【CP】迷子のビヒモー

馬車猪

コメント 31

シナリオID:290

オープニング

 死臭が鼻から入り込む。
 吐き気で体が悲鳴をあげる。
 だが何より強烈なのは本能的な嫌悪感だ。
 ゾンビが手を伸ばすと腐った皮膚や肉がぼとぼとと落ち、死臭の濃さが密度を増した。
「馬鹿野郎っ! ぼーっとするんじゃねー!!」
 ぶん、と乱暴に剣が振られた。
 スケルトンになりかけの腕が押し折られて剣と一緒に胴へとめり込む。
「近づけずに槍で刺し殺せ!!」
 新人授恵者と呼ぶには実戦経験が多いリットが、ゾンビに接触されるのも恐れず前進し続ける。
 飛び散る汁で、服から顔まで激しく汚れていた。
「けどリット、こいつら人間っ」
「腐って生きてる人間なんているかよ! 殺せ! 俺達を傷つける奴は全部敵だっ!!」
(やべぇ口になんか汁が入りやがった。俺まだ死なねぇよな……)
 内心びくびくしていても顔には出せない。
 この小遣い稼ぎ……今ではゾンビ相手の激闘になってしまったが……に仲間を巻き込んだのはリットなのだ。
「あぁ?」
 見慣れぬゾンビが現れる。
 腐肉の汁に塗れてもなお仕立ての良さが分かる服を着た、商人風の男女と子供のゾンビだ。
 無残に腐った少女の死体がリットの首に噛みつこうとして、容赦のない薙ぎ払いによって両足を砕かれ蹴り飛ばされる。
「これだけ離れているのに化け物がいるのかよ」
 ヴァイセントラフ砦がある方向を睨み付けて唾を吐き出す。
 鼻も舌も完全に麻痺しているが、少し体調がよくなった気がする。
「リット!」
「分かってる。後ちょっとがんばれ!」
 剣を握り直してゾンビの集団の後ろへ回り込む。
 仲間達は授恵者ではないが、帝国脱出から今まで行動を共にして来た肝の据わった連中だ。
 最弱級のゾンビ相手なら十分耐えられる。
「違う、後ろだ!!」
「へ?」
 真後ろから大きな足音がする。
「牛……じゃない! ビヒモー、ビヒモーが来てるっ!!」
 リットが慌てて振り返る。
 痩せてはいるが体格の良い大型獣が、怒りで目を血走らせてリットに突進してくる。
 牛より筋肉質で毛の量も凄いので、見た目の迫力も凄まじい。
「ハァ? なんでっ」
 温厚で知られるビヒモーが何故激怒しているのかとか、鞍に誰も乗せていないビヒモーが何故こんな場所にいるのかなど、分からないことばかりだ。
 だが敵だ。
 敵の前で無抵抗でいたら食い物にされるだけだ。
「クソッ。ぶっ殺して昼飯にしてやるっ!!」
 ビヒモーの鞍に、拙い結び方の飾り紐が揺れていた。

●ビヒモーの悔恨
 彼は怒り、それ以上に絶望していた。
 あの日、休憩中の主人家族から離れたのが全ての間違いだった。
 草をたらふく食って主人のもとへ戻ったときには全てが終わっていた。
 商売が苦しいときも食わせてくれた主人夫婦も、赤ん坊の頃から懐いてくれていたあの子も、ゾンビにはらわたを食われてしまった。
 怒りで我を忘れてゾンビを蹂躙しても無意味だった。
 腐っていく3人を呆然と見下ろし続け、やがてゾンビとして起き上がったとき、彼は逃げた。
 逃げて逃げて、ゾンビと見知らぬ人間達が戦っている場面に出会い、あの子の足が剣で破壊されるのを見てしまった。
 主人達がもう死んでいるのは分かっている。
 剣を振るった人間が殺した訳ではないのも分かっている。
 だが殺意は止められない。
 帽子を被った小僧を踏みつぶしたとしても、その背後でゾンビと戦っている人間共を蹴散らしたとしても、殺意と足が止まるとは思えなかった。

