【帝国】エーテルと農作物の関係とは?

紀藤トキ

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シナリオID:1444

オープニング

 帝国南部鎮守都市ヴィント付近で確認されたクリーパーは、大地のエーテルを吸い耕作地を枯らすらしい。そして、今年の王国北部は、王国史的に見て稀な不作が発生しそうだ。この二つの事件を繋げて考えて良い物なのか、リーンエス王国の上層部は判断を取りかねていた。常識的に考えれば、帝国領内で暴れているクリーパーが遠く王国領内まで魔の手を伸ばせるものとも思えない。

「というか、そんなクリーパーが居たら人類はもっと前に滅んでると思うんだよね」

 神出鬼没の放浪王子、ウィリアム・リーンエスがパンクリアース学園の魔法使いの塔区画に訪れたのは、数十年前に『エーテルと作物の生育の関連性』と言う研究を行っていた教師が塔の区画へ送られたと聞いた故だ。彼がどうしているのかを問われたリヴァマス老は困った顔をする。

「……その教師はもうだいぶ前に亡くなっておるのじゃよ。吾輩も年が近い故、仲は良かったのじゃがな」
「エーテル的に豊穣を約束されたようなリーンエスにとっては無駄な研究と切り捨て、それどころか他国に渡れば害になる研究としてこんな場所に押し込めたのだ。その後で王家が毒でも盛ったのではないかね」
「私とは初対面だと思うのだが随分な事を言うこの御仁はどなたで、なぜ同席しているのかな?」

 あまり表沙汰にならない理由(若年時に現国王が後見人だったの)で王家と繋がりのあるリヴァマスに、ウィリアムは個人的に話を聞きに来た。が、その席になぜかガタイの良い50絡みのおっさんがいたという状況である。

「私はグレゴール・ディンドルフ。ヘルベルトの友人だ、放浪王子」
「なるほど。ディンドルフ侯爵家の……」
「うむ。そして君が必要とするのは彼の助力なのじゃよ」
「なるほど……?」

 内外に類まれなる諜報能力を誇るウィリアムであっても、魔法使いの塔に収監された面々の詳しい情報は管轄外だ。本気で調べれば調査もできるのだろうが、特に理由もなく機密を暴くような真似はしない。幸い、どういう事かと問えばリヴァマスは面倒がらずに説明はしてくれる。

「つまり、その研究者はすでに亡くなっているが、その知識は彼が受け継いでいる、……と?」
「左様。ここに押し込められてから時間だけは有り余っていたのでな」

 元と言え王国貴族の一員が、仮にも王子へ対する口調に丁寧さの欠片もないのは如何なものか。グレゴールに王国なり王家への協力など期待薄のようだ。だが、それならばこの場に顔を出す必要もない。

「……条件付きで協力すると?」
「物わかりの良い若者は愚者よりはましだな。条件は三つある。一つは我が友ヘルベルトの謹慎処分の早期解除だ」
「謹慎……? 何かあったのかい、リヴァマス老?」
「うむ。マリステラ嬢の件でのう」

 学園の『禁忌』を名前で呼ぶあたり、それなりに交友でもあったのだろうか。いや、無くともリヴァマスはそういう人物ではある。彼女が騒動を起こし、結果として死亡したという件はウィリアムの耳にも入っていた。その騒動の端っこにこの老人が関わっていたことまでは聞いていなかったが。詳細を問えば、リヴァマスが洗脳されて暴れた事実はあれど、それで死者や怪我人が出たという事もないらしい。

「そちらはどうとでもなるな。残りの条件とは?」
「うむ。実地検証に帝国領へ赴くことになろう? その折には『貴族喰い』の調査もさせてもらおう。それから、最後に。私の周りに王国の監視が付くのは構わんが、近くをウロチョロするな。目障りだ」
「……それは」

 王国貴族の間では、死霊術師といえばまずヤコブ・ヴィリアンの名が挙がる。そのやり口を研究したいと言われれば、警戒するのが当然だ。それに応じているとはいえ、普段は隔離しているほどの危険人物を他国に送るのだ。常識的に考えれば王国騎士を複数張り付ける位は必要な配慮である。

