【帝国】復興の灯を奪う者

菊華 伴

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シナリオID:1617

オープニング

●友、遠方より浄化の為来たる
 秋も深まるヴァイセントラフ砦。その一室で、ロバ耳を揺らしながら一人の少年が考え事をしていた。
(やっぱり気になるなぁ。黒曜の君(レイウェストさん)を守っていたエフレムって人)
 レビジュ・バトーは、最近薬師をして仕事をする一方村を回って様子を見、怪しい存在がいないか見回っていた。その際共に行動していた兵士たちの口から「エフレム様がいれば……」など聞こえる事があったのだ。
 帝国崩壊後、皇子を陰日向と支えていた男。そして、帝国崩壊の原因を作った男。レイウェストが信頼していたのに、それを裏切った彼を、レビジュは知りたかった。
(どうして、帝国を崩壊させたんだろ。深い理由もなくやらないよね? まさか彼も古巣(メドゥの指先)の同胞(構成員)だった……って訳じゃないよね)
 レビジュが自室にあるベッドに腰掛け、足をお行儀悪くばたばたさせながら考えていると、ノックの音が聞こえた。返事をすると、聞き覚えのある兵士の声がする。
(なんだろ? お仕事かな)
 レビジュは、不思議に思いながらドアを開けた。

「……え?」
「今回の任務は、君の仲間の一人を護衛する事だ」
 レビジュは帝国兵からの指令に目を丸くした。というのも……今回は迷宮都市にほど近い集落に暮らしている仲間の1人が、浄化のエーテルに目覚めたそうでこちらに仕事へやってくるという。
 先ほど到着した、と連絡を受けた兵士に案内されて外へ出ると……、白い鱗をもつリザードマンの少年が、着なれない緑色のローブを纏いそこに立っていた。
「ブリザラだったのか!」
「久しぶり、レビジュ兄。……なんか、兄さんに護衛されるってのは照れくさいけど……」
 そういったリザードマンの少年、ブリザラは照れくさそうに金色の瞳を細めた。
 話によると、彼はつい先日浄化のエーテルに目覚め、急遽こちらへ移動することになったそうな。
 しばしそれぞれの近況を話し合っていると、冒険者も護衛に着くことが告げられる。そして、気になる情報も聞いたのだった。

●浄化能力者誘拐事件
 馬車の警護をしつつ冒険者たちはレビジュやブリザラと共に他愛もない話をしていた。だが、そつなく周りを観察する。
 今回、元メドゥの指先の構成員である少年を浄化に向かわせるのには、深い理由があった。

 最近、浄化能力者が誘拐されるという事件が立て続けに2件発生した。そして未だ被害者は発見されていない。
 今回こそはその一味を捕らえようと囮役として白羽の矢がたったのが、丁度良く浄化のエーテルに目覚めたブリザラだった。
 そして、この任務に成功すれば彼の仲間達の生活水準が少し上がるらしい。その為レビジュとブリザラは躍起になっていた。
(しかし浄化のエーテル持ちを誘拐だなんて……。まさか……)
 レビジュはため息交じりに枯れた大地を見つめた。

 冒険者たちの表向きの依頼は『ブリザラ・ヒャダルの護衛』である。
 ブリザラは、予定では5日かけて3つの村の浄化を行うことになっている。だが、彼は囮でもある。こちらに襲撃犯が引っかかればそのまま誘拐犯を捕らえろ、と命じられていた。

 冒険者たちはレビジュと共にブリザラを守りながら進んでいく。
 そして3日目……2つ目の村まであと少し、という所でレビジュがロバ耳をぴくり、と動かした。
「この辺りで馬車を止めて。なんか矢を放つ音がする」
 その僅か数秒後、乾いた音を立てて矢が切り払われる。どうやら、襲撃犯が到来したらしい。冒険者たちはすぐさま臨戦態勢に入る。
 周りは荒れ野。大人の背丈ほどもある枯草が生えており身を隠すにはちょうど良い。だが、切り払ってしまえば戦闘に支障はないだろう。少しぐらいなら燃えても大丈夫かと思われる。
「まさか、僕らの邪魔をするわけじゃないよね?」
 どいてくれる? とばかりに挑発するレビジュ。その声に反応し、一人の、角が生えた男が姿を現した。バルディオンより頭半分低い程度の若い男性は、ため息交じりにレビジュを見る。
「浄化の旅、ご苦労。だが、これ以上浄化されると折角崩壊してくれた帝国が安定しかねない。それは私にとっても、『メドゥの指先』にとっても望ましくない」
 そう言って、エルフのような耳をいじりながらめんどくさそうに指さした。
「捕らえろ」
 草むらから幾人かの人々が現れる。彼らはすぐさまレビジュ達と冒険者に襲い掛かってきた。
「馬車の方は我々が守る! 君たちは襲撃犯を捕らえてくれ! 最悪追い払うだけでもいい!!」
 帝国兵の言葉に、レビジュと冒険者たちは得物を手に動き出す……。

