【CP】幽暗行路

棟方ろか

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シナリオID:665

オープニング

 悪路も構わず荷車が走る。
 キャンプの大きな通りを行き来する荷車と人々は、物を運び入れるのに必死だ。
「どいてくれ! 轢かれちまうぞォ!」
 コボルトという脅威を認識した難民キャンプでは、いの一番に届けようと顔馴染みの商人や輸送隊らが急いでいた。行き来の頻度が高まり、乾ききった道では砂埃が絶えず舞って、いつもより景色も霞んで映る。
「赤ん坊連れと身重の女は今のうちに砦へ避難を! 軍人さんが守ってくれる!」
 避難を促す難民が、荷車を避けて回る。時折ごほごほと咳込むのは、砂塵を被ったからだ。
「丸太はどんだけ運んであるんだ? 足りそうか?」
 運搬を手伝う子どもたちへ男性が問うと、少年少女は一度だけ顔を見合わせて。
「壁と柵作るぐらいはもういける。でも仕掛けとか作るなら、あと三往復は要るかも」
「食糧もね! みんなと冒険者さんに行き渡って、お腹がすかないようにするには、もっと必要!」
 言うが早いか彼らはバタバタと駆けていく。尋ねた本人は、彼らの言動に「へえ」と唸る。
「……計算の仕方を覚えたからか、必要な量がわかるようになってきたんだな」
 危急の時ではあるが、先日開催された青空教室の効果を男性は実感した。
 一方、別のところでは。
「土嚢はどうだ? 手入れも済んだか?」
「ああ、冒険者が用意してくれた土嚢の防壁だ。しっかり確認してきたぜ」
 一部の区画に冒険者たちが積み上げた土嚢は、今なお役割を果たし続けている。しかしそれだけでは足りないと、男たちは今まで後回しにせざるを得なかった『防備』へ意識を集わせていた。
 外敵への脅威に備えて守りを固めるのは、限られた物資で行うのに限界もある。
 かといって手を止めてはいられない。

 せっかく安定してきた日常を、暮らしてきた場所を、守らねば――今度こそ。
 一度は失い、逃れてきた者たちの意志が、彼ら自身の手足を動かしている。

●天幕にて
「ここで難民(おれたち)が強いと世間に示せれば、帝国奪還により近づけるはずだ」
 ぽつりと零れた元帝国兵の本心が、波紋を生むきっかけだった。
 帝国崩壊から時間があき、現実を受け入れる人も増えてきた時期だからこそ、彼のような考えを抱き始める難民は、珍しくない。
「冒険者の力は必要不可欠だ。だが俺たち自身も、何らかの戦績を残せば……」
 この辺り一帯を取り仕切る難民たちが集まる天幕で、キャンプへ合流して間もない彼の発言は、物議を醸す。触れずに来ていた心根を暴かれたようで、数人が渋面を作る。
 兵士の言そのものが、この場にいる大人たちも抱いている想いだった。
「確かな実績を得て、帝国へ戻る足がかりとしたい。『難民』という弱き立場に甘んじることなく」
 男の発言により沈黙が張り詰めた中、テタール伯の末娘リュシエンヌが声をあげる。
「故郷の地を踏みたい気持ちは、私も同じです。ですが、まだそのときではないと思うのです」
 キャンプには、獣などとの戦いを経て経験を得た者もいるが、少数だ。強さも当然、冒険者ほどではない。そして軍人や兵士だった者も、所属が様々で統率がとれる状況にない。これでは軍のように、大勢の難民を率いて戦うわけにもいかなかった。少なくとも現状段階では。
 だが、怪我や難民の護衛を理由に戦線を離れた兵士たちは――燻っていた。
 悔しさやもどかしさに。または務めを果たしたいという衝動や、情念に。
 だからだろうか。リュシエンヌを睨みつけた男の眼光は、ひどく冷たい。
「軍人でもなく、戦の教育を受けたわけでもないお嬢さんに、そのときがわかるのか?」
 男は声色も冷えきっていた。
 真っ向からの指摘に、リュシエンヌが言葉を詰まらせる。難民になる前の彼女は、館から出たことのない箱入り娘だった。書物を読むことは多かったが、兵法に触れたわけではない。武術訓練も多少していたが、戦地という名の現場へ出た経験はない。
 つまり男の言う実力を、少女は持っていない。
「リュシーの方が俺らよりわかるぞ。それはそれとして、焦るのはマズいんじゃないか?」
 キャンプ設立当初から在籍しているポールが、元兵士を宥めた。すると男は眉根を寄せて。
「俺はテタール領の出だが、キャンプ内における『深窓のご令嬢』の立ち位置については、疑問がある」
「は? あんた何言って……」
 ポールたちが瞬(まじろ)ぐも、男は淡々と続けた。
「機を逸することの無いようにして貰いたい。失礼する」
「あ、おい!」
 言い終えるや、周りが引き止めるのも聞かず、元兵士は天幕から出ていってしまう。
「……なんなんだ、アイツ。言うだけ言って立ち去るとか」
 頭を掻いて呆れたポールをよそに、トムがここで提案する。
「冒険者にこの件を相談してみよう、リュシー。防御用の設備作りも頼むつもりだろ?」
 そこで傍にいたアダンも、うんうんと首肯して。
「だな。冒険者の知識とか経験で、なんとか良い方向へ持ってければ変わってきそうだ」
「確かにそうですけど、内輪の話まで冒険者さんに頼るのは……」
 気が進まなかったリュシエンヌは、暫し沈思した後、自らの頬をぺちんと手の平で叩く。
「いえ! 躊躇ってはいられませんよねっ。お力をお借りして、前へ進まないと!」
 薄暗さばかり続く道にも、冒険者という名の光が燈っている。だから頑張ろうと、彼女は決意を改めて。
「相談はさせて頂きますけど、目下のお仕事は守りを固めることです。そこは間違いませんよ!」
 難民たちへそう笑いかけ、少女は軽い足取りで天幕から飛び出した。

