【極域】胚の峡谷

真柄 葉

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シナリオID:1346

オープニング


「ここが極北か……」

 巨大な『門』をくぐり、明るい場所へと出た極行遣北使(ノルデン・ボーテ)指揮官、リカルダ=アーレンスが声を震わせた。
 目の前に広がる光景はまさに荒野。全くと言っていいほど生命の息吹が感じられない、荒れ果てた岩と砂の大地が、目前に『無限』に広がっている。

『まぁ、極北っていっても端っこの方だから、全然安全だけどな』

 と、そんなリカルダにかけられた声は随分と頭上から聞こえる。

「そうか、安全か。確かに敵になる様なモノは見当たらないな」

 答えたリカルダが見上げる。そこには身長3mを超す巨人族の少年が年少特有の悪戯な笑みを向けてリカルダ達を見下ろしていた。
 彼の名前はケイル。巨人族の少年で、長老から極行遣北使(ノルデン・ボーテ)の水先案内人を務めるように言われ同行していた。

「ところで、ケイル。貴公は征竜の袂へ行った事はあるのか」

 リカルダはケイルに問いかける。
 水先案内人という事は、極北の地や征竜についても詳しく、情報を得るには都合がよいと見たからだ。

『いや、ないよ。僕達の役目はあくまで門の守り手だからな』

「ふむ……それは征竜に命じられてやっている事なのか」

 しかし、ケイルからの返事は色のいいものではなかった。
 リカルダは少し方向性を変え、ケイルに問いかける。

『さぁ、どうなんだろう。長老に聞けば知ってると思うけど、ずっとずっと昔からのお役目らしいからなぁ』

 大きな頭をかしげるケイルを見て、リカルダは考え込んだ。

 自分の主(レイウェスト・バルダス)は一体、征竜(得体の知れないもの)に何を求めるのか。家臣の分で主人の考えを図るなど浅ましくも恐れ多い事かもしれないが、考えずにはいられない。
 あの強大な力を持つ巨人族をも従わせるほどの『征竜』とは一体何者なのか。
 かつて帝国の前身であった国を僅か一夜で滅ぼす程の力を持ちながらも、世界の守護者を名乗る『竜』と呼ばれるモノ。
 実在するとはされているものの、その姿を見た者はなく、存在以外の全てが謎に包まれている脅威(守護者)。
 ……いや、ここにいるではないか。その『竜』に近しき存在が――。

「征竜の巫女よ」

 頭の中に渦巻く黒い靄を認識しながらも、リカルダは極北への旅に同行するヒルルクへ声をかけた。

「…………」

 しかし、ヒルルクは声をかけられたことに気付いていないのか、じっと北の空を見つめ動かない。

「……ヒルルク、どうかしたのか」

 リカルダはヒルルクの様子に違和感を覚えながらも、もう一度声をかけた。

「……え? あ、なに? 何か言った?」

「いや、何か気になる事でもあったのか」

「気になる事? 別にないわよ。なんで?」

「……じっと空を見上げていたので、何かあったのかと思ってな」

「え? わたしそんなことしてた?」

 首をかしげるヒルルクに眉を寄せながらもリカルダは続けて聞いた。

「……いや、私の気のせいだったのかもしれんな。それよりヒルルクよ、征竜は我々を歓迎してくれるのか」

「うーん、たぶん歓迎してくれるんじゃないかしら」

 先ほど浮かんだ疑問を出来るだけ柔らかく伝えたリカルダに、ヒルルクは何とも曖昧な答えを返した。

「たぶん、か」

「そこは会ってみないと何ともいえないわね。まぁ、ダメとは言ってないし、大丈夫じゃない?」

「ダメとは言われていないか。確かにそうだな。征竜が我々を見定めるように、私達も征竜を見極めねばならんな」

「うんうん……うん? 見定める?」

 首をかしげるヒルルクを置いて、リカルダは再びケイルを見上げた。

「ケイル、我々の道はどこだ。どこへ向かえばいい」

『とりあえず北かな。僕も行った事ないからそこまで詳しくはわからないけど、行き方は長老に聞いてるからさ』

 答えたケイルは先ほどヒルルクが見つめていた方角を指さす。
 指の向けられた先は、真っ直ぐ北を向いている。

●

『さて、ここからが本番だ』

 ケイルが立ち止るのに合わせて、極行遣北使(ノルデン・ボーテ)の皆も立ち止る。
 極北への門を出発してから、既に3日が経った。
 変わり映えのしない岩と砂の大地をひたすら歩き続け、疲労を自認出来る程度には溜まった頃、目の前に現れたのが、この断崖だった。

「まさか、この断崖を登るのか」

 グッと上を見上げるケイルに、リカルダが問いかけた。
 断崖の高さはゆうに100mを越えているように見える。ほぼ垂直の崖は左右どちらを向いても果てしなく続いており、どこかに登攀可能な道が用意されているような気配もない。

『登ってもいいけど、たぶん死ぬよ?』

「ふむ、それは滑落の危険があるという事か?」

『うーんと、崖の上は『魔物(クリーパー)』がいっぱいいるから、危ないんだ。しかもでっかいのがうじゃうじゃとね』

 見上げてくるリカルダに、ケイルは子供っぽく身振り手振りを交え答えた。

「でっかいの……大型のクリーパーがいるというのか」

 巨人族のケイルをして『でっかい』と言わしめるのだ。それは小型や中型など、ロスガリアの地でも見る事の出来る様な類のものではなく、それこそ固有名を有するほどに強大な相手なのだろう。それが、うじゃうじゃといると言っている。
 リカルダは軽妙なケイルの口調とは裏腹な重大すぎるその情報に、ごくりと唾を飲み込んだ。

「では、どうやってここを超えるというのだ。征竜の住まう地はこの先にあるのだろう」

『えっと……あっ、あの道だよ。あれを越えた先に一息付ける所があるから頑張って越えよう』

 神妙に問いかけるリカルダに、ケイルはあっさりと答え、断崖の一か所を指さした。
 そこは断崖が縦に割かれた僅かな切れ目にも見える。断崖に刻まれた峡谷でもあるのだろうか。

「峡谷か。あそこは安全なんだな」

『まぁ、上に比べればね。あの谷は僕達の間で『胚の谷』って呼ばれてるんだけど、小さな『魔物(クリーパー)』がいっぱいいてちょっとだけ面倒なんだよね』

「居るのか、敵が」

 極北へと入ってから3日。遠目からクリーパーらしき影は何度か見たものの、現時点で極行遣北使(ノルデン・ボーテ)は敵らしい敵とは邂逅していない。
 それがついに相対すと知らされリカルダの顔にもわずかに緊張の色が浮かんだ。

『他のよりぜんぜん弱いから、大丈夫だと思うよ。あと、結構うまいからいっぱい獲るといいかもね』

 そんなリカルダの様子など気にもせず、ケイルはさっさと峡谷へと足を向けた。

『クリーパーを食う、か。流石極北だ』

 ここは極北。今までの常識がまるで通用しないことを改めて嚙みしめたリカルダは、「でもクリーパーだしなぁ。はぁ、アップルパイ食べたい」とか言ってるヒルルクを横目に、ケイルの後に続き峡谷へと足を踏み入れた。

