【初夢】国敗れて山河あり

九蓮宝燈

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シナリオID:425

オープニング

●屈辱の女騎士
 ぐったりとした女が広場の真ん中で直射日光に照らされている。
 女には手枷と首枷が嵌められ、身に纏う鎧は無惨に砕かれ、布地は肌を満足に覆うこともできないほど引き裂かれている。
 女はかつてはリーンエス王国の騎士だった。
 バルバロイの大攻勢によって王都が滅ぼされ、略奪の憂き目に遭ったとき、自ら殿軍となって市民を逃したのだ。
 民は守れた。だが引き換えに女は捕まり、こうして晒し者になっているのだ。
「お願い、水を……」
 必死に声を絞って通行人に懇願する。ニヤニヤと下卑た笑い顔の男の蛮族が足を止めた。
「聞こえんな?」
「水を、くださいっ……」
「そんな頼み方じゃ恵んでやる気にならねぇな?」
 男とのやり取りを聞いて周囲に人が集まる。
 皆、女が嬲られるのを楽しむつもりなのだ。
「わたくしめに、どうか、お水を……恵んでくださいっ……」
 女には生きねばならぬ事情があった。忠誠を誓った主人の安否を確かめるまでは死ねない。
 どんな恥辱を受けようとも、生きて逃げ出す機を待たねばならなかったのだ。

●裏切った親友
「お前、なんでだよ……! 俺たちは仲間だっただろう?!」
 鎖で繋がれた男。
 その両手両足の爪はない。荒々しく引きちぎられ、赤々と肉が露出している。
 びゅん! と鞭がうなる。
 男がいたぶられる様を、豪華な椅子に座って見下ろすのは、かつて男の親友だった人物だ。
「俺はお前を仲間だと思ったことは一度もないんだがな」
 吐き捨てられた言葉に男は吠える。
 その口を塞ぐように鞭の追撃が走る。
 かつての友は、二人の幼馴染の女の名を口にする。
「そろそろ吐いてもらおうか。彼女の居場所を」
「お前! 彼女をどうする気なんだ!」
 正直に答えれば余計に頑なになるだけなのは明白。友はこの馬鹿を騙すのは容易いとばかりに、白々しく嘘をつく。
「悪いようにはせん。外の状況はわかっているだろう? 幼馴染のよしみで保護したいんだ。君もついでに解放してやる」
「ほ、本当か……!?」
 友を信じた男は真実を話してしまう。
 友は口元を手で覆い、ニヤリと笑った。

●倒れるときは前のめり
 赤い飛沫が放物線を描き、オークの首が飛ぶ。
 大剣を振るう冒険者の足元には数百を超す屍。
 この冒険者の一団が包囲にあってはや数時間。
 敵軍は無尽蔵で戦況はジリ貧。敵も味方も大勢死んだ。
 この冒険者がいかに一騎当千の武を誇ろうとも、血脂に塗れ、刃こぼれした武器ではそのうち押し負けるであろう。
 それでも。
「この俺の首を取ろうという奴ァ前に出ろ! 千載一遇のチャンスだぞ!」
 言葉の通じぬオークに、よく通る声で挑発。
 冒険者の声音には一切の恐怖も滲んではいなかった。
 武に生き、武に死す。
 この世に生まれ落ちてから一日とて弛むことなく、己の力を研ぎ澄ましてきた。
 戦場にて散華することこそ、理想の終幕だったのだ。
 冒険者にとっては人類の敗北など微々たること。
「ああ、今世は最高だ。生まれ変わってもまたこの世界に生まれてェ――!」
 大剣がオークの頭蓋を割る。
 その音は祝福の鐘であった。