解説

●成功条件  キャンプの一部区画にて、キャンプや難民の防御力を向上させる! ●状況  難民キャンプ内、リュシエンヌがよく居るエリアが舞台。  守りを固めるための設備などを、皆様と難民とで整えていただきます。  防壁を増やすもよし! 仕掛けや武具を用意するもよし! 難民を鍛えるもよし!  ただし材料や時間は有限ですので、その点だけご注意願います。  オープニングのやりとりについて、冒険者はリュシエンヌから依頼を受ける際、相談されています。  オープニングの兵士同様、リュシエンヌを良く思っていない人が、同エリアに他にもいます。  成功条件に関わりませんが、彼らの心境をどうにかできれば、今後が楽になるでしょう。  彼らではなく、リュシエンヌの方をどうにかするのも良いですね。 ●NPC リュシエンヌ・テタール  テタール伯の末娘。箱入り娘でしたが、冒険者との出会いもあり、徐々に変化しています。  帝国崩壊を機に目覚めた授恵者で、普段は薪割、事務、来客対応、警備のために敷地内を回る日々。  皆様のプレイング次第で、行動を共にしたりしなかったりします。 帝国難民たち  動ける人はキャンプ内に留まって作業しています。  オープニングの元帝国兵のように、冬以降に流入してきた人も多いです。  それと、普段からリュシエンヌと接しているメンバーに、ポール、トム、アダンという成人男性がいます。  彼らは兵士ほど強くありませんが、日々巡回も行っており、戦闘可能。  なお、難民の『避難』については、当シナリオでは気にしないでOKです。

マスターより

 戦いに備えて拠点防御力を高めるぞー!  ……と同時に、キャンプ駐在NPCリュシエンヌ周りのアレコレも扱ったシナリオです。  もしリュシエンヌ周りの状況が進展すれば、今後のシナリオが楽になると思います。  ただ解説にございます通り、成功条件を満たすだけでも大丈夫です。  基本的には、PCさんのやりたいことをどうぞ!  ご縁がございましたら、よろしくお願いいたします。

