【燃纛】影人征伐
望月誠司
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シナリオID:105
オープニング
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――アルサーラムに旗はまだ立っているか?
過日、帝国弓騎兵ツェツィーリア・クラインは、四人の冒険者達と共にヴァイセントラフ砦から物資を満載した荷馬を引きつれ旅だった。
砂煙が吹きすさぶ荒野にて、アルサーラムの町の御伽噺に出て来る、伝承の悪鬼達からの襲撃を受けるも、護衛の冒険者たちの奮戦により撃退し、物資を守り抜く事に成功する。
そうして荷馬隊と共にアルサーラムの町付近まで帰ってきた時、彼女の胸中をそんな疑問がよぎった。
――ああ。
目視できる距離まで近づいた時、ツェツィーリアは胸をなでおろした。
アルサーラムの町旗とシルトラース帝国の旗が、郭壁の上で陽の光を浴びながら鮮やかにはためいていたからだ。
町がクリーパーに呑まれていれば、旗も無事には立ってはいられない。
――良かった。故郷はまだ滅んでいない。
十中八、九、クリーパーの群れの襲撃を受けた筈だが、どうやら町の守兵達は仕事を果たした。かつての聖騎士は誓いを守ったようだ。
「開門! 開門ー!!」
「ツェツィが帰ってきたぞーーーっ!!」
郭壁の門が開き、荷駄隊と共に町に入ると、町の人々の歓声が出迎えてくれた。
駆け寄ってきた町の子供たちに囲まれながら、
(帰ってきたのだな)
と女兵士は思った。
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「澱より這い出し者どもを操っている何者か、というのは存在すると思うか?」
町囲む郭壁より伸びる塔の上、地平を睨んでいた痩せた壮年男が振り向いて、そう尋ねて来た。
「クリーパーの知性は低いです、普通は。彼等は人間のような社会を作らない、普通は」
「まぁ今、この国で起こってる事態はどう見積もっても普通じゃねぇわな」
ツェツィの返答にガリガリと傭兵隊長レイズは頭を書きながらぼやくように言う。
「ですが、考慮には入れておくべきですが、まずは普通を想定して、あたるべきです。普通は普通だから普通であって、非常は非常である故に非常であります」
「なるほど、ごもっとも……」
レイズは頷いた。
「まぁ何かに操られた群れであろうが、単なる野生動物や蟲の群れみたいなもんだろうが、町の近くで群れられているなら、いずれにせよ、撃滅せにゃならん」
「……いるのでありますか? 近くに?」
「先日、人の影みたいなクリーパーが町を襲ってきたって話は聞いてるな?」
ツェツィは頷いた。彼女が留守の間にやはり町は襲撃を受けていた。一時危うい場面もあったが、遊撃隊の冒険者達の活躍もあり、なんとか撃退する事に成功したらしい。
「アルサーラムの町から少し離れた場所には森がある。斥候からの報告によれば、あの時退いていった影人達は今、その森の中に居る。おそらく、あそこは他より若干エーテル濃度が高いんだろうな。昔からあの森は実りが豊かだった」
この、かつて上官をぶん殴って騎士修道会を除籍され諸国を巡る傭兵隊長に成り果てたという男も、アルサーラム出身の人間だ。周辺の地理には詳しい。
「お前さんが砦から貰って来てくれた物資のおかげで当座は凌げている。だが、当座は凌げているが、あくまで当座だ。長い冬を越すとなると、十分な量じゃない」
それはそうだろう、とツェツィは頷いた。
小さくても町は町だ。多くの人々が生活している。
「特にこれから量が必要になるのは燃料だ。アルサーラムの冬は冷えるからな……暖を取るにはやはり火だ。つまり、燃やすものが必要になる。薪だ」
そして、その薪が取れる森は今、先日の影人達が逃げ込んだ為、占拠されている。
「そう。お前さん達が運んできてくれた物資を町の連中に配ったから、今の所は無謀な行動は抑えられちゃいる。だが、これが長く続いて物が欠乏して来ると、わからなくなる。何人かは森に薪を取りにいっちまうだろう。実際そうしなきゃ何人かは凍死するはめになるからな。かといって森にいっても、二割か三割か十割かは知らんが、そいつらは大体クリーパーに喰われて死ぬんだ」
