【呪輪】回り道、思いと一歩
狐野径
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シナリオID:1484
オープニング
●プロステン
フィルエス大森林の南東部で発生していた木や草など植物の枯死。
その調査の指揮を執るために、グレイオンスは大森林の外に行きやすいプロステンに拠点を築いていた。プロステンも木々が枯死していた現場の一つでもあったこともある。
冒険者のお陰で植物の枯死の原因を突き止められた。その原因はメドゥの指先の幹部『青の示指』フェンヌ・ダーニが作り出した植物型魔獣だ。彼女も止めるために倒す事で決着をつけた。
フェンヌが行ったことは大森林で暮らす者にしてみれば許されないことである。
一方で、彼女の過去にあった恋人や子を失った悲しみの大きさは測ることはできない。
二つの出来事を単純に比べることはできない。
もし、指揮を執る者が揺らげば、犠牲は増える。
だからこそ大樹のように揺らぐことなくグレイオンスは指示を出した。
全てが終わり、一息つくと、違う方法もあったのだろうかとか、「もしも」などの考えが浮かぶ。
「もしも、は、ウルが気にしていたからな……彼女とその子らを」
ウルはグレイオンスのところに預けられた瀕死のハーフビーストの赤子だった。
フェンヌはハーフビーストの恋人とその間の子も、愛するべき存在だった。
ウルは自分との落差を感じずにはいられなかったのだろう。
グレイオンスはそれに引きずられるように、彼女の子が育っていたらというのを考えた。
きっと、グレイオンスや里人が見てきたエルフの子らとウルとのやり取りなどが見られるのではないか、と想像した。
「墓に参るくらいは……」
グレイオンスはフェンヌが研究を行っていた里ムーセルを、自分の目で見ておこうと考えていた。最初から遠回りをして帰るつもりだったので、そこから比較的近いフェンヌの故郷モルアモに寄ったところで大して問題はないと考える。
ただし、同じ里の人やウルに言っていない。
彼らは止めようとするだろうが、グレイオンスは曲げる気はない。
グレイオンスが自分の住まう里に戻る準備は、ついてきていた里の人たちやウルが粛々と進めている。
もともと荷物は少なかったので手間取ることもないはずだ。
当初は、グレイオンスも片付けるつもりだったけれども、里人やウルが仕事を取っていった。
年寄りはじっとしていていいという彼らの言葉であったが、結局、プロステンの里長や滞在中に関係があったエルフなどが挨拶に来るため、荷物まとめをしないですんでよかったのだった。
人の出入りが途切れ、グレイオンスは家の中で一人になった。そのため、外を見て、音を聞いていた。
馬の蹄の音がグレイオンスがいる所に届く。帰る準備が整ったのだろう。
扉が開いたあと、慌ててノックをして、ウルが入ってきた。
「準備できたぞ!」
「そうか」
グレイオンスは帰路のルートについて言った。
「ウルや冒険者から話は聞いていたが、ムーセルの辺りを実際に見ておこうと思う」
「……は?」
ウルがきょとんとしたため、グレイオンスは言い方を変える。
「ムーセルとモルアモを経由して、帰ることにする」
「は、はああああああああ!?」
ウルが素っ頓狂な声を上げ、外で聞いていた里の者たちも「え、えええええ!?」と声を上げている。
ウルや里人にとって、グレイオンスが自分の目で見たいというのも理解はできる。
植物の枯死だけでなく、多くの人の命が失われていることや、フェンヌ・ダーニの殺害を依頼をしたなど様々なことが関わっているからだ。
現場の状況を考えると、危険がまだ多くある。
「まだ安全とは言い切れねぇんだぞ!」
ウルが説得を始める。
グレイオンスについてきた里の人たちも加わって「今でなくてもいいでしょ」と説得する。
しかし、グレイオンスが決めたことをやめるならば、決定的な問題がない限り無理だとウルたちは理解していた。
それでも必死に説得した。
結局、数分後にウルたちは敗北した。
「ウル、諦めてくれ」
「グレイオンスさん、頑固だもん」
「ウルがちっこいのと同じで、昔から変わらない」
「ウル、お前が頼りだからな」
里の人たちは、ウルの肩をポンポンと叩いて、慰める。
ついていくならば、授恵者がいいし、荷物の運搬もあるため別行動がいい。
「……うう……せめて、冒険者雇うとか……そもそも、俺だって身長伸びたし……ちっこいいうな……」
ウルが自信なさげに言う。それでも、グレイオンスだけは守る覚悟はある。
「……はぁ……グレイは昔から、頑固爺だもんなぁ……俺が大人にならなきゃ!」
ウルはぶつぶつ言ったのち、覚悟を決めてつぶやいた。
それを聞いた里人は笑顔でうなずき、ウルの頭を撫でる。
「ぜってー、俺が身長伸びなかったの、エルフの呪いだ!」
ウルは叫んだ。
「ないない、そんなの」
大人たちは笑いながらも、さすがに撫でるのはやめた。
それからちょっと時間が進む。
グレイオンスは馬上の人になり、ウルは手綱を持った。
ウルはプロステンの里の見慣れた子どものエルフの見送りに、手を振り返した。
大森林を出入りすれば、また会うこともあるかも知れない。
しかし、子どもの方は、色々楽しいこともあるから、ウルなんて忘れるかも知れない。
ウルはそれでもいいと思う。
最初はハーフビーストを遠巻きで見ていたけれども、今では手を振ってくれる仲になれたのだから。
●大森林、南東部の様子
フィルエス大森林の南東部も穏やかさを取り戻していた。
枯死した植物はそのままであり、植物型魔獣は徘徊している。状況によっては魔物も現れる事もありうる。
穏やかなのは原因が分かったというだけで、まだ課題は山積している。
それでも、状況がわかれば地域に住むエルフたちも活動を開始する。
枯れた植物を集めて燃したり、土に問題がなければ、整備を始めたりなどする。
南東部の奧地に向うにつれてその行動は難しくなってくる。飛び交った胞子の量が多いことや土の腐りなど発生もしているためだ。植物型魔獣の活動も多く見られる。
特に、フェンヌが拠点としていたムーセルの里については、生き残れた人はわずかであるし、住めるようになるには時間は掛かるだろう。
それでも誰かが整備を始めなければ、踏み出す一歩は遅くなる。
ムーセルからフェンヌの故郷であるモルアモの里に向かう道には、ちょっと育ったケアイデがいる。
いつから生えていているのか分からないけれども、育つのに問題ないからそのままいるようだ。
モルアモの人は無理にそこを通らないため、そのケアイデの存在は知られていない。
ケアイデはのびのびとご飯を食べ、成長している。そのために土が腐り出し、メリデやピンジが集まっている。
モルアモの人たちは、フェンヌの遺体を引き取り、彼女の恋人と子の墓の隣に埋葬した。
氏族の者はフェンヌしたことは許すことはできないが、彼女の悲しみに寄り沿うことは忘れたくなかった。
フィルエス大森林の南東部で発生していた木や草など植物の枯死。
その調査の指揮を執るために、グレイオンスは大森林の外に行きやすいプロステンに拠点を築いていた。プロステンも木々が枯死していた現場の一つでもあったこともある。
冒険者のお陰で植物の枯死の原因を突き止められた。その原因はメドゥの指先の幹部『青の示指』フェンヌ・ダーニが作り出した植物型魔獣だ。彼女も止めるために倒す事で決着をつけた。
フェンヌが行ったことは大森林で暮らす者にしてみれば許されないことである。
一方で、彼女の過去にあった恋人や子を失った悲しみの大きさは測ることはできない。
二つの出来事を単純に比べることはできない。
もし、指揮を執る者が揺らげば、犠牲は増える。
だからこそ大樹のように揺らぐことなくグレイオンスは指示を出した。
全てが終わり、一息つくと、違う方法もあったのだろうかとか、「もしも」などの考えが浮かぶ。
「もしも、は、ウルが気にしていたからな……彼女とその子らを」
ウルはグレイオンスのところに預けられた瀕死のハーフビーストの赤子だった。
フェンヌはハーフビーストの恋人とその間の子も、愛するべき存在だった。
ウルは自分との落差を感じずにはいられなかったのだろう。
グレイオンスはそれに引きずられるように、彼女の子が育っていたらというのを考えた。
きっと、グレイオンスや里人が見てきたエルフの子らとウルとのやり取りなどが見られるのではないか、と想像した。
「墓に参るくらいは……」
グレイオンスはフェンヌが研究を行っていた里ムーセルを、自分の目で見ておこうと考えていた。最初から遠回りをして帰るつもりだったので、そこから比較的近いフェンヌの故郷モルアモに寄ったところで大して問題はないと考える。
ただし、同じ里の人やウルに言っていない。
彼らは止めようとするだろうが、グレイオンスは曲げる気はない。
グレイオンスが自分の住まう里に戻る準備は、ついてきていた里の人たちやウルが粛々と進めている。
もともと荷物は少なかったので手間取ることもないはずだ。
当初は、グレイオンスも片付けるつもりだったけれども、里人やウルが仕事を取っていった。
年寄りはじっとしていていいという彼らの言葉であったが、結局、プロステンの里長や滞在中に関係があったエルフなどが挨拶に来るため、荷物まとめをしないですんでよかったのだった。
