【初夢】授恵者は幸福な夢を見るか?
夜団子
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シナリオID:450
オープニング
●砂袋を背負った老人
とある地方にある、とある妖精の伝承。せっせこせっせこ砂袋を運ぶ、小柄なおじいさんの言い伝え。
彼が背負う砂袋は、ただの砂袋ではありません。それは魔法の砂袋。中身の砂をさっと目へ投げ込めば、投げ込まれた人はどんどん眠くなって、目蓋が開けられなくなってしまう。眠れなくて夜更かしをする子どもに、眠りを届けてくれる妖精なんだよ。
彼に寝かしつけられたなら、きっと良い夢が見られることだろうね————
●授恵者は幸福な夢を見るか?
「なぁんて。そんな妖精がいてくれたら、不眠症で困る人々は大助かりだろうねぇ~」
あっはっは、と与太を語るは白髪の青年。旅人然とした格好で小型のハープを手にした吟遊詩人、テフェが冒険者たちへ酒のつまみに摩訶不思議な伝承を詠って聞かせていた。
その中で挟まった、とある妖精の伝承。これには少し、テフェは思い入れがあるようだ。
「テフェはこんな喋り方だからさぁ~この伝承があった場所に行ったとき、子どもたちによくせがまれたんだぁ。『夜更かししたいから眠らせないで』って! 子どもって純粋だねぇ」
時は年の暮れ。新しい暦がもうじき始まるという最中だ。聖霊節も終わり、街は新しい年を迎えるためどこか粛々としている。家族や大切な人と過ごす者は家に、そうでない者はこうやって酒場やギルドに集って、今年が終わるのを待っていた。
「そうそう、それでねぇ。こんな話も聞いたんだ。年の始まりは、砂男の魔法がいっそう高まるとき。だから砂男は、その魔法をめいっぱい使って、幸せな夢を見せてくれるんだって」
それはとても優しくて、とても都合が良くて、とても幸福な————
「……あったかもしれない、失われた未来の夢さ」
※このシナリオは「夢オチシナリオ」です。シナリオ内容は架空のものであり、アニエピカの世界観に一切影響を与えません。報酬は冒険者ギルドからのお年玉です。
とある地方にある、とある妖精の伝承。せっせこせっせこ砂袋を運ぶ、小柄なおじいさんの言い伝え。
彼が背負う砂袋は、ただの砂袋ではありません。それは魔法の砂袋。中身の砂をさっと目へ投げ込めば、投げ込まれた人はどんどん眠くなって、目蓋が開けられなくなってしまう。眠れなくて夜更かしをする子どもに、眠りを届けてくれる妖精なんだよ。
彼に寝かしつけられたなら、きっと良い夢が見られることだろうね————
●授恵者は幸福な夢を見るか?
「なぁんて。そんな妖精がいてくれたら、不眠症で困る人々は大助かりだろうねぇ~」
あっはっは、と与太を語るは白髪の青年。旅人然とした格好で小型のハープを手にした吟遊詩人、テフェが冒険者たちへ酒のつまみに摩訶不思議な伝承を詠って聞かせていた。
その中で挟まった、とある妖精の伝承。これには少し、テフェは思い入れがあるようだ。
「テフェはこんな喋り方だからさぁ~この伝承があった場所に行ったとき、子どもたちによくせがまれたんだぁ。『夜更かししたいから眠らせないで』って! 子どもって純粋だねぇ」
時は年の暮れ。新しい暦がもうじき始まるという最中だ。聖霊節も終わり、街は新しい年を迎えるためどこか粛々としている。家族や大切な人と過ごす者は家に、そうでない者はこうやって酒場やギルドに集って、今年が終わるのを待っていた。
「そうそう、それでねぇ。こんな話も聞いたんだ。年の始まりは、砂男の魔法がいっそう高まるとき。だから砂男は、その魔法をめいっぱい使って、幸せな夢を見せてくれるんだって」
それはとても優しくて、とても都合が良くて、とても幸福な————
「……あったかもしれない、失われた未来の夢さ」
※このシナリオは「夢オチシナリオ」です。シナリオ内容は架空のものであり、アニエピカの世界観に一切影響を与えません。報酬は冒険者ギルドからのお年玉です。
解説
●コンセプト
参加者は、あったかもしれないIFの未来を『幸福な夢』として初夢で見ることになります。大切な人を失った・故郷を失くした、などなど重い過去を持つPC様からそうでない方まで、どなた様でもどうぞ。
夢なので、どんなご都合主義も矛盾もなんでもありです! 幸福であれば幸福であるほど、目覚めたときのショックが大きいと思いますので、幸せいっぱいのプレイングをお待ちしております。
