【魂禍】血気盛んな亡霊
革酎
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シナリオID:1734
オープニング
シルトラース帝国北方の都市オルセンから更に北上した地域はこの時期、厳しい寒さを迎えている地域が少なくない。
オルセンと北壁山脈の中間に位置する防衛砦の街トルゴスも、雪に覆い尽くされた人里のひとつだ。
視界一杯に見渡す限りの銀世界に覆われた、ある大雪の日。
ロモズ歩兵団長リーヴァー・シュランドル帝国子爵はトルゴス在住の帝国貴族コルテス・ディーコン子爵からの招待を受け、幾らかの護衛を率いて同地を訪れていた。
ディーコン子爵は今年23歳を迎えたばかりの若き当主で、リーヴァーの父テレンス・シュランドルと共に対メドゥの指先戦略の軍事作戦にも関わったことのある武闘派貴族のひとりだ。リーヴァーがまだ家督を継ぐ以前からの知り合いで、十代の頃には共に帝都で学業に励んだ仲でもあった。
帝国崩壊直前、ディーコン子爵は北方警備の任務に就き、現在も征竜の脅威を監視する為という名目で、この防衛砦の街に拠点を置いている。
そのディーコン子爵から、会いに来ないかと手紙が届いた。オルセン健在を知って以降、ディーコン子爵もきっと無事だと信じていたリーヴァーにとっては、久々に気分が和らぐ便りだった。
そして、この日。
暖炉の火が燃え盛るディーコン邸の応接室に通されたリーヴァーは、帝国崩壊以降長らく顔を合わせていなかった旧知の友との再会を喜んだ。
「まだ一年程だというのに、随分長く会っていなかった様に感じるな」
「色々とあり過ぎたからな」
しかし安穏とした空気も、そこまでだった。ディーコン子爵がリーヴァーを呼んだ理由は、ある奇妙な未確認情報をリーヴァー自身の目で確かめて欲しいという依頼を告げる為だった。
「デトリフ・クロブロッチを覚えているか?」
「随分懐かしい名前が出て来たな。彼は確か帝国崩壊直前から行方不明になっていたのではなかったのか?」
供された熱い紅茶をすすりながら、リーヴァーは不思議そうな面持ちで問い返した。しかしディーコン子爵の渋い表情から、彼が何をいわんとしているのかをすぐに察した。
「彼が、現れたのか?」
「飽くまでも未確認情報だ。それにこれは帝国の内政問題にも関わる為、王国に対してもオープンにはされていない」
曰く、デトリフ・クロブロッチ陸戦長が麾下の部隊と共に、このトルゴス近郊の雪深い森の中で目撃されたというのである。
デトリフ本人かどうかは不明だが、その部隊を率いていた将の左肩には、クロブロッチ隊の隊章と思しき図柄が描かれていたというのである。
「うちの哨戒部隊からの報告だから、見間違えるとは思えない」
「……分かった。私にその調査を依頼したい訳だな?」
ディーコン子爵の兵力は飽くまでも対征竜監視任務としてこの地に駐屯している。未確認情報の為に軽々しく動かして良い部隊ではなかった。
そこでディーコン子爵は帝国権力のしがらみに囚われていないロモズ歩兵団に、詳細の確認を依頼したいという訳であった。
●帝国過激派
宿泊客用の居間へと引き返してきたリーヴァーは、秘書のカレンディアとロモズ歩兵団遊兵1番隊長ディーグ・ディオロンの顔を見るなり、歩兵団各隊長への招集発令と、冒険者ギルドへの依頼告知をいい渡した。
「面倒なことになりそうだ」
リーヴァーはデトリフ・クロブロッチ陸戦長と、彼の率いるクロブロッチ陸戦隊の捜索依頼を受けたことを告げた。
「何者なんですか、そのクロブロッチって輩は」
「ひと言でいえば帝国過激派のひとりだ」
眉間に皺を寄せるディーグに、リーヴァーはそれ以上の渋い面を返した。
シルトラース帝国には、崩壊以前から幾つかの派閥が存在していたが、帝国過激派もそのひとつである。
崩壊以前は『実力派』と称されていた。
彼らの思想は強権的且つ独善的だ。シルトラース帝国こそがロスガリアの覇者であり、王国も都市同盟も、そしてその他の小国も全て滅ぼすか、或いは吸収合併して永遠に支配すべき存在に過ぎず、その実現の為には手段は選ばぬという武力支配一辺倒な強硬思想の集団だ。
帝国崩壊以降は幽界樹の出現や各地で勃発する事件の為に半ば忘れがちになっていたが、噂によればメドゥの指先と裏で結託しているとの話も小耳に挟んでおり、いよいよもって危険な集団になり下がっているものと思われる。
その帝国過激派のひとりであるクロブロッチが今頃になって姿を現した。