人の出入りが途切れ、グレイオンスは家の中で一人になった。そのため、外を見て、音を聞いていた。
馬の蹄の音がグレイオンスがいる所に届く。帰る準備が整ったのだろう。
扉が開いたあと、慌ててノックをして、ウルが入ってきた。
「準備できたぞ!」
「そうか」
グレイオンスは帰路のルートについて言った。
「ウルや冒険者から話は聞いていたが、ムーセルの辺りを実際に見ておこうと思う」
「……は?」
ウルがきょとんとしたため、グレイオンスは言い方を変える。
「ムーセルとモルアモを経由して、帰ることにする」
「は、はああああああああ!?」
ウルが素っ頓狂な声を上げ、外で聞いていた里の者たちも「え、えええええ!?」と声を上げている。
ウルや里人にとって、グレイオンスが自分の目で見たいというのも理解はできる。
植物の枯死だけでなく、多くの人の命が失われていることや、フェンヌ・ダーニの殺害を依頼をしたなど様々なことが関わっているからだ。
現場の状況を考えると、危険がまだ多くある。
「まだ安全とは言い切れねぇんだぞ!」
ウルが説得を始める。
グレイオンスについてきた里の人たちも加わって「今でなくてもいいでしょ」と説得する。
しかし、グレイオンスが決めたことをやめるならば、決定的な問題がない限り無理だとウルたちは理解していた。
それでも必死に説得した。
結局、数分後にウルたちは敗北した。
「ウル、諦めてくれ」
「グレイオンスさん、頑固だもん」
「ウルがちっこいのと同じで、昔から変わらない」
「ウル、お前が頼りだからな」
里の人たちは、ウルの肩をポンポンと叩いて、慰める。
ついていくならば、授恵者がいいし、荷物の運搬もあるため別行動がいい。
「……うう……せめて、冒険者雇うとか……そもそも、俺だって身長伸びたし……ちっこいいうな……」
ウルが自信なさげに言う。それでも、グレイオンスだけは守る覚悟はある。
「……はぁ……グレイは昔から、頑固爺だもんなぁ……俺が大人にならなきゃ!」
ウルはぶつぶつ言ったのち、覚悟を決めてつぶやいた。
それを聞いた里人は笑顔でうなずき、ウルの頭を撫でる。
「ぜってー、俺が身長伸びなかったの、エルフの呪いだ!」
ウルは叫んだ。
「ないない、そんなの」
大人たちは笑いながらも、さすがに撫でるのはやめた。
それからちょっと時間が進む。
グレイオンスは馬上の人になり、ウルは手綱を持った。
ウルはプロステンの里の見慣れた子どものエルフの見送りに、手を振り返した。
大森林を出入りすれば、また会うこともあるかも知れない。
しかし、子どもの方は、色々楽しいこともあるから、ウルなんて忘れるかも知れない。
ウルはそれでもいいと思う。
最初はハーフビーストを遠巻きで見ていたけれども、今では手を振ってくれる仲になれたのだから。
●大森林、南東部の様子
フィルエス大森林の南東部も穏やかさを取り戻していた。
枯死した植物はそのままであり、植物型魔獣は徘徊している。状況によっては魔物も現れる事もありうる。
穏やかなのは原因が分かったというだけで、まだ課題は山積している。
それでも、状況がわかれば地域に住むエルフたちも活動を開始する。
枯れた植物を集めて燃したり、土に問題がなければ、整備を始めたりなどする。
南東部の奧地に向うにつれてその行動は難しくなってくる。飛び交った胞子の量が多いことや土の腐りなど発生もしているためだ。植物型魔獣の活動も多く見られる。
特に、フェンヌが拠点としていたムーセルの里については、生き残れた人はわずかであるし、住めるようになるには時間は掛かるだろう。
それでも誰かが整備を始めなければ、踏み出す一歩は遅くなる。
ムーセルからフェンヌの故郷であるモルアモの里に向かう道には、ちょっと育ったケアイデがいる。
いつから生えていているのか分からないけれども、育つのに問題ないからそのままいるようだ。
モルアモの人は無理にそこを通らないため、そのケアイデの存在は知られていない。
ケアイデはのびのびとご飯を食べ、成長している。そのために土が腐り出し、メリデやピンジが集まっている。
モルアモの人たちは、フェンヌの遺体を引き取り、彼女の恋人と子の墓の隣に埋葬した。
氏族の者はフェンヌしたことは許すことはできないが、彼女の悲しみに寄り沿うことは忘れたくなかった。
解説
●目的・目標
フィルエス大森林の南東部で何らかの活動をして過ごす。
●活動?
ムーセルやその周りで枯死した植物をどうにかしたり、
巡回をして、ケアイデたちを見つけたり、討伐してみたり、
犠牲者などの弔いを行ったり、モルアモに寄ったり、
プロステンまたは途中からグレイオンスの護衛したり、
などできます。
それ以外はOPや解説などから検討して下さい。
●NPC
・グレイオンス 冒険者に依頼を出していたし報告ももらっていたけれども、ムーセルなど状況を見ておきたいと考えた。
基本、馬に乗っている。
・ウル・ヘルバ 護衛もかねてグレイオンスの馬の手綱持って歩いている。
戦いに自信がないといったことがあるけれども、とりあえず、それは脇に置く。
グレイオンスは守るという意識は強い。警戒中で耳がピコピコ動くし、コートの下でしっぽが膨れている。
●グレイオンスの旅路のルート
プロステン出発、ムーセルとモルアモ経由、自宅。
冒険者がいるのはこのルート上。
日数掛かりそうとか、道中の時間はやんわりとぼかしており、道中は全部昼間です。
●確実に出現するもの
OPに示されているムーセルとモルアモの途中に敵がおります。
排除していただける方が良いですが、しない場合は、グレイオンスは迂回して通るだけです。
・ケアイデ 1体。大きさ5メート程。つぼみは開きそうにない。
ツタと根っこで頑張って近づいた者を攻撃する。
・メリデ×3 ケアイデを守ろうと頑張る。葉っぱで敵を攻撃しようとする。
木と木の間にいるので見づらい。
・ピンジ×3 ケアイデを守ろうとしているらしい。
攻撃される前も胞子を飛ばしているかも。
やる気だけはあるらしい。
マスターより
こんにちは、狐野径です。
皆さまのおかげで、【呪輪】この内容をお届けいたします。
フェンヌが眠るのは故郷となりました。
なお、コメント書くには涙もろいのであっさりさらりと。
よろしくお願いします。
リプレイ
●出発
フィルエス大森林の南東部で発生した木々や草など植物の枯死。その原因を作った人物であるフェンヌ・ダーニがこの世を去っても、命の輪が途切れた森は簡単に戻らない。
そのため、冒険者たちはムーセル周辺の調査や魔獣討伐に行くことになる。
そのような中、奧地に向うにあたり、プロステンという里を通過することが多かった。
そこで情報を集め、解決のための指揮を執っていたグレイオンスが居たためだ。
冒険者たちが今回通ると、グレイオンスはこの里を去り、自宅に戻るという。この里を通る理由も減るだろう。
グレイオンスは、ムーセルとモルアモを経由して帰るという。
話を聞いた冒険者は護衛を買って出る者もいる。
グレイオンスが安全に通れるならば、状況は改善しているとも捉えられる。
実際は行ってみないと分からないことだった。
海神・江流はガルシア、エフィルミアやナキルと共に、ムーセル周りの植物型魔獣の掃討、植物や土壌の調査を行う予定で来ている。
プロステンで情報を集めて通過しようとした。グレイオンスが帰宅するという話も聞く。準備しているエルフやウル・ヘルバの姿が見えた。
ナキルはグレイオンスがムーセルを通って帰るということを聞き、やる気がアップした。
「あの辺、また色々魔獣いそうだもんな。じーさんが行くっていうんだし、迂回せずに済むようにしておこう」
ナキルはモルアモ近くでのフェンヌとの遭遇や決着に関わってもいた。
最初の遭遇場所を考えると、ムーセルからの道中に植物型魔獣が残っている可能性がある推測していた。それに、こちら側からムーセルには目が行きやすいが、ムーセルを通過した後のところは目が行きにくいかもしれない。
江流はグレイオンスのルートやナキルの話を聞き、今回の活動範囲を考える。
「ムーセルからモルアモルートを選ぶか……それでも、広いな」
ガルシアは「構わないですよ」と答え、続けた。
「すべて見られるならいいですが、範囲が広いのは承知です。それでも少しでも枯死した植物を片付けたり、土の状況を見たりして行きたいです」
片付けをする冒険者はあちこちに入っているはずだ。
エフィルミアは仲間が方針を定めているのを聞き、特に異存はない。見覚えのあるウルがエルフに頭を撫でられ、怒っている声が聞こえてきた。
「身長が伸びないようにっていう、エルフの呪いだ!」
エフィルミアは考える。ウルは確かにハーフビーストの成人男性としては小柄であり、エフィルミアより低い。
エフィルミナはナキルをちらりと見る。
ナキルは「もっと大きくなる」と信じているし、色々努力している。そもそも、ハーフリングなのであるということもある。
エフィルミアはエルフであるし、「身長が伸びない呪い」などないと知っている。しかし、あるならばエルフという条件でいいなら、エフィルミアは掛ける事ができる。