解説

●目標 『胚の谷』を越えた先の安全地帯を目指してください。 ●場所 極北南部。 寒さと乾燥に閉ざされた岩と砂の世界。 雪はありません。 今回の道中で最も踏破が難しいとされるのが、『胚の谷』と巨人族から呼ばれる場所です。 谷と言われる通り、両側を切り立った崖で囲まれた道で、崖の高さは100m以上あります。 そして、最大の特徴ともいえるのが『胚』の存在。小さく蠢く『胚』と呼ばれるクリーパー(巨人族がそう呼んでいます)が至る所で蠢いており、通行する者を感知すると飛び掛かってきます。 谷の長さは約10km。幅は5m~10m。蛇行していますが別れ道などはありません。 なお、谷の上は超強力なクリーパーの巣窟なので、上がらない事をお勧めします。 ●人物 リカルダ=アーレンス。 征竜の元を目指す|極行遣北使《ノルデン・ボーテ》の隊長にして、帝国軍将軍。 ヒルルク 『征竜の巫女』。極北に到着してからちょっと様子がおかしい? ケイル 巨人族の少年。巨人族の中では最年少で身長は約3m。巨人族の長老の命で水先案内人を務める。 ●クリーパー 『胚』。 一つ一つの個体は小さくてそれほど強くもありませんが、地面や壁に数えきれないほどたくさん蠢いています。 多少の姿の違いはあれ、おおよそのイメージは大型の蛭(ヒル)です。体長は10cm~30cmくらいで、ヒトやモノが持つエーテルを狙って襲い掛かってくるようです。 一体一体はそれほど強くありませんが、何せ数が多いので注意が必要です。 その種類は確認されているだけで、「熱を感知する:赤種」「風の乱れを感知する:翠種」「音を感知する:青種」「臭いを感知する:紫種」が知られています。 ケイルが言う様に、このクリーパーは食べられます。 ●補足 今回の目的は『胚の谷』を抜けて、安全地帯へと到達する事ですが、今後この場所を継続的に通行できるような方法を考えていただけると、評価が上がります。 ゆくゆくはレイウェストもこの道を通って征竜に会いに行くので、出来るだけ安全な通行手段を確立できると助かります。 なお道程の10kmの間、ずっと『胚』が出てくるわけではありません。 また、雪は降っていませんが、かなり寒いですし、やたら乾燥していますので、その辺りも留意してください。

マスターより

OPをご覧くださりありがとうございます。 本シナリオを担当させていただきます、真柄 葉(まがら よう)と申します。 ついに極北へと足を踏み入れた極行遣北使《ノルデン・ボーテ》&冒険者達。まだまだ序盤、序の口な場所ですが、既に超難所が待ち構えています。リカルダ達は、そして皆様はどのようにこの難所を突破してくださるのでしょうか! なお、不明な点がありましたら、リカルダが回答させていただきます。相談掲示板へ「Q:」から始まる形で発言してくださると助かります。 今回、初めて極北へと来た方には『極北へと至る者』の称号付与が可能です。本来なら試練があったのですが、大丈夫、君なら突破できる。ということで突破しています(雑 称号付与を希望される方は『称号希望:1』とプレイングに記入ください。 また、『極行遣北使《ノルデン・ボーテ》』の称号付与も可能です。 こちらを希望される方は『称号希望:2』とお書きください。 別にリカルダの部下になるわけではないので、気楽にお申し込みください! それでは、シナリオ内容をお気に召していただけましたら、ぜひご参加ご検討ください! 極北の僻地で皆様にお会いできることを楽しみにしております。

リプレイ

「ハリス、体調は問題ないか」
「ええ、問題なく。お心遣い感謝します、フェイサル殿」
 雪は降っていないとはいえ、肌を刺す程の冷気が冒険者達を襲う。
 リザードマンであるハリス・アル・ターミルとフェイサル・セイフには、厳しすぎる環境である。
「これも征竜様の試練と思えば、乗り越える気力も湧くというもの」
「その考えには同意する。私もこれを試練と捉えよう」
 しかし、二人の志は高い。多少の寒さなど征竜への信仰と毛皮があれば問題ないと、厳寒の極北を行く。

 谷に入った一行は、ケイルからの事前情報を元に慎重に前進していく。
「ヒルルク、疲れたのか? 顔色が悪い様な気がするが……」
 アルフィー・リッパーが同行するヒルルクに問いかけた。
「そう? 別に平気よ」
「……そうか。それならいい。休める場所もあるだろうから、そこまで頑張ろうな」
「ふふ~ん、誰に言ってるのかしらぁ? ここはわたしの生まれた場所よ? あなたこそ大丈夫?」
 心配するアルフィーに、逆に訊き返したヒルルク。
「あ、当たり前だ。これくらいの寒さ、なんてことない」
「あらら、極北を寒さだけだと舐めてたら痛い目見るから、気を付けるのよ?」
「なに、どういう事だ……」
 不敵な笑みを浮かべるヒルルクに、アルフィーはごくりと喉を鳴らした。

「こら、ヒルルク! アルフィーさんをイジメちゃダメでしょ!」

 アルフィー相手に謎のマウントを取るヒルルクをトーラが諫める。
 ヒルルクはごめんごめんとアルフィーに舌を出して謝った。
「でも、さっきのヒルルクはちょっと変でしたよ」
「うん?」
 アルフィーに謝り終えたヒルルクが、トーラの呟きに首をかしげる。
「なんだか、体を乗っ取られたみたいに別人だったというか……ちょっとうまく言えないけど、変なもの拾って食べたりしてない?」
「えぇ!? そんな事するわけないじゃない!」
「……うーん、そうかぁ」
 「なんなのもう!」とむくれるヒルルクを、トーラはじっと見つめた。

「リカルダさんもお一つどうぞ♪」
 コルリスがリカルダに松明を手渡した。
 コルリスは炎の熱による敵の誘因を試そうと、事前に松明を用意していたのだ。
「うむ、助かる。しかし、この程度の火で寄ってくるものか」
「火の熱、あと臭いとか空気の流れとか、とういうのにも寄ってこないかなと思ってるんだ。色々試してみないとね!」
 松明を見つめるリカルダにコルリスは説明し、他の者達へ松明を渡すため駆けて行った。

「今のところ何も居なさそうだね」
「ええ、敵の分布箇所には法則性があるのかもしれません」
 隊の先頭で索敵を行うノックス・マグナとララベル・サン・ディーベル。二人は敵の不意打ちを警戒しつつも、その行動原理や所在を探っていた。
「法則性?」
「ええ、巨人の少年に聞けば敵は4色存在し、それぞれ感知するものも違うとか。でしたら、それぞれ潜む場所も違うのではないかと」
「なるほど……それじゃ、敵が出てきてそれがどの種で、どんな所を巣にしていたかを調べていけば……」
「ええ、ある程度出現地点を予測することが可能かもしれません」
 ララベルの推測に頷いたノックスは、壁面へと歩み寄り崖の一部を削り取る。
「後に続く人の為にも、重要な任務だね」
「この土も何か変化があるかもしれません。採取しながら進みます」
 こうして偵察役二人の先導で極行遣北使(ノルデン・ボーテ)はゆっくりと進んでいく。

