冒険者たちの女子会~Ante Meridiem~

キャラクターノベル(グループ)制作 弓月 蒼納品 2025年03月17日 01時01分00秒

●女子会だとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ
 
 かつて、戦場を共にした頼りになる戦友たち。

 もう冒険者ではなくなって、立場も変わってしまったけれど。

 皆が幸せであれば良い。皆が笑って集まれたら良い。

 そう想って、今日は遥々『湖都』からやって来たゲルダ・クライン。

 皆さん、お久しぶりです……!

 そう言いながら――――扉を開けると皆のきらきらした笑顔が。
 ――――……待ってると良いな、と思っていたことがわたしにもありました。

「財務官僚として出世した『社畜(ジュスト)』が帰って来ないっっっ!!」

 DAN! と、お洒落な喫茶店の円机(テーブル)を力強く叩いたのはローザリカ・D・ケレス。

「……ちょっと分かります……うちもその……ガレシウス様が仕事中毒(ワーカホリック)気味で」

 まだまだ新婚気分が抜け切れていない、寂しがりを拗らせたレティシア・R・クラティアス

「長男が……“おやおや、困りましたねえ”とか言うんですよねえ聞いてますかティア!」

 息子が早めの中二病(じゃきがん)に覚醒めた悲劇を抱えるイヴェール・アーチボルト。

「私の所は……ええまあ。比較的、平和……と言いますか。それなりに幸せなので」

 両眼を閉じ、一人優雅にお茶を嗜んでいるのがヴィルヘルミナ。
 開けた扉をそっと閉じたくなったゲルダは、類稀なる鋼の意思と覚悟でそれを踏み止まった。

 幽界樹を前にして踏み止まるのより覚悟を必要とした。あれ、きらきら女子会はどこ……? ここ? 
 以上、元冒険者女子会5名様でご来店です。

●恋バナえとせとら

「最近は、鍛冶技能評議会(ガウ・ディブロ)へ向けての研鑽の日々……ですね。
 『匠王』の座が欲しい。と言う訳ではないのですが……挑む以上、勝ちたいので」

「ええ、はい。やっぱり剣を打つとなると神の焔に憧れはあります。
 熱量は硬度に直結しますし、あの焔であれば何処まで理想に近い剣が打てるのか……」

「え、恋人との関係、ですか……?」
 
 直後。ヴィルヘルミナが浮かべた。彼女にしては何処か緩んだ優し気な眼差しに。
 ああ、良かった。幸せなんだなあ、と想っていたローザリカ、レティシア、イヴェールの3人。

 でもゲルダは類稀なる洞察力で、既に耐衝撃態勢を取っていた。
 ……それが何かは分からずとも、この直後に弩級の爆発があるのが分かっていたからだ。

「2人で未来に向けて懸命に頑張ってますよ。ええ、まあオルファレナのことなんですが」

 他言無用ですよ? としれっと言い放ったヴィルヘルミナの言葉に。
 ゲルダ以外の3人が完全に固まっていた。大醜聞(スキャンダル)だった。王家の耳が動いちゃう。

「え……と、それは、その。親友、的な意味で、でしょうか?」

 特に『義姉』であるレティシアの脳裏を駆け巡った衝撃はっそれはもう途轍もなかった。
 一瞬意識が飛びかけた。彼岸から戻って来れたのは義務感と責任感だった。

 でも苦悩と激動の冒険者生活で、大分心が強くなった筈の彼女が完全に現実から目を背けていた。

「いえ、恋人としてです。これも、オルファからの贈り物なので」

 首に着けている首飾り(チョーカー)。
 貴族として、その意味を正しく受け取ったレティシアはくらっとして円机(テーブル)に手を付いた。

 イヴェールに至っては、これが禁断の恋愛……と、冒険者時代現夫にすらしなかった。
 手で頬を抑えて赤面する。と言う乙女なポーズを現出させていた。北方辺境伯は泣いて良い。

「こほん、それで……関係は何処まで進んでるんだい」

 人の恋愛トークなら何でも喜んで聞けるローザリカが突っ込んだ。
 深掘りしないで! 国際問題になりますよ!? とゲルダは思ったがきちんと聞いていた。

「そうですね……普通の恋愛とは少し違いますし、傍から見れば横恋慕と取られても仕方ありませんが……」

 少し考えて、ヴィルヘルミナはお茶を一口。ふ、と何か納得した様に笑う。
 その手は、薬指の指輪にそっと触れ。

「幸せですよ? 彼女がいるから、私はヒトの一線を保てている。……今は、そう想っています」

 片側強火勢かと思ったら双方向で重々熱々だった正統派の惚気に。
 頭をくらくらさせていたレティシアがぐるぐるお目目で強く拳を握った。

「応援します! 義姉として……!!」

 2人を守護(まも)らなくては……! とその眼差しは雄弁に語っていたかもしれない。
 大丈夫なんでしょうか『白銀(クラティアス)』……と、ゲルダは思った。

■

「実は僕もあの放蕩公爵(ウィリアム)には言いたい事が山ほどある。
 寵姫くらい奪われても自業自得だ。僕も『社畜(ジュスト)』を取り戻さないと……お互い頑張ろう」

 別に誰も略奪愛を勧めている訳ではないのだが、そう聞こえなくもないローザリカ。
 握手を交わすヴィルヘルミナと間には、戦友としての絆が見えたとか見えなかったとか。

 いずれにせよ、次にお鉢が回って来たのは彼の赤薔薇の姫君の様だった。

「忙しいのはわかる。が、一番上が放蕩公爵(アレ)なので振り回されていることも想像に難くない。
 きっと『社畜(ジュスト)』が色々小器用にこなすから、雑用まで押し付けられているんだ……」