復興に全力を注がなければならない今の帝国にとって、帝国過激派の出現は目の上のたんこぶに他ならない。一時的に姿を隠していたのかどうかは分からないが、諸手を挙げて歓迎出来る様な相手ではなかった。
「帝国は現在、周辺諸国の助力がなければどうにも立ち行かない。そんな時期に、あの連中が大手を振って出回ればどうなるか。火を見るよりも明らかだ」
勿論、いずれはリーンエス王国や都市同盟、ドワーフ王国、フィルエス大森林にも知れ渡ることになるだろうが、それよりも前に帝国内で情報を掴み、先んじて動いていたとなれば印象も大きく変わってくる。周辺諸国に対してレイウェスト皇子が敵意を抱いていないことを知らしめる為にも、まずは先手を打って帝国過激派の実態に迫る必要があった。
今回の任務は、その第一歩という訳である。
「この周辺には魔獣やクリーパーも少なくない。ただ捜索するだけではなく、障害となるこれらの敵の排除も同時に進めなければならないだろうな」
リーヴァーがディーコン子爵から聞いた話では、近隣の平野や森には小型クリーパーや巨大熊型魔獣の類が多いのだという。これらの敵はいずれも白い体色の物が多く、積もった雪に紛れて奇襲を仕掛けてくるケースが少なくないらしい。
「遊兵で捜索、重兵と弓兵でクリーパーと魔獣の撃退といったところか」
「冒険者を掻き集められれば、個人レベルで色々と動き回って貰った方が良さそうだな」
話は纏まった。
ディーグは夕闇が迫る街路へと駆け出し、ビッグオウム厩舎へと走った。
●降臨
後の歴史書に“辺獄戦役”と記されるシグモル火山の異変は、その日初めて記録の上に登場した。
しかし、その前兆は既に表れた後――。
「聞いての通り、シグモル火山の地下、“辺獄”と呼ばれる地にクリーパーが大量に現れ、魔獣と争っている。このクリーパーは、殺した相手の魂を喰らい、自分の力に変えてしまう厄介な力を持つ。クリーパーが魔獣と争うのは、その魂を我が物とする為だ。放置すれば今にも地下を平らげ、地上をも貪り尽くす程の怪物となるだろう。元来コイツは、私が封じていた存在なのだが――」
さる冬の日、幾つかの仕事が冒険者ギルドに依頼されたことを、歴史的な事件として当地のギルド員が伝えている。
その理由は、依頼主が神様だったからだ。
「倒さず封印した理由は単純だ。奴は私でも倒し切れなかった。だから封じる他なかったのだ。ところで、肝心の依頼内容だが」
少女の姿をした火神は口元に弧を描き、ことも無げにこう続けた。
「このクリーパーを、倒して貰う。最終的にはな。だが、方々の妙な動きも無視出来まい。従って、まずはこれら全てに対処し、戦果を挙げて来い……期待しているぞ?」
解説
マスターより
リプレイ
シルトラース帝国北部――オルセンと北壁山脈の中間に位置する防衛砦の街トルゴスから西へ半日程度進んだところで、パルドー森林と呼ばれる深い雪に覆われた森林が見えてくる。
コルテス・ディーコン帝国子爵からの依頼を受けたロモズ歩兵団と冒険者の一団は、ちらちらと粉雪が舞い落ちる曇天の中で、一旦足を止めた。
「ようし、4番隊の野郎ども。殺る気は十分か!」
ロモズ歩兵団重兵4番隊長ケン・Z・ブラッドリーが振り返り、麾下の戦士達に笑顔で呼びかける。
気合に満ちた大合唱が、すぐさま返ってきた。
「4番隊は斬込隊! 目の前に敵が居るならどうする?」
臆せず斬り込むの集団咆哮。
「狩れる首は?」
残さず根切るの歓声一色。
「仲間の為なら?」
危険を恐れず命を張ると誰もが迷わず胸を張る。
いずれもケンが隊長として日頃から心がけているスタイルだ。その方針は間違い無く、重兵4番隊全員の精神にしっかりと根付いている。後は実践あるのみだ。
「んじゃあ、ひと狩り行こうかッ!」
抜き放たれた首狩刀『SHIMADZU』の切っ先が天を衝くと同時に、鬨の声が寒さを吹き飛ばす勢いで、冷たい北の空気を大いに震わせた。
ケンは改めて、自信を深めた。この隊ならばどんな強敵を相手に廻しても互角に戦える、と。だが今回現れた謎の集団は、まだ敵と決まった訳ではない。そこが多少、面倒といえば面倒な部分だった。
(帝国過激派の貴族が率いていて、行方不明になってた部隊ねぇ)
再びパルドー森林方面に視線を巡らせながら、ケンは気合に満ちた表情とは裏腹に、冷めた思考で今一度、依頼内容を吟味し直した。
ロモズ歩兵団を率いるリーヴァー・シュランドル帝国子爵は説明の際、相当に渋い表情を浮かべていた。その顔色から、帝国過激派と呼ばれる連中の立ち位置というものが非常に分かり易い形で伝わってきた。