解説

菊華です。 今回は元『メドゥの指先』の少年、ブリザラ・ヒャダルの浄化の旅……を囮に浄化能力者誘拐犯を捕まえてください。なんと、メドゥの指先の構成員による犯行のようです。 純粋な戦闘です。ただし、なるだけ殺さぬようにお願いします! 成功条件 ・メドゥの指先構成員を戦闘不能にする 失敗条件 ・メドゥの指先構成員を一人でも逃がす ・ブリザラを誘拐される ここで敵を捕らえると、あとは帝国兵が砦に連れて行って尋問します。 PCさんとレビジュは引き続きブリザラを護衛し浄化活動を続けます。 敵について >エルフのような耳と角を持つ若い男性 彼は授恵者で、どうやらシーフのようです。スキルとしてはトリプルファング、ハイディング、アクセラレイターなど使用しているようです。 彼はPCさんを出し抜き、馬車の中の浄化能力者を攫うタイミングを伺っています。 PL情報 ゴブリンロードらしき若者、リカー。彼は混沌を好む性格です。 弓兵×8 非授恵者の弓兵達で、草むらに隠れています。彼らは静かに動く事と隠れることを得意としているようです。注意深く観察しないと見つからないでしょう。 歩兵×10 非授恵者の歩兵たちで、ショートソードやダガーなどを装備しています。彼らの役目は馬車から浄化のエーテルを持つ授恵者を攫う事なのでPCさんたちを執拗に狙います。 PL情報:弓兵と歩兵は周囲に溶け込めるよう、色合いが近い衣服を纏っています。 味方NPC レビジュ・バトー 帝国の【駒】となった元『メドゥの指先』の構成員。今回はPCと共に敵に立ち向かいます。毒のエーテルは許可制で、今回は許可が出ている模様。 何かやって欲しい事があればプレイングに記載願います(何もなければ主犯格と戦います)。 ブリザラ・ヒャダル 今回の護衛対象。彼は馬車の中で大人しくしています。 帝国兵×6(御者含む) 馬車を守る事に集中しますが、非授恵者のみなのでPCさん達が倒されると容易に倒され、ブリザラは誘拐されてしまいますのでご注意ください。 レビジュを紐づけしておりますが、質問の受付は行いません。 宜しくお願いします。

マスターより

菊華です。 今回は「浄化シナリオ……?」と思うかもしれませんが、浄化シナリオです。 帝国の安定の為に、襲い掛かる敵を懲らしめてください。 宜しくお願いします。 レビジュ「任務成功したら夕飯におかずが一品増えるらしい」 ブリザラ「ホント?!Σ(´∀`;)」