「そこを何とかしろ。言っておくが、王国が滅びるとしてもお前たちに協力する理由など私にはない。我が友が頼むから条件を出してやっている」
「はあ……。メドゥの指先が接触する位に厭世家だとは聞いていたけど、筋金入りだね」

 情報を思い出して口にしてみたが、グレゴールに動じた様子は見えなかった。というより、「メドゥの指先が接触してきた」と報告してきたのは彼自身なのだから、弱みと言うほどの物にはなりえまい。せいぜいが嫌味だ。

「仕方がない。現地ではどうせヴィントに立ち寄らない訳にもいかないだろうしね。目に見える護衛には中立の冒険者を使おう。それ以外には?」
「そうだな。問題のクリーパーとやらを見たい」
「それは冒険者に交渉して貰おうか。契約内容には入れておく」

 はあ、とわざとらしくため息をついて見せるウィリアムだが、目をつけていた研究者は既に死んでいたのだ。代替品であれ、協力させることができるのならば王国にとって不利益はない。困り顔で間に挟まっているリヴァマス老の顔を立てて、少し面倒を請け負うくらいはしてやろうと思う。おそらく、グレゴールも同様の事を考えているのだろう。

●
「依頼内容は、魔法使いの塔の死霊術師の護衛兼監視とお手伝い。行動予定は、ヴィント滞在の一泊でダンジョンの外側と、蟻塚の見学。その後市外でクリーパー退治、ですか。文面に起こすととんでもないですが、確かに請け負いました」

 ギルドの受付が微妙な顔で書面を引き受ける。実際には事前の根回しが通っており、受付嬢が何か判断するような話でもない。特約としては、問題の死霊術師自身が勝手に非協力的になった場合は依頼失敗の責は問わない、と言う所。具体的には、機嫌を損ねて予定通りに動かなかったりするケースがありうる。もちろん、冒険者のせいで非協力的になる場合は話が別だ。

「というか、協力的になるよう頑張ってね、って言う含みを感じますね、これは」

 添えられていた個人情報をチラ見する。南部の王国貴族ディンドルフ家の出でパンクリアース学園在学中は剣術をおさめており、もともと王国騎士になりたかったようだ。侯爵家を継ぐまでの間だけでも、と熱望していた辺り、才能と希望が一致しなかったという奴だろう。適性が死霊術と判明し、廃嫡。しかしそれまで死霊術の死の字も知らない青年だったらしい。死霊術に精通しすぎたため、魔法使いの塔に隔離されてから数十年。実年齢よりは明らかに若く見える、見た目は50絡みのダンディ剣士。実際は死霊術師、であるそうだ。交友関係は魔法使いの塔の区画の中にいるにしては広く、外部とも検閲された書簡のやり取りをしているというが、文通相手にはまったく統一性が無い。

「……好みとか、よくわからないですね。この情報だと……」

 道中の宿だとか食物だとかは王国が用意しているので、食事で釣るのは無理。趣味の話で仲良くなるのを狙うなら、剣術か死霊術か? あるいは学園生であった経歴や、南部の海洋貴族の出である辺りが話の切っ掛けになりうる。しかし触れるのは地雷である可能性もあり、正直なところめんどくさい。

 調査が無難に終われば問題はなく、彼をやる気にさせた場合は評価が増す。あとは、調査内容が充実すれば良いという観点でいえば、調査自体への口出しも効力がある限りにおいては歓迎されるだろう。

解説

グレゴールはまだイラストが無いですが私の中ではワイルドな気品あるイケオジです。 ・死霊術師なのでキャスター系列ですが、持ち歩いてるのは大剣。杖代わりにできる特注品です。 ・死霊術師なので、ヤコブの事にちょっと興味あります。 ・色々あったので王国とか王家は嫌いです。 ・リヴァマス爺ちゃんとは仲良しです。彼のどこが気に入ってるのかはわかりません。 ・エーテルと作物の生育の関連性についてけっこう詳しいらしいです。 ・一見誰にでも塩対応ですが、自分を隔離した王国の王子以上に嫌われない限り会話は通じます。 ・ダンジョンと旧蟻塚は外から見るだけで良いようです。会話イベントスポットと思ってください。 ・『帝国南部に出ているクリーパー』を見たがっているようなのでツアーを組んであげてください。 (その辺の雑魚でもいいですし、でっかい奴を見に行くでもどちらでも構いません) この爺さんを上手に動かすと、帝国と王国の不作の原因を分析するでしょう。 なんか閃きの種を与えたりすごく調子にのせてやれば、対処法なども思いつくかもしれません。 皆様が関連依頼などで見知ったことを伝えてあげると、おっさんはそれを基に掘り下げて考えると思います。