見るのはあくまで「キャラクターが『こうだったらよかったのに』と思う幸せな夢」です。
●注意
今回のシナリオはひとりひとりの夢を描写することを予定しております。そのため特別な「連携希望」が無い限りキャラクターごとに章分けして執筆することとなると思います。ご了承ください。
●備考
起床・寝付くまでの描写はあってもなくても構いません。ない方が文字数的に余裕ができます。そして、夢を夢と認識していても、していなくても大丈夫です。
また、OPでテフェから夢の話を聞いていますが、聞いていないという体でも結構です。初夢を見るというシナリオなので描写することもないと思われます。
マスターより
今回は少々特殊なシナリオとなります。ひとりひとりの描写に文字数を割きたい分、募集上限が少なくなってしまいました。こういった過去系シリアスシナリオに需要があるようであれば、また開催していきたいと思います。
それでは、皆様の幸せなプレイングをお待ちしております。
リプレイ
●
「この模擬戦、私の勝利ね」
ミツキ・アインホルンの勝利宣言を皮切りに、周囲の兵士たちが勝鬨の声が上がる。割れるような歓声の中、ミツキは勝利した相手———ヴァゲリスへ手を差し出した。
「もう、子供扱いはさせないんだから」
ミツキのその言葉に大剣を手にしていた男は苦笑しながら手を取った。
模擬戦の内容は実に激烈を極めた。ヴァゲリス率いる第一班とミツキ率いる第二班。拮抗する実力を持つ両班は互いに引かず、決着は指揮官同士の一騎打ちで決められた。
ヴァゲリスは部隊一の実力者だ。ミツキが何度挑み、そして敗れたか正確にわかる者はどこにもいない。だからこそ、此度の勝利はミツキにとっても彼女の周囲にとっても大きなものだった。
(やったわ。目標としていたヴァゲリス越え。これで、もっとリカーダの役に立てる)
喜びから軽くなる足取りで、ミツキは最も敬愛する長の元へと向かう。喜びを隠しきれないまま執務室の戸を叩けば、笑い声交じりの「入れ」がミツキへ届いた。
「リカーダ! 私ついにヴァゲリスに勝ったの! これでもう副官としてふさわしくないなんて誰にも言わせないわ!」
「ふふ、聞いているよ。ずいぶんと派手な戦いだったそうじゃないか」
リカーダ・アインホルン。30歳という若さながら一騎当千と帝国に名を轟かせる女軍人だ。同時にミツキを拾い育てた家族であり、敬愛する長でもある。
「それで、ミツキ。次はどうするんだ?」
「次?」
「次の目標さ」
リカーダに問われ、ミツキはゆっくりと思考する。確かにヴァゲリスを超えるのはゴールではない。浮かれた自身を少し引き締める。
(次は、何を目指そうかしら)
ミツキの脳内に巡る仲間たちの姿。士気高く日々の鍛錬を怠らない同僚、尊敬できる先輩達、そして……最高の長。
「決めた。私はこの部隊を帝国一にする。そしてリカーダをその長として、上層部に認めさせる」
ミツキは胸を張ってそう宣言した。それを聞きリカーダはわずかに目を見開き、少し表情を曇らせる。
「部隊の戦力増強のために私を拾った訳じゃない事は知ってるわ。でも、私がしたいのよ」
そう、尊敬する貴方と一緒に。行けるところまで。
それがミツキ自身の望みだから。
「まぁ、まずはこの書類の山を片づけないとね」
積み上がった書類を前にミツキは笑う。気まずそうに苦笑しながら頭を掻くリカーダのすぐ傍で。
願わくば、この夢を、ずっと追いかけられますように
●
何てことの無い、幸せな時間。
「お姉さま。私今日ね、カッコイイ殿方にお会いしたの!」
「また? エルフの殿方じゃなくて、いいかげんにヒューマンの殿方を選びなさい」
ぷく、と頬を膨らませていじける妹を、苦笑しつつも優しくその頭を撫でて。すぐに機嫌を直してゆるりと笑う可愛い彼女を結局少し、甘やかしてしまう。
「相変わらず面食いね」なんて母が言って。「あまり甘やかしすぎてはいかんぞ」と父が小さく笑って。幸福でいつも通りの一日、始まりのワンシーン。
どんなに忙しくても朝食の時だけは家族の時間を作ってくれる両親が、自分を慕ってくれる妹が、ロサード・シュナイダーは大好きだった。
長子である自分ではなく、ずっとずっと綺麗で優秀な妹が家を継ぐようになったことに思うところがないわけではない。でもそれならば、自分は姉として、親しく頼れる相手として、妹をずっと隣で支えていくことができればいい。
素直に、そう思うのだ。
……違う。
わかっている。これは夢だ。
