【帝国】灰色麦の呪い

大和気 いぐる

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シナリオID:1356

オープニング

 王国北部の情勢は、不穏と言わざるを得なかった。
 魔獣やクリーパーの発生もあるが、一番大きいのは不作である。
 初夏に収穫された麦の量は、例年の八割程度にとどまっていた。
 他の作物も発育に遅れが見られる。

 もちろん王国の土地は他に比べて豊かである。
 収穫高が減ったとはいえ、いきなり人々が飢える程ではない。
 しかし考慮して年貢をまけてくれる領主は、王国では少数派。

 さらに此処、ストロウヒルの街では、別の問題が発生していた。

「なあ、騎士様。少し頼まれて欲しいことがあるんだが」

 冒険者ギルドでそう言われて、王国騎士リリィ・ナイトレイは困惑した。
 付近の治安情報を交換しようと、冒険者ギルドに顔を出したのだが。
 まさか自分の方が、ギルド側から頼み事をされるとは。

「どういった事情だろうか」
「何から話せばいいもんか……。
 最近この村に怪しい行商人が来てね」

●怪しい行商人の話
 その行商人は、何も風体が怪しいわけではなかった。
 問題は扱っている商品である。

「なんでも新しい品種の麦種子だと言うんだ。
 普通の麦よりも沢山実るだとか。しかも値も別に高くない。
 そうすりゃ、どうなるか分かるよな?」

 ある程度蓄えのある農民は、こぞってそれを買い求めた。
 今年の年貢は仕方がないが、来年に備えるに越したことはない。

「……少々うまい話に過ぎるとは思うが、別に悪いことではないのでは?」
「ああ。俺たちも、そう思ってたさ。あの麦種子を見るまではな」

 農民に見せてもらった麦種子は、灰色をしていた。

「色は妙だと思うが、何がいけないのだ?」
「騎士様も知らないか。ありゃあ、同盟の街の話だしなあ。
 仕方ない、ちょっと長くなるが聞いてくれ。
 これは、マザキヤって街の話なんだが……」

●マザキヤに伝わる民話
 昔々のことです。まだマザキヤの街が、小さな村だった頃のこと。

 マザキヤやムラキヤ、それからパスコーやダイチーのあたりまで。
 酷い呪いが蔓延(はびこ)ったことがありました。

 村や畑のあちこちに、亡霊がうろつきます。
 牛や馬は、怯えて狂ったように暴れまわりました。
 手足が燃えるように痛み、やがて爛(ただ)れて腐れ落ちる。
 そんな恐ろしい病が流行りました。
 赤ん坊が沢山、死にました。それから若者も、年寄りも。

 そんなある日、マザキヤに一人の旅人がやって来ました。
 仮面をつけた男です。
 男は、しばらくこの村に住まわせて欲しいと言いました。

 普通なら怪しむところでしょうが、マザキヤの人々は違いました。
 旅の途中で呪いにあって、難儀しているのかもしれません。
 そんな風に考えました。

 旅人さん、旅人さん。
 そりゃあ構わないが、この村は呪われているよ。
 それでも良いなら、どうぞごゆっくり。
 でもね、この村には何にもありゃしない。
 麦とパンは美味いがね。それも呪いで台無しさ。

 何もなくたって構いやしません。
 ただ旅の疲れを癒せる、ねぐらがあれば。
 ありがとうございます。親切な方々。
 このご恩は忘れないと誓います。

 さて、それから幾月かたった、ある日のこと。
 仮面の男が言い出しました。

 みなさん、ご親切にありがとう。
 そろそろ、また旅立とうと思います。
 お礼と言ってはなんですが、呪いの源をお教えしましょう。

 そう言って、男が取り出したのは、麦ひとつぶ。

 なんだいこれは。ずいぶんと、くすんだ色の麦だねえ。

 それは、そこの蔵に残っていた麦ですよ。
 灰色麦は、呪いの麦。
 もし見つけたのなら、とれた畑はそっくり灼かなきゃなりません。
 灰色麦は、呪いの麦。
 別に信じなくても構いやしませんが、こいつは本当のことですよ。

 さて、マザキヤの人々は集まって、このことを話し合いました。
 ちょうど三日三晩かかりました。
 そして、仮面の男を信じることに決めたのです。

 どうなったと思いますか?

