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弓月 蒼
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シナリオID:1533
オープニング
ロスガリア大陸において、情報の伝達は口頭が最速の手段である。
それを不便に思う人間は数少なく。口伝や吟遊が未だ市民権を得ている。
その背景には、紙の貴重さ。識字率と教育意識が共に満遍なく低い点などが影響している訳だが。
実際問題、手紙でのやりとり。いわゆる文通は利用者の大半が中流階級以上の市民。
或いは限られた冒険者や商人、貴族などで占められている。
そこに対価を払う余裕がある人間は元々蓄えのある者だけ――――と、こういう訳である。
「だがしかし。この手紙という道具には無限の可能性が有ると思うのですよ」
さて。場所はパンクリアース学園、第一文芸部室。
部長である『第一文芸部部長』ウォーレン・デュフォードは、一体何がどうしてそうなったのか。
依頼があると聞いてやってきた冒険者達に対してそう告げた。
口の前で組んだ手と良い、逆光で目元を隠す眼鏡と良い。まるで悪の秘密結社の首領の様だ。
「投票期間が終わり、『黒の後継』への義理は果たしました。
本来、我々は部の伝統として卒業までに文集作成に取り掛からねばならない。だが、ネタがない」
"ネタがない"――――これが、貴族の言うことだろうか。
その光に照らされた眼鏡からは表情が見えないが。言わんとすることは、分かる。
彼は暗にこう言っているのだ。聴講生に。すなわち、冒険者に――――ネタを寄越せ、と。
「文集のテーマは、"手紙"。ここまでは例年通り決定事項です。
皆さんにも手紙を送りたい相手くらい居るでしょう。家族、友人、恋人、親友、何でも良い」
悪の組織の首領は滑らかな弁舌を振るう。趣味の為なら手段を選ばないタイプである。
「真に遺憾ながら、我々第一文芸部はそれらしき手紙を毎年書いては送り既に手詰まりです。
という事で、今年は金さえ積めば労苦を惜しまない皆さんに恥を忍んで協力を仰ごうかと」
この発言の何処に"協力を仰いでいる"要素があるのかは全く知れずとも。
とりあえず困っていることは間違いなさそうであり、ついでにこれといって害もない。
それは至ってささやかな願いごとであり――――だが、しかし。
これで終わりであるなら、態々高い代価を払って冒険者を雇う理由などないのである。
●ころしてでもうばいとる
「送った手紙は必ず送り先へ届け、どれほど時が掛かっても返事を受け取ってきます」
なので、生き死にが関わったりどう足掻いても返事が受け取れなそうな相手宛は避けて下さい。
という話なわけだが。これは割と破格のの条件と言って良い。
本来、手紙というのは余程の事がない限り一方通行、送って受け取って終わりだ。
返事を書くかは相手に完全に委ねられる為、何も応えが無いことは珍しくもない。
それを、返事が貰えるまで待機するという。貴族の資本力無しでは無駄遣い甚だしい。
つまりこれは、相当高確率で返事が貰える手紙を書く機会、と言う世にも奇妙な仕事である。
庶民にとっては手紙を届ける依頼を出すのも安くはない。おまけに成功報酬も入ると言うのだ。
これだけ好条件が並べば、筆不精でもよし、出すかという気分になってもおかしくはなく。
「但し、返ってきた手紙は全員の前で内容を説明して頂きます」
……え? と。誰かが声を上げた。それは誰もが想像すらしていない禁忌そのものだ。
内容を? 説明? それがどんな意図の手紙であれ。場合によっては社会的死が垣間見える。
果たして暗号文でも記せと言うのだろうか。いいや、そんな訳がない。
ここで最初の話が脳裏をよぎる。"ネタがない"つまり、これは――――そういうことだ。
説明だ。口頭説明である。油断も隙もないとはこの事だ。
送った手紙の中身を教えろなら未だ分かる。返ってきた説明を咀嚼して自分の言葉で説明である。
……正気か? 場合によっては戦争だろうが。 と言う話だが、貴族に庶民の心は分からない。
おのれ貴族。 これだから貴族は。 投票期日超えたら何でも赦されると思うなよ。
と、果たして冒険者達が思ったものかは定かではない。……が。
ともあれこの依頼を受けるかどうか、判断する権利は彼らにあり――――
――――受けた以上、やっぱ止めました。は通らないのが、冒険者の辛いところなのである。
解説
マスターより
リプレイ
●前略、家族より
「――――前略、エルゼリオへ。
秋空高く澄み渡り、金葉深まる季節。そろそろ調子が戻った頃だろうか。