マスターより

紀藤です。 リヴァマス老のお友達のおっさんが、隔離区画から出てきました。 またNPCを接待する依頼かよ! と言われそうですが、最近なんかそんなのばかりですみません。 情報を引き出すこともできる相手なので、都合よく利用してくださいね。 皆様の心優しいプレイングをお待ちしております。

リプレイ

 実際に目の当たりにしたグレゴールは魔術師系統には程遠い雰囲気だった。がっしりした体格と健康的な肌色に、背負った大剣。

「今回の監視役は、お前たちか。何だ、ほとんど女子供じゃないか。まあいい。俺はグレゴールだ」
「若輩者で失礼、ヨル・スレイマンだ。よろしく」

 斜に構えあまり友好的とは思えない第一声へ、ヨルは動じた様子もなくそう返答する。ゲルダ・クラインも敵意は無いと察したのだが、如何にも偉そうな王国人と言った物言いにわずかに気圧された。後輩を守るようにレティシア・レインフィールが一歩踏み出し、自己紹介と共に優雅に頭を下げる。

「なるほど、冒険者は貴族の娘の道楽か? 物好きな事だな」
(聞いていたよりも、荒っぽい喋り方をされるのですね)

 様子を見るグレゴールを、レティシアの側も見定めていたらしい。礼儀に適わない粗野な物言いだが、所作は貴族階級のそれだ。初対面に挑発するような物言いをわざとするのは、揺さぶりをかけて優位を取る弁論の術とナタリア・フィッツジェラルドは察する。

「一筋縄ではいかない御仁のようだ。学者の端くれとしては、中身のある弁論をしたいところだね」
「ふん……。馬鹿では無いようだな」

 ナタリアがそう言うと、片眉をあげてそう応じた。挨拶で交わされた軽い応酬に気づいた面々はそれぞれ思う所を抑えつつ、特に知らず流した面々は特に意を込めることなく挨拶を終える。

(友人を軟禁されて憤るディンドルフさんの気持ちは分からないでもないですが)

 任務とはいえ、ヒューマンの機嫌を取らねばならないというのは複雑だ、とリディリディ・トゥラ・イェレミースは思った。リディリディはそもそもマイペースに過ごしたい方だ。他人に、それも常識からして違う種族に気を遣って過ごさねばならないと思うとストレスを感じている。

「リヴァマス先生のご友人ですしお揃いでグレゴール先生とお呼びしても?」
「ほう、その言い分だと半獣で学園の生徒なのか?」

 ナハト・シュライバーの言葉には否と言いつつも、少しばかり険が取れた気がした。内心で彼に礼を告げつつゲルダが次に名乗ると、「半獣の次は小人か。ご苦労な事だ」と言葉が返る。どうでも良さげな口調からは、言っているほどに種族の違いにこだわりはないらしい。そんな所も王国の気風に齟齬を感じているのか、とナタリアは分析を続けていた。

「隊長先生の友達で、折角塔から出てきたんだし、色々楽しんで貰えるといいなって」
「……なんだ隊長先生というのは。何? 我が友の事か」

 同じく学生のララベル・サン・ディーベルの声に、またも纏っていた狷介さが薄れる。

「私は直接お会いした事は無いのですけれど、とてもお優しい方だと伺っております」

 時間があればお土産でも買えると良いのですが、とレティシアが言うも、ヴィントはまだ復興の最中とあって、王都グランスパーダに持ち帰れそうな土産は売っていなさそうだ。

「その辺の蛇を捕まえて持って帰る、と言う訳にもいかないだろうけれど、観察して土産話にすれば喜ばれそうだね」
「そうだね。大きいのも、小さいのも、細いのも、太いのも、それぞれ良い所があるっていってたし」

