【暗都】幸せな子供
九蓮宝燈
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シナリオID:1108
オープニング
エラトゥーン都市同盟には表と裏の顔がある。
表の顔が何であるかは、多くの者が口を揃えてこう答えるだろう。活気満ちる国、商人の国、職人の国……。
一方裏の顔については人によって様々だ。ある者は暴力だと言い、ある者は陰謀だと言う。差別、狂気、搾取、悪徳――それらの全てだと言う者もいる。
嘗てこの国は平等を認め、多様な成功と発展を生んだ。しかしそれはヒトの暗黒面も多様化する事を意味していたのだ。
だからこそ“アントマン”は生まれたのだろう。
アントマン。エラトゥーンの裏社会に時折現れては、凄惨な“悪”を撒き散らして消えてゆく裏稼業専門の集団。全員が黒兎のハーフビーストで、その頭部から伸びる黒い耳が病的に痩せ細り、中ほどから折れ曲がっているさまが蟻の触覚に喩えられた事からその名が付いた……だの、与えられた仕事を忠実に遂行する姿から名付けられただのと言われている。
彼らの一人が仕事につけば死体がひと山積みあがる。二人ならばふた山。三人ならば、数える事さえ億劫だろう。
今、そんなアントマンの全員がリブラネスタに集結し、各々の仕事に着手している。
冒険者達の調べによってそれが明らかになったと同時に、幾つかの事件がこの国を騒がせ始めた。
悪辣な魔法薬の流行。
奴隷市場の活性。
無差別連続バラバラ殺人。
コランダム商会の調査に当たった者達の変死。
彼らは、コランダム商会の頭でありリブラネスタ陥落を狙うダグザ・コランダムの配下である事が確実視されている。
事件の先にアントマンがおり、その背後にダグザがいる。コランダム商会が混乱に乗じて影響力を拡大している情勢を鑑みれば、早急に解決せねばリブラネスタに更なる混沌の闇が落ちる事は間違いない。
だが同時に、これから始める戦いに秘められた困難も直視するべきだ。
冒険者達よ心せよ。この戦いはヒトの悪性との戦いなのだ――。
●
食べ物の味なんて覚えていない。
私の口に広がるのは、殴られて切れた頬の味。
靴底にジャリジャリくっついた砂粒の味。
あるいは、奉仕するときの――。
私は不幸の星の下に生まれた。
自分で言うのもなんだけど、小さい頃から可愛かった。
だから、『価値を上げるため』に、いろんなことをされた。
いろんな技術を仕込まれたり。
忌々しい言葉を言わされたり。
お薬を使ったり。
お腹を割かれて、何か大事なものを取り除かれたり――。
私は自分の顔も体も嫌い。
何度焼いたかわからないわ。
だけどそのたび治された。
とても痛くて苦しかったのに、全部全部、無駄だった。
買われて、調教からは解放されたけど、新しい地獄に放り込まれただけだったわ。
私の仕事は調教の実践だけではなかった。
もっともっと許されないような酷いこと。
だから――みんな私と同じになればいいんだわ。
だって、ずるいもの。
愛されて育った、他人を疑うことを知らない子供も。
愛する人と結ばれて宝物を授かった母親も。
みんなみんなずるい。どうして私だけ、彼らのようになれなかったの?
私だって――幸せになりたかったのに。
●
カンパリ市の冒険者ギルド職員アルミレア・A・アンダーソンとブリジット・L・イングリス(愛称B.L.)は、リブラネスタに観光に来ていた。
「はぁ〜これがウィルが吸ったのと同じ空気ね」
鼻息粗いB.L.。彼女はドゥジン教徒だ。
「今夜は踊る子熊亭に本人降臨するかしら」
「無理でしょ。帝国がなんやかんやで忙しい時期に、他国の要人が遊んでるわけないわよ」
B.L.の推しは『放浪王子』ウィリアム。来訪の目的は、リブラネスタにいる生ウィリアムを一目見るため。アルミレアはその付き添いであった。
「エマ! どこなの?」
その時、二人のギルド職員の耳に女性の声が。
人々の困りごとを解決する仕事をしている二人は、オフではあるけれどつい気になってしまう。
「迷子ですか?」
B.L.が女性に声をかけた。
「は、はい……さっきまでいたはずなのに」
女性は肉球のある手を胸の前でぎゅっと握る。
「まだ飲みには早い時間だし、探すの手伝わない?」
「そうよね。いかにウィルでもさすがにこの時間から飲んでるはずないわよね」
二人は迷子探しを手伝うことにした。
探し始めて一時間ほど経過。迷子は一向に見つからない。
町中ではアルミレアの捜波も役に立たない。
「お母さん。自警団か冒険者ギルドに依頼したほうがいいかもしれないわ」
「私たち他の町のギルド職員なんです。ギルドなら勝手がわかります。お力になれるかと」
いたずらに時間を消費することを恐れた二人は女性にギルドに依頼することを勧めた。
リブラネスタの冒険者ギルド。
「うちの子が消えたんです!」
「お願い! 子供を探して!」
三人がギルドにつくと、他にも迷子の依頼を持ち込んでいる人々がいた。
「迷子ばっかり同時に? どういうことなの?」
驚いて受付をキョロキョロするアルミレア。
迷子を訴えているのは、今連れてきた女性を含め三人。
頭の上の耳。スカートの下の尻尾。
「……迷子の保護者は全員ハーフビーストなの?」
B.L.は違和感を覚えた。都市同盟はヒューマン、ハーフリング、ハーフビーストの三種族の協調によって開拓された地域であるため、今日でもどの種族ともフラットな関係にある。
だがマジョリティはヒューマンである。なんとなく偏りがあるような……?