「アウレーリア、顔色が優れないが大丈夫か? 気分が悪いのなら何か処方するが」
 いつもの堂々としたアウレーリア・フォン・ネーベルベルクは鳴りを潜め、どこか憂鬱気な彼女にナタリア・フィッツジェラルドは声をかける。
「いえ、結構よ。ちょっと、気が乗らないだけだから」
 言葉ではそう言うもののやはり覇気がない。
「……そうか。君がそう言うのならいいんだが。何かあれば遠慮なく言ってくれ」
 しかし、それ以上言うのも野暮かとナタリアは口をつぐんだ。
「ありがとう。その時は頼りにするわ」

「貴方は手を貸してくれないのですか?」
 最後方を行くナハト・シュライバーが、隣を歩くケイルに問いかけた。
「どうしてもってなったらね。でも、僕を頼る程度の実力で、本当に極北を渡れるの?」
「……試練は終わっていない。そういう事ですか」
「どう捉えるかは自由だよ」
 一行が緊張感を露わに進んでいるのに、ケイルだけは鼻歌混じりでピクニック気分だ。
 ナハトはそんなケイルの態度を諫めようとはせず、そこから何か得るものはないかとじっと観察する。
「そんなに見ても何も出ないって。ほら、そろそろ来るよ」
 と、じっと見つめてくるナハトに肩を竦めたケイルは、大きな手で前方を指さした。

●
「火を投げ入れるぞ!」
 現れた赤色の敵に向け、アルフィーが手に持った松明を投げた。
「……やっぱり寄っていく」
 コルリスが言う様に、うねうねと鈍い動きで松明の炎目がけて集まってくる胚(赤色の蛭)達。しかし、それにエーテルが無いとわかるやすぐに標的を変え、一行へと迫ってきた。
「ふむ、松明では効果は薄い感じですか。下がってください。飛び掛かってくる可能性もあります」
「流石にあれに張り付かれるのは勘弁願いたいな」
「ええ、同感です」
 一行の盾足らんとするハリスとリカルダが前面に出て武器を構える。敵の数はざっと見て20ほど。
「まずは実力を見てみましょう」
 二人が皆を守る中、一人飛び出したのはトーラだった。
 トーラは手近な胚に狙いを定めると、三連撃(トリプルファング)で素早く切り刻む。
 胚達は突然突っ込んできた熱源(トーラ)に反応するが、トーラはそれよりも早く刻んだ胚を掴むと、一行の元へと引き上げた。
「とりあえず獲ってきてみました」
 と、トーラが地面へと放り投げた胚。体長は20cm程。全身が軟質で、裂かれた傷からはデロリと体液が零れている。
 その見た目に後ずさる者が多い中、フェイサルが胚に近づいた。
「……一見蛭のようにも見える」
 フェイサルはしゃがみ込むと胚の死骸へ手を伸ばす。
「体温はほぼない。そして、即消滅するタイプのものでもないか。確かに食料への転用は可能に見えるな」
 フェイサルはケイルの言に嘘はないと頷いた。
「他にわかる事はないか」
「いや、この死骸から得られる情報は少ない。やはり生体から探る必要があるだろう」
 胚の死骸を見下ろすナタリアに、フェイサルは頭を振る。
「ふむ、巨人の少年のいう様に、感知される特徴を攻めるしかないか」
 ナタリアは視線を正面へ向ける。
 胚の軍団はゆっくりと迫りつつあった。

●
「一体一体は弱い! まとめて倒すぞ!」
 先頭に立つリカルダの声に応えた冒険者達は、もぞもぞと迫ってくる胚達に向け攻撃を始めた。
 胚の動きは鈍く、スキルを使うまでもなく次々と討伐されていく。
「これで最後だ!」
 ララベルが最後の一体にとどめを刺し、赤の胚を全滅させた。

「次来ます!」
 戦闘を終え一息ついていた一行に、最後尾から声がかかる。
「上です! 注意してください!」
 声の主はナハトだった。
 皆が見上げると、そこには雨の如く降ってくる翠の胚の大群がある。
「次から次へと!」
 咄嗟にアウレーリアが上空に向け【爆炎】を放った。渦巻く炎が一行へと襲い掛かる胚達を一瞬で灰にした。
「まだ来た!」
 掃討を終えたのも束の間、今度はコルリスが叫んだ。見れば正面(彼女が指差す方向)から新しい敵『青色の胚』が地を這ってくる。
「俺がやる!」
 すぐさま、前衛(ハリスとリカルダ)の前に出たアルフィーが【衝撃波】を放った。
 青の胚は不可視の圧に押し潰され絶命していく。
「続けてきます!」
 しかし、【衝撃波】を受け絶命した青の胚を越えて、新たに紫の一団が波のように押し寄せてきた。
 ノックスはすぐさま【炸光矢】を放ち、数を減らしにかかるが、波(紫い胚)の数は今まで一番多い。
「なんて悍ましい……!」
 アウレーリアは体の底から沸き起こる悪寒を気合で抑え込むと、冷静に正面を見据え先に聞いたケイルの言葉と照らし合わせる。
 相手は紫色。臭気を好む種だ。
 アウレーリアは松明に、持参したゴブリナ草を括り付けると【生活魔法】で火を付けた。
 濛々と湧き立つ紫煙と爽やかな香りが辺りに漂う。
 アウレーリアはそれ(ゴブリナ草付き松明)を紫の波へと投げ入れた。
 紫の胚達は臭いに釣られ、一斉に松明へ標的を移す。
「今よ! 総攻撃!」
 アウレーリアの声に呼応し、冒険者達のスキルが乱れ飛ぶ。
 ララベルの【薙ぎ払い】が、コルリスの【メテオライト】が、ハリスの【闘気槌】が、一斉に紫の胚達を打ち付けた。

●
「入り口付近でこれとは、先が思いやられるな」
 戦闘を終えた仲間達の健康状態を確認していたナタリアが呟く。
「ああ、誘導もそれほど効果的ではなかったしな」
 そのナタリアと共に仲間の健康管理に当たるフェイサル。
 冒険者達が考えた誘因方法は確かに効果がある。しかし、それは一瞬の事で、誘因物にエーテルが無いと悟るや、胚達はすぐに目標を変えるのだ。
「そこまで単純ではない……いや、単純すぎる故にクリーパーの本能に忠実なのか」
「そういう事だろう。やはり、殲滅していくほかないか……」
 救護役二人は、まだまだ続く峡谷の先を見つめる。