●数日前。冒険者ギルドにて
「遺体が見つけた場合、埋葬を行う義務はありません」
 職員は淡々と説明している。
「ここからここまでが依頼の範囲です」
 帝国と王国の国境地帯を描いた地図の上で指先を滑らせる。
 ヴァイセントラフ砦と難民キャンプの間にある地域だ。
「戦場から十分離れてはいますが、少数のソンビが本隊からはぐれてここまで侵入している可能性があります」
 この僻地中の僻地に兵を裂いても敵側に利はない。
 だが敵の雑兵は知性のないアンデッドなので、ゾンビの数体程度が迷って変な場所に行くのは十分にあり得る。
「もともと行き倒れが珍しくない場所です。最近は砦に雇われたキャンプの人間が遺体の埋葬を行っているそうです」
 どの程度真面目にやっているかは分かりませんがと、悪意も善意もない平坦な声で説明する。
「みなさんへの依頼は、ゾンビを発見した場合の排除です」
 埋葬よりもゾンビへの警戒を優先して欲しいというのが依頼人の意向だ。
「この依頼中、埋葬担当者への命令権も与えられます」
 職員は使い潰せとも護衛しろとも言わない。
 ゾンビ以外の敵をどう扱っても構わない。
 全ては、冒険者に委ねられていた。

解説

■成功条件:ゾンビの撃破  他は倒しても倒さなくても、上記条件を満たせば依頼は成功です。 ■戦場:荒れ果てた平地  道らしい道もなく、人も住んでいない平地です。  多少の凹凸はありますが、罠になる地形はありません。  冒険者の初期位置は、リットとビヒモーから100メートル離れた地点です。 ■討伐リスト  傷をつけられても、体液に触れてしまっても、ゾンビ化したりはしません。  具体的な数はプレイヤー情報です。 ●ゾンビ  総勢12体。自然発生したのか吸血鬼が作ったものかは不明です。  最も近くにいる、生きている存在を傷つけようとします。  そろそろリットの仲間の包囲に成功します。  移動:3 射程:0 隠蔽:最悪 攻防:劣悪 命中:劣悪 回避:最悪  ・かじる  命中低下。物理攻撃上昇  ・ひっかく 通常攻撃 ●元商人一家のゾンビ  総勢3体。うち1体は地面に倒れています。  他のゾンビと能力は同じで、行動も同じです。 ■他 ●怒り狂ったビヒモー  大型獣であるビヒモーの中でも、かなり体格の良い個体です。  速度はやや遅いものの体は頑丈です。  他者への攻撃を躊躇するため普段の命中は低いです。  今回は深刻な絶望と怒りで枷が外れて、以下の能力になっています。  移動:3 射程:0 隠蔽:劣悪 攻:優秀 防:並 命中:良 回避:劣悪  ・突撃  移動攻撃  ・暴れる 射程1範囲攻撃。命中が低下 ●リット  遺体の捜索と埋葬の依頼をうけて行動中です。  元商人一家のゾンビとビヒモーに圧倒され、重傷直前です。 ●リットの仲間  スラム出身者で、現在難民キャンプ在住の13~17歳です。総勢7人。  授恵者は1人もいません。  木製の槍と厚手の服を装備し、防御と時間稼ぎを最優先にした戦い方をします。  ゾンビと戦闘中です。 ●荷車  戦場の近くに、商人一家の持ち物である荷車が横転しています。  商品であった保存食は、ゾンビ汁に濡れてほとんど駄目になりました。