此方は相変わらずだ。父上も、どうもまた何かしら厄介事を抱えている様で忙しない。
学園で起きた難事については聞き及んでいるが、少し離れている間に色々在ったようだな。
王命が下る程の出来事を血縁者が解決したとあれば誇らしいものだ。今後も精進するといい。
ただし。王国に居るのであれば極力家へ顔を出す様に。
例のツチノコが飼い主を忘れても責任はとれん。以上に、家臣たちも寂しがっている。
加えてオリガロッドがエルゼリオも年頃だからそろそろ想い人の一人二人出来たに違いない。
と言って父上共々追求する気でいると、メイド達が噂していたので覚悟をしておくと良いだろう。
……俺にあの二人を止める術はないが。もし本当にそういう相手が居るならば。
場合によっては先方の御家族に挨拶に行く必要もある。事前に伝えておくように。
尚、一応は父上も文をしたためようとはしたことを、名誉の為に記しておく。
結局鉢は此方に巡って来ることになったが、帰った時にでも精々突いてやると良い。
最近は王都にも、旧帝国よりの冷えた風が吹き込む事が少なくない。
レイノーラの系譜として、自己の管理に手を抜くこと無いよう努めること。息災であれ。
以上。この文を父上に追い回された学園の使者殿へ託したことを、我が名に於いて誓約する。
シグルド・レイノーラ」
――――あれほど命の危険がない場所と言ったのに……。
と言う、第一文芸部部員の無言の圧力を背に受けながら意気揚々と文を読み上げたのは。
『透徹の蒼眸』エルゼリオ・レイノーラである。割と家庭内が赤裸々になった気がする物の。
自前の演技技能で羞恥心を覆い隠すことは十分可能だ。爆発するほどではない。
普段の報告書ですら"その内読むからその辺に置いておけ"が常態化している父に。
"返事が欲しいので読んで返事を書いて下さい"――――と、言ってのけたらしい学園生が。
本当に良く生きて帰ってきてくれたと感心こそすれ。幸い長兄の代筆である。
何処に出しても恥ずかしくない形式で整えられており、あらゆる意味で卒がない。
それを羨ましげに見つめる『堅実な挺身者』ゲルダ・クラインの視線には。
……例え気付いていようと、気付いていないふりをするしかないわけではあるが。
「時節の挨拶まで見事なものだ。素晴らしい。さて、それでは次は」
拍手で以て応じた『第一文芸部部長』ウォーレンの声に。
進み出たのは『壁エルフのおねえさん』こと、コルネリウス・アーラである。
「私は、実家の家族に手紙を送りました。その返事が、こちらです」
未だ中身を確認こそしていないものの。封筒には何かがごろごろ入っている。
多分、未だ幼い弟や妹が手伝ってくれたのだろうと。思わず頬を綻ばせながら。
封筒を振ると、綿紙の便箋が複数枚。それと団栗、向日葵の種、松の実が掌へと降る。
「コルネへ。
父さんも、ちび達も、もちろんあたしも。こちらは変わらず元気です。
コルネも元気そうで良かった。きちんと好き嫌い手抜きせずご飯は食べてる?
冒険者のお仕事っていうのも、相変わらず想像しか出来ないけど。
まずは健康で、次に楽しく日々を過ごせていることが何より大事なことだから。
無理をしないで。って言ってもどうせ、それが必要と思ったら無理しちゃうんだろうし。
コルネは柔らかそうに見えて頑固だからなあ……とは、思うけれど。
皆が、貴女が無事に帰って来ることを祈ってること。どうか忘れないでね。
家族の事を忘れて良いのなんて、恋人さんと2人きりの時くらいなんだから。
王国貴族の学園に入学なんて聞いた時は本当に驚いたけれど。
こんな機会そうそう無いんだし、学べることは全部学んでくる位のつもりで頑張って。
今回はお仕事と言う事で、ちび達もコルネに手紙を出したいって言うから。
少しだけ無理を言って皆の分まで詰め込ませて貰いました。
生徒会選挙なんて、何だか遠い話みたいで。ほんの少しだけ寂しいのは本当だけど。
あたし達はいつだって、コルネの味方だからね」
四つ折りの手紙を丁寧に戻し。コルネリウスがほう、と息を吐く。
家族からの言葉はいつでも力を与えてくれる。ここからまた頑張ろう、と思える。
それは、常に前に立ち、盾を構え、壁エルフ等と呼称される彼女の原動力なのだろう。
が、今回はそれに追加して小さな紙片が添付されていた。
第一文芸部員から視線で促され、そういえばとそちらに目を通し凍り付く。
『学校楽しい? 今度勉強教えてね』
『父さんも、コルネ姉さんの無事を毎日祈ってるからね』
『コルねーちゃが学校で、はめはずしそうで心配、ってライラねーちゃがいってた』
『こいびとと いちゃいちゃしてる? こんどつれてきてね』
子供って……っ! 残酷…………!!