リプレイ

●冒険者たちの矜持
 突然登場した『メドゥの指先』に、ララノアの背筋に冷たい汗が流れる。だが、今回の任務は囮であるブリザラ・ヒャダルを守る事。
「だだ大丈夫! ブリザラ様は、私達がお守りしましから!」
 彼女は、怯え交じりではあるが、勇気を振り絞って宣言する。
(囮を使うのは、責任重大ですね……)
 気を引き締めよう、とハルハン・ツァガーンナルは覚悟を決め、ちらりと馬車を見る。
「大丈夫です! ブリザラは、絶対に敵に渡しませんから! だから、ボク達を信じて待っていて下さい」
「そうだぜ! 安心しな、必ず護り切って見せるぜ!」
 ツァガーンナルの言葉にアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトも頷き、大太刀を手にブリザラへと声をかける。と、馬車の中から少年の「頑張って!」という応援の声が聞こえた。元はメドゥの指先(無差別テロ集団)にいただけあり、度胸があるのかもしれない。
(エーテル浄化者の誘拐があちこちで起きているとはいえ、子供を囮にするのは……)
 トーラは作戦を聞いた時から少々表情を曇らせていた。しかしこの任務の結果次第ではレビジュやその仲間たちの待遇が良くと聞いた。
(彼らは粗末に扱われていないんですよね)
 小柄なシーフの乙女はそう考え直すことにし、探知に集中する。
「敵の捕縛は任せて下さい! 帝国兵の皆さんは盾を持って馬車を!」
 トーラが叫ぶと同時に探知用のエーテルの波動を巡らせる。既にリカーは身を隠していたからだ。
(……居ました!)
 彼女の放った探知用のエーテルの波動は彼の居場所を捕らえた。その視線で何か察したのか、レビジュが茂みに突入し赤いエーテルを纏った短剣を振るう。鈍い呻き声が上がり、リカーが攻撃を喰らったのが解った。
 しかし、次に上がったのはレビジュの声。そしてトーラもまた矢の襲撃を受ける。馬車の方からは鈍い音。兵士が飛んでくる矢を盾で防いだ音だ。
 僅かに草むらが揺れ、歩兵が姿を現す。先ほどまで気配すら感じなったような気がする相手が銀の刃を閃かせ、襲い掛かってくる恐怖が迫る。狙われたトーラはその一撃を軽く回避し、アルベルトが矢を刃で受ける。
(浄化能力者の誘拐……幽界樹を倒され、土壌の浄化がやり易くなった事への焦りでしょうか?)
 キリアン・フィッツジェラルドは前方から聞こえる音からそう感じ、優れた探索眼を活かした上で敵の気配を探る。その傍らには相棒たるゴリラが控えていた。
 今回、キリアンはトーラと連携し、馬車を挟み込むようにして警戒している。
(今のところは異変がなさそうですが……嫌な予感がしますね)
 妙に馬車の後方が静かなのがかえって怪しい気がする、と相棒たるゴリラと視線を合わせた。
 傍らのイズル・M・ヴォルゴールはちらりと馬車を見、その中にいるブリザラを思った。
(レビジュの仲間達の生活向上案件らしいな。食べるものと温かい寝床は生きる活力に一番に繋がる)
 レビジュ達から聞いた事を思い出し、絶対に成功させるぞ、と気合を入れるイズル。彼もまた自然に溶け込んでいる敵を探さんと神経を研いでいた。
(此方は土地の浄化をしているだけ。浄化能力者の台頭はメドゥとしては余程都合が悪いとみえるのだ)
 そんな中でもストレガ・L・リベルガストラは冷静にメドゥの指先が起こした事件について考える。彼女は耳を澄ませ、敵の位置を把握できないか神経を尖らせながらも考察を止めない。
「この囮に食いつくなら、幾らか出所も絞り込めるかしらね」
 アウレーリア・フォン・ネーベルベルクもまた、まだ姿を現さぬ敵を探らんと周囲に注意を向けながら呟く。ストレガは「ん」と小さく声を漏らし、黄の魔導書を開く。
「炙り出しは成功したのだ。洗いざらい吐いてもらうのだ」
 伸ばされた手の先へと流星の如き光の粒を降らせれば、呻き声が上がる。どうやら隠れていた敵が被弾したらしい。
「み、皆さま! えっおー!」
 ララノアが祈りを込めて叫べば、鬼火のような蒼白い光がアウレーリアたちの身体から立ち上る。
(! やはり馬車の後ろにも)
 キリアンは僅かに息をのむ。彼の眼が草むらに熱を持つ存在を察知したらしい。〈エーテルリンク〉したゴリラが敵を威圧する。
「こっちからも来る!」
 キリアンが仲間へ伝えた直後、複数の矢が彼へと飛んでいく。ゴリラは矢の雨を気にせず、敵へと立ち塞がる。その様はとても頼もしい。キリアン自身にも矢が掠めたりはしたが被害は小さかった。「襲撃者が迂闊に動けないようにプレッシャーをかけられれば」と考えた彼の作戦はうまくいったようだ。
(……こっち!?)