マスターより

 殺さず倒すのは大変ではありますが可能です。  冒険者らしく、自分好みの勝利を得るため戦って下さい。

リプレイ

●包囲された子供達
(キャンプの連中がゾンビと戦ってるのは良いとして、なんでビヒモーが暴れてるんだ?)
 バーネット・フォーサイスの視線の先で、ウォーリアとしては結構な腕のはずのリットがビヒモーに頭突きを食らっている。
 よろめく姿勢が不自然で、いくつか骨が折れているように見えた。
「急ぎましょう!」
 ミツキ・アインホルンが速度を上げる。
 バーネットを含む他の7人も駆けている。
 リットとその仲間達を助けるには、まず戦場に近付く必要があった。
「そら、無事かお前ら」
 ゾンビ十数体分の臭気に襲われているのにバーネットは態度を変えない。
「今のうちだから、早いとこ逃げろよ」
 全力疾走の直後でも呼吸を乱さず、難民の背後にスタティックフィールドを展開。
 退路を遮断していたゾンビ数体の移動速度を0に近くした上で、ゾンビによる包囲の薄い場所を指差す。
「足止めするから、走って!」
 包囲完成から救援到着という状況の激変に対応出来ない難民達に、ミツキは強い言葉で指示を出す。
(例え、本当に望んでゾンビとなっていたんだとしても、生者を傷つけるのは許されないのよ)
 ヴァイセントラフ砦での防衛をちらりと思い出し、ミツキは魔導書を通じて世界の改変に着手する。
「ゾンビが……止まった?」
 粗末な槍を構えたままの難民達が動揺した。
 バーネットによる足止めも十分に強力であったが、ミツキの状態異常攻撃は全てのゾンビに効果を及ぼしていたのだ。
「クソったれぇ!!」
「リットちゃん、またなのねぇ。貴方多分将来大物になると思うわ……事件呼び寄せ体質の」
 リットとビヒモーの真横をエミリア・シバが駆け抜ける。
 2本の細剣によるヒット&アウェイがビヒモーの頭部を狙い、強靱な毛と皮膚に阻まれる。
 しかしその2連撃は新たな敵の登場を強烈に印象付け、頭に血が上ったビヒモーはリットだけに集中出来なくなった。
「あのときのねーちゃん?」
 よりにもよってこのタイミングで気を抜いてしまった。
 重量、膂力、気合いの全てでリットを上回るビヒモーが全身を使って突撃する。
「どうどう、そんなにもやり場のない思いがあるなら、私が受け止めてやるぜ!」
 ビヒモーが撒き散らすどろどろとした感情を肌で感じながら、ゴルバルティアが盾を構えてリットと巨体の間へ割り込んだ。
 体格が良く、ウォーリアとしてリットよりはるかに熟練し、その上立派な尻尾を持つ彼女でもビヒモーの突撃を防ぎきれない。
 リットを巻き込んで5メートル近く後退させられ、だが両足と尻尾で踏ん張ってそれ以上の好き勝手はさせない。
「好きなだけどつきに来やがれ!!」
 鋼の盾を片手だけで保持して、利き腕でビヒモーの角を握りしめる。
 がっぷり四つに組めば、力だけでなく技も重要になる。
 均衡が成立。息継ぎのタイミングでゴルバルティアが押し、技で劣るビヒモーが数歩後退する。
「……あ、あんま勢い付けて突っ込んでくんじゃねーぞ」
 後退した直後の加速が予想以上だ。
 ゴルバルティアは利き腕を引っ込め両手で盾に添える。
 受け方を一瞬でも誤れば盾が歪みかねないほどビヒモーの力は強く、そして枷が外れていた。
「ちょこまかと……」
 小柄なガンシャルアが戦槌を高々と掲げる。
 戦槌を起点にエーテルが放出され、力しかないビヒモーと、ゴルバルティアに守られてばかりのリットの周囲へ移動する。
「お前にも時間が必要だろう。少しは頭を冷やせ」
 祈りを込めることでエーテルに形を与える。
 6面の檻がビヒモーを取り囲み、ビヒモーとそれ以外を分断する。
 いつの間にか天井部分もエーテル製の天井で塞がれ、ビヒモーは六角形の光柱に封印された。
 ガンシャルアが深呼吸する。
 これで時間は稼げた。魔法攻撃が出来ない相手なら十数秒は大丈夫だ。
(リットもまだまだ鍛え方が足りんな)
 柱に剣を向けたまま警戒しているリットを見て、先程とは別の種類の息を吐いた。
「まずはゾンビを倒して下さい! ビヒモーの暴走には彼らと関係があるように見えます」
 ドローミが強く言う。
 言葉は要請だが語調は命令と叱責に等しい。
 ビヒモー以外の脅威を忘れるのは、戦う者として致命的な失策だからだ。
「わわかった!」
 リットはどう見ても分かってはいないがゾンビに剣を向けたのでとりあえずは問題ない。
 ドローミは自身と自身の装備からエーテルを引き出し、癒やしの力に変えてリットの体を修復する。
 常人なら一度で完全回復するほどの回復力なのにリットの外見は変わらない。
 ビヒモーから受けたダメージは、それほど大きくかった。
 全高20メートルもある光の柱が薄れてビヒモーの姿が現れる。
 怒張させた筋肉から湯気をあげながら、大重量の巨体が全力での突撃を開始した。
「もう一度結界を出します」
 リットが向き直るより早くドローミが詠唱を終える。
 2つめの光柱はぎりぎりだが間に合い、ビヒモーは再び檻に囚われた。

