古き因習からの脱却を目指し

真柄 葉

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シナリオID:1366

オープニング


 短かった夏季ももう終わり。朝夕には雪がちらつくほどの寒さが襲う北の地『フェンガリ』。
 極北を目指す調査隊『極行遣北使(ノルデン・ボーテ)』のベースキャンプ地として活気を見せる村は、外貨を得て少しずつではあるが発展を見せ始めていた。

 そんな村の村長クルススの元に、思いもしない提案が持ち込まれる。

「いくら何でも、話が突拍子過ぎませんか」
「ああ、俺も自分で言っていて突拍子もないと思っている」

 クルススの向かいの座るのは、村の大工クルートだった。

「これでも無い頭を絞って随分考えたんだ。思い付きで話しているんじゃないって事はわかってくれ」
「ええ、そこは疑いませんが……。詳しく聞かせてもらえますか、その結論に至った経緯を」
「ああ、もちろんだ」

 クルートはそう答え改めて話し始める。

「ここ最近――ちょうど征竜様が居なくなってから、この村に色々な人が訪れるようになったよな」
「ええ、冒険者の方を中心に様々な人が訪れましたね」
「そうだ。俺は外の人間(冒険者達)と触れ合って痛感させられたんだよ。この土地の過酷さと生活レベルの低さを」
「……確かにそれは私も感じています。ですが……いくら何でも村ごと引っ越しは突然すぎませんか」

 眉を寄せるクルスス。クルートが持ち込んだ話は村の移転話だった。

「ああ、わかってる。だが、聞いてくれ。俺は先日、冒険者達に提案してもらったあれこれを実現するどころか、半分も理解できなかった。自分の未熟は恥ずかしかったよ」

 自嘲気味に口元を歪ませるクルートに、クルススはどう声をかけていいのか迷う。

「もちろん、出来ないと諦めたわけじゃない。全部は無理でも冒険者の提案を実現したいんだ。だけど、それにはここでは駄目だ。この土地には何もない、実現できるものもできないんだよ。だから、俺はそれが実現できる土地に移りたい。もちろん自己満足じゃない。俺はそれが村の皆の為になると思っているんだ」

 滔々と自らの考えを語るクルートに、クルススはじっと考え込む。

「しかし、引っ越し先の森林地帯には魔獣がでます。授恵者だったクム神官もすでに亡く、対抗手段を持たない我々には、あの地で生きていくのは難しい」
「ああ、その通りだ。ただ、この間魔獣を倒してくれた冒険者達の話によれば、あの狸たちは魔獣の中でもかなり弱い部類らしい。倒すのは難しいだろうが、村を柵で囲うなりして侵入を防げばやって行けるんじゃないかと思っている」
「ふむ……」
「もちろん、それだけじゃ不安だろうから、冒険者に住んでもらう……のは厳しいにしても、定期的に駆除を依頼するとかすれば、暮らしていくことはできると思うんだ」
「なるほど……確かにベースキャンプ設営の仕事のおかげで外貨を稼げています。冒険者――護衛を雇う事は不可能ではないですが……ふむ」

 クルススは再び考え込む。
 クルートの言う様に、ここは過酷な土地である。今までこの地にしがみ付いて来たのは、ひとえに征竜(偽)がいた為。そして、その征竜も今はいない。であれば、この地に留まる理由はないのではないか。
 クルススはそこまで考え口を開く。

「提案は理解しました。私としてもデメリットより、メリットの方があるような気がします」
「おおっ! では――」
「しかし、私一人で決めるにはあまりに重い問題で――」

――バキーンっ!!

 クルートにクルススが答えようとした時、奥の台所から大きな音が響いてきた。

「な、なんだ……?」
「はぁ……クシェンが何かやったのでしょう。どうか気にせずに」

 驚くクルートに、クルススは大きなため息をついて答える。

「話を戻します。大きな話です、やはり私一人では――」

『に、兄様!!??』

「……すみません。ちょっと行ってきます」
「あ、ああ」

 再び奥から聞こえた声にクルススは、クルートに頭を下げ奥へと向かった。

●

「一体どうしたんだ、大声を出したりして」

 台所へ入ったクルススは、呆然と立ち尽くすクシェンを見る。

「えっと……壊れたんだけど、なんで?」
「なんでって……うわ、真っ二つじゃないか」

 鍋を持ちつつ首をかしげるクシェン。そして、その後ろには真っ二つに割れた机があった。

「これ、まさかクシェンがやったのか?」
「ち、違うわよ! 鍋を置こうとしたら突然割れたの!」

 そんな馬鹿力じゃないわよ! と憤慨する妹にクルススは眉を寄せる。
 この机はクルートの作で、無骨だけど頑丈な机だ。クシェンの力が普通の女子よりちょーっとだけ強いといっても、流石にこんなことはできない。

「一体どうしたんだ?」

 クルススが首をかしげていたら、製作者であるクルートが顔をのぞかせた。

「うわ、机が割れてるじゃないか!?」

 見れば自ら作った机が真っ二つ。クルートは思わず叫んだ。

「すまん! 作りが悪かったのかもしれん! クシェン、怪我はないか」
「う、うん、無いけど……わたしじゃないからね!」

 心配するクルートに、クシェンは頷きぶんぶんと首を振る。

「それならよかった。しかし、この机が壊れるとはな……丈夫に作った――って、なんだこれ」

 クルートは机に近づくと壊れた原因を探る。そして、すぐにその理由を見て取った。

「こんな壊れ方は普通しない。老朽化でも不具合でもなく、これは――」

 そして、クルートは再びクシェンを見ると――。

「単純に力で割られている」

 そう告げた。

「……えぇっ!? ち、違うわよ! わたしじゃないからね! わたしはただ鍋を……ちょっとだけ、強めに置いただけだもん!」

 二人に見つめられ、クシェンは慌てて否定する。

「ちょ、ちょっと兄様までその眼は何よ!? 言ったでしょ、わたしじゃないの!」
「あ、ああ、そうだな。僕も鍋で机を真っ二つにする妹はちょっと……」
「そうでしょ! ……って、その眼は信じてないでしょ! 兄様、ひどい!」
「し、信じてるって! クシェンじゃない、ああクシェンじゃないぞー」
「言葉が軽い!?」

