邪竜の器
真柄 葉
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シナリオID:1265
オープニング
松明の炎が揺らめく薄暗い空間で、苦しげなうめき声が漏れる。
石造りの『神殿』の奥に座す女は、なまめかしく足を組み替えると、うめき声の主に声をかけた。
「ふふ……なかなかいい血を持っていそうな子じゃない」
目の前には猿ぐつわをされ目隠しされた半裸の少女が膝を折っている。
女はつま先で少女の顎を持ち上げると、泣きはらしたその顔を見て満足げに口元を歪めた。
「禊の間へ連れておいき。この子に【血の選別】を」
女はそう言うと右手で合図を送る。両脇に控えていた黒衣の男達がそれに応え少女を抱え上げた。
黒衣の男達は、嫌だと取り乱す少女に当て身を入れ黙らせると音もなく部屋を出ていく。
「さて、今度の子はどうかしらね。そろそろ予備も心許なくなってきたし、せめて【血の選別】くらいは越えて欲しいわね」
誰も居なくなった部屋で、女はワインを傾ける。しかし、その顔に笑顔はなかった。
「……あの男さえ居れば、こんなに苦労することもないのに」
憎々し気に唇を噛んだ女は、机の上にあった小さなベルを手に取り鳴らす。
「……お呼びですか【教祖】」
すると、部屋の隅の闇から男の声がした。
「シン、あの男の行方はまだつかめないの」
「はい……」
「この私から15年もの間、逃げ続けるなんて……一体どこに隠れているのかしら?」
女は声の聞こえた闇に向け鮮烈な笑みを向ける。
「まぁいいわ。あれ以上の者を生み出す『器』を作り上げればいいだけですものね」
「……」
闇は答えず頷く気配だけがした。
「シン、次は王家に連なる娘とかが欲しいわね。もちろん、さっきの子がうまくいかなかったらの話だけど」
「……それは流石に」
「なに? 私のいう事が聞けないの?」
「……わかりました【教祖】」
「ふふ、素直な子は好きよ。さぁ、行きなさい」
女は闇に向け柔らかな笑顔を向けると、再びベルを鳴らした。
●
所かわって、ここはエラトゥーン都市同盟にあるとある都市。中規模で特徴らしい特徴もない都市にある無骨な石造りの建物の一室で、『ドルトレス所長』というコードネームを持ったゴブリンが小さく呟いた。
「『キリコの時計』が再び動き出したか……」
『絶盗団・キリコの時計』
「全てのものを盗む」という理念のもとに結成されたとされる盗賊団で、宝石や貴金属、ゴールドはもちろんの事、人身、禁制品など数々のものを盗んでは密売していると噂されている。首魁は元より、構成員の人数や規模等、アジトの存在など多くの謎に包まれた組織だ。
「今度は人攫いだと……? しかも貴族や裕福な家の娘ばかり……身代金目的なのか。しかもクリエスター山脈だと……一体何をするつもりなのだ」
ドルトレス所長は部屋を行ったり来たりと歩きながら頭の中で情報を纏める。
報告書に記された場所はクリエスター山脈の奥地。長らく『キリコの時計』を追っていたドルトレスでも、そんな場所での活動報告は初耳だった。
「ともかく、その山間の村とやらに調査を向けねばならんな」
ドルトレスはすぐに部下を呼び、調査の指示を出した。
●
「そう、死んだのね」
部下の報告を受け、女は無感情に答えた。
「やっぱりもっと高貴な血が必要ね。シンはうまくやっているかしら」
女は【血の選別】の結果が記された報告書を破り捨て床に投げ捨てると、キセルと手に取り紫煙を燻らせる。
この女が教祖たるこの教団は、邪竜の圧倒的な神格と強さに惹かれた者達が集い作り上げた教団で、クリエスター山脈に巣食う邪竜の一体をご神体と崇めている。
しかし、それは表の顔。
裏ではとある悲願の成就の為、人道から外れた儀式を行う邪教徒であった。
その悲願とは、『超越する者』を生み出す事。
