【聖祭】第二王子の野望~全国版~

弓月 蒼

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シナリオID:1758

オープニング

●初夢キャンドル(青狸声)

 朝起きたら枕元に置かれていた蝶の模様が入った金色の不思議なキャンドル。
 火を点けると眠ってしまい、なぜかその間。世にも不思議な夢を見るのだと言う。

 事態を重く見た冒険者ギルドは今、キャンドルについての情報を絶賛募集中である。
 そう。「また」これが初夢なんだ、すまない。謝って赦して貰おうとも思っていない。

 大凡のあらすじは前作『【初夢】第二王子の野望』を参考にして欲しい。
 じゃあ、新年早々ゆっくりしていってね!!!

●無くなった王国

『男の子は男の子同士! 女の子は女の子同士で仲良くすれば皆はっぴー!』

 それが国家における唯一の法であるとしたら、どうだろう。
 果たして人は、その様な断定的支配構造の中で幸福に生きられるものだろうか。

「姉様、姉様、準備は良いかな? マリスはばっちりだよお」

「えぇ……これ私まで巻き込まれますの……年の瀬はゆっくり福袋とか待っていたいのですけれど」

「そうもいかない。この崩壊した王国を建て直せるのは私達しかないのだから」

 かつて、パンクリアース学園と呼ばれた学び舎は既に無い。
 王国が内乱で崩壊してより一年。辛うじて治安らしき物を保っていた王都(グランスパーダ)は。
 
 何処からともなく出現した3人の魔女によって完全に占領、支配されていた。
 幾つも存在した『魔法使いの塔』はその尽くを撤去され僅か3つを残すのみ。

 これら三大魔女の塔とその傘下に下った貴族達こそが、社会秩序が崩壊し末法の世と化した王国。
 否、神聖魔女王国(ウィッチキングダム)における唯一無二の支配構造である。

「年が明けるよ、もう一度お祭りを始めよう。きっと皆喜ぶよ?」

 朗らかに王都の人口の約七割を洗脳し、王城を崩壊に導いた次女。『侵蝕』の魔女マリステラ。

「楽しそうで良いですわねえ。私そういう理念も情緒もない周回作業(おハム)みたいなのはちょっと……」

 面倒くさそうに片手間で、王国騎士団を王族ごと絶滅させた長女。『鏖殺』の魔女マリエン。

「何を言う。社会秩序の再建は為政者の義務。即ち支配者の義務だろう」

 そんなペンペン草すら生えない王都に新政府を敷こうと奮戦する三女にして末っ子。
 
「……う? マリスは支配者?」

「私、全然完全まーったく支配する気とか無かったのですけれど」

「革命を成した者には成した者なりの果たすべき役割がある、ということだ」

 声変わり前の妙に可愛い声で、頼りない姉達に政を説く『革命』の魔女マリベイル。
 黒装束と『竜』の家紋が似合う純粋培養生粋のお嬢様である。決して男の娘ではない。

 彼女が刷り上げた法典(ドゥジンシ)は広く国土を巡り、その信奉者達は自然と魔女の塔を目指す。
 結果、増え続けた魔女王国軍は実に10万を数える大軍勢と化している。正に魔女の所業。

 巨悪に支配された、王国の未来は如何に……!
 尚、生存している民衆は全員マリステラちゃん万歳脳になっている為、割と幸福なようである。

●四面楚歌

「王国が、まさかあんな事になってしまうなんて……」

「大体貴公(おまえ)が悪い」

 かつて、英雄となった冒険者達にしこたまボコにされた第二王子ウィリアム・リーンエス。
 王族最後の生き残りになってしまった彼は、北方辺境伯領に緊急避難を余儀なくされていた。

「このままでは騎士達をミニスカートにすることも出来ない」

「もう2、3発良いのを入れた方が良かったか……」

 瞳を伏せた『アーチボルド辺境伯』メルヴィン・トマス・アーチボルトであるが。
 世情はそれどころではない。それには王国の惨状以外にも2つの大きな要因が関わっていた。

「辺境伯、大変です! 帝国南部都市ヴィントに結集したZENRA達が遂に進軍を始めました!」

「国境砦(ヴァイセントラフ)からの報告は!?」

「必死に防衛線を敷いていますが、ZENRAの感染までは防げておらず……」

「くっ、ノイマン! 魔法薬(ワクチン)の生成は未だ終わらないのか!」

「無茶言わないで下さい! こっちはこっちで必死にやってるんですからあ!」

「私が、私が帝国の民を守……ぐ、うう……ぜ、ZENRAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

「まずい、また発作が……! バルディオン殿! どうか衣類(ふく)を確かに……!」

 未知の感染性呪詛ZENRAに侵された守将バルディオン。
 それにより崩壊しつつある国境砦(ヴァイセントラフ)の戦況。そしてもう一方――――

「……伯、同盟諸国の状況を探って参りました」

「ガレス、良く戻ってくれた。それで、邪竜山脈より東は……」

「ミニスカート王国軍の残党達によって、都市同盟の通商網は崩壊していると言って良いかと」

「く、忠義に厚い王国の騎士達が、どうしてそんな事に……!」

「ウィリアム。何度でも言うが、大体全部貴公(おまえ)が悪い」

 嘆息を溢す辺境伯に、沈痛な面持ちでミニスカート姿のガレスが応じる。

「帝国でZENRAが蔓延、同盟はミニスカート対策で手一杯。
 ――――と、なると、助力を乞う訳にもいきませんね……」

「そうだな。ミニスカートの密偵をさせるならせめてアストに頼むべきだった」

 精強で知られる北方辺境騎士団ですら大陸の崩壊は止められないのか。
 人類は今まさに存亡の危機を迎えようとしていた。

●征竜は静かに眠りたい

 ――――一方、その頃。

“くだらぬな 帰るがよい 小さきものよ”

 吐く息が瞬く間に凍えるほどの冷気の中、『黒曜子』レイウェスト・バルダスは征竜と向き合っていた。
 帝国に蔓延するZENRA、その解消の為。彼はこの超存在に助力を乞わない訳にはいかなかったのだ。

