凍原に、散らせ焔

ムジカ・トラス

コメント 26

シナリオID:648

オープニング

●
 2月ともなれば、幾分冬の厳しさもマシになろう――という淡い期待を吹き飛ばす光景が、ウィリアム・リーンエスたちの眼前に広がっていた。
「いやぁ、壮観、壮観。流石は帝国の冬だね」
 ウィリアムは、白む息の行く末を楽しげに追い、辺り一帯を見渡す。

 シルトラース帝国、その大草原のただ中である。馬は連れていない。帝国生まれの馬は精悍だが、この時節では数が限られる。万が一の事態になった場合に、貴重な馬足を失うことになるのは、さすがに帝国の者たちに悪い。

「こうして目の当たりにすると、軍を進めるなどとんでもない話だね」
「それは、どちらの意味でしょうか?」
 応じた声が、ひとつ。ウィリアムの傍らに立つ、小さなゴブリン――ゴブリナの姿があった。サチコ。ドン・ゴーフルの実子であり、帝国に派遣されているマフィア、ブラックデスの幹部。平時通りのスーツ姿で、防寒具の類も身につけていない。
「どちらとも、さ」
 ウィリアムは笑みも崩さずに応じた。
「かつての帝国はとにかく精強だったからね。僕らに出来るのは備蓄と切れない補給を頼りに持久戦をしながらの盤外戦――それから経済戦争に持ち込めれば、というところだった。最前線となるであろうアーチボルト辺境領には甚大な負荷がかかるだろうけれど、堅牢なヴァイセントラフに手をかけられたかはそもそも怪しいし、仮に領内への進行にこぎ着けたとしても、地勢上軍の展開は鈍くなるし、ご覧の通り帝国の冬が最大の難敵ときた。長くにらみ合いを続けていたことにも、理由があってのこと、なんだなあ」
「それを、どうして『私たち』に?」
 後方を見やったサチコの視線には、冒険者たちの姿がある。この道行きの同行者であった。とある情報に対する調査・討伐に出るにあたり、せっかくだし交歓しようではないか、というウィリアムの申し出である。とはいえ、胸襟を開くにしても、程度があるだろう。
「所信表明さ。僕は立場上どうしても疑われやすいし……君とも、仲良くしたいんだよ、ドン・ゴーフルの懐刀の君とは、ね」
 ――疑われやすいのは立場じゃなくて、そういう態度ではないでしょうか?
 無表情を崩さないまま、サチコは薄く息を吐く。
「であるならば、否やはありません」
 ならば、と差し出された手に、握手を返す。縮まった距離の中、囁きが落ちた。

「君も、踏破したのかな」

 このまま灼いてやろうか、と思って、踏みとどまる。ウィリアムは紛うことなき王族であったし、ゴールディの流儀は極力封印するよう、ドン・ゴーフルから命じられている。
 しばし、視線が絡む。果たして、先に口を開いたのはウィリアムの方だった。
「おっと。先に言っておくけれど、僕は違うよ。才能がなくてね。――だからこそ、ドン・ゴーフル殿の本気が解る。それだけに……」
 男の表情には、笑みが浮かんでいる。しかし、その胸中は冷え込んでいるようだ、とサチコは直観する。その洞察に、駒に過ぎないサチコは驚嘆するほかないが、同時に呆れ果てていた。ドン・ゴーフルの意図を読み取った上で、ウィリアムはこうして怒っている。
 なんとまあ、無駄(上品)なことを。
「――――」
 そこに『指し手』としての格の違いを感じ、サチコの心に熱が灯る。自らが仕えるドン・ゴーフルの優位はまっこと、喜ばしいことだ。そんなサチコの表情に、ウィリアムは深く息を吐く。
「ドンが第二のゴブ・リン(『挺身』)を作ろうとしているのだとしたら、僕は反対だな」
「それは、あなたが決めることではないでしょう?」
「どうかな」

 視線を転じたウィリアムは、遠くを見た。雪のみならず、『霧』の影響で見通し難い、大平原の果てを見やるように。いつしか握手は解かれ、沈黙が落ちていた。

 
 ――の、だが。

「おやまあ」
 ウィリアムの声はいっそのんきなものだった。

「本当にいたんだなあ」


●
「見えるかな?」
 ウィリアムの問う声に、身を低くした冒険者は答えない。平原を覆う霧は、クリーパーを含め内部の存在を覆い隠す。それでも、十分に距離が縮まれば知覚には困らない。

 大きい。100メートルほどの距離を置いているはずだが、その威容が見て取れる。最も近い造形をあげるとすれば闘牛。ただし、筋骨隆々に過ぎるためか、異常に四肢が短く見える。
 もっとも明快な特徴がある。そのおかげで、雪原の中にも関わらず、とにかく目に眩しい。
「燃えてるねえ」
「そうですね」
 簡潔な応答に、ウィリアムはとても愉快げだ。
「ここら一帯をウロウロしているクリーパーでね。王国(うち)の偵察(スカウト)が見つけたんだけど、周囲のクリーパーに喧嘩を吹っかけては喰らい続けているみたいでね。霧の外縁にいるようなクリーパーではひとたまりもないから、どんどん大きくなるばかりでさ」
 そう。
 大きくなり続けているのが問題だ。
「ぎりぎり……中型を抜けたくらいかな、と思うんだけど」
 目を細めるウィリアムの見積もりだと、全高は5メートルとちょっと。

 それって大型級じゃないですか。やだぁ。
 そんな空気の中、ウィリアムは素知らぬ顔で続ける。

「冬が終わるのを待っている場合じゃない、ということになってね。春に控えるヴィント奪還を前に、討伐を図ることになった。軍の横っ腹を貫かれたら辛い。なにせ――」
 霧のせいで見通しが効かない以上、即応はしがたい。構成要員の多くが授恵者ではないとはいえ、歩兵、輜重隊のどちらもヴィントの確保には欠かせないのだ。

