蜂蜜の詩
真柄 葉
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シナリオID:232
オープニング
煌びやかな青のドレスを纏うカレトイセリア=フォン=レベトが、優雅な立ち振る舞いで腰を下げる。
「これはこれは。カレトイセリア様自らのお出迎えとは、恐悦至極でございます」
馬車から降り立ち、大仰な仕草で両手を広げた金髪碧眼の男が敷かれた赤じゅうたんの上を進んでゆく。
両脇に立ち並ぶメイドの前を通り、男はカリンの目の前へとくると恭しく跪いた。
「この度はお招きいただき、誠にありがとうございます」
そう言うと男はカリンの手を取り、甲に口をつける。
「手土産といっては何ですが、最近王都で流行りの小説なる読み物を持参いたしました」
と、立ち上がった男は後ろに控える執事に合図を送った。
執事は音もなく歩み出ると、手に持った絹を広げる。
「まぁ、お気になさらずともよろしかったのに」
「何を仰います。王国南部随一の美姫と謳われるカレトイセリア様の元へ手ぶらで来ようものなら、我がフロイゲン家は末代まで笑い者となりましょう」
右手を胸に当て、優雅に腰を折った男。
「まぁ、少しこそばゆい噂です事。――あ、わたくしとしたことが、このような場所で立ち話など。申し訳ありません、フロイゲン子爵様。最近までご病気を患われていたお方をこの様な場所で引き留めてしまいました。ささ、屋敷へ」
そう言うと、カリンは男を屋敷へと誘った。
●数週間前
エラトゥーン都市同盟にあるとある都市。その中でも中央に近い場所にある無骨な石造りの建物の一室で――。
「王国内に不穏な動き、か」
年季の入った革張りの椅子に身を沈めた『ドルトレス所長』というコードネームを持ったゴブリンが、書類から顔を上げた。
ピシッとしたスーツに身を包んだこのゴブリンは、とある統治機構の情報機関の長を名乗っている。
「しかもこれは……」
手元の書類には部下からの報告が事細かに記されている。それは全てある組織に関するものだった。
『絶盗団・キリコの時計』
「全てのものを盗む」という理念のもとに結成されたとされる盗賊団で、宝石や貴金属、ゴールドはもちろんの事、人身、禁制品など数々のものを盗んでは密売していると噂されている。
首魁は元より、構成員の人数や規模等、アジトの存在など多くの謎に包まれた組織だ。
誰もいない室内に、コツコツと机を叩く音だけが響く。
「しかし、フロイゲン子爵は長く病に臥せっていたはず。快癒の話は聞いていないが……」
部下が持ち込んだ情報は、王国の貴族と『キリコの時計』の接触が疑われるというものだった。
「うん、これは……」
と、報告書を見て何かに気付いたドルトレス所長は、机の引き出しの中から紙の束を取り出した。
それには以前『キリコの時計』のアジトの一つと思われる場所に潜入調査をした時に得た、情報の数々が記されている。
「――これだ」
その中の一つに、牢に捕らえられていた人物についての説明があった。
ドルトレス所長は部下の持ってきた書類に書かれたフロイゲン子爵の特徴と、牢に捕らえられていた人物の特徴の二つを交互に見比べた。
「やはり、特徴が似ているが……髪の色が違うのか。ふむ……」
合致すればもしやと見比べるが、相違する部分も多い。
ドルトレス所長は更に牢の人物についての報告書を読み進める。
岩牢に両手を鎖で繋がれた貴族らしい人物。年は20代~50代。
「随分と幅があるのは、衰弱していて判別できなかった、とみることもできる」
そして、その症状はまるで毒を盛られた廃人の様であったと記してあった。
「症状は、毒の可能性、か……毒……毒か……」
ドルトレス所長はぶつぶつと小声でつぶやく。
「どうも引っかかるな。よし――」
何か引っかかるものを感じたのかドルトレス所長は、すぐさまベルを鳴らし部下を呼んだ。
●リーンエス王国レベト領
「おぉ、フロイゲン子爵! 久しいのぉ!」
「ご無沙汰しております、レベト伯爵。この度は突然の申し出を快諾いただきまして、ありがとうございます」
応接室の重厚な扉をくぐり、にこやかに腰を折ったフロイゲン子爵。
「何を言う、フロイゲン子爵。まだ、承諾したわけではないぞ?」
「おっと、これは気が急いてしまったようですな。我ながら、浅慮であると恥じ入るばかりです」
「はははっ、楽しい話の前は何人も気が高ぶるもの、気にせずともよい」
「はっ、お心遣い痛み入ります」