 何度も行動を共にしているヨルとララベルが言えば、グレゴールは偉そうに腕組みしてから、「お前たちに一つ忠告してやろう」などと言う。

「隠れて監視している王国の手先は4名。俺が隙を見れば逃げだすのも容易だ。せいぜい、監視の気を緩めるなよ」
「いや。その必要はないよね?」
「何?」
「だって、依頼を受けた最初の条件はあなたの真意でしょう。俺も同じだよ」

 リヴァマス爺さんの軟禁を早く解いてもらって、また蛇探しなど頼まれたいと言うヨルに、ララベルも頷く。以前に作った蛇ゴーレムを絶賛されたグレゴールは、毒気を抜かれた様子で鼻を鳴らした。

●
「ここは奪還作戦の時以来ね」

 蟻塚跡を眺めつつ、ロゼットは当時を思い出す。内部に攻め込み、コアの破壊に至るまでの様子を解説すると、グレゴールは得心が言ったような顔をしていた。

「幽界樹の跡にできたダンジョンが海である事と……、『霊船グロムレイ』がその中に現れたことは何か関係があるでしょうか」
「『貴族喰』が何かをしでかしたせいで、幽霊船が出たと? いや、そういう訳ではあるまい」

 そう返しつつ、グレゴールはララベルからも突入時の話を聞いている。彼に言わせると「だいたいの絡繰りはわかった」らしい。

「ヤコブ君は、思い込みの激しい人だった。『帝国民の恨みが力になってあれほどのアンデッドを動かせた』と言っていたらしいけど、どうなんだろうね」
「ダンジョンに化ける程のエーテル異常の傍にいたのだ。それを利用して術を組み上げたのだろう。痕跡もある。『貴族喰』め、なかなか骨のある男であったか」

 不承不承、といった様子でヤコブの評価を告げる。大量の死者を操る事よりも、それを用意する方が面倒だ、というのがグレゴールの意見だった。

「湯水の如く力が供給されたとて、ゾンビを作るのはいわば手作業だ。四万回も繰り返すとか、正気の沙汰ではない」
「ヴィントの件もあって死霊術と言えば邪悪な印象が強くなっていますが、死者を安らげる為に使う事はできないのでしょうか」

 ロゼットは自身をボルガニスクの信徒であり、癒し手であると伝え、生者を癒す為の神聖術のように、死者を救うために死霊術を扱えるのではないかと私見を述べる。

「彷徨う魂を安らかに送ってあげたり、この世界に未練を残した魂の声を聞いてあげられたらって」
「善悪など所詮は人が決めた枠組みだ。どう使おうとも邪悪な死霊術と言う世の誹りは免れまい」

 苦い顔をしつつも、ロゼットが言うような使い方を否定はしなかった。ならば、とヨルが声をあげる。

「俺は、友人を看取るまで生きるために死霊術を覚えたいんだ。グレゴール殿は弟子を取る予定はない……?」
「俺の術は俺が使う事しかできん。それに、死霊術など長く生きる役には立たんぞ」

 死霊術を自身に用いれば生者の輪からは外れる、とグレゴールは言った。長く生きるのならば、脇道にそれるのではなく自らを鍛え続けるのが最善だ、とも。

「俺が歳より若く見えるのは、自身を鍛えたからだ。大昔の帝国皇帝のザッカ・グロムレイを知っているか? 人は強さを突き詰めるだけで数百年は生きる」

 逆に言えば、鍛錬を積まないと長生きできないのだから大変だな、と長命種のリディリディは思うのだが。

●
 ヴィントを離れ、北へ。クリーパーの出現報告は幾つもあったので、比較的近い物を選ぶ。

「あの、差支えが無ければ、その剣のお話を伺っても良いですか」

 道中、だいぶ角が取れた様子のグレゴールへ、意を決してゲルダが声を掛けた。背負った大剣は見るからに古い品で、どこで作ったのか、誰に作ってもらったのか、来歴を知りたいのだと。

