【壊密】忍び寄る熱砂

革酎

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シナリオID:1497

オープニング

●怪炎の恐怖
 事件は、突然起きた。
 リーンエス王国メルゲンガー伯爵領都アジェルマハーの街角で、突然通行人の全身から炎が噴き上がり、瞬く間に焼死するという奇妙にして恐るべき怪異が、ひとびとを震え上がらせたのである。
 被害者は地元の商人で、これといって特徴の無い人物だった。
 メルゲンガー伯爵私設兵団の長リオル・フーベルが早速調査に乗り出したところ、幾つかの証言と現場の残留物から、被害者は直前に霧状の油を全身に噴きつけられたらしいことが分かった。
 更に目撃証言によれば、被害者は炎上の直前、全身に黄色い靄の様なものが纏わりついていたのだという。そしてカチっという何かが弾ける様な音がしたかと思うと、次の瞬間には全身が炎に包まれていた。
 そしてこの事件は一度だけでは終わらず、三日間の間に五名もの被害者が続出した。
 いずれも現場検証の結果から、同一の手段による人体放火と推測された。但し被害者に共通点は無く、互いに何の繋がりも無い赤の他人同士だったとの由。
 かくして、アジェルマハーは恐怖の渦に巻き込まれた。
 事態を重く見た領主マグラウリー・メルゲンガー伯爵は、アジェルマハー全区域に外出自粛令を発布した。
 町のひとびとは昼夜を問わず、家の中でじっと息を潜める生活を余儀無くされた。道行く姿は、警戒を敷くメルゲンガー伯爵私設兵団員のみ。
 誰もが事件の早期解決を願っていた。

●伯爵邸強襲
 外出自粛令発布の翌日、メルゲンガー伯爵邸には三人の富商が顔を揃えていた。
 主にリーンエス王国北部とシルトラース帝国南部を商圏に持つフランクス商会の役員のひとりで、齢六十を超えて尚、精力旺盛な隊商東部支隊の責任者カーノス・フランクス。
 今年に入って設立された若い商社ながら、飛ぶ鳥を落とす勢いで商圏拡大を見せ始めている東ディズル手工芸商会のメーンス事務支所長イリオ。
 リーンエス王国西部で各地の伝統的な特産品を扱い、長年に亘って多くの顧客を取り込んできたテーベル商会の、新しい会頭ジョハッシュ・テーベル。
 彼らは伯爵邸の応接室で老齢の家士長クアンクル・モレバーと共に、応接卓を囲んでいた。
「いやはや……この様な物騒な時にお集まり頂いて、誠に恐縮でございます。よもやこんな時に限って、町中であの様な事件が続発するとは思っても見ませんでした」
 クアンクル老は禿げ上がった頭に浮き出る脂汗を、袖口でしきりに拭っている。
 仕方がございませんよ、と若いジョハッシュが苦笑を漏らした。
「私や皆さんの都合の良い日が、ここ三カ月のうちでは今日ぐらいしか無かったのですから」
「ま、この伯爵邸に突っ込んでくる様な無謀な輩なら、半日と持たずに捕まっておるでしょうしな」
 ジョハッシュに続き、カーノスも乾いた笑いを漏らして肩を揺すった。
 軽口を叩いて緊張をほぐしたところで、いよいよ本題である。この日、三人の富商がメルゲンガー伯爵邸に招かれたのは、ここアジェルマハーに拠点を置く新たな商社をメルゲンガー伯爵自身が立ち上げようとしており、その設立アドバイザーとして彼らが指名されたのである。
「うちなんか、まだ発足して一年も経ってないんですけどねぇ」
 肩を竦めたイリオ。彼は元々はリザードマンの部族ルアダルで工房組合代表を務める人物なのだが、東ディズル手工芸商会発足に伴い、共同代表に名を連ねる様になったばかりの、いわば経営の駆け出しに過ぎない。
 カーノスとジョハッシュは、御謙遜なさいますなと冗談めかして笑った。
 その直後、彼らの笑みが凍り付いた。
 突如、武装した覆面姿の男達が応接室内に乱入してきたのである。三人の富商とクアンクル老はあっという間に取り押さえられ、後ろ手に縛られて絨毯の上に横倒しになって並べられた。
「あんた達は、どちらさんかね?」
 束縛され、周りから鋭い刃の切っ先を突きつけられても尚、カーノスは落ち着いた声音で手近の覆面戦士に問いかけた。
 カーノスに誰何された男は自ら独特の紋様が描かれた覆面を剥ぎ取り、不敵な笑みを見せた。リーンエス王国の住民にはあまり見られない、よく焼けた肌と独特な顔立ち。カーノスも、そしてジョハッシュもひと目見て、この男がシラー砂漠の民であると見抜いた。
「近年、巷を賑わせ始めている黒熱砂……だね?」
 ジョハッシュの半ば確信した様に声に、その男はふふんと鼻を鳴らした。否定しないということは、つまりはそういうことなのだろう。
 するとそこへ、別の覆面戦士が近づいてきて、シラー砂漠の民の男に何かを囁きかけた。カーノスとジョハッシュには聞き取れなかったが、イリオは辛うじてその内容を盗み聞くことが出来た。
 別の覆面戦士は、メルゲンガー伯爵も拘束した、と告げたらしい。