リプレイ

 仰ぎ見れば鈍色が圧しかかってくる。芽吹きの季節を目前になんて重苦しいの景色だろうと、セロンガード・シュタインドルフは外套を掻き寄せた。難民たちの未来を暗示したいのか、空も風も冷めているようにセロンガードは思う。
 だが、何よりも重いのは難民キャンプの現状だとも彼は感じた。襲撃に備え慌ただしく行き交う人々は熱を帯びていながら、焦りで血色が良くない。
「冒険者殿、どうでしょう? もっと深い方がよろしいか?」
 老体に鞭を打って手伝っていた男性が、セロンガードに尋ねる。彼と仲間の農民たちが土壌を掘り起こし、そこに濠(ほり)が生まれていた。畑を耕す要領で、とのセロンガードの的確な指示もあり、予定よりも早く進んでいる。
「コボルトの身長なら、これぐらいで問題ない」
 残された時間を考えて、セロンガードは『足止め』に重点を置く。
 生き生きと作業を続けた彼らを目にして、不思議と沸き上がる熱を覚えていると。
「濠作りは順調みたいね」
 そこへアヴェラ・ウッチェロが顔を出す。彼女の後ろには、数人の難民がくっついている。
「一区切りついたら、こっちへ人手を寄越してもらいたいのだわ」
「わかった、私から他の人にも伝えておこう」
 意図を理解したセロンガードが肯ったのを認め、彼女は広場へ靴先を向けた。
 かれらの近く、土嚢で築かれた防壁からは陽気な声音が響く。
「よう! 元気にしてたか、リュシー♪」
 土嚢を担いだハヤト=ガラン=ヴォルファングが、通り掛かったリュシエンヌ・テタールへ声をかける。
 見慣れた姿に、リュシエンヌの表情にもぱっと笑みが浮かぶ。
「ハヤトさん! はいっ、本日も元気と勇気りんりんですよ!」
「そりゃよかった! おっ、そうだ。セロンガード! 柵作り(こっち)に三人割けるか?」
 片手で数を示しながらハヤトが尋ね、セロンガードが四囲を一瞥する。濠作りは順調だ。しかしハヤトが先導して製作している防護柵は、木材の調達から組み上げまで手数を要するため、まだまだ時間もかかりそうで。
「なら俺たちがやりますよ」
「ああ、任せた」
 率先して歩み出た数人に助力を頼んで、セロンガードは再び濠の確認に戻っていった。
 そして人手が増えたのを見届けたハヤトが、次に考えたのは。
「土嚢を一方向に集めたいんだが、他はどこに積んであるんだ?」
「! ご案内します!」
 ハヤトの案を聞き、リュシエンヌが駆け出した。彼女の後背を追いながら、ハヤトは柵を作る難民たちへ声をかける。
「突撃防止の槍は固く紐で締めておけよ。あっという間に壊されたら堪ったもんじゃないからな!」
「バッチリ進めておきますぜ!」
 土だらけの笑顔で応えた彼らから視線を外し、ちらりとハヤトが流した先――建ち並ぶ天幕の陰から、兵士たちが見ている。何事か言葉を交わし、彼らはすぐに身を引っ込めた。冒険者を見物にでも来たのか、それとも。
(こんだけ規模もデカくなったんだ。纏めんのも一苦労だろな……)
 前をゆく少女の心境を想像して、ハヤトは僅かに目を細める。
 兵士の姿を目撃したのは、彼だけではない。
 仕掛けの位置を確認して回るシルヴィア・A・カペルと、備えの武具を確かめてきたサマエラ=フォリウムもまた、道中で同類と思しき人影を見かけていた。
「さっきの人とは装備品が違ったね。出身地の差かな」
 ふうむと唸るシルヴィアの横で、恐らく、とサマエラが頷く。
 リュシエンヌへ不満を表明したのが特定の部隊や団体だけなら、対策も変わってくるのだが。
「帝国は、広いな」
 ぽつりと落ちゆくサマエラの一言が、何よりも強く状況を物語っていた。