「征竜。神代より在る、創造神の子よ」

 レイウェストは声を張った。

「かつて貴方は……貴方がたに憧れた蜥蜴たち共々戦ったはずだ。抗ったはずだ。
 なのになぜ今、貴方はここにいるのか。これだけの力を持つ貴方が。その理由を、教えてほしい」

"この事態と 関わり合いに なりたくないからだ"

 だろうな。と、レイウェストは征竜に理解を示した。もうすとんと腑に落ちた。
 彼自身すら積極的に関わりたい訳ではない。だが、皇族たるレイウェストは退く訳にはいかない。

「貴方は」

 凛然と征竜を見つめたレイウェストは、こう結んだ。

「竜(自分)は服を着ていないから安全だ。と思っているのではないか。 そして――――」

 まさか竜にミニスカートを履かせに来る者も居ないのではないか、と。
 だが、それは――――違うのだ。

「間違いだ。間違いなのだ征竜よ。世の中には獣嗜好(ケモナー)なる者が居ると聞く。
 竜にミニスカート……あり得る。そういう嗜好も、有り得るということ……!」

“……その無謀を今は認めよう”

 認めるんだ。と果たしてレイウェストが考えたかどうかはともかく。
 暫しの沈黙と熟考の末、征竜は如何にも嫌そうに。心の底から面倒くさそうに――――告げた。

"ならばその 我に実害(ミニスカ)を成す元凶を――――"
 
"殺せ"

「それ、は、つまり……あ。これ多分ウィリアム王子のことだな」

 告げた瞬後、世界が闇に沈んだ。多分、これ以上は本当に巻き込まれたくなかったのだ。
 意識を失うその瞬間、レイウェストもまた想ったという。

 "叶うならば、私も巻き込まれたくなかった……な"

 ――――と。

----------------------きりとり----------------------

 ※このシナリオは『夢オチシナリオ』です。
 シナリオ内容は架空の物ですが、今回は夢の記憶が残るようです。
 報酬は冒険者ギルドから謎のキャンドルの情報に対する感謝の気持ちです。

解説

 己の生き様、乱世に刻め! りだいぶ!! ●状況  大陸全土がのべつまくなしやばい。 ●選択肢  【1】征竜に帝国を救って貰う為にウィリアムを討つ。  【2】王国再興を目指して辺境伯と共に魔女と戦う。  【3】ZENRAorミニスカート王国軍残党としてヒャッハーする。  【4】新しく冒険の書を作成する。  <なお、一致団結する必要は全くない> ●冒険者たち  神代に於ける神話の英雄並の夢補正が乗った冒険者Lv100。  1人で1万人の兵を相手取れる力を持ち、征竜と三魔女を除けば絶対的最強戦力。 ●ミニスカート王子  ウィリアム・リーンエス。諸悪の根源であり王国を復興するには必要な唯一の王族。  去年依頼に失敗しミニスカート神の加護を失った為、素のまま冒険者0.5人分位の戦力。 ●征竜  "ウィリアムを殺せば帝国のZENRAを一掃してやろう”  夢補正込みの冒険者たちが一致団結すれば良い勝負が出来るかもしれない超常存在。 ●三魔女  ドゥジン神の加護を受けた魔女三人。百合の間にベーコンでレタス。  ダウナーなマリエン、ハッピーなマリステラ、一人だけやってるゲームがSLGなマリベイル。  各魔女1人が冒険者1人よりは強く、2人よりは弱い。 ●神聖魔女王国軍  三魔女が支配下に置いた”マリステラちゃん万歳脳”の烏合の衆。  痛みも傷も無視して「マリステラちゃん万歳」を叫びながら玉砕突撃をしかけて来る。  指揮も何も有ったものではないがとにかく多く、恐れを知らず、勢いだけは有ると。  否応なしに恐怖心を煽る人の海。違う、人海戦術ってそういう意味じゃない。 ●ZENRA  接触すると感染する呪詛。主な症状は『ZENRAと叫ぶ』。  『服を脱ぐ』。『全年齢層向けの為、人物描写が出来なくなる』の三段階。  公序良俗と健全なロスガリア大陸を守る為、女性には感染しない。 ●ミニスカート王国軍残党  ウィリアムの薫陶を受け人類ミニスカート補完計画を実行に移すヒャッハーな騎士達。  老若男女問わず、お前もミニスカートになれ。 ●北方辺境伯領  ウィリアム・リーンエスが緊急避難している王国北方の領土。  中心地は城塞都市『ノストガルデン』。夢の発端でありスタート地点を兼ねる。  大体ウィリアムが悪い。 ●注意事項 ・これは夢です。冒険者は酔っ払ってません。素面です。 ・作中に登場する人物、団体、超越的存在は実在のそれらと何の関係もありません。 ・何の関係もありません。いいね。

マスターより

 どうも、『こんな酷い話がシリアスとかダークとか口走っているマスター名義で運営されるわけがない』  弓月 蒼です。あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。  正直そろそろ偉い人に怒られそうな気がしていますが、夢オチなので大丈夫です。宜しければご参加下さい。   なお、Lv100相当スキルを妄想してぶつけても些かの問題もありません。俺の右腕と左眼が疼くぜ。  まだ明けてない? 時はまさに聖霊節が終わったばかり? はははこやつめ。  相談していると多分明けている筈なので、どうぞお気になさらず初夢をお楽しみ頂けましたら幸いです。

リプレイ

●群雄割拠とかそんなチャチなもんじゃ断じてめえ

「これから、どうすれば良いのでしょう……」

 ――――王国南方。『不夜城』バルハラリア。
 地方の小都市でありながら、王国最大級の歓楽街として知られる同都市の片隅。

 アーチボルト辺境伯との行き違いと私的感情(おとめごころ)の結果として思わず出奔し(てしまっ)た。
 イヴェール・イリュジオンは夜灯(エーテルランプ)の下をとぼとぼと歩いていた。

「カ、カ、カ、其処な嬢。何やら悩みがある顔をしておるのう」

 銀の髪を垂らし夜灯で佇む少女に、声を掛けて来たのは如何にも好々爺とした老人だった。変態だ。
 長く伸ばした髭は付け物ではあるまい。しかし油断は出来ない。老人の気配は授恵者と見て間違い無い。

