葬神に捧ぐ黒い花

蔭沢 菫

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シナリオID:634

オープニング

 煙を上げるシグモル火山が見える。庭園には毎日灰が積もり、それらを綺麗にするのがルベリの日課であった。ルベリは齢十六、引っ込み思案な気質を思わせる薄青の瞳をした娘であった。装飾のある灰色の衣と銀の額飾りは彼女が神官として高い位についていることを示していたが、衣は寸法が合わない古いものを必死に仕立て直した跡が見え、銀の額飾りに嵌められていたはずの宝石はどこかに転げ落ちて久しかった。
 ルベリは葬神モーブグレイユの神官長であり、今や訪れる人の絶えた神殿で寝起きする僅かな神官を取りまとめる立場にあった。モーブグレイユの神殿にはルベリの他には老いた神官数名が暮らしているのみ。彼らを師として親として育ったルベリは、先代神官長が聞いた神託によって幼いまま神官長の座に就くこととなり、古書と火山地帯に芽吹く僅かな植物達を友としてきた。
 モーブグレイユは終わりの神だ、とルベリはいう。マトリクス界の辺境に存在する灰衣の人影であり、マテリアル界から来る魂をずっと見続けているのだという。罰を下すでもなく、祝福するでもなく。ただ、宿命に等しい数が訪れたかどうかを記録し続けるのみ。
 モーブグレイユは宿命に関わる神だ、とルベリはいう。何者も最後には死を迎え、逃れることはできない。かつてはアンデッド退治を専門とする神官戦士を多数排出していたというが、今はもはやその面影はない。長い時の中で擦り切れるかのようにモーブグレイユ信仰は忘れ去られていった。元々派手な逸話や立場を持つ神ではない上、現世利益がさしてあるわけでもない。マトリクス界での魂の在り方を保証するわけでもない。それ以上に宿命に従うをよしとするモーブグレイユの信徒や神官――主に墓掘りや多数の死者を看取った者――は布教に無関心であった。仕える神のように粛々と、ただ存在するのみ。
 結果、シグモル火山帯にある、いつ建てられたか知る者のないモーブグレイユ神殿は、衰え、忘れられていった。それを叱責する神の声が響いたことはない。派手な奇跡が起きたこともない。ただ、ルベリを神官長にせよという短い声が一度届いたのみだ。
 あと百年もたてば、モーブグレイユの名は文字の上だけの物になるだろう。かつてルベリが助けた学者が、真面目な顔でそう告げたことがある。かといってルベリが現状を変えるために何かできることはなかった。ルベリは一生をここで過ごし、そしてモーブグレイユが忘れ去られていくのを見届けていくのだろう。
 モーブグレイユは神であることに疲れ果てたのだろうか。
 庭園に降る灰の中から芽吹く小さな緑を見ながら、ルベリは思った。自分を神殿と硬く結び付けた神に対する憎しみはなかった。幼い頃から触れていたモーブグレイユの名が消えることに対しての静かな悲しみがあった。そして、この状況をどうする術もないことを、ルベリはよく分かっていた。