●
「非戦闘員や負傷者をただ逃がせばいい訳ではないの。伏兵がいた場合、悪手だわ」
 アヴェラが先に集めたのは、防護壁や穴堀りといった力仕事に向かない人々だ。手足がまともに動かない者、膂力をさほど必要としない職業に就いていた者、健康だが力の弱い者――けれど直接戦闘することだけが能力ではないと、アヴェラは知っている。
「コボルトも、弱そうな方を狙うぐらいしてくるのだわ。だから行動パターンを頭に叩き込んで」
 教鞭を執ったアヴェラを前に、耳を傾ける難民たちの顔は険しい。
「すぐに覚えるのは……」
「でもここでコボルトを抑えられなかったら……帝国(ふるさと)を取り戻すのなんて、夢のまた夢だよな」
 一人が呟けば、連鎖して周りも俯く。遥かな夢を望む彼らの指先は酷く汚れ、震えるばかりだ。
 だからアヴェラはパンパンと掌を叩き、発破をかける。
「一歩ずつ進みましょう、次は罠解除のレッスン、いくわ」
 こうして知識を得ていく一群とは、別の場所――。
 天幕で備蓄品の入出を管理しながら、シルヴィアがリュシエンヌと言の葉を交えていた。
「役割が元々違うのさ」
 シルヴィアは肩を竦める。
「平時なら、君が軍略を求められるような事はない。要は、兵士は八つ当たりしたかったんだ」
「八つ当たり、ですか? 私に?」
 予想だにしていなかったのか瞬ぐリュシエンヌへ、彼女は続ける。
「君は八つ当たりしやすい立場。その分、君が強くなれば皆の結束を強められる立場でもある」
「私が……強くなれば……」
 真っ直ぐ示された音を繰り返して、リュシエンヌが唇を引き結ぶ。
「強くなるのって、難しいのですね」
 惑う少女に、そうだね、とシルヴィアの澄んだ声が痛いほど響く。
「これから力をつけていけば良い。君の頑張りを評価せざるを得なくすれば良いんだ」
 碧と青がシルヴィアの瞳できらきらと揺れる。
 その彩りと、宿る光とが織り成す輝きを眼前にして、リュシエンヌの面差しにも熱意が差す。だからシルヴィアはもう一押しを添えた。
「私も最近目覚めた授恵者。初心者同士、頑張っていこう」
「は、はい! 強くなってみせます、私っ」
 そう意気込む少女へゆっくりと頷いてみせたシルヴィアは、ふと天幕の外から滲む明るさを思い出す。
「そろそろ昼食だね。……行こうか、彼らと話をしに」

●
 冒険者主催の会食は、難民キャンプらしからぬ物々しさの中で行われた。危うい時期だからこそ必要と考え、冒険者たちがリュシエンヌやポールたちに呼びかけたのだが――当然、リュシエンヌに思うところがあるという、かの帝国兵とその仲間も揃っている。
 少なくとも、彼らが同席を拒否しなかったのは救いだ。にべもなく断られては、話も前進しないのだから。
「武具の種類は複数あった方が、合う物を選べると、思うのだが」
 サマエラが思惟していたのは、武具の調達についてだ。
 ――帝国奪還に関する議論より先に、状況確認と情報の共有を始めたのも功を奏していた。キャンプにとって急務となる話題を紡げば、強張ってばかりいた彼らの目許にも緩みは生じる。
「このキャンプには、同じ帝国であっても、出身を異とする者が、多い」
 彼女(サマエラ)の静かな喋りに、仲間も、そして難民たちも相槌を打つ。
「ただ、揃える種類の幅を広げ過ぎると、訓練上の統一は、難しくなる」
 問題点にも心を配るサマエラに、兵たちが口を開く。
「我々兵士の多くは、剣にせよ槍にせよ基礎を積んでいる」
「民は日頃から扱っている道具を頼りに始めるのが良いと思うが」
 落ち着いた口調ながら、声色は厳めしい。しかし兵士らに構わず、アヴェラが例を挙げる。
「木こりなら斧、料理人なら包丁、農民なら鍬辺りね?」
 少し具体的に考えただけでも、武器になり得る物は様々だ。
 耳を傾けていたサマエラが、顎を引く。
「量産し易い物や、慣れぬ者でも距離を取って扱える物を、難民に手ほどきするのが良いと、思う」
「槍やスリングショットぐらいなら、俺たちでも量産できるな」
 難民(ポール)がそう話し終えるや、兵の一人が眉根を寄せて。
「乏しくとも戦うための道具や術(すべ)は、此処にある。それらを鍛えあげれば、きっと」
 言い放った彼の想いを前に、冒険者たちは顔を見合わせた。
「自立心があるのはいい事ね。でも急いては事をし損じるわ」
 アヴェラが短く息を吐く。今の状況では、彼ら兵士たちも足手まといにしかならない。彼女はそう考えていた。
 すると、向けられる眼差しから何を読み取ったのか、兵士はぎりりと歯噛みして。
「急がねばならない時もある。王国の者もいるであろう場では、言いにくいのだが……」
「今の私たちは単なる冒険者だ」
 ひらりと揺らした片手でシルヴィアが促せば、兵は唾を飲み込んで喉を震わす。
「支援を受ける期間が長引くほど、量が増えるほど、帝国の兵(われわれ)は功績を残せなくなるのではと」
 彼らの顔に色が為された。苛立ちに似た、もどかしい色が。
 あー、と頭を掻いてハヤトが声を発する。
「……難しい問題だな」
 所感としては、ハヤトもこれ以上のことが言えない。
 王国領内で避難生活を続ける帝国民はある意味、宙に浮いた存在とも言える。生活が安定し、未来へ目を向けられるようになったことで、考えてしまったのだろう――自分たちがどのような形で、故郷に錦を飾れるのかを。
「なら尚更、結果を得るための準備が必要になる」
 まもなくセロンガードが短い沈黙を破った。
「ある程度は組織化して、係の長に指導を一任していけたら……」
「所属も出身も疎らゆえ、それもなかなか進まないのが現実だ」
 帝国兵が溜め息を吐くも、セロンガードは話を止めない。
「人員の配分や統括は、リュシエンヌお嬢様が責任もって行う。もちろん専門家の支援(サポート)を受けて」
 彼の提言を受け、兵士は苦々しい顔つきになった。
「リュシエンヌ嬢である必要はない。民を率いるのも、責任者となるのも」
 漸く辿りついた。纏める者として、テタール伯爵家の箱入り娘は相応しくないという問題点に。
 聞いていたポールら難民も、不安を目つきに浮かべ始める。そこへ。
「まあまあ、先ずは埃が積もらないうちに食事を済ますといい」
 シルヴィアが悠々と促した。冷静さを取り戻した兵士は、重たげな腕で食事を再開する。
「空腹は意外な落とし穴なんだよ。腹の虫が悪さするからね」
「……確かに」
 兵士側も、シルヴィアの言葉は素直に受け止めた。腹が満たされていなかったのは事実なのだろう。
 アヴェラは、匙を握る兵士たちの指を見つめていく。無骨な指には種々の痕が窺える。難民生活のためか肉付きこそ薄くなっているが、彼らもまた兵(つわもの)だ。けれど彼らの心は隔靴掻痒だと、アヴェラたちにも感じ取れて。
「納得してもらうには、見せるのが一番だな!」
 一同の皿が空(から)になる頃を見計らって、ハヤトが席を立った。

