【FF】悪戯妖精とお祭り巡り!
白葉うづき
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シナリオID:1563
オープニング
「テリーズ・トラ・トリュース! やあやあ、収穫祭へようこそ!」
「テリーズ・トラ・トリュース! やーやー!」
「今年のテーマは『おかしくて美味しい祭』! 仮装や装飾は作物や料理、お菓子モチーフが多いんだ。逆に料理やお菓子はお化けだったりモンスターモチーフだったり、いつもより面白い食べ物がお祭りにあふれてる!」
「おかしー!」
「キミたちが思うおかしくて美味しいものは何かな? それを仮装に組み込んでも良いし、お菓子コンテストもあるからそれを披露するのもいいね!」
「いいねー!」
フォークの刺さったカボチャ頭にマントを羽織った青年と、白布を被った妖精が大きな手と小さな手でハイタッチする。楽しげな二人が手招きし、賑やかで騒がしい祭りの中へと誘った。
●
「妖精君を見守ってほしいんだ」
そう冒険者たちに話すのは目の下に濃いクマをこしらえた優男風の男性。この地区の代表であり、テオドール・ヘルツェンと名乗った。
「先日、妖精君がここの近くでモンスターに襲われていてね。ああ、そのモンスターは退治して、妖精君も無事だったんだ。砂糖っていうとても貴重な調味料ももらえたこともあり、今年の収穫祭はもっと賑やかになった」
よどみなく言葉を並べる青年は嬉しそうに目元を細める。顔色の悪さもなかなかではあったが、それが彼のいつもの姿らしい。
「その妖精君が、僕たちのお祭りを見て周りたいって言ってくれてね。もちろん大歓迎だったんだけれど……この地区は好奇心旺盛な人が本当に多くてね……。もしかしたら妖精君を、悪い言い方をすると捕まえて実験を手伝ってもらったり……妖精君自体を装飾にしようとしたり……うう、想いもよらない考えで目を付ける技術者さんがいるかもしれない。例え悪気が無くてもね」
お腹の辺りを抑えながらテオドールは顔を上げる。
「妖精君はこの土地で過ごす、いわば僕らの隣人だ。憂いなくお祭りを楽しんでほしい。そもそもそれすら楽しかったり僕の杞憂であればそれはそれで構わないけれど……君たちもお祭りを楽しむ傍ら、危なくないよう妖精君を少しだけ見守っててほしいんだ。報酬も少しだけれどお支払いします」
依頼を告げる彼は、そうだと言葉を続けた。
「一人、その妖精さんと気が合って遊んでいる人がいるから、彼にも手伝ってもらうよう声を掛けておくね。ええと、その男も自由だけど……話は通じる方だから」
●
フェスタ・ラスバブが開催されている街中はとても賑やかで騒がしい。
通りは仮装した人であふれ、広場も家々も色鮮やかに装飾されている。
屋台も多く広場に並び、今年は食べ物のオブジェや飾りが至る所に置かれていた。
カボチャ頭を手の中に抱え、ヴィンツ・ラッテは妖精について教えてくれる。件の妖精はそのカボチャに腰掛け、ゆらゆらと揺れていた。
「シェルムはねー、お菓子が大好き! 美味しそうな匂いに釣られていっちゃう! 後は面白そうなものも好きだね! 賑やかなところに飛んでって、冷たい風を吹かせてびっくりさせて遊んでる!」
シェルム? と聞いてみると、妖精君の名前だと返される。一人だけだし、呼ぶのに不便だからと彼が付けたらしい。
「シェルムはオレに任せて遊んでいーよ! 屋台に広場にイタズラ屋敷、楽しいものがいっぱいあるからそれを楽しんでもらいたーい……あ! あれ新作紋具だー!」
「! おいしーにおい!」
喋っていた青年は右へ、妖精は左へ飛んでいった。
ヴィンツだけに任せるのは少し、いやかなり不安は残りそうだが……ともかく。
仕事をするにしろ、賑やかな祭りは楽しめそうだ。
解説
マスターより
リプレイ
「ヴィンツ、それにシェルム。今日はよろしくね」
「よろしくー!」
「よろー!」
シルヴィア・A・カペルは小さく笑う。手を挙げて応えるヴィンツ・ラッテとその真似をするシェルムは兄弟のようだ。
「今日は頼りにしているよ」
先日訪れた際も楽しく過ごせたが、この街はまだ見るべき場所が多そうだ。話しながら歩いていると色鮮やかな看板が目に留まる。