よくある話だ。そういうのは。
「そうなるってわかりきってんだから、防がなきゃならん。その為の手を先んじて打つ。森を占拠する影人達の群れを征伐し、冬の火を取り返す」
征伐。
腐っても聖騎士か、と兵士は思った。きょうび、お偉いや神の徒達でもなければそういう言い方はしない。
「近々、討伐隊を編成する。だが、先に飛ばした斥候からの報告によれば、森の影人達の中には特異個体が発生しているらしい」
人を、エーテルを喰らって能力を向上させたのかもしれん、と彼は言った。
「この特異個体はえらい機動力が高い上に手強いらしい。偵察に送った連中は手練の騎兵だったが、追いかけられて逃げ損ない二人やられた。森に籠る影人達から森を取り返す為には、森に踏み込まなけりゃならん。だが、この機動力の高い連中を自由にさせたまま、踏み込めば、討伐隊には大きな被害が出るだろう」
アルサーラムの兵の大多数は授恵者では無い。一般の影人相手でも苦労するのに、さらに強力な特異個体などが相手となったら歯が立たないだろう。一方的に斬殺されるだけだ。
「そこで俺は考えた。
斥候からの報告によれば連中は侵入してきた人間達を追い回す。
ならば、まずは囮を送り込んでから退かせ、特異個体達を森の外まで釣り出し、そこへ特別に編成した精鋭隊をぶつける。
敵の通常個体、いわゆる本隊達も遅れて追って来るだろうが、これにはこちらも本隊が森へと踏み入って対応する。
そうして別個に叩けば、普通にごちゃ混ぜであたるより、被害を抑えて勝てるんじゃないか? とな」
なるほど、悪くない作戦かもしれない、とツェツィは思った。
その囮になる人間というのはご愁傷様だったが。
誰がその役割をやるのかは知らないが。
嫌な予感はしてたんだ。
「この囮を無事にこなす為に必要なのは――機動力だ」
「すいません、ちょっと急な腹痛がアーリーストリームにて、自分はこれにて失礼……」
「まぁ聞けよ」
ガシッと肩を掴まれた。
「お前、騎兵だろ? しかも重騎じゃなく機動射撃がウリの軽弓騎兵だ。足が……速いじゃないか……! さらには伝説の悪鬼まで退治した腕利きと来る!」
「それ自分はほとんど何もしてないであります! ほっとんど冒険者さん達がやってくれたのでありますっ!! マジでっ!!!!」
「頼むよツェッツィー。俺とお前の仲じゃないか」
「自分とアンタがいつどんな仲になったってんだあっ!!」
ツェツィは叫んだ。手足をバタバタと動かし逃げようとする、しかし、逃げられない。
ああ、わざわざ名指しで呼び出された時点で、嫌な予感は、してたのだ。
●
冬の足音を間近に聞く森は、すっかりその葉を落として、荒涼たる様を見せていた。
無骨な太い幹が立ち並び、人の頭よりも高い位置から無数の枝が槍のように伸びている。
貴方達が森に踏み込むと、幹の陰や灌木の奥からわらわらと黒い人影が姿を現した。中にはヤモリのように張り付いて、樹木の高い所に登っているものもいる。
特異個体は赤色をしているとの事だったが、ツェツィーリアは上手くやったらしく、赤色の影の姿は見える範囲になかった。ここにいるのは通常個体のみだ。
鉄帽子をかぶった壮年の傭兵隊長が、抜き身の長剣を振り下ろす。
「突・撃ッ!!」
気合の声をあげ、兵士達が森中へと雪崩れ込んでいった。
解説
マスターより
リプレイ
涙の一つも出てこない。
だが、何となく足元の定まらない居心地の悪い感覚に付き纏われていた。
彼女が帝国領の依頼を態々受けたのは、帝国の授恵者が活躍すればレイウェスト殿下の後押しに少しでもなるのでは、という思いからだった。
アルサーラムの夜の町。
「……祖国の受難に立ち合えなかったのは無念であるが、その場に居れば何か出来た筈と思うのもまた傲慢であろうな」
やはり帝都は滅んだらしい。王国で得られた情報と大差はなかった。
ウルードは嘆息し、会話に応じてくれた兵達とそれからも数語言葉をかわし、次の戦の勝利を共に約束し合ってから、その場を立ち去った。
●
冬を間近に控えた森中に兵達の鬨の声が轟いている。
彼等は一部を残し、途中で中央より二手に別れ、鳥の翼のように広がっていた。
何故か?