目の前に広がる甘い幸せな光景を見ながら、ロサードは己の中の後悔と向き合っていた。
これは、ずっと思っていたこと。
現実の自分は結局、諦めてしまった。「妹より劣った姉など」。幼いロサードは親族からのそんな嘲笑に傷ついて、まともに自己主張もできなくなり。「私なんて」と卑屈になるあまり、眩いほどに輝く妹の影へ自ら隠れるようになってしまった。
美しく、太陽のように目立つ妹と、自らその影に隠れようとする姉。
どちらが視界に入るかなんて、わかりきった話だ。
姉が軽んじられ、自分が重宝される。その状態に慣れ切った妹は徐々に情けない姉を見下すようになり。自分こそが尊い存在なのだと高慢に考える、どうしようもない人間へと成長してしまった。
だからずっと、ロサードは後悔し続けている。
(あの頃、家族ときちんと正面から関わっていれば……)
妹は歪まずに済んだかもしれない。もっと対等な関係を築けていたかもしれない。両親が自分のことを忘れることもなかったかもしれない。そうしたら……
(……きっと、今よりはこの夢に近い未来が、ここにあった。……そんな気がする)
後悔したって、夢想したって、現実は変わらない。
そうわかっていても、ロサードは考えることを止められなかった。
「……? 難しいお顔をしてどうしたの、お姉さま」
幸せな食卓で家族は笑っている。
●
歌声が、聞こえる。
「いつまでぼーっとしているんだ?」
忘れるはずもない声に、キオルティスは弾かれたように顔を上げる。竪琴を背負い、仁王立ちでキオルティスへ向かう女性……彼の師匠が、笑みを浮かべて立っていた。
「師匠……アレ? 死んだはずじゃ」
「勝手に殺すな!」
ゴスッと鳩尾に入った一撃に噎せつつ「このパンチ、紛れもなく師匠だね」と唸る。師匠が死んだなんて、嫌な夢を見たものだ。
(相変わらず、豪胆な所を除けば良いオンナだよね)
「……何か言ったか?」
「ごめん、ごめん、独り言だよ」
慌てて誤魔化しつつ「今日は何処へ?」と話を逸らす。師匠の教え方は少々特殊だ。技術や知識を教えてくれるワケではない。目の前で演奏して見せたり、共に奏でたり。そういった中で自ら学べと、教えの姿勢もまた豪胆であった。
「今日は良い場所を見付けたんだ。そこまで行くぞ」
「じゃあそこで一休みって所かな。……はいはい、ちゃんと師匠好みの酒は用意しとくから、さ」
人の手が入った気配もない美しい泉。透き通った水に木漏れ日が差し込み、穏やかな水面がキラキラと煌めいている。その中で師匠は早々と、切り株へと腰をかけた。
早速弾くのか、と思う間もなく、師匠の指が弦を弾く。キオルティスは反射的に口を噤み、その音色へ耳を傾けた。
泉の水のように透き通った音色、掴み処が無いのに惹きつけられてやまない、どこまでも響く歌声。閉じた目蓋の裏には自然と情景が浮かび上がってくる。
(嗚呼……久し振りに聞いた気がするのは気の所為、かな)
「おい、辛気臭いのはやめろ」
そう言われて頬に伝う涙に気が付く。そうだね、と笑って拭い、キオルティスも竪琴をとった。
「でもこれが、師匠の力なんだよ」
竪琴を爪弾き、鈴を鳴らし。師匠の音色に、歌声にそっと自分のものを重ねていく。
優しいハーモニーにつられていつの間にか動物たちが泉へと集い始めていた。キミたちも一緒に歌うかい? と笑いかけたキオルティスの耳に、水の跳ねる音が届く。
「え? 師匠、泉に入るのかい?」
彼女は答えない。静かに遠ざかっていく背を慌てて追おうとすると、師匠は一度だけ振り返った。
「俺は来るな……ってどうして? 待って、行かないで……」
いつの間にか動物たちの気配も消えていた。師匠の姿も霧のように薄れていく。
気が付けば、泉にいるのはキオルティスだけになっていた。
「……どうして」
その声に、答えはなく。
●
「ルートヴィヒ兄さん、どうしたの?」
悩む様子の長兄にルーファス・W・ワーズワースは声をかける。十八も離れた母の違う兄。それでもルーファスにとって、兄は遠い存在ではなかった。
「ああ、ルーファスか。……いや、情けない話なんだがな」
気まずそうに頬を掻いて兄は微笑んだ。優秀な彼が悩むようなことを自分が解決できるかはわからないが、困っている兄を放っておくことはできなかった。
「その、もう少しで父さんの誕生日だろう? 実は未だに、贈り物が決まっていなくてだな……」
「兄さん、去年も同じことで悩んでなかったかな……?」