 シグモル火山帯の入り口にある旅籠。短い灰髪の無機質な召喚士が書物を読んでいたが、冒険者達の到来を知り顔を上げる。
「君達、よく来てくれた。私はマイナデア。神についての研究を主に行っている」
 マイナデアと名乗る女は手短に自身の紹介をする。『神格研究者』を名乗る彼女は失われた神格の伝承や遺跡を発掘することや、新興の神々の正体を明らかにすること――主に教義の矛盾を探し出したり、カルト教団の陰謀を暴いたりすることを生業としているらしい。
「だが、今回は個人的な話だ。神絡みではあるが、私情も多く絡まっている。忘れられつつある神について、だ」
 そして、彼女は静かな口ぶりで説明する。
 数年前、『名を喪った神』の遺跡を調査せんとシグモル火山帯に訪れたマイナデアは、クリーパーと相打ちになり大怪我を負い、とある神殿に迷い込んだという。迷い込んだ先は忘却の淵に今まさに落ちようとしている葬神モーブグレイユの神殿であった。神殿の古い様式と聞いたことのない神の名に興奮したマイナデアは怪我が治るまでの滞在中、モーブグレイユについて調査を行っていたという。
「モーブグレイユは、死んだ者の魂が正しい数マトリクス界に訪れたかを数える神だ。歴史は極めて古いが今となっては信者は僅か。私も様々な文献の中からやっと名前を探し出した位だ。正直このような神格が他の神格と大きく統合されずに残っていることが不思議な位で」
 早口になりかけたマイナデアは失敬、と咳をし薬草茶を口にする。
「それはさておき。モーブグレイユの神官長には恩義があるし、神としての形態も興味深い。正直研究者としてどうかとは思うのだが、このまま滅びるのを黙ってみてはいられない。とはいえ、神官長のルベリは現状を受け入れ切っている」
 長い溜息を吐くマイナデア。表情は薄いがどうしたものか、と言いたげな感情で一杯なことがあらわであった。
「という訳で私は考えた。ここは長期作戦で行く。伝承によればモーブグレイユは黒い花を好んだという。ここに植物研究家の間を巡り歩いて、手にした球根が二十程ある。火山地帯でも丈夫に咲く黒百合の球根だ。幸いルベリは植物を育てるのが好きだ。この火山地帯では碌な花は咲かないが……彼女が庭を作るのを手伝ってほしい」
 そして、と彼女は続ける。
「ルベリを除けば神官は老人達ばかりだ。他にもやれる仕事は沢山あるだろう。無論私もついていく。古書があそこには多々あるから、モーブグレイユ信仰の歴史調査を行わねばならない。まあ、つまり、何をいいたいかというとだ。私と一緒にモーブグレイユ神殿に行って、神殿が活気を戻すちいさな切っ掛けになって欲しいのだよ……葬神から見れば、大いなるお節介かもしれないが」

解説

 モーブグレイユ神殿に活気を戻す最初の一歩として、神官長ルベリの庭作りや他神官の作業、またマイナデアの調査を手伝う。  出来ることは大きく分けて三つ。「黒百合の球根を庭園に植える」「神殿の掃除や料理等雑用をする」「マイナデアがモーブグレイユ信仰の歴史をまとめるのを手伝う」です。庭園は古風な意匠ですがぼろぼろになっており、ルベリが必要最低限の手入れをしてなんとか保っている状態です。神殿は石作りで広く、地下室も多数あり、一人で全て掃除しきるのは難しいでしょう。マイナデアの調査に関しては古い書物と大量に格闘する羽目になるでしょう。また、作業の合間に神官長のルベリや神官達と関わるのも良いかもしれません。  NPC等:   ルベリ:モーブグレイユの神官長。引っ込み思案の気がある娘。ヒーラー。植物を育てるのが上手。   マイナデア:『神格研究者』を名乗る召喚士(キャスター)にして学者の女性。ルベリの友人(自称)。   老神官:五名。彼らが若かった時からモーブグレイユの神殿は衰退しきっていた。   モーブグレイユ:忘れられつつある、ルーツの古い葬神。教義は「何者も最後には死を迎え、逃れることはできない」。

マスターより

 こんにちは、ろばたにスエノです。忘却されつつある神の為に、花を植えましょう。(勿論それ以外の仕事も!)  ルベリをはじめとした神官達は現状の変化を諦めていますが、交流やマイナデアの調査の結果次第では、何かが変わるでしょう。

