冬隣の君、秋薔薇と共に惜しむ季節
キャラクターノベル(グループ)制作 依藤ピリカ納品 2022年11月23日 15時26分04秒
1222年、秋。
昨年より平穏にパンクリアース学園は生徒会役員選挙を含む学園祭というイベントを終えた。
気が付けば季節はもう秋の暮れであり。
未だ色づいた葉が木々を賑わせているが、冬の足音は確かに近づいているそんな頃。
パンクリアース学園第六学年であり、1221年度の生徒会副会長であったシルヴィア・A・カペルは実家であるカペル領で束の間の休息をとっていた。
学生としては副会長の任期を終え、去年より種族や出自問わず沢山の生徒が参加してくれた選挙の様子で自分が望む学園の形に近づいている実感を得ることが出来。
冒険者としては西方で激しい戦いもあり、それとは別に追っていたとある事件も一つの終わりを迎え。
悲しい別れや辛いことも多くあったが、心の整理もなんとかついた。
そんなシルヴィアの夏から秋はあっという間に過ぎ去ろうとしていたが、カペルの人間として季節ごとの美しさや素晴らしさを楽しむ余裕がないのはいただけない。
そうして開かれたのがカペルの秋薔薇を眺めながらの気楽な茶会だ。
薔薇の花弁を混ぜた茶葉で淹れた芳醇な香りの紅茶、新物のワインを使った赤葡萄のジュレ、貴重な香辛料を効かせた南瓜のクッキー、軽く燻した鮭とクリームチーズのサンドウィッチ、秋無花果の甘露煮。
気軽とは言ってもカペル侯爵令嬢の茶会、供される茶も茶請けも選び抜かれた品が揃っている。
生憎と多忙な当主や、丁度急な依頼で遠出することになった大切な人の同席は叶わなかったものの。
カペルが誇る芸術集団にして広報担当、そして諜報工作機関でもある『青薔薇』の現花匠であるアーカネラ・ユルヴェウスと前花匠のディヴァンス・ファルヴェント、敬愛する二人の『先生』と一緒に卓を囲むことが出来たシルヴィアは上機嫌だった。
「二人ともファッションショーではありがとう、お陰で良いショーになったよ」
ショーに間に合うようにカペル産の薔薇をはじめとした入用だったものを都合できたのは『青薔薇』の力あってのもの。
「どういたしまして。そういえば今回のショー、シルヴィアの姿でカペルに興味を持った人達も多いのよ。最近は薔薇や刺繡入りの物を求めて庭園も服飾品店も問い合わせの手紙が多く届いているわ」
カペル領は『花の領地』として有名ではあるが、王都に程近い場所にあるせいか遠方の諸侯達も名や噂は知っているけれど、という者も多い。ドワーフ王国や辺境都市群、同盟領出身の職人や商人達にとっても敷居が高い場所というイメージが少なからずあった。
そういったイメージが幾分か払拭され、興味や好奇心の方が勝るようになったのは、あのショーでモデルとなったシルヴィアの魅力に依る所が大きいだろう。
嬉しそうに話すアーカネラに、ディヴァンスは紅茶の香りを堪能しながら微笑みと頷きを返す。
ディヴァンスの頭の中ではカペルの祭りでも今回のようなファッションショーをやるのも面白そうだという構想と、モデル役として立つ美しい二人の姿が思い浮かんでいた。
が、ふと届いた手紙の中に良からぬものが紛れ込んでいたことを思い出したディヴァンスは眉根を寄せた。
「手紙の中には邪な思惑が隠せていないものもあったがな」
「邪な思惑?」
「貴女は来年の春には学園を卒業する。そうなったら貴族令嬢は『一般的』にどういう道を歩むのかしら?」
きょとんとした顔で首を傾げてみせたシルヴィアに、アーカネラが微笑をたたえたまま問う。二人の様子はまさに先生と教え子のそれだ。
「……ああ、そういう」
しかしシルヴィアももう、一から十までただ教えられるだけの子どもでも、庇護されるだけのご令嬢でもない。
己できちんと考え、答えが出せる女侯の蕾だ。
師匠たちが何を言わんとしていたのか、あのショーが周囲の貴族達にどういう影響を与えたのかを正しく理解した。