「なぁ、クシェン、ちょっとこれに手刀を振り下ろしてみろ」

 言い争い(?)をしている兄妹に、クルートが壊れた机から取り外した角材を差し出した。

「本気でやれよ。大丈夫、手は傷めないはずだ」

 困惑するクシェンに、クルートはいいからやってみろと急かす。
 当のクシェンは、こんなの折れるわけないじゃない、と言いつつ、しぶしぶ手刀を振り下ろすと――。

――ボキッ。

 角材はあっさりと二つに折れた。
 兄妹が呆気にとられる中、クルートは確信する。そして、二人に向かって口を開いた。

「やっぱりそうか。クシェン、お前は授恵者になったみたいだ」

「「……は?」」

 クルートの言葉に兄弟そろってぽかんと口を開けた。

●
 クシェン覚醒を受け、クルススはクルートの案を真剣に考えた。
 確かに厳しい冬に悩まされていた村をより良い場所へと移すのは良い案のように思う。魔獣に対してもクシェンが居ればどうににかなるかもしれない。
 しかし、それだけで本当に移転を決めてしまってもいいのだろうか。

「クシェンはどう思う?」
「どうって、移転の事?」

 問い返してくるクシェンに頷いたクルスス。

「そうね。わたしは別にかまわないけど、兄様は悩んでるのよね?」
「そりゃそうだよ。村の移転なんて一大事業だ。僕の一存では決められない」
「うーん、じゃ詳しい人に相談してみたら?」
「詳しい人……長老たちかい?」
「違う違う。冒険者よ!」

 そう言ってクシェンはにかっと笑った。

解説

●目的 フェンガリの移転案に対する意見をお願いします。 ●フェンガリ 極北に接する北壁山脈にある小さな村。 昔から偽征竜が村に巣食っており、その偽征竜の信仰の為に作られた村です。 しかし現在は、偽征竜が冒険者達に討たれ、古い因習であった『生贄』も行われていません。 なお、征竜が偽物である事や、偽征竜が討たれたことは村の一部の人間しか知りません。 今も偽征竜は一時的に北へと帰っていると信じている者がほとんどです。 村の環境は大変厳しく、植物も育たない不毛の大地です。 また冬季には完全に雪に閉ざされ、屋外へと出る事も困難です。 ●移転候補地 フェンガリから1~2日ほど南下した場所にある森林地帯で、針葉樹が生い茂る豊かな森です。 森林地帯の西側にはフェンガリ方面から流れてくる川(川幅10m程)があり、湿地帯もあります。 雪は降りますが、積もっても生活に支障をきたす程ではありません。 しかし、この森林地帯には魔獣が住み着いています。 ●敵 狸型の魔獣。 繁殖力がとても高く、かなりの頭数がいます。また、雑食で何でも食べます。 魔獣は授恵者からすれば雑魚ですが、一般人から見れば命の危険を感じ村るほどの脅威です。 ●人物 クルスス:フェンガリの現村長。苦労性な18歳。 クルート:クルススの理解者。村の大工で双子姉妹のパパ。 クシェン:クルススの妹で天真爛漫な17歳。先日、いきなり授恵者へ覚醒した。 グラウクス:齢70を超すフェンガリの最長老。移転には難色を示す。 ●補足 移転に際して最低限必要なものは。 1:整地 森を切り開き、村民約100名が生活可能なスペースを確保する。 2:防御柵 整地した土地へ村民の入植を果たすために、魔獣の侵入を防ぐ仕掛けを作成する。 3:魔獣対策 柵を設置し魔獣の侵入を防いでも、外に出られなければ移転する意味がありません。 4:説得 移転に難色を示す村人たちの説得。 以上を踏まえた上で、移転が可能か、移転は本当に必要かなど、メリットデメリットを提案していただければと思います。 シナリオで村に滞在する期間は1週間とします。 候補地の調査に行くのもいいですし、村で村人達との交流を持つのもいいと思います。 クシェンの関しては、戦闘系スキルは無し&レベル1ですが、授恵者になりましたので作業のお手伝いが可能です。力仕事とか必要であれば声をかけてやってください。狩猟系の汎用スキルは結構レベルが高いです。あと、料理もそれなりの腕です。

マスターより

OPをご覧くださりありがとうございます。 本シナリオを担当させていただきます、真柄 葉(まがら よう)と申します。 今回のシナリオは、村のお引越し――の為に必要なあれこれをお願いします! 厳しいばかりの土地フェンガリに別れを告げ、目指すのは新天地!? もちろん、そう易々と行くはずもありません。そこで皆さんのお知恵と力を貸してください! もちろん、デメリットが勝つという提案もありだと思います。提案者によらずフラットな視点から意見を頂ければと思います。 なお、不明な点がありましたら、ギルド職員であるNPCホリーが回答させていただきます。相談掲示板へ「Q:」から始まる形で発言してくださると助かります。 それでは、シナリオ内容をお気に召していただけましたら、ぜひご参加ご検討ください! ロスガリアの大地で皆様にお会いできることを楽しみにしております。

リプレイ

 『フェンガリ』。
 極北へのルートを発見し、現在進行形で極北へのアタックが試みられている最前線だ。
 今そんな最前線の村で、とある提案が持ち上がっていた――。

「事情はおおむね把握しました」
 クルスス、クルート両名を前に、ルーファス・W・ワーズワースが腕を組んだ。
「……それで、いかがでしょう」
「お二人が仰るように、より良い環境を求めて住む場所を移るというのは、生物として当然の欲求です」
 意見を求めてくるクルススに、ルーファスは窓の外に視線を向けて答えた。
「しかし、我々はヒトだ。本能だけで動く動物ではない。だから、話をしましょう。我々の様な外様とではなく、内なる声との対話です」
「内なる声……?」
 しかし、ルーファスの言葉が難しかったのか、クルートは首をひねる。
「簡単な事であり、とても重要な事です。お二人は村の皆さんの声を聞いてください。抜かりなく一人一人の声をです。誰一人として仲間外れにしてはいけませんよ?」
 そんなクルート、そして不安げに見つめるクルススに、ルーファスはにこりと笑った。

 ルーファスがクルスス達と話しをしている間、ララベル・サン・ディーベルは村の中を歩いていた。
「暮らしやすい場所に引っ越すのは、僕としては大賛成だけど……」
 人もまばらな村中でララベルは移住計画の話を思い出す。
 ララベルとしては過酷で人が住むには適さないこの土地に固執せず、近くに生活圏を移せる場所があるのならぜひ行くべきだと思っている。しかし――。
「はっ! もしかして、この村には、偽征竜の件以外にも実は極北の入口を守る重要な守部としての役割とか、実は古の神マーガランを封印していてこの地を離れるわけにはいかないとか、そう言う理由があるのかも……!」
 そう、反対派がいるのは何か理由があるのかもしれない。
 ララベルは気付きを得てすぐさま広場へと向かった。