リプレイ

「これは、大仕事ですね」
 ナンチ・ヤジナイは黒百合の球根が入った袋をどさりと地面に置いてから、庭園を見て考え込む。マイナデアの話によれば、黒百合自体は王国貴族が妻に贈るために改良を重ねた品で、名を『夜想花』という。百合にありがちな匂いの強さはなく、小さく繊細な黒い花を咲かせるらしい。
「私も神殿にいた時は畑を耕してたけど、やっぱりこの灰は大変ね」
 やる気も新たに腕まくりをするロゼット。目の前でふわりと灰が舞い落ちるが、彼女の闘志は衰えることはない。
「それでは、案内しますね。どうぞ足元に気をつけて」
 ロゼットとナンチはルベリにゆっくりと案内されながら庭園を巡る。庭園はルベリの言に反してそこそこの広さがあり、火山から切り出された灰色の石で飾られていた。かつては細かい装飾が石に刻まれていたのだろうが、長い年月が装飾を火山灰で埋めてしまい、今ではうっすらとしか見えない。灰に覆われていない場所からは暗い色の土が姿を現しており、そこでは火山帯特有の背の低い小さく可憐な花々がひっそりと風に揺れていた。次々に花の名を告げていくルベリは目を細めており、僅かに年頃の娘らしい様子を見せていた。
 三人が適度な広さのある空いた花壇を見つけ、ここがいいだろう、とあたりをつけた所でナンチはあたりを改めて見まわす。よく見れば花壇の横にはぐらつきかけた石像が、道には足を引っかけやすい隙間ができていた。
「さあナンチ、始めましょう。灰の掃除なんかは私に任せて」
 ロゼットとルベリを見て、ナンチは腕をまくる。
「僕は、周囲の手入れからやりますよ。危なそうな所や手が届きにくい所を綺麗にしようかと」
「助かります、ナンチ様。この庭は古い物ですから、気をつけないと転んだり、転がって来たりしてしまいますので」
「転がって?」
 ルベリが答える代わりにそっと視線をやった先には、大きく崩れた石の山があった。

 雑用を行う二人はひたすらに淡々としていた。一種独特な神に対する見方を持つ仮面の墓守、グレイブ・ヤード。喪われた神の唯一の信徒であるサマエラ=フォリウム。老神官らは普段の仕事から解放されて驚いたような顔をしていたが、
「大いなる方々に奉仕するのは神官としての務めにして誉れです」
 というグレイブの言葉の後押しもあり、素直に休みを取った。神を名ではなく大いなる方、と呼ぶ彼の言葉には不思議な所があったが、それも旅人なりの奇癖の一つなのだろう、と神官らは深く考えることはなかった。
 二人が取り掛かったのは夕餉の準備であった。現状そこそこの人が集まっており、更に老人も一定数いる神殿ならば、量ができて胃にもたれない物がいいだろう、とサマエラは思いつく。
「野菜も肉も柔らかく解れるように、シチューでも作ろう」
 独り言のように呟く彼女に、グレイブも独り言のように返す。
「肉と野菜の下ごしらえは私が。主食は潰した芋にしましょう」
「いや、パンだ」
 サマエラの声は確信に満ち溢れていた。
「パン生地には蜂蜜を少量入れ、風味としっとり感を、足しておく。そうだ、苦手なものがないかも、聞いておかないと」
 と、小さな足音がする。ふと見やるとルベリが柱の影から恐る恐る覗いていた。
「お邪魔かと思いましたので……」
「いえ、構いませんよ」
「むしろ、皆に苦手なものが、ないか。聞こうと思っていた」
 サマエラの言葉にルベリは少し考え、感謝をするように目を伏せる。
「このような地ですから、皆苦手な物等はありませんが。特にあるとすれば変わった味付けや、濃い味付けは慣れていないので……避けていただければと思います」
 我儘ですが、といって去ろうとするルベリをサマエラは呼び止める。
「信仰が、途絶えかけているのか」
「ええ、そうなのでしょうね」
 そういうルベリの言葉は、全てを諦め宿命に委ねた人の静けさがあった。
「私が神も、既に名も失われ、偶々存在を知った私が眠りにつけけば、最早誰の記憶にも残らぬ、状況でな。私は『それも良し』と納得の上で、受け入れているが」
 ルベリは困ったような、悲し気な表情で「御身の神が安らかに眠られますよう」と呟きサマエラの言葉の真意を推しはかろうとする。
「ルベリも、『仕方ない』ではなく、『それも良し』と、思えて、いるか? ルベリは葬神の命を受けて、神官長になったと聞く。ならば、この信仰がどうあるべきか……どうなって欲しいと、感じるのか。希望を述べるくらい、許されるのではと、私は思う」
 サマエラの言葉にルベリは顔を伏せ、頭を振る。それはいきなり来た現実から逃げようとする人の姿にも見えた。
「申し訳ありません。気を使わせてしまって」
 もごもごと呟くような言葉を、何とか吐き出すルベリ。そして、何拍もの沈黙を越えて、ぽそりと彼女はこぼす。
「今の望みは、ただ私達とモーブグレイユ様がいたことを、覚えていてくだされば。それでいいのです」
 そうしてルベリは一礼し、ゆっくりと去っていった。
「本当に古い形態の信仰だと思いますよ。日常がかの方々と共にあるための生活様式なのですから」
 玉葱を剥いていたグレイブは小さくなっていくルベリの姿を見ながら、呟く。
「生活の一部だからこそ伝承や経典はほぼいらず、知って当然だから伝えない。故に歪むことも少なく、他の信仰が取り込むこともない」
 パンに入れる蜂蜜の瓶を困ったように手の中で転がしていたサマエラは、「生活の一部」と繰り返す。
「ええ、生活の一部。布教に無関心というのはそういうことでもあるでしょうね。彼らにとってはただの日常なのですから」
 グレイブは剥き終わった玉葱をまな板に載せ、とんとんと綺麗な音を立てて切っていった。
(さて、この方が「終幕たる死」を象徴するなら、「開幕たる生」を象徴する方はどこでしょうね?)
 思いをはせるグレイブの横で、サマエラは考え込んでいた。