「――――何者です」

「殺気立つでない。こんな爺でも目を見れば分かる。お主、不満なのじゃろう? この世界が」
 
 例え相手が性も果てた老人でも、最早何時マリステラちゃん万歳特攻を仕掛けて来てもおかしくはない。
 剣に手を添えたまま、油断せず先を促すイヴェールに。得体の知れない老人は嗤って続けた。

「兵(力)をやろうか。世界を変えられる力をな」

 普段であれば。こんな怪しい人物の申し出など一切耳を貸さず斬り捨てていたろう。
 それ程にその老人の申し出は唐突で。けれど頭の何処かで理解が及ぶ。

 そうなのかもしれない。この混沌とした世界には居場所がない。標がない。息苦しい。
 正義は誰に。秩序は何処にあるのか。それを示すには――――嗚呼、そうだ。数(力)が必要だと。

「……何が、望みですか」

「何も。何もだとも。カ、カ、カ、王家がこうなってしまってはなァ。全く道化よ。されど道化ならば踊らねば」

「私は、黙って踊らされる程素直ではありませんよ」

「構わぬ構わぬ。立とうが転ぼうが皆同じ。さて――――では嬢よ。お主ならば力に何と名付ける」

 立ち止まっている間にも、人は自由を奪われ、思想を改変され、弱き者は失い続けている。
 一時であろうと無駄には出来ない。そしてそんな。弱者を救う力が其処に有ると言うならば。

「――――清く正しき銀の髪を愛する者達。『銀髪姉妹(スール)同盟』と」

 ――――

 都市同盟南部、エスト・ポーラ近郊。

「にゃーはっはっはっ! ロスガリア大陸はこのあたしが率いるホットパンツ教団が貰い受ける!!」

「つ、つよすぎる……!」

 己が精魂込めて手縫いした、ミニスカートを無理矢理剥ぎ取られた騎士達が地に伏せて呻く。
 末法(マッポー)の世は弱肉強食。その論理に則って正攻法でヒャッハーした結果だ。やんなるね。

 そんな死屍累々の中に有って、その森人(エルフ)だけはほぼ無傷。
 極端に短い脚伴(ホットパンツ)を愛し極端に短い脚袢(ホットパンツ)に愛された女。

 今となってはミニスカート王国騎士団に命を狙われている空前絶後のお気楽エルフ。
 8月8日生まれ109歳、ファルシオンズ中堅手にしてロモズ歩兵団測量士。

 その名はサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブである。昨年彼氏が出来ました。
 彼女の周囲を取り囲むのは傘下に置かれた極短袢亜人(ホットパンツゴブリン)の群。

「これはまた、派手にやりましたね……」

 都市同盟の情報網を利用し現在の大陸についてある程度の事情は把握していたものの。
 各方面の都市国家にとって脅威であったミニスカート王国騎士団が壊滅しつつ有るとは予想だに出来ず。

 自らミニスカートを纏う事で騎士団の眼を二重の意味で眩ませていた同盟商人の卵。
 リサ・ベイカーの呟きは現状を酷く端的に。限りなく丸い表現で示していた。

「大丈夫! ホットパンツの素晴らしさを知れば皆仲良くなれるから!
 え、足を晒すのが恥ずかしい? みんなで晒せば恥ずかしくない! むしろ老若男女全員KAWAII!
 成人男性の生脚とか誰得だって? うるさいにゃあああ良いから履くんだよおおおおおお!!!!!」

 幼少期の夢を忘れず余人の及ばない鍛錬を積み上げて、祖国を守る為に王国騎士の座まで上り詰めた。
 良い歳した成人男性が、衣類を強引に剥ぎ取られた生娘のような声を上げてミニスカートを奪われて行く。

 これが人間のすることかよ! 絶望した! 最早極短袢(ホットパンツ)しか見えてない森人(エルフ)に』絶望した!
 しかし弱き者には生殺与奪の件が存在しないのが乱世と化した大陸(ロスガリア)の不文律なのである。

「えーっと……同盟は大丈夫そうなので、私は魔女王国へ潜伏して来ようと思うのですが……
 あ、ホットパンツは履きました。剥がなくて大丈夫です」

 餓えた獣と化したサフィラに素早く全面降伏の姿勢を見せるリサ。これが同盟流商人の処世術。
 一条の流星と共に空に故黒竜公の女商人が親指を立てているのが見えた気がしたが多分気の所為だった。

「うーん、となるとこっちは辺境伯領かな。あそこが一番手堅い感じだし」

「私はあくまで中立なので批評は控えますが。では、今回は此処までですね」

 情報提供という形でサフィラに協力し、それによって都市同盟の安全と言う代価を得た。
 となればこの商売はここまでだと。偶々に同じ道を歩んだ戦友が袂を分かつ。

 ミニスカート王国騎士団を併呑したホットパンツ教団、西へ(Go West)。
 
 ――――

 ―――――――――

 ―――――――――――――めえ

 めえ

 めえ めえ めえ

 めえ めえ めえ めえ めえ めえ  めえ めえ めえ 

 帝国南部都市ヴィント。感染性呪詛ZENRAに侵され愛の侭に我が儘に自由な僕ら(フリーダム)になった街の中央。
 かつて自由の象徴(フリーダム)と呼ばれた少女が佇んだ位置に、聖母が降臨していた。

「これなら、信者さんがたくさん集められそうですね」

 ふわふわと微笑むシルク・メイプルリーフの周囲には人集りが出来ていた。
 いや、それを人集りと呼んで良いものだろうか。内、凡そ半数は確かに未だ人の姿をしている。

 けれど、まるで母に抱かれる赤子のように縋り付く帝国標準男子(マッチョメン)は毛むくじゃらだ。
 否。それは徐々に人の姿を喪いつつある。黒々とした毛並み。天を衝く角。何ら比喩(メタファー)でなく。