神殿の奥に眠る邪竜の「血」と、その「血」に耐えうる娘を掛け合わせ「器」を練成する。そして、「器」の娘が母となり『超越する者』を生ませるのだ。
「どこぞの窃盗団を使うとか言ってたけど、本当に使えるんでしょうね」
紫煙を吐き出しながらつまらなさそうに欠伸をした女。
「はぁ、次の【血の選別】まで暇ね。何か面白い事はないかしら」
部下がそこにいる事も気にせず、女は大きなため息をついた。
●
深夜ともいえる時間に、女の部屋の扉がノックされた。
「こんな時間に何」
若い信者と閨を共にしていた女がのそりと起き上がり、ローブを羽織ると扉に近づいた。
「……侵入者?」
扉の向こう側から聞こえた声に、女は一瞬驚く。
こんな山深くに来るもの好きなどが居るのかと、思うもすぐに攫ってきた娘絡みかと思い至る。
「それで、捕まえたの?」
『―――――』
「――そう、いいわ。無先を向かわせなさい。つべこべ言う様なら『味噌汁抜き』とでも言って叩き起こしなさい」
女がそう指示を出すと、扉の向こうから人の気配が遠ざかって行く。
「ふふ……面白いじゃない。こんな僻地にわざわざ遊びに来てくれたんだもの、それなりのおもてなしをしてあげないとね」
女は楽しそうに閨に戻ると、寝ていた若い信者を叩き起こし、二度目の温もりを求めた。
●
深夜にもかかわらず、今日の村は明るかった。
村のあちこちで松明を持った信者が歩き回り、侵入者を探し回ってる。
「お嬢ちゃん、居たかの?」
「……いない、逃げられたかも」
そんな中、捜索の中心となる老人『無先』が、傭兵として雇われている『ビ=ネク』へ声をかけた。
「ふむ、それは困ったのぉ」
「追う? 追加料金払ったら追ってあげるよ」
長く伸びた白髭を撫でながら口をへの字にする無先に、ビ=ネクは相棒であるオルトロスの太い脚を撫でながら問いかける。
「頼む、と言いたい所じゃが、あの桟道ではその子の力を発揮できんじゃろ」
しかし、無先は首を横に振った。
この村への唯一の通路は細く頼りない桟道しかない。いくら侵入者とはいえこの道を通る以外この村から出る術はない。この小さな傭兵の武器である魔獣オルトロスは巨大で桟道を通ろうものなら、崩れて谷底に落下がオチだ。
「む……来た時みたいに山を越えればいい」
そんな老人の答えが癪に障ったのか、ビ=ネクは眉を顰め反論した。そもそもここに来た時は険しい岩山を相棒のオルトロスの背に跨り越えてきたのだ。……すこーしだけ苦労したが。
「それだと大回り過ぎて見失うじゃろうが」
「むむ……爺、嫌い」
「えぇー……」
あまりに理不尽なビ=ネクの返しに、無先は脱力し肩を落とす。
「ともかく、この場所が知られたのはまずいのぉ。どうするか」
「……まずい? なんで」
「知られたら、取り返しに来るじゃろう?」
「取り返す……? 何を」
「おっと、それは内緒じゃ。いくら可愛いお嬢ちゃんでも、それは教えられんなぁ」
「……ケチ。私より年下のくせに」
「……え?」
空耳かと思わず無先が聞き返すが、ビ=ネクは知らん顔で相棒と共にどっかへ行ってしまった。
「うーむ、傭兵ちゃんはよくわからん奴ばかりじゃのぉ。ともかく、警備は強化せねばならんか。はぁ、味噌汁の為とはいえ老体にはきつい仕事じゃ……」
ビ=ネクの後ろ姿を見つめながら、無先は大きなため息をついた。
解説
マスターより
リプレイ
「偵察の方はどうだ。人質の居場所はわかったか?」
先ほどから瞳を閉じ、相棒のラトとその分身とリンクを結ぶルチルに、ハヤト=ガラン=ヴォルファングが問うも、リンク中のルチルから返事はない。
「もう1時間近くになりますね……」
同じくルチルを見つめるトーラが呟いた。
「もしかして人質はもう……」
ただ時間だけが過ぎる状況に、ララベル・サン・ディーベルが恐る恐る口にする。