●不本意な余生の終わり
 小さくても眩い光弾がゾンビに突き刺さる。
 大量にある割に個々の威力も強力で、脆い種類なら1発で破壊可能だっただろう。
「足を止めずに逃げなさい。ここは私達が」
 ミツキの言葉は途中で聞こえなくなった。
 鉄の斧と盾と甲冑で身を固めたアーテミシアが、ゾンビ1体を跳ね飛ばし地面にぶつけて粉砕したのだ。
 音も激しいが臭いも酷い。
 汚れと悲惨な扱いに慣れている元スラム住民達が怯えてしまう。
「何でこんな所にゾンビがいるンだか……」
 重装備を着込んでの全力疾走の直後なのにアーテミシアの息は乱れていない。
 育ての親達の基準では、この程度準備運動だ。
「全く、今日の飯が不味くなりそうだぜ」
 稲妻に足止めされたゾンビの群れへ歩いて接近。
 全長1メートルもある斧を軽々振るってまとめて切り倒す。
 リット程度の技と力しかないなら切り倒すのが精一杯かもしれないが、アーテミシアならまとめての破壊が可能だ。
 進路上に残った下半身を蹴り倒し、生き残りの救援を第一に動く。
「おいヒューマども。巻き込まれねえ内にさっさと離れな。巻き添えで目の前のお仲間になっても知らねえぜ」
 アーテミシアの態度はとても分かり易い。
 強さを示して上下関係をはっきりとさせつつ退去を命じる。
 スラム出身の少年少女は非常に素直に従い、緊張で強張る手足を必死に動かしひたすら逃げた。
「いい逃げ足だ。半端に使えるよりずっと強いぜ」
 バーネットがヒールを使う。
 治癒術としては初歩的なものだが、バーネットの強力な魔力があれば重傷直前の非授恵者を全快させることも容易だ。
「ビヒモーはまだやる気か。どれだけ怒らせたんだ」
 2つ目の光柱が薄れていく。
 ビヒモーの目は殺意に満ち満ちて、血を見なければ終わらない雰囲気だ。
「まぁ何にせよ、制圧せにゃならんのは確かだな」
 放置すれば確実に被害が拡大する。
 バーネットは割り切って詠唱を終え、20近い光弾を生じさせてゾンビに向かわせる。
 足が遅いキャンプ住民を避け、無傷のゾンビも壊れかけのゾンビも関係なく砕いて地面に転がせる。
 最後に残ったゾンビ3体に杖を向け、術を発動しようとした瞬間にビヒモーが視界に入る。
「扱いを誤れば面倒なことになる、か?」
 単体攻撃用の魔弾に切り替え、一番体格の良い男のゾンビをじっくり狙って術を使う。
 心残りのせいかゾンビの割に強靱な体に、大きなダメージを与えた。
「ボクのほうが、生命力に溢れてますよ。こっちに来なさい!」
 長身の白熊ハーフビーストが、リットの右隣に割り込む。
 ゾンビの歯が鋼の盾で防がれ、歯が数本砕けて転がり落ちる。
「んなっ」
 リットはゾンビの攻撃もハルハン・ツァガーンナルによる救援にも今気付いて混乱する。
「間に合わなくて、ごめんなさい」
 ゾンビは若夫婦らしい2体と、足を砕かれ地面で蠢く元少女の1体だ。
 特別強い訳ではないが数は脅威であるし、ハルハンにも全力を出せない事情がある。
 暴れビヒモーの鞍で揺れている飾り紐と、元少女の服に取り付けられた飾り紐が同デザインだ。
 ハルハンは非情な現実を真正面から見据え、殺意ではなく戦意をエーテルと共に放ち続ける。
 優しかった家族の亡骸が、ハルハンに引きつけられてビヒモーから引き離されていく。
 ビヒモーが気付いて振り返る。
 大きな斧を振りかぶるハルハンへ突撃を仕掛けようとして、ハルハンの瞳と目が合い脚が止まる。
「ボクにできることは、終わらせることだけです!」
 巨大な光塊が斧を包む。
 形が崩れる寸前まで腐った親子が照らし出され、ビヒモーは耐えられずに目を逸らす。
「っ」
 ハルハンは目を逸らさない。
 気合いの声と共に振り下ろし、3体の体が崩れてもまだ逸らさない。
「おやすみなさい」
 止めの一撃が、3つの遺体をゾンビとしての生から解放した。