「なるほど、やはりそれなのですね」
 長老グラウクスの元を訪れたアクティオンは、予想に違わぬ返答に深く頷いた。
「しかし、その征竜様はいつお戻りになられるのですか? そして、それを待つのはこの地でなくてはいけないのですか?」
 と、アクティオンは目の前に鎮座する最長老に問いかける。
 しかし、話す気がないのか、それとも話せないのか、グラウクスからの返答はなかった。
「すみません、話を焦りました。これは別に移住の説得という訳ではないのです。我々冒険者は公平中立な立場。その立場から、貴方の意見をお伺いしたい」
 だから、アクティオンはあえて立場を強調する。そして――。
「件の因習以外に、この村が征竜様と繋がっているとわかる事柄や習慣はないのでしょうか。あの儀式だけが唯一の接点だったのですか?」
 目の前の老人が頑なに信じるものは、たった一本の縁しか残さなかったのかと問いかけた。
「……そうだ。それが我々が受け継いできた唯一の接点。供物をささげ、征竜様に加護を頂く事こそが、唯一にして無二の掟……じゃった」
 答えたグラウクスは語尾をしぼませた。
「征竜様を失い落胆するお気持ちはわかります。ですが、加護を必要とせず生きていける、そう言う未来もまた、あるのかもしれません」
 目に見えて落胆の色の濃いグラウクスに、アクティオンは静かにそう語った。

●
 夜が明けた。
「いやはや、本当に何もない所ですね」
 新天地となる森林地帯を目指す一行は、道中で野宿し一夜を明かす。
 農家の習性か誰よりも早く起きたハリス・アル・ターミルは、周辺の土地を調べていた。
「森林地帯は肥沃だと聞きますが」
――そろーりそろーり。
「ここがこの様子では」
――むむ、背が高い。……ここは脇の下から腕を入れて――。
「どれほど期待していいものか」
――そのまま、首の後ろまで回した両手をギュ!
「先が思いやられ――」
――最後に、これを……ポトン。
「ますやぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「あははっ、ハリスさんうるさーい」
 完全無自覚に関節技(フルネルソン)を決めたトゥーリが、ハリスの首筋にとどめとばかりに雪玉を落とし入れる。
 背筋に這い落ちる雪玉の冷感に悲鳴を上げたハリスは、関節技(フルネルソン)に締め付けられつつ、背中にぷにゅりとした感覚を押し付けられ……もう何が何やらわからない。
 一方、後ろからハリスをがっちりと締め付けるトゥーリは、色々と悶え苦しむハリスを見て嬉し楽しそうに笑っている。
「……そこの声はトゥーリ殿ですね」
 聞き慣れた声に冷たく凍る様な口調で答えたハリスは、完全に決まった関節技(フルネルソン)をものともせず、首をゆっくりと後ろへ回していく。
「あはは……はは……は……あ、あれ、怒ってる……?」
「まさか私が二度までも同じ手を喰らうとは……やはり貴殿は油断ならない」
「あ、あの~、ハリスさ~ん……?」
「しかし、詰めが甘いのも変わってはいませんね……!」
 そう言うとハリスは両手を真上に伸ばし、トゥーリの関節技(フルネルソン)からスポンと抜け出た。
「んなっ!?」
 驚くトゥーリを他所に、ハリスは彼女との距離を詰めていく。
「前回と言い今回といい……少しお仕置きが必要なようですね」
「そ、それは一緒に極北に行こうって約束したのに、さっさと一人で行っちゃうハリスさんが悪いから……!」
「ええ、その事に関しては謝罪いたします。しかし、それはそれ、これはこれ!」
 ぽきぽきと拳を鳴らすハリスは、じりじりと後ずさるトゥーリに詰め寄り――。

――ひやぁぁぁっ!!!

 東の空に登った朝日と共に、辺りにトゥーリの絶叫が響き渡った。

●
「で、あれは一体なんなんだい?」
 御者台から振り向いたヨル・スレイマンは、隣に座るハリスに問いかけた。
「気にしないでください。一種の豊穣祈願だと思ってもらえれば幸いです」
 後ろを振り向きもせず答えたハリス。その顔には達成感が滲んでいる。

「がくがくがくがくがくがく!」

「だいじょーぶ、寒くない?」
 荷台にどどーんと居座る雪だるま(トゥーリ)に、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが問いかけた。
「出してあげようか?」
「あー、ダメですぞサフィラ殿。それが崩れてしまっては、せっかくの祈願が無駄になってしまいます」
「えぇー、そうなんだ。うーん」
 ハリスに言われ、サフィラは雪だるまをツンツン突く。
「流石にこのままでは凍えてしまうんじゃないか……?」
 一方、レイ=レーベンス=レックフォードはがくがくと顎を震わせるトゥーリを見て困惑する。
「毛皮もあるし、大丈夫なんじゃない? 雪の中って結構暖かいらしいよ?」
 サニー・フォン・オルライトが気にする様子もなく答え。
「サニー殿の言う通り。その程度で音を上げていては豊穣祈願に(お仕置きに)なりません」
 ハリスが大いに頷いた。

 トゥーリだるまを載せたまま、馬車はゆらりゆらり、のんびりと北の大地を進み――。
「おっ、見えましたわ。森林地帯です」
 バンビが前方を指さしたのを合図に、皆がそちらを見る。
 調査隊の面々は、ついに目的地へと到着した。

●
「一先ずこの辺りかな」
「ええ、開けていますし川も近い。問題ないかと思います」
 馬車を回しながらヨルとハリスが見つけた場所は、森林地帯の北端近くにある開けた土地だった。
「へぇ、ここから途端に温かくなるんだね」
 馬車を降りたサニーが、辺りの気温の変化を敏感に感じ取る。
「ああ、そうなんだ。この地を囲うエーテルの仕業かもしれないと思っているんだけどね」
 そんなサニーに以前一度この場所を訪れた事のあるヨルが頷いた。
 確かに、夏でも降雪のあるフェンガリからわずか二日しか離れていない位置で、ここは植生がちゃんとある。体感温度だってすぐにわかるくらいには違っていた。
「エーテルの加護かぁ。まぁ何にせよ、せっかくあるんだし利用しない手はないよね」
「利用できるものはすべて利用する。実に効率的かつ合理的ですわ。その理念、我がバンビ建設が最速でいただきますわ」
「う、うん? ここの土地は君のものじゃないよ……?」
 むふっと鼻息を荒くするバンビに、サニーが問いかける。
「誰も土地の所有をすると言っているませんわ。あんたの理念に共感したと、オレは言っているのですわ」
「そ、そう。それはよかった……?」
 闘志に燃えるバンビに、サニーは首を傾げた。
「おーい、一先ずゲルの設営をしよう。皆手伝ってくれるか」