「さぁ、そんな所で立ち話もなんだ。こちらに来て座ってくれたまえ」
「はい、ではお言葉に甘えまして」
前口上に上機嫌なレベトは、フロイゲンに自慢のソファーを勧めた。
「それで、此度の商談というのは? 何か面白い商材でも見つけたのかね?」
フロイゲンがソファーに座ったのを確認し、レベトは早速と身を乗り出す。
「はい、レベト伯爵に是非お目にかけたいものがございまして、今日はその一つを持参してまいりました――お出ししろ」
と、フロイゲンは後ろに控えるメイドの一人に合図を出した。
メイドは恭しく腰を折ると音もなく歩み出て、机の上に琥珀色の液体が入った小瓶を置いた。
「これは……なんじゃ?」
レベトは瓶を手に取り、光に透かしてみた。
キラキラと光を反射させる液体は少しドロリとしているように見える。
「これは蜂蜜……でしょうか?」
と、答えたのはレベトの後ろに控えていたカリンだった。
「おぉ、流石はカレトイセリア様、ご明察にございます」
「しかし、このように澄み切ったものは見た事がございません」
レベトから受け取った小瓶をカリンも光で透かし見る。
普段目にする蜂蜜よりも若干色素の薄い蜜は、浮遊する不純物が全くない見事なものだった。
「はい、残念ながら採取地は申し上げられませんが、ある地方だけで採れる貴重な蜂蜜で御座います」
「ふむ、これを売りたいと?」
いくら純度の高いものであろうと、所詮は蜂蜜。安くはないがそれほど価値のある物でもない。
レベトはなぜこれをと首を傾げた。
「理由はそれはこれを一舐めしていただければ」
そう言うとフロイゲンはもう一人のメイドに、木の匙を用意させる。
そして、レベト、カリンの両名が半信半疑ながらも、蜜の付いた匙を口に運んだ。
「こ、これは……!」
「これが蜂蜜……ですの?」
口に入れた途端に広がる香りと甘さ。特に香りは、まるで花弁を直接口に入れているように香しかった。
「はい、素材もさることながら、特別な製法で仕上げておりますゆえ、これほどの物に仕上がるのです」
「これは素晴らしい……素晴らしい逸品ですぞ、子爵!」
「お褒め頂、光栄の極み」
興奮気味に話すレベトに、フロイゲンは恭しく頭をたれた。
「しかし、これだけのものじゃ。値段も相当なのだろう? 売先は商家か貴族、といったところか?」
「いえ、それであれば私が直接売り込みます。この度、これをわざわざ伯爵様にお持ちしたのは、このレベト領内で流通させていただければとの思いからです」
「ふむ。これほどの逸品じゃ、私が流通させぬでも飛びつく者も多かろうが……」
「価格は、これを想定しております――」
と、机の上に出された指の本数に、レベトは目を見張った。
「な、なんと……! これでは市井の蜜とそう変わらぬではないか」
「はい、いかがでございましょう。ご一考いただけますでしょうか」
驚くレベトに、フロイゲンはにこやかにそう告げた。
解説
マスターより
リプレイ
気持ちが高揚した様子で冒険者達を自室へ招き入れたカリン。
冒険者達も屋敷で唯一気を抜けるこの場所で、一息ついていた。
「はー、緊張したぁ……」
椅子からずり落ちそうなほど脱力したニーラ・メッコ。先ほど子爵の出迎えに同行していたのだ。
「メイドがそんなはしたない格好してはいけませんよ」
そんなニーラを見下ろし、クロウ(クローリカ)が溜息をつく。
凛とした佇まいに執事服をそつなく着こなし、まるで長年この屋敷に使えているような雰囲気さえ漂っている。
「ここは誰も入らないように厳命してるから、気を抜いても大丈夫よっ」
そんな二人にカリンは自慢の紅茶を勧めた。
「それにしてもあの子爵様……」
「えっ、早速何かわかったの!?」
神妙な顔で考え込むヴィノニスに、カリンは興味深げに問いかけた。
「あと15年くらい若ければ……ありだわ」
「えっ、何の話……?」
「気にしないで、もう手遅れだもの」
と、ついていけてないカリンを更に突き放し、ヴィノニスは明後日に思いをはせる。
「奴隷の次はメイドなんて、あの所長も色々大変ね」
「ほんと、よく考えつくよね。まぁ、付き合うわたし達もわたし達だけど」
依頼主であるドルトレス所長と顔見知りであったテュリン・ヴィングとクレア・エクレール。互いに前回の依頼を思い出し苦笑した。
そんな、テュリンは長い髪を纏め上げ眼鏡をかけては前髪で隠し、クレアは髪だけでなく耳や尻尾まで染めて、伊達眼鏡を装備済み。
