまう可能性があった。逃げ場のないダンジョンとは違うのだ、とギルド職員が首を振る。
「探索者ギルドの金だろ? あんたがいると狩りにならんのじゃないかねえ……。勢子役にはピッタリなんだが」
「荒れ地を逃げ回られると確かにめんどくさいわね。分かったわ。他に仲間を募集しましょう」
かくて、エフィミアが剥がした依頼書はすぐに壁へと戻るのであった。
解説
マスターより
リプレイ
「いや、これエフィミアが暴れてる音じゃないか?」
ナハシュはエフィミアに狂牛をあぶり出す役目を依頼していた。そういえば、「どうせ当たる距離まで近づかせてくれないんだったら、せいぜい派手なのを撃つわよ!」と言っていたが。
(えー。つまりBBaを見て嫌な顔をするって事? 牛が?)
遠くで追い回される牛の気持ちを推し量るサイラス。ストレガ・L・リベルガストラは別の方面から状況を分析する。
「走り回らせた分、味は落ちるかもしれないが、あのサイズだと苦しめずに一発で仕留めるのは難しいのだ」
陸の狩りというより大魚の釣りのような長期戦と考えれば、事前に疲労させるのも悪くはない。
「そうですね。焼く、煮る、蒸す、炒める……、美味しく頂く方法は幾通りもありますし」
「堅すぎる部位はワインで煮込むなりすると良いのだ」
「お料理上手さんがたくさんいるし、お楽しみだね! ボクはどう料理しようかなあー」
リサ・ベイカーとストレガの会話にアルマ・ヴァレンタインもうきうきと加わった。女性3人に加えて、今回はサイラスも調理役に加わるつもりだ。
「肉片も余さず使いたいし? 挽いて寄せて焼いたり煮たりすればまあ、食べれるだろ」
「もちろんです。火さえ通っていればなんでも食べますので任せて下さい」
「頼もしいね。俺は手伝い……、というより勉強させてもらおうかな」
サイラスの言葉に、リディリディ・トゥラ・イェレミースが見た目よりもだいぶ力強い宣言をする。ヨル・スレイマンは幾分控えめにそう宣った。
●
勢子役が仕事を果たす間に、冒険者達は自分達の作戦に都合の良い場所を見つけ、配置につく。遠くからも目立つ大岩の上に2人。大岩と言っても、平地に転がっている程度の岩で、授恵者がよじ登るのに苦労はない。
「ゲルダさん、その可愛らしい格好は一体……?」
「お牛さん相手に戦うときはコレが必要だと聞いたことがありまして……!」
普段の重装歩兵スタイルと違い、今日のゲルダ・クラインは胸当て一つの軽装だ。ワンピ風の衣装に、大き目な真紅のマントをすっぽり被っている。白系マントのユークリア・フィナンシェとはお揃いで、並べば姉妹に見えるのではないか、とゲルダは考えていた。
「手くらいは繋いだ方がそれっぽいでしょうかね?」
「あ、はい。そうですね。これで仲良し姉妹に見えますか……?」
赤頭巾から伸ばした手を握り、2人でバランス感覚を駆使。背後に仲間が隠れても見えない位に大きな岩なので、さして危なくはない。
(いえ、ちょっと可愛らしすぎませんか? これがまさかの吊り橋効果……!)
