【学乱】第三演劇部・校外進出!~王立孤児院訪問
おおくまねこ
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シナリオID:1250
オープニング
「……随分と、慣れているのだな」
「『マナズィール』で、兄者に仕込まれました故」
「……マナズィール。リザードマンの風習か。経験深きリザードマンが、若きリザードマンと愛を育む旅にでるという」
「うーん……これは駄目かしら。エフレム様、悪者だったみたいだし……いえ、ならいっそエフレム様のぬくもりを忘れられず、その影を追い続けるレイレイ様、そして傷心の皇子の心の穴を埋めるべく寄り添うウィリアム王子、という展開も……」
「レヴェリア、あんた本当に懲りないのね……」
相も変わらずノートに妄想を書き込んでいるレヴェリアを見て、ラティオは溜息をついた。なお、リザードマンのマナズィールとは竜への転生を目指す彼らの修行の為の文化であり、決して爛れた関係の温床ではないことは強調しておきたい。
問題児が書記を務める第三演劇部であったが、部員の人数は徐々に増えつつあり、いまや三十名以上の大所帯だ。理由は色々あるが、先日、ウィリアム王子の前でも披露したあの劇の影響がやはり大きいようである。順調に成長を続けている第三演劇部では、そろそろ学外で学園の外の人達にも劇を見てもらおうか、という話も出てきていた。最近は学内は色々と物騒でもあるし。とはいえ、貴族派の連中も、怪物揃いの冒険者達と太いパイプがあると言われている第三演劇部に喧嘩を売る度胸はないのか、彼らは特にトラブルに巻き込まれることも無く、平和な日々を過ごしていた。
そんな、ある日のこと。
「こんにちは。今日も熱心に活動していますね。とても良いことです」
部員達がミーティングをしていたら、突然学園長フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアスがやってきた。もちろん、ノックもせずに入ってきたわけではないが、その来訪はあまりに突然だった。部員達の間に緊張が走る中、部長代行から正式に部長にランクアップしたラティオは冷静に応対する。
「ごきげんよう、学園長」
「ごきげんよう、ラティオ様。先日は御苦労様でした。貴方達のお芝居は幾つか首を傾げる場面もありましたが、とても良いお芝居でした。ウィリアム王子も喜んでおいででしたよ」
「ありがとうございます。あ、マリリン、お茶とお菓子用意して」
「いえ、お構いなく。長居はしませんから」
学園長と部長代行と向かい合せに椅子に座った。少し世間話をした後、学園長は本題を切り出した。
「ところで、貴方達は学外での活動を検討していると聞いたのですが」
「はい」
「その件で一つお願いがあります。貴方達は『アルスパーダ王立孤児院』を知っていますか?」
「えっと、この王都の隅っこにある大きな孤児院ですよね。王家が出資してるっていう」
「その通りです。あそこで暮らしているのは、何らかの理由で親の庇護を失った、恵まれない子供達です。どうか、彼らにも貴方達の劇を見せてあげてほしいのです」
「なるほど……孤児院訪問ですか……」
ラティオは唸る。別に孤児に対して偏見などは無いが、単純に子供の相手をするのが大変そうだったからだ。
「設備的な問題もあるでしょうから、簡単なお芝居で構いません。彼らの中にはこのパンクリアース学園の門を叩くことを夢見ている子も多いと聞きます。いかがかしら?」
(なるほど、そういうことか)
ラティオはようやく合点がいった。学園長はかねてより、「人は生まれに依って生きるに非ず」という教育理念を掲げている。選挙直前のこのタイミングでパンクリアース学園の生徒と孤児達を引き合わせようとすることは、その理念を対外的に示す意図もあるのだろう。
「失礼ですが学園長。どちらかというと、ボランティア部とか向けの案件だと思うのですが。何故この子達に?」