共に、今回のターゲットと面識がある可能性を考慮した変装だった。
「お嬢様、この後の予定を教えていただけますか?」
リコリス・アデュラリアがカリンに問いかける。
エルフがメイドだと不自然だろうと、リコリスは長い耳を隠し存在を希薄にするメイクを施している。
それぞれに工夫を凝らしレベト家のメイド・執事として屋敷に潜入していた。
「あとは夕食まで予定はないわ。子爵様もお部屋でくつろがれているはずよ。あー、でもさっきのは惜しかったわね。うまくいくかと思ったんだけど」
「いえ、ご協力ありがとうございました。相手が一枚上手だったのかもしれません」
むぅとカリン口をとがらせるカリンに、リコリスは頭を下げる。
つい数時間前、リコリス発案の作戦は既に実行されていた――。
●遡る事数時間前――
「発言をご許可いただけますか?」
商談の席に帯同していたリコリスが控えめに声を上げた。
「うん? なんだ君は、新人か?」
それを聞き、レベト伯爵が顔をしかめる。
それもそのはず、本来であれば商談の席でメイドが声を上げることなど許されはしない。
「ええ、構わないわ」
「おい、カリン! お客様の前だぞ!」
しかし、カリンが許した。もちろんレベト伯爵は怒りの声を上げるのだが、
「子爵様、この者は最近雇ったメイドなのですが、なかなかの博識でして、面白い話をするのですよ。どうです、ご興味ありませんか?」
カリンは気にする様子もなく、フロイゲンに問いかけた。
「ははは、カレトイセリア様がそう仰るのであれば、是非聞かせていただきましょう」
カリンにそう言われては断れませんなと、フロイゲンは貴族らしい大仰な仕草で頷く。
「ご機会を頂きまして感謝いたします、フロイゲン子爵様」
と、リコリスは深々と頭を下げると、ゆっくりと口を開いた。
リコリスの話はこうだ。
以前、この街に珍しい野菜が持ち込まれたことがあった。人々は見たこともない野菜に興味こそ示すものの、手に取る者はほとんどない。困った商人が知人であったこの屋敷の料理人に相談すると、試食会を提案されたという。
商人は半信半疑でその野菜を委ね、料理人の調理したものを店先でタダで振舞ったところ――野菜のおいしさを知った人々がこぞって買い求めたと。
もし、この蜂蜜を街で流通させるのなら、同じ手は使えないか。可能であれば試作の為、幾つか蜂蜜を頂きたいと。
それがリコリスの話の顛末だった。
「ふむ、実に興味深い話ではありますが、残念ながら持参した品はこれ一点のみなのですよ」
話を聞き終えたフロイゲンは、申し訳なさそうにリコリスではなくカリンに頭を下げる。
「ご契約の暁には、そちらのメイド殿のアイデアで流通されるのがよろしいかと思います」
そして、話はこれで終わりだとばかりに、フロイゲンはリコリスを一瞥した。
●
「蜂蜜の瓶は一つのようね。まぁ、本当かどうかはわからないけど」
と、テュリンがお茶をすすりつつ声を上げる。
「それも子爵が部屋に持って帰ったんだよね?」
「ええ、少しでも分けていただけないかお願いしたのだけど、ダメだったわ」
クレアの問いにカリンが答える。
「うーん、ガード硬いなぁ。尚更怪しいけど」
むむむと頭をひねるクレア。
「やっぱり外堀から埋める方がいいのかもしれないね」
ニーラが窓から外を覗くと、庭の隅に子爵の乗ってきた馬車がちらりと見えた。
「各々考えもあるだろうから、晩餐会までは一先ず自由に行動するというのはどうでしょうか?」
と、クロウが皆に提案した。
「賛成よ。いくら沢山のメイドや執事がいるといっても、新人ばかりが固まっていれば目立ちすぎるわ。クロウさんは別にしてもね」
ヴィノニスの言葉に皆が頷く。
晩餐会が行われる夕刻に改めて合流する旨を約束し、冒険者達はカリンの部屋を辞した。
●
――どてっ
「ももも、申し訳ありません!」
廊下を盛大にすっ転んだヴィノニスは起き上がると、目の前の人物に何度も頭を下げた。
「いえ、お気になさらずに」
子爵付きのメイドはヴィノニスを見下ろしつつも、表情を変える事はない。
「わたし、先日このお屋敷に雇っていただいたばかりで……」
まるで何もできない素人だとでもいう様に、ヴィノニスはメイドに涙目を向ける。
「そうですか。頑張ってください」
しかし、メイドはそんなヴィノニスの姿勢に感情をあらわすことはなく、そのまま廊下を進み去ってしまった。
「どう?」
「うーん、匂いがきついよ……」
屋敷のガラス窓を拭きながら、テュリンとクレアはゆっくりと客室へと近づいていく。