「――皆さんの損耗は抑えたいんです。アルサーラムの町は一時的な防衛だけでなく、維持する事も必要ですから」
出撃前の軍議にて、ハリス・アル・ターミルが傭兵隊長へとそう具申していたからだ。
「我々が前線に立ちます。皆様も何卒、お力添えを」
「お力添えだと?」
壮年の傭兵隊長は眉を顰めハリスを見上げた。
「それは俺達が力を添えるとは言わない。俺達がお前達を盾にすると言うんだ。割に合わねぇぞ。良いのか?」
「ええ、ツェツィーリア殿よりはマシでしょう?」
リザードマンは穏やかに笑った。
「あいつは地元民で兵士だが……なるほど、俺が言えた台詞ではない」
レイズは嘆息した。
「……そうさせて貰えるってんなら大いに助かる。それで良いってんなら、遠慮はしねぇ、盾にさせて貰おう。報酬を割り増しにするくらいしか出来んが……お前ら、よろしく頼む。くたばるなよ」
――そんなやり取りがあった為、中央最前に残った八人の冒険者目掛けて、五十を超える影人達が殺到して来る。
「わー! すごい数だね!」
山羊の下半身を持つ快活な娘、トゥーリが黒い影人達の群れに目を瞠る。
「件の赤い特異個体とやらの姿は見えませんな」
迫る黒き津波を睥睨しつつウルード。
「アッチは上手く仕事したみたいだね」
不気味な動物の頭蓋骨を頭に被った長身の男が、戦槌を身体の前でグルグルと旋回させながら軽い調子で頷いた。武器の扱いがどこか手慣れている。
ヨル・スレイマンだ。
体躯に刻まれた無数の傷跡といい、どこか謎めいた男である。
「んなら後はこっちが頑張る番かな」
「ええ、ここで間違いなく叩いて、森を解放しましょう」
黒髪の少女、ミツキ・アインホルンが決意を秘めた表情で頷く。
「いよいよ戦闘開始だね!」
ストロベリーブロンドの美少女――ではなく美少年、エルゼリオ・レイノーラが言って、
「やぁってやるぜ!!」
王国の片田舎から出て来た若き青年アレン・ボールドウィンが、槍を風車の如く回転させ構えた。
彼には野望がある。
故郷の村の為、成り上がって世界に名を轟かす為、是非とも手柄は欲しい所だ。
「速く走り! 速く穿ち! 速く勝ーつ!!」
Octavia・Aureusもまた気合を入れている。森林内での戦闘は十八番だ。
「見境なく人々を襲うクリーパーと同じ天を戴く事は出来ません」
ハリスが槍と鉄盾を手に言った。
「人々がこれ以上苦しめられぬよう、ここで殲滅します――いきましょう!」
リザードマンの男が槍を振り上げ、駆け出す。
「少しでも早く倒して、みんなが薪を取れるようにしないとね!」
トゥーリが頷いて駆け出し、ハリスに続く。迫る冬の足音が山羊身の彼女の耳にも聞こえていた。
「んじゃあ皆へ神の加護があるように⋯⋯気持ち程度だけどね! 無いよりはマシさぁ!」
ヨルの声が響き、エーテルが次々に飛んだ。前衛達の脚部が淡い光に包まれてゆく。
冒険者達が駆け、黒い津波達が押し寄せて来る。
激突が迫る今、ミツキの脳裏を咄嗟によぎったのは、帝国崩壊時に散っていった仲間達の姿だった。
かつて、ミツキは孤児であった。帝国の女軍人に拾われ家族の一員となり、成長してからは彼女の部隊に所属していた。
(――私の力が足りなかった。そのために皆、死んでしまって、民達を追い込んでしまった)
あの時のお返しをするため、クリーパーは倒す。
あの時の二の舞にしないため、皆は無事に返す。
あの時と違う結末を得るため、森は取り返す。
「今度は全てを守りきる……!」
黒髪の少女は手に持つ長杖を強く握り締めた。
呪を唱えて振るい地の一点を指し示す。
刹那、指定点に光が生まれた。急速に膨れあがってゆく。光の静止領域、スタティックフィールドだ。
巨大なドーム状に広がった光は、黒い影達を次々に呑み込んで、駆ける影人達の動きを急激に鈍らせてゆく。
さらに、ミツキは連続して杖を振るって、並ぶようにもう一つの輝くエーテル領域を出現させた。