●違和感
 重戦士アーギス・マーレイは、アジェルマハー冒険者ギルド支部の受付ロビー脇にある休憩エリアで硬いソファーをひとりで占拠し、だらしなく寝そべっていた。
 本来なら彼は今頃、乗合馬車に揺られて王国領内を北上している筈であったが、突如発布された外出自粛令の為に乗合馬車の御者達が自宅に引き籠ってしまった。そしてアーギスは自分の足で町を出ようかどうかと丸一日考えた末、しばらくここでのんびりしようという結論に至ったのである。
「いつまでもこんな状態が続いたら、うちも商売あがったりですねぇ」
 受付カウンターの裏側でストゥールに腰を下ろし、頬杖をついている受付嬢ティマニ・エレザン。
 外出自粛令が発布された直後から、ひとの足がぱったりと途絶えてしまっていた。
「しっかし暇だな……リオルんとこにでも顔出してみるかな」
「お仕事の邪魔しちゃ悪いですよぉ」
 一応嗜める台詞を吐いてみたものの、ティマニ自身も相当に暇を持て余していた。
 それにしても、とアーギスはふと湧いてきた疑問に小首を傾げた。
 件の人体放火魔は結局、何がしたかったのだろう。単なる殺人狂か、或いは何かの目的を持って凶行に及んだのだろうか。
「ここまで閑散としちまったら、放火する相手も居なくなるってぇのによぉ。町中を歩いてるのは私設兵団の若い衆ばっかりじゃねぇか」
 そこまで思考を巡らせて、別の疑問が湧いた。
 もしかすると――犯人は敢えてこの状況を作りたかったのではないだろうか。アーギスは早速、自身の推測をティマニに披露してみたが、彼女はただ面倒臭そうに、
「一体どんな暇人なんですか」
 と、欠伸を噛み殺すばかりであった。
 だが矢張り、何かが引っかかる。
 アーギスは愛用の巨大な戦斧を背負うと、冒険者ギルドを飛び出した。戦闘力に富んだ冒険者は外出自粛令の対象外なのである。彼が町中に飛び出しても、咎めようとする私設兵団員は皆無であった。
(さて……この妙な胸騒ぎの元凶はどこだ……?)
 アーギスは、あてども無くアジェルマハーの町中を徘徊し始めた。