「臭いって事?」
「違う違う。香水だと思うんだけど、何の匂いだろう。嗅いだことないんだよね」
テュリンの問いにクレアが答える。
クレアの【超嗅覚】が捉えるのは、子爵一行の残り香だった。
「そうなのね。私は何も感じないけど」
と、テュリンがスンスンと鼻を鳴らしてみるが、屋敷の木の香りに紛れ何も感じられない。
「前の関係者じゃないって事かしら?」
「ううん、たぶんあの時に居た人間がいる。この匂いのせいではっきりしたことは言えないけど」
「もう少し近づいてみないとダメって事ね。後は直接お顔を拝見」
「うん、そうなるね」
その機会はいずれやってくると信じ、二人は一旦その場を後にした。
各々が屋敷で新人メイド、執事となり時間を過ごす。そして、陽が傾き晩餐の時間となった――。
●
「これは素晴らしい料理の数々だ!」
目の前に並べられた料理の数々に、子爵は大仰に驚いて見せる。
「南部の特産品を集めましたの。お口にあえば嬉しいのですけど」
こちらも決まり文句の様に受け答えするカリン。
客は子爵だけだというのに、豪華な食事に彩られた晩餐は日没を待って始まった。
「ほぉ、では蜂蜜の生産量はかなりのものであると」
分厚い肉にナイフを当てながら、レベト伯爵が問いかける。
「ええ、十分な土地を買い上げ生産を行っておりますので、ご用命いただいただけ準備できるかと」
芳醇な香りを放つ南部産ワインを口に運び、子爵が答えた。
食事は笑い声と商談の続きを交えながらも和やかに進み、最後のデザートが運ばれてきた。
南部らしい色とりどりの果実が並ぶ中――。
「そうですわ、子爵様」
「どうなされました? カレトイセリア様」
カリンが子爵に声をかけた。
「よろしければ、あの蜂蜜をもう一舐めさせていただけないかしら?」
「ほう。それはどうして?」
「実は、このフルーツ、我が領地の特産なのですが、まだ熟すにはいささか早いのです」
「ふむ」
「それで、私思いつきましたの。子爵様の蜂蜜が合うのではないかって」
「おぉ、それはそれは。でしたら出さないわけにはまいりませんね」
と、子爵は指を鳴らし後ろに控える執事を呼ぶと蜂蜜を用意させる。
カリンは嬉しそうにそれを一匙掬うと、果実へとかけ口に運んだ。
「やっぱり、とてもおいしいですわ! 子爵様もお父様も是非っ!」
ぱっと瞳を輝かせ、カリンが美味そうに二口三口と口に運ぶ。
それを見た二人も同じように、蜂蜜付きの果実を口にした――。
●そんな晩餐の最中――
「しーしー! 静かにねー!」
不審者の登場にざわつく馬達をどーどーと宥めながら、ニーラは厩を行く。
「君達に危害は加えないからちょっと静かにしててねっ」
小声でそう言いながら、ニーラは厩の奥に止められた馬車を目指した。
「これが子爵の馬車かぁ。豪華ッ!」
遠目にもその華やかさは知れたが、実際に見て見れば流石貴族と感心してしまう。
しばらく羨望の眼差しで馬車を眺めていたニーラだったが、はっと我に返る。
「はっ! ダメダメ、見惚れてる場合じゃない。探さなきゃ――」
そう言ってニーラは馬車を探る。目的はここまで来た『証拠』。
王都から南部まではかなりの距離があり、その間に付着した土や植物がないか探しに来たのだ。
ニーラは車輪や車体、御者台等、至る所を調査していき、そして――。
「これって……赤土?」
車体の底でそれを発見した。
その土は車輪が跳ねた泥に隠されるように付着しており、随分と前からこびりついていた様にも見える。
「何か気になるなぁ……とりあえず持って帰って調べてもらおっと」
と、ニーラは車体の下へ潜り込むと、泥を避けこびりついた赤土を瓶へとこそげ落としていった。
そして、客室では――。
「――大丈夫、なにもなさそう」
【探波】で室内を探ったクレアが手招きする。
「開けるよ」
客室の重厚な扉がかすかな音を立てながら開かれる。
「うっ……」
「どうしたの?」
突然鼻を押さえたクレアに、同行していたヴィノニスが声をかけた。
「すごい匂い……」
「――確かに強い花の香りがするわね」
【超嗅覚】を持たないヴィノニスですらきついと感じるほどだ。嗅覚に優れるクレアにはつらいだろう。
「気分が悪いのでしたら、私達だけで探しますよ?」
そんなクレアを気遣い、クロウが手を差し伸べる。
「ありがとう、でも大丈夫、行くよ」
クロウの手を取りながら、鼻に布を当てたクレアは部屋へと潜入した。