完璧主義のルートヴィヒと、良くも悪くも大雑把で自由人な父ライナス。考え方が真っ向から違う二人は度々ぶつかることもあったが、きちんと互いの意見を聞き入れ支え合っている。だがどうしても感性が異なると相手が何を喜ぶのかが全然わからなくなってしまうようで。
「去年は結局、母さんに助けてもらったんだが……今年は自分で考えろと言われてしまってな……」
「義母さん、意外と厳しいね……」
血のつながらない母に思いを馳せつつ、ルーファスは少し悩みこむ。ルーファスはもちろん、父への贈り物をもう用意している。だが同じものを勧めるわけにはいかないし、こういうものがいいだろうと自分が決めてしまうのもきっと違う。
「じゃあ今年は、僕と選んでみる?」
「! それは助かる……!」
「ただし、最終的に選ぶのは兄さんだよ。僕はサポートするだけだからさ」
父が喜ぶものを、とルートヴィヒが悩んでいるのならば、彼自身で決めた方が父も喜ぶはずだ。う、と少し戸惑った長兄の腕をとってルーファスは笑う。
恵まれた家に生まれ、恵まれた環境で育ち。良き家族に囲まれたこの人生は途方もなく幸福だから。これからも兄弟たちと共に、貴族としての義務を果たしていきたい。そんなささやかな願いが、ルーファスのすべてだった。
…………。
祝い事の尽くを二度繰り返すことなどなく。
家臣の名前より先に、父と長兄どちらの派閥に属するのかを憶える必要などなく。
家族が困っていたら、影響など計算せずとも手を差し伸べることが許されるような。
そんな、家族だったなら、きっと。
「……夢かぁ、そう、だよね……」
それがもう、手に入らない儚い夢幻であることを知っているけれど。家から逃げた卑怯者が望んでいいことじゃないとわかっているけれど。
胸が痛くて、堪らなかった。
●
「あらあなた、おはよう。今日はずいぶんとお寝坊さんだったわね?」
ふふ、と優しく笑いかける妻に、少し気恥ずかしい思いで頭を掻きながらオゴスは食卓についた。
昨晩はつい夜遅くまで制作に励んでしまった。だがその甲斐あって今までの作品の中でもとっておきのものを作り出すことができたのだ。
あれはまさしく真実の美。何かを不格好に真似たまがい物なんかとはわけが違う。それをこの手で作り出せることが、オゴスの誇りだった。
オゴスを評価する人々は数多くいるが、その中でも特に芸術を理解しているお方に手にしてもらいたいものだ。オゴスは満たされた心地で、傷ひとつない己の手のひらを眺めた。
「おとうしゃ、おはよぉ」
「ん、おはよう。ああ、またそんなにこぼして。今日も父さんと一緒に食うか」
まだ一人で食事ができない娘を優しく撫でてやり、食事の手伝いをする。幼い末娘にスープを与えるのはオゴスのいつもの習慣だった。怒鳴ったりなんて、もちろん絶対にしない。
「父さん、少しいい? ここがよくわからなくて……」
食べ終えてご機嫌な娘を抱き上げ口元を拭いてやっていると、次は長男がやってきた。思慮深い彼は子どもながらにとても頭がいい。難しい本を抱えてオゴスの元へ教えを乞いにくる。将来が楽しみな自慢の息子だ。
「ああ、ここはな。少し理解が難しいところだが……」
きちんとした教育を受けることができた幸運は、次世代に継がねばならない。幸い、オゴスの知識は豊富で賢い息子の手本となることが出来る。彼がどのような道に進むかはまだわからないが、その基盤を整えてやるのが親の役目だ。
「あー! 兄さんばっかずるいー! 父さん、次は俺とあそぼ!」
ペットの犬とじゃれながらやってきたやんちゃな次男がオゴスの背中をよじ登り始める。危ないぞ、と注意しながらもオゴスは幸せに笑っていた。
美人な妻に、妻似の可愛い子ども達。治安のいい場所で、広い家に住んで、胸に誇りがある幸せな毎日。
だというのに不意に、憂鬱で暗澹とした思いが頭によぎるのは、不安に駆られるのは、なぜなのだろう。
「おとうしゃ? 大丈夫?」
「暗い顔をしてどうしたの? そんな顔していたら幸せが逃げていってしまうわよ」
励まし不安を笑い飛ばしてくれる温かな家族。彼らの顔を見れば憂いなどすぐに晴れていく。
(ああ、俺はいったい何を恐れて……)
安心したオゴスは微笑み、家族を抱擁するためその腕を伸ばした。
●
「……」
ぱちり、と擬音が付きそうなほどばっちりとアリティア・ミーティスは目を覚ました。起き上がってみればそこはベッドの上ではなく柔らかい草の上で。服も寝間着ではなく、おとぎ話のようなエプロンドレスを纏っていて。不思議な体験にアリティアは森の中でひとり、ぱちくりと目を瞬かせる。