「なんか変よね……おかしなことが起きてないといいけど」
アルミレアはリブラネスタの受付嬢に身分を明かし、依頼申込書の記入の手伝いを買って出る。
アルミレアの耳に怒鳴り声が聞こえた。
別の窓口にクレームが来ているようだ。
「すみません……最近変な噂があるみたいで。とうとう直接来る人が出ちゃったかぁ……」
リブラネスタの受付嬢が他に聞こえないように耳打ちする。
アルミレアが詳しく聞き返すと、「冒険者ギルドは何かあってから依頼を出し、そこでやっと初めて動く」というような、冒険者ギルドのビジネスモデルを批判する声が上がっているのだそうだ。
幸い、そのような批判が起こっているのは同盟内のごく一部。批判が聞こえる地域であっても、ギルドの業務に支障が出たり冒険者が動きにくくなったりするほどの大きな問題にはなっていない。
しかしエスト・ポーラでは、もともとリブラネスタに対して対抗心があったためか、他の地域より若干批判を耳にする機会が多いらしい。
今苦情を言っているのも、もしかしたらエスト・ポーラの人かもしれない……と、受付嬢は勘ぐっているようだ。
「なるほどねぇ……だからといってどうすることもできないけど。今はギルドへの風当たりが強い時期なんだって思っておくわ」
アルミレアはそのような噂は初耳だった。職場であるカンパリ支部はリブラネスタからそう遠くはない。だったら所詮その程度。この受付嬢は噂好きだから詳しかっただけで、たいした噂ではないのだろう……と考えた。
冒険者たちは有能だ。今まで彼らはアルミレアの期待を裏切らない仕事をしてきた。
きっと今回も、いなくなった子たちをママのところに帰してくれる。そう信じて疑わなかった。
かくして同時多発的な迷子の捜索依頼が発注されるはこびとなった。
解説
マスターより
リプレイ
フリーダ=ブロムヴィスト、ドローミ、ルベア・ベルニは迷子の保護者に聞き込みを行っていた。
子供は間違いなく保護者たちそれぞれの実子であり、裏などはなさそう。
ドローミが的確端的にまとめた子供たちの特徴のメモ書きを、行き先別の担当に分けて配る。
「子供たちがいなくなった時間は?」
ドローミが質問したところ、発生順は商店街・大通り・公園の順。一、二時間ほどの間隔がある。
ララノアがこてり、と首をかしげる。
「同時に、迷子さん? そのようなこと……ありましかね?」
保護者をも疑っているルベアは動揺を誘うために突っ込んだ質問を試す。
感情を揺さぶれば、彼女の洞察力が何かをすくい取ることができるかもしれない。
「なにか心当たりはないの?」
保護者たちの中に言葉に詰まる者がいた。ルベアはすかさず彼女を問い詰めた。
「い……一瞬だけ、子供から目を離した覚えが……!」
動揺の理由は自身の落ち度に思い当たったから。
「新作の口紅を薦められて、数分ほど店員さんと鏡ばかり見ていたんです。その間に……」
彼女の告白に他の保護者も「そういえば」と口を割る。
髪飾りを試着した者、アイシャドウを試した者。
いずれも、鏡を見るように仕向けられた……とも考えられる。
「よもや人為的な何かがあるのか?」
サマエラ=フォリウムはつぶやく。
サマエラはアルミレアとB.L.にも聞き取りをした。
彼女たちは今日は見慣れたギルドの制服ではなく旅行者風の私服である。
「散々探したのに全然見つからなかったわ。空き店舗やゴミ捨て場に捜波を使ったり、探波でぱっと見てわからないところに空間がないかを調べたりしたけど」
彼女たちが捜索した場所は大通り。子供だけで遊ぶ場所ではないため保護者同伴ではない子供は目立つはず。
はぐれた保護者を探すそぶりのある子供はおろか、子供だけで行動している個人やグループもなかったという。
それが、大通りから移動してしまったことを意味するとしたら?