にこっと笑顔のゲルダに目を奪われ、ユークリアは足元が揺れていないか確かめる。偽計で姉妹っぽく振舞っているがこの2人、年齢は同じで、敵への思考もさほど変わらなかったりする。
「美味しいおにくさんが狩れるように、頑張りますね……!!」
「肉! 新鮮で良質なたんぱく質! 帝国復興の為の食料調達、頑張りましょう!」
岩の上に寄り添う人影を見つけ、怒りの咆哮を上げた狂牛が自身へ向いた視線に戸惑う。ここで踏みとどまれる性格ならば、狂牛も長生きできたのかもしれない。
「きゃー、こわーい」
「あ、動くと危ないですよ、ユークリアさん」
棒読みでふらついて見せるユークリアを、繋いだ片手一本で支える体幹の良いゲルダ。『姉妹だろうと百合だろうと友情だろうと、ボッチから見れば同じだ妬ましいわボケがぁ!』と狂牛の悲しい心の叫びが聞こえた気がした。
『ぶもおおおお!』
気合を入れなおし、地平の彼方から突進してくる牛を、少女たちは食物連鎖の上位者が餌を見る目で見つめる。
「ホントに並んで立ってる奴に突っ込んでくるんだな?」
牛の突撃コースから横方向に少しズレた木陰で、ナハシュが呆れたように呟いた。彼以外の面々は岩の背後に隠れて出番を待っているため、囮の少女達の実況で様子を伺うしかない。ユークリアは待ち時間の間にゲルダと自分の守りを固めていく。
「おにくさん、口から泡を吹いてますね。大丈夫でしょうか」
「まっすぐこっちへ向かってきますよ! ……本当にまっすぐ向かって来るつもりじゃ?」
味が悪くならないかを心配するゲルダの横で、様子を見ていたユークリアが怪訝そうな顔をした。ヨルが支援の為に印を切りつつ、正面の様子を想像する。
「カッとなって大岩にぶつかってくれそうなら、御の字だけどね」
「いえ。なんだか。岩の上の私達を目指している、というか……。来ました!」
「うわあ、思ったよりも大きいんですね、おにくさん……」
少女達が左右に別れた真ん中へ、巨大な牛が駆け登った。ユークリアは角に引っ掛けられたのを、腕の防具でいなしている。岩の裏では、想定外の場所に現れた牛をアルマとストレガが驚いた顔で見上げていた。
「あー、そういえば何かで聞いたことがあるね。鹿も四つ足、馬も四つ足だっけ」
「その話には牛も含まれるのだ? まあ、確かに山羊とかなら上りそうな岩なのだ」
通常の牛でも、自分の肩の高さの柵を飛び越えたりする。高さが5mもある魔獣であれば身体能力も更に高かろう。
「でも、百合の間に入るのは禁忌……って最近読んだ本に書いてあったよ」
ヨルが呟くのと同時、回避しつつも岩上に留まっていたユークリアが利き手の拳を引いて構える。その拳の周囲は、ヨルの施した輝刃の淡い輝きに包まれていた。
「武術知識を元に編み上げたユークリア拳法。今こそ完成に向かう時……!」
牛相手でいいのかユークリア拳法。でも熊相手に勝利して開眼する武術もあった気がするし、気の持ちようだろう。逆位置では、ゲルダが小さな手を牛の横腹に伸ばしていた。
「……怒ってます、ね。お一人なんですね。その。……さびしく、ありませんか?」
『俺の心に直接……!?』などと考えたかどうかはともかく、狂牛へゲルダの哀れみの心が届く。同時に放たれた挑発は、彼の心の中の深い所に突き刺さった。ヨルも沈痛な面持ちで狂牛へと言葉を投げる。
「そうだよねえこの時期はいろいろ辛いよね……。せめて美味しいお肉になってね」
同じ男性だからと言って、慰めてはいなかった。そこへ、リディリディとストレガが相手の脚を奪いにかかる。
「やり過ぎて食べられるところが減ってしまうのは悲しいので、動きを止めさせて貰いますね」
「うむ。高所でまな板の上の牛になるがいいのだ」
膝を折る程の重力が狂牛と囮の2人にのしかかり、足へは輝く光球が纏わりついた。それでも魔法的な移動手段が封じられたわけではないのだが、牛の心はゲルダに完全に奪われている。
「隙あり! いま、必殺のユークリアブロー!」
可愛らしい声と同時にユークリアの打撃が牛の頭部に飛ぶも、効果は薄い。