※このシナリオは「夢オチシナリオ」です。シナリオ内容は架空のものであり、アニエピカの世界観に一切影響を与えません。報酬は冒険者ギルドからのお年玉です。

解説

●目標  地獄を楽しむ ●状況  味方陣営は敗北。  すべての国家や都市は無政府状態に陥っている。  かつて賑わった街は亜人、魔獣、クリーパーが跋扈し、豊かな農地は異民族に食い荒らされて見る影もない。  同行指定がある場合を除き、それぞれのキャラクターのパートはそれぞれ独立した物語として扱う。なので他参加者と矛盾があっても問題ないため、詳しい状況はプレイングで指定可とする。 ●できること  以下はあくまで例兼字数圧縮。  希望に合うものがあれば、A〜Eで指定されたし。  当てはまらない場合は記号は省いて、希望の状況をプレイングに書くこと。  同行者が別選択肢でも可。  希望は可能な限り尊重するが、過度なエログロはマスタリング対象になる可能性もあるのでやりすぎ注意。 A:公開処刑  敵性存在の捕虜に。  占領された城下町の広場であなたの公開処刑が執行される。  あなたの惨めな姿を一目見ようとたくさんの人が集まっている。  または、処刑されようとしている誰かを見ている側であったり、救おうと暗躍するのもよい。 B:虜囚  薄暗い地下牢にとらわれているあなた。  食事も衛生もままならず、看守は暇つぶしに暴行を加えてくる。  暴行より辛いのは、尊厳を踏みにじるような暴言かもしれない。  時折檻から出されるが、行き先は決まって拷問室だ。 C:徹底抗戦  人類の滅亡は決定づけられた。  だが武人は華々しく散ってこそ。  場所は戦場。周囲には大軍。首級を上げる誉れを狙っているのか、その中でも特に強そうな敵があなたに挑む。 D:レジスタンス  混乱から逃げおおせ、アジトにて人類の再起を謀るあなたたち。  食糧、棲家。様々な問題を知恵と工夫で解決しながら生きている。  クーデターやゲリラ戦での人類の生存圏の拡大は急務。  また、生き抜き、子を生み、育て、人口を増やすことも必要だ。 E:悪堕ち  人類の滅亡の原因はあなたの裏切り。  あなたはなぜ裏切ったのか。  かつての同胞の絶望を如何様に見下ろすのか。

マスターより

 九蓮です。  絶体絶命、美味しいシチュエーションでも、PBWでは残される友達のことを思えば、とてもやれませんよね。  せっかくの夢オチなので、メインストーリーではめったにできないことをしていただこうと思い、こんなのをご用意しました。  お正月から殺意迸ってますが悪意はありません。ただ、闇の性癖をもつ同志に楽しんでいただきたい。それだけなのです。  今年もよろしくお願いします。

リプレイ

●犬
 フリーダ=ブロムヴィストは何名かの冒険者とともに、とある強敵(ネームドエネミー)を討伐すべく峨峨(がが)たる山道を進んでいた。
 既に冒険者ギルドは機能していない。それでもフリーダは英雄としての責務を全うしようと、勝ち目のない戦いを続けていたのだ。

「逃げ切れた皆様は無事でしょうか? 啓示も『夢オチだから大丈夫』との事でしたが……」
 ちなみに夢オチとは、とある預言者の弟子が記した聖典『コジ記』を出典とする故事成語である。
 その過程で撤退を強いられ、殿(しんがり)として一人残ったフリーダ。
 フリーダは痛覚遮断(ペインキル)を使い肉体の限界を超えて戦ったが、力尽きて倒れてしまう。

 フリーダは敵の城の謁見室へ連行された。
 一切の拘束もされていないのは、いつもの啓示ならば『舐めプ』といったところか。
 上座にいるのは豪華な衣服を着た貴族風の男。だが決して人ではない雰囲気を感じる。
 外見的特徴からして、あの男が強敵(ネームド)に違いない。
 どんな拷問にも屈しない。仲間も売らない。
 そんな決意を込めて、チカチカ光る男の目を真っ直ぐに睨む。