 人が、獣へと変じようとしていた。然るにシルクを囲む残り半分は即ち“黒山羊”という他はなく。

「自らをさらけ出すのは素晴らしいこと。しかしながらZENRAはいささか風情(マナー)に欠けますね。
 愛を以て接すれば、人はより高みへと昇ることが出来る筈です。さあ、もっと世界を愛で包みましょう……」

 善意である。彼女には善意しかない。漆のように艷やかな黒山羊へ人の在り様を捻じ曲げる。
 それを指して、果たして進化と呼んで良い物か。冒涜的で背徳的な、名状し難い異形。

 黒々とした山羊達に囲まれて、シルクは幸せだった。黒山羊達もまた幸せに違いなかった。
 それならば。嗚呼嗚呼それならば。何故彼らはめえと啼くのだろうか。

 微笑みと共に足を踏み外した女が豊穣と幸福を説く。応えはない。応えられる理性などとうに無い。
 だから彼らは幸福に幸福に幸福に幸福に幸福に―――――聖母に抱かれ闇が囁く。

 めえ
 めえ めえ 
 めえ めえ めえ めえ めえ 
 めえ めえ めえ めえ めえ めえ めえ めえ めえ めえ
 めえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえ
 めえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめえめええええええええええええええええええ―――――

 ――――めえ。

●うちの皇子殿下がこんなに可愛いわけがない

 ――――虚空から、声が聞こえた。

“去勢される枠が一人だけって可哀想だし、ミニスカはやっぱり女の子に履いて欲しい”

 去勢される枠、なるものが何かは分からない。けれどミニスカはやっぱり女の子に履いて欲しいと思う。
 ジュスト・ヴェルジーは虚空の声に理解を示した。それはもうすとんと腑に落ちた。

“なので、去勢される枠を増やすことにした”

 ん? どういうこと?

“今回はジュリエット・ヴェルジーを名乗るが良い……!”

 無駄に察しが良いジュストはこの時点で気付いた。何気なく応えてしまっていたが。
 しまった、これ邪神の類だぞ? ――――と。

「待って欲しい、だったらせめてあの従姉も! あの従姉にも加護を!」

 堕ちるなら諸共に、足を引っ張ることには余念の無いジュリエットである。 

“おっけー”

 何か釈然としない位軽い感じで、彼――――否。今となって彼女の望みは果たされた。
 しかし、やっぱり邪神とか穢れた杯とかそういう類の存在に軽々しく願いを託しちゃ駄目だと思うんだ。

 ――――虚空から、声が聞こえた。

“■■■が……欲しいか……”

 何故か妙に声が遠い物の。力(ちから)だろうか、とローザリア・L・ディオールは訝しんだ。
 何者かは分からずとも望む所ではある。力なんてものはいくらあっても困らない。
 
 女だからという理由で舐め腐った態度をとられるのにもウンザリだ。
 そういった理由で間髪入れず求め訴えた訳だが。相手はどうもあまり真っ当な存在では無かったらしい。

“おっけー”

 異様に軽薄なその応答に嫌な予感を憶えた直後。ローザリアは王国最北端。
 城塞都市『ノストガルデン』の宿にて目を覚ました。其処に至るまでの記憶は曖昧模糊としており。

 体躯各所に違和感と異常を感じぺたぺた触れると事情は一目瞭然だった。
 生えていた。いや、力は欲しいと言ったが男体化(これ)は極端と言うか不良債権では?????
 
 誰だこんな劣悪契約にサインを求めた超常存在出てこい。
 ディオールの名に賭けて商業取引の何たるかを心身に教えてやる。

 などと、拳を握っていたら部屋の扉が開け放たれ。見慣れた自分と似た顔立ちの女が駆け込んで来た。

「あら従兄殿、随分とお似合いな姿になられたこと……ぷ」

「ああ、何か全てが理解出来た。そうかそうかそういうことか。またお前か」

「何の事かしら! 私皆目見当も付きませんわー!!」

 ミニスカ騎士服をけしからん太腿で翻し、逃げの一手で軽やかに駆けるジュリエットを。
 枕元の洋扇を掴んで男と化したローザリカ――――ロザリウス・L・ディオールが追いかける。

 例え姿形は限りなく反転しようとも。その有り様までは変えられず――――
 
「――――以上が、更新された大陸各地の状況さ」

「何でそんなことになってるんです?」

 しかし、アーチボルト辺境伯は理解が追いつかない!

「大体冒険者の所為だね」

「ああ、そんな。栄光ある王国騎士団が極短伴(ホットパンツ)等という恥辱。僕なら耐えられない」

「ウィリアム、静かに(ステイ)」

 無数に分身する相棒(ほんたい)の栗鼠(ラト)によって各地の情報収集を終えた凄腕情報屋。
 ルチル・プルメリア・グレイハーツの報告は戦慄すべきものだった。他にどうしろと言うのか。

 段々王子に対してすべき配慮が抜けてきた北方辺境伯メルヴィン・トマス・アーチボルトが頭を抱える。
 先ず、何を推しても最優先で取り戻すべきは王都である。しかし一方で危急の事態は帝国南方。

 黒い聖母に率いられていると言う黒山羊の群れを何とか駆除しなければならない。
 手が足りないのはいつものことなれど、今回はそれに輪を掛けて問題が多過ぎる。

「……あ、えっと、ガレス様。ミニスカートもよくお似合いでしたよ……?」

「……はい、ありがとうございます。ただ、誤解無き様重ねて申し上げますが。
 あの服装は任務の為に仕方なく纏っていただけであることは強く釈明させて頂きたく」

「……うん、良く似合っていたよ?」

「伯」

「ノイマン、静かに(ステイ)」

 そんな事をしている場合ではないのに会議が全く進まないのは大体第二王子の所為。
 或いは“これは夢……”と何だかふわふわしているレティシア・レインフィールの所為も少し有る。

 しかし乱世は彼らに穏やかな時間を微塵たりと赦しはしない。故に戦火は階下より上がる。

「リーンエス王国第二王子ウィリアム。帝国を継ぐ者としてレイウェスト・バルダスが問う。
 どうか帝国臣民の為、何も聞かずそなたの命を捧げて貰いたい。――――返答は、如何に!」

