四大都市同時殺人事件

革酎

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シナリオID:1075

オープニング

●遠隔殺人
 リーンエス王国のグランスパーダ、ゴールディのシルバード、エラトゥーン都市同盟のエスト・ポーラ、そして辺境都市群のアキュアリスタ。
 遠く離れた四つの都市で同日、死体が発見された。
 現場はいずれも家具や雑貨、何かの紋具と思しき破片が乱雑に散らばった室内である。
 被害者達は両足が釘で床に固定されており、頭部には硬い物で叩かれた様な痕跡が残されていた。そして何より特徴的だったのは、右手の人差し指が切り取られていたことである。
 手口だけを見れば同一犯による犯行の様にも思えたが、遠く離れた地で同時に殺人を犯すなど到底不可能な話だ。
 事件捜査は行われたが、各当局は互いに連絡を取り合っておらず、同日に他都市で同じ状況の死体が発見されていることなど、ついぞ知る由も無かった――。

 三カ月前、冒険者アーギス・マーレイは、ある殺人事件の犯人捜索依頼を引き受けた。期限の定めは無い為、アーギスは他の依頼や任務の合間に捜索を行っている。
 リブラネスタで小さな料理大会が数日後に予定されている某日、アーギスは他に同様の事件が無いかを探っていたが、つい最近、四つの都市で同日、同じ様な死体が発見されていることを突き止めた。
 実はアーギスが捜査中の事件も遺体は同様の状況だった。足の釘固定は三カ月前の事件には無かったのだが、それ以外の点は全て似通っていた。
(同一犯か? でも離れた四カ所か……)
 アーギスは同時殺人に見せかけた時間差連続殺人を疑ったが、今ひとつ確証が得られない。
 冒険者ギルド経由の情報では、四人共その前日までは自室に引き籠りっぱなしではあったものの、室内からは呻く様な声や、窓から見える位置で茫漠と佇んでいる姿を遠目に目撃されていた為、各当局は少なくとも死体発見の直前までは生きていたと推測している。
(何で俺の受けた依頼だけは三カ月前の単独なんだ?)
 リブラネスタの冒険者向け宿屋の客室。アーギスは自筆メモを並べた卓を前に、小首を捻る。
 と、そこへ若い女性が入室してきた。一週間程前にアーギスと別の依頼で組んで以降、何かと手伝ってくれている魔術師のパティアだった。
「ケリンとシャティンから、頼まれていた資料が揃ったって連絡があったよ」
 アーギスに頼まれ、被害者達の経歴書と事件調書収集をビッグオウム厩舎に依頼していたパティア。その彼女に対し、アーギスは大きな溜息を漏らした。
「お前さん確か、死霊術師の研究もしてたんだろ? ならこの五人の霊を呼び寄せて、誰が犯人なのかを聞き出してくれないか。そろそろ俺も煮詰まってきた」
「無茶いわないでよ。私は本職の死霊術師じゃないんだから。飽くまでもメドゥの指先対策の一環で研究してたってだけよ」
 ぶつぶついいながら、パティアは料理大会に備えて買い集めてきた着火用紋具を鞄から取り出し、説明書を眺めている。ひとりで幾つもの料理を手掛ける為、炭への点火タイミングをタイマーで自動調整することが出来るものを買い求めてきたらしい。
「タイマー付きか。結構良いお値段したんじゃないか?」
「うん、高かった。数もそんなに無かったし」
 着火用紋具を眺めつつ、ふうんと生返事を返すアーギス。
 矢張り死霊術に頼るのは無理かと諦め、アーギスは新たに出揃った資料を求めて宿屋を飛び出していった。