堅牢で知られるコルネリウスも思わず頬が赤く。これは耳も垂れ下がると言う物である。
●親愛なる貴方へ
「さて、それじゃあ次は俺が……。……うん?」
『紫百合の剣』海神・江流にそっと差し出された封筒には、封蝋がされていた。
――――封蝋が、されていた。六角描く水晶紋。即ち、『紫水晶』侯のである。
封筒は薫衣草で染めた羊皮紙と。明らかに他と貫禄が違う。
何故か無表情の文芸部員から差し出された開封小刀で封を開けるも。
江流からしても全く想定外の展開だ。思わず手が震える。
周りに見られない様に広げた手紙からは桔梗の香りが漂った。香水だろうか。本気過ぎる。
「前略、エル様。
爽涼の候ますます深く、菊の花香る夕べも長くなりました。収穫の季節を迎えるこの頃。
お変わりなく健やかにいらっしゃいますでしょうか。此度はお手紙を頂き幸甚の至りに存じます。
私も市井の皆様が如何にこの長夜を過ごされているのか、常々不思議に思っておりましたが。
重ねる時の儚さに貴種も庶民も無い物と、最近は朧げな月に寄り添い想う日々を送っております」
――――、――――いや、待った。おかしい。何だこれ。
冒頭四行でそれ以上を声に出すことが憚られた。周囲の見る目は凡そ二分割される。
凄い勢いでにやにやされているか、殺気一歩手前位の凄い眼差しで睨まれているかだ。
あれ、最近秋刀魚焼いたり次は茶菓子くらい持っていくとかしか書いて無いよな……!?
江流は貴族令嬢を舐めていた。文面から受ける謎の圧が尋常ではない。
これ以上声に出して読み進めれば、この部室が死地になると冒険者の勘が告げている。
「……どうした、続けたまえ」
口の前で手を組んだ悪の秘密結社の首領の眼鏡が逆光で見えないのが恐い。
「・最近は普段以上に夜が長くて物思いに耽ることが増えたらしい。
・今度のお茶会には手作りの焼き菓子を焼いて行くからまた来て欲しい。
・冒険者宛に仕事を依頼することがあるかもしれないからその時は宜しく。
よし、大体こんな感じだな。まあ普通だ。普通」
ここに来て、江流は緊急避難を選択した。流石に未だ命は惜しかった。
封筒に手紙を丁寧に折り畳んでしまうと懐に入れ、速やかに流れる様に次を譲る。
(……全く、仕事を何だと思っているのでしょう)
『誓約の剣』Alexandra・Hexe・Claudiaが大仰に嘆息する。
人によって色々と柵は有るだろうが、場所を選ぶと言う事を考えなければならない。
特に、この学園は貴族の政争の場を兼ねる。相手に迷惑が掛かる可能性を考慮すれば。
赤裸々な内容は望ましく無い。口下手の自覚が在るAlexandraにでも分かる事だ。
そうして差し出された返事の手紙はこれまた羊皮紙の封筒である。流石に封蝋は無い。
この位が貴族に相応しい格式なのだろうと一つ頷き紙面に目を通し。
――――そうして、沈黙が訪れた。視線が泳いだ。其処には混乱があった。
そもそも、彼女が認めた手紙が割と爆弾なのだが自覚が無かったのだから仕方がない。
「前略。
手紙、確かに受け取った。さて何から伝えるべきか。
あまりこう言ったことを他人の。それも貴族の目に晒すべきでは無いんだが。
そういった事は追々教えて行くとしよう。以後傍らに在るなら、覚悟しておけ。
そして懸念も尤もだ。王国貴族は唯人を尊び、貴血は混血を厭う。それは認めよう。
だが以前其方の剣を受けた時、俺もまた覚悟した。どうも、伝わっていない様だが。
貴族にとって、剣を預けるとは己が命を預けるに等しい。と、言えば伝わるか?