 サニーとバンビが交わらない会話を続けていたら、ヨルの呼ぶ声がした。
 皆は手分けして荷物を馬車から下ろし、手際よくゲルの組み立てを始める。

「クシェンちゃん、そっち引っ張って! そうそう、もう5度傾けて!」
「うん、こうかしら!」
 サフィラがゲルの設営を手伝うクシェンに声をかける。
 移転予定地の調査には、フェンガリを代表しクシェンも同行していた。
「おっけー! それじゃ固定するよ!」
 クシェンと息を合わせ天幕を張り終えたサフィラが最後の仕上げと、ロープを結んだ。
「ふぅ……お疲れクシェンちゃん! すごいね、とっても筋がいいよ」
「そ、そうかな。えへへ」
「これは将来有望だね。にゅふふ、楽しみになってきたよ」
 首をかしげるクシェンに、サフィラは不敵に笑う。

 こうしてゲルの設営も終わり、いよいよ本格的な調査が開始された。

●
「マーガラン? なにそれ」
 広場ではララベルがクルートの双子の娘グリシアとグリシスに聞き取りをしていた。
「えっと、古の神って謳い文句で売り出し中の神様らしいんだけど、知らない? というか、この村に居たりしない?」
「知らないよ。グリシア知ってる?」
 と、グリシスは博識な姉に問いかけるが、グリシアはふるふると首を振って否定した。
「うぬぬ……そ、それじゃ――」
 と、ララベルは双子にあれやこれや質問していくが、予想していたようなしがらみはどれもなかった。
「それじゃ、この村にそんなに未練はないって事なのかな……?」
 ララベルは改めて双子に問いかける。
「んと、お引越しの話なら私達は別にいいと思うよ」
「それは村の人みんなが思ってる感じなの?」
「どうだろ……おじいちゃん達はここの方がいいんじゃないかな? 長い間住んでるし」
「ふむぅ……」
 グリシスの話を聞きララベルは考える。
 結局のところ、この村に村民を縛り付けているものは想い以外に何もない。だとすれば、引っ越し自体の話の持って行きようはあるんじゃないか。
「……わかった、色々教えてくれてありがとうね!」
「うん、引っ越し楽しみにしてるよ!」
 そう言うと、ララベルは双子に別れを告げその場を後にした。

●
「自分は何度となくこの地に足を運び、ここがあまりに過酷な場所である事を身をもって体験しました。たった数度この地を踏んだ自分でさえそう感じるのですから、ここに住まい何年も生活してきたご両名のご苦労は計り知れないものかと思います」
 アクティオンは村長宅を訪れ、クルススとクルートに面会していた。
「ですが、我々がこの地でやってきたことは一体何だったのでしょうか。ただ外の技術と知識を持ち込んだだけでしょうか」
 アクティオンは表情一つ変えずに淡々と二人に言葉をぶつけていく。
「あれ等の技術は外では一般的なもの、そうお考えかもしれませんが、それは違います。あれ等は全て外の技術と知恵をベースに、冒険者がこの村の為に考え出した技術です。いうなれば大陸で唯一無二の技術がここにはある」
「それは、移転をやめろと言う事ですか……?」
 淡々と説くアクティオンに、クルルスが警戒しつつ問いかけた。
「そうではありません。自分が言いたいのは、ここの過酷な環境ですら、技術と知恵を用いれば十分に住むに足る土地になり得る、という事です。まして今まで生活してきた基盤があるのです。この地を離れる必然性というのはそこまで高くないと思っています」
 クルススの問いに対してそうだとも否だともいわず、あくまで中立の意見として話を進める。
「もちろん、新天地には新天地の良さがあるでしょうし、世界が広がるとは思います。ただし厳しさもありますから、覚悟は必要ですけどね」
 と、最後に小さく微笑んだアクティオンに、二人は深く考えさせられた。

●
「制限時間は3日だ。各自てきぱき動いて行こう」
 ヨルの合図に皆が持ち場に散っていく。

「うぅ……まだ寒いよ。ハリスさんひどい……」
「自業自得です。いいですね、もう二度とこういう悪戯はご遠慮願いたい。……なんですか、その『それはフリだねっ!』的な視線は」
 じっと見上げてくるトゥーリから、ハリスは思わず目を逸らす。
 ようやく豊穣祈願の任を解かれた(雪だるまから解放された)トゥーリは、ハリスの指示に従い場所の選定を手伝っていた。
「……平面的な立地としてはこの辺りがよさそうですね。南に森林、西には河川。何よりフェンガリに近い」
「うん、私も場所としては申し分ないと思う。あとは条件だね」
 トゥーリの視線から逃げるように辺りを見渡したハリスに、サニーが声をかけた。
「最低条件として対魔獣が可能である事。となれば、防衛機能の充足は絶対条件だよ」
 サニーは広げた図面を指さす。
「折角河川があるから、その水を利用しない手はないよね。――こういう風にさ」
「なるほど、堀ですのね。防衛設備としては常套手段ですわね。距離的にも河川から引水可能でしょうし……悪くないですわ」
 同じく図面を覗き込むバンビがサニーの提案に感心を示した。
「それももちろんなんだけど、飲み水とか農業用水とかにも利用できると思うんだよね。この辺りはそんなに寒くないから凍らないだろうし」
「ふむふむ、井戸が必要かと思っていましたが、引水計画が可能であれば一つ工数が減りますわね」
「水害には要注意だけどね」
 サニーとバンビは移住に際し最も重要な水の確保は十分に可能だと結論付ける。
「魔獣対策のために堀を造るのなら、他にも色々と考えなければいけないことが多いね」
 と、今度は戦術的観点からレイが意見を述べ始めた。
「堀はいい案だと思うけど、それは魔獣が泳げない前提だろ? 聞けば狸型の魔獣だっていうし、泳げる可能性は十分にある。その辺りも考えると、やっぱり防御柵や堀とは別の忌避策が必要だと思うんだ」
「魔獣の生態を調べないといけないって事だよね?」
 そんなレイにトゥーリが問いかけた。
「そうだね。魔獣狩りに行く時に色々調べないといけないかなとは思ってる。後日、狩りに行く人はよろしく頼むね」
 トゥーリに答えたレイは、集った仲間達に向けそう伝える。