「むしろ本来の職責を越えてるのでは!? 好き放題こき使われているだけなのでは!?
 くぅ~ゆるせん! ジュストを振り回して良いのは僕だけなのに……っ!」

 有能な部下に仕事を全投げすることを教えて、仕事中毒な夫を子煩悩パパに洗脳中のイヴェールが。
 若干の罪悪感からそっと目を逸らした。上には上の、下には下の悩みがある。

「と言うか元から過労がちだし寝食も真っ先に削るし!
 本人に言いたくはないが倒れたりしないかが心配で……子供達も不満があるみたいだし……」

「わかります……っ!」

 手を握ったのはレティシアだった。冒険者を辞めてからとみに明るくなった彼女に面食らうローザリカ。
 僕の記憶が正しければ、以前は典型的なお淑やか貴族令嬢だった気が……などと思うものの。

 予期せぬ同志を前にお互い手を取り合う事に否やは無い。

「私も夫の労働中毒は騎士時代からずうっと心配していて。
 盛大な拗ねや説教、寝室への誘導や義祖母様への告げ口に義父からの忠告などを経て……」

「早く帰らないと私や子供達が寂しい。と素直に言うのが一番効果的と悟りました」
 
 え、そこまでやる……? 親友のイヴェールが若干引いている事に気付かず朗々と語るレティシアに。
 うん、分かる……とても良く居分かる……と繰り返し頷くローザリカ。

「うちも長女と次男がな……特に次男がこう、妻を放っておくなんて! と反抗期を拗らせていてな……
 母様は僕が守るから、父様なんか気にすること無いよ。とは、言ってくれているんだが……」

 今から女たらしの片鱗を感じてどうしようかと思っている。と言う真顔のローザリカに。
 中二病(じゃきがん)とどっちが大変かな……と少し共感するイヴェールだった。

 ■

「わたしは……皆さんご存知かもしれませんが。その……ナハティガル様とお付き合いを始めまして」

「あれ、そうだったんですか? 知りませんでした」

 瞬いたヴィルヘルミナに、全然知りませんでした……と視線を逸らしたローザリカとレティシア。
 私は気付いていましたよ。と知ったかぶってしまうのがイヴェールが残念な生き物なところである。

「じゃあ、結婚ももうすぐかな?」

「あー……いえ。それは主からも言われているんですが。
 付き合っている感覚も希薄と言うか、自然と隣に居られる関係が心地良いので……少し困っています」

 わかる……とヴィルヘルミナが深く頷くのに、レティシアもまた何となく納得出来るものの。
 ローザリカとイヴェールは顔を見合わせ、こく、と重々しく頷く。

「ゲルダ君、結婚は……良いぞ」

「一度子供を抱くと、生きないと……って想えますよ」

 結婚を通して少なからず人生観の大変動が有った2人の熱い結婚は良いぞトークに。
 あはは、考えておきます……と、主(アルベイル)にするのと完全に同じ対応で流すゲルダ。