「ちょっと、ナキル君にも掛けておきましょう!」
エフィルミナは江流と話をしていたナキルに近寄ると、頭を撫でた。
「ミア!? 何すんだよ!」
エフィルミアは答えない。微笑んで、答えない。
サシャ・テーリングは大森林の植物枯死の件で何かできることはないかと考えていた。
状況の把握も兼ねてプロステンに来て、グレイオンスの護衛ということで、見て回ることにした。
「飛び入りで参じましたが、多ければ別の所でも」
「別にかまわねぇだろ? 何かしたいって考えるにしても、ムーセルまで行くなら、一緒で。もちろん、お前がしたいこと見つけたら、別れたっていいし」
ウルが答える。
「ではご一緒いたします」
「おう」
サシャは歓迎され、ほっとした。
植物型魔獣など敵意あるものとの戦闘となるならば、必要に応じて冒険者に対して魔法で支援をするつもりだ。
ダムド・フィリスはグレイオンスの護衛につくかどうか悩んだ。
それなりの人数が集まっていることもあったからだ。
ムーセルで作業をするにしても、結局、この一行も進むのだ。
「冒険者がまとまっているわけだし、近づく魔獣がいれば討伐しやすいのか」
護衛半分、討伐半分。
グレイオンスが立ち去るということで、里の人も見送る。
小さいエルフはグレイオンスより、冒険者の方に興味を持っている。手をぶんぶん振って見送っていた。
ダムドはそれを見た後、一行の一歩前を行くため出発した。
道中の安全確保の一環で偵察だ。
位置感覚を駆使し進み、戻る。
【捜波】をもって不審なものがないか確認する。
必要であれば、自分で、人手が必要だったら他の冒険者に声を掛けることになる。
何もいないということはないと考えるが、さすがにプロステン近くは植物の枯死の状況と同じく特に判断が必要そうなものはなかった。
シェオルは先日、フェンヌ討伐に関わる。
その際、フェンヌが今回の事件を起こすきっかけなど経緯は聞いている。植物型魔獣の対応を行っており、フェンヌに直接会ってはいないが、思うところはあった。
「……ちょっとだけだけど、戦いには関わったから、お墓参りしておきたいな」
植物型魔獣を我が子のように育てていたフェンヌはいなくなったとはいえ、魔獣が消えたわけではないため、用心して向かうのだった。
●道中
エリザ・A・ミシャールはグレイオンスの護衛として大森林に入る。
エルフであっても放浪していたため、大森林に定住するエルフとの考え方の差は感じていた。
ここで話をする事で、近いようで遠かった大森林のエルフたちを知るきっかけになるかも知れないと感じていた。
森を進むと、徐々に植物の枯死は増える。それに、残っている胞子などが増えてくる。
冒険者や近くの集落のエルフが対処しても、簡単に終わる物ではない。
休息の時、グレイオンスにエリザは話しかけた。
「いやさ、他のヤツにさんざん言われるとは思うんだけど、どうして、今なのか? フェンヌの記憶や一連の出来事が風化しないうちに、行くことが重要なのだろうか、て思うんだ」
グレイオンスが「だから、行くのだ」と告げると、続けた。
「指揮は執った。しかし、何も見ていない。頼み冒険者やウルからは話を聞いた。それでも十分かも知れないが、見て、知ることは積み重ねて私がある」
グレイオンスは森の先を見る。
エリザも見るが、ここから見える景色は緑溢れる大森林の状況からはかけ離れている。
森は白く煙っているように見える。枯死した植物の影響や胞子の残留物などだろうか。
「これは、今見ないといけない?」
「長く生きようが、今しかない。今見ておく必要がないとは言い切れまい?」
「今後を知るためということかい?」
「そうだな。私ができることなど大したことはない。それでも助言を求められるならば、そのときに見ていたのとそうでないのでは違う」
エリザはうなずく。
「アタシはフェンヌの最期を見た一人だ。逆に聞きたいことあれば聞いてくれ」
「そうか……」
フェンヌの最期を見届けたということで話せることは答えるつもりだ。それは、責任であり、欺瞞でもあるとエリザは考えていた。
質問をすること、されることで一つずつ埋まる。
ライナ・フレイヴァルツとフロマーシュ・ダイヤドロップはグレイオンスの護衛という形で森に入る。
ライナは【超聴覚】で周囲を警戒し、フロマーシュは【透視】や【看破】を用いて捜索をする。
ライナは必要ならば魔法での攻撃、フロマーシュは【シーザーロア】で敵を引きつけたり、襲われている仲間がいればかばうつもりだ。
状況を見て、的確に護衛としての行動を行う。
調査や戦闘で進んだ時よりも、森の様子は明るく見える。
それでも、ムーセルの近くになると、事件の痕は多く残る。
植物型魔獣との遭遇も増える。
先行する冒険者からの声も上がるため、早めに見つけ、討伐をして行く。
冒険者たちは連携を取り、行動するため、問題なく対応はする。
ライナは植物型魔獣と対峙したとき、フェンヌの様子を思い出した。
(魔獣だが、自分の子どものように思っている様子だった)
戦いのなかで植物型魔獣を見ていると、その植物たちも何か迷っているように感じられる。
(……この子たちの様子もまるで……)
魔獣もフェンヌに対して思うことはあるはずだ。魔獣に同情することはできない。大切な人を失う人を増やすことにつながる。
きちんと倒すのが、お互いのためだった。
フロマーシュは【衝撃刃】で攻撃後、魔獣が動かなくなったのを確認する。
「怪我をしている人いますか? 【ヒール】使います?」
と声を掛ける。
行動を共にしている冒険者たちとのやりとりをしながら、フロマーシュはフェンヌのとのやりとりを思い出した。
(あの人にも守りたいものはあったのですね……)
フロマーシュたちにとっては害になるものだとしても、彼女にとっては愛すべきものだったのは明白だ。最期は魔獣を守るための行動と捉えることができるからだ。
アルマ・ヴァレンタインはフェンヌの命の炎が消えた直後、【残留思念感応】を用いていた。
そのこともあり、グレイオンスとウルと話をしたいと考えていた。
護衛といっても、人数もそこそこにいるし、何事もなければそこまで危険はないだろうとは思う。
それでも【聴視覚】で周囲を見渡すことは忘れない。
グレイオンスに話しかけるにしても、移動中は難しい。ウルは馬の手綱を引いているし近くにはいるが、グレイオンスは馬の上にいる。【エリアサイレンス】を掛けて話すことは、移動中は危険だ。
馬を下りて休息を取るとき、声を掛けた。
「あの、少し、話をしてもいいですか? あ、ウルさんも」
グレイオンスはうなずき、ウルはきょとんとしてやってくる。
アルマはグレイオンスの隣に座るが、視線が結局遠いため、断りを入れ立つことにした。
「フェンヌさんの最期直後に【残留思念感応】を使ったんです」
研究所のこともあったためという理由も、念のため告げた。全体的に曖昧であったけれども、フェンヌの感情は大きかった。
「大部分は他者への恨みと怒り、それとほんの少しだけ見えた他者を慈しむ気持ち、でした」
グレイオンスとウルは黙って聞いている。
「えっと、誰彼に聞かせるようなことじゃないけど、グレイオンスさんとウルさんには知ってほしかったからね」
ウルが深刻な顔になってきたし、【エリアサイレンス】使った方がよかったかなとか色々考える。なお、グレイオンスの表情は特段変わったと捉えられなかった。
ウルがカシカシと頭をかいている。
「子どもや恋人の事もあるし……あ、でも、他者? メドゥの指先の関係者も出入りしてたよなぁ……」
「どうなんだろう?」
アルマはそう言われると、フェンヌも人とのつながりはあったと思えた。
グレイオンスはつぶやく。
「……復讐は目的ではなくとも、行く末が異なり森を食い尽くすことを選んでいる」
ウルが「だよなぁ」と溜息をつき、アルマも「そうですよね」とうなずく。
「まぁ、結果として……ありがとな、言いづらそうなことを」
「いえ! あ、そうだ……あのとき――」
ウルに答えた後、しばらくその近辺の話しなどして、出発するのだった。
サシャは道中、植物の枯死がひどくなる有様をみて衝撃を受ける。
話しに聞くのと、実際見るのでは違う。
「元の森はどのような様子でしたか?」
と問うけれども、グレイオンスは「ウルのほうが知っているだろう」とウルに回される。
「まぁ、最近……いや、待て、俺がこの辺り来たの十年前だぞ」
サシャはやりとりを聞きながら、人間同士でもありそうだと気付く。
ウルはサシャと年齢が近いし、グレイオンスがエルフでも年ということを考えれば自ずと分かる。
「うーん、森だった」
「え?」
「……どのようなって言われても。木は元気だったし、鳥や動物もいたし」
「なるほど、そういう意味ですね」
サシャは耳を澄ませた。
生き物の息づかいは聞こえない。聞こえるのは、冒険者が歩む音。
「見てみたいです」
サシャは思いをはせた。
●森の回復の一助
カルフ・オルヴォとエルシー・サリバンは植物が枯れた地域に足を踏み入れた。
初対面であるけれども、エルシーの恋人の紹介で一緒に作業することになった。
エルシーは大森林の状況に対して、何か手伝えることはないか考えたけれども、戦うしか思い浮かばなかったこともある。