 アーギスはリブラネスタ内に幾つかあるビッグオウム厩舎のひとつへと、足を運んだ。そこで彼は、飼育担当の双子のゴブリン姉妹ケリンとシャティンの両名と顔を合わせた。
 双子はそれぞれ一羽ずつのビッグオウムを担当しており、手分けして四都市へ飛んで各被害者の経歴書や事件調書等を掻き集めてきた。
 謝礼金を手渡すアーギスに、ケリンとシャティンは本当に大変だったと苦笑を返す。
「毎度ありぃ。こんだけ苦労したんだから、事件解決に繋がると良いね」
「折角関わったんだし、あたしらも手伝わせてよ」
 そんな訳で、三人は一緒になって厩舎の事務室で資料に目を通す。ところが数分もしないうちに、アーギスの表情が一変した。
「五人に共通してるのは殺しの手口だけじゃないな」
 彼らはいずれも、各都市の紋具工房に所属する魔術師で、師匠は同じ。つまり同じ技術を持つ兄弟弟子だったのだ。
「師匠は……お、何だ。すぐ近くに居るじゃないか」
 アーギスは出かける準備を手早く纏めると、大急ぎで厩舎を飛び出していった。ケリンとシャティンも、何事かと驚きながら一緒になってついてゆく。

●犯人を追い詰めろ
 リブラネスタの、とある紋具工房。
 工房長はギザンという老齢の魔術師で、能力は然程に高くはないが、紛れも無い授恵者であった。
「その五人は間違いなく、儂の弟子だったよ」
 住居兼工房二階の事務室で、ギザンは渋い表情で頷いた。アーギスが右の人差し指が切り取られていた旨を伝えると、ギザンはしばらく考え込んでから、不意に何かを思い出した様子で事務机から一枚の設計図を取り出した。
「修了検定として共同で作らせた錠前紋具だ。解錠にはこの五つの穴に、五人の人差し指を同時に差し込む」
 出来は中々良いらしく、現在はリブラネスタ冒険者ギルドが管理している文書倉庫の一室を閉鎖する為に使用されている。
「犯人の狙いは、そこか」
 アーギスはギザンが取り出した地図を指差した。件の紋具錠前が使用されている文書倉庫。そこを張り込めばきっと犯人が現れる筈だ。
 同行してきたケリン、シャティン、パティアが横から覗き込んできた。倉庫と聞いて街外れにあるのかとも思ったが、意外と町の中心に近い場所だった。
「ならば儂も協力しよう。効率的に見張り続けるには人数が必要だろうからな」
 ギザンの申し出を、アーギスは素直に受けることにした。
 問題はどの時間帯に、どの場所で張り込むか、である。
 日中は冒険者ギルドの職員が文書倉庫とその近辺を定期的に巡回しており、人通りも決して少なくない為、犯人が現れるとすれば夜間に限定されると考えて良い。
 その為アーギス達は夕刻から朝までの間、文書倉庫の入り口が見える建物の陰で張り込むことにした。
 敵はこちらが動機を見抜いたことを知らない筈だ。きっと上手くいくだろう。
 アーギスは犯人逮捕に自信を見せた。
 だが、事態は急転した。
 ギザンが張り込みをしていた深夜、文書倉庫の錠前紋具は解錠されてしまったのだ。
 そしてギザンは死体で発見された。抵抗の痕跡すら無く、正面から一撃で喉を裂かれていた。
 不幸中の幸いで、ギザンの異変に気付いたアーギスがすぐさま駆け付けた為、犯人は錠前を解錠しただけで即座に逃走し、文書倉庫内には手を付けることが出来なかった。

 翌朝、アーギスは様子を見に来たパティアを冒険者ギルドに走らせた。
 文書倉庫の錠前紋具が解錠された以上、アーギスが四六時中ここに張り込む以外に犯人の思惑を阻止する方法が無い。その代わりに追加で冒険者を雇い入れ、アーギスに代わって犯人像を絞り込み、逮捕にこぎつけて欲しいというのがアーギスの考えであった。
 依頼料はギザンの工房が出してくれることになった。