 アウレーリアは缶のピンを引き抜き草むらへと投げる。と、眩い光と共に呻き声が上がり草むらが揺れる。目を押さえながら転がり出たのは数名の歩兵たちだ。彼らは眩しさに目が眩んだのか、身動きが取れなくなっているようだ。
 草むらが前方で揺れる。ツァガーンナルが草を踏みしめ進めば、レビジュが傷を負いながらも身構えていた。どうやらリカーの攻撃を喰らったらしい。
「絶対に、奪わせはしません! これ以上の被害も防ぎます!」
 思い通りにはさせない、と挑発を込めた叫びをリカーに叩きつけるも彼は鼻で笑う。
「いっちょ前に〈シーザーロア〉か、お嬢さん?」
「そこかっ!」
 逆に挑発するような笑みを零す彼の元へアルベルトが落雷を思わせる苛烈な一撃を見舞う。リカーはそれを避けきれなかったものの、倒れなかった。
(浅かったか?!)
 手ごたえは感じた。しかしダメージは……? リカーは表情を険しくし眉を顰めている。そこからアルベルトは相手が強がっているだけだと考えた。
「ホント、授恵者サマサマってやつだな。一般人(パンピー)だったら死んでたぞ」
 リカーは、そう忌々し気に言いながら血交じりの唾を吐く。
(声が聞こえる。早めにリカーを補足できたのか)
 イズルは歩兵の腹部を戦槌で殴って気絶させながら状況を把握。ちらりと馬車の屋根を見て敵の襲撃がないか探る。
(今の所、馬車の上からは、なさそうか)
 彼が上からの攻撃を危惧している間に、トーラが歩兵の一人を昏倒させていた。リカーの動きを追うのを邪魔されたらしい。
 それと同時に、リカーの姿が消えた。どうやら隙を突かれたようだ。
 〈捜波〉系のスキルを持った者達は互いに意識を集中し、マーカー(位置情報)が認識できるトーラの声を頼りにしながらも、襲い掛かってくる弓兵達も相手にしなければならない。トーラ達は矢を切り払い、アルベルトとツァガーンナルはどうにか歩兵たちの攻撃を躱す。
「任せて!」
 レビジュがわざと草むらを鳴らすようにしてナイフを振るい、弓兵を襲う。と、その音を聞いたストレガが「よくやったのだ」と頷き小さく呟く。
「雷蛇禍(からまれ)なのだ」
 弓兵達を、蛇のようにも見える稲光が苛む。その様は、光る蛇の坩堝(るつぼ)に入れられたのようにも思えた。
(馬を暴走させたり、馬車ごと奪われるかもしれませんっ)
 飛んできた矢を盾で受けながら、ララノアは馬車よりの位置から〈魔矢〉を放つ。狙うは敵の足。上手くいったのか、歩兵の一人が足首を押さえ蹲った。
 リカーを探すツァガーンナルはトーラの指示や探敵系のスキルを展開する面々の様子、〈超嗅覚〉などを材料に彼を追うも弓兵に邪魔されうまくいかない。だが、トーラの指示はちゃんと聞こえている。
(近づいている!)
 彼女が武器を振るい、弓兵を気絶させ辺りを見渡た時。彼女とイズルは僅かに鼻を動かした。
(血の臭い?)
 馬車周辺に近づいていた弓兵と歩兵は、あまり血を流していなかった。それなのに濃い血の臭いを感じたのだ。
「イズル!!」
 ツァガーンナルは咄嗟に違和感を覚えた方向を武器で示した。イズルもまた大きく頷く。
「っ! あっちか!」
「見つけたわ!」
 ツァガーンナルとイズルの〈超嗅覚〉が捕らえた方向を、〈超視覚〉と〈天眼〉を同時併用していたアウレーリアが見ると……そこにリカーがいた。彼女は馬車周辺を重点的に見ていたおかげか、早く見つけることができたようだ。
 2人の声にリカーは忌々し気に舌打ちをする。彼は肩の傷から血を流したまま、顔に不敵な笑みを湛えていた。
(やらせはしないわ)
 冷静に鉄の壁を出現させると同時に、素早く言葉を紡ぐ。その口元を見ているか否かはわからないが、リカーが馬車に近づいているのは確かだ。
 弓兵達が矢を射るが、ゴリラの威圧と突破に対し目を光らせるキリアンが放ったエーテルを籠めた光の矢弾の炸裂が彼らを苛む。
「こっちの歩兵は任せて下さい!」
「わかった!」
 キリアンの言葉に、イズルが動く。戦槌と短剣がぶつかり合い、鈍い音を立て彼は顔を顰めた。リカーは仲間に任せる心算だった彼だが、まさか自分が真正面から切り結ぶことになろうとは! 
「どけぇっ!!」
「できるかぁあ!」
 これは意地だ。意地と意地のぶつかり合いだ。イズルはひいてたまるか、と歯を食いしばった。
「そのまま抑えてろ、ヴォルゴールさん!」
 アルベルトが勢いよく突進し、鋭い攻撃を放つ。リカーは紙一重でそれを避けた。歩兵たちは彼を援護しに行きたそうだったが、まだアウレーリアが放った閃光塗弾の所為で見当違いな方向へと進み攻撃を冒険者たちに無効化される。
「誰が、退くか!」
 騎士は青い双眸に力強い意思を燃え上がらせて宣言した。