実はリーヴァーと同じ様な顔色を浮かべていた者が、他にも大勢居た。
例えば遊兵8番隊長アウレーリア・フォン・ネーベルベルクや、重兵2番隊副長ナタリア・フィッツジェラルドといった面々であった。いずれも帝国過激派の思想や行動理念については、比較的よく知っている。
この時局に覇権主義を掲げて動く等は狂気の沙汰だと苦り切ったアウレーリア。
「それでも、単なる狂人の集団という訳ではないところが厄介ね」
手元の地図に視線を落としてから、何ともいえぬ表情でパルドー森林を遠巻きに眺めた。このパルドー森林に謎の集団が拠点を置いているらしいという推測は、アウレーリアの遊兵8番隊と、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブ率いる遊兵3番隊の的確な情報収集の結果として得られた、最も精度の高い結論だった。
アウレーリアはトルゴス周辺の人流調査や聞き込み等から、どうやらパルドー森林に一定数の集団が拠点として使えそうな樵小屋群が点在し、その方面に普段では見慣れない人影が数多く目撃されている事実を掴んだ。
一方サフィラは遊兵3番隊の機動力を駆使し、広範囲から絞り込む形で徐々に捜索範囲を狭め、アウレーリアと同様、このパルドー森林こそが謎の集団の仮本拠に違いないとの結論を叩き出していた。
「リヴァ団長、デトリフってのは一体、どんな奴?」
いつものホットパンツ姿ではなく、しっかり防寒装備に身を固めたサフィラが副長ドゥバと共に、捜索部隊中央部に位置を取っているリーヴァーのもとへ歩を寄せてきた。その手にはデトリフ・クロブロッチの似顔絵や、彼の率いる陸戦隊の隊章デザイン図などが描かれた図面が握り締められていた。
リーヴァーはひと言、凄まじく面倒な奴だと応じた。
「奴は貴族ではなく、下層民からのし上がってきた叩き上げの戦士だ。授恵者としての戦闘技能だけでなく、知略戦にも長けている。正直、組織の長としての実力は私よりも上だろうな」
想定以上の強敵という事実に、サフィラは面を引き締めた。パルドー森林内での捜索は厳しいものになるかも知れない。
サフィラはドゥバに、テレパスによる密な連絡交換を改めて指示した。ドゥバ以外の非授恵者隊員はテレパスが使えないものの、その代わりにランタンと鏡の組み合わせでの光信号や、ホイッスル或いは鳥の声真似での聴覚合図で意思の疎通を徹底させることにした。五人ひと組の四班体制だからこそ可能な通信体系であった。
と、そこへナタリアが防寒具の襟を合わせながら後退してきた。どうやら先行してパルドー森林内への斥候に走っていた冒険者達が引き返してきたらしい。
「ビンゴだよ。あの森の奥で、謎の集団と思しき人影を発見したらしい」
哨戒班と見られる複数名の小集団が徘徊していたのだという。そのいずれもが防寒具と武装に身を固め、訓練された警戒陣形を組んでいた。一切無駄のない動きから見て、捜索対象たる謎の集団に所属している連中だと見て良いだろう。
●似ている理由
ベルク・オスマットと悠人・ラドルファスは各々単独で、臨時兵長サイラスは借りた遊兵10名を率いて、それぞれ先行してパルドー森林内を捜索して廻ってきた。
いずれもトルゴスで借用したかんじきの雪を払い落しながら、リーヴァーや他の隊長達に、斥候情報を手短に伝えた。
「哨戒班の連中は、単なる下っ端とはいえぬ所作だった」
クロブロッチ陸戦隊が練度の高い部隊であることは事前に聞いていたものの、ベルクが抱えた第一印象は更にその上を行っていた。授恵者とまではいかないものの、ひとりひとりが相当に手強い兵だというのが正直な感想だった。
ベルクは帝国過激派に対しては良い感情を抱いていない。それどころか、絶対に相容れない存在だとすら思っている。
「手段と目的を履き違えた御国の恥晒し共が今更現れて、何のつもりだ。早急に駆除せねば殿下の名と帝国の威信に泥が着く……ただでさえ既になけなしのと前置きせねばならんのに、これ以上の失墜は避けねばならん」
今回の依頼の着任前、ベルクは心の底から吐き捨てる様な調子で嫌悪感を覗かせていた。今もその心境に変化は無いが、クロブロッチ陸戦隊のあの尋常ならざる練度は脅威であると、素直に認めざるを得ない。
実際、雪色迷彩の外套で気配を消したにも関わらず、あの哨戒班と思しき連中はもう少しでベルクの気配を掴もうかという動きを見せていたのだ。