それは血縁にすら背を預けられない、貴族にとって極めて特別な誓いだ。
義の重みは信に殉ずる。本来であれば、家督を継ぐ前に軽々と結ぶ物ではない。
分かるか。俺は其方を庇護する者だ。それは、其方が身命を賭すに値すると信じる。
其方が俺を見切らない限り、俺も其方と道を違える事は無い。己が担い手を信じろ――――」
文に没頭していた。と気付いたのは殆ど全て読んでしまってからだった。
声は他人事の様に響き、指先が震える。上手く隠すことなどまるで出来なかった。
彼女は言葉を手繰るのが得意ではない。しかしそれ以上に。その心性は未だ幼いとすら言えた。
擦り切れる様な経験が、世界への忌避と、他者への不信と、為政者への憎悪を育んだ。
それだけだ。それしかない。無防備なただのAlexandraには、自分自身をも受け止め切れない。
先を促され不安定に視線が泳いだ。その初めて知る感情に何と名付ければ良いのだろう。
「――――俺は決して、其方の信を裏切りはしない。 アルガス・コーニッシュ」
手紙を封筒に戻し抱きしめた。それ以上何も言えなかった。
黙り込んだAlexandraに文芸部員達が困惑するが。そんなこともうどうでも良かった。
封を開けたら毀れ落ちて消えてしまいそうで。これ以上言葉になんて、出来ない。
●妙なる縁を認めて
こちら、衛星都市『アーグルーン』の商人ギルドから。
そう告げられ受け取った封筒の妙な厚みに。嫌な予感がしなかったと言えば嘘になる。
『導くカノープス』リサ・ベイカーが広げた便箋は束と評して良かった。その数実に12枚。
多……! と戦慄したのも束の間。ざっと一瞥した所、内容は厳しいの一言。そもそも冒頭が。
「教訓1。目的は印象的に。要点は簡潔に」
うわあ、と思わず苦笑いが漏れるも。それこそは『黒鋼竜』が御用商人。
シズルからの返事である。ぱらぱら見ていると内10枚までが商人の心構えで埋められている。
そして11枚目。漸く手紙らしい文面に、恐れ半分、好奇心半分で目を通すと。
「――――リサ様へ。
概ね、パンクリアースの事情は把握しています。その上で私からの助言は3つ。
1つ。商人から何かを汲み上げる時は必ず盗むこと。贈与されれば代価を取りたてられます。
例えば私は今、貴女の心配事や不安を取りたてました。弱点を晒せば付け込まれるもの。
私は貴女に嘘を教え、掌で転がし、理想を棄てさせる事すら出来るでしょう。どうぞご注意を。
2つ。商売の仕方は色々有りますが、共通する事が1つだけあります。
多くを知る者が有利であるということ。生の情報は、商人が最後まで懐いておくべき刃です。
貴女は刺せる立場にある。それは商いにて強者であるという事です。利用しない手は有りません。
3つ。貴女の弱みはその甘さ。けれど貴女の強みはその弱さです。
意味はご自分でよーっく考えて下さい。"あるべき商人像"何て幻想に縛られる必要はありません。
出来ないなら人を頼りなさい。選べないなら一挙両得で良いのです。女商人は我儘でなくては。
以上、御代の支払いはいずれ巡り合わせた時にでも。ご利用ありがとうございました!」
何か売り付けられてる……と、12枚目。最後の紙面を確認すると。
其処には"情報資財"――――なる、謎の物品の売買契約書が認められており。
その値段と署名だけが空白になっているのを見て、思わず笑ってしまう。
これが"竜の商人"。強かで、抜け目なく、欲望をも悪戯心で飾り立てる。
役者が違う。と思う一方で、次の巡り合わせを楽しみにもさせられる。世界は、本当に広い。
――――そうして次なる手紙は、銀が織り込まれた白封筒。
最早それだけで誰が差出人か悟った『心を救う』ロゼットが笑って手を差し出す。
届いた返信の中で1、2、を競う派手な趣向の手紙だ。当然相応の家格を示す物であり。
封を開けて開いた手紙は丁寧ながら、時々勢いで記したように。文字通り文面が踊る。
「親愛なるロゼットへ
お手紙ありがとうございま……うぅん、書き出して思ったけれど何だか変な感じね。
人から手紙を貰うなんていつ振りかしら? ……エドゥノーグに居た頃以来?