「というわけで、ここで倒そう。さあ、作戦会議といこうか」
 よろしく頼むよ、と、ウィリアムは笑った。

解説

目的:大型クリーパー『炎牛:シグラル』の討滅or撃退 ▼敵戦力情報 炎牛:シグラル(※) 体高6メートル程度の超巨大な牛。 全身に炎を纏っていること、筋骨隆々な全身のためか四肢が異常に短く見えるほど。 その特性を含めると大型級クリーパー(なりたて)程度の実力が予想される。 今回はその特性に対する対策が取れるため、討伐可能という見込み。 ▼偵察からの情報 ・炎獄:炎牛周囲2hexに侵入すると随時BS【スリップ】【回避低下】付与判定が行われる。1hex以内は【スリップ】の強度・付与が増加する模様。 ・チャージ:5hexスプリントの直線範囲攻撃。複数人で受けることで勢いを減弱可能(頭割り)。 ・ストンピング:周囲1hexの近接物理範囲攻撃。 ・炎角:近接単体攻撃。【物魔撃】。超高強度の【スリップ】を使用。 ・外皮が硬いということはなく、回避能力も低いため防御力は低そうだが、とにかくタフなため長期戦が予期される。 現時点で判明している情報は上記。 ※名前は発見した偵察が命名。生家で飼っていた牛の名前だそう。 ▼味方戦力 ウィリアム・リーンエス:ウォーリア。レベル50↑だが防御寄りビルドのため炎牛の討伐はさっぱり出来ない程度の実力。近接職にとって鬼門な能力を有する炎牛の肉壁として自薦。サチコの支援効果がない状況下で単独で放っておくと戦闘不能→最悪死亡する。使用回数の多いカバリング、重心装上位スキルを装備。 サチコ:???。おそらく炎系のキャスター系授恵者。炎牛の『炎獄』、『炎角』などの【スリップ】効果を抑制可能と自薦して参戦。5Rの間炎牛の【スリップ】効果完全解除、付与判定を無効化するが、その後5R使用不能になる。その間も攻撃系のスキルは使用可能。いずれも射程12hex。 ▼その他 戦力は上記で全てですが、炎牛のおかげで周囲のクリーパーは一掃されているのか30分程度であれば準備に時間を費やすことが可能。

マスターより

こんにちは! WDのムジカ・トラスです。 ヴィント近郊の霧の中に目撃された大型級クリーパーと楽しく死闘を繰り広げましょう! ここで逃すと春以降のヴィントに更に大きくなった炎牛が現れる――かもしれませんので、出来る限り討滅が狙えるとよいですね。 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。 冒頭の会話? 耳がいい人なら聞こえているかもしれませんね!

リプレイ

●
 大草原の冬は、未だその牙を収めていないらしい。寒さは依然として厳しさを増し、遮るもののない平原に吹き抜ける風は、文字通り肌を刺すほど。大草原を覆う霧の中に立ち入った今、遠くを曇らせるのは氷雪の銀嶺ばかり。

 そんな中、内緒話をしている者がいると見て、耳を澄ませていたものが二人いた。奇しくも、どちらもゴブリンである。
 ナハティガル=ラーは偵察の任を踏まえてか、周囲への警戒を崩さぬまま、無表情を貫いている。
 踏破という表現。意味は解らねど、胸に留めることにする。

 対して、ハヤト=ガラン=ヴォルファングは、というと。
 ――ははん。噂に違わぬタヌキっぷりだな、あの王子……。
 傭兵団を率いるハヤトとしては、腹芸が出来ることは評価すべきことだ。ついでに、サチコに対して見せた心情や王国の胸襟をあえて開こうという姿勢も雇い主の器量としては好ましい。
「どうせ、こうやって誰かが聞いていることも織り込んでいるんだろうしな」
「どうかしましたか?」
 呟きを聞きつけたセロンガード・シュタインドルフが問うてくる。聡いものだ。冒険者には様々な背景(バックボーン)の者たちがいるのだと感心しつつ、ハヤトは快活に笑った。
「いや……王国にもブラックデスにも、ブレイクファング傭兵団を売り込むチャンスだなって思ってな!」
 明瞭な声にセロンガードはふむ、と頷いた。
「商機、というわけですか」
 セロンガードとしては逞しいものだな、くらいの感想しかもっていないのだが、ハヤトは得も言えぬ強敵感を感じていたのは――まあ、余談である。


●
 そうして、炎牛を見つけるに至ったわけであるが。
「うわあ」
「大きいですね……」
 バクル・バスリーの素の声に、セロンガードが続く。バクルは大きい目をぱちくりと瞬かせながら、遠景、朧に見える影に零す。
「今までで最高クラスの強敵だね」
 大きさだけでも、ひと目で不味いと知れる。クリーパーの力量を見るに大きさはシンプルな指標だ。冒険者として、短期間ではあるが修羅場をくぐり抜けてきたバクルの言に、フリーダ=ブロムヴィストは、
「啓示では『アツゥイ! どうして炎を纏っているのにステーキにならないんですか?』と疑問が出ていますが、何かの暗示でしょうか?」
「それ、本当に啓示なんですかね」
「啓示ですよね?」
 思わず応じたセロンガードに、フリーダは表情を崩さない。だが、思うところはあったのだろうか。すぐさまこう続けた。
「クリーパーも、くらい続ければあそこまで大きくなる物なのですね。びっくりです」
「いや~~。本当だよね」
 白いマントを着込んで雪原仕様のクレア・エクレールは、微妙な空気を察してか朗らかに。
「アレだけ燃えてたら火事も心配になるくらい……まあ、燃焼する様子もないし、本物の炎ではないんだろうけど」
「……私たちがステーキにならないように気を付けないといけませんね」
 ――あ、そこはちゃんと重ねるんだ。
 フリーダのこだわりを感じたクレアは、「そうだねぇ」と柔らかく応じたのだった。


●
 さて。具体的にどうしたものか、という段になり。

 掘(と)ろう。
 穴(足)を。

 そういうことになった。

●
 セリオス・オーガストは寡黙であった。遠景に炎牛を捉えながら、しこしこと掘る。彼に限らず、冒険者たちは得物を用いたり盾を用いて即席のスコップとして、雪原を掘り返していく。授恵者たちの膂力・体力を遺憾なく発揮しながら、猛烈な勢いで作業を進めていく。このままいけば、問題なく準備が完了することは疑いようもない。
 黙々と、淡々と事を進めていた。
 一方でシュロの胸中は穏やかではない。

 ――あれでも一応、一国の王子なんだがな……。

「ウィリアムさん、カバリング使えるんだよね?」
「ああ。そのために来たと言っても過言じゃないしね」
 氷雪と土、草の混じった穴を作り上げながら、バクル。思いっきりタメ口だが、ウィリアムはとくに気にした様子もなかった。
「とりあえずシーザーロアで攻撃の矛先を集めるから、一緒に引き付け役をお願いできるかな」
「心得たとも」
 何気ないやり取りで済んだことに、シュロは密かに安堵の息を零す。シュロ自身も身分の別なく接する気質ではあるが、目上かどうかくらいは気にする。まあ、第二王子が穴を掘っている光景の次点で相当不敬(シュール)な気はしなくもないのだが。
 シュロはもう一度大きく息をついて、視線を巡らせる。随分穴を掘った――というわけでは、なく。
「結構足元がびちゃびちゃだな……足を取られないよう、多少移動しながら戦うほうが良さそうか?」
「あ、ホントだね。ボクたちも滑らないように気をつけなきゃ」
 クレアはざくざくと氷原を踏み締めつつ、その手を自身が掘った穴へと向けた。そうして水を生み出して穴底を泥濘にしていく。ピュアウォーターで小分けにしながらであれば、複数掘った穴に加工を施すことは容易だった。
「あとは凍らなきゃいいんだけど……」
「お。それならいいものがあるぞ」
 シュロは持参していたブランケットを広げて穴を覆った。
「おっ、いいねいいね~、アリガト!」

