【豆充】クロックペイント&カカオフェスタ!

白葉うづき

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シナリオID:696

オープニング

●
「やあ! テオ、元気?」
「ああ……ヴィン」
 書類の山に埋もれた青年が顔を上げる。その目の下にはクマがあり、今にも倒れ伏しそうだった。
「すっごい疲れてる! 最近忙しい?」
「そうだね……帝国の崩壊に始まり難民キャンプへの支援、人の流入も例年にないくらい激しくなって……
 最近は王国やゴールディ、ディズル大湿原も騒がしいし、そこに縁がある皆はどうにか支援がしたいと頼ってきてくれてる状態だね……。
 でもこの地区のこともあるから、休んでなんていられないよ……」
 そう言ってテオと呼ばれた青年は傍らにあった紫色の液体を飲み干す。どうやら滋養強壮の魔法薬らしく、同じような瓶が周辺に何本か転がっていた。
「何日休んでない?」
「……黙秘していいかな」
「オレのこと言えなーい!」
「全くだよ……いやヴィンは本当に気を付けて。死んだら許さないよ」
「お説教やだ!」

 学術都市ヴェルクリエは、場所によっていくつか区分けをされている。
 キャンティはそのうちの一地区であり、一人を地区代表と定めて内外の取り仕切りを任せていた。権力のある役職というより色々な場所に顔が利く調整役としての側面が強く、テオ――テオドール・ヘルツェンはその地区代表として日々精力的に活動していた。
「支援の内容は具体的に決めたの?」
「大体は物資での支援だね。この前……っていうか今もカカオが安くなっているからそれをチョコレートに加工して届けたり、地区の皆から余分に採れたって貰った農作物を送ってる。
 後は故郷に帰る人の店や家をしばらくの間みたり、素材も僅かながら支援したり……そのくらいかな」
「お金大丈夫?」
「……ほとんど慈善事業の域だね。けどまあ、僕のやりたいことだから」
 テオは目元を和らげて呟く。ヴィンツはうーんと悩む素振りを見せた。
「技術者とかお忍びの貴族とか、お金に興味ある人少ないもんね」
「お陰で作品の買いたたきも起きてるし……だからこそ技術者を守るためのパトロンはなかなかね、ありがたい側面が多いよ。ヴィン、最近王国には?」
「行ってない! 今度行く!」
「うん、よろしくね。おじい様も待ちわびていると思うから。妹もヴィンに会えるってフェスタを楽しみにし……て……」
 話の最中、テオはがたんと椅子から立ち上がった。
「あああーー!! 忘れてた!」
「何を?」
「時計塔!!」

●
 学術都市ヴェルクリエ、その西に位置するキャンティ地区。その地区の中にはシンボルとも呼べる建造物が存在する。
 時計塔。
 街並みの中でも突出したその建物は大通りを二分するように位置し、時間を知るほか待ち合わせ場所としても役立っている。

「時計というものは知ってるかな。二十四時間という一日の時間をほぼ正確に知ることが出来る工芸品だ。
 ドワーフ王国や、この辺りの辺境都市群で売られていたり、工房自体も多く存在している」
 まあ……この周辺の人は時計を個人で持っている人もいるから、時計はさほど重要でないという人も多い」
 濃い緑髪で優男風の青年は、冒険者たちに説明を重ねる。
「けれどこの時計塔はキャンティ地区が出来た時からある、いわば地区のシンボルなんだ。それに一昨年から始めた企画が結構評判よくて」
 背の高い石造りの時計塔。それはそれで美しいが個性的な街並みの中に埋没してしまう。そこで地区内の芸術家や職人を募り、時計塔を丸ごとペイントしてしまうことになった。
 色々なデザインを楽しめるよう、そこからは一年に一回塗り替えることにして、お披露目セレモニーも開催するなど一つのイベントとなっている。
「一昨年も去年も個性的な時計塔に仕上がって、新たな目玉に観光の人たちも増えたんだ。
モチーフはよくわからなかったけど、綺麗で楽しいものだった。そのデザインを、今年は冒険者の皆さんにお願いしたいんだ」
 冒険者たちは顔を見合わせる。そんな大役を任せてもらっていいのだろうか。
「あのね、調整とか選定とか忘れてたんだって」
「ヴィン! いやそうだけど! ……すみません、順を追ってお話しますね」
 肩身が狭そうな彼に話を聞くと、本来職人の選定は一か月前には終えておかないと融通が利かないそうだ。
 一応区内でも募ってみたが、皆それぞれの創作物に取り掛かっていたり、急な話すぎて対応が間に合わないらしい。
「中止にするのは?」
「考えたんだけどね……やっぱり人を集めるのもこの地区には重要だ。皆の作品は実際に見るのが一番だし、パトロンを得て大成することも少なくない。
 それに今は少しでも皆が楽しめることがしたいし、いつも通りの日常を送ってもらいたいから」
 居住まいを正し、青年は改めて冒険者に向き合う。

「依頼の詳細をお話しますね。皆さんには時計塔を飾っていただければと思います。
 メインは時計塔のデザイン、および屋根と壁の装飾。これは色を塗っていただくことを想定しています。
 ペイント材など必要な物は出来る限り揃えますし、飾りとしてオブジェを追加しても構いません。
 もしこんな紋具が出来ないかってアイディアがある場合はヴィンに話してもらえば」
 話を振られたヴィンツがにこやかに手を振る。それがここに居る理由らしい。
「オレはねー、周りに幻影を浮かび上がらせたり、光ったり音や霧出したり、簡単な仕掛けとかも出来るよ。幻影と、光らせるのが一番得意かも」
「ここの時計塔は一時間ごとに鐘が鳴りますが、その仕掛けを新しく作るのも構いません。
 別の音にしたり、人形を動かしたり、時計の針や文字盤を弄った時もあったかな。もちろんそのままでも問題ないですよ」
 時計塔の絵を机に広げながらさらに説明を重ねる。時計塔の壁は四面あり、それぞれに文字盤が存在している。
 三角錐の屋根の下に鐘、その下に階段から上がれる石造りの広場があって、台形の屋根があり、その下に直径1mほどの文字盤、石壁となっている。
「あ、と、そうだ。期間は一週間を目安にしています。数日後に時計塔の披露を含めたフェスタをするので、ぜひ招待させてください。
 これは前のカカオ供給から計画していたためかろうじて用意出来ていて……様々なチョコレートの屋台が出る予定ですし、チョコレートファウンテンもいくつか用意してますよ」
 そう言って微笑むと、青年は深く頭を下げた。
「皆さんにはご面倒をおかけします。どうぞよろしくお願いします」