●ビヒモー
「まだやるつもりかよっ」
 仲間が撤退成功を知らされ、リットは冷静さをある程度取り戻した。
 ビヒモーを殺しても収入は増えないし、肉も法的には冒険者のものになる。
 積極的に命を奪う理由は既にない。
「どうして怒ってるの? リットちゃんがなんかやらかしたの?」
 エミリアは既に攻撃を止めている。
 ビヒモーの体力は限界以上の力を出した結果尽きる寸前で、今なら武力以外でも意思疎通可能と判断したのだ。
 時折不意打ちで繰り出される、ビヒモーの巨体を活かした広範囲体当たりを華麗に躱す。
 その上で、至近距離から観察と問いかけを続けてビヒモーの心情を推測する。
「やらかしって、俺スラムを出てから犯罪してねーよ!」
 リットが抗議する。
 ビヒモーの目の血走りが酷くなり、力が増し動きが雑になる。
「してると思われてるよ?」
 数秒は安全と判断し、エミリアは水袋の封を開けて中身を前方へ振りかける。
 熱を持った毛に染み込み、気化して物理的に温度を下げた。
「わけわかんねーよ具体的に言ってくれ! 俺あたまよくねーんだから!!」
 ビヒモーに会話能力がないことも頭から消えているのかもしれない。
 ハルハンが立ち上がる。
 ずっと前に死んでいた親子は暴れるビヒモーから遠ざけられ、3人川の字に並べられている。
「あれは」
 ビヒモーも鞍から飾り紐が解けて落ちる。
 風に流されたそれを受け止め、少女の遺体のそれと同じであることを手で直接確認した。
「お願いです!」
 自然と言葉が出ていた。
「落ち着いてください!!」
 雨と埃で汚れたそれを、両手で大事に扱いビヒモーに示す。
 言葉が通じない相手でも、意図は確かに通じた。
「おねえさんたちは、ここのゾンビになってしまった人たちを静かに眠らせてあげるために来たの」
 危険を冒してビヒモーに触れる。
 筋肉が熱い。汗の臭いと共に強い後悔と絶望を伝えてくる。
 エミリアにとっては、見慣れて、感じ慣れた感情だ。
「埋葬して、静かに眠らせてあげたいと思っているの。伝わっているかな?」
 感情しか伝えられないのがもどかしい。
「お互い、思いが分かるといいのにね」
 ビヒモーの中に、微かではあるが逡巡の感情が生じた気がした。
「人が反撃しないからっていい気になりやがって」
 豪快に振る舞っていても実は気が弱いゴルバルティアが、青筋を立てている。
 盾で防ぐことに徹していたら徐々にビヒモーが甘く見るようになった。
 力は強いが雑な一撃で何度も盾を蹴られ、表面が汚れ無惨な見た目になっている。
「一発躾けてやるよ」
 ビヒモーと真正面から力比べをしながら大きく息を吸う。
 四肢だけでなく体幹の筋力も増し、ゴルバルティアの上半身が安定する。
「ちったぁ人の話を聞けこの馬鹿野郎!!」
 ここまで準備して初めてサウンドボマーが発動する。
 威圧感たっぷりの荒々しい言葉が、ビヒモーの耳と骨を伝わり脳を揺らした。
「貴様は、目の前のものを打ち壊したかったのか? ビヒモー」
 ガンシャルアが危険な近さから問いかける。
 リットよりも小柄な彼女は、巨大な獣と白兵戦で対抗出来るようには見えない。
 だが、ヒーラーとして十分に鍛え、戦う為の装備を揃え、何よりリットよりはるかに肝が据わっている彼女であれば不運があっても一撃では倒れはしない。
 仮面代わりの頭蓋骨の後ろから、曇りのない瞳がビヒモーを覗き込む。
「逃げるな」
 巨体がぶるりと震え、一歩後ろに下がった。
「あ、ふーン」
 アーテミシアは斧を背中に戻して盾を両手で構える。
 どうやら〆ずに降伏させる流れのようだ。〆ないなら手加減が必要なので刃物は使えない。
「言葉が通じなくても痛みなら通じるだろ」
 情に訴えかけるような言葉は好まない。
 アーテミシアは死なない程度にビヒモーを引っぱたき、その命ではなく心を追い詰めた。
「生きるか死ぬかお前が決めろ」
 ガンシャルアはエーテルで自らの守りを強化し、ヒールで傷を癒やしながらビヒモーへ1歩ずつ近付く。
 まだ戦う力は残っている。
 だがもう、戦い続ける気力は残っていなかった。