 ―・―

 ――温かい、ですね。
 和気あいあいとしていたところを茫と見ていたサチコは、
「どうした?」
 ナハティガルの声に、我に返った。こちらも穴を掘りながらであったが、手が止まっていたようだ。
「いえ、失礼しました」
 加えて、彼と立ち回りの打ち合わせをしていたところだった。全面的にこちらが悪い。
「仕事は果たしますので、ご安心を」
「ああ。そこは疑っていない」
 ナハティガルにとっては古巣(ゴールディ)の英傑の一人である。戦闘での下手は打たないだろうし、こちらの頼みもシンプルだ。
 鈍感には定評のあるナハティガルである。字義通りに受け取って、この場は収まった。
 対して。
「だいぶ掘れましたね。あとは、と」
 些末な行き違いはあったものの、冒険者たちが手ずからこさえた穴を見回したセロンガードは草や鼻を用いて穴を偽装し、最後の仕上げに取り掛かる。その熟れた手付きを眺めながら、ハヤトは少しばかり悔しげな表情で呟いた。
「刺突杭は無理か……」
 ここは大平原。細工に使えそうな、満足な木々がなかったのだった。予感していたことではあったので、さして気にしない。なにせ。
「――奴さん、気づいたみたいだしな」
 闘争の気配に、ハヤトはその名に恥じぬ牙を剥き、彼方を見やる。

 ゆっくりと大きくなりつつある焔の影が、そこに在った。


●
 距離が詰まる。冒険者たちはウィリアムを先頭に、バクル、シュロ、フリーダと続く。ナハティガルとクレアは雪原に身を伏せ、側面に位置。
 そこからやや距離を置いて、二人の弓手がいる。セロンガードと、セリオスである。そのさらに後方には、最前衛を自身の効果範囲一杯に収める位置にサチコが待機。

 セロンガード、セリオス両名ともに、身を隠すこともしない。弓手の定石(セオリー)は、この場では無視。敵が間合いに入るタイミングを待ち続けている。

 距離200。
 炎牛が緩やかに加速を開始。ウィリアムが「うわお」と軽口を叩いたところに、バクルがくすりと笑う。冗句だと受け取り、気負いが溶けるように消える。
 距離180。低い音が届くとともに、炎牛の顔貌や肢体が詳らかになっていく。焔に覆われた躯体は筋繊維束がはっきりと解るほど。その焔を貫いて、外敵への闘志(敵意)が放射している。
 距離150。セロンガードとセリオスが弓を引き。

 距離、100(射った)。
 
 両名の矢はいずれも過たず、炎牛に突き立つや否や、瞬く間にその見を侵す。
 方や重力波(グラヴィティボルト)を纏う一射。
 方や心臓裂き(ハーツベイン)の一矢。
 明らかに失調を来しているはずだが、炎牛は止まらない。よりいっそう盛る瞋恚(しんい)の焔を双眼に宿した炎牛は、緩やかに距離を取り始める弓手二人を睨みながらも、最も至近の的であるウィリアムへと向けて爆走を続ける。加速の乗った足は止まらず、瞬く間に距離を食いつぶし。

 サチコが後方で何事かを呟き、左手を炎牛へと向ける。炎牛は、眼前のウィリアムをその角で貫かんと迫った、瞬後のこと。炎牛の機動がわずかに乱れた。隠蔽された穴。そして底に敷かれた泥濘が炎牛の足を奪う。
「■■■■■■■■■■!」
 しかし、止まらない。巨大な体躯に見合う怒声を吐き出しながら、その蹄で土塊を巻き上げ、不十分な体勢を豪力をもって立て直し、突貫を成す。
 ウィリアムが掲げた白銀の盾と、傍らでともに受けたシュロのウーツ鋼の盾それぞれが爆音を生んだ。ある程度減殺されたはずとは思えぬ衝力は火花を散らし、ウィリアムたちの踵足を草原に沈めるほど。
 それでも、止まった。
 いつしか炎牛の全身から巻き上がる炎が跡形もなく消えている。異変を察した炎牛の気配に翳りが見えたと同時。

 ――いくつもの影が、往った。


●
「戦闘開始だね!」
 ウィリアムに最も近い位置にいたバクルの気勢に応じるように赤影(ハヤト)が接近。
「ハッ! ざまあないなァ!」
 双剣を手に切り込み、三連撃。素早さを身上としているハヤトの一撃でも、手応えは十分。切る付けた勢いを殺すことなく、雪原を滑るように後退してウィリアムを間に挟むように距離を取る。
 転瞬。炎牛の両側から、二の影が走る。右方、白い外套を身に纏うたクレア。左方からは、双剣を構えたナハティガル。左右対称に迫る二人は、そのまま後ろ足へとそれぞれの得物を振るう。認識外からの、エーテルの込められた一撃は、双方の一撃の威力を強烈に引き上げる。怒張し、今もウィリアムへと重圧をかけんとする大腿の筋束をたやすく引き裂いた。
 ――通るけど、浅い……!
 側面に張り付きながら、手応えと現状を素早く検分したクレアは、胸中でこぼす。手応えはある。如何せん的が大きすぎて、十分な打撃足り得ていない。
「けど、足りていないだけなら、届く……!」
 彼女は足を止めることなく機を伺う。

「二度目はない、か」
 ナハティガルはハヤト同様、切りつけた後は距離を取っている。見の姿勢を怠ることなく炎牛の動向を見定めているが、続く一手を封じられた件について、小さく吐き捨てた。先ほどの奇襲以降、粘ついた殺気が剥がれない。これでは、先ほどのような一撃はよほど上手くやらない限り入り得ない。猛攻に怒りに狂うかと思いきや、炎牛は存外冷静だった。
 シーフに続いて、ウォーリア勢の中で動いたのはフリーダとシュロ。
 二人はそれぞれの得物を振りかざしながら強打を叩きつける。フリーダは右前方に相対しながら、反対側からシュロが大きく走り寄り、得物を大上段に構えている姿を見る。祭刀を振り抜くさなか、「これナン=テ、ヌル=ゲ?」という啓示が聞こえた気がした。報告されていた炎の影響がまったく無く、単純な包囲戦になっている。今のフリーダの役目は、ただただ最大効率で削り、少しでもはやく勝利を引き寄せること。ヌル=ゲの意味はさっぱりわからないのだが。
 対して、眼前のシュロは太めの男性でも丸呑みにできそうなほどに太い炎牛の首へと向かって大剣を叩きつけた。肉を切る感触はしかし、浅いところで留められた。
「ムキムキだな……!」
 生物ならば共通する急所として狙ったが、余りに強靭な頸筋に刃こそ立つものの、満足に徹らない。単純に、生き物としての規格が違うことを痛感する。
 ああ、けれど。
 番狂わせ(ジャイアントキル)とは、そういうものだろう。
「死者も、ださない。そして、必ずお前を倒して皆で帰るぞ……!」
 狙うは完全勝利のみ。限られた時間を最大限活かすために、止まることはできない。
 シュロからみて側方、セリオスとセロンガードの射撃が届く。メンバーの第二の盾であるバクルも、重装備に身を包んで切りつけながら炎牛の側方へと周り、退路を断つように移動している。
 知覚した情報をもとに俯瞰すると、現在前方に3人、ウィリアム、フリーダ、シュロ。そして、炎牛の左後方にクレアとバクルが張り付いていた。先程同様、ナハティガル、ハヤトが再度炎牛を切りつけつつ後退。クレアも、切りつけた上で一度後退していた。
 同時に、シュロは深く膝を折り、盾を構える。冒険者(敵)は多く、周囲に固まっている。遠方からの射撃には手が届かない現状であれば。
「来るぞ!」
 眼前、炎牛の巨足が地に落ちた。轟音と共に、氷原が粉砕されたかのようだった。大ぶりゆえに直撃を避けることは容易い。しかし、その衝撃は何らかのエーテルが作用しているためか、単なる踏み鳴らしとは思えない理不尽なものであった。完全に防御を固めたシュロの身を激しく揺らす。
 ウォーリア特有の強靭さ(「筋肉は裏切らない!」)もあり、耐えることは可能。見れば、反対側のフリーダも同様であった。この場において、ウィリアムに次ぐ頑健さを誇る二人である。換言すれば、授恵者としても堅牢な部類にはいるが、それでも身体は衝撃に貫かれる。
「さっすが大型……!」
 リザードマンの気質ゆえ、だろうか。バクルが爛々と目を輝かせて呟いている、が。
「――これに炎まで加わるのは本当に不味いですね」
「そうだな!」
 ぽつりと零したフリーダに、シュロは全力で首肯した。
「だが、ぶっちゃけ削り切れないなこれ!」
 言いながら、大剣を振るう。炎牛はボコボコに叩かれ続けているはずだが、全く堪えた様子がなかった。
 かといって、悄然と死を待つほど行儀は良くない。だから、往く。