カルフはムーセルの土壌回復の助けになるような行動を取るつもりだった。単独でもするつもりだった。カルフは荷馬車を用意した。そこに腐葉土や肥料を載せ、できる限り作業を進めようとしていた。
エルシーが加わることで、見る範囲も広くなるし、作業もよりできるだろう。
ムーセルに向う途中も、地図を手に、状況は把握していく。人の手が入りづらい部分などもあるかも知れない。
エルシーは【捜波】やホークアイ、エーテルリンクしているリスによる視界などを駆使し、状況を見る。
「ムーセルに近くなると、ひどくなってくるね」
「やらなくてはなかなか戻らない。結局、人海戦術だな」
「そうだね」
道中見た被害の状況は地図に書込んでいく。書込まれると、植物の枯死が発生した場所の範囲は広いことは明らかになる。
ムーセル近郊で、本格作業開始だ。
カルフは朽ちている木を【衝撃波】や【薙ぎ払い】で打ち倒す。衝撃でそれらは砕ける。手応えは薄い。
崩れ方や被害の具合を地図に記載していく。どういう経緯か分かる範囲で。
動植物の行動によって、土の状況も変わってくる。だからこそ、今回現れていた植物型魔獣の性質からどうなるかは推測できる。その上、腐食も加わる地域もある。そうなると、土や植物への対応は変わる。
一方、エルシーも【貫通衝撃射】や【炸光矢】で土や枯れた木の枝など吹き飛ばす。
「枯れ色より、カビ色だね」
粉砕されたものが舞うと白っぽい。
「魔獣の影響ってことだよね」
自然でも腐るけれども、この腐り方は何かの手が加わらないとできない。もちろん、どのくらいの時期から魔獣がいたかにもよるだろう。
緑豊かな森だったと想像するのが難しいくらいだ。
それなりに作業をして、カルフが「少し休むか」声を掛ける。
エルシーは「そうだね」という。
休まないと体は持たないが、二人は最小限の休みに止め、できる限り作業をしていくことに決めていた。一定時間経つと、作業を開始する。
エルシーは鋤で土をひっくり返し、腐葉土を入れる作業をしてふとつぶやく。
「睡眠短くて済むのは良いけど、追い込まれた感じで寂しいね」
鋤など道具を用いて土を掘り、土の状況も見ていく。
カルフは「汗をかくのも悪くはねぇがな」と答えながら鋤を使う。
腐っている部分の層を確認する。それによってはどけるか、肥料と健康な土で自然回復を待つか考える。
エルシーは鋤を入れるだけでも土が変わる状況を見る・
「自然の再生力はすごいんだよ、さぁお手伝いして行くね」
カルフは「おう」と告げる。
「ここの肥料と腐葉土がなくなるまではまず続けるぞ」
この辺りの植物の種とは異なるものも存在する。それは植物型魔獣が投げた種の可能性が高い。
そういったものも排除していく。
他の冒険者も枯死した植物などを燃しているのか、煙が見える。
燃してしまうのも一つの手と考えながら作業を進める。
カルフやエルシーのしている作業も、地道であるが、この地域の未来に必要な一歩なのは間違いなかった。
●捜索
ナタリア・フィッツジェラルドはフェンヌ討伐にも関わった。
そのこともあり、ムーセル周辺の状況の対応にやってきた。
ムーセルの状況は簡単に良くなるものではないと分かるため、グレイオンスが通るルートにケアイデなどいれば排除するという目的を作る。
一行より先に現地に向う。歩み進めると感じるのは、森の中は以前より、穏やかな雰囲気はすることだ。
「状況が分かっているからそう見えるのだろうな」
ナタリアは分析する。それでも、片付けられているところもあると、少しずつ進んでいるのは分かる。
ムーセル近くに行くと、傷跡のひどさを感じる。
ムーセルのそばに来ると、様々な作業をする冒険者の姿もあるけれども、魔獣の姿もある。
「やはり、気をつけないと隠れているな」
魔獣は木々の間にひっそりある。以前より舞っている胞子が少ないため、植物型魔獣姿は分かりやすかった。
討伐しつつ進む。
「元気がないのは、生息域の状況の変化か?」
状況の変化の影響がないとは言い切れない。
ナタリアはケアイデの姿を探していた。植物型魔獣の性質を考えるとケアイデがいることで、メリデやピンジが生息しやすくなる。ならば、それを減らす必要があるのだ。
ムーセルからモルアモに抜けるルートに入った。
エフィルミアは張り切って行動する。
「今日の私は魔法少女ですよ!」
【捜波】で敵を発見したら仲間に伝え、森が枯れていなければ【メテオライト】、枯れていれ掃除もかねて【ストーンブラスト】で敵も攻撃するつもりだった。攻撃について、魔法主体だ。
張り切るエフィルミアを見つつ、ナキルはツッコミを入れる。
「……魔法少女って……やっぱ、『お姉さん』ぶるのは無理なんじゃねぇか……」
それでも、エフィルミアの仕事には信頼はしている。
(……慣れてくっと、見え方が違うな)
エフィルミアと出会った頃と今の違いを考えた。
ナキルは彼女を追う様に【チャージング】を用いて進む。どこに向ったかなどは【戦術眼】や【天眼】で見て考え、経験から考えるのだった。
江流とガルシアはそれを見送り、自分たちのペースで行動する。必要なら声が掛かるだろうし、妙に遠くまでは行かないだろうと考えていた。
ガルシアはムーセルに近づくほど植物の枯死が増える。
「このあたりもひどい有様ですね……なんとかできればいいのですが……やれることをやりましょう」
地面から10センチ程上で枯れている物を切り取る。根はそのままにして、後で土と一緒に状況を見るつもりだ。
切り取ったものは燃やすために一カ所にまとめていく。
江流は地表に堆積しているものや土の様子を見ていく。土壌汚染の深度の状況が今後の森の回復に影響すると考えていた。
「全部取るのは無理でも、地表のこれをとればずいぶん違うか」
つぶやきながら、堆積物を見る。砕けた木片や植物の破片と思われる物から、胞子と思われる物、魔獣の種のようなものなど様々ある。
燃した方が良さそうな物は、ガルシアが集める枯死した植物のところに置いた。
しばらく、二人は作業を進める。
●討伐
ムーセルとモルアモの間。
植物の枯死は段々減ってくる。ムーセルが中心で、風向きや植物型魔獣の動いた方向で枯死が多く発生したと考えられた。
モルアモの方はさほど被害はない。浮遊している胞子もないのだけれども、一カ所、胞子がやけに飛んでいるところがある。
その理由が何かは近づかないと分からない。
シェオルはそんな中、景色の変化や位置を確認しつつあと一息でモルアモだと考えた。
何もなければ穏やかな森なのだろうと考える。
「んーと、モルアモはこっちで……うん? ケアイデ……だよね、あれ。えっ、マズくない?」
胞子が舞っているのは、ピンジがやる気を出しているのか、なぜか胞子を飛ばしている。
「なんで、あんな……まさか、あれで殖えるとか?」
魔獣であっても植物なのだ。
討伐するには数が居る。シェオルはムーセルに戻って冒険者に協力を仰ぐことを検討し始めた。
エフィルミアがナキルを引き連れてモルアモの方にやってくる。
シェオルが気づき手を振っている。
「あれは?」
エフィルミアは移動速度を落し、シェオルの先を見た。
「ナキルくん、待って! エルさんたちも呼びましょう!」
メリデやピンジだけでなく、ケアイデもいる。
ナキルはエフィルミアが江流たちを呼びに行っているため、シェオルの方に向った。
ナタリアもこの場にたどり着いた。冒険者が集まっているということで、足を向ける。
「魔獣がいるのか」
その言葉に、シェオルやナキルが「そうだ」と言う。
「ケアイデがいるし、それに集まる魔獣がいるならば、できるだけ討伐したい」
ナタリアがそういうと、ナキルが同意を示す。
「俺たちもこの辺りの調査や魔獣討伐しているし、協力しよう。爺さん、ここ通る予定だって言うしさ」
「僕も通りたいし、協力して討伐するってことでいいかな?」
シェオルの確認に断る理由は誰も持っていなかった。
エフィルミアと江流、ガルシアを加え、そこにいる植物型魔獣の討伐が始まる。
江流はバンダナでマスクをして、観察する。
「前みたのに比べれば小さいが、つぼみは……どうなんだろうな」
ガルシアは見上げるサイズであるケアイデを見て「これも十分大きいですけどね」と返した。
エフィルミアは魔法を使う構えだ。
「なら、行きますね」
【メテオライト3】を、ケアイデを巻き込み使う。
江流は早めに対応する方が良いと考え素早く近づくと【衝撃刃3】で攻撃する。必要なら、回復魔法も使うため、敵や味方の位置を考える。
ナキルは【シーザーロア】で敵の意識を寄せ、攻撃する。
ナタリアは植物型魔獣がまとまっているため【メテオライト】で狙う。
ガルシアは範囲魔法からこぼれる敵を狙い【衝撃刃2】などで攻撃していく。
ケアイデと周りに居たものは討伐した。
江流は周囲に取りこぼしが居ないか、新しく来ていないか確認する。
植物たちも、邪魔な冒険者たちに攻撃をしてくる。
ケアイデがスキルを使えないこともあり、冒険者は余力を残して討伐できた。
戦闘の音がするということもあり、グレイオンスの護衛としてきていた冒険者も気付いた。
そして状況を知る。情報交換後、それぞれの行動に戻った。
エフィルミアは枯れているのか悩む植物に【植物共感】を用いて確認を取った。