「お前は誰だ?」
 からかうような質問だが何故か無視することができない。
「何を馬鹿な事を! 私は『貴方の犬』です!」
(……あれ……?)
 自分の口から出た言葉に何か違和感を覚える。
「犬なのに首輪はいらないのか?」
 男は床に首輪を投げる。
「……犬なのだから必要に決まってるじゃないですか!」
 フリーダは首輪を拾って嵌めた。髪をかきあげて似合っているだろうと男に見せつける。
「犬だから服もいらないだろう?」
「……言われてみたらそうですね。何故服を着てたのでしょう? 今脱ぎます」
 フリーダは少しの疑問も覚えず、自ら衣服(人としての尊厳)を剥ぎ取っていく。
「仲間の居場所は?」
「勿論教えますよ。貴方は『私のご主人様』なのですから……」
 愉快そうに笑う男をフリーダは不思議そうに眺めていた。

 それからどれほどの月日が経ったか。
「かつての仲間(ご主人様に害を成す屑共)は全員殺してきました」
 フリーダはいくつかの首級を主人に献上していた。
「心が痛まないのか?」
「……何故そんなことを感じる必要が?」
「お前は誰だ?」
「私は『貴方の伴侶』ですよ……?」
 フリーダはきょとんとして主人の質問に答える。今日のご主人様はおかしなことをお尋ねになるな、と思いながら。

 男はそれを引き出すために長い時間をかけていたのだ。最後のトリガーはたった一言。
「お前の全てが欲しい」

「……もちろん全て差し出しますよ……だって貴方は『私の旦那様』なのですから」
 フリーダは幸せに満ちた表情で恭しく膝をつく。
 神の啓示はもはや聞こえない。

●依存の果てに
 アヴェラ・ウッチェロは男とカードゲームに興じていた。
 男の指は厳しいレジスタンスとしての生活で爪が割れ皮膚が荒れてはいるが、カードを引く所作にはどこか気品が漂う。男のかつての人生の残り香のように。

「君の作るスープは薄くて、こんなのを作る娘なんてと思っていたんだが、こんな関係になるとはね」
「失礼ね。残り少ない食料で少しでも美味しいものをと工夫していたのに」
 何度目かのゲームの後、男とアヴェラはベッドの中にいた。アヴェラは名残惜しげに男の指に自分の白い指を絡めている。
 男はアヴェラの頬を撫で顎をあげさせ、唇を吸う。
 アヴェラは男の首に手を回す――その手にはナイフが握られていた。

「好みの指だったのだけど、これ以上食料はあげられないの」
 せめてもの弔いに血にまみれた男の手を拭う。
 男は大事な物資をくすねていた。内規違反の証拠探しと粛清がアヴェラの役目。
 そして刈り取る前に種を残してもらうのも。

 数年後。
 アジトで生まれた子が育っていた。
 赤子に乳を与えるアヴェラのもとに食事が届けられる。
「お腹の子のぶん多くしておいたわよ」
 大きなお腹を撫でてアヴェラは礼を言う。
「また元気に生まれるといいわね」
 優しい声をかけてくれる彼女だが、裏では父親の違う子を毎年のように生むアヴェラに眉を顰めていることを、アヴェラは知っている。
 だが多めに食料を貰えることにアヴェラが満足を覚えていることを彼女は知らないだろう。

 アヴェラは自分にできることは身体を売ることと同族を殺すこと、と思っている。
(魔獣や亜人を殺すこと、もか……)
 人類のため、役に立つためという名目で、男と枕を共にし、裏切り者を始末する。
(ああ、どこまでいっても私は英雄ではない、ただの機械ね)

 もし、世界がこんな状態になっていなかったら。
 周りに尊敬できる人達がいて、アヴェラの能力が自他ともに認められ、必要とされていたのなら。
 自分にもやりたいことができ、人間らしく生きられたのだろうか。
(仮定に意味などないわね)

 アヴェラは次の粛清に向かう。
(ふふ、組織に依存し、お嬢様に依存し、そして最後は空っぽ。私にふさわしいわ)