「あまり攻撃し過ぎたらダメなんだよね? とりあえずユークリアさんを回復ーっと」
「これくらいなら、大丈夫でしょうかね?」
アルマがヒールを飛ばす横で、リサが魔矢を放ち、ナハシュは予想と違う場所で戦闘が始まってしまったので、とりあえず近くに寄った。巨大な牛と人間では岩の上へ登る難しさがだいぶ違う。
「これは……、案外タフなのかもしれないよ」
「そうですね。あまり、痛みは気にしてないようです」
様子を見ていたヨルがそう察し、つかず離れずの距離で翻弄しているゲルダも再び触れた相手の心からそう感じ取った。
「あの大きさですと、少しくらい焦がしても大丈夫でしょうか。いえ。良くないですね」
「魔獣は恵みなのだ。余さず食するのが礼儀なのだ」
大火力のリディリディとストレガは攻撃には及び腰である。ユークリアブローよりもリサの魔矢の方が傷が深い辺り、魔法防御は低そうだ。
「狙う場所は、下からだと丸見えのアレでいいんじゃね?」
弓を構えたサイラスが残酷な言葉と共に矢を放ち、鋭い一撃は狙い過たず狂牛の男の子を貫く。レッドホーンの纏う赤い狂気が一瞬青ざめたように見えた。
『ぶもっぉぉおお!?』
「ええと……。わたしには想像できないんですけど、痛いんですね?」
「あまり興奮させたまま暴れさせると味が落ちるのだ。一気に首を落とすのがおススメなのだ」
こてりと首を傾げるゲルダも、肉の価値について語るストレガも狂牛への同情はない。
「牛肉の味が落ちるってか? それは大変だな」
「そうですね! ここはユークリアッパーを使わざるを得ません!」
ナハシュが岩を駆けあがり、鋭い一刺しを脚へ刻んで素早く飛びのく。ゲルダがまだ相手の注意を引いているのを確認したユークリアが、渾身の一撃を顔面に叩き込んだ。今度は効いたようで、眼差しはゲルダを捉えたままに牛は前足を岩山に叩き付ける。衝撃波が周囲を巻き込んだが、ナハシュは既に岩の下へ逃げており、ゲルダは身軽にステップ。
「痛っ! やってくれましたね!」
カウンター気味に手痛いダメージを受けたユークリアに、アルマとヨルから手厚い回復が降り注ぐ。自分の回復は不要と見たリサがまたも魔矢を撃ち込んだ。
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結局、牛にはさほどの見せ場も無く、冒険者達の攻撃の前に体力を削られていく。
「おいしくなーれ♪ おいしくなーれ♪」
最後はおいしくなれコールと共にアルマの神霊達の腕に締めあげられ、無念の一声すら残せずに斃れた。
「これは、解体が大変そうなのだ」
水場に運んで解体したかったストレガだが、岩上から担ぎ下ろすのは難しい。この場で血抜きしてからバラして運搬となった。首を突き出すような形に固定してから、ナハシュの生活魔法の火で消毒した祭刀をヨルが振るう。
「血は、なるべく確保して職人さんにお渡ししましょうか。できれば、新鮮なうちに届けたいのですけど……」
「へぇ。血も喰えるのか? 俺が預かってもいいぜ」
野営セットから保存に使えそうな容器を見繕い、ストレガからも鍋を借りたリサが血を確保できる分だけ、新鮮なうちに集めていった。纏めてナハシュのマジカルポケットに仕舞えば鮮度の面も問題が無い。
「どこから手をつければいいかな?」
「力仕事、お手伝いします!」
「岩の上をまず洗って清潔にするのだ。刃物武器を持っている者には、傷の多い足から皮を剥いでいくのを任せたいのだ。胃と腸は注意して抜かねばならないので私がやるのだ」
やる気を見せるヨルとゲルダに、野生動物の解体に慣れたストレガが指示を出していく。本来なら吊るして行いたい工程だが、こんなバカげたサイズの牛を吊るせる場所などない。幸い、リサのピュアウォーターとナハシュの生活魔法のお陰で清潔な水は確保できており、胃や腸も洗浄して持ち帰る事が出来そうだった。
「角とか骨も、売り物になるから綺麗に回収しないとなー。なんなら俺が買い取ってもいいし?」
サイラスは狂牛の見事な角へ目を向けながら、解体に使う刃物の消毒のために火を準備していた。