解説

状況:  PCの皆様は現在、アジェルマハーに居ます。決まっているのは、それだけです。  アジェルマハー内のどこで何をしているかは、完全に皆様の自由です。  そしてここからが重要なのですが、伯爵邸で発生した黒熱砂による占拠事件に、如何にして気づいたか、或いは辿り着いたかを、皆様の自由な発想でご自身のPCを導いてあげて下さい。相手がNPCなら確定ロールでも全然OKです。  但し、全部が全部採用される訳ではありません。多少強引な理屈でも良いので、兎に角革酎が納得する内容でなければ、失敗する可能性もあり得ます。  相当フリーダムなプレイングとなるでしょうけど、今回はそういう趣旨だとご理解頂ければ幸いです。 敵:  伯爵邸を占拠したテロリスト『黒熱砂』の戦闘員達が主な敵ですが、壊密宗の魔人も姿を見せる可能性が高いです。  場合によってはジュラッツァ・ゲ・ラカンカも姿を見せるかも知れません。 NPC:  OP本文中に名前が出たNPCは大体ひと通りはリプレイに(一瞬だけでも)登場することになろうかと思われます。ちょっと人数多いですが。

マスターより

 皆様、こんにちは。  個人連作【壊密】の続編をリリース致します。  今回は皆様の自由な発想をどこまで拾えるかという趣旨のOPとなりました。余りに無茶な内容は不採用になるかも知れませんが、どこまでならいけるかという按配は皆様ご自身で考えてみて下さい。  自由度が高いという意味合いで、難易度も『難しい』にしておりますが、敵はそんなに強くないです。  それでは、もしご縁があればご参加のご検討宜しくお願い致します。

リプレイ

●寂れた領都
 透き通る様な秋の青天下。
 しかしリーンエス王国メルゲンガー伯爵領都アジェルマハーは、どこか異様な雰囲気に包まれている。
(出歩くひとが全て私設兵団の巡回ばかり……頭では理解していても、凄く違和感ありますね……)
 街角を行くリディリディ・トゥラ・イェレミースは、時折すれ違う革鎧姿の巡回部隊をそっと目線だけで追いかけながら、内心で溜息を漏らした。
 この日、リディリディは隣町の冒険者ギルドで受けた依頼を遂行する為にアジェルマハーを訪れていた。その町に住む富商がアジェルマハーでの放火事件を解決して欲しいと、依頼を持ち込んできたのだ。アジェルマハーがこの有様では、その富商もまるで商売にならないと困り果てていたらしい。
(でもこの様子ですと……犯人は隠れたまま、出てこないかも知れませんね)
 放火で殺されたのはいずれも民間人で、しかも大勢のひと通りで賑わっている状況だった。これだけ閑散と静まり返っては、仮に放火事件が発生しても、すぐに犯行がバレてしまう。しかも町行く人影といえば私設兵団員か、リディリディの様な冒険者のみだ。
 これでは如何に犯人が無謀な輩だったとしても、おいそれと姿を見せることは無いかも知れない。
 その時、横合いの路地から声をかけて来る者が居た。見覚えのある特徴的な頭蓋面の女――ルチル・プルメリア・グレイハーツだった。
「やぁ。こんなところで会うなんて奇遇だね」
 共にロモズ歩兵団でそれぞれ別隊の副長を務める間柄だが、今日はお互いに一介の冒険者としてアジェルマハーを訪れていた。
 曰く、ルチルはメルゲンガー伯爵邸に足を運んでいる東ディズル手工芸商会のメーンス事務支所長イリオと共に、彼の相談役という形でこの町に出張していた。
「この町は例の放火事件で懸念が多いから、事件の調査に当たるようにと所長から頼まれてね」
 相棒の栗鼠ラトも、数十メートル範囲で分身を発動させつつ、偵察に走っているとの由。
「ベルクも来てるんだけどね、今、リオル兵団長を訪ねて伯爵邸に向かってるよ」
 小さく肩を竦めるルチル。
 壊密宗という妙な連中に目を付けられたと困り切ったベルク・オスマットが、貴族特有の情報網に何か引っかかっていないかと、メルゲンガー伯爵私設兵団の長リオル・フーベルとの面会を求めて、伯爵邸へと向かっているのだという。
 ベルクの姿はラトの分身が捕捉しており、何かあればすぐに駆け付ける準備は出来ている。
「それにしても、ひとの流れが無くなっただけでこんなにも殺風景になるもんだねぇ」
 半ばゴーストタウンと化した感のある領都に、ルチルは頭蓋面の奥で顔をしかめた。