収束した光は次の瞬間、小さな氷粒の群れへと転化し、猛烈な嵐となって荒れ狂った。
黒影人達が逆巻く氷の嵐に斬り刻まれ、次々に真っ赤な血飛沫を噴き上げながら倒れてゆく。
「ひゃー! 派手だな! ヨル! 頼むよー!!」
身長100cm、ハーフリングとしてもとりわけ矮躯な少女が、ヨルが担いでいる槌の上に飛び乗った。
「よしきた!」
ヨルはオクタヴィアに輝足をかけると、
「――飛びなァっ!!」
身を捻り回転しながら遠心力を使ってフルスイングした。
投石器から放たれる石弾の如く、輝くハーフリングの少女が空へと向かって勢いよく射出される。
オクタヴィアは、投げ飛ばされると同時にエーテル全開に解放した。
「バモス、プルス・ウルトラーッ!!!!」
爆発的に噴出されたエーテルが推進力となって、宙に舞い上がった小柄なハーフリングをさらに加速させ、さらなる高みへと押し上げてゆく。
爆風が唸った。
地面が遠くなって高い所、ハーフリングの少女がくるくると回転しながら放物線を描いて、やがてダンッ! と鈍い音をたてながら樹の幹に足裏から激突した。
垂直の”着地”だったが、重力を無視しているかのように、幹に張り付いて落下しない。
樹上のオクタヴィアは間髪入れずに黒曜石の短剣を振るい、高所に張り付いている黒影人の頭部の宝玉を叩き割る。
幹に張り付いていた黒影人が力を失い、地上へと落下してゆく。
「いくぜぇえ!!」
地上、アレンは攻撃に意識を集中させるとエーテルを全開に解放、槍を全力で一閃した。
黒曜石の槍が描いた半月の軌跡から巨大な衝撃波が巻き起こる。
高めを狙って放たれた波動が空間を突き抜け、迫り来ていた黒影人達の額宝玉を砕いた。影人達が次々に吹き飛ばされてゆく。
「攻撃が最大の防御だぜ!」
寄せられる前に叩き潰す。
青年は槍を風車の如くに振り回して衝撃波をさらに放った。
「これが弱点なんだっけ?」
陽動に務めるトゥーリは突撃しつつ、振るわれる黒い刃嵐を掻い潜って踏み込み、影人の額へと向かって短い剣を突き出した。
閃いた切っ先と赤宝玉が激突し、澄んだ音と共に宝玉を砕かれ影人が仰向けに倒れてゆく。
間髪入れず別の影人達が前後左右より群がり飛び掛かって来るが、
「ワタシは捕まらないよっ」
光り輝く山羊の脚を軽快に動かして機動、双角の少女は鮮やかにステップし、短剣を振るっては打ち払い、ことごとくの斬撃を回避してゆく。
輝足の援護を受けて回避に集中しているトゥーリは今、凄まじく速かった。
「輝け、ボクのエーテル!」
駆けるエルゼリオの棍にエーテルが収束した。
身の丈を超える長さの硬棒が光に包み込まれ輝き出してゆく。
「かかって来い!」
エルゼリオは影人達を挑発するように輝く棍を大きく振り回した。
影人達が腕を刃に変化させ、黒い旋風と化し次々に少年へと飛び掛かかってゆく。
伸縮しながら鞭の如く振るわれる刃を、桃色の髪の少年は冷静に間合いを見定めて上体を反らしてかわし、棍で払い、光を纏って胸当てで受けながら後退し、棍を旋回させ突き返す。
影人達をなるべく樹木の少ない地点へと誘導してゆく。
「――これなるは大地より奔るエーテルの楔。逃れる術はなし!」
黒い影人達がエルゼリオらによって寄せられて来ると、ハリスは槍の石突を大地に突き立て吼えた。
リザードマンの大男の周囲空間に不可視のエーテルが張り巡らされてゆく。
瞬間、影人達は電流でも流し込まれたかのように一斉に反応した。
範囲内の何体かは猛火から逃れんとする鼠のように踵を返して逃走せんとし、間近の何体かは逆にハリスへと向かい猛突撃してくる。
吹きつける黒刃の嵐をリザードマンの大男は甲冑の装甲で意に返さず弾き飛ばしながら、槍の穂先より輝くエーテルの刃を爆発的に噴出させ、大きく振りかぶった。
「皆さん伏せて!! はああぁッ!!!!」
槍光の巨大刃が回転するように水平に一閃された。
光の巨大な旋風が空間を断裂する。