「もう焼くのですか? まだですか。そうですか……」
火を見てすっくと立ちあがったリディリディが座りなおす。自身の黒汗馬とストレガのフォルゴーレの荷馬車を呼びに行ったアルマが戻ると、ユークリアは周辺の枝からよさげな形のものを集めていた。
「後で、干し肉や燻製を作るのにつるしやすいかなって思いました!」
「あ、じゃあぐるぐる回す奴の台になりそうな枝も探そう?」
「あ、鉄串のでかい奴いる? 用意できてるから後で貸すけど?」
ユークリアとアルマの会話を聞いて、サイラスが声を掛ける。専門の調理器具を用意しろと言われても難しいが、鉄の棒は鍛冶師の職分だ。家事の範疇の道具であればアルマが職人の家事用品も持ち込んでいる。
「皮を剥ぎ終えたら、解体なのだ。鮮度が欲しい部位は別で保管したいのだ」
「あ、お土産用にマジカルポケット持ってきてるよ。今はそっちに使うねー」
アルマも用意していたマジカルポケットのお陰で、捨てる部位が減ったストレガはほくほく顔である。とはいえ、破裂した睾丸周りなど、汚染された部分は容赦なく破棄された。不要部を捨てていっても、解体された牛は結構な分量だ。荷車二台がなければどうしようもなかっただろう。
「運べなかったとしたら、ここで調理してから持っていく事になりましたか?」
「時間を掛けると捨てる部位も増えるし、ここでは汁物は作れないのだ」
「ですね。レアな加減の焼肉とかも運ぶの考えたら出しにくくなっちゃいそうです」
「こんだけ新鮮なら、内臓の刺身とかもアリじゃね?」
「あ、私は生のお肉は要りません。火を通してください」
ユークリアとストレガ、リサ、サイラスがあれこれ言いつつ荷車へ肉を積み込んでいく。マイペースなリディリディは注文をつけつつ、実食へと思いを馳せていた。
●
魔法ぶっ放でつやつやしたエフィミアと合流し、一行は荷車に肉を満載してエスタルに到着する。住人達が驚いた顔で飛び出してきた。
「この季節のブラッドホーンを狩ったのかい? そりゃあすごい」
「牛の肉なんて、2年ぶりじゃのう。ありがたや、ありがたや」
これが振舞われると聞いて、鍋やら持参で主婦や料理人たちも集まってくる。荷台に転がった巨塊を授恵者の力で更に解体し、駆け付けた街の職人らの協力も受けて処理をしていった。やがて、ご家庭用の普通サイズに切り分けた肉は市民の手で焼かれたり煮られたり良い匂いを漂わせ始める。料理班もここからが本番と腕をまくった。
「まずは鍋を洗ってくるのだ」
「ありがとうございました。助かりました」
血を固めて食べられるようにするのは長期戦になる。リサは牛の血を肉職人に譲り、ストレガと一緒に空になった道具を本来の目的に供すべく洗浄を始めた。
「あ、手伝います。洗うのは得意、です」
「さっきも言ったけど、見学していいかな? 最近少し料理に凝っているのだけど、レパートリーがちょっとね」
力こぶポーズを見せるゲルダ。ヨルは調理自体には加わらず、後学の為に見ていたいという。
「見学は構わないのだ。時に、皆はどんな物を作るつもりなのだ?」
「私はシチューと、後はハンバーグを作ろうかと思ってます。じっくり一緒に作れますし」
ストレガに問われたリサは、友人のゲルダへ目を向けた。漬けたり捏ねたり混ぜたり叩いたりと手が掛かる工程も多いが、火加減に追われる焼き物よりものんびりやれそうな気がする。
「ボクはテールスープと、ローストビーフを作ろうかなー。あと、お肉の丸焼きで『上手に焼けましたー!』っていうのももやってみたいね」
スープとローストビーフは火の扱いが近いので、同時に作れるだろう。アルマ的なメインはその後だ。胴体の程よく脂の乗った部分の塊肉を鉄串に刺して、グルグル回す算段である。
「あー、そっちでローストビーフ作るん? じゃあ味付け変えとくかな。あ、端切れは無駄にしたくないから俺も使うつもり。挽肉にして、シャルガネ近いし、豆腐とかあれば良かったんだけど、無いなら辛めの野菜炒めとか? さっぱり肉しゃぶとか、新鮮な部位は刺身もアリ?」