●再出発
「よく耐えたわね。すごいわ」
 ミツキは笑顔でリットの仲間達を称えた。
 ゾンビを1体も倒せず、冬用の厚手の服は傷と破れだらけ。
 しかし全員無事で生きている。
「過信せず、防御と時間稼ぎに徹する……、あの場での最適解だったと思うわ」
 帝国の元軍人であり、今では熟練の冒険者であるミツキは彼等の憧れの対象だ。
 そんな彼女に褒められたのでテンションが上がる。
「リットさんはとっても良い仲間を持ったわね」
 早期に帝国からの脱出を決断し、クリーパーが蠢く荒野を通って王国にたどり着き、キャンプが成立しても働き続けて来たのがここにいる面々だ。
 腐らず努力する人々に、ミツキは純粋に敬意を抱いていた。
「こいつはどうするんだ」
 ゴルバルティアがビヒモーの首を押さえて振り返る。
 ドローミは数秒の間何も言わず、リットが何も言わないのに気付いて咳払いする。
「お、おう。行くところがねーなら俺の所へ来いよ。働いてはもらうけどさいごまで面倒……っておい、頭突きするないてーんだよ!!」
 ビヒモーがゆっくり近付き助走無しの頭突きをお見舞いする。
 殺意はないので冒険者達も止めない。
 ドローミは肩をすくめた。
 説得の指導までしてあげたのに、リットでは全く活かせなかったようだ。
「2人共休憩しなさい。喉が渇いているでしょう。沢山は用意できませんが、いくらか楽になりますよ」
 生活魔法で作った水を飲ませると、限界以上に戦っていた獣と人間が疲れを自覚しその場にへたり込む。
「燃やすには、燃料が足りませんね」
 ここは辺境だ。
 荼毘に付しても地面に埋めても問題視はされないだろうが、遺体1つを骨にする為には大火力が必要だ。
「埋葬を手伝ってくれますか?」
 ビヒモーはアーテミシアの協力を得て、主家族の為の穴を掘る。
 リット達が掘った穴より、ずっと大きな穴だった。

マスターコメント

 ビヒモーは、空の荷車を牽いて帝国難民キャンプに合流しました。  荷運びに活躍しているようですが、リットの言うことは全て無視しているそうです。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2020年12月09日 10時10分25秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ハルハン・ツァガーンナル

    ハルハンの子、ツァガーンナルです。 よろしくおねがいします。 リット達も助けたいですが、怒り狂ったビヒモーも、どうにかしたいですね

  2. ゴルバルティア

    遅くなったぜ ウォーリアのゴルバルティアだ。よろしくな

  3. ガンシャルア

    ……ガンシャルア。ヒーラーだ。

  4. ドローミ

    皆さまごきげんよう。 僕の名前はドローミ、どうぞ宜しくお願いします。 カバ牛は、説得したいですね。 賢そうです。

  5. アーテミシア

    ウォリアーのアーテミシアだ。宜しくな

  6. リット

    毎回ピンチな気がするリットだ! みんなよろしくな!!

  7. バーネット・フォーサイス

    キャスターのバーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 >方針 とりあえずは、リットとその仲間に対して救援に向かう形になるだろうな。 リットの方は合流してそのまま交戦するとして、仲間たちの方は安全圏までの退路を作って、 離脱してもらうのがいいんじゃないか? ビヒモーに関しては、何処かから逃げたとか逸れたとは推測できるから、 取り合えず可能なら鎮圧する方向性でいいとは思う。 あとは……メタ的に言うと元商人一家から、何かしらの手掛かりが見つかればいいんだが。 ゾンビに関しては、一応犠牲者の遺体でもあるだろうから、 俺らは依頼の範疇外になるが、リット達の方で埋葬する形になるか?

  8. ハルハン・ツァガーンナル

    言い忘れました。ウォーリアで、カバーリング等できます。 >方針 そうですね。包囲されつつある、とあるので、退路を確保できれば。 ゾンビ自体は、近くの生きている者を狙うそうですから、割って入れば、狙いは此方に変わるでしょうか えっと、リット側が、商人一家の三体のゾンビとビヒモー。 仲間たちが、他のゾンビに包囲されつつある。ということで、両方へ駆けつけるなら、二手に分かれる必要があるのでしょうか

  9. ガンシャルア

    彼らの離脱を助けるというと、多分交戦中であろうゾンビとビヒモーを同時に引き受けることになるのか。 とりあえず、3ターンの間ならビヒモーを閉じ込めることは出来るかもしれん。そのあとは……鎮めるなら、根性勝負になるかもな。

  10. ミツキ・アインホルン

    キャスターのミツキよ。よろしくね。 リットさんの仲間は離脱する方針に私も賛成ね。 ただ、どっちも放置しておくと危なさそうだから、ハルハンさんの言う通り、二手に分かれて対応した方が安全だと思うわ。 あと、リットさんは「重傷直前」のようだから、早めに回復してあげた方がいいんじゃないかしら。