光刃の通り道にいた黒影の数体が額の宝石を砕かれて吹き飛び、数体が頭部を両断されて倒れ、光の刃は細い幹を両断して抜け、太い幹に激突して止まった。
樹木がメキメキと雷鳴のような音を発しながら圧し折れ、倒れてゆく。
ハリスの周囲の、飛び掛かってきた黒影達は全滅し、逃れんとした者も多くは脱出できずに薙ぎ倒されていた。
ただ、数体は、エーテルの糸を振りほどいて範囲外へと逃げおおせたようだ。
しかし、
「Ahhhhhh!!! 殲滅! 殲滅!!」
逃れた影人達へと、不気味な動物の頭蓋骨をかぶった長身の男――ヨルが雄叫びを上げて突撃し、追いすがって光のハンマーを振り下ろし爆砕してゆく。
ウルードもまた踏み込んで棍を突き出し、影人の赤宝玉を突き砕く。
彼女はレイウェストの為にこの戦いに参加したのだったが、それと同時に別の理由もあった。
――まだ『帝国は存在している』という実感を、自分自身が持ちたかったのだ。
(……『帝国は揺るぎなく在る』という思い込みに、私は寄りかかっていたのだろうか)
棍を振るいながら女は自問する。
ウルードは逸れ者。
変わり者のリザードマン。
だが、その思い込みに寄りかかっていられたからこそ、安心して逸れていられた。
結局の所、他のリザードマン達と変わらない程度には帰属意識を祖国へと持ち合わせていたのだ。
(――愚か)
彼女は己自身をそう断じた。
自身を叱咤し、意識を戦場へと引き戻す。
戦いはまだ続いている。
踏み込んできた影人の斬撃を棍で受け流し、反撃に一閃してその頭部を打ち砕く。
「臣民に仇為す物は消え去るがよい。これ以上征竜様の盾を薄くしてたまるものか」
眼鏡をかけた女リザードは棍を再び構え直した。
●
「一匹も逃がさないわ」
空間が軋む音と共にミツキの周囲に無数の輝く光が出現する。
黒髪の少女が長杖を振るうと光弾は星となって流れ、次々に群がる影人達を撃ち抜き吹き飛ばしてゆく。
優勢に活気づいてアルサーラムの兵達が両翼を閉じるように前進してくる。
「させねぇよ!!」
民兵の一人が迂闊に突出して影人に絡まれたのを目撃したアレンは、加速して間に入ると黒刃を甲冑で受け止めた。
槍に光塊を宿し振りかぶる。
「――守れる奴を守り切れねぇんじゃカッコ悪ィもんな!」
勇敢な守り人は、吼え声をあげると共に槍を一閃。旋回した光に影人達が額の宝玉を叩き割られ、薙ぎ倒されてゆく。
「古より伝わる万能言語にて我は宣言する。――幽世の住人、滅すべし……!」
エルゼリオは祭刀に持ち替えて刀身を眩く光輝かせると踏み込み、鋭く突き込んだ。
破砕音をあげて額の宝玉が割れ、黒い影人が仰向けに倒れてゆく。
一撃を放った後に少年はすぐに一歩を退き、構え直す。
「コロノスさまのご加護をくらえっ!」
トゥーリは素早く黒影人へと踏み込むと、拳を固めて振り抜いた。
宝玉にインパクトした瞬間、魔矢の光が拳から解き放たれ、頭部を吹っ飛ばされた影人が転がってゆく。
林立する樹木の上ではオクタヴィアが風の如く跳び回りながら短剣を振るい、光の矢を飛ばし、影人達を地上へと次々に叩き落としていた。
「はーーー!!! 多かったけど!! 案外サクサク減るもんだねぇ!」
声を張り上げ周囲の敵を威嚇しつつ輝くハンマーで敵の頭を粉砕し続けていたヨルが感心したように声をあげた。
周囲の敵影が既にかなり減ってきていたからだ。
ミツキの範囲魔法が猛威を振るっていたし、アレンの衝撃波も一気にかなりの数を薙ぎ倒すし、そしてハリスが光で形成された長大な槍刃を嵐の如く一刹那の間に振るい(回転斬りは樹木にあたるのでやめた)夥しい数の影人が瞬く間に斬殺されてゆくのである。
さらには鶴翼に広がったアルサーラム兵達も側面より槍や弓などで支援している。
敵が減るのも速いというものだった。
冒険者達の猛攻の前にサクサクと影人達は討ち減らされてゆき、ついには包囲され最後の一体となった影人へと、樹木の枝上から飛び降りて来たオクタヴィアが、エアーライドで縦回転しながら急降下しつつ脳天にカカト落としを叩き込んだ。