●
 いかなる業がこれを可能にするのか。
 サチコの権能――そう呼ぶべきだろう――が、セロンガードにとっては誠に興味深い。本来であれば、なりたてとはいえ大型クリーパーに10人如きで挑むなどあり得ない話だった。だが、現にそれを可能としている。今、前衛として真正面に立っているウィリアム替えが効くのは確かだ。しかし、ここで最前衛の4人全員が炎の獄に囚われようものなら、仮にヒーラーがいたとしても対応が間に合ったとは思えない。
 そうなると前衛は密な陣営を保てずに突破されてしまい、各個撃破の確度は極めて高い。
 その点、初撃からひしひしと殺気を感じているセロンガードとしては、危うさを感じているのも事実であった。この場において、最もダメージディールに貢献しているのはセリオスであるが、セロンガードの一撃の威力もメンバーの中では高い方である。そのためか、炎牛がこちらを意識している気配を感じている。
 抜ければ、突く。狙いを定められている、と。
 前衛がきっちり止めているからこその安全域は、危うい均衡の上に成り立つ楼閣だった。どこかが崩れたら最後、距離を詰められ、轢き潰されるのは目に見えていた。
 短期決戦、この短時間で決着が付けられれば良かったが。
「あと、10秒です」
 額に汗を浮かべているサチコが、苦悶を孕んだ吐息とともに、告げると、遠方、それを聞きつけたハヤトが「炎が戻るぞ!」と声をあげる。去り際、セリオスのハーツベインショットの効果の切れ目と見て、ハヤトは得物を振るい炎牛の身をエーテルで侵す。少しでも攻勢を途切れさせないための工夫であった。

 セリオスはそれを検めた上で、狙いを炎牛の左足に定めて攻撃を続けていた。これから、シーフたちは最大火力で殴れなくなる時間が続く。であるならば、ハヤトのそれ(【スリップ】)を優先するほうが良い。
 ――これは、長くなるな。
 前衛含め誰しもが捨て身で攻撃を続けているが、想定以上のタフさだ。
「セロンガード。左足を狙えるか」
「ええ、合わせます」
 セリオスの視線の先。シーフ3人が炎獄の影響範囲から逃れるべく距離を取る。ウォーリアたちは――動かない。
 殴られ続けているウィリアムに加え、第二の盾として待機しているバクルは元々そのつもりだっただろう。しかし、フリーダとシュロが動かない現状にセロンガードは微かに目元を細め、
「……なるほど」
 呟いた。耐えるというのであれば、その手もあるか、と。 

 
●
 変化は劇的だった。
 授恵者たちの目と鼻の先。號と音を立てて炎が生じ、雪原にそぐわぬ熱が至近にいる者たちを包み込む。
「――っ」
 くぐもった声は、ウィリアムとバクルのもの。
 元々、牛の攻撃を受け止めるための装備として最適化していたウィリアム、バクルの抵抗力を貫いて、炎の獄がその舌を這わせる。尋常ならざる(エーテルの)炎ゆえに気道に熱傷をきたたすことはなかったが、身を侵す不快感と疼痛は凄まじい。
 対して。
「なるほど。抵抗を上げろ、という啓示はこういうことだったのですね」
「私のほうは結構ギリギリな感じがするな……!」
 威力や防御を切り捨てて抵抗を積み上げていたフリーダとシュロは、その影響から逃れていた。さすがに、涼しい顔とはいかないようだが。直接的なスペックを落とす形となったものの、結果として手を止めることなく相対ができる。包囲の継続も可能、となれば。

 ――なるほど、コレならいけるな!
 ハヤトはもともと、このタイミングでの誘引を担当するつもりでいたが、見たところ範囲内に入った瞬間に炎獄の影響を受けるらしい。加えて、ハヤトが予定していた距離を取りながらの誘引は、ウォーリアにとっては追走する手間となり、包囲の解除は後衛へのリスクとなる。
「備えた甲斐があったな!」
 予定が外れたとはいえ、攻撃の手を止めるまでもない。この状況にはもともと備えていた。同様の備えをしていた対面、ナハティガルが衝撃刃を放つのにあわせて、攻撃を重ねていく。炎の存在は特別防御力を高める効果はないらしく攻撃自体は通る。
「いやはや、メンバーは頼りになるし、心遣いも傷に染みるなあ」
 一方、ウィリアムは火に炙られているような状況だが、口ぶりは軽い。後方、棍に持ち替えたクレアがヒールを施しているのをいたく気に入っているらしい。
「思っていたより余裕そうだね?」
「ふふ。やせ我慢さ。美女たちの前だしね。……バクルくん!」
「うん!」
「なるべく耐えるけど、」
 と言いかけた時、炎牛が身を低くし、前足で草原を掻き削る。
「突進!」
 シュロの警句に、フリーダが即応。バクルは反対側ゆえに届かない。初手と同様――否。勢いが減弱されていない分、更に強力な突進を三人で受け止める。
「く、この……!」
 シェロは食いしばりながら、万力をもって踏みとどまる。ここで突破させるわけにはいかない。後衛であるサチコやセロンガード、セリオスが蹂躙されてしまう。衝撃に耐え、大地を削りながら吹き飛ばされないようにバランスを取る。反撃とばかりに、三人ともに掲げた盾の隙間から攻撃を重ねていると、それ以上進めぬことに業を煮やしたか、炎牛は手を変えた。その双角に揺れる炎が火勢を強める。
 強烈な殺意。炎獄に囚われる程度のウィリアムを灼き滅ぼさんとする刺突。先程の突進に伍するほどの衝突音が響く中、
「――バクルくん!」
「任せて! さあ、こっちだ! ……って!」
 すかさず挑発(シーザーロア)を放ったバクルであったが、ここに来て不発。上位存在の抵抗を甘く見た結果だった。しかし。
「張り付いていてよかった……!」
 炎牛の周囲を回りこむようにしてウィリアムが先ほどまで立っていた位置に回り込んだ。その動きに合わせてウィリアムは後退。逃げ退るウィリアムを追撃しようと炎牛が猛り狂うが、間に入ったバクルが通さない。後方がフリーになってしまう形となったが、「別な弱点を探してくるぞ!」とシュロが移動する形でカバー。
「危なぁ……」
 危うく役目を漏らすところだった。気を取り直して、盾を打ち鳴らしながら声を張る。
「さあ! ダンジョンで鍛えたこの身体、その角や炎如きで打ち抜けると思うか! 古より遺跡にて磨いてきたバスリー家の魂、この程度で折れないぞ!」
「――はあ。痛いな。これは、とても痛い……」
 決めたところで、後方からそんな声とともに癒し手(クレア)にケアされている男の泣き言が届き、真顔になる。もちろん。バクルとて耐えきれる自信は無い。通常攻撃であるならば兎も角、超強度の炎を耐えるなんて土台無理だ。自分にできることは、みんなの攻勢を支え、わずかでも時間をかせぐこと。
 しかし、それも易易とは行かないだろう。
 なにせ。眼前の炎牛、味をしめたと見える。