●
 寧日がない元帝国兵たちを前に、冒険者たちが披露したのは『実力』だ。
「しっかり鍛錬も積んできたみてぇだな!」
 朗々と声を張ったのはハヤトだ。手合わせをしているリュシエンヌが、はいっ、と威勢よく応える。
 矢継ぎ早にハヤトが、二振りの刃で宙へ放った木片の雨を裂けば、連撃の狭間でリュシエンヌが斧を振るう。両者の動きで一驚に浸ったのは、冬以降に流れてきた者たちだ。瞠目する兵士らへ、足を止めたハヤトが呼びかける。
「どうだ、外の世界にゃ俺でも手こずる相手はいるぜ。あっちも見てみろよ」
 彼は顎で兵たちの意識を誘導した。その先ではシルヴィアたちが、難民を交えて訓練に励んでいる。
 華麗に歩を運び、シルヴィアが兵士の隙を突く。よろめいた兵とシルヴィアの手腕を目の当たりにした難民たちから、歓声があがる。慌ただしさの中であっても、シルヴィアはペースを崩さない。
「人間、やるべき事が分かっていれば落ち着くからね。それに……」
 吐息で微笑み、議題にも挙がっていた量産用のスリングショットで、毛玉で包んだ石を飛ばす。
「この通り、反撃もしやすくなるし」
「近くからでもいけるのか……」
「すごい。ちゃんと武器になるのね」
 ざわつく難民の群集へ一度だけ目を配ったシルヴィアは、流れるがまま兵士へ近寄る。
「帝国に戻りたいなら、まずここにいる人達を守ってよ。ほら、国は民が作るんだから」
 言いながらシルヴィアが長い睫毛を揺らして示したのは、アヴェラの訓練風景。
 アヴェラもまた、槍に自信があると告げていた兵士相手に善戦していた。規則正しい剣の筋を見極め、舞うように躱した彼女が――現実という名の切っ先を突きつける。
「どんな武器も、使い方を理解しないと意味がないわ」
 巧みに短槍を踊らせたアヴェラが、穂先で兵の頬をぺちりと叩く。
「……逆に、使い方を極めれば、どんな物も立派な武器になるの」
 手製の短槍は、サマエラが誰でも使えるようにと用意したものだ。
 短槍の手本を披露し終えたアヴェラは、陽射しを想起させる双眸を和らげて。
「わたしですら命の危険がある戦いに、この程度の実力で挑むのはやめた方がいいわ」
 授恵者の、冒険者としての経験だけではない。アヴェラが有するのは、人を殺(あや)めるための術(すべ)。殺めるための経験。そんな彼女でも苦戦する敵が、世に溢れ返っているのだと知らしめる。
「これでも、戦果を挙げに打ってでたいか?」
 ハヤトがそう続けたところで、兵士は肩を震わせた。
「俺たちも……授恵者だったら……」
 やがて零れた兵士の息は、掠れてまともな音を成さずに。
 しかし打ちのめされていると分かり、セロンガードが歩み寄る。
「君たちの言う通りお嬢様はまだ経験浅く、指導者として不安定かもしれない」
 彼らの胸裡で渦巻く情へ共感を表しながら、しかと伝える。
「でも、間違えてない」
「間違えて、ない、だと?」
 渇いた声だ。哀れに思うぐらい。
 だからセロンガードは痛感する。歯痒さに苛まれ続けているのは、他でもない彼らなのだと。
「リュシエンヌお嬢様を信じて護れ」
 彼の言に対して、首肯も応答もなかった。
 冒険者たちによって実力を模られた兵士たちは、今はただ俯くことしかできずにいる――。
 一方、修練の場を見学できる距離で、サマエラはリュシエンヌへ話しかけていた。
「人が集まれば、主義主張の違いは出てくるもの、だが」
 物静かながら彼女は雄弁で、少女も黙して聴き入る。
「見た限りでは、私は……悪過ぎる流れでは無い、と。そうも、思うな」
「流れ、ですか?」
 戸惑うリュシエンヌに、サマエラは間髪入れず頷く。
「故郷の地を踏みたいと、その為にどうすべきかと、燻る……根本が同じであるならば、足並みは揃う」
 安住の地を求める理由も、拠り所を心の支えとする理由も、サマエラには察することができる。
 兵士は言った。『難民』という立場に甘んじず、実績を得て帝国奪還への足掛かりにしたいと。サマエラは彼が何故わざわざ宣言したのか、その本意を想像していた。
 そして会食と訓練の様子から感じたことを、リュシエンヌへ報せる。
「見つめる先が同じままなら、必ず」
「っ、はい。そう、願います」
 前を見据えて言葉を結うサマエラの傍ら、少女もまた顔をもたげ、祈るように想いを結んだ。