「やっぱり……枯れているんですね」
このままでいいのかどうか確認する。状況によっては自然に朽ちて、森の生命の輪を育むかもしれないからだ。
「無理に燃やさなくてもいいかもしれないですね」
江流たちが腐ることを止めるために燃やす準備をしているため頼まなくてはいいと捉えた。
戻る途中に薬草を入手し、それから新作薬草汁を作る。味見役がいるため、急いでもだった。
それをナキルに見せる。
「効果は抜群です!」
「何の効果だよ?」
「身長?」
「何っ!」
「ちゃんと致死量に鳴らないように計算していますから、ご安心をっ!」
燃える火を見ていた江流やガルシアが、二人に目を向けた。ナキルの判断を固唾を飲んで見守る。
「いや、致死量って時点で危険物じゃねぇか!? やっぱアホだろ! アホミア!」
江流とガルシアは「そりゃそうだ」という感じで見ていたけれども、ナキルが手を伸ばしている。
その後起こったことは、悲劇か喜劇かは――。
江流とガルシアはそれらを見たこと聞いたことはなかったことにして、自分たちのすべきことを粛々とした。
燃やしてしまえば灰になる。灰になれば新たな使い道も発生する。
「腐葉土の材料とは別として、これはこれで使い道あるな」
「そうですね。腐るも限度を越えれば駄目ですけど」
腐りすぎては腐葉土どころか、害になる。何でも加減が必要だ。
「俺たちにできるのは森の回復の手伝いまで。あとは自然の治癒力次第か」
江流は周囲を見た。
●モルアモ
グレイオンスたちは無事モルアモまでついた。
里の様子は一行が来たことに驚くとともに状況から納得をしていた。
フェンヌに寄り添い切れなかったこと。
もし、彼女がモルアモに来た時、冒険者がたまたま来ていなかったら。
氏族のものも色々考える。
何が正しいのか、間違いか分からない。だからこそ、手探りで進んできて今があるのだ。
グレイオンスとウルが里でのやりとりをしている間、冒険者たちはそれぞれ想いを行動とした。
アルマはモルアモのフェンヌの墓に来た。
フェンヌの感情に慈しむことがあったことは、ほっとする。
彼女が様々な思いを持ち、最後に選んだ道なのだ。それに対して、冒険者は抵抗をした。
質素な墓に聖印を掛けた。
アルマは祈りを捧げる。
「おかえりなさい……家族と一緒に安らかに眠って下さい」
と。
シェオルはフェンヌの墓を前にして考える。
「君の子どもたちは残しては上げられないけれど、君の想いは……何らかの形で、人の心に残るんじゃないかな……少なくとも僕はそう思うよ」
自分が持つ真実と虚構の狭間を考えもする。
モルアモの里の人が、異種族に対する警戒を薄めているのは彼女の恋愛があったからだ。
フェンヌの行動は小さくとも人に変化をもたらしている。
シェオルはしばらく語りかけた後、立ち去った。
ライナとフロマーシュは、フェンヌがモルアモに来ようとしたときに会っている。
そして、里で過去の話を聞いてはいた。
氏族の者とフェンヌの状況の捉え方は今の二人は判断着かない。
すれ違いがあったからこそ、今回の状況は生じているのだ。
フロマーシュは人々の気持ちを量りかね、問う。
「あの……今回のことはどう思いますか」
「どう、といわれても……このようなことにつながるなんて思わなかったよ」
里人は一度口をつぐんだ後、続ける。
「行方不明になったとき、もっと探せばよかったのか? それとも、説得できたかというと……答えはなくて」
里人はなんともいえない表情になる。
ライナは「彼女の遺体を引き取ったのは心境の変化か?」と問う。
「心境の変化といわれても……彼女の恋人と子の墓もあるから、引き取ろうということになった」
いいか悪いかということで考えれば、彼女がしたことは絶対許すことはできないという。
「同じようなことが起きないといいとは思うよ?」
里人は告げた。
変化は緩やかだ。
二人がフェンヌの墓に行く。
この墓が誰の物かではなく、何があったのか等は書かれている。たぶん、そこに記載されている名前なのだ。
ライナは里の人もフェンヌもすれ違い続けたことを思った。そして、花を置く。
(彼女が夫となる者と出会ってから経験したこと全てのこと、彼女だけでなく周りも何か違えば、こう成らなかったのかも知れないな……)
だからこそ、誰もが悩み続ける。
フロマーシュも一緒に頭を垂れる。
(大切な人たちと一緒に過ごせますように)
フェンヌが今、別れた人たちと再会できていることを願った。
サシャはここまで歩いてきて、フェンヌがしたことの被害を知った。
そして、墓の前で考える。
(貴方のなさったことのことの大きさを痛感いたしました。それでも……愛する旦那様、お子様を亡くせば狂ってしまうのは仕方がないのでしょうね)
愛せば愛すほど、自分の氏族の人の考えが分かれば分かるほど、一つ歯車が狂うと一気に崩れゆく。
里の人が許したといっても、それを信じられない程に。
それ以上に、失ったものが目をふさいでしまった。
「皆さまには会えましたか? せめて、今からでも……安らかに」
サシャは祈った。
グレイオンスとウルが墓の前に来たのは、冒険者が想いと向き合った後。
その後、話しながらが馬の方に戻る。
ダムドの耳にグレイオンスとウルの会話が届く。
ウルが「もしも」の話し、グレイオンスにたしなめられている。それはダムドも同じように考える。
「過ぎたことだから、タラレバは……仕方がない思うよ」
ダムドは話しに加わった。
「まぁ……関係してしまったら考えるよなぁ。里の人と改めてどうするのが良かったか意見を求めて、皆に次に生かす……かな」
ダムドが提案する。
「それしかないだろうな」
グレイオンスは同意した。
モルアモを出発すれば、あとは特に問題は発生しないはずだ。
植物の枯死が消え、緑溢れる森になると、誰となく安堵してくる。
あと少しで旅路も終わるにさしかかる。
ダムドはふとつぶやいた。
「フェンヌの件は辛い話だけど……自分の手で仇を取ろうと動けたことは幸せな気がするよ」
ウルに耳がピクと動くのを見て、ダムドは続けた。
「……オレの育ったところ、そんなヤツばかりだったし、食うこと、生きることに手一杯で、他は考えられなかったからさ」
ウルが「育ったところ?」と問うたので「スラム」と答える。
「オレの母さんも、そんな風にオレをおもってくれてたかな……なんてな」
ダムドの外見を見ればハーフビーストだとわかる。
ウルは状況を捉え、「偉いよ、お前は」と言った。
ダムドはその言葉を反芻し、どうなのか考えた。
グレイオンスの住まう里に到着した。
先に戻っていた人たちが安堵を示す。
グレイオンスは護衛をしてくれた冒険者に礼を述べた。
そして、日も落ちるということで、里での宿泊を勧められる。
長かった帰り道が冒険者のお陰で無事終わった。
フィルエス大森林の南東部で発生した木々や草など植物の枯死。その原因を作った人物であるフェンヌ・ダーニがこの世を去っても、命の輪が途切れた森は簡単に戻らない。
そのため、冒険者たちはムーセル周辺の調査や魔獣討伐に行くことになる。
そのような中、奧地に向うにあたり、プロステンという里を通過することが多かった。
そこで情報を集め、解決のための指揮を執っていたグレイオンスが居たためだ。
冒険者たちが今回通ると、グレイオンスはこの里を去り、自宅に戻るという。この里を通る理由も減るだろう。
グレイオンスは、ムーセルとモルアモを経由して帰るという。
話を聞いた冒険者は護衛を買って出る者もいる。
グレイオンスが安全に通れるならば、状況は改善しているとも捉えられる。
実際は行ってみないと分からないことだった。
海神・江流はガルシア、エフィルミアやナキルと共に、ムーセル周りの植物型魔獣の掃討、植物や土壌の調査を行う予定で来ている。
プロステンで情報を集めて通過しようとした。グレイオンスが帰宅するという話も聞く。準備しているエルフやウル・ヘルバの姿が見えた。
ナキルはグレイオンスがムーセルを通って帰るということを聞き、やる気がアップした。
「あの辺、また色々魔獣いそうだもんな。じーさんが行くっていうんだし、迂回せずに済むようにしておこう」
ナキルはモルアモ近くでのフェンヌとの遭遇や決着に関わってもいた。
最初の遭遇場所を考えると、ムーセルからの道中に植物型魔獣が残っている可能性がある推測していた。それに、こちら側からムーセルには目が行きやすいが、ムーセルを通過した後のところは目が行きにくいかもしれない。
江流はグレイオンスのルートやナキルの話を聞き、今回の活動範囲を考える。
「ムーセルからモルアモルートを選ぶか……それでも、広いな」
ガルシアは「構わないですよ」と答え、続けた。
「すべて見られるならいいですが、範囲が広いのは承知です。それでも少しでも枯死した植物を片付けたり、土の状況を見たりして行きたいです」
片付けをする冒険者はあちこちに入っているはずだ。
エフィルミアは仲間が方針を定めているのを聞き、特に異存はない。見覚えのあるウルがエルフに頭を撫でられ、怒っている声が聞こえてきた。
「身長が伸びないようにっていう、エルフの呪いだ!」
エフィルミアは考える。ウルは確かにハーフビーストの成人男性としては小柄であり、エフィルミアより低い。