●
 炎を宿した角とバクルの掲げた盾が、耳を聾するほどの轟音を生んだ。それに倍するほどの衝撃に加え、バクルの身にまとわりついていた熱さが直火で燃やされているかのような刺激に変わる。脊髄を貫く痛み(熱さ)は、自らの身体が炭化しているかのよう。
 ――なるほど、これは痛い……!!
 バクルはすかさずヒールを施す。フリーダとクレアが更に重ねて治療を施してくれることで辛うじて釣り合いが取れるほど。
「いざとなったら変わるぞ!」
「ありがとう。でも、大丈夫だから!」
 側方からハヤトの声が届くが、バクルはこれを辞する。シーフや後衛(ダメージディーラー)を害さないのが役目だ。短期決戦を支えるため、火力の担い手を落とすわけにはいかない。この盾を、手放してなるものか。
 炎牛は止まらない。さらに炎角、さらに、さらにと続く。
 全身全霊で治療と防御術を繰り返しながら、絶死の猛攻をバクルは耐える。
 しかし。
「あと、少……し、な、のに……!」
 高めた防御すらも貫く炎角、そこから途切れることのない継続ダメージとの相性は最悪だった。わずか数十秒の間に、摩耗しきっている。視界が霞む。自身が立ち続けていられているかも判然としない。
 ――どう、と。不意に視界が揺れた。抵抗することも出来なかったバクルは、そのことで逆説的に『立ち続けていたのか』と感じた。次いで、焦燥に駆られるが、

「大丈夫、届いたよ!」
 声音からクレアの声だとわかった。その意味するところは――
「よく耐えきった!!」
 至近からのハヤト(仲間)の声で、理解する。
 役目を果たした(限界を迎えた)バクルを抱え、熱傷を受けながらも安全域へと運び出したハヤトの腕の中で、見て、感じた。

 威容を包む赫色と。
 自らを苛み続けていた痛み(炎)が、消えたことを。


●
 消耗し、昏倒したバクルを安全域に置いたハヤトが反転すると、気息を整えていたウィリアムが突貫してバクルの代わりに入っていた。同時、その後背からクレアが炎牛の顔面めがけて跳躍する。ハヤトも遅れじと全速をもって駆け出した。

 空中にあるクレアと炎牛の視線が絡む。炎が消えた今、接近を躊躇う必要はない。何より、ヒールの残量を踏まえるに、次の攻勢を凌ぎ切るのは至難と見た。
「まだ死ねないんだよね、ボクは!」
 そして。
「仲間を死なせるつもりも、無いんだ……!!」
 狙うは眼球。ストンピングで暴れ回る炎牛と交錯する形。矢のように突貫したクレアに対して、炎牛は超速の反応を見せ眼球への刺突を回避。暗針は硬い頭蓋骨で受け止められる。
 だが、いい。
 眼球(狙い)は外れた。しかし、エーテル(【スリップ】)は通った。

 ――なにより、注意はそ(盗)れた!

 ナハティガルが見下ろせば、隆起した僧帽筋が躍動している。跳躍のさなか、そのやや頭側へと狙いを定め、着地の瞬間、双刃を挿し込む。
 クリーパーではあるが、牛に似た構造であるならば。
 そして、心の臓には届くまいが、その体を巡る大血管ならば。
「……俺が刺されるか、貴様が刺されるか」
 金眼に、力が籠もる。
「これが〝真実の瞬間〟だ……!」
「■■■■■■■■■■!!
 果たして。胸腔深くにあるためか、目に見える成果はなかった。それでも、苦悶する炎牛は空中にあるナハティガルを跳ね除けようと足掻く。ナハティガルはすかさず距離を外すことで回避。痛打を見舞われ、炎牛の警戒が正面、そして頭上へと揺らいだことで、足元が空く。
「左足!」
 炎獄の間もあちこちを検分しながら叩き続けていたシュロが短く言う言葉に応じ、フリーダとハヤトが疾走。矢衾のようになった左大腿がしとどに濡れている。足元の泥濘を作り出した血臭が香る中、三人は攻撃を重ねていく。
 さらにその頭上を超えて後方からの射撃が続く。セロンガードとセリオスの攻撃は、この場面でも途切れることはなかった。
 突破を許さぬ眼前のウィリアムと顔面を狙うクレア。さらに、後背を狙うナハティガルと、多方面に及ぶ猛攻を受け止めながらも、炎牛はストンピングによる反撃を止めない。冒険者たちの余力も、みるみるうちに削られていく。
 そうして、ついに。
「――――っ!」
 セリオスの一射で、左後足の膝が揺れた。
「これで……!」
 更に踏み込んだシュロが剣を振り下ろし、腱を断った。
 四足獣の片足を奪った。その意義は大きく、一気呵成に畳み掛けようとした、その時。

 すみません、と。後方から弱々しい声が届いた。

●
「■■■■■■■■!!!」
 時間切れだった。憤怒と共に炎が爆ぜる。それまで攻撃に専念していたシーフたちはサチコの声に後退する中、フリーダはウィリアムに治療を施しながら口を開く。
「ウィリアム様。ここは私が」
 炎角に耐えられる可能性があるという提案は、
「万が一にも、治療手を落とすわけにはいかないよ」
 却下された。ここからは、お互いにリソースを切り崩していく消耗戦だ。振り下ろされる炎角を受け止める役は、堅牢さに利があるウィリアムに託し治療に専念するほうが効率的。
「……わかりました。けれど、治療手段が尽きたら次は私が」
 クレアとフリーダはともにウィリアムへの治療を施しているが、打ち止めは近い。シーフ二人、ナハティガルとハヤトの間接攻撃手段も尽き、いよいよ攻勢が鈍る。