解説

●目標  時計塔のデザイン、装飾  カカオ・フェスタを楽しむ ●時計塔  高さ15mほどの大きな時計塔。時計塔の壁は四面あり、それぞれに文字盤がある。  三角錐の屋根の下にくすんだ色の鐘、その下に階段から上がれる石造りの広場。  台形の屋根があり、その下に直径1mほどの文字盤、石壁となっている。  壁や屋根を塗れるよう、時計塔を覆うように足場と布が張ってある。  材料として様々な色の染料、30cmほどの大きな刷毛。  もっと材料が必要な場合、一般的な物であれば用意してくれます。 ●カカオ・フェスタ  広場には屋台が並び、新しい時計塔をお披露目するセレモニーもその最中に予定されています。  時計塔を覆う布を外したタイミングで冒険者たちを紹介したいようです。 ≪オススメ(お土産も可)≫  ・チョコレートファウンテン(小さなチョコレートの噴水。色んな色がある。具材も個性的)  ・七色光チョコレート(パワーアップした七色チョコレート。何故かほんのり光っている)  ・野菜チョコレート(野菜をチョコレートでコーティングしてみた)  ・カカオ茶(チョコレートと薬草をブレンドしたお茶。疲労に効果がある)  ・ブンテトルテ(キャンティ地区名物の、クリームと果物が乗ったタルト。新商品有り)  ・カカオ飛ばしコンテスト(どれだけカカオを飛ばせたか競う。力でも魔法でも道具を使っても良い)  ・チョコ通り(チョコレートで作られた彫像が並んでいる通り。バレン王子とタイン王女の彫像が人気)  今回の功労者ということで、屋台の物を安く購入できそうです。 ●NPC  ヴィンツ・ラッテ   紋具職人として皆を手伝います。紋具は幻影や光るものが得意。   1m以上の巨大で複雑な紋具を頼む場合1週間かかりますが、お手伝いしてくれる方がいればもっと短く済み、その分他の仕掛けを作ってもらうことが出来ます。   紋具以外にも工作が出来る様子。特に頼むものがなければ塗るのを手伝います。   フェスタの時はその辺に居ます。  テオドール・ヘルツェン   キャンティ地区代表のヒューマン。20代後半でヴィンツとは長い付き合い。   セレモニーの準備を進めていますが、要望があれば全力で応えようとしてくれます。   フェスタには彼の妹も来る予定で、うきうきしています。 ●備考  デザイン案が浮かばない場合、明るい、カラフルといった雰囲気だけでも構いません。

マスターより

お世話になっております。白葉うづきです。 時計塔を塗っていただきたいな、披露セレモニーはあるよな、塗っていただいた方に参加していただきたいなと思いEXと相成りました。初めての試みで緊張しておりますが、よろしくお願いいたします。 何か疑問点があればヴィンツがテオの代わりにお答えするので、どうぞよろしくお願いします (出発間際だとお返事が間に合わない可能性があります)。 皆さんのアニエピカライフが素敵なものになりますように! ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。

リプレイ

●時計塔MTG!
「時計塔の装飾だなんて楽しそう! みんな、よろしくね!」
「ね! なんだかおもしろそうなイベント!」
 ハーヴィがにこやかに挨拶をし、クロハ=ヴェローナも楽しそうだ。彼女が後ろを付いてきたというスヴァン=ウォルフ=ユーウェンは思案気に目を伏せる。
「時計塔の装飾か……」
 好きに色を塗ってほしいという依頼だが、一応大まかなデザインを話し合わなければ動きようがない。
 ――ここに、『第一回ヴェルクリエ時計塔デザインMTG(ミーティング)』が開かれた!
「はい! 私、提案があるの。時計塔にダンジョンを模したペイントをしたいって思うのよ」
「エドゥノーグの?」
「そう!」
 聞きながらふんふんとクレア・エクレールが頷く。
「カカオの流通ってやっぱりダンジョンのおかげだったし、話題性もあると思うのよね」
「そうだね! 時計塔のセレモニーもカカオ・フェスタと一緒にやるって聞いたし!」
「迷路みたいにして……そう、通路を繋げて辿れるようにして、目で見て楽しめるようなデザインにしたいわ!」
「いいな、楽しそうだ」
 二人の友人であるアーシェル・G・クラインも頷く。壁を大きく使えば、遠くからでも見えるようにも出来るだろう。

(あまり芸術センスに自信がある訳でもないんだがな……)
「カッシア」
 ヴィナスに呼ばれ、思考に耽っていたカッシアは耳を寄せる。告げられる言葉にこくこくと頷いた。
「んー、僕は青空が好きだから、青空を塗りたいな。四面あるから朝・昼・夕・夜を表すようにジャンル分けして塗るのも素敵だなって思うけど……」
「それなら俺たちに考えがあるよ」
 ハーヴィの提案にヴィナスがひらりと手を挙げる。
「屋根も四面だから、青空、夕暮れ、星空、朝焼けの空を塗ろうと思っていたんだ。ね、カッシア」
「ああ。一番高いところだしな。丁度いいと思う」
 振り向いて確認するヴィナスにカッシアも頷く。完全に乗っかる形だったが単純に良いと思ったし、問題ない。
「鐘のある広場もあるといっていたし、そこから見上げた天井を塗るのも面白いかもね」
「あ、それも素敵かも!」
「ねえ、そこにハトも描いていい? 白いハト」
 ヴィナスの提案にハーヴィが頷き、クロエも身を乗り出す。
 クロハは時計塔にそれを描きたいと思っていた。空にハトだなんてぴったりだ。
「もちろん」
「構わないわ」
「やった」
「賑やかな空になりそう! 後、虹も塗りたいな」
「お、それは俺も考えてた。でっかい虹描こうぜ」
 アーシェルとハーヴィも虹を思い描いていた。皆のイメージが重なり合い、時計塔が彩られていく。

