【帝国】生き残った農夫と娘
紀藤トキ
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シナリオID:1611
オープニング
「しかし、今回は久しぶりにご一緒ですなあ」
「若造の授恵者1人より、軍人10名の方が安心される。ただ、本当に生き残りなどいるのか……?」
冬を乗り切るまでの戦いで大きく減り、隊の稼働人員は10名しかいない。死亡した者も、負傷退役した者もいる。人数が減り回される仕事こそ、内向きの物が多くなったが、不足人員の補充は特にされていなかった。久しぶりに拠点を出て向かう先は、ヴィントの西のとある村だ。昨冬にヴァイセントラフ砦を目指して村民が避難中に、クリーパーによって全滅させられた為、誰も住んでいない筈だった。しかし、近隣を偵察していた兵員が炊煙を見たという。
「もしかしたら、誰かが勝手に住み着いているのかもしれませんな。こんな時世だ。犯罪者でもなければ別に咎めるようなものでもないでしょうが」
「だとしても、確認は取らねばなるまい。もし希望するなら保護する必要も……ん?」
シューターで目の良いアロイスがまず違和感に気づく。兵たちも怪訝そうに見えてきた村落の様子を伺った。人の気配はなく、明らかに廃村と見える一角に、いくつも野菜が実っている。季節は冬に向かっており、帝国の耕地は貧しい。普通には見えない光景に、一同の脳裏にこの間から訓令に出ている『エーテル浄化者』と言う単語がよぎった。
「もしかして、住み着いているのはエーテル浄化者なのか? ……失礼、ヴァイセントラフ砦の帝国駐留軍だ。誰かいないか?」
警戒されぬよう、離れた位置から声を掛けると、畑の奥の家の窓が少し開く。小さな顔が覗き、目を丸くした。
「軍人さん? お父さんー! 軍人さんが来たー!」
「本当か? おお、こんな何もねぇ所へよく来たなあ。もしや、村の連中が帰ってくるのかい?」
家の裏側から現れたのは、大柄な農夫だった。手には収穫したばかりの野菜を入れた籠がある。意外とのどかな様子に、アロイス達は毒気を抜かれた様子で招きに応じた。
●
「……なるほどなあ。村の奴ら、皆死んじまったのか」
「砦まではあと2日ほどの場所だったと聞いている。残念だった」
農夫達が村に残ったのは、娘が風邪をひいて移動に耐えられそうになかったからだ。他にも数名、老人や怪我人が残り息をひそめて暮らしていたのだという。斥候が見たのは、火を使った数少ないときだった。
「せっかく生き残っても、寿命でなあ。皆、死んじまったんだよ」
死体を残せば、動き出すことがある。そう言い伝えられているがゆえに、焼くための火を起こした。それが兵の目に留まったと伝えれば、「爺さんが呼んでくれたのかねえ」と朴訥と笑う。このあたりのクリーパーや魔獣は概ね掃討されたとアロイスがいうと、ホッとしたように笑った。
「なるほど。せっかく拾った命だ。娘と2人で暮らしていきますわな」
「それなのだが。貴君はエーテル浄化者である可能性が高い。畑の様子を見てそう感じた」
何ですかそれはと当然の疑問顔をする娘と農夫に、説明することしばし。2人は破願する。
「いやいや、そんな大層なもんじゃねぇですよ。ただ、ちょっと前に……なんだっけ。ほれ、たみるのまななんとかで来たっていう」
「ターミルのマナズィールだよ、お父さん」
帝国が滅ぶ前の夏に、旅の2人連れのリザードマンが村を訪れた際に、もてなしへの礼として畑のやり方を幾つか教えてくれたのだといか。村の連中はよそ者のいう事だと聞かなかったが、彼らはそれを取り入れた。畝とか畔とか苗とか虫取りとか、手間を掛けた分だけ差が出たのだと嬉しそうに言う。
「私、大きくなったらトカゲさんのお嫁さんになるんだ」
などと娘が言うのには、農夫は困った顔をしていたが。アロイスと兵たちは顔を見合わせる。
(……そういうレベルの話なのか?)