解説

状況:  PCの皆様はリブラネスタの冒険者ギルドで依頼を受けた直後からスタートします。大体の状況はアーギスや他のNPCの口から既に説明を受けていますので、OP本文に記載済みの情報をプレイングでわざわざ聞く必要はありません。 解決目標:  OP本文と本解説中に散りばめられている情報から推理し、犯人を捕らえること。 NPC:(以下はPC情報として既に知っているものとします)  アーギス・マーレイ:ヒューマンの冒険者でウォーリア。戦闘は得意だが頭を使う依頼は苦手。その割には何故か捜索系の依頼を受けることが多い。  パティア:ヒューマンの冒険者で元帝国軍従軍魔術師。メドゥの指先の対策部署所属。厳重な管理のもと、死霊術師の研究を行っていた。すぐに斃せる弱いゾンビを造る程度のことは出来るが、死者の霊を呼び寄せるという高度な技術は未修得。  ケリン:ビッグオウム飼育担当のゴブリン女性。シャティンの双子の姉。元冒険者でシーフとしての技量を持つ他、職業柄、色々な情報に接することが多い為、諸々の情勢に敏い。戦闘能力は比較的高い方で、駆け出しの冒険者では敵わない。  シャティン:ビッグオウム飼育担当のゴブリン女性。ケリンの双子の妹。元冒険者でキャスターとしての技量を持つ。元々は紋具師志望だったらしく、一時期は紋具工房で働いて修行していた時期もあったらしいが、問題を起こして破門にされた過去がある。

マスターより

 皆様、こんにちは。  遠く離れた四つの都市で同時に発生した死体発見事件という形でご希望のショートシナリオRをリリース致します。  今回も結構分かり易い形でヒントを出しておりますので、軽めの推理シナリオとしてお楽しみ頂ければ存じます。

リプレイ

●思わぬ邂逅
 リブラネスタ冒険者ギルドが管理する文書倉庫には、玄関と倉庫本体の間に小さな雑務室が設置されており、作業卓も置かれている。
 ここで二日程寝泊まりしていたアーギス・マーレイは、支援に駆けつけてきた顔ぶれを思わず二度見した。
「お……何だ、お前さん達か」
 現れたのは全部で六名。そのうち三名は、アーギスと同じくロモズ歩兵団に籍を置く者達だった。
「また会ったね。今回はどんな事件に巻き込まれてるんだい?」
 特徴的な頭蓋面の奥で苦笑を浮かべているのは情報屋としても名高いルチル・プルメリア・グレイハーツ。彼女はロモズ歩兵団の弓兵1番隊副長の肩書を持つ。
「えと……アーギスさんはどの隊の所属でしたでしょうか?」
 弓兵2番隊副長のリディリディ・トゥラ・イェレミースがおっかなびっくりの調子で訊いた。日頃の歩兵団任務でもアーギスの姿を余り見かけることが無いから、同僚と呼んで良いのかどうか少し自信が無かった。
 アーギスもその事実をよく自覚している為か、引きつった笑みを浮かべて頭を掻く。
「いやぁ、一応重兵2番隊長なんだがねぇ」
「え、そうなんですか?」
 訊き返したのは、セロンガード・シュタインドルフ。彼は遊兵7番隊副長。少なくともアーギスよりは比較的多く歩兵団任務に参加している――といっても良いかも知れない。
 何ともばつの悪そうなアーギスと、彼を取り囲む各隊の副長達。傍から見ると詰問している様に見えなくもなかった。
 と、ここでララベル・サン・ディーベルがまぁまぁと間に割って入った。決して不穏な空気が流れていた訳ではなかったが、アーギスが歩兵団とは無関係の授恵者に救いを求める視線を送ってきた為、ララベルはついつい妙な仲裁役を買って出る破目となった。
「今日は殺人事件の捜査だから、アーギスおじさんの素行不良な勤務態度はこの際大目に見てあげて……」
「おいおい、お前さん何気に一番酷ぇこといってくれてんな」
 アーギスの抗議を、ララベルはしれっと受け流した。