 そう、今のマザキヤをご覧になれば、お分かりですね。
 呪いは綺麗さっぱり無くなって、マザキヤは豊かな街になりました。

 その後、仮面の男が現れることは二度とありませんでした。
 けれどもマザキヤの人々は、今でも忘れていないそうですよ。
 仮面の男と、灰色麦のことを。

●それは呪いの麦か?
「なるほど、行商人が売ったのが、その『呪いの麦』ではないかと。
 しかし昔話だけが根拠というのは、何とも……。
 かといって実際に植えてみるわけにも……」

「根拠ならまだあるんだ。『預言の魔女』オペラは知ってるか?」
「ああ、噂程度なら。必ず的中する予知をするとか。
 ……まさか預言が出ているのか?」

「そのまさかだ。『王国の北に麦の呪い来たる。灰色に注意せよ』ってな。
 俺らがマザキヤの話なんぞ知ってたのも、預言のせいさ。
 マザキヤの支部長が預言を聞いて、気をつけるように連絡してきたんだ」

「そうか……頼みごとというのは、農民の説得か?」
「話が早くて助かる。俺たちが話しても聞いてもらえなくてな」

 しばし目を閉じ、リリィは考えた。
 たしかに領主や町長であれば、王国騎士の肩書が効くこともあるだろう。
 しかし、農民の側はどうだろう?

「協力は、もちろん喜んでしよう。だが、私だけでは難しいだろう。
 冒険者の智慧も借りたほうが良いと思う」
「そうかい? それこそ、何か根拠があって?」

 ギルド職員に指摘され、リリィは苦笑した。
「それを言われると弱いな。強いて言えば……。
 そうだな、マザキヤを救った男は『授恵者』だったんじゃないかな」

解説

 ストロウヒルの農民を説得し灰色麦を回収・焼却処分してください。  麦蒔きの時期はもう少し先ですが、もし撒いてしまった畑があれば、その畑は焼く必要があります。  なお、領主や町長の説得はリリィが受け持ちます。  最低限、灰色麦の処分についてのお墨付きは貰えます。  それ以上の要求がある場合、言付けておくか同行すると良いでしょう。  また、彼女に農民の説得に協力してもらっても構いません。  行商人については、既に街を去っているため、調査・捕縛の必要はありません。  足取りを追っても、本依頼の成功度には影響しません。  戦闘は高確率でありませんが、特定のスキルを要求される可能性が高いため、難易度は「難しい」としています。 ▼NPC ・リリィ・ナイトレイ  ヒューマン 女性 27歳  協力者。女性のみで構成された分隊を率いる隊長。非授恵者。  王国騎士としては、比較的柔軟な思考の持ち主。  実家が没落しかけても貴族社会でやっていけるだけの社交性があります。  また、指揮下の騎士たちの手を借りることが可能です。 ・マザキヤ仮面  本編への登場は基本しません。掲示板の応答役です。  風体が怪しいので、状況を悪化させる可能性がある。  ……という自覚はあるようです。 ・ストロウヒル 冒険者ギルド支部  今回の依頼者。職員はできる限りの協力をしてくれます。  すでに職員は説得の判定に失敗しているとみなします。  単に断られただけで、街との関係が悪くなるような失策はしていません。 ・オペラ  本シナリオには登場しません。  預言について調べてもOP以上の情報は出ません。  少々抽象的な予知夢だったようです。 ・ストロウヒルの農民  今回の説得対象。  今年の麦が不作だったため、行商人の売り文句に乗り気です。  ギルド職員から話は聞いていますが、懐疑的です。  身分が上の者からの命令には従うでしょう。  あくまで表向きは、ですが。  リリィとマザキヤ仮面については掲示板での対応が可能です。  不明なことがあれば指名の上ご質問ください。  攻略に大きく影響しない範囲で回答させていただきます。  なお出発が近くなってからの質問は回答ができない場合がございます。

マスターより

 お世話になっております。  大和気(おおわけ) いぐるです。  マザキヤの民話などがチラ見えしていますが、基本真面目な依頼です。  事件を解決するより未然に防ぎたい方、農業や植物に詳しい方、交渉に自信がある方お待ちしています。 【帝国】のタグはついていますが、舞台は王国北部の街なので、ちょっと帝国に絡みづらい方もどうぞ。