「大丈夫です。人質は無事ですよ」
そんな3人の心配をミルディンがきっぱりと否定した。
「……随分とはっきりというのですね」
自信がある――というよりも確信している風な言葉に、アクティオンが問いかけた。
「……そのように感じるだけです。言葉足らずで申し訳ありません」
しかし、答えず頭を下げるだけのミルディンに、アクティオンは怪訝な表情を向けるが――。
「――待たせたね」
ルチルが目を開けたのを合図に、皆の視線が彼女に移った。
「やっぱり警備は厳しいね」
「まさか見つかったのか?」
「いや、大丈夫だ。ただ、人質も見つけられなかったけどね」
ハヤトに答えたルチルは、相棒の眼を通して得た情報を皆に伝える。
人質の数が複数人であるという事前情報を元に、収容施設が大きいと予測を立てたルチルがまず偵察したのが『神殿』だった。それはかなり広く、人の出入りも多い。しかし、そこに人質の痕跡や気配を発見することはできなかった。
「神殿ではない……?」
ルチルの話を聞きミルディンが思考に沈む中、ルチルは続きを話す。
「神殿ではないと言い切れない所だが、他の建物に収容されている可能性が高いと思うね」
「根拠はあるの?」
「神殿に入るのは非武装の信者ばかりだった」
ララベルの問いにルチルが答えた。
「根拠とするには些か弱い気もしますが、現在警戒態勢にある村で警備がつかない場所は除外すべきでしょうか」
「ある程度の目星をつけていかないと、先の調査隊の二の舞だ。だから――こことここだ」
ルチルは考え込むアクティオンに応え、地面に書いた地図に2つの丸を書いた。
「武装している信者がいる。そして食料を運び入れる場面も見た」
「中は見れなかったのか?」
ハヤトの問いにルチルは首を振る。
「見張りは多分授恵者だ。情報にあったでかい魔獣もいた」
「なかなか歯ごたえがありそうだな」
ルチルの情報にハヤトは口元を不敵に歪ませた。
「質問が無ければ準備に入ろう。決行は明け方。いいね?」
ルチルが問いかけると、仲間達は静かに頷いた。
●
黎明の頃、村へ潜入したトーラとララベルは、気配を殺し建物の影に隠れていた。
村は早朝だというのに篝火が焚かれ、行動するのに不足はない。
(警戒が厳重だね。あんまりへたに動けないかも)
(ええ、出来るだけ影を渡って身を潜めましょう)
救出班の二人が建物の影に身を潜めながら小声で話した。
二人はルチルが示した建物にそれぞれ分担を決めると、人目を避け影を渡る。
進行方向に何度も【捜波】を放ち敵の存在を確認したララベルは、目的の建物裏へと滑り込むと即座に【探波】を放ち構造を外部から探った。
(気配が多い)
ララベルは思わず表情を曇らせる。中には幾つもの【マーク】が動いていた。ララベルは更に【透視】を使い中の様子を探る。
(武装してますね)
もう一方を目指すトーラの前には、武装した信者が入り口を守る建物がある。
【看破】で待ち伏せに適した場所を見定めつつ、トーラは慎重に建物を伺っていた。
トーラは【捜波】を放ち建物の中を探る。見える場所に2。入った所にも2。奥には――5のマークが灯された。
(当たりでしょうか)
建物の大きさに対して中の人数が多すぎる。トーラは最大限警戒しながら、目標の建物へ忍び寄った。
●
「まさかこのような形で戻ってくることになるとは」
ミルディンは岩陰から村を見つめていた。
「いつまでもこんな『世界』に固執して……本当に進歩の無い人ですね、アミラ。
私の生まれた意味とあなたの悲願……そんな些末な事は衆生の安寧の為、さっさと火にくべて燃やしてしまいましょう」
村でも最も大きな神殿に目を向けるミルディン。
「ミルディン君」
そんなミルディンに準備を終えたアクティオンが声をかけた。
「そろそろヴォルファング君が現れる頃です」