この一撃に最後の影人がよろめいた所を、エルゼリオが祭刀を突き込んで宝玉を割り仕留め、一同は影人達を完全に殲滅したのだった。
戦後、
「皆、お疲れ様。圧勝だった、さすがだわ」
ミツキは仲間達を労い、その勇猛な戦働きに対し敬意を以って称えた。
今回は、文字通りのすべてを守り切る事が出来た。
戦死者ゼロだ。
これくらいの規模の戦になれば、人が死ぬのは常識だったから、異例の結果といって良かった。
「そういえば、特異個体の方ってどうなったのかな? ツェツィーリアさん達は大丈夫かな……」
トゥーリは森中を見回った。
ざっと彼女が見回った範囲だと特に気になる点は無かった。普通よりちょっと豊かな森かもしれない、程度である。
トゥーリが後で再び本隊へと合流すると、ツェツィ達も帰ってきていて、その無事が確認された。釣り出しも上手くやったが、殲滅までも上手くやったらしい。
他方、
「街の人達が冬を越すには森の資源が絶対に必要だからね」
エルゼリオは兵達と共に薙ぎ倒された樹木回収の為の下準備を進めておいた。
エルゼリオとしては樹々の被害状況が気になったのだが、兵達曰く「樵する手間が省けたよ」との事だった。これくらいなら問題はなさそうだ。
後で町民達が兵の護衛の下、街へと運び込む事だろう。
ウルードは顔見知りになった兵達と再会し、互いに生き残った事を喜んだ。
そして彼女は思った。
帝国は滅んだと人は言う、だが、この町もまた帝国であると。
滅びの淵にあっても、この町は確かにまだ生き残っているのだと――
かくて、森の奪還戦はアルサーラム兵への被害すら無しに圧勝に終わった。
この地の人々は長い冬を乗り越える為の火を取り返したのだった。
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:標準8 / 4〜8人
2020年10月30日 15時04分32秒 公開
相談掲示板
トゥーリだよ、みんなよろしくっ! 今回の敵は前に報告されてるものと同じか、似たような感じなんだね…… とりあえずは戦ってみないとだけど、弱点なんかは変わって無いって話だし。 『大車輪のようにバシッと活躍』する!でいいのかな?(あいまい)
キャスターのミツキよ。よろしくね。 範囲攻撃でまとめて弱らせていく感じになるかしら。 よろしくね
オクタヴィア・オーレウス、シーフだ!よーろしくぅっ 狩りの時間だねえ、盛大に走り回って切り倒すか☆ 今回はさほど凶悪な手合いじゃなさそーだし、やりたいことやるでもイケそうだね? ―あれっ、ハリスもいるじゃん!この前はありがとね♪ ヤることはまた森での団体戦、縁でもあるのかな?笑
ターミル族が末席、ハリスと申します。どうぞ宜しくお願い致します。 >トゥーリ殿 はは、その認識で間違ってはいないでしょう。 此度は単純な殲滅戦ですし、他の戦域の方々の活躍で難度も低下したとの事。 報告されている弱点を突く旨を記載すればそこまで苦戦はないかと。 依頼を共にするのは初めてですね。戦いぶりを拝見させていただきますよ。 >オクタヴィア殿 おや、またお会い致しましたね。改めてよろしくお願いいたします。 此度はあのような恐るべき害虫でもなし。気を楽に参りましょう( >戦術 こちらにはヒーラーの方が大勢いらっしゃいますね。 連戦による消耗が足枷になることはそこまでなさそうです。 負けはないにしろ、火力面ではやや貧弱な感は否めませんね。 唯一キャスターであるミツキ殿の範囲攻撃をどう活かせるか。 この一点で殲滅速度は大きく変わるかと思われます。 1:前衛が可能な限り纏まって動き、誘引や移動妨害で敵を押し止める 2:その上で範囲攻撃を撃ち、瀕死の敵や討ち漏らしを全員が蹴散らす 3:敵が全滅するまで繰り返し。敵のミツキ殿への突破→殺到だけは阻止 大筋はこのような形で問題ないかと思いますが、如何でしょう?