横で聞いていた顧問のペレサがそっと手を上げ、学園長に質問した。
「それは、この子達が私の教育理念を体現してくれているからですよ」
学園長は微笑んだ。
第三演劇部は過去に二度、冒険者達と一緒にクラブ活動をしている。その中には、学園では何かと差別されがちな、ハーフビーストやリザードマンなどの異種族も多く混ざっていた。だが、部員が彼らに対し、何らかの不当な差別をしたという話は一度も聞かなかった。先日行われた演劇でも、冒険者達の希望通りの役割が割り振られていたと聞いている。
それは、「人は生まれに依って生きるに非ず」というフォルトゥナの理念が叶った、一つの小世界でもあるのだ。そんな彼らなら、孤児達に対しても驕らず、同じ目線で心を通わせることができるのではないか。フォルトゥナはそう考えていた。
「部長の一存だけでは決められないでしょうから」と、その日学園長は返事を聞かずに去って行った。そして翌日。学園長の元にラティオが答えを告げにやってきた。
「孤児院訪問の件、お受けしてもいいですが、一つだけ条件があります」
「……何かしら」
学園長の表情が硬くなる。追加の部費をよこせ、とかだったら職権乱用になるので流石に呑めないからだ。しかし、ラティオが続けて発した言葉は意外なものだった。
「また冒険者の方々も呼びたいんですが、構いませんか?」
「ええ、もちろん」
学園長は穏やかに微笑んだ。
解説
マスターより
リプレイ
今回の活動場所は王立孤児院だが、冒険者達は一旦パンクリアース学園の第三演劇部に集合することとなった。
「今度は学外の活動なのですね。及ばずながらお手伝いさせて下さい」
久々に第三演劇部の部室へとやってきたスィーリーンは微笑んだ。
「(名誉)大道具係のスィーリーンさん! 来てくれたんですね!」
わあっと演劇部員達から歓声が上がる。スィーリーンが第三演劇部の依頼を引き受けるのはこれで三度目。彼女は冒険者達の中でも、特に彼らと縁深い冒険者の一人だ。本人は舞台には上がらなかったが、前回スィーリーンが作ってくれた精巧な衣装や芝居道具の数々は、プロの劇団も羨む素晴らしい出来栄えで、観客からも好評だった。
ラティオ部長は早速、スィーリーンに今回の芝居の計画について説明する。
「今回は孤児院で、子供達にお芝居を見せようと思っているんです。舞台は無いみたいなんで、セットはシンプルなやつになりそうですけど」
「なるほど。でも相手が子供だとはいえ、道具があまり安っぽいと子供達もがっかりしてしまいそうですね。私もできる限り頑張ってみます」
「おお……頼もしい……」
スーパー大道具係スィーリーンの頼もしい言葉に、部員達はざわめく。
「ところで台本はこちらですか?」
スィーリーンはふと、机の上に置いてあった白無地の薄い本を手に取った。
「「あっ」」
部員達はみな息を呑んだ。なぜならスィーリーンが手に取ったのは台本などではなく、レヴェリアが書いた亡国の皇子と離反した元護衛騎士の種族を超えた禁断の愛のカップリング妄想小説だったからである。ちなみにこの物語はフィクションであり、実在のレイウェスト、エフレムとは一切関係はありません。
●
「強くなられましたね、殿下……さあ、拙を殺しなさい」
「フフフ、そうはいかぬ。裏切り者には折檻が必要だ」
「な、何をするつもりですか、殿下!」
「さあ、裏切り者の穢れた体を私のエーテルで浄化してやろう。私の虹宝剣を受け止めてくれ!」
「ああっ……!」
●
なんというか、その物語はスィーリーンの理解を超えていた。率直に言って、前見たものより数段酷くなっている。
「すみません! こんな見苦しいものお見せして!」
ラティオは硬直しているスィーリーンの手から大慌てで薄い本をむしり取った。
「ちょっとレヴェリア! なんでこんなもん机の上に置いてんのよ! 片付けときなさいよ!」
「えっ、孤児院に持って行こうと思ったのに! 一緒に読み聞かせを」