3人は痕跡を残さぬよう、頭巾をかぶり手袋をはめ、室内を物色する。
「何か書類とかあればと思ったけど、無いなぁ……」
「例の蜂蜜もなさそうね。というか、荷物も何もないのだけど」
「……はい。こちらの箪笥にも何もかかっていない」
「まさか全部持ち歩いてるって事?」
「仮にも貴族を名乗るのです、それはさすがに……」
「単純に貴族じゃないって事なのかもね」
「……」
その後も時間いっぱいまで捜索するが手掛かりとなりそうなものは何も見つからなかった。
それ以上の収穫が無いと判断した3人は、やむなく客室を後にしたのだった――。
●
再びカリンの部屋に集合した冒険者達。
「少ないけれど、何とか手に入れたわ!」
カリンが取り出したのは、銀の匙。その先端にはわずかに蜜が残っていた。
「あの状況でよくお持ちくださいました」
同行していたリコリスがカリンに深く頭を下げる。
「お役に立てたかしら?」
と、カリンは嬉しそうに冒険者達へ笑顔を向けた。
わずかであるが得られた蜂蜜を一同は囲む。
「ちょっといいかな」
と、クレアが匙を覗き込むと、スンスンと鼻を鳴らす。
「……やっぱりだ。あの匂いがする」
それは子爵達4人。そして客室に充満していた濃い花の匂いだった。
「一応、気をつけてね。カリンお嬢様や子爵も口にしてたから毒じゃないと思うけど」
と、クレアは神妙な表情でリコリスに声をかける。
こくりと頷いたリコリスは僅かに匙に残った蜂蜜を一舐め――。
「これは……」
口の中を転がる甘みと香り。【薬学】と【超味覚】を駆使し、リコリスが蜂蜜を分析する。
「何か解る?」
カリンの問いにリコリスはゆっくりと口を開く。
「確かに蜂蜜です。それは間違いないです。毒では――」
ごくりと誰かの喉が鳴る。
「ない……とおもいます。少なくとも既存の毒では」
その言葉に、一同は互いに顔を見合わせた。
●
翌朝、朝食の用意ができたとテュリン、クロウの二人が客室へと訪れていた。
「お食事の準備が整いました」
ノックし、室内へと呼びかける。
「わかりました。少々お待ちを」
応対に出た執事が部屋の中へと戻り、主人である子爵に声をかけた。
(……ルーク? いったい誰の名だ?)
執事が子爵に声をかける一瞬見えた口元。動く唇を【読唇術】で呼んだクロウは、今まで聞いた事の名前を読み取る。
すぐに口元を隠され、会話までは読み取れなかったが、執事は確かに主人に対しそう呼んだ。
「すぐに準備をして伺います」
再び扉の前に戻ってきた執事は、二人にそう伝えた。
「かしこまりました。では給仕の者にそう伝え――あっ!」
恭しく礼をしたテュリンが引き返そうと足をもつれさせバランスを崩す。
「大丈夫ですか?」
「も、申し訳ありません。まだ……その、慣れないもので」
間一髪で執事に支えられるテュリンはそのまま抱きつくと、豊満な胸を押し付けうるんだ瞳で執事を見上げた。
「問題ありません。離れていただけますか?」
しかし、相手は動揺する事無く立ち上がり、テュリンの引き剥す。
「やっぱり」
「……何か仰いましたか」
起き上がったテュリンの小さな囁きに、執事が警戒の色を強めた。
間近に聞いたその声に、テュリンは確信する。そして――。
「あまり獣の様に目を光らせていると目立ちますよ、剣士様……」
離れ際にそう囁き、ドレスの裾を持ち恭しく頭を下げた。
「……失礼」
凍てつく様な冷たい声でそう反応した執事は、二人をねめつけるとドアを閉めた――。
●
「フロイゲン子爵様!?」
「申し訳ありません、カレトイセリア様。急な呼び出しが入ってしまいました」
馬車のステップに足を掛けながら、子爵は恭しく礼をする。
「そんな、もう少しゆっくりとお話しできるかと思っておりましたのに……」
そんな子爵を本当に残念そうに見つめるカリンに対し――。
「私も残念でしたかがありません。お父上には商談の件はまた改めてとお伝えください」
フロイゲンは事務的なセリフを吐き、カリンの耳元に顔を寄せる。
「どうか――お体にはお気をつけて」
そして、凍える様な低音でそう囁いた子爵は馬車へと乗り込んだ。
「行け」
呆然とするカリンを一瞥する子爵の命で、馬に鞭が入れられたのだった――。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:多い6 / 4〜6人
2020年11月24日 15時22分49秒 公開
相談掲示板
キャスターのニーラ・メッコです。 よろしくね!