失礼、追記を。 >味方戦力 ヒーラーのウィリアム殿、並びに50余名のアルサーラム兵の方々がおります。 彼の指揮下にある部隊ですから、我々が自由に指示できるものではないでしょう。 ただ、依然として不透明な状況下です。無駄な損耗をさせるのは愚策というもの。 反対がなければ、可能な限り彼らの消耗を避ける方向で動きたく思っております。 事前に隊長であるウィリアム殿にお伝えすれば、恐らく否はないかと。 具体的には、我々が先述した殲滅行動を取る折の側面警戒や第二次防衛線の構築。 これを彼らにお願いすることで生存性はある程度向上させられるかと。 少数といえ授恵者の方もいるようです。小突かれた程度で崩れはしないでしょう。 初動の起案としては以上になります。 問題や懸念点等ございましたら、是非ご指摘ください。
リザードマンでヒーラーのウルードだ。よろしく頼む。 ふむ、癒し手の数が足りているならば、適当な武器を購入して前に出る手もあるか。 敵はさほど強くもないと明言されているのだし、作戦を固く決めるよりも各々やりたい事を優先でも良いのではないかと思うが如何か?
アレン・ボールドウィン、ウォーリアだ。 よろしくな。 『その場の雰囲気や心情を重視して”キャラを魅せる”事が中心のシナリオとなります。』 って書いてあっから、俺もガッツリ作戦決める必要はねぇと思うぜ。 ある程度自由な方が、それぞれ自分らしい動き方が出来るんじゃねぇかな。
うーん、あたしも個々でやりたいよーにって認識ではあったね。 ただハリスの戦術は、あたしたちの動きをさて置いても、こと兵隊さんに関しちゃかなりいい線だと思うよ。 殲滅活動中の保険を彼らに持たせられるなら、あたしらはその分だけ好きに動けるわけだしね。 さてっ、一コやりたいこと! ウォーリアか物理攻撃のっけてるヒーラーさん、誰か業物にあたし乗っけてブン投げて貰えない? 1回スーパーハイジャンプからの強襲やってみたくってさ♪
ヨル・スレイマンだ。ヒーラーだよ。宜しく頼む。 ハリス君の大筋の流れはとても良いと思うな。 前衛が固まっていれば回復の射程もとりやすいし、範囲攻撃を有効に使うのも大事だと思う。 各自できることが違うなら、動きをすり合わせて連携することも『魅せる』に繋がると思うし、 地盤を固めておいた方が安心して好き勝手できるのもあると思うし。 とはいえ折角の機会だから、各々やりたいことはしっかりやれた方がいいのかな。 俺はハリス君の大筋に合わせる形で相違ない。元々前衛だしヒールも持っていくし、殺到を防ぎながら敵を倒すことになると思うよ。 >オクタヴィア君 スーパーハイジャンプ危なくないかな?? でもこういう時じゃないとできないよね。 やるなら俺投げてもいいよ! 投げた後のフォローもある程度できると思うし、投げる前に輝足をかけることもできる。滞空の間に攻撃されるとアレだから、不意打ち気味になるようにした方がいいのかな。
>自由にやる方が ええ、確かに趣旨はそうなります。それ自体を否定するものではありません。 起案の目的はヨル殿に仰って頂いたように、自由な動きの為の地盤固めです。 完全にバラバラに動くよりは、ある程度の骨子があればと思った次第。 無論、同意できないという方にご無理は申しません。誤解を与えて申し訳ない。 行動自体は皆様がご自分の行いたいように動かれることを優先して問題ないかと。 >起案について オクタヴィア殿やヨル殿は一部同意という形でご協力頂けるようで。感謝致します。 先に述べた通り、全面的にこの通りに動いて欲しいという訳ではありません。 提案した流れの中でどこか一部でも共闘したり、力を貸して頂ければ有難いと。 協調して頂ける方が一定数いるようならば、骨子は私がプレイングに記載します。 それに同調すると書いていただければ、字数への負担はそこまで無いかと。 言葉足らずで混乱を招いてしまいました。ご気分を害された方はすみません…。