「正気か!? こんなもん、子供に見せられるわけないでしょー!」
レヴェリアは正座させられ、部長にガミガミと説教をされていた。その様子を見て、我に返ったスィーリーンは一言。
「言うまでもないとは思いますけれど、レヴェリア様の案は駄目ですからね?」
口元は笑っていたが、目は全く笑っていなかった。
●
「師匠と一緒に子ども達と遊びに来たよー!」
「えと、お弟子さんと一緒、来た。……でもボク、人見知り……どうしよ……」
パンクリアース学園へとやってきた占い師の師弟ハーヴィとユズ。スィーリーンと同じく、集合時間よりも早めにやってきたグループである。二人とも演劇については門外漢なので、部員達と綿密に打ち合わせをする必要があったのだ。
「んん、何しよっかな。劇に参加しようにも僕達、演技の腕前は素人レベルだから……」
「劇なんて、無理……」
ハーヴィの言葉にユズはぷるぷると首を横に振った。演技云々以前に人見知りのユズには、演劇はハードルが高い。普段はこうでも、占い師としての仕事の時には、人が変わったように饒舌になるのだが。ちなみに人見知りなユズの方が師匠である。
「そうだ。師匠、ならハンドパペットを使った人形劇はどうかな? 演劇部のお芝居の前座みたいな感じで、小さい子達にも興味を持って貰えるような、ちょっとした小芝居をしてみたらどうかなって」
「……人形劇? それならボク、顔出さなくても、何とかなる、かも」
「よし、じゃあそれで行こう! ハンドパペット作りなら任せて!」
師匠の了承を得たハーヴィは、早速ハンドパペットを作り始めた。
「出来たよ師匠!」
「え、もう? わあ、すごい。まるで生きてるみたい」
ハーヴィが作り上げたハンドパペット達はどれもお店のものと遜色ない程精巧なものだった。とても僅か30分ほどで作り上げたものとは思えない出来だ。ハーヴィの超人的な裁縫技術の本領発揮である。
「よし、早速演劇部の人達と打ち合わせをしよう!」
●王立孤児院訪問
「ようこそお越しいただきました。院長のエリカと申します。本日はよろしくお願いいたします」
院長は来訪者たちにぺこりと頭を下げた。
「これ、うちで扱ってるお菓子です。子供達に配ってあげて下さいませ」
「私もチョコレートを用意した。イベントでもらったのだが、処分に困っていてな。あとあまり質は良くないが、宝石を持参した。布代なんかの足しにしてくれ」
ルーウィン・ビナーやマリリン・クリニエーラなど、お土産を持参した者は、院長に寄付金やらお菓子やらの包みを渡した。
「まあ、こんなにたくさん……ありがとうございます」
深々と院長は頭を下げた。王立孤児院というだけあり、院長も上品なおば様と言った雰囲気の人だ。冒険者達との挨拶を終えた後、院長は孤児達を集め、冒険者と演劇部員達を紹介した。
「皆さん、今日はパンクリアース学園のお兄さんお姉さんと、冒険者の方々が来てくれましたよ! みなさんの為に、劇をしたり、勉強を教えたりして下さるそうです!」
わあああっと子供達の歓声が上がる。忙しい一日が始まろうとしていた。
●三つの約束
第一陣を務めるのはハーヴィとユズの師弟コンビだ。チビ共の視線が集まる中、二人は特設台の裏にサッと隠れ、ハンドパペットの人形に下から袖を通し、口をパカパカさせた。
「王立孤児院の子供たちのみんな! こんにちは! 劇を見る前に、僕達との三つの約束をしてほしい!」
台詞は全てハーヴィがしゃべっている。ユズはというと、いつものフードの上に、更に黒い布を被ってしっかり隠れている。
「おーい」
突然声をかけられ、ユズはぎょっとした。席から離れた悪戯ボウズがいつの間にか舞台裏に忍び寄っていたのだ。
(……話しかけないで、ボクに。恥ずかしい……)
「?」
ユズのコントロールしていたパペットの動きがぴたりと止まり、子供達は怪訝そうに見ていた。
(師匠がピンチだ、どうしよう!)