●格の違い
(リカーは見つかった)
(なら、どうするかわかるでしょう?)
 レビジュとトーラは頷き合い、それぞれ歩兵と弓兵を相手取りリカーと合流させぬよう分断する。ストレガは「ゆっくり眺めていくといいのだ」とのほほんとした雰囲気で弓兵と歩兵を巻き込み〈重力場(そこにとどまれ)〉を発動させる。
「逃がしません」
 キリアンがもう一発〈炸裂矢〉を解き放ち、反対側ではゴリラが近寄った者と戦う。漸く目が慣れた歩兵はイズルが相手し、戦槌で攻撃する。
「こっ、こないでくださいまし!」
 本当に怖いが、怯える事で引き付けようと考えたララノアは傷を負ったイズルへと治療を施す。本当は怖くても、傷ついた者を治療するべく状況を把握する事を忘れない。
 帝国の兵士達も馬車の守りを固める。矢は全て盾で防ぎきり、馬車には一本も刺さっていない。冒険者たちの奮闘により、彼ら(帝国兵達)は誰も負傷していなかった。
 ツァガーンナルが、腹から声を出し挑発する。
「もう逃げられませんよ! 諦めたらどうですか?」
「できないなっ」
 リカーが鋭い八重歯をむき出しにして吠える。その眼は可憐な白熊娘に釘付けで、【執着】しているように見えた。彼女は肉体を蝕むエーテルを纏わせた『シルーン・サルヒ』(暴風の名を持つ、全長200cm程のハルバード)を叩きつけ、リカーを跪かせる。
「諦めて」
 冷たい声と共にアウレーリアが蜘蛛糸のようなエーテルを放ち、間髪入れずアルベルトが磨き上げられた一撃を見舞う。
「リーダー格は任せろ! 周辺の奴らを!!」
 アルベルトが叫び、仲間たちは皆了承する。
 授恵者たる上、経験もしっかりと積んだ冒険者達の戦略に、弓兵も歩兵も為す術無く追い詰められ、戦闘不能になった者はキリアンとイズルが丁寧にエーテルの光の縄で拘束する。
 次々に歩兵と弓兵が倒れ、リカーの顔にも焦りが浮かぶ。だが、白熊娘(ツァガーンナル)と騎士(アルベルト)に挟まれ身動きが取れず、尚且つゴリラを連れたキリアンや機動力に優れたトーラやレビジュがいる。
(あの娘を倒し、退避するしか……)
 得物を手に、ツァガーンナルへと流れるような三連撃を放つリカー。彼女は素早く盾を構え表情を引き締める。戦乙女は、近接戦闘における装甲の活かし方を知っている。
(ボクの役割は、馬車を、ブリザラを守ること!)
 強力な一撃は骨に響くも、ツァガーンナルは〈重点硬化〉で耐え抜く。その顔に強い守護の意思を湛えて。
「よく耐えた、ハルハンさん!」
 アルベルトが再び剣を振るうも、どうにか回避するリカー。だが、その足元はふら付いており、かなり消耗してる事が解った。
「もう一度言う。降伏しろ」
 アルベルトの問いかけに、男は首を振る。だが、キリアン達が光のエーテルで拘束した者達を見せた。彼らは皆自害しないようトーラの提案で猿轡を施されている。
「この意味、解りますよね?」
 静かにトーラが問いかけるが、リカーは戦意を失わない。その様子にレビジュが強くナイフを握り締めるも、イズルが優しくも厳しい眼差しで制止する。
 ストレガが、いつでも動けるよう黄の魔導書を開く。怯えた様子のララノアも〈魔矢〉を放てるよう身構える。
 だが男は諦めず、意地でも馬車へと向かおうとした。だが、踏み出した場所には《不可視の重力場》が出現していた。
「なあっ?!」
 鉄の壁さえ避ければ、と考えたリカーであったが、アウレーリアの術中に嵌ってしまっていた。