「これを食料に……うーん」
 回収した胚の死骸を前に、ナハトは頭を悩ませていた。
「これだけ寒い土地ですし、食料として活用できるのであれば利用しない手はないのですが……」
 全くと言っていいほど食欲を誘うフォルムをしていない胚。まずはこの見た目を――。
「あれ、味見ですか?」
 そんな悩めるナハトの元にトーラが近づいてきた。
「流石にこのまま食べる気にはなりませんよ」
「あはは……ですよね。でも、巨人族はこれを食べるみたいです」
「……やはり巨人族は極北の環境に適応しているんですね。あ、ちなみにどのようにして食べられるのですか?」
 巨人族の習慣に関心を寄せつつ、ナハトはトーラに問いかける。
「うっ……聞いちゃいます、それ?」
「え……そう言われると聞きたくない様な、聞きたいような……」
「じゃ、教えます」
「えっ!?」
 慌てるナハトにトーラは一蓮托生ですと神妙に頷くと、ゆっくりと口を開き――。
「生、だそうです」
 恐ろしげにそう告げた。

「お疲れのようですが……よろしければどうぞ」
「え? あ、うん、ありがと」
 壁面に背を預け休憩していたヒルルクに、ハリスが水袋を手渡した。
「……征竜様から何かあったのですか?」
 似たような毛皮の防寒具を羽織る二人。ハリスはヒルルクの横に腰を下ろすとぽつりと問いかけた。
「征竜さまから? 別に何もないけど、どうして?」
「……いえ、ただそのように感じただけです。征竜様の元へ近づいているからか、少し気持ちが高ぶっているのかもしれません」
「ふーん、そう言うもんなんだ」
「リザードマンにとっては、その死生観に関わる程の事だからな」
 そんな二人の元にフェイサルがやってくる。
「巫女殿、体調に変化を感じられたらすぐに申し出て頂きたい。貴殿の存在は何物にも代えがたいものであるからな」
 癒し手として、何より征竜の信徒として、フェイサルはヒルルクの身を気遣う。
「まぁ、わたしは『征竜の巫女』だから! でも、ありがとね。何かあったら言うわね」
「うむ、頼りにされよ」
 にっこり微笑むヒルルクに、フェイサルは深く頷いた。

「――ここと、ここ。後は上からと」
 アウレーリアは胚の出現地点を用意した地図上に記していた。
「アウレーリア、この先50mくらい行った左の壁にもいる」
 アウレーリアの地図作成の手伝いをするアルフィーが【捜波】で敵の位置を調べ報告する。
「わかったわ、ありがとう」
「何かわかりそうか?」
「……いえ、これだけでは何とも。法則性でもあればと思ったけど、期待薄ね」
「せめて、色だけでもわかればいいんだけどな。襲ってくるまで色がわからないってのは厄介だ」
 アルフィーが言う様に、居場所はスキルで特定できるが潜んでいる胚の色まではわからない。
「討伐しつつ、ここに色を足していくしかないわね」
「毎回居場所が変わらないのを祈るしかねぇな」
「はぁ……それは言わないで」
 先の見えない確認作業に、二人は力無く肩を落とした。

「ノックス、何か違いは分かった?」
「……いえ、見た感じ先ほどの土と変わりはないようですね」
 再び壁面の岩を削っていたノックスに、ララベルが問いかける。
 入口付近とこの辺り(胚が出没した地点)との土質に差異は感じられないと、ノックスは答えた。
「うーん、そうかぁ……あれ?」
 困ったと眉を寄せるララベルが、ふと岩から飛び出す可愛いお尻を見つける。
「コルリス、何やってるの?」
 ララベルは壁面に空いた穴に頭を突っ込み、ガサゴソと何かを探しているコルリスに話しかけた。
「んーとね、敵がさ、蛭っぽいでしょ。だから、敵が出ない所には、何か嫌いなものでもあるんじゃないかと思って探してるんだよ」
 コルリスは穴からスポンと顔を抜き、ララベルに答える。
「へぇ、それで何かあった?」
「なーんにも。蛭が嫌がる様な塩水とか、ミントみたいな植物とか生えてるかなとも思ったんだけど、砂と岩しかないよ」
「あー、わかる。僕たちもそれ探してたんだけど、何にもないよね」
 がっくりと肩を落とすコルリスに、ララベルもうんうんと頷いた。
「地質的な差異もありませんし、外的要因から生息している場所の特定は難しそうですね」
 二人の元へやって来たノックスが手にしていた砂を払いつつ話しかける。
「やっぱり探査系スキルで地道に探していくしかないかなぁ」
「ええ、現状アウレーリアさんの地図と合わせて、調査しながら進むのが最善かと」
 ノックスの結論に二人は残念そうに頷いた。

●
 休憩を終え再び前進を始めた一行の前に、再び胚が襲い来る。

「手前30m! 数は――いっぱいだ!」
「上からも来ます! 数は10位です!」

 索敵能力に長けた者が事前に敵の気配を察知し、迎撃に移る者へ指示を飛ばした。

「喰らえ、疾風大車輪!!」
「光に飲まれよ、【炸光矢】」

 迎撃する者達は索敵を元に胚を迎え撃つ。
 長い行軍であるため、誘因効果のある道具を駆使し、スキルをできるだけ温存しつつ、敵を殲滅していく。

「前線をあげます。『食材』の回収お願いします」
「はい、おまかせください!」
 敵数の減少を見て取ったハリスが前線を引き上げる。それに伴い回収可能となった胚の死骸をナハトが拾得していった。

●
 再び休憩――。

「け、結構集まってきたわね」
 幾つも積まれた袋を見つめ、アウレーリアは呟いた。
「ああ、これだけあれば長い行程でも十分に食い繋げ……何故そんな顔をする」
 そんな彼女に声をかけたナタリアだったが、ふと見たアウレーリアの表情は控えめに言って絶望していた。
「……その気持ちはわからないでもない。しかしだな、これも貴重な食料になり得るんだ。そこは我慢してくれ」
「わかってる。わかってるから、じりじりと近づけるのはやめなさい!」
「ふむ、そういう事か。面白い知見を得た」
「……悪用したら吹き飛ばすわよ」
 表情こそ変わらないものの声が若干弾んでいる様にも聞こえるナタリアに、アウレーリアはジト目を向けた。

「このまま行けば突破は可能だろうが、後続が続けないのではないか?」
「しかし、これと言った抑制策がありません。誘因策は効果が限定的ですし、大量に用意もできない。ましてや誘引してもすぐにエーテル無しと無視されます」
「やはり少しでも数を減らし安全を確保するしかないのか……」
 死骸回収を仲間に任せ、ハリスとフェイサルはリカルダの元へと詰めていた。
「後に殿下がお通りになる。万が一の事態を避けるためにも、やはり何か策が欲しいな……」
 しかし、これと言った対策を未だ思いつかないでいる。
「殿下の安全は何より大事です。何か根本的な対処法が見つかればいいのですけど……」
「そうです! こんな危険な所へレイウェストさまをお招きする訳にはいきません!」
 レイウェストを慕うナハトとトーラは人一倍この旅程に神経をとがらせていた。
「ケイルの話だと、倒しても少しすればまた湧いてくるんでしょ? 今、討伐しても、結局殿下が来る頃にはまた増えるんじゃ……」
 と、ララベルが分布図を指しながら困り顔。
「やはり根本的な忌避策、ないしは解決策を見つけないとなりませんね」
 ハリスの呟きに、新たな提案を出せる者はいなかった。