(絶対にろくでもないことを考えているに決まっている。殿下の道の障害になる前に、下らん企みは潰されねばならん)
そう決意を固めて臨んだ今回の依頼だったが、敵は想定を上回る障害として立ちはだかる雰囲気を漂わせていた。
一方、悠人はベルクの様な怒りに近しい感情は抱いていないものの、侮るべからずの結論は同じであった。
正直なところ、何者が如何なる思想を抱いていようが知ったことではないし、敵は皆殺しにすれば良かろうという分かり易い考えで臨んだ悠人だったが、今回の敵は一筋縄ではいかない事実を認めざるを得なかった。
「何よりに気になったのは、連中に身を隠そうという意識が微塵にも無かったことだね」
寧ろあの連中からは、集団戦になるのならばいつでもかかって来い、ぐらいの気迫が滲み出ていたと悠人は見ている。その点についてはベルクも同意見だった。
勿論悠人自身は正面切って戦うことは避ける腹積もりだが、横合いからアキレス腱目掛けて斬撃を入れて、果たして命中するだろうかと小首を捻るぐらいには、敵の練度は高いと見て良さそうだった。
だがそれ以上に不気味なのは、あの連中が何を考えているのかがまるで読めないという点であった。
「ありゃあ、絶対何か企んでるぜ」
懐から生姜湯を取り出しながら、サイラスもベルクや悠人に同調して頷く。ただ帝国領内に舞い戻ってきたというだけではない。何やらそれ以上のきな臭さを感じたというのが、サイラスの感想であった。
「んで、じっくり観察して気づいたんだけどよぉ……あの連中の動きとか陣形とか移動法とか、どれを取ってもうちの遊兵と似てんだよな」
小首を捻りながら、自身の配下として臨時に借りた遊兵達に視線を投じるサイラス。するとリーヴァーは驚くべきひと言を放った。
クロブロッチ隊とロモズ歩兵団の部隊構成思想は、根っこの部分では全く同じだというのである。それも当然の話で、リーヴァーとデトリフは集団戦理論や組織論を共に学んだ仲であり、同じ基礎を身に着けている。クロブロッチ隊も重兵、遊兵、弓兵に該当する隊や班が編成として組み込まれているのは当然であろう。
後は練度と人数の問題であった。人数ではロモズ歩兵団が優っているかも知れないが、練度では圧倒的にクロブロッチ隊の方が上だというのがリーヴァーの推測であった。
そういう意味では、迂闊に手を出さなかったサイラスの判断は賢明だった。下手に交戦すれば、たかだか遊兵10名程度では全滅していたかも知れない。
「成程……そんな厄介な連中なら、先手必勝ってところだね」
悠人は再び、パルドー森林に足先を向けた。敵を釣り出すのは任せろというのが今回の彼の役回りだった。
●疑念の中の進軍
コルネリウス・アーラ率いる重兵3番隊はロモズ歩兵団でも随一の防御力を誇るが、その一方でアリア・ティーダの重兵6番隊は戦線に於ける防御面では多少劣るものの、工兵としての技量と局地戦での個人戦闘力では独自の優秀さを発揮することで、歩兵団内での絶妙なバランスを保持している。
今回もコルネリウスはふたりの班長、ローデス・プレクターとケルフィス・ディクロンに各班の指揮を預け、互いの背を守る形での縦列行軍でパルドー森林内に突入した。
事前にクロブロッチ隊の関連情報をリーヴァーから聞き出していたコルネリウスは、敵も同様の部隊構成を敷いている事実を知った。だがそれでも、重兵3番隊の様な防御に特化した部隊なら十分互角にわたり合えるとの自信も抱いている。
勿論、過信は禁物だ。敵の技量が未だ不明な為、深追いだけは避けなければならない。いつもの通り、命を大事にの精神を徹底させ、退くべき時は素早く退くという意識を常に持たせた上で、コルネリウスは隊の先頭を進んだ。
そのコルネリウスの傍らには、ハルハン・ツァガーンナルの大柄な体躯が並んでいる。防寒用のマントと分厚い防具で守りを固めたツァガーンナルは、コルネリウスと共に文字通り双璧を為している。強敵が現れた場合には最初に注意を引きつける腹積もりで得物を握っていた。
出発前、ツァガーンナルは、
「大丈夫です! ボクが守りますから、安心して下さい」
と声をかけていたが、重兵3番隊には要らぬ心配だったかも知れない。
その重兵3番隊からやや遅れる位置に、重兵6番隊が左右に人員を展開させていた。大盾と槍を装備した重装兵と、小盾と片手剣を装備した軽装兵のふたり一組で編成したツーマンセルを十班、山狩りの様に横一列に配置している。討伐漏れと不意打ちを防ぐ為の陣形であった。
「来ましたね……熊タイプの魔獣が三体、接近中です」