マスターコメント

 お疲れ様でした!  拠点防御力の強化はもちろん、兵士たちの心情にも触れて頂き、誠にありがとうございます。  今すぐに、とはいきませんが……皆様のおかげで、彼らも徐々に変化していくことでしょう。  そしてリュシエンヌの強化も、ありがとうございました!  皆様の姿勢、アイディア、呼びかけ方などなど、学ばせていただきました。  またご縁がつながりましたら、よろしくお願いいたします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜5人

2021年03月19日 03時38分53秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。気楽に頑張るからよろしく頼むよ。 一般人と訓練するつもりだ。やるのはいざ戦いとなった時の動き……初手の確認。人間自分がやるべきことが分かっていればとりあえずは落ち着くものだからね。反撃もしやすくなるし。身重の女性や老人の避難経路の共有もしておきたい。リュシエンヌ達のいざこざにも関わろうと思ってるよ。

  2. セロンガード・シュタインドルフ

    シューター、セロンガードです。 よろしくお願いいたします。 所属が様々で統率がとれる状況にないというのは非常にまずいかもしれませんね…「係」を決めて組織化した方がいいでしょう。 材料も時間も有限とあってはもう壁の外に穴を掘りまくりましょう。塹壕とかそんな大層な者ではなく、地面を凸凹にする程度のものです。脚を取られやすくすれば、敵の進行を遅らせる事ができます。コボルトの様な低身長の人型が相手ならば特に効果的となるでしょう。そこに壁の上などの高所から投石や矢を射れば、被害を与えられるはずです。 リュシエンヌお嬢様を良く思っていない人、というのは全員オープニングの帝国兵士と同様の理由なのでしょうか?何故武器を手に取るのか忘れてしまった彼らとは、同じ帝国兵として話してみたいです。 守られる側から守る側に変わったリュシエンヌお嬢様と、守れなかった彼とでは致命的に見える景色が違います…が、それは同時に大きなチャンスでもあります。ここが頑張りどころかと。