●仮説と容疑者
「そんなことより、まずは情報の整理からだ」
 手近の木椅子を引いて座り込むベルク・オスマット。この雑務室はそれなりの広さがある為、簡単な会議を催すことも出来る。
 尤も、流石にこの人数が一斉に詰めかけると結構な圧迫感というか、はっきりいって狭い。
 だが錠前紋具が解錠されてしまった以上、アーギスがここに詰めて犯人の接近を阻む以外に手が無い。相談や会議等もこの雑務室で行うのが基本となる。実際アーギスはギザン殺害以降、ずっとこの雑務室に張り付いていた。
「随分と面倒な事件らしいから、事前に色々調べておいたよ」
 キリクがベルクの隣りに別の木椅子を引き寄せて、手帳やら資料やらを卓上に並べ始めた。他の面々も各自の足で稼いできた調査結果をおもむろに取り出し始める。
 まずは現時点で分かっていることを全て開帳し、事実と推論をしっかり切り分けようということになった。
 現在、この雑務室に集まっているのは助っ人としてアーギスの代わりに直接捜査を担当する授恵者達のみである。双子のゴブリナ姉妹ケリンとシャティン、そして魔術師パティアはこの場には同席していなかった。捜査に専念する冒険者が改めて参戦した為にビッグオウム飼育担当や直接雇われていないパティアが捜査から外れるのは別におかしな話でもなかったが、実は他にも理由があった。
「はっきりいわせて貰うけど、ケリンとシャティン、あのふたりが怪しいと思うよ」
 ルチルの口から飛び出した名前に、アーギスは心底驚いた様子を見せた。全く疑ってもいなかったらしい。
 驚くアーギスの前で、キリクはとある紋具工房から借りてきたタイマー式着火紋具を取り出した。曰く、各都市の現場に残されていた紋具の破片は、全てこの着火紋具と材質及び形状が同じものだということまでが分かっているとの由。
「つまり同日に四人が殺されたトリックには、このタイマー式着火紋具が使われたと見て良い」
 キリクの説明に、アーギスは心底感心した。こんな調子でよくもまぁ難解な事件捜査を任されたものだと、この場の冒険者達は漏れなく呆れたが、流石に顔には出さなかった。
「けど、だからって何でケリンとシャティンが容疑者なんだ?」
 アーギスの疑問は尤もである。キリクや他の面々は皆一様に、ギザンとの接触後に事態が急に動き始めたことと、ケリンとシャティンの経歴について着目していた。
「四人殺害後、すぐにここに来なかったのは場所が分からなかった為。自分達が捜査に協力し、ギザンの情報から文書倉庫に辿り着いた。ギザン殺害方法は手練れの近接戦闘能力者と見るべきだね」
 更にあの姉妹ならビッグオウムで短時間に各都市を往来することが可能。加えてシャティンは、着火紋具と解錠紋具の双方について詳しい筈。
「しかし、犯行に使われた紋具が自作かも知れんという仮説は、有り得ないと認めざるを得ないな」
 ベルクは卓上の着火紋具を指先でこつんと弾いた。
 タイマー式着火紋具の様なやや特殊な品を製造するにはそれなりの規模の工房と道具、そして材料が必要だ。密造するには余りにも手間と費用が掛かり過ぎるし、そもそも秘密裏に製造出来る様な場所が無い。
 同時にベルクは各都市の主な入退記録を調べ、出入りしていた関係者の重複性も探った。が、いずれの都市にもケリン、シャティン、パティアのみならず、ギザンや殺された五人も往来の記録が残っており、これは決定的な情報にはなり得なかった。
 普段からひとの出入りが乏しい土地ならば兎も角、大勢の出入りが激しい大都市でこの手の記録を調べても、冒険者としての任務や紋具工房の出張作業等が多数発生する可能性を考えると、記録が残っていて当然という結果しか得られなかった。
「ギザンの工房にも、特に怪しい素性の者は居なかった」
 卓上に広げた資料を指差しながら、ベルクは肩を竦めた。殺害された五人はギザンの弟子だったが、しかし現在と過去の関係者の中にはシャティンの名は無かった。シャティンが元紋具師修行生だったことは分かっているが、所属していたのは他の工房だったらしい。
 これでタイマー式着火紋具の密輸や密造の線は、ほぼ消えた。
 だが、ギザンを殺害したのは顔見知り且つ手練れだという意見では全員が一致していた。授恵者たるギザンをあれ程簡単に殺せる者はそうそう居ないだろう、というのがその根拠であった。