 同じ頃、アジェルマハーの倉庫通りにはコルネリウス・アーラとアーギス・マーレイの姿があった。
 コルネリウスは妙な因縁が生じた壊密宗について調査を進めるべく、謎の魔人ハングリークランキーと最後に遭遇した同地へ再び足を運んでいた。そしてアーギスも壊密宗に関しては色々と思うところがあったらしく、コルネリウスから調査同行に誘われると、ふたつ返事でついてきたという訳だ。
「けどよぉ、俺の居場所がよく分かったな。冒険者ギルドからここまで、結構距離あるぜ」
 不思議そうにコルネリウスの美貌を覗き込むアーギス。
「それはもう、如何にアーギスさんの影が薄いといっても、これだけ閑散としていればどなたかが目撃していますし……それに先日の魔人のこともありますから、ひとりですとお互い心配ですしね」
「何だか、しれっとディスられた様な気がしないでもねぇんだが……まぁ良いか」
 変なところで変な方面に耐性がつき始めたらしいアーギスだったが、ともあれ、コルネリウスという強力で頼れる仲間と肩を並べることが出来たのは、彼なりにラッキーだったらしい。
 それは兎も角、アーギスの勘ではリオルもこの倉庫通りに居るのではないかとの推論を立てていた。領都とはいえ、王都から見れば地方の田舎町に過ぎないアジェルマハーでこうも立て続けに妙な怪異が生じたとなれば、魔人と放火魔を結び付ける発想が湧いてもおかしくはないというのが、アーギスの見立てであった。
 そして事実、倉庫通りの外れに至ったところで、数名の部下を率いているリオルとばったり出会った。
 リオルはすぐさま、コルネリウスとアーギスが倉庫通りに姿を見せた理由に思い至ったらしい。
「矢張り、おふた方とも放火と魔人の関連性を?」
「はい。アーギスさんも違和感を覚えているみたいですが、リオルさんも……ところで放火事件ですが、紋具が使われた形跡や、壊密宗以外にこの手の事件を起こしそうな心当たりはありませんか?」
 コルネリウスの鋭い考察に、リオルは流石ですと感嘆の息を漏らした。
 曰く、放火事件現場のすぐ近くの路地裏に、着火用の紋具と、霧吹き紋具が揃って放置されていたらしい。いずれの現場にも残されていたことから、これらが放火手段だったと見て良い。
 そして霧吹きで吹きかけられた油はシラー砂漠で採れる粘性の少ない植物油だった。黄色っぽい色合いで、被害者が放火直前に同色系の靄に包まれたのは、霧吹き紋具でこの植物油を噴きかけられた為だろう、とリオルは結論付けている。
 コルネリウスとアーギスにも異論は無かったが、ただひとつ、その植物油がシラー砂漠原産という点が気になった。
「そういえば最近、シラー砂漠出身の黒熱砂なるテロリスト集団が巷を騒がせている様ですが……」
 腕を組んで考え込むコルネリウス。と、そこへ伯爵邸方面から使用人風の年配男性が血相を変えて飛び込んできた。
 伯爵邸が正体不明の武装集団に襲撃され、占拠されたのだという。