「なんか難しーことやってるね」
 拠点設営の話し合いを遠巻きに眺めるクシェンがぽつりと呟いた。
「ふふーん、クシェンちゃんにはまだ難しかったかな」
 そんなクシェンに魔獣狩りの為に冒険者としての心得や技を教えていたサフィラが手を止めて答える。
「サフィラはわかるの?」
「おっと、このサフィラねぇさんを舐めてもらっちゃ困るのよ。これでも『測量のさひ子』の二つ名で絶賛売り出し中なんだから」
「なんか変な名前」
「にゃにおうっ!?」
「でも測量って……長さ計る人だっけ?」
「そう、長さ計る人! クシェンちゃん賢いね!」
「えへへ、褒められた」
 サフィラにいい子いい子されて目を細めるクシェン。
「ほらほら、よそ見していないで訓練を続けるよ」
 そんな二人のやり取りにサフィラと共に教官役を務めるヨルが苦笑した。
「クシェン君、授恵者になったという事は眼がよくなったという事だ。今まで見えなかったものが見えるようになる」
「そうそう、お化けとかね!」
「えっ!?」
「サフィラ君、邪魔しないの」
 純真なクシェンの事が可愛いのか、事あるごとに茶々を入れてくるサフィラに再び苦笑したヨル。
 後日の実践を前にヨルは更に講義を続けていった。

●
「ふぅ……百人が住む土地の整地ともなると、やっぱり一苦労だね」
 大木を斧で切り倒したレイが額に浮いた汗をぬぐった。
 場所の選定はある程度済んだものの、予定地の半分以上が森林だ。レイを含め力自慢たちが木の伐採を行っていた。
「うぉりゃぁぁぁ!! サフィラ大・爆・発!!」
 そして、木を切った傍からサフィラがドッカンドッカンと【闘気槌】で大地をえぐり切り株を取り除いていく。
「クシェンちゃん、この切り株もお願いね!」
「わかったわ。端に寄せとくね!」
 クシェンはサフィラの技を観察しながらも、与えられた仕事をきっちりこなす。
 真面目に仕事をこなすクシェンを皆が微笑ましく見つめる中、作業は急ピッチで進んでいった。

「ふむふむ、根の張りは十分ですわね」
 サフィラの掘り返した切り株を見つめながら、バンビがメモを取っていた。
「土も……十分に肥沃ですわ。水の確保もうまくいきそうですし、これであればターミル様の熱望する農業も可能でしょう」
 地質に関する確かな目を持つバンビは、この地で何が可能で何が不可能か、事細かに調べていく。
「さて、土や水はいいとして一番の問題は……基礎ですわね」
 と、バンビはメモから視線をさらに下げ、切り株が植わっていた穴を覗き込んだ。
「平地とはいえ、傍に湿地、そして河川。堆積している土は上流からの堆積物でしょうし、この下に何があるかをよく調べなくてはいけませんわ」
 バンビは自らが汚れるのも気にせず、穴を更に掘り進んでいく。
 彼女が調べようとしているのは土の下にある岩盤だった。仮にこの地を生活の基盤とするのであれば、必ず住居が必要になる。だが、住居を建てるにしてもどんな土地でもいいという訳ではない。強固な地盤の上に建物を建てなければ、小さな自然現象ですら大災害へと繋がる。
 バンビは卓越した知識と眼で、この地がそれに相応しいか見極めようとしていた。
「……地層が変わりましたわね。これが地ですか」
 しばらく掘り進めたバンビは、目的としていた固い地層に行き当たる。
 土に砂利が混じり、堅くしっかりとした地面。
「ふむふむ……これであれば十分に役目を果たしますわね」
 バンビは得られた成果をメモの記すと共に、穴の底で満足げに頷いた。

「水量は十分だね。これだけ細い水路でも流れてくる」
 一方、予定地を囲む堀の作成を目指すサニーは、細い水路を実際に予定地に引いてみた。
 川は十分な水量を誇っており、流れも問題なさそうだった。
「これなら堀は作れそう。掘るのはちょっと大変だけど、何とかなるかな」
 掘り終えた水路と流れる水を眺めながら、サニーは安堵の息を吐く。
「結構流れも速いんだね」
 そんなサニーの元へレイが訪れる。
「まだ水路が細いからね。堀になればもう少し緩やかになるよ。本当は早い方が魔獣対策になるんだけどね」
「そうだね。魔獣が水を忌避してくれたりすると楽なんだけど、流石にないか。他にも何か手を打てるといいんだけどね」
「うーん、橋とか?」
「橋?」
「うん、跳ね橋……はちょっと難しいけど、脱着式の橋にするとか」
「なるほどね。それなら陸路の侵入も防げるか」
 二人は水路を眺めながら今後の展望を話し合っていった。

●
「道はどうしようっか」
「ここへ来るまでも随分と荒れていましたものね。やはり整備は必要ですわ」
 サニーとバンビ、二人は北へと続く道とも呼べない道を眺める。
「やっぱりそうだよね。石畳なんて贅沢は言わないから、せめて均しておきたいね」
「帰りに馬で丸太でも曳かせますか」
「うん、それが手っ取り早いかな。あとは北へ向かう道だけじゃなくて、色んな方面にも伸ばしていきたいな」
 と、サニーは西の方角を見た。
「道の多さは街の豊かさ、ですわね」
「うん。ここが本格的に使われるって決まってからでもいいんだけど、ゆくゆくは必要かなって思うよ」
 そう呟いたサニーには、この場所の展望が見えているのだろうか。そう思わせる様な自信がその表情には浮かんでいた。
「これも報告書にしたためておきますわ。説得材料にはこれからの展望もある方がいいでしょうし」
 またそれはバンビも同様だった。
 二人はフェンガリのある北を見つめ、静かに頷いた。

●
 調査最終日、冒険者達は最大の懸念材料である魔獣の調査へと出発した。
 森の全域に生息する魔獣は非力であるが数が多い。
 冒険者達は突然の遭遇に警戒しつつ森を奥へと入っていく。

「ううーん、見事に針葉樹ばっかりだね。植生が単純だぁ」
 森を進みながらサフィラが呟いた。フェンガリよりも温かいとはいえ、この地も十分に寒い。生えている木もほとんどが針葉樹だった。
「ええ、土は良いとはいえ、環境に適応できる植物の種類が少なすぎますね。多様性がほとんど見られない」
「うーん、肉食以外に何か食材になるものがあればと思ったんだけどね……望み薄かな」
「いえ、そうとも限りませんよ」
 と、ハリスが木の根元を指さした。
「うん? ……あ、キノコだ!」
 サフィラが指差された方をじっと見つめると、僅かに土が盛り上がっている。
「ええ、食用に出来るようであれば立派な食材です」
「へぇ、キノコかぁ。いいねいいね! ねぇクシェンちゃん、キノコって食べた事あるー?」
 発見したキノコをクシェンに見せるため、サフィラは走っていった。

「また糞だ。結構な数があるね」
「マーキング代わりに広範囲に撒いているのかもしれないね」
 一方、レイとヨルは魔獣の生態について詳しく調べていた。事前の情報から森の広範囲にわたり生息しているという狸型の魔獣。前回訪れた際も捕獲したが強さの程度は雑魚にも等しい。しかし、本当の脅威は数だろうと、二人は分布や生態を探っていた。
「この糞は持ち帰って調べてみよう。何を食べているかわかるかもしれない」
「賛成だ。しかし、ここだけでこれだけの数か……駆逐は難しいかな」
 二人は針葉樹が広がる森の奥をじっと見つめた。