 盛り上がる一方、スヴァンは悩んでいた。「カカオ」という言葉が見えたものだから思わず参加してしまったが、まず片付けなければならない仕事がある。
(芸術的? なものにはあまり触れてこなかったからな……)
 話の感じからすると、自分の好きなものを好きなように描いてほしいとのことだ。そう言われれば、自ずとデザイン案は定まってくる。
「俺は、そうだな。チョコレートを描きたい。幻影でも何でもいい」
 アンネエルカたちが話すように、今はカカオが大量に手に入りチョコレートも手が届きやすくなった。いわば今年は『チョコレート記念年』。スヴァンからこれを外して何を語ろうか、いや語れない。
 ただあまりにも個人的過ぎるのも事実。あくまで一案だと口を開こうとして――
「まあ! 私たちと同じね、ならカカオ宝箱も描いちゃいましょう?」
「広場の、子どもたちが届きやすい場所に描いても喜ばれるかもしれないね」
「え、あ、あ、おう」
 めちゃくちゃに受け入れられた。

「あ、そうよ! ヴィンツさんに頼みたいこと、たくさんあるのよ」
「はーい! 何かなー」
 話し合いが進み、どんどんとデザインが固まっていく中、より装飾を求めるならば紋具を使わない手はない。
「宝箱のイラスト付近に、キラキラ光る紋具を飾りたいの!」
「あ、それボクも考えてた! 所々が光るようにしてってだけだったけど、宝箱だとちょうどいいね!」
「それで、……そう、大広間のところにはインパクトのあるボスの幻影!」
「いいね! カカオ魔人みたいな?」
「カカオ飛ばしちゃう! みたいなのもよくない?」
 わいわいとヴェルクリエトリオの相談が盛り上がる。聞いていたアーシェルも口を開いた。
「なあ、人形あるって言ってたよな」
 彼がイメージするところを伝えると、ヴィンツ・ラッテはんーと考えながら首を左右に傾ける。
「出来なくはないけど、一つひとつ出てくるんじゃなくてもいい?」
「ああ、もちろんだ」
「時間が来たら人形が出てくるなんて、とっても素敵なアイディアだね」
「それは面白そうだ。ぜひチョコレートやカカオ豆を……」
「あっ、カカオいっぱいが良いならいい紋具あるよ!」
 ハーヴィとスヴァンも参加し、人形と装飾について詰めていく。
「なあ、皆の姿を人形で作ってもいいか? 嫌なやつはちゃんと暈すからよ」
 アーシェルが皆に確認をとり、
「王子とお姫様人形の周りに幻影を出すことって出来るかな? それで昼夜とか、季節に合わせて幻影が変化していくんだ」
 ハーヴィはイメージを伝えていく。昼になったら花や鳥を、夜なら瞬く星、春は菜の花で秋は紅葉。想像するだけでも美しい。
 ヴィンツは目を輝かせながら聞いていたが、悔しそうに口を尖らせる。
「たぶんできない。決まったパターンを一定時間繰り返すみたいなのは大丈夫かもだけど、それだけ長く複雑な効果を発揮し続ける紋具は材料と触媒の吟味から必要かな。うー、時間足りない」
「そっか……まあもし出来たらっていう話だったから気にしないで。無理そうならお花だけでも素敵だって……」
「だからー、オレに任せて!」
 ん?
「任せてって?」
「良い考えがあるからー」
 楽しそうな青年はただにこにこしている。今は教える気がないらしい。
「ねえ、十二時を回った時に派手な演出とかできないかな?」
「派手?」
「ばーん、みたいな」
「ばーん!」
「文字盤の色が変わるとかわかりやすくていいかも?」
「わー難しそう!」
 クロハの伝えるイメージもヴィンツは楽しそうに聞くが、また口を尖らせる。
「うーん、幻影が範囲指定できたらいいけど難しそう」
 せっかく提案してもらったのに、実現できないのがもどかしいらしくゆらゆらしていた。ひとまず派手な演出を考えるそうだ。
「そうだ、文字盤の文字。装飾文字に変えていい? 花文字って技法があるんだけど、あれを試してみたいなって」
 ハーヴィの言う花文字とは、数字の中や外に様々な花をデザインした文字のこと。
「とっても素敵!」
「文字盤も賑やかになりそうだねー!」
「花文字があるならカカオ文字も……?」
「読み辛そうだなそれ」
「あと音楽も相談しておきたいな」
 ハーヴィは決まった時間帯に音楽を鳴らすことも提案するが、
「うー、録音と再生できる紋具は研究中ー……」
 かなり難しい類の効果らしい。

「それにしてもヴィンツは手先が器用なのかな? すごいね」
「新しいもの作るの大好きだから!」
 瞳を輝かせてにかっと微笑む。クロハは感心したように頷いた。
「ボクにもできることがあればなんでも手伝うよ」
「俺も手伝うぞ」
「私も! お手伝いからお遣いまでなんだってするから、気軽に教えてね?」
「ボクも何かあったら力になるよ!」
 クロハにアーシェル、アンネエルカにクレアと口々に言う皆にヴィンツは目を瞬かせ、楽しそうに笑った。
「じゃあいっぱい頼む! よろしくね!」

 ひとまずの方向性は決まった。聞いていた地区代表テオドール・ヘルツェンは心底楽しそうだ。
「わー、本当に楽しみだな……! ヴィンも追加で支援するね。素材も用意しておくよ、アトリエに送る」
「オレはお金要らないよ?」
「またそんなこと言う。駄目。公共事業なんだからはーらーいーまーすー」
「うーにー」
 ヴィンツの頬をびよんびよんした後、テオは冒険者に振り返った。
「本当に楽しみにしています。改めて、時計塔をよろしくお願いしますね」