「誘拐だとしたらつじつまが合うわね」
しかしこれが連続した誘拐事件だとすると、三箇所の事件現場は子供を連れてであれば、移動するだけで一時間は経過してしまうほど離れている。
「人さらいグループのような組織がいるのでしょうか?」
フリーダが複数犯の可能性を指摘する。
「もしくは、徒歩以外の、何らかの移動手段があるのかもしれない」
サマエラはどうすれば一人でも行えるかも考慮する。
フリーダが手分けして現場に行く前に全員に注意を促した。
「これが組織的な誘拐事件だとすれば、捜索していることを悟られる可能性は考慮すべきでしょう。よってなるべく早期に情報を集めていきましょう」
フリーダの心配を杞憂だと却下する者はいない。
三つの事件の不思議な共通点に、誰もが違和感を覚えていた。
(ハーフビーストばかり狙う理由は何? ……何にせよ、嫌な話ね)
ルベアは苦々しい思いに端正な顔をゆがめる。
また、保護者に目を向けていたルベアは気がついた。保護者は全員若い母親なのだ。
顔を触ったり鏡を見せたりして視線を誘導する手口のことを思えば、自然とそうなるのかもしれないが。
「ところで」
ゼラルム・エルホワイトが受付嬢に確認した。
「調査に必要な買い物をした際の費用は経費で落ちますか?」
答えはイエスとのことだった。
●大通り
フリーダとルベア、そしてここで子供を見失った保護者の三人連れは、もう一度当日の動きを現場検証することにした。
「啓示によれば『ここで情報を集めきれないとロ=スに繋がります』とありますし、うまく見つけてみましょう」
フリーダは地形の情報と聞き取り、落とし物などの捜索という方法を考案。
ルベアは怪しい人物がいないかなど、フリーダの調べないところをフォローしつつ、保護者の様子を監視する。
(ハーフビーストを狙う理由はマイノリティだからかしら)
差別の痕跡のある人物がいればヒントになるかもしれないと考えていた。
フリーダは通りに大小の横道があることを心に留めつつ、子供がいなくなったとおぼしき化粧品店へ。
「……閉まっていますね」
保護者によれば、オープン前のキャンペーンということで、店先にワゴンを出して簡易出店していたのだとか。
ルベアは慎重に保護者の様子を見ている。嘘をついている雰囲気はない。
「……『アメトリン』。聞いたことないお店ね」
紫と山吹色をテーマカラーにした、洗練された外装。
フリーダは向かいの店舗に入った。若い女性をターゲットにしたような、お菓子や飲み物を売るかわいらしい店だ。
小袋に入ったクッキーを一つ購入。チップを店員に渡す。
「ところで、子供をこのあたりで見ませんでしたか?」
保護者から聞いた特徴や、保護者を指して「彼女の子供ですが」と伝えて聞き込みをする。
返事は「見なかった」とのこと。これは、店の前を通らなかったと百パーセント断言することはできないが、母親とはぐれた様子のあるそういった子供を見てはいないという意味だ。
ルベアはその間に化粧品店や菓子店の周囲を調査していた。
そして、クッキーが落ちているのを発見。エディブルフラワーをくっつけて焼いたもの。
店から出てきたフリーダの持っていたクッキーの中に同じものはなかった。
菓子店で聞いてみたところ、そういった商品を出す店舗は聞いたことがないらしい。
が、少し前に屋台がそこにでていたらしい。屋台のいた時間は迷子の発生時刻と重なっていた。
●商店街
広場を中心に広がる古くからある商店街には、ゼラルムとサマエラが調査に来ていた。
サマエラは保護者と商店への聞き込みを。
この商店街は余所者に冷たい風潮があるが、地元の人間である保護者なら問題なく聞き取りは可能だった。
サマエラは自身は身を隠し、保護者と店員のやりとりに耳を傾けながら周囲の状況に気を配る。
(猜疑的な手段になるが……)
相手が組織的な誘拐犯であるなら、これくらい慎重を期すべきだとサマエラは考えていた。
ゼラルムは不自然さを感じていた。
――なぜ犯人はわざわざ人通りの多く目立つ場所でことを起こしたのか?
――そもそもこの商店街の風潮からして、余所者というだけで目立ちうるのではないか?