  3. アヴェラ・ウッチェロ

    アヴェラ・ウッチェロよ。よろしくお願いするわ わたしも難民を鍛えるわね。彼ら自身がわたし達がいなくても強くなって行けるような、そんな訓練を。 あと、元兵士の人達と会話してみるわ。

  4. シルヴィア・A・カペル

    ふむ、時間があれば子供達にジド・ルウの英雄譚でも弾き語りしたいところだけど今回は難しそうだ。 係を決めて組織化するのは良いね。私の方でも役割分担の徹底と書かせてもらうよ。穴を掘るのも有効だと思う。 アヴェラは同じく一般人との訓練だね、改めてよろしく。何か手伝えることがあれば遠慮なく言ってね。 リュシエンヌをよく思っていない人達の理由は元帝国兵と同じなんじゃないかな。今回初めて会うけど人柄に問題があるようには見受けられないし……であれば能力面の不満なのだと思う。 リュシエンヌと成人男性組、リュシエンヌをよく思ってない人達も呼んで一緒に昼食をとりたいな。空腹だと悪いことばかり考えてしまうから。その時に冬以降に流入してきた人達に現状……リュシエンヌが言っている「まだその時ではない」ことをしっかり伝えたい。兵士達も分かってはいるだろうけど、ね。

  5. サマエラ=フォリウム

    ゴブリン、サマエラだ。 よろしく頼む。 では、私は簡単にでも武具を用意できないか、考えてみようか。 扱い方などは、訓練の方と連携してゆけたら、効率的に思う故、 そちらでも手伝えることがあれば、積極的に動けたら、と。 状況については、リュシエンヌの言葉では足りないと、捉えられるのであれば、 こちらからも言葉を重ねて、補強はできそうだが…… 当面凌げても、将来的な不和の顕在までは防げるか、難しいやも。 改めて、皆一緒に話し合う機会を設ける、良いと思う。 兵士にもそうだが、リュシエンヌの方にも……何かしら、話したいところ。 言い方表し方はともかくとして、経験から見た説得力の欠如については、 そう感じるのも已む無し、とも思う、ので。 そこを補うための切っ掛けでも、掴めたら良いのだが。

  6. アヴェラ・ウッチェロ

    >シルヴィア ええ、よろしくお願いするわ。 今のところはわたしの方は手伝ってほしいことはないわね。むしろ何か手伝えることあったら手伝うわ。 あと、昼食について、もし良かったら用意するわよ。 調理スキルもあるし、役に立てると思うわ >サマエラ 武具の用意、助かるわ。 用意してもらった物を扱えるよう、訓練するわ

  7. シルヴィア・A・カペル

    サマエラもよろしくね。武具の用意も有難い。 扱い方については私も教えてもらいつつ、皆に伝えられるよう手伝うよ。 他にも何か手伝えることがあれば言ってね。 アヴェラが昼食を作ってくれるのかい? 正直すごく助かる。 料理はしたことがあるにはあるけどかれこれ十年前で、 本当に初心者レベルなんだ……戦闘もなんだけどね(苦笑) 是非お願いしたい。あ、食材を用意したり配膳したり、出来る事は手伝うね。 私の方は……昼食に参加して貰えたら嬉しいかな。皆で現状把握した上で、 今から何をするのか纏めて表明した方が一般人達も動きやすいかなって。 時間(字数)があればで大丈夫。あ、もしならタグで書いておこうか。 いざこざも早めに解決しておきたいし、アヴェラの料理も食べたいし← セロンガードとハヤトも来てくれたら嬉しい。 - 【昼食】 アヴェラが作ってくれたご飯を食べながら腹を割って話す リュシエンヌと成人男性三人組、冬以降に来た人達も呼んで現状の全体共有をする 戦える者とそうでない者の数、武具・食料の量、防壁の強度、弱点となる箇所など その上で各自行動表明 - プレには「【昼食】参加」と書いてくれれば字数の節約になるかな。 勿論やりたいことがあって参加が難しい場合は参加しなくて大丈夫だ。 あと、上記の共通プレに自信が無いから変えた方が良いよって部分があれば言って貰えたら。 うん、リュシエンヌにも何かしら話したいね。 私の方もまだ考え中だけど、励ましの言葉になりそうだ。