「剣にお名前とかあったら、由来なども教えてほしいです」
「これは古い友の家に伝わる剣だったのだ。彼が死に、契約と共に俺が受け継いだ。銘は……」

 少し宙へ目を漂わせてから、聞かない方が良い、と続けた。当人同士の話はついているのだが、所有していた貴族家からは良く思われていない故、詳しく知れば面倒な事にもなりうるだろう、と。あまり掘り下げない方が良い話題と見たレティシアが話を継いだ。

「元々の佩剣と言う訳ではないのですね。では、剣術に興味を持たれた切っ掛けというのはあるのでしょうか」
「妙な事を言う。子供の時分に騎士に憧れぬ男子などおるまい」

 そうだろうか。いや、自分も姫君に憧れた幼少期であった、とレティシアは納得する。物語に憧れるにせよ、人に憧れるにせよ、理由が一つと言う訳では無かったのだろう。

「それはそうと、不作の事で私が存じ上げている事ですが……」

 王国北部の飢饉と、それに伴う貴族同士のやり取り。エーテルを奪うメドゥの指先の幹部の出現などを伝えるも、グレゴールは頭を振る。

「その流れなら、貴族どもは状況を利用する側であって仕組んだ側ではない。メドゥの指先もだ」

 もしも飢饉を意図して引き起こせるのならば、貴族はより効率よく利益を得るように動いただろう。愉快犯じみたメドゥの指先に何が利益か定かではないにせよ、知っていたならより愉しめる仕込みをした筈だ。そうこうしている間に、クリーパー数体に近づいているとララベルの警告が入った。

「……ふん。戦い慣れしているな。授恵者で学園生なら当然であろうが」

 ただ倒すだけでなく、観察しやすいように立ち回る様子はグレゴールのお眼鏡に叶ったようだ。数度、小型のものとの交戦を果たしてから小休止となった。

「動物に植物が絡み付いてる、本体が植物の奴だったね。……植物のクリーパーだから、作物の栄養になるエーテルを吸い上げてるのかな?」
「あれは、ヴィント奪還作戦でも現れた幽界樹の実ね」
「発芽してしまっていますが、前と同じく実が弱点ではあるようですね」

 ララベルの言葉に他の依頼で確認したとロゼットが頷き、先ほど実地で見たゲルダも同意する。実が砕ければ根状の器官も枯れ果てた。根に寄生されたクリーパーも大体は同時に滅んでいるので、一心同体に近い関係なのだろう。

「あの、確かに形状は樹のようですが、植物交感では何も感じられませんでしたね……」

 考え込むララベルへ植物交感も一応は試してみたというリディリディの本命は、魔法知識による分析だ。クリーパーはエーテルを喰う化け物であるが、生物のような高濃度のエーテルを好むのが定説ではあった。

「その。ディンドルフさんが見たいのは大地のエーテルを吸い上げるクリーパーですよね?」
「うむ。実際に地に根を張っている場所が見られれば良かったが、さすがにそう都合よくは行かなかったな」

 クリーパーに蹂躙されたはずのヴィントに大量の死体と魂が残っていた辺り、幽界樹が『普通の食事』をしないクリーパーだったのなら辻褄は合う、とグレゴール。その分け身であろう寄生体を見る事で分かることもある、と言うが。

「あの、森が枯れたという事件がフィルエス大森林でありました。あの時は、クリーパーではなく魔獣が周囲の植物を枯らしていたようですが」
「ほう?」

 リディリディが見てきた様子や共にいた面々に聞いた話を伝えると、グレゴールは考え込んでから「今回の件とは異なろう」と答える。自分の生育に適した環境に周囲を変える(汚染する)というのは、生物としてはまだまっとうな行動だ。土壌ごとエーテルを吸い上げて枯らすというのは、生きているというべきか怪しいクリーパーならではの迷惑行為ともいえる。

「できれば大型の……幽界樹、であったか。その様子も見てみたいものだが」

 さすがにこの人数で倒そうとは言いださず、見学だけなら良いと考えていた冒険者達の考えとも合致し、もう少し北へと足を延ばすことになった。遠くから異様な姿を眺める事しばし、グレゴールは納得した様子で帰路につく。