●ペイント開始!
 一日目。
 下絵用にと持たせてくれたクレヨンを摘みながら、アンネエルカはううん、と悩む。
「まずスタート地点から決めた方が良いかしら」
「そだねー、そこから通路とか部屋をまず描いて、どんどん装飾足してく感じかな?」
「迷路みたいに幾つかルートも作って、通路に模様も描いて、小部屋にはサプライズもあって……」
「クリーパーや獣、お楽しみに綺麗な植物や鉱物も!」
「ははっ、すげえ賑やかになりそうだな」
 はしゃぐアンネエルカとクレア、それにアーシェルでペイントをする手順を決めていく。
 スタート地点は誰からも見え、一番目立つところがいい。相談した結果大通り沿いの文字盤の下に大きな丸を描いた。
「それじゃバトンタッチ!」
 大きな丸から通路を描き、小部屋を足して迷路にしていく。足場を上に下に、行ったり来たり。アンネエルカが全体を見て指示し、身軽なクレアが道筋を描き、アーシェルは雑務兼見守り役だ。
「クレアもアンネも、油断して落っこちるなよ?」
「はーい! ねえ、こっちの壁もいっちゃう?」
「そうね! 下から右へ左へ、って見ていくのが楽しそう!」
 その後もわいわい話し合いながら、ダンジョンの基礎を作っていく。

「わー、高いねー」
 一番高い足場に登りクロハは街を見下ろす。この地区全体が見え、眺めも良い。
 時計塔を振り返ると、一番てっぺんには何かの飾りが見えた。あそこに立って見下ろせばもっと眺めがいいのだろうけれど。
(思うだけ)
 クロハに出来なくはないが、そんな気分にはならなかった。
 ぴょんと広場に降りてペイント材を手に取る。ふと周りを見るとスヴァンが柱へ一心不乱に何かを描いていた。濃い茶色を使っているからきっとあれだろう。
「ボクも描き始めようかな」
 想像するのは白いハト。自由で真っ白な姿が飛んでいる、歩いている、樹に止まっている。
 イメージを膨らませながら広場に白を重ねていく。
 一方、ハーヴィは文字盤付近に張り付いていた。花文字を書くためだ。
「ここも文字盤が四面あるから、それにちなんだ花を系統立てて描いていくのもいいな」
 どんな花が良いだろう。四季折々の花を想像しては頭の中で文字に沿わせていく。
 ただ文字数は全部で48、一つずつ丁寧に描いていっても期日までに間に合うだろうか。
 ひとまず節目の文字を装飾していこうと、ハーヴィはパレット片手に『12』の文字の上へ筆を置いていった。

 二日目。
「後は何色ー?」
「青と白、黒は運んであって……なあヴィナ、今日は何が必要だ?」
「黄色も欲しいな」
 基礎を目に見える形で作った初日から進み、塗りの作業が大半となってくる。
 冒険者たちは協力し、ペイント材や道具など必要な物を下から上へと渡していく。
「クレアたちはすごい量のバケツだな」
「色んなダンジョン部屋を作ったしね! でも皆と描けるし、ボクお絵かきも好きだし、完成も楽しみだしでやる気十分だよ!」
「はは、それは俺も楽しみだ」
「カッシアさんとヴィナスさんの空もとっても楽しみよ!」
 アンネエルカへの返事代わりに軽く笑って手を挙げ、刷毛を持ったカッシアは梯子に足を掛ける。持ち場は屋根上だ。
「カッシア」
「ん」
 差し出された手を掴み、そのまま引っ張り上げられるよう足場まで上がった。
「今日は青空と夜空だったな」
「うん。一度ベースとなる色を塗って、そこから重ねていくと綺麗に塗れると思う」
「へえ、丁寧に塗らないとな」
 昨日は大まかに配置を決めたから、今日からは塗り。作業を確認しながらカッシアはふと自分の手を見る。
(大分自然になってきた、な)
 以前まで、屁理屈が手助けしてくれないと手を繋ぐこともままならなかった。
 小さな進歩にぐっと手を握るが、ふと考える。
(……どうしてこんなにヴィナと手を繋ぎたがっているんだ?)
 しばらく手を見ていたが、ああと思い当たる。前に似た者同士だと感じたから、親しくなりたい。だからだ。
 桶で塗料を混ぜ、カッシアは夜空のベースとなる色を作る。ヴィナスは青空だ。
「星はどの時間帯も描こうか。青い空にいちゃいけないってこともないし」
「それいいな。あんまり目立たないかもしれないけど」
「いいんじゃないかな。その方が自然だし」
 屋根と向き合い、カッシアは星空を思い描く。ガラス、天文台、そして――今ではたくさん眺めるようになった景色。
(でも今は旅をしてないし、方角を見るでもないのに……何で見上げるんだっけ)
「俺も星空塗るの、手伝っていいかな」
「もちろん」
 ヴィナスもまた星空を思い浮かべる。遠目で見た時、きらきらと輝く宝石に見える描き方が良い。
「あのお姫様は案外早寝で夜空を見てなかったりして」
 それは以前交わした御伽噺。もしかしたら、星のことも知らなかったのかもしれない。
「あー……なら、見つけられなかったのも仕方ないな、……うわっ!」
 気もそぞろに作業していたせいか、桶の中で刷毛が跳ねた。青が飛び散る。
「カッシア、平気? 塗料ついてるよ」
「お、おう……悪い、ヴィナの方にも飛んだな」
 ヴィナスが顔を覗き込み、布で優しく拭う。その頬にも青がついていて、カッシアは手を伸ばし袖で拭ってやった。そのまま瞳が重なり合う。
(――あ)

 そこに、美しいものがあった。
 無意識にカッシアが探していた、あの。

(そうだ。前に、ヴィナの瞳に映った星があまりに綺麗で……)
 それをもう一度見たくて何度も夜空を見上げた。けれど、あの時ほど綺麗に感じられなかったのは。
(ヴィナの瞳に映った星が綺麗なんじゃなくて、ヴィナの瞳に映ってるから綺麗だったんだ)
 ――気付いた瞬間、カッシアの頬に熱が集まる。
「ね、カッシア」
「ふあっ」
 綺麗な宝石がカッシアを覗き込んでいた。
「今、俺の目に星はある?」
「は!? そう……かもな!?」
 もう直視できない。カッシアはばっと顔を逸らしてフードの中に籠城する。
「なんてね」
 フードの中で震える相手に優しく目を細める。以前感じた嬉しさが、ヴィナスの胸を満たしていた。