でも、友達から手紙を貰うって凄くわくわくするのね! これって大発見かも!
それに。潸涙紗を見に行ってから1年、かあ……
あのね。あんまり伝えられて無かったけれど、私ロゼットには凄く感謝してるの。
沢山傍に居てくれて、我儘も一杯聞いてくれて、嬉しかった。
ウェザーランス先生は病気療養って聞いてるけど、きっとそうじゃないのよね。
それでもロゼットはきっと一生懸命、精一杯頑張ってくれたんだって信じてる。
だからどうか謝らないで。ロゼットが辛い分は、私にも背負わせてね。
私はロゼットよりずっと年下で、頼りにならないかもしれないけど、頑張るから。
ロゼットにとって自慢のお友達になれるように、今よりもっと沢山頑張るから。
一緒に冒険しようね。約束よ。すごく、すーっごく楽しみにしてるんだから。
必ず冒険者ギルドまで抜け出してみせるから。その時まで、またね。
冒険者のオーロラ」
慌てた様な筆致は。きっと家の者に見つからない様にせっせと書き足したのだろう。
インクが滲んだ様になっている部分は、焦って筆を走らせたのだと分かる。
その様からは冒険者のオーロラが健在と分かって。
ロゼットが思わず笑いを噛み殺す。この年下の冒険者は、何時でも夢見る様な事を言いながら。
それでも、誰より真摯に自分の生き方を模索している。貴族だとか庶民とか関係無く。
自分は自分だと背伸びして輝こうとしている。だからこれほど眩しいに違いない。
「うん、楽しみにしてるわ」
自慢のお友達になれるように――――互いに臆面も無くそう言い合える事は。
きっと、シグモルの神様と彼女がくれた幸福であるに違いない。
●困惑の果てに
――――祖父の命日が近い。
手紙をしたためると言う行為に、少なからず憶える不安を吹き消すには。
そんな理由であっても利用しない訳には行かなかった。
ディヴァンス・ファルヴェント――――人間嫌いのファルヴェントは。
『寄る辺の紡ぎ手』シルヴィア・カペルにとっては忘れ難い"人生の先生"である。
けれど彼の消息は途切れて久しい。最後に出会った記憶は学園入の5年ほど前。
彼が執拗なほど彼女を避ける理由にも心当たりはある。けれど、例えそうだとしても。
学園に滞在して故郷を離れた間、彼女の方からもその痕跡を追おうとしなかったのは。
きっと拒絶されることが恐かったのだろう。と――――今なら分かった。
「そうか……届けて、くれたのか」
手渡された封筒は薄く、軽い。封を解いて中身を確認するには余程勇気が必要だった。
決して質が良いとは言えない綿紙の便箋には、神経質そうな固く正確な文字が並ぶ。
「シルヴィア・カペルへ
ディヴァンス・ファルヴェントが記す。
樹々が実りを齎し、東よりの風が西へ吹き抜ける時節。手紙、確かに受け取った。
今更に、君が私の事を未だ先生と呼んでくれる事を知るにつけ、慙愧の念を禁じ得ない。
かつて私は己が慢心故に、君の生き方を酷く捻じ曲げた。謝罪すらも烏滸がましい。
だが同時に、私には君を教え導く義務がある。それを放棄して贖罪も無い話だろう。
だからこそ改めて、恥を忍んで私から君にこの言葉を贈らせて欲しい。
かつて託すしか出来なかった。不甲斐無い師からの言葉でも良ければ、だが。
おめでとうシルヴィア。君が自らの意思で、冒険者と言う道を選べた事を祝福する。
君はアルヴィンではない。けれど、その血には確かに彼の血が流れている。
私が知る限り。この大陸で最も誠実であった男の血が、だ。
気高くあれ。強くあれ。そして何より、寄る辺なき者の救い手としてあれ。