●伯爵邸を目指せ
 文字通り閑散とした通りの中央で、アルマ・ヴァレンタインは両手を腰に当てて天を仰いでいた。
 アルマはこの日、別件で他の町へ向かう途中たまたま放火事件の話を聞き込み、依頼を受けた訳ではないが、是非捜査の手伝いをさせて欲しいと壮年の私設兵団員に持ちかけてみた。
 ところが彼女のちんまい外見が災いし、子供は危ないから早くおうちに帰りなさいと諭される始末だった。そこでアルマはその私設兵団員を態々冒険者ギルドまで引っ張っていき、暇そうにしていた受付嬢ティマニ・エレザンに、自身が冒険者であることを証明して貰った。
 すっかり恐縮した私設兵団員は平謝りで頭を下げ、アルマはドヤ顔をキメることで留飲を下げたものの、その後の調査で軽い気分が消し飛んでしまったのだ。
(うわぁ……アーギスさんが居るよぉ)
 残留思念を読み取りながら町中を徘徊していたアルマは思わず、うへぇ、と舌を出した。
 アルマの中では、どうやらアーギスは厄介な問題を引き付ける死神体質と認定されているらしい。
 彼が関わると死人が出たり、妙に複雑な事件が絡んだりと、ろくなことが無いというのがアルマによるアーギス評だった。
 そして事実、アルマが町のそこかしこで読み取った思念の欠片の中に、ひとに害を為すどす黒い悪意が連鎖していた。この悪意は全て一定の地点を向いている。即ち、メルゲンガー伯爵邸であった。
 これは事件の匂いがする――漸くアルマも腹を括ったが、放火魔と伯爵邸への悪意がどうにも結びつかず、ここで思考停止に陥ってしまったのだ。
「お、アルマじゃねぇか。お前さんも伯爵邸奪還の為に首突っ込んできたのかい?」
 不意に通りがかった死神アーギスから声をかけられ、アルマは半ば反射的に、引きつった笑みを返してしまった。だが、伯爵邸奪還というひと言が引っかかった。矢張り、何が事件が起きていたのか。
 その時、手近の邸宅の庭からアーギスにとって初対面となる人物が割り込んできた。
「もしかして、同業者か?」
 その人物は、ヴァン・ローラントと名乗った。アルマやアーギスと同じく、冒険者ギルドに登録されている授恵者のひとりだった。
 しかしヴァンは冒険者ではなく、探偵と名乗った。ロスガリアでは探偵という職は決して一般的ではない為、アルマとアーギスがヴァンの職種について理解する為には、多少の説明が必要だった。
「ふぅん……で、その探偵さんがここで何やってんの?」
 アルマの問いかけに、ヴァンは苦笑を禁じ得なかった。この邸宅の主たる裕福な住民から、庭先での警戒任務を依頼されたのである。
 探偵に対する依頼としてこの内容はどうなのかと小首を傾げたヴァンだが、そもそも探偵という職種が一般的ではなく、単純に何でもこなしてくれる冒険者という目でしか見られていなかった為、これも仕方の無い話であろう。
「ところで件の放火事件だが……ひとを無差別に殺すというよりも、今のこの状況を作ることが目的だったんじゃないかと思っている。そこで考えたんだが、現在この町かどこかの邸宅で何か特別な、或いは重要な会合なり会議なりが開かれているということは無いか?」
 ヴァン曰く、町全体を一種のひと払い状態へ持っていくのが放火事件の真の目的ではないか、と彼は睨んでいる。であれば、標的となる何かが別に存在する筈だ。
 成程と頷き返したアーギスが、伯爵邸でフランクス商会、テーベル商会、東ディズル手工芸商会の重鎮が呼び集められていることを語ると、今度はアルマが驚いた。
 町中に散在する微かな悪意が全て、伯爵邸に矛先を向けているのである。ヴァンの推測は恐らく、的を射ていると見て良さそうだ。
「……行ってみるか」
「ここの見張りは、やんなくて良いの?」
 門扉から通りへと踏み出してきたヴァンに、アルマが小首を傾げる。しかしヴァンの依頼主が根幹で願っているのは、放火事件の解決だ。ならばその根源を断つことが、依頼主の望みを叶えることにも繋がるだろう。
 最早是非も無い。伯爵邸こそが事態解決の最大のポイントだった。