(私は靴屋の倅なもんで、農業の話はとんとわかりません)
アロイス達に、農夫らの言葉を覆す知見はなく。また周囲はそれほど危険が無いと分かっていたこともあって一度村を離れる事にした。逃げてきた者は助からなかったようだが、もしかしたらこの村の出身者が記録されているかもしれないとも思ったのだ。ヴァイセントラフ砦まで戻り、確認して分かったことはやはり生き残りがいなかった事と。
「……このリザードマンだよな、たぶん」
「おそらくは」
彼らの恩人だというリザードマン達もまた、帝国動乱で命を落としていたという事だった。
●
「冒険者の皆に依頼したいのは、表向きは道中の安全確保だ。これまで特に危険が無い辺りではあるが、何かの痕跡があれば辿って潰すことになる。まあ、私としては頼みたいのは彼らの説得なのだが。何をどう説得したらいいのかの相談にも乗って欲しい。正直、私としては故郷から引き離すのが良い事なのかはわからないのもある……」
農村に2人しか住人がいないというのは困る事も多いだろう。しかし、生き残りがいると知れれば住み着こうという住人志望も出てくるかもしれない。今まで逸れていた巡回路もその村を通ることになるだろうし、安全と言う面でもまあ他にもっと厳しい所はある。ただ、エーテル浄化の力があるのであれば、より大勢の力になって欲しいという希望もあった。
「畑の様子からすれば、家の誰かがエーテル浄化者だと思うのだが……。ただ、彼らが言うリザードマンの農法のお陰と言うのが正しい可能性も無くはない」
だとしたら、その農法を聞いてくる事にも意味があろう。ただ、これもアロイス達ではあまり良く分からなかった。一応、言われたことをメモしてきてはいるのだが、そこまで特別な事をしているようにも見えないのだ。行うタイミングなども指示があったようなので、そのあたりの細かい事が有用だったのかもしれない。
「とりあえず大勢で行く必要はない故、今度は私と君達だけで向かう事にする。ああ、言うべき事を無理にまとめる事はない。君たちのうち誰かが言った言葉が彼らに響けば、それでいい」
あいまいな注文で申し訳ないが、と困り顔のままアロイスは頭を下げた。
解説
マスターより
リプレイ
「この前の軍人さんと……、あ! トカゲさんだ! また来てくれたの?」
「む、私は君とは初対面の筈だが……」
自分より行動範囲が広そうな同族2人をフェイサル・セイフがちらりと見るが、ルチル・プルメリア・グレイハーツにもハリス・アル・ターミルにも心当たりが無いらしい。フェイサルの視線を追った少女が目を丸くして「女の人のトカゲさんだ! どっちのお嫁さんなの?」と問いかけた。
「おや、そう見えるのか。どちらだと思う?」
「うーんと、大きい方のトカゲさん!」
「らしいぞ、ハリス」
「私は研鑽の途中でその、まだそういった事は……ルチル殿!」
揶揄われたハリスが声をあげる。少女は嬉しそうに笑っていた。
「こ、こら。すみません、トカゲだとか失礼を……」
家から走ってきた父親が頭を下げつつ、娘を抱えるようにする。(もしかして、少し警戒されているのでしょうか?)と230cmのフェイサルが視線で問うと、(そのようですね……)と228cmのハリスも首肯する。さらにはルチルだけでなくヨル・スレイマンとストレガ・L・リベルガストラの被っている頭蓋骨も、不審者レベルを否応なく上げていた。アロイスも視界には入っているのだが、初対面の印象を打ち消すほどでもないらしい。微妙な空気感で固まった一行から、小柄で見るからに安全そうなトーラがとことこと前へ出た。
「こんにちは。わたしはトーラって言います。あなたのお名前は?」
「私はタント。5歳! お父さんはボウノ!」
少し膝を曲げて視線を合わせたトーラへ娘が片手をあげて元気に答え、抱きかかえていた父親の腕から力が抜ける。
「私達は冒険者の一行です。突然のご訪問をお詫びいたします」