 ――かと、思われた。
「次はない、なら」
「このぐらいで、止まるかよ……!」
 左右に分かれていたナハティガルとハヤトが、自ら炎獄へと飛び込んでいく。灼熱感が二人の身を這い、痛みとエーテルで重くなる身体。それでも、攻勢は止めない。これまでほぼ無傷で来た余力(リソース)をすべて吐き出すように、血花を咲かせる。
 急がねばならない。治療手段が尽き、炎獄がウィリアムや斃れているバクル、後衛陣を喰らい尽くす前に。
「誰も、死なせない! 斃れろ……!」
 シュロが刃を振り抜いて気勢を吐く。クレアとフリーダが必死にウィリアムへと治療を施す中、シュロとハヤト、ナハティガルは全力で刃を振り続ける。セリオスとセロンガードは、動かぬ左足から、最も傷の多い前胸部への射撃を継続している。
 どれだけ、経っただろうか。
 遮二無二攻撃を繰り出していた一同の眼前、

 ――突如。炎が消えた。

「お、わっ!?」
 次いで、その巨体が傾いでいく。疲弊しきった身体で飛び退るシュロをよそに、倒れ伏した炎牛へと更に矢が突き立つ。セリオスたちの残心に、炎牛は何の反応も返さなかった。更に幾度となく矢が降り注ぐ中、
「終わった……?」
「みたいだね〜。はあ……つっかれた……」
 シュロの呟きに、尻餅をついたクレアが天を仰ぐ。一方、炎角の継続ダメージ(【スリップ】)が土産に残るウィリアムは疼痛に顔を曇らせていたが、すたすたと近づいてきたフリーダに気づくと爽やかな笑みを浮かべた。
「やあ、助かっ……うわっ」
 ぴしゃん、と。その顔面にフリーダが振りかざした水袋の中身が弾ける。
「残り火に効くかなと思ったのですが」
「……それは、啓示とやらかな?」
「いいえ」
 そうか、とつぶやいたウィリアムは何かを堪えるように、遠くを見た。
「さむいね……」
「ですよね」


●
 はあ、と。治療を受けて意識が戻ったバクルの吐息が落ちた。
「最後まで立ってられなかったなあ……」
「あれだけ大型クリーパーの猛撃を受けて、死んでいないだけでも重畳です」
 宥めるサチコの声に、怪我の具合の確認をしているハヤトが、
「たりめーだろ。十分よくやったぜ!」
「痛い! 加減してよ!!」
 ガシガシと頭を撫でられて呻くバクルの声に、笑いが咲く。

 ウィリアムの治療でヒールが打ち止めとなったクレアは、倒れ伏した炎牛を何とも無く眺める。攻撃は集中的に行われていたので、骨材はいうに及ばず皮革も十分量が取れそうだ。
「素材、どうするの?」
「ヴァイセントラフ砦に持ち帰って処理する感じかなぁ。帰って人を呼ばないとね」
 その言を聞いて、シュロの表情が曇る。ちらちらと横目に遺体を眺めながら、
「じゃあ、角……は無理か。尻尾などはいただけたりは……?」
 ものすごく名残惜しそうにいうものだから、ウィリアムは苦笑をこぼした。
「どうぞ。将軍たちには取り計らっておくよ」
「感謝!!!」
 手と言葉で促され、シュロは鼻歌まじりに尾の方へと駆けていく。セリオスもなに食わぬ顔で続きながら、呟いた。
「普通の牛と同じであれば、煮込み料理にしたいところだが」
「ビヒモーでは軽く炙ってから煮込むと最高なんですが、さてさて」
 そのセリオスに、セロンガードも続く。せっかくの獲物だ。機会があるならば逃す道理もない。
 
 ふう、と息をこぼしたウィリアムは、ぽつりと呟いた。
「シグラルくんはどこから来たと思う?」
「何かを追ってきたか、住処を追われたか、だろうな」
 じっと尾の方を眺めていたナハティガルが、視線を返すこともなく拾った。シュロがきっちり人数分切り分けている様を見届けて、目を閉じる。
「そうだね」
 炎牛は、接近戦には多大なアドバンテージを持っていた。有象無象の集団であれば文字通り蹴散らし得るし、今回のメンバーであってもサチコという鬼札がなければ到底太刀打ちできなかったような強敵だ。そんな相手が追われてきたのだとするならば空恐ろしいものがある。
 クリーパーが湧いてきていたというエフレムの証言通り、帝国領には有象無象のクリーパーが現れているのだろう。大本が帝都だけなのか、はたまたヴィントなのかすらもそうなのかは定かではないが。
「ヴィント攻略、うまくいくといいけどねえ」
「何かあればウチ(傭兵団)へのご指名お待ちしてんぜ♪」
 抜け目なくセールストークをするハヤトに、ウィリアムは苦笑を深めた。
「そうだね。望むと望むまいと、冒険者(君たち)には必ず、声がかかることになると思うよ」
 彼方を見やりながら、こう結んだ。

「とりあえず、帰ってシチューでも食べたいな」

マスターコメント

炎牛シグラル討滅、おつかれさまでした!! 有象無象の兵士を薙ぎ払う牛が、隊列を組んだ軍隊に突撃してくる事態は避けられました。 短期決戦という方針、それぞれのギミックに対する備えがきっちり噛み合っていた、とても良い構成になっていたと思います。 また地獄で会いましょう!
ショートEX

ショートEX非常に難しい 報酬:多い8 / 4〜8人

2021年03月15日 18時16分20秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえず能力を見ると近づけば近づくほど厄介な敵のようだな。 その上防御はそこまで高くないがタフということは生命が高いというところか。 メンバーがシーフ3、ウォーリア3、シューター2なので純粋な回復手がいないから各自でヒールは持って行ったほうがよさそうだな

  2. クレア・エクレール

    シーフのクレアだよ、よろしくねー! うーん、サチコさんの支援とウィリアム様の防御があるのは心強いけどやり辛い相手だよねぇ。 こっちも向こうにスリップダメージ蓄積させるなりしたいところ。 回復手段を用意しておくのは賛成ー。 でも役割特化する為に回復は積めないって人もいるかもだから、その場合は持ってる人でフォローできたらいいなぁ。

  3. シュロ

    放浪騎士のシュロだ。クラスはウォーリアだぞ。よろしくな! 高火力範囲攻撃持ちの高耐久の牛さんが相手か。 肝はやっぱり立ち回りだろうな。サチコの5Rスリップ無効の間にどれだけ削って、効果切れの5Rの間を如何にして凌ぎ切るか、だな。 あと体高が6m以上ってことは、体長(肩から尻尾)は7m越えかな。1ヘクスは余裕で占有してそうだな。 もし挟撃をする場合は反対側は遮蔽で見えなくなるだろうから、その辺は注意がいるかもな。 わたしはウォーリアとしては万能ビルドだから攻めも守りもいけるけど。今回は攻めに重きを置いた方がいいかな? ヒーラーもいないから短期決戦は必須だもんな。

  4. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! さて、燃え盛る巨牛の討伐か。 こないだの赤い雷狼といい大型クリーパーは近づくなり攻撃するなりだけで被害を被る厄介な相手ばっかだな!? セリオスがまとめてくれたが、今回の面子はサチコを除けばキャスターやヒーラーのいない物理特化構成になってんな。 こうなるとシューターは常に距離を保ちつつ射撃専念、ウォーリアは基本攻撃重視の準備をして貰ってサチコの作ってくれる5Rの隙の間に集中攻撃、シーフは同じく隙が生じた際にバステ付与重視とか攻撃&回避重視で引き付けってところが一番無難な短期決戦の戦法かと思うけどみんなの意見はどうだ?