今、ゼラルムがいる広場は見通しがいい。商店街のほうも、道幅はなかなか広い。
人さらいなどしようものならたやすくばれそうなものであるのに。
見渡すと、ぽつぽつと屋台が出ている。
中には車輪がついていて動物に牽かせるタイプの屋台もあった。
(あれなら目隠しになるかもしれないし、ここにいても不自然ではない)
しかしそれだけでは不足。連れ込むときに騒がれれば目立つし、防音性もお察しだ。
ゼラルムは行商人から品物を買いつつ、迷子の目撃情報を尋ねた。
迷子そのものはちらほらあったようだが、探し人ではない模様。
「そこに花屋の屋台が出ていてな。今はいないが。菓子を配っていたから、親の手を離れて寄ってくる子供も多くいたんだ」
「花屋が菓子を?」
食べられる花びらで飾ったクッキーの試食をやっていたらしい。
保護者が子供から目を離した原因になったという髪飾りの屋台はいないようだ。
花屋も怪しいが、本命は髪飾り屋だろうか……。
ゼラルムは行商人にあたるのを切り上げ、次は通行人へ。
フリーダが言ったからというわけではないが、時間は限られている。
それにしても。道行く人はほとんどがヒューマンである。
(被害者の種族の偏りはおかしい。連れて歩く場合、異種族なら親子を装うのに無理があるからだろうか?)
なら犯人は獣人と考えるのが自然の流れか。
もしくは、親子を装う必要のない小柄な種族、本物の子供。
(どこまでが手段で、どこまでが目的なのか)
どんなことでも必ず理由があるものだ。
●公園
ドローミは天眼にて公園内を把握。簡単な見取り図を制作してララノアに渡した。
ララノアはそれを受け取りつつ、事前情報の少なさに不安を覚える。
「星向きがよいといいです」
と、運を頼るようなことを口では言いつつも、頭の中ではあらゆる可能性を検討していた。
(……最初から迷子を狙う?)
迷子を見つけ、保護者を一緒に探すとでも声をかければ。
(それなら怪しまれず……子供も無条件で信用いたしまし。連れ出すことは簡単にございます)
誘拐だとして、騒ぎになっていないのなら犯人は子供に警戒心を抱かせない人物なのだろう。
怖いおじさんのようないかにもな悪人ではなく、例えば――優しげな女性だとか。
ドローミは保護者に、今この場に見知った人はいないかと尋ねる。
が、今はいないようだった。
「すみません、こちらのご婦人と同じ獣人の子供が立ち寄りませんでしたか?」
ドローミは軽食の屋台の店主に尋ねた。
「僕はギルドから依頼を受けた冒険者で迷子を捜しています。見かけたとか、気が付いたことがあれば教えて欲しいです」
店主が言うには、保護者といる姿は見たが、子供単独では見ていないという。
「そ、それはつまり……お母様からはぐれて……す、すぐにいなくなったということでしかっ」
ララノアが考えを述べた。
ドローミは続けて化粧品を売っていた者を見ていないか尋ねた。
「そういえば……ついさっきまで出ていた屋台や行商が、いくつかいなくなっているな」
ドローミは美しい顔に指を添えて思考。
「ララノア殿。なくなった屋台が怪しいです。探ってみましょう」
ドローミとララノアは手分けして手がかりを探すことにした。
ドローミは日光浴中の老人に聞き込みした。老人はいくつかの店を覚えていた。
「その仲間で子供が集まっていたのは花屋じゃったのぅ。黒い髪のえらいべっぴんさんが、馬車に花を乗せて売っておった」
老人は杖で一方を指し示す。
「貧民街のほうへ移動していったよ。ワシは金のない連中が花なぞ買うかと言ったんだがなぁ」
ララノアは遺留品を探して、地面を向いてウロウロしていた。
「わっ! す、すみませんでしっ!」
通行人にぶつかりかけてペコペコ謝っていると、ふと何かがベンチの上にあるのを見つけた。
「お花のクッキー……? 素敵な……」
ハーブが好きなララノアはなんの気なしにそれを手に取る。
そして残留思念感応を使ってみると……。
「……ひぃっ!」
ララノアは思わずクッキーを投げ捨てた。
クッキーには正気を侵すようなドス黒い悪意が残留していた。
●貧民街
いったん合流して情報を統合した冒険者たちは怪しいと目される花屋を追って貧民街へ。
花屋が配っていたクッキーに悪意の痕跡があった以外の物証はない。半信半疑ながらも現場へと急行する。
「いましたね」
先頭をいくドローミが後続の仲間へ知らせる。
目撃証言通りの生花を積んだ馬車。
二頭の馬に牽かれている、屋台にしては大きなそれが、花など買う余裕もないような貧民の住む街に。
しかし相手の方も自身に冒険者ギルドからの追っ手がかかっていることに気づいていた。