 声が『黒陽子』レイウェスト当人の者であると悟った瞬間。執務室に集った者の動きは早かった。
 其々が武器を執り身構える。考えてみれば当然の話ではあった。

 王国がこの惨状である以上、皇室の生き残りであるレイウェストと王家の生き残りのウィリアム。

 両名の道は断じてこれ以上交わることはない。遅かれ早かれこうなる事は想定の範囲内。
 そして、そうなった以上――――互いに――――“敵”は排除しなければならない。

 階下へ降りる暇も有ればこそ、先行した『黒騎士』ガレスに襲い掛かるのは漆黒の大太刀。
 帝国側の一番槍、アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトの一閃を黒鋼の大盾が弾く。

「全てはレイウェスト殿下の為にぃぃぃぃ!」

「! 事情は分からずとも、主命に従い此処は通せません!」

「出たな王国の黒い奴……! 黒一色の装備で俺とキャラが被ってんだよ!」

「――――!?」

 そうかなあ……!?と言う心の動揺を突いたアルベルトの雷神剣一閃。灼光、大爆発。
 神話の英雄の如き加護を受け、放たれた雷光が受けたガレスごと執政府の建造物に特大の大穴を穿つ。

「どちらが真の『黒騎士』か、此処で証明してやる!!」

「が――――ッ」

 超人化した冒険者の暴威の前に受ける事すら敵わず黒鎧の騎士が膝を付く。
 その眼前に歩み寄りながら、戦場の高揚感故か。アルベルトは高らかに声を荒ぶらせる。

「そもそも何がミニスカートだ! レイウェスト殿下には体操服+ブルマが似合うに決まっているだろう!!」

「!!!!????」

 臣下からとびだしたトンデモ発言に後背に控えたレイウェストが驚愕する。
 階段が吹き飛ばされ踊り場から戦況を見ていた面々を代表し、ルチルが怪訝の視線を送ると。

 さしもの『黒陽子』も平然としてはいられない。大きく頭を横に振る。殿下、臣下と合意取れていません!

「――――――惜しい!! でもブルマはホットパンツに非ず! 解釈違いです(ギルティ)!!」

 其処に、横合いから声が上がればこれは最早乱戦と言って然るべきだろう。
 いつの間に陣を整えたか。サフィラ率いるホットパンツ教団の面々が完全武装で突入を開始する。

 瞬く間に巻き込まれるアルベルトとガレス。ホットパンツにされる訳にはいかないと退く暇もあればこそ。

(まさか帝国側も一枚岩でないとはね……おまけにあのレイウェストの眼。あれは……)

 あの心優しい皇子に何が起きた物か。口八丁で丸め込める覚悟ではない事がルチルには分かった。
 ここで決着を付けるつもりだ。だが、もしもレイウェストがその手を血に染めたならそれは――――

「衛星都市『アーグルーン』まで戦線を後退させる!!」

 怒涛の勢いで移り変わる展開に、辺境伯が撤退の意を固める。
 執政府は既に統治機関としての用途を満たしていない。此処は逃げの一手であると。

 けれどそうは問屋が卸さない。退路となる大穴の向こうでは白い騎士鎧が舞う様に双剣を振るう。

「マッチョのミニスカとか誰得じゃ、視覚の暴力にもほどがある! 大人しくくたばれ!」

「こっちだって好き好んでこんな糞寒い季節に足元すーすーさせてないんだよおおおおおおおお!!」

 対する暗殺者モードのベルク・オスマットも何かもう色々限界である。
 出逢う敵出会う敵筋骨隆々なミニスカ騎士。それらの屍山血河を乗り越える身にもなって欲しい。

 英雄的身の熟しと剣閃の鋭さは『白騎士』アストリッドをも上回り、すり抜けるは至難の業。
 其処に来て、帝国側の勝利条件と言って良い王子が自分からやって来るのだ。これは二度と無い絶好機。

「くっ、しまっ――――!」

「殿下のため! 帝国のため! 何より妾の精神の安寧のために死ね――――ウィリアム!」

 上下左右、全てを足場とする多角機動と瞬発力で白騎士との競り合いを擦り抜けたベルク。
 その凶刃の前に、第二王子ウィリアムの命は風前の灯火――――

「させません……!」

 其処に割り込む影。ミニスカ騎士服を翻し、やって来たのは2人の騎士。

「こんな姿になっても今は護衛騎士ですもの。王族を支え、御守りする務めは果たします!」

「商人にして王国貴族が一人、そして紳士たるもの……契約を違うことはしない!!」

 間一髪、極短袢亜人(ホットパンツゴブリン)を掻き分け踏み付け千切っては投げ。
 ギリギリ間に合ったジュリエットとロザリウスが王子の左右をびしっと固める。

「は、紳士。精々盾として活躍してくれるのを期待しているわ」

「この僕を盾にする? 元の頼りなさが反映された貧相な体(ペタン娘)でよかったな従妹殿」

「僕を間に挟んで喧嘩するの止めてくれない?」

 ウィリアムが突っ込み役に回るなどそうある事ではないが。冒険者2人分の戦力は圧倒的だ。
 第二王子も例え衰えたとて特異点、一撃で首を落とせる程は弱くない。

 さしものベルクも形勢不利と見て踵を返すと、辺境伯一行は執政府を脱する事に成功する。
 ――――そう、唯1人の例外を残して。

「見れば分かる、その強さ。騎士だな? その練り上げられた武力――――至高に近い」

 両手を広げ、まるで型らしき型も無く立ちはだかるサフィラ。
 あくまで狙いがウィリアムの帝国陣営はともかく。ホットパンツ教団はまるで目的が読めない。

「ガレス、お前もホットパンツを履かないか?」

「履かない」

 不退転。盾を棄て、黒塗りの槍を構える。視線を後背へ向ければ、レティシアとノイマンの姿。
 万が一辺境伯達が追撃を受ければ潰走は免れない。誰かが彼女の足を止めねばならなかった。