  11. エミリア・シバ

    おねえさんはシーフのエミリアっていうわ、今回はよろしくね。 100メートルってことは20hexになるかしらね、一応1ラウンドで到達はできるからリット君たちのほうに行けたらなって思ってるわ。 メタ的には動物交感があるからビヒモーが何で怒ってるかとか読み取って、主人一家を埋葬するためにはーって感じで説得出来たらなと思ってるわね。

  12. アーテミシア

    まあやられかけと足手まといにはさっさと離脱してもらった方がいいだろうな。 オレはどっちに行っても構わねえぜ。 ゾンビを片付けりゃ終わりだってンなら、そっちの振り分けを多くするか。 ンで、ビヒモーを抑えるのはいいけどその後どうするンだ? 飼い主が全滅した以上、野に離すか誰かが飼うか、後を追わせるかくらいしかねえと思うが。

  13. ドローミ

    メイン+サブで走れば、僕でも2Rでリット殿まで到達できる模様です。 ヒール2の付与、ガンシャルア殿と交替での光縛封の使用からですね。 >アーテミシア殿 エミリア殿が既に動物交感お持ちだそうなので、通訳・説得?行いあのビヒモーはキャンプに連れていきたいです。 リット殿が、コブシで語り合う必要があるかもですが。 また、荷車と保存食の一部も回収できると嬉しいですね。 商人家族は僕がカンテラと火口箱もって行けば、火葬できないですかね? 杖とキャス魔2、用意でもいいですけど

  14. ミツキ・アインホルン

    とりあえず、二手に分かれる方針でいいのよね? 私はゾンビ側に回るわ。アーケインテンペストで足止めしつつ、範囲魔法で攻撃って感じね。

  15. ハルハン・ツァガーンナル

    ボクも駆けつけるなら、チャージングもあるので、可能です。 今の所、ゾンビ側の人が少ないので、そっちに行ったほうが良さそうですね。 対象識別のある範囲攻撃もあるので、数が多いゾンビを相手にできると思います >ビヒモー 野に帰すか、商人さんの知り合いでも見つかれば、引き受け先は見つかるでしょうか……? 誰かが、面倒を見る。というのもいいですね

  16. ガンシャルア

    今のところこんな感じで認識している。 間違っていたら済まない。 ・初動ゾンビ ハルハン(ウォーリア)・アーテミシア(ウォーリア)・ミツキ(キャスター) ・初動ベヒモー&リット ドローミ(ヒーラー・光縛封)・ガンシャルア(ヒーラー・光縛封)・エミリア(シーフ・動物交感) (リット) >ゴルバルディアさん・バーネットさん 初動の希望があれば言ってくれ。 上の二つでも、例えば他の、退路誘導でも、資料探しでも。 恐らくどれも、悪くはない行動だろう。 >ドローミさん ……1回目の光縛封は俺が撃とうと思う。その次は頼んだ。

  17. バーネット・フォーサイス

    >動物交感 ああ、これを使えば感情を読み取れるのか。 ただ、あくまで読み取れるのは感情だから、事情とかどの辺りまで把握できるかが肝になるな。 >ビヒモー 言ってしまえば家畜は資産でもあるから、連れて帰れば引き取り手は見つかるだろうな。 まぁ、本人?本獣?がそれを望むかもあるし、そもそも生かしたまま鎮圧できるかもあるから、 それこそ終わってからどう転ぶかだな。 >個人行動 俺もまぁ、初動はゾンビの方に行こう。 月並みだがアーケインで足止めしつつ、範囲火力で薙ぎ払う感じだな。 退路さえ確保できれば、リットの仲間もそこから離脱するだろう。

  18. エミリア・シバ

    >動物交感 まあ、上手く説得?というか静めれたらラッキーぐらいで思ってくれたらと思うわ。 無理と判断するまでは、基本ビヒモーに関しては回避に専念することになると思うわ。

  19. ドローミ

    >ガンシャルア殿 僕は到達後は、全力移動のため動けません。 初手、宜しくお願いします。 そして第3R目は、リット殿へのヒール2になります。 その後は輝刃2付与し、商人家族に止めを刺すよう促したいです。 光縛封を引き継ぎ、カバ牛とリット殿が一騎打ち出来る準備をしたいです。 回復で助勢しつつ、牛戦闘不能後、光縛呪を行使。 牛をヒール。 商人家族を火葬する場を見せ、エミリア殿に仲介願い説得出来たらいいなと。 なお、初出のストーリーノベルはベヒモーでしたが、ヒッソリビヒモーに修正されていました。 >バーネット殿 今回も宜しくお願いします。 自身で準備してみましたが、上記手順で光縛呪いかがでしょうか? ビヒモーは、キャンプにほしいです。 雑草と水はじゅうぶんありますので。