 レイヤ・ダライ=カホールは神殿の地下室の多さにぽかんとしていた。神官の一人、ハンネルと名乗る老女は地下室に灯りをつけながら案内する。
「本当に、手伝わなくて良いのかしら」
 老女は人の良さそうな心配顔をしてレイヤを見る。レイヤは気を取り直し、闊達な声で答える。
「では、側にいて話をしていてもらえませんか? モーブグレイユ様がどんな方なのか、知りたいんです。死は何より平等であり、等しく、尊きモノであると私は思います。逃れざるものであるがゆえに、向き合う必要があります。実に、良い教義だと思います」
 あらあらあら、とハンネルは笑みを崩し、良い子ね、といいたそうにレイヤのくせ毛をくしゃくしゃと撫でた。
「そうねえ、ではお話を一つ。モーブグレイユ様と星のお姫様のお話」
 そうして、語られたのはこのような話だった。
 かつて、モーブグレイユが灰色の衣で身を隠す前の物語。マトリクス界に来たばかりのきらめく星のような魂を持つ姫君と、それに恋をしたモーブグレイユの物語。一柱と一人は恋に落ちるが、やがて姫君は定命のさだめによって再び現世に生まれ変わることとなる。以来モーブグレイユは灰色の衣をまとい、厳格な観測者としての任務以外には心を動かぬようになったという。
 レイヤは埃を掃きながらハンネルの話を聞いていた。掃除は大変だったが、ハンネルの語った昔話のおかげで苦は少なかった。
「勿論これは本当の話じゃないわ。後世の人が歌ったお話の一つ。でも、どんなお話にも本当は隠されているものだと思うわ」
「本当のこと、ですか」
「ええ、古くて形は変わっているけれど、ね。さて、今度は死霊狩り達の話をしましょう!」
 静かなモーブグレイユ神殿の中で、ハンネルは唯一のおしゃべりだったとレイヤが知るのは数日かけて掃除が終わった後のことであった。

 ネーヴェ・グラヌローザ、シャーデンフロイド、ガレシアス=エルムート、そしてマイナデア達は書庫に籠っていた。ガレシアスが資料を探し、ネーヴェも彼を手伝う傍ら『索引機能を持たせた文書目録』を作成する。神官からの口伝を聞き取る役はシャーデンフロイドが行った。レイヤがハンネルから聞いた話も勿論纏められた資料の中に入っており、かけた時間が短い割には、それなりのできへとなっていた。
「簡単な冊子も作りとうございますね」
 ネーヴェの言葉にシャーデンフロイドも頷く。
「モーブグレイユ教に足りないのは派手さじゃなくて、情報と拡散力ですよ」
 二人はそういいながら小冊子の案をああでもないこうでもない、と話し合う。その横で祭祀儀礼にまつわる古文書を探していたガレシアスがふむ、と声をあげる。モーブグレイユには派手な祭儀はなく、夕暮れの祈りと、年の終わりに神官らが「時は過ぎた!」と叫んで火を消す儀式のみがあった。
「本当に古い信仰の神なのですね」
 歴史学者であるガレシアスにとっても、モーブグレイユの質素な信仰形態は珍しいものであった。マイナデアはうむ、と頷き、幾つかの神の事例をあげる。彼女によれば、今まで見かけた中で一番古い形式の信仰だという。
「皆様、お茶が入りました」
 盆に素朴な焼き菓子と薬草茶を乗せたルベリがはにかみながらそっと部屋に入って来る。窓からは灰降るシグモル火山帯には珍しい、昼の薄く晴れた空が見える。一同はそれぞれの作業を止め、ルベリの元に向かうのだった。