リプレイ

「おーい、ばーちゃん! 終わったぜ!」
 ギャメルは大きな口を精一杯に釣り上げて声をかけた。

「どれどれ……おや、綺麗になったねえ! ありがとうよ」
 老婆が納屋を見回し目尻を下げる。

「おや、その袋は?」
「鼠だよ。隅っこにいた。後で川にでも流しとくぜ」

 嘘だ。川に流したりはしない。この鼠は後で使うのだ。

「この年になると納屋掃除も辛くてねえ。
 助かるけどいいのかい? こんなお礼で」

 ギャメルの瞳がキラリと光る。
 もちろん、それが目的で(鼠もだが)納屋掃除を請負ったのだ。
 老婆から渡された小袋を確認する。中には灰色の麦が数粒。

「うーん、もうちょっと欲しいなぁ! なんて」
 ちょっとばかり、押してみる。

「残念、それで全部だよ」
「そっか、無理言ってごめんな」

 皺くちゃの手に触れれば、それが真実でないと分かる。
 けれど、ギャメルは深く追求をしなかった。

 手から伝わってくる感情は、悪意ではなかったから。
 罪悪感とためらい、感謝、それから未来への不安。

(何とかしなくちゃ、いけねえよなあ……)
 ギャメルは笑顔を崩さぬよう、苦労しながら別れを告げた。

●
 ハリス・アル・ターミルは、土をいじりつつ、肩を落とした。

 これまで、この地(ストロウヒル)を耕した経験があるわけではない。
 それでも土だけで、農民の厳しい状況が見てとれた。
 麦どころか、他の作物にも影響があるに違いない。

 農民たちの心境は推し量るまでもない。
 件の麦を手に入れるためとは言え、農作業を手伝った。
 ならば、自分はこの地を耕す者も同然だ。

「首尾はどうだい」
 聞き慣れた声がして、ハリスは顔を上げた。
 同郷のルチル・プルメリア・グレイハーツだ。

「……痩せています」
「いきなり土の話ときた」

 ルチルは肩をすくめた。やはり、この男(ハリス)は筋金入りらしい。

「そちらは? 何か分かりましたか」
「いいや、空振りだよ」

 ルチルは件(くだん)の行商人の足取りを聴き込んでいた。
 この街を出ているのは確からしい。
 なのに、街道筋の他の街での売り込み報告は無い。

 ならば、この街に他の工作がないかと疑ってみたが、それも無い。
 農機具や家畜に被害は無いようだった。物騒な種を売っただけらしい。

「隊商の連中が言うには、帝国まで不作の兆しだとよ。
 こりゃあ個人の仕業じゃないかもね。……お前はどう見る?」

「そうですね……あれを見てください」
 ハリスは畦道に生えている草を示した。

「あの雑草は、本来もっと背が高いはずなんです。
 作物に何かしたいのなら、畑にだけ手を加えればいい。
 不作には、たまたま乗じただけかも知れません」

「不安に乗じてガセネタならぬ、ガセタネ蒔きかい? 気に入らないね」
「全くです。預言の成就は、止めなけれければ――絶対に!」

 ハリスの顎からは歯ぎしりが聞こえるようだった。

●
「わあ、皆、頑張ったね!」
 冒険者ギルドから借りた一室で、エルシー・サリバンは歓声をあげた。
 机の上に小盛りになった麦種と、檻に入れられた鼠たち。
 ここ数日、農民の手伝いで得た報酬と、その副産物である。

「いい考えだと思ったんだがなあ。やっぱ、全回収とはいかねえよな」
「なに、検証には十分な量なのだ。気を落とすことはないのだ」
 ため息をつくギャメルをストレガ・L・リベルガストラが慰めた。