いつでも逃げられるように準備をしていたのだろう。馬車はすぐさま発進した――そして、馬車とは別の方向に女が単独で走って行くのが見えた。
逃げていく女をルベアが追う。
「あの女、身体能力からすると授恵者でしょうか」
ゼラルムも女のほうへ。
ドローミは神霊達の腕、ララノアは光縛封で女を取り押さえようとするが届かない。
ゼラルムが放った氷の矢が女にかすり、コワフを吹き飛ばす。
ルベアの目に振り返った女の顔がはっきりと映る。
烏羽玉の髪は長く、滅紫の瞳を縁取る長いまつ毛、人形のように整った美貌。
頭上には病的に痩せ細り、中ほどから折れ曲がった黒い兎の耳。
「アントマン!」
ルベアはこの事件につきまとう悪意の正体を悟った。
「さらった子供を連れているとしたら間違いなくこちらでしょう」
フリーダとサマエラは馬車のほうへ。
「否定や弁明は不要だ。まずは話せ、さもなくば――ッ!」
サマエラが御者の体に質問しようとする前に、御者は事切れていた。
サマエラの後方からパチパチと爆ぜる音。
「敵は馬車に火を放ったようです。証拠が隠滅される前に消し止めましょう」
フリーダは冷静に消火に取りかかった。
焼け落ちて内部をあらわにした車体。
馬車の中では、散乱する花とクッキーにまみれて折り重なるように子供が倒れていた。
フリーダは愕然としていた。
――『普通に挑むとメンタルに悪補正がかかってアー=ルティ=エー的に面倒な相手です』。
「……自分が逃げるために?」
手を止めていたフリーダをサマエラが叱咤する。
「――感じるのは後でいくらでもできる」
そして指示を。
「戻ってくれ。手が、足りないッ」
サマエラは奥歯をかみしめる。
(まずは為すべきことを為すだけだ……震えた手では取り零す、止まった足では間に合わない)
女にBSが通ったのを見てゼラルムは舌打ちした。
女の走る速さは高く、追えば間に合うかは微妙なところであった。
要救助者を捨て置いて追ったところで、確実に捕らえられるかはわからない。
そう考えて踵を返した。
「ど、ドローミしゃまぁあ!!」
ララノアは馬車から出せた子供にヒールをかけていた。
「落ち着いてください。……死んだ子に無駄撃ちしてはいけません」
ヒーラーが三人もいるものの、子供の数が多い。優先順位をつける必要がある。
しかし、生きている子も意識混濁がみられる。
子供の山の下の方になっていた幼い子供は、他児の重さで圧死していた。
「随分扱いが悪いですね。これではなんのためにさらったのか……」
ララノアの手は震えていた。犯人が魅了のような能力を持っているかもとは考えていたが、そのような生やさしいものではない。これはまるで人格を破壊されているようだ。
「な、なぜこのような……!」
子供を、家畜以下の価値のない物品のように……。
●施療院
ベッドが並ぶ一室。
物も言わずうつろな目を天井に向けたままの子供たち。
泣き叫ぶ、あるいは黙り込む子供の家族たち。
迷子の奪還は成ったが、少なくない死者がいた。
生き残った子も反応を返さない廃人と化していた。
その中で唯一、元通りの姿で帰ってきた子がいた。
「エマ……!」
大通りで迷子になった子である。この子だけ解呪により意識を回復することができた。
「なんでこの子だけ助かったのかしら」
ルベアは、この保護者こそが内通者か、と疑いながら、低い声で尋ねた。
「この子、授恵者なんです……!」
ルベアは保護者を完全に信じたわけではないが、筋は通っていると感じた。
「これが、犯人の能力の、一端か……」
クッキーに毒はなかった。体系化されたスキルとは違う特殊能力か……。
「どうか……時間がかかっても、この子たちが助かりますように……」
ララノアは夕方の空に上った一番星に、ひたむきに祈りを捧げていた。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:標準6 / 4〜6人
2021年07月21日 15時52分27秒 公開
相談掲示板
ゴブリン、ヒーラー。サマエラだ。よろしく頼む。 迷子……珍しくはないことだろうが、きな臭さもあるな……。 ともあれ、無事保護者の元へ戻れるよう、尽力しよう。 ひとまず考えるべきは、ABCそれぞれでの動き方と、分担だろうか。 PL情報も絡めて考えるが、『馬鹿ではない』となると、 単に件の子達や怪しい人物を訊き回るだけでは、足りないのだろうな……。 保護者にも協力願えるということで、 とりあえずBについては、私達だけでは話も聞けるか分からないので、 同行を頼んだ方が良さそうに、思った。