●トリックと矛盾
 リディリディの報告によれば、タイマー式着火紋具を多数購入した者は複数名居るらしい。料理大会に備えてまとめ買いする者が少なくないとのことだが、その中でパティアとシャティンが複数購入していた事実が分かっている。
「現場の荒れ方は、爆発ではなく、ただ単に誰かが荒らしたという結論の様です……」
 爆発ならば一点を中心にして放射状に破壊の跡が残るが、どの現場もただ単に家具や雑貨が乱雑に倒れていたり、無造作に放置されているだけだったらしい。
 尚、紋具の仕組みや構造は企業秘密ということで、リディリディは詳しい話を聞き出すことが出来なかった。だからこそ紋具師という専門性の高い職業が排他的且つ独占的に成立する訳なのだが。
 しかしタイマー式着火紋具を使った犯行、という観点ではリディリディも他の者達と同意見だ。後は殺害方法である。
 ここでキリクが渋い表情を浮かべながら、自筆のメモを取り出した。彼はセロンガードの補佐を受けながらタイマー式着火紋具がどの程度の縄を焼き切ることが出来るのかを調べてみた。
「結論からいうと、ひとを殺せる程の重量を支えられる縄を焼き切ることは出来ませんでした」
 セロンガードの説明によれば、焼き切れたのは細い紐が限度だったという。煉瓦一個をぶら下げるのが関の山だろう。勿論煉瓦でも当たり所によってはひとを殺すことは出来る。だがいずれの遺体も頭部に残っていたのは何かで叩かれた程度の傷跡であり、頭蓋が陥没する程の強打ではなかった。
「被害者、叫び声はあげられたと思うから、紋具は頭に付けて喋れなくしていた可能性もあるよね」
 ララベルのこの推測も決してあり得ないという話ではなかったが、問題はこの先だ。殺害に繋がる手段が分からない。
「うーん、問題はそこだなぁ。でも足を釘で床に打ち付けていたのは、逃げ出すのを防ぐ為だったと思うよ」
「実はそこも引っかかってね」
 ルチルの疑念に満ちた声に、ララベルは小首を傾げた。ルチルが調べたところによれば、切断された指や、釘が打ち付けられた両足付近では血痕が異常に少なかったというのである。
 つまり、指切断も足への釘打ちも死亡後に行われた可能性が高いのだ。
「え、それじゃあ逃げ出し防止の意味が無いってこと?」
 ここが第一の矛盾点だった。犯人は何故、被害者の足を釘で固定したのか。
 釘の問題に関しては、リディリディは有効な自説を捻り出すことが出来なかったし、キリクは犯行自体には不要だが、ギルドを動かす為の異質な類似点演出だと考えている。
 つまり、タイマー式着火紋具を用いたというトリックについては一致していたが、釘に関しては各自の意見は相当に差異があった。
 そしてルチルが挙げた第二の矛盾点。それは死因だ。
 四大都市の各遺体には頭の傷跡の他、喉元に索状痕が残されていた。全員、紐か何かで喉を絞められて窒息死した可能性が高いというのである。
「え? じゃあ何でわざわざこんなトリックを?」
「だから、矛盾なんだよ」
 目を白黒させるララベルに、ルチルはやれやれとかぶりを振った。
 更にルチルは続ける。
 犯人がこの文書倉庫で何を得ようとしていたのかが分からない、と。
「この文書倉庫の蔵書内容は、大半が各地方の民俗文化やしきたり、独自の風習といったものらしい」
 ベルクが雑務室に備え付けの目録一覧を開いた。どれもこれも、極々一般的な資料に思える。この中に、ひとを殺してまで奪いたい情報が隠されているのだろうか。
「他人からはどうでも良い情報でも、本人にとっては死活問題、ということなのでしょうか……?」
 リディリディも目録一覧を横合いから覗き込みながら、眉間に皺を寄せて考え込んだ。この中に何かがあるというのは間違いないのだろうが、現状ではどれが問題なのかがさっぱり分からない。
「矢張りまだまだ、情報が足りませんね」
「……だね。もう少し足で稼ぐ必要がありそうだ」
 セロンガードの渋い表情に、ルチルは素直に頷き返した。
 キリクとベルクにも、異論は無い。ここで煮詰まったということは、まだ何か見落としがある様な気がしてならなかった。
「私も、もう一度紋具工房の店員さんとお話ししてきます。何か思い出したかも知れませんし」
 リディリディも木椅子から立ち上がった。
「殺人は許せないし、文書倉庫も守らなくちゃ……必ず犯人を暴いてみせる。元船長で今は宿屋の主人のじっちゃんの名に懸けて!」
 妙に気合が入っているララベルに、全員が一様に不思議そうな視線を集めてきた。
 一瞬で気分が盛り上がったララベルだったが、こんな反応を見せられると、今度は一気に盛り下がった――というよりも、単純に小っ恥ずかしかった。
「ラトを置いてくよ。何かあったら、声かけてくれれば良い」
 ルチルの懐から、相棒の栗鼠ラトが飛び出して、奥まった位置の書架の上に飛び乗った。ここからなら、倉庫本体も雑務室も一望出来る。
 六人の冒険者達は、ふたりでペアを組んで聞き込みへと飛び出していった。ルチルとララベルはギザンの紋具工房に、キリクとセロンガードはビッグオウム厩舎の関係者に、そしてベルクとリディリディはリブラネスタの馬車駅や他の紋具工房へと、それぞれの目的を持って足を運ばせた。