そう言ってアクティオンが村へ視線を移すと――。
『はっはっはっ!! 邪竜信者の諸君、俺が来たぞ! 邪竜殺しハヤトの名を恐れぬなら、かかってこいっ!』
突如、村の中央に現れたハヤトが、大音声で啖呵を切った。
時間帯の事もあり、完全に虚を突かれた信者達は慌てて笛を鳴らす。
「はっ! わらわらといやがるな! そんなに邪竜が好きか?」
慌てて建物から出てきた信者はざっと30。多人数に囲まれながらもハヤトは余裕の笑みを消さない。
「ほほ、まさか単身飛び込んでくるとはの」
そんな信者の中から一人の老人が歩み出してきた。
「へぇ……爺さん、あんたが大将か?」
「大将? はは、わしはただの味噌汁好きの爺じゃよ」
一目で実力者と見抜いたハヤトに、老人は無造作に距離を詰める。
対するハヤトも前へ出ると、ふっと姿を消す。瞬時にしゃがみ込んで蹴りを狙った。
しかし、その蹴りは老人が瞬時に地面に突き立てた刀に止められる。
「あれを見切んのか」
「小手調べくらいは流石に見切らんとな?」
距離を取ったハヤトに、老人は刀を鞘に納めながら返した。
「相手にも手強い人物がいるようですね」
村の外周にある岩影では二人が援護の隙を伺っていた。
「無先か……」
「うん?」
「いや……さて、そろそろ私も向かいますか」
「……お願いします。援護はお任せを」
アクティオンはミルディンから【輝刃】を貰うと矢を放った。風を孕んだ力強い一矢は、粗末な建物屋根を吹き飛ばし、屋根材である藁を盛大にまき散らす。
それを合図に、ミルディンが、そしてアクティオン自身も岩影から躍り出た。
●
ララベルは見張りを無力化すると、すぐさま奥の部屋へと侵入を試みる。部屋は施錠されていたがツールで開錠し侵入した。
昏倒させた中に救出対象はいない。だが、ララベルは既にその所在を把握していた。
「隠し部屋……そんなの僕には無意味だよ」
ララベルは静かに棚を動かすと、壁を手で押す。すると壁は音を立て動き、中から小さな部屋が現れた。
「しっ……助けに来たよ」
まるで豚小屋のような部屋の中には、手足を拘束され猿ぐつわをされた少女が3人。
ララベルはにこりと微笑みながら怯える少女達に手を差し伸べた。
一方、トーラの方は――。
幸い授恵者と出会わず見張りを無力化したトーラは、【捜波】のマークを頼りに厳重に施錠された部屋へと辿り着いた。
「ここですか」
トーラは躊躇なく部屋の鍵を破壊し、中へと身を滑り込ませる。
中には少女が2人、拘束されて怯えていた。
「助けに来ました。静かに付いてきてください。あ、歩けますか?」
と、トーラの問いに少女達は自分達の足に視線を下げる。
「足枷……ひどい事を」
トーラは一瞬顔を歪ませると、すぐに膝を折り足枷の錠を破壊した。
●
「……よし」
人質確保の報がラトからもたらされる。
ルチルはトーラとララベルにそれぞれ相棒と分身をつけて連絡役としていた。
「後は離脱の準備だが……脱出の時に力を貸してもらえるかい?」
ルチルはビッグオウムを世話するゴブリンの青年は改めて問いかける。
しかし、青年は悩み抜いた末にルチルに答え説明した。作戦には協力できないと。
「……そうか、ビッグオウムはゴールディの持ち物。確かにやりすぎか」
ルチルは申し訳なさそうに頭を下げる青年に気にするなと伝え、改めて村を見下ろす。
「ここにきて作戦の見直しか……まずいね」
ルチルはそう呟くと、再び瞳を閉じた。
●
「へっ! そんなに動いちゃ腰に来るぜ、爺さん!」
援護の二人の助けを借り包囲を突破したハヤトが村の中を逃げ回る。
追ってくるのはあの老人。しかし、ハヤトはまともにやり合わず、逃げを優先させた。
「ふむ、なるほどの。そこまで逃げ回るという事は、陽動か」
しかし、そんなハヤトの行動に違和感を覚えた老人は一気に距離を詰める。
――キンッ!