●彩り重ねて
 三日目も滞りなく済み、四日目。
「ふんふんー、ふふーん♪」
 尻尾を揺らし、気の向くままに歌いながら刷毛を動かしていく。
 ビビットに染めるのは綺麗な植物、鉱物、クリーパーに獣、忘れちゃいけない仲間たちの姿!
「あら、楽団の歌ね」
「そう! 歌ってると頭に残るよねー」
 ヴェルクリエで人気の楽団や劇団もフェスタに参加予定らしく、連日通りで演奏や即興劇を行っている。
 屋台の準備や人通りも増え、カカオ・フェスタが近付くにつれ街中も賑わいが増してきた。
「アンネの方はどんな感じ?」
「ダンジョンの通路も小部屋も塗り終わったから、お楽しみの宝箱を描くの!」
「いいねー!」
「あ、アンネ。ちょっとこっち」
 ちょいちょいと手招きされるままアーシェルに近付く。
「顔にインク付いてるぞ」
「まあ、本当?」
「擦るな擦るな! 拭いてやるからじっとしてろ」
 頬に手を添え、柔らかな布で拭いてやる。
「これでよし。……いやつうか服インク塗れだな」
「一生懸命描いていたからかしら。とってもカラフルね!」
 彩りに染まったエプロンドレスを翻し、アンネエルカはくるりと回る。楽しそうだ。
「アーシェルくんは順調?」
「まあな」
 そう言ってまた虹に色を足していく。キャンティ地区、そしてあの青年をイメージして。

「手が必要か?」
「うん、手伝ってくれるなら助かるなー」
「いいだろう」
 外壁の開いている場所にもハトを描いたが、空はまだ。屋根から広場に降りる形で天井にも空色を塗っていこうと考えた。
 バランス感覚もよく壁登りもできるクロハ一人でも問題なかったが、チョコレート菓子を幾つも描いて満足そうにしていたスヴァンが手助けしてくれる。
「白いの、こっちが青空か」
「そうそう。んー、天井だけの方がよさそうだね、……わ」
 上から広場全体に視線を移すと、柱や内壁にカカオ豆や菓子が並んでいた。とても丁寧に描かれている。
「外の壁にカカオ宝箱を描く際は呼んでくれるらしい」
「よかったね。……あ、ハーヴィ」
「やあ。少し塗料を分けてもらいたくて。賑やかになってきたね」
 ハーヴィが気さくに声をかける。あちこちをペイント材でカラフルにし、裾をまくった腕と顔はほんのり焼けていた。
「焼けてるね」
「連日外の作業になっているからね。君は大丈夫みたいだけど、気を付けているのかな」
「うーん、中にいるのもあるかも。花文字は順調?」
「そこそこかな。12、3、6、9は終わったよ。今は虹と、その周辺に空も塗ってるんだ」
「ああ、ちょうど良いね」
 雑談を交わしていると声が聞こえてくる。カッシアと、後ろからヴィナスだ。スヴァンの瞳が光る。
「! それは……!」
「街の方から、『頑張って』とお菓子を持たされたんだ」
「休憩がてら皆で食べよう」
 二人の持つ籠にはチョコレート菓子がたくさん詰め込まれている。
 アンネエルカとクレア、アーシェルも合流し、皆でしばらく談話しながらお菓子を摘んだ。

●一方その頃
 紋具作成の手伝い、及び装飾を作る場所としてヴィンツがアトリエを貸してくれるらしく、アーシェルはメモを片手に街を歩く。
 それらしき個性的な扉見つけ、ノックしたが返事はない。
 声をかけてから扉を開くと、鉄と油と絵具……だろうか、何ともいえない匂いの中、ヴィンツが黒ずみに汚れた顔を上げた。
「あ、やっほー! 人形作る? そっちに材料あるよ」
「ありがとうな、……いやここすごいな」
 床、壁とごちゃごちゃ散らかり放題だ。
「片付けた方がいいんじゃないか?」
「真っ黒さん、オレと目の色似てるねぇ」
「何の話だ」
 他愛ない話をしながら各々作業にかかる。王子、姫に金髪エルフの青年の人形――
「これはお前の人形だ」
「オレっぽい! 双子ー」
 人形を顔の横に持ち、嬉しそうな様子にふっと笑う。何体か作った後、ふとアーシェルは顔を上げた。
「メシはどうしてるんだ?」
「んー……」
 話しかけてもほぼ返事がない。仕方なく自分で済ませて帰ってくるとまだ作業していた。よく見るとクマもすごい。
 アーシェルは理解する。多分こいつ、寝ても食べてもいない。
「食え! あと寝ろ!」
「やだー!」
 追いかけっこの末捕まえきっちり面倒を看た。
 その後、クロハとアンネエルカ、クレアも時折手伝いに赴き、ヴィンツとアーシェルの作業スピードは大幅に上がった。