 シャーデンフロイドの聞き取りはルベリにも及んでいた。ルベリは専門的なモーブグレイユの神話を幾つか語ったが、その多くは散逸して分からない、と首を振る。
「『何者も最後には死を迎え、逃れることはできない』……ですか」
 ええ、とルベリは頷く。その表情には今までにはなかった迷いがどこか見えていた。
「確かにねぇ、ワタシも長生きですけどいつかは死にますしぃ。とりわけ信仰している神さまはいないんですが……路傍の石程度のワタシのことも、忘れずに記録してくれるんでしょう? だったら忘れたくないなぁ。神としてではなく、友人の一人としてね」
 そこにそうだな、とガレシアスが賛同し、ルベリの目をじっと見つめて歴史学者としての持論を述べ始めた。
「人類はその長い歴史の中で、『記録すること』で生きた証を残し、希望を未来に託してきました。葬神は、路傍に倒れて人知れず亡くなるようなものでさえ書き留める。それは決して消えることのない記録です。終わりなどではない」
「冒険者様達は、面白いことを考えるのですね。私はそんなことなど思いもしませんでした」
 どこか消え入りそうな声で、ルベリはうつむいて答える。
「恐らく、この広い書庫も、記録者としてのモーブグレイユの側面を表した所があるのでございましょう」
 ネーヴェも告げた。様々な珍しい古書を見つけ出していた彼女は、その種類の多さに舌を巻いていた。
「かの神が記録してくれるということ、それは私達がかつてこの世界に存在したという、確かな証となるのですから……一人で旅立つ定命の身にとっては、とても心強いことだと思います」
「だから、ルベリ君。もう少し前を見てもいいのではないか?」
 一同の言葉を支えるようにマイナデアもいう。淡々とした中に、熱を込めて。
 ルベリは泣きそうな顔になっていた。
「皆様は、本当にお節介なんですね。外の方って、皆様こうなのですか?」
 堪えていた心が一気に堰を切って溢れるような語調であった。
「覚えてもらえるだけで、十分だと思っていたのに。忘却の宿命に逆らうなど、分の過ぎた願いなのに」
 ルベリの笑みはどこかぎこちなく、目の端は僅かに濡れていた。
「望んでしまいそうになります」
 一同が何か次の言葉を探そうとする刹那、静かな声が入って来る。グレイブであった。
「皆さん、庭園の方で見てもらいたいものがある、とロゼットさんとナンチさんが。できれば専門家の意見を仰ぎたいと」

 ナンチは庭の老朽化した場所を整備していた。壁から庭園の装飾、通路、全てが古くどこもかしこも危険な場所だらけであったが、力仕事の得意な彼の奮闘のかいもあり、庭園は端の方へと寄らねば危険ではない程度までには姿を取り戻していた。
 ふと、きらきらと輝く何かが転がり落ちていたのを発見した。よく見れば磨かれた煙色の水晶が地面に埋まりかけており、拾い上げたそれはルベリの額飾りにぴったりと嵌りそうな形状であった。
 土を耕していたロゼットはナンチの声を聞いて「良かった」と笑い、駆け寄るが――その次にナンチが告げた言葉にえっと驚きの声をあげる。
「これは、手ですか? 古い……ちょっとロゼットさん、見てください、土の中から、手が!」