「地道に回収するしかないだろう。ひとまず、種を見てみよう」
 ナタリア・フィッツジェラルドが、慎重に麦種を布の上に広げる。

 噂のとおり灰色をしている。

「なんだろう。やっぱ、ちょっと普通の麦と違う匂いがするな」
 ギャメルが大きな鼻をひくつかせた。

「……なあ、こう、何か悪いモンとか身体に入ったりしないかな?」
 途中で不安になったらしく、彼は顔を近づけるのをやめた。

「嗅ぐくらいなら……とは思うが、鼠の反応を見てからにしようか」
 フォローするようにナタリアが言った。

「ハリス、お前はどう見る?」
 試すような口ぶりでルチルは同郷者に話を振る。

「そうですね……」
 ハリスは注意深く麦種を観察した。

「王国の標準的な品種より大きいですね。
 穂や茎が見れれば良かったんですが……」

 さらにエーテルをこらし、見慣れぬ植物へと語りかける。
 彼らは人間のような明確な言葉を返してくれはしない。
 まだ眠れる種子であれば、なおさらだ。

「この感じは腐敗……いや病気……違う。気配が多い。寄生……か?」

「寄生? キノコ……いやこのサイズならカビなのだ?」
 ストレガも麦種を覗き込んだ。

「ああ、確かにカビにやられた作物に似ていますね」
「模様の類はなし。……あまり呪物っぽくない見た目なのだ。
 これを起点に、呪いか死霊術でも発生させるのだ?」

 ストレガは首を捻った。
 たしかに特定の植物を触媒に用いる魔術はある。
 しかし畑の周りを調べても、儀式の痕跡などはなかった。

「……まあ『メドゥの指先』あたりなら、やりそうなのだ」

「少々乱暴だが、可能性を考えてもいいな」
 ルチルが頭蓋骨の奥で瞳をきらりと光らせた。

「まあ、そちらの話は後で詰めるとして。私からもいいか?」
 ナタリアが、すらりとした手を挙げた。

「……ギルドや詩人に、似た民話を知らないか尋ねてみたんだ」
 本当は、現地に行きたかったが、そうもいかない。
 それでも、それなりの話を集めることが出来た。

「結論から言うと、荒唐無稽な作り話ではないな。
 マザキヤから王国東部あたりまで、似た話が多数存在する」

 ナタリアは気がついた点を挙げていった。

 後期の伝承ほど被害の程度が大きくなること。
 警告が「採れたら燃やせ」「撒くな」「食べるな」など数種あること。
 いずれも、麦を主食とする地域の話であること。

「つまり諸々の被害の引き金は、麦を食べることではないかと」

「なるほど……確かに、カビた食物で病気になるのは道理です。
 逆に美味になるケースもあるので、ややこしいですが」
 ハリスが頷いた。

「そうか! 呪いと亡霊の文言に引っ張られたが……。
 薬物摂取による幻覚ならば、説明がつくのだ!」
 ストレガはぴしゃりと己の額を叩いた。

 実際、キノコやカビから作られる薬には、幻を見せるものが多数ある。
 それを起点に霊感を研ぎ澄ます者も多い。

「うへえ。近くで嗅がなくてよかった。確かにカビ臭い感じもしたな」
「……じゃあ、鼠にやってみようか?」

 エルシーが鼠に麦種を与えるところを、一同は固唾を飲んで見守った。

 鼠は、すぐ近くに置かれた麦種の臭いを嗅ぎ――離れていった。

「……食べないね?」
「いや、貪欲な鼠が飛びつかないだけでも、十分おかしいです。
 もちろん、飲み込ませた後の経過を見る必要はあるでしょうが」
「そうだな。伝承を考えても、即死するような物とは考えにくい」

「ふむ。結果が出てから領主のとこに話を持ってくべきかね。
 農民の方は……鼠も食わない、って話をまずは広めるとするか」

 騙されている等という情報を、すぐに受け入れる人間は少ない。
 いきなり演説を聞かせても、冷水をぶっかけられた気がするだけだ。

「情報は、与える量を考える必要がある。植物にやる水と同じでね」
 一同は情報屋(ルチル)の言に、なるほどと頷いた。

●
 ――数日後。
 
 灰色麦を定期的に飲み込ませた鼠は、全てが死亡した。
 皮膚の糜爛に迷走、衰弱。民話の記録とも一致する。
 となれば、一刻も早く領主に陳情するべきだった。

「これはこれは。ようこそお越しくださった」
「ご無沙汰しております。子爵様に於かれましては……」

 貴族の流儀による、長ったらしい遣り取り。

(よかった、そんなに怖そうじゃない人だね)
 リリィと領主の様子を眺めながら、エルシーはそっと呟いた。

(分からんぞ。執事の目つきを見たのだ?)
(気にするな。王国では、よくあることだ……)