「は、はあ。それはご丁寧に……」
シルク・メイプルリーフが頑張って余所行きの口調で言うと、彼女の纏う雰囲気に安心したように頷いた。
●
来客を家に招きたかったようなのだが、全員で入れるほど大きくない。結局、家の前の空き地に座って話をすることになった。
「あたい達は、そこの帝国軍人のアロイスの依頼で来たんだ。話は前に聞いてるだろう?」
「特別な力があると言われても何が何やらでしたが、なるほど。皆さんがうちの農地を見て下さると」
ルチルの説明を聞いて、父親がようやく合点がいった様子で頷く。少女の方は、見知らぬ顔ぶれも最初から怖がる様子はなかった。聞けば、リザードマン達が滞在していたのは昨年の春だそうだ。子供にとって一年は長い。『トカゲさん』の外見が朧げになっているのも致し方ないだろう。
「同胞の技を受け継ぎ、実りに繋げて下さったこと……まずは感謝させて頂きたく。異郷の地に果てた彼等の魂も、これで救われる事でしょう」
「そうですか。村の連中だけじゃなく、あの方々も亡くなられたとは」
父によれば、2人連れのリザードマンは1人が怪我をしており、この家で滞在を受け入れたのだという。他の家は本当に外を知らず、異種族に会ったことも無い者が殆どとあれば仕方がない事だ。
「ふむ、御父上は村の外をご存じなのだ?」
「ええ、若いころに飛び出しまして。結局、生計が立たず戻ってきたのですがね」
良く知らぬヒューマンから見れば年齢不詳だろうリザードマンだけでなく、明らかに年少のストレガへも丁寧な口調を崩さないのは、そういう性格の御仁なのだろうとルチルは見た。
「私ね、毎日ちゃんとお水をあげてたよ!」
「なるほど。それは素晴らしい事です」
ハリスが几帳面に誉めると、少女はにっこり笑う。
「……元気な娘さんだ。深い愛情を注がれ、それを真っすぐに受け止めている」
「ならばいいのですが」
フェイサルがそう言えば、男は父親の顔で笑みを浮かべた。薬学や医療の心得があるので健康状態を診ようと彼が提案すると、二つ返事で頭を下げられる。冬が近づくのに、あまり火も使えない生活だ。また風邪を引いてはいないか心配だったらしい。
●
「そもそも農作業は何時ごろから始めたんだい? さっきの話だと、村に戻ってきたのは……」
「娘を生んだ時に、母親が死にまして。私一人ではどうしようもなく、故郷に戻ったんです。5年前、ですね」
ルチルに問われ、男はそう答える。男の家族は既に亡く、引き継いでいた村人から一部を分けて貰ったのだとか。慣れぬ農業に困る男に、村人は優しかったという。
「ただ、田舎だけに余所者は嫌うもんで、ご同胞には居心地悪い思いをさせたかもしれません」
「あたいはそうは思わないけどね」
自分たちの知識を分け与えたいと思う程には、情が移ったのだろう。ルチルが言えば男はしんみりとした表情で頷いた。それ以前と以後では作物の出来が雲泥の差だと言う。
「なるほど、昔はここまで良くは無かったのだ? ……去年の秋位にエーテル浄化の力に目覚めたとしたら辻褄は合うのだ」
あれこれ尋ねつつ、ストレガは他のエーテル浄化者の事例も教えている。毎日お祈りしていたらカボチャが大きく育った、と言う話には2人とも神妙な顔になっていた。農作業は日々の日課だが、お祈りはさぼりがちだったらしい。
「エーテル浄化者ってのは授恵者とは別種の者なのかい?」
「授恵者の一種だと、聞いていますが」
ルチルに問われたアロイスは受けた説明を思い出す。力を授かった者と言う意味では同じなのだろう。ただ、力の向きが違う。
「わたしは庭師の娘ですが、その力はないようなんです」
「へぇ。花とか詳しいなら、娘の花壇を見てやってくれませんかね」
トーラのつぶやきに男が何気ない感じで頼むのを聞き、ルチルとストレガは意味深に顔を見合わせた。
「その花壇というのは、タントが1人で面倒を見ているのかい?」