コルネリウスの乾いた声に、ツァガーンナルも頷き返した。温度差を見分ける視界の中で、悠人が釣り出した魔獣の影が三つ、樹々の間を駆け抜けて来る。
「さぁ、来たよ。訓練を思い出してね! 初心忘れるべからずだよ!」
アリアの号令を受けて、重兵6番隊の面々も表情を引き締めた。悠人は更に別方面からも、中型の熊タイプ魔獣を誘い出して来ている。
流れとしては奇襲防止の為に悠人が釣り出した魔獣の群れを、まず重兵3番隊の厚い守りで引き受ける。
次いでアリアの重兵6番隊が退路を断ち、こちらの位置的優位性を確保したところでケンの重兵4番隊が一気に勝負をかけるといった戦術が基本路線であった。
特にケンの攻撃指揮は非常に巧みだった。両翼構えに出て鶴翼陣の様に敵を半包囲したかと思えば、自身が先頭に立って鋒矢陣の構えで数体の魔獣を一気に討ち崩す場面もあった。
勿論これはコルネリウスの隊の守りの堅さと、アリアの隊の敵を逃さぬ網羅的な配置があればこそだが、ここまで有機的に各重兵隊が連携出来るというのは、ロモズ歩兵団の最大の強みともいえるだろう。
また後方に対してはナタリアが率いる重兵2番隊が睨みを利かせ、背面を衝かれる危険性をことごとく排除していた。対魔獣、対クリーパーという部分では、完璧といって良い手当てが出来ている。
そして幸いなことに大型魔獣の姿は無く、迎え撃つ相手は小型から中型の熊タイプ魔獣や、有象無象の小型クリーパーばかりであった。
慣れない雪中戦闘の為、多少の負傷者は出たものの、アリアとナタリアで迅速な治療を心掛けていた為、大きな事故も無く、捜索隊は粛々と捜索範囲をパルドー森林の奥へ奥へと進めてゆくことが出来た。
それにしても、とコルネリウスは内心で訝しむ。何故クロブロッチ隊は敢えて、パルドー森林を選んだのか。事前に聞いた話では、このパルドー森林内の樵小屋群は十数年前、急増した魔獣やクリーパーによる被害を避ける為に全て放棄されていた。つまりクロブロッチ隊は、態々危険な場所を仮本拠に選んだということになる訳である。
「何だか、変な意図を感じますね」
何度目かの戦闘を終えて、ツァガーンナルも漸く事態の異常さに不気味な思惑を感じ始める様になっていた。部隊を率いていないツァガーンナルでさえ、妙だと小首を捻る始末である。コルネリウスに至っては、作戦上の強い思惑を感じない訳にはいかなかった。
「こっちの動き……もしかして読まれてるとかそんなレベルじゃなく……寧ろ誘われてる?」
軽傷者への治癒術を終えてから、部下達を指揮しての排雪作業を進めつつ、眉間に皺を寄せるアリア。
ともあれ、周辺一帯の魔獣をある程度排除したところで、サフィラ、アウレーリア、サイラスの率いる隊が再び樹々の間へと散っていった。
その間、各重兵隊は休息と負傷者の治療、退路確保の為の除雪、或いは寒中での暖を取る作業に着手した。
「……しかし冷えるな」
火酒をちびちびと舐めながら、ナタリアは曇天に覆われた天を仰ぎ見た。まだメテオライトは残してある為、クロブロッチ隊と対峙した際にはひとつの切り札とすることも出来る。
が、相手の出方が今ひとつ分からない。何ともいえぬ不気味さが、森の奥に横たわっていた。
●デトリフ・クロブロッチ
事態は、唐突に動いた。
サフィラとアウレーリア、サイラスがそれぞれ慌てて自隊を率いて引き退がってきた。その後を追う様にして一団の武装兵力が姿を見せたのである。
「来るよ! 皆、構えて!」
珍しい程に慌てた、サフィラの甲高い声。ロモズ歩兵団の間に緊張が走った。
遊兵3番隊、遊兵8番隊、そしてサイラスの臨時遊兵隊の三隊はいずれもその捜索能力を駆使して、謎の集団の現在地を見事に探り当てた。
ところが、件の集団は自分達が発見されたと悟るや、一気に押し返す様な格好で堂々と陣形を組み、怒涛の勢いで進撃を開始したのである。
その先頭にはツァガーンナルでさえ思わず見上げてしまう程の巨漢の姿があった。サフィラの手にした似顔絵とそっくりの人物――デトリフ・クロブロッチ本人だった。
「矢張り卿だったか……デトリフ」
鋭い視線を叩きつけるリーヴァーに対し、デトリフは欠伸を噛み殺す様な呑気な表情を見せた。
ここで先手必勝とばかりにサフィラが仕掛けようとしたが、その動きを事前に察知したのか、デトリフはサフィラの突入経路上に大剣の切っ先を向けた。恐るべき察知能力である。下手に接近すれば、サフィラの胴は真っ二つに叩き割られていたかも知れない。
「賢明だ。今のお前達じゃあ俺に近づく前に全員、骸だ。相手の強さが分からん馬鹿でもなかろう」