(……いや、おかし、い……! ぼく、普通、に、寝た筈……)
そう、アリティアに記憶では、いつも通り普通に、ベッドに入って寝たはずだった。ぐるぐると思考を巡らせ、周囲を見渡してみる。森だというのに危険な気配が一切しない。人気も全くない。これは、つまり。
「……夢、かな……!」
現実であったら単身森に放り込まれるなどかなり困るが、夢であるのならば遠慮はいらないしここでぼーっと過ごすのももったいない。アリティアはさっそく立ち上がり、スカートの汚れを払った。
「アリティア」
自分の名を呼ぶ、優しい声。突然届いたその声にアリティアは驚いて顔をあげると目の前にクマが立っていた。……いや、ただのクマではない。クマのぬいぐるみ。それもアリティアがいつも持ち歩いて大切にしている、『スズラン』だった。
「……スズ、ラン……?」
スズランがニコッと微笑む。ツギハギだらけの普通のぬいぐるみだったはずのスズランが自立して、しゃべって、しかも笑いかけてきた。流石に混乱したアリティアは、その場で立ち尽くしてしまう。そんな彼女の手を、スズランはそっと引いた。
「こっちだよ、アリティア」
大好きなぬいぐるみに導かれて、案内されるまま森を進む。夢の世界なのだからと思いなおし混乱から抜け出したアリティアは、スズランがどこに連れて行ってくれるのかとワクワクしながら足を進めた。
「アリティア、ぼくたちのお茶会にいらっしゃい!」
「わあ……!」
辿り着いた先は、ぬいぐるみのお茶会だった。兎に猫や犬、狐のぬいぐるみまで勢揃い。スズランとアリティアを待っていた彼らは、嬉しそうに声を上げて彼女たちを迎え入れた。
大好きなイチゴミルクに、たくさんのお菓子。可愛いぬいぐるみたちに囲まれた楽しい時間。アリティアは思う存分食べて、しゃべって、笑って、幸福なお茶会を心行くまで楽しむのだった。
朝、アリティアはいつも通り、ベッドの上で目覚めた。楽しいお茶会の記憶はまだ残っていて。一緒に眠っていたスズランをその腕に抱える。
「おはよ……!」
新しい一年の、始まりの朝だ。
「この模擬戦、私の勝利ね」
ミツキ・アインホルンの勝利宣言を皮切りに、周囲の兵士たちが勝鬨の声が上がる。割れるような歓声の中、ミツキは勝利した相手———ヴァゲリスへ手を差し出した。
「もう、子供扱いはさせないんだから」
ミツキのその言葉に大剣を手にしていた男は苦笑しながら手を取った。
模擬戦の内容は実に激烈を極めた。ヴァゲリス率いる第一班とミツキ率いる第二班。拮抗する実力を持つ両班は互いに引かず、決着は指揮官同士の一騎打ちで決められた。
ヴァゲリスは部隊一の実力者だ。ミツキが何度挑み、そして敗れたか正確にわかる者はどこにもいない。だからこそ、此度の勝利はミツキにとっても彼女の周囲にとっても大きなものだった。
(やったわ。目標としていたヴァゲリス越え。これで、もっとリカーダの役に立てる)
喜びから軽くなる足取りで、ミツキは最も敬愛する長の元へと向かう。喜びを隠しきれないまま執務室の戸を叩けば、笑い声交じりの「入れ」がミツキへ届いた。
「リカーダ! 私ついにヴァゲリスに勝ったの! これでもう副官としてふさわしくないなんて誰にも言わせないわ!」
「ふふ、聞いているよ。ずいぶんと派手な戦いだったそうじゃないか」
リカーダ・アインホルン。30歳という若さながら一騎当千と帝国に名を轟かせる女軍人だ。同時にミツキを拾い育てた家族であり、敬愛する長でもある。
「それで、ミツキ。次はどうするんだ?」
「次?」
「次の目標さ」
リカーダに問われ、ミツキはゆっくりと思考する。確かにヴァゲリスを超えるのはゴールではない。浮かれた自身を少し引き締める。
(次は、何を目指そうかしら)
ミツキの脳内に巡る仲間たちの姿。士気高く日々の鍛錬を怠らない同僚、尊敬できる先輩達、そして……最高の長。
「決めた。私はこの部隊を帝国一にする。そしてリカーダをその長として、上層部に認めさせる」
ミツキは胸を張ってそう宣言した。それを聞きリカーダはわずかに目を見開き、少し表情を曇らせる。
「部隊の戦力増強のために私を拾った訳じゃない事は知ってるわ。でも、私がしたいのよ」
そう、尊敬する貴方と一緒に。行けるところまで。
それがミツキ自身の望みだから。
「まぁ、まずはこの書類の山を片づけないとね」
積み上がった書類を前にミツキは笑う。気まずそうに苦笑しながら頭を掻くリカーダのすぐ傍で。
願わくば、この夢を、ずっと追いかけられますように