●首領との遭遇
 メルゲンガー伯爵邸の裏庭に幾つもある茂みの中で、ベルクは邸内に漂う異様な空気を肌で感じていた。
 妙な緊張感が漂っている。しかしどういう訳か、衛兵たる私設兵団員の姿は全く見られない。
 一体どういうことなのか――リオルとの面会を求めてこのまま邸内に足を踏み入れて良いのかどうかと思案を重ねているうちに、一匹の栗鼠が塀伝いに駆け寄ってきた。ルチルの相棒ラトだろう。
 栗鼠は着地すると、ベルクの目の前で腰を落ち着けた。動く気配が無い。これはいい換えると、ベルクにもここで待機しろ、という意味合いに取れる。
(待て、ということか)
 恐らくルチルの方では既に邸内の状況を把握しているのだろう。であれば、ここは仲間との合流を待った方が良い。
 ベルクは鞘から短剣を二刀流に抜き払い、いつでも突入可能な態勢を取った。
 一方、冒険者ギルドでは引き返してきたコルネリウスとリディリディが受付カウンター前の応接テーブル上に伯爵邸の見取り図を広げて、突入の算段を練っていた。
 コルネリウスのもとへは伯爵邸の使用人が助けを求めに来たが、実はリディリディの方にも襲撃から逃げ延びた私設兵団員が助けを求めてきた為、漸く事態の急なるを把握したのである。
 アーギスとリオルは市中の巡回部隊を取り纏めてから冒険者ギルドに駆けつけるということで、先にコルネリウスが引き返してきた格好だった。
 そこへ、栗鼠のラトを通じて伯爵邸内の状況把握に努めていたルチルが姿を見せた。邸内に残っていた私設兵団は全員斃され、黒熱砂がほぼ完全に掌握しているのだという。
「放火事件は、この布石だったんだね」
 市中への巡回と壊密宗調査に多くの私設兵団兵が割かれたことで、伯爵邸の警備は極端に手薄となった。そこを襲うというのが黒熱砂の計画だったのだろう。
「フランクス、テーベル、手工芸商会の三者が集まるタイミングに合わせてってこたぁ、これは計画的だな」
「邸内に居る誰かが、裏で糸を引いている可能性も、あり得ますね」
 ルチルの落ち着いた声音に、リディリディの猜疑心に満ちた台詞が突き刺さる。
 だが今は兎に角、伯爵邸の現況を何とかしなければならない。更にアルマ、ヴァン、アーギス、リオル、巡回に出ていた私設兵団の各班長が集まったところで、突入計画が練られた。