 ストレガをナタリアがなだめる。
 三人は学者と助手という触れ込みで、リリィの訪問に同行していた。

「なるほど、そのような事が……。
 学者殿、詳しい話を聞かせて貰えるかな?」

 幸い、領主は執事ほど差別的ではないようだった。
 三人は表情を引き締め、詳細な説明を始めた。

 王国騎士とギルドによる身分保障。
 預言と伝承の分析による未来予測。
 鼠を使った実験の結果報告。
 被害と評判低下による税収低下試算。

 説明が進むたび、領主の表情は厳しいものになった。
「ふむ。では灰色麦については、そなたらの好きにして構わん。
 私から咎めだてすることはすまい」

「恐れながら子爵様。私はこの事態、かなり重く見ております。
 少しばかり、民に徳を示されても損にはなりますまい」

 リリィが進言しながら、ちらりと三人に視線を送った。
 今だと言わんばかりに、ストレガが進み出る。

「既存種を保護し、灰色麦を手放してもらう必要があるのだ。
 そのためにも、年貢の取立を待ってもらえぬか」

 貴族の特権に踏み込んだ、率直すぎる発言ではある。
 だが、不思議と受け入れたくなるような雰囲気があった。

 さらにエルシーが、やんわりと言い添える。

「もちろん、領主様のご都合もあるでしょう。
 灰色麦と通常の麦との交換や報奨金。
 上等な麦の買取補助なども、ご検討ください。
 不作の時に力添えを感じれば、農民の心も奮い立ちます。
 この難局を乗り切れば、領主様は後々、名君と讃えられましょう」

 暫くの間、領主は考え込み、やがて苦笑した。
 エルシーは、少しおべっかを言い過ぎたかと肝を冷やしたが――。

「良かろう。学者殿は中々弁が立つな。
 そちらの案を丸々呑むのは難しい。
 だが、いくつか積極的な手を打つ必要がありそうだ」

 領主の発言に、三人はほっと胸をなでおろした。

●
「なかなか上手くやったじゃないか」
 領主の館での経緯を聞き出し、ルチルがニヤリと笑った。

「二人のお手柄だろう。私は愛想に欠けるし、説明役といったところだ」
 ナタリアは自嘲気味に応じる。

「ううん、ナタリアさんの説明、とても分かりやすかったよ。
 それに相手は王国貴族だもんね……助かっちゃった」
「ヒューマンがいなかったら、追い返されたかも知れないのだ」
「『学者』を名乗る作戦は当たったみたいだね」

 ルチルが言伝てのみで済ませたのは、見越してのことだったようだ。

「見事な手腕です。領主の協力が得られたのは心強い。
 もう少し頑張りましょう!」

 事態はかなり好転したが、まだいくつか仕事が残っている。
 ハリスの言葉に、一同は力強く頷いた。

●
「さあさ! 領主様からの御触れだよ!!」

 街役場の前に立ち、ルチルは大声を張り上げていた。
 口調はいつもに比べて、故意に陽気にしてある。
 農民たちには、これを「良い知らせ」だと思って貰わねばならない。

「聞いたかい? 灰色麦は毒の麦。ご禁制の品になったのさ!」

 布告の要約を聞いて農民たちが、どよめく。

「おおっと、心配することはないよ!
 領主様はちゃあんと考えていらっしゃる!
 灰色麦を自ら差し出した者に対しては、お咎めなし!
 それだけじゃない、税の減免や期限の延長まで受けられる!」

 思わぬ報に、農民たちの表情が明るくなった。
 手応えを感じつつ、ルチルは説明を続ける。

 他には交易の荷、倉庫の点検の実施。
 行商人および灰色麦の情報に対する報奨金の供出。
 冒険者ギルドとの協力。
 将来的な農業振興策の検討。

 ――以上が、領主から引き出せた協力だった。

「もちろん、こいつはホラなんかじゃないよ。なあ、騎士様、町長!」

 演台の後ろに控えていた二人が頷いてみせる。

「すでに冒険者に麦を渡した皆も、ギルドから報告しておいた!
 損することはないから、安心してほしい!
 これだけ言えば分かるだろ?
 鼠も食わない麦なんぞ、大事に抱える必要はない!」