サイラスは比較的エキゾチックな方向で考えていたようだ。ローストビーフもソースを変えれば一味変わるし、酒の肴としても喜ばれるだろう。他の希望を聞いてから、ストレガは献立を考える。
「では、煮物と炒物は任せて、スープは下拵えが面倒な所を手伝うのだ。私は回転数が大事な、串ものと焼き肉をやるのだ」
焼肉やシチューは街の住人も作り出しているので、人々の腹を満たすに不足と言う事は無いだろう。
「楽しみですね。あ、これですか? 前菜代わりに頂いています」
待ちきれないリディリディは、持参のお肉を食べ始めている。底なしか。まあ、彼女を数に含めても、おそらく大丈夫なはずだ。
「お芋とかお野菜、ありますかね?」
「色々な場所から物を届けて貰ってるから、大丈夫だよ」
ギルド職員へと確認して、リサはシチュー用の野菜を確保した。ストレガは自分の荷車に積んできたキャベツ主体の野菜類を提供するようだ。
「野菜も口直しに食べるのだ。胃もたれを防ぐキャベツは肉と相性が良いのだ」
「なるほど、人間はお肉を食べると胃もたれをするのですね。私には要りませんけど」
他にエルフが居ないと思って好き勝手言うリディリディだが、エルフ全般がそうではない。
「では焼くのだ。部位ごとに味わいも違うのでいろいろ食べていくと良いのだ」
まずは狂牛の内臓から。塩を振っただけのホルモンが脂を垂らし、火に掛かっては香ばしい匂いを放っていく。冬の残りの炭が燻した香りもまた食欲をそそった。お次は香草と高級醤油でひと揉みした柔らかいハラミを鉄板で。
「焼き上がりまで、こちらに並んでくださいね!」
ユークリアは人の流れの整理を手伝いつつ、自分もちょいちょい摘まんでいく。
「ふむふむ、こっちの歯応えも好きですが、柔らかなお肉も良いですね。お代わりを頂けますか」
リディリディはちゃっかり二度目も並んでいた。「エルフの姉ちゃんも肉を食うのかー?」「あの、はい、食べますよ?」などと会話を交わす住人も、数時間後には彼女の本性を知るだろう。
「家で待ってる奴に食わせてやりたいんで、器に盛ってくれないか?」
「分かったのだ。こっちのステーキが焼きあがるまで少し待つと良いのだ」
内臓や薄切り焼肉は序の口。次は厚めに切った腰肉を焼く。住人には年配の者もおり、柔らかく味わい深いランプは最初に出すにはちょうど良い。寄って来る住人の中には、食べるでもなく並ぶでもなくぼーっとしている者もいたが、そういった者は近くの住人が世話をしているようだった。
●
「今日は、すね肉と赤ワインを使って、定番のシチューを作りましょう」
「はいっ」
何となく背景に軽快な音楽が聞こえる気がする。良い返事の助手と共に、まずは野菜をカット。少し不揃いな物があっても、煮てしまえば同じである。再びストレガから借りた大鍋に油を敷き、肉を炒める。
「ミンチにしたの、こっちに置いとけばいい?」
「ありがとうございます。サイラスさん」
自分の所で使うついでに、とサイラスは豪快な量の挽肉を持ってきた。リサがシチューの下拵えに肉を炒めてワインを足して煮込み、横の小鍋で野菜も炒めている間、挽肉はゲルダに依頼して捏ねて貰う。ついでに見学のヨルやユークリアも巻き込んだ。
「ひと段落、ですね。ここからはゆっくり行きますよ」
シチューは大鍋に野菜を順次投入しつつ、あとはひたすらゆっくりかき混ぜの時間だ。ここでゲルダに鍋を託し、リサはデミグラスソースを手早く作る。
「焦げ付かないように。焦げ付かないように……」
一心にシチュー鍋をかき混ぜているゲルダに目を向け、リサはハンバーグへ注意を戻した。捏ねて丸められた種の最初の一つを火にかける。
「ゲルダちゃんも、適度に手を止めて食べてね」
「ふぁい。食べてます」
ストレガがお裾分けを置いて行ったのを頂いているらしい。部位はバラなのだが、香草が効いていて脂のくどさを感じさせなかった。なるほど、ハーブ、と心の中にメモを取りつつ、リサもご相伴にあずかる。途中でハンバーグをひっくり返し、良い焦げ目の付いた頃合いを見計らったかのように、リディリディが姿を現した。