デトリフの台詞は傲慢とも取れるが、しかしコルネリウスとケン、ツァガーンナルといった面々は、素直に認めた。この男の戦闘力は、同じく力と力の接近戦を得意とする者であれば容易に理解出来た。
ここでナタリアとベルクが、メドゥの指先と関わっている噂は本当かと問いかけた。デトリフは頷いた。
「陛下に恭順する者であれば誰でも受け入れる。それが俺達だ」
次いでデトリフはアウレーリアに視線を向けた。どこか懐かしそうな色が黒い瞳の奥に見え隠れしていた。
「ネーベルベルク家の御令嬢か……悪いことはいわん。陛下に恭順しろ……それにシュランドル、お前もだ」
この時、リーヴァーとアウレーリアは愕然たる表情を見せた。
デトリフが呼ぶ陛下とは、何者なのか。そこに、想定外の人物の姿を思い描いたからだ。
ベルクも、混乱を免れ得ない。今や帝国のシンボルとして認知されつつあるレイウェスト・バルダスは皇子である為、その尊称は『殿下』だ。『陛下』ではない。
「神の力を得た陛下の存在は今や絶対であり、唯一無二だ。復興? 各国の支援? そんなものは無用だ。陛下のお力だけで全てを平らげられる。お前達のやっていることは全てが無意味だ。いつまでもレイウェスト殿下に恭順するのはやめておけ」
ここでデトリフは、冒険者達の混乱など知らぬとばかりに踵を返した。この場で戦う意思は無い、といわんばかりに。
だがその理由は、すぐに分かった。ツァガーンナルはデトリフの出現後も、周囲の気配を探り続けていたのだが、不意に巨大な質量の何かが接近してくるのを察知した。
ビヒモーに匹敵する熊タイプの大型魔獣の群れだった。どうやらデトリフの隊の一部が、ここまで誘導してきたらしい。
コルネリウス、アリア、ナタリア、ケンといった面々が即座に隊を率いて防衛線を張り、サフィラとアウレーリア、ベルク、悠人、ツァガーンナル、サイラスが遊撃的に散開して各個撃破に動いた。
その間、クロブロッチ隊は驚く程の速さで樹々の間へと退いていった。
アウレーリアは、嫌な予感を覚えた。デトリフが何の意図も無く大型魔獣を誘導して来るとは思えなかったのである。
(まさか……)
懸念が的中している可能性がある。アウレーリアは自隊各班を他部隊の支援に当たらせた。もしもアウレーリアの予想通りならば、敵の狙いは、このロモズ歩兵団そのものである筈だった。
●辺獄を目指す
大型魔獣の群れを撃退するまでに、十数分程度の時間を要した。
勿論、激しい乱戦ではあったが負ける筈も無く、戦闘そのものは無事に収束した。
問題は、その後である。
数名の歩兵団員が、行方不明となっていた。
「ローデスさん、ケルフィスさん、すぐに点呼を!」
コルネリウスの表情から見る見る色が失われた。が、幸いなことに重兵3番隊からは誰も欠けていない。同様に重兵2番隊、重兵4番隊、重兵6番隊、遊兵3番隊、遊兵8番隊からも行方不明者は出ていない。
行方不明者は今回、授恵者の隊長或いは副長が随行せず、リーヴァーが直接指揮を取っていた部隊から出ていた。即ち重兵9番隊、重兵11番隊、遊兵4番隊の各隊である。いずれも副長を含む非授恵者隊員、総勢13名が忽然と姿を消していた。
アウレーリアの予感は嫌な形で的中した。
デトリフの本当の目的は、人造授恵者を造る為の実験体の確保にあったのではないか。ロモズ歩兵団は、その提供元として選ばれたのではないのか。
この直後、リーヴァーは各隊に捜索を命じたが、時既に遅し。行方不明者とクロブロッチ隊の姿は、最早このパルドー森林内のどこにも見当たらなかった。
数時間後、リーヴァーはトルゴスのディーコン邸で、依頼主たるディーコン子爵に詰め寄っていた。
ディーコン子爵は、クロブロッチの要求に従ってロモズ歩兵団を呼び寄せたことを認めた。
「やってくれたな……彼らは私の家族だ。もし彼らの身に何かあったら、許さんぞ!」
「あぁ、そうだな。家族は大事だ……私もそれは、同じだ……」
がっくりと項垂れるディーコン子爵。暖炉の火の光を浴びながら、彼は力無くソファーに崩れ落ちた。その様を見てリーヴァーは漸く、理解した。
ディーコン子爵もまた家族を人質に取られ、ロモズ歩兵団を呼び寄せる茶番を演じさせられたのだ、と。
腸が煮えくり返る思いを抱きながら、しかしリーヴァーは納得もした。デトリフは嫌な奴だが、約束だけは絶対に守る男でもある。ロモズ歩兵団をおびき出しさえすれば、ディーコン子爵の家族は必ず無事に返すと、その様に約束したのだろう。