エルホワイトと申します。どうぞよろしくお願いいたしますね 分担に関しましては、ひとまずこだわりはありませんのでどちらに赴く事も可能です ただ、”わざわざ人通りの多い場所”で事を起こしている以上、フォリウムさんも仰る通りに単に聞き込むだけでは普通判定で終わりそうというという点には同意いたします
ぇとぇと…しょの……ヒーラーの…ララノアでしっ よそりゅ…(けふん)…よろしゅくお願い致しましなのでッ(がばちょー …迷子さんたち…ちゃんと見つけてあげられると良いでしゅね…心細いでしょうに…(しゅーん そうですね… …ほ、保護者様方と一緒の方が…お子様の顔も分かるでしょうし…よいでしょうか… 私は…三人ご一緒に…どのようなタイミングでいなくなってしまったのか… 先に聞いてみたくもございましゅ…
ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 分担についてはこちらも特に拘りはありません。 個人的には保護者の方のその日の行動順を洗ってみて、 その周辺から聞き込みを行っていこうかなと考えています。
シーフのルベアよ、宜しく。 分担には私も個人的なこだわりはそんなにないけど……そうね。 単に訊き回るだけじゃ足りないなら、A~Cそれぞれの特徴に合った調査方法が必要かも。 ここから先はただの個人的な所感、なんだけど。 A:大通り ・店のことが記憶に残り難そう ・目的なさげにうろついている人物が怪しそう B:商店街 ・Aとは逆に一つ一つの店の記憶は残りそうだけど、行商……? ・保護者の人がいないと情報収集が辛そう Cは今の時点ではいまいちこう……うまく思いつかなかったわ。ごめん。
それぞれにあった、調査方法でしか…ぅぅん(悩み 騒ぎを起こさず…どのように連れ去るか、でしかね…(ぅ〜〜ん ひとまず…ぇと…私は…… 公園にいってみたいかなと…おもいましゅ…(ぺこー ●分担 A B C ララノア
遅れました、ドローミです。 ひとつ前のプレ上げるまで、もう少しお待ちくださいね。 天眼やテレパスあると便利でしょうか? 一応準備できます。
私達が依頼を受けた時点で、1時間ほどは探し回った後になるので、 簡単な聞き込みなどは、既に行っているかもしれない。 こちらもどんな塩梅だったか、行動を起こす前に聞いてみよう。 Cについては、単純に考えるならば、大道芸人あたり怪しくは見えるのだが…… 聞き込みするなら、「普段は見ない同業者はいなかったか?」などになるのだろうか。 更に踏み込んで調査を、となると何があるだろう……。 どの場所にしても、あからさまな痕跡等にはあまり期待できないと思うので、 誘拐手段の方から、考えを広げていくのが良いか。 と、少し確認を。 【質問】 アルミレア達が捜索を行ったのは、場所としてはAで合っているだろうか? もうひとつ、テレパスが挙がったので聞いておけたらと思うのだが、 ABC間の距離は、それぞれどれくらいだろう?(テレパスでやりとり可能な距離か否か)
みんな参加ありがとうね。 迷子の捜索なんて簡単な仕事頼んじゃって悪いわね! ちゃちゃっと終わらせて美味しいものでも食べたいものねー。 (フラグ発言です。ミスリード注意) あ、ドローミさんはフレンドボイスありがとう。 お返ししたいのだけどVAさんの窓開いてないのよね。ごめんね! 【回答】 >アルミレアとB.L.が捜索した場所 そうね。Aよ。 踊る小熊亭に近い場所よ。 >テレパス有効範囲か テレパスの範囲ってかなりせっまいのよね。ABC間の通信に使うのはとても無理だと思うわ。
アルミレア、回答をありがとう。 そうだな、解決したら報酬で食事というのも良さそうだ。 楽しみに、頑張るとしよう。(終了後に食欲があるかは不明) しかしそうか、100m以内だものな……。 使うとすれば、各場所の中で更に分担して動く場合、あたりになるか。
アルミレアしゃまは回答ありがとごじゃましでし! よろしゅくおねがいしまし(がばちょー 美味しいもの、楽しみでしねっ(にこにこ ぇっと…持っているのでしたら…それぞれの場所でのテレパスは…良いのかもしれませんね… 私も、セットできましっ ぇと…これは…同時多発…ということなので… それぞれ実行犯がいて…大元がいる…という形なのでしゅかね… 自分では直接、手を汚さないと… 一般人なのか…分からぬですが…拘束する手段などもいるでしょうか… と……思ったりなんだりしたりしなかったりなぁぁぁぅぅ…(フードひっぱりひっぱり)