「自分と貴女では物事の価値基準が違う。俺は如何なる理由があろうともホットパンツは履かない」

「そこまで!?」

 あまりにもきっぱりと拒絶されたサフィラが一瞬躊躇ったその瞬間。
 後方で印を切ったノイマンが杖で地を叩く。立ちはだかる壁、壁、壁、無数の壁はあたかも迷宮の如く。

「今です、ガレス様――――!」

 取って返したレティシアが、未だ動かず立ちはだかろうとする黒騎士の手を強く引く。

「……また、死に損なってしまいましたね」

 少し目を離すと死んでしまいそうな騎士に、令嬢は敢えて付け加えるように続けて言った。

「ガレス様は騎士の……普段通りのお姿が一番よくお似合いです……!」

 長きに渡り王国北方鎮守の要とされた、北方辺境伯領執政府が遂に支えを失い崩れ落ちる。
 盛大に巻き上げられた砂埃に紛れ、逃げ切られたサフィラが息を吐く。

「――――それで、何何? 第二王子(ウィリアム)を殺せばZENRAを滅ぼしてくれるの? マ?」

「そういう契約になっている」

 誰何の声も無しに問を投げたホットパンツ教団教祖に、レイウェストが応じる。
 その左右にはアルベルトとベルクを控えさせ、一皮剥けたと見える黒陽子を一瞥し。猫の様に笑んだ。

「そう……それって、別に社会的死でもいいのかな?」

 ぽかりと浮かんだ暫しの間。沈黙した帝室最後の皇子は一頻り悩んだ末――――

「……多分?」

 日和った。

●死なないで王子(ウィリアム)!ここを耐えれば、魔女王国に勝てるんだから!次回

「あらあら、烏合の衆如きで私を倒そうなんて面白過ぎて手元が狂ってしまいそうですわあ」

「くっ、流石に強い……!」

 銀髪の付け毛(ウィッグ)を身に付けた屈強な騎士達が木っ端同然に吹き飛ばされていく。
 魔女王国中枢、三魔女の塔。銀髪姉妹(スール)同盟と魔女王国軍の最前線である。

 しかし今、その内2つの塔が赤い光に覆われている。塔から供給される莫大な澱。
 それを用いた長女マリエンの"あかいせかい"が、銀髪姉妹(スール)同盟の戦力を無慈悲に削る。

「がんばれー、がんばれー、おねーちゃーん!」

「あー、まあ何だ。適当にやってくれ。適当にな」

 残る2名は片や新年パーティの準備で大忙し。片や日課のお勉強の時間である。
 銀髪姉妹(スール)同盟の盟主、白銀の戦乙女イヴェールにマリステラちゃん万歳勢では刃が立たない。

 さりとて、この世紀末で最大戦力と言える三魔女の一角が崩されるには尚、程遠い。
 それが三女マリベイルの見立てであり、事実として戦況は想定の通りに推移している。

「ふん、銀髪姉妹(スール)同盟……期待した程ではなかったか」

 手にした分厚いドゥジンシに栞を挟んでぱたんと閉じる。そんな彼から離れること約1km。
 ―――――――壁が、聳え立っていた。そうして人々は思い出した。飼われて来た屈辱を。

 ではなく。彼女こそは戦場の生んだ神話。壁の女神の異名を持つコルネリウス・アーラ。
 改め、ウォール・コルネその人である。
 
「それにしてもアルベ……いえ、マリベイルさん……可愛いですね」

 体躯を背丈くらいの煉瓦模様の壁パネルで包み、双眼鏡で三魔女の塔を監視する。
 その姿はスゴクヤバイ人以外の何者でもないが、マリステラちゃん万歳脳の魔女王国軍に気にする者は無く。

「あ、私、通りすがりの壁ですので、お気遣いなく」

 アッ、ハイ。例え気にする者が居ようともこのように何の変哲も無い壁を演じる事で。
 上手く人の眼を晦ましていた。凡そ真っ当な人間ならあまり関わり合いになりたくない外見である。 

「復讐すべき(ディバイン)極光(パ)の――(ー)――剣(ジ)!!!」

 澱で織られた最大出力の光の刃が戦場を切り裂き、マリステラちゃん万歳勢を塵芥へと還す。
 しかし、例え彼女の願いと祈りを込めた光の刃すらも。立ち塞がるあかい闇を切り裂く事までは叶わず。

 戦況が拮抗状態にあることは、何一つ不自然さが感じられない通りすがりの壁にすら瞭然である。
 このまま消耗戦が続けば夥しい犠牲者が出る。胸が痛い。

 でも、壁は高速移動(チャージング)でシャカシャカ戦場を駆けることしか出来ないのだ!

「貴女は……まさか伝説に聞く、遥か遠き神域の壁?」

 そして戦場でそんなシャカシャカ駆ける壁が見つからない訳がなかった。あまりにも不自然過ぎる。
 これが厚紙で作られた(段ボール)箱であれば完全に気配すら消せたものを……

「壁違いです。私はただの壁エルフのお姉さんです」

「何でも構いません、力を貸して下さい……!」

 銀髪姉妹(スール)同盟と、壁の女神。出会う筈も無かった2人が交わる時、神話が始まる
 その日――――運命と出逢う。

「ほら、命を狙われている状況なんだ我儘を言うんじゃないよ」

「凡その元凶と言えど、王国の為にも御子を成すまでは御無事でいて頂かないと」

「貴方に消えられたら困る者は沢山居るでしょうから」

「「「ねえ、姫」」」

「何か皆、今回僕の扱い酷くないかな?」

 一方、追跡者を誤魔化すと言う名目で銀の付け毛(ウィッグ)を被り姫にされたウィリアム。
 そのある種の完成度の高さに、ルチル、ジュリエット、ロザリウスが揃って親指を立てる。

 彼らが北境から南西に位置する衛星都市『アーグルーン』へ逃走した事で、事態は混迷を深めていた。
 帝国国境砦を呑み込んだ無数の黒山羊の群れが、戦い止まぬ『ノストガルデン』を急襲した為だ。