「見つけたよ。親子……かな。6匹いる」
 この日合流したララベルが先の茂みを指さし身を伏せる。
 茂みには確かに大小6匹の魔獣がこちらを伺っていた。

●
「とーうっ!」
 たたたっと駆け寄ったトゥーリの槍の一撃が、魔獣の一体を串刺しにする。
「って、よっわ!?」
 トゥーリ自身当たると思っていなかったのか、刺されて絶命する魔獣を見て驚いた。
「ありゃ、ほんとだ。これは歯ごたえなさすぎるね?」
 同じく飛び出したサフィラに一刀の元に切り伏せられた魔獣がもう一匹。
「うんうん、ちょっと拍子抜けだね」
 残った魔獣達が威嚇してくるのを見つめながら、二人が首を傾げた。
「あ、でも、丁度いいかな」
 と、サフィラは冒険者達の狩りの鮮やかさに目を輝かせていたクシェンの元に駆け寄る。
「クシェンちゃん、実戦だ!」
「えぇっ!?」
「そうだね。折角エーテルを馴染ませた武器を用意したんだ。やってみようか。実戦に勝る経験はない」
「うっ……う、うん。やってみる」
 サフィラだけでなくヨルにまで背を押され、クシェンはごくりと唾を飲み込むと、このために用意してあった手斧を構える。
「もしもの時は私が盾になります。防御は気にせず敵を倒す事だけに集中してください」
 クシェンのすぐ後方に立つハリスが、盾を構え安心しろと声をかけた。
「まずはあの小さいのを狙ってみて。見た感じ一番弱そうだから」
 じっと魔獣達を視ていたララベルが、魔獣の一匹を指さした。
「他の三匹はあたしとトゥーリがやるから、頑張って一匹倒してみよ!」
「う、うん……!」
 サフィラに言われクシェンは手斧を握る手にぐっと力を込めると、サフィラ、トゥーリと共に魔獣に向けて駆け出した。

●
「あはは、まさかあんな方法で倒しちゃうなんて、びっくりだよ」
 頭を潰された魔獣の死骸を見つつ、サフィラが笑う。

 魔獣に向かったクシェンは、大振りの一撃を魔獣に振り下ろした。
 しかし、あっさりとかわされ斧は地面へ深く食い込む。それを隙と見た魔獣は反撃に入った。
 危ない! とハリスが咄嗟にカバーに入ろうかとしたその時、クシェンは咄嗟に斧を手放し、飛び掛かってきた魔獣の横っ面目がけて鋭い蹴りを見舞ったのだった。

「うっ……だって、斧って使いにくいんだからしょうがないじゃない」
 一方、クシェンはぶぅっと唇を尖らせる。
「ごめんごめん。でもすごいね、あんな方法で初戦を飾るなんてなかなか無いよ?」
「そ、そうなの? 咄嗟だったからよくわからないんだけど……」
「クシェン殿にはウォーリアの適正があるのかもしれませんな」
 きょとんとするクシェンにハリスが話しかけた。
「ウォーリア?」
「はい、私と同じクラスです。いずれ冒険者登録をせねばなりませんし、色々と覚えておくとよいかと思いますよ」
 そう言ってハリスは『鍬』と『盾』を掲げて見せた。
「僕達はシーフ。トゥーリはヒーラー。皆クラスがあるんだ」
 まだよくわかっていないクシェンに、ララベルが自分とサフィラ、そして懲りずにハリスの背後を狙うトゥーリを指さす。
「それぞれ役割が違うから、自分に合ったクラスを選ぶんだよ」
「へぇ、色々と決まりごとがあるのね」
 丁寧に教えるララベルに、クシェンは感心するように頷いた。

●
「こうやって――ふんっ!」
 捕えた魔獣の背に、ヨルがナイフを振り下ろした。

――パキンっ!

「うあ、折れた!」
 トゥーリが驚くのも無理はない。あれほど弱かった魔獣がヨルの一撃を粉砕したのだから。
「これは普通の武器(エーテルの通っていない武器)だからね」
「あ、なるほど! 腐っても魔獣、一般人が相手にするのはきついって事?」
「そうだね。普通の武器は多分通じない。授恵者以外には脅威に変わりないだろうね」
 トゥーリの問いに答えたヨル。自らの武器を取り出し魔獣にとどめを刺した。
「うーん、それじゃ防衛をクシェンさん一人に頼る事になるのかぁ……」
「流石にそれは負担が大きすぎると思うな」
 と、首をかしげるトゥーリにレイが話しかける。
「生態をしっかりと調べて、戦う場合はどうすれば倒せるのか、そこを考えて教えてあげる必要があると思う。幸いあの村の人達は狩猟民族らしいし、腕は立つと思うんだよね」
 レイはそう言ってクシェンを見た。
「とりあえず、何匹か捕まえて連れて帰ってみよう。生態だけじゃない、弱点なんかも調べればわかるかもしれない」
「それはいいアイデアだ。気性や感覚器官の発達具合なんかも調べておけば、戦うか逃げるかの判断もつきやすい」
「という訳で、捕まえに行くのを手伝ってもらえるかな、スレイマン」
「ああ、喜んで」
 レイは同意を示してくれたヨルに声をかけ、追加の狩りを行う為森へと入っていった。

「さて、我々はどうしましょうか。一度予定地に戻りますか?」
 ハリスが残った者達へ問いかける。
「この魔獣って食べられるんだよね?」
「うん、前に冒険者の人が料理してくれたわ。美味しかったわよ」
 トゥーリの質問にクシェンが先日の料理を思い出し答えた。
「ほほーう、それは試してみないとね!」
 たっぷりキノコも採ったし、とサフィラ。
「折角いっぱいいるんだから、名物料理にしようよ!」
 キノコに魔獣肉。もしかしたら新しい味を開発できるのではと、二人はうきうきと話しを進めていく。
「それではたくさん持って帰らねばなりませんね。我々も少し調達を……ララベル殿?」
 ハリスが二人の意見に賛同し、追加の食材調達へ向かおうとした時、何やら地面を見つめぶつぶつと呟いていたララベルを見つけた。
「あ、ううん。何でもないんだ。ここにもしかしたら温せ……き、気にしないで! その……なさそうだから」
「? そうですか。それならばいいのですが」
 随分とがっかりしている様子のララベルに、ハリスは首をひねった。