「はい、リディさんは大盛りですね! ゲルダちゃんは私と一緒に……え? 大盛りが良いんですか?」
「お肉さん、美味しいので……っ」
ゲルダも良く食べる。運動した後で、自分達で獲って作ったものだという事も理由だろう。リサも品よく食べつつも、普段より食が進んだ自覚があった。そんな所に、厨房を借りた料理が到着する。
「モモのローストビーフと、野菜炒めだ。どっちもピリ辛だから、お子様は注意なー」
「テールスープと、サーロインのローストビーフもあるよ。こっちは甘めのグレービーだから子供も大丈夫!」
サイラスとアルマのローストビーフは、ギルドに窯を借りて蒸し焼きに。窯に投入してからの待ち時間でアルマはテールスープを、サイラスは野菜炒めを作っていたようだ。目の前で切り分けられる薄紅の肉は、まず目で心を鷲掴みにする。
「ローストビーフは此方の列ですよ! 焼肉はその隣です!」
ユークリアの響く声に釣られるように、食休みに入っていた者も再び列をなして並びだした。
●
「これうめぇな!!」
「うん。サイラス君が作っていた心臓の刺身と言う奴だね」
肉の生食というと眉を顰める者もいるが、ヨルもナハシュもそんな事でどうこういうような育ちではない。美味しければ勝利である。
「これは、酒のつまみだなあ。そっちの炒め物も、辛いけどそれがいい」
「安心しろ、ちゃんと料理に合う酒は持ってきた」
ニッと笑ってワインを取り出すナハシュ。まだ調理側で働いている者もいるようだ。
「上手に焼けましたー♪」
本日何度目かの陽気な声のあとで、アルマが肉串の火が通った部分を削ぎ落していく。野趣あふれる豪快な焼き方で、塩と香料をすり込んだだけの肉だがそれが良い。最初は丸かった肉も焼かれて削がれて随分痩せつつあった。あと何回かぐるぐるしたら、夢の一時もおしまいである。
「次はもう焼けましたか? まだですか。では待ちますね」
上手に焼けるたびに並ぶリディリディは、違いが分かるエルフである。さっきより柔らかいとか、中心に近い方がしっとりしているとか、一言二言告げていくので釣られて並びなおす住人も多い。
「食べ終わった人は、お家に帰る前に干し肉の仕込みを手伝って下さいね! あとで自分達が食べる物ですよ!」
崩れていない城壁の陰、ユークリアが即席の干し肉コーナーを作っている。今日の所は、赤身肉を塩漬けにするまでで、干すのは明日以降。住人達の手で行う事となろう。
「あ、残ってる香辛料とか使う?」
「香草もあるので、違う味の調味液を作ると良いのだ」
サイラスとストレガも指導にあたり、住人達も保存食づくりに精を出す。まだ食べている者もおり、酒の封を切る者もいた。
「んー、ボクもそろそろ食べようかな? 美味しいの選んでお土産も用意したいし」
ホムンクルスの少女の事を思い浮かべつつ、アルマは肉串をマジカルポケットにしまい込む。他にもお勧めがあればお持ち帰りしよう、と他の場所へと歩き出した。
この日、最近過酷な食生活を送っていたエスタルの民は、冒険者のお陰で久しぶりの肉をたらふく楽しんだようだった。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:標準9 / 6〜10人
2022年04月28日 11時30分50秒 公開
参加者
ヨル・スレイマン
ゲルダ・クライン
- サイラス
ユークリア・フィナンシェ
ナハシュ
リサ・ベイカー
- イェレミース トゥラ リディリディ
ストレガ・L・リベルガストラ
アルマ・ヴァレンタイン
相談掲示板
ヒーラーのユークリアです、宜しくお願いしますね。 私の思いついた案としては、岩の上でカップル(偽装あり)がいちゃついて囮になる形でしょうか。 岩に突っ込んできそうなやつです。 これはなるべく攻撃回数少な目で、オーバーキルしすぎずに倒すのが良いご依頼でしょうか? 魔法で防御を下げてから高火力で叩いて、弱ったら控えめにとどめをさす感じですかね。 調理は色々想像の幅が広いですね~、量が多いですし、ここまみんなそれぞれの方法で良いかも?