「レティシア様のところは、最近はどんな感じですか?」

 このままだと延々結婚を勧められる。と危機感を憶え、杯を回すのは如何にも惚気そうな新婚気分の姫。
 え、私ですか……? と、まさかこっちに振られると思わず。

 にこにこ親友の結婚して良かった論を聞いていたところ、思いがけない方向転換に少し考え……

「私は、仕事をし過ぎる所以外は特に不満は無くて……ですね」

 何だか穏やかに話がはじまったので、そのまま軟着地するものと、誰もが思った。
 少なくともローザリカとイヴェールは思っていた。でも、ゲルダには“見えて”いた。

 この場で一番惚気力(ぢから)がヤバいのは彼女だと。
 そしてもう一人。ヴィルヘルミナは想い人(白銀の薔薇)から聞いていた。

「もし女子会で話題に困ったら――――義姉様を頼ると良いと思うわっ!」

 ■

「(前半略)――――夫の好きな所は沢山ありますけど、例えば仕事中は真剣で格好良いので時折こっそり見に行ったり。お手伝いをしたりしますね。荒事は危ないから余り近付かないように、と心配してくれるんですけれど。そう言いながら手伝いを拒んだりしないでちゃんと助けを受け取ってくれるようにやっと振る舞ってくれるようになりました。少し失敗しても貴女が怪我をしなくて良かったなんて、何時もは全然表情に出ないのにそう言う時だけちゃんと焦ったりするんですから狡いですよね?2人で一緒にお弁当を並べても、他の騎士様が居る時は絶対に手を付けようとしないんですよ。食事をしているのを見られるの恥ずかしいんですか?って確認したんですけど、レティと一緒に居る時はつい気が緩みがちだからね、とか。そんなこと言ってどうせ私が喜ぶと思っているんでしょう?って照れながら尋ねたら、本心でなければこんなこと言えないよ。今は誰も見ていないからね。なんて、目線を合わせて真面目に言うんですよ?もう、そんなのどんなに隠そうとしても顔が赤くなるに決まってるじゃないですか。気が緩んでいる場所を他の騎士様に見られたくないって話は何処に行ってしまったでしょうね?でも嬉しいのは本当で、ついつい抱き付いたりしてしまって。結局他の騎士様に見られてしまうんですけど、それでも決して仕事を見に来ては駄目、とは言われないのでついついまた見に行ってしまうんです。それに私に優しいだけじゃなく、ちゃんと子供達のことも愛してくれてますし、息子には槍術を教えてあげたいって手製の木槍まで用意してるんですよ。まあ、気が早くないですか?とは思うんですけど。それも彼から息子への愛情であり贈り物なんでしょうね、と思うとどうしてもあんまり強くは言えませんよね。最近は息子も拙いながらも木槍を振れるようになってきて。当人にはあまり言ってないみたいですけど、筋が良い。才能が有る。だなんて、親の引け目だとは思うんですけど、何だかそうして喜んでいる姿を見ると私も嬉しくなってしまって。勿論前々からそうですけれど意地悪な時も時々はあるんですよ?結婚記念日プレゼントを用意してあるのに、私が気付くまで隠しておくとか、それで私が1日の終わりに今日は結婚記念日でしたね、って言うとおもむろに包みを差し出して来たりですね?でも元々優しい人ですから娘には少し甘かったりして。どうしてもレティの面影を見てしまうから、あまり強く注意したりするのは抵抗がある、なんて言ってしまう意外と可愛い所もあるのですよ。思わず顔が綻んでしまいますよね……?」

「……え、あ、うん。はい。そうですね」

 どうにか返事が出来たのはイヴェールだけだった。話をちゃんと咀嚼して理解出来たものは一人も居なかった。
 立て板に水とはこのことだった。どんな大滝だろう。巨大這者が巣食ってる大迷宮か何かだろうか。

「ですよね、やっぱり子供は可愛いですし子供と接している夫も可愛い……なんて、すみません惚気てしまいました」

(((……今更……?)))
 
 やっぱりレティシア様に話を振って正解でした……と遠い目をしながらぐっと拳を握ってしまうほど。
 ゲルダの結婚についての話は、これ以上も無く、完膚なきまでに有耶無耶になった。

 ■

「それでその。イルはどうなんですか、最近?」

 そうして。話を振られたイヴェールは動揺した。あの後、と言うのが超えるべきハードルが高過ぎた。
 がんばれ、と結婚トークで共感しあったローザリカのエール。ヴィルヘルミナが親指を立てた。

「私は……北方辺境伯領は、流通の拠点なので。御飯が美味しくて。
 帝国、同盟、王国を問わず色んな食べ物が流れて来るので、体型維持が大変だなあ……とか」

 きょとん、とゲルダが瞬く。何か流れが変わって来ましたね……? と。

「息子は、無責任エルフの影響を受けるし、娘は、将来辺境騎士になる何て言い始めるし。
 困りごとは多いですけど、皆さんに助けられて何とか……それなりに、楽しんでもいて」

 ぽつぽつ、と語る言葉は、けれど言葉以上に万感の想いが込められていて。
 ローザリカもヴィルヘルミナも。その何だかとても初心な気持ちの発露を興味津々で見つめていた。

「……夫は、不満が無いのが、不満と言うか……無理でないことは、大体叶えてくれますし。
 無理なことは、本当に梃でも動かないほど頑固なんですが、それも私を想っての事なのは分かっていて……」

 そうこうしている内に、何故か気恥ずかしい感情を共有し合う女子会一同。
 何か聞いてはいけないことを聞いている気分で視線を逸らし合うゲルダ、ローザリカ、ヴィルヘルミナ。

「……ああ、幸せってこういう事だったんだな。生きていて良かったな……ってそう想えて。
 お仕事も、帝都崩壊後に比べれば落ち着いて来て強いて言えば最近は子供たちばかり可愛がっていて……」

「……私の方を構ってくれないのが、少し、寂しいくら――――」

「イル、良かった……っ」

 ぎゅうっと。レティシアが涙を浮かべて抱き付いた。抱き付かないではいられなかった。
 互いに目配せし合って、ゲルダも、ローザリカも、ヴィルヘルミナも。5人で抱きしめあった。

「ちょ、え、ティア!? 皆さん!? ど、どうしたんですか……!? これは一体……!?」

 戸惑うイヴェールを他所に、今。4人の心は一つだった。
 良かった。最後が彼女で良かった。比較的真っ当な筋道に戻れた。本当に良かった。

 おかえりなさい女子会。おめでとう女子会。ここから午後の部が始まるよ女子会。
 冒険達の女子会は、まだ終わらない。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0