ディーコン子爵も帝国貴族のはしくれだ。如何に家族を人質に取られても、帝国兵を差し出せという要求には絶対に従わなかった筈だ。しかし誘い出す相手が帝国兵ではなく、民兵に過ぎないロモズ歩兵団ならば話は変わってくる。
ロモズ歩兵団は帝国傘下の正規部隊ではない為、ディーコン子爵も応ずることが出来る筈だ――デトリフはそこまで読み切った上で、人質を取ったに違いない。
これ以上、ここで議論を重ねても無意味だろう。リーヴァーはトルゴス郊外へと走り、各隊長、副長達、そして今回協力してくれた冒険者達を呼び集めた。
「シグモルに、乗り込むってのか?」
遊兵1番隊長ディーグ・ディオロンは、驚きの色を隠せない。しかしリーヴァーは、歩兵団員は全員が私の家族だと表情を険しくした。その決意には何の揺らぎも無さそうであった。
帝国過激派の現在の本拠地は不明だが、シグモル火山帯の地下、所謂辺獄と呼ばれる最悪の地と何らかの関連があると噂されている。そこへ乗り込もうというのである。
「そういえば、火生の神が冒険者ギルドに姿を見せたということも大きな話題になっているな」
悠人の淡々とした声に、その場の全員が顔を見合わせた。
デトリフはいっていた。陛下が神の力を得た、と。そこに、どの様な意味が隠されているのか。探り出す必要があるだろう。
そして同時に、見極めなければならない。
帝国過激派を率いているのがあの『陛下』なのか。本当に『陛下』ならば、帝国はより厳しい状況に追い込まれかねない。
重苦しい沈黙が流れた。ただの異端に過ぎぬと見ていた存在が、帝国の存亡をも揺るがす存在になろうとは、一体誰が予想し得ただろう。
だが、そんなことはどうでも良い。
兎に角、家族を奪い返す。今のリーヴァーの頭にあるのは、ただその一点のみであった。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:標準10 / 6〜10人
2021年12月27日 10時22分06秒 公開
参加者
相談掲示板
とりあえず挨拶を…っと。 ヒーラー、そしてロモズ兵団重装六部隊隊長のアリアだよーっ。よろしくねっ? 隊長に誓って、この命。帝国ひいてはみんなの未来を創る為に捧げて頑張りますっ。
にゃ!シーフのサフィラだよっ! みんなよろしくねっ! んー、やることを考えると ①クロブロッチ陸戦隊の捜索 ②魔獣・クリーパーの討伐 のふたつに別れた方が良さげかなっ? あたしはクロブロッチ陸戦隊の捜索の方に行こっかな!
ロモズ歩兵団重兵3番隊長、ウォーリアのコルネリウスです。 よろしくお願いします。 今回の目的は帝国過激派であるクロブロッチ陸戦隊を見付けること。 なぜ帝国過激派がこのタイミングで現れたかを知る為の段階、ですね。 私と重3隊は魔獣・クリーパーの討伐にあたりたいと思います。 雪に紛れて見つけづらい敵も多いようてすから、不意打ちに注意ですね。 閃光塗弾なども適宜使用していけたらよいでしょうか。
No.4
サイラスだ、よろしくなー。 とりあえず担当は他の人の様子見てから決めたいところだなと。 捜索なら軽装にして残留思念感応、温度対策かエンパシーとか? 戦闘ならいつもの格好で看破とか?になる 兵隊はレンタルになるだろうから他の人達のに合わせて兵種選べるかなと
シーフのベルクだ、よろしく頼む。 とりあえず御国の恥を黙らせる手がかりを求めてきた。 故にクロブロッチ陸戦隊の捜索を希望する。
ウォーリア、ツァガーンナル。 よろしくおねがいします! ボクも、担当はどちらでも。 クラスが偏るようなら、足りない方へ行きたいと思います
遊兵8番隊長、キャスターのアウレーリアです。宜しく。 思想の是非は置いといて、今の帝国にそんな活動の余裕などある筈ないのだけれど。 にも拘らず動き出したということは、何かまともでない当てがあるのでしょうね。 私も捜索任務に参加しましょう。不穏の芽は少しでも早く摘むに限ります。
No.8
捜索 アウレーリア(遊兵) ベルク サフィラ(遊兵) 討伐 コルネリウス(重兵) (敬称略) で今宣言した人は合ってる?纏めないと偏ったりするから揃えたけど
にゃ!サイラスまとめありがとー! 表明してる分はそれで合ってると思うよー! そういえば、陸戦隊がクロである(メドゥと繋がりがある)ってのは捜してる時点では確定してないっぽいね? 接触する時に「友軍として接触」するか「動向を観察した上で接触」のどちらかで対処した方がいいと思うけど、どうかなっ?