●
何てことの無い、幸せな時間。
「お姉さま。私今日ね、カッコイイ殿方にお会いしたの!」
「また? エルフの殿方じゃなくて、いいかげんにヒューマンの殿方を選びなさい」
ぷく、と頬を膨らませていじける妹を、苦笑しつつも優しくその頭を撫でて。すぐに機嫌を直してゆるりと笑う可愛い彼女を結局少し、甘やかしてしまう。
「相変わらず面食いね」なんて母が言って。「あまり甘やかしすぎてはいかんぞ」と父が小さく笑って。幸福でいつも通りの一日、始まりのワンシーン。
どんなに忙しくても朝食の時だけは家族の時間を作ってくれる両親が、自分を慕ってくれる妹が、ロサード・シュナイダーは大好きだった。
長子である自分ではなく、ずっとずっと綺麗で優秀な妹が家を継ぐようになったことに思うところがないわけではない。でもそれならば、自分は姉として、親しく頼れる相手として、妹をずっと隣で支えていくことができればいい。
素直に、そう思うのだ。
……違う。
わかっている。これは夢だ。
目の前に広がる甘い幸せな光景を見ながら、ロサードは己の中の後悔と向き合っていた。
これは、ずっと思っていたこと。
現実の自分は結局、諦めてしまった。「妹より劣った姉など」。幼いロサードは親族からのそんな嘲笑に傷ついて、まともに自己主張もできなくなり。「私なんて」と卑屈になるあまり、眩いほどに輝く妹の影へ自ら隠れるようになってしまった。
美しく、太陽のように目立つ妹と、自らその影に隠れようとする姉。
どちらが視界に入るかなんて、わかりきった話だ。
姉が軽んじられ、自分が重宝される。その状態に慣れ切った妹は徐々に情けない姉を見下すようになり。自分こそが尊い存在なのだと高慢に考える、どうしようもない人間へと成長してしまった。
だからずっと、ロサードは後悔し続けている。
(あの頃、家族ときちんと正面から関わっていれば……)
妹は歪まずに済んだかもしれない。もっと対等な関係を築けていたかもしれない。両親が自分のことを忘れることもなかったかもしれない。そうしたら……
(……きっと、今よりはこの夢に近い未来が、ここにあった。……そんな気がする)
後悔したって、夢想したって、現実は変わらない。
そうわかっていても、ロサードは考えることを止められなかった。
「……? 難しいお顔をしてどうしたの、お姉さま」
幸せな食卓で家族は笑っている。
●
歌声が、聞こえる。
「いつまでぼーっとしているんだ?」
忘れるはずもない声に、キオルティスは弾かれたように顔を上げる。竪琴を背負い、仁王立ちでキオルティスへ向かう女性……彼の師匠が、笑みを浮かべて立っていた。
「師匠……アレ? 死んだはずじゃ」
「勝手に殺すな!」
ゴスッと鳩尾に入った一撃に噎せつつ「このパンチ、紛れもなく師匠だね」と唸る。師匠が死んだなんて、嫌な夢を見たものだ。
(相変わらず、豪胆な所を除けば良いオンナだよね)
「……何か言ったか?」
「ごめん、ごめん、独り言だよ」
慌てて誤魔化しつつ「今日は何処へ?」と話を逸らす。師匠の教え方は少々特殊だ。技術や知識を教えてくれるワケではない。目の前で演奏して見せたり、共に奏でたり。そういった中で自ら学べと、教えの姿勢もまた豪胆であった。
「今日は良い場所を見付けたんだ。そこまで行くぞ」
「じゃあそこで一休みって所かな。……はいはい、ちゃんと師匠好みの酒は用意しとくから、さ」
人の手が入った気配もない美しい泉。透き通った水に木漏れ日が差し込み、穏やかな水面がキラキラと煌めいている。その中で師匠は早々と、切り株へと腰をかけた。
早速弾くのか、と思う間もなく、師匠の指が弦を弾く。キオルティスは反射的に口を噤み、その音色へ耳を傾けた。
泉の水のように透き通った音色、掴み処が無いのに惹きつけられてやまない、どこまでも響く歌声。閉じた目蓋の裏には自然と情景が浮かび上がってくる。
(嗚呼……久し振りに聞いた気がするのは気の所為、かな)
「おい、辛気臭いのはやめろ」
そう言われて頬に伝う涙に気が付く。そうだね、と笑って拭い、キオルティスも竪琴をとった。
「でもこれが、師匠の力なんだよ」
竪琴を爪弾き、鈴を鳴らし。師匠の音色に、歌声にそっと自分のものを重ねていく。
優しいハーモニーにつられていつの間にか動物たちが泉へと集い始めていた。キミたちも一緒に歌うかい? と笑いかけたキオルティスの耳に、水の跳ねる音が届く。
「え? 師匠、泉に入るのかい?」