「ブンテトルテ気になる? 食べよ! ねね、新作三つちょーだい!」
手早く渡されたそれは小さなタルトで、黒い生地に紫色のクリーム、そして白とオレンジ色の丸い果物が乗っていた。なかなかの色だ。
「ん、……美味しいね」
見た目こそ奇抜だが、タルト自体は香ばしい食感でクリームも舌触りが良く果物も新鮮。地域に愛される名物というのも頷ける。シェルムもシルヴィアの肩の上で夢中になっていた。
「ヴィンツもブンテトルテが好きなのかい?」
「好き! 面白いから!」
「美味しいからではなく?」
「例えばオススメって言うとその日の気分で作ってもらえる! 甘かったりしょっぱかったり辛かったり苦かったり、何が出てくるかワクワクするところが最高だね!」
「はは、それは確かに飽きないね」
「ロイ、一つ約束してほしい」
「どうしたの?」
真剣な表情で見つめるテス・クラルスに、ロイ・アウレアは思わず居住まいを正す。
「この手を、離さないでほしい」
「テス……」
恋人にこんな風に願われれば断ることはない、が。それより気になるのは彼の震えが止まらないことだ。以前この祭りでよほど怖い目に合ったらしい。
「そんなに怖いなら……」
「あ、ロイ! あそこ見てっ! 綺麗な看板だ、行ってみない?」
「! ん、行ってみよう」
震えはどこへやら、すぐに顔を輝かせる相手に思わず笑いながらその手を引く。しっかり手を絡め、街行く人にお決まりの挨拶を交わしながら目当ての店へ。
「この鏡のセット、離れてる相手の姿を見られる紋具だって! レグたちにいいかも……あ、けどどれくらい離れて使えるのかな」
「部屋を挟むくらいでも助かるし、試させてもらおうよ。すみませーん」
実際は手の届く距離くらいでしか使えないらしい。テスとロイで鏡を持ち、お互いの姿を映して二人で笑いあう。テスはご満悦で購入した。
「アンネの仮装、とっても可愛いわ」
「まあ、ありがとう! ルフィナさんもとっても素敵よ、可愛らしくて色っぽくて!」
お揃いの仮装をしたアンネエルカとルフィナ・ヴィオレットがお互いを褒め合う。『小悪魔ディーラー』と冠したそれはフォーマルでシックな装いだったが、編み上げたタイツや胸元も控えめながら露出があり色っぽさも感じる。頭には兎耳を模した飾りがあった。
「カチューシャじゃないのね」
「自前の角があるもの! バニーガール風のリボンがポイントなのよ!」
「ふふ、可愛い。こんな可愛いアンネを独り占めしちゃっていいのかしら。他に見せたい相手はいないの?」
「え?」
ルフィナの言葉に、アンネエルカは目を瞬かせる。可愛くおめかし出来た姿、それを見て喜んでもらいたい人――
「アンネ」
「!」
「それにルフィナ。やっと合流出来たな……」
がしがしと頭を掻いて人混みから現れたアーシェル・G・クラインに、アンネエルカは驚いた。
思わず見つめていると、アーシェルは気恥ずかしそうに瞳を逸らす。その頭には彼女たちと似たような兎耳が揺れていた。ディーラー風の衣装に兎耳と尻尾のバニーボーイ。露出こそ少ないが、彼も女性陣とお揃いだ。
「アーシェルさん、今日はとっても可愛らしいのね!」
「可愛くはねえだろ……? アンネたちのほうがよっぽど似合ってるし可愛いけどな。こんなに可愛いディーラーにだったら全財産を巻き上げられても本望だ」
「可愛いわよ?」
「嬉しそう!」
「いや恥ずかしいだろ……ってヴィンツ!?」
「あら、こんにちは」
ひょっこり出てきた南瓜頭に驚くことなくルフィナは微笑む。それからアンネエルカ、アーシェルと順に視線を動かした。二人の様子を見つめてから声を掛ける。
「一緒にお祭りを周りましょうよ。この人数なら色々な物を食べられそうだし」
「いいわね! それに、ヴィンツさんに案内してもらえたら百人力よ」
「俺は元々そのつもりだったぜ」
「いいよー! あ、シルヴィアも一緒に!」
先にヴィンツと行動し、美しいフィドルの音を妖精に奏でていたシルヴィアも合流する。人数が増えるのは皆歓迎らしい。
「私もいいのかい? よろしく頼むよ」
「ええ! 一緒にお祭りを楽しみましょう!」
アンネエルカはちらりとアーシェルを見つめる。普段の彼とは異なる姿を見ながら胸元に手を当て、それからいつもの笑顔を浮かべた。
「シャロン~!」