 それから、十数分後――伯爵邸内では静かな戦いが進行した。
 敵は伯爵邸を占拠したことで慢心したのか、冒険者達の潜入を簡単に許した。攻撃は手厚いが、防御は脆い。テロリストの一種の特徴ともいえるだろう。
 リディリディとコルネリウスで奇襲的に敵の足を封じて機動力を奪い、アルマとヴァン、ルチルの魔術や飛び道具で的確に、そして迅速に仕留めてゆく。
 障害物や邸内の構造上、射線の届かない敵に対してはベルクが背後から音も無く近づき、呻き声や断末魔を漏らす隙も与えずに一撃必殺で始末していった。
 黒熱砂以外で生き残っているのは、応接間で囚われている三人の富商と老齢の家士長クアンクル・モレバーの他、自室で囚われているメルゲンガー伯爵だけと見て良かった。
 冒険者達は確実に敵の数を減らしつつ、応接室へと突入を果たした。
 が、そこに居たのはカーノス・フランクス、ジョハッシュ・テーベル、そしてイリオの三人だけだった。彼らはいずれも縄で縛られて身動きが取れなかったものの、大きな怪我は見られない。
 冒険者達が手早く三人を解放すると、イリオが驚くべきひと言を放った。家士長クアンクルは、黒熱砂のリーダーらしき男と連れ立って逃走していったのだという。
「まだ追いつけるか」
 イリオから、ふたりが逃げていった方角を聞き出したベルクが廊下へと跳び出す。そのすぐ後にコルネリウスとヴァン、アルマ、ルチルが続いた。リディリディは敵が引き返してきた場合を警戒して室内に残り、アーギスとリオルはメルゲンガー伯爵の救出へと向かった。
 廊下に出た五人は、突き当りの階段口に不気味な姿を認めた。
 目も鼻も頭髪も無く、乱杭歯が目立つ大きな口だけが異様に際立つ巨漢が、そこに佇んでいた。左肩の巨大な目がぎょろりと蠢く。
 噂に聞く壊密宗の首領、ジュラッツァ・ゲ・ラカンカに違いない。その背後で空間が揺らめいている。謎の混沌魔術を操るとは聞いていたが、遠隔地を結ぶ移動空間操作の技に長けているとの情報もあった。
 その揺らめく空間内へテロリスト風の男と、頭の禿げあがった老齢の人物が足を踏み入れようとしていた。
 コルネリウスが瞬間的に間合いを詰める。が、ジュラッツァはほとんど同時に天井を破壊し、瓦礫の山を築いてコルネリウスの進路を一瞬早く塞いだ。
 その直後、ジュラッツァとテロリスト、老齢の男は歪んだ空間内へと姿を消した。

マスターコメント

 ご参加ありがとうございました。  伯爵邸に至るまでの行動を皆様に自由に決めて頂くという、ちょっと今までやったことのなかった導入を採用してみましたが、どの冒険者様も説得力のある、それでいて独自の観点で面白い行動を取っておられました。  こういうスタイルも悪くないなと個人的には思ったのですが、皆様は如何だったでしょうか。  そして遂に壊密宗の首領ジュラッツァがお目見えです。彼と遭遇した皆さんはしっかり顔を覚えられました。彼らの目的はまだまだ謎に包まれていますが、敵として認識された以上、またそのうち姿を現します。  尚、メルゲンガー伯爵は無事に保護されましたので、ご安心を。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年10月24日 20時38分55秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. コルネリウス・アーラ

    ウォーリアのコルネリウスです、宜しくお願いします。 今回は、自由度が高いようですが「伯爵邸で発生した黒熱砂による占拠事件に、如何にして気づいたか、或いは辿り着いたか」を各々で考える事。 黒熱砂の戦闘員と戦うであろうこと。場合によっては魔人と遭遇すること。 を考えまして、「伯爵邸に辿り着き占拠事件を解決する・放火事件との関連性を見つける」事目標として考えれば良いでしょうか? 認識がずれている場合もありますので、ご意見頂けたら嬉しいです。 まだ何をするかは考えている途中ですが、私はひとまずアーギスさんと行動することを視野に入れています。

  2. No.3

    あの・・・、キャスターのリディリディです。 よろしくお願いします・・・。 今回の登場人物は、 ・メルゲンガー伯爵(拘束中・場所不明) ・リオル私設団長(調査中・場所不明) ・受付嬢ティマニ(受付・ギルド内) ・アーギス(調査中・街中) ・富商三名(拘束中・伯爵邸) というような状況になっていると思います。 そうですね・・・。 「敵」として黒熱砂が設定されている以上、 アーラさんの仰るように占領事件の解決までが依頼の目的あるいは目標になりますね。 >放火事件との関連性を見つける 人体放火事件が黒熱砂によるものかは知りたいところですね。 他にも疑問点はいくつかあるのですが、そちらは占領事件とは関係がないかもしれません。 とにかく情報が欲しいですし、ギルドへ向かうつもりです。入れ違いになるかもしれませんが、私もマーレイさんと合流できればと考えています。