二人が焦っていると、事態に気付いた演劇部の顧問のペレサがそっと子供を追い返してくれた。二人は胸を撫でおろし、再び時間が動き始めた。
「一つ! 芝居の最中は立ち上がったり、騒いだりしないように! 他の子や演者の迷惑になるからね!」
「二つ! 舞台に近づくのは厳禁! 今座っている場所から離れないようにしてね!」
「三つ! 終わった時は演劇部の人達に大きな拍手をしよう! みんなわかったかな?」
「「はーい!」」
「うん、いい返事だ!」
●
ハーヴィとユズの小芝居が終わった後はいよいよ本番だ。演劇部員達は慣れている『ヴァイセントラフの戦い』の台本を出張用に調整したものを公演した。
「スウィートォオオオ! 今のはフレイムゲイズではありません、生活魔法です!」
「てやー! ヤコブ、覚悟ぉー!」
リサ・ベイカーは微妙に棒読みで叫びながら、祭刀(本物ではなくスィーリーン製のレプリカ)をヤコブ(演じているのはレヴェリア)へと振りかぶった。リサの配役はヴァイセントラフ砦の兵士の一人である。芝居は慣れていないので脇役を、とお願いしたところ、台詞が少なめのチョイ役が割り振られたのだ。とはいえ、剣の腕前は本物なので、子供達にはリサのバトルシーンは好評であった。
「もっと臨場感を!」
キオルティスはBGMやSEを担当している。第三演劇部が演じる「ヴァイセントラフ砦の戦い・出張版」の台本を読み込み、即興曲を作成。場面の雰囲気に合わせた音楽を奏で、雰囲気を盛り上げる、地味ながらも重要な役割である。ヤコブの魔法攻撃に焔が燃える音を付けたり、剣戟の瞬間に激突音を出したりと、何気に仕事量は多い。
「喰らいなさいヤコブ! たああああっ!」
「ぐあああ! フフフ、今日のところは、これで! 勘弁してあげましょう!」
演劇部員達にボコられたヤコブは捨て台詞と共に去った。最後に演劇部員と友情出演した冒険者達が整列して一礼すると、子供達は盛大な拍手を送った。
●
芝居が終わった後は、一旦自由行動の時間となり、冒険者達は個別に孤児達と交流を始めた。全員授恵者なのは孤児達にも周知されていたので、すぐに冒険者達の周りには孤児達が集まってきた。
「……え、人形? そう、手作り。ボク達、作った。……欲しいの? えと、だったら作り方、教える」
人見知りのユズの周囲にも子供は集まってきた。ユズはしどろもどろになりながらも、子供達に請われて人形作りをレクチャーしている。ハーヴィはそんな師匠を、温かい目で見守っていた。
「裁縫、苦手なら……手袋に、目とかつけるだけ、でも、それっぽく、なる。簡単。見本、一つ、置いて帰る、から……後で、やってみて」
●
「ハーフビーストの貴族、とか割と中途半端というか面倒くさい立ち位置、ではあるが大丈夫だろうか」
ルーウィンは耳と尻尾をぴこぴこさせながら、お勉強部屋の教壇に立っていた。とある貴族を後見人に持つルーウィンは、ハーフビーストながら貴族としての籍を持つ者珍しい存在である。
「ま、そんなことはどうでもいいか」
パンクリアース学園の生徒からの依頼だが、今日は冒険者としての仕事だ。自分の身分が問題になることはないだろう。第三演劇部の部員達は庶民派だと聞いているし、孤児達も、首から名札を下げてるわけでもなし、見ただけで自分が貴族だと看破するような真似はできまい。などと思っていたのだが――。
「姉ちゃん、いい眼鏡だな! さてはあんたも貴族だな!?」
「うっ」
予想に反し、ルーウィンの身分は一発で看破されてしまった。実のところ、ロスガリア大陸における『眼鏡』は高級品である。必然的に、眼鏡を付けることができる人間はかなりの金持ちか、その縁者であることも多いのだ。
「眼鏡だ、眼鏡だ! 珍しい!」
「猫耳と尻尾が生えてる! かわいい!」
「ちっこい! 年は10才ぐらい?」