 こうして、リカーは意識を奪われ捕縛された。

●浄化の旅路は続く
 リカー達を引き取った帝国兵達は、心から冒険者達に礼を述べて砦へと戻っていった。冒険者たちは少しの休憩の後、再び旅立つ。
「ブリザラは浄化者ですが、それ以上に弟なんですよね、レビジュにとって」
 ツァガーンナルの言葉に、レビジュは少し照れたように頷く。
 二人を離れ離れになんかさせない、と誓った彼女は、この勝利に大きく貢献していただろう。レビジュはちょっとだけ小さな声で「ありがと」と言った。
「やっぱり、皆強いな」
 ブリザラが馬車から出、冒険者達とレビジュに感謝の意を表す。
「よく頑張ったな。怖くなかったか?」
「うん。兄ちゃん達、強かったから全然怖くなかったぜ」
 イズルが優しく声をかけると、ブリザラがにっかり笑って頷く。
 帝国兵の馬車が去るのを見ながら、ストレガは僅かに遠い眼をする。
(エルフっぽかったが特徴的な角は同族のロード種だろう。何処の組か、或いは組の離反者か、余所者か)
 彼女は、リカーに対しどことなく苦い物を口に覚えつつ「何れにせよゴールディと示せないゴブリンは倒すのみなのだ」と呟いた。

 交代で来た新たな帝国兵とアルベルト、トーラは何時ごろ出発するか話し合う。その様子を見ながらララノアは傷を負った者の治療をしていた。
(戦うのは慣れてしまいましたが、やはり怖いですね)
 そう振り返っていると相棒たるゴリラを労っているキリアンと目が合う。二人は「無事に終わってよかった」と安堵し合うのだった。
 様子を見ていたアウレーリアだったが、トーラとアルベルトから話し合いが終わり、帝国兵達の準備もすぐに整う事を告げた。
「この様子ならすぐに出発できそうね」
 彼女は頷き、身支度を素早く整えた。

 リカー達の尋問と帝国兵の捜査により、行方不明になっていた浄化能力者は無事保護された。だが、目的は未だ分かっていない為引き続き調査されるらしい。
 しかし、これ以降その地方では浄化能力者誘拐事件は起こらなくなったようだ。冒険者達がその事を知ったのは、無事浄化を終えて砦に戻った数日後の事だった。

(終)

マスターコメント

皆様お疲れさまでした。また、リプレイが遅くなり申し訳ありません。 隙のない作戦により、大成功と相成りました。 ・アイアンウォールとグラビティフィールドの配置の仕方 ・超嗅覚、超視覚、捜波など探索系スキルを複数が所持し展開する ・閃光塗弾の使い方 ・様々なパターンを想定しての警戒 などに襲撃犯達はタジタジに……。リカーは2度の成功で調子に乗っていましたが、コテンパンにやられました。 無事に任務が成功し、犯人も全員捕まえることができたのでレビジュ達も褒められたようです。これも皆様のお陰です。おめでとうございます。 それではまた縁がありましたらよろしくお願いします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:多い8 / 5〜8人