●逃走
 ギザンの紋具工房で、ルチルとララベルは想定外の名を聞き出した。
 三カ月前――即ち最初の犠牲者が出る前に、パティアらしき人物がギザンの紋具工房店員に対し、解錠紋具についての情報を聞き出そうとしていた、というのである。
 そういえば文書倉庫を出る直前、ルチルは水筒を携えたパティアがアーギスの居る雑務室へ向かうのを横目で眺めていた。
 何かが拙いと直感したルチルは、ラトの視覚と聴力に意識を集中させた。丁度ラトの目の前で、パティアが水筒に入れたスープをアーギスに振る舞っているところだった。どうやら今度の料理大会に出そうとしている自慢の一品らしいのだが、アーギスはそのスープをひと口飲んだところで急に腰砕けとなり、酩酊した状態でその場に尻餅を付いてしまった。
 そしてパティアの手には、ナイフが握られている。
(しまった……ギザンが殺されたのは、そういう手か)
 ルチルは奥歯を噛み鳴らした。如何に顔見知りでも、いきなり刃物を取り出せば警戒する。だがスープ入りの水筒ならば何の警戒も無く、その味を楽しもうとするだろう。そこに薬が仕込まれており、体の自由が奪われる可能性があることなど全く疑いも持たずに。
 パティアはアーギスを仕留める前に、まるで何かを探す様な調子で書棚の一カ所を丹念に眺めていた。だが書架の上の栗鼠に気付いた途端、顔色を変えてその場から逃げ出してしまった。
 アーギスはラトの視線に救われた格好だった。

 数分後、全員が文書倉庫に駆け戻ってきた。既にパティアの姿は無い。
 アーギスを木椅子に座らせて落ち着かせてから、全員でラトの視線越しにルチルが見た書架の辺りを捜索したところ、古代から独自の死霊術を操る謎の部族について記述した冊子が見つかった。
 アーギスの言によれば、その部族のある地方はパティアの故郷らしい。或いは、パティアはこの冊子を持ち出して処分する腹積もりだったのか。
「そうか……ひとつ、大きな勘違いをしていた」
 ここで初めてキリクは、自分達の思い込みに気付いた。
 四大都市で殺されたのは人間ではなく、ゾンビだったのだ。パティアの死霊術で造り出せるのは、煉瓦程度の重量物が頭に直撃しただけで簡単に死んでしまう様な、貧弱なゾンビ。
 死因が窒息死だったのも、切り落とされた指や釘が打たれた足からの血痕が異常に少なかったのも、これで説明がつく。
 トリックは解明出来た。しかし殺害対象を人間だと限定したのが拙かった。
「釘で足を床に固定したのは、トリックの位置から動かさない為か」
 ベルクも合点がいった様子で頷く。死体発見の前日まで唸り声が聞こえたり、茫漠とした様子で佇んでいる姿が遠目に目撃されたりしたのは、いずれもゾンビだったのだ。その目的は、トリック発動まで彼らが生きていると他者に思い込ませる為に。そしてパティア自身のアリバイを確保する為に。
 パティアの逃走は許したが、しかし目的遂行は辛うじて阻止した。
 最低限の目的は達したといえるだろう。

マスターコメント

 皆様、お疲れ様でした。  まさかパティアが全くの無警戒で放置されるとは思いもしませんでしたが、栗鼠のラトが大活躍で何とか最悪の事態だけは回避出来ました。  真相は分かりましたので、パティアは一時的には逃げおおせても、結局はどこかで冒険者ギルドに捕まってしまうでしょう。
ショートシナリオR