わらわらと群がってくる子供達にあっという間に包囲され、ルーウィンは困惑した。ちなみにルーウィンは22才なのだが、身長が138cmとかなり小柄なこともあり、危うく子供達に眼鏡を奪われそうになっていた。一瞬スタティックフィールドかアーケインテンペストを使おうかと思ったが、子供相手に魔法を撃つのも気が引け、結局撃たなかった。
(子供の相手はやりにくいな……)
思いのほか元気な孤児達に圧倒されそうになったルーウィンだが、猫のような素早さを発揮し、孤児達の包囲網から脱出した。常人離れした身のこなしに唖然とする子供達に誇示するように杖を掲げ、魔力を籠めた。
「私はここの新入りではない。冒険者だ」
杖をぴかぴか光らせながら厳かに告げると、子供達はたちまち静かになった。ルーウィンは続ける。
「クラスはキャスター。専門は精霊術だが、興味のある者はいるか?」
「魔法使いだ! 魔法使いだ!」
「せいれいじゅつって何! 習ったら私にも使える!?」
「イエスでもあり、ノーでもある。精霊とは積み上げられた概念であり精霊術とは世界との契約に基づく法則である。授恵者でない者でも、精霊術について正しく学び、触媒を用いれば精霊術……すなわち魔法を使うことができる」
「そうだったのか……!」
(意外だ。彼らのような幼い者達が学問に興味を示すとは)
ルーウィンは目を丸くした。みんな集中して彼女の話を聞いてくれている。パンクリアース学園の貴族のボンボンの中には、授業中に居眠りをしているような不届き者もいるというのに。
「どうやら、精霊術に興味のある者もいるようなので、今日は精霊術の基礎について教授しよう」
「「はい、先生!」」
●
「私達はお昼ご飯を作りましょう!」
「「はーい!」」
リサは料理好きの子供達(8割女の子だった)と共に、ランチを作る準備をしていた。メニューはブラウンシチューライス。それほど難しくない料理なので、大量生産には適している。ちなみにお肉は少しだけ自分で持参した。
「みんなは野菜の皮むきとカットをお願いね!」
「はい!」
リサはルー作りを担当している。彼女のルーは家出中に自己開発した秘伝の味だ。こればかりは子供達には任せられない。
「バター、小麦粉、ソース他調味料を混ぜ合わせ……煮込んだ野菜に投入!」
そしてお鍋をかきまぜること数分。
「完成!」
リサは子供達とハイタッチし、ブラウンシチューの完成を喜び合った。
●
ヴィルヘルミナは第三演劇部顧問のペレサ、そして獣人のコハクと共にやんちゃな男の子達の相手をしていた。今回はペットの迷宮カカポ(フクロウオウムの一種)も一緒である。
「この鳥、なんて生き物?」
「迷宮カカポです。人懐っこいですよ。肩に乗せてみますか?」
「うん! ……重っ! でも可愛い!」
「次、ボクもボクも!」
迷宮カカポを肩に乗せ、きゃっときゃっと喜ぶ子供達。たちまち迷宮カカポは子供達のアイドルになった。
「私もいいかしら? ヴェルヘルミナさん」
「ええ、もちろんです、ペレサ先生」
ちゃっかり順番待ちの列に並ぶ顧問教師。ヴェルヘルミナはパンクリアース学園の学籍を持っているので、ちゃんとペレサのことは先生呼びをしていた。
「ああ、もふもふ……」
うっとりと迷宮カカポをすりすりするペレサ。彼女が猫好きなのは第三演劇部関係者の中では周知の事実だったが、鳥類もアリらしい。
「がおー」
カカポと戯れる子供達のすぐ近くでは、コハクがふさふさの尻尾を揺らし、子供達を追いかけていた。鬼ごっこである。表情筋を硬直させたまま、棒読みの雄叫びを上げて子供をおいかけ回す姿はなかなかシュールだ。ちなみにシーフであるコハクが本気を出すと子供どころか陸上の選手でも追い付けない為、かなり手は抜いているが、それでもコハクが圧勝してしまった。
「くっ、この姉ちゃん速いぞ!」
「次はかくれんぼで勝負だ!」
「いいよ」
数分後、コハクは巧妙に隠れていた子供達をあっさり全員見つけ出した。シーフは隠れているものを見つけ出すのも得意なのであった。
「皆さん、お昼ごはんの用意ができましたよー。メニューはブラウンシチューです!」