「月様……月様!?」
駆け寄る月を出迎えたシャロン・ラ・モリエールは瞳を見開く。待ち人の姿は仮装ではあったけれど。
「サキュバスの仮装だよー。どう、どう?」
楽しげに笑う月は翼と尻尾を付け、その身体を僅かな面積の布で包んでいた。ミニドレスと言えなくもないがスカートも胸元もかなりきわどい。
「月様! 見えちゃいますよっ!」
「エロフは福祉だっておばあちゃんも言ってたし」
「若々しいおばあさまですね……」
「そう言うシャロンもセクシー系じゃーん。スリット深~い」
「そうですか? 東方にいるというアンデッドを模してみたんです」
くるりと回るシャロンは、帽子に一枚の紙片を付け、肩が出た身体のラインを強調する色鮮やかなドレスを着ていた。
「お札、視界を遮って邪魔ですけど、ドレスの着心地は悪くないですね」
「似合う似合う~」
会話を重ねながら二人は祭りの中を歩いていく。個性的な仮装の中でも注目を集める二人に近付く輩を追い払いつつ、気になる屋台をそれぞれ覗いていった。月が頼んでみたブンテトルテは白と紫色の果物が乗っている。
「新作のブンテトルテだって~。フルーツは……んむ、ブドウ?」
「色は不思議ですが美味しそうに見えます。月様、こちらも美味しいですよ」
「お。お化けのクッキー? 可愛いー」
「シェアに良さそうですね。内職のお共にも良さそうです」
おどろおどろしい装飾が施された建物は喫茶店だ。少し休憩も兼ね、二人で中に入る。
「飲み物でも頼もうかな、シャロンは何にするー?」
「月様、モンスターケーキというものがありますよ」
「何それ!」
どうやら魔獣やクリーパーを模したケーキらしい。要望は聞いてくれるが、どんなものかは出てくるまではお楽しみとのこと。しばらくお喋りをしていると店員が二つのケーキを運んでくる。
「赤いー! 目玉もついてる!」
「月様のは美味しそうですが、なかなかインパクトがありますね」
「シャロンのは?」
「フルーツタルト……みたいです。とげとげは林檎、唇はオレンジでしょうか」
月のケーキは血に塗れ、シャロンのタルトは楕円のフォルムにハリネズミのような棘が幾つも飾られている。希望通りのお勧めに満足しながら、二人で分けて楽しんだ。
「おやー?」
「やー?」
「あら」
いつの間にか、窓の外に小さな妖精が居た。試しにケーキを乗せたフォークを差し出してみると、大きな口でぱくりと頬張る。いっぱいになった頬を両手で抑えて幸せそうだ。
「おいしー!」
「ほらほら、どんぐりクッキーだよー。食べるかい?」
「たべる!」
「お化けクッキーもいかがでしょうか」
「たべるー!」
三人でお茶会を楽しみ、どうせならとしばらく一緒に祭りを周っていく。
「いーにおいするー!」
「シャロン、こっちー!」
「ま、待ってください月様、シェルム様!」
自由な妖精に連れ回された二人だが、途中で美味しいお菓子や綺麗な装飾品の屋台を発見。いつもとは異なる楽しみ方で、この祭りを満喫できた。
●
「テリーズ・トラ・トリュース!」
「テリ・トラ・トリ~!」
「ハル! 面白そうなものいっぱいあるよ!」
「わわ、どこです?」
手を繋いで一緒に祭りを周るのはエルシー・サリバンとハル・チフ。収穫祭りの飾りが並び、仮装する人々がひしめく中をエルシーが引っ張りながら二人で突き進んでいく。
「ハル、見て!」
「え? ……わっ!?」
「えへへ、びっくりした? きらきらな光が飛び出る悪戯紋具だって。あ、こっちは勝手にページが捲れる本だって! あのランプも綺麗……星空が映ってるみたい」
「わわ、……ふふ」
瞳を輝かせたり、驚いたり、くるくると表情の変わる彼女を見ているだけでもハルの表情は緩む。面白そうなものを手に取ることもあるが、装飾が美しかったり可愛らしいものに目が行くようだ。
(エルの好きなものが知れるのも嬉しいのです)
ふと目が入ったものを見つめた後、こっそり購入。二人で買い物を楽しんでいると、その途中でキャンバスが並んでいる広場に出た。
「お二人さんで描かせてもらいたいんだが」
「! 描かせてほしいって、ハル!」
「エルが良いなら描いてもらいたいです! ……えと、どうしたらいいです?」
「好きな表情、ポーズで頼む」
「じゃあ私は笑顔で!」