●
「お初にお目に掛かります、ルーファスと申します」
 グラウクスの元へと訪れたルーファス。後ろにはクルススとクルートの姿もある。
「既に伺っているかと思いますが、移転に関してのお話を聞きにまいりました」
 ルーファスは深く一礼するとグラウクスの対面に座った。
「とはいえ、僕は村の移転に是でも否でもない立場です。お話しいただくのはあくまで村の皆さんでお願いします。僕は、そうですね、調停人とでも思っていただければ幸いです」
 そう言うとルーファスはクルスス達に着席を勧める。
「各々が各々の意見を尊重し、おざなりに扱わない事。それをお約束いただいた上で、忌憚のない意見交換をいたしましょう」

 ルーファスの合図を皮切りにクルスス達とグラウクスの話し合いが始まった。
 だが、何度も休憩を挟み続いた話し合いは、纏まらぬまま時間だけが過ぎていく。
 
「――今日はこのくらいにしておきましょう」
 これ以上の進展が見られぬと判断したルーファスが話しを止めた。
「双方とも、相手方の考え方を得られたかと思います。それを踏まえた上で幾度も話し合ってください。これは一朝一夕で解決するような問題ではありませんから」
 そう言って、ルーファスは双方に微笑みかける。
「追加の判断材料は後日、僕の仲間達がもたらしてくれます。それを加味した上で再び話し合いを。必ず違った展望が見えてくるはずです」
 ルーファスは決して話を纏めようとはしない。これはあくまで村の者が解決する議題であり、外様があれこれという類の話ではないと分かっているから。
 必要なのは調整であり、調停。終始その役目に徹したルーファスの元、話し合いは一旦打ち切られた。

 そして、後日森林へ向かった冒険者達が帰還した。
 冒険者達は調査報告書を提出すると、クルススは改めて移転に難色を示す者達との折衝を持った。
 そして、話し合いの結果、この移転計画は森林地帯に生活基盤の一部を移すという案にまとまる。移転に賛成だという村の住民を何名を移り住ませ、そこが生活するに足る場所かを実際に住んで検証する。そして、その結果をもって、最終的に移転をするかどうか決めようと結論づけたのだ。

『決めるのは自分達』

 そう冒険者達に言われた言葉を胸に刻みながら、クルススは村の未来を見据えている――。

マスターコメント

ご参加ありがとうございました! 皆様の調査や仲介のおかげで、クルートの荒唐無稽とも思われた提案に明るい展望が見えてきました! 今後、本格的に移転ばなしが進むのか、それとも今ある地を住みよい場所へと変えていくのか、それは村人達の話し合いの末に決まるかと思います。 また、お力を貸していただくこともあるかと思いますが、その時はよろしくお願いいたします! クシェンに関しても沢山かまっていただけてありがとうございます! どのクラスに進むかはまだわかりませんが、そのうち冒険者登録にリブラネスタに行くお話とかもやりたいなと思っています! それから魔獣肉! なんだか名産になりつつありますね。まさに予想外(笑
ショートEX

ショートEX普通 報酬:標準10 / 4〜10人

2021年09月09日 22時39分08秒 公開

成功

相談掲示板

  1. アクティオン

    シューターのアクティオンです、よろしく。 さて、村そのものの引越、ですか。大掛かりな発想ですが…… 個人的には性急すぎる気もする、のですよね。変化はしていかざるを得ないとしても、少々冒険者が一気にあれこれ詰め込み過ぎた気もしないでもない、ような。 あと、護衛を雇う算段があるとしても、授恵者に覚醒したばかりの一人に負担が集中するのもあまりよくない。 ただ、「なんとなく急いでいる気がするから」では消極的にすぎるのもありますし、引越をしないならしないでもクルート氏の「ここでは出来ない」「ここは遅れている」という気持ちを解消する提案は必要、という気もします。

  2. トゥーリ

    トゥーリだよ、よろしくね! ……たぬきって食べられるんだよね? 移動したとしても一日、二日なら、これからも『極行遣北使』のベースキャンプとしては使えるのかなあ…… せっかくベースを作ったのに、それが無くなっちゃうってなるとそれはそれで困るよね Q:移動先の候補地でも『極行遣北使』のベースキャンプとしての役割は問題ないですか!

  3. ホリー・アッテンボロー

    質問ですね! お答えしますっ。 Q:移動先の候補地でも『極行遣北使』のベースキャンプとしての役割は問題ないですか! A:もちろんベースキャンプはそのまま活用します! あれはあそこにあってこその施設ですから、今後も極北への旅路が続く限りずっと使用されます。 今回の移転は、村の住民の生活向上のため、という考えみたいですよ。仰るように1~2日でベースキャンプへ行けますので、ベースキャンプでのお仕事は通いながらこなし、生活基盤はより良い土地に、という計画みたいです! キャンプ地のお仕事がこの先もずっとあるとは限りませんからね。自立できるよう色々と考えているんじゃないでしょうか!

  4. ホリー・アッテンボロー

    あ、狸の魔獣は食べられるみたいですよ。

  5. ハリス・アル・ターミル

    おお、移設計画ですか。じつに良い! あの土地はおよそ人が普通に暮らしていける環境ではありません。 それこそ偽りの征竜様を立て自らを欺くような事でもしなければ…。 キャンプの機能は維持しつつ、住民の生活環境を向上させるならば異論はありません。 基盤が不安定なままで帝国や他の冒険者との接点ばかりが増えるのも宜しくはない。 開村に肯定的な若者が全て出ていき村自体が消滅してしまう可能性も大いにあります。 クシェン殿への負荷も確かに不安要素ではありますが、キャンプ間の距離が近いならば 帝国の兵士や極北調査に派遣された冒険者を支援に充てることも可能なはずです。 フェンガリの皆様は寒冷地故に狩猟に重きを置いておりましたが、移設先でなら農業も 可能かもしれません。安定して自活できる基盤を整えることで、ゆくゆくはフェンガリの キャンプ及び旧村落の運営をより強固にすることも視野に入る。私は賛成致します。

  6. ヨル・スレイマン

    ヒーラーのヨル・スレイマンだ。宜しくね。 南の森林地帯は、多分ちょっと前に行ったところ(【極域】北地の礎)かな。なら農業はできそうな感じがするね。 1に関しては立地、2と3に関しては魔獣自体の調査をもう少ししてみないことにはわかんないかなーと思ったな。そして安全性くらいは確保されないと4は到底無理。 となると、とりあえず1週間のうち幾らかを候補地でのキャンプに充てるのはありなんじゃないかなーと思うよ! 数日居てみてわかることもあるだろう。楽しそうだし。 より現地の人の視点で見てもらうために、クシェン君に付き合って貰ってもいいかもしれない。俺もちょっと話を聞いてみたい。 >個人の見解 やってみたらいいんじゃないかな! と思うけど、いきなり村人全員で行くのがリスキーなのもわかる。 調査で諸々が解決しそうなら、小さめに開拓して希望者が住んでみる、別荘的な施設からスタートしてもいいんじゃないかと思うかな。 森は資源が豊富そうだし、拠点があること自体は決して悪くはないはずだ。