一般的に学園を卒業した貴族令嬢は……結婚適齢期と見做される。
幼少期に婚約が結ばれていれば正式に婚約を発表し諸々整い次第結婚、まだ婚約者が確定していなければ社交界に積極的に顔を出すなどして本格的に動きだすのが通例だ。
つまりまだ他の貴族家との婚約が公表されていないシルヴィアは、同じく婚約者のいない貴族令息とその親達からすれば格好の標的である。
シルヴィアがあのショーに出たのはあくまでも学園祭を盛り上げたい、第二手芸部を助けたい、カペル領の素晴らしい文化を知って貰いたい……そういった目的であったのだけれど。
まだ婚約者がいない妙齢の高位貴族令嬢がああいった形でその美しさを大勢にアピールする。
これを王国貴族的に解釈すると、「婚約者を大々的に募集しています」という形になることもある、ということだ。
「長く生きているが、やはり私はそういう考え方が好きではない」
「そうね、私達の故郷も婚姻や人との付き合いに制約も多かったし色々面ど……煩わしかったからこそ二人とも今カペルと共に在るわけだけれど」
某伯爵家や侯爵家の令息達から届いた、カペルを讃える手紙をディヴァンスから受け取ったアーカネラは、視線を落として文面を一読するとくすりと笑みに毒を含ませる。
「そういう事情抜きにしても、100点満点中30点といったところかしら」
アーカネラの辛辣な物言いに、シルヴィアは苦笑してカップをソーサーの上へ戻す。
「まぁ、そういった文をくれた人達の多くは自分の意思でそうした手紙を寄越したわけではないと思うんだ」
シルヴィアの希望的観測ではあるが、本当に伝えたい言葉も、貴族らしい慣習や政争のせいで綴れないことも多かろうと思うわけで。
「確かにそういう子もいるでしょうね。でも私としてはうちのお姫様の魅力に今更気付いたのかしらって呆れてしまったわ」
アーカネラは本気でそう思っているのか、頬に手を当て深い溜息をつく。そんな様子も愛らしく見えるのか、ディヴァンスは恐ろしく整った顔を僅かに綻ばせてサンドウィッチに手を伸ばして話題を切り替えた。
「そういった手合いはさておき、『青薔薇』に勧誘したい人材を見つけられたのは僥倖だった」
「第二手芸部の皆のことかい?」
シルヴィアの言葉に二人は揃って頷く。
ファッションショーを企画した第二手芸部に所属する下級貴族の令嬢、同盟やドワーフ王国、辺境諸国出身の商家や職人の子ども達。
いずれも才能と将来性がある、磨けば光る原石だ。
「ああ、私は引退した身なので、実際にスカウトにあたるのはアーカネラだが」
「芸術家や広報担当としての『青薔薇』なら幅広く声をかけられると思っているわ」
諜報工作員としての『青薔薇』は王国とカペル侯爵家の為に活動する。扱う情報は時に国家機密も含まれる為、自然とその雇用は狭き門となる。しかし『青薔薇』の全てのメンバーが諜報工作、広報、芸術活動の全てを行う必要はない。
「カペルとしては『青薔薇』に限らず力になってくれる人が増えるなら、それでも良い。下級貴族の子女は高位貴族の家臣になることも多いし。ただ、帝国崩壊後に覚醒した授恵者の場合は例の協定がある以上帝国の問題が解決するまで抱え込むことは出来ないからな」
「シルヴィアから見た印象などの話も含めて情報収集及び検討中という感じよ」
「成程」
「あら、見所のある後輩が『青薔薇』に所属するのは嬉しくないのかしら」
アーカネラのそれは非難めいた口調ではない。妹分を揶揄う姉貴分のものだ。
「そういうわけじゃ……もう、意地悪」
ついシルヴィアの方も妹分として拗ねた少女めいた顔を覗かせてしまう。
シルヴィアとしては有望な後輩達の将来の選択が増えるのは良いことだと思っているし、後輩達が自領で活躍してくれるのは嬉しいと思う。