  8. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    挨拶が遅くなっちまってすまねぇ! ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 昼食の件は了解したぜ! もちろん俺も参加させて貰うぜ♪ 今回は難民達への戦闘訓練は任せちまって大丈夫そうだしな、防壁回りへの仕掛けの設置やらを手伝ってくることにすんぜ。 あとはリュシエンヌに反発してる奴らにリュシエンヌ自身を認めさせるのもてっとり早ぇかと思ってんだよな。 訓練にかこつけて反発してる面子にリュシエンヌと俺達の手合せを見せて一目置かせんのもありじゃねーかと思ってんぜ! こんなご時世だしやっぱ強ぇと認めた相手であれば信頼感も増すだろーし、従う気にもなると思うんだよな。

  9. アヴェラ・ウッチェロ

    >シルヴィア タグ、ありがとうね。腕によりをかけて、頑張るわ

  10. セロンガード・シュタインドルフ

    すみません、反応が遅れました 【昼食】ですね、了解致しました。 喜んで参加させていただきます

  11. サマエラ=フォリウム

    タグ付け、ありがたい。武具にできそうな素材なども、その時に確認しておこうか。 調理もそうだな、それなりの量になるならば、私もできる範囲で手伝おう。 あとは……武具の方は、件の兵士などにも、意見を伺ってみようかと、思う。 互いに関わっておけば、蟠りを取り除くにも、良いように働くやも、と。 個人的には槍か、スリングショットあたりの……造りが複雑でなく、 距離を取って戦える物を、多めにしたい、な。 リュシエンヌとの、手合わせは…… 今現在の彼女の実力は、どのくらいに見積もれば、良いのだろう。 軍人、兵士からしても十分と見えるならば、効果はあると思う。 事前に彼女に訊いてみるのが、良いか。

  12. シルヴィア・A・カペル

    皆、昼食に参加してくれてありがとう。 やらなきゃいけない事は沢山あるけど、皆と協力すれば何とかなると思う。 食事も今から楽しみだ。 ハヤトも改めてよろしくね。 仕掛けについても了解。手が回っていなかった所を担当してくれて助かるよ。 仕掛けの位置は避難経路を考える時に活用させてもらうね。 リュシエンヌとの手合わせか……ある意味一番分かりやすい説得方法だね。 軍略だけではなく戦闘能力もあれば確かに心強い。 ただサマエラも言ってくれているけど、現在のリュシエンヌの実力がどれ位かにもよるかな。 事前に彼女に聞いてみるに一票で。 兵士に意見を聞くのも良い案だと思う。 協力してもらう事で砦に兵士たちが必要だって伝えられるし。 自分の砦、守るべき場所だと認識してもらえたら団結力も出そうだ。 兵士なら詳しいだろうし良い助言をくれるじゃないかな。 私も砦の弱点について聞いてみるよ。どんな武具になるのか楽しみにしてるね。 今日出発だね。相談楽しかったよ。 現地ではよろしくね。

  13. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    >リュシエンヌ もちろん事前に本人に腕前についての確認すんのは良いと思うが、授恵者であるリュシエンヌからすりゃ兵士とはいえ一般人と比べりゃ腕っ節は確実に上だろーからな。 そこそこ派手に立ち回りつつ多少の手加減を加えりゃ一般人から見て相当な腕前には見えんだろ。 俺自身、何度かリュシエンヌに本人には鍛錬を教えた事もあるから真面目なリュシエンヌからすりゃ鍛錬だってサボってはいねーだろ。 なんなら手合せは俺が引受けっから、魅せ方たしては任せてくれよな♪

  14. サマエラ=フォリウム

    兵士等ならば、授恵者の強さを知らないということも、無いのではと思うので、 一般人として、よりは、 授恵者としてどれだけ強いかが、指針かな、とも。 ただ何れにしても、リュシエンヌ自身がそれを望むならば、行うのも良いと思う。 シルヴィアは、意見も有難い。 それでは、兵士側の意見も取り入れつつ進めていけるよう、行動を纏めておく。 あとは良き結果と、善き結果になるよう、尽力しようか。 現地でも、よろしく頼む。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0