●
 五日目も過ぎ、六日目。
 大半の色塗りを終え、今日から手が空いている人は装飾、及び紋具設置の手伝いだ。
「ここでいい?」
「うん! その水色の薬を塗った後に装置をぎゅっとするんだ」
 クロハが薬を壁に塗り、スヴァンは興味深げに見ている。
「魔法薬、か?」
「強力な接着薬! うっかり手に付けば削んないと取れなくなるかも!」
 さらりと恐ろしいことを言いながら、ヴィンツの指示の中数人がかりで設置する。大通り沿いの壁に置いたこれが、時間になると開く仕掛けだ。
 さらに音を変える代わりに鐘の音を鳴らす時間を絞るらしい。住民から聞いた結果、朝昼夜の節目が嬉しいとのことで8時、12時、18時となった。
「12時だけは花火みたいな幻影の紋具で光と音散らしてー、あとこれは人形周りの幻影紋具。春バージョン!」
「春バージョン?」
「キミのアイディア、季節ごとにオレが紋具を取り換えれば出来るなって!」
 ハーヴィの提案を全力で叶えようとした結果案らしい。
「後これ! カカオ! 好きなとこに置いていいよ!」
 ぽんと渡されたカカオ豆の紋具? にスヴァンはエーテルを通わせる――と、ぽんぽんぽんと次から次にカカオ豆が増殖する!
「なん、だと……!」
 増殖した分は幻影だ。触れられないが、スヴァンが呻く。これは……最高だな。
「クレア、この紋具を宝箱の近くにお願いできる?」
「はいはーい! ……わ、すごい。キラキラする!」
「夜に見たらまた綺麗だろうな」
 クレアが作動させた紋具から輝く光が散っていた。形も宝石みたいで、本当に絵の中の宝みたいだ。
 ――紋具に夢中になっていたせいか、バケツに足が引っ掛かる。
「わあっ!?」
「クレア!」
「大丈夫!?」
 咄嗟にアーシェルが手を引き、抱き留める。バケツも問題なさそうだ。
「無事か?」
「あ、はは……ビックリした。ありがと、アーシェルくん」

 七日目。
 アーシェルの作った装飾をあちこちに飾り、紋具も装置も設置して、空いていた箇所を埋めて。
 ――そうしてようやく、新しい時計塔が完成した。

●カカオ・フェスタ、開催!
『さて、それでは今回の功労者を紹介いたしましょう!』
 拡声紋具を通した地区代表の声が響き、楽団が曲を奏でる中、冒険者たちが壇上に上がっていく。広場は殆ど満員だ。
 軽く紹介をした後、テオの合図で時計塔にかかっていた布が取り払われた。

 目に飛び込むのは、塔の壁面をふんだんに使った『ダンジョンペイント』。
 スタート地点から通路、小部屋があり二手に分かれ、そこから通路がまた伸びて、次は別の壁面……とどんどん目で追っていってしまう。
 小部屋には遠目でも目立つ鮮やかな植物や宝石、モンスター、宝箱だって見つけられる。大広間まで辿ると巨大なボス、それを抜ければお待ちかね、大きな宝箱!
 周りのスペースには星や花、チョコレート、動物の装飾も飾られている。時計塔をぐるりと利用して、見るだけで楽しめる一つのダンジョンが完成していた。
 同じくらい目を引くのはダンジョンにかかった虹。青空にかかった虹もあり白いハトが飛ぶ。彩りが鮮やかなそれは、カラフルなこの街と良く似合っていた。
 文字盤は鮮やかな花文字で彩られていた。春、夏、秋、冬の花や植物をイメージされたそれも見るだけで楽しい。大きなどよめきが起こった。
『うわっ……ダンジョンだ、花文字もすご、うわ……! そう! 屋根もすごくて! 青空と夕暮れ、そこから星空と朝焼け! 全て綺麗な空だけど全部に星があるんですよ!
 鐘の広場もすごいんです! 天井にも四つの空があって、そこを白いハトが優雅に飛んでいて! カカオ・フェスタに合わせてくれたのかな、増えるカカオ紋具と、チョコレートの絵もいっぱいなんです!』
 かち、と音がして鐘が鳴り、誰よりも興奮していたテオがさら興奮する。12時だ。
 ひゅるる……ぱぱぱーん、という音と共に空へ幾つか花火の幻が上がった。
 装置が作動し、12体の人形たちが屋根下から出てきて手を振る。王子と姫、その周りに10体の個性的な人形。周りには柔らかな色合いの花や草、そして桜の花びらの幻が散る。
 それと同時にダンジョンもまた姿を変える――宝箱はきらきらと光を発し、ボスのカカオ魔人が5mほどの巨大な姿になり、カカオを飛ばしてくる。
 賑やかで、楽しくて、楽しませようとする気持ちが詰まった時計塔。
『うわー……っ! ちょっと! 皆さんすごいですね!? すご……素晴らしいです……うわ、ちょっとまた後でじっくり見せてもらいますね!
 ――今回の時計塔をデザインしてくれた冒険者の皆様に、盛大な拍手を!』
 割れんばかりの拍手や歓声が巻き起こる。それは暫く鳴りやまず、それぞれ一言ずつ壇上で言葉を求められた。

『なあ、ちょっと貸してくれるか? ……ヴィンツ!』
 拡声紋具を手にしたアーシェルが呼ぶとヴィンツが顔を出した。その腕を掴んで挙げる。
『誰よりも頑張ったのはこいつだ。七色の紋具師ヴィンツにも盛大な拍手を送ってくれ』
 また拍手が起こる。驚いた表情を見せた後、ぶんぶんと手を振って、ヴィンツはアーシェルの後ろに隠れた。
「どうした?」
「慣れないー」
 アーシェルは軽く目を見開いたが、そのままにさせておいた。

 ここからはお待ちかね、カカオ・フェスタだ。
 道行く人々に声を掛けられながら、ハーヴィは楽しげに歩いていく。チョコは好きだし、様々な屋台を見て回るのも楽しそうだ。
 まずはとチョコレートファウンテンの広場へ行くと、見知った顔。
「スヴァンさんも来てたんだ」
「うむ、まあな」
 言葉少なに応じたその手には果物がたくさん乗った皿とフォークがセットされている。ファウンテンの前を控えめだが陣取り、既になかなかの量を食べた後のようだ。
「チョコレートは良い物だな」
「はは、わかるよ。僕も楽しませてもらおう」
 そう言ってハーヴィはお菓子の入った籠から幾つか取る。白くて丸っこいお菓子にチョコを付けて食べると、口の中でふんわり溶けた。