だが、貴族である自分は、侯爵家という高位貴族の令嬢であるシルヴィア・A・カペルは軽率に自分の気持を、望みを口にしてはいけないのだ。
たとえ善意からの申し出でも、貴族令嬢ではなく一人のシルヴィアという人間としての考えだとしても。
侯爵家の名と言葉は、力を持つ。誰かの未来を縛ったり、義務と責任が発生したり、政争に巻き込んでしまったり。意図せずとも、そういうことになる。
頭では解っていたつもりでも、それを自分事として痛感するようになったのはやはり冒険者として活動したり、学園派として立ってからだろうか。
そして、自分が望む未来を掴みたいのなら……それを自覚的に、責任をもってやらねばいけない時があるということも。
それが誰かを擬えた存在ではなく、カペル家を継ぐ者、シルヴィア・A・カペルとして選んだ道だから。
「アーカネラ、あまりシルヴィアを虐めてくれるな」
「あら、貴方がそれを言うの? ディヴァンス」
年長者らしく諫めてきた恋人に悪戯っぽく攻め返したアーカネラだったが、ディヴァンスは涼しい顔で紅茶を飲んでいる。
「人聞きが悪いな。お前も解っているのだろう。シルヴィアは寂しいのだと」
平然とそう返すものだから、アーカネラではなくシルヴィアの方が思わず咽てしまいそうになる。
「違うのか?」
「……いえ、」
もう少しで終わる学園生活。
学園の先輩と後輩、友人という関係も、学園の外へ出れば変ってしまう。
今迄の縁が切れてしまうわけではないが、やはりその『変化』には寂しさを感じてしまうのだ。
「季節が変わる時、前の季節を名残惜しく思うことも、もの寂しさに駆られることもあるだろう。その感性は、大切にすべきだ。大切なものを見失わないように」
「先生……」
只人よりも遥かに長い時を生き、多くの出逢いと別れ、変化を経験してきたディヴァンスの言葉だからこそ、重みがある。
そしてそんな師弟のやりとりを見守るアーカネラの目はとても優しいものだった。
(私は本当に……恵まれている)
リーンエス王国、晩秋の某日。
シルヴィアは切に、そう思うのだった。
昨年より平穏にパンクリアース学園は生徒会役員選挙を含む学園祭というイベントを終えた。
気が付けば季節はもう秋の暮れであり。
未だ色づいた葉が木々を賑わせているが、冬の足音は確かに近づいているそんな頃。
パンクリアース学園第六学年であり、1221年度の生徒会副会長であったシルヴィア・A・カペルは実家であるカペル領で束の間の休息をとっていた。
学生としては副会長の任期を終え、去年より種族や出自問わず沢山の生徒が参加してくれた選挙の様子で自分が望む学園の形に近づいている実感を得ることが出来。
冒険者としては西方で激しい戦いもあり、それとは別に追っていたとある事件も一つの終わりを迎え。
悲しい別れや辛いことも多くあったが、心の整理もなんとかついた。
そんなシルヴィアの夏から秋はあっという間に過ぎ去ろうとしていたが、カペルの人間として季節ごとの美しさや素晴らしさを楽しむ余裕がないのはいただけない。
そうして開かれたのがカペルの秋薔薇を眺めながらの気楽な茶会だ。
薔薇の花弁を混ぜた茶葉で淹れた芳醇な香りの紅茶、新物のワインを使った赤葡萄のジュレ、貴重な香辛料を効かせた南瓜のクッキー、軽く燻した鮭とクリームチーズのサンドウィッチ、秋無花果の甘露煮。
気軽とは言ってもカペル侯爵令嬢の茶会、供される茶も茶請けも選び抜かれた品が揃っている。
生憎と多忙な当主や、丁度急な依頼で遠出することになった大切な人の同席は叶わなかったものの。
カペルが誇る芸術集団にして広報担当、そして諜報工作機関でもある『青薔薇』の現花匠であるアーカネラ・ユルヴェウスと前花匠のディヴァンス・ファルヴェント、敬愛する二人の『先生』と一緒に卓を囲むことが出来たシルヴィアは上機嫌だった。
「二人ともファッションショーではありがとう、お陰で良いショーになったよ」