  20. アーテミシア

    ま、ビヒモーに関しては任せるぜ。オレはゾンビの後片付けしてらぁ どうしても言うこと聞かなきゃオレが〆てやるさ。無いとは思うけどな ゾンビに関しちゃ薙ぎ払うだけだ。そっちに小難しい作戦はいらねえだろうよ。

  21. バーネット・フォーサイス

    >ドローミ ああ、今回もよろしく頼むわ。 一度でも無力化できれば、光縛呪で拘束しちまえばいいな。 後はまぁ、生かして鎮圧するための手加減に気を付けるくらいか。

  22. ゴルバルティア

    とと、だいぶ遅くなっちまったぜ…もうあと24時間くらいか 私はビヒモー対応に行くぜ、真正面から受け止めて足止めするぜ 光縛封も私が受け止めたら当てやすいんじゃないか?と ・初動ゾンビ ハルハン(ウォーリア)・アーテミシア(ウォーリア)・ミツキ(キャスター) ・初動ベヒモー&リット ゴルバルティア(ウォーリア・足止め)ドローミ(ヒーラー・光縛封)・ガンシャルア(ヒーラー・光縛封)・エミリア(シーフ・動物交感) (リット)

  23. ゴルバルティア

    あれ?質問っつーか、リットとビヒモーを一騎打ちさせる流れってどこに書いてあるんだ?私どこで見落としてる???

  24. ドローミ

    >ゴルバルディア殿 ごきげんよう。 リット殿の一騎打ちは、僕の希望なだけです。

  25. ゴルバルティア

    あんあー…なるほど…? でもリットの行動的っつーか感情的にはビヒモー倒す気でいるけど、相談の流れ的には生かす方向だし、それで一騎打ちにさせて大丈夫か?倒しちゃってからあーあってならない???いや私には判断しかねないけどさ いや、遅くなってからこういうのもあれだけどさ…

  26. エミリア・シバ

    ちょっと、これはメタ的な純粋な質問でわかる人がいたらなんだけれども。 先日の決戦は除外して、おねえさん、アンデッドと戦うのは初なんだけれども。アンデッドは火葬ってきまってる感じなのかしら? 世界観には ▼一般の死生観 死した人の魂はマトリクス界に至り、神々の祝福を受けてマテリアル世界にエーテルとして還るーーという考え方が最も一般的である。死した後、肉体を喪失してしまった魂はマトリクス界にたどり着けなかったり、マテリアル世界に還ることができなくなると考えられているため、ロスガリア大陸では広く土葬が普及している。 とあるから、燃やそうとしたらビヒモーちゃんの怒りが再熱とかしないかちょっとだけ心配になったの。

  27. アーテミシア

    今腐るのも後で土の中で腐るのも一緒だろ。 そのまんま埋めて墓でも作ってやればいいンじゃねえの? 聖別でもできりゃ別だけどな あのガキの有様でビヒモーが倒せるとは思えねえけどな…オレとしては止めとけ、と思うぜ。 本人に聞けりゃ話は早いけどな

  28. ドローミ

    >ゴルバルディア殿、アーテミシア殿 リット殿の一撃は、現在やや浅いらしいので、鉄の剣(なまくら?)だといきなり止めには至らない気がします。 接触時にリット殿の回復は行いますし、商人ゾンビ戦闘では、輝刃2付与します。 文字数の都合で、光縛封中にエミリア殿の話聞く気になるかもですし。 無理そうであれば、協力して弱らせましょう。 >エミリア殿 報告書未確認ですが、ヴィンセントラフ砦の(脱走)隊長さん OPでは、ゾンビ化したご家族焼きたかったご様子。 時間的に【質問】使えませんが、許容されると見ますよ。 >現場で土葬 本来は難民方々の仕事は、遺体の回収なんですよね。 現場で埋めるのも手間ですが、どうしましょう?

  29. バーネット・フォーサイス

    >遺体 そこんトコロはまぁ、終わってからの相談だな。 向こうが片づけるってんなら任せるし、そうでなきゃこっちが相応に対応するしかあるまい。

  30. エミリア・シバ

    ああ、ごめんなさいね、火葬っていう単語が出ていたから。ちょっと気なっただけなので。 あまり深くは気にしないでちょうだいな。

  31. ゴルバルティア

    んー、ま、おっけ 了解だぜ。多分

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0