そうこうしていると、エプロン姿のリサが子供達を呼びに来た。
「ブラウンシチュー……」
コハクは噛みしめるように呟くと、一陣の風となって子供達より早く、シチューの匂いのする方へと駆けて行った。
●
(みんな、楽しそうだな……)
孤児達がそれぞれ盛り上がっている中、ぽつんと離れたところから一人で遠巻きに見ている少年がいた。名はミオレ。ほんの数週間前に邪悪な吸血鬼に故郷の村ごと家族を喪った少年だ。
(俺も行ってみようかな……いや、駄目だ。俺にはそんな資格なんて……)
ミオレはふるふると、首を横に振った。
「院長、私達を遠巻きに見ている彼は?」
ミオレの視線に気付いたヴィルヘルミナは院長に尋ねた。
「ああ、ミオレですか」
「彼は吸血鬼に襲われた村の生き残りなのですが……なかなか、他の子供達と打ち解けようとしないのです。決して反抗的なわけではないのですが……どうも、自分だけが生き残ったことに罪悪感を覚えているようです。君のせいではないと、何度も言い聞かせているのですが」
院長は顔を曇らせた。ヴィルヘルミナは少し考えると、感想を口にした。
「自分だけが生き残る……ですか、残酷な言い方ですが良くも悪くも偶然だったかと」
「ええ、その通りです。彼に落ち度など何一つありませんし、村の人達も同様でしょう」
(己を責めるのはそうでもしないと心の均衡を保てないのでしょう。死人に口はなく、あるとすれば当事者以外。外野は無責任な方も少なくないですし、下手に追い詰められなければいいのですが……)
ヴィルヘルミナが少年の未来を憂いていると、トコトコと彼に近づいて行く冒険者の姿が見えた。エフィルミアだ。
「ねえ、一緒に遊ばない?」
がばちょ、とミオレの背中に覆いかぶさるエフィルミア。手を引いてミオレを遊んでいる集団のところまで引っ張って行こうとするが。
「お、俺はいいよ!」
ミオレはその手を振り払い、ぴゅーっと逃げて行ってしまった。
「ああ、逃げちゃった……余計なお世話だったかな?」
エフィルミアはしょんぼりした。
「そんなことはないと思うよ、エフィルミア。彼、ずっと羨ましそうな目で私達のことを見ていたもの」
シルヴィア・A・カペルはエフィルミアの肩をポンと叩いた。
……。
ミオレは再び人気のないところに戻ってきた。だが、その視界には遊んでいる子供達がしっかり映っている。本当は彼も一緒に遊びたいのだろう。
「ミオレさん」
その時、また後ろからミオレに声がかかった。振り向くと、見覚えのある冒険者が立っていた。ミオレの村にいたアンデッドを退治し、村人達のお墓を作ってくれた青年だ。
「あんた、あの時の……」
「久しぶりだね」
キオルティスは微笑んだ。
「ミオレさん、みんなと遊ぶのはつまらない?」
「ううん、そうじゃない」
ミオレは首を横に振る。
「でも、駄目なんだ。楽しくないんじゃなくて、楽しいことをしていると、まるで、いけないことをしているような気分になるんだ……」
「ミオレさん、君は一人じゃないよ」
キオルティスはそういって、ミオレの隣に座った。そのままふわりと包むように抱き締め、優しい音楽を奏でる。
「あの時に俺が埋めたユーカリの花言葉って知ってるかい? 「『新生』『再生』『思い出』なんだ」
「……」
「ミオレさんの心の中に皆はちゃんと居るよ。いつまでも……忘れない限り、生きているんだ。だから、ミオレさんの今の顔……きっと心配してるんじゃないかな」
「みんなが俺を……」
「ミオレさん。君が今ここにいることを妬んだり、責めたりする人はきっと一人もいないよ。だから、君の元気な姿を見せてあげてほしいんだ」
「ありがとう。キオルティスさん。俺、がんばってみるよ」
●
「そういえば、イーヤさんどこ行ったか知らない? マリリン」
「あの方なら、レティシア先輩(注:厳密にはOB)と一緒に子供達に勉強を教えていましたわ」
ラティオが尋ねると、マリリンが答えた。