「皆さんも、軒並み幸福な黒山羊さんになるのです」

「豊穣神頭おかしい!!」

「貴女(ホットパンツ教祖)がそれを言うのか」

 レイウェストの突っ込みが間に合わない。

「っち、王子の所在が掴めなくなった。無駄に戦力が整っている場所にばかり逃げ込みおって!」

「ZENRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

「うお、バルディオン将軍だと!? 完全に忘れてたぜ!!」

 かくして混沌の坩堝と化した北境から一歩早く逃げ出した事で奇しくも難を逃れた辺境伯一行は。
 『アーグルーン』で結集した戦力を頼りに南東を目指し進軍を開始する。目指すは王都、決戦の地。

 ――――――――――――
 ――――――――
 ――――

「マリステラ、ほら。これを着て」

「ええ、でもマリスそんなに色々着たことない……」

「だったら着せてあげるから。ほら、こっちへ来て」

 Alexandra・Hexe・Claudiaが三魔女の塔の一角で次女、マリステラの髪を解く。
 栄養の不足と手入れの粗雑さから荒れ放題。けれど、丁寧に手入れすればきっと綺麗な夜空の髪。

 家族に囲まれ、沢山の人々に崇められ。それでもその眼差しは時折不安げに泳ぐ。
 幸福に慣れていないのだ。満たされる先から罅割れた心が溢していく。

 幸せになれない少女を、幸せにしたかった。それだけだった。それだけを叶えたかった。
 だからAlexandraは塔の中を飾った。小難しい料理にも挑戦した。温かな洋服を設えた。

 英雄にも神話にもなれる権能の全てを費やして、聖霊節のお祝いをしようと彩った。
 マリステラの『侵蝕』の呪いが、力量差のあるAlexandraには抵抗されて通じない。

 彼女はいつでも不安そうにしていた。自分が捻じ曲げた、捻じ曲げられた愛情しか信じられない。
 それなのに。塔に来てからただ暮らす間、マリステラはAlexandraの傍に居た。

「長靴に手袋、外套に。靴下も。用意は――――あ、リサさん」

「ご依頼通りの品を揃えて来ました。請求書はマリベイル様に回しておきますね!」

 何もかもが戦火に呑まれた世界で、ホームパーティの準備など滑稽極まる試みだろう。
 けれど頼まれた物は確りと揃えるのが商人であり。それが或いは笑顔を齎すなら価値はある。

「パーティが済んだら、星空を見に行きましょう。好きでしょう、星」

「……お母さんが、ね。昔褒めてくれたんだあ。マリスの髪は星空みたいだって」

 そう言って笑う。笑うことしか知らない魔女を抱きしめる。
 不思議そうに首を傾げる彼女に、何が出来るだろう。あとどれだけ時間が有るだろう。

 それはもう決して訪れない、夢。夢のような、夢。
 だからこそこんな世界でも。こんな世界だからこそ。せめて最後にささやかな……想い出を。

「では、またご依頼が有りましたら同盟はベイカー商会へ! マリステラ様ばんざーい!」

 いよいよ以て王都奪還の戦いも佳境だ。各地に潜ませた草(スパイ)からの報告を受け。
 荷物を纏めて退路を探る。幸い、三魔女の次女の依頼とあって今回は大きく稼がせて貰った。

 あとは見知った栗鼠を通し、旧友に伝えた王都の現状が結末を描いてくれる事だろう。

「沈み逝く船に同乗する程の縁では、有りませんからね」

 女商人は強かに。常と変わらぬ笑みをたたえ、早々に安全圏として確保した故郷へ馬車を走らせる。
 一方――――王都、中央。

「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な――――こんな、馬鹿な、こと」

「遂に追い詰めました、『鏖殺』の魔女マリエン。此処が貴女の終焉の地です」

 光り輝く剣を喉元に突き付け、声を上げたイヴェールに、背負われた壁の女神が声を上げる。

「こんな、頭おかしい格好の女に私の世界が阻まれるなんて……!」

「誰が頭おかしいですか、魔法を耐えるのは得意なんです!」

「と言うか完全に肉壁にされてましたわよ! 貴女本当にその扱いで後悔は無くって!?」

「ありません。壁エルフのお姉さんですから」

 ウォール・コルネは精神強度も大概鉄壁だ。但し例のあの人への対応時は除く!
 
「……まあ、良いですわ。丁度役者も揃ったようですし」

「悪は滅ぶ物で――――役、者……?」

 其処へ。威風堂々と進軍して来たのは辺境伯率いる辺境騎士団一行である。
 『銀髪姉妹(スール)同盟』は魔女と相殺し半壊同然。となれば状況は漁夫の利を得た辺境伯優位。

 その上で尚、イヴェールは剣の切っ先をメルヴィンへ向け。その後背に銀色髪の親しき友の姿を見る。
 立ち位置の関係でウォール・コルネがマリエンと対面したがそれはこの際関係がない。
 
「イヴェール様……! どうして、辺境伯様に剣を向けるなんて――――」

「レティシアさん……女性に護られるのが貴方の在りようですか、辺境伯」

 その声に。周囲を囲んだ三騎士を割ってメルヴィンが進み出る。切っ先まで一歩。
 今のイヴェールの極光、日蝕であれば一撃を入れるのに瞬きすら遅い。

「イリュジオン殿、貴女は何を望んで剣を選んだのか」

「王子と、レティシアさんの引き渡し。さもなくば」

「――――ならば斬ると良い」

 即答したメルヴィンを、漆黒の刃が薙ぐ。レティシアから上がる悲鳴を他所に、辺境伯が一歩踏む。

「自分の生き方も変えられない人が他人の生き方を変えられるとでも?」

「"変えられる"程度の生き様で、一体誰の剣を止められると言うのか」

 断言し更に一歩。慌てた様に振り被った剣の柄をメルヴィンが掴む。

「貴方は……! この期に及んで、止めたいだなんて――――」

「いや、すまないが此処までだ。どうにか間に合った様だな」

 声は上空より。黒い盛装(ドレス)を翻し、降って湧いたのは最後の魔女アル――――マリベイル。
 その手には確かに何かの魔法の発動体を携え、それが何か決定打である事を示していた。

「リサ・ベイカーからの情報は高く付いたが。私が降伏すれば三魔女は揃って戦闘不能。
 帝国の騒動が片付けば、一通り決着となる訳だ。そうだな、ルチル・プルメリア・グレイハーツ?」