 農民たちの顔を眺めながら、ルチルは手応えを感じていた。

「それでも不作が不安だっていうなら、今ならいいアドバイザーがいる!
 農作業を依頼した奴らもいるだろう?
 冒険者、いやさ農夫、ターミルのハリスなら悪いようにはしないさ!」

 急に話を振られたハリスは面食らったようだった。
 しかし、意を決して前に進み出る。

「不作の苦しみは痛いほど解ります。しかし我々は命の糧を繋ぐ者。
 真にこの状況を憂うならば、今日よりも明日を見て動くべきです!
 私も皆さんの力になりましょう……いえ力にならせてください!」

 力強いハリスの言葉に、その場に集った誰もが、感じ入ったように頷いた。

●
 ルチルの演説からしばらく後。
 おずおずと声をかける者があった。

「もしもし、ギャメルさんや……」
 あの老婆だった。

「どうした、ばーちゃん」
 ギャメルは極力気楽そうな声で応じた。

「すまなかったね……これ」
 手に押し付けられた革袋の中身は、確認しなくても分かっている。

「ん、わかった。お代だな。
 ゆーしゅーな冒険者としては、助けにならなくっちゃな。
 新しい作物の情報なんてどうだ?
 学者先生(ハリスとストレガ)のお墨付きだぜ。
 痩せた土地のほうが育ちがいい植物があるんだってよ!」

●
「そういえば、君はパンクリアース学園卒と聞いたのだが」
「ああ、そのとおりだ」

 ナタリアは撤収の準備を進めているリリィに声をかけた。

「ふむ。大図書館にもマザキヤ民話に関する資料はあるだろうか」

 伝聞のみの調査で貢献は出来たが、気になる事が残っていたのだ。

「専門外だから何とも言えないが……あそこなら大抵の本がある。
 何か調べ足りないことでも?」

「貴方は、王国騎士として行商人の足取りを追うことになるかも知れん。
 それなら伝えておいたほうがいいのだろう。
 マザキヤ民話の類話は、王国に近づくと変質する」

 マザキヤ周辺では、恩人として扱われた仮面の男。
 彼は王国では悪役として描かれていた。
 中には、呪いをかけた者として処刑される話まである。
 そして最後には、男も灰色麦も伝承そのものから姿を消す。

 周りが不作の中、豊かな実りを手にする街や村がある。
 住人は傲慢にも富を独占し、近隣には分け与えなかった。
 ――そうして、最後には呪いに見舞われる。
 人々は噂する。これは狭量な民に対する天罰だと。

「……なるほど、ありがとう。
 折を見て、私も母校をたずねてみることにしよう」
 リリィは折り目正しく礼をした。

「それがいいと思う。なに、杞憂だったとしても、興味深い伝承ではある。
 追ってみても損はないだろうよ」

●
 数日後、冒険者ギルドに『預言の魔女』オペラからの一報が入った。

 ――灰色の呪いの影は薄れた。
 代わりに力強き芽吹きの光あり。
 ただし、油断することなかれ。
 冬の風は厳しいものとなろう。

 帝国北部の情勢は未だ厳しい。
 しかし農民たちは、冒険者の助けを得た。
 灰色の呪いを退けて、確かに冬への備えが始められつつある――。

マスターコメント

 冒険者の活躍により、行商人の目論見は外れたようです。  不作そのものは去っておらず、王国北部の情勢は不穏なようです。  そちら関連は徐々に帝国連動で明かされると思いますのでお楽しみに!  謎の行商人については、しばらく同じ手を使うことはないでしょう。  悪役を捉えてスカッと解決! とはいかないシナリオで申し訳ないです。  でも、ストロウヒルの農民は、かなり勇気づけられたはずです。  MVPはエルシーさんとストレガさんへ。  シナリオ作成時に定めておいた条件 「領主に農民への配慮を求める」を満たしたことによります。  他の皆様も、とても真摯なプレイング、ありがとうございました!  農民たち以上に、MSが勇気づけられました。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準6 / 4〜8人