ウォーリアのゲルダです。よろしくお願いします。 美味しいお肉さ……(言い直そうと少し考えたが、間違ったことは言っていないかなと思い直して)お肉さんの討伐、頑張りますね! >囮 その、カップルが難しければ、独身であることを強調しながら挑発してみるとかどうかな、と思いました。上手い言葉はパッとは浮かびませんが、……たとえば、「独り身さんって、とても寂しいです……可哀想……」みたいなイメージで。 シーザーロアを併用すれば、【執着】で敵の攻撃を惹きつけることができるかなと。 カップルさん候補がいらっしゃらなければ、シーザーロアは持っていけますので立候補しておきますね。 >攻撃 はい、最初にどどーーんと高火力の攻撃をお見舞いして、その後に微調整という形がよさそうかな、とわたしも思いました。 あとは、美味しくいただくためには毒などの攻撃などは控えたほうがよさそうでしょうか? >お肉料理 リサちゃんとストレガ様がいらっしゃるので、食べる専門で考えていました(えへへ 食べたいもの……その、ビーフシチューとか、……シンプルにステーキも捨てがたいですし……迷っちゃいますね。えへへ。
調理担当のリサです、よろしくおねがいします(笑) 倒すの、あまり攻撃強すぎてもよくないようですから、わたしは様子見つつかな? 〉料理 足とかの硬い部分はシチューのように煮込み料理は良いですね。 部位によって、色々と考えてもいいかなと。
獲れたての美味い肉が食えると聞いて!! シーフのナハシュだ。なぜか牛を猪と見間違えたから書き直した。今回はよろしく。 >囮 その牛、ガバくて2人並んでるだけでも突っ込んでくるなら前衛が並んでるだけでも突っ込んできたりしねえのかな( まあ一人でも二人でもどちらでもいい気はするぜ!エフィミアもいい感じに誘導してきてくれんだろ。二人乗れるでかい岩とかがあるなら、適当に一人か二人以外岩の後ろに隠れた状態で正面に突っ込んできてくれるよう誘導するだけでもだいぶ違うんじゃねえかな。 >倒し方 同じくユークリアの言う感じで異論ねえな!毒系のスリップも同様に避けたほうがいいと思う。 個人としては付与系をあげて縛糸刃とかその辺にしておくかね。動かねえほうが便利だろう。 >料理 任せる!!!!!(食べる気しかない顔
牛肉と聞いて。 ストレガなのだ。よろしくなのだ。 肉にするにあたって損傷が少ないほうがよろしいからトドメはサクッとやってほしいのだ。 グラビティに引っかかれば移動力1。これに移動低下加えれば動けなくなるのだ。 拘束は得意なので。 料理は考え中。普通に焼肉にしてもいいと思うのだ。 内臓も滋養に良いから食べるのだ。骨はスープになるのだ。皮と角は売れるのだ。全部全部頂くのだ。
おかしい。依頼書の記述がちょこちょこ胸に刺さるな⋯⋯( ヒーラーのヨル・スレイマン。宜しくね。 >囮 凡そ2人揃えば誰でも引き付けができる、と見るなら戦いやすそうだ。岩上で囮をして引き付け、他の人は岩に隠れておくのもいいと思う。 牛相手にどこまで気持ちが通じるかはわからないけど⋯⋯ヒト2人組に対して嫉妬するくらいなら挑発も結構いけるかもしれないね。 高防御、高生命っぽいので最初の方は威力を出してしまっても良さそうな気がする。 よく観察していれば、どの程度ダメージが入っているかもある程度掴めるかもしれないね。 とりあえず、火力を上げる輝刃とコモンブラッドは持っていこうかな。 あとは一応ヒール系か。範囲攻撃が多めなのは注意したいね。それほど2人纏めて殴りたいのかなんなのか⋯⋯ >料理 得意そうな人がいっぱいいる。美味しい夕食を楽しみにします。 ⋯⋯邪魔にならなければ調理の様子はすこし見せて貰えると嬉しいな。勉強になる。 解体とか血抜きくらいなら手伝える。
ストレガさんの希望も確かに! トドメもサクっと行くなら、洞察とかしながら残り体力を観察して、最後に残りHPを確実に削れる中程度の威力の攻撃とか持っていったら大丈夫そうですね! あとリアルに頭とかなるべく集中攻撃した方が痛まないかも。 >囮 言い出したので私で良ければ二人目を引き受けます。せっかくのお相手さんの特性ですしね。ぐわーっ! て爆発したように吹っ飛ばされるのも一興です。 リヴァーオブバイタル(体に触れて全快スキル)も使いながらさらに煽れますし。 >料理 調理は私は残りの肉で乾燥肉を地味に作ろうかなって。備蓄!