2021年12月07日 10時12分11秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. トーラ

    シーフのトーラです。 護衛と誘拐班の捕縛頑張りましょう! 正面から出てくるのはよほど自信があるのでしょうか。 囮として他の構成員が横から拐いに来るつもりかもですね。 相手はシーフで先手を取られる可能性が高いので、それに対応できる様にわたしもイニシアチブを高めにしておこうと思います。 それと、一人も逃がしてはいけないので弓兵と歩兵の対策もしっかりしておきたいですね。

  2. キリアン・フィッツジェラルド

    どうも。シューターのキリアン・フィッツジェラルドと申します。 襲撃者の親玉が、リカーというゴブリンロードとされるのと、襲撃者は軒並み周囲に溶け込みやすい服装である事がPL情報と。 リカーがシーフの類である事は分かっているという事ですか。 特殊なスキルは、他者から注目状態になっても隠密状態のハイディングに、回避失敗やファンブルにおいても回避を成功扱いにするアクセラレイターですか。 僕からは捜波に加えて看破+ホークアイを持ち出すほか、ゴリラも連れてきてエーテルリンク2を結ぶつもりです。 この状態ですとZOCが働く事ですし、とにかくリカーの機動性を封じる、妨害する事が要だと思います。 捜波を飛ばすなり看破してしまえば、敵の認識の為のロスタイムも減らせるのではないかと。 なので僕はブリザラの居る馬車に近い位置に陣取りたく。 物理防御に関しては、付け焼刃気味ですが最大強化したダマスカスの甲冑に加えて琥珀の首飾り2つ装備で160を確保出来ます。 残り1つは生命の補強を……それでも生命330程度ですので。

  3. ララノア・グラヌローザ

    ひ、ヒーラーの…ララノアでしっ!よろしゅくお願いいたしましでっ(がばちょ礼 細やかな解説たしゅかりましゅ(へぅ ぇとぇと…横から馬車を狙われる可能性もあるということでしょうか… 最悪、光縛封で馬車をお守りする事も考慮した方がよさそうでしかね… ぅぅ。周囲に溶け込む…敵さんでしか…どれだけ先に見つけられるかも… わ、私は超聴覚と、超嗅覚を持っていこうかと思いまし… 今のところ、馬車の近くで回復と支援を中心に考えていましが…(こくこく ま、前での壁役なども…出来るのでし…ッ

  4. ハルハン・ツァガーンナル

    ウォーリア、ツァガーンナル よろしくおねがいします! ボクにできるのは、シーザーロアや、殺界。カバリングですね 闘気槌も使えるので、馬車が大丈夫そうなら、前に。でしょうか 汎用スキルは超聴覚があるので、音には注意できます! 逃さないことも、重要な目標ですね 主犯格を倒す前に、周囲の弓兵と歩兵は、倒してしまうべきでしょうか

  5. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    キャスター、アウレーリアです。宜しく。 あっちにもこっちにも人攫いが湧くわね……よっぽど復興が都合悪いのかしら。 とりあえず、アイアンウォールとグラビティフィールドのセットが用意できます。 馬車への接近や離脱はこれで遅らせることができるでしょう。 汎用スキルは超視覚や天眼を持って行けるわ。 弓兵や歩兵は範囲攻撃で制圧してしまう心算。まずは見つけないといけないけれど。 その点、キリアンの捜波はとても頼りになります。 一度見つけたら、閃光塗弾を使うわ。塗料で光っていれば、その後も見失いにくいでしょう。

  6. ストレガ・L・リベルガストラ

    キャスター、ストレガなのだ。よろしくなのだ。 逃さず倒しかつ殺さないという事でグラビティとアーケインを持っていくのだ。 アクションはメテオライトと、やりすぎて殺さないようにヒールを用意するのだ。

  7. イズル・M・ヴォルゴール

    ※再投稿失礼 ヒーラーのイズルです。よろしく。 見た感じ、馬車から離れない人が多いみたいだから、俺は動いて敵を倒しに行こうと思う。 汎用は超嗅覚と、植物共感は枯草だと無理そうだけど一応候補に考えておく。 アクションは攻撃ではなく自分の能力を上げる系をメインに積もうと思う。あと、回復。 乗せて欲しいスキルとかあったら言ってくれ。

  8. トーラ

    ハイディングによる隠密状態は、看破スキルで見破りやすくなるので持っていきますね。 それと、捜波でマークを付けておければ隠密状態でも位置は分かると思います。

  9. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 今回、俺は汎用スキルは『看破』と『戦術眼』を持っていくつもりだ。 弓兵・歩兵はもちろんだが主犯格のリカー(で良いんだっけ?)も逃がしはしないぜ!