「だとしたら、そこの様子はぜひ見たいのだ」
「ああ、農地のすぐ脇ですから、ついでに見ていただけますよ」
話の流れで、そのまま畑へと向かう事となる。
「私にも分かる。他の荒れ具合とは比べ物にならない良い土だな、ハリス」
「ええ、フェイサル殿」
2人のリザードマンはしゃがみ込んだ一角で、手のひらに掬い上げた土を見ていた。空気と水を含んだ、手入れされた畑の土だ。
「実際の所、ターミルの知識でこれ程までの差が出せる物なのか?」
「やはり我々の伝えた農法の効果だけではありません。これは改善ではなく飛躍です。浄化の能力でしょう」
ハリスはそう断言する。フェイサルは頷きつつも生えている植物へも目を向けた。しかし、いかにエーテル浄化の能力があろうとも、几帳面に開いた間隔も、揃った背も、何事もなく捨て育ちにされただけではそうはならない。
「……だろうな。だがあの親子は彼らの力だと信じている――それは決して無駄ではない、有意義な事の筈だ」
そこに掛けられている労力を理解できるからこそ、父1人幼い娘1人でこれだけの事を為したことへ頭が下がる思いだった。
「やはり、ここの野菜は他と比べて際立って生育が良いと思います」
ぐるりと見て回ってきたトーラもそう言う。道中に見た草木は冬支度を始めていたが、この農地だけまだ実りの秋の気配を残していた。少し離れた別の畑と比べてもその差は如実だ。トーラが居心地良さそうに風に揺れている作物へ植物共感で問えば、裏付けるような証言にも事欠かない。
「わ、すごいね。俺がみても豊かだとわかる」
「そうですか。宜しければ、一つ食べてみますか?」
「こうやってもぐんだよ! こう!」
最初は怖がられていたヨルだが、作物を前にテンションが上がった様子は親子共に好感度があがっている。勧められるままに一つちぎって口に運べば、市で買った物より瑞々しく甘い。野菜が大好物のフォルゴーレと、同じく黒い毛並みのムームーもご相伴にあずかっていた。
「おいしい?」
『むーむー』
「狼さんもお野菜食べますか?」
「どうなんだい? アル」
少女に問われたルチルが訪ねると、狼のアルがもっさもっさと尾を振った。食べても大丈夫な野菜だったらしい。
「なるほどなあ。こういうのも才能なんだね」
感心したようにヨルが言うと、男の眉が下がる。
「野菜はたんと食わせてやれるんだけど、それ以外をなかなか食わせてやれんのですよ」
「なるほど……。ああ、保存用の物ですが、夕食にこちらをどうでしょうか」
ハリスが干し肉を提供すると、父親は恐縮しきった様子でありがたく受け取った。
●
花壇の様子を見れば、娘の方がエーテル浄化者であるのは一目瞭然だった。他にギルドで漏れ聞こえる例に比べれば、浄化の力は強くなさそうだ。レイウェストの労苦を想うとトーラは残念にも思うが、幼い少女の体力を思えば引っ張りだこになるような能力でなく良かったのかもしれない。2人とも、そう説明を受ければ納得して頷く。話がこじれたのは、その後の事だった。
「お父さんの馬鹿! もう知らない!」
駆けだした少女を、主人から護衛を指示された狼のアルとヨルが追う。父親は肩を落としつつも、譲る気はないと口元を引き結んだ。
「……お2人の意見が合わないというのは、考えておりませんでした」
シルクの嘆息は一同の心境そのままで、しかしどちらの気持ちも分かる程度に彼らはこの親子の事を知ってしまった。それ故に、真摯に帝国の――アロイスの頼みに応じて街へ行きエーテル浄化者として働くことと、この村に残ること。あるいは、村に残ったままで働く道。それぞれの利点と欠点、長所と短所をきちんと伝えたのだ。
「離れて暮らすことは、考えておられないのですね」
シルクが念を押すと、ボウノは父としては心配なのだと言う。
「あいつは子供だが、貴女達が言う殿下は優しいのでしょう。無理はさせないという言葉を信じますが……」