じゃあ折角の表明表に感謝しつつお借りして。 捜索 アウレーリア(遊兵) ベルク サフィラ(遊兵) 討伐 コルネリウス(重兵) アリア(重兵) とさせて頂きますかっ。 此方はいつも通り複数で一体相手取る戦法で無難に魔獣を狩らせてもらいましょうかっ。 何かを隠したり、遠ざける様ならそこを探索しやすい様に重点的に狩るし。 特異な手段で操られてる様なら、魔獣の残骸でも持って帰れば検証できるかねぇ。 >敵 賢い相手が少数で何かやらかしたいなら、機が熟するまで隠れてる方が都合が良いだろうし。 それを探し出す様に今回は動くべきなんだろうけど。 万が一、向こうから現れて何か喋り出す様なら魔獣退治を装ってても良いかもねぇ。 メドゥの指先のと魔獣対策をこちらの目的と出す事で、反応伺ってみて。 向こうが此方を利用しようとするならやりようは有るし。 此方を既に察知してて警戒してるなら、向こうへの牽制と、どの程度動き出してるのか。 情勢を集めてきてるかの推測になるしねっ!
遅くなった。 二番隊副長、ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 思想の是非に関してはアウレーリアと同意見として、仮に指先との繋がりがあったとて連中に御しきれるかどうか…… それはさておき、捜索向けのスキルがこれといって思い当たらない事だから、クリーパー討伐という形で連中の出方を伺おうと思う。 バックアップも必要だろう。 捜索 アウレーリア(遊兵) ベルク サフィラ(遊兵) 討伐 コルネリウス(重兵) アリア(重兵) ナタリア(重兵)
No.12
とりあえず戦闘行く人もう一人はいるだろうし、捜索に回ろうかなと。 臨時兵長で遊兵借りて、防寒対策は道具とかでなんとかして残留思念感応、後は友好的接触なら握手とか狙ってエンパシー(多分こちらを見下してる感だけになりそうだけど)、一旦様子見ならエリアサイレンスとかになるかなと。 接触の方は帝国民なら同士的な振舞いしたら近寄り易そうではあるなーとは。とりま積極的に接触狙わんでもいいかなーとは思う。向こうも遭遇しようとしてたら此方と接触目的か、指先と擦り合わせの為に今回動いてたら諦めるorもう済んでるかな気もするし 捜索 アウレーリア(遊兵) ベルク サフィラ(遊兵) サイラス(遊兵?) 討伐 コルネリウス(重兵) アリア(重兵) ナタリア(重兵)
討伐側の人数が少ないので、ボクはそちらにいきますね 保護色で隠れているようなので、超聴覚か何か、探査系の汎用スキルも持っていきたいです。 環境へは、温度耐性と防寒具で 戦闘では、大型をシーザーロアで引きつけるか、殺界で小型の足止めに回ろうと思います! 接触するなら、目的を探りたいところですね 今の時期に、ここにいるのは何が目的なんでしょうか 捜索 アウレーリア(遊兵) ベルク サフィラ(遊兵) サイラス(遊兵?) 討伐 コルネリウス(重兵) アリア(重兵) ナタリア(重兵) ツァガーンナル
悠人・ラドルファス。 よろしく。 とりあえず討伐に人手必要そうだからそこいくよ。 来るやるみんな殺せばいいんでしょ?
討伐でご一緒する方は宜しくお願いしますね >重3隊 こちらについて共有します。 重3隊は班長が2名おりますので、班長を中心に2班に分かれて隊列を組み、左右からの攻撃に備えて抑えを中心に動く予定です。 私自身は必要に応じてDチャリも使用しながら、前に出て引き付けを行っていく方針です。 重兵の指揮や動きの参考になればと思います。