難しいな……結果的に浮かび上がるのは1人ということと、 OP込みで想像すると、ターゲットは自分で見て選びそうなタイプな気もする、 が、大元とは別に関わる者がいるのも、確かにあり得ると思う。 手際が良過ぎるだけ、な可能性もあるが……。 ともあれ、先にララノアが言っていたが、それぞれ迷子になったタイミング・時間も、 あらかじめ確認しておかねばな……もし、明らかに1人で行える範囲でなければ、 こちらもそのつもりで、調査できそうだ。 大元以外がいる場合についても想像するなら、 『価値を上げるため』の技術には、魅了・誘惑に類するものがあってもおかしくはなさそうで。 あるいはアントマンやコランダム商会への恐れから、情報隠蔽などしている者も、 いないとは言えない……だろうか。特に、長くからの地元の者が多い、Bあたりには。 分担先については、私も拘りはない。 とりあえず、Bで希望しておこう。偏れば、どこにでも調整可だ。 具体的行動や汎用スキルはまだ決め兼ねているが、テレパスは同じく所持できる。 ●分担 A B サマエラ C ララノア
変な時間ですみません、漸く再度の発言です。 >アルミレア殿、 ボイス気が付いて頂きありがとうございました。 ぜひぜひ、対になるボイスお待ちしています。 運営は合声サービスはじめればいいと思うのです。 >サマエラ殿 今回も宜しくお願いします。 すでにララノア殿が補足してくれましたが、テレパス提案の意図は同地域での連携用になりますね。 僕たちはまだ誘拐犯?ガ何者か判っていませんが、普通に考えれば単独犯か少人数の仕事です。 詰めていく為には有効ですよね。 前後みてサマエラ殿の質問意図もおおよそ把握しました。 3か所すべてに次の可能性があるのですね、(絞れとはなっている)煩わしい。 有事に備え、リヴァースオブヴァイタル 付与に寄せて、神霊達の腕持ちたいと思います。 ●分担 A ドローミ B サマエラ C ララノア
【質問】 Q1 ABCの事件は確認すれば、発生時間順番が判りますか? (アルミレア殿たちが、直接捜索しているので時間がわかり難くなっている感) Q2 赤坂MS依頼ではすでに『アントマン』がでていますが、犯罪者組織として既知です?
そうでしゅね…手際がとても良い可能性もありましね…(ぅぅん それに…商会と犯人が結託しているようでしたら… 誘拐も簡単そうにも思えましで… (腕組みしながら頭が地面につく勢いで首をかしげるメガネ) ぇっと、公園に同行して頂ける方は… テレパスを使うようでしたら…お知らせいただきたく… そ、それと…テレパスをお持ちでない方も… 無理にとらずともよいとも思いますので(あせあせ しょ、しょこだけ!(がばちょー
【回答】 A1 >発生時間・順番 そうね。迷子の保護者たちに確認すればわかるわね。 聞き取りには応じてくれるわよ。 A2 >アントマンという存在は既知か 既知だけど、PL情報よ。 シナリオ開始時点では迷子事件とアントマンを結びつける根拠は薄いから要注意ね。
回答ありがとうございました。 行先変更です。 ●分担 A B サマエラ C ララノア、ドローミ (現時点では、Aが一番最近に思えた為)
ああ、ドローミはこちらこそ、此度もよろしく頼む。 アルミレアは、再度回答をありがとう。 アントマン……までにはすぐいかなくとも、早めに誘拐だとは気付けると良いのだが……。 現状、流れとしては、 1、保護者やアルミレア達に状況の聞き取り 2、手分けして各場所で調査 3、情報の共有・犯人推測 4、(成功以上なら)犯人発見しアクション これで想定しているが、何か齟齬などあれば、教えてもらえたら嬉しい。 調査部分は、有力情報を得られた、または一定時間の経過で切り上げて、 ギルドあたりに戻って情報を合わせる感じで、良いだろうか? もし何か急を要する場合には、メモなりギルドに預けてすぐ駆け付けるのも、ありやも。 個人行動について、誘拐等ではないかと怪しんでいる前提の動きにはなるのだが、 ひとまず今のところ、直接の聞き込みは同行を頼んだ保護者に行ってもらい、 私は陰から聞き込み先の相手を窺って、洞察で何か隠し事がないか探ろうかと思っている。 汎用スキルの残りはテレパスか、もしくは看破で予定中だ。 犯人にアクションを取れる場合は、距離にも依るが…… (生死に関わらず)子から離れるようにと魔矢で牽制するか、 犯人だけ、あるいは子だけ囲めるならば、光縛封で一時隔離するか。そのあたりだろうか。