芸術家の前に座り、エルシーは笑顔を浮かべてお願いする。自分たちらしさ、好きに。ハルはその横に座ると、悩んだ末に彼女の肩へと手を置き緩く引き寄せた。
「ハ、ハル?」
「こ、こういうのは嫌です……?」
「……ううん。えと、照れちゃって」
エルシーからも寄り添い、頬を染めながら筆が進んでいく音を二人で聞く。しばらくして見せてもらった肖像画の二人は幸せそうに寄り添っていた。これはもう夫婦じゃないか、ハルは胸をときめかせる。
「エルの可愛さが見事なのですよ!」
「私はこういう顔をしてるのだね! ハルは格好良い、……え!」
キャンバスを覗き込んでいると、描かれた二人の表情がゆっくり変わる。
「角度によって絵が変わっただろう。これも新しい絵の具でね!」
「ハル、幸せそう!」
「エルの照れた顔も可愛いです!」
力説する芸術家を尻目に、二人で微笑みあった。
「ハル、お願い」
エルシーの切実な声が響く。
「一緒に食べて!」
「もちろんですよ!」
そう言って見つめられれば断るだなんて選択肢はハルにない。店員が運んできた塔のようなパフェには一瞬目がくらみそうになったけれど。
「! うまっなのです!」
「意外と食べれるね! すみませーん! モンスターケーキもください!」
「エル、温かい飲み物ですよ」
「ありがとう、ハル」
広場でのコンサートに耳を澄ませながら、震えるエルシーに寄り添った。どうやら先程のパフェで冷えてしまったらしい。
「……えへへ」
「幸せ、ですね。そうだエル、これ。プレゼントなのです」
「! これ……」
包みを開いたエルシーの瞳が見開く。それは紋具のカーテンで、描かれた海がさざ波を立てるように揺れていた。エルシーは笑みを浮かべると、彼だけに甘く瞳を緩ませる。
「綺麗……大切にするね、ハル」
「二人の思い出が増えて嬉しいです。……エル、大好きです」
瞳を合わせて微笑みあう。またひとつ、きらきらな時間が増えた。
「テリーズ・トラ・トリュース……さて、悪戯の時間ですよ、ネーヴェ?」
「テリーズ・トラ・トリュース! あら、どんな悪戯が来るんでしょう?」
「言ってしまったらつまらないでしょう。後のお楽しみということで」
「ふふ、キーゼさんからの悪戯なんてドキドキしてしまいますね」
冗談めかしたやりとりを終え、手を差し出したネーヴェ・グラヌローザは口元に綺麗な弧を描く。視線を向けたキーゼの表情はあまり変わりなかったが、握る手は優しく、この時間を楽しんでいるように見えた。
屋台が立ち並ぶ広場を巡りながら、二人で祭りを楽しんでいく。通行人だけでなく建物の外壁や通路にも装飾が施され、見ているだけでも賑やかだ。
「仮装をして歩いていらっしゃる方が多いですね」
「そういう催しだからでしょう。……ほら、あそこ。そういったものを売っているみたいですよ」
「あら、楽しそう。行ってみませんか?」
「ネーヴェが気になるのなら」
屋台にはさまざまな仮装道具で溢れていた。全身に纏うものやマントに仮面、被り物といった大掛かりなものが多い。棚には頭に着けたり顔にペイントを施すペンだったり、細かいものも充実している。物珍しげに見ながらネーヴェが手に取ったものは、ふわふわの黒い猫耳が付いたカチューシャ。
「こちらはいかがでしょう」
「……それは貴方が?」
「こちらはキーゼさんの分です」
差し出されたふわふわを受け取り、男はしばらく無言でそれを見つめる。
「シャルガネの言葉でしたかね? 郷に入りては郷に従え、と」
そう言いながら猫耳のカチューシャを装着する。黒髪と似た色の猫耳が頭の上に生え、動くたびにゆらゆらと揺れた。
「良くお似合いですわ」
「それはどうも」
そして言うが早いが、そのままフードをすっぽりと被ってしまう。
「……どうです? 完璧な仮装でしょう」
「まあ。せっかくお揃いですのに」
ネーヴェは同じ色のカチューシャをもうひとつ手に取り、頭に着ける。銀色に黒が乗るのを見て、キーゼは瞳を細めた。
「貴方ならこちらの色ですよ……僕色に染まるのは、まだ早いかと」
すっと手を伸ばして純白のそれを取り、差し出す。
「そうでしょうか……私はあなた色に染まりたいと思っておりますのに」
「……まあ、今はそれを着けておいてください」
「ふふ、ええ」