 冒険者一同は出てきたものを見ていた。地面に埋まっていたのは女の像であった。大きすぎてナンチとロゼットの手では未だ頭部と天に伸ばした両手しか掘り出せず、二人はこれ以上の発掘は足場もないため困難だろう、と考え込んでいたのだった。
「ルベリさん、見覚えは?」
 問うナンチにルベリは考え込む。
「いえ。私の知る限りはこのような彫像は……神官の皆も知らないようです。恐らく、庭の普段使わない場所を整備した結果出て来たのかと思います」
 ロゼットがルベリに水晶を渡し、笑む。
「これも宿命の導きの一つかもしれませんよ。貴方が神官長になったことも、マイナデアがここに迷い込んだことも、この石や、石像が見つかったことも」
 じっとルベリは水晶を覗き込む。その中に答えが見つからないか、と言いたげに。
「モーブグレイユ神も座して死を待てとは教えていないはずです」
 はっとルベリはロゼットの言葉に顔をあげる。そのような考え方にはついぞ思いもよらなかった、という風だ。
「とりあえず、この像をどうするかですね」
 ううむ、とナンチが腕組みをして考える。その横から遅れてやってきたレイヤがいいことを思いついた、というようにひょこりと顔を出す。
「リザードマンの人達に布教してみるのはどうでしょう?」
 指をぴっとあげたレイヤを皆が見る。
「シグモル火山への巡礼や、石像の発掘作業はいい研鑽になると思うのです」
 ルベリは大丈夫かしら、といいたそうに一同を見まわし、それから首を振る。
「答えを求めすぎては駄目ですね。私がここの神官長なのですから。しっかりと決めないと」
 ふと、ネーヴェが声をあげる。
「そういえば、この像の御顔、どこかで見たような気が……あの石板でございますね」
 幾つも今にも崩れそうな貴重な書物を見つけ出していたネーヴェは、一つの石版を見つけ出していた。そこには像によく似た人、もしくは神の横顔が刻まれていたという。
「文字は古すぎて読めませぬが、恐らく、この像と同じ方を指しているのでしょう。ほら、星を連ねたような冠が……」

 マイナデアが石板を探してくると駆けだす様を見て、どこからともなく暖かな笑い声が湧き上がった。

マスターコメント

 モーブグレイユの神官長ルベリは座して終わりを待つことを止め、新たな道を探そうと模索し始めたようです。発掘された像と石版の関係性は、そして像の正体とは。いずれルベリから新たな依頼が来るかもしれません。  申し分のない大成功です。ありがとうございました。
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:少ない8 / 4〜8人

2021年03月04日 16時16分42秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. グレイブ・ヤード

    グレイブ・ヤードです。 まぁ今回は特になにも、ですかね

  2. ナンチ・ヤジナイ

    ナンチ・ヤジナイです。 今のところ庭園の修繕ができればなと思ってます。

  3. ネーヴェ・グラヌローザ

    ネーヴェ・グラヌローザと申します。どうぞ宜しくお願い致します。 今のところはマイナデア様のお手伝いをしとうございます。モーブグレイユ信仰に興味がございまして……ですが、どうしても、という訳では御座いません。どこか一箇所に偏りが生じるようであれば、私は手の足りないところに入るつもりです。

  4. シャーデンフロイド

    や、どうも。キャスターのシャーデンです。 依頼で度々お会いする方も、初めましての方もどうぞよしなに♪ ワタシもネーヴェさんと同じく、マイナデアさんのお手伝い志望です。 人手が足りているのであれば、球根を植える方に行きますよ。植物だーいすきなので! あ、ワタシの料理は爆発するんで、そっちは無理ですね。

  5. ガレシアス=エルムート

    キャスター、ガレシアスです。見知った方々もいらっしゃいますね…よろしくお願いいたします。 私は…個人的にマイナデア殿の研究内容に興味がありまして。もっとも、神学よりは歴史学的な部分で、ですが。 ですのでそちらの方に回りたいと思いますが…はい、料理は私も苦手でして…掃除は…片付けは苦手ですし…花植え、ですかね。 今のところ敬称略で、 【造園】ナンチ 【雑用】 【調査】ネーヴェ、シャーデンフロイド、ガレシアス こんな感じでしょうか。

  6. グレイブ・ヤード

    ふむ、では私は雑用をメインとして動きましょうか。 いろいろ手の回らないところも多いでしょうからね。

  7. レイヤ・ダライ=カホール

    レイヤ・ダライカホールです。よろしくお願いします。 葬神モーブグレイユ…興味深いですね。 わたしは老神官のヒトとお話したりしながら 神殿の掃除の方、していこうと思ってます。 これでこんな感じですね。敬称略で失礼します。 【造園】ナンチ 【雑用】グレイブ、レイヤ 【調査】ネーヴェ、シャーデンフロイド、ガレシアス