 そんな話し合いから離れ、コルリスは一人唸っていた。
「ん~。んんん~~?」
 コルリスは弱った胚を前にしゃがみ込み首をかしげる。
「どうした、何か気になる事でもあるのか」
 そんなコルリスにアルフィーが声をかけた。
「まだ生きているじゃないですか。すぐに止めを」
 同じく声をかけたノックスが、コルリスの前で蠢く胚に向けナイフを抜く。
「あー、待って待って! 今ちょっと実験中なんだ!」
 と、殺気を漲らせるノックスを止めて、コルリスが胚を指さした。
「実験……?」
「うん、ちょっと見てくれる?」
 と、コルリスは二人が見つめる中、指先から【生活魔法】で水を出す。すると――。
「……っ! お、おい、これって」
「逃げている……?」
 二人が言う様に、胚は水から逃れようと蠢いていた。
「どういう事だ? まさか、水が苦手って事なのか……?」
「その可能性は十分にあります。これは大発見なのでは」
 胚の行動に、二人は驚き、声を上げるが――。
「でもね」
 コルリスは再び胚を指さした。
「逃げなくなったな。何だったんだ……?」
「えっとね。水が苦手みたいなのは間違いないと思うんだけど、ここはすごく寒いからすぐに凍っちゃうんだよね。それで、氷は嫌いじゃないみたい」
 逃げなくなった胚と地面で凍り付いた水を見て、コルリスが説明する。
「なるほど……効果的に使う方法がないという事ですか」
「水もそんなに量があるわけじゃないからな……」
 三人は胚と氷を見つめながら、困ったように首をひねった。

●
 その後も進んでは胚を殲滅し、休憩の後また進みを繰り返しつつ、ようやく谷の半分まで来た。
 胚からの襲撃の中、迎撃に当たる者とコルリスが発見した胚の弱点を実証する者とに分かれ何度かの実験を行った結果、その効果は確かだと立証される。
「効果に偽りはありませんが、やはり……」
 ノックスが【ピュアウォーター】で作り出した水を撒き散らすと、胚の波が一斉に引いていく。しかし、まかれた水はすぐに凍り、胚は再び向かってきた。
「環境に適応した結果、弱点ができてしまった。という事だろうが、うまく活用できぬな」
 忌避の結果に頷いたフェイサルは、戻ってきた胚へ【薙ぎ払い】を放つ。
「大量の水を持ち込もうにも、ここは極北。調達や運搬は非常に困難ですね」
「仮に用意できたとしても凍らないようにする事が難しい。折角の忌避案だが使えぬか……」
 ハリスとナタリアが残りの胚を殲滅し、一行は再び休憩を挟んだ。

「でっかい泡でも作れりゃ、その中に入って行けるのにな」
「なかなかメルヘンな案だけど。泡も凍るわよ」
 皆が休憩をとる中、アルフィーが大きく手を回し泡の形を作って見せるが、アウレーリアが首を振った。
「お湯にすれば……と思いましたけど、沸かす燃料こそありませんね」
「うん、紋具か薪を大量に持ち込まなきゃいけないし、それもやっぱり現実的じゃないよね」
「散水と行軍を同時に行う……としても距離がありすぎますか。途中で枯れそうです」
「そうだね~。そんなに大量の水は持ってこれないし沸かせないよ」
 トーラやララベル、ナハトとコルリスも頭を捻るが、あと一歩妙案が浮かんでこない。

 結局、一行は水の有効な活用方法を見出せぬまま峡谷を進み、ついに終端へと辿り着いた。

●
 そこはケイルに『井戸』と呼ばれた場所だった。

「これが井戸って……でかすぎるだろっ!?」

 しかし、目の前に現れた『それ』に、アルフィーが思わず声を上げた。
 それは巨大なクレーター。直径にして数kmはあるだろうか。突然大地に開いた巨大な『穴』は、地中深くへと続いている。
「うわ~、深いねー。あ、水が溜まってる?」
「そうそう、だから『井戸』って呼んでるんだ」
 穴を覗き込んだコルリスに答えたケイルは、「あそこから降りられるよ」と数百m先を指さした。そこには太い丸太が、穴の底まで階段状に撃ち込まれていた。

 一行は不安定な足場を気にもせず、どんどん丸太の階段を下っていくケイルを追って、『井戸』と呼ばれる場所の底へと降りていく。
「お、落ちそう……」
「ロープで体を結んでいてよかったですね。例え落ちても引き上げる事が出来ます」
 下を見てすくみ上るヒルルクに、ハリスが安心しろとグイッとロープを引いた。
「結構深いわね。それに足場が不安定」
「怖いのなら手を繋いでやるが?」
 壁に手を突き慎重に歩を進めるアウレーリアに、ナタリアが声をかける。
「結構。この程度で怖がっていれば、ビッグオウムになんて乗れやしないわ」
「なるほど、それは残念だ」
 ちっとも残念そうじゃないナタリアに、アウレーリアは両手を上げ肩を竦めた。

 壁に打ち込まれた丸太を慎重に下った一行は、ついに底へと辿り着く。
「あれ、ここはそんなに寒くないね」
 と、ララベルがふと気づき上着を脱いだ。
「ああ、確かに。どういう事だ。地熱でも発生しているのか」
 寒さに敏感なフェイサルもそれに気づいたようで、地面に手を付き温度を確かめる。
「ここは安全地帯(ハビタブルゾーン)だからね。他よりは少しだけ過ごしやすいし、魔物(クリーパー)も出ないよ」
 そんな二人にケイルが話しかけた。
 ケイルの話に戸惑いを隠せない一行は、急ぎ索敵を行うも、危険や敵の存在を見つけることはできなかった。
「敵が出ないのはありがたいな。これで一息つける」
 仲間達の索敵結果を受け、リカルダが旅装を解くよう隊員達に指示、自らも鎧を外し始める。
「残るのは水中ですけど……これは飲料水に利用できるのでしょうか」
「煮沸すれば飲めるのではないですか? 毒とか入っていなければですが」
 トーラとノックスが、ここが『井戸』と呼ばれる所以、中央に湧いた泉へと近づいて行く。
「飲めなくはないけど、塩辛いよ」
 と、恐る恐る泉を覗き込む二人に、ケイルが声をかけた。
「塩辛い……? えっ、塩水なんですか、これ」
「まさか、海水ですか……? ここから海までは相当離れていそうですが」
「かいすい? よくわからないけど、塩が入ってる水だよ」
 驚く二人にケイルは首をかしげる。
「……ひぃぁ、塩っ辛い!」
「これは……海水なんてものじゃないですね。どれだけ塩が溶けているのでしょう」
 二人は顔を見合わせると恐る恐る泉の水を手に取り舐めてみる。
 それはとても飲めたものではない程、塩分濃度が濃かった。