ネーヴェは柔らかく瞳を細め、素直に白い猫耳を着け直した。
「ネーヴェ。せっかくですから、記念に描いてもらいませんか」
「肖像画ですか? もちろん喜んで」
「……絵は、燃えなければ残りますからね」
思わずキーゼを振り返ったが、彼の様子は変わらない。言葉を返す代わりにネーヴェが手を強く握ると、キーゼからも握り返された。
芸術家に声を掛け、準備中にネーヴェがそうだ、と声を掛ける。
「キーゼさん。少し屈んで下さいますか?」
「何でしょう」
つま先を立てて屈んだ頭に手を伸ばす。しばらく頭上で何かした後、満足そうなネーヴェが寄り添った。
出来上がった絵には、写実的に描かれたキーゼとネーヴェが居た。頭には猫耳があり、それに加え――キーゼの猫耳に青いリボンが飾られていた。
「……やりましたね」
「ふふ、悪戯です」
小さく笑う彼女を横目に再び肖像画に視線を移す。そこには美しい女性と、比較的柔らかい雰囲気の男がいた。
「良い衣装は見つかった?」
「まだだよ。派手なものが多すぎる……」
「この街らしいね」
顔を上げると、ヴィナスは既に仮装に身を包んでいた。マントを羽織り、胸元や裾に繊細で上品な装飾が施されている。
「ヴィナの仮装は、騎士?」
「うん。あのお話の騎士をイメージしたんだ。もう少し質素なものが良かったんだけどね」
自分は騎士や貴族だなんて大した身分の者ではないし。それは思うだけだ。
「……いいんじゃないか? 似合うしな」
会話を交わしながら、カッシアは布の波と格闘を重ねる。掘っても掘っても目に痛い衣装ばかりだったが、やっと落ち着いた色合いのものを見つけた。貸衣装にしては気合いの入ったものが多く、これも裾端がきらきらとしていたが他に比べればマシな部類だ。
「カッシアの仮装は吟遊詩人だね」
「一番しっくりくるからな。……」
改めてカッシアはヴィナスを見つめる。呪われた姫の為に天空の宝石を探した、旅の騎士。ならこの騎士にとってのお姫様は?
(お姫様とかいう柄じゃないのはヴィナだって知ってるでしょ)
けれど、……けれど? 考え込むカッシアに手が伸ばされる。
「行こうか、カッシア」
「! あ、ああ」
手のひらから伝わる体温とは別にもやもやとしたものが広がる。前はそうでもなかったのに、彼と居るとこんなことが多い。
「――ああ! じれったいなー!」
そんな二人の様子を遠くから見守る影があった。大きな鍔広の三角帽子に仮面を被り、魔法使いの仮装を身に纏ったルーンス・ラグネルは眉間に皺を寄せる。手に持っていたコミシュザフは、少ししょっぱいカボチャの味がした。
広場に出ると、賑やかな屋台が連なっていた。人々で溢れ、客引きの声が飛び交っている。人々の仮装に加え通りや屋台自体も装飾が多く、見ているだけでも楽しめそうだ。
「今回も少し屋台を周ってみようか。カッシアが好みのものも探そう」
「あ、ああ。ありがとう」
「せっかくだし、前とは違う食べ物も探してみようか」
目当てを探そうとしても、ここの祭りではいつでも同じ場所に屋台がある訳ではない。それを探すのもちょっとした探索をしているように思える。
やがて見つけた屋台でブンテトルテの新作をヴィナスが、別の屋台で野菜が挟まれた薄焼きをカッシアが買う。しばらく祭りの散策を続けた後、通りを外れたベンチに腰を下ろした。
「毎回別の屋台があって飽きないね」
「そうだな……やっぱり甘そうなものが多かったけどな」
「少し休んだら探し物の続きをしようか。天空の宝石、とはちょっと違うけど」
「!」
その言葉を口にしたヴィナスを思わず見つめる。それから口を引き結んで、視線を逸らした。
「別にお前の恋の話なんか歌いたくはない」
今度はヴィナスが押し黙る方だった。
ぐるぐると渦巻いていたものが静かに弾けた。姫と懇意になった騎士の仮装なんかして何のつもりなんだ。騎士と姫が仲良くするのを見てろというのか。祝福なんかできるわけがないだろ。感情が制御しきれない。自分の欲深さだけが浮き彫りになる。
「少し状況が動いたかな」
よく見える目とよく聞こえる耳をフル活動させ、なおも二人の観察を続けるルーンスは感慨深げに息を吐く。
「あの物語の中では、お姫様でないとにいさまの騎士とくっつけないものね。旅の吟遊詩人だけど、譲れない。……イイね」