  5. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 相手に近づくとスリップ判定がかかるようですし、 5R毎のスリップ効果無効中に可能な限りダメージを与えつつ、 スリップ効果中はなるべく距離を取るなり接近する人数を最小限に抑えたい感じですね。 編成も考慮すると短期決戦で仕留められると良いのですが、 相手の耐久力を考えるとできるかどうかは微妙な所ですね。 最悪ヒーラー武器を持って汎用スキルにヒール2を4個装備する事で、 疑似的にヒーラーとして動く事も考えています。 後はそうですね……相手に遠隔攻撃に該当するものが無いという点から、 狙う部位を脚部に絞るというのはどうでしょうか? 距離を詰める手段が移動以外には突進攻撃しかない以上、 移動力を削ぎ落して遠隔攻撃による引き撃ちが成立する状況を確立してしまえば、 後は淡々と射程外から撃ち続けて消化試合にできるのではないでしょうか?

  6. バクル・バスリー

    ウォーリアのバクルだよ。よろしくね。 >回復 回復手段用意は了解だよ。 ぼくはメインアクションよりサブアクションやリアクション系が多いから、ヒール持って行って、皆に使うね。 >全員攻撃重視? 一応、ぼくは主に防御方面が得意だから、盾役にまわるつもりだったけど、攻撃に回った方がいいかな。 【物魔撃】があったり、ヒーラーがいない関係で効率的な回復が難しいから、ダメージコントロールしないときつそうだし、 足止めしておかないと後ろを狙われたり、自由に動かれたせいでウォーリアの手番が移動でつぶれちゃうと不味いかなって思ってるよ。 だから、付与もある程度上げて、シーザーロアで攻撃の矛先をぼくに向けてもらってその両方の解決しようとおもうけど、どうかな? >足狙い これはありだと思うよ。機動力を落とせれば、引きうちや、執着を使った追いかけっことか、安全に削れる状況を作れるし。 ぼくは賛成だよ。

  7. シュロ

    >部位狙い 脚が狙い目なのは確かにな。でもそこばっかりだと、体力に余裕のある早い段階で逃げちゃう可能性もある。 倒す為の弱点になるような場所も探した方がいいと思うぞ。 >事前準備 30分猶予があるらしいけど、何かしてみるか? 辺りは雪原で、特に描写もないから大した障害物はないっぽいな。 んー、全員で協力すれば脚が落ちてつんのめるくらいの穴なら掘れるか? 喧嘩っ早いみたいだし、挑発すれば……しなくてもこっちを見つけたら突っ込んできてくれそうだな? >陣形 一丸になるか? それとも挟むか、完全に四方で囲むか? チャージの事なんかを考えると、わたしは分けても2班くらいがいいと思う。 バクルが壁役になってくれるなら、ウィリアムとで分かれて集中しやすいしな。

  8. クレア・エクレール

    >部位狙い 弱点が見つけられるならそこ狙いたいけど、まずは脚狙いに集中で僕は賛成かなー。 >陣形 あまり散らばるとウィリアム様達もカバーしにくいだろうし、別れても2班、それこそ惹き付け役と攻撃役に別れるとか? >作戦 サチコさんの支援が効いてるターンを有効活用して出来るだけダメージ与えておきたいのは確かだけど、向こうは普通に動いたり攻撃してくるわけで……それなら全員攻撃に偏重するよりバクルくんの挙げてくれたように足止めとかダメコンも意識して立ち回る人もいてくれた方が支援切れた後にジリ貧にならずに済むんじゃないかなって思ったよー。

  9. セリオス・オーガスト

    <短期決戦 まあこの参加者構成だとそのほうがいいだろうな。純回復がいない以上。 まあそれで決着つかないことも考えて俺はスリップダメージ狙いで真ハーツベインショットとかで攻撃するつもりだ。 <部位狙い 俺も悪くはないと思う。足をつぶせばチャージもしにくそうだしな <事前準備 シェロの言う通りまあよくて突進対策に穴でも作っておくぐらいか。草結びの罠だと燃やされておしまいだろうしな <陣形 とりあえず直線に立つとチャージの餌食になるし、取り囲むにしても1へクス以内だとストンピングの餌食になるから最悪2へクスは間をあけるか、ヒットアンドアウェイできるようにしといてほうがいいんじゃないか?

  10. セロンガード・シュタインドルフ

    遅れました、シューターのセロンガードです。 よろしくお願いいたします。 >回復 回復手段は了解致しました。 ヒールを1つ積んで行きます。 >短期決戦 とすれば、最初の5Rで削りきる事が理想でしょうか? 私は行動阻害を兼ねて【グラヴィティボルト】を積んで行こうかと思います。 >事前準備 人を模した物体を設置する事で、そちらへの攻撃を誘発したりする事は出来ないでしょうか? >足狙い 了解致しました。 足を狙うよう旨をプレイングに記述致します。 >陣形 ヒットアンドアウェイが理想だと思いますが、短期決戦を鑑みると火力の面で少々不安が残りますね…

  11. ナハティガル=ラー

    遅れてすまない。 ナハティガル=ラー。 不意討ち暗殺何でもござれのシーフだ。 初見の者も、そうではない者も宜しく頼む。 >作戦 ヘイトコントロールをウィリアムだけに任せるのは危険かと。 バクルの言うように、惹き付けには2人以上は欲しい処だ。 >足狙い 基本は足を狙いつつ、隙あらばその他の急所(頭部や心臓等)も狙って行く方向で考えている。 >BS攻撃 BS攻撃予定者同士で使用スキルが重複しない様、調整を行う必要があるかもな。 >事前準備 既に挙がっているように落し穴を掘るか、 (牛型だけに)興奮で判断を鈍らせるような『的』でも設置するか…?