  8. サマエラ=フォリウム

    ゴブリン、サマエラだ。 よろしく頼む。 信仰の歴史にも、興味はあるが……そちらは後に、纏められたものを拝見させてもらおうか。 仕事としてはひとまず、料理あたりは多少できるので、そちらに回ろう。移動も構わない。 【造園】ナンチ 【雑用】グレイブ、レイヤ、サマエラ 【調査】ネーヴェ、シャーデンフロイド、ガレシアス

  9. ロゼット

    火山帯出身のヒーラー、ロゼットよ。よろしくね。 同郷の神官として、モーブグレイユ神殿のために働きたいわ。 なら私が造園のお手伝いにいきましょうか。 これで8人が分かれる感じだけど、どうかしら。 【造園】ナンチ、ロゼット 【雑用】グレイブ、レイヤ、サマエラ 【調査】ネーヴェ、シャーデンフロイド、ガレシアス

  10. ナンチ・ヤジナイ

    球根を植えるのは人手も多くいらないでしょうから、そんな感じで大丈夫じゃないでしょうか。 僕のほうはボロボロになって危なそうな所や動きづらそうな所を整えられたら、という感じで大きな修繕は考えてませんが、意匠などが研究のヒントになるかもしれませんから、POIPOIと破棄しないようにするつもりです。

  11. ネーヴェ・グラヌローザ

    皆様、取り纏め頂きありがとうございます。 これで8人分かれましたわね。モーブグレイユ神殿の為に力を尽くしましょう。 > シャーデンフロイド様、ガレシアス様 モーブグレイユ信仰の歴史をまとめるお手伝いですが、3人でどのように役割分担するのが尤も効率良く進められるか話し合えたらと思っております。恐らくある程度役割を決めた方が、より速度が上がるのではないかと思うのですが…… 宜しければ御二方のご意見をお聞かせ頂けますと幸いです。

  12. シャーデンフロイド

    良い感じに分かれましたね~! 効率よくモーブグレイユ様のお力になれそうで何より何より。 >ネーヴェさん マイナデアさんのお手伝い、要はモーブグレイユ信仰が残るようなことをしたら繋がるのですよねぇ。 ワタシはルベリさんや他の神官さんからモーブグレイユ様についての口伝を受けて、書き留めたものをマイナデアさんに提出してみようかなって思ってます(彼女ならもうやってそうですけれどね! けれど再び聞くことで、なにか新しい逸話が聞けるかも)。 で、もらったインタビューを冊子にして配ったり売ったり話したり売ったりすれば、葬神の周りも賑やかになるのではと。 いざ活気をと意気込んで、御足が足りないというのはいささか悔しいでしょう。

  13. ガレシアス=エルムート

    >シャーデン殿 ネーヴェ殿 ふむ…口伝の書き起こし、良いと思います。私は…そうですね。古文書から祭祀儀礼にまつわる記述を復元し、信仰文化として発信できたらと思います。祭祀儀礼というと堅苦しいですが、お祭り、と言えば興味を持たれる方は多いと思いますから。 あとはそうですね…信徒の日記など残っていればよいのですが。信徒の日常を紐解くことでモーブグレイユ神の側面を明らかにしたい、と。ただ、古文書や日記の読解は専門的知識が必要になりますから、もしよろしければ【資料検索】などでお手伝いいただきたく。

  14. グレイブ・ヤード

    とりあえず雑用のみで動くつもりではありますが。 少し思ったことを >思ったこと 「神殿(信仰)における活気」とはなんなのでしょう? 観光客の量でしょうか?信者の多さでしょうか? 私は「神官が己の属する神殿(信仰対象)を誇りに思えること」ではないかと思うのですよ。 かといって誇りに思えるように内容を拡大曲解というのは私としては解釈違いなのですが。

  15. ロゼット

    >造園 ナンチはよろしくね。私も球根を植えるのに加えて、 ボロボロ具合が酷いところは整えるように手伝うわ。 >雑用・調査の方 余裕があったらで良いんだけど、掃除や古書を調べてる時に、 ルベリの額飾りの宝石が出てきたら、返してあげてくれないかな。 無理に探すまでしなくて良いから、もし出てきたらって感じで。 >「神殿(信仰)における活気」 少なくとも依頼人のマイナデアは、正しい知識が世に出ることで、 モーブグレイユの神殿に再び巡礼者が戻り、さらに言えば信者が 増えることを将来的には、期待したいんじゃないかな。 とはいえ観光地にしたい訳ではないでしょうから、長期作戦、 緩やかな変化のなかで、ルベリが信仰に自信や誇りを持てるように なってくれたら、とも思っているんじゃないかしら。