「ひめー?」
「そう、お姫様。……」
急に声を掛けてきた妖精に瞬きを繰り返すと、軽く人差し指を唇に当ててから再び視線を二人に戻す。
「なにみてるのー?」
「キラキラしたお星さまを探してる。この辺に沢山あるんだよ」
(都合よく解釈してもいいのかな)
カッシアの感情が乗った言葉はヴィナスに深く刺さる。でも、それを口にするほどお人よしではない。瞳を細めると、ヴィナスは柔らかく口元を緩ませる。
「俺も歌ってもらいたくはないな。一緒に歌うなら歓迎だけど」
「は? それって、……」
どういう意味なんだ。そう思っても、喉へ引っ掛かったように声が出ない。視線が向けられる感覚に思わず首元に手をやるがフードもない。黙っている言葉を口にしたら、その時は。
再び考え込むカッシアをヴィナスは見つめていた。傍観者にはならないで、どうか気付いてほしい。願わくば、その時は。
「俺の恋の相手はカッシアがいいって言わないと駄目でしょ! 絶対斜め下に解釈するよ! あーもだもだする!」
兄と、その人を見つめながらルーンスは口を尖らせる。ルーンスの表情が変わるたびにシェルムが小さな笑い声を立てた。
「もだもだ!」
「そう! もだもだ!」
「たのしー?」
「んん、楽しいとは少し違う……かな」
楽しいというよりは、二人のことを案じている気持ちが強いのかもしれない。出来れば見守っていたいという気持ちも。ルーンスは小さく笑う。
「こんなひと時も星のようにキラキラしてて、僕は好きだよ」
「見て、見て。こんなに、たくさん、お店がある、よ……!」
「賑やかだな……騒がしいと言ってもいいくらいだ」
「本当、人もたくさん……」
「ぼうっとしてるとはぐれるぞ」
祭りの喧騒の中、だわとサラの二人は連れ立って歩いていく。サラが人波に流されないよう時折気にしながら歩いていくと、大きな建物に辿り着いた。
「ここは……?」
立ち止まるだわに倣い、サラも建物を見る。柱が食べ物に彫刻され、窓からは縫い包みや綿がはみ出し、煤赤茶の煉瓦で造られた壁には思い思いの絵や文字が描かれていた。脇には『イタズラ屋敷』の看板がある。
「人工ダンジョンか……?」
そうこうしていると、屋敷を管理人らしき人が説明をしてくれる。技術者が協力して作ったびっくり屋敷とのこと。詳細を聞いただわはやる気に満ち、サラは目を瞬かせる。
「度胸試し、とのことだからな。サラ、外で待っていてもいいんだぞ」
「だ……大丈夫、一緒に行く、よ。だわおにいちゃんを、守るんだもん……!」
ぎゅっと拳を作るも、その瞳は泳いでいる。だわは一つ息を吐くと、微笑ましげにその様子を見つめた。
「ひゃっ」
「落ち着け……ただの人形だ」
屋敷は二階建ての大きな建物だった。玄関で出迎えたのは大小さまざまな人形。ファンシーなものからクリーパーらしきものまで乱雑に並べられ、それがまた不気味だ。サラはだわの背中に隠れ、恐る恐る一緒に歩いていく。
扉を開いたそこは絵画が溢れていた。重厚な雰囲気の人物画が多いだろうか、……見られている気がして落ち着かない。
「や、やだっ……!」
「! どうしたサラ」
「え、絵が、こ、こっち見てた……!」
「……気のせいじゃないか? ……うわっ」
「大丈夫……!?」
「平気だ。縫い包みが降ってきた」
そういって頭上の縫い包みを摘み上げ窓際のスペースに置く。動く彫像、突如響く笑い声など仕掛けが続き、サラは喉を引きつらせた。
「二階は止めておくか?」
「う、ううん……だい、だいじょうぶ……」
「……限界なら言うんだぞ。後、裾を握ってくれてもいいからな」
震える声はあからさまに平気ではない。けれどその気持ちは汲むべきと感じた。サラは怯えた瞳でこくこく頷き、強くマントの裾を掴んだ。
二階はまた違った作りをしていた。人が二人並べるほどの通路が幾度と折れ曲がっている。試しに進んでみると、何かを踏んだ感触と同時に凍えるような冷気が首元へ吹き付けた。
「っ!!」
「冷たいな。サラ、大丈夫か?」
「へへ、……へいき……」
飛び上がったサラは思わずマントに隠れて包まる。それを宥めてから再び歩調を緩めて歩き出した。足首を掴むマット、ふわふわとした地面、――背後から響く足音。
(つけられている……?)