ショーに間に合うようにカペル産の薔薇をはじめとした入用だったものを都合できたのは『青薔薇』の力あってのもの。
「どういたしまして。そういえば今回のショー、シルヴィアの姿でカペルに興味を持った人達も多いのよ。最近は薔薇や刺繡入りの物を求めて庭園も服飾品店も問い合わせの手紙が多く届いているわ」
カペル領は『花の領地』として有名ではあるが、王都に程近い場所にあるせいか遠方の諸侯達も名や噂は知っているけれど、という者も多い。ドワーフ王国や辺境都市群、同盟領出身の職人や商人達にとっても敷居が高い場所というイメージが少なからずあった。
そういったイメージが幾分か払拭され、興味や好奇心の方が勝るようになったのは、あのショーでモデルとなったシルヴィアの魅力に依る所が大きいだろう。
嬉しそうに話すアーカネラに、ディヴァンスは紅茶の香りを堪能しながら微笑みと頷きを返す。
ディヴァンスの頭の中ではカペルの祭りでも今回のようなファッションショーをやるのも面白そうだという構想と、モデル役として立つ美しい二人の姿が思い浮かんでいた。
が、ふと届いた手紙の中に良からぬものが紛れ込んでいたことを思い出したディヴァンスは眉根を寄せた。
「手紙の中には邪な思惑が隠せていないものもあったがな」
「邪な思惑?」
「貴女は来年の春には学園を卒業する。そうなったら貴族令嬢は『一般的』にどういう道を歩むのかしら?」
きょとんとした顔で首を傾げてみせたシルヴィアに、アーカネラが微笑をたたえたまま問う。二人の様子はまさに先生と教え子のそれだ。
「……ああ、そういう」
しかしシルヴィアももう、一から十までただ教えられるだけの子どもでも、庇護されるだけのご令嬢でもない。
己できちんと考え、答えが出せる女侯の蕾だ。
師匠たちが何を言わんとしていたのか、あのショーが周囲の貴族達にどういう影響を与えたのかを正しく理解した。
一般的に学園を卒業した貴族令嬢は……結婚適齢期と見做される。
幼少期に婚約が結ばれていれば正式に婚約を発表し諸々整い次第結婚、まだ婚約者が確定していなければ社交界に積極的に顔を出すなどして本格的に動きだすのが通例だ。
つまりまだ他の貴族家との婚約が公表されていないシルヴィアは、同じく婚約者のいない貴族令息とその親達からすれば格好の標的である。
シルヴィアがあのショーに出たのはあくまでも学園祭を盛り上げたい、第二手芸部を助けたい、カペル領の素晴らしい文化を知って貰いたい……そういった目的であったのだけれど。
まだ婚約者がいない妙齢の高位貴族令嬢がああいった形でその美しさを大勢にアピールする。
これを王国貴族的に解釈すると、「婚約者を大々的に募集しています」という形になることもある、ということだ。
「長く生きているが、やはり私はそういう考え方が好きではない」
「そうね、私達の故郷も婚姻や人との付き合いに制約も多かったし色々面ど……煩わしかったからこそ二人とも今カペルと共に在るわけだけれど」
某伯爵家や侯爵家の令息達から届いた、カペルを讃える手紙をディヴァンスから受け取ったアーカネラは、視線を落として文面を一読するとくすりと笑みに毒を含ませる。
「そういう事情抜きにしても、100点満点中30点といったところかしら」
アーカネラの辛辣な物言いに、シルヴィアは苦笑してカップをソーサーの上へ戻す。
「まぁ、そういった文をくれた人達の多くは自分の意思でそうした手紙を寄越したわけではないと思うんだ」
シルヴィアの希望的観測ではあるが、本当に伝えたい言葉も、貴族らしい慣習や政争のせいで綴れないことも多かろうと思うわけで。
「確かにそういう子もいるでしょうね。でも私としてはうちのお姫様の魅力に今更気付いたのかしらって呆れてしまったわ」
アーカネラは本気でそう思っているのか、頬に手を当て深い溜息をつく。そんな様子も愛らしく見えるのか、ディヴァンスは恐ろしく整った顔を僅かに綻ばせてサンドウィッチに手を伸ばして話題を切り替えた。