エフィルミナはナキルをちらりと見る。
ナキルは「もっと大きくなる」と信じているし、色々努力している。そもそも、ハーフリングなのであるということもある。
エフィルミアはエルフであるし、「身長が伸びない呪い」などないと知っている。しかし、あるならばエルフという条件でいいなら、エフィルミアは掛ける事ができる。
「ちょっと、ナキル君にも掛けておきましょう!」
エフィルミナは江流と話をしていたナキルに近寄ると、頭を撫でた。
「ミア!? 何すんだよ!」
エフィルミアは答えない。微笑んで、答えない。
サシャ・テーリングは大森林の植物枯死の件で何かできることはないかと考えていた。
状況の把握も兼ねてプロステンに来て、グレイオンスの護衛ということで、見て回ることにした。
「飛び入りで参じましたが、多ければ別の所でも」
「別にかまわねぇだろ? 何かしたいって考えるにしても、ムーセルまで行くなら、一緒で。もちろん、お前がしたいこと見つけたら、別れたっていいし」
ウルが答える。
「ではご一緒いたします」
「おう」
サシャは歓迎され、ほっとした。
植物型魔獣など敵意あるものとの戦闘となるならば、必要に応じて冒険者に対して魔法で支援をするつもりだ。
ダムド・フィリスはグレイオンスの護衛につくかどうか悩んだ。
それなりの人数が集まっていることもあったからだ。
ムーセルで作業をするにしても、結局、この一行も進むのだ。
「冒険者がまとまっているわけだし、近づく魔獣がいれば討伐しやすいのか」
護衛半分、討伐半分。
グレイオンスが立ち去るということで、里の人も見送る。
小さいエルフはグレイオンスより、冒険者の方に興味を持っている。手をぶんぶん振って見送っていた。
ダムドはそれを見た後、一行の一歩前を行くため出発した。
道中の安全確保の一環で偵察だ。
位置感覚を駆使し進み、戻る。
【捜波】をもって不審なものがないか確認する。
必要であれば、自分で、人手が必要だったら他の冒険者に声を掛けることになる。
何もいないということはないと考えるが、さすがにプロステン近くは植物の枯死の状況と同じく特に判断が必要そうなものはなかった。
シェオルは先日、フェンヌ討伐に関わる。
その際、フェンヌが今回の事件を起こすきっかけなど経緯は聞いている。植物型魔獣の対応を行っており、フェンヌに直接会ってはいないが、思うところはあった。
「……ちょっとだけだけど、戦いには関わったから、お墓参りしておきたいな」
植物型魔獣を我が子のように育てていたフェンヌはいなくなったとはいえ、魔獣が消えたわけではないため、用心して向かうのだった。
●道中
エリザ・A・ミシャールはグレイオンスの護衛として大森林に入る。
エルフであっても放浪していたため、大森林に定住するエルフとの考え方の差は感じていた。
ここで話をする事で、近いようで遠かった大森林のエルフたちを知るきっかけになるかも知れないと感じていた。
森を進むと、徐々に植物の枯死は増える。それに、残っている胞子などが増えてくる。
冒険者や近くの集落のエルフが対処しても、簡単に終わる物ではない。
休息の時、グレイオンスにエリザは話しかけた。
「いやさ、他のヤツにさんざん言われるとは思うんだけど、どうして、今なのか? フェンヌの記憶や一連の出来事が風化しないうちに、行くことが重要なのだろうか、て思うんだ」
グレイオンスが「だから、行くのだ」と告げると、続けた。
「指揮は執った。しかし、何も見ていない。頼み冒険者やウルからは話を聞いた。それでも十分かも知れないが、見て、知ることは積み重ねて私がある」
グレイオンスは森の先を見る。
エリザも見るが、ここから見える景色は緑溢れる大森林の状況からはかけ離れている。
森は白く煙っているように見える。枯死した植物の影響や胞子の残留物などだろうか。
「これは、今見ないといけない?」
「長く生きようが、今しかない。今見ておく必要がないとは言い切れまい?」
「今後を知るためということかい?」
「そうだな。私ができることなど大したことはない。それでも助言を求められるならば、そのときに見ていたのとそうでないのでは違う」
エリザはうなずく。
「アタシはフェンヌの最期を見た一人だ。逆に聞きたいことあれば聞いてくれ」
「そうか……」
フェンヌの最期を見届けたということで話せることは答えるつもりだ。それは、責任であり、欺瞞でもあるとエリザは考えていた。
質問をすること、されることで一つずつ埋まる。
ライナ・フレイヴァルツとフロマーシュ・ダイヤドロップはグレイオンスの護衛という形で森に入る。
ライナは【超聴覚】で周囲を警戒し、フロマーシュは【透視】や【看破】を用いて捜索をする。
ライナは必要ならば魔法での攻撃、フロマーシュは【シーザーロア】で敵を引きつけたり、襲われている仲間がいればかばうつもりだ。
状況を見て、的確に護衛としての行動を行う。
調査や戦闘で進んだ時よりも、森の様子は明るく見える。
それでも、ムーセルの近くになると、事件の痕は多く残る。
植物型魔獣との遭遇も増える。
先行する冒険者からの声も上がるため、早めに見つけ、討伐をして行く。
冒険者たちは連携を取り、行動するため、問題なく対応はする。
ライナは植物型魔獣と対峙したとき、フェンヌの様子を思い出した。
(魔獣だが、自分の子どものように思っている様子だった)
戦いのなかで植物型魔獣を見ていると、その植物たちも何か迷っているように感じられる。
(……この子たちの様子もまるで……)
魔獣もフェンヌに対して思うことはあるはずだ。魔獣に同情することはできない。大切な人を失う人を増やすことにつながる。
きちんと倒すのが、お互いのためだった。
フロマーシュは【衝撃刃】で攻撃後、魔獣が動かなくなったのを確認する。
「怪我をしている人いますか? 【ヒール】使います?」
と声を掛ける。
行動を共にしている冒険者たちとのやりとりをしながら、フロマーシュはフェンヌのとのやりとりを思い出した。
(あの人にも守りたいものはあったのですね……)
フロマーシュたちにとっては害になるものだとしても、彼女にとっては愛すべきものだったのは明白だ。最期は魔獣を守るための行動と捉えることができるからだ。
アルマ・ヴァレンタインはフェンヌの命の炎が消えた直後、【残留思念感応】を用いていた。
そのこともあり、グレイオンスとウルと話をしたいと考えていた。
護衛といっても、人数もそこそこにいるし、何事もなければそこまで危険はないだろうとは思う。
それでも【聴視覚】で周囲を見渡すことは忘れない。
グレイオンスに話しかけるにしても、移動中は難しい。ウルは馬の手綱を引いているし近くにはいるが、グレイオンスは馬の上にいる。【エリアサイレンス】を掛けて話すことは、移動中は危険だ。
馬を下りて休息を取るとき、声を掛けた。
「あの、少し、話をしてもいいですか? あ、ウルさんも」
グレイオンスはうなずき、ウルはきょとんとしてやってくる。
アルマはグレイオンスの隣に座るが、視線が結局遠いため、断りを入れ立つことにした。
「フェンヌさんの最期直後に【残留思念感応】を使ったんです」
研究所のこともあったためという理由も、念のため告げた。全体的に曖昧であったけれども、フェンヌの感情は大きかった。
「大部分は他者への恨みと怒り、それとほんの少しだけ見えた他者を慈しむ気持ち、でした」
グレイオンスとウルは黙って聞いている。
「えっと、誰彼に聞かせるようなことじゃないけど、グレイオンスさんとウルさんには知ってほしかったからね」
ウルが深刻な顔になってきたし、【エリアサイレンス】使った方がよかったかなとか色々考える。なお、グレイオンスの表情は特段変わったと捉えられなかった。
ウルがカシカシと頭をかいている。
「子どもや恋人の事もあるし……あ、でも、他者? メドゥの指先の関係者も出入りしてたよなぁ……」
「どうなんだろう?」
アルマはそう言われると、フェンヌも人とのつながりはあったと思えた。
グレイオンスはつぶやく。
「……復讐は目的ではなくとも、行く末が異なり森を食い尽くすことを選んでいる」
ウルが「だよなぁ」と溜息をつき、アルマも「そうですよね」とうなずく。
「まぁ、結果として……ありがとな、言いづらそうなことを」
「いえ! あ、そうだ……あのとき――」
ウルに答えた後、しばらくその近辺の話しなどして、出発するのだった。
サシャは道中、植物の枯死がひどくなる有様をみて衝撃を受ける。
話しに聞くのと、実際見るのでは違う。
「元の森はどのような様子でしたか?」
と問うけれども、グレイオンスは「ウルのほうが知っているだろう」とウルに回される。
「まぁ、最近……いや、待て、俺がこの辺り来たの十年前だぞ」
サシャはやりとりを聞きながら、人間同士でもありそうだと気付く。
ウルはサシャと年齢が近いし、グレイオンスがエルフでも年ということを考えれば自ずと分かる。
「うーん、森だった」
「え?」
「……どのようなって言われても。木は元気だったし、鳥や動物もいたし」
「なるほど、そういう意味ですね」
サシャは耳を澄ませた。
生き物の息づかいは聞こえない。聞こえるのは、冒険者が歩む音。
「見てみたいです」
サシャは思いをはせた。