「サラ、俺の前に。歩くのはゆっくりでいい」
「! う、うん……頑張る……!」
――足音の主は現れず、二人は無事に屋敷から生還する。陽の光を浴び、ほっとしたサラはだわを振り返った。
「こわかった、ね……」
「なかなかよく出来ていたな。壁に何か書くのだったか……『楽しかった。よい収穫祭りを』」
サラは『こわかったです』と記し、それからだわが声を掛ける。
「さて。コミシュザフでも買いに行くか?」
「うん、……だわおにいちゃん、その……」
恥ずかしそうに視線を上げ、手を差し出す。
「……手を、繋ぎたいな、って……」
「もちろん。行こう」
小さく震える手をしっかりと握る。サラは嬉しそうに微笑むと、その隣に並んだ。
●
「妖精クン! ぜひ私の実験に、!?」
そういって妖精に手を伸ばす男と妖精の間にテスが割り込み、ロイも牽制する。
「彼女はこのお祭りの大事なお客さんだから。手を引いて?」
「シェルム、よろしければこちらへ」
「? うん!」
妖精はロイに向かって飛んでいき、すとんと示された肩に座った。ご機嫌に身体を揺らす妖精に小さく笑う。その間に研究者風の怪しい男は退散したようだ。
「油断がならないなぁ」
「ね。それにしても見つけられてよかった」
「目を離したら本当にすぐ飛んでっちゃうんだもの。心配したんだぞー?」
えい、と頬をつついてみると、妖精はそれに合わせて頬を膨らませた後きゃっきゃと楽しそうに笑う。
「ふふ。さて、一緒にお祭りを周らない? ……あ、7色キャンディだって!」
「キャンディ!」
「気になる? 行ってみよう」
三人で食べてみたそれは、舐めている内にも味が変わる飴。
「ロイ、みへ。色変わっひゃ?」
「飴は赤なのに口内は緑だね!」
「ロイはあおー!」
「あなたは黄色だね、ふふ」
「こ、こここここはっ! ひっ!?」
ここはいつかのやばい屋敷! 去年の想い出に震えていると屋敷の中から悲鳴のようなものが聞こえてきた。今年も絶好調らしい。
震えるテスを宥めつつ、ロイはテスの落書きを見つける。
「そうだな、幽霊はいるよな」
「っ!」
恋人の言葉に絶望した表情を見せるテスに小さく笑うと、ロイがしゃがみ込む。
「なら、こうすれば良いだろう?」
「へっ!?」
そのまま空いている肩にテスを担ぎ上げ歩いていく。テスは担がれながらもロイに抱き付いた。
「妖精が怖がるから静かにしような?」
「う、うんっ!」
それからまた屋台を巡っていくと、小さな鳥のペアブローチを見つける。試しに二人で着けてみると、嘴が互いの方向を指示した。
「これ凄いな! ……あれ、けど上向いた……昇天?」
「私はここにいるよロイ!」
ブローチを買い、二人ともお揃いで着ける。
「えへへ」
互いの胸に光る輝きに幸せそうに笑うと、テスはロイの手を取り指を絡めた。
「ここはびっくり焼きのお店!」
「まあ、丸い生地の中に色んな食材が入っているのね!」
「こっちはフラッディー! ふわふわした飴! あっちは揚げハニーポテト、エッグポットもあるよ!」
「スイーツが充実しているのは良いわね」
「あ、今日はガラクシの屋台あるかなー? ちょっと見てくるねー!」
「それは秘密の屋台かな。私も行っていいかい?」
「もちろん! 空飛ぶお皿や跳ね続けるボールとか、変なものいっぱいあるよ! 見つけたらラッキーだ!」
「おいヴィンツ! ……行っちまった」
希望を伝えると次々に合致する店へと連れていかれた。食べ物の屋台から悪戯紋具がひしめく屋台、一面に星が散りばめられていたり、幻影の紋具が一斉に発動したりする屋台もあって驚かされたり、文字通り振り回されるようなツアーだ。