「それはもちろんです!」
トーラが真っ先に答え、他の一同もそこに異は唱えない。父親はようやく収入が立つようになった村を離れてでも、安全な街へ娘を行かせたいと願った。しかし、娘の側は断固として拒否する姿勢を見せている。ため息交じりに、少女が去った方角へ目を向けた。
「俺もこの村に愛着が無い訳じゃない。死んでしまった奴らの代わりにって気持ちもある。でも……」
「希望するならば、そうすればよいのだ。我々の都合で見知らぬ土地に連れまわすのは酷なのだ」
父はともかく、娘の方は生まれからずっとここで過ごしていたのだから、そう言う望みを持つのも自然であろうとストレガは思う。
「……以前に村があったのです。ここは人が再び集まり、住まうだけの価値がある場所です。村を復興させて、大きくしていけば良いと私は思います」
そうシルクに告げられ、男は難しい顔をした。育ち盛りの子に自分は肉も食わせてやれない。また風邪を引いたらどうしようもない。それよりも、街で安全に過ごさせてやりたいのだ、という親の理屈。フェイサルも医療面での不安は気になっていた。ストレガはそれに加えて、少女が狙われる可能性も指摘する。エーテル浄化の能力は希少で、保護を受けるべきものであると。
「人は未知の存在を恐れ、それが有益と知れば利用しようと考える。……中には娘さんを道具扱いする者すらいるかもしれない」
フェイサルは、自分たちはそうでないと示すように顔をしかめた。街の近くの農村に住むならここよりは安全で、農業も続けられるだろうとハリスとストレガは選択肢を挙げたが、親子共にそれは望まぬようだ。であればとこの村の再建へ提案の舵を切る。
「もし、タントの希望通りにここに残るなら、村に兵隊が住めばよいのだ。それ位貴重なはずなのだ」
「村を生産の拠点とすれば、そこに価値も出ましょう」
2人の言葉を受けて、ボウノは唸るように腕組みした。
「私も、住み慣れた土地を離れるのは辛いと思います。村の復興に賛成です」
「今の安全と故郷への愛着、後者を取ると判断するならそれも良いだろうね」
「ここに住んだままでも、近場の浄化をしていただくだけでも。レイウェストさまをお助けできると思います」
シルクとルチル、トーラもそれぞれに賛意を示し、3人の視線を向けられたアロイスは考え込む。
「私の一存では決められないが、無理筋ではないかもしれないな」
「それは何時の事になるんです? 昔の様に村が戻るならそりゃそれは最高だ。でも!」
アロイスの言葉に、父親はそう食って掛かった。その言葉を聞いて、ルチルとストレガが視線を交わす。『そうであれば最高だ』という言葉に、彼の本音が見えた。しかし、父親としては不安なのだ。フェイサルは腕を組んで考え込む。
「我々はあなた方を応援したい。しかし、その為の選択はお2人にしていただく必要があります」
選ぶのは自らであるべき。この場の誰も、2人の未来を保障はできないのだから。
●
悩める父親の元へ、ヨルが娘を連れてくる。タントの気持ちを落ち着けたのは、ヨルが伝えた現実だった。
『君に農業を教えたリザードマンは亡くなったらしい。彼らは皆勇敢だから、きっとヒトを守り戦い抜いたんだろうね』
『死んじゃったの? お母さん、みたいに?』
少女にとって、死とはそういう物だった。ハリスやフェイサルと、彼らの区別もあいまいなタントに教える必要はないことかもしれない。しかし、友人の死を背負って今を生きているヨルは、彼女が意識せずとも彼らの教えを継いでいるのなら、その意味を知っていてほしかった。
『俺はここに残るのも、外に出るのも良いと思う。でも畑は続けてほしいな。彼らに教わったものを、君が繋げてあげてほしい』
『……ん』
頷いた手を引くと、タントは自分の足でついてくる。言われたことを咀嚼するように、眉間に皺を作る少女に彼はそれ以上言葉を掛けはしなかった。