●
「そういえば、王国の土壌が肥沃な理由って学術的に解明されてるんですか?」

 帰り道、ナハトの問いにグレゴールは少し間をおいてから、「一応はな」と答える。遥か地下深くにあるエーテルの流れが、王国付近では地表に近い。この近さが物理的な物か概念的な物かまでは分からないが。何故知りたがるのか、と問えばナハトは良い笑顔を返す。

「僕、あの王子の良い様に使われるのすっごく遺憾なんです。だからあの王子の力を借りずとも帝国の、殿下の助けになれるよう、もっと知識も力も欲しいんです」
「ふん。なるほどな」

 聞いたグレゴールは特に諾否は返さない。王国貴族であれば、見過ごすべきではない言質ではあろう、とレティシアは思う。今は冒険者としてある彼女同様、今のグレゴールも貴族としての立場ではいないのだろう。

「もしもの話をしても詮無き事だが、貴方が王国以外……例えば帝国に生を享けたのならどうなったのだろうか」

 試みに、というようにナタリアが水を向けると、悩むことも無く彼は言葉を返してくる。

「どうもなるまいな。死霊術というのは良い目では見られぬ。あの頃の俺が帝国にいたのなら、隔離どころか自由も失ったであろうよ」

 素質を見出された時のグレゴールは死霊術の死の字も知らぬ学生であった。怪しげな実験施設にでも送られただろう、と言われればナタリアは否定もできない。実力主義の帝国といえば聞こえは良いが、芽の出ていない者を一から育ててくれるほど優しいとは限らないのだから。一方、この調査で得られた知見から原因を予想する者たちもいる。

「帝国と王国では距離が離れすぎてるとは思うけど……」
「いや。王国北部と帝国ってそんなに離れてはいないよね、山はあるけど」

 小首を傾げたロゼットに、ヨルが異を唱える。道なりを歩く者と、道を外れる事もある者の視点の差か。山を越える手段も、鳥や人を介する植物のように、あるいは川の流れのように、とヨルは幾つも案を口にした。聞いたロゼットがなるほどと頷く。

「土地を巡るエーテルに川のような性質があるのなら、上流の異変が、下流に影響を及ぼすようなことは無いかしら」
「そもそもエーテルって元は魂だよね。ヴィント戦と因果もあるのかな」

 先にグレゴールが言及していた、地の底のエーテルの流れ。それが繋がっているのならば、帝国の異変が遠く王国まで影響を及ぼす可能性もあるのでは、と2人は思う。幽界樹を『エーテルを吸い上げる事に特化した形状』と称したグレゴールも、あり得る事だと同意した。

「原因があるなら、対策もできないかしらね」

 ロゼットの溜息にグレゴールは黙考してから、言葉を返した。

「エーテルが枯れた場所も、地下から新たにエーテルを汲み上げれば肥沃な土地となろう、というのが死んだ友の見込みであった」
「大地ってある意味沢山の死骸が折り重なって出来たようなものなんですけど。死霊術で干渉出来たりもするんでしょうか?」
「ふむ。良い点を突いておるな。死霊術とは別だがエーテルに呼びかける似たような術があるだろう、という予測もたっていたようだ」

 先を促すナハトへと話を続ける。地の底のエーテルの流れへ呼びかける事ができたと思える存在は、そのような目で眺めれば歴史上にそこそこ見受けられたのだとか。今に残る豊穣の儀式などは、素質ある者が関わって上手くいった時の事を経験知として繰り返しているのかもしれない。

「……と、我が友は論じておってな。それはおそらく一種の授恵者であろうとも」

 論文を発表しようとした所で隔離され、その後実証する機会も無く失意のうちに亡くなったらしい。なるほど、と頷きつつもナタリアは彼の口が軽すぎると思う。故意にナハトやこの場の冒険者へ情報を与え、報告としてギルドへ伝わるようにしているのだろう。あるいはそれが友人への供養と思っているのかもしれなかった。