彼女は答えない。静かに遠ざかっていく背を慌てて追おうとすると、師匠は一度だけ振り返った。
「俺は来るな……ってどうして? 待って、行かないで……」
いつの間にか動物たちの気配も消えていた。師匠の姿も霧のように薄れていく。
気が付けば、泉にいるのはキオルティスだけになっていた。
「……どうして」
その声に、答えはなく。
●
「ルートヴィヒ兄さん、どうしたの?」
悩む様子の長兄にルーファス・W・ワーズワースは声をかける。十八も離れた母の違う兄。それでもルーファスにとって、兄は遠い存在ではなかった。
「ああ、ルーファスか。……いや、情けない話なんだがな」
気まずそうに頬を掻いて兄は微笑んだ。優秀な彼が悩むようなことを自分が解決できるかはわからないが、困っている兄を放っておくことはできなかった。
「その、もう少しで父さんの誕生日だろう? 実は未だに、贈り物が決まっていなくてだな……」
「兄さん、去年も同じことで悩んでなかったかな……?」
完璧主義のルートヴィヒと、良くも悪くも大雑把で自由人な父ライナス。考え方が真っ向から違う二人は度々ぶつかることもあったが、きちんと互いの意見を聞き入れ支え合っている。だがどうしても感性が異なると相手が何を喜ぶのかが全然わからなくなってしまうようで。
「去年は結局、母さんに助けてもらったんだが……今年は自分で考えろと言われてしまってな……」
「義母さん、意外と厳しいね……」
血のつながらない母に思いを馳せつつ、ルーファスは少し悩みこむ。ルーファスはもちろん、父への贈り物をもう用意している。だが同じものを勧めるわけにはいかないし、こういうものがいいだろうと自分が決めてしまうのもきっと違う。
「じゃあ今年は、僕と選んでみる?」
「! それは助かる……!」
「ただし、最終的に選ぶのは兄さんだよ。僕はサポートするだけだからさ」
父が喜ぶものを、とルートヴィヒが悩んでいるのならば、彼自身で決めた方が父も喜ぶはずだ。う、と少し戸惑った長兄の腕をとってルーファスは笑う。
恵まれた家に生まれ、恵まれた環境で育ち。良き家族に囲まれたこの人生は途方もなく幸福だから。これからも兄弟たちと共に、貴族としての義務を果たしていきたい。そんなささやかな願いが、ルーファスのすべてだった。
…………。
祝い事の尽くを二度繰り返すことなどなく。
家臣の名前より先に、父と長兄どちらの派閥に属するのかを憶える必要などなく。
家族が困っていたら、影響など計算せずとも手を差し伸べることが許されるような。
そんな、家族だったなら、きっと。
「……夢かぁ、そう、だよね……」
それがもう、手に入らない儚い夢幻であることを知っているけれど。家から逃げた卑怯者が望んでいいことじゃないとわかっているけれど。
胸が痛くて、堪らなかった。
●
「あらあなた、おはよう。今日はずいぶんとお寝坊さんだったわね?」
ふふ、と優しく笑いかける妻に、少し気恥ずかしい思いで頭を掻きながらオゴスは食卓についた。
昨晩はつい夜遅くまで制作に励んでしまった。だがその甲斐あって今までの作品の中でもとっておきのものを作り出すことができたのだ。
あれはまさしく真実の美。何かを不格好に真似たまがい物なんかとはわけが違う。それをこの手で作り出せることが、オゴスの誇りだった。
オゴスを評価する人々は数多くいるが、その中でも特に芸術を理解しているお方に手にしてもらいたいものだ。オゴスは満たされた心地で、傷ひとつない己の手のひらを眺めた。
「おとうしゃ、おはよぉ」
「ん、おはよう。ああ、またそんなにこぼして。今日も父さんと一緒に食うか」
まだ一人で食事ができない娘を優しく撫でてやり、食事の手伝いをする。幼い末娘にスープを与えるのはオゴスのいつもの習慣だった。怒鳴ったりなんて、もちろん絶対にしない。
「父さん、少しいい? ここがよくわからなくて……」
食べ終えてご機嫌な娘を抱き上げ口元を拭いてやっていると、次は長男がやってきた。思慮深い彼は子どもながらにとても頭がいい。難しい本を抱えてオゴスの元へ教えを乞いにくる。将来が楽しみな自慢の息子だ。
「ああ、ここはな。少し理解が難しいところだが……」
きちんとした教育を受けることができた幸運は、次世代に継がねばならない。幸い、オゴスの知識は豊富で賢い息子の手本となることが出来る。彼がどのような道に進むかはまだわからないが、その基盤を整えてやるのが親の役目だ。
「あー! 兄さんばっかずるいー! 父さん、次は俺とあそぼ!」