 穴の調査も終わりここは安全だと確認できた。
 皆が一息ついた所で、ついにあの時がやってくる――。

「食べるんだ……やっぱり」

 一行の輪から少し離れ、アウレーリアが小さく呟いたが、そんな呟きも『食材』を前にした者達の耳には届かない。
 腕に覚えのある物を中心に、あの『胚』の調理を始めていた。

「我が故郷でもクリーパー食はそれほど珍しい事ではありません。僭越ながら腕によりをかけましょう」
 最初に胚を手にしたのはハリスだった。自前の包丁を取り出すと、大きな胚を器用にさばいていく。
「ふむ……肉としてはやや柔らかいですが、ちゃんとした身ではありますね」
 包丁を入れ身を割き、内容物を取り出した。
「臭いが多少きついですが……なるほど、これでしたら可食部分もそれなりにとれそうですね」
 ハリスは身と内容物を分け、可食可能であるだろう身の部分だけをより分けていく。
「一つ頂きますね」
 ハリスが捌いた胚の一つを手に取ったナハトが、クンクンと匂いを嗅いだ。
「……確かに。内容物を取り除いても匂いが残りますね。でしたら――」
 ナハトは事前に用意していた蒸留酒を取り出すと容器になみなみと注ぐ。
 そして、杯の身を細かく刻んだかと思うと、酒の中に漬けていった。
「なるほど、酒精で臭いを飛ばしちゃうんですね」
 ナハトの手際を観察していたトーラが感心しながら頷く。
「それじゃ、わたしは少し手を変えて……」
 と、トーラは鍋で沸かしてあった泉の塩水へ、一口大に刻んだ胚の身を投入していく。
「これって、種類によって味の違いがあったりするんですかね?」
 ぐつぐつと煮込まれる胚の身から出る灰汁を取り除きながら、トーラはふと考えた。
「ケイルはどれも変わらないって言ってたけど……あんま当てになんねぇしな」
「あはは、そうですね。巨人族とは味覚が違うと思いますし」
 調理を手伝うアルフィーに言われ、トーラはチラリとケイルを見る。
 ケイルは人の調理というものをほとんど見た事が無いらしく、興味深げに料理人達の手元を覗き込んでいた。

「聞いたか、巨人族の『アレ』の食し方を」
「ああ、聞いた。流石に真似する勇気はないがな」
 万が一の救護班として待機するフェイサルとナタリアは、調理を担当する者達を見守りつつ、食材である胚の有効活用について話していた。
「この地で食料の確保は困難だ。アレが食べられるのであれば食糧問題はひとまず解決するか……」
「いや、ただ喰えても栄養価が無いに等しいのであれば用をなさん。その辺りも後で調べる必要があるな」
「ああ。ともあれ、食べられるかだな」
 二人は調理の行方をじっと見つめる。

●
 調理を進める者達から離れた場所に、極行遣北使(ノルデン・ボーテ)の隊員達が集まっていた。
 副長であるエメがリカルダより託された書簡を懐に大切にしまった。彼女はここまでに得た情報を後発組に届けるため、引き返す手筈になっている。
「ビッグオウムが使えれば早いのに」
 調査隊の話に加わっていたアウレーリアが小さく呟いた。
「極北は危険な場所だから、ゴールディの人達はビッグオウムを貸し出さないんじゃないかな」
「そうね。こればっかりはわたし達の一存でどうこうできる問題じゃないものね」
 ララベルの言葉に頷いたアウレーリアは、少し申し訳なさそうにエメを見た。
「気をつけてね? クリーパーはもうたぶんいないと思うけど、一応水も沢山持って行ってね」
 そう言ってコルリスは、泉の水を汲んだ水袋を大量にエメ達帰還組に渡す。
「エメ、冒険者も何人か戻るとはいえ、任務が危険な事には変わりない。気を付けろよ」
「はい、肝に銘じます。お心遣いありがとうございます」
 そう言ってエメの肩に手を置いたリカルダに、彼女は神妙に頷いた。

●
 極行遣北使(ノルデン・ボーテ)が話し合いを終えた同じタイミングで、ついに料理が完成する。
 料理人達が腕によりをかけた料理たち。見た目まで工夫を凝らした料理の数々は、元の食材がアレだと言われなければ、普通に美味しそうに見えた。

「まずはこれです!」

 前菜だとトーラが提供した品に、どよめきが上がる。
 それは温かな湯気を上げるスープだった。

「まずは私が行こう」
「ぼ、僕も!」
 皆が「誰から行く?」とけん制する中、名乗り出たのはナタリアとララベルだった。
 二人はごくりと小さく喉を鳴らすと、スープの乗った匙を口へと運ぶ。
「……ふむ」
 口に入れた料理を吟味するナタリアは徐々に表情を明るくし――。
「これは中々の味だな。この柔らかくも弾力の残る歯ごたえは流石、クリーパーという所か」
 どこかの誰かに聞こえるようによく通る声で感想を述べた。
「あ、うん。でもほんとに食べれる。お肉とかに比べると少し味気ないけど、十分美味しいよ!」
 共に口にしたララベルにも好評なようで、幾度となく匙で掬って口へ運んでいる。
 二人の試食を見た他の者達も、それならとスープを求め出した。
「焦らなくてもたっぷりあるから、ちゃんと並べ!」
 一気に詰め寄せる者達に、アルフィーがスープを次々と注いでいった。

「こちらもありますので、どうぞ召し上がってみてください」
 そして、スープの横にはナハトが作った数々の料理が並ぶ。
 見た目も鮮やかに『胚とナッツの炒め物』『胚サンドイッチ』『胚の酒蒸し』等々、ふんだんに胚を使った料理が並ぶ。
「うっわっ! これまた豪華だね!」
 ナハトの料理にスープの列で待っていたコルリスが飛びついた。
「食材が食材ですから少し工夫は必要でしたが、どれも美味しくできていますよ」
 ナハトに言われコルリスは楽しそうに料理を取っていく。

「食べないのですか?」
 山盛りの胚料理を口に運ぶノックスが、皿に盛られた少量の料理を睨み付けるアウレーリアに声をかけた。
「た、食べるわよ」
 アウレーリアは恐る恐る伸ばした匙に料理を掬うと、ゆっくりと口に運ぶ。
「流石ですよね。あれをここまで美味しく仕上げるのですから」
 そんなアウレーリアを他所に、ノックスは料理人の腕に感心する。
「ま、まぁ悪くないわね」
 そう答えたアウレーリアは、二度目の匙をゆっくりと伸ばした。

「ほう、流石の腕前だな、ハリス」
「お褒めにあずかり光栄です、フェイサル殿。ああ、貴殿の提案であった干物も現在作成中ですよ」
「そうか。もし携行するとなればできるだけかさばらない方がいいからな」
 調理場所の脇に吊るされた胚の身を見つつ、二人のリザードマンは食事の輪へと戻っていった。