  7. ルーファス・W・ワーズワース

    うーん……色々と詰めなければならない部分が多過ぎますが。 とりあえず移転地の大掃除と開梱計画くらいはどうにかしないといけませんよね。 少なくとも冒険者が居る前提で事を為すと仕事と仕事の合間に さらっと滅んでそうな環境では有る訳ですし。 改めまして。ウォーリアのルーファスと申します。どうぞ良しなに。

  8. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃ!シーフのサフィラだよっ! よろしくねっ! 村ごと引越しとかスケールが大きい話だねぇ 森の一角を切り開くなら整地と測量がひつよーかなっ?この辺りはヨルるんが提案してくれたキャンプしながらやってくのが楽しそうだねっ♪ あ!それとクシェンちゃんも連れてって狩猟のお手伝いとセンパイとして授恵者のイロハを教えたりしよっかな!

  9. バンビ

    ハイスピードキャスターのバンビですわ。 村丸ごとの移転ともなるとやること山積みですわ。 俺の縄張りが火を噴くのですわ。墨出しもおまかせあれ。 まずは候補地の土地見分から始めないと、地歩固めはないがしろには出来ませんわよ。

  10. アクティオン

    >小さめに開拓してみて別荘地的な感じから始める >キャンプで実感を掴む やってみて不便だった・便利だった、というのはあるでしょうからね……引越の是否どちらにしても参考意見にはなるかと。 それをやる場合、村で唯一の授恵者のクシェンくんを連れていくのも同意です。「魔獣から村を守ることになるかもしれない」というところで、実感は必要でしょう。 >移転に必要なもの 挙がってはいませんが(というか、移転を渋る人への説得に包括されてそうですが)、「征竜の帰還を信じる人々」へのフォローでしょうか。 偽征竜は倒されていますが、一部しか事実を知らないし、さらに全体に事実を開示するわけにもいかない状況ですから、「征竜様は帰ってくる」と信じる人々へ「この土地を離れても大丈夫」というところを示さなければならないかと。 >個人意見 自分としては「引越は本当に必要なのか?」という点から当たってみたい、かと。 何度かこの土地に訪れているので過酷さは理解していますが……

  11. ララベル・サン・ディーベル

    僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、宜しくね! >キャンプで実地を掴む いいね、僕も加わってみたいな。 >引越は本当に必要なのか? 古い習慣に囚われていて、良い土地があるのに移れなかったなら移転は良いと思う。 その因習に別の意味があって、移転をしない様言い伝えがあったのなら、慎重になる必要が僕もあると思う。 なので、必要かという点に関して当たるのも、大事だと思うよ。 療法の可能性を調べてみるのがいいんじゃないかな?

  12. サニー・フォン・オルライト

    遅れてごめんね。サニー・フォン・オルライト、よろしくね? とりあえずはまぁ、個人的には移転する事自体に否やはないかな。魔獣の問題にさえ対処出来ちゃえば となれば気になるのは魔獣の襲撃があるとしてその規模とか頻度なんだけど、こればっかりは現状じゃわかりようがないからなぁ 後は・・・・・・もし移転しない事に決まったとしても、移転候補地(仮)を資源採取用のベースキャンプとして活用するのもアリかなとは思う 狩猟するにしても木とかを採るにしても、そういうのがあるのとないのとじゃ変わってきそうだし

  13. ヨル・スレイマン

    >キャンプ わーい。そしたらクシェン君を誘う旨とか合わせて書いておくことにするよ。1週間使うのもだしとりあえず3日くらいかな。 俺は魔物についてもう少し詳しく調べてみたい。そもそも木材とかも森林から調達しているはずだし、レポートは無駄にはならないだろうし。 今回で村人側によく話を聞いてみるのも大事そうだね。 最終日に合わせて意見交換会みたいになるのかな。

  14. ハリス・アル・ターミル

    >キャンプ 非常に良い案かと。何事も実際に自分の目で見るのが一番でしょう。 >引越しの必要性 確かに大事業かつ、今まで暮らしてきた土地への愛着や文化的な柵もあるでしょう。 特に長老の方々からは否定的な意見が出るのもうなずけます。 対話の時間は十分にとる必要があるかとは。 >行動 私はキャンプ候補地へ向かい、視察と新村開拓及び資材キャンプ化のための簡易拠点の 制作を行うことに致しましょうか。建築技能がありますから、お役に立てるかと。 申請中なので間に合えばですが、馬車(馬含む)とゲルを用意できる可能性があります。 皆さんを安全かつ迅速に移送できる他、宿泊も容易になるかと思われます。 また伐採の知識を以て「切り倒すのにかかる時間」を算出し開拓の目安にもできます。 無論、戦闘が起きれば前衛として戦うことも。クシェン殿が重傷を負うことが無いよう 護衛し、魔獣の強さと数などを図り防衛時に如何程の戦力が必要かを確かめましょう。 その分、村に残り住民との折衝や相談を行うことは難しくなりそうではありますね。

  15. ルーファス・W・ワーズワース

    ふむ。土地の確認と実地体験と言う事で キャンプと狩猟を行うのであれば 僕の方は反対意見の抽出と取り纏めに向かうことのしましょうか。 現地確認も済んでいない内から説得が無理が有るのは事実ですし、 それこそ反対意見の骨子も掴めていないままの今説得に移っても どう足掻こうと言い包めにしかならず後々の禍根になりかねませんからね。 と言う事で、 Q1.今回クルススさん、クルートさんのご両名に、 移転反対の意見抽出のお手伝いを頼むことは可能ですか。

  16. レイ=レーベンス=レックフォード

    遅くなってすまない。 ウォリアーのレイだ。 宜しく頼む。 キャンプで実地を掴むのは良いね。 ララベルの言うように因習について調べておくのも良いと思うよ。

  17. ホリー・アッテンボロー

    ご質問ですね! Q1.今回クルススさん、クルートさんのご両名に、 移転反対の意見抽出のお手伝いを頼むことは可能ですか。 A:人海戦術的な意見聴取、という事でしょうか? それでしたら、可能だと思います。

  18. ハリス・アル・ターミル

    ゲルと馬車が間に合いました! これで候補地の下見に行かれる方々を乗せていくことができます。 現地でもすぐに簡易拠点を作れますから、調査が楽になるかと。 時間も差し迫って参りましたね。 共に新たなるフェンガリの為に尽力致しましょう。現地でまた!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0