●真なる平和
(……我が、神は――)
 サマエラ=フォリウムは人類滅亡という期に及んで選択を迫られていた。
 彼女の行動はすべて信仰に基づくもの。

 名も失われて久しいとある神。
 闇と血を司る神である。
 その神は決して邪神の類ではない。
 静かな眠りと安寧を齎す夜闇、及び生命と治癒を結び付ける造血――安らぎと癒やしを本質とする神である。

 サマエラはその神の唯一の信徒。
 ならば――戦いよりも、安らぎに身を置こうと願って、何の不思議があろうか。

 燃え上がる建物。
 憤りと罵りの悲鳴をあげるのは、ここを拠点としていた僅かばかり生き残った人類だ。
「何故だ! あんたは同胞だろう!?」
 これをやったサマエラに、嗚咽しながら男が怒鳴る。逃げ遅れ炎の中に取り残された者もいるのだ。
「こうしたほうが、この争いは、早く終わるのだろうと、そう思って……そのように、しただけのこと……何が、悪い」
 眉ひとつ動かすことなく答えるサマエラに、男は逆手にナイフを握って踊りかかる。
 しかしサマエラは側にいた女の襟首を掴み、掲げて盾とした。
 男は咄嗟に女を避けて切先の向きを変えて地に転がる。その拍子にどこか切ったのだろう。土と涙と血に塗れた顔でサマエラを睨めつけた。
「私の命を取りたいと、天誅でも下したいと、願うか」
 サマエラは男の殺意をさも当然と言うように受け止める。
 サマエラの周囲に武器を構えた人々が集まって静まり返る。
 聞こえるのはサマエラに宙づりにされ、首が締まっている女の呻きと、乾いた木が爆ぜる音のみ。
「そうか……良い、貴様らの安寧に、それが必要だと言うのなら。求める権利はある、他ならぬ私が、認める」
 サマエラは女を体に寄せ、首に刃を突きつけた。
「私も、私の、私だけの安寧を、必要としている故に」
 サマエラを囲む者たちは微動だにしない。
 既にその弓は十分に引絞られ、詠唱は終わっているというのに。
「どうした……己が望み(安寧)のため、他者を薪と焼べてみろ、私のように」
 彼らの躊躇いに終止符を打つかのようにサマエラは人質を頭から投擲する。
 数本の肋を犠牲に女を受け止めた男にサマエラが魔矢を撃ち込んだ。それが開戦の合図となった。

 やがて建物は焼け落ち鎮火する。
 あとには静かな宵闇が残された。

 ――あぁ、我が神よ。今日もまた、安寧が訪れたことに、感謝を。

 いくつかの屍の中央でサマエラは祈りを捧げた。

●あの人の背を追って
 阻塞(バリケード)が突破され街にオーガの群れがなだれ込む。
 と、いうことは、僅かな有志による防衛ラインは突破されたということだ。
 既に軍も冒険者ギルドも機能していない。授恵者とて自身の身を守るだけで精一杯なのが現実だ。

 バンシーは旧冒険者ギルド支部の資料室にいた。
 オーガの雄叫びに混じって人の悲鳴が聞こえる。
 痛む心を御して駆けつけたくなる衝動を抑える。彼女のすべき死に方は、名も知れぬ誰かを僅かに延命させるための捨て石ではない。
(お願い、ここには来ないで……!)
 必死に祈りながら資料を探す。
 知りたいのは、バンシーが十三歳の時、人さらいから助け出してくれた恩人の足取りだ。
 通し番号順に仕分けられている依頼書のファイルを開き、違ったものは片付ける間も惜しいと床に置く。
(あった! コレね!)
 その依頼書の受注者の欄に目的の人物の名が記されていた。幸いにも日付はそう遠くはない。
 バンシーはその依頼書をファイルから引き抜くと、次は周辺地図を確認する。
 依頼の現場は、ここから徒歩で二日ほどの距離にある。
 全力で走れば。いや、睡眠も削ったら一日で着くかもしれない。