君がこれから歩んでいく道程を、私はいつでも自ら以上の誇りと共に語るだろう――――」
大きく、深く、息を吐く。シルヴィアは、自分の弱さを理解している。
どれほど祖父を真似ても、祖父にはなれなかった。先生は、自分を見てはくれなかった。
その彼が、シルヴィアを祝福してくれると言う。
彼女を見て、その歩みを指して、誇らしいと言ってくれると言う。……それが、どれほど。
「――――懐かしい砂糖漬けの味が、その彩りとなってくれればこれほど嬉しい事は無い」
――――どれほど。言葉に出来ない程に。仮面で取り繕うことすら難しい程に。
心揺らす物であるかなんてきっと。彼女以外の誰にも、分からないことに違いない。
息を呑む様な手紙が続き。各人が自らの受け取った返事の手紙を大事そうに抱える中。
そうして、最後に残った小柄な影は最初に受け取った封筒をじっと見つめていた。
本当なら、最初に読み上げても良かった。けれど、決断出来ないまま気付けば最後。
……最後だ。何でこうなってしまったんだろうかとゲルダは困惑する。
「ところでクラインさん」
「……はい」
「御父上からは、"とりあえず顔を合わせて話し合おう?"と伝えて欲しいと」
「…………はい」
「"お父さんにも少しばかり横暴だった部分が有るかもしれない"と」
「………………いい加減子離れをするべきなんですよ、あの父親」
溜息だった。呼気を溢すとかそんな詩的な何かではなく明らかに溜息であった。
父親が学園生経由で懐柔して来る位は想定済だ。もう良いやとばかりにゲルダが封を切る。
「手紙は確かに受け取りました。ゲルダちゃ――――」
こほん、と大きめに咳払いをしたが誤魔化しきれていない。……ちゃん?
「ゲルダさんが冒険者生活を楽しんでいる様で何よりだ。お父さんも安心した。
冒険者になりたいと言うゲルダさんの願いを一方的に却下した件については。
母さんとも話し合い、まあ。お父さんも言い過ぎたかもしれないとは思う。
しかし、何時までも家出したままでは将来について話し合うことも出来ない。
もう"冒険者になるな"とは言わないから、とりあえず一度家に帰ってきなさい。
母さんも寂しがっている。勿論お父さんだって辛い。
何であれば手紙にあった冒険者のお友達を連れて来ても構わない。
次の学園の長期休暇に合わせて、お父さんも休みを取ろう。
ゲルダさんがお世話になっている以上挨拶しなければならないからね。
家族思いの優しいゲルダさんなら、きっと分かってくれるだろう。
今の季節王国の風はさぞ冷たいと聞く。どうかくれぐれも身体に気を付けて過ごすように。
お父さんはいつでもゲルダさんの事をアイシテルヨ。
お父さんより」
「……」
「…………」
「ああ、うん。良いお父さんじゃないか」
「やめて下さい」
絶望の大寒波が吹き荒れていた。最後の方は段々自棄になっているのが誰の目にも明らかだった。
これは文集のネタには使えないなあ、と果たしてウォーレンも思ったのかどうなのか。
クライン一家の確執は深い――――ではなく。かくて冒険者達が綴った手紙は全ての解を得た。
それらが彼ら、彼女らの前途に如何なる影響を与えるかはさておき。
これらの手紙を題材に作成された文集は、年度末第一文芸部室で無差別配布予定である訳だが。
それがどういった結末を招くのかは、未だ、この場では想像すら出来はしない。
今言えることはと言えば。冒険者達は確かに第一文芸部の窮地を救ったと言う事実だけである!