  3. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー 如何にして気づいたか、或いは辿り着いたか、かー… 入れ違いのアーギスさんを探し中に残留思念感応で勘づいたことにでもしようかな… 占拠事件のほうは中の様子を探るのに透視を使おうとおもってるよ 放火との関連の調べ方はー…いまのところ思いつかないや

  4. ヴァン・ローラント

    探偵をやっているヴァンだ。 外出自粛令執行の翌日に事件発生か…、なんか仕組まれている気がするな。 俺は個人的に仕事を受けてアジェルマハーにいるかな。 「人体放火事件が怖いから、敷地内に不審者を入れない様に用心棒していてくれ!」とかの依頼を受けてる体で。

  5. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。よろしく。 さてと、次は不可解な焼殺事件に外出自粛令と占拠……。 色々起きてるが当座の目的は黒熱砂の占拠事件に気づいて対処する事、か。 はっきり言ってしまうと占拠事件に気づくだけなら焼殺事件との関連性を導き出さなくてもできる気がするんだよな。 ただ時期が重なっているからね。何が起きているかのプラスアルファは欲しい。 とりあえずアプローチ法は自由に選択できる感じか。 アーギスとの合流は先に表明している者がいるし、事件への調査を依頼されたか商工会絡みで関わってる事にするかね。 取引先と相談せざるを得ない日に限って推定無差別連続殺人事件が未解決とか、謀られているようなものだしね。

  6. コルネリウス・アーラ

    リディリディさんはNPCの状況を記載して頂いてありがとうございます。状況が解りやすくなりました。 占拠事件に気付くまでの過程で、焼殺事件についても上手く情報を拾って関連の有無を確認できるかもしれませんね。 皆さん自由に行動しているようですから、別々に伯爵邸に行くのか、何処かでうまく集まってから行くのかは少しすり合わせておきたいですね。

  7. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ、よろしく頼む。 我は、そうだな。 壊密宗の情報が王国の貴族情報網で上がってないリオル殿を訪ねに裏からこっそり伯爵邸に近づいて事態に気づいた。という体でいこうか。 裏から近づく理由としては壊密宗の魔人になんか餌扱いされてるので怯えてコソコソしてる感じで(

  8. No.9

    >別々に伯爵邸に行くのか、何処かでうまく集まってから行くのか そうですね・・・。 アーラさん、ご一緒しても良いでしょうか。 ギルドに寄ってからとしますが、私もマーレイさんと合流をする予定ですし。 合流前に何らかの理由を使って伯爵邸の事について気づくようにはします。

  9. コルネリウス・アーラ

    >リディリディさん はい、勿論です。 前回、魔人に味?を覚えられたようですし、念の為一緒に行動する方が私も安心です。 ギルドに寄って、そこで合流してから向かいましょうか。

  10. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    >味を覚えられている それも確かだ。同じく目を付けられたコルネリウスとリディリディが合流するなら、邪魔でなければベルクは何処かで見つけておいた方がよさそうか。 どうだろう? 全体の合流は…最終的に黒熱砂を抑えに乗り込むなら大所帯になり過ぎて目立つという事も避けたいが、焼殺事件と立てこもり事件の関連性を上げたいなら情報共有はしておきたいって考えだな。

  11. アルマ・ヴァレンタイン

    間が空いちゃってごめんねー ボクは魔人さん未見だからソロ行動で伯爵邸まで…着けるといいなあ 敵はそんなに強くないみたいだけど 人質?が商人さん達(応接室)と伯爵様(場所不明?)で二か所にわかれてるっぽいし 所在とか間取りは捜波(双波?)で調べてもらうかして 制圧を手分けするか順番にまわるかー…はどっちがいいのかな いちおう突入前か直後に担当場所の人質さんを光縛封で保護しようと思ってるよ

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0