ショートシナリオR普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年07月04日 23時48分58秒 公開

普通

相談掲示板

  1. キリク

    シューターのキリクです、よろしく。 とりあえず、ギザンを襲ったのはある程度親しい人だよな。 真正面からやられてるのに何も抵抗してないんだろう? 犯人自体は張り込みしてれば捕まりそうだが、出来ればその前に推理で犯人を突き止めたいよな。 (殺害方法や同時にやったトリックなどは大体分かっているんですが、これをアニエピカ世界でどう言えば良いのか考え中です…。by背後)

  2. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。よろしく。 とりあえずOPの内容から読み解くに凶器というか犯人は時限式の紋具を利用しているのだろう。 同時殺人事件は被害者達を監禁拘束し、遠隔からまとめてドン。 紋具については専門ではないからどこまで自由が効くかわからないが、室内が荒れる程度には巨大な力が働いたのではないかと思ってるよ。 さて、この推理が当たっていたとして、同一犯によるものと仮定した場合三か月前の殺しはその予行演習だろうか。 動機として最も有力なのは被害者達に警戒されぬように、一気に鍵となる人差し指を集めたかった、かね。 ギザン老殺しは顔見知りか正面からでも喉を裂いて殺せる程度の手練れの仕業、というのは同意だね。 この場合ビッグオウムで長距離移動ができるゴブリナ姉妹が無茶苦茶怪しく感じるのだが。交代に来た人員だと思えば油断して無防備な姿も晒すだろうし。 ……まあ推測は推測、調べてみない事にはわからないだろう。 >行動 以上の推理を裏取りするために ・人差し指を切断されたタイミング ・NPCから紋具についての知恵(同時にかまかけ) ・被害者周りの人間関係 この辺りを調べようと思う。必要であれば付け加えるよ。

  3. No.3

    リディリディです。 よ、よろしくお願いします・・・。 亡くなられたギザンさんは授恵者ということなので、よっぽどの油断をしていたのでしょうか。 でも、張り込み中に油断ですか・・・。 パティアさんの持つ着火用紋具が時限式ですね。 いかにも怪しいですが、どういった風に使うのかはちょっと検討がつきません。 色々とわからないことが多いのでもうちょっと詰めて考えてみますね。

  4. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ。よろしく頼む。 硬いもので殴られていて紋具の破片が散らばっていた…か。 現場の壊れた紋具などから時限式の紋具が使われたのは間違いなさそうだ。 さてはて犯人がだれかは知らないが。一体動機は何なのやら。 ギルドの文書倉庫だ。垂涎物の情報の宝庫だろうな。(良きにしろ悪きにしろ)

  5. キリク

    犯人としては姿を見られたくないだろうし、遠い現場を何往復もしたくはないって考えはあると思う。 現場に行ったのは1度きり、足の固定・指切断・時限式紋具の仕掛けは全部同時にやったんじゃないかと考えてる。 時限式紋具が使われたのは間違いないな。数自体も少ないみたいだし、大量買いしてる奴がいたら店員も覚えてるだろう。 その証言は証拠として使えそうだな。 ところで、5人の死因は何なんだろうな。 殴られた後があるみたいだけどそれだとは言ってはないし。 傷とかが残らないものだとすると、窒息とか毒殺とか…。

  6. No.6

    前日になってしまいましたね。 犯人は結局絞り込めませんでした。 時限式紋具を使って爆発でも起こしたのでしょうか・・・。 ただ今更ですが、推理は難しそうなので・・・。この依頼、調査が主となりますね。 私は紋具周りを当たってみます。 必要かどうかはわかりませんが・・・。念のため、汎用スキルに魔法知識を用意しておきますね。

  7. セロンガード・シュタインドルフ

    遅れました。セロンガードです。 紋具と人間関係についての書き込みを主体にプレイングを記述致しました。

  8. ララベル・サン・ディーベル

    (安楽椅子で目を覚ます)はっ…推理纏めようとして、寝ちゃってた(汗汗)。 僕はララベル・サン・ディーベル。 ギリギリでごめん、みんなよろしくね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0