「……私に、できるかな?」
言葉の足りない問いだったが、察したトーラが大きく笑む。
「レイウェストさまは国民のために倒れるほど働いているんです。どうか、負担を減らすため協力をお願いします!」
「そっか。頑張って、死んじゃったらもう会えないもんね。それは、嫌だよね」
トーラの言葉に何を感じたのか、少女は口をへの字に曲げた。考えている。その前に、ハリスが立った。
「いま、帝国全土が不作に喘いでいます。その力があれば大勢が救われるでしょう。しかしそれは貴女自身の力。若い身に酷なことではありますが、どう使うか決めるのも貴女自身です」
「そうだな。タント、お前が決めろ。私はもう何も言わないよ」
「お父さん……」
少女はその後も、ゆっくり考えを纏めていく。分からないことは聞き、自分がやりたい事をたどたどしく主張し。翌朝にたどり着いた結論は、やはり故郷のこの村に住みたい、そして自分に力があるならばそれは使いたいというものだ。二兎を追う事を決めた小さな姿を、父と冒険者は優しく見守っていた。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準7 / 4〜8人
2021年11月26日 01時31分11秒 公開
相談掲示板
No.1
シスターシルクです 個人としましては親子よりもアロイスさんの方を説得したい想いですがハリスさんどうでしょう
トーラです。 よろしくお願いします! 確認した方がいいと思ったんですけど、親子の内どちらかがエーテル浄化者だった場合、皆さんはどうした方がいいと思うか教えて貰っていいでしょうか? 意見を統一する必要はないかもしれないですけど、分かっていた方がやり易いかなと思うので。 わたしとしては、浄化者だった場合は保護をして浄化をして貰えないかと思うんですけど、親子が移住をしたくない場合はこの土地の浄化をして貰う事をお願いできないかと考えてます。 もちろん、倒れたりしないよう無理のない範囲でです。 幸い砦も近いですし、安全も確保しやすい上に人を呼んで大規模に農業をすることも出来るのではないでしょうか。 砦には兵士の人もいるので採れた野菜が無駄になることもないでしょうし。
ハリスと申します、どうぞ宜しく。 帝国動乱の中で命を落とした同胞がいたのは痛ましいことですが、その農法を受け継いで 実りへ繋げてくださった方々がいたのならば、きっと彼等の魂も救われることでしょう。 農夫の方とその娘さんには、まずは感謝しなければ。 >説得について む、う?その是非を私に振られるのですかシルク殿…!?( 私としてはまず、農夫とその娘さんがエーテル浄化者であるかどうかを確証が持てるまで 慎重に調査した上で、そうであるという事実を伝え、反応を見てからでなければ何とも…。 現状、彼等は自分たちの持つ力について半信半疑な所があるようですから、まずは自覚を 促すことが肝要と思われます。その上で本人たちにその力をどう使うかを聞くべきかとは。 無理強いはしたくないという気持ちは解ります。私とて年端もゆかぬ少女を、未だ安全が 保証されぬ中で方々へ引き回すのはいかに凶作に喘ぐ人々の為とはいえ気が進みません。 ただ、エーテル浄化者の能力によって大勢の人々が救われるであろうことも疑いなき事実。 本人達が活動に意欲的であれば、協力を要請することが現状では望ましい選択かと。 勿論、トーラ殿の言うように十分な護衛をつけ、無理のかからぬ範囲でという条件ですが。 浄化活動に難色を示された場合の妥協案としてはアロイス殿に対する便宜を図ることと、 この村を食料生産の要衝として開拓することの提案でしょうか。難民の中でも農業や建築の 技術に長けた人々を募り、畑や道路を整備して各地へ食料を供給できるようになれば。 ただこれも、浄化者である娘さんを「村に縛る」ことになってしまうかもしれませんが…。