「え、マジで? レティシア先輩は分かるけど、イーヤさんが? 保健体育(実技)とかじゃなくて?」
「ええ、ごくまっとうで丁寧な、読み書きと算術の指導でしたわ」
「うーん、意外……あの人、子供の頃苦労したのかな……」
普段色仕掛けなどのお色気担当を務めることが多いイーヤ・レプリスだが、今回は極めて真面目に、孤児達に勉強を教えていた。
「世界へ出て行くときに少しでも何かしらの知識があれば違う……かもしれないから」
イーヤ自身も、孤児院の生まれである。王都の孤児院とは比べるべくもなく貧しい孤児院で育ち、授恵者として覚醒する前のイーヤは、ろくに初等教育を受ける機会などあるわけもなく、娼婦として生計を立てるしかなかった。
(私も此処じゃないけど孤児院の出だし、世界はロクでも無い事ばかりなのは経験済み。それでも体を磨いて売って今まで生きてきたわけだし、意外とどうにでもなるのも知ってる。けれど少しでも他の連中に食い物にされる子が無くなるなら、やってみる価値があると思うのよ)
イーヤがここで孤児達に読み書きや算術を教えるのは、富める者はますます豊かになり、貧しい生まれの者は貧しいまま死んでいくという、世界の法則へのささやかな叛逆でもある。文字の読み書きができるか、基礎的な計算ができるか否かは、確実に職業選択の幅に影響を与えるのだから。
「リンゴが12個ありました。3つ食べました。さあ、残りは幾つでしょう?」
「えーと、指の数が足りないから分かんない」
レティシア・レインフィールが尋ねると、孤児の男の子は唇を尖らせた。
「では、絵をかいてみましょうか。12個から3つ減らすと……」
レティシアは地面に木の枝でガリガリと絵を描く。ノートや羽ペンは高価なので、子供達でも自習ができるようにという配慮だ。
「あ、わかった! 9個だ!」
「よくできましたね。さあ、次は自分の名前を書いてみましょうか」
「それならボクにもできるよ!」
(みんな、勉強熱心ですね。教科書を置いて行って今後も自力で学習出来るようにしてあげましょう。願わくばパンクリアース学園も、彼らのような学ぶ意志がある者全てに門戸を開けるようになってほしいものですね……)
レティシアは熱心に文字を書く子供達を見て、目を細めるのであった。
●
孤児院の中でも特に年少の子達は、シルヴィアとエフィルミアの所に集まっていた。
「さあ、おいで。うさぎさんのダンスだよ」
孤児院の庭に、シルヴィアが演奏するフィドルの楽しく高らかな音色が響く。
「ほーら皆うさぎさんだよ! ぴょん跳ねてみよう!」
シルヴィアが奏でる旋律に合わせ、エフィルミアは両手を頭の上に当ててうさぎのポーズを取り、ぴょんぴょぴょん! と飛び跳ねた。
エフィルミアの振り付けに合わせ、シルヴィアは小さな子供達を誘導しながら、音楽に合わせゆらゆらと体を揺らした。
「よちよち歩きの小さい子は手をつないで転ばないように、もっと小さい子は抱っこして、ぴょん!」
エフィルミアは年少の子供達が転ばないように、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「ああ、素晴らしい演奏ね……子供達ったら。とっても楽しそう。冒険者は殺伐とした仕事というイメージがありましたが……こんな優しいことにも神の祝福は使えるのですね」
院長は聞こえてくる穏やかなシルヴィアの演奏と子供達の笑い声を聞きながら、執務室でしみじみと頷いていた。
●エピローグ
「ありがとうございましたー!」
満面の笑みを浮かべる孤児と演劇部員達に見送られ、冒険者達は帰路についた。だが、一部の冒険者達にはまだ仕事が残っていた。そう、ある演劇部員の学園派生徒会メンバーへのスカウトである。
「私が、生徒会の会計にですか?」
シルヴィアの言葉にマリリンは目を丸くした。
「うん、どうかな? 君は金銭感覚がしっかりしている。生徒会の財布を握って欲しい」
(お金に厳しい人は大事だ。彼女の将来にとっても有益な経験だと思う)