金属同士が火花を散らした。
「目的はなんじゃ。言うなら逃がしてやらんでもない」
「ははっ、美人と噂の教祖様とやらに会いに来たんだよ!」
「ああ……悪い事は言わん。あれはやめとけ」
不敵に微笑むハヤトに、老人は剣を交えたままがくりと肩を落とす。
「ハヤト!」
二人が鍔迫り合いをしていると、建物の脇から声がした。
ハヤトは声に気付くと老人に体を当て弾き飛ばし、大きく飛び退る。
「あ奴は、まさか……」
再び逃げを打ったハヤトが飛び込んだ建物の影にちらりと見えた人物に、老人は思わず追う足を止めた。
「知らせぬわけにもいかんか――嬢ちゃん、後は頼むぞ」
老人はようやく駆けつけてきたビ=ネクに後事を託すと、神殿へと足を向ける。
●
「あれが情報にあった魔獣ですか」
指揮権がビ=ネクに移った事を確認したアクティオンは、すぐさま『強襲』の仕様を変える。
「うざ」
ビ=ネクが魔獣の上で愚痴をこぼす。
それもこれも、今まで建物の藁葺き屋根を吹き飛ばして回っていたアクティオンが、目標をビ=ネクへと絞り、足止めを計ったからだった。
アクティオンは建物の影を移動しつつ、射線が通る場所では矢を放ち牽制。近づかれれば【グラヴィティボルト】で敵の足を縫い付けた。
他の信者達にも迫られる場面が幾度かあったものの、その都度、計ったように現れるミルディンが無力化してくれる。
「その図体ではこの建物は邪魔でしょう」
ミルディンの援護を受けながら、アクティオンはビ=ネクを翻弄していく。
●
「「えっ」」
予め決めてあった符丁がラトからもたらされ、ララベルとトーラは同時に驚いた。
それは『空からの救出作戦ができない』事を示している。
二人は互いに顔を見合わせ、そして、助け出した6人を見つめた。
「どうしよう。空がダメだと、桟道しか道がないよ……」
「はい……これはよほどうまく誘導しないと」
怯える5人の少女達を前に、ララベルとトーラが囁き合う。
幸いまだ少女達の救出は知られていなさそうだが、露見するのは時間の問題だろう。
「ルチルさんが脱出の援護をしてくれますし、一先ず桟道の近くへ移動しましょう」
「わかった。皆、落ち付いて聞いて――」
トーラの提案に頷いたララベルは、少女達に困難な現状と脱出の方法を話して聞かせた。
●
その頃、ハヤトは――。
「本命はなんだ。教祖様の命か、それとも生贄か」
「あんたに話すことはねぇよ!」
闇の中、敵のシーフらしき手練れと刃を交えていた。
攻撃をいなしながら、ハヤトは時間を稼ぐ。信者達の眼を自分達に引き付け、人質を逃がす隙を作るために、応戦していたのだが――。
「なっ! 何でこんなとこに来てんだ!」
物陰にあるものを見つけハヤトが思わず声を上げた。
それも無理はない。当初の計画ではこの場所に人質が現れる予定はなかったから。
物陰に居た人影――トーラは「事情が変わりました」と視線で答え、桟橋を指さす。
「ちっ」
ハヤトは瞬時にその意図を悟ると、シーフを遠ざけるべく場所を移そうとした、そんな時だった。
『火事だ!!!』
村の方で悲鳴と警笛が鳴り響く。
そして、明るくなってきた空を赤に染め上げる炎が立ち上がっているのが見えた。
火を放ったのはルチルだった。彼女は矢の射程迄近づくと、お手製の火焔瓶を矢に括り付け、【天眼】で狙いを見定めつつ建物に火を放つ。火はすぐに燃え広がり、村内は混乱に包まれた。
「わりぃけど、相手は終わりだ!」
防戦一方だったハヤトの突然の反撃を受け、シーフは大きく飛ばされた。そして、その隙をつきハヤトは一気に離脱を試みる。
「頃合いですね」
ハヤトの離脱を見て、アクティオンがビ=ネクに最後の一矢で足止めする。
「ミルディン君、行きましょう」
アクティオンは村が炎を上げるのをじっと見つめていたミルディンに声をかけた。
ミルディンは小さく頷くと、何も言わずアクティオンの後を追う。
●
出火の混乱を利用し合流した冒険者達は、出口である桟橋へと急ぐ。しかし――。
「どこへ行くつもりかしら? 入信希望なら神殿へいらっしゃい」
「待ち伏せ……!」
ララベルが少女達を背に隠し悔し気に呻く。
村の唯一の出口である桟道は、艶めかしい女性と先ほどの老人。そして信者達が道を塞いでいた。
「後ろにも来てます!」
トーラの言う様に、後ろからビ=ネクとシーフが詰めてきている。
「出口はここしかありません。強行突破を」
アクティオンが即断し弓を構えた。
「こいつら抱っこしてか? ちっときついな……」
そんな意見にハヤトの表情が歪む。
「……置いていきましょう」