※RPの都合上、「クロウ」という偽名を使い女であることを隠しています。 ウォーリアのクロウです。よろしくお願いします。 OPの様子からすると、お屋敷に来たフロイゲン子爵は偽者で、牢の中に居た男が本当のフロイゲン子爵だという可能性があるのでしょうか。 目的が気になりますが、売り込んでいた蜂蜜に何か裏があると思っています。 (余談ですが、「執事」になるのは私だけになりそうですね…。)
テュリン・ヴィングよ。今回はよろしくね それにしても、蜂蜜の売り込みか…。どうもそれだけではなさそうな気がしないわね。 何にせよ、相手が以前の依頼での連中なら、厄介な事になるのは間違いないかな。 その辺りも含めて調べてみないとね。
キャスターのリコリス・アデュラリアと申します。 ……よろしくお願いします。 子爵や執事に関しては、面識がある方は直接顔を合わせるのは避けた方が良いでしょうね。 令嬢の協力が得られるのであれば、例えば部屋の探索なら 令嬢にお茶に誘うなりして頂いている間、清掃の仕事という名目で出来そうですね。
調査として出来る事は多そうですが、私はスキル「読唇術」を持って行き、子爵と執事・メイドとの会話をこっそりと覗いてみようかと思います。 そういえば、デュリン様とクレア様は以前の依頼に参加されていたのですよね。 相手に面が割れているのなら、何か対策をした方が良いかもしれませんが…。
シーフのクレアだよ、よろしくね! フロイゲン子爵は成り代わられている可能性が高くて、その執事やメイドも含めてキリコの時計関係者っぽいってことだよね。 この前の潜入捜査の時に遭った冒険者崩れの奴が混じってたらボクやテュリンさんは変装したり、存在感を消してモブになりきった方が良さそうだ。 ただ多分洞察や看破使ってきそうだし、真正面から対峙するとバレそうなのがこわいところ。 一応ボクは直接かち合わない様な立ち回りをする予定ー。 リコリスさんの言うようにカリンお嬢様に子爵を連れ出して貰えると助かるね。従者たちも一緒に行動してくれればこっちは動きやすいけど、きっとそううまくはいかないよねぇ……。
ヴィノニスよ。よろしくお願いするわ。 全員が全員、直接的に子爵その人や所持品を調査するのは危険が高そうね? 子爵や執事、メイドを物理的・時間的に拘束しつつ、他のメンバーが調査する隙を作る必要があるんじゃないかしら……というか、人数的に向こうが4人いるならそっちの動きが主体かしらね 子爵(仮)が子爵として振る舞うならお付きもそれなりに動くでしょうし、対峙って感じじゃなくとも付き人3人はあまり動き回らせないように仕事を振ることは出来そうな気がするわ
先ず、今回の行動の方針を決定する必要がありますね。 具体的には調査のみ行うのか。 それとも、得た情報を元に何かしらの行動を起こすのか、ですね。 極端な話、自称子爵を糾弾し、捕縛するなり追い出すなりする、といったところですが。 私は、基本的には情報収集に徹する方向で良いかと考えています。 ただ場合によっては今後の事を考え、令嬢の更なる協力が必要になる、とも。 例えば、私は件の蜂蜜を入手し、情報機関に渡せるようにするつもりですが。 同時に薬学と超味覚で毒性の有無も確認し、もし何かしらの毒性が有った場合 流通を出来るだけ引き延ばして頂く必要があるでしょう。
私としては、調査を主軸にしつつ、相手の出方をある程度読んでカマをかける形かな?とは考えてるわね。 相手が何も「起こさず」にいるなら、調査のみに徹するでもいいけど、ただ私やクレアがいるからね。向こうが私達に気付けば、何かしらの行動を取る筈と踏んでる。 なので、私も基本的には直接かち合わない様には立ち回るかな?ただ、相手に認識される事も念頭に入れて動くつもりでもいるよ。何かと勘の鋭そうなのが向こうには居るみたいだからね。 あと、リコリスが言うように今後を考えて協力を取り付けていくのは有りだと思うわよ。
今回の依頼は情報を集めろだから方針的には調査に徹するで良いと思ってるよー。 ただこっそり動くだけじゃなくて、テュリンさんの言うような相手方の反応を引き出す感じの攻めの姿勢をとる人もいて良いと思うんだよね。 簡単に尻尾は掴ませてくれないだろうし、尻尾を出させるような行動を取れたら良いんだけど。