マスターコメント

おっさんの接待お疲れ様でした。 ちょっと拗ねたオヤジでしたが、だいたい我が友の話には弱い(ちょろい)。見張りの王国騎士に嫌がらせをする事もなくツン気味オヤジは最初の段落で終了です。 参加者の皆様をそこそこ気に入ったおっさんは、色々見て考察したことを、王子に伝えるより先にペラペラ話しちゃってますが……。後日(特設ページにも纏める程度には)周知されますので、お前ら王国が公開を禁じていた秘密を知ったな? ああん? 的に王子の配下に暗殺される心配はありません。 MVPは彼の口を軽くした要素の中で少し大きかったお2人に。 だいぶちょろかったせいで会話が膨れてしまい、今回出てくるクリーパーは特に強くもなく、なんか隔離されたりバラバラに倒されたりしてて、ヒヤッとする所も全然ないので戦闘描写はカットしました。もしも雑魚クリーパーがグレゴールの所にやってこれる位の隙があれば、おっさんが剣振ったり魔法撃ったりするシーンがあったかもしれないのですが、そうすると彼が気分よく吐く情報が減ったと思います。 おっさんが次に隔離区画から出てこれるのが何時になるか分かりませんが、また会う機会があればどうぞよろしくお願いいたします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2021年10月05日 18時36分30秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ロゼット

    ヒーラーの神官戦士ロゼットよ。よろしくね。 調査の行き先は示されてるようだから、 決めなきゃいけないことは、そんなに無い感じかしら。 クリーパー退治の対象(雑魚、大型、他)をどうするか、とか? 想定でちょっと準備が変わりそうだし。

  2. ナハト・シュライバー

    パンクリアース学園4回生でシューターのナハト・シュライバーです、よろしくお願いします。 ええと、グレゴールさんをダンジョンと旧蟻塚、それに帝国南部のクリーパー出現スポットに案内して、護衛・監視しつつ調査の手伝いをする。 道中出来ればやる気が出るような接待というか会話を心がける……っていう、依頼なんですよね。 何が地雷の話題か解りにくいんですが、話の切っ掛けが掴めずろくに話ができないよりかは積極的に話しかけていった方が良いんでしょうか? 人当たりは別として、何となく他人と話したり何かを教えたりすること自体はそんなに嫌いじゃなさそうな印象ですし。

  3. ナハト・シュライバー

    クリーパーに関しては雑魚でも大型でもどちらでも構わないとありますけど、調査を充実させるという意味なら対象・場所は複数あった方が良いのかな、とは思いました。

  4. レティシア・R・クラティアス

    ごきげんよう。ヒーラーのレティシア・レインフィールと申します。 皆様、よろしくお願い致します。 クリーパー退治は確かにナハト様の仰る通り、複数回ある方がよろしいかもしれませんね。 ただ無理は禁物でございますから、回数に関しては余力次第となりますでしょうか。 グレゴール様とのお話は基本的には各自の判断に任せ、自由に行う形でよろしいかと存じます。 流石にあまり無礼な事をなさるのは控えた方がよろしいですけれど……。 どの話題が不興を買うかは現時点では未知数ですので こちらで触れる話題が偏りすぎないよう調整出来ますとよろしいかもしれません。

  5. ナタリア・フィッツジェラルド

    ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ、宜しく。 色々あったので王国や王族が嫌いとあるから、地雷といえるのはその辺りか? クリーパー討伐は各自の技巧に基づいた最善を尽くすとして、グレゴールとの会話は各々の人間性が問われる所だろう。 エーテルと作物の生育の関連性についてけっこう詳しいらしいから、大地を糧として育つ植物を糧とする動物云々と、食物連鎖のサイクルについても触れてみようか。 私は王国と関係ない帝国人としても学者としても話は合いそうかな?と楽観的に考えてみる。 プレイングに組み込む予定といえば、自分は学者であり対クリーパーのドクトリン構築に精力的だから、例えグレゴールと敵同士になったとしても彼に負けないくらいの自分になりたい、という風に話を振ってみよう。

  6. No.6

    キャスターのリディリディです。 よろしくお願いします・・・。 内容はギルドで受付の方が仰っていた通り、護衛と監視のようですね。 ディンドルフさんはキャスター系列とはいえ、授恵者であるという話はないですし、 気を付けないといけないのはクリーパー退治の際は護らないといけないということぐらいでしょうか。 授恵者ではないという話もありませんでしたが・・・。 ともあれ・・・、各々でディンドルフさんの機嫌を取っていくということですね・・・。 ヒューマンの機嫌を取るというのは不本意ですが・・・。