完全に包囲される中で出されたミルディンの提案に皆が目を剥いた。もちろん、仲間達から抗議の声が上がる。
「心配いりません。彼女たちは大切な巫女達です。しばらくは無事です」
ミルディンは仲間達の非難を一身に受けつつも、前へと出る。
(隙を作ります。合図を待ってください)
そう小声で言い残し、ミルディンは女性の前へと歩み出た。
「アミラ、取引をしましょう。娘達はお返ししますので、そこを通らせていただけませんか?」
そう言って、ミルディンはアミラの前を横切り崖の端に立った。
「貴方が目の前にいるのに、そんな条件を飲むと思っているの?」
「飲んでくれるのなら、私が生きて居てあげますよ」
そう言って、片足を浮かせ谷へ踏み出そうとするミルディン。
「……ちっ、汚い大人になってくれて」
「それはお互い様です」
アミラはしばらく考えた後、信者達に道を開けさせる。
冒険者達はまだ少女達と共に、ゆっくりと桟道へと向かった。
そして、桟道の入り口に差し掛かった所で、信者が少女達を引き取ろうと近寄ってくる。
「今です!」
信者が少女達に手を伸ばしたその時、ミルディンの声と共に、冒険者は少女達の手を奪い取ると一気に桟道へと飛び込む。
「そんな事だろうと思ったわ!」
しかし、アミラはそれを読んでいたのか、すぐさま合図を下した。
老人が少女を2人、いつの間にか回り込んでいたシーフが1人。冒険者に先だって少女を確保する。
冒険者達は何とか残りの少女をかかえると、桟道をひた走る。
殿に残ったミルディンが、輝く武器で『桟道を破壊し落下する』と脅しながらゆっくりと撤退していった。
結果として2人の少女を救う事が出来た。だが果たしてそれは成功と言えるのか。依頼を終えた冒険者の口は重かった――。
マスターコメント
ショートシナリオR難しい 報酬:標準6 / 4〜6人
2021年08月15日 17時29分37秒 公開
相談掲示板
ヒーラー、ミルディンです。依頼も満員となり、このような機会をご用意してくださった真柄MSに感謝を。そちらの可愛らしいお嬢さんもよろし…え?男? …わからないものですね… ひとまず、よろしくお願いいたします。 今回は私の設定に基づき真柄MSが舞台を用意してくださいましたが、私もプロフィールに書いた以上のことは知り得ませんので、OPに書かれていることがすべて、ですね。 私が何かしらの情報的アドバンテージを有している、ということもないので…その点ではお力になれず申し訳ありませんが。 今回の依頼の趣旨は奪還と脱出。MSコメントにある通り、囚われている女性陣の数が不明なため、少し工夫がいるかと存じます。 場所は開けていますが、いくつか建物があるということなので隠れながら進むのと…大穴で私が囮で出ていく、などもありますが。そのまま閉じ込められそうなので要相談で…
シューターのアクティオンです、よろしく。 邪竜崇拝、ですか。まあ敢えては口をはさみませんが…… まずは侵入から、ですね。 唯一の道の桟道を通るか、空から派手にか……いずれにせよ、事前調査がバレているのも含めて、知られずに入るのは骨が折れそうですね。 PL情報では魔獣の足で「すこーし」苦労して「大回り」すれば、山を越えられなくもないようですが……あまり現実的でもない。 謎の教団の話を聞きつけ、「手土産」をもって参入希望……みたいな演技、なども考えましたが、脱出も考えるとうまくありませんか。 まあこれは普通に潜入する場合でも問題になりそうですが。 ……ビッグオウムで空からダイブがいけるなら、脱出時に高いところからビッグオウムに拾ってもらったりできませんかね(「あーばよー、とっつぁーん!」スタイル(
シーフのトーラです。 よろしくお願いします! シーフが3人もいるので潜入には困らなそうですけど、拐われた人を連れての脱出は何か手を考えないとですね。 考えられるのは陽動から別ルートからの脱出でしょうか。裏山は人質を連れての逃走には不向きですし、その認識を逆手にとってロープで引き上げてのビッグオウムで脱出とか。
おーっす! ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 邪竜崇拝ねぇ… 娘達を攫いまくってるって聞くとラスリャマスみてぇによからぬ事をを企んでる気がしてならねぇな。 侵入、捜索、救出、撤退が大まかな流れなんだろうがこっちの偵察がバレてる以上こっそり侵入はだいぶハードルが高ぇんじゃねーか? 行きも帰りもビッグオウムで派手に行くのもいいんじゃねーか? 撤退はトーラの案であえて裏山に逃げて油断させてビッグオウムからのロープ引き上げ作戦は良いと思うぜ!