 こうして、料理人達の意地と努力でとても豪勢になった胚料理の数々に、思いがけぬ英気を得た極行遣北使(ノルデン・ボーテ)と冒険者達。
 安心して腰を下ろせる場所がこれほど貴重かと噛みしめる一方、更なる奥地へと目指すための準備を始めた。
 ケイルが言うには、この『井戸』はまだまだ端の方だという。
 ここから更に厳しさを増していく極北への道のり。極行遣北使(ノルデン・ボーテ)を待ち受けるものとは果たしてなんなのか。無事にヒルルクの故郷のある場所までの辿り着くことができるのか。それはもしかしたら、征竜だけが知っているのかもしれない――。

マスターコメント

ご参加ありがとうございます! 初めての極北旅行(?)楽しんでいただけましたでしょうか? 今回のリプレイを振り返ってですが……皆様、料理したかったんですね! プレイングの結構な部分が料理に割かれていたので、思いのほか料理パートが豪華になりました。 皆様のクリーパー料理への関心度、胸に刻んでおきます。 さて、肝心の行程の方ですが、皆様の試行錯誤が見て取れてとてもよかったです。 解説やOP本文中にあった「寒い」「乾燥している」をうまくとらえて対策を立てていただけました。 そのおかげで完璧に……とはいきませんが、小さくない成果を得られたかと思います。 その中でも、クリーパーが水が苦手(その逆も)と気付かれた方々にMVPを差し上げています。 ただ、凍結対策がなされていなかったので、そこが残念な所でした。 今後この特性を有効に活用しクリーパーの忌避に使うのであれば、何かしらの工夫が必要となりますね。 あとは、残念ながら現段階のキャスターの魔法は、『そう見えるだけ』で実際に炎とか風とかは出てないのです。なので誘因効果はなく、敵寄せに使わず殲滅に使わせていただきました!
ショートEX

ショートEX難しい 報酬:標準10 / 4〜10人

2021年09月02日 10時15分04秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ララベル・サン・ディーベル

    僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、よろしくね!

  2. ナタリア・フィッツジェラルド

    ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 胚は色ごとに分かれていて、熱源も気流の乱れも、音も吐息も感知可能……ハイディング等の隠密状態になったとて無意味だろうな。 道は蛇行こそしていて10km程の長さではあれど、分かれ道の類が存在していない事が幸いだから飲み込まれて分断されるという事は無さそうだが、谷一面にひしめき合うという事は前方からも押し寄せる可能性が大きい。 その上断崖も100mはあるとされるから、光縛封で足止めしようにも圧倒的に高さが足りんから、これも焼け石に水だろう。 前から押し寄せてきた奴らは、タイダルストリーム等のように直線範囲の範囲攻撃で一掃するか? 胚は食べられるとあるがそれは巨人族の感覚から見た話……事が済んだら食ってみようというのは居るか?(

  3. ナタリア・フィッツジェラルド

    連投失礼する。 今思い付いた案になるが、胚の群れに飲み込まれたにしても救出というか引っ張り上げられるようにする為に、ロープでお互いを結び合わせるというのを考え付いてみた。

  4. トーラ

    シーフのトーラです。 いよいよ極北ですね! まずは胚の谷攻略頑張りましょう! 胚がどのくらいいるかによりますけど、捕まえて別種の胚の前に投げれば共食いとかしないでしょうか? その間に進めないかと思うので、試してみようと思います。 胚を食べる…。前にヒルルクも極北ではクリーパーを食べると言ってましたし、探検の間の貴重な食料になるなら試してみるべきですよね…(ゴクリ) 神代でも大型のクリーパーを倒せば多くの人の糧になったとも聞きます。幸い毒などもなく美味しいらしいですし、クリーパー食としては初心者向けかも、です。 蚯蚓やゴカイ食べるところもあるそうですし、美味しく食べれないかいろいろ試してみましょう。

  5. トーラ

    あ。ロープもやってみていいと思います。 今後のためにいろいろ試してみましょう。

  6. ナハト・シュライバー

    シューターのナハト・シュライバーです、よろしくお願いします。 トーラさんの共喰い案と似ているのですが、胚のそれぞれの特徴を利用して任意の場所に誘導すればいちいち倒さずに通過できるのではないかと思いました。 前から押し寄せてきたり誘導や避けようがない場合などはナタリアさんの仰るような範囲攻撃などで押し流して散らすしかないのかなぁと。 救出用のロープ、シーフの方などの動きを阻害しないようにって考えるとある程度長さが欲しいですね。 あ! 貴重な食料ですし僕も活用したいと思ってます。 見た目と味をどうにかすれば食べやすくなると思うので。 僕はこういうの見たり触るの抵抗ないんで、頑張ります(ぐっ

  7. コルリス

    即製ウォーリアのコルリスだよ、皆さん宜しくね♪ 10m幅のとこで、たき火したら寄ってきそうな? いずれ殿下を落としする時用には、布に塩水つけて足首に巻くとかかなあ? マントを水浸しにすると寒そう。

  8. ノックス・マグナ

    シューターのノックスです。よろしくお願いします。 胚は全ての種が同じ場所にいるのでしょうか。 それぞれの特徴毎に分布が分かれていれば対応は幾らか容易になるので調査を兼ねながら進みたいですね。 それにこの谷の全域に胚がいる訳ではないらしいので、なぜ胚がいない箇所があるのかというところまで調べられればと思います。 あ、確認されている種が4種ということなので他の探知手段を持つ種がいないかも調べたいです。 あと食べて不味い種がいないかも。 ロープは良い案だと思います。 動きは多少制限されますが、胚の群れに飲み込まれたときの方がデメリットが大きいので。

  9. ハリス・アル・ターミル

    ハリスと申します、どうぞ宜しく。 ぬうう極圏とはいえここまでの荒野とは……農業は厳しいと言わざるを得ませんか。 >胚の誘導 「熱を感知する:赤種」 火のついた松明など人間の体温より高いものを投げる 「風の乱れを感知する:翠種」 ウォーリアの衝撃刃など風圧を伴う遠距離攻撃 「音を感知する:青種」 サウンドボマー等大きな音を出すスキル 「臭いを感知する:紫種」 スーパーめちゃくさい等臭気に関するスキル、腐った食物 誘導に活用できるとなればこの当たりでしょうか。 一先ず紫種への対策として出発前に十分身を清めておくほうが良さそうですね…( そして確認できている種以外にも胚は存在する可能性がありますね。 もし未確認のものを発見したらその同行を調べておきたいところです。 >依頼の流れ ロープで緊急時の対応をしつつ、各種誘引方法で正面からの戦闘を回避して進む方針で 宜しいかと。道幅が狭いなど避けられぬ場合は範囲攻撃で薙ぎ払うしかないでしょう。 私は多少吸い付かれても問題はありませんし、前衛として露払いをさせていただきます。