  7. ヨル・スレイマン

    ヒーラーのヨル・スレイマン。宜しくね。 塔の死霊術に話が聞けるなんて本当に幸運だなー楽しみだなあ……! あっあ、勿論仕事はきっちりやるとも。 >クリーパー退治 これは望みらしいから是非叶えてあげたいね。 できたら複数、途中でダンジョンと旧蟻塚での休憩を挟む感じで組んだらどうだろ。 大型については「見る」だけでも良いかもしれないよ。護衛だけはしっかりやりつつ、残り体力を見て2〜3回を目処に、というところだろうか。 >地雷 これについてはナハト君のいうように、積極的に話しかける方針でいいと思う。 ヤバそうだったら引く、他の人がフォローを入れる。それだけでもだいぶ違うと思う。 個人的には、あからさまに酷いこと言わない限りは大丈夫だと思うな。 彼がリヴァマス爺さん大好きなのは間違い無いし、出した条件に嘘もなさそうだものね。

  8. ロゼット

    >話題 ヨルと被るけど、死霊術のことで少し話はしてみたいわ。 出発までに他に思いついたら、その話題と半々にするかも。 「蟻塚」はヴィント攻略の時の、蟻亜人の巣よね。 私そこの攻略戦に参加したから、内部の様子は話せるかな? >クリーパー退治 護衛という点でなら、戦闘時は敵の発見漏れがないよう索敵とか、 連戦なら交代でも良いから、グレゴールさんの横に誰か付くとか? ヒーラーは多めだし、私は護衛に付くのも構わないわ。

  9. ゲルダ・クライン

    ゲルダです。よろしくお願いします。 >クリーパー退治 観察が主な目的みたいですし、速攻を仕掛けるよりも防戦寄りにして ……BSによる搦め手を主にしたほうがよさそうでしょうか? ロゼット様が護衛に回ってくださるのであれば、わたしはシーザーロアで敵の引き付け役をしますね。 大型のものは、ヨル様のおっしゃるとおり、「見る」だけでも問題ないかな、と。 スキル回数に余裕があれば……ですけど、複数の種類の敵を相手にするのがいいですよね。 >話題 はい。積極的にお話をする、という方針に異論ありません。 積極的に……積極的に……、が、がんばりますっ ええと、個人的に武器がとっても気になりまして…… どうして大剣にしたのかとか、作成までの経緯ですとか そのあたりのお話をお伺いできたらいいな、と。 あとは、リヴァマスおじ様との関係について、でしょうか?

  10. レティシア・R・クラティアス

    >クリーパー退治 大型については観察のみでもよろしいかどうか グレーゴル様のご希望もお伺いしてみるとよろしいでしょうか? 私はあまり攻撃の方は得意ではございませんので 護衛の方を担当させて頂けると有難く存じます。 >話題 ギルドの受付の方がご覧になっていた個人情報は 私達も存じている、という認識でよろしいのでしょうか。 それでしたら、私も武器や剣術関連のお話をお伺いしたく存じます。 リヴァマス様とのご関係も少々気になりますので ゲルダ様がよろしければ、お話の際はご一緒出来れば、と。

  11. ナハト・シュライバー

    >クリーパー退治 確かに、意向を確認して問題なければ大型は観察のみということであれば無理なく達成できそうです。 数に関してはスキル回数や消耗具合などを鑑みつつ、で。 僕は小型なら討伐主体、大型に対しては牽制射撃や濃煙で足止めとか出来るので撤退支援主体で動こうかと思います。 >地雷 そうですね、ヨルさんの仰るように相手の反応見つつ適当な距離感図りつつ、ちょっと危ない時は他の人が話題逸らしたりするなどしてフォローしあう感じでいけば問題なく沢山お話できそうです。 >話題 僕はエーテルと作物の生育の関連性という所で、そもそも何故王国が肥沃な大地なのか、その土壌というか地質やエーテルに関する特性などの基本的なことが気になるのでそのあたりを聞いてみたいと思ってます。 言い方が悪いかもしれませんが、死体も大地を構成する要素の一つですし、それ故に死霊術との関連性もあるのかな、とか。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0