  16. ナンチ・ヤジナイ

    ロゼットさん こちらこそ、よろしくお願いします。 造園のスキルっていうのもあるんですね。 でも今回は無知のままにしておきます。 植える黒百合はさすがに他の植物に影響しないとは思いますが、マイナデアさんは育て方なども聞いてきているのか確認しておきたいです。

  17. ネーヴェ・グラヌローザ

    > シャーデンフロイド様、ガレシアス様 御二方共、ご意見ありがとうございます。 それでは私は「資料検索」も利用致しまして古文書の大体の仕分け等を行い、御三方の調査が捗るようサポート致しますわ。一緒に「幸運の星」も持ちますので、もしかしたら資料を整理している間に、何か重大な文書が見つけられるかもしれません。 まとめた資料を元に簡単な冊子を作るのは賛成ですわ。もしかしたら布教にも一役買えるかもしれません。平易な言葉遣いや内容にすれば老若男女問わず親しめるかと存じます。 >ロゼット様 承知致しました。資料整理の時に、気にかけてみますわね。

  18. グレイブ・ヤード

    伝承を探すにしても、おそらく何らかのつながりはどこかにあると思いますので 今現状からわかることとして (私個人として、神々の名を呼ばず、象徴で呼ばず、 あくまで「かの方」「あの方」という呼び方にしております) >かの方(モーブグレイユ)の分かっている部分と「そうするとこうなのでは?」と自分なりの疑問 ・マトリクス界の辺境に存在する(マテリアル界との境界にいる?=一番この世界に近い?) ・灰衣の人影(人型なら神像などはないのかな?) ・マテリアル界から来る魂をずっと見続けている ・裁くものではない(罰しない、祝福しない=上と含めて見守っている?) ・死者を記録する(つまり誕生から既に見られている?=誕生の守護?) ・終幕を象徴する(かつてはアンデッド退治の象徴=正しく魂を導かなければならない?) ・現世利益に繋がる逸話はない ある程度見方を変えてこういうのがつながってそうだなという想像ですが

  19. レイヤ・ダライ=カホール

    ちょっと思ってたのが、リザードマンのヒトたちには受け入れられそうな気がするな。と。 グレイブさんの言う、「現世利益に繋がる逸話はない」ってのもそうなんですけど。 この大陸のヒトの死生観って、死んだらマトリクス界に至って、エーテルになってマテリアル世界に還る。みたいな感じじゃないですか? でも、リザードマンは違うんです。 わたしもリザードマンに連なるもの。 わたしたちは、死した後も次の生が存在し、その魂の研鑽の果て、やがて竜に至ることを目標にしています。 宿命や終わりは次の研鑽に必要なモノ。それを見守り、正しく終わったこと記録してくださるのならば、 かの神はありがたい存在だと思います。 正直に言うと、過酷なシグモル火山帯への巡礼とか、いい研鑽になりそう、とか思っちゃいます。

  20. サマエラ=フォリウム

    私は料理を中心としつつ、手が空いた時には掃除洗濯等の手伝いにも、回ろうか。 宝石の件も、承知した。依頼中、意識してみよう。 信仰自体の話も、気にはなるが……ルベリの状況も、気になるので。 合間の行動としては、後者への関わり中心にしようかと、考え中だ。 出来るか否かは、一度置くとして。彼女としてはこの信仰が、どのようになって欲しいのか。 訊いてみたい。

  21. ロゼット

    失礼。誤字訂正。 >ナンチ 植物についてはルベリ神官長も詳しいみたいだから、 植える際には聞いてみると良さそうね。 >ネーヴェ ありがとう。彼女の生活なら、神殿内か外のどこかに 落としたのだと思うから、見つけたらお願いするわ。

  22. グレイブ・ヤード

    (ふと) しかし、終幕、終焉、死という「一方」しかないというのも違和感ですよね。 対となる方がいらっしゃったりするのでしょうか?

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0