そうですね……基本的な点を押さえていれば 確かに全員が同じ方向性で動く必要はありませんね。 あと、不測の事態に備えるのであれば最低でも令嬢と伯爵は 共に居るのが自称子爵とその連れだけ、という状態にならないようにする必要があるかと。 情報収集で思い付いたのだと、慎重な者は重要な物は自分の目に届く場所に置くでしょうから 事故を装って水か茶で服を濡らせて、着替えさせるのも良いかもしれませんね。 染みになる前に洗うと服一式を預かれば、何か隠し持った物が出てくるかもしれません。 蜂蜜回収に関してはこのまま異論が無ければ私が担当しますが 方法としては、令嬢にも予め口裏を合わせて頂き 蜂蜜を流通させるのなら、同時にそれに合う料理も紹介した方が流通しやすいという名目で 屋敷の料理人が料理の研究をする為、いくつか購入させて欲しいと切り出すつもりです。
Q: 所長は毒の事で引っ掛かり今回の件を依頼したようですが 具体的には、どのような点で引っかかったのでしょうか? それと、フロイゲン子爵の個人情報も可能な範囲内で教えて頂けないでしょうか。 特に家族構成と、使用人のおおまかな人数、交友関係の広さも。 率直に言えば、継続的に成り代わるのが容易い環境である人物であるか、ですね。
ご質問ありがとうございます。答えしますね。 Q:所長は毒の事で引っ掛かり今回の件を依頼したようですが 具体的には、どのような点で引っかかったのでしょうか? A:ドルトレス所長から詳しい内容はお聞きしていないので推測にはなりますが、所長は部下と冒険者からの報告書を見比べて、現在王国で活動中のフロイゲン子爵は偽物で、先日の依頼で発見された牢に囚われている貴族風の男こそが本物のフロイゲン子爵ではないかと思っているのではないでしょうか。 毒を用いれば牢に囚われていた男の症状にも説明がつくかもしれないとの推測から今回の調査の依頼を出したのだと思われます。 Q:フロイゲン子爵に関する情報 A:フロイゲン子爵は王国の子爵位にある青年で、現在28歳。前子爵夫妻(両親)はすでになく、兄弟もなし。自身も独身だそうです。 領地などは持っておらず、王都に屋敷を構えていますね。 使用人の数まではわかりませんが、貴族ですので沢山いるのではないでしょうか。 交友関係はどうでしょう。こればかりはご本人に聞いてみないと何とも言えませんが、王国貴族ですので、貴族の付き合い的なものは十分に考えられます。社交界で交友を広めるのも貴族の務めのようですので。 成り代わりが可能かどうかは、ごめんなさい、私では判断しかねますね。 以上です。参考になれば幸いです!
ホリーさんは情報ありがとう。 私はメイドの仕事をしながら子爵と付き人達を観察しているよ。 なにか気になった事があればギルドに報告するよ。 メイドの仕事で子爵に近付く機会もあるだろうし。
ホリー、回答感謝します。充分に参考になりました。 >フロイゲン子爵 全てのものを盗む、つまり人生すらも盗む場合もあるのかと思いましたが 今回は成り代わったというよりは レベト伯爵家を始めとした標的と接触する為に一時的に名前を騙っているようですね。 これは推測になりますが、本物の子爵は毒を盛られるなりし 治療の為の隔離という名目で囚われている可能性がありますね。 家族が居ないのであれば、面会を求める者は少ないでしょう。 感染性があると説明し、予め治療にかかりそうな期間を言っておけば 友人も訊ねてくる事も無いでしょうし。 >分担 そろそろ、調査する対象の分担を行いたいところですね。 対象によっては複数で対応し、誰かが引き付けたりする必要があるでしょうし。 あとは、伯爵と令嬢の護衛についても。
まぁ、簡単に尻尾を掴ませてくれるような相手とは思ってないけど、向こうがやりそうな事を自分なりに考えながらやってみようかしらね。 私としては、相手側の執事を調べてみようと考えてるかな。何となく…というとあれだけど、引っ掛かるものがあるからね。
伯爵とカリン様の護衛は傍に付き添える人向きなんだけど、立候補いなければボクやるよー。 蜂蜜、中毒性のあるものだったら嫌だなぁってことでリコリスさんが回収してくれるならお任せするね。 ボクは使用人たちから情報収集しつつ、客人の部屋を掃除がてら探るつもり。 掃除希望者が他にいれば別の日とかずらして対応しようかな。
私は屋敷の仕事をしながら、子爵と執事・メイドの様子を探る感じになると思います。 チャンスがあれば滞在している部屋の中も探りたいですね。