  10. キリアン・フィッツジェラルド

    では、馬車を挟むように南北といいますか上下に僕とトーラさんが構えて、捜波で索敵というのはどうでしょう? あと、確かに不殺に留めるようにと要綱にありましたね……なら炸光矢を持ち出しましょうか? Lv1のやつですと回数が多めなうえ、威力のマイナスも-50ですから。 迷彩装備持ちが相手となれば通常の視覚に頼らない索敵手段が有効でしょうし、こと弓兵が静かに動く事と隠れる事が得意というなら超嗅覚も良いと思います。 あと、これは聊かバクチじみた事になりますがサーマルアイも有効ではないか?と個人的に思ってます。 相手がリザードマンや爬虫類系でも無い限り、生きている相手ならば体温は避けられない要素でしょうし。 ただこれは相手の熱探知特化であって、通常の視覚による判定にマイナスが掛かる可能性があるとされる上、恐らく敵味方の識別も難しくなる分、誤射が怖いというのも。

  11. ララノア・グラヌローザ

    上下で捜波でしたら敵もかなりカバーできてとても有難いでしねっ では…私は超嗅覚と天眼にいたしましっ 閃光塗料…光を見ないなど、心の準備がいりましかね?うまく付着すればよさそうでしゅっ(ぐっ 動けなくする、ということでしたら魔矢などで足など狙ってみようかと… 一般の方が相手では、サーマルアイでの命中にペナルティがついてしまう可能性は…少々、怖いでしょうか?なんとなく、一般の方はちょっとですぐに…あの…ぇっと…傷つきやすいと思いましで…(ぷるぷるふるふる ぁとは…ぅぅあえて狙われやすくするのも敵の目を向けたり倒しやすくする意味では良いでしょうか… 光縛呪での拘束と、ハウリングは考えていまし…(ぺこー

  12. トーラ

    上下(というか正面と後方?)での捜波わかりました! リカーの方が早い可能性もありますけど、先にマークを付けれれば姿を隠されても対応しやすいのでわたしが上に回って良いでしょうか? それと、レビジュと帝国兵の方達にはどう動いて貰いましょう? レビジュはそのままだとリカーの相手をするようですけど、シーフはわたし含めて二人なのでちょっと迷いますね…。 帝国兵の方達には盾を構えて弓矢からブリザラさんを守って貰えたらと思うんですけどどうでしょうか?

  13. ハルハン・ツァガーンナル

    >リカー こちら、引きつけるならシーザーロアが使えますが、必要でしょうか? 強そうなので、付与できるか分かりませんが、注意を引き付ければ、逃しづらくなりますしね >帝国兵 そのまま、馬車とブリザラを守ってもらう方向で賛成です! 他の対応に回ってもらうと、手薄になってしまいそうですから

  14. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    >帝国兵 索敵に目は多い方が良いですから、道中は周囲警戒に集中してもらいましょう。 戦闘中は私達がリカーに気を取られて敵兵の接近を許さぬよう、直掩で良いと思います。 非受恵者の敵でも、人を攫うことは出来ますものね。 グラビティを張っておくので、そう簡単には近付けない筈ですけれど。 >索敵 捜波のマークは付与者にしか分からないので、意識的に共有してもらえると助かります。 塗料は物理的マークということで。爆発させない使い方なら、緩やかに光を放つ筈です。 寧ろ暗所で確認できる程度なので弱すぎるかも知れませんけど、超視覚で何とか? それと、私の配置は一歩引いて後方配置。馬車近くの心算です。

  15. トーラ

    マーク情報の共有了解です! シーザーロアもツァガーンナルさんが使って貰えるなら助かります。リカーに限らず、ブリザラさんを拐って行こうとする相手にかけれれば逃走防止にもなりますし。

  16. レビジュ・バトー

    報告書(プレイング)の提出期限まで24時間を切ったよ。 装備のチェックも忘れないでねっ!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0