「! ルフィナさん、食べてみて! 本当にふわふわの飴よ!」
「ん、……甘くて美味しいね。こっちのエッグポットも濃厚で美味しいわ」
「揚げハニーポテトもなかなかだな。これ二人で分けていいぜ」
「いいの? びっくり焼きも皆で食べてみましょう!」
彼女が微笑む様子にアーシェルは瞳を細めた。本当に美味しそうに食べるから、こっちまで幸せな心地がする。
「コミシュザフも買ってくるわね! 少し待ってて!」
アンネエルカが駆けていき、ルフィナとアーシェルが残される。
「ねえ、アーシェル?」
「なんだ」
「アンネのことが大切なのね、初対面の私が見ても分かるくらい。まるでお姫様を守る騎士様みたい」
「!」
その言葉に、異なる両の瞳が見開かれる。黙り込むアーシェルは、しばらくして口を開いた。
「……男の欲がどれだけ汚ねぇかわかるだろ。アンネを穢したくねぇんだよ」
「お姫様だって『女』なのよ。真白いままでいる事を求めないであげて」
突き刺さる言葉は、彼女のことを考えてのことだろう。やがてアンネエルカが戻ってくる。
「お待たせ! 少し混んでたけど買えたわ、……あら、アーシェルさん? お腹が痛いの?」
「……いや、大丈夫だ」
「そう……?」
「ありがとう、アンネ。これを飲んだら皆の分のお土産を買いに行きましょう」
「ええ!」
笑顔を眩しげに見つめながらアーシェルは瞳を細める。陽が落ちてきたフェスタ・ラスバブは、まだまだ終わらない。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:少ない17 / 4〜25人
2021年11月10日 19時06分22秒 公開
参加者
相談掲示板
(カボチャ頭を被ってくるくる回りながら) テリーズ・トラ・トリュース! 来てくれてありがとー! 今年もフェスタ・ラスバブは大盛況! 面白くておかしなものがいっぱいあるよ! びっくりが苦手な人は気を付けて、ここにはそんなもので溢れてる! いーっぱいドキドキしていってねー!
シルヴィアだ。ヴィンツ、久しぶり。 今回はよろしくね。 ブンテトルテの新商品が気になっていてね。ヴィンツに街の案内を頼みつつ、食べてみたいなと思っている。当日はよろしく頼むよ。
やーやーシルヴィア!また来てくれて嬉しいよ! ブンテトルテ!あれ面白いよね、新商品だって銘打ってるけどいっつも違うものを売ってるんだ! 色んな味があるからキミの口に合うといいな! 案内をご所望?もちろん任せて! 広場の屋台から秘密の屋台、隠されたお店にちょっぴりこわーいお店までなんだって案内してあげる!
エルシーサリバンだよ、ハルと参加なの、宜しくね。 イベント沢山で何をするかは決めてないの。 候補は、不思議な食べ物の屋台といたずら紋具を見て、お買い物と 怪物パフェの10人前も気になるので、誰かが食べるのを眺めながら普通のをモクモク? または、ハルと頑張って食べるのかな…?(クスクス)
ロイ・アウレアです。 テスから懐かしい落書きの話を聞いてね、見に行こうと参加しました。 本人は「…ち、近づくものか!」と、言ってるがね( あちらで会いましたら、ヨロシクお願いします。
>ヴィンツ ふふ、私もまた君に会えて嬉しいよ。機会があればヴェルクリエをじっくり観光したいと思っていたからね。ヴィンツに案内してもらえるなら心強い。普段と違うブンテトルテも、隠されたお店も楽しみにしているよ。