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 親子がこの村で頑張っていきたいというならそれでいいと思うのだ。 ヴァイセントラフ砦から親子の護衛と村の復興かねて兵士の宿舎作って住まわせて農業手伝うとか、巡回ルートに加えるとか。 徐々に土地が回復してきたところに難民を中心に入植を働きかけるとか。 ぶっちゃけ娘が自立するまで村から動かすの早計と思うのだ。 エーテル浄化者と言っても一般人なのだ。
ヨル・スレイマンだ。宜しく。 何かしら植物を育てたりできるのはそれだけでもすごいことだね。 今回は、「親子がエーテル浄化者か調べる」のと「今後の身の振り方へ助言する」の二つかな。 >説得について アロイス君の様子を見ても恐らく親子の意に沿ってくれそうな気がするし、ここは助かるね。 2人きりでここに住み続けるのだけは、ちょっと怖いと思うんだよな。前回は風邪だったみたいだけど、診れる人がいない場所での疫病とかだって結構洒落にならない。 街に出てしまった方が護衛も付けやすかったり、生活の便が良くなる面もあると思う。 なのでもういっぱい案が出ているけど、親子が村に留まりたいなら、護衛になるような兵士の人に住んで貰ったり、そこまでのルートを安定させたり移住を促したりの計画は要ると思うかな。そうしたら仮にお嬢さんが結婚を考える頃合いになった時に、親御さんが一人取り残されるようなこともなく、選択肢も増える。 なので個人的には、メリットデメリットを正確に挙げた上で親子の気持ちを汲み取るのが良いのかなあと思っているよ。とはいえ今ここにある畑がダメになるのも偲びないし、2人がこの場所で安全に過ごすための案をベースで考えるのが良いんじゃないかな。
フェイサル・セイフだ、今回は宜しくお願いする。 ……酷い誤字があった故に改めて、だ……( >説得 具体的に農地に与えた影響についてはそれこそハリス辺りの検分を頼りにするとして。 件のリザードマン達や、他の村人達が避難した後の暮らしぶり…… そういう所を尋ねていくのが疑惑を確証へと変えていくのに必要な道筋だろうか。 そして二人の扱いについては、私もスレイマンと同じく主に健康・医療面の懸念からの移動を促したいが…… ただやはり、判断の為の材料を適切に与えた上で彼ら自身の選択を尊重し、それを可能な範囲で支えてやるのが筋かとは思う。 なので、私自身の意見としてはスレイマン・ハリス両名のそれとほぼ同じだな。 ……エーテル浄化者という存在について我々は知らない事が多すぎるが、 今の時点では我々授恵者と同じく「特別な能力・資質を持ってはいるが一人の人間」と見て良い筈だ。 選択肢を選ぶ自由が彼らにまだ残されているのなら、その権利と責任を奪うのには少々……抵抗があるな。
情報屋のルチルだ。よろしく。 出遅れている間に概ね意見が出ているが、事情を調べた後の身の振り方については親子達の判断に任せる方向で異論はない。 繰り返すようだが特殊能力がある以前に一人の人間だからね。アタイの仕事は悔いのない選択になるよう情報を渡す、それでいい。 まあ、慣れ親しんだ土地から離れたくない気持ちはわかるが万が一という事も有り得る。 病気の件もそうだし、人の入植も護衛もすぐに派遣できる話ではないだろう。 浄化活動に協力するかは置いといて、アロイスができれば移住して欲しいと考えているのはこの辺りも踏まえてそうだね。 ただし村が活性化すれば長い目で見てメリットもある。可能性の一つ、考慮した方がいい事として提示するだけだが。
大体は同じ意見みたいですね。 とりあえずわたしは植物交感と園芸で畑の状態を見て、親子が浄化者か分からないか調べてみるつもりです。 あとは下でも言ったことと、エーテル浄化者は悪い人に狙われる可能性があること、関係者へ浄化者の口外をしないようにお願いするつもりです。