 クロハもフェスタ内を歩いていく。目当ての屋台には大勢の人が来ていた。
「ブンテトルテがほしいな」
「あいよ! おや、時計塔の冒険者さんじゃないか。色々持ってきな!」
「いいの? ありがとう!」
 ブンテトルテは小さなタルトの上に果物とクリームが乗ったお菓子。果物とクリームの色が特に個性的で、白から青、黄、緑と色々だ。
 食べてみると、甘くてさくさくして美味しい。山盛りになったブンテトルテをクロハは細い体の中に収めていく。
「あれ、スヴァンとハーヴィ」
「やあ。おや、また会ったね」
「うむ」
 同じ場所に行く途中だったのか、二人一緒に来てブンテトルテを注文していった。
 近場に野菜チョコレートの屋台もあったので、三人で覗いてみる。
「人参、芋、山菜……花に葉物もあるんだが、美味いのか……?」
「変わり種もあるね。ハンペンタコにチェリーイカ……野菜じゃないね?」
「うわっ、ばくはつ豆っていうの口の中で弾けた」
 食べてみると意外と美味しい。三人はしばらく野菜チョコレートを楽しんだ。

 両手に紙袋を携え、スヴァンは『カカオ飛ばしコンテスト』の見学に顔を出した。
 チョコレートを粗末にするとはけしからんと思っていたが、どうやら飛ばすのはカカオ豆を模した張りぼてらしい。
「ならば、よし」
 安心したスヴァンは傍のベンチに座り、買ったチョコレート菓子に舌鼓を打つ。紙袋の中にはお土産となる菓子がいっぱいだった。

 ヴェルクリエのフェスタは人通りが激しくなる。今日も例に漏れず、広場はすれ違うのも苦労するほどだ。
「カッシア」
「なんだヴィ、ナ……ッ!?」
「はぐれないように」
 小さく笑い、その手を繋ぐ。カッシアは引かれるままついていく。
「カッシアは何が気になる? とりあえず見て回ろうか」
「お、おう……」
 手を引きながらカカオ茶の屋台へ。辺りには香ばしい香りが漂っていた。
 二人分のお茶を買い、飲んでみるとチョコレートの香りがするさっぱりとしたお茶だった、
 傍にある野菜チョコレートの屋台も覗いてシェアハウスへのお土産を見繕い、次はブンテトルテの屋台。
「甘さ控えめのものはあるかな」
「ああ、何でもあるよ!」
 お勧めされたのは緑と、茶色のクリームのもの。リョクチャとカカオのブンテトルテらしい。
 食べてみると確かに甘みは強くない。良い香りが鼻に抜けていった。
「カッシア、これなら大丈夫そうだよ」
「ん、……」
 言われるまま食べてみる。……味がしなかった。
 そもそも今どこにいるか、何をしているかも殆ど記憶が無い。手を繋ぎだしてからずっとそうだ。
「いや、というか。これ君口付けたやつだろ」
「ああ、ごめん。気になったかな」
「……」
 柔らかな笑みを湛えた相手を、じとりと睨む。
「ヴィナは……人たらしが過ぎる」
「ふふ。せっかくだから、他のイベントも見に行こうか」
「……ああ」
 目を逸らすが、手を隠すことはしない。ヴィナスがその手を取ると、僅かに握り返された。

「お野菜チョコは色々あるのね。あら、可愛いわ。人参が丸ごとかしら?」
「これあげたらすごいビックリしそうだねー」
「いいんじゃねえか? これとこれも、日持ちするの全部買ってこうぜ」
「賛成! 気になるものは全部買っていってしまいましょう! お祭り屋台は一期一会だもの、迷ってなんかいられないわ」
「カカオ茶も買って、帰ったらみんなでお茶会しよーよ!」
「いいな、一緒に食いたいし」
 アンネエルカ、クレア、アーシェルの三人はわいわいとお土産選びだ。選ぶのも楽しい。
 結局目についた気になる物、カカオ茶に丸ごと野菜チョコレート(干した人参、芋、ベリー、オレンジ、苺など)を買い込んだ。
「後はブンテトルテも行きましょう! また新作が出てるっていう話よ」
「ね! 慰霊祭のはケーキみたいだったよね。今回はカカオ・フェスタ仕様かな、楽しみー」
「そんなに急がなくても逃げねえぞ? ヴィンツも行こうぜ」
「はーい!」
 勝手知ったるヴェルクリエトリオに案内され、ブンテトルテの屋台へ。
「苺だー!」
「んっ……甘酸っぱくて美味しいわ!」
 新作には、チョコレートクリームと赤い苺、そしてカカオの飴細工が乗っていた。
「毎回新作あるのか?」
「お祭りごとにあるわ!」
「いつも楽しみだよねー」
 話しながら、次はチョコレート売り場へ。途中で声を掛けてきた軟派男は、アーシェルが一睨みすると足早に逃げた。
「ん、美味しい!」
「本当ね、……まあクレア、アーシェルさんとヴィンツさんも!」
「ははっ、すげえ光ってるな?」
 ぼんやり光る七色光チョコレート、それを食べると食べた色に身体がぼんやり光った。ヴィンツも光りながら面白そうに駆けている。
「肉にチョコは……さすがにねえか」
「これ!」
「マジか」
 干し肉チョコに目を瞬かせる。お土産がまた増えた。
「これ、何かわかるか?」
 チョコレートファウンテンでは、アーシェルからのクイズ。
「んー……わかった? アンネ」
「ええ! 一緒に言いましょうか。せーの、」
「「「レモンキャット!」」」
「正解。聞いたことない果物なのによくわかったな」
「だって食べる時ににゃーって」
「これ鳴くのか!?」
 それからも食べて、飲んで、笑って。
 賑やかなカカオ・フェスタを賑やかに、心行くまで楽しんだ。

マスターコメント

お疲れ様でした! 時計塔は新たにキャンティ地区の名物となり、地区代表も大変喜んでいます。 住民も楽しんでいるようです。 MVPは多方面を気に掛けてくださった方へ。ただ皆さんへの感謝の大きさは変わりません。 ご参加いただきありがとうございました!
ショートEX

ショートEX易しい 報酬:多い8 / 4〜8人

2021年03月26日 03時03分29秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ヴィンツ・ラッテ

    揃ってる!ヴィンツ・ラッテだよ、よろしくね! デザインがどんな感じになるかすーっごい楽しみ!オレもちゃんと手伝うよー!