ガチガチに作戦固めるってわけじゃねーのな。 俺も意図を取り違えちまったみてぇだわ。悪ィな。 何らかの方針は必要だと思うぜ。 そこんとこ決めとくって事に異議はねぇな。
ヒーラーのエルゼリオ・レイノーラだよ。 今回はヨロシクね! >方針 ハリスさんの大筋に異論は無いよ。 今回はヒーラーが多いみたいだし、ボクは火力寄りのセッティングで行かせて貰うね! 【魔矢】も持って行く予定。
>味方戦力 触れ損ねてた。これもハリス君の意見に同意かな。 側面警戒して貰うのはわかりやすいし、此方としても安心感がある。 兎角、バラバラにならないようにしてくれるだけでも違うね。 最低限生存性重視で行動してくれるだけでもきっと良いよ。 >ハリス君 オッケーオッケー。 俺としては全体の位置がなんとなく把握できてる方が嬉しいから、ありがたかったよ。 行動余裕⋯⋯即ち其方の字数は大丈夫かな。骨子を書いてくれるなら味方戦力については書いておいたり(勿論違うとこでも)できるけど、何かあったら言ってほしい。 >個人の動き 此方は回復重視のセッティング⋯⋯つまり火力重視だね。 だから基本は前衛、できたらタンクをしてくれる前衛の近くなんかに居られると嬉しいかな。 スキルは回復系をメインに、一つくらいは攻撃系を持っていくかもだ。
>方針 ハリスさんの方針でいいと思うわ。了解よ。 範囲攻撃は任せて。
>ハリスさん この形の依頼で一緒になるの、初めてだね! 出来る限りを頑張るよ~☀ 戦闘は、うーん……この相手って正直あまり得意じゃないかも。 足の速さを活かして、相手を引っ掻きまわしたり、全体の中での弱い部分をカバーする感じになるかな?
おらーい!んじゃまヨル、ひとっ飛びよろしく頼むよ♪ あたしもおよそは広域を引っ掻き回す形になるかな! 聞くところ、今回の敵方は壁歩きの能力も持ち合わせがあるってね。 こいつら叩き落しちゃうか☆ トゥーリも攪乱軸のようだから、地面歩く手合いはそっちに任せるヨ。 ―あ、あたし時折爆速で踵落としにいくからソコだけ注意ね! 味方の頭に突っ込んだら目も当てられない…さすがに味方狙いなんてしないけどサ。
おっと、反映がありました。これで私もレベル11に達することができたようです。 殺界及びエーテルブレードによる広域足止めが可能ですので、早速活用してみようかと。 >方針 皆様概ねご賛同頂けたようで、ありがとうございます。 >個人行動 私は常に敵が最も密集している地点に突撃致します。 そして次のターンのセットアップに殺界を発動、多数の敵の移動を妨害します。 そこへ範囲攻撃を撃ち込んで頂ければ、敵は逃げることも出来ないはずです。 後は皆様が好きに倒して頂ければ。削り残しても私がターン終わりに叩きます。
謝られるような事があった覚えはないが、言い方が強かったならこちらこそ申し訳ない。故郷でいささか頑丈すぎる輩を相手にしすぎたせいか、どうもその辺りが苦手でな…。 ハリス殿の方針自体に不満はなしだ。賛同する旨記載させて貰おう。 火力寄りにする方が多そうなのと、最もダメージを受ける方に付き添う方もいるので、こちらは後ろでフォローに回るとしよう。ハリス殿の策で言えば2を立ち回りのメインにするつもりだ。 では、よろしく頼む。
>オクタヴィア君 了解だ。そしたらできるだけ高く投げるね。 皆各々多彩な動きで心強い。 当日はまあ、宜しく頼むね。きっちり倒して帰ってこよう。