  10. アルフィー・リッパー

    (胚に威嚇しつつ) アルフィー・リッパーだ。よろしくな すごい数がいるんだな。既存の意見になるけどそれぞれの胚に対応しているものを使って誘導し、数を減らすのがいいだろうな。いちいち相手にしていられないぜ ロープの案もいいと思うぜ。安全に進むのは大事だ…ああ…(何かを思い出して) 料理人としては気になるところではあるが…今後のことも考えて調理をしてみようか。案外こういうのって美味しかったりするよな

  11. コルリス

    【質問】 Q1 前回参加できなかったけど、宜しくねー。 本題、常識的な量の薪に類するものは探索隊で用意しているかな? 着火はあたしができるよ。 >ハリスさん 宜しくね♪ もしも薪があるなら、スキルで対応しなくても 熱・上昇気流による風・音も臭いも作れると思うんだよ、どうだろ? あとは誰かに、香水用意してもらうとか。 あたしは『ゆきひょうのひとにんぎょう』と『マント』必携だから、ランタンしか持てない♪

  12. コルリス

    連投 あとね、ヒルが居ない処には上から水(塩分含む?)が滴ってるとか ハッカ?みたいな感じの植物伸びている予感。 もし植物由来なら、次回以降渓谷に沿って育成すればいいと思うの。 上から垂れてるのかもしれないけどー。

  13. リカルダ=C=アーレンス

    質問だな、答えよう。 Q1 常識的な量の薪に類するものは探索隊で用意しているかな? 着火はあたしができるよ。 A1 常識的な量とはどの程度を指すのかわからないが、薪は用意してある。ただ、この長い旅程で使用するためのものだ、余剰はそれほどないと思ってくれ。暖を取る為にも食事をする為にも薪は必須だからな。

  14. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    キャスター、アウレーリアよ。宜しく。 そうね、全滅させて進めるほど物資や戦力に余裕はない感じかしら。 確かに炎を使えば、やり方次第で赤種から紫種まで惹きつけられそう。 でも進んでいかないといけないから、都度焚き火を設置するのは効率が良くなさそうね……。 進路前方へ先に松明なんかを投げ込んで、集まった敵を倒していくのはどうでしょう。 燃料に獣油があれば、中には燃えた時にひどく臭うものもあるし。 使用回数の問題があるけど、爆炎も同じ用途でより遠くから使えるかも。 食料としてはまぁ……あまり素敵な見た目とは言い難いけれど。 これだけ何もない土地だと、ただ食べられるというだけで貴重な物資かも知れない。 今後のことも考えて毒見と、安全で簡単な採集方法を考えておくのも良さそうね。

  15. フェイサル・セイフ

    フェイサル・セイフ、癒しの術と剣の方を少々扱う。 今回は宜しくお願いする。……しかし、やはりここは冷えるな……? >敵への対処 確認されている敵種の性質を利用し誘因、交戦が避けられない場合は確実に前進。良いと思う。 迎え撃つ際は可能であれば道幅の狭い場所で前衛を立てつつ、 遠距離攻撃や範囲攻撃の可能な者は壁面等を伝って来る敵を抑える、辺りか。 吞み込まれた場合のロープという案もそうだが、慎重に進むのが肝要だろう。 欲を言えば、『胚』どもの生育に適した環境を破壊できてしまえば後々楽になるのかもしれないが。 後は……そうだな、征竜の巫女殿の様子も気になるが、食料やその使い道というのも今後の為に重要か。 あるいは『胚』が食事としてレイウェスト殿下の口に入ることになるやも知れん…… 医食同源という言葉もある、私もこれは少し考えてみよう。

  16. ナハト・シュライバー

    確かに胚が湧いてるところとそうでない場所の差はどこにあるのか、未確認種の調査も今後の為に必要そうですね。 道中調査で役に立ちそうなスキルがあれば用意しておきたいところ。 焚き火は防寒対策も兼ねていて良さそうなんですが、薪を節約するなら回数はある程度限られるでしょうか。 気温は低くとも空気は乾燥しているようですし、風の具合にもよりますが小さめの火種でも火の勢いは強くなるかもしれません。 松明を投げ込むのも良さそうですし、ある程度離れた場所に誘導する場合は鏃に油を含ませた布を巻き付けて火をつけてから射るのもありかと。

  17. トーラ

    出発を1日勘違いしてて、さっき今日でなく明日の出発と気付きました…。 とりあえず胚の誘導と、多数に絡まれたときは範囲攻撃で対処するように行動を出しています。 あとは胚を食料にする事について書いたので字数一杯ですね。

  18. コルリス

    >リカルダさん 回答ありがとうね。 【質問】 Q1ー2 距離もあまりないから、5本を1回か2回(最大10本)かなあ。 残り時間もないから、怪盗でなければプレイングで要請するよー。 >皆さん 誰か麻袋や香水持って貰えそう? 真木が使えそうになければ、あたしランタンの灯を強めて地面に置いてみるし、捕まえたヒルをいくつか焼けば匂いも煙も出るだろうし。 おやつになるかも♪

  19. ナハト・シュライバー

    香水なら僕が持ってます! あと火打箱と、料理と火の勢い強めるのに使えるかと思って蒸留酒を持ちました。 麻袋や松明などは他の方にお任せしたく。

  20. アルフィー・リッパー

    麻袋と松明は持ったぞ。 火を感知する胚が多い時はぶん投げたりしても良さそうだな。

  21. ナハト・シュライバー

    あ、あとロープでしたっけ? もし持てる方がいたらそちらもお願いできたらと。

  22. ハリス・アル・ターミル

    >ロープ ではそちらは私が持っておきましょう。 食料としての活用を狙うなら料理に使えそうな道具や生活魔法などもあれば有り難いですね。

  23. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    私も松明・ロープを用意しました。 香水もあるのだけど、その代わりにものの試しでゴブリナ草を持って行ってみます。 常識的には虫除けになりそうな気がするのだけれど、寄せるにしろ除けるにしろ意味はあるわ。 スキルの方も、生活魔法と調理を持って行きます。 これで火種の確保と、多少なりともマシな形で食用に出来ればと思います。

  24. コルリス

    あたしも生活魔法は持って行くので、火打石なくてもいいよー。 皆さん防寒具お忘れなくねー♪ 香水・麻袋持ってくれる人ありがとーございます。

  25. フェイサル・セイフ

    私も予備のロープと、収納用のバックパックは持って行こう。 後は私自身の防寒の備えと……スキル面ではいざという時の備え(※腹痛的な意味で)を少し、だ。 熱源や光源に関しては、他の皆に任せる形になってしまうが申し訳ない。

  26. ナタリア・フィッツジェラルド

    生活魔法は私も習得済みで、極寒の地による体調不良に備えて医療薬学スキルも持っていこう。 防寒具と思わしきものはマントくらいしか無かったが、それでいいみたいだな。 他には救助用のロープと、任意の場所に誘き出す為の香水くらいか。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0