  2. No.2

    クロハだよ、よろしくね。 どんな風にぬりぬりしよっかな~

  3. スヴァン=ウォルフ=ユーウェン

    スヴァンだ。 ……勢いだけで来てしまったが、まあ……できる限りやろう。 (カカオ・フェスタが目的だとは言えない)

  4. ヴィナス

    シーフのヴィナス。 よろしくね。 俺もできる限りのことやるつもりー

  5. アーシェル・G・クライン

    アーシェルだ。よろしく頼む。 時計台の装飾もセレモニーもカカオ・フェスタも楽しみだな。 >ヴィンツ キャンティ地区のイメージカラーやモチーフとかはあるか。 知ってたら教えてくれ。 >装飾 時計台の中にある人形は一時間ごとに出てくるイメージでいるんだが……間違ってないか? その人形の中の2つをバレン王子とタイン姫の人形に変えるのはどうだ?

  6. クレア・エクレール

    カカオ・フェスタたのしそー!ってわけで、遊びにきたクレアだよー! よろしくよろしくー!! あっ、お手伝いもちゃんとします、ハイ、ヨロシクオネガイシマス(正座 ボクは高い場所の作業のお手伝い出来たらいいなー。 アーシェルくんが聞いてくれてるけど、イメージカラーとかモチーフがあればそれに合うような色を塗りたいなって。

  7. アンネエルカ

    アンネエルカよ、アンネって呼んでくれても大丈夫! お祭りが楽しみなのは勿論、ヴェルクリエを盛り上げるためにもがんばりたいわ!! あのね、カカオの流通ってダンジョンのおかげだったじゃない? それにあやかるというか、カカオフェスタもあることだしちょっと関連した飾りとして 時計塔にダンジョンを模したペイントはどうかな~って思ったわ。 もちろん、皆のアイディアもあるから全面じゃなくって一部だけで大丈夫。 迷路みたいな感じで、子供たちが目でたどって遊べるイメージって言って伝わるかしら… 途中に宝箱のある小部屋を描いてそのまわりを紋具でピカピカ光らせたり、 ボスモンスターっぽい幻影が浮かんでる感じとかもしできたら楽しそうだな~って思ったの。 私、お絵かきはあんまり得意じゃないけれど…いっぱいいっぱい頑張りたいって思うわ。

  8. ヴィンツ・ラッテ

    (スヴァンをじーっ) チョコ食べたそうな顔してる! >イメージカラーやモチーフ カラフル!ごちゃごちゃ! 通りの家の壁も一面赤、黄、緑、青、ピンク、茶色とかホントにたくさんあるんだ。 アトリエの屋根や壁には犬猫鳥ウサギやゴーレム、花星お菓子にクリーパーみたいな絵、彫刻、仕掛けとかいっぱい! 土地柄はエーテルの影響もあって不安定、古都市の上に新しい技術や芸術が合わさって出来た地区。 自由でいいんだよ、だってここはヴェルクリエ!キミの好きなもので街を飾って! あっ、ちなみに去年が空想上の生物、一昨年がクリーパーモチーフだったみたい!聞いてきた!偉い? >一時間ごとの仕掛け 出てくる仕掛けない!けど面白そう!作っちゃう?上手くできるかはわかんない!時間になったら文字盤か台形屋根の下から出てくる感じ? 前あったのは、文字盤の左右に台を付けて、そこにクリーパー人形置いて手みたいなのを振らせてたよ!

  9. アーシェル・G・クライン

    >ヴィンツ たくさん教えてくれてありがとな。 すごく助かる。 そうか、この地区は色んな色や物で溢れてるんだな。 俺の好きなものか……。 肉はさすがに色気がねぇし、本番までに書きたいものを決めとくな。 去年と一昨年のモチーフも聞いてきてくれてありがとな。 おう、偉い偉い(子犬みたいだなと思いながら微笑む) 時計の仕掛けはヴィンツが言ってくれてるやつで大丈夫だ。 クリーパー人形の代わりに姫と王子の人形を置いて手を振らせてみようぜ。 >アンネ ヴィンツが好きなものを自由に描いていいって言ってくれてるから、遠慮せずにアンネの好きなものを描けよ。 俺も手伝うぜ。

  10. カッシア

    挨拶が遅れたけれど……キャスターのカッシアだ、よろしく。 モチーフはかなり自由なようだね。 独自のアイディアがある人もいるみたいだし、俺は空いてる所を埋めるのをメインとしようかな。何も描かれてないところがあると逆に目立ちそうだし。 当日はよろしくね。

  11. ヴィンツ・ラッテ

    >偉い偉い わーいやったー!(くるくる周りを回り) 仕掛けもわかったー!けど忘れちゃうからあっちでも教えてね! オレの意見入るとなーって思って我慢してたけどダンジョンペイントすっごい楽しそう!紋具作るの、オレ頑張るよー! 皆が描くのもすっごく楽しみにしてる!

  12. アンネエルカ

    >ヴィンツさん ありがとう!とっても嬉しいわ! 紋具はヴィンツさんだよりだもの、いっぱいいっぱい頼らせてね。 もちろん、お手伝いもバンバンしちゃうから現地で何かあったら気軽に教えてくださいな。 >アーシェルさん ええ、ありがとう! おかげでちょっぴり気が楽になっちゃった。 アーシェルさんも何か大変なことがあったら教えてね。私もお手伝い、がんばるわ!

  13. ハーヴィ

    遅ればせながら自己紹介、キャスターのハーヴィだよ。みんな、当日は宜しくね。 アーシェルさんが提案している時計の仕掛け、とっても素敵だね。手を振る動作をさせる時にプラス、周りに幻影で花とか星とか出て来たら綺麗だろうなって思うんだけど、そういうのってヴィンツ、出来るのかな? もう相談している暇無さそうだから、とりあえず提案するだけしてみるね。

  14. ヴィンツ・ラッテ

    >頼らせて 任せて!依頼されて作るのは結構好きなんだ、だって色んなアイディアがどんどん生まれる!手伝いはねー、力仕事頼んじゃうかも! >幻影で花とか星 出来るよ!オレ星だーい好き!花もひらひらーって花びら舞う感じかな、キミのイメージを依頼する時に聞かせて。オレはそれを叶えるよ!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0