No.9
お肉食べ放題の会場とはここですか! あ・・・、いえ。 キャスターのリディリディです。 その・・・、参加が遅くなりましたが、よろしくお願いします・・・。 あまり強い攻撃はダメなのですね。 それでは、私は付与をかけて防御力を下げたりなどをしておけば良いでしょうか。 特に記載はないようですが、ブラッドホーンは1匹と考えますね。
出遅れちゃってごめんね ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー ダメージを受けた回数とオーバーキル具合にも気を付けないとなんだねー 戦闘の工夫はいっぱい出してもらえてるからあまり手を出せるところがないー… いちおう弱ってきたところに神霊腕で〆にいこうかなとは思ってるよ 調理もお料理上手さんがいっぱいだし 被らないようにいくつかめにゅー考えて調理スキルもってくのともう一枠は 鮮度が命!とか出来立てをい〇なりステーキ!する用でマジポケにしようかなと 怪文書までは字数が足りなさそう…
ハウリングオブブルーフレアは持っていく方がいらっしゃらなければ持っていきますよ。 火力を持ってる方がなんだか控えめに…! ここは私も火力になるか迷いますね。 最初の岩の上には立候補していますが、何か縁のある方とかがいらっしゃったり希望者さん!(何か言葉に意気込み)がいれば明日の夜あたりまでなら代われます。 お肉は鮮度が命……わかります! >ゲルダさん 攻撃を受けながら動物交感で煽ってみてはいかがですか( 紅いマントもオススメですよ……(何かを見たい顔
>ユークリア様 わあ、赤マントは楽しそうですね……!動物交感で煽るのも効果が高そうです。 実は『弓を持って火力役』か『大剣を持って回避盾』のどちらにしようかなと悩んでいたのですが、お言葉に甘えてシーザーロア+動物交感で回避盾の方向でいきますね! >囮 ええと、わたしとユークリア様ふたりで岩の上……でしょうか。 改めまして、よろしくお願いしますね。 ハーフリングの背丈事情的に少しだけ不安要素はありますが、男性同士や女性同士でもカップル認定するおにくさんであれば大丈夫かなと。……たぶん。 ユークリア様と同じく他に希望する方がいらっしゃいましたら変更は可能ですので、ご遠慮なく仰ってくださいね。その場合は横から動物交感で煽ります!
No.13
サイラスだ、よろしくなー とりあえず弓で仕掛けようかと。 調理もまあ何かしらやる予定
>ハウリングオブブルーフレア ユークリア君が持っていくなら任せる⋯⋯と思ったけど、囮をするなら初手で使うのがちょっと忙しくなるかな? 俺が持って行ってもいい。INIもできるだけ高めにしておく。 同じターンに輝刃もある程度付与しようかな。 囮役は2人で異論ないよ。華があって大変良いね(頷く アルマ君が神霊達の腕を持っていくなら、トドメは任せる形にしておいた方が良いかな。 洞察持っての観察はしっかりするようにしておく。
では囮に突撃してきたのを火点で足止めするのだ。攻撃よろしくなのだ。
明日出発なのでぷれいんぐ出してきたよー 特性は神霊腕(弱ってきたタイミングを教えてもらう感じに)とヒーリングオーラ 付与多めのセッティングなので回復と輝刃での補助で攻撃はおまかせにしてるよー
同じく流れ、囮共に異論ねえ。 当初描いていた通り、縛糸刃での移動阻害を主に考えておくつもりだ。 狩った後のメシは全部お任せするが、その分生活魔法での調理補助とうめえの持ち帰るためのマジカルポケットは持っていっておく。
ヨルさん、ブルーフレアありがとうございます! ゲルダさんがやる気になってくれました! 私は火力で応えます! 最初はバランス感覚で支えますね。