>こっそり侵入は難しい? それは、まあそうなのですが。 1㎞四方の集落形式ということで派手に強行突破もそれなりの難易度なのですよね。これが目標(攫われた方々の居場所)が分かっているのなら強行突破もありでしょうが……そこを探すところから+帰りは戦えない人を抱えての撤収になる訳ですし。 陽動+隠密救出、という感じで行くなら、ビッグオウムでの派手な登場+同じくビッグオウムは使うものの低空からやや山寄りにひっそり降りる……ぐらいでしょうか。 いくら陽動をかけても、流石に桟道をがら空きにしてくれることはないでしょうし。
情報屋のルチルだ。よろしく。 案は上がっているが娘達の監禁先が不明な以上、陽動から始めても長引いて不利になりそうだ。 一度潜入捜査がバレてるから教団に用がある人間を装っても怪しまれる、というわけで内部の事前調査には人より小さい栗鼠を使おうとは思っている。 村の外からでも食事の持ち運びとかで探れそうかね。その儀式とやらが終わるまで捕虜に死なれてもらっては奴らも困るだろうし。 教団員が村の外に出たら気絶させて衣服を奪うってのも考えたが、うまく二つ名のついてるような手練れに見つからないように事を進められる可能性も低いか。 ……しかし、この村は燃えやすそうだね。 陽動として、ビッグオウムによる強襲以外に別方向で火を点ければそっちの処理に人手を回せそうだな( 本気にしなくてもいいが、そう思っただけだよ。
気付かれているなら陽動と救出に分かれて、陽動は拐われた人がいない所に火を放つとか? ペットで偵察するなら、OPの侵入者は陽動が見つかったことになる? それと、決行の時間はいつにしましょう? 隠密行動は夜の方がやり易いですけど、こちらも暗視などを用意する必要があるので汎用スキルの枠的にも悩ましいですね。
>長引くと不利 >>栗鼠で偵察 お任せできるならあり、ですかね。 ビッグオウムは帰還にも必要になるでしょうし、派手な陽動を行った結果、オウムが撃ち落とされた……とかは危ない。 オウムで村まで行くのではなくあちらに把握されない程度の山の方で下りて、あとは足で近づいてからペットで捜索とか。 >火 場所さえ把握出来たら、陽動としてはありかと。 確証が持てない場合でも、アタリをつけて捜索・確認して救出できれば脱出時に火を放つだけでも「こちらを追うか、火に対処するか」で混乱させられますし。 >決行時間 既に事前調査がバレている=警戒されている、と考えると、夜に動いても警戒が緩んでいるとは考えにくい気もします。 明け方、とか?
ビッグオウムは落とされないようにしたい、そこは同意だ。 逃げ足として必要だし、無駄遣いは今後の信用問題にも関わる。 ただ場所を特定できればビッグオウムで直接強襲ぐらいはやってもいいんじゃないだろうか。 この人数で警備を破るのも大変だ。虚を突いて一気に攻めた方が効果がある。 とりあえず人質の居場所がおおよそでも掴めたら火を点けるという方針は確定かね。 >決行時間 汎用スキルの持ち込み枠を考えると明け方頃に賛成だ。 寝起きで意識がはっきりと覚めてないなら余計に好都合だしね。
遅くなってごめんね、僕はシーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、宜しくね! >決行時間 潜入に暗がりも利用できそうだし、明け方頃でいいんじゃ無いかな? 僕は、探波、捜波・改を持って行って、浚われた女の子達をなるべく早く見つけられる様に集中しようと思うよ。 後、透視も持って行って、建物の外からでも中をのぞける様にして時間の短縮をするね。 もう一つの汎用スキルは、暗視で行くと思う。 見つけた後は、それまでに探波で探った情報を元に、脱出路を考えて逃げるのがいいかな。 陽動とは反対方向で、逃げ道確保できるといいんだけど、幹部には読まれてしまったりするかなぁ?
決行時間は明け方だな、了解したぜ! んで、潜入は結局どーすんだ? 潜入と陽動をわけるってんなら俺は陽動に回るか? ビッグオウムで先に潜入組を降ろしたらそのままオウムに乗って目立つ神殿辺りに飛び乗って引っ掻き回してやるぜ? オウムでの飛び乗りはオウムの籠からロープ垂らしてって感じにして下からの射撃や魔法の射程範囲にオウム自体が入らねぇように工夫するってのはどーだ? 脚にゃ自信があるからな。 みんなが救助対象を探してる間くれぇは敵を引き付けて鬼ごっこしておくぜ!