やったね皆文集が出来るよ! 尚、ロスガリア大陸に"プライバシー"等と言う言葉は、無い。
マスターコメント
ミドルシナリオ易しい 報酬:多い8 / 6〜8人
2021年10月26日 23時26分14秒 公開
相談掲示板
ゲルダです。よろしくお願いします。 お手紙……、…………実は、わたし、家出中でして。 夏季休暇の際に残した置き手紙以来、お父様になにも連絡していなかったな、と。 ちょうどいい機会なので、お父様に近況報告をしてみようかなと思います。 返事の方は……、だいたい想像はつきますし、内容をウォーレン様にお伝えするのも問題なさそうです。
クラウディアです。よしなに。 私は―、個人として学園でお世話になったアルガスさんに。 彼がいなければ、この場で今の私は有り得なかったと思いますから。 彼の性格上、返事は流儀に沿ったものとなるでしょう。 特段他者に内容を伝えても問題はないかと。
ロゼットよ。よろしくね。 同MSさんのNPCオルファレナに手紙を出そうかなって。 家族も考えてたけど、あまり家族関係のネタはなくて。 >口頭説明 これ手紙を読み上げる、朗読みたいな感じで良いのかしら…。 「説明」というのがピンとこなくて。イメージが湧かないわ。 他の人はどう想像してるのかな、
エルゼリオ・レイノーラです。今回はヨロシクね! ボクは父上にいつもの定期報告の手紙を書く予定。 返事は……父上が返事書いてる所とか、あんまり想像できないんだけど……どうなるんだろ?(汗 >口頭説明 OPに『返ってきた説明を咀嚼して自分の言葉で説明』って一文があるし、 手紙の朗読ではなくて『内容を掻い摘んで説明』する感じなのかな? って解釈してるよ~。
海神 江流だよ。 今回は宜しくね。 同じMSさんのNPCのクリスタリアに書いてみようかなと。 返事を貰える、いや、貰わないといけないなら。貰って嬉しい相手に送るのがメリットだよな。 …趣旨説明すれば大丈夫な内容で返事のないよう考えてくれると勝手に信じてみたい。 どうせ書いて貰うまでは帰れぬのだろう。 て訳で内容を伝えるのも大丈夫。 公開処刑になったらそれはそれで(ぇー
コルネリウスです、よろしくお願いします。 私は定期的にやりとりしている故郷の家族へお手紙を書くつもりです。 >口頭説明 どうしても隠したい部分ははぐらかしても良い、との事なので。 朗読して読み上げても良いし掻い摘んで説明するのも良いのかな、と認識しています。
お疲れ様です。リサです。 わたしは…どうしようかな、両親へ書くのが無難なのですが… それじゃ面白くないなぁとか。 オルファさんやクリスタリアさんも考えたけど、ロゼットさん、エルさんが書くみたいだしな、と悩み中です(笑) 未登録NPCのシズルさん……にチャレンジかなぁ お返事くれるのかな?というか何処に居るか分からなくても探して届けて貰えるのですかね?
というか、ゲルダちゃん!? 家出したあと手紙すら書いて無かったの?? …ある意味わたしよりも徹底してますね(汗)
シルヴィアだ。今回はよろしく。 私の先生に宛てて書くつもりだったけど、クリスタリアにも手紙を送ってみたいなと悩んでいる。もう少し考えてみるつもりだ。 口頭説明については朗読も有り、掻い摘んでの説明も有りだと考えているよ。
>リサ 相手を譲るのは難しいけど、同じ相手に送る分には 私は気にしないから、オルファレナ宛で案があるなら 遠慮なく送ってね。先に取ったみたいになったなら。 >ゲルダ それ返事と一緒に親御さんも付いてこないかしら(汗 家族への手紙も案として面白いから、ここで使わなくても ノベルの題材とか、リクエスト依頼でも面白そうかなあ。 >口頭説明 皆ありがとう。恋文とかで惚気全開なんてやれば、 絵になる?んでしょうけど…無い袖は振れないからねえ。
あ、ロゼットさん、ありがとうございます。大丈夫ですよ!譲れなんて言いませんから(笑) オルファさん宛も良いんだけど、わたしはオルファさんとはクラスで会いますからね(笑)
>リサちゃん えへへ。 まだ喧嘩中なので、冒険者としての活動を許していただくまでは帰りません。 いい加減に子離れするべきなんですよ、あのお父様。 >ロゼット様 あ、そこはきっと大丈夫です。 流石のお父様も、パンクリアース学園相手には強く出れませんから(ぐっ 普段は学園の寮で過ごしていますが、(学園に大量の手紙が届く以外は)とっても平和ですし。
…家族、家族か。 健常なそれを持つ方は幸か不幸か。 …子の道連れを好むのはどこも共通らしい。
み、道連れ……? おそらく、そこまで不穏な感じにはならない、はずです。たぶん。 はい。……ただちょっと、親馬鹿が過ぎているといいますか。本当に、それだけなので。
―…。 流していただければ と。 今のは…、私が勝手に昔を思い返しただけです。
明日には出発ね。決戦シナリオもあるから、 うっかり手紙を出し忘れないように気をつけましょう。 ゲルダって印象よりずっとしっかりしてるのね。 ちょっと感心してしまったわ…。
迷ったけど、やはり今回は先生に送らせて貰おう。 現地ではよろしくね。