●森の回復の一助
カルフ・オルヴォとエルシー・サリバンは植物が枯れた地域に足を踏み入れた。
初対面であるけれども、エルシーの恋人の紹介で一緒に作業することになった。
エルシーは大森林の状況に対して、何か手伝えることはないか考えたけれども、戦うしか思い浮かばなかったこともある。
カルフはムーセルの土壌回復の助けになるような行動を取るつもりだった。単独でもするつもりだった。カルフは荷馬車を用意した。そこに腐葉土や肥料を載せ、できる限り作業を進めようとしていた。
エルシーが加わることで、見る範囲も広くなるし、作業もよりできるだろう。
ムーセルに向う途中も、地図を手に、状況は把握していく。人の手が入りづらい部分などもあるかも知れない。
エルシーは【捜波】やホークアイ、エーテルリンクしているリスによる視界などを駆使し、状況を見る。
「ムーセルに近くなると、ひどくなってくるね」
「やらなくてはなかなか戻らない。結局、人海戦術だな」
「そうだね」
道中見た被害の状況は地図に書込んでいく。書込まれると、植物の枯死が発生した場所の範囲は広いことは明らかになる。
ムーセル近郊で、本格作業開始だ。
カルフは朽ちている木を【衝撃波】や【薙ぎ払い】で打ち倒す。衝撃でそれらは砕ける。手応えは薄い。
崩れ方や被害の具合を地図に記載していく。どういう経緯か分かる範囲で。
動植物の行動によって、土の状況も変わってくる。だからこそ、今回現れていた植物型魔獣の性質からどうなるかは推測できる。その上、腐食も加わる地域もある。そうなると、土や植物への対応は変わる。
一方、エルシーも【貫通衝撃射】や【炸光矢】で土や枯れた木の枝など吹き飛ばす。
「枯れ色より、カビ色だね」
粉砕されたものが舞うと白っぽい。
「魔獣の影響ってことだよね」
自然でも腐るけれども、この腐り方は何かの手が加わらないとできない。もちろん、どのくらいの時期から魔獣がいたかにもよるだろう。
緑豊かな森だったと想像するのが難しいくらいだ。
それなりに作業をして、カルフが「少し休むか」声を掛ける。
エルシーは「そうだね」という。
休まないと体は持たないが、二人は最小限の休みに止め、できる限り作業をしていくことに決めていた。一定時間経つと、作業を開始する。
エルシーは鋤で土をひっくり返し、腐葉土を入れる作業をしてふとつぶやく。
「睡眠短くて済むのは良いけど、追い込まれた感じで寂しいね」
鋤など道具を用いて土を掘り、土の状況も見ていく。
カルフは「汗をかくのも悪くはねぇがな」と答えながら鋤を使う。
腐っている部分の層を確認する。それによってはどけるか、肥料と健康な土で自然回復を待つか考える。
エルシーは鋤を入れるだけでも土が変わる状況を見る・
「自然の再生力はすごいんだよ、さぁお手伝いして行くね」
カルフは「おう」と告げる。
「ここの肥料と腐葉土がなくなるまではまず続けるぞ」
この辺りの植物の種とは異なるものも存在する。それは植物型魔獣が投げた種の可能性が高い。
そういったものも排除していく。
他の冒険者も枯死した植物などを燃しているのか、煙が見える。
燃してしまうのも一つの手と考えながら作業を進める。
カルフやエルシーのしている作業も、地道であるが、この地域の未来に必要な一歩なのは間違いなかった。
●捜索
ナタリア・フィッツジェラルドはフェンヌ討伐にも関わった。
そのこともあり、ムーセル周辺の状況の対応にやってきた。
ムーセルの状況は簡単に良くなるものではないと分かるため、グレイオンスが通るルートにケアイデなどいれば排除するという目的を作る。
一行より先に現地に向う。歩み進めると感じるのは、森の中は以前より、穏やかな雰囲気はすることだ。
「状況が分かっているからそう見えるのだろうな」
ナタリアは分析する。それでも、片付けられているところもあると、少しずつ進んでいるのは分かる。
ムーセル近くに行くと、傷跡のひどさを感じる。
ムーセルのそばに来ると、様々な作業をする冒険者の姿もあるけれども、魔獣の姿もある。
「やはり、気をつけないと隠れているな」
魔獣は木々の間にひっそりある。以前より舞っている胞子が少ないため、植物型魔獣姿は分かりやすかった。
討伐しつつ進む。
「元気がないのは、生息域の状況の変化か?」
状況の変化の影響がないとは言い切れない。
ナタリアはケアイデの姿を探していた。植物型魔獣の性質を考えるとケアイデがいることで、メリデやピンジが生息しやすくなる。ならば、それを減らす必要があるのだ。
ムーセルからモルアモに抜けるルートに入った。
エフィルミアは張り切って行動する。
「今日の私は魔法少女ですよ!」
【捜波】で敵を発見したら仲間に伝え、森が枯れていなければ【メテオライト】、枯れていれ掃除もかねて【ストーンブラスト】で敵も攻撃するつもりだった。攻撃について、魔法主体だ。
張り切るエフィルミアを見つつ、ナキルはツッコミを入れる。
「……魔法少女って……やっぱ、『お姉さん』ぶるのは無理なんじゃねぇか……」
それでも、エフィルミアの仕事には信頼はしている。
(……慣れてくっと、見え方が違うな)
エフィルミアと出会った頃と今の違いを考えた。
ナキルは彼女を追う様に【チャージング】を用いて進む。どこに向ったかなどは【戦術眼】や【天眼】で見て考え、経験から考えるのだった。
江流とガルシアはそれを見送り、自分たちのペースで行動する。必要なら声が掛かるだろうし、妙に遠くまでは行かないだろうと考えていた。
ガルシアはムーセルに近づくほど植物の枯死が増える。
「このあたりもひどい有様ですね……なんとかできればいいのですが……やれることをやりましょう」
地面から10センチ程上で枯れている物を切り取る。根はそのままにして、後で土と一緒に状況を見るつもりだ。
切り取ったものは燃やすために一カ所にまとめていく。
江流は地表に堆積しているものや土の様子を見ていく。土壌汚染の深度の状況が今後の森の回復に影響すると考えていた。
「全部取るのは無理でも、地表のこれをとればずいぶん違うか」
つぶやきながら、堆積物を見る。砕けた木片や植物の破片と思われる物から、胞子と思われる物、魔獣の種のようなものなど様々ある。
燃した方が良さそうな物は、ガルシアが集める枯死した植物のところに置いた。
しばらく、二人は作業を進める。
●討伐
ムーセルとモルアモの間。
植物の枯死は段々減ってくる。ムーセルが中心で、風向きや植物型魔獣の動いた方向で枯死が多く発生したと考えられた。
モルアモの方はさほど被害はない。浮遊している胞子もないのだけれども、一カ所、胞子がやけに飛んでいるところがある。
その理由が何かは近づかないと分からない。
シェオルはそんな中、景色の変化や位置を確認しつつあと一息でモルアモだと考えた。
何もなければ穏やかな森なのだろうと考える。
「んーと、モルアモはこっちで……うん? ケアイデ……だよね、あれ。えっ、マズくない?」
胞子が舞っているのは、ピンジがやる気を出しているのか、なぜか胞子を飛ばしている。
「なんで、あんな……まさか、あれで殖えるとか?」
魔獣であっても植物なのだ。
討伐するには数が居る。シェオルはムーセルに戻って冒険者に協力を仰ぐことを検討し始めた。
エフィルミアがナキルを引き連れてモルアモの方にやってくる。
シェオルが気づき手を振っている。
「あれは?」
エフィルミアは移動速度を落し、シェオルの先を見た。
「ナキルくん、待って! エルさんたちも呼びましょう!」
メリデやピンジだけでなく、ケアイデもいる。
ナキルはエフィルミアが江流たちを呼びに行っているため、シェオルの方に向った。
ナタリアもこの場にたどり着いた。冒険者が集まっているということで、足を向ける。
「魔獣がいるのか」
その言葉に、シェオルやナキルが「そうだ」と言う。
「ケアイデがいるし、それに集まる魔獣がいるならば、できるだけ討伐したい」
ナタリアがそういうと、ナキルが同意を示す。
「俺たちもこの辺りの調査や魔獣討伐しているし、協力しよう。爺さん、ここ通る予定だって言うしさ」
「僕も通りたいし、協力して討伐するってことでいいかな?」
シェオルの確認に断る理由は誰も持っていなかった。
エフィルミアと江流、ガルシアを加え、そこにいる植物型魔獣の討伐が始まる。
江流はバンダナでマスクをして、観察する。
「前みたのに比べれば小さいが、つぼみは……どうなんだろうな」
ガルシアは見上げるサイズであるケアイデを見て「これも十分大きいですけどね」と返した。
エフィルミアは魔法を使う構えだ。
「なら、行きますね」
【メテオライト3】を、ケアイデを巻き込み使う。
江流は早めに対応する方が良いと考え素早く近づくと【衝撃刃3】で攻撃する。必要なら、回復魔法も使うため、敵や味方の位置を考える。
ナキルは【シーザーロア】で敵の意識を寄せ、攻撃する。
ナタリアは植物型魔獣がまとまっているため【メテオライト】で狙う。
ガルシアは範囲魔法からこぼれる敵を狙い【衝撃刃2】などで攻撃していく。
ケアイデと周りに居たものは討伐した。
江流は周囲に取りこぼしが居ないか、新しく来ていないか確認する。
植物たちも、邪魔な冒険者たちに攻撃をしてくる。