2021年09月23日 10時20分57秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ギャメル

    ギャメルだぜ。よろしくなー! 一度手に入れたものを手放してもらうのは難しいよなぁ……。 それが利益の出るものって誤解してんならなおさら……。 表向きは協力的でも裏で灰色麦をまく人が出ないように、危険性をバッチリ示せないかって考えてるぜ。 灰色麦がなくても、農民の人の生活がなんとなかるようなアイディアも出せりゃいい感じだな。

  2. ハリス・アル・ターミル

    ハリスと申します、どうぞ宜しく。 人々の糧となるべき麦を歪め、大地を蝕む呪物に変えるなど言語道断。 その行商人とやらは後々処するとしまして…まずは農民の方々の説得、でしょうか。 私は造園と植物共感のスキルを持っています。 今年の麦が不作であった原因と、例の灰色麦がどういったものであるかを調べましょう。 原因と対策、そして麦の危険性を明らかにした上で交渉すれば、彼らも農業を営む方々。 必ずやご理解を頂けると考えております。 >調査の指針 灰色麦を植えた畑のみならず、昔話を信じるなら小屋などに保管された麦も全て探し出し 焼却しなくてはならないようです。村全体に聞き込みが必要となるでしょう。不作を憂う あまり灰色麦の隠蔽を図るような方がいないとも限りません。交渉やウソを見抜くような 能力に長けた方が当たるのが望ましいですね。 また領主殿に対しては、検問を敷き件の行商人の捕縛及び目撃情報の収集、冒険者ギルド への情報提供に協力して頂けるようにしましょう。このふざけた一件の元を絶たねば。 町人、中でも麦を扱う店に対しては、灰色麦と思わしき特徴のあるものを持ち込んだ農民 について届け出ること、またその麦を購入しないこと、既に購入した麦は全て焼き捨てる ことを呼びかけましょう。いかに実ろうとも売れなければ無意味です。意固地になった方 がいてもこうすれば被害の拡散は防ぐことができるかと思われます。

  3. ストレガ・L・リベルガストラ

    ストレガなのだ。よろしくなのだ。 食は万世共通の幸福なれば、土地を殺す植物の繁殖があっては世界の危機なのだ。 私が持ってるスキルで有用そうなのはカリスマ4と薬学3があるのだ。 噂にきいた疫病の原因として訴えてみるのがよいかなと。 年貢取り立ても待てと言わざるをえないしこちら先に確約もらうのがよいかなと思うのだ。

  4. ギャメル

    ハリスもストレガもめっちゃ頼もしい……!! 正しい知識を伝えても都合のいい解釈をする人、利益とか関係なく良かれと思って畑にまく人、家畜の餌にしようとする人を抑え込みてぇな。 ネズミとかの害獣を捕まえて灰色麦を食べさせて、どうなるか見せるってのも一応考えてるけど……。 このやり方は人によって抵抗感強いだろうな……。オレも積極的にやりたいってわけじゃない。 >保管された麦 灰色麦を持ってきてくれた人には抽選で授恵者がサービスします! って企画を出すのはどうだ? ヒールかけて手足のマメとか日常的な傷を治したり、他にもサクッとできる範囲で労働力を提供するとか。 受け取り時に、他にもう灰色麦は残ってねぇか話を振りながら手にでも触れば、エンパシーで灰色麦をまだ隠し持ってるかどうかもわかるんじゃねぇかな。 >灰色麦の購入禁止令 おおっ! 作っても金にならねぇようにするアイディア、すごく冴えてるな!!