  12. クレア・エクレール

    >事前準備 穴を掘るとか泥濘を作るとか気休め程度でも簡易罠みたいなの設置できたら良いよね。 少しでも討伐達成の確率上げたいし。 的と言えば幻影とか使った囮で誤魔化し効くかなぁ? >BS攻撃 ボクは今の所毒か死齎刃の【スリップ】付与か、縛糸刃の【束縛】あたりを考えてたけどそこまで強い拘りないし他の人の使用予定スキルに合わせて調整したいなー。

  13. セロンガード・シュタインドルフ

    >BS攻撃 攻撃のタイミングは特に考えておりませんでしたが、5R経過後に放つか、戦闘開幕後に先制で撃とうか考えておりました。 この辺り、指示していただければそれに従おうかと考えております。如何致しますか? >事前準備 色に反応してくれるならば、もっと簡単な話なのですが…

  14. クレア・エクレール

    あ、BS攻撃入れるタイミングに関してはスリップなら支援切れる前に入れて、支援が切れた後5R耐える間もじわじわ体力削っておくことで再支援受けてラッシュかけた時に仕留め切れるようにしておきたいなーって考えてた。 束縛だったり動きを鈍らせる系なら開幕直後に打った方が効果的だと思う。

  15. ナハティガル=ラー

    >事前準備 炎牛に当て嵌まるかは不明だが、聞いた所によると牛は色盲だとか。 闘牛で牛が興奮するのは、『色』ではなく『(ひらひらと動く)布』の方であるらしい。 >BS攻撃 行動阻害なら開幕直後に掛けてしまっても良いのでは? サチコの支援には行動阻害系は含まれていないようだしな。 >使用スキル 特性:トリプルファング、 アクション:フェザーステップ、衝撃刃2 上記のスキルを活性化して行く予定だ。 特性は残り1枠、アクションは残り2枠となっている。 今の所はBS系を持って行く予定は無いが、何か要望があれば活性化するつもりだ。 >惹き付け担当 炎牛の惹き付け担当は、バクルとウィリアムの2名という事で良いだろうか?

  16. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    >BS攻撃 そうだな、行動阻害系は最初からかけちまっても良いと思うぜ。 俺は死齎刃を持ってくつもりでいるが長期戦が予想されるしスキルは被って持ってっても、誰かのスリップが切れたら2Rおいて再度別の面子が攻撃してスリップを改めて与える感じでもいいんじゃねーか? 極力ダメージを蓄積させれる方がいいわけだろ? >事前準備 この辺は俺も落とし穴くれーしか思いつかねぇが炎牛のデカさからすると相当のアナを掘らねぇと意味ねーだろうし難しいとこだな。

  17. シュロ

    >事前準備 わたしは落とし穴を試してみるつもりだぞ。段差を踏み外した程度の効果しかないだろうけど、僅かでも隙が出来ればそれでよしだ。 囮については、牛だけどクリーパーだから生物学的に全く同じか分からないけど、それも含めて色々試すのはありだと思うぞ。 >引き付け役 2人にはある程度回復を回してあげないとだな。 特に【スリップ】を受けてる間はダメージが加速するから、最低でも1人、出来れば2人くらいが回復を飛ばしてあげたほうがいいと思うぞ。 >個人方針 わたしはこのメンバーだと弱い方だし、今回は抵抗を可能な限り上げてどの程度の強度なのか試してみるぞ。 炎獄をそれで防げるならサチコの援護がなくてもそのまま接近戦を続けられるしな。

  18. バクル・バスリー

    >事前準備 やれること少しでもやっておきたいから、落とし穴ぼくも作るね >引き付け役 ぼくとウィリアムさんの二人で引き付けて、攻撃受けて来るね。 自前のヒールとかでダメージ頑張って減らすけど、回復、ある程度回してくれると助かるよ。

  19. クレア・エクレール

    >引き付け役への回復 了解、了解ー! ボクはそんなに攻撃力ないし、BS付与した後はバクルくんとウィリアム様回復回せるように頑張るね。

  20. セリオス・オーガスト

    <落とし穴 足さえすっぽりはまって走るのに障害が出るぐらいで十分だろうから垂直に2,30センチの穴なり、浅くてもぱっと見周辺と平行に見えて段差があるとかでも十分足を取られると思うぞ。意識しないで足を踏み外すとバランスが崩れるしな <BS とりあえず俺も真ハーツベインショットを持ってくつもりだからハヤトとタイミングがかぶらない状況でかけるつもりだ。 もう一枠は火力用にバスターアローだな

  21. フリーダ=ブロムヴィスト

    >落とし穴 多少の段差があるだけでも足を取られる可能性があるでしょうし、やる価値は十分あると思います。 30分しか時間が無い以上は早めに準備をしておきたいところですね。 >引きつけ それではバクル様とウィリアム様のサポートに回る形にします。 2人共状況が良くないようならこちらが後詰で対応できるようにします。 抵抗値も限界まで積んだので、短期間なら敵周辺に陣取ってもなんとかなるはずです。 >引きつけ役への回復 こちらもヒール2を2つ用意しておきました。装備もヒーラー武器ですので気休めにはなるかと。

  22. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    >落とし穴 んじゃ、みんなで一緒に掘ればそれなりの深さに出来るとふんで俺も手伝うぜ! >BS攻撃 セリオスが言ってくれてるみてぇに【スリップ】付与の攻撃は被らねぇ様にこっちもスキルの使いどこは気をつけんな! >引き付け 一応俺も挑発牽制して引き付ける様には動くつもりでいんぜ。 ウィリアムとバルクで間に合えばいいがヒールにもかぎりがあんだろーし、俺は回避&フェザーステップのヒット&アウェイでの引き付けだからダメージは喰らわねぇようにしながらの引き付けになるけどな!

  23. ナハティガル=ラー

    >事前準備 では、俺も落し穴を掘る事としよう。 >NPC ウィリアム:前衛。バクルと共に惹き付けを担当。 サチコ:後衛。初手からスリップ無効化の支援スキル発動。その間は隊列後方から魔法攻撃。支援スキルが切れた6R目に再度支援スキル。 2名の動きは上記のように認識しているが、特に問題はないだろうか? 問題なければ、2名への要請という形でプレイングに盛り込んでおこう。 >行動 ウィリアム、バクル、ハヤトが炎牛を惹き付けてくれている隙に、死角に回り込んで攻撃予定。 スキル構成は―― 特性:トリプルファング、タナトスバイト アクション:フェザーステップ、疾風足、エアーライド、衝撃刃2 以上のスキルを活性化予定だ。

  24. セロンガード・シュタインドルフ

    >事前準備 了解致しました。穴を掘りましょう。 >NPC その認識です。 おそらく、問題ないと思われます。 余裕があれば、 ウィリアム用の回復を積んで行きます。 >BS 了解致しました。 開幕でグラヴィティボルトを使います。 >行動 上記のグラヴィティボルトと回復以外は、攻撃系のスキルを積もうと思っております。

  25. クレア・エクレール

    【スキル構成】 死齎刃、タナトスバイトor縛糸刃 疾風足、見切り、ヒール2を2枠 スリップ攻撃に関しては他の人とタイミングずらして仕掛けるようにするねー。

  26. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    俺はこのスキルセットで行くぜ! 【特性】 トリプルファング 死齎刃 【アクション】 反応強化2 フェザーステップ 疾風足 衝撃刃2

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0