ペットの犬とじゃれながらやってきたやんちゃな次男がオゴスの背中をよじ登り始める。危ないぞ、と注意しながらもオゴスは幸せに笑っていた。
美人な妻に、妻似の可愛い子ども達。治安のいい場所で、広い家に住んで、胸に誇りがある幸せな毎日。
だというのに不意に、憂鬱で暗澹とした思いが頭によぎるのは、不安に駆られるのは、なぜなのだろう。
「おとうしゃ? 大丈夫?」
「暗い顔をしてどうしたの? そんな顔していたら幸せが逃げていってしまうわよ」
励まし不安を笑い飛ばしてくれる温かな家族。彼らの顔を見れば憂いなどすぐに晴れていく。
(ああ、俺はいったい何を恐れて……)
安心したオゴスは微笑み、家族を抱擁するためその腕を伸ばした。
●
「……」
ぱちり、と擬音が付きそうなほどばっちりとアリティア・ミーティスは目を覚ました。起き上がってみればそこはベッドの上ではなく柔らかい草の上で。服も寝間着ではなく、おとぎ話のようなエプロンドレスを纏っていて。不思議な体験にアリティアは森の中でひとり、ぱちくりと目を瞬かせる。
(……いや、おかし、い……! ぼく、普通、に、寝た筈……)
そう、アリティアに記憶では、いつも通り普通に、ベッドに入って寝たはずだった。ぐるぐると思考を巡らせ、周囲を見渡してみる。森だというのに危険な気配が一切しない。人気も全くない。これは、つまり。
「……夢、かな……!」
現実であったら単身森に放り込まれるなどかなり困るが、夢であるのならば遠慮はいらないしここでぼーっと過ごすのももったいない。アリティアはさっそく立ち上がり、スカートの汚れを払った。
「アリティア」
自分の名を呼ぶ、優しい声。突然届いたその声にアリティアは驚いて顔をあげると目の前にクマが立っていた。……いや、ただのクマではない。クマのぬいぐるみ。それもアリティアがいつも持ち歩いて大切にしている、『スズラン』だった。
「……スズ、ラン……?」
スズランがニコッと微笑む。ツギハギだらけの普通のぬいぐるみだったはずのスズランが自立して、しゃべって、しかも笑いかけてきた。流石に混乱したアリティアは、その場で立ち尽くしてしまう。そんな彼女の手を、スズランはそっと引いた。
「こっちだよ、アリティア」
大好きなぬいぐるみに導かれて、案内されるまま森を進む。夢の世界なのだからと思いなおし混乱から抜け出したアリティアは、スズランがどこに連れて行ってくれるのかとワクワクしながら足を進めた。
「アリティア、ぼくたちのお茶会にいらっしゃい!」
「わあ……!」
辿り着いた先は、ぬいぐるみのお茶会だった。兎に猫や犬、狐のぬいぐるみまで勢揃い。スズランとアリティアを待っていた彼らは、嬉しそうに声を上げて彼女たちを迎え入れた。
大好きなイチゴミルクに、たくさんのお菓子。可愛いぬいぐるみたちに囲まれた楽しい時間。アリティアは思う存分食べて、しゃべって、笑って、幸福なお茶会を心行くまで楽しむのだった。
朝、アリティアはいつも通り、ベッドの上で目覚めた。楽しいお茶会の記憶はまだ残っていて。一緒に眠っていたスズランをその腕に抱える。
「おはよ……!」
新しい一年の、始まりの朝だ。
マスターコメント
ご参加、ありがとうございました。
皆様、それぞれの幸福な夢は見られたでしょうか?
目を覚ましてから皆様がどのように感じるかもまた、皆様次第でしょう。新しき一年の幕開けの夢として、相応しいものであれば幸いです。
ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人
2021年01月17日 01時16分20秒 公開
大成功
参加者
ミツキ・アインホルン
- シュナイダー ロサード
キオルティス
ルーファス・W・ワーズワース
オゴス
アリティア・ミーティス
相談掲示板
相談、することもあまり無さそうなのですが、これも縁かと思い挨拶を。 ルーファスと言います。出身はリーンエス王国。 多分夢は……実家関連になりそうです。どうぞ宜しくお願いします。
オゴスと申します。 リプレイで直接お会いすることはないですが、同じテーマの夢を見る者同士としてどうぞよろしくお願いします。
キオルティスと言うよ。キオでもルティスでもお好きに。宜しくね。 皆、良い夢を…
No.4
ロサード・シュナイダー。 一応名乗っておく。 それでは、皆が見る夢が幸せなものであることを、祈る。
……アリティア、ミーティス、だよ…… いちお、ごあい、さつ…? えと、いい夢、みれます、よーに……