 オーガの往来が途切れる一瞬を狙い、バンシーはギルドから飛び出した。
 すると物陰に隠れていた中年女性がバンシーに手を伸ばしてきた。
「退いて、邪魔よ」
 女が何かを言う前にバンシーは駆け抜ける。
 足止めされるわけにはいかない。助けを求める声なんか聞きたくない。

 先程のことは頭から追いやって、目的のことだけ考える。
 それにしても賊退治だなんて、あの人らしい。
 ――あの人を探し出して、今度は私が助けになりたい。
 ――あわよくば、一緒にいたい。
 ――もしもう死んでたら――私も後を追いたい。

 クリーパーや亜人が人という人をみんな殺してしまったから、バンシーが憎む賊はもういない。
 バンシーは全然嬉しくなかった。
 同僚も守るべき人もみんな死んでしまったから。
 だからバンシーにはもう彼女しかいなかった。

 街と外との境界で二体のオーガが立ちふさがる。
 地形からして、あれを迂回してやり過ごす暇はないであろう。
「対人特化だからこういうの苦手なんだけど……」
 相手が人であれば劣情を催さずにはいられない美貌と肉体がバンシーの武器だが、美的感覚の違うオーガには通用しないだろう。
(……絶対に生きてやる、泥を啜ろうと)
 愛用の短剣を握りしめバンシーは駆け出した。

●爬虫類の瞳が見つめるものは
 イオ・ラヴバロックは座り心地のいいソファに腰掛け、すらりと長い脚を組んでいた。
 興味を瞳に滲ませ優雅に微笑む様はまるで観劇を嗜むようで、典雅な風采はどちらが俳優かわからないという印象を与えただろう――本当に観劇していたのなら。

 彼の前で連日上演されている『催し』は処刑である。
 幾人もの貴種が娯楽のためにその血統を絶えさせていった。
 ある日は皇子が母譲りの黒髪をギロチンの刃を妨げないように短く切られ。
 ある日は王子が飄々と人を馬鹿にしたような態度を最後まで崩さずイオの不興を買った。

 人類の文明が崩壊した裏にはイオの暗躍があり、その功をもって今、このような楽しみが許される立場にあるのだが、イオには自身が悪だという思いは欠片もない。
 イオはただ、人の命を奪うのが好きだったのだ。
 極限まで追い詰められた人間の見せる表情――その命の輝きのようなものに魅せられているだけ。
 それはこのような好機(チャンス)がなくても変わらなかっただろう。
 もとよりイオには善だの悪だのの概念はなかったのだから。

 しばらくして各国の首脳や重鎮はあらかた殺され尽くした。
 今は官僚や隊長レベルの軍人が断頭台へと上げられている。
 その日の生贄は帝国の軍服を着た男だった。
「貴様……あの時の! 終身刑になったのではなかったのか」
 イオははてと首を傾げる。
 男のほうはイオを知っているようだがイオには記憶にない。
 民間人が、貴様のせいで部下がというキーワードに、冒険者になる前、軍に所属していたときにすれ違ったのだろうと見当をつける。
「堕ちるところまで堕ちたようだな。何か言うことはないのか」
 男は拷問で歯を抜かれた口で罵声を放つ。
 イオはごく自然に、一切の不愉快を浮かべることもなく、ただ聞かれたことに答えた。
「……ああ、そろそろアフタヌーンティーの時間ですね。このあたりで切り上げましょう」

 イオが席を立つのを合図に男の首が刎ねられた。
 イオは立ったまま一番いいシーンを見届けると、男のことを最後まで思い出すこともないまま興味を失った。

「これは夢、そう、とても素晴らしき、悪い夢です」
 赤みの濃い鮮やかな茶を注がれたカップを眺めてイオは誰へともなく独り言を漏らす。
「……しかし、この先本当に夢のようになったりしないか……それは保証しかねます」
 紅茶に濃厚なミルクが落ちる。渦を巻いた混沌が表面に映りこんだ切れ長の目をかき消した。