  5. リリィ・ナイトレイ

    挨拶が遅くなった。申し訳ない。 三人とも、王国の民のために気を配ってくれて、ありがとう。感謝している。 もし冒険者からの助けが得られなかったとしても、私で出来るだけのことはすると約束しよう。

  6. エルシー・サリバン

    リリィさん、お久しぶりだよ。 シューターのエルシー・サリバンです。皆さま宜しくね。 農業の事は詳しくないので二の足を踏んでたの。 でも、要は村人に素直に灰色麦を提出させるにはどうするか、なのだね。 それなら何となく思いつけそう。 灰色麦の購入禁止令を提案してくれるなら 合わせ他の良質な種麦を支度して、灰色麦と同量での交換と持込んだ分量に応じた報奨金か 或いは、良質麦が無事に収穫に至った際に価格上乗せでの買取の約束をするとか、どうかな…? 元の灰色麦がどれほど出回ってしまったか判らないので 予算が足りるか、或いはその予算をどこから出すかって問題もあるので 使う予定のスキルは【商業知識】で説得をするなら領主かな… リリィさんに同行して 「このまま麦が出回ったら、今回の出資額では補い切れないほどの被害が出ます」と試算して見せる予定だよ。 今からダメだった時の手も考えるけど、一案として提示するね。

  7. リリィ・ナイトレイ

    久しぶりだな、エルシー殿。学園では世話になった。 協力の申し出、ありがとう。 私の方からは貴族社会側のアプローチしか出来ないので、それ以外の方面からの押しというのは良い材料になるかも知れないな。

  8. エルシー・サリバン

    リリィさん、こちらこそ同行の許可をありがとうだよ。 価格上乗せでの買取の約束まで、となると相当に説得が必要なので 切り込み方を考えてるよ。一緒に頑張らせてね。 今回の騒動は色々と考えて、ハリスさんストレガさんの 調査や説得に合せて複数の方向から進められたら良いなって思ったのと ギャメルさんの「ネズミとかの害獣を捕まえて灰色麦を食べさせて」 これも、良いと思ったの。 ネズミの前に、美味しい麦と灰色麦の両方を置いて「どちらを食べに行くか」 野生動物はこう言うのに優れた勘(本能)があるから、死なせず、尚且つ 「ネズミが見向きもしない」灰麦のダメダメ感を演出できると思うんだよ。 ギャメルさんはこれをプレに書く予定あるかな? あればネタにのせて欲しいし、無いなら私の方に何とか組み込みたいと思ったの。

  9. ギャメル

    >エルシー エルシーが来てくれて嬉しいぜ。 みんなでがんばろーな! ネズミをどうするかのアイディアもありがと! オレのプレイングの方で盛り込んでみたぜ。 これなら目で見て感覚的にわかるように危険性を示せるし、むごい死に方させずに済むな。

  10. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。 農作は専門分野と言うほど通じてはいないが対外交渉なら得意な方だよ。 できれば灰色麦を売りつけた行商人も抑えたいんだが……捕まえられるかの保証はないね。村人への対応メインで行くか。 交渉、演説でこちら側の主張や意見が通りやすいように誘導はできる。 こちら側の身分だが「突然の不作に異常を感じた領主が気遣って学者達を送った」という体で入り込めば受け入れやすいのではないだろうか? 件の行商人はタイミング良く売りに行ったというより、意図的に不作にした所へマッチポンプ的に商売に来たように感じる。 こう、納得できる建前を使えば農地を調べる事も許してくれそうだと思わないかね?

  11. ナタリア・フィッツジェラルド

    ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 滑り込みの参加、失礼する。 私からやる事と言えば、灰色麦に関するソースが伝承だけに留まるのか?と思って過去の歴史や事件について資料探索を行うつもりだ。 不気味な代物でも麦は麦だろうし、それを用いての加工品や可食物を食したとかで、伝承に言われた通りの亡霊の類になったり手足の症状に繋がったんじゃないかとも予想するが。 ルチル案を踏まえて、曲がりなりにも元帝国の学者が参じたぞ(

  12. リリィ・ナイトレイ

    さらに協力者が集ってくれたことに感謝する。 本当にありがとう。 おそらく以後の問い合わせには答えられなくなると思うが、各々出発に向けて作戦を練ってほしい。忘れ物のないようにな!

  13. エルシー・サリバン

    ギャメルさん、こちらこそありがとうだよー。 ネズミの件を抜きでも800文字を超えて…削りに削って納めたので助かるよ。 ちなみに…私の行動は皆がそれぞれに調べてくれる 灰麦の危険性を組み込んで領主と町長を説得する前提で進めさせて貰ってるので 明日は皆様にお世話に成ります。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0