「そういった手合いはさておき、『青薔薇』に勧誘したい人材を見つけられたのは僥倖だった」
「第二手芸部の皆のことかい?」
シルヴィアの言葉に二人は揃って頷く。
ファッションショーを企画した第二手芸部に所属する下級貴族の令嬢、同盟やドワーフ王国、辺境諸国出身の商家や職人の子ども達。
いずれも才能と将来性がある、磨けば光る原石だ。
「ああ、私は引退した身なので、実際にスカウトにあたるのはアーカネラだが」
「芸術家や広報担当としての『青薔薇』なら幅広く声をかけられると思っているわ」
諜報工作員としての『青薔薇』は王国とカペル侯爵家の為に活動する。扱う情報は時に国家機密も含まれる為、自然とその雇用は狭き門となる。しかし『青薔薇』の全てのメンバーが諜報工作、広報、芸術活動の全てを行う必要はない。
「カペルとしては『青薔薇』に限らず力になってくれる人が増えるなら、それでも良い。下級貴族の子女は高位貴族の家臣になることも多いし。ただ、帝国崩壊後に覚醒した授恵者の場合は例の協定がある以上帝国の問題が解決するまで抱え込むことは出来ないからな」
「シルヴィアから見た印象などの話も含めて情報収集及び検討中という感じよ」
「成程」
「あら、見所のある後輩が『青薔薇』に所属するのは嬉しくないのかしら」
アーカネラのそれは非難めいた口調ではない。妹分を揶揄う姉貴分のものだ。
「そういうわけじゃ……もう、意地悪」
ついシルヴィアの方も妹分として拗ねた少女めいた顔を覗かせてしまう。
シルヴィアとしては有望な後輩達の将来の選択が増えるのは良いことだと思っているし、後輩達が自領で活躍してくれるのは嬉しいと思う。
だが、貴族である自分は、侯爵家という高位貴族の令嬢であるシルヴィア・A・カペルは軽率に自分の気持を、望みを口にしてはいけないのだ。
たとえ善意からの申し出でも、貴族令嬢ではなく一人のシルヴィアという人間としての考えだとしても。
侯爵家の名と言葉は、力を持つ。誰かの未来を縛ったり、義務と責任が発生したり、政争に巻き込んでしまったり。意図せずとも、そういうことになる。
頭では解っていたつもりでも、それを自分事として痛感するようになったのはやはり冒険者として活動したり、学園派として立ってからだろうか。
そして、自分が望む未来を掴みたいのなら……それを自覚的に、責任をもってやらねばいけない時があるということも。
それが誰かを擬えた存在ではなく、カペル家を継ぐ者、シルヴィア・A・カペルとして選んだ道だから。
「アーカネラ、あまりシルヴィアを虐めてくれるな」
「あら、貴方がそれを言うの? ディヴァンス」
年長者らしく諫めてきた恋人に悪戯っぽく攻め返したアーカネラだったが、ディヴァンスは涼しい顔で紅茶を飲んでいる。
「人聞きが悪いな。お前も解っているのだろう。シルヴィアは寂しいのだと」
平然とそう返すものだから、アーカネラではなくシルヴィアの方が思わず咽てしまいそうになる。
「違うのか?」
「……いえ、」
もう少しで終わる学園生活。
学園の先輩と後輩、友人という関係も、学園の外へ出れば変ってしまう。
今迄の縁が切れてしまうわけではないが、やはりその『変化』には寂しさを感じてしまうのだ。
「季節が変わる時、前の季節を名残惜しく思うことも、もの寂しさに駆られることもあるだろう。その感性は、大切にすべきだ。大切なものを見失わないように」
「先生……」
只人よりも遥かに長い時を生き、多くの出逢いと別れ、変化を経験してきたディヴァンスの言葉だからこそ、重みがある。
そしてそんな師弟のやりとりを見守るアーカネラの目はとても優しいものだった。
(私は本当に……恵まれている)
リーンエス王国、晩秋の某日。
シルヴィアは切に、そう思うのだった。