間が空いてしまってごめんなさい。 >流れ サマエラさんが言っているので大丈夫だと思う。 誘拐だっていうことへの落とし込みはそんなに難しくはないんじゃないかしら。 万一、いえ本当に万一だからないとは思うんだけど、 保護者の中の誰かに保護者を偽った実行犯、じゃなくてもそれに繋がる人物がいたとして、 残りの人たちは嘘をつかないわけで、その情報を照らし合わせれば 誘拐の可能性にはすぐに思い当たる気がするわ。 でも、そうね……。 今書いていてふと思ってしまったんだけど、保護者が全員「自称」の可能性もゼロじゃないのよね……。 最初から疑いたくはないけれど、目を離したくはないわね。 >個人 スキルは洞察とテレパス。 AならBほど自力での情報収集にも困らないはずだから、私はAに行こうかな、って考えてる。 あとは、その時実行犯がその場にいないとも限らないし、ただフラついているだけの人の中にも不審な動きをする人とそうでない人もいそう(店ではない何かを見繕う、或いは警戒している)だし、その辺りは道行く人の流れを見ながら見極めたいな、って思ってる。 ●分担 A ルベア B サマエラ C ララノア、ドローミ
サマエラ様…な、流れをありがとうごじゃましで(がばちょ 誘拐…ということは…疑うこと自体は、わ、私もむずかしくはないかと… ギルドの撹乱目的での偽装でございましか… クレームの方も現れているので…疑い出せば…全部怪しくみえてきちゃいましね(ぅぁぁ わ、私は…スキルは残留思念交換で…探ってみたいと思いまし。 迷子さんを探しながら…所々でつかってみましね… ドローミ様は…よろしゅくお願いいたしましで… テレパスも特にひつようなければ…別のスキルに使うというのも解決には有りかなと思っておりましゅ(ぺこー
改めまして、ララノア殿宜しくお願いします。 『残留思念感応』持って頂いたので、僕は『看破』と『天眼』にしますね。 一緒に移動し、何に注意し、誰から優先で聞き取りするかなど分担したいです。 ギルドでのはぐれた状況・発生順などはプレイングするつもりですが、その他現場入りする前にありますか? >ルベア殿 御懸念の点は有りえるかもですが、僕は信じたいですねえ。
ドローミ様…ぇっと…交友申請…ありがとうごじゃましで(ぺこちょ ぁ、ご一緒でしたか(あせあせ 看破と天眼、たしゅかりまし…ッっ ぇっと、私の予定は…ひとまず親御さんと一緒に、迷子に気づいた場所から通ったルートを順に残留思念で探ってみようかと…どこまで探れるかは分かりませんが… うまく探れなかったら、大道芸人さんや屋台の人に聞き込みしつつ…という感じで考えておりまし(ぺこー 現場入りする前には特に… スキルの特性上…手早く聞ければいいなというくらいでしょうか…
はいララノア殿 結局文字数一杯になってしましたが、プレイング送信しました 現場では天眼で出入り可能な経路と遮蔽になる木立や川の情報を共有後 一度離れて屋台に聞き込みに行きたいと思います (子ども誘うなら食べ物・飲み物の提供な気がしますので) その後、遊んでいる子供たち 談笑している老人や大人に訊ね ララノア殿と合流しする予定です お互い当たりがあればこの辺で現場を抑えられる筈 サブパートに乗れたら、近づいて神霊達の腕 子どもを引き離して貰って1回打撃 光縛呪とロープで拘束としたいです 失敗した場合は逃走地点でもう一度残留思念感応願いたいです (ちなみに左のアイコンは瞬膜を上下させているだけで瞬きの様な物です)
(瞬きを こてりと眺めつつ) ドローミ様…ありがとうごじゃましで(ぺこー はい。では…そちらはお任せいたしまし… そうですね…現場…がある可能性も… ぁ、それとは別に…一度合流して皆さんで情報共有する流れも いちおう気に留めておいた方がよいかもしれません(ぅーん 失敗した際の残留思念も承知しましで… 一応、どんな時でも最後に調べてみるように致しますね…
少し時間が空いてしまいました。 >方針 それではA:大通りの方に向かってみます。 ●分担 A ルベア、フリーダ B サマエラ C ララノア、ドローミ >個人 スキルとしては話術と看破を持っていきます。 前者は保護者の方への質問や店舗の人への聞き取りに、 後者は捜索中に怪しげなものを見つける一助になればなと。
では、私がBですね ●分担 A ルベア、フリーダ B サマエラ、エルホワイト C ララノア、ドローミ >個人行動 汎用スキルは看破と超聴覚を テレパス活性化も可能でしたが、汎用スキルの偏りは択の偏りを産むと考え、この結果となりました
流れの確認を、ありがとう。 問題ないようであれば、安心した……では、これに沿って動いておこう。 分かれて行動する前に、初めの聞き取り時点で誘拐を疑えるよう、 私も意識して、プレイングを用意しておく。 汎用スキルは……では、こちらの看破は他と入れ替えようか。 自身の身を陰に隠すという意味合いで、隠蔽を持ち込もう。
ついさっきプレイングを送ったわ。 私もテレパスを外して超視覚にする。 他ポイントとは交信が難しいのなら一人で持ってても仕方ないしね。