>子爵や周囲の調査 個人を調査するのは好きなタイミングで問題無いと思いますが 部屋の場合は具体的にはいつ調べるのか、決定しておく必要があるでしょうね。 蜂蜜を利用した料理の試食という名目で 二日目の昼に立食式の試食会を令嬢に提案して頂く予定なので その時なら、彼らの部屋の調査もしやすいのではないでしょうか。 多くの者の意見を求めたいという事で、執事とメイド達にも参加して貰うつもりですし。 ついでに試食会の終盤、令嬢には子爵の服を茶か何かで汚して頂き 洗濯の名目で服を回収及び所持品の調査が出来ればと思います。 あと、試食会が終わりそうな頃に部屋の調査の終了という事で それを知らせて頂ける方が必要となるでしょうね。 >護衛 他に担当する仕事が出来なければ 空いた時間に担当する事は可能です。 あと、有事の際の合図も決定しておきたいですね。 購入出来る道具で使えそうな物はありませんが……。 ただ、戦闘になればその音で分かりそうな気もします。
とりあえず、叩き台として作戦予定の纏めを作成しました。 いくつか担当する仕事の立候補はありましたが まだいつ行うかは決定していない為、私の物以外は敢えて記載していません。 自身の発言ついでに、これに追記をしても良いですし あとからで良ければ私が改めて纏める事も可能です。 【作戦予定纏め】 ◆一日目昼(令嬢護衛: 伯爵護衛:) フロイゲン子爵、到着 子爵が蜂蜜を伯爵家に披露 ≪リコリス≫令嬢と共に蜂蜜を利用した料理作りを提案(蜂蜜をこの時に入手予定) ◆一日目夜(令嬢護衛: 伯爵護衛:) 無し ◆二日目朝(令嬢護衛: 伯爵護衛:) 無し ◆二日目昼(令嬢護衛:リコリス 伯爵護衛:) ≪リコリス≫昼過ぎに蜂蜜を使用した料理の立食式の試食会開始 ≪リコリス≫試食会の終わり頃、令嬢に子爵の服に紅茶を溢して貰う(洗濯の名目で服を回収及び所持品調査) ◆二日目夜(令嬢護衛: 伯爵護衛:) 無し ◆三日目朝(令嬢護衛: 伯爵護衛:) 無し ◆三日目昼(令嬢護衛: 伯爵護衛:) フロイゲン子爵、昼過ぎに出発予定
Q: 質問、というよりは確認となりますが。 子爵到着時点で、既に私達は潜入をしているという認識で良いでしょうか? そして子爵到着前に、口裏や話を合わせて欲しいといった簡単なお願いを 事前に令嬢に行う事は可能でしょうか?
解説にあった馬車も調べてみようと思ってるよ。 表向きは清掃作業ってことで、念のため子爵たちが屋敷の別の場所にいる事を確認した上で、 馬車を調べたり、滞在中の部屋を調べたり? あとは、給仕として食事の際に子爵たちの様子を伺ったりとか。
はいっ、ご質問ありがとうございます。 お答えしますね。 Q:子爵到着時点で、既に私達は潜入をしているという認識で良いでしょうか? A:はい、それの認識で間違いありません。 Q:子爵到着前に、口裏や話を合わせて欲しいといった簡単なお願いを事前に令嬢に行う事は可能でしょうか? A:はい、こちらも可能です。カレトイセリア様はとても協力的でいらっしゃるので、実行可能な内容であれば喜んでご協力してくださると思いますよ。 以上になります。お役に立てれば幸いです。
じゃあお部屋を検めるのは二日目の昼かなー。 あとボクが対応できるとしたら二日目夜、巡視ってことでお嬢様と伯爵の護衛を兼ねるね。 そんな感じでボクの動きは2日目を中心に組む予定。 有事の際は声をあげた方が他の使用人さん達も駆けつけてくれるだろうし、ボク達だけで対処するよりいっかなーって思ったよ。 内密の話はテレパス使うといいと思うけど、ボクは今回持っていけないかんじ。代わりに別場所で動いてる人と何か共有したいことがあれば、こっそり擦れ違いざまに手紙とか回すかも。
それじゃあ、私が執事に仕掛けるのは二日目の朝辺りにしてみようかしらね。まぁ、何事も無いならその時はその時でだし、仕掛けるといってもそんな大した事ではないけどね。 後は昼頃に執事の部屋を調べてみようかしら。
ホリー、再度の回答感謝します。 これで私の動きを詰める事が出来ます。 連絡方法ですが、恐らく私達は使用人の部屋を与えられてると思うので 急ぎでなければそちらに予め決めた場所にメモを残すなりすれば伝わりそうですね。 緊急時はクレアの言うように直接手紙を渡した方が良さそうですが。 残り時間的に、具体的な宣言が無い分を考慮しても これ以上は流れを詰める事は難しそうなので あとは各自で臨機応変に、という事で。