すみません、背後が仕事に追われていて間が空いてしまいましt…え?出発明日昼?(申し訳なさで埋まる) 時間は明け方、ですね。了解いたしました。 ふむ、ペットでの偵察と潜入、そしてハヤト殿は引きつけを担当される、と。であれば、癒し手がいりましょう。お手伝いしますよ(腕まくり それと火でしたね(たいまつぶんぶん 脱出経路は…探波で臨機応変に構築、という認識でよろしかったでしょうか。
明け方ですね。了解です! ビッグオウムでの潜入ですけど、脱出の時までビッグオウムの存在を隠しておいた方が良くないでしょうか? その方が脱出ルートを絞られませんし、岩山に下ろしてもらって徒歩で潜入して、陽動と救出に分かれる感じで。 わたしは救出の方に回りますね。
>潜入 取り違えが起きてないかの確認なのだが、 既に警戒されてる状態のようだから人を送り込んでの潜入は栗鼠の偵察と外側からの観察を終えた後の方がいいんじゃないだろうかね。 気づかれるリスクが少ない調査から先に済ませた方が余裕があると思うよ。 >全体の流れ それを踏まえた上でのまとめだが、 ビッグオウムを見つかりにくい岩山につける ↓ 外からの観察とペットによる下調べ ↓ ビッグオウムの操縦者を残し徒歩で村に乗り込む ↓ 陽動組が火事で騒ぎを起こしてる間に救出組が娘たちを確保 ↓ 確保後脱出用にビッグオウムを動かし回収 ↓ 逃げる こんな感じでいいだろうか。 アタイはリンク範囲内であれば栗鼠の視界を通して村の様子を見る事ができる。 リンク内で事が済ませられるか不安なら救助側に回って濃煙を使った狼煙が行える。 今の所帰りの足を担当しようと思うが、同じシューターのアクティオンはどうだろうか? 相談に応じて変更はできるよ。
>ビッグオウム 個人的には、トーラくん同様に脱出まで伏せ札にしておきたい派ですね。 とはいえ、唯一の桟道は見張っているでしょうし、敵がそこを通っていないとなればある程度の推察はされるかもですが……それにしても隠しておけば場所を特定されるには時間もかかるでしょうし。 >潜入 潜入タイミングについてはグレイハーツくん同様に、外観・ペットでの大まかな調査が終わってから、という認識です。 >自分の行動 ふむ……捜波、看破、ホークアイとあるので集落には入るつもりでしたから、帰りの足はグレイハーツくんに頼めるならお願いしたい、ですかね。 救出か、陽動かは……自分自身を隠す手段に乏しいので、陽動で。これで近・遠・ヒーラーと陽動のバランスが整うでしょうし。
>全体の流れ ああ、助かります…まとめてくださってありがとうございました。ビッグオウムの件も承知しました。 アクティオンさんも陽動組ということですね。よろしくお願いいたします。 私は暗視と…もうひとつはどうしましょうかね…受信用に誰かが持っている必要と、100m圏内という制限はありますが、テレパスなどでしょうか。 特性は光縛封を持ち込む予定です。脱出の時間稼ぎにでもしましょうか。
あ、はい。偵察をペットでやって貰って拐われた人の場所が分かったら村に入るつもりでした。 スキルは悩むところですけど、壁歩きとタナトスバイト、看破と隠蔽で隠密行動仕様で行きますね。 相手にシーフが居るので、不意討ちの警戒も必要でしょうし。
あ。すみません。 脱出時のビッグオウムへの連絡はどうしましょう? 上に向かって魔矢か何かを撃って、それを合図に来て貰うのはどうでしょう?
>ビッグオウム りょーかいだ! 行きは隠しといて潜入だな! >撤退時 合図もそれこそ狼煙でもいいんじゃねーか? 燃やすもんに何か仕込んどいて色のついた煙が上がるようにしといてそれを合図にってのも良いと思うぜ! スキルの無駄打ちも避けれると思うしよ!
了解。では帰りの足は任せてくれ。 >撤退時 濃煙炸弾の煙幕、それとは別に色付きの煙を上げれるならそれで代用してくれてもいい。 またペットの視界内にいるならそっちに向けて合図を送ってもらっても対応できるはずだ。
ありがとうございます! 事前に打ち合わせをして合図を決めるように行動を出しておきますね。他に使い道もありますし、魔矢も持っていこうと思います。