ケアイデがスキルを使えないこともあり、冒険者は余力を残して討伐できた。
戦闘の音がするということもあり、グレイオンスの護衛としてきていた冒険者も気付いた。
そして状況を知る。情報交換後、それぞれの行動に戻った。
エフィルミアは枯れているのか悩む植物に【植物共感】を用いて確認を取った。
「やっぱり……枯れているんですね」
このままでいいのかどうか確認する。状況によっては自然に朽ちて、森の生命の輪を育むかもしれないからだ。
「無理に燃やさなくてもいいかもしれないですね」
江流たちが腐ることを止めるために燃やす準備をしているため頼まなくてはいいと捉えた。
戻る途中に薬草を入手し、それから新作薬草汁を作る。味見役がいるため、急いでもだった。
それをナキルに見せる。
「効果は抜群です!」
「何の効果だよ?」
「身長?」
「何っ!」
「ちゃんと致死量に鳴らないように計算していますから、ご安心をっ!」
燃える火を見ていた江流やガルシアが、二人に目を向けた。ナキルの判断を固唾を飲んで見守る。
「いや、致死量って時点で危険物じゃねぇか!? やっぱアホだろ! アホミア!」
江流とガルシアは「そりゃそうだ」という感じで見ていたけれども、ナキルが手を伸ばしている。
その後起こったことは、悲劇か喜劇かは――。
江流とガルシアはそれらを見たこと聞いたことはなかったことにして、自分たちのすべきことを粛々とした。
燃やしてしまえば灰になる。灰になれば新たな使い道も発生する。
「腐葉土の材料とは別として、これはこれで使い道あるな」
「そうですね。腐るも限度を越えれば駄目ですけど」
腐りすぎては腐葉土どころか、害になる。何でも加減が必要だ。
「俺たちにできるのは森の回復の手伝いまで。あとは自然の治癒力次第か」
江流は周囲を見た。
●モルアモ
グレイオンスたちは無事モルアモまでついた。
里の様子は一行が来たことに驚くとともに状況から納得をしていた。
フェンヌに寄り添い切れなかったこと。
もし、彼女がモルアモに来た時、冒険者がたまたま来ていなかったら。
氏族のものも色々考える。
何が正しいのか、間違いか分からない。だからこそ、手探りで進んできて今があるのだ。
グレイオンスとウルが里でのやりとりをしている間、冒険者たちはそれぞれ想いを行動とした。
アルマはモルアモのフェンヌの墓に来た。
フェンヌの感情に慈しむことがあったことは、ほっとする。
彼女が様々な思いを持ち、最後に選んだ道なのだ。それに対して、冒険者は抵抗をした。
質素な墓に聖印を掛けた。
アルマは祈りを捧げる。
「おかえりなさい……家族と一緒に安らかに眠って下さい」
と。
シェオルはフェンヌの墓を前にして考える。
「君の子どもたちは残しては上げられないけれど、君の想いは……何らかの形で、人の心に残るんじゃないかな……少なくとも僕はそう思うよ」
自分が持つ真実と虚構の狭間を考えもする。
モルアモの里の人が、異種族に対する警戒を薄めているのは彼女の恋愛があったからだ。
フェンヌの行動は小さくとも人に変化をもたらしている。
シェオルはしばらく語りかけた後、立ち去った。
ライナとフロマーシュは、フェンヌがモルアモに来ようとしたときに会っている。
そして、里で過去の話を聞いてはいた。
氏族の者とフェンヌの状況の捉え方は今の二人は判断着かない。
すれ違いがあったからこそ、今回の状況は生じているのだ。
フロマーシュは人々の気持ちを量りかね、問う。
「あの……今回のことはどう思いますか」
「どう、といわれても……このようなことにつながるなんて思わなかったよ」
里人は一度口をつぐんだ後、続ける。
「行方不明になったとき、もっと探せばよかったのか? それとも、説得できたかというと……答えはなくて」
里人はなんともいえない表情になる。
ライナは「彼女の遺体を引き取ったのは心境の変化か?」と問う。
「心境の変化といわれても……彼女の恋人と子の墓もあるから、引き取ろうということになった」
いいか悪いかということで考えれば、彼女がしたことは絶対許すことはできないという。
「同じようなことが起きないといいとは思うよ?」
里人は告げた。
変化は緩やかだ。
二人がフェンヌの墓に行く。
この墓が誰の物かではなく、何があったのか等は書かれている。たぶん、そこに記載されている名前なのだ。
ライナは里の人もフェンヌもすれ違い続けたことを思った。そして、花を置く。
(彼女が夫となる者と出会ってから経験したこと全てのこと、彼女だけでなく周りも何か違えば、こう成らなかったのかも知れないな……)
だからこそ、誰もが悩み続ける。
フロマーシュも一緒に頭を垂れる。
(大切な人たちと一緒に過ごせますように)
フェンヌが今、別れた人たちと再会できていることを願った。
サシャはここまで歩いてきて、フェンヌがしたことの被害を知った。
そして、墓の前で考える。
(貴方のなさったことのことの大きさを痛感いたしました。それでも……愛する旦那様、お子様を亡くせば狂ってしまうのは仕方がないのでしょうね)
愛せば愛すほど、自分の氏族の人の考えが分かれば分かるほど、一つ歯車が狂うと一気に崩れゆく。
里の人が許したといっても、それを信じられない程に。
それ以上に、失ったものが目をふさいでしまった。
「皆さまには会えましたか? せめて、今からでも……安らかに」
サシャは祈った。
グレイオンスとウルが墓の前に来たのは、冒険者が想いと向き合った後。
その後、話しながらが馬の方に戻る。
ダムドの耳にグレイオンスとウルの会話が届く。
ウルが「もしも」の話し、グレイオンスにたしなめられている。それはダムドも同じように考える。
「過ぎたことだから、タラレバは……仕方がない思うよ」
ダムドは話しに加わった。
「まぁ……関係してしまったら考えるよなぁ。里の人と改めてどうするのが良かったか意見を求めて、皆に次に生かす……かな」
ダムドが提案する。
「それしかないだろうな」
グレイオンスは同意した。
モルアモを出発すれば、あとは特に問題は発生しないはずだ。
植物の枯死が消え、緑溢れる森になると、誰となく安堵してくる。
あと少しで旅路も終わるにさしかかる。
ダムドはふとつぶやいた。
「フェンヌの件は辛い話だけど……自分の手で仇を取ろうと動けたことは幸せな気がするよ」
ウルに耳がピクと動くのを見て、ダムドは続けた。
「……オレの育ったところ、そんなヤツばかりだったし、食うこと、生きることに手一杯で、他は考えられなかったからさ」
ウルが「育ったところ?」と問うたので「スラム」と答える。
「オレの母さんも、そんな風にオレをおもってくれてたかな……なんてな」
ダムドの外見を見ればハーフビーストだとわかる。
ウルは状況を捉え、「偉いよ、お前は」と言った。
ダムドはその言葉を反芻し、どうなのか考えた。
グレイオンスの住まう里に到着した。
先に戻っていた人たちが安堵を示す。
グレイオンスは護衛をしてくれた冒険者に礼を述べた。
そして、日も落ちるということで、里での宿泊を勧められる。
長かった帰り道が冒険者のお陰で無事終わった。
マスターコメント
ご参加ありがとうございます。
護衛、多いと心配している方がおりましたが、それはそれで考えようです。
さて、フェンヌの墓参り、残っている魔獣の対応、枯死している植物や土の確認やら片付けやら……様々行っていただきありがとうございます。
このようなことの積み重ねで壊れた生命の輪は戻っていくのでしょう。
なお、参加者と字数を見て、NPC動くかどうか思ってましたが、結局、影が消えました。
また、ご縁があれば、お会いしましょう。
イベントシナリオ普通 報酬:少ない14 / 4〜25人
2021年10月21日 16時59分46秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
「ナキルだ!よろしくな!! オレは今んとこ グレイオンスのじーさんが迂回路を取らねーで済むように 雑魚を蹴散らしに行こうかと思ってるぜ!」
シーフのエフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 【捜波・改】で敵を見つけて、魔法範囲攻撃でぶっ飛ばす予定です! 森を枯らす悪い子は、ちゃんとお掃除しないといけませんからねっ。
ウォーリアのカルフだ、世話になる。 森の現状を調査把握し地図に記したり、朽ち木を倒すと言った事をするつもりだ。
エルシーだよ、ヨロシクね。 カルフさんのお手伝いをする事に成ったので仕事内容としては 『ムーセルやその周りで枯死した植物をどうにかしたり』になるの…かな?
ライナ・フレイヴァルツだ。 ムーセルとモルアモの途中の敵を倒しつつ、モルアモに寄って 里の人間の心情の変化などを見て聞いて回りたいと考えている。
フロマーシュ・ダイヤドロップと申します。 ライナ様と共に、モルアモへの道程の驚異を退けつつ、モルアモで暮らす方々が、あの事件の後どんな気持ちを抱いたのかを伺ってみる予定です。
海神 江流だよ。 今回は宜しくね。 ムーセル周辺で枯死した植物を見ながら植物型魔獣の掃討ができれば。ってとこかな。 現地ではよろしく。