シルヴィアが部員達にマリリンの仕事ぶりを聞いてみたところ、みんな口を揃えて「うちの会計はケチだ」と言っていた。ケチとは聞こえは悪いが、大金持ちの子女が大半を占めるパンクリアースでは、倹約家であるということはレアな才能とも言える。その一方で、彼女が今回孤児院に持ち込んでいたお菓子は部費ではなく、彼女のお小遣いで買ったものらしい。お金に関して、ちゃんと公私の区別も付けている。
「部費の帳簿も見せてもらいましたが、クリーンな帳簿でした! 文字も綺麗でしたし! 簿記の勉強もされているのではないかと見ました!」
庶務に立候補しているリサもマリリンの会計能力には太鼓判を押した。リサの実家もそこそこ高名な商家なので、帳簿の出来不出来はリサには分かるのだ。そもそも、何か帳簿にやましいことがあれば第三者である冒険者に帳簿は見せられないだろう。見せてくれと頼まれてスッと帳簿が出てくること自体が、部費が公正に使用されている証拠である(よくこの申請通ったな、と思われるような散財もなくはないが、それは許可を出した学園サイドの問題であって会計に咎はないだろう)。
「マリリンさんも商家のご令嬢ですし、庶民代表として一緒に活動できたら心強いです!」
リサはにこりと笑った。彼女の傍らでは、同志であるレティシアとエフィルミアも微笑んでいる。
結局、その日はマリリンは回答を保留したが、週明けにマリリンから会計に立候補すると正式に返答があった。こうして、学園派は無事会計候補のスカウトに成功したのであった。
もうすぐ、パンクリアース学園の選挙が始まる。果たして学園の生徒達はどのような未来を選ぶのだろうか?
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:標準12 / 4〜25人
2021年08月17日 23時50分50秒 公開
相談掲示板
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 折角の学園派支援依頼だし、出発までに公約が纏まったら選挙に立候補しようと思っているよ。他の依頼を見る限り、締め切り間近みたいだしね。 当日は子供達に歌唱と楽器の演奏を楽しんで貰えたらと思っている。絵本の読み聞かせ……歌い聞かせ? まだふんわりとしているから変更も可能だ。何か手伝えることがあれば遠慮なく言ってね。
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 シルヴィアさんが遂に立候補!キャー凄い!応援してますねっ。 まだどんな事をするかは考え中なのですけど、体を動かす遊びがいいかなーっとふわっと考えてます!
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 演劇の準備をお手伝いするつもりです。 学外での活動ですので、荷物を運んだり 現場で組み立てたりといった作業もあるでしょうから。
キオルティスと言うよ。キオでもルティスでもお気軽に。 初めましての方もそうで無い方も宜しくね! …と、シルヴィさんは選挙に立候補かぁ。 少しだけでも貴女の人柄に触れた身としては適任だと思う。 月並みだけれど、応援しているよ。 さて、俺は演劇にナマ音を入れてみようかな…と考えてる。 音楽出来る人が少なければ、BGMでなくSEでも良いかな。 どちらにせよ、より演劇が深いモノになればいいな、とね。 あとは…個人的に先日会ったミオレさんとお話出来れば、と。
どうも、前回幾つか首を傾げる場面のワンシーンよ。 (訳:ヒーラーのイーヤよ、よろしく) お芝居には参加せず、孤児院のお手伝いか子供たちと遊んでるつもりよ。
エフィルミアもキオも、応援してくれてありがとう。二人の言葉とても嬉しかったよ。当選出来るよう全力で頑張るね。 もうすぐ出発か。皆、現地ではよろしく頼むよ。