 問に応えは無い。但し、ここまで黙って付いて来るだけ付いて来た情報屋。
 その口元が僅かに笑みを描いた。リサに情報を渡せば、アルベイルに流れるは当然の構図。

 あくまで血を流さず事態を収める――――我が策は此処に成就せり。

「ならば見せてやろう。私の『革命』。即ち――――年始生放送特番(オープンスクリーン)を!」

 その時空が裂けた。大陸各地何処からでも見える超特大の画版(キャンパス)。
 そうとしか形容出来ない魔法に、"姫"となったウィリアムが映っていた。

 ジュリエットとロザリウスはガッツポーズした。黒山羊に半分埋まったホットパンツ教団からもそれは見えた。
 世界の全てがウィリアム姫(プリンセス・ウィリアム)に注目していた。

「……――――――僕そこまで酷い事したかなああああああああああ!?」

 汚いな。流石第二王子責任逃れ汚い。レイウェストに花嫁衣裳とか用意してしまう人は格が違った。
 ウィリアム第二王子は(社会的)に死んだ。

●夢から醒めた夢

 目が醒めたら枕元にあった筈の金色の蝋燭はまるで夢か幻のように無くなっていた。
 けれど夢見た記憶は夢や幻のように消えてくれなかった。

 とりあえず、今日はギルドではなくまず施療院へ行こうと思った。

マスターコメント

皆様お疲れさまでした。弓月 蒼と申します。 この度はご参加ありがとうございました。この様な結末に至りましたが如何でしたでしょうか。 良い初夢は見られましたか。とち狂っていた?わあいやったね。 弓月はとても楽しく執筆出来ました。大概酷いは誉め言葉。 色々ありましたが結局丸く収まったので大成功をお送りさせて頂きます。 称号もお受取り下さい。今年も宜しくお願い致します。
ロングシナリオ

ロングシナリオ易しい 報酬:少ない12 / 12〜12人

2022年01月13日 17時32分58秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. Alexandra・Hexe・Claudia

    クラウディアです。よしなに。 …カオスな夢オチ ということで、こと自由度の高い依頼ではありそうで。 ―ともあれ、私はマリステラに逢いに行こうかなと。 この季節です。まさかとは思いますが…素足で出歩くには厳しすぎる。

  2. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。 ……夢の中とは言え、無用な血を流したくない。 できれば、この争いを穏便に終わらせる方法を探すよ。

  3. リサ・ベイカー

    リサです。とりあえず、商人として、何らかの行動する予定です。 でも、予定は未定です。夢ですしね?

  4. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 夢オチとは言え、レイウェスト殿下への忠誠は貫くつもりだぜ!

  5. ジュスト・V・ケレス

    『去勢されてるのが一人だけって可哀想じゃない? 夢の中だしTS上等!』 ……そんな無責任な思いつきで性別反転の呪いを受けたジュストだ。 夢の中ではジュリエットにされるらしい。 丈の短いスカートの装備も強要されるらしい。 (手を組んで貴族らしからぬクソデカため息) ……【1】というわけではないけれど、ウィリアム様の元へは行こうかと思っているよ。

  6. レティシア・R・クラティアス

    …………はっ、失礼致しました。 少々衝撃的なお姿を拝見したせいか、少しばかり混乱をしておりました。 改めて、レティシア・レインフィールと申します。 皆様、よろしくお願い致します。 私は……辺境伯様のお手伝いをさせて頂く形となりますでしょうか……?

  7. Alexandra・Hexe・Claudia

    …ぁ、リサさん。地下王国では、その…お疲れ様でした。 あの。パーティーに必要なあれこれの準備に手を貸していただけませんか? 場であったり、食事であったり…生前出来なかったことを彼女と実現したくて。 細かいところは…上手く思いつかないのですけれども。

  8. リサ・ベイカー

    あら?クラウディアさん? あはは…まあ、お酒がからむと大変ですよね… えっと、パーティーですか? そうですねぇ、どう言う趣旨かわかりませんけど、ご依頼頂ければ諸々手配させて頂きますよ? 立ち位置的には、アルベイル…もとい、マリベイル様陣営に近いので。 マリステラ様を称えるパーティー、的な?でいいのでしょうか?

  9. Alexandra・Hexe・Claudia

    いえ、単なる聖霊節祝いのパーティーです。 やる事としてはマリステラを招いて個人単位で祝ったり楽しむレベルで、陣営への肩入れ要素は排します。 無論、参加する方は歓迎ですが。 なので… 場に関しては『中流層の家庭』か『小規模な飲食店』程度 物もこれに準拠して、聖霊節仕様の飾り彩りにご馳走に… 贈り物は、個人で決めるところなので置いといて。 神聖魔女王国軍が動いたら規模が盛大に膨らみそうですが… ーその時は、マリステラが興味を持つ行事も万歳しましょう、と。

  10. ベルク・オスマット

    ベルクだ、よろしく頼む。 とりあえず夢オチとはいえ帝国と殿下のために動くとしよう。 (アサシンスタイルに着替えつつ)

  11. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃーはっはっはっはっ!!!! ミニスカート王国?ZENRA?そんなものホットパンツ教団の前では敵じゃないのだ!!! あたしはホットパンツ教団教祖のサフィラ 【4】で全ての勢力を滅ぼしロスガリアをホットパンツで統一するものなり!!!

  12. コルネリウス・アーラ

    コルネリウスです、よろしくお願いします。 私は壁になって色々と見守っていようかな、と思いますね。 見守るだけで済みそうにないので、何かしら巻き込まれると思いますけれど。

  13. リサ・ベイカー

    クラウディアさん なるほど、了解です。場所や食事等は手配しましょう。 大丈夫、なんとでもなります。夢ですし…

  14. Alexandra・Hexe・Claudia

    ご協力感謝いたします、リサさん。 ―そうですね。夢ならばなんとでも。

  15. No.15

    せいなるちからもレベル100になるならば世界を愛で包み込むしかないですね みんな争いのない平和な世界に

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0