●それはまるで物語の英雄のように
 縛りあげられ膝をつく少女。
 少女は高い台に上らされて、多数の蛮族に取り囲まれている。
 少女はボロ切れのような服をかろうじて纏っており、全身に痣や傷がある。
 しかしなお陰らぬ美貌と気品がある。
 下品な野次を浴びせられている彼女は、かつてはどこかの姫君か、何かしらの身分のある令嬢だったのだろう。

 殺せ! 殺せ! 殺せ!

 唱和する蛮族達の声。
 最高潮に達した熱気と興奮。
 振り上げられる処刑刀。

 つぅ……と涙を零した少女の目に、白い装束の騎士が軍馬に跨って駆けてくるのが映った。

 軍馬は観衆を蹄で蹴散らし接近すると、騎士が大剣を一閃――少女の後ろにいる処刑人が、不可視の刃で一瞬のうちに倒された。

「僕の名は、レイ・ロバーツ。貴方を助けに参りました。共にここを脱しましょう」
 騎士は少女の戒めを切断すると、恭しく手をさしだした。
 騎士はまるで幼い頃に夢見た英雄のよう。

 救いの手を握ろうとした少女は叫ぶ。
「レイ様! 後ろ!」
 レイは振り返って咄嗟に大剣の腹で身を隠す。
 間一髪。蛮族の重いモーニングスターが、レイの大剣とぶつかって火花を発した。

 負傷した憤怒と突然の剣闘(みせもの)に沸く観衆達。
 モーニングスターの蛮族は高名な強者らしい。

 不安げな少女にレイは告げる。
「貴方は下がっていてください。助け出します。必ずね」

 モーニングスターが目にも止まらぬ速さで縦横無尽に振られる。
 鉄球が処刑台にぶつかるたびに、少女は体ごと撥ねるような激しい振動に襲われる。
 対してレイは防戦一方。
 徐々に破壊されていく足場に、どんどん逃げ場を失って追い詰められていく。

(レイ様……!)

 少女が天に祈りながら見守る中。勝負は一瞬で決した。

 モーニングスターが弧を描き、横に薙がれた瞬間。
 僅かな隙を縫って斬り上げられたレイの大剣が、蛮族の顎から脳天を一直線に割っていた。

 そこから先は、レイを止められる者はいない。
 軍馬とともに蛮族に占領された街から脱出したレイの前には、腕に抱かれるように守られた少女がいた。

マスターコメント

 この度はご参加ありがとうございました。  良き終末をお過ごしになられたでしょうか。  いつも皆さんエモいプレイングを書いてくださってるんですが、今回はひとしおでした。  善悪(又は世界観やメタ事情から推奨される行為)を超えた、キャラクターの本質のようなものが垣間見えて、非常に贅沢な経験をさせていただきました。  プレイング600字に対しリプレイは一人頭1000字という都合でアドリブが多くなっており、解釈違いなのに決めつけてしまっていないかなという部分が不安ではありますが、お楽しみいただければ幸いです。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年01月17日 21時10分18秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 どのルートも色々楽しそうではありますが、 今回は悪堕ちを選んでみたいと思います。

  2. イオ・ラヴバロック

    キャスターのイオ、イオ・ラヴバロックと申します。ま、夢の中なので影響ないのでしょうが、よろしくお願いします。 私もEの予定です。悪堕ち……はて、善悪の観念など大して持ち合わせていませんが、まあ予行演習とでも思って夢を見るのも悪くありませんね。 いつか現実になるかもしれませんし、あるいはならないかも。

  3. サマエラ=フォリウム

    ゴブリン、ヒーラー。サマエラだ。 よろしく頼む。 Cか、Eか